男「春だなぁ」妹「春だねぇ」(70)
男「良い天気だなー……」
妹「そうだね……」
男「……」
妹「……」
男「……」
妹「……」
男「……いかん、このままでは馬鹿になる」
妹「春だから仕方ないよー」
男「何か始めようぜ。 春は何かを始めるにもってこいの季節だ」
妹「何かって?」
男「なんでもいい。 新しい趣味的なものを始めよう」
妹「なんでまたいきなりそんな」
男「さっきも言ったろ。 春だからだ」
妹「うーん……めんどくさぁ……」
男「春の陽気は馬鹿に拍車をかける。 何もせず縁側でゴロゴロしてると取り返しがつかなくなるぞ」
妹「いやーそんな馬鹿なぁ」
男「知能指数が10は落ちる。 お前これ以上馬鹿になったらヤバイぞ」
妹「失礼な」
男「九九言えるか? 七の段とか難しいんじゃないか?」
妹「……九九って何だっけ」
男「末期だな」
妹「冗談だよー」
男「いやわかってるよ」
妹「七の段は言える。 問題は六の段だ」
男「ろくし?」
妹「28」
男「よし、高校辞めろ」
妹「えーまた中学生やるの?」
男「小学生からだ」
妹「空色のランドセルがいいなー」
男「いい天気だなー」
妹「いい天気だねー」
ほのぼの期待
男「何か始めようぜー」
妹「うーん……あ、もうすぐお昼だね」
男「そうだな」
妹「ご飯食べよう!」
男「急に元気になったな」
妹「そこの公園、桜咲いてたよね? お弁当作るからそこで食べようよ!」
男「花見かー春らしいな」
妹「春は春らしく春じみた事をしなくちゃ!」
男「黄色のハチマキ持ってるぞ。 着ける?」
妹「ヤダ。 臭そう」
妹「何食べたい?」
男「うーん……春菊!」
妹「一応言っとくけど、春菊の旬は冬だよ?」
男「えっ、そうなの!?」
妹「花を咲かせるのが春ってだけで」
男「うーん……じゃあ鰆とか」
妹「鰆の旬も春に限らないよ。 回遊魚だから地域によって沢山穫れる時期は違うんだ」
男「えー……」
妹「冬の鰆は脂がのってて美味しいそうな」
男「……弁当は任せるよ」
妹「はいよー」
━━
━━━
━━━━
妹「お弁当出来た!」
男「お、じゃあ行くか」
妹「うん!」
男「結構花見してる人いるなぁ」
妹「賑やかでいいねー」
男「とりあえずビールくれ」
妹「はい」
妹「私にも一口ちょーだい」
男「お前高校生だろ。 駄目」
妹「ケチ」
男「春に桜を見ながら飲む酒は美味いなぁ」
妹「夏は星」
男「秋は満月」
妹「冬は雪」
男「飛天御剣流でも修得するか」
妹「るろうにはやめてね」
男「弁当くれ弁当」
妹「あ、はい」
男「……なんじゃこりゃ」
妹「千切りした春キャベツ!」
男「……ロールキャベツとか、キャベツ使った料理は他にもあっただろう」
妹「春キャベツはこうやって食べるのが美味しいの! これがベスト!」
男「あ、うめぇ」
妹「でしょう!」
男「でもこれはお前の料理が美味いんじゃなくて春キャベツが美味いんだよな」
妹「素材の味を生かすのも料理人の腕ですよ」
男「素材まんまじゃねぇか」
支援
妹「ちゃんとしたのも作ってきてるよ。 はい」
男「お、炊き込みご飯だ!」
妹「うん。 たけのことそら豆のね」
男「春だなぁ!」
妹「春でしょう」
男「うめぇ!!」
妹「それは良かった」
男「あ、お前良いモン食べてるな」
妹「お兄ちゃんアスパラ好きだっけ?」
男「大好き」
妹「あれ? 昔嫌いだったような……」
男「今は好きなの! 俺にもアスパラくれ」
妹「お兄ちゃん食べないと思ってたからこの一本しか持ってきて無いんだよね」
男「えー……」
妹「帰ったら茹でたげるよ。 これは譲らない」
男「アスパラでポッキーゲームってどう思う?」
妹「シュールだなぁ」
男「ポッキーゲームって棒状の食べ物だったら成り立つよな」
妹「ししゃもでポッキーゲーム!」
男「ごぼうでポッキーゲーム!」
妹「合コン向きじゃないね」
男「そうだな」
男「お前合コンしたことあるの?」
妹「合コンって何?」
男「合法コンサート」
妹「非合法なの行ってみたい」
男「合理的コンプライアンス」
妹「理想的じゃん」
男「豪傑コンシューマー」
妹「経済が回るね」
男「お、向こうで歌歌い始めたな」
妹「楽しそうだね」
男「そうだな」
妹「私も歌おう」
男「いいね」
妹「あーわーきー光立つにーわーかあめー」
男「春はもう来てるぞ」
妹「沈丁花ってどんな花?」
男「知らね」
妹「はるのうーたぁーあーいーときーぼうよりーまーえにーひーびくー」
男「……なんか見られてる気がするぞ」
妹「え、うるさいかな?」
男「いや周りの方がうるさいし……」
おっさん「おう嬢ちゃん。 綺麗な歌声してんな」
妹「えっ」
おっさん「皆聴き入ってたぞ。 良いもん聴かせてもらった」
妹「え、お金なんかいただけません!」
おっさん「路上で歌えばチップを貰えるもんだ。 気にせずとっとけ」
妹「え、え」
おっさん「引き続き歌ってくれや。 じゃあな」
男「……お前すげぇな」
妹「す、すごく恥ずかしい……」
男「じゃあ引き続きどうぞ」
妹「も、もうやだ」
男「なんでだよ」
妹「恥ずかしいから」
男「さっきまで平気で歌ってたじゃん」
妹「誰も聴いてないと思ったの! まさか注目されてたなんて……」
男「いいじゃん。 良い歌だってことなんだから」
妹「そ、それは嬉しいけど……」
男「俺もお前の歌もっと聴きたいな」
妹「え」
男「久しぶりなんだもん。 お前の歌聴くの」
妹「お、お兄ちゃんがそう言うなら……」
男「頼むよ」
妹「さーくらーのはーなびーらちーるたーびにー」
男「チップはこちらにお願いしまーす」
妹「春なのにーお別れーですかー」
男「あ、こら撮影禁止!!」
妹「さーくーらーがーさーくーよー みなれーたいつものさかーみちにー」
男「こちらに並んでお聴きくださーい」
妹「お、お兄ちゃん……疲れた……」
男「皆さんありがとうございましたー。 妹が限界なのでこれにてお開き!!」
男「おい! チップ一万超えてるぞ!!」
妹「お兄ちゃんまさかその為に歌わせたの……?」
男「いやいやあくまで俺が聴きたかったからだって。 お、ラブレター入ってんぞ」
妹「え、ど、どうしよう」
男「好きにしたらー? お前にも春が来たかー」
妹「いや付き合う気はまるでないんだけど……」
男「そうなの?」
妹「ラブレター渡すような男は女々しいと思うから」
男「ふーん」
妹「第一顔も知らないし……」
男「じゃあ無視すりゃいいじゃん」
妹「でもそれも相手に悪い気がする……。 断りのメールだけ入れようかな」
男「捨てアドにしとけよ」
妹「よくわかんないからお兄ちゃん教えて」
男「しゃーねーな」
妹「それにしても、私の歌って凄かったんだね!」
男「お、調子に乗ってるな」
妹「人前で歌う気持ちよさを知ってしまった……」
男「そりゃあんだけ盛況だったらな」
妹「バンドでも始めようか!」
男「いいねー」
妹「私ボーカル!」
男「俺ベース!」
妹「これはバンドとは言わないね」
男「そうだな」
男「弾き語りならいいかな?」
妹「アンプでベース鳴らしたら一発で通報されるよ」
男「アコースティックベースというのがあるんだよ」
妹「へぇ」
男「ベースとボーカルのみってどう思う?」
妹「うーん……それ以前に、やっぱり路上で歌うのは恥ずかしい」
男「今日は平気だったじゃん」
妹「今日だって恥ずかしかったよ! 周りがお祭りモードだったからまだ平気だっただけ!」
男「 良い小遣い稼ぎになると思ったのに」
妹「やっぱり狙いはそれか! 絶対やらない!!」
男「残念」
男「じゃあ何始めようかー」
妹「何か始めなきゃダメなの?」
男「春だからね」
妹「うーん……」
男「釣りでも始めるかー」
妹「なんかジジ臭いなぁ」
男「それは偏見だぞ。 釣りは釣り上げたとき、得も言われれぬカタルシスがあるんだぞ!」
妹「お兄ちゃん釣りしたことないじゃん」
男「まぁね」
妹「私ゴカイを触れる気がしない」
男「別にルアーでいいじゃん」
妹「道具揃えるお金あるの?」
男「無いな」
妹「ダメじゃん」
男「あ、じゃあお前もバイク乗ろうぜ」
妹「免許取るお金無い」
男「原付免許なら一万あればお釣りがくるぞ」
妹「原付ー?」
男「あ、お前原付馬鹿にしてるな?」
妹「馬鹿にはしてないけど趣味って感じじゃないよね」
男「原付には原付の良さがあるんだぞ。 原付でのツーリングものんびりしてていいもんだ」
妹「でも原付じゃお兄ちゃんのスピードについてけない」
男「合わせてやるよ。 俺もそんな速いバイク乗ってるわけじゃないし」
妹「でも原付買うお金が無いよ。 十万くらいするんでしょ?」
男「新車ならな。 ちょうど中免とった知り合いがいるんだ。 多分原付手放すだろうから、安く譲ってくれると思うぞ」
妹「うーん……じゃあ原付手に入りそうなら免許取りに行くよ」
男「そうこなくちゃ!」
男「……桜、綺麗だな」
妹「本当に……」
男「……絵でも描きたくなるな」
妹「お兄ちゃん絵下手くそじゃん」
男「俺のは味があるんだよ」
妹「どうだか……」
男「絵、始めるか」
妹「あー、水彩なら私が学校で使ってる画材はあるしいいかもねー」
男「よし、ちょっと一式取ってくる」
妹「行動早いね。 いってらっしゃーい」
男「取ってきた!」
妹「よし、描くぞー!!」
男「あ、垂れた!!」
妹「水混ぜ過ぎだよ」
男「上手く延びない」
妹「水少なすぎだよ」
男「出来た!」
妹「私も!」
妹「お兄ちゃん、何それ……」
男「桜と青空に決まってんじゃん」
妹「ピンクと青の色水をぶちまけたようにしか見えない……」
男「そういうお前はどうなんだよ」
妹「はい」
男「……俺絵のことはよくわかんないけど、鮮やかだなぁ」
妹「いちゃもんつけといてなんだけど、私もよくわかんない」
男「よくわかんないけど、俺この絵好きだ」
妹「ありがとう! 私はお兄ちゃんの絵嫌い!!」
男「はっきり言うなぁ」
男「走ってる人がいる」
妹「今の季節ランニングにもってこいだよね」
男「何が楽しくて走るんだか……。 ランニングしてる奴は皆マゾだ」
妹「えー? 走るの楽しいよ?」
男「そうか、お前はMだったのか」
妹「私はどっちかというとS。 何言わせんだ!!」
男「お前が勝手に言ったんだろ」
妹「ランニングは痩せるし気持ちいいしタダだし、良いこと尽くめだよ!」
男「気持ちいいだと? 俺は苦しい思い出しかないね」
妹「確かに苦しいけど、それ以上に充足感があるんだよ!」
男「やっぱりお前マゾだろ」
妹「違うって! 走ってるとさ、場所によって空気が違うのがわかるんだよ」
男「へぇ」
妹「ちゃんと聞け! 匂いや温度差、町並みの雰囲気、それらの移ろいが肌で感じられるんだよ!」
男「いまいちピンとこないな」
妹「そんで走った後のお風呂!! これがまた最高なんだ!!」
男「それはちょっとわかる」
支援
妹「お兄ちゃん煙草もお酒も嗜むんだし、少しは健康的なことをしてもいいんじゃないかな」
男「喫煙者がランニングとかそれこそ死ぬ」
妹「人間そんなに脆くないよ。 今度一緒に走りに行こう!」
男「気が進まないなぁ」
妹「ダメ! 一緒に走るの!!」
男「……ちゃんと俺のペースに合わせてくれよ?」
妹「もちろん! そろそろお兄ちゃんもお腹出る歳だからね! 運動は大事!」
男「ほっとけ」
男「あ、ツバメが飛んでる」
妹「春だしね」
男「どこに巣作ってるんだろうな」
妹「追いかける?」
男「追いかけてみるか」
男「見失った」
妹「速い……」
男「近くまで来たし、トイレ行ってくるわ」
妹「いってらっしゃーい」
男「妹!! いたぞ!!」
妹「え?」
男「ツバメの巣見つけた!」
妹「ホント!?」
男「なにも公衆便所に作らなくてもな」
妹「雛はまだ見えないね」
男「もうすぐだろ。 また今度見に来よう」
妹「うん!!」
男「バードウォッチング始めるのもいいかもなぁ」
妹「お兄ちゃん早起き出来ないじゃん」
男「……無理か」
妹「うん」
男「桜の花言葉知ってるか?」
妹「知らない」
男「 『優れた美人』『純潔』『精神美』『淡泊』だそうだ」
妹「そのラインナップに淡泊が入ってるのが面白いね」
男「優れた美人は淡泊ってことなのかな」
妹「私のことじゃん」
男「桜が映える期間って短いよな」
妹「何が言いたい」
男「まぁ葉桜も俺は好きだよ」
妹「何が言いたい」
妹「お兄ちゃん花言葉とか知ってるんだ」
男「まぁ有名どころの花のはな」
妹「ふーん」
男「何だよ」
妹「なんか気持ち悪い」
男「なんでだよ!」
妹「そういうのは爽やかな男の人にしか似合わないよ」
男「俺が爽やかじゃないって言うのか!」
妹「だってもっさりヘアーなんだもん」
男「好きでもっさりしてるんじゃない!」
妹「寝癖くらい直しなよ。 お兄ちゃんには爽やかになろうとする意思が感じられない」
男「爽やかって漢字で書くとあんまり爽やかじゃないよな」
妹「あ、わかる」
妹「あ、犬だ。 可愛いなぁ」
男「うちは賃貸だから犬は飼えないぞ」
妹「わかってるよ。 でも大型犬可愛いなぁ……」
男「あれはラブかな?」
妹「だね。 あぁーいいなぁ……」
男「触らせてもらいに行けば?」
妹「……ううん。 いい」
男「なんでさ」
妹「これ以上想いを募らせると、辛いもん」
男「……そうか」
男「……親父に言ってみたら?」
妹「……」
男「『ペット飼いたい。 ペット可の部屋に引っ越そうよ』って」
妹「そんなわがまま言えないよ……」
男「お前今までずっと我慢してきたじゃん。 うちは決して裕福じゃないけど、お前のやりくりのおかげで不自由無い生活を出来てるんだ」
妹「……すごいでしょー」
男「うん、本当にすごい。 教えてくれる母親もいないのに、よくまぁここまで立派に主婦業出来るもんだ」
男「親父も俺もお前には感謝してるんだ。 それくらいのことしてやりたいと思ってるんだ」
妹「……」
妹「……私は今のままでいいよ。 今それなりに余裕のある生活が出来てるんだもん」
妹「家賃を上げて、家計を苦しめるより私は今のままがいい」
妹「下手すればお父さんの仕事を増やさなきゃなくなるかも知れないし」
男「いやそうはならないよ」
妹「え?」
男「俺がバイトを増やして差額を稼げば済む話だ」
妹「だ、ダメだよ!」
男「別にそれくらい何でもないぞ? 俺タフだし」
妹「ダメ!」
妹「これ以上バイト増やしたらお兄ちゃん休日潰れちゃうでしょ!」
男「だから俺タフなんだって」
妹「私はお父さんとお兄ちゃんが休日に家にいないと嫌なの!」
男「それ前も言ってたなぁ」
妹「休日にこうやってピクニックが出来る日常が私の一番の望みなの! 犬を飼うなんてそれに比べたらどーでもいいの!」
男「それが出来るのもお前のおかげだよ」
妹「お金稼いでるのはお父さんとお兄ちゃんでしょ。 私もバイトするってずっと言ってるのにお父さん全然聞いてくれないんだもん。 私もバイトすればもっと楽になるのに」
男「それは親父のプライドがあるんだよ。 自分の収入が足りなくて娘を働かせるなんて絶対に避けたいことだ」
妹「お兄ちゃんはバイトしてるのに?」
男「息子と娘は違うんだよ」
妹「よくわかんない」
男「……まぁお前が自分の小遣いの為にバイトするんだったら親父も大歓迎だと思うぞ」
妹「ヤダ」
男「春だし、バイト始めるのもいいんじゃない?」
妹「私だけが自由にお金使えるなんて嫌」
男「俺も親父も自由になるお金が無いわけじゃないぞ?」
妹「それなら私もお小遣いもらってる」
妹「あ、そうか。 お小遣い無くしてもらってその分自分で稼げばいいのか」
男「あーそれも嫌がるかもなぁ」
妹「えー?」
男「娘の小遣いくらい親父は出したいだろうなぁ」
妹「……めんどくさぁ」
男「めんどくさいんだよ」
妹「ま、現状維持でいいってことかな」
男「お前がそれでいいなら」
妹「あ、お兄ちゃんが犬になればいいんだ」
男「は?」
妹「お座り!」
男「もう座ってるけど」
妹「お手!」
男「はい」
妹「おかわり!」
男「もう弁当空っぽだよ」
妹「あ、そういやデザートあるんだ」
男「お、マジで?」
妹「苺の練乳掛け!」
男「おーいいねぇ!」
妹「春でしょー」
男「え? 苺は冬だろ?」
妹「冬に需要があるからハウス栽培で冬にたくさん作ってるけど、露地栽培だと旬は春だよ」
男「へぇー」
妹「まぁ意外と甘くなかったから練乳掛けてきたけど」
男「甘みが少ない苺に練乳かけると美味いよなー」
妹「ショートケーキにも酸っぱい苺の方が合うよねー」
男「あー苺うめぇ……」
妹「ほんと、美味しいねぇ」
男「家庭菜園でも始めるか」
妹「私既にいくつかやってるけど」
男「俺アスパラ栽培したい」
妹「本当に好きだったんだね、アスパラ」
男「収穫までどれくらいかかるんだろ」
妹「種から始めれば三年」
男「やめた」
妹「早いよ」
男「いやーいい天気だなー」
妹「今日それ三回目」
男「こういう風景は形にして残したくなるね」
妹「さっき絵描いたじゃん」
男「俺絵はてんでダメだから写真撮ろうかと思って」
妹「あー」
男「写真趣味にしようかなー」
妹「あれ難しいよね。 露出とかしぼりとか被写界深度うんぬん」
男「そういうのは結構俺好み」
妹「お兄ちゃんカメラ買うお金あるの?」
男「無いね」
妹「ダメじゃん」
男「あ、いいなーキャッチボールしてる」
妹「お兄ちゃん小学生の頃野球やってたよね」
男「久しぶりにキャッチボールがしたい。 お前付き合えよ」
妹「うちにグローブあったっけ?」
男「あるある。 ちょっと取ってくる」
妹「いってらっしゃーい」
男「ただいま」
妹「おかえりー」
男「グローブくそちっちぇ」
妹「そりゃ小学生のときに使ってたものだからね」
男「手収まりきらないけどなんとかなるか」
妹「あ、私結構ジャストフィット」
男「手ちっちゃ!」
妹「じゃ、投げるよー。 そりゃ!」
男「! いきなりショーバンかよ!」
妹「ありゃ」
男「じゃ、今度はこっちから投げるぞー」
妹「どんとこい!」
男「ほいっ」
妹「ほっ!」
男「キャッチはなかなか上手いな」
妹「今度はもうちょっと上に……そりゃ!」
男「高すぎだ!!」
妹「難しいねぇ」
男「お前ノーコンだなぁ」
男「フォーム教えてやる」
妹「うん」
男「お前力入りすぎ。 もっと腕をやわらかーくして」
妹「ふんふん」
男「下半身の捻りも使ってボールを投げるんだ。 こんな感じ」
妹「こんな感じ?」
男「お、なかなか綺麗だな。 それで一回ボール投げてみ」
妹「そりゃ!」
男「おぉ……お前飲み込み早いな」
妹「天才ですから」
男「それバスケ漫画だろ」
妹「あ、バドミントンしてるー」
男「よそ見すんなよ」
妹「キャッチボールはこれくらいにして、テニスやらない?」
男「バドミントンじゃないのか」
妹「私元テニス部だし」
男「じゃあラケットとボール取ってこいよ」
妹「はいはーい!」
妹「ただいまー」
男「おかえりー」
妹「ガットがへにゃへにゃになってたよ」
男「俺テニスやったことないんだよね」
妹「スペースそんなに無いし、ボレーボレーやろう」
男「まずどうやって握ればいいの?」
妹「包丁を持つように握って」
男「ふんふん」
妹「肩を入れて手首を固定して、こう」
男「こ、こう?」
妹「違う、こう」
男「難しいなぁ……」
妹「ほい、とりあえず打ってきな!」
男「こんな感じ?」ポン
妹「ふわっと浮きすぎ。 もうちょぅと鋭い感じで」
男「こんな感じ?」
妹「勢いが強すぎる。 もうちょっと緩く」
男「難しいなぁ」
男「お、いい感じじゃない?」ポン
妹「うんまぁフォームはあんまり良くないけど」ポン
男「俺ってば運動神経バツグンだなー」ポン
妹「調子に乗っちゃって……」ポン
男「あ、しまった」スカッ
妹「まだまだだね」
男「疲れた! 休憩!」
妹「体力無いなぁ」
男「お茶くれお茶」
妹「あ、その水筒……」
男「喉乾いたー」
男「……何これ酒くせぇ。 焼酎?」
妹「うん、お茶割」
男「ずっとこれ飲んでたのか……」
妹「どうせお兄ちゃんお酒飲ませてくれないと思って」
男「結構飲んでたろ。 よくまぁキャッチボールだテニスだと動けたもんだ」
妹「余裕!」
男「じゃあこれ没収な」
妹「えぇー」
男「充分飲んだろ」
妹「足りない」
男「二十歳になったら居酒屋連れてってやるよ」
妹「今飲みたい」
男「ダメ」
妹「ケチ」
男「じゃあこれは俺が飲もうかな」
妹「いいなぁ」
妹「なんか動いたらお酒回ってきたかも」
男「飲み過ぎだ。 水筒ほぼ空じゃないか」
妹「あ、カップルだ! カップルがいるよ!!」
男「声が大きい」
妹「制服着てるねー高校生カップルだ」
男「そうだな」
妹「初々しいねー!」
男「お前も高校生だろ」
男「お前付き合ったことあんの?」
妹「な、何さ急に!」
男「いや高校生カップルを初々しいとか生意気言うもんだから」
妹「お、お兄ちゃんはどうなのさ!」
男「質問を質問で返すなよ」
妹「いいから!」
男「……俺は今付き合ってる人いるよ」
妹「え!!?」
妹「嘘!! 嘘だ!!!」
男「本当だって」
妹「い……いつから?」
男「半年くらい前かな」
妹「……なんで隠してたの」
男「いや隠してたわけじゃないけどさ」
妹「……最近休日出かけることが多かったのはそれかー」
男「まぁね」
妹「……大学の人?」
男「うん。 同期」
妹「可愛い?」
男「そりゃもう」
妹「良い人?」
男「もちろん」
妹「……そっか」
男「今度家に連れてくるよ」
妹「うん」
男「で、どうなんだよ。 お前の方は」
妹「……うるさい、寝る」
男「は? ここ公園だぞ」
妹「お酒が回って気持ち悪い。 お兄ちゃん先に帰ってていいよ」
男「そういうわけにいくか」
妹「とりあえず私はここで寝てから買える! おやすみ」
男「はぁ……ま、じゃあ俺も桜見ながら飲んでよーっと」
妹「…………いーい天気だなー」
男「そうだなぁ」
妹「……」
━━
━━━
━━━━
男「おい、いい加減起きろ」
妹「うーん……」
男「帰るぞ」
妹「おー……真っ暗だ」
男「もう夜だよ」
妹「春眠黄昏を覚えず」
男「寝過ぎだ」
妹「いいんだよー春は曙って言うでしょ? 大事なのは明け方、夕方なんてどーでもいーの」
男「でも夕方の桜綺麗だったぞー」
妹「え、本当? くそー惜しいことをした……」
男「さ、帰るぞ」
妹「お兄ちゃん……」
男「なんだ?」
妹「頭痛い……」
男「飲み過ぎだ馬鹿野郎」
妹「おぶって……」
男「しゃーねーなー。 ほら」
妹「ん……」
妹「……」
男「……」テクテク
妹「……お兄ちゃん、あのさ、さっきの話なんだけど」
男「おう」
妹「私さ、今まで誰かと付き合ったことなんてない」
男「へぇ、意外だな。 綺麗な顔してるのに」
妹「でしょー? モテるんだよ、私」
男「そうだろうな。 で、なんで全部フッてきたんだ」
妹「……」
妹「……だってお兄ちゃん以上の人がいなかったんだもん」
男「あっはっは。 そりゃなかなか俺ほどの男はいないだろう!」
男「俺を男選びの基準にしてたらいつまでも見つかんないぞー? 妥協しろ妥協!」
妹「……」
男「まぁそれは冗談としても、どんな奴だって良い所はあるもんだ。 要は相性だ」
男「付き合ってみたら、運命の人だった!みたいなこともあるんじゃない? 高校生なんだし、試しに付き合ってみるのもいいかもよ」
妹「……大きなお世話だバーカ」
男「……何? もしかして泣いてんの?」
妹「う、うるさい」
男「そんなに俺が先に恋人作ったのが悔しかった?」
妹「花粉症だよ! 春だから!!」
男「そういや花粉症持ちだったな。 大丈夫か?」
妹「へ、平気」
男「辛くても俺にはどうすることも出来んが」
妹「……そうだね」
男「……この春お前が始めることは決まったな」
妹「え?」
男「恋人探し」
妹「大きなお世話だ」
男「いいじゃん楽しいぞ?」
妹「お兄ちゃん付き合ってくれる?」
男「すみません。 俺には恋人がいるんです」
妹「そ、そうだったんですか……」
男「ですから、お付き合いは出来ません」
妹「残念です……」
男「ま、お前にも春が来るといいな」
妹「なんかムカつく」
男「春は出会いの季節だ。 頑張れ」
妹「……そうだねー。 出会いと別れの季節だ」
男「俺は別れないぞ」
男「……大丈夫か? 花粉症酷いな」
妹「……うん、平気…………」
fin
は?
おい
乙
こんな終わり方も嫌いじゃない
まじかいな
乙
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