パワポケ「私立NIP高校?」(彼女全データ版) (370)

須田「このスレを担当及び、今回相棒役の須田でやんす。 以下にこのスレの説明を書いていくでやんす」

・このスレはパワポケオリジナルSSでやんす

・設定年代はパワポケ14の終了から二年後、主人公は高校三年生でやんす

・このSSの話を理解するにはパワポケをやったことあるだけじゃなくて、
 正史考察WIKIで正史をある程度把握する必要があるのと、このSSのみのぼくの考えた正史があるので注意でやんす

・今回は彼女三人分彼女のデータを投下するだけでやんすだけでやんす。

・主人公のポジションは捕手固定でやんす

・メタ発言自重しないでやんす

・パワポケは面白いでやんす

須田「それじゃあ、まったりいくでやんす」


SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1396652352

 主人公は小さいころから野球を頑張ってきた。
 そのおかげで中学生の頃にそこそこの成績をあげ、さらにその活躍が認められ、高校は地元の野球強豪校に進学。

「ここが天下の名門、私立NIP高校か……」

「あんたも、もしかして野球部でやんすか?」

「そうだけど……どうしてわかったんだ?」

「野球のユニフォームを着てサッカーをする人はいないでやんす」

「……それもそうか。それよりあんたもって」

「そうでやんす! オイラも野球部でやんす。ちなみにポジションはピッチャーでやんす」

「そうなんだ。俺はキャッチャーなんだ。もしかしたら俺たちバッテリーを組むことになるかもね」

「そのときはよろしくでやんす」

「うん。一緒に甲子園目指して頑張ろう!」

 この時彼の道は光り輝いていた。少なくともこの時は……

 8月4週目、NIP高校は甲子園の決勝まで駒を進めていた。

「それにしても先輩たちすごいね。甲子園に行ったと思ったら、あっという間に決勝だよ」

「今年は歴代最強とまで言われているでやんす。今まで苦戦はほとんどなしでやんす。
 まあその分オイラたちはベンチにすら入れないでやんすし、来年も熾烈な争いになりそうでやんす」

「なんの、来年こそは俺たちがあそこにいるさ」

「パワポケ君はポジディブでやんすね……それにしても先輩たち遅いでやんす」

「たしかにそうだね。敵のチームはもういるのに」

『皆様にお知らせがあります』

「ん? なんか放送が始まったぞ」

『今日の甲子園決勝、NIP高校対花丸高校の試合ですがNIP高校の棄権により、花丸高校が第XXの甲子園優勝校に決まりました』

「な、なんだってー!?」

 突然のNIP高校の棄権。
 それはエースの持ち物からアルコール飲料が見つかったことによるものだと後から聞かされた。

「まさか甲子園への挑戦があんな結末で終わるなんて……」

 いろいろと不良消化で終わった夏休みが終わって新学期。
 パワポケは憂鬱な気分で登校していた。

「た、大変なことになったでやんす!」

 学校に来るとバッテリーの相方が血相を変えて近寄ってきた。
 そして彼に促されるように学校の掲示板を見ると。

「なになに、『野球部今後一年間公式非公式に問わず試合の禁止 by校長』……って、なんだよこれ!」

「しかも今後一年ってどうやら九月からまるまる一年らしいんでやんす」

「ちょっと待てよ。まるまる一年って……」

「そうでんす。来年の夏の予選も出れないでやんす……」

「そんな馬鹿な」

「さすがに二年生が可愛そうだって監督と顧問がかけあっているそうでやんすけど、望みは薄いでやんす。
 それにオイラたち一年でもどうせ一年間棒に振るんだったら何もできないここよりも練習試合はできる他の高校に行く人もいるでやんす」

「そんな……」

 ガクリと肩をおとす主人公。

「……スクルメタ君、ショックなのはわかr」

「うがーっ!」

「うわっ!? ど、どうしたでやんすか?」

「絶対に諦めない。俺は甲子園に行くぞ!」

 こうして主人公の挑戦が始まった。

小波「今日は身体測定の日だ」

 身体測定のため授業は自習になっている中、呼び出しを受けた俺が保健室に向かうと保健室前には多少の行列があり、その中に須田君がいた。

須田「小波君、知っているでやんすか?」

小波「何を?」

須田「今まで担当していた保健の先生は去年いっぱいで退職して 今年から新しい先生が入ったそうでやんす」

小波「へえ、知らなかったよ……少しさみしいね」

須田「小波君は優しいでやんすね。おいらはあのおばちゃんは保健室でのずる休みをさせてくれなかったから、嬉しいでやんす」

小波「あはは。それで新しい先生ってどんな人なんだい?」

須田「それはおいらも知らないでやんす。どうやら新学期が始まってから着任したみたいでやんす」

小波「新学期が始まってからって、辞めてからそれまで保健の先生はいなかったのか?」

須田「そうみたいでやんす」

小波「大丈夫かこの学校……」

須田「そういうわけで、詳しいことは誰も知らないみたいでやんすが、毒島って名前だけは聞いたでやんす」

小波「毒島か……珍しい苗字だね。どんな先生なんだろう」

須田「名は体を表すっていうし、期待しない方がいいでやんす」

「おーい、須田。次はお前の番だぞ」

小波「須田君、呼ばれているぞ」

須田「じゃあ小波君、また後ででやんす」

小波「そろそろ俺の番かな」

 ようやく行列の先頭にきたころ、須田君が出てきた。

小波「あ、須田君、どうだった?」

須田「……綺麗なお姉さんだったでやんす」

小波「はあ?」

 俺としては純粋に身体測定の結果を聞いたのだが、須田君はどこか上の空だった。

須田「決めたでやんす! おいらはこれから保健室に通いまくるでやんす」ダダダッ

小波「あ、行っちゃった……いったい、なんだったんだ……?」

・・・・・・・・・・

「……次の人、入って」

小波「あ、はい」

 ようやく出番が来たと思って中に入るとそこにはたしかに美人といえる人物がいた。

毒島「まずは身長。ここに来て」

 だけど保健室の先生である彼女のその口元には煙草が咥えられていた。

毒島「……どうかした?」

 先生は立ち止まっていた俺の様子を不審がってきた。

小波「あ、えっと……」

A.どうして煙草をすっているんですか?
B.毒島先生ですか?
C.先生に見惚れていました。
D.すみません。なんでもないです。

A
小波「どうして煙草を……?」

毒島「吸ってない、咥えている。……大丈夫。火もついていないし」

小波(そういう問題じゃないと思うんだけどな……)

小波「そ、そうですね。すみませんでした」

毒島「別に謝らなくていい」

 毒島の好感度が3上がった。


B
小波「毒島先生ですか?」

毒島「そうだけど、どうして名前を知っているの?」

小波「実は友達から聞いて」

毒島「そう。こっちに来て」

小波「あっ、はい」

毒島「それと私は人のいないところでいろいろ言われるのは好きじゃない。良い意味でも、悪い意味でも」

小波「……すみませんでした」

 毒島の好感度が3下がった。

C
小波「先生に見惚れていました」

毒島「そう。こっちに来て」

小波「あっ、はい」

 毒島の好感度が1下がった。


D
小波「すみません。なんでもないです」

毒島「そう。ならこっちに来て」

小波「はい」

 毒島の好感度が1上がった。

小波「今日は保健室に行ってみるか」

 スタスタスタ

小波「すみませーん」

毒島「……どうかした?」

 保健室に行くと毒島が出迎えた。もちろんその口には煙草が咥えられている。

小波「実は……」

A.ちょっと気分がすぐれなくて
B.怪我をしてしまって
C.先生に会いたくて

A
小波「ちょっと気分がすぐれなくて」

毒島「……薬いる?」

小波「いえ、それはけっこうです。ちょっと横になれば治ると思うんで」

毒島「そう。一番奥のベッドが空いているからそこ使って」

小波「はい」

 毒島の好感度が3上がった。


B
小波「怪我をしてしまって」

毒島「どこ?」

小波「足をちょっと……」

毒島「……嘘はよくない」

小波「えっ!? う、嘘じゃないですよ!」

毒島「さっき普通にあるいてた」

小波「えっ? あっ……それは」

毒島「嘘はよくない」

小波「……はい、すみませんでした」

 毒島の好感度が1下がった。


C
小波「先生に会いたくて」

毒島「……十人目」

小波「えっ?」

毒島「なんでもない……不純な動機でここにこないで」

小波「は、はい……」

 毒島の好感度が1上がった。


小波「須田君、部活の時間だよ」

須田「頑張るでやんす!」

 ピンポンパンポーン

小波「あっ、校内放送だ」

毒島『……2年のモブA』

須田「毒島先生の声でやんす!」

毒島『至急保健室に来るように。以上』

 パンポンピンポーン

小波「毒島先生のしゃべり方ってちょっとそっけないよね」

須田「そこがいいでやんす!」


 別の日

 ピンポンパンポーン

小波「あっ、また校内放送だ」

毒島『……1年のモブ子C、至急保健室に来るように。以上』

 パンポンピンポーン

須田「また呼び出しでやんす」

小波「なんかちょくちょく呼び出すよね。どうしてだろう?」

須田「呼び出された人に何をしたのか聞いても特に何もなかったそうでやんす」

小波「不思議だなあ」

 毒島の好感度が1上がった。


小波「今日も練習頑張るぞ!」

 カキーン!

須田「小波君、キャッチャーフライでやんす」

小波「任せろ」

 ダダダダダダダ

小波(よし! 捕れる)

須田「小波君、危ないでやんす!」

小波「あっ、目の前に人が!」

A.避けろと叫ぶ
B.全力でかわす

A
小波「避けてくれー!」

一年部員「えっ、うわー!」

 ドンガラガッシャーン!

須田「二人とも、大丈夫でやんすか?」

小波「……俺のほうはなんとか大丈夫」

一年部員「……っ、俺のほうも大丈夫です」

 ピンポンパンポーン

毒島「……一年部員、至急保健室に来るように。以上」

 パンポンピンポーン

須田「呼び出しでやんす」

小波「一年部員、本当に大丈夫か?」

一年部員「大丈夫です。呼び出されたんでいってきますね」タッタッタ

須田「……大丈夫そうには見えなかったでやんす」

小波「悪いことしちゃったなあ」


 練習後

須田「あっ、一年部員が戻ってきたでやんす」

小波「一年部員、大丈夫か?」

一年部員「はい? 何がですか?」

小波「いや、さっきの接触……」

一年部員「何の話ですか?」

小波「えっ!?」

一年部員「あ、片付けしないといけないので行ってきますね。失礼します」タッタッタッ

小波「ど、どうなっているんだ……?」

 毒島の好感度が1下がった。

B
小波(向こうは俺に気付いていない。全力で避けなければ!)

 シュタタタタ、グキッ!

小波「グッ……だ、大丈夫か?」

一年部員「は、はい。大丈夫です」

須田「小波君は大丈夫でやんすか?」

小波「うん、なんとかね……」

小波(ちょっと痛いけど、まだ練習はできるかな?)

 ピンポンパンポーン

毒島「……小波、至急保健室に来るように。以上」

 パンポンピンポーン

須田「小波君、呼ばれているでやんす」

小波「なんだろう。ちょっと行ってくるよ」タッタッタ


・・・・・・・・・・・・

 保健室

小波「すいませーん。呼ばれたので来たんですけど」

毒島「……待ってた」

小波「それで俺に何か用ですか?」

毒島「……うん、脱いで」

小波「……えっ?」

毒島「早く」

小波(まさか、たびたび皆を呼び出していたのはそういうわけだったのか!?)

毒島「……」

小波(だけどこんなに綺麗な先生ならかまわないけどなあ)デレデレ

毒島「?」

小波「わ、わかりました。すぐに脱ぎます」ヌギヌギ

毒島「何をしているの?」

小波「へ?」


毒島「怪我をしているのは足のはず……靴下、早く脱いで」

小波「は、はい」ヌギヌギ

小波(勘違いだったのか……なんで怪我しているの知っているんだろう。見てたのかな?)

毒島「……痛くない?」ソッ

小波「は、はい。特に痛みは……」

小波(医療行為とはいえ、先生の触れ方はなんか変な気分になりそう)

毒島「うん、やっぱり。ちょっと腫れてる」

小波「大丈夫ですよ。これくらい」

毒島「無理は禁物。下手したら長引く」

小波「だからって練習を休むわけには」

毒島「心配いらない。これなら30分で治る」

小波「30分? それはさすがに……」

毒島「ちょっと待ってて」ゴソゴソ

小波(本気なのか……?)


 数分後

小波(沈黙に耐えられん……!)

小波「あ、あの先生」

毒島「何?」

小波「先生が日ごろ放送で呼び出している人ってもしかして怪我をしている人ですか?」

毒島「そう」

小波「それなら」

A.「先生はどうしてわかったんですか?」
B.「どうしてそのことが広まらないんだろう」


A
小波「先生はどうしてわかったんですか?」

毒島「…………見てた」

小波「え? で、でもそんな都合よく……」

毒島「見てた」

小波「そ、そうですか……」

 毒島の好感度が1上がった。


B
小波「どうしてそのことが広まらないんだろう」

毒島「忘れさせたから……あった」

小波「ああ、それならたしかに広まらないですねって……え?」

毒島「……」

小波「あ、あのどうして無言で近づいて来るんですか?」

毒島「……大丈夫。痛みはない」

小波「ち、ちょっと先生、目が血走ってますけど!? ……う、うわあああああああ!」

 毒島の好感度が3上がった。


・・・・・・・・・・・・・

 その後

須田「小波君、小波君」

小波「ん? 須田君どうかした?」

須田「どうかしたはこっちのセリフでやんす。
   呼び出しから帰ってきたらと思ったらぼうっとしているし、何か保健室で何かあったでやんすか?」

小波「いや、特に何もなかったよ?」

須田「ところで、小波君さっきの怪我は?」

小波「怪我? 何の話だい?」

須田「え?」

小波「あ、もう休憩終わりだよ。行こう須田君」

須田「……どうなっているでやんすか?」


パワポケ「今日は調子が悪いな。保健室に行こう」

 保健室

パワポケ「すみませーん……あれ? 先生がいない……」

 決してしゃべるような人ではないが、毒島先生がいない保健室はいつもよりどこか寂しさを漂わせていた。

パワポケ「ベッド勝手に借りても大丈夫かな……ってなんだこれ……?」

 中に入るとの目に入ったのは机の上に書類や保健室の器具の数々が散乱していた。

パワポケ「こ、これは……どうしよう?」

A.見て見ぬふりはできない。片付けるか。
B.休みに来たんだから寝よう
C.ここにいたら俺が荒らしたと思われるんじゃ……逃げよう


B
小波「まあ、俺は休みに来たんだし、素直に寝よう」

 その後

小波「ふわあ……よく寝たぞ。そろそろ部活の時間だな、行こう……あれ? 机が片付いているぞ? なんだったんだ?」


C
小波「疑われるのは困るぞ。ここは一時退却だ!」タッタッタ

毒島「ん? ……あれは小波?」

 毒島の好感度が1下がった。

A
小波「見て見ぬふりはできないな。片付けよう」

 器具は取扱いがわからないので書類から片付け始めることにする。

小波「ん? これは……」

 ある程度書類が片付くと注射器を発見した。
 ここは保健室であるのだから注射器があること自体はそこまでおかしいと思わないけど、

小波(注射器内部と針に水滴がついてる……)

毒島「……何をしているの?」

 保健室の入り口に部屋の主が立っていた。

小波「わっ、毒島先生。こ、これは違うんです俺がやったんじゃなくて」

毒島「知ってる」

小波「し、信じてください!……って、え?」

毒島「それ、私がやったから」

小波「そ、そうなんですか……」

毒島「どうして小波はここに?」

小波「ちょっと気分が優れなくて」

毒島「……そう」

 先生はいつものように火のついていない煙草をくわえて悠然と立っていた。しかし、

毒島「!」バッ

 部屋の中のあるものを見た瞬間、珍しく焦った顔でそれを隠す。

小波「あの……先生?」

毒島「……見た?」

小波「え?」

A.何をですか?
B.それはもう、ばっちりと


A
小波「何をですか?」

毒島「……見ていないのならいい。気分が悪いなら奥のベッド使って」

小波「はい」

・・・・・・・・・・・・

小波「ふわあ……よく寝たぞ。そろそろ部活の時間だな、行こう」

毒島「……小波君」

小波「なんですか?」

毒島「机片付けてくれてありがとう」

小波「いえ、途中まででしたし……あ、先生」

毒島「ん?」

小波「初めて名前で呼んでくれましたね」

毒島「! …………バカ、早く行け」

 毒島の好感度が3上がった。


B
小波「それはもう、ばっちりと」ニヤニヤ

毒島「……そう」ガチャ

小波「せ、先生!? そんなもの取り出して何を……?」

毒島「大丈夫。痛みは一瞬」

小波「いや、明らかにそれっ……う、うわああああああああ!」

・・・・・・・・・・・・

小波「ふわあ……よく寝たぞ。そろそろ部活の時間だな、行こう……何か忘れているような……」

 毒島の好感度が1上がった。

小波「保健室に行こう」

・・・・・・・・・・・・

 保健室

小波「すみませーん……って、あれ? また先生いないのかな?」

 ゴトン

小波「ん? 誰か倒れているぞ!」

毒島「……だ、れ?」

小波「せ、先生!? 大丈夫ですか?」

毒島「……君、は……」

小波(すごい汗だ。これはただごとじゃないぞ)

毒島「……カバン」

小波「え?」

毒島「机にある、私のカバン……とって」

小波「そ、そんなこと言っている場合じゃ……!」

毒島「……はや、く」

小波(ど、どうする?)

A.安全第一、救急車を呼ぼう
B.俺だけじゃどうしたらいいかわからない。助けを呼ぼう
C.カバンをとる

A
小波「俺、救急車呼んできます」

毒島「それ、は……だめ……」

小波「でも、こんな状況の先生を放っておけません。行ってきます」ダッダッダ

毒島「まっ……」ガクッ

 その後呼んだ救急車のおかげで、先生は一命をとりとめたらしい。
 だけど先生がNIP高校に戻ってくることはなかった。

 攻略失敗 

B
小波「俺、他に助けを呼んできます」

毒島「それ、は……だめ……」

小波「でも、こんな状況の先生を放っておけません。行ってきます」ダッダッダ

毒島「まっ……」ガクッ

 その後呼んだ助けのおかげで、先生は一命をとりとめたらしい。
 だけど先生がNIP高校に戻ってくることはなかった。

 攻略失敗


C
小波「先生、これでいいんですか?」

毒島「あり……うっ」

 バックを受け取った先生は震える手でカバンの中に手を入れた。

毒島「あっ……た……」

小波(あれは注射器!? しかも前に先生の机を片付けた時にあったのと同じやつだ)

毒島「はぁ……はぁ……」

 ぷすっ

毒島「んっ……ふぅ……」

小波「せ、先生……」

毒島「あっ……」

 苦しげな表情がなくなり、いつものようにほぼ無表情になった先生だったけど、状況を認識すると困ったような顔をした(気がする)。

毒島「…………おもちゃ」

小波「……はあ?」

毒島「これ、おもちゃだから……」

小波「え、えっと……」

A.そ、そうですか……
B.そんなの信じられるわけありませんよ!


A
小波「そ、そうですか……」

毒島「そう」

小波「……って信じられるわけありませんよ!」

毒島「やっぱり……だめ?」

小波「駄目というわけじゃないですけど……ちゃんとした説明はしてほしいです」

毒島「……」

 先生は少し考えると立ち上がり、置いてあった記録用の紙に何かを書き始めた。

毒島「ん」

 それをこっちに渡す。中には住所が書かれていた。

毒島「……私の住所」

小波「えっ?」

毒島「ここでは話せない。だから日曜日に来て」

小波「いや、別に先生の家じゃなくても……」

毒島「来なくてもかまわない。だけど、このことは話さないで……お願い」

小波「……わかりました」

毒島の好感度が1上がった。

B
小波「そんなの信じられるわけありませんよ!」

毒島「やっぱり……だめ?」

小波「駄目です」

毒島「じゃあ、どうすればいい?」

小波「ちゃんとした説明がほしいです」

毒島「……え?」

小波「理由はわからないですけど、悪いことしているわけではないぐらいわかりますから」

毒島「……」

 先生は少し考えると立ち上がり、置いてあった記録用の紙に何かを書き始めた。

毒島「ん」

 それをこっちに渡す。中には住所が書かれていた。

毒島「……私の住所」

小波「えっ?」

毒島「ここでは話せない。だから日曜日に来て」

小波「いや、別に先生の家じゃなくても……」

毒島「来なくてもかまわない。だけど、このことは話さないで……お願い」

小波「……わかりました」

毒島の好感度が3上がった。

小波「日曜日になった。どうしよう……」

A.約束通りに先生の家に行く
B.怖いからいかない
C.練習する


B
小波「……怖いし、行くのやめよう」

 攻略失敗


C
小波「……最後の大会が近いし練習しよう」

 攻略失敗。


A
小波「約束は果たさないとな……行こう」

・・・・・・・・・・

小波「ここが先生の住所だよな。よしインターホンをお……」

 ガチャ

毒島「……待ってた」

小波「へっ?」

毒島「……入って」

小波「は、はい……」

小波(インターホンを鳴らしてないのに……足音が聞こえたのかな?)

 スタスタスタ

 初めて入る女性の部屋に俺はドキドキしていたけど、先生は相変わらず無表情で煙草を咥えていた。

毒島「この部屋」

小波「うわっ、すごい数の機械がある」

 招かれた部屋にある所狭しとある機械の数々は俺が予想していた先生のイメージとは少しかけ離れていた。

毒島「……で、何を聞く?」

小波「え?」

毒島「? ……聞くんじゃないの?」

小波(質問しろというわけかな? 向こうから話してくれるんじゃないのか)

小波「えっとじゃあ……」

A.この部屋っていったいなんですか?
B.ずばり先生の正体を教えてください
C.あの注射器はなんだったんですか?
D.先生っていつも煙草咥えていますよね


A
小波「この部屋っていったいなんですか?」

毒島「……五感」

小波「へ?」

毒島「私の目であり、耳であり、鼻、口、手。これで全てを監視してる」


B
小波「ずばり先生の正体を教えてください」

毒島「……アンドロイド」

小波「へ?」

毒島「複数の遺伝子と成長剤でつくられた第二世代型人造人間。
   生身の人間が機械化してなるサイボーグとは違うから注意」


C
小波「あの注射器はなんだったんですか?」

毒島「……ハピネスY・改」

小波「へ?」

毒島「超能力をなくさせるハピネスYを私用に改良させたもの」


D
小波「先生っていつも火のついていない煙草を咥えていますよね」

毒島「煙草じゃない、ナノマシン増幅器」

小波「へ?」

毒島「日々失われていく体内のナノマシンを増やす機械。他にも体内のナノマシンをコントロールしてる」


小波「え、えっと……」

 とても信じられないことを真顔で言われ、返答に詰まった。

毒島「……冗談」

小波「そ、そうですよね、はは……」

小波(真顔で言われたから焦ったぞ)

毒島「私は生まれつき体が弱い。体が弱いからこれで補う必要があった」パサッ

小波「! 先生これって……」

毒島「しあわせ草」

小波「先生、これって違法薬物じゃ……!」

毒島「一般的にはそう。でも医療方面に関しては使用が認められてる」

小波「そ、そうなんですか?」

毒島「ただ、危険なものだから医療関係で使う人はほとんどいない……でも私はこれがないと生活できない」

小波「じゃあ、あの注射器って」

毒島「しあわせ草から抽出したもの……ちなみに自作」


小波「そうだったんですか……」

毒島「……信じてくれるの?」

小波「はい」

毒島「どうして?」

小波「たしかに話の内容はちょっと信じられないことですけど、先生の言葉ですから。疑うより信じたいんです」

毒島「! ……ありがとう…………ごめん」

小波「? 最後何か言いました?」

毒島「ううん、なんでも……そろそろここを出た方がいい。今日もこの後練習があるはず」

小波「そうだった! って、あれ? どうして先生が知っているんですか?」

毒島「……内緒」ニコッ

小波「! じゃ、じゃあ俺行ってきますね」

小波(先生の笑った顔初めて見た)

毒島「あ、ちょっと待って……これ、あげる」

 ヒョイ、パシッ

小波「これなんですか?」

毒島「しあわせ草のドリンク」

小波「えっ?」

毒島「……大丈夫、副作用はない…………はず」ボソ

小波「……ありがとうございます」

 毒島の好感度が1上がった。


小波「ふう、今日も練習頑張ったなあ」

須田「今日も疲れたでやんす……ん?」

小波「どうかしたの須田君?」

須田「何か地面に落ちてるでやんす」ヒョイ

小波「あ、本当だ……ってあれは!」

須田「注射器でやんすね」

小波(まずいぞ、あれは先生が以前使ってたやつだ)

須田「どうしてこんなところに落ちてるでやんす? 拾っておいてなんでやんすが先生に届けるのはめんどくさいでやんすね」

小波「お、俺が先生に届けてくるよ」

須田「え? いいでやんすか? 悪いでやんすね小波君」

小波「う、ううん。気にしないでいいよ」

小波(あの先生は何をやっているんだ?)


・・・・・・・・・・

 その後、毒島宅前。

小波「保健室に先生がいなかったからここまで来てしまった」

毒島『……入って』

小波「あいかわらず、なんで俺が来た瞬間がわかるんだ?」

・・・・・・・・・・

小波「失礼します」

毒島「……待ってた」

小波「待ってた……?」

毒島「! 間違えた……失言、待たなかった」

小波(……つっこんだほうがいいのか?)

小波「先生、グラウンドのほうに注射器落としてましたよ」

毒島「……知ってる。わざとだから」

小波「まったく、俺いないところで拾われていたらどうなって……わざと!?」ガーン

 俺としたらけっこう危ないところだったと思ったから注意しようとしたのだが、わざとと言われて一気に勢いをなくす。


小波「ど、どうしてそんなことを?」

毒島「私のかっこう、どう……?」

小波「どうって……動きやすそうな服ですね」

毒島「山登りするから……高さ的には丘」

小波「……もしかして今からですか?」

毒島「うん」

小波「どうしていきなりそんなアクティブになったんですか?」

毒島「いきなりじゃない……私にとっては」

小波「俺にとってはいきなりなんです! そもそもどうして山になんか……」

毒島「しあわせ草」

小波「え?」

毒島「……私の薬、自作だから材料も自分でそろえないといけない。
   だいたいは市販や通販で買えるけどしあわせ草はそう簡単に購入できないから、自分で栽培してる」

小波「じゃあ、山登りってしあわせ草を取りに行くんですか?」

毒島「そう」

小波「事情はわかりました。でもどうして俺を?」

毒島「行こう」

小波「へ?」

毒島「一緒だと助かる……だから行こう」

小波「そ、そんな急に言われても」

毒島「いや?」

A.いいですよ行きましょう
B.無理です
C.ただではちょっと……


A
小波「いいですよ。行きましょう」

毒島「ありがとう……先に下にある車に行ってて」

小波「はい」

 毒島の好感度が1上がった


B
小波「さすがに今日いきなりは無理です」

毒島「……」

小波「明日だって練習あるし……だから、すみません」

毒島「……ううん、こっちも悪かった」

 先生の顔は明らかに沈んでいた。

小波「えっと……それじゃあ失礼しますね」

毒島「ばいばい……小波」

 ガチャ

小波「……これで良かったんだよな?」

 攻略失敗


C
小波「ただではちょっと……」

毒島「……意外にげんきん。何がほしい?」

小波「それはやっぱり、もらったら元気になるようなものをいただけたら」デレデレ

毒島「げんきになるようなもの……? …………! わかった、はい」ポイ

小波「えっと、これは?」パシッ

毒島「しあわせ草のドリンク。げんきになる」

小波「た、たしかにそうですけど……」

毒島「先に下にある車に行ってて」

小波「……はーい」

小波(ちぇ、やっぱりそう上手くいくわけないか)

 スタスタスタスタ

毒島「……さすがにそれはまだ……ちょっと早い」

毒島の好感度が3上がった。


・・・・・・・・・・

 その後

小波「ここがしあわせ草畑か。よし、頑張ろう!」

・・・・・・・・・・

毒島「……もう大丈夫」

小波「え? でもまだあまり取ってませんよ?」

毒島「取りすぎはよくない。使う分だけとる」

小波「たしかにそうですね」

毒島(……それにまたここに来る口実ができやすい)

小波「先生?」

毒島「かえろう」

小波「はい」

 山からの帰り道

小波「それにしても地元の近くにあんなところがあるなんて初めて知りましたよ。先生はここをどうやって見つけたんですか?」

毒島「見つけてない。つくった」

小波「へ? ど、どうやって……」

毒島「……聞く?」

小波「……やっぱりいいです」

毒島「……賢明」

毒島「……今日もしあわせ草とりに行こう」

小波「わかりました」

・・・・・・・

小波「今日もとりましたね」

毒島「……豊作」

小波「それにしても……」

毒島「どうかした……?」

小波「いえ、最初は見つかったときがちょっと怖かったんですけど、この道なら見つかりそうにないですね」

毒島「……見つかったことならある」

小波「へ?」

毒島「……正確にはしあわせ草をとって帰るところを見つかった」

小波「それってどうなったんで……」

「見つけたぞ!」

 俺の言葉を遮るようにして何かいや、誰かが草むらの陰から現れた。

レッド「広い銀河の地球の星にピンチになったら現れる! タフでクールなナイスガイ! レッド参上!!」

小波「な、なんだこいつは!?」

 そいつはテレビで見るようなヒーロー衣装を着ていた。

毒島「……出たな、悪党」

レッド「それはこっちのセリフだ。今度は仲間まで連れて来やがって。 しかし今回こそ逃がさないから覚悟しろ!」

小波「せ、先生。話についていけないんですが……」コソコソ

毒島「……以前、山登りの帰りに襲われた。突然だったからしあわせ草を捨てて逃げるしかなかった」コソコソ

小波「……先生が言ってた『一緒だと助かる』ってもしかして……」コソコソ

毒島「うん、この状況のため。助けて」コソコソ

小波「やっぱりそうですか……」トホホ

レッド「こら、目の前に人がいるのにコソコソ話をするな!」

毒島「……作戦会議中。もう少し時間がいるから待って」

レッド「そう言われて待つとでも思うか?」

毒島「悪党じゃないなら待てるはず」

レッド「む……早くしろよ」

毒島「……時間稼ぎ成功」コソコソ

小波「……先生、あの人とは話し合いでなんとかなりそうな気がします」コソコソ

毒島「見た目に惑わされちゃだめ」コソコソ

小波「いや、見た目というか行動でも……」コソコソ

毒島「戦場では最悪の状況を想定することが大事……」コソコソ

小波「たしかにそうかもしれませんけど……俺、体は鍛えてますけど喧嘩はほとんどしたことありませんよ?
   というより、喧嘩自体まずいです」コソコソ

毒島「大丈夫。今回は秘策がある」コソコソ

小波「秘策?」コソコソ

毒島「これ」パサ

小波「え?」

レッド「なっ!?」

 先生が出したのは悪党(先生曰く)と同じヒーローの衣装、と思ったけどよく見ると色が違う。微妙に意匠も違うような……

レッド「オレンジ……いや、『特性スーツ』か……お前たち何者だ?」

小波「先生、なんか空気変わりましたよ。これ出さない方が良かったんじゃ」コソコソ

毒島「どうせ生身じゃ逃げられない。……これを着て」

A.着る
B.着ない
C.先生に着させる

A
小波「もう話し合いできる空気じゃなさそうですね……わかりました。
   でもどうすればいいんですか? 上下あるからすぐに着替えるってことはできなさそうですけど」

 毒島の好感度が3上がった

毒島「……これを押して」


B
小波「さすがにいきなり渡されたものを着るのはちょっと……」

 毒島の好感度が1上がった

毒島「わかった……じゃあ代わりにこれを押して」


C
小波「……先生が着てくださいよ」

毒島「え?」

小波「こんなのいきなり渡されて着れるはずないじゃないですか!」

 毒島の好感度が3下がった

毒島「……わかった私が着る。代わりにこれを押して」


小波「こうですか?」ポチ

 カッ

オレンジ「う、うわあ!? スーツがいきなり俺についた!」

毒島「……変身完了」

オレンジ(変身したのは俺なんですけどね……)

レッド「……それを着れば俺に勝てるとでも?」

毒島「……勝てないのはわかってる。ブルーのスーツを着たジオットでも勝てなかった」

レッド「! そっちのやつはともかく、お前は本気で捕まえる必要がありそうだな」

毒島「……無理」

 ガシッ

オレンジ「せ、先生なんで俺に抱き着いているんですか?」

毒島「プットオン」

 シュー

オレンジ「へ? って、わあ! なんだこれ!?」

 俺の体、というより衣装がどんどん膨らんでいく。

レッド「な、何を?」

毒島「……近づかない方がいい。これは爆弾。下手に刺激すると爆発する」

レッド「なんだと!?」

オレンジ「へっ? せ、先生……冗談ですよね?」

 シュー

毒島「…………」

オレンジ「な、なんとか言ってくださいよ!」

 衣装はどんどん膨らんでいき、直径五メートルほどの球体ができる。俺と先生はその上部にいるのでもはや足はついていない。
 やけに冷静なのはもう生きている心地がしなかったからなのだが、

毒島「……冗談」

 この時だけは心底ホッとした。

小波「心臓に悪い冗談はやめ……」

 ゲシッ

小波「え? 何を……」

 先生は木の幹を蹴る。 もともと体が弱い先生だから木は枝葉が少し揺れただけだったがこちらはそうはいかない。
 蹴った反動で体が傾いていく。

毒島「……ばいばい」

 山の斜面で球体が傾いていくとどうなるかなんて言うまでもない。辞世の句は何がいいかなあ。

小波「うわああああああ!!」

レッド「ま、待て!」

 ゴロゴロゴロゴロ

・・・・・・・・・

 ゴロゴロゴロゴロ

 山を走る球体はまさに下る勢いで転がる。

小波「目が回る―――!! って、あれ? 回ってない……ここどこだ?」

毒島「……球体内部」

小波「先生!」

小波(そういえば転がり始めに中に引っ張られたような)

毒島「……これでもう大丈夫」

 ゴロゴロゴロゴロ

小波「……俺たちというか、この球体って回っているんですよね?」

毒島「……うん」

小波「どうして俺たちって回ってないんですか?」

毒島「……聞く?」

小波「ちょっと気になるので、教えてくれるならぜひ」


毒島「……球体は外側の球体と内側の球体の二段構造。
   外側の球体と内側の球体は直接は繋がってなくて二つの間には濃度の高い液体が入っている。
   だから外側の球体の運動は内側の球体の運動に伝わらない」

小波「え、えっと……」

毒島「……簡単に言うと車のタイヤとボディ。タイヤがいくら回転しても車のボディ自体が回ることはない。
   だけど車の移動はタイヤの回転で行われている。 それと似たようなもの」

小波「……その例えだけはわかりました」

毒島「……よかった」

小波「ところで今の状況って本当に大丈夫なんですか?」

毒島「……どうして?」

小波「なんかあの人転がり始めても追いかけてきてましたし、転がり落ちるだけじゃ振りきれないかもしれませんよ?」

毒島「……平気。近づけないよう外側の球体は途中から煙を噴出してる」

小波「でもそしたら今度はその煙を追ってくるんじゃ」

毒島「煙は途中で止まって、代わりの煙玉を別方向に送ってる」

小波「あの人から逃げられてもこれがどこにつくかわかりませんよ?」

毒島「これは車と通信して車のあるほうに曲がるよう設定した」

小波「そ、そうですか……」

小波(ただのびっくり衣装かと思ったけど、想像以上にハイスペックそうだぞ)


・・・・・・・・・

ピピーピピー!

小波「な、何の音だ?」

毒島「ついた……キャストオフ」

 シュン

小波「あ、スーツが脱げた」

毒島「帰ろう……車に乗って」

小波「はい……先生はあの男の人と知り合いだったんですか? このスーツもあの人のかっこうによく似ているし……」

毒島「……彼とは知り合いじゃない……正確には彼らを私が知っているだけ」

小波(彼ら? 複数いるのか?)

小波「それってどういう……」

毒島「……ごめん。それ以上は言えない。もう終わったことだけど、言ったら巻き込まれるかもしれない」

小波「……」

毒島「もし我慢できないのなら、もう付き合わなくていい……今までありがとう。ただ……」

小波「……わかりました」

毒島「……え?」

小波「事情はわかりません。けど先生が俺のことを危険に巻き込ませたくないことはわかりました。
   それと、それでも俺に助けを求めないといけないほど先生の事情がひっ迫していることも……だからこれだけは約束してください」

毒島「……約束?」

小波「今日のことで下手に責任感じて俺から距離をとろうとしないこと……次も一緒にしあわせ草を取りにいきましょう」

毒島「! ……わかった約束する」ニコッ

小波「今日はしあわせ草を取りに行く日だ」

・・・・・・・・

ブロロロロ、キキーッ!

小波「ふう、今日も頑張りましょう、って先生! 大丈夫ですか?」

毒島「……大丈夫……心配ない…………」

 先生はそう言うが顔色は明らかに悪いし、まだ登ってもいないのに汗をかきはじめている。

小波(体が弱いとは言ってたけど、最近よく体調を崩しているな)

小波「……先生、今日は俺一人で行きます」

毒島「それは……危険」

小波「大丈夫ですよ。前回は先週のやつも来なかったですし」

毒島「でも……」

小波「それに今回はオレンジの衣装を着ていきますから。もし見つかったとしても逃げられます」ポチ

 カッ

オレンジ「それじゃあ、行ってきますね」

 シュタタタタ

毒島「あっ……せっかくのデートなのに」


・・・・・・・・

 一方

レッド「……ピンクどうだ?」

桃井「ええ、来たわ……たしかにオレンジのスーツね…………」

レッド「どうしたピンク? 元気がないな……そういえばオレンジとお前は一緒に暮らしていたんだったな」

桃井「っ!」

レッド「たしかにやり辛いのはわかるが……」

「な、なあレッド」

レッド「ん? どうした新入?」

「どうして今日はブラックが来てないんだ?」

(レッドも悪気はないんだよな。真実を知らないだけで)

レッド「ああ、ブラックはあいつが今日はオフらしいからな。休むらしい」

レッド「シーズン中でなかなか休みが取れないとはいえ、ヒーローが仕事をほっぽり出すのはよくないが、これは別に急ぐ案件でもないしな。
    まあ、ジオットを止めてからそれなりに平和だし許可した」

桃井「……どうせブラックに脅されただけでしょ」

(ピンク!?)

桃井「姿だけならともかく、気配まで完全に消せるあいつにはさすがのあんたも隠し事は無理よ。あたしも知ってるんだから」

レッド「な、何の話だ?」

桃井「あんたが以前、そして現在進行形でヒモだってこと」

「ええっ!? そうなのか?」

レッド「そ、そんなわけないだろ! 馬鹿なこと言うな!
    たしかに昔は旅をしていたが、今はちゃんと警備員として働いているぞ。なんなら証拠を見せてもいい」

桃井「警備員ってたしか、NOZAKIグループの前社長よね?
   どうしてただの警備員がそんなお偉い人の警備を専属でしているのかしら?」

レッド「さ、さあ……? 詳しい人事の話は俺にはわからないな……
    やっぱり俺たちヒーローの実力が買われたんじゃないか?」

桃井「似たような境遇のブルーは会社の一警備員だったのに?」

レッド「うっ……ざ、雑談はこれくらいでやめよう。ヒーローに遊んでいる暇はないんだ」

(逃げたな)

桃井(逃げたわね)


・・・・・・・・・

オレンジ「ふう、これくらいとれば十分かな?」

 前回、前々回と手伝っていたのでしあわせ草の収穫に関してはだいたいの要領をつかめていた。

オレンジ(初めて着たときは動かなかったからわからなかったけど、この服かなり身体機能を上げているよな。どういうつくりなんだ?)

 スタスタスタスタ

オレンジ「それに作業が簡単になるのはいいけど、この服を着ても勝てないってあいつどれだけ強いんだ……?」


・・・・・・・・・

「……どうしてまだ手を出さないんだ?」

レッド「菜園の位置を把握する必要があるからな。それに向こうだって荷物があるほうが動き辛いだろ」

「だからって、もし今回も逃したら被害が増えるんじゃないか?」

レッド「……おそらくそれはない。調べてもらったが、現実でもネットでも最近しあわせ草の取引を匂わせるようなことは起こってないようだ。
    まあ、まだ新薬の実験段階という可能性もあるが」

桃井「あんたがそんなまどろっこしいことをするなんて意外ね」

レッド「無知の正義がどれほどの悲劇を生むか習ったからな。
    まあ、調べてもらうのにあの悪魔に頼んで心がかなりえぐられもしたが……そろそろだ。作戦通りにいくぞ」ダダダダ

「俺たちも行くか」

桃井「……」

「ピンク?」

桃井「……大丈夫だから」

「え?」

桃井「いくら相手がオレンジのかっこうしてたって……いや、たとえオレンジ自身だって、私は迷わないわ。今の私にはあなたがいるもの」

「ああ……じゃあ、いこうか」

「「変・身!」」

 カッ!


・・・・・・・・・・・・

オレンジ「今日も会わなくてすみそうだな」

レッド「それはフラグというやつだ」

オレンジ「で、出た!?」

レッド「悪いが今度こそ逃がすわけにはいかない。三度目の正直だ」

オレンジ(やばいな、今日は最初から本気っぽいぞ)

レッド「ところでもう一人はどうした? どこに隠れている?」

オレンジ「聞かれてからって答えるとでも?」

レッド「聞いてみただけだ。しかしやはり中身はお前のほうか。
    そのスーツ相手じゃ苦戦はさけられないだろうし、先にあちらのほうをあたるか」

オレンジ「! やめろ! 先生には手を出すな!!」

レッド「先生? 前見たときもしやと思ったが、お前本当に高校生なのか?」

オレンジ(あ! しまった!!)

レッド「……一つ聞きたい。お前たちはなんのためにそのしあわせ草を栽培している?」

オレンジ(やけに話すな。そういえば前あった時からなかなか話がわかりそうなやつだった気が……ここは話してみるか?)

A.事情を話す
B.話さない
C.逃げる

A
オレンジ「薬をつくっているらしいんだ」

レッド「薬? そのしあわせ草でか? どんな薬だ?」

オレンジ「えっと……俺も詳しくは知らないんだけど、たしかハピネスなんとかって……」

レッド「ハピネスXだと!?」

オレンジ「知っているのか?」

オレンジ(でも名前が微妙に違うような……)

 ゾワッ

オレンジ「へ?」

レッド「……事情が変わった。お前を拷問かけてもあいつのもとに連れていかせる」

オレンジ「ええー!?」

オレンジ(しまった間違えたか? 逃げないと!)


B
オレンジ「言うわけにはいかない」

レッド「そうか。ならお前を洗脳してでも聞き出そう」

オレンジ「ええー!?」

オレンジ(しまった間違えたか? 逃げないと!)


C
オレンジ(いや、下手に対応するよりさっさと逃げよう)

レッド「だんまりか。しかたない、少々痛めつけて話したくしてやろう」

オレンジ(逃げないと!)


レッド「新入! ピンク! やれ!」

 ガシッ!

オレンジ(後ろから色違いのやつがもう一人!? やばい、羽交い絞めにされた!)

ピンク「ピンク! いまだ!」

桃井「オッケー。脳に情報フル送信~♪」

オレンジ「え? その声どこかで……ぎゃああああ!!」

 バタリ

桃井「……案外あっけなかったわね」

「下手に強いよりかは良かったんじゃないか?」

レッド「ご苦労だ。ピンク、新入。
    しかしその能力、触れた相手の頭に情報を送り込んで気絶させるらしいが、便利な能力だな」

桃井「まあね。私たちにかかればこんなもんよ」

「それよりレッド、さっきお前物騒なこと言ってなかったか?」

レッド「あれはただの脅しだ。それにさっき確信した。こいつは悪い奴ではない。利用されている可能性はあるけどな。
    それよりもう一人のほうは?」

「ああ、見つけた。ふもとのちょっと離れたところにいたよ。一人みたいだったな」


桃井「それにしてもおかしなやつらよね。待ち伏せも罠も一つもない。こいつら本当にジャジメントの残党?」

レッド「少なくともあの女の方はそうだった。お前らも確認したなら、見ただろ?」

「ジャジメントの元研究員にしてスーツ開発主任。そしておそらく第二世代サイボーグ……だよな?」

桃井「カズもあいつにスーツつくってもらったって言ってたわね」

「そんなやつがしあわせ草を使っていったい何を?」

レッド「それは今からだな」

「こいつはどうする?」

レッド「もちろん連れて行く。念のためスーツは脱がすけどな。よし、行くぞ……」

 ピピピピピピピ

桃井「……レッド、電話なってるよ?」

レッド「む、無視だ。無視!」


 ヒモ男、ダメ男、無職、旅ガラス

桃井「……レッド、携帯が悪口言ってるよ?」

レッド「……お前たちは先に行け。すぐに追いつく」ダダダダ

『ジュン、人の携帯の着信音を勝手に悪意のある着信にするな! え? 維織さんが? 
 いやいや、こっちにも事情が……はい、そうです。この携帯もあなた様の温情でいただいたものです……』

桃井「……ブラックも言ってたけど、あいつ本当に変わったのね」

「いい方向に変わったみたいだからいいんじゃないか? それにピンクも変わったんだろ?」

桃井「……それもそうね。で、スーツのやつはどうする? 私が運ぼうか?」
   
「いや、ピンクはスーツを頼む。中身は俺が運ぶ」
   
桃井「わかった」
   
(それにしても中身は誰だ? さっき羽交い絞めした感触からそれなりに鍛えているのはわかったけど……)

「な、こいつは……!」
   
桃井「え? どうかした?」


・・・・・・・・・・

毒島「……遅い。やっぱり無理してでも一緒に行くべきだった」

レッド「待たせたようだな」
   
毒島「! ……お前を待ってなんかいない」
   
レッド「知ってる。お前が待っていたのはこいつだろ?」
   
 ドサッ
   
小波「うぅ……」グテ
   
毒島「!! 小波……!」

レッド「どうする? 頼みの綱のスーツもこっちにあるぞ?」

レッド(さあ、どうでる?)
   
毒島「……」

レッド「誤解しているようだが、俺はお前らがジャジメントだからって問答無用で邪魔しようというわけではない。
    ……ただこれだけは教えろ。しあわせ草を使って何をしようとしている?」
   
毒島「……」
   
レッド(無言を貫くか。それなら……)

毒島「……それを言えば彼は助けてくれる?」
   
レッド「!?」
   
毒島「私の目的を話す。しあわせ草も全部渡す。私はどうなってもかまわない……だけど彼には手を出さないで。
   彼は超能力者でもなければ、サイボーグでもアンドロイドでもない。もちろん、ジャジメントの関係者とも違う」
   
レッド「……いいだろう約束しよう。こいつには手を出さない」

レッド(まあ、こいつに関しては安全が確認済みだけどな)

レッド「その代わりこちらからも条件がある…………」


・・・・・・・・・・
   
 とある木の上
   
ピンク『なーんだ。本当にあっさり終わっちゃいそうね。つまんない』

ピンク「平和なのはいいことだろ。それよりお前、あいつのこと覚えておいてやれよ」

ピンク『はあ? そんなの無理に決まってるじゃない! 毎年何人いると思ってるのよ。だいたい私は直接的にはつながりないんだし』

ピンク「はあ、お前なあ……」

・・・・・・・・・・

   
(きょうか) 
杏香「! ……『幽霊の正体見たり枯れ尾花』とは言うが、まさか桃の木の精の正体がこんなのだったとは。

   ……合点はいくが、誰にも言わないほうがいいな。
   しかし、街で見かけられるピンクのヒーローの中身が男だというのは本当のことだったのか……」

・・・・・・・・・・
   
「……君、小波君」
   
小波「ん? 須田君? どうして?」
   
須田「それはこっちのセリフでやんす。どうしてこんなところで立ち尽くしているでやんすか?」
   
小波「こんなところって……あれ? ここって俺たちの寮の前?
   どうしてこんなところに……たしか今日夕方に練習が終わって、終わって……あれ? 俺それから何をしていたんだ……?」
   
須田「そんなの知るかでやんす」

ちょっと休憩でやんす
ペース的に一人百ぐらいだからだぶん三人で三百ぐらいになりそうでやんすね


小波「はあ……」

須田「小波君このごろ元気がないでやんすね。どうかしたでやんすか?」

小波「そ、そうかな? いつもどおりだよ?」

小波(最近、毒島先生に避けられている気がする。しあわせ草を取りに行こうと誘ってもまだ大丈夫って言うし……俺なんかしたかな)

須田「それならいいでやんすけど……あっ、小波君携帯が光ってるでやんすよ」

小波「え、本当? ……あっ、監督からだ」

須田「監督って、あの監督でやんすか?」

小波「うん。俺たちが中学のころ、お世話になったあの監督。懐かしいなあ……」

須田「なんてきてるでやんすか?」

小波「ええっと、なになに……『今日の十時に速報公園に集合』……なんだこれ?」

須田「……何か約束したでやんすか?」

小波「い、いや……そんな覚えはないけど……」

須田「どうするでやんすか?」

A.行く
B.行かない
C.何の用か聞く


A
小波「監督からの呼び出しだし、とりあえず行ってみようかな」

須田「チャレンジャーでやんすね。頑張るでやんす」


B
小波「気味が悪いしやめとこうかな……」

須田「姐さん」

小波「!」ビクッ

須田「……の呼び出しじゃないといいでやんすけど、そうでなかった場合……」

小波「や、やっぱり、行こうかな」

須田「……頑張るでやんす」


C
小波「とりあえず返信してみよう。もしかしたら間違いかもしれないし。『監督どうかしたんですか?』っと」

須田「まあ、そうでやんすよね」

ピピピ、ピピピ

小波「あっ、かえってきた。なになに……『監督? 違うよボ~ク。ピエロ』ってなんじゃこりゃ!?」

 その後も送ったが監督からまともな返信がかえってくることがなかったので結局いくことにした。


・・・・・・・・・・

 速報公園

小波「言われた通りにきたぞ。監督はどこだ……あっ、いた。姐さんもか……か、監督ー!」

監督「お、来たか。久しぶりだな」

小波「お久しぶりです、監督。それと姐さんも」

桃井「あっ……う、うん。久しぶり」

監督「『姐さん』……? ちょっと待て、ピンク。お前こいつに姐さんって呼ばせているのか?」

小波「いや、俺だけじゃなくて監督に教わった野球部は皆、姐さんって呼んでいますよ?」

小波(ピンク? 監督は姐さんのことを桃井って呼んでいたような……)

監督「……どうしてだ?」

小波「それは……」

桃井「あ、アタシは止めたのよ? でもこいつらがどうしてもあたしをそう呼びたいって……」

小波「いや、これは姐さんが……」

桃井「そうよね?」ゴゴゴ

小波「は、はい」

桃井「そういうわけだから。ま、まあいいじゃない。
   あんたが監督って呼ばれているんだから相棒のアタシは姐さんって呼ばれるのが妥当でしょ?」

小波(それは違うと思うけど……言わないでおこう)


小波「それより監督、急に呼び出して俺に何か用ですか?」

レッド「……それは俺が話そう」

小波「お、お前は!?」

監督「お、おいレッド。お前がいきなり出てきたら……」

小波(えっ? 監督はこいつのことを知っているのか?)

レッド「いや、こっちのほうがおそらく手っ取り早い。おい、お前。俺とは何回会ったことがある?」

小波「えっと……まだ一回しか会ってないだろ? それがどうかしたのか?」

レッド「……やはりそうか」

桃井「どういうこと?」

レッド「おそらくあの日の記憶を消されたんだろう。これで昨日こいつが来なかったのに納得がいく」

小波「何の話だ?」

レッド「俺が話してもいいが、張本人から話させた方がいいだろう」

小波「張本人?」


 キキ―! バタン

毒島「……」

小波「先生!?」

毒島「! どうして……?」

レッド「待っていたぞ」

毒島「……約束が違う。彼には手を出さないはず」

レッド「約束を違えてなんていないさ。こっちにいる新人はこいつと知り合いでな。今日はそのツテで呼び出してもらった。
    それに約束を破ったのはそっちだろう?ふられたと嘘までつきやがって。こいつの記憶を消した……いや、薄めたというべきか」

毒島「……」

レッド「こいつの記憶を戻せ。話はそれからだ」

小波「えっと、話がまったくわからないんですが……」

毒島「……ごめん」

 ミョミョミョミョーン

小波「えっ? う、うわああああああ!!」


・・・・・・・・・・・・・

回想

レッド『その代わりこちらからも条件がある』

毒島『条件……?』

レッド『おい、起きろ』ユサユサ

小波『ううん……ここは……? あっ、先生! それとお前は!』

レッド『……レッドだ』

小波『へ?』

レッド『俺とお前はたしかに知り合いではないが、お前呼ばわりされるのは好きじゃない。
    だから俺のことはレッドと呼べ』

小波『……わかったよレッド。俺は小波、こっちの人は毒島だ』

レッド『小波か。いい名だな。
    そして毒島、こちらからの条件だが約束通りお前には話してもらう。俺と小波の前で』

毒島『!』

レッド『ことらとしてはしあわせ草を没収するつもりも、お前をどうこうするつもりもない。
    だがお前のやろうとしていること、お前の正体。その二つについては話させてもらうぞ』

毒島『……話すのはかまわない。でも彼を巻き込むのは』

レッド『ここまでさせといて、今さらそれはないだろ。それに小波、お前も聞きたいだろ?』

小波『え? そりゃあまあ、聞けるなら聞きたいけど……』チラッ

毒島『……』

レッド『何もここで話せというわけではない。俺のほうもこの後に他の用事がつっかえている。緊急のな。
    だから今週末、速報公園に十時に来い……二人でな』

小波『……レッド、お前ってもしかしていいやつ?』

レッド『ふっ……俺はいいやつでも正義でもない。ただ一人のヒーローだ。今週末、待っているぞ』ダダダダダ

 そう言い残してレッドは去った。
 なぜか去り際の走りがポーズではなく余裕のない全力疾走に見えたのは気のせいだろうか。

小波『な、なんかいろいろとすごいやつでしたね』

毒島『……小波』

小波『先生、すみません……けどやっぱり知りたいんです。だって俺、先生のことが……』

毒島『……ごめん』

 ミョミョミョミョーン

小波『へ? う、うわああああああ!!』

 回想終了


・・・・・・・・・

小波「ぜ、全部思い出したぞ。たしかあの後ぼうっとした状態で寮に帰ったんだった。
   レッド、先生。約束の今週末って昨日だったんじゃ……」

レッド「どうやら本当に思い出したようだな。昨日はお前がいなかったから今日に延期した。
    毒島はお前が逃げたみたいに言ってたけどな」

毒島「……」

小波「先生……」

毒島「……邪魔。どっか行って」

小波「!!」

毒島「……あなたに会ったのは失敗だった。あなたのせいで私はヒーローに捕まったし、オレンジのスーツもとられた」



桃井「ちょっとあんた、それはあんまりじゃ……」

 ガシッ

監督「ピンク、落ち着け」

桃井「でも……」

監督「大丈夫だよ。あいつは」


毒島「……記憶を消せば大丈夫だと思った。けどまたこうして迷惑している。
   だから記憶を戻した。これ以上面倒かけさせないで」

小波「……」

毒島「……どうして……どうして、何も言わないの?」

小波「……そんな泣きそうな顔で言われたって信じられませんよ」

毒島「!」



桃井「泣きそうな顔って全然そうは見えないけど……」

レッド「……顔で見える表情が全てじゃない。
    特に彼女たちの世代のサイボーグの過去は悲惨だし、これまでずっとオオガミやジャジメントに振り回されっぱなしだったからな。
    感情を面に出す経験なんてないだろうさ。
    だが、彼女たちは泣けないことはあっても、泣かないわけではない」

桃井「……リーダー、やけに同情的ね。 何かあったの?」

レッド「……昔のちょっとしたロマンを思い出しただけだ」


小波「……先生はどう思っているかは知らないですけど、俺、初めて先生の部屋に行ってしあわせ草を見たときすごく迷ったんですよ?」

小波「いくら事情があるとはいっても薬を自作するなんて怪しすぎますし、
   オレンジのスーツなんてあきらかに普通の人が持っているようなものじゃないですか。
   それでも俺は不思議と通報したり、他の人に相談したりする気になりませんでした。だって……」

 ここでいったん言葉を区切る。次の言葉を言うのはすごく緊張するし、とても怖い。
 しかしここでこれを言えなければ男ではない。

小波「だって……俺、先生のことが好きだから!
   好きだから先生と一緒にいたかったし、先生に他の誰かを頼って欲しくなかったんです……先生は俺の気持ち迷惑ですか?」

毒島「そんなわけない……でも、私は普通の人間じゃない」

小波「そんなことぐらいとっくに気付いてますし、気にしませんよ」

毒島「……アンドロイドだし」

小波「えっと、たしか前によくテレビのニュースで流れてたやつですよね。
   たしかに天然と養殖で価値の違いを言う人はいるかもしれないですけど、俺はどっちでもその命に違いはないと思います」

毒島「……元悪の組織の研究員だったし」

小波「で、でも今はもう違うんですよね?」

毒島「うん」

小波「だったら大丈夫です。それとも先生は俺のこと嫌いですか?」

毒島「…………」

 チュッ

小波「・・・・」

毒島「……これが返事」


桃井「うわっ人前であんなことする? うう……また恋愛映画が苦手になりそうな気がする」

監督「おそらく二人の世界に入っているんだろうな。
   まあ、かくいう俺もさすがのあれは……あれ? レッドは平気そうだな?」

レッド「ん? まあ、これくらいはな」

桃井・監督「「『これくらいは』……!?」」

レッド(えっ? 維織さん相手だとこれぐらいしょっちゅうなんだが、もしかして普通じゃないのか?)

監督「……なあピンク、俺たちももう少し……」

桃井「馬鹿なこと言ってるんじゃないわよ! そんなことしてらブラックにどれだけいじられるか……って、あれ?
   そういえば昨日もだったけど今日もブラック来てないわね」

監督「そういえばそうだな

桃井「さすがにプロのあいつがそう何日もオフのわけないし……ねえ、レッドは何か聞いてる?」

レッド「い、いや。俺は何もしらないぞ」


桃井「聞いてるって言ったのにそれじゃあ知ってますって言ってるようなものじゃない。
   まったく、ブラックからレッドがリーダーに代わってようやくなれてきたと思ったら最近ブラックの集まりが悪い……最近?」

監督「ん?」

桃井「……え? いや、それは……嘘でしょ? でも……第一、アタシたちの体って……」

監督「おい、ピンク?」トン

桃井「ひゃ、ひゃあああああ!!」ビクッ

監督「うおっ!? ど、どうかしたのか?」

桃井「ど、どどど、どうもしてないわよ!」

監督「いや、でも顔が赤いし」

桃井「な、何を言っているのよ! アタシはピンクよ! レッドなんかじゃないわ!」

監督「お前こそ何を言っているんだ? とりあえず落ち着け、な?」

レッド「……お前たちは何をやっているんだ?」

小波「あ、あの……」

レッド「そっちはすんだのか?」

小波「あ、ああ。それでこれからのことなんだけど……」

レッド「ああ。さすがに時間は遅いが次に持ち越すのは……」

 無銭飲食者、甲斐性ナシ、浮気モノ、カブトムシ臭

レッド「……次に持ち越しだ」

小波「え? でも……」

レッド「うるさい! お前に何がわかる! 彼女が急に社長が辞めたという愚痴を延々と聞かされたことはあるのか!
    しかも、前はメイド一人だけだったのに新社長が加わって二倍になったんだぞ!」

小波「いや、たしかにそれはわからないけど……」

小波(なんか性格変わってないか?)

レッド「というわけで俺は帰る。次の日の日程は新人に聞け。あいつが一番時間とれないからな。じゃあな」ダダダダダ

 クッソー! なんでジュンのやつ微妙にレパートリー増やしてんだよー…………

毒島「……ヒーローの仕事も大変」

小波「いや、あれはヒーローの仕事じゃないと思います……」


監督「……まあ今日は途中から聞く雰囲気じゃなかったからしょうがないかもな」

小波「監督」

監督「じゃあ次もこっちから連絡するから。しかし良かったよ。今日の連絡がちゃんと出来てて。
   実はちょっと携帯置き忘れてメールを他の人に頼んでたからさ」

小波「やっぱりあれは監督じゃなかったんですね……」

監督「なんかあったのか?」

小波「いえ、あはは……そういえば、ずっと聞きそびれてましたけど、どうして監督がレッドと知り合いなんですか?」

監督「ああ、それは……ピンク来てくれ」

桃井「はいはい」

小波(どうして姐さんを呼ぶんだ?)

監督「よし、やるぞ!」

監督・桃井「「変・身!」」

 カッ!

ピンク「こういうことだ」

小波「……ウソ―――!!」

 閃光の後に現れたのはレッドそしてオレンジスーツの色違い……いや、やっぱり微妙に意匠も違うピンクのスーツ。
 あの日、俺を羽交い絞めにしてなんかすごい頭痛をおこさせたやつだった。


小波「今日は監督に呼び出された日だ」

・・・・・・・・・

 風来坊カシミール(個室)

 どうやら今回は外ではなく店の個室を借りているらしく、店の従業員に案内されるとすでに四人はそろっているようだった。

小波「すみません、遅れました……練習が長引いて」

監督「……来たか」

桃井「ちょっと、中学校の恩師を待たせるってどういうつもりよ」

毒島「……大丈夫。待ってない」

レッド「お、おお……久しぶりだな」

 部屋に入ると四者四通りの反応を受ける。
 あまり心配はしていなかったものの、険悪の雰囲気はなかったので少し安心した。


小波(どこに座ろうかな)

毒島「! ……ここ」

 机の四辺に一人づつ座っていたので席を探していた俺に先生は少しずれて横にくるように促す。
 ちょっと恥ずかしいが素直に甘えることにした。

毒島「……練習、お疲れ様。はい、おしぼり」

小波「ありがとうございます」フキフキ

毒島「はい、お冷」

小波「あ、ありがとうございます」ゴクゴク

毒島「はい、メニュー」

小波「……ありがとうございます」 パシ

毒島「はい……」

小波「だ、大丈夫です。自分でできます!」

 先生の献身してくれるのはありがたいが、さすがに次々こられると困るので止めに入った。

毒島「……迷惑だった?」シュン

小波「いや、そういうわけではないですけど……」


桃井「はあ、あの二人相変わらず甘々ねえ。砂糖はきそう」

監督「俺的には恋人の甘々というより、一生懸命雛鳥に餌をやっている親鳥って感じだな。
   ……レッド、どうしたんだ? ここに来てからなんかそわそわしてないか?」

レッド「そ、そうか? 気のせいだろ……?」

桃井「ていうか、レッドは店にいるときくらい擬態しなさいよ。
   個室だからまだいいけど、明らかに浮いてるじゃない」

レッド「……俺の勝手だろ…………なあ、どうしてこの店にしたんだ?」

監督「いや、ピンクがカレー食べたいって」

桃井「ここの店、ちょっと前にできて美味しいし安いから通ってたことがあったの。
   まあ、一昨年の夏あたりからなんか急に人が増えてきて来れなくなってたんだけど。
   最近ようやく落ち着いてきたからこの機会にってことで来たんだけど……レッドってカレー嫌いだった?」

レッド「そういうわけじゃないが……人気があるってことは従業員が複数いるってことだよな?」

桃井「当たり前じゃない」

レッド「そうか……それなら良かった」

 バッ

風来坊「……ふう」


 ガラッ

奈津姫「失礼します。注文を伺いに参りました。当店副店長の奈津姫といいま……!」

風来坊「なっ……」

桃井「あー! 奈津姫さん。アタシが来るといつも注文を聞きに来てくれてありがとう」

奈津姫(はっ……!)

奈津姫「……桃井さんはここができたときから通ってくれたお客様ですから当然ですよ」

桃井「さすが奈津姫さん。今までちょっとこれなかったけど、またここに通うからよろしくね」

奈津姫「ありがとうございます。注文はなんになさいます?」

桃井「ビクトリーズカレー五つで!」

監督「なんで五つも頼んでいるんだよ」

桃井「どうせここの店初めてのあんたたちじゃ何がいいかわからないでしょ?
   だから常連客のアタシがあんたたちの分も頼んでいるのよ」

監督「でもビクトリーズカレーってなんか……」

奈津姫「変わった名前でしょう?」

監督「い、いえ。そんな……」

奈津姫「大丈夫ですよ。こちらもわかっていますから。
    ……息子が名づけたんです。たとえ今はもうなくても、思い入れのある名前はなにかに残したいって……」


風来坊「……」

奈津姫「すみません。わけわからないこと言っちゃいましたね。
    ビクトリーズカレー五つですね。すぐに準備してきます」

風来坊「……カレーを」

奈津姫「……え?」

風来坊「カレーをください……つけるものはなしで」

奈津姫「……わかりました」

 スッ

監督「……レッド、この店に来たことがあるのか?」

風来坊「いや、この店にはない……この店、には……」

 その後、運ばれてきたカレーに俺たちは舌鼓をうった。
 姐さんが勧めるだけあってカレーはたしかに美味しかった。
 ただなぜかレッドのカレーだけは種類違いとはいえあきらかに具材が少なく、姐さんがそのことを言おうとしたがレッドはこれでいいと言ったので結局言うことはなかった。


・・・・・・・・・・

風来坊「……さて、そろそろいいだろう。毒島、話してもらうぞ。お前について」

毒島「……わかった……とは言っても、だいたいはあなたたちが調べている通り」

毒島「私は第二世代型アンドロイドでオオガミ、ジャジメントに所属している間研究をしていた。
   主な専攻は防護面。オオガミでは装甲を、ジャジメントではスーツの防御機能を開発していた」

風来坊「どうしてお前がオレンジのスーツを持っていた?
    あれはお前らにとってはそれなりに価値があるものだと思うが持っていて大丈夫なのか?」

毒島「あれは試作品の一つ。ジャジメント解散のごたごたに紛れて一つもらっていった。
   他のはおそらくオリジナルを含めて燃えたし、念のため今も身の回りには気を付けている」

桃井「なんでオリジナルじゃなくて試作品をだったの?」

毒島「オリジナルがあるとまた複製品が生まれる。
   私のあれは改造しているし、そもそも素材が別なものだから防御面にしか特化できないつくりになってる」

小波「……監督、話についていけないんですけど」ヒソヒソ

監督「安心しろ。俺もだよ」ヒソヒソ

毒島「……簡単に言うと人気ブランドの服は人気があって皆がほしがる。
   だけどその服を真似ただけの劣化品なら誰も欲しがらない」

毒島「だからあえて本物じゃなくてつくった偽物を持って行ったって話」

小波「あ、ありがとうございます……」

 それからも主にレッドと姐さんが中心になって先生に質問を続けた。
 その中には知らない名前や聞いたことのある名前、大企業などいくつもでてきて、とうてい俺が理解するのは無理だった。
 ただその中で先生はたしかに悪い組織にいたけれど直接的に誰かを傷つけたことがないということに安心してしまうのは勝手だろうか。

風来坊「……なるほど、お前のだいたいの事情はつかんだ。
    で、本命の話に入らせてもらうが、お前の目的はなんだ? なぜしあわせ草を栽培している?」

毒島「……」

 そしてこれまでの話は終わり、これからの話になる。
 今までもわりと真剣な雰囲気にだったがここにきてより空気が張りつめたきがした。


毒島「……私たち第二世代型サイボーグは本来なら死んでないとおかしい」

小波「!」

毒島「これは処分とか、処理とかそういう問題じゃなくて寿命の問題。
   ……基本誰かの細胞からつくられている私たちは細胞をそのまま受け継いでいるからテロメアが短い」

監督「テロメア?」

桃井「細胞にある染色体のことね。細胞が分裂するたびに短くなるけど、これがあるから細胞は分裂をさせられる。
   ある意味これの長さは寿命の長さに直結するわ。そしてよくあるクローンの寿命が短いってのはこれが理由よ。
   100歳まで生きられる細胞の人が20歳のときの細胞でクローンをつくったら、そのクローンは80歳以上生き続けることはないわ」

監督(そういえば、ピンクは情報戦が主だったな)

小波「え? じゃ、じゃあそんな感じで先生の寿命も普通の人より少ないってことですか……?」

風来坊「……少ないですめばいいがな。
   『第二世代型サイボーグは本来死んでないとおかしい』と言ったな? それはどういう意味だ?」

毒島「テロメアがもともと短いのに加えて、私たちはさらにテロメアが短くなるように処置されている」

毒島「上司たちは早くに能力を上げるためと言ってたけど、おそらく私たちアンドロイドを押さえつけるため」

毒島「私たちは使い捨ての道具であり、人を支配することはあってはならないと考えていたからだと思う」

風来坊「短い……とは具体的にはどれぐらいだ?」

毒島「だいたい普通の人の五分の一。16歳から20歳の間にだいたい死ぬ」

小波「そ、そんな……」

風来坊「ならどうしてお前は生きている? 単にまだ寿命がきていないだけか?」

毒島「……その理由がこれ」スッ

小波(あっ! 先生が前に保健室で使っていたやつだ!)

風来坊「その注射器の液体はなんだ?」

毒島「しあわせ草から抽出した液体……ハピネスY・改」

監督「ハピネスって、あの超能力者を生み出すという薬だったけ?」

桃井「それはハピネスXね。あんたちゃんと覚えておきなさいよね。
   ……でも、X、ZならまだしもYって聞いたことないわね。どんな薬なの? っていうか、改って?」

毒島「ハピネスYはハピネスXの後追いで開発された薬」

毒島「ハピネスXが超能力に目覚めさせる薬ならハピネスYは超能力を眠らせる薬。
   もしハピネスYを超能力者が摂取すればその超能力者は超能力をなくす」

風来坊「それは便利そうな薬だな。しかしどうしてピンクでさえも知らなかったんだ?」

毒島「ハピネスYは結局完成しなかったから」

毒島「ハピネスYが完成する前にハピネスXが生産中止になったこともあるけど、一番の理由はESPジャマーが先に完成したから。
   効率を考えるとハピネスYをつかうより、ESPジャマーをつかって殺したほうが早いって結論が出た」

小波(なんか物騒な単語が聞こえたような……)

毒島「そして未完成のハピネスYをジャジメントにいる間に私用に完成させたのがこのハピネスY・改」

毒島「本来、超能力を眠らせるようにはたらく成分を細胞分裂を抑制させるようにはたらかせる。
   その結果、残りの寿命を延ばすことができる。おそらく二倍ぐらい」

桃井「寿命を二倍に延ばす……って、よく考えなくてもすごい発明じゃない!」


風来坊「……だが、それを個人でつくっているってことはノーリスクってわけではあるまい」

風来坊「もしそれがただの夢のような薬だったら喉から手を出すほど欲しがる企業なんていくらでもいる。
    自身でも使うなら尚更生産ラインを確立させたほうがいい……しかし、それができない理由があるはずだ」

毒島「……材料がしあわせ草であること。細胞の活動を遅らせるから怪我が治りにくい体質になってしまうこと。
   そもそもこれはナノマシンでコントロールしないと体の全ての細胞が動かなくなって死んでしまうから普通の人間には使えない」

毒島「私自身、この煙草型ナノマシン制御装置で細胞を日常生活をおくれる最低レベルには活動するようにしている」

小波(あの火のついていない煙草にそんな機能があったなんて。
   ……というか、先生が常に煙草を咥えていることをすっかり忘れていたような気がする。なんでだろう?)*SSだから*

毒島「だけどその辺はあくまで理由のうちの一つ……本当の問題は中毒性」

毒島「ハピネスYもXと同様、一回使用すると定期的に摂取し続けなければ一年以内に確実に死ぬ。
   そしてその中毒性はこのハピネスY・改でも改善されていない」

小波「!?」

毒島「それでもおそらくこの薬を欲しがる人はたくさんいる」

毒島「ナノマシンがないと使えないといってもサイボーグ手術すればいい話だし、
   中毒性があるといっても、逆にいえば定期的に摂取すれば二倍生きられると考えてしまうから」

風来坊「お前のようにか……?」

毒島「……」コクリ

小波「せ、先生じゃあ保健室のあれは……」

毒島「……中毒症状。 薬の効力がきれて活発な細胞とまだ効力がきれてない細胞とで体がバランスをとれなくなって苦しみ始める」

小波「そ、そんな……」

毒島「この薬が市場に出まわれば確実に買い占めが行われる……」

桃井「そしてこの薬を手に入れた国、企業、団体が第二のジャジメントになってしまうってわけね」


監督「ええと、まとめると……?」

桃井「短い寿命だからそれを延ばす薬をつくったけど、中毒性があって危険なの。
   下手に世に出すと買い占めた誰かが力を持つことになるから個人で栽培しているって話。

桃井「あんたって今の話についていけないほど頭悪かったっけ?」

監督「いや、たぶん説明が下手でわからなくなった話を整理するための犠牲というか……」

桃井「はあ? 何を言っているのよ?」

監督「いや、気にしないでくれ……」


桃井「……でも、意外ね。あんたみたいなのが世の中のことを気にかけているなんて。
   元悪の組織なんだし、そういうの気にしないと思ってた」

毒島「……私だって好きでいたわけじゃない。ハピネスY・改を開発するにはあそこしか……」

桃井「けど結局は悪事に加担していたわけでしょ?」

監督「お、おいピンク……? ……! 小波、メニューを渡してくれ!」

小波「は、はい」ヒョイ

桃井「あんたたちの作った兵器であたしたちは何回も死にかけたのよ? オレンジやブルーなんて解剖されたじゃない!
   そんなあんたがいましゃらいい人づらしようたって……」

風来坊「……ピンク、それぐらいでやめろ」

桃井「……なによ?」

風来坊「『誰もがアンタみたいに強いわけじゃない・・・ずっと正しくなんて生きられない人の方が多いんだ』
    昔、俺にそう言った人がいたよ」

桃井「……それがなに? だからみのがせってぇいうの? うらみやもんくをいうにゃっていうの?
   そうするのが正しいから? せいぎの味方だから? アタシたちがつよいから?」

風来坊「……そうじゃない。俺たちは正義の味方なんかじゃないし、強くなんてない。
    しかし俺たちはヒーローだ。ヒーローの役割はそんな正しく歩けない弱者を守ることだ! そうだろ?」

風来坊「……少なくとも、これから正しくあろうとする者に八つ当たりをすることじゃないはずだ」

毒島「……」

桃井「……アタシだって、自分のしていることがやつあたりだっていりゅわよ」

桃井「でもしょうがないじゃない……アタシ、ブルーはともかく、オレンジにはあやまろうと思ってた。
   それが自分のうしろめたさを消したいだけのさいていなこういだとしても」


桃井「だってそうじゃにゃいと、あたし……あたし…………」


監督「……ろくにメニューを見せなかったと思ったら、そういうわけだったんだな。
   ビクトリーカレー、ラッキョウが使われているじゃねえか」

レッド(何!? ラッキョウだと……?)

桃井「ちょっと、いいところなのにじゃましにゃいでよ」

監督「一人酔っぱらって何がいいところだよ……付け合せには気を付けていたが、まさかきざまれてつかわれているとは」

桃井「ふん。じだいはじょうほうせぇんよ」

監督「偉そうに言うところじゃないと思うぞ。はあ……レッド」

レッド「やはりビクトリーカレーのほうを頼めば……な、なんだ?」

監督(お前もかよ……)

監督「ピンクがこんな状態だし、俺たちもう帰ってもいいか?
   彼女がこれから悪さするつもりも悪い奴らに狙われているわけではない以上、問題はなさそうだし」

レッド「ああ、俺のほうも話すことは少ないし、そろそろお開きにしようと思ってたところだ……ただし、メシ代は置いておけよ?」

監督「……ヒーローのくせにお前ってケチだよな」

レッド「うるさい! お前に何がわかる! 人のことをヒモだと言う癖に一切財布のヒモを握らせないメイド見たことあるのか?
    って維織さん、なんであなたまで財布渡してんだよ! 『お金の管理がめんどくさい』って元社長のあなたが言ったら駄目だから!!」

小波(やっぱり性格変わってる……)

監督「しまったな。地雷だったか」

毒島「……やっぱりヒーローって大変」

小波「これはヒーローの大変さじゃないと思います……」


小波「今日はしあわせ草を取りに行く日だ」

・・・・・・・・・・

小波「先生の家の前まで来たぞ……あれ? おかしいな。いつもは声が聞こえるかドアを開けてくれるのに」

 ピンポーン

小波「……返事がない。どこかにでかけているのか?」

 ガチャ

小波「あ、鍵は開いてる……先生、いますか?」

 シーン……カタ

小波(! 物音がしたぞ入ってみようかな?)

A.入る
B.入らない


B
小波「さすがに勝手に入るのはよくないよな。今日は帰ろう」

 タタタタタ

「……うっ……ぱわ……ぽけ」ガクリ

 攻略失敗


小波(気になる入ろう)

小波「失礼します……せ、先生!?」

毒島「はあ……はあ…………」

 部屋に入ると先生はあの日のように床に倒れ、息を荒くしていた。

小波(これはきっと中毒症状だ! 注射器は……あった!)

小波「せ、先生!」

A.注射器をうつ
B.注射器を渡す


A
小波「……注射器持てますか?」

毒島「……だいじょうぶ、ありがとう…………」


B
小波「お、俺が……!」

毒島「そこまではしなくていい……かして」

小波「は、はい……」


 プスッ

毒島「…………はぁはぁ……ふぅ」

小波「大丈夫ですか?」

毒島「……大丈夫。いつものことだから……心配いらない」

小波「……」

毒島「……? どうかした?」

小波「すみません。けど俺、そんな状態で心配いらないと言われても信じることができません。
   だって最近ずっと体調が悪いみたいですし。今だって俺が来てなかったら……! 」

小波「……先生、俺にまだ隠していることありますよね? 教えてください」

毒島「……聞いてもどうしようもないこと。だったら聞かない方が君には…………」

小波「俺のためと言うのなら……言ってください!」

毒島「……わかった」

 俺と先生は目を合わした。
 真夏の屋根の下、一つの部屋に男女二人という状況だが、今はやましい気持ちなんて全くわいてこない


毒島「……今までより薬が効かなくなってきた。おそらく体が耐性をつけてきている」

小波「!」

毒島「今はこの薬をとり始めたころより二倍摂取しないといけないし、それでも二倍の早さで効果がきれる」

小波「じゃあ、先生はそれで……」

毒島「……けどそれは他の薬を併用したりすればどうにかなる問題。本当のどうにもならない問題は他にある」

小波「えっ……?」

 背筋がゾクリと悪寒がはしった。
 その言葉の続きを聞きたくない。そう心がさけんでいるものの、自ら聞くことを選んだ手前、従うことはできない。そして、

毒島「……細胞そのものが死に始めている。おそらく寿命……私の命はそう長くない」

 ある意味予想通り、しかしとても耐えられない衝撃が俺を襲った。

毒島「体調を崩しているのもそのせい。前は起きた細胞と眠っている細胞の二つだけだった。
   でも今は起きた細胞と眠っている細胞、死にかけの細胞でバランスがとれなくなってきている」

 先生は俺の要望通りに教えてくれる。いつも通りに、無表情で、包み隠さず。

小波「…………本当にどうにもならないんですか?」

 その淡々とした説明に腸が煮えくり返りそうなほどむかついたのと、

毒島「どうにもならない……むしろどうにかしてきたほう」

 本当に俺にはどうすることもできない事実に悲しくなった。


小波「後どれくらい一緒にいられるんですか?」

毒島「私の寿命は長くて一年……おそらく後半年だけど、学校のほうは二学期前に辞めることになる」

小波「っ……」

毒島「だから君には選んでほしい……私との記憶をどうするかを」

小波「……えっ?」

毒島「君と出会えて私は幸せだった……
   けれど、それが君の未来に陰をおとすのなら、幸せを阻もうとするのなら、君から私との記憶を消さなければいけない」

小波「そ、そんな!?」

毒島「……だから選んでほしい。私との記憶を消すか、私との記憶を思い出にして次の幸せを探すか」

小波「……次の幸せを探します」

毒島「言葉だけじゃだめ……次に私に会うときは彼女を連れてくること」

小波「む、無理ですよ!」

毒島「大丈夫……甲子園にいけば皆のヒーロー、よりどりみどり…………約束できる?」

A.約束しない
B.約束する


A
小波「……約束します」

毒島「よかった……今日はもう帰った方がいい」

小波「え? でもしあわせ草は……?」

毒島「以前レッドに没収された分がかえってきたから大丈夫……」

小波「そうですか……じゃあ、失礼しますね」

 ガチャ スタスタスタスタ

毒島「……これでよかった……これで…………」

 バッドエンド


B
小波「……そんなの約束できるはずありません!」

 ガチャ ダダダダダッ!

毒島「…………ばか」


小波「先週は勢いで先生の部屋を飛び出していっちゃったけど、これでいいわけないよな。どうしよう……」

A.自分でなんとかする
B.レッドに相談する
C.監督に相談する
D.須田君に相談する


A
小波「これは俺と先生の問題だ。誰かを頼るわけにはいかないよな……」

 しかし、その後もいい案が浮かぶことはなく月日は流れていった。



B
小波「レッドに相談しよう……と思ったけど、そういえば俺レッドとの連絡方法知らないな。
   しかたない、自分で考えるか……」

 しかし、その後もいい案が浮かぶことはなく月日は流れていった。




D
小波「須田君、相談があるんだけど」

須田「なんでやんすか?」

小波「毒島先生のことなんだけど……」

須田「……それはおいらに対するあてつけでやんすか?」

小波「い、いや、そんなつもりじゃ……ていうか、須田君知ってたの? 俺と毒島先生の関係?」

須田「うるさいでやんす! 夕方からいなくなって夜な夜な帰ってこられたら馬鹿でもわかるでやんす!
   リア充爆発しろでやんすー!!」

 その後もいい案が浮かぶことはなく月日は流れていった。


小波「……監督に相談しよう」

・・・・・・・・・・・

 速報公園

小波「監督、こっちです」

監督「おお。待たせたな」

小波「いえ……姐さんは?」

監督「来てない。言われたとおり教えてもないが、いったいどうしたんだ?」

小波「実は……」

・・・・・・・・・・・

監督「そうか……ピンクに教えないように頼んだのもそういうわけか?」

小波「はい」

監督(酔った勢いみたいなものだから心配する必要もないと思うけど……まあ、しかたないか)

小波「……監督、俺どうしたらいいんでしょう? 本当にどうすることもできないでしょうか?」

監督「……はっきり言うと、おそらく彼女の寿命に関してお前にできることはほぼない。
   せめてしてやれるのは最後まで彼女と一緒にいてやることぐらいだ」

小波「そう、ですよね……でも今先生に会いに行っても、記憶を消されるだけだろうし……
   はは……本当に、俺は……無力なんですね…………」

監督「……だが、彼女の寿命のほうは何もできないわけではない」

小波「えっ……?」


監督「二、三年前、魔の三時間という事件があったのを覚えているか?」

小波「はい、たしか全世界に架空の怪獣や妖怪が表れたんですよね?
   俺はそのとき入試の勉強でいっぱいいっぱいでしたから詳しくは知らないですけど……」

監督「その事件、俺たちはカタストロフと呼んでいたが、原因は『具現化』って力の暴走なんだ」

小波「具現化……?」

監督「詳しくは俺も知らないが、簡単に言うと想像したことが現実になる能力らしい。
   つまり、あの怪獣たちの正体は誰かの想像ってわけだ」

小波「そんな……まさか」

監督「信じられないか?」

小波「……いいえ、ちょっと驚いただけです」

監督「そうか。それで、その具現化はいろんなことに応用できるらしい。
   たとえば怪獣を呼んだり、魔球を投げられるようになったり、死にかけの負傷者を一瞬で治したり」

小波「! じゃあ、具現化を利用すれば先生も!」

監督「ああ……だが、カタストロフの一件で具現化に必要なエネルギー、
  これはマナと呼ばれているらしいが、それが地球にあるぶんは一気に消費されたらしい」

小波「で、でもそのマナってやつが回復すれば」

監督「再び具現化を可能にするまでマナを溜めるにはだいぶかかる。少なくともここ数年でどうにかなるレベルじゃない。
   まあこれも全て受け売りだけどな」

小波「……それじゃあ、何の意味も……!」

監督「まあ落ち着け。地球にある分って言っただろ?」

小波「えっ?」


監督「話は変わるが、一番最初に魔球を投げた少年って知っているか?」

小波「は、はい。テレビにも取り上げられてたし、世界大会とかにも出てましたよね?」

監督「あの子が今どこにいるか知っているか?」

小波「たしか火星でしたよね? ……まさか!」

監督「ああ、地球のマナがないなら火星のマナを頼ればいい」

小波「で、でも魔球はなくなったって……」

監督「一般的にはそうなっているが、どうやらあの子だけは投げられるらしいぞ。
   ちなみに俺はその子とは一度話したぐらいだが、その子との知り合いとは知り合いだ」

小波「そ、そんな都合のいい話があるんですか?」

監督「まあ、ご都合主義だけど、そんなことは問題じゃないだろ?
   俺は可能性を教えただけだ。さあ、お前はどうする?」

小波「お、俺は……」


レッド「……俺は反対だな」

小波「れ、レッド!?」

監督「どうしてここに……?」

レッド「たしかに具現化を利用すれば小波、お前の彼女を救うことができるかもしれない。
    だが勘違いしているのかもしれないが具現化は想像を現実にする力であって、決して願いを叶える力ではない」

 レッドは最初に会った時の威圧感を発しながら俺に近づいてくる。

レッド「・・・人間の創造するものなんて良いものばかりじゃない。いいや、不安や恐怖こそ形になりやすいものなんだ。
    あの日世界中で起こったことを思い出してみろ! 世界中が大混乱におちいったんだぞ!」

 カレー屋や公園であったときの親しみやすさはなかった、そこにいたのは俺の知らないヒーローであり、敵だった。

レッド「たしかに彼女には同情できるし、お前の気持ちも痛いほどわかる。
    だが、思い病を患わっているのは彼女だけじゃないし、お前より辛い境遇の人なんて星の数ほどいる」

レッド「そんな中、自分たちだけが奇跡の恩恵を受けていいと思っているのか?
    ……第一、彼女は受け入れているだろう。自分の死を、運命を。その彼女の決意をお前のエゴで捻じ曲げていいのか?」

A.その通りだな
B.それでも


A
小波「……その通りだな。その通りだよ……わかっているんだよ……ちくしょう」ポタポタ

監督「小波……」

小波「……監督、教えてくれてありがとうございました。……レッド、お前が正しいよ、じゃあな」

 ダダダダダダダ

監督「……ヒーローは弱い者を守るんじゃないのかよ」

レッド「守っているさ。今回弱かったのは小波じゃない、彼女のほうだ」

監督「……だったら、なんでお前が泣きそうになっているんだ?」

レッド「泣きそうになどなっていない!」

 そして月日は流れた


小波「……それでも、それでも! 俺は先生を助けたい!」

小波「たしかにそれは正しいことじゃないかもしれないし、自然に背いていることしれない。
   でも、だからって助かる可能性があるのに先生を見殺しにすることなんてできない!」

レッド「彼女の意思はどうなる?」

小波「そんなの知ったことか! 先生はいつも俺を勝手に振り回してきたんだ!
   たまには俺のほうから振り回してやる!」

レッド「……そうか、それがお前の答えか。……ならば私と戦う覚悟があるというわけだな?」

 レッドから威圧感が増す。 喧嘩の経験なんてないし、そもそも山での体験から生身でレッドに挑むなんて無理なことはわかっていた。
 けど、ここで引くわけにはいかない。

小波「それが先生を守るために避けられないなら、当然だろ!」

レッド「ならば、私も弱い者を守ろう。お前のエゴのせいで世界中で危険にさらされかもしれない弱い者を守るためここでお前を倒す!」

 夜の公園を静寂が包んだ。
 ただの人間とヒーロー、勝敗などわかりきっているが対峙している互いに一切のふざけはなかった。


・・・・・・・・・・・

小波「はあはあ……」

レッド「どうした? その程度か?」

小波「まだまだ……」

 余裕なレッドに対し、俺はすでに満身創痍だった。だけど諦めるわけにはいかない、先生を救うためなら俺は……!

監督「……試すのはもういいだろレッド。認めてやれよ」

小波「……え?」

監督「小波の覚悟を試すために聞いたんだよな?」

小波「……そうなのか?」

レッド「お、おい! 新入、勝手なことを……」

監督「半端な覚悟じゃさっきこいつが警告したように世界がまた危機になりかねない。
   だからお前の気持ちを確認したかったんだよ」

小波「じゃあ……!」

監督「ああ、合格だ。後で魔球を投げた少年の知り合いの番号送ってやるからお前はもう帰れ。
   今週末には甲子園をかけた試合があるんだろ? こんなところで無駄な時間使っている暇はないはずだ」

小波「あ、ありがとうございます監督! お言葉に甘えて失礼します」

 ダダダダダダ


レッド「……おい、どういうつもりだ?」

監督「それはこっちのセリフだろ。お前はたしかに真剣だったけど、小波に敵意や殺意は向けてなかった。
   ……いや、むしろお前はそれらを自分に向けてなかったか?」

レッド「……なぜそう思う?」

監督「多少なりとも今まで数年間ヒーローをしていたからそれくらいはな」

レッド「戦闘のほうはピンクがいないとからっきしだがな」

監督「俺はピンクのパートナーだからそれでいいんだよ。
   ……ピンクが一時期オレンジのことを探していたとき、女の子と二人旅をしている風来坊の情報を手に入れたことがある」

レッド「!」

監督「結局オレンジとは関係なかったから最近までずっと忘れていたけど、カレー屋行った後で思い出したよ。
   その風来坊ってお前のことだろ? 姿変わってないし」

レッド「……ずいぶんと都合よく思い出したものだな」

監督「そう言われればたしかにそうだけどさ、引っかかりはあった」

監督「お前毒島を初めて見つけたとき俺たちにパトロール中に偶然って説明してたよな?
   けど、どうして山を、高くはないといえ、パトロールをしてたんだって疑問に思ってたんだ」

レッド「たいした記憶力だよ」

監督「ああ、ダークスピアとの戦いも無駄なことを覚えておいたおかげで助かったよ。
   ……なあ、もしかしてあの山には…………」

レッド「……ああ、女の子が眠っている。そして彼女もアンドロイドだった」

監督「……そうか」

レッド「もし彼女が生きている間に具現化のことを知っていたら、カタストロフが起こっていたら……
    俺はきっと小波と同じ選択をしていただろうな。そして他の誰かに今俺が言ったことを言われているはずだ」

監督「ヒーローらしくない発言だな。弱い者を守るんじゃないのかよ?」

レッド「守るためにだ。俺自身のささやかなロマンを、な……」


監督「……ところでレッド、どうして今日のことがわかったんだ?」

風来坊「ああ、それは……」

「……ところでアタシから質問なんだけど、どうして魔球少年がまた魔球を投げたことをあんたが知っているのかしら?
 あの子はずっと火星にいるはずよね?」

監督「ああ、それは火星ロケットに搭載されたレンちゃんが教えてくれたって漣が……へ?」クル

桃井「へー、漣ってたしかクリスマスにあんたと一緒に歩いていた子よね?」ピキピキ

監督「ぴ、ピンク!? どうしてここに……?」

風来坊「……ピンクが『お前が開田に呼び出されたって言ってたのに開田がうちに来て聞いてみればそんな覚えない』って言われたらしい。
    しかたなく俺も一緒に探してまわっていたらお前とパワポケを発見したんだよ」

監督(それを早くいえよ!)

監督「ぴ、ピンク、誤解するなよ? 漣と会ったのは別に浮気とかそういうわけじゃないぞ……?
   あくまで世間話として聞いたわけであって……」

桃井「……どうせ」

監督「えっ?」

桃井「どうせアタシの顔はそばかすだらけで汚いわよー!  いいわよ! ヒーローなんて一人でやってやるんだからー!!」ダダダダダダ

監督「ちょっと待てよ! ピンクー!!」

 このあと滅茶苦茶ラッキョウをくわせた。


・・・・・・・・・・・

小波「監督からもらった番号。さっそくかけてみよう」

 プルルルルル

「はい、もしもし? 知らない番号だけどどなたかしら?」

小波(女? いや、声は男だけど……どっちだ?)

小波「もしもし、初めまして。俺は小波っていいます。
   監督にこの番号を教えてもらったんですけど、ホンフーさんであってますか?」

ホンフー「監督? ……ああ、あの人のことね。ええあっているわ、私がホンフーよ。何か用かしら?」

小波「はい、じつは……」

・・・・・・・・・・

小波「……というわけなんです。お願いします! 力を貸してください!
   かわりに俺ができることだったらなんでもしますから!」

ホンフー「そうね……いいわよ。力になってあげる。
     あの少年を紹介するだけじゃなくて火星に行く方法もこちらでなんとかするわ」

小波「えっ? ほ、本当ですか!?」


ホンフー「……ただし、条件があるわ」

小波「……なんでしょうか?」

ホンフー「あなた、明日甲子園をかけた試合があるでしょう?」

小波「は、はい」

小波(どうして知っているんだ? 野球のことは話してないのに)

ホンフー「そこでわざと負けなさい」

小波「え……」

ホンフー「別に他のチームメンバーには話さないでいいわ。
     チームの支柱であるあなた一人が手を抜けば負けるのは十分」

小波「ど、どうしてそんな条件を……?」

ホンフー「そうねえ。私のコードネームがバッドエンドだったからかしら」

小波「?」

ホンフー「わからなくていいわ。それでどうするのかしら?
     まあ、もちろん答えは決まっていると思うけど」

A.……わかりました。言うとおりにします
B.……すみません。それだけはできません


A
小波「……わかりました。言うとおりにします」

ホンフー「・・・いいでしょう。ではまた後日こちらから連絡します」

 プッ、ツーツー

小波「……これで良かったんだよな?」

 その後、俺は約束を守りNIP高校が甲子園にいくことができなかった。

 バッドエンドへ


小波「……すみません。それだけはできません」

ホンフー「……どうしてかしら? あなたにとって野球はあくまで手段。目的は別にあるはずでしょ?」

小波「たしかにそうかもしれません。でも、それだけはできないんです」

ホンフー「それはチームメイトへの義理? それとも彼女の命自体、あなたにとってはそれほどの価値はないのかしら?」

小波「どちらでもありません。たぶん、意地だと思います。
   だって俺、目的はどうあれ野球が好きでやってますから」

ホンフー「……それはいいけど、じゃあ彼女のほうはどうするの?」

小波「大会後にあなたを探します」

ホンフー「今ここでそれを言ってしまったら警戒されると思うものなんじゃない?」

小波「そちらの条件を蹴ったのはこっちですから。でも、絶対に見つけ出してみせます」

ホンフー「……そう、わかったわ。条件を変えてあげる。わざと負けなくていいわ。その代わり、甲子園を優勝しなさい」

小波「え? それでいいんですか?」

ホンフー「嬉しそうね。明らかに前の条件のほうが楽だと思うのだけど?」

小波「俺は負けるとわかっていても負ける気でするつもりはありません。
   それにいくら楽でも好きじゃないことをするよりかは、たとえ困難でも好きなことをしたいです」

ホンフー「……それもそうね。ではまた後日こちらから連絡します」

 プッ、ツーツー

ホンフー(一流の気を持たず、手段が目的と化している者。人はそれを愚者と呼ぶけれど……ふふ、結果が楽しみだわ)

・・・・・・・・・・・・

小波(明日の試合頑張ろう。先生のために……何より、自分のために!)


小波「やった! 勝ったぞ! これで甲子園だ!」

 その後も俺たちは破竹の勢いで勝ち進めた。

 そして、

小波「……やった。やったぞ! 甲子園優勝だー!!」

須田「ぐすっ、おいら野球やってきて良かったでやんす」

小波「俺もだよ須田君」

 こうして俺の最後の夏は最高の結果で終わった。


・・・・・・・・・・・

 甲子園優勝の翌日

小波「約束は果たした。さっそく、ホンフーさんに連絡しよう」

ホンフー「その必要はありませんよ」

小波「えっ? あなたは……?」

ホンフー「はじめまして。私がホンフーです」

小波「あなたが……あの、俺、甲子園優勝しました!」

ホンフー「ええ、昨日の試合見させていただきましたよ。おめでとうございます」

小波「じゃあ……!」

ホンフー「はい、約束を果たしましょう。というか、もう果たしました。彼女を火星まで送りましたよ」

小波「え?」

ホンフー「信じられませんか?」

小波「いや、そういうわけじゃないんですけど……火星にそう簡単に行けるなんて」

ホンフー「まあ、普通ならそれなりの訓練を受けるか冷凍装置で眠らせて宇宙船で行くのが正しいのでしょうけどね。
     そんな私利に宇宙船を使うわけにはいかないのでちょっと裏ワザ使わせていただきました」

小波「そうですか、ありがとうございます……でも見送りぐらいしたかったなあ。
   あ、そうだ。何年後に帰ってくるかわかりますか? せめてむかえぐらいしたいので」

ホンフー「その必要はありません。もう帰ってきていますよ」

小波「……え、いくらなんでもそれはさすがに……」

ホンフー「私としても火星まではちょっと遠かったのでちゃんと運べるか心配でしたけど、うまくいって助かりました」

小波「ちょっとというレベルじゃないと思いますけど……」


ホンフー「あなたには何も言わずに進めたのは悪かったですけど、なるべく早いほうがいいと思ったので事後報告という形にしました。
     ちなみにあなたの彼女もここに来ていますよ。出てきたらどうです?」

 ガサガサ

毒島「……」

小波「せ、先生!」

 物陰から先生が表れた。再会するのはいついらいだろうか。相変わらず無表情で、澄ました顔。

ホンフー「さて、邪魔者はさりましょうかね。それではまた、機会があったら」

 スタスタスタ

毒島「……久しぶり」

 しかしそこには一つだけ変化があった。

小波「先生、煙草が……」

 先生はいつも咥えていた火のついていない煙草を咥えていなかった。

毒島「必要なくなった。薬はもういらないから」

小波「じゃ、じゃあ……!」

毒島「うん。治った……正確には意図的に縮められてたテロメア細胞の長さを取り戻しただけだけど」

小波「……良かった…………本当に良かった」ポロポロ

毒島「……」

小波「はは、やっぱり先生は相変わらずですね」


毒島「……ありがとう。君にもらったこの恩は何をしても返せない」

小波「恩なんてありませんよ。先生がいつも俺を振り回しているように、俺も先生を振り回しただけです。
   それより先生、これで俺の記憶を消す必要はないですよね?」

毒島「それはそうだけど……本当に私でいいの?」

小波「今さら何を言っているんですか?」

毒島「……君は甲子園優勝チームのキャプテン。プロ入りも確定している。
   これから君にふさわしい女の子がいくらでもよってくる。それなのに……」

小波「俺は自分にふさわしい女の子なんてわかりません。だけど、先生にふさわしい男は俺ぐらいしかいませんよ。
   先生に振り回されることが嬉しく思えるなんて俺ぐらいでしょうし」

毒島「……わかった。じゃあこれから君を振り回す」

小波「えっ?」

 タッタッタッタッ、ドシーン

小波「ちょっと、先生ここでは……!」

毒島「……いや?」

小波「…………白衣汚れちゃいますよ?」

毒島「……かまわない。服を買う機会も時間もこれからいっぱいある………………」


毒島「……ハンカチ持った?」

小波「持った」

毒島「……ティッシュ持った?」

小波「持った」

毒島「……財布もt…」

パワポケ「持った」

毒島「……」

小波「無理に考えなくていいから」

 高校卒業後、プロ入りした俺は先生と一緒に暮らし始めている。
 先生と俺の様子を知っている人たちは恋人関係というより子離れできない親とその子供みたいと言うが、
母親との思い出があまりないせいか俺には実感がわかない。

毒島「……しあわせ草のドリンクいる?」

小波「……んー、いいや」

 薬はもういらなくなったものの、しあわせ草をそう簡単に捨てるわけにはいかず、
なるべく法に触れないような活用で残りを減らし続けている。

小波「あ、そういえば今日レッドたちが来るって言ってたんだけど……」

毒島「……そう。わかった、準備しておく」

 ちなみに先生がレッドを嫌っていたのは残り少ない寿命をジャジメントで過ごすつもりだったのに放りだされたことが主な理由らしい。
 じゃあ今はどうなのかと聞くと感謝していると言っていた。

小波「それじゃあ、いってきます」

 寿命が延びたけど、先生は相変わらず基本無表情だし、泣くことはできないらしい。
 でもそれでいいのだ。先生に泣き顔なんてさせたくないし、

毒島「いってらっしゃい」ニコッ

 無表情なのは彼女の笑顔を独占できるのが俺だけという証明なのだから。


「あ、あれ毒島先生じゃない?」

小波「毒島先生……?」

 夏が終わって二学期が来て、俺は彼女と一緒に街に出していた。

「ほら、一学期まで保健室の担当していたじゃない」

小波「ああ……そういえばそんな先生もいたような……」

「いたようなって、薄情ね」

小波「しかたないだろ。ろくに話したこともないから。それよりその毒島先生はどこだよ」

「ほらあそこ……あれ、いない。ていうか、あんたあの人の顔も忘れたの?」

小波「忘れてたんだから当然だろ。それよりどうして声あげたんだよ。
   街中で先生を見つけたって普通にスルーしないか?」

「いや、だって泣いてるように見えたから……」

小波「涙流してたのか?」

「そういうわけじゃないけど」

小波「じゃあ気のせいだろ。早くあそこにいこうぜ」

「う、うん……ていうかあんた煙草やめなさいよ。あんた未成年じゃない」

小波「うるさいなあ、しかたないだろ。ときどき無性にこれが恋しくなるんだから……」


監督「ありがとうな。こっちの勝手なお願いを聞いてくれて」

ホンフー「いいえ。こっちも興味深いものを見れたからよかったですよ。それにあなたの彼女の件に対する罪滅ぼしもありますし」

監督「言っとくが、ピンクの件に関してはまだ許してないからな。カタストロフが終わった後、さっさといなくなりやがって」

ホンフー「私は悪人ですからね。ヒーローに協力することはあっても馴れ合うとまずいんですよ。それくらいはわかるでしょう?
     それとも今ここで殴りますか?」

監督「……やめとくよ。今お前を殴ったら俺のほうが悪者だ」

ホンフー「賢明です……しかし、直接会って確認してみましたが、やはり彼は一流じゃないですね」

監督「おいおい、まだ一流二流って言っているのかよ」

ホンフー「当然です、私のアイデンティティですから。しかし彼は見事に私の予想を覆した。
    地区大会の決勝は相手のほうが一流の気を感じていたのですが……」

監督「はあ、お前あの日に学んだだろ?
   ジオットを止めたのはレッドだったけど、カタストロフをなくしたのはどこの誰でもない。そこら辺の誰かだ。
   理想の一流より、現実の二流が勝ったからこそカタストロフは失敗したんじゃねえか」

ホンフー「! ……そういえばそうでしたね。忘れていました。
     あなたには貸しをつくったつもりでしたけど、これで返されてしまいましたね。
     貸しはまたいつかつくるこにしましょう」

 スタスタスタ

監督「……行くのか?」

ホンフー「ええ、私は悪人ですから。また誰かをバッドエンドにさせないといけません」

監督「そのときは俺たちが止めてやるよ」

ホンフー「ふふ、期待していますよ……ではまた」

 そう言い残して男は消えた。これからも彼は悪の道を突き進み、血に染まり続け、彼自身の最後もおそらくバッドエンドになるだろう。

 しかし彼はそれで後悔はしないはずだ。なぜならそれは彼自身が納得できる一流のバッドエンドなのだから。


監督「まったく、なんでこうなるのわかっててラッキョウを頼むかなあ」

 カレー屋に行った帰り、ラッキョウで酔っぱらった彼女をおぶって帰る。

桃井「なによぉー、なんか文句あるわけ?」

監督「むしろ文句しかないんだが」

 呂律のまわってない女の子を連れて帰るこの様子をはたから見たら危険だと思うかもしれない。
 だがそれは半分あってて半分間違っている。
 危険なのは酔っぱらっている彼女じゃない、俺のほうだ。

桃井「はあ? 文句があるならいいなさいよぉ」

監督「言っていいのか?」

桃井「うっ……」

 ピンクは酔っぱらうと本音が出やすくなる。
 このさいだ、言ってしまおう。

監督「じゃあ言うぞ」

桃井「や、やっぱだめ。ちょっと言うのきん……」

監督「オレンジの件で自分だけを悪者扱いするのをやめろ」

桃井「……えっ? な、なに、なんのこと……!?」


監督「お前は数年間、オレンジに養ってもらってもらったのに自分はオレンジのことが好きになれなかった。
   そのことが今は俺と一緒に暮らしていることに負い目を感じているのと、自分に嫌悪感がある……違うか?」

桃井「なによ、じゃあ私は悪くないって言いたいわけ?」

監督「そうじゃない。お前がしたことわ確かに悪いし、罪悪感を感じるのも当然だ。
   だけどそれは一人で背負うものじゃないだろ、俺たちはパートナーなんだから」

桃井「……ずいぶん知ったふうな口をきくじゃない」

監督「知っているさ、お前のことならなんでもな。
   ピンク、俺は前に言ったよな? 俺はお前のスキマをうめるって」

桃井「ふん……あんたじゃ役不足よ」

監督「おいおい、それ力不足の間違いじゃないのか? 役不足だと褒め言葉だぞ」

桃井「……間違いじゃないわよ」ボソ

監督「ん? 何か言ったか?」

桃井「なんでもないわよ! この、甲斐性なし!」

監督(本当に聞かれてないと思っているのか?
   お前のことならなんでも知ってるって言ったのになあ……まあいいや)

 そうして彼らは帰る。
 また明日、二人で正義をなすために。


風来坊「……ごちそうさま」

 その男は今日も一人カレーのみを食べて帰る。一番安いカレーだけを頼むのはべつにお金がないわけではない。
 ただの未練である。

奈津姫「今日もいらっしゃてたんですね」

風来坊「……今日もおいしかったですよ」

 店の暖簾をくぐると一人の女性が立っていた。
 だが待ち合わせしたわけではない。彼女と彼はただの店の副店長兼料理人とその客である。

風来坊「しかし、カレー屋なのに暖簾とは珍しいですね」

奈津姫「おかしいですよね。でもあの子がどうしてもって。この店の名前も。
    ……苗字が変わってもあなたがすぐわかるようにって」

風来坊「そうでしたか……ご結婚おめでとうございます。いい旦那さんそうですね」

奈津姫「旦那を見たんですか?」

風来坊「いいえ。でもあなたの様子からなんとなく……」

奈津姫「……そうですね。旦那は本当にいい人です……私にもったいないくらい。
    彼のおかげでカレー屋も前みたいなことをしなくても経営できるようになりました……」

 世間話を続ける二人であるが、それはあくまで見せかけであって本意ではない。腹のさぐりあいである。

奈津姫「カンタとは会われないんですか?」

 そしてしかけてきたのは女性のほうだった。

風来坊「……カンタ君が自分から俺を探しに来るって言いましたからね。
    俺から会いにいっちゃったら台無しでしょう」

 おそらくこれは釣り玉だ。この次にくる渾身のストレートのための。男はそう予想する。


 そしてその予想はみごとに当たった。

奈津姫「……風来坊さんは今までずっと一人で旅をなされていたんですか?」

風来坊「…………いいえ、今は旅をしていませんし、ちょっと前までは一人でした。
    ……だけど、その前は二人で旅をしていました。ケラケラとよく笑う女の子と一緒に」

奈津姫「……やはり、そうでしたか」

 彼女は俺をどういうふうに思っているだろうか。
 普段は他人からの評価なんて気にしない男であったが、そのときばかりはそう思った。

 突如現れては街をかき乱し、挙句のはてには去り際に親友をさらった男。
 彼女にとって自分はそういうやつだろうと男は評価していた。
 だから彼女から責められるのは当然だし、今一緒にいないことを咎められるのは当たり前だと男は思った。

 しかし、

奈津姫「……あの子の最後は笑っていましたか?」

風来坊「!?」

 男は驚く。なぜなら彼女は親友の秘密を知らないはずなのだから。

奈津姫「……知っていましたよ。あの子が普通じゃないことぐらい。
    だって昔からの親友なのに、その昔の写真がまったくないんですもの」

 彼女は笑っていた。風来坊の反応から自分の予想が当たった悲しみを隠すように。

風来坊「…………泣かせてしまいました。最後の最後に、悔しいなあって言い残して……」

 おそらく男が隠していることなんて全てお見通しなのだろう。男は素直に真実を伝えることにした。

奈津姫「そうですか……よかった……あの子強がりですから。
    最後にその言葉を聞けたってことは、あの子もきっと幸せだったんですよね」

風来坊「……もう少し長く生きられれば、もっと長生きできる方法があったとしてもですか?」

奈津姫「ふふ、それこそあの子はロマンがないって言いますよ」

風来坊「……そうですね。ではまた」

 全て話し終わり男は去った。
 これからもこのカレー屋は末永く受け継がれていくだろう。
 月日が流れ、人々の記憶が薄れればこのカレー屋の名前の意味もまた、すべて忘却の彼方へと去っていく。

 一人の風来坊と母子の物語も失われる物語のエピソードのうちのほんの一部にすぎない。


「あたしも一緒に旅しちゃいけないかな?」

 1月1日、元旦。
 遠前町を出ようとした俺を一人の女の子が待っていた。

武美「風来坊さんも一人じゃ寂しいでしょ? それにあたし、役に立つと思うよ?」

風来坊「……恩返しのつもりなら断る。恩があるのは俺のほうだ」

 大切の人を縛りつけている鎖に気付かず、のうのうと過ごしていた俺は彼女がいなくなってからその鎖の存在を知り、うちのめされた。
 その人が残してくれた手紙には家をそのまま住んでいていいと書かれていたが、
あのころから何も変わっていないと思い知らされた俺は家を出て、彼女に拾われ、そして救われた。

風来坊「だいたい自分の居場所があることがどれほど幸せなのかわかるだろう?」

武美「……それぐらい知ってる」

風来坊「だったら……」

武美「でもね。駄目だったみたい。あたしはあそこにいちゃいけないんだよ」

風来坊「! そんなことないはずだ! 寿命は延びたんだろう!? それともあれは、あのクリスマスの騒いでたのは嘘だったのか?」

 俺は動揺を隠せず大声で叫んだ。

 俺は彼女と過ごしていくうちに彼女の正体を知り秘密を知った。
 そして今度こそ俺は誰かを縛る鎖を引きちぎったはずだった。


武美「大神の連中に場所が感づかれ始めたんだ」

武美「さすがにおおっぴらには捜査はしてないけどこの町にいたら捕まっちゃいそうだし。
   そうなったら、皆にも迷惑がかかるでしょ?」

風来坊「そして俺は大神においかけられると」

武美「・・・・・・・そういうの、イヤ?」

風来坊「いいや、むしろ大歓迎だな」

武美「やったあ! そうこなくっちゃ!」

風来坊「さて、旅の連れができたところで・・・次はどっちの方角に行こうかな」

武美「東!」

風来坊「・・・どうして?」

武美「日が昇る方向だから!」

>>121 ミス

武美「ああ、ごめんごめん。勘違いさせちゃったね。寿命のほうは大丈夫だよ。この通りピンピンしてるし」

風来坊「じゃあ、どうして?」

武美「大神の連中に場所が感づかれ始めたんだ。

武美「さすがにおおっぴらには捜査はしてないけどこの町にいたら捕まっちゃいそうだし。
   そうなったら、皆にも迷惑がかかるでしょ?」

風来坊「そして俺は大神においかけられると」

武美「・・・・・・・そういうの、イヤ?」

風来坊「いいや、むしろ大歓迎だな」

武美「やったあ! そうこなくっちゃ!」

風来坊「さて、旅の連れができたところで・・・次はどっちの方角に行こうかな」

武美「東!」

風来坊「・・・どうして?」

武美「日が昇る方向だから!」

風来坊「・・・ああ、なるほど」


・・・・・・・・・・

風来坊「……夢か」

 朝のまどろみの中、ゆっくり目を覚ました。
 なんだか懐かしい夢を見ていた気もするが、もう思い出せない。

維織「……ん」

 隣で今俺が守るべき女性が寝返りをうった。
 彼女にはそろそろ年相応の落ち着きを持ってほしいがそれは敵わないだろう。

維織『……久しぶり』

 数年前、再び遠前町で会った彼女は出会ったときと変わらない姿で、俺の前にあらわれた。
 それは間違いなく良かったのだが、ほぼ10年ぶりにあったのに外見が全く変わってないのはさすがに驚いた。
 もしかして彼女はエネルギーをまったく使わないからその反動じゃないかと思ったが、
エネルギー使いまくりのメイドもほとんど変わってなかったし、人間というのは本当に不思議だ。

 変われない俺が言うことではないかもしれないが……


武美『……さん……泣いて、るの……?』

 最後の日、俺と彼女はある小さな山の朝日が見えるところにいた。

風来坊『……泣くわけないだろう。旅に別れはつきものだ。いまさらそれに感傷を覚えるほど若くはない』

武美『でも、涙が……』

風来坊『泣けないお前の代わりに涙を出しているだけだ。ロマンがあるだろう?』

武美『あはは……そうだね…………じゃ、あ……あたしは、泣けた…………の……かな?』

 水の粒は彼女の頬に落ち、その軌跡を残しながらまた流れていく。

風来坊『ああ、泣けてるぞ。嬉しいか?』

武美『…………ううん、くやしい……』

風来坊『そうか』

武美『……くやしいなぁ、くやしいなぁ……最後に泣かされるなんて…………くやしいよぉ』

風来坊『……それなら良かった』


武美『……さ……ん』

風来坊『なんだ?』

 彼女の体から最後の力が抜けていくのがわかる。もう長くない。直感的にわかった。

武美『…………ん』

風来坊『なんだ?』

 何かを伝えようとしているのか、それとも無意識に俺の名前を呼んでいるのかはもはやわからない。
 ただ彼女を安心させるために、彼女の好きなビターエンドのために普通を装う。
 そして、

武美『……………』

 彼女は何かを言った。

風来坊『ああ、俺もだ』

 そう返すと彼女は笑顔を旅立ちの日と同じ笑顔を見せ、やすらかに眠りについた。


奈津姫「ここに武美が眠ってるんですね……」

風来坊「……はい、すみません。こんな通いにくいところで」

奈津姫「いえ、あなたがここを選んだなら間違いないと思います。
    それに武美はさびしがり屋でしたけど、一緒なら誰とでもいいってわけでもないですし。
    大勢と一緒におかれて放置されるよりかもたとえ一人でもあなたが時々来てくれるなら武美は喜びますよ」

 奈津姫さんは持ってきた花を墓石に添えた。
 墓石と言ってももちろん自作で不格好極まりないしろものだが。

 その後俺と奈津姫さんは墓周りを掃除し、お供え物を添え、
俺は最近の近況を、奈津姫さんは俺たちが遠前町を出てからの様子を武美に話しかけるように語った。

奈津姫「今日はありがとうございました」

風来坊「いえ、礼を言うのはこちらのほうです。武美も喜んでいましたよ」

 死んだ者に対して生きている者が何かするのを偽善や自己満足という人もいる。
 だが、その思いから生まれ、その思いの強さも怖さも知っている俺はとてもそうとは思えない。

武美『……………』

 武美の最後の言葉を思い返す。
 あのとき武美がなんと言ったのか、本当は聞き取れたわけじゃない。

風来坊『ああ、俺もだ』

 だけどあの瞬間確実に俺はわかっていた。どうしてかなんて理由はなくていい。
 だってそのほうがロマンがあるのだから。

ちょっと休憩するでやんす
次は須田杏香編を投下するでやんす


碇「今日は新しい新入生が入ってくる日だ」

・・・・・・・・・・

 ザワザワ

碇「新入生の諸君、NIP高校野球部にようこそ。俺はこの野球部のキャプテンをしている碇といいます……」

 俺は昨日考えた挨拶を言う。
 カンニングペーパーを見ながらだったから一年生一人一人の顔は見れず、まあ所詮彼らはモブだしと思っていたがそれは軽い失敗だった。

碇「……じゃあ、俺たちの紹介はこのくらいにして、次は一年生から自分のことを紹介してもらえるかな?」

一年生部員A「はい! 一年N組の部員Aと言います。ポジションは……」

・・・・・・・・・・

一年生部員α「……これからよろしくお願いします」

 そして新入部員のうちこれから一緒に切磋琢磨していく選手たちの挨拶が終わった。
 だけど今年はなんとマネージャーが新しく入ってくると聞いていたので俺はひそかに楽しみにしていたのだ。

碇「次はマネージャーの人、お願いできるかな?」

杏香「はい」

碇「……え?」

 だけどその嬉しさもあっという間に驚きに変わった。

杏香「? なにか?」

碇「い、いや……なんでもない。ごめん、続けて……」

 慌てて平静を取り繕って須田君を見る。須田君は目をそらしていた。

杏香「マネージャー志望の須田杏香(すだ きょうか)だ」

杏香「はじめに言っておくと、そこにもう一人須田という人物がいるが、彼と私は兄妹だ。
   マネージャーとしての経験がないからいたらないところがあると思うが、兄もろともよろしく頼む」

碇(杏香ちゃん、相変わらずだなあ)

 須田君とおそろいの分厚いレンズの眼鏡に綺麗に垂れ流された赤みがかかった茶色の髪。そして尊大なしゃべり。
 一応、俺の中学時代からの知り合いともいえる人物がそこにいた。

碇(この高校に来ることもそうだけど、まさか野球部のマネージャーになるなんて……
  正直、杏香ちゃんはちょっと苦手なんだよなあ)

 別におかしなところはなかったものの、そのしゃべり方と雰囲気から間違いなく彼女が一番印象に残る自己紹介をして一年生歓迎会は終わった。

・・・・・・・・・・・

碇「練習までちょっと時間あるな、どうしよう……」

A.杏香ちゃんと話す
B.須田君と話す
C.そんなことより練習の準備だ


A
碇「せっかくだし、杏香ちゃんと話そう」

・・・・・・・・・・

碇「杏香ちゃん!」

杏香「ん? キャプテン、何か用ですか?」

碇「いや、そういうわけじゃないんだけど……」

杏香「? なら今話しかける必要ないと思いますが……
   いくら時間があってもキャプテンなら早めに準備して他の部員に手本をとなる行動をとるべきでは?」

碇「そ、そうだよね。ごめん……」

 杏香の好感度が1下がった。


B
碇「須田君、杏香ちゃんがマネージャーに入ってくるの黙ってるなんて酷いじゃないか」

須田「……おいらだって、さっき知ったでやんす」

碇「え?」

須田「あいつ、自分のことは基本しゃべらないから、聞かされるのはいつも事後報告なんでやんす」

碇「そうなんだ……変わってないんだね」

須田「やんす」

杏香「……人のいないところで陰口とは感心しませんよ、兄、キャプテン」

碇・須田「わっ!?」

 杏香の好感度が3下がった。

C
碇「……新入生が入ってきたんだし、キャプテンらしい行動をとらないとな」

・・・・・・・・・

碇「何か手伝うことある?」

杏香「あ、キャプテン……どうかしましたか?」

碇「いや、さすがに初日から全部任すのは悪いと思ってさ、手伝いにきたんだ。
  何かわからないことがあったら今のうちに言ってほしいんだけど……」

杏香「そうですね……これに関してなんですけど……」

 杏香の好感度が3上がった。


碇「今日も練習頑張るぞ」

・・・・・・・・・・

杏香「キャプテン、お疲れ様」

碇「あっ、杏香ちゃん。ありがとう」

杏香「……」

碇「ん? どうかした?」

杏香「……その、少し言いにくいことなのだが、私のことを『杏香ちゃん』と呼ぶのはやめてもらえないだろうか?」

碇「えっ? どうして?」

杏香「さすがに高校になってもちゃん付けで呼ばれるのは子供扱いされてるようで気分がよくない」

碇「俺としてはそんなことないんだけど……」

杏香「私としては気になるんだ……計画の障害になるかもしれないし」

碇「計画?」

杏香「なに、べつに大したことじゃない。それに呼び方を変えるのは健全性を保つためだ」

碇「健全性?」

杏香「同じ部活のキャプテンがマネージャーにそういう呼び方をすれば良からぬ噂が立つやもしれん。
   たとえそれが本当でなくても、噂だけで人は簡単に疑心暗鬼に陥る」

杏香「囚人だって黙秘するにしろ、自白するにしろ、それが嘘の罪であるなら咎められるいわれはないはずだ。
   だからそれを未然に防ぐ必要があるとは思わないか?」

碇「うーん。それじゃあ……」

A.杏香
B.杏香ちゃん
C.須田
D.須田さん


A
碇「杏香」

 バシッ

碇「イタッ!」

杏香「キャプテンは人の話を聞いていなかったのか? はあ、しかたない私が決めよう。そうだな……無難に須田さんでいこう」

 杏香の好感度が3下がった

B
碇「杏香ちゃん」

杏香「……キャプテンは人の話を聞いていたか?」

碇「聞いていたさ。でもさ、二人の関係が変わったならともかく、まわりの目を気にして呼び方を変えるってのもおかしくない?」

杏香「……関係も変わったと思うが?」

碇「変わってないさ。俺にとって杏香ちゃんは友達の妹だし、杏香ちゃんにとって俺はお兄ちゃんの友達だ。そうだろ?」

杏香「……そうかもしれないな」

碇「じゃあ!」

杏香「だが駄目だ」

碇「えー」

杏香「キャプテンが引退するまで最低限の距離は保っておかないとお互いが不幸だ。
   しかたないから私が決めよう。そうだな……無難に須田さんでいこう」

 杏香の好感度が3上がった。

C
碇「須田」

杏香「……たしかにそれらしくなったが、兄も同じ苗字だからややこしいな。 そうだな……無難に須田さんでいこう」

 杏香の好感度が1下がった。


D
碇「須田さん」

杏香「うん、それなら文句ないな。今後はそう呼んでくれ」

 杏香の好感度が1上がった。


碇「うーん、でも今さら須田さんって呼ぶのは違和感を感じるなあ」

杏香「少なくとも人前ではそう呼んでもらわなければ困る。
   私だって今はこうして話しているが、誰か他にいるときは少し変えているだろう?」

碇「わかったよ……人前でってことは二人きりなら杏香ちゃんでいいの?」

杏香「ちゃんと使い分けできるのならな。相手打者によってピッチングの組み立てを考えるようなものだ。
   先輩はキャッチャーなんだし、それくらいできるだろう?」

碇「う、うん。頑張るよ。その代わり杏香ちゃんも二人のときはキャプテンじゃなくて前みたいに碇先輩って言ってよ」

杏香「どうしてだ?」

碇「なんかずっとそう呼ばれるのはむず痒いし」

杏香「……まあ、それくらいなら大丈夫かな? よし、わかった。そうしよう」


碇「そういえば杏香ちゃんって入部したときにマネージャー初めてだって言ってたよね?」

杏香「ああ」

碇「中学生のときは何をしていたの?」

杏香「……なぜそんなことを聞くんだ?」

碇「いや、単純に気になってさ。
  杏香ちゃん、マネージャーの経験ないって言ってたわりにテーピングとか手馴れているし」

杏香「そうか? 私としてはまだまだだと思うんだが……
   まあ、その理由はあれだ。私はバスケ部に所属していた」

碇「ええっ!? バスケ部!?」

杏香「そうだ。私のイメージに合わないか?」

碇「い、いや、そういうわけじゃないけど、どうして高校でバスケを続けなかったのかなって」

碇(バスケ部って俺たちの中学で強かったけど一番評判の悪かった部活じゃないか)


杏香「それは……事故で指を怪我してしまってな、スランプになった」

碇「えっ?」

杏香「大きな後遺症が残るほどの大怪我というわけではなかったが、感覚が少し鈍ってしまってな。
   以前のようにはプレーできなくなった」

杏香「碇先輩もわかるだろう?
   球技において使う指先の感覚が狂えばそれはほぼ引退に近い」

碇「たしかにそうだけど」

杏香「引き止められたし、マネージャーをやるという手もあったが気をつかわれるのは嫌だったからやめた。
   もともとなんとなくで始めた部活だったがあのときは思ったより辛かったよ」

碇「……ごめん。辛いこと思い出させちゃって」

杏香「いや、いいんだ。怪我したのも私のミスが原因だし、あのころの私は幼かった。
   力がなくても正しい行いをすればわかってくれると思っていた、いや願っていたのかもしれん」

碇(……ん? 何の話だ?)

杏香「湿っぽい話になってしまったな……まだ聞くか?」

A.バスケについて聞く
B.マネージャーになった理由を聞く
C.聞かない


A
碇「バスケに未練はないの?」

杏香「ない、というわけではないが、あれはあれで満足してる。
   明確な目標ができたという面では良かったのかもしれない」

碇「目標?」

 須田の好感度が3上がった。


B
碇「どうしてマネージャーになったの?」

杏香「私の目標を達成するためには一番都合がいいと思ったからな」

碇「目標?」

 須田の好感度が3上がった。


C
碇「もういいかな」

杏香「そうか」

 須田の好感度が3上がった。



須田「碇君ー! 部活監督が呼んでるでやんすよー!!」

杏香「お呼びしてますよ、キャプテン」

碇「……うん、行ってくるよ」


碇「今日は昼飯も早く食べ終わったし、学校をうろついてみよう」

・・・・・・・・・・

碇「あっ、杏香ちゃんだ。おーい」

杏香「ん? ああ、碇先輩か」

碇「何をしてるの?」

杏香「見ての通りだ。頼まれた書類を運んでいる」

A.誰に頼まれたの?
B.そっか、じゃあね
C.手伝おうか?


B
碇「そっか、じゃあね」

杏香「……ああ」

 杏香の好感度が1下がった。


C
碇「手伝おうか?」

杏香「いや、けっこうだ。自ら引き受けた仕事だし」

碇「でも……」

杏香「気持ちだけ受け取っておくよ。碇先輩、ありがとう」

 杏香の好感度が1上がった。


碇「誰に頼まれたの?」

杏香「誰にっていうか、生徒会だな」

碇「ええ? どうして?」

杏香「生徒会に入るためにさ。こういうポイント稼ぎは地道にやらないとな」

碇「……杏香ちゃんは生徒会長になりたいの?」

杏香「なりたいというよりかは……話し過ぎたな。昼休みが終わってしまう。
   碇先輩、手伝ってくれるか?」

碇(あきらかに話をそらしたな。どうしよう……)

A.追及する
B.追及しない


A
碇「……話を途中でそらすのはよくないよ」

杏香「……勝手に話しかけてきたのはそっちだ。私がどうしようと勝手だろ。
   もういい、碇先輩には頼まない」

 タッタッタッタッ

碇「まだ、早すぎたかなあ……」

 杏香の好感度が3下がった。


B
碇「わかった。手伝うよ」

杏香「すまない」

碇「違うよ」

杏香「え?」

碇「こういうときに言う言葉はありがとうだろ?」

杏香「! ああ、たしかにそうだな」

 杏香の好感度が3上がった。


杏香「三年生先輩、使った道具はきちんともとの場所にもどしてほしいのですが」

三年生先輩「……今度から気を付ける」

杏香「二年生先輩、休憩はもう終わりのはずですよ」

二年生部員「あ、ああ……そうだな」

杏香「一年生部員、三塁側のラインが消えかけていたぞ。早く書き直したらどうだ?」

一年生部員「はいはいわかったよ……チッ」

・・・・・・・・・・・・

二年生部員「キャプテン」

碇「ん? なんだ?」

二年生部員「あのマネージャーどうにかならないっすか?」

碇「マネージャーって、きょ……須田さんのこと?」

二年生部員「はい、そうっす」

碇「須田さんが何かしたのか?」

二年生部員「そうじゃないっすけど……キャプテンもわかるでしょう?
      いちいち口うるさく言ってくるからやる気がなくなってしょうがないっす」

碇(たしかに杏香ちゃんの言動は正しいけど、窮屈すぎて不満が出てくるんだよな)

二年生部員「このままじゃチームの志気にかかわるっす。ここはキャプテンが一つビシッと言ってやってください」

碇(このままじゃ問題かも……)

碇「わかった。ちょっとマネージャーと話してみる」


・・・・・・・・・・・・

 練習後

杏香「……で、練習後に私を呼び出したと思えばそんなことか」

碇「そんなことじゃないよ。チーム間の仲が悪いのは問題だ」

杏香「たしかに同じチーム内での不仲はあまりよろしくはないが……
   ではキャプテンに聞くがこの場合、私が悪いのか? 私が謝ればそれでことが解決するのか?」

碇「そ、それは……」

A.悪いよ
B.悪くないけど
C.誰が悪いという話じゃないよ


A
碇「悪いよ」

杏香「そうか……わかった。明日謝ろう。それでいいんだろう?」

 ガラッ、タッタッタッタ

 次の日杏香ちゃんは本当に謝ったらしく、さらにその日以降、杏香ちゃんへの不満を聞かなくなった。
 ただそれ以来、俺は杏香ちゃんに碇先輩と呼ばれることはなかった。

 攻略失敗


B
碇「悪くないけど」

杏香「だったらなぜ私が謝らないといけない?」

碇「謝れって言ってるんじゃないよ。杏香ちゃんならもっと上手く立ち回られるはずだろ?」

杏香「…………そんなの、無理だ」

碇「杏香ちゃん?」

 杏香の好感度が1上がった。


C
碇「誰が悪いという話じゃないよ」

杏香「……よく聞くよな『誰が悪いというのではない』と、私はその言葉が大嫌いだ。
   私が悪いなら悪いとはっきり言えばいい」

碇「でも杏香ちゃんは間違ったことを言っているわけじゃないんだし」

杏香「ではなぜ碇先輩はわざわざ私を呼び出して話しているんだ?」

碇「そ、それは……」

 杏香の好感度が1下がった。


杏香「だいたい私の悪口でチームの結束が保たれるならいいんじゃないか?
   しょせん私はチームの一員ではないんだし」

碇「そんなことない! 杏香ちゃんだって立派なチームの一員だよ」

杏香「本気でそう思っているのか?」

碇「当然だろ」

杏香「では聞くが、もし私の言ったことを部活監督やコーチが言ったとしたらどうなる?
   不満は出るだろうが、今のように碇先輩が直接コーチに談判することがあるか?」

碇「それは、ないだろうけど……」

杏香「つまりそういうことだろ? 私が年下のマネージャーだからいろいろ言われるのが気にくわないんだろ?」

杏香「はは、笑わせる。だいたいどこの部活でもマネージャーもチームの一員と言っておきながら、
  結局のところチームの雑用係程度にしか思ってないんだろうさ」

碇「そんなこと……」

杏香「……だが、私に何の変化もなければ碇先輩の印象が悪くなって本当にチームが不仲になりかねんか。
   しかたない、碇先輩、協力してくれ」

碇「え?」


・・・・・・・・・・・・・

二年生部員「ふう……あの口うるさいマネージャーも最近はようやく礼儀を覚えてきて、
     これでのびのび野球ができるってもんだ……って、キャプテン?」

碇「ん? どうかしたか?」

二年生部員「な、なにやってるんすか?」

碇「いや、ここらへん土がちょっとデコボコしてて、イレギュラーバウンドが起こったら危ないからな。
  トンボかけてるんだよ」

二年生部員「キャプテンがそんなことしなくても……おい! 一年!
      キャプテンがトンボかけてるんだぞ。さっさとかわらんか!」

一年生部員「は、はい!」

・・・・・・・・・・・・・

碇「……これで良かったの?」

杏香「ああ。しかし郷に入れば郷に従えというのは偉大な言葉だな。
   私はこの言葉はあまり好かないが使い勝手が良くてなかなか便利な言葉だ」

碇「……」

 杏香の好感度が2あがった。


碇「ふう……納得いかないところの自主練習してたらすっかり暗くなったな。
  あれ? 部室にまだ電気がついてる」

A.誰かの消し忘れかな?
B.きっとまだ誰かいるんだろうな


B
碇「きっとまだ誰かいるんだろうな。今日は疲れたし、さっさと帰ろう」


A
碇「誰かの消し忘れかな? つけっぱなしだと後で怒られるし、消しに行こう」

・・・・・・・・・

 ガラッ

杏香「ん?」

碇「あっ、杏香ちゃん」

 部室をあけるとミーディングで使うテレビがつけてあり、それには録画した去年の秋季大会予選の俺たちの試合様子が流れていた。

杏香「碇先輩か……忘れ物か?」

碇「いや電気ついていたから消し忘れかなって……何をしているの?」

杏香「スコアをつける練習だ。これからは私がやらないといけないからな」

 そう、マネージャーの仕事というのは単に練習の手伝いをするだけではない。
 試合のスコアブックをつけるのもマネージャーの仕事である。


杏香「しかしただ眺めているだけではわからなかったが、こういうふうに改めて観察してると面白いものだな」

碇「まあ、スコアをつけるのが楽しい人もいるぐらいだしね」

杏香「それもあるが……あ、このバッター内角を狙っているな」

碇「え?」

杏香「前の打席より足幅が狭まっている。それに、バットも心もち短く持っているしな引っ張るつもりだろう」

 それは自分たちの試合だから覚えていた。たしか俺はこのとき須田君に外角にストレートを要求して、

 『キーン!』

杏香「うん、見事に相手の裏をかいた配球だな」

 ショートゴロに打ち取ったんだった。

杏香「次の打者は……前の打席よりバッドがねているな。この前の打席の様子からしておそらく変化球待ちだろう」

碇「きょ、杏香ちゃん……」

杏香「ん? なんだ?」

碇「杏香ちゃんは相手の待ち球がよめるの?」

杏香「よめるというか、一番起こりうる確立が高いものを予測しているだけだ。
   これは録画だからじっくり相手の様子が見られるし、前の打席の様子と比べられるからな」

 『カキーン!』

 変化球でせめた須田君の球は綺麗にセンター前へとはこばれた。

碇「きょ、杏香ちゃんって……」

A.すごいね
B.嫌なやつだね
C.キャッチャーにむいているかもね


A
碇「すごいね」

杏香「そうか? データはそろってるし、それなりに経験を積めば誰でもできると思うのだが。
   それより、今の変化球攻めはなかったんじゃないか?」

碇「……はい、すみません」ドヨーン

 杏香の好感度が1下がった。


B
碇「嫌なやつだね」

杏香「……そうかもな。言い換えてみれあ人の粗探しが上手いようなものだからな」

碇「違う違う、相手チームにとってはって話だよ」

杏香「そうか、それなら褒め言葉だな」

 杏香の好感度が1上がった。


C
碇「キャッチャーにむいているかもね」

杏香「……おそらく無理だろうな」

碇「え? どうして?」

杏香「これは客観的に相手を見られるからとれる戦法だし、第一私のリードじゃ効率ばかりを考えすぎてピッチャーに窮屈を強いてしまう」

碇「そんなこと……」

杏香「いいんだ。自分のことだから自分が一番わかっている。
   それでも私はその戦法しかとれないんだ。なにしろ堅物の愚か者だからな」

碇「……だったらピッチャーだね」

杏香「え?」

碇「杏香ちゃんがピッチャーで俺がキャッチャー。そして杏香ちゃんがサインを決める。
  そうすれば誰にも窮屈な思いをさせなくてすむんじゃない?」

杏香「……ふふ、たしかにそれは面白そうだな」

 杏香の好感度が3上がった。


杏香「碇先輩は桃の木の精の話を知っているか?」

碇「桃の木の精? いや、知らないけど」

杏香「そうか」

碇「それがどうかしたの?」

杏香「いや、なぜかふと思い出してな」

碇「ふーん、どんな話なの?」

杏香「私も誰から聞いたのかは忘れたのだが、たしかどこかにある桃の木にいつも女の子がいてその女の子が桃の木の精である。
   という話なのだが……」

碇「桃の木か……木じゃないけど、桃に関する噂なら知っているけどなあ」

杏香「近くの街でたまに目撃されるピンク色のヒーローのことか?」

碇「うん。女性のようだがマスクをとらないから実は中身は男なんじゃないかといううわさがあるやつ」


杏香「ピンク色のヒーローの存在は間違いなく確定的のようだが、それも考えてみれば不思議なうわさだな」

碇「何が?」

杏香「女性のようだが男なんじゃないかというところがだ。
   もし最初からピンク色のヒーローを男だと疑っているなら女性のようだがという言葉はつかないだろう。
   つまり、最初の方はピンク色のヒーローが女性だと匂わせるようなことがないとおかしい」

碇「そう言われればそうだね。まあ、どちらにしても異性であると疑わられるのは本人にとっては気分がよくないだろうけど」

杏香「それはそうだろうな……はっ、まさか!」

碇「どうかした?」

杏香「桃の木の精の正体がピンクのヒーローじゃないだろうか?」

碇「……どういう意味?」

杏香「桃の木の精というのが暗示的にピンク色のヒーローを指していて、
   女の子が桃の木の精というのはそのヒーローが本当に女の子であることをいっているんじゃないだろうか」


・・・・・・・・・・・

モモコ「くしゅん……何かわらわのことをすごい勘違いされた気がする……」

・・・・・・・・・・・

桃井「くしゅん」

「あれ? ピンク風邪ひいたか?」

桃井「おかしいわねえ。風邪なんてひいたことないけど」

・・・・・・・・・・・

碇「さすがにそれはないんじゃ……」

杏香「いや、これなら合点がいく。おそらく桃の木の精の噂を流したのもピンクのヒーローだろうな」

碇「どうして?」

杏香「碇先輩の言ったとおりだ。本当は女の子なのに中身が男であるという噂が流されているのに怒り心頭に発したんだ」

杏香「しかし直接の否定じゃ弱いからこのように遠まわしで伝えることで気付いた者に説得力を持たせられる。
   急がば回れという考えで遠回しで伝えているのだろう」

A.それ本気で言ってる?
B.さすがにそれは考えすぎだよ
C.もしそうだとしたら夢がないよ


A
碇「それ本気で言ってる?」

杏香「もちろんだ! よし! 決めたぞ碇先輩。私はこの夏、桃の木の精を探す」


B
碇「さすがにそれは考えすぎだよ」

杏香「そうか? よし! 決めたぞ碇先輩。私はこの夏、桃の木の精を探す」


C
碇「もしそうだとしたら夢がないよ」

杏香「そうか? 二つの都市伝説が実は一つのことを指しているというのは面白い話だと思うが」

碇「たしかにそうだけどさ、それだと噂が別の噂を消すためにつくられたみたいなものじゃないか。
  都市伝説とかってそういう合理性からは切り離してつくられるものじゃない?」

杏香「たしかにそうかもしれないが……よし! 決めたぞ碇先輩。私はこの夏、桃の木の精を探す」



碇「ええ!?」

杏香「安心してくれ。ちゃんと先輩たちの夏が終わった後にするから、マネージャーとしての仕事をさぼるつもりはない」

碇「いや、そこを心配したわけじゃないけど……まあ本人がやりたいならいいか」

・・・・・・・・・・・・

須田「……」

 杏香の好感度が3上がった。


 杏香ちゃんの作戦から一ヶ月がたった 。
 たしかに杏香ちゃんの作戦はそれなりに効果的で、今では俺が動かなくなっても彼女が言わなくなっても、
その前と同じぐらい皆真面目に練習に取り組んでいる。

 ガラッ

杏香「これが今後一ヶ月の野球部のスケジュール表です。
   持って帰ってもいいですが一人一枚ずつしかないので、なくさないようにしてください」

 ガラッ、スタスタスタスタ

二年生部員「相変わらず無愛想な女だな」

一年生部員「あいつ、俺たちのクラスで委員長してるんですけど、ちょー規則に厳しくておかげで俺らのクラス、違反者出まくりっすよ」

 だけど、それは結局杏香ちゃんがいなくても杏香ちゃんが口を出す前と同じ状況にしただけで、
部活内での彼女自体の評価が良くなったわけではない。

碇「このままじゃいけないよな……」


・・・・・・・・・

杏香「また呼び出してなんのようだ? 前の問題は解決したはずだが」

碇「してないよ……たしかに杏香ちゃんが言わなくなっても皆練習を真面目に取り組むようになった。
  でも、結局は皆杏香ちゃんの陰口を言い続けているじゃないか」

杏香「はははは、それはいい! 日々の不満をそれで発散してくれるなら大いに悪口を言ってもらいたいものだ」

碇「気にならないのか?」

杏香「あたりまえだ。聞こえない悪口など言われてないのと同じだからな」

碇「でも部活でそんなこと言われると分かった状態でそんな状態で三年間過ごすのは辛くない?」

杏香「三年間? ……ああ、そういえば普通はそうか。誰にも言ってないし」

碇「ん? どういう意味?」

杏香「……碇先輩になら言っても大丈夫か? よし! 碇先輩、私がこれから話すことを他の人に言わないと約束できるか?」

A.約束する
B.約束しない


A
碇「約束する」

杏香「話の内容も聞いていないのに約束するという言葉を私は信じない。
   まあ、約束しないという言葉はそのまま信じるがな」

碇(それって約束するもしないも同じことじゃないか)


B
碇「約束はできない」

杏香「こんなときは嘘でも約束すると言うべきだと思うが……
   まあいい、どうせ知られたところで大した支障にもならんから教えよう」

碇(実は教えたかっただろうなあ)


杏香「……私はな、そのうちこの野球部のマネージャーを辞める」

碇「……え?」

杏香「安心してくれ。碇先輩が引退するより後になるし、別にマネージャー業や陰口が嫌になって辞めるわけではない」

碇「じゃあ、どうして?」

杏香「どうしてもなにも元々野球部のマネージャーになったのは生徒会に入るためだったからなんだ」

杏香「昔からここの学校の野球部が強いことは知っていたからな。
   そこのマネージャーとなれば個人で成績を残していなくても実績としては充分だ」

碇「いきなり野球部に入ったのはそういうわけだったんだ。でもそれだと今の状況だと尚更難しいんじゃない?」

杏香「どうしてだ?」

碇「いや、だってその……杏香ちゃん野球部ではあまり好かれていないから。
  生徒投票でなる生徒会役員には難しいんじゃ……」

杏香「ふふ、逆だよ碇先輩。嫌われているからこそ野球部は私に入れざるを得なくなる。
   碇先輩考えてみろ、私が生徒会選挙に落ちるってことは私が野球部のマネージャーといて居続けることになるんだぞ」

碇「!」

杏香「たとえ誰も私が生徒会に入ったら野球部を辞めること知らなくても、生徒会に入ればそれなりに時間がとられるのは誰でもわかる。
   そしてそれに気付いた野球部は間違いなく一致団結して私を当選させにいく。野球部から私を追い出すために」

碇「……そんな簡単にいくのかな?」

杏香「いくさ。絶対にうまくいく。囚人は合理的に考えるがゆえに一番愚かな行動をとることはすでにわかりきっているんだ。
   それに碇先輩は勘違いしているかもしれないが、私は別に全ての人に嫌われているわけじゃないぞ?
   これでもバレンタインはそれなりにチョコをもらってきたほうなんだ」

碇(それは誇らしげに言うことじゃないと思うんだけど……)

杏香「私は生徒会に入れて計画達成だし、野球部は私を追い出せて幸せになる。
   まさしくwin-winの関係というわけだな。 もちろん碇先輩も私に投票してくれるよな?」

A.投票する
B.投票しない


A
碇「投票するよ。杏香ちゃんならきっと学校を良くしてくれると思うし」

杏香「ふふ、任せてくれ。きっとこの高校に最高の校風をつくってみせる」

 杏香の好感度が1上がった。


B
碇「残念だけど、投票できないよ」

杏香「困ったな。碇先輩なら投票してくれると思ったのだが……理由を聞いてもいいか?」

碇「生徒会選挙は学校を良くする人を選ぶためのものじゃないか」

杏香「そのことに私では力不足とでも?」

碇「そうじゃなくて、俺はまだ杏香ちゃんが選挙に出るって聞いただけじゃないか。
  所信表明や公約を聞いてないのに投票することなんてできないよ」

杏香「……そうだな。私としたことが初めて人に計画を話して興奮していたのかもしれん」

杏香「立候補前に票を固めておくことは普通の選挙では当たり前だがこれは生徒選挙だ。
   せめて形だけでもフェアにやらないとな」

杏香「ありがとう、そして待っていてくれ。きっと碇先輩が私に投票したくなるような所信表明と公約をつくってみせる」

碇「う、うん。頑張ってね」

杏香「ふふ、任せてくれ。きっとこの高校に最高の校風をつくってみせる」

碇(偉そうに言ってみたものの、これは余計なことをしたかも)

 杏香の好感度が3上がった。

碇「今日も居残り練習して遅くなっちゃった。もう皆帰っただろうな。
  あ、また部室の電気がついてる。前は杏香ちゃんがいたみたいだけど今日もいるのかな?」

A.様子を見に行く
B.そのまま帰る


B
碇「さすがに今日は行かなくていいか。帰ろう」


碇「せっかくだし、ちょっと話して帰ろう」

・・・・・・・・・・・・・・・

 ガラッ

碇「杏香ちゃん、お疲れ様」

杏香「ん? 碇先輩か。お疲れ様。今日も残っていたのか?」

碇「杏香ちゃんのほうもね。今日はどうしたの?」

杏香「ああ。スコアをつける練習だ」

碇「えっ? この前の練習試合のときスコアのほうはちゃんとつけれていたと思うけど」

杏香「それはそうなんだがな、あの日はスコアをつけるのにいっぱいいっぱいで他のことまで気が回らなかったんだ」

杏香「うちのチームは試合経験が少なくてどうしても回ごとのベンチでのすごし方が他のチームに比べて問題あると思う」

杏香「それをなおすためにはマネージャーである私がスコアを片手間にチームに呼びかけなければなるまい。
   だから回数をこなしてスコアをつけるのに慣れようとしているんだ」

碇「頑張るね」

杏香「そうか? マネージャーの仕事としては当然のことだし、むしろ遅すぎると思うのだが……」

碇「そうかもしれないけどさ、普段のマネージャーの仕事もやって、
 今もこうして遅くまで残って仕事を覚えてくれるなんてなかなかできることじゃないよ」

碇「そう考えると杏香ちゃんは十分に頑張っていると思う」


杏香「頑張っている、か……碇先輩、あなたは鏡に映った自分が笑えるか?」

碇「え?」

杏香「ときどき、自分自身からこういう声を聞くことはないか。
   ・・・どんなに努力しようと、すべては結局ムダなのだと」

碇「!」

杏香「どんなに努力したところで失ったものが返ってくるわけではないし、どれほど努力しようとこれからの未来なんて限られている」

杏香「若さは無限の可能性を秘めていると言う言葉を聞くが、それはきっと無限の可能性全てを得られるということではなく、
  無限の可能性からわずかな実現できそうなやつを手探りで選び取れという意味なのだろうな」

杏香「そして、その選び取った可能性が実現できる範囲の外にあるなら今私たちがこうして努力を重ねることなんて無意味に等しい。
   ……いや、それ以上に今の努力を虚しく思うだろう。・・・ではなぜ私たちはこんな苦しみを続けている?」

A.ムダなんかじゃない
B.・・・考えたこともなかった
C.先のことなんて気にしない


A
碇「ムダなんかじゃない」

杏香「なぜそう思う?」

碇「今の自分に後悔してないからだよ。
  周りから愚かに見えようとも、たとえ結果がついてこなくたって、自分自身が否定しなければムダなわけないじゃないか」

杏香「……なるほど。所詮価値の違いは視点の違い……たしかにそうかもな……」


B
碇「・・・考えたこともなかった」

杏香「先輩がそう答えるなんて意外だな……いや、私がそう勝手に決めつけていただけか……」


C
碇「先のことなんて気にしない」

杏香「先輩らしい答えだな。だがやらない理屈をこねているよりとりあえず行動を起こすほうがずっと前向き、か……」


碇「杏香ちゃん?」

杏香「・・・私に関して言うなら、「やらずにはいられない」からだ。
   目の前にゴミが落ちていればゴミ箱に捨てねば気がすまん」

杏香「正しいからでも、カッコいいからでもない。
   ただ、やらねばならないと思ってしまったから、やるんだ」

杏香「たとえ鏡に映ったおのれの姿がどんなにこっけいであろうとも・・・やらねばならん。」

碇「……生徒会に入るのもやらなければいけないことなのかい?」

杏香「そうだ。私の目的はこの学校に最高の校風をつくることだからな」

碇「意固地になってるんじゃない?」

杏香「……何?」

碇「前に杏香ちゃんは生徒会に入るために嫌われているみたいに言ってたよね?
  けど今の俺には君が皆に嫌われたから生徒会に入るように見えるよ」

杏香「……では全ては私の嘘だったと? 実は私は何も考えてなくと?
   私はたまたま嫌われたから意地をはって生徒会に入るという話をでっちあげたかわいそうなやつだといいたいのか?」

碇「そうじゃない。杏香ちゃんは賢いからおそらく生徒会のことも今の状況もはじめから考えていたんだろうさ。
  でもそれは半面は上手くいきすぎて、もう半面は上手くいかなかったんだ」

碇「皆、杏香ちゃんの計画通りに君を疎み、嫌い、恐れるようになった。だけどその想定に反して君の心は悪評に耐えられなかったんだ」


杏香「勝手な想像だな。そんな証拠はどこにある?」

碇「努力がムダなんかじゃないかって聞いている時点で今の自分の状況に後悔してるって言っているようなもんじゃないか!」

杏香「……」

碇「鏡花ちゃんは今になって目標に対する意思や決意が鈍った。
  だけどもう周りの状況を目標達成のために変えてしまって後戻りはできない」

碇「だから今の杏香ちゃんは生徒会に入ろうとしている。
  それは君の言う「やらずにいられない」じゃなくて、「それ以外できない」という逃げなんじゃ……」

杏香「碇先輩っ!」

 俺の言葉を杏香ちゃんにしては珍しく大声で遮られる。
 いつも対面していた時は必ず強い意志を感じていた杏香ちゃんの目は顔を伏せられ見えなかった。

杏香「……それ以上はもう、やめてくれ…………お願いだから、やめて………………」

碇「杏香ちゃん……」

 顔を上げないのは俺の言ったことを否定できない悔しさからか、それとも……

杏香「…………今日はもう帰る。すまないが碇先輩、電気のほうは頼んだ」

 スタスタスタスタ

碇「……泣いていたのかな?」

 杏香の好感度が3上がった。


碇「ふう、今日の練習も疲れたなあ。だけど明日は久々のオフだ。ゆっくり休むぞ」

杏香「キャプテン」

碇「あ。須田さん」

杏香「お願いがあります」

碇「何?」

杏香「明日街のスポーツ店に部活の用品を取りに行くんですけど、一人で運ぶのは難しい量になりそうで……」

A.わかった、俺も一緒に行くよ
B.わかった、他の一年に手伝わせる
C.須田君は……

A
碇「わかった、俺も行くよ」

杏香「いえ、別にキャプテンに来てくれというわけでは……」

碇「いいって、どうせ明日は暇なんだし」

杏香「ありがとうございます」


B
碇「わかった、他の一年に手伝わせる」

杏香「ありがとうございます」

碇「おーい、一年」

一年生部員's「はい」

碇「実はかくかくしかじかなんだけど、誰か明日……」

一年生A「あ、俺明日補修があって!」

一年生B「お、俺も俺も!」

一年生C「明日は父ちゃんに一回帰ってこいって言われてて……」

碇「……お前ら都合よすぎないか? はあ、しかたない。俺が行くよ」

碇(まあ、杏香ちゃんを苦手とする気持ちはわかるけどな)

 杏香の好感度が1上がった。


C
碇「須田君は……」

杏香「却下だ……じゃない、無理です」

碇(杏香ちゃんが素に戻ったぞ……須田君……)ドヨーン

杏香「兄が一緒だとどうせ一人でマニアショップに行くのでできれば他を」

碇「じゃあ俺が行くよ」

杏香「ありがとうございます」

 杏香の好感度が1下がった。


・・・・・・・・・・・

 約束当日、俺は人気のない公園にいた。
 閑散としているところで男女の密会なんて弾道があがるようなシチュエーションだが、残念ながらそれはない。
 というか、そこを選んだのは俺じゃなくて杏香ちゃんであった。
 そしてその理由は下手に人目のつくところで野球部の誰かに見られ、変な噂がたつと困るからといういかにも彼女らしい理由だった。

碇「約束の時間まで後五分だ」

「……先輩」

碇「姿が見えないけどまさか杏香ちゃんが遅刻するわけないよな……」

杏香「碇先輩!」

碇「は、はい!? って、きょ、杏香ちゃん!?」

杏香「そうだが、なんで驚いているんだ?」

碇「いや、だって眼鏡が……」

 分厚い眼鏡と前髪で隠れていた杏香ちゃんの顔はかなりレベルが高く、正直今までで一番ドキッとした。


杏香「ああ、そういえば碇先輩に眼鏡を外した姿を見せるのは初めてか。
   印象がちょっと変わるっているかもな」

碇「変わるっていうより、別人だよ……眼鏡なくても見えるの?」

杏香「ああ、問題ない。あれは伊達だからな」

碇「えっ? 嘘?」

杏香「本当だ」

碇「どうしてそんなことを?」

杏香「父からの言いつけでな。私の素顔が周りに知れ渡るとちょっとまずいらしい。
   小さいころはよくわからなかったが、最近になってわかったよ。こういうことだった」

 杏香ちゃんは自身の長い髪を持ち上げてポニーテールみたくまとめる。
 するとそこにいたのは……

碇「神条、紫杏……?」

 世間に疎い俺でも知っている有名人、神条紫杏だった。


碇「……杏香ちゃんって神条紫杏の親戚だったの?」

杏香「わからない。碇先輩も知っているとおり私にはもう肉親の可能性がある親族はいないからな。
   だが、これで私が素顔を出せない理由がわかるだろう?」

碇「……」

 神条紫杏。若くしてジャジメントの日本支社の最高責任者に就き、さらにオオガミとジャジメントを合併させ、ツナミグループという名の世界最大の財閥を立ち上げた超敏腕女社長というのが数年前までの彼女の評価だった。

 しかしツナミのその後のジャジメントが行っていた悪事が明るみに出たとき、それらは全て神条紫杏の代から存在し続けていたものと報道なされ、彼女は評価は誰もだうらやむ高嶺の華のから魔王と呼ばれ恐れられるようになるほどにまで落ちた……いや、反転した。

 だから杏香ちゃんのお父さんが杏香ちゃんに眼鏡をかけるようにさせたのもおそらくそういう世間の目から杏香ちゃんを守るためだと容易に想像がつく。
 あの人は本人自ら言ったように決して善人ではなかったし、むしろ悪人だったけれども裏切るようなことはしなかった。

 杏香ちゃんは俺が納得したのがわかったのか手を離し再び髪を垂れ流す。

杏香「安全面でいえば本当は眼鏡もかけるべきなんだろうが、野球部の誰かに見つかるとも限らないしな。
   髪を下ろしておけばまあわからないだろうということで、眼鏡だけは外した」

杏香「さて、説明はそんなところだ。行こうか碇先輩」

碇「う、うん」

 いつもと違う顔を見せる杏香ちゃんに俺はドキドキしながらもついていった。


・・・・・・・・・・・

碇「……まだ店が開いてない?」

杏香「すまない。どうやら曜日によって開く時間が異なっているようだ。
   今日は後二、三時間したら開くそうなんだが……」

碇「うーん。じゃあ映画でも行く?」

杏香「映画?」

碇「うん。映画なら時間的にも丁度だと思うし」

杏香「……いや、やめておこう」

碇「えー、どうして?」

杏香「私たちは遊びに来たわけじゃないからな。
   罪を犯した囚人が互いに罪を黙秘するよう示し合わせればいいのかもしれないが、そもそも罪を犯さなければ囚人になることはない。
   一緒に映画館にいるところを他の誰かに見られたらまずいからな」


碇「そうかもしれないけどさ、だったら残った中途半端な時間をどうやって潰す?」

杏香「うっ……」

碇「だいたい、こうなったのも杏香ちゃんのせいだし」

杏香「そ、それは……悪いと思っている」

碇「本当に?」

杏香「本当だ!」

碇「じゃあ、お詫びに映画を一緒にみようか」ガシッ

杏香「へ? ちょ、ちょっと、碇先輩、引っ張るな!」

碇「大丈夫、大丈夫。俺のわがままだから、映画の代金は俺がおごるからさ」

杏香「そういう問題じゃなくてだな……」

・・・・・・・・・・

 見た映画の内容はよくある勧善懲悪もの。
 一般人だった主人公とヒロインの前に正義の味方が表れ、なんやかんやで正義の味方は死ぬものの、
主人公とヒロインが見事悪の親玉を改心させたという話だった。


・・・・・・・・・・

碇「お、面白かったね……」

杏香「……ああ、面白かった…………」

碇(どうしよう、物語終盤からずっと機嫌が悪いぞ……やっぱり映画に誘ったのは失敗だったか……?)

杏香「面白かった……だが、気にくわん」

碇「え?」

杏香「脚本家はいったいどういうつもりであのキャラはああいう扱いにしたんだ?」

碇「あのキャラって……」

A.主人公
B.ヒロイン
C.正義の味方
D.悪の親玉


A
碇「主人公?」

杏香「たしかにあの優柔不断さには腹がたったが……そうではない」

碇「じゃあ何が気にくわなかったのさ?」

杏香「それは……いや、やめておこう。わざわざ文句を言うために見たわけじゃないからな。碇先輩行こう、店がもう開いてる」

碇「……わかった」

 杏香の好感度が1上がった。


B
碇「ヒロイン?」

杏香「たしかにあの終始悲劇のヒロインぶっている姿には腹が立ったが……そうではない」

碇「じゃあ何が気にくわなかったのさ?」

杏香「それは……いや、やめておこう。わざわざ文句を言うために見たわけじゃないからな。碇先輩行こう、店がもう開いてる」

碇「……わかった」

 杏香の好感度が1上がった。


D
碇「悪の親玉?」

杏香「たしかにあれほど悪事を重ねていたのに鞍替えしたとたんいいやつ扱いされたのは腹が立ったが……そうではない」

碇「じゃあ何が気にくわなかったのさ?」

杏香「それは……いや、やめておこう。わざわざ文句を言うために見たわけじゃないからな。碇先輩行こう、店がもう開いてる」

碇「……わかった」

 杏香の好感度が1上がった。


C
碇「正義の味方?」

杏香「そうだ! 彼は報われてないじゃないか!
   せっかく世のため人のため、真面目に善を積み重ねてきたのに結局は志半ばで死に、その結末すら知ることはできない。
   ……そんなのあんまりじゃないか」

碇「……でも、それは」

杏香「ああ、わかってる。絶対のピンチに頼れる仲間がいなくなる。
   物語を面白くするものとしては最高のスパイスだろう。私だってそれでどきどきしたさ。
   でも、だからこそ、そんな真面目で良い人が報われる結末があってもいいはずじゃないか……」

碇「……」

杏香「……すまん。熱くなりすぎたな。碇先輩、ありがとう。
   楽しかったよ。これは本心だ」

碇「……それならよかったよ」

 杏香の好感度が3上がった。

・・・・・・・・・・・・

「あ、あれはミス紫杏!? クシュン!
 どうしてあのメスザルが生き、クシュン…ていクシュン…これは調べクシュン…るひつよクシュン。ああ! もう!!」

今日中に終わらせるつもりだったけど無理そうだから、明日また投下するでやんす

碇「ねえ、杏香ちゃん」

杏香「なんだ?」

碇「杏香ちゃんってたまに囚人がなんとかって例えするよね。あれってなんなの?」

杏香「ああ、あれは……碇先輩は囚人のジレンマというゲームをしっているか?」

碇「うーん、名前くらいは聞いたことあるような……」

杏香「これは司法取引のシナリオがあるアメリカが発祥のゲームで、信頼と合理性が試されるいろいろと面白いゲームだ」

杏香「このゲームでは囚人A、囚人Bが別々に捕まっていて警察にそれぞれこう言われる。
   『もし、お前らが二人とも黙秘したら二人とも懲役2年だ。
    しかしどちらか片方が自白すればそいつはその場で釈放、代わりに黙秘したほうの懲役が十年になる。
    だが両方とも自白したら二人とも自白すれば懲役5年だ』と」

杏香「そしてこのときの囚人の行動を考えるゲームだ。ゲームの意味はわかったか?」

碇「う、うん……なんとなく」

杏香「本当か? では聞くが合理性のみを考えた場合、囚人Aは黙秘と自白どちらをしたほうがいい?」

碇「え、えっと……」

A.黙秘
B.自白


A
杏香「違う、自白だ。うーん、私の説明の仕方が悪かったか?」

碇「いや、杏香ちゃんの説明というより作者が……」

*本当にすみません。囚人のジレンマはwikiに普通にあるので知りたい人は調べてね*


B
碇「じ、自白……?」

杏香「そうだ」

碇(ほっ、あってて良かった)



杏香「囚人Aが黙秘をすればAは最低でも2年、最高で10年懲役に服さなければならない。
   逆に自白をすれば服す期間は最低で0年、最高でも5年だから、どちらが得なのかは明白だな」

碇「自白するほうが良いってこと?」

杏香「合理性のみで考えるならそうなる」

杏香「だが考えてみろ、二人とも自白するなら懲役五年になるが二人とも黙秘すれば懲役は二年ですむ。
   このゲームでは禁じ手とされているが、もし囚人たちが相談できるなら二人とも黙秘しようという話になると思わないか?」


碇「たしかにそうだけど……杏香ちゃんはそうはならないと考えているんだよね?」

杏香「ふふ、わかっているじゃないか」

杏香「たとえ囚人たちは相談したとしても取り調べをバラバラに行えば疑心暗鬼に陥って自白する囚人が間違いなく出てくるだろう。
   人々が己の利権を考えるために合理的に愚かな選択肢を選ぶ。私はこの話のそんなところが興味深くてたまに使ってしまうんだ」

杏香「まあ、この話はそんなことを言う話ではないから私の使い方はいわば誤用なんだけどな。自覚はしてる」

 ここで杏香ちゃんの話は終わったと思ったがどうやら一息をついただけのようでまだまだ話は続きそうだ。

杏香「囚人のジレンマについておもしろい話が一つある。
   この話はゲームと言ったが、実際に囚人を黙秘するか自白するかパターンをプログラムして競う大会があった。
   そしてその初代大会で優勝したのがなんと、しっぺ返しを基本にしたプログラムなんだ」

碇「しっぺ返しってあのしっぺ返し……?」

杏香「ああ。相手の行動をそのまま返すあのしっぺ返しだ」

杏香「相手が前回黙秘したなら黙秘し、前回自白されたなら自白し返す。
   つまりの前回の行動をそのままやり返す戦法が見事このゲームを制したんだ。
   まあ最近はさすがに負けるらしいが今でも強力な戦法の一つらしい」


碇「そんな単純な手が?」

杏香「そうだ。そしてそんな単純な手が強いという事実に教訓めいたものを感じないか?」

杏香「……人生、全ての人を信じ黙秘する聖人よりも、自己の利権だけを求めて裏切り自白し続ける悪人よりも、
  やられたらその場でやり返し、後には決して引きずらない。
   あるいみ子供のような生きることこそ一番幸せに近い、のかもしれない」

碇「……そうかもね」

杏香「……もし」

碇「え?」

杏香「もし碇先輩と私がこの囚人の状態におかれたら、碇先輩はどうする?
   私を信じて黙秘するか? それとも自白するか?」

碇(この場合、黙秘する=信じる、自白する=信じられないということかな?)

A.黙秘する
B.自白する
C.状況による


A
碇「黙秘する……かな」

杏香「いいのか? 私みたいなやつを信じて」

碇「杏香ちゃんだから、だよ」

杏香「……そうか。なら私も、もしものときは碇先輩を信じよう」


B
碇「自白するかな。悪いことしたならちゃんと償わないと」

杏香「そういう話じゃないんだが……まあいいか」


C
碇「状況しだいかも。杏香ちゃんは?」

杏香「自白する」

碇「えっ?」

杏香「悪いが碇先輩、私はこういうときに逃げの選択肢を選ぶ輩を信用できないんだ。
   あいまいな言葉を言うやつほど、何かをしでかしたときにあいまいな言葉を盾に逃げるからな」

碇「そ、そう……」


碇「須田さん、頼んでいた備品についてなんだけど……」

杏香「そのことなんですけど、キャプテンちょっとこっちに来てもらってもいいですか?」

碇「わかった」

 スタスタスタスタ

一年生部員「キャプテン、よくあんな女の呼び出しにいちいち付き合っていられるっすよね。
      もしかして付き合ってるんすかね?」

二年生部員「キャプテンに限ってそれはないだろ。あの女、愛想の一つもふりまかねえし。
      それよりお前は早く準備しろ」

一年生部員「は、はいっす」

須田「……」


・・・・・・・・・・・・・

碇「ふう……今日も練習頑張ったぞ」

須田「碇君」

碇「ん、何だい? 須田君」

須田「最近、おいらの妹と仲が良いでやんすね」

碇「へっ……そ、そうかな? 普通だと思うんだけど」

須田「隠さないでいいでやんす。
   二人きりになると昔の呼び方に戻していることもおいらは知っているでやんす」

碇「うっ……」

碇(まさか須田君にばれているとは……)


須田「付き合っているでやんすか?」

碇「いや、まだそこまでいってないけど……」

 なるべく言葉を濁しながら返しを考えていく。
 須田君のことだ、おそらくキャプテンとマネージャーなんて不謹慎でやんす。なんて言うかもしれない。
 そう考えて返答も決めていたのだけれど、それは裏切られることになった。

須田「……やめたほうがいいでやんす」

碇「今度須田君が欲しがっていたプラモデルあげるから皆には……えっ?」

須田「碇君がだれと付き合おうとそれは自由でやんす。
   ……けど、おいらの妹だけはやめたほうがいいでやんす」

碇「須田君、それって……」

A.やきもちかい?
B.心配してるの?
C.……わかった。言うとおりにするよ


C
碇「……わかった。言うとおりにするよ」

 もともとこういうふうに誰かに感づかれないのが杏香ちゃんとの約束だったのだ。
 周りにばれた以上、杏香ちゃんとの接触を諦めた方だいいだろう。

碇「須田君教えてくれてありがとう」

 ガラッ、スタスタスタスタ

須田「……これで良かったでやんす」

 攻略失敗


A
碇「やきもちかい?」

須田「そんなわけないでやんす」ポカッ!

碇「あいたっ!」

須田「まったく、人がせっかく心配してやったのにふざけるなでやんす」

碇「ごめんごめん、でもどうしてそんなことを?」


B
碇「心配してるの?」

須田「そうでやんす」

碇「須田君って意外と過保護なんだね。でも大丈夫だよ、杏香ちゃんなら……」

須田「違うでやんす。おいらが心配しているのは妹じゃなくて碇君でやんす」

碇「え?」


須田「あの子……妹は、中学生のころ部活をやっていたでやんす」

碇「ああ、聞いたことあるよ。たしかバスケ部だったんだよね?」

須田「知っているでやんすか!?」

碇「うん……事故で怪我しちゃって部活を辞めなければいけなかったって……」

須田「そうでやんすか……」

碇「それがどうかしたのかい?」

須田「……それ本当は事故じゃないでやんす」

碇「えっ?」

須田「正確には妹はわざと怪我をしたんでやんす。たぶん……」

碇「なんだって!? ど、どうしてそんな……」

須田「おいらたちの中学のバスケ部は評判悪かったのは知ってるでやんすよね?
   特においらたちの代はエースの素行が一番悪かったみたいでやんす」

 中学のころは野球に熱中だった俺は他の部活の事情を良く知らない。
 だけど運動部というのは不思議なもので上手いやつの中にも問題があるやつが一定は必ずいるということは知っている。
 そしてその部活自体の評判が悪いときはたいていエース級のやつが元締めだったりするのだ。


須田「妹はその状況を変えたかったみたいで、部活をしている傍ら部の健全化を図ったらしいでやんす。
   だけどそれはやっぱり周りに目をつけられることになって、妹は虐められていたそうでやんす」

碇「じゃ、じゃあ、杏香ちゃんの怪我はそれで……?」

須田「違うでやんす。それだったらわざととまでは言えないでやんす。
   妹がしたのは、あえて虐めをエスカレートさせて言い訳ができなくなるまで過激になったところで
  証拠を揃えた上で先生にバラして虐めの主犯格たちを退部させたんでやんす」

碇「そんなことって」

須田「おいらも最初は疑っていたでやんす。
   でも虐められても妹は普段と変わらなかったし、ばらしたタイミングも大会直後と出来過ぎていたでやんす」

 普段このような噂を話すときは嬉々としていることの多い須田君だったけど、言い難そうにしている様子に嫌な信憑性があった。

須田「そして虐めの主犯格たちは退部したんでやんすけど、妹はそれに納得できなかったそうでやんす。
   『退部ではなく、退学させろ』妹は先生たちにそう言ったそうでやんす」

 虐められた子が虐めた子の処罰に対して退学を求める。
 これは言われた先生側からすれば、虐められた側の復讐のように思えるだろうけど杏香ちゃんとそれなり会話を交わした今の俺にはそうは思えない。
 おそらく杏香ちゃんは個人的な怨恨は関係なく、あえて受けていた虐めは一般的には本当に退学に相当するものだったのだろう。
 そして杏香ちゃんはその一般的に妥当な処分を求めただけだと。

お、2つ目か?

前回は>>119までであってる?


須田「もちろん妹の意見は受け入れられるわけなくて虐めた側は退部と数日の謹慎処分になったそうでやんす。
   だけどやっぱり話はそれだけじゃすまなくて……虐めた側が妹に逆恨みに出たそうでやんす」

 そんなことしても自分たちの立場が悪くなるだけでやんすにね。と須田君は付け加えた。
 しかし虐めた側の行動としてはおそらくこれは当然の行為なのかもしれない。

 部活という後ろ盾を失った悪党のすることは往々にしてワンパターンだ。自爆覚悟の報復行動それのみである。

須田「妹の怪我はそれが原因でやんす。どんなことをされたのかはおいらも詳しくは知らないでやんす。
   けど怪我したときはたまたま見回りの警備員の人がうずくまっている妹とそこから逃げようとしていた虐めた側を発見したそうでやんす」

須田「そこまでいくともう学校のほうもかばいきれなくて、転校という形で虐めた側は学校を去っていったそうでやんす」

碇「……須田君が杏香ちゃんの怪我をわざとだって言うのは、杏香ちゃんが怪我を自分で仕組んだ……かもしれないから?」

須田「それもあるでやんすけど……事故の後、元エースがおいらの家まで来たでやんす」

須田「その時に『お前の言うとおりに発言したのに裏切りやがったな!』って言って、
   その後は妹が二人で話をつけてくるって言って出ていって、無事に帰ってきたでやんすけど、考えてみたらおかしいでやんす」

碇「……たしかに、被害者がためらいもなく加害者と二人きりになるって普通は言わないよね。
  それも自分からなんて……でもそれが仕組んだものだったら、怪我自体が自らしたものだったら話は別か……」

 須田君は肯定も否定もしなかった。

須田「……妹はきっと自分が正しいと思うことをしているだけでやんす」

須田「たとえそれにどれだけ犠牲をはらうおうと、立ち止まらずにやる。その犠牲が誰だとしても……
   それでも碇君は妹についていけるでやんすか?」

A.いける
B.いけない
C.……


A
碇「ついていけるよ。だって杏香ちゃんは正しいことをしているだけじゃないか。
  そんな彼女が一人傷つくのをほうっておけないよ」

須田「……そこまで言うのならおいらから言うことはもうないでやんす」


B
碇「ついてはいけないかな」

須田「だったらすぐにでも妹から離れるでやんす。そうすれば」

碇「違うよ須田君、そういう意味じゃない。
  たとえ正しい目的があっても犠牲の出る方法なんて正しいことをしているなんて言えないじゃないか。
  だから止めてあげるんだ。俺が、彼女が正しいことのために間違ったことをしてしまう前に」

須田「……そこまで言うならおいらから言うことはもうないでやんす」


C
碇「……」

須田「悩む程度ならやめた方がいいでやんす」

碇「違う! 大事なことだがら迷うんだ」

須田「同じことでやんす。何かを選ぶときに迷うことや二つとも選ぶことなんておいらたち凡人じゃなくて選ばれた人の特権でやんすよ」

碇「須田君……」

 攻略失敗


 そう言いながらも須田君の顔は晴れない。

須田「ただ……」

 須田君はおもむろに口を開く。何か言葉を探しているみたいで俺はそれを待った。

須田「……勘違いしているでやんす」

 そして言葉がまとまったのか、須田君は続きを口にする。

須田「妹はある勘違いをしているでやんす。だから碇君にはそれを伝えておくでやんす」

碇「勘違い?」

須田「妹はやっていることは滅茶苦茶だし、言っていることは小難しくて大人っぽいでやんす」

須田「けど反面、世の中は悪い人が得をして良い人が損をする。
   そう思っている子供っぽいところがあるでやんす。それが間違いでやんす」

 心当たりは腐るほどあった。彼女は真面目で正義であるがゆえに他の正義を妥協することはない。
 だけどそれは迷わないということではない。
 迷ったところで周囲の環境が彼女を目標へと押し進め、最後には彼女は意地で目的をやり遂げる。

須田「この世の中は悪いやつがのさばるのでも、良いやつが馬鹿をみるわけでもないでやんす。
   ……たとええ貧乏くじを引いても、それでも笑って許せるのが良い人なんでやんすから。
   勝手でやんすが碇君は妹にそのことをそれとなく言ってほしいでやんす。おいらじゃ力不足でやんすから」

碇「……わかった」

 そんなことはないだろう。
 ちょっとした家庭の事情はあれどこれほどにまで自分のことを思っている家族の言葉を杏香ちゃんが無下にするはずない。
 そう思ったけれど、俺はそれを言うことはなかった。
 だって今の言葉は須田君が俺を信頼して杏香ちゃんのことを託したに違いないのだから。


・・・・・・・・・・

杏香(さて、私もそろそろ帰るか)

 その日のやるべきことも終わり帰ろうとしていた杏香のもとに一人の人物が表れる。
 その人物は夜の闇に溶け込むように真っ黒な服で全身を覆っており、その姿は見えない。
 だけど様子からなんとなく杏香は相手が女性であることを察知した。

ルッカ「……はじめまして、ミス…クシュン」

杏香(……誰だ?)

ルッカ「失礼、ミス須田、クシュン。
    これは気にしないで…クシュン、ださい。夏風邪クシュン…ようなもクシュン…す」

杏香「……あなたは誰だ?
   会った覚えはないし、あなたもはじめまして言ったからには顔を合わせたこともないはずはないだろう?」

ルッカ「クシュン、クシュン…これ、クシュン…を……」スッ

 女性が差し出した紙を杏香は受け取る。
 さすがに怪しいとは思うものも、読むだけなら問題ないと思い読み始めた。


杏香「……ふむ、ルッカ・シャムール……外国の方だったか。あまりに日本語が流暢だからわからなかったよ」

ルッカ「クシュン、クシュンクシュン」

 くしゃみがやや大きくなったが杏香は気にせずに読み進める。

杏香「『我々のもとに来て導いてほしい』……か。悪いがこれで来るとでも思っているのか?
   日本では見知らぬ人について行ってはいけないと小学生のころに教えられているんだ」

ルッカ「クシュン! クシュン!!」

 杏香としては人を前にしてただ淡々と読むのは失礼だと思ったから、話しかけるかたちで言っていたのだが、
女性は相槌をうたないし、くしゃみも大きくなるだけだからもうそれ以上は何も言わず速やかに全分に目を通した。

 そして、

杏香「!」

ルッカ「……クシュン」ニヤリ

 文章の最後に書かれていた文に驚いた杏香に女性は服の陰で笑った。


杏香「……くだらんハッタリだ。これが本当だとしたらわざわざ私のような小娘一人を招くことに使うまい。
   他にもっと有効な活用法があるはずだ」

ルッカ「では断る、クシュン…と……?」

杏香「・・・だがこれほどのラブコールを無視するのもどうかと思う。
   この情報のある限り証拠資料。それをいただけるならこの申し出を受け入れよう」

ルッカ「言ってクシュン…おきますがコピーはとってあります。
    それにそれを使って私たちに何かしようと企んだところで……」

杏香「かまわん。たしかにこれは使う予定だがそれは私が個人的に使用するだけだ」

ルッカ(やはりどこまでいっても憎たらしい女ですね)

ルッカ「いいでしょう。クシュン…ではひとつ、あなたに面白い真実を教えしましょう」

杏香「ほほう?」


碇「おーい、須田さん」

杏香「…………」

碇「須田さん?」

杏香「ん? 碇先輩か……何だ?」

碇「杏香ちゃん、口調口調」コソコソ

杏香「あっ! ……す、すみません」

碇「別に謝らなくていいけど、ミスをするなんて須田さんらしくないね」

杏香「……」

碇「いつもの須田さんなら」

杏香「……誰ですか?」

碇「へ?」

杏香「いつもの私って誰ですか? 私らしさってなんですか? キャプテンは私の何を知っているんですか?」

碇「……杏香ちゃん?」

杏香「どんな私も所詮偽物なのに……私らしさなんてあるわけないだろっ!」

 スタスタスタスタ

碇(……どうしたんだろう? 偽物、か……)


・・・・・・・・・・・

碇「放課後だ。練習にいかないといけないけど杏香ちゃんのことが気になる。
   ……どうしよう?」

A.杏香のところにいく
B.そんなことより練習だ
C.須田君を頼ってみる


B
碇「……明日は試合なんだ。杏香ちゃんのことは後回しにしよう」

 バッドエンドへ


A
碇(……こういうのは本人のところに直接行かないとな)


C
碇「須田君に相談してみよう」

・・・・・・・・・・・・

碇「須田くーん」

須田「どうしたでやんすか?」

碇「実は今日杏香ちゃんの様子がおかしくて、須田君は何か知らない?」

須田「すまないでやんすがおいらにはわからないでやんす。もう一緒に住んでいるわけでもないでやんすし」

碇(そういえば、俺たち野球部はほとんど雑談寮に住んでいるんだった……本人のところに直接行こう)


・・・・・・・・・・・・・

碇「須田さん」

杏香「あっ、キャプテン……さっきはすみませんでした」

碇「う、うん。別に気にしてないからいいよ。でもどうしたの? 何か相談があるなら……」

杏香「キャプテン、あのこれ……」スッ

 言葉を遮るように杏香ちゃんは一冊のノートを差し出してきた。

碇「これは……? 何かいろいろ書き込んでいるみたいだけど……」

杏香「偵察ノートです。甲子園を競うことになるニュース高校、深夜高校、VIP高校、
  それと甲子園で当たるであろうめぼしい高校のデータが書いてあります」

碇「え……? そ、そんなものどうやってつくったの?」

杏香「いろいろ親身になって助けてくれる人がいまして、その人に手伝ってもらいました。
   ……いや、その人がつくってくれたと言うべきかもしれません。私は彼女が集めてくれた情報をまとめただけですから」

碇(それでもマネージャーや学校と兼用してたんだから相当すごいと思うんだけどな……)


杏香「本当は兄に預けるつもりでしたけど、キャプテンに預けます。
   是非、甲子園優勝まで役立ててください。応援してますから」

碇「な、なんだよその言い方……まるでいなくなるみたいじゃ……」

杏香「それではキャプテン、すみませんが私は今日休まさせてもらいます。
   他に用事があるので、ではこれで……」

 スタスタスタスタ

碇「杏香ちゃん!」

 ピタッ

杏香「……キャプテン、突然名前で呼ばないでください。誰かに聞かれたら誤解されるので」

 スタスタスタスタ……

碇「……」


・・・・・・・・・・・

碇「……ふう。今日はこのくらいにしておくか」

 明日の試合に備えて練習を早めに切り上げる。
 あの後は杏香ちゃんの姿を見ることなく、俺は一人雑談寮まで歩いていた。

碇「はあ……」

 足取りが重い。その理由なんてわかりきっていた。でも彼女は俺の助けを必要としない。
 そのことが悔しくて、だけど何をすればわからなくて、無力感でいっぱいだった。
 そんな俺の前に一つ影が表れる。

朱里「はーい、こんばんわ」

碇「こ、こんばんわ……」

 表れた影は眼鏡をかけた小柄な女性だった。

朱里「あんた、たしか碇っていうのよね?」

碇「そ、そうですけど」

朱里「ちょっと顔貸してくれないかしら?」

碇「いや、俺、門限があるので」

 ガシッ!

碇「へっ? ちょ、ちょっと……」

 スタタタタタタ


・・・・・・・・・・・

 俺の拒絶の意思を無視して襟をつかんだ女性はそのまま俺を道端の雑木林まで引っ張り込んだ。

碇「いててて……力お強いですね」

 とりあえず逆らうと勝てないとわかったのでなるべく穏便な言葉を選ぶ。

朱里「……あんた、あの子に何したの?」

碇「あの子? 誰のことですか?」

朱里「杏香に決まってるじゃない。それとも何、あんたも他に女の子をはべらしているの?」

碇(あんた、も……?)

碇「い、いえ。いませんけど……杏香ちゃんとお知り合いですか?」

朱里「まあね。世間知らずで、自信過剰で、真面目で、バカなあの子の保護者ってところかしら。
   まあ実際に保護者ってわけではないんだけど」

 知り合いにしてはやけに辛辣な評価。
 しかしそれは杏香ちゃんのことを知っているからこそ出てくる的確なもので俺は彼女の言っていることが本当だと判断した。

朱里「本当にあの子に何もしてないのよね?」

碇「してません! むしろ俺が教えてほしいくらいです! 最近杏香ちゃんの様子がおかしくて……」

朱里「……はあ、本当にどうして嫌な予感はあたるのかしら」ボソ

 その呟きは俺に届くことなく、女性はおもむろに口を開いた。


朱里「ねえ、あんたさあ。杏香と別れくんない?」

碇「・・・え?」

 軽い口調で女性は言った。
 しかしその目はあきらかに冗談を言っているときのものじゃない。

朱里「あなたは、杏香の価値を少しもわかってない」

碇「杏香ちゃんの価値って、どういう意味ですか?」

朱里「あの子はね、ヒーローの末裔なのよ。これまでの歴史でも時々出現していたでしょう?
   普通の人間としての喜びにほとんど興味を持たず、時代を動かすためだけに生きる存在。
   あの子はそれの由緒正しい末裔であり、本人にもそのヒーローになる素質がある」

 女性が言っていることの正確な意味はわからない。
 だけどやはり思い当たることはあった。

碇「それが俺と杏香ちゃんにどう関係があるんですか?」

朱里「由緒正しいって言ったでしょ? それって他から見てもわかるってことなのよ。
   だからあの子はヒーローが欲しい連中に狙われる」

碇「……あなたもそのうちの一人なんですか?」

朱里「そのうちの一人だったわ……今は違うけど」

朱里「あたしはあの子に幸せになってほしいと思ってる。
   たとえあの子がつまらない男にひっかかってヒーローにならずに普通になりさがっても」

朱里「だから誰かがあの子を利用しようとするなら全力で排除するわ。どんな手を使ってでもね」


碇「どうしてそこまで杏香ちゃんにこだわるんですか?」

朱里「正義の味方だから……というよりも、あたしの都合よ」

朱里「以前、あたしはヒーローに仕えていたことがあったわ。正確にはヒーローがヒーローの卵だったときだけど。
   そのヒーローにあたしは生きる意味を見つけていたわ。自分が仕えるべき者だと」

朱里「でもあたしは失敗した。あたしは自分の領分を超えてヒーローを思い通りにしようとした。
   その結果ヒーローは死んで、なぜかあたしは他に生きる意味を見つけたうえにのうのうと幸せをつかんでいる」

朱里「だからあたしはもう間違うわけにはいかないのよ。
   あの子がヒーローになろうがそうでなかろうが、あたしは今度こそ守らないといけない」

碇「そんなのあなたが勝手に言ってるだけじゃないですか」

朱里「そうよ。言ったでしょ? あたしの都合だって。
   それにあたしが別れてって言っているのはあんたのためなのよ?」

碇「どういう意味ですか?」

朱里「単純な意味よ。ヒーローが欲しい連中がエサとしてあなたを使うかもしれないってこと。
   下手すれば命を落としかねないわ。その覚悟があんたにあるの?」

碇「あ、あります……」

朱里「ふうん……これでも?」

 バキメキバリ

碇(木を丸々一本へし折った!?)


朱里「言っとくけどあたしはまだ弱いほうよ? それに目に見える力を行使するのはまだいいほう。
   連中の中には超能力や不思議な力をつかって一瞬で殺してくるやつもいるわ。
   それでも同じことが言えるのかしら?」

碇「……言えます」

朱里「……どうしてかしら?」

碇「須田君に頼まれましたから」

朱里「須田君? ああ、あの子の義理の兄のことか」

碇「それに今の話は杏香ちゃんを狙ってくるやつらが悪いわけで、俺と杏香ちゃんが一緒にいることが悪いわけじゃないじゃないですか」

朱里「……野球しているやつらってバカなくせにどうしてたまに核心をつくのかしら。バカのくせに。
   はあ、わかったわ。そこまで言うのなら強制はしない。好きにしなさい」

朱里「……ただし、あの子を泣かせるようなら夜道に気を付けることね」

碇「し、しませんよそんなこと」

朱里「それとはい」

 ポイ……パシ


碇「これは……?」

朱里「正義の味方呼び出しボタンといったところかしら。何かあったら押しなさい。
   あの子に関することならすぐにでも駆けつけるわ」

碇(俺がピンチのときはこないのか……)ドヨーン

碇「あ、ありがとうございます……あ、あのえっと……」

朱里「ん? ああ、そっか。まだ名前を教えてなかったわね。あたしは……浜野。
   本当は違うけど、諸事情があるから旧姓のほうで名乗らせてもらうわ」

碇(諸事情ってなんだろう?)

 *諸事情は諸事情です*

朱里「それじゃあね。あたしはもう帰るけどあんたも明日試合なんだからさっさと帰りなさい。
   試合で負けたらあたしの努力も水の泡になるんだから頑張りなさいよ」

碇「浜野さんっていったい……」

朱里「休職から復帰したヒーロー兼プロ野球選手の若奥様ってところかしら」

碇「………………笑うところですか?」

朱里「っ……////」

 ドカ、バキ、ポコ

碇「う、うわああああ!!」


碇「さてそろそろ練習に行こうかな。
  今週の準々決勝、準決勝、決勝に勝てばいよいよ甲子園だ。頑張らないと」

須田「いったいどういうことでやんすか!」

碇「あれは須田君と……杏香ちゃん?」

杏香「どうもこうもない。母から聞いたのだろう? その通りだ」

碇「なにか話しているみたいだけどどうしよう……」

A.盗み聞きをする
B.立ち去る


B
碇「……聞いちゃいけないよな。練習に行こう」

 タッタッタッタ

 バッドエンドへ


碇「本当はいけないことだけど、最近の杏香ちゃんの様子が気になるし……よし」コソコソ

須田「その通りって……本当に家から出ていくつもりでやんすか?」

碇「!?」

杏香「ああ、元々あなたたちと私は赤の他人なんだ。おかしい話ではない。
   今まで私を育ててもらった恩はお金という形でしか返せないが、父の遺産を折半することで話がついている」

須田「そういう問題じゃないでやんす!」

杏香「では他に何かあるのか? 兄はせいせいするんじゃないか?
   私がいなくなればマニア趣味を咎められることも、とばっちりで陰口をたたかれることもなくなるんだから」

須田「……未練はないでやんすか?」

杏香「ははっ、それは野球部のことか? 学校のことか? どちらにせよ、そんなもので私を……」

須田「違うでやんす……碇君に未練はないでやんすか?」

杏香「……碇先輩にはすでに伝えた。喜んでくれたよ」

碇(杏香ちゃんが出ていくなんて話、聞いてない。ここは飛び出すべきか?)

A.飛び出す
B.飛び出さない


B
碇(いや、まだ飛び出すわけにはいかない。もう少し情報を集めたから……)

須田「……そうでやんすか。ならおいらはもう何も言わないでやんす」

杏香「さらばだ、兄」

 スタスタスタスタ

碇(あ、行ってしまった……)

 その後、高校生活が終わるまで俺は杏香ちゃんをみかけることはなかった。

 バッドエンドへ


A
碇(ここで飛び出さないでどうする!)

須田「……そうでやんすか。ならおいらはもう何もい……」

 バッ!

碇「杏香ちゃん!」

須田「碇君!?」

杏香「! 碇先輩……」

碇「二人の話はさっきからここで盗み聞きさせてもらってた……ごめん。
  でも杏香ちゃん、俺は君が家を出るなんて話聞いていなかったんだけど?」

杏香「……後で伝えようとしたさ。順番の前後ぐらいたいした問題ではあるまい」

碇「嘘だな……君は俺に教えるつもりはなかった……いや、説明する自信がなかった!」

杏香「…………」

碇「杏香ちゃん、なんで家を出ていくんだ?
  それにさっきの話を聞いているとこの学校からもいなくなるようだけど」


杏香「……さすがだな、碇先輩。その通りだよ」

杏香「なに、たいしたことではない、私の肉親の母が見つかってな、せっかくだから一緒に住もうってなっただけだ。
   学校のほうも母の今住んでいることろだとちょっと遠いから転校するだけだ」

碇「そんな都合のいい話を信じるとでも?」

杏香「都合がよかろうがなんだろうが、事実なんだ。信じてもらわなければ困る。
   実際、須田家の私の母にはちゃんと証拠も見せて説得した。これは本当だ」

杏香「なんなら確かめてもいい。なあ、兄?」

須田「……碇君、これは本当でやんす。
   おいらも母ちゃんから妹が家を出ていくことを聞かされて、それで……」

杏香「これでも疑うかどうかは先輩の勝手だが、どちらにせよ私はもうここを出ていく準備を進めている。今さら後になんて戻れない」

杏香「それに合理的に考えてみろ、私はチームに必要ない。私がいるだけでチームの雰囲気は悪くなるからな。
   私がいると甲子園にいけなくなるかもしれないんだぞ?」

碇(どう言えば・・・)

A.桃の木の精のことはいいのか?
B.生徒会に入るんじゃないのか?
C.囚人のジレンマ
D.浜野さんには言ったのか?


A
碇「桃の木の精のことはいいのか?」

杏香「ふん、あんなものいつだってできる。それにこの街にいる必要なんてないじゃないか」

碇(そういわれればそうだ……)

 その後の説得も虚しく、杏香ちゃんはいなくなった。

 バッドエンドへ


B
碇「生徒会に入るんじゃないのか?」

杏香「私がいなくなるとなくなるものに意味はない。私はな、なくならない本物が欲しいんだよ」

 その後の説得も虚しく、杏香ちゃんはいなくなった。

 バッドエンドへ


D
碇「浜野さんには言ったのか?」

杏香「浜野さん? 誰だそれは?」

碇(あっ……そういえば浜野は旧姓だって言ってたな。じゃあ名前を……ってあの人名前を言ってなかった……)

 その後の説得も虚しく、杏香ちゃんはいなくなった。

 バッドエンドへ


 地区予選決勝当日

碇「ええっ!? 杏香ちゃんが、やめた!?」

部活監督「ああ、中途半端な時期だがしかたない。家庭の事情があったらしい」

碇「そんな……」

二年生部員「いいじゃないっすか、キャプテン。これで皆のびのびプレーができるっすよ」

一年生部員「たしかに。皆のやる気もドカンとUPしているっすし、これは今日の決勝もらったも同然っすね」

 チームメイトのやる気があがった。

碇「……そうかな……?」

 その日たしかにチームは好調で先制点をとった後もリードを守り続けた。
 しかし最終回、皆甲子園が目の前にして浮き足立っていたところで、

二年生部員「あっ……」

 エラーが重なり、俺たちの夏は終わった。

・・・・・・・・・・・・

碇「須田君……ごめん。杏香ちゃんのこと託されたのに……」

須田「……しかたないでやんすよ。妹が勝手に諦めたでやんすから」

須田「誰だって幸せになる権利なんて持ってないでやんす、持っているのは幸せになるために努力する権利でやんす。
   それを怠ったり、捨てたりした人間が幸せになれるわけないでやんすよ」


杏香「我々アンドロイドは今まで我等を虐げてきた人類に今こそ反旗を翻す!」

 彼女がいなくなってから数年後、俺が再び彼女を見たのは遠い画面越しであった。

杏香「いつまでも学ばず愚かな間違いを繰り返す人類に未来を任せておくことなど不可能。
   常に進歩し続ける我らアンドロイドこそこの世の新たな統率者となる」

 いったいどれほど犠牲が出るのだろうか。
 彼女の言葉一つで千の死が生み出され、万の憎しみが彼女自身を殺す。
 しかしそれすら彼女の歩みを止めることはできない。
 なぜならそれらは単なる目的のための礎にすぎず、それこそが彼女を突き動かす原動力になるのだから。

 世の中の人たちは、彼女を畏れ、敬いあるいは憎悪する。

 ・・・しかし、どうしてだろうか。俺は彼女を哀れだとしか思えなかった。

 物陰

ルッカ(メスザルめ、今は猿山の大将気取りでいるがいいわ。
    しかし見てなさい。この組織が大きくなったとき、誰が頂点に立つのがふさわしいか教えてあげる。
    ふふっ、私の忌まわしいくしゃみ機能をなくしたことを後悔させてやる)

部下(あっ、ルッカの敵意メーターが黄色だ。後で杏香様に報告しておかないと)


>>208
C

碇「……ゲームをしよう杏香ちゃん」

杏香「いきなり何を言っている?」

碇「やるゲームの名前は囚人のジレンマ」

杏香「!」

碇「杏香ちゃん、君は言ったよね? 君がいるとチームの雰囲気が悪くなるって」

碇「これはつまり『君がいる』ことと、『チームの雰囲気が悪くなる』ことは囚人同士が黙秘しあうことに等しい。
  だから合理的にのみ考えれば囚人は『君がいない』ことを選ぶし、もう一方の囚人は『チームの雰囲気がよくなる』ことを選ぶ。
   だけど、囚人のジレンマで一番いい結果になるのは囚人同士が黙秘し合うとき、そうだよね?」

碇「だったら俺は証明するよ、甲子園にいくことで。
  『君がいる』ことと、『チームの雰囲気が悪くなる』こと、この二つが一番良い結果を残せるって」

碇「そしたら杏香ちゃん、君はチームに必要な人間だ。出ていく必要なんてない。むしろいてもらわなきゃ困る!」

杏香「…………はは」

碇「杏香ちゃん?」

杏香「あははははは! ……なんだその無茶苦茶なゲームは。
   それらしく言ってるが囚人のジレンマとまったく関係ないじゃないか」

碇「ぐっ……」

碇(やっぱり無茶があったか……)


杏香「……のろう」

碇「……えっ?」

杏香「その無茶苦茶なゲームのろうじゃないか」

碇「本当に!?」

杏香「ただし、もし甲子園にいけなかったらそのときは私を引き止めるようなことは何もしないでくれ」

碇「……わかった」

杏香「それじゃあ、私はいくよ。練習の準備もあるし。碇先輩も、兄も練習に遅れないようにな」

 スタスタスタスタ

碇「ふう……なんとか首の皮が繋がったかな」

須田「碇君」

碇「あ、須田君!」

須田「説明下手すぎでやんす」

碇「え?」

須田「こんな説明じゃ見てる人は誰もわからないでやんすよ?」

碇「うっ……せ、説明なんて飾りなんだよ! 勝てば全てオッケーだ!!」

*そういうことです。ごめんなさい*


碇「やった! 勝ったぞ! これで甲子園だ!」

須田「やったでやんすー!!」

杏香「か、勝った……本当に…………」

・・・・・・・・・・・

 翌日

須田「……」

碇「……杏香ちゃん」

杏香「ああ、わかってる。もう出ていくとは言わないさ。約束だからな」

 スタスタスタスタ

碇「……」

須田「これで良かったでやんすよね?」


・・・・・・・・・・・

 その後

 七月末日、日付が変わるころ。
 街の外れにとある少女の影があった。

杏香「この街とも今日でお別れか」

 少女はこの日育った街を出ることを決めていた。
 それは約束を反故することであったが、たかがゲームに負けたぐらいで止められるほど彼女の決意は軽くない。
 すでに昔からかけ続けていた眼鏡とも別れを告げ、彼女は運命を突き進む覚悟を決めていた。

杏香「碇先輩もこの空を見ているのかな……」

碇「少なくとも今は無理だ」

杏香「碇先輩!? なぜここにいる!」

 杏香ちゃんが信じられないと言った表情で俺を見る。
 だが驚きたいのは俺のほうだ。まさかこうも予想通りになるなんて。

 俺は自身の中でふつふつと怒りが沸いてくるのを感じ、しかしそれを爆発させることなく、ただ彼女が傷つかないように言葉を選ぶのをやめた。


碇「君の言葉が信じられなかったからだよ。裏切られたらその場で裏切り返す。
  しっぺ返し戦略ってそういうものなんだろ?」

杏香「たしかにそうだな。で、どうする? 私を止めるのか? 非難するのか?
   どちらにせよ、後少しでむかえは来る。運命は変わらないんだよ!」

碇「その間に君を説得するさ」

杏香「おもしろい! 言葉で私と肉親との縁を切ろうというのか?」

碇「それ、嘘だろ」

杏香「なっ……残念ながら嘘じゃない。それは前にも説明しただろう?
   なんなら今ここで証拠を見せてやってもいいんだぞ?」

碇「どうやったかは知らないけど、そんなデータだけの情報じゃ信じられない。それにこっちにだって証拠はある」

杏香「なんだ? データ以上の証拠があるというのか?」

碇「ある」

杏香「ふん、ならば言ってみろ!」

碇「……笑ってないじゃないか。母親が見つかったはずなのに」

杏香「!」

碇「せっかく母親が見つかったのに、一緒に暮らしたいほどの肉親が見つかったのに、
 一緒に暮らせることを喜ぶのではなく、今まで放置していたことを怒ることもない」

碇「母親が見つかったであろう時期から俺が今まで見てきた君の感情は苛立ちだけだ……そんなの、信じられるかよ」

 俺の言葉は闇夜に溶けた。
 自分の考えが間違っているとは思えないけど、俺の証拠には物的証拠がない。
 否定されたらそれで終わりだ。だけど、

杏香「その通りだよ、碇先輩……私の母親なんて見つかってない。
   というより、いないんだ。どこにも……」

 彼女は素直に認めてくれた。


 誤魔化すのを諦めたように、もしくは俺を諦めさせるように。
 彼女はポツリと話し始めた。

杏香「……私はな、どうやら普通の人間じゃないらしい。アンドロイドだそうだ」

 アンドロイド。
 今や世間で知らない人はいないほど知れ渡ったそれは目の前の人物が普通に産まれてきたのではなく、誰かにつくられた人造人間であることを表している。

碇「それがどうかしたのか?」

杏香「たしかにな。アンドロイドであることは今日び珍しくもない。
   だが私はアンドロイドとしても普通じゃじゃないらしくてな、ジャジメント……いや、元オオガミ特性のアンドロイドだそうだ」

碇「自慢かい?」

杏香「そうじゃない……オオガミにはトップに六人組という組織とそのそれぞれに担当された役割があった。
   そして私はその六人組のうちの一人が死んだときに役割を引き継ぐ後釜、または影武者としてつくられたようだ」

杏香「碇先輩、私が誰を摸してつくられたかわかるか?」

碇「……! ま、まさか……神条紫杏?」

杏香「ああ、そうだ……だがそんな大層な目的を掲げられてつくられたのにも関わらず、私はきわめて普通の生活をおくっている」

杏香「それは神条紫杏はそうとう優秀な女だったのが原因らしい。
   彼女自身は死にはしたものの、自らの役割を年単位で短縮させてやり遂げたようだ」

 にわかには信じられない話だったけど、浜野さんの言葉(『あの子はヒーローの由緒正しい末裔なのよ』)を思い出し、そう簡単に否定することはできなかった。

杏香「おかげで私は用済みになり作製の途中で捨てられた」

杏香「その後どういう経緯を経て父……碇先輩も知っている育ての父に拾われたかはしらないが、どうせろくな理由ではあるまい」

碇(そんなことない……とは言えそうにないよなあ。あの人のことだし。それに確かめようにもあの人はもういないし)


杏香「だがな、私は別にオオガミやオオガミを吸収したジャジメント相手に復讐をしようとは思ってない。
   そんなことをしたところで意味はなく、自己満足で終わるだけだしな」

碇「だったら、どうしてこの街を出ていくなんて言うんだよ。学校に最高の校風をつくるんじゃなかったのか?」

杏香「……簡単に言うとな、馬鹿らしくなった」

杏香「知っているか? 私の元となった神条紫杏は高校時代、生徒会長のような役職についていたらしい。
   そして私と似たような、私が生徒会長になったときにしようと考えていた行動をとりながら学校を仕切った」

杏香「……そのときの彼女の目標も学校に最高の校風をつくる、だそうだ」

碇「それって、君と同じ……?」

杏香「ああ、そうだ。元の人間とアンドロイドが同じ目的を持って、同じ行動をとろうとしていたなんて笑えるだろう?
   示し合わせたわけでもないのに」

碇「笑えるわけないだろ」

杏香「そうか? 私は笑ったよ。むしろ感謝すらした。
   私のしようとしていたことの結果を教えてくれたのだからな」

 彼女が自嘲気味に笑う様子だけで俺もその結果がわかった。

杏香「……彼女は失敗した」

杏香「いくら有能でもたった一年で校風をつくることなんてできない。
   彼女もそれはわかっていたようで、そのための基礎作りに力を入れたようだが、結局彼女の後任者は前任者ほどのモラルはなかったせいで、脆弱な基礎はすぐに瓦解した」

碇「そんな……」


杏香「自分の今している努力の結果を知って、無意味さを知って、私は自分がピエロだったと知って、絶望したよ」

杏香「……だけど知るのが遅すぎた。私はもう引き返せない。
   碇先輩の言うとおり、私は全生徒からの嫌われ者だ。どこにも居場所なんてない」

碇「……バレンタインでそれなりにモテるって言ってたじゃないか」

杏香「真に受けるなバカモノ! あんなもの、良く知らない相手を勝手に祭り上げてアイドル扱いしているだけじゃない!」

杏香「……あたしと、あたしと本当に親しい人なんて……いるわけ……」

碇「! 口調が……」

杏香「もう……無理よ。お父さんが死んだ日、あたしはあなたお兄ちゃんの前でさっきの口調でいることを誓ったわ。
   それはあたしが偽物の家族でも強く生きるための決意のつもりだったの」

杏香「……でもあたしは偽物だったのよ! さっきの口調も! 立ち振る舞いも! 行動も! 全て!」

杏香「…………今の口調でさえも……」

杏香「頭の先からつま先の先までどころか存在そのものがどうしようもないほど偽物。それがあたしなのよ……」

 彼女は涙を流していた。
 それは彼女の父親の葬式以来初めて見るもので、それほど彼女が追い詰められていたことが分かった。

 でも俺は彼女に同情もしなければ哀れみも感じない。
 だって俺は彼女のことが……


碇「…………いいじゃないか、偽物だって」

 慰めでもなく、励ましでもなく。俺は思ったことをそのまま口に出した。

杏香「……え?」

碇「今いる君の存在が偽物だって、君がしてきたこと、君が思ってきたことは確実に君だけの本物だ」

碇「それに捨てられたって言ってたけど、それって決められた役割から自由になったってことだろ?
  いくら本物でも役割をこなすだけだったら意味がないし、逆に偽物でも自分で考えて動けるならそれはすごいことじゃないか」

碇「それに……それにね、俺は君のことが好きだよ。
  紫杏という人のじゃなくて、杏香ちゃんのことが好きなんだ。これは本物じゃないかな?」

 さりげない(つもりの)告白。返事は期待しない。ただ自分の思いを伝えるだけだ。

碇「君は自分の全てが紫杏の偽物って言ってたけど、今の口調も含まれるんだったら紫杏って人も偽物だったんじゃないのか?
  ただ彼女は理想の姿を追いかけて努力を重ねていて、君も同じような理想と努力をしたいただけだよ」

碇「だったらそれは偽物なんて紛い物じゃない……模倣っていうんだ」

碇「模倣が駄目だっていうのなら、俺らは全滅だよ。
  なにせ高校球児は同じ目標を持ったチームが同じユニフォームに番号はっつけて、同じようにバッドを振ったり、ボールを投げたりを繰り返すんだからね。本物なんて一人もいない」


杏香「あはははははは! ……まさか私の存在の問題を野球に例えられるとはな」

碇「俺は馬鹿だからね。野球でしか物事を考えられないんだ。
  ……それで、杏香ちゃんの返事は?」

杏香「……いいのか? 私はアンドロイドだぞ?」

碇「天然と養殖で価値の違いを言う人はいるかもしれないけど、俺は養殖のほうが好きだな。
  だって、養殖には天然にない努力があるじゃないか」

杏香「……」

碇「それでも君が信じられないっていうのなら、俺を信じる君自身が偽物かもしれないと思うのなら、俺がデータでも言葉でもない本物をあげるよ」

杏香「データでも言葉でもない本物? ……どうやって?」

碇「こうやって・・・」

 スタスタスタ、チュ…………


・・・・・・・・・・・・

 ブーン

部下「隊長自ら迎えに行くとはどんな重要人物なんですか?」

ルッカ「クシュン…生意気なクシュン…スザルですよ。それより急ぎなさい」

部下「は、はい」

ルッカ(あのときの私の敗因はミス紫杏が私の目の届かないところにいた。しかし今度はそうはさせない。
    ある程度組織が大きくなったところであの忌まわしい女の忌まわしい不良品を殺す。そうすれば……ん!?)

 長年しぶとく生き続けたルッカの第六感がここで警告をならした。

ルッカ「止めなさい!」

部下「え、え!?」

ルッカ「ちっ!」ゲシ

 バン!

部下「ち、ちょっ!?」

 部下の驚いている間にルッカはドアを蹴り開けると走っている車から外に出る。
 運転席にいた部下はあわててブレーキを踏むが、数メートル進んだところで、

 カッ、ドカーン!!

 爆発が生じ、車は燃えた。
 運転手もアンドロイドだからおそらく命は大丈夫だろうが、移動のあしをなくしたのはいたいとルッカは思った。


ルッカ(地雷……いや、トンネル・バスター(ガス状爆薬)を利用した罠。こんな方法でしかけてくるのは……)

朱里「久しぶり。元気にしてた? あたし的にはそうでないほうが嬉しいんだけど」

ルッカ「ミス、クシュンクシュンクシュン…浜野」

*こっから先はルッカさんのくしゃみが多すぎるので、くしゃみはかっとします。
 一単語につき、一クシュンしていると思ってください*

朱里「今は違うけど……まあいいか。
   正直あんたと話したくないから単刀直入に言うわ。杏香から手を引きなさい」

ルッカ『十年以上経ってもあのメスザルのおもりのつもりですか? 成長しない猿ですね』

朱里「悪かったわね。成長しないのは出来損ないのオリジナルゆずりなのよ。裏切られ者のルッカさん」

ルッカ『! こっの、ピー! ピーの分際で私を侮辱しようなんてピーしてやる!』

朱里「先に侮辱してきたのはそっちじゃない。それにいいのかしら?
   戦うのは勝手だけど、くしゃみばっかしている状態で勝てると思ってるのかしら?」

ルッカ『……ふふ』

朱里「?」

ルッカ『ふははははははははは……いくら私の記憶が眠っていようが所詮は東洋のメスザルですね』

朱里「何がおかしいのよ」


ルッカ『ミス浜野、あなたは以前デス・マスと戦った時面白い戦法をとったそうですね。
    たしか、体のコントロールをリモコン操作に任すとか』

朱里「それがいったい……まさか!」

ルッカ『ええ。面白い考えだからこちらも真似させてもらいました。ただしボタンは停止のみですが。
    ESPジャマーにちなんでアンドロイドジャマーとでもなづけましょうか』スッ

 ルッカは自身の服からボタン付きの箱を取り出した。

朱里「! マズイ!」ダッ!

ルッカ『残念』

 カチッ、シュン

朱里「がっ……」

 ルッカがボタンを押すと朱里の体から力が抜け、走り出していた朱里はうつぶせのまま地面に倒れた。

ルッカ『ふふ、いいざま』

朱里「くっ……」

 やはりルッカ自身には聞かないように設定しているようで、ルッカは朱里の顔を踏みつけると懐から今度は拳銃を取り出す。

ルッカ『さて、私をなめ腐った罪は何をしても償えませんが、いたぶることで後悔させる時間を与えましょう。
    ではまずは右腕から……』チャキ

朱里「……っ!!」

 次の瞬間、右腕に鈍い衝撃がはしった。


・・・・・・・・・・・・・・・

杏香「ところで碇先輩、どうして私が街を出るタイミングがわかったんだ?」

碇「それは……杏香ちゃんの知り合いに浜野さんって人いるでしょ?」

杏香「浜野……? いや、いないが?」

碇(あ! そういえば浜野は旧姓だって言ってたっけ……)

碇「ほら! 小柄で眼鏡をかけて巻き髪で……」

朱里「あたしみたいなやつよ」

碇「そうそう、こんな……って、浜野さん!?」

 いつの間にか現れた浜野さんに度肝を抜かれた。浜野さんの服はどういうわけか少し汚れていた。

杏香「! 朱里さん……」

碇(あかりって名前が正しいのか……)


朱里「久しぶりね、杏香。ノートが完成していらい連絡がとれないから心配したわ。
   おかげであなたが引っ越しするなんて大事な情報、この野球馬鹿から聞いて初めて知ったわ」

杏香「すみません……」

朱里「責めてるわけじゃないわ。心配しただけ。あなたにもきっと事情が……」

杏香「それは……」

朱里「え?」

杏香「それは私がアンドロイドだからですか?
   あなたの親友だった神条紫杏のアンドロイドだからあなたは私を心配したんですか?」

碇(やっぱり浜野さんが言ってたヒーローって神条紫杏のことだったか……)

朱里「そういえば紫杏のこと知ったんだったわね」

朱里「じゃあはっきり言わせてもらうわ……ええ、そうよ。
   たかがアンドロイド一体、紫杏と関係ないのならとっくの昔に放っておいたわ」

杏香「っ!」

碇「は、浜野さん!」

朱里「黙りなさい、野球馬鹿!
   今はあたしは杏香と話しているのよ。それとも力づくで黙らせて欲しいかしら?」チャキ

碇「ご、ごめんなさい!」

 銃を突きつけられたら黙るしかない。
 というか、俺の呼び名は野球馬鹿に決まったのだろうか?


朱里「杏香、あたしのことを酷いやつだと思う? でもこれは当然なのよ」

朱里「だってあなたはまだバカ世間知らずの子供なのよ?
   そんな子供を一人前の人として相手する人がいると思う? いないわよ」

朱里「もしいるんだとしたらそれは何も考えていない馬鹿か同じ子供だけ。
   あたしは今のあなたには紫杏の面影しか見てないわ。その延長でおもりをしているだけ」

碇(あれ? この人って……)

朱里「だからあたしに認められたければしっかりと経験と知識、それと実績を積みなさい。そうすれば……」

碇「ははっ……」

朱里「……どうして笑ったのかしら?」

碇「べ、別に変な意味じゃないですよ?
  朱里さん、杏香ちゃんに紫杏の人の面影しか見てないって言ってるのにアドバイスまでして、しっかり杏香ちゃんのこと見てるじゃないですか」



朱里「つまりあたしが何も考えていない馬鹿か子供だっていいたいわけね」

碇「い、いや! そんなつもりじゃ……って、浜野さんきいてます?」

 浜野さんは突きつけていた銃になにやらシャレにならないものを詰めていく。
 ガシャンという装填完了を知らせる音は尋常じゃない冷や汗を流させた。

朱里「・・・オーケイ。どうやら、手加減は必要なさそうね」チャキ

碇「ご、ごめんなさーい! だから銃はやめてー!! 本当に死ぬー!!!」

 ダダダダダ

朱里「・・・殺したくないから使ってあげてるのよ。手足の2、3本は覚悟しなさい」

 タタタタタタ

杏香「ふふっ、私の本物越えは少し難しそうだな」

 これからも、まだまだ刺激的な日々が続きそうだ。


・・・・・・・・・・・・

小波「も、もう……許してください」ゼーハーゼーハー

朱里「だらしないわねえ、それでも野球選手? 走り込みが足りないんじゃないの?」

小波(あなたが動きが化け物じみてるんです……とは口が裂けてもいえねえ)ハーハー

杏香「まあまあ朱里さん、こんなのでも私の彼氏なんだ。許してやってくれ」

小波(年下の彼女にこんなの扱いされる俺って)ドヨーン

朱里「しかたないわね。そこの野球馬鹿、杏香に感謝しなさい」

小波「は、はい……」

 何がしかたないとかいろいろ突っ込みたい小波だったが、命を第一に考えてやめた。

小波「ところで浜野さん、俺に杏香ちゃんの居場所教えた後、こっちに来るまでどこに行ってたんですか?」

朱里「ああ……この子を迎えに来てた連中と話をつけにいってたのよ。
   まあ途中でちょっともめちゃって服を汚しちゃったけど、あたしにかかれば楽勝よ」

小波(まあこの人ならもめても問題なさそうだ。むしろもめたほうが楽勝の気がする。)

和那「なにが楽勝や。うちらが助けにいかなかったら朱里、やられてたやんか」

小波「だ、誰だ?」

朱里「か、カズ!? どうしてここに……」

和那「用事があるって言われただけで納得できるわけないやろ?
   朱里がルッカも朱里の旦那放っておくほどの用事や。なんかあると思ってな、見に来たんや」


杏香「あの、あなたは大江……いや、茨木和那さんですか……?」

和那「ん? あんたは……なるほど、最近つれないと思うたらそういうことやったんか。
   ・・・ずるいなあ。朱里はずるい。もしかしてまだ記憶を消したことねにもっとるんか?」

朱里「ふん、別にそんなんじゃないわよ。
   超能力を失ったあんたじゃ今日みたいなことが起こったときに役に立たないと思ったから教えなかっただけ」

朱里「それよりあんたのほうはいいの? せっかくあいつとより戻したんでしょ?」

和那「今日はホームでの試合やからな。あいつは天月家に帰っとる」

朱里「そう……あいかわらず、難儀な生活しているのね」

和那「しゃあない。元はと言えばうちが勝手に離れたのが原因やからな」

和那「それよりそっちのほうはどうなんや?
   朱里の旦那、せっかくあんたの危機をルッカの右腕にボール当てるっちゅうすご技で助けたのに褒美はなしか?」

朱里「……褒美ならあげるわよ。後で」

和那「! い、意外やなあ……あんたが素直にいうなんて」

朱里「あんたとブラックに散々からかわれたからね。
   それにあたしたちはもうそんなので恥ずかしがっていい歳でもないでしょ」

和那「……そうやな」

 悪党も泣いてわびるファーレンガールズ。どんな敵にも全戦全勝。
 しかし彼女たちも歳の波には勝てないのかもしれない。 


杏香「小波先輩、遅いぞ!」

小波「ごめんごめん」

 その後、杏香ちゃんは当初の計画通りに一年ながらにして見事生徒会長の座を勝ち取り、野球部のマネージャーを辞めた。
 ただ当初の計画と違うのは、最高の校風をつくるために自分の考えを押し付けるのではなく、周りにアドバイスを聞くようにしたそうだ。
 それは彼女は正しくあり続ける正義から、正しくあろうとする普通の人間に成り下がることだったけれど、彼女はそれで満足しているようなのでこれで良かったと思う。

 ちなみに俺は引退して暇があるだろうということで、しばしば彼女の仕事を手伝わされている。

杏香「……小波先輩聞いているのか?」

小波「え? う、うん聞いてるよ?」

杏香「本当か? 気分が悪いなら……」

小波「だ、大丈夫だから! あっちいこうか……」

小波(木の陰から朱里さんが見てるんだけど、それを前言ったら後で朱里さんに怒られたしなあ……)

 というわけで、いろいろ問題もあるけれど彼女とは良い関係を維持している。
 休日になって二人で出かけると、必ずどこかから視線が飛んでくるのは気になるけど、なんだかんだで彼女との仲は認めてくれているから、この視線もそのうちなくなるだろう……なくなるよね?

和那「朱里、いい歳っていうくらいなら、こういうの止めたほうがええんやないか?」

朱里「ルッカがまた杏香を狙ってこないか見張っているだけよ、他意はないわ」


 とある港の倉庫裏、一人の男の姿があった。。

椿「……ここか」

 男がここに来たのは別に仕事とか気まぐれとかそういうわけじゃない。
 金のなる話があったからだ。

甲斐「待っていました」

 物陰から女性が表れると男は臨戦体勢をとった。
 おそらく彼女が今回の呼び出し人だが、男は油断しない。女性から血の匂いを感じたからだ。

甲斐「……警戒するなって言っても信じられないでしょうし、どうぞ警戒してください。
   さっそく話に入らせてもらいますが……」

椿「……十万」

甲斐「え?」

椿「話を聞いてやるから前金十万だ。俺に連絡してくるぐらいなんだから、それくらい持ってるだろ?」

甲斐「……」

 ビュッ、バシッ

椿「ナイスボール」

 女性は苛立ちを含めて投げた財布を男はなんなくキャッチする。
 そして女性の財布の中身を確認するとそこから二十万円抜き取った。


椿「……よしよし、財布は返してやるよ。ほらよ」

 ポイ、バキューン!

 男が投げ返した財布を女性は空中で撃ち落とした。

椿「ヒュー……で、話はなんだ?」

甲斐「あなたに預かってほしいものがあるんです」

椿「預かり物? ブツはなんだ?」

甲斐「アンドロイドです」

椿「へえ……いいぜ、返さないかもしれねえけどな」

甲斐「別に返さなくてかまいません。用済みのアンドロイドですから」

椿「はあ? そりゃ、どういう意味だよ」

 わざわざ他人に預けるほどのアンドロイド。
 それなりに価値があると思って男はハッタリをかけたのだが、肩透かしをくらった。

甲斐「どうもこうもありません。あれは製造途中に目的が達成されたため、つくる必要がなくなったんです」

椿「それなら処分すればいいじゃねえか」

甲斐「……それはロマンがないから却下します」

椿「ロマンねえ」

甲斐「自らの役割を失ったアンドロイドがどう生きるか、ロマンあるでしょう?」

椿「はっ、生憎だが俺はそんなものに興味なくてね、俺が興味あるのは金だけだ」

甲斐「そうでしょう。それでいいんです。だからあなたを選んだのですから」

椿「?」


甲斐「交渉に入りましょう。こちらの依頼内容はアンドロイドの保護。交渉額は二億円。
   期限は少なくともアンドロイドが大人になるまで」

椿「大人になるまでって……おいおい、そいつはガキか。
  俺にガキを連れて旅しろって言うのかよ?」

甲斐「もし必要なら住居もこちらで用意します」

椿「へっ、馬鹿言ってんじゃねえぞ。
  そっちが用意したところに住むなんて監視下に入るようなもんじゃねえか」

甲斐「もちろん、そのつもりはありません」

椿「言葉だけで信じられると思うか?」

甲斐「断るならそれでもかまいません。
   ですが、あなたは居場所を探しているんじゃありませんか?」

椿「!」

甲斐「あなただって意味もなく旅を続けているわけじゃないでしょう?
   安住の地を探している。違いますか?」

 男は答えない。だがその男にとっては何よりの肯定だった。


甲斐「こちらの条件をのんでいただけるならあなたの身元、家族を保証でつけましょう。
   もちろん、どちらも偽物になりますが」

椿「家族? そんなもんいらねえよ。身元と家で十分だ」

甲斐「そういうわけにもいきません。
   体裁という面もありますがあなたは子育てにむいてませんし、あなただって子育てに時間をとるつもりはないでしょう?」

椿「そりゃそうだが、ずいぶんそのガキを気にかけるじゃねえか。
  そんな大事なガキを俺のようなやつのところに預けて大丈夫なのかよ?」

甲斐「あなただからというところがあります。知ってますか? あなたはこの世界ではそれなり評判がいいんですよ」

椿「へえ、金次第でどっちにでもつく俺がか?」

甲斐「はい、金次第ということは金さえ積めばどうにもなるという意味ですから」

甲斐「それにあなたは力を持っている。
   力を持ったものはたいていケダモノに成り果てるか、そうでなくても情で動くようになります」

甲斐「だからあなたのように力を持っても金という現実に固執する者は稀少なんですよ」

椿「……ずいぶん高くかってくれてるじゃねえか」

甲斐「それでどうしますか? 断りますか? どちらにせよ……」

椿「…………五億だ」

 女性の言葉を遮って男は言った。

椿「二億じゃ足んねえ、五億だ。それで手をうってやろうじゃねえか」

甲斐「……わかりました。五億用意しましょう。とりあえず細かい手続きがありますので今日はこの辺で。
   それが完了しだいこちらから電話します。では……」

椿「ちょっと待った」

 立ち去ろうとした女性を男は呼び止めた。


甲斐「なんですか?」

椿「名前は?」

甲斐「……私のですか?」

椿「そんなわけねえだろ。ガキの名前と俺が今日から名乗る苗字だ」

甲斐「あなたの苗字は須田です。この子の名前は……」

 考えていなかったのか、女性はわずかに逡巡したが、

甲斐「……杏香。須田杏香です」

椿「そうかい、それが聞きたかっただけだよ。じゃあな」

 スタスタスタ

・・・・・・・・・・・・・

 男は自分の拠点(野外テント)に戻るとテントの中には入らず寝そべって空を見上げた。
 いつもはそんな感傷に浸るようなことはしないのだが、どうしてもその日だけは特別だった。
 理由は男にもわからない。

椿「……俺が家族を、ねえ……縁のないものだと思っていたが……けっ、カッコつかねえなあ」

 自分らしくないと男は笑う。しかし不思議と嫌な気分にはならなかった。

須田杏香編終わりでやんす
ちょっと休憩はさんで塩谷祥子編にいくでやんす


スクルメタ「今日の俺の練習メニューは……よし、素振りか、頑張るぞ!」

・・・・・・・・・

 ブン、ブン!

スクルメタ「フンッ! フンッ!」

 ブン、ブン!

須田「スクルメタくーん! 部活監督がノックするって言ってたでやんす!」

スクルメタ「わかった! ……ふう、とりあえず素振りはいったん中止だな。
      部室にグラブ取りに行こ……! ……その前にトイレだな」

・・・・・・・・・

スクルメタ「ふう、なんとか間に合った。もうノック始まってるんだろうな。俺も早く準備しないと」

 ゴソゴソ

スクルメタ「あれ? 部室から物音がするぞ」

 ガチャ

スクルメタ「おーい、誰かいるのか?」

祥子「へ?」

スクルメタ「!? お、お前は、塩谷祥子(しおたに しょうこ)? ……何しているんだ?」

祥子「……き」

スクルメタ「き?」

祥子「キャー!!」

スクルメタ「ええっ!?」


・・・・・・・・・・・・

教師「……その話、本当なのか?」

祥子「はい……帰ろうとしていたら後ろから知らない人にいきなり野球部の部室に連れ込まれて……お、襲われそうになったんです!
   それでもうだめだ思ったときにスクルメタ君が来てくれて……

祥子「襲ってきた人もスクルメタ君に驚いてすぐに逃げました。危機一髪です……ぐすん」

教師「……辛いことをよく話してくれたな」

祥子「いいえ、私以外に犠牲が出たらいやですから……ぐすん」

教師「そうか、塩谷は優しいな!」

スクルメタ(いやいや先生! こいつ嘘ついてますよ! 俺が来たときめっちゃ部室漁ってましたし!
      というか、思いっきりぐすんっていってるんですけど……)

教師「ん? どうしたスクルメタ、何か言いたそうだな」

A.先生、こいつ嘘ついてますよ
B.……なんでもないです


A
スクルメタ「先生、こいつ嘘ついてますよ」

教師「なんてことを言うんだ!」

 ポカッ!

スクルメタ「あいたっ! せ、先生、どうして!?」

教師「うるさい! 塩谷がせっかく勇気だして自分のやられたことを話しているんだぞ!
   それを嘘呼ばわりしようとは、何事だ!」

スクルメタ「い、いやでも、実際に嘘ですし……」

教師「まだ言うか!」

 ポカッポカッ

祥子(……スクルメタ君、ごめん)


B
スクルメタ「……なんでもないです」

スクルメタ(まあ塩谷が本当に部室を荒らしてたのかはわからないし、もし言ってめんどくさいことになったら嫌だからここは黙っとくか)

祥子(……スクルメタ君、ありがとう)

 祥子の好感度が3上がった。


スクルメタ「たまには学校をぶらぶらして気分転換するか」

・・・・・・・・・・・・・

スクルメタ「あ! 塩谷だ。そういえばなんであいつ部室にいたんだろう。
      前回聞けなかったし、今聞いてみるか。

スクルメタ「おーい! 塩谷!」

祥子「! ひ、久しぶりだねスクルメタ君」

スクルメタ「久しぶりでもないだろ。ちょっと前に会ったばっかりだし。
      まあまともに話すのは久しぶりかもしれないけど」

祥子「そ、そうだよ! じゃあそういうことで……」

スクルメタ「待て、塩谷」

 ガシッ

祥子「な、何かな?」

スクルメタ「どうして逃げようとする?」

祥子「そ、そんなことないよ? ただ私はトイレに行こうとしてただけで」

スクルメタ「トイレならお前の真後ろにあるぞ?」

祥子「あっ……い、今はねトイレが満員御礼なんだよ。だから他のトイレに……」

スクルメタ「じゃあ俺はお前が出るまで待っとくが、それでもいいのか?」

祥子「うっ……」


スクルメタ「塩谷、俺は聞きたいことがあるだけなんだ」

祥子「わ、私の誕生日は七月一週だよ?」

スクルメタ「いや、それじゃないし」

祥子「スリーサイズをここで言うのはちょっと……」

スクルメタ「だからそれでもない!」

祥子「お風呂に入って一番最初に洗うのは」

スクルメタ「なんでそっちのほうに行くの? もしかして塩谷って俺をそういう人だと思ってる?」

祥子「す、好きなたいい……」

スクルメタ「やめろ! いくらSSだからってCERO-Aは死守してるんだぞ!」

スクルメタ(くっそ、このままじゃらちがあかない、どうしよう……)

A.無理やりにでも聞き出す
B.今回のところは諦める


A
スクルメタ「塩谷!」

 ガシッ

祥子「き、キャー!!」

 その後先生にたっぷりしかられました。
 祥子の好感度が1下がった。


B
スクルメタ(しかたない、今回は諦めよう)

教師「スクルメタ! 塩谷! お前ら何を廊下で騒いでいる!」

スクルメタ(げえ! 先生だ!)

祥子「先生、すみません。私の肩に埃がついていたのをスクルメタ君がとってくれたんです」

教師「じゃあ、なぜ叫んだんだ?」   

祥子「前の事件がフラッシュバックしちゃって。つい大声を出しちゃいました」

教師「しかし声はスクルメタのも聞こえたが……」

祥子「スクルメタ君も突然大声を出されて驚いたんだと思います。ね、スクルメタ君?」

スクルメタ「う、うん……」

教師「そうか、ならばしょうがないな」

スクルメタ(あぶねえ。もし無理矢理聞き出そうとしてたらどうなっていたことか。
      それより今の言い訳の流暢さ、あいつはじめからこれが狙いだったな)

 祥子の好感度が1上がった。


須田「スクルメタ君、今日は珍しく練習が午前だけですんだし、どっかに行かないでやんすか?」

スクルメタ「いいね。そうしよっか」

・・・・・・・・・・・・

 ガヤガヤ

スクルメタ「この街の商店街も少しづつ活気が戻ってきたね」

須田「ジャジメントの解体が進んでいるでやんすからね。
   今まで日光を奪っていた巨木が倒れれば足元の草木はまた芽吹くでやんすよ」

須田「またそのうちのどれかが巨木になるかもしれないでやんすけど」

スクルメタ「そのときはまた誰かが倒すよ。あれだけ大きなジャジメントだって倒れたじゃないか」

須田「そうでやんすね……あ! あの店なんてどうでやんすか?」

スクルメタ「どれ……って須田君、あれはメイドカフェじゃないか」

スクルメタ「やめないか? さすがに練習後にあそこに行くのは気が引けるよ」

スクルメタ「それに俺、ユニフォームのままだし」

須田「いつもユニフォーム着ているくせになに言ってるでやんすか。
   それにあの店、野球のユニフォームを着た人には割引されるでやんすから、ユニフォームを着ていっても浮く心配はないでやんすよ」

スクルメタ「ずいぶん限定的な割引なんだね」

須田「なんでもあの店の親会社からの命令だそうでやんす。
   ちなみにこの周りの店は野球のユニフォームを着ていると割増しでやんす」

スクルメタ「なんで!?」ガビーン

須田「ちなみに割増しのほうは眼鏡があると除外されるらしいからおいらは大丈夫でやんすけど、それでも他の店にいくでやんすか?」

スクルメタ「……その店でいいです」


・・・・・・・・・・・

 カランカラーン

祥子「お帰りくださいませ、ご主人様」

スクルメタ「須田君、いきなり入店拒否くらったぞ」

須田「野球のユニフォームを着た場合の通過儀礼でやんす」

スクルメタ(どんな通過儀礼だよ!)

祥子「お二人様ですか?」

スクルメタ「は、はい……って、お前は塩谷じゃないか! こんなところでバイトしていたのか?」

祥子「……ご主人様、なんのお話ですか? 私の名前はしょこりんですよ? 人間違い?」

スクルメタ「いやいや、お前それは……」

須田「スクルメタ君、いくら店員が知り合いだからって入り口で立ち往生は他の人に迷惑でやんすよ?」

スクルメタ「ぐっ……ごめんなさい……えっと、しょこりんさん? 案内お願いします」

店員「はーい、かしこまりました。九番テーブルにヒモ二名入りまーす!」

スクルメタ「須田君、これも通過儀礼なのかい?」

須田「そうでやんす」


・・・・・・・・・・・

祥子「ご主人様、メニューをお持ちしました」

須田「ありがとうでやんす」ヒョイ

スクルメタ「……あの、俺のぶんは?」

祥子「ご主人様、コーヒーとハムサンド、どちらになさいますか?」

スクルメタ「まさかの二択!? す、須田君まさかこれも……」

祥子「ど・ち・らになさいますか?」

スクルメタ「うっ……じゃ、じゃあ……」

A.コーヒー
B.ハムサンド
C.ふざけるな! メニューもってこい!


B
小波「ハムサンドで」

祥子「……」

須田「……」

小波(なんだこの間は?)

祥子「……ご主人様、残念でした」

 スタスタスタ

須田「小波君、ドンマイでやんす」

小波「何の話だ?」

 祥子の好感度が1上がった。


C
小波「ふざけるな! メニューもってこい!」

祥子「……かしこまりました」

 スタスタスタ

須田「小波君、失望したでやんす」

小波「え?」

 祥子の好感度が1下がった。


A
スクルメタ「コーヒーで」

祥子「……」

須田「……」

スクルメタ(なんだこの間は?)

祥子「……お」

スクルメタ「お……?」

祥子「おめでとうございまーす!」

須田「スクルメタ君、おめでとうでやんす!」

スクルメタ「?? 何が?」

祥子「この店はですね、月に一度新たに入店されたお客様に対して先ほどの二択をお聞きして、
  それでコーヒーを選ばれた方にコーヒーを当日無料にさせていただくサービスがあるんです」

スクルメタ「なんでまたそんなものが……」

祥子・須田「通過儀礼、ですので(やんす)」

スクルメタ「それ言えばなんでも許されてると思ってないか?」

祥子「じゃあ、サービスはなしでよろしいですか?」

スクルメタ「いります」キリッ

祥子・須田「……」

 祥子の好感度が3上がった。


須田「そういえばスクルメタ君、前カフェに行ったときに声かけてたでやんすけど、しょこりんとお知り合いだったでやんすか?」

スクルメタ「知り合いというより、同学年なだけだよ。クラスは違うけど」

須田「ふーん……しょこりんのこと好きでやんすか?」

スクルメタ「えっ? ど、どうしてそんな話になるのさ!」

須田「答えろでやんす!」

A.好き
B.好きじゃない


A
スクルメタ「好き、かな?」

 塩谷の好感度が1上がった。

スクルメタ(まあ、塩谷に悪感情は持ってないし)

須田「良かったでやんす」

スクルメタ「はあ? どうして?」

須田「これでのりこんはおいらのものでやんすから」


B
スクルメタ「好きとまではいかないかな。別に嫌いというわけでもないけど」

 塩谷の好感度が3上がった。

須田「困ったでやんす」

スクルメタ「はあ? どうして?」

須田「スクルメタ君にのりこんをとられてしまうかもしれないでやんす」


スクルメタ「のりこんって、誰?」

須田「あの店の料理を担当している人でやんす!
   めったに出てこないでやんすけど、あの人のメイド姿においらはいちころでやんす」

スクルメタ「そ、そうなんだ……」

スクルメタ「でも、それなら俺に言わなかった方が良かったんじゃ……」

須田「あっ! わ、忘れろでやんすー!」

 ポカ、ポカ!

スクルメタ「いたっ! だ、大丈夫、狙わないから」

須田「そんなの信用できるかでやんすー!」



祥子「……」

須田「スクルメタ君、今日もあの店に行こうでやんす」

スクルメタ「ええっ、また? 今週末、練習試合あるじゃないか」

須田「たまには気晴らしも必要でやんす」

スクルメタ(うーん、そういうものかな?)

A.いく
B.いかない


A
スクルメタ「わかったいくよ」

須田「さすがスクルメタ君! 話がわかるでやんす~♪」

・・・・・・・・・・・・

スクルメタ「そういえば須田君、どうして俺を誘ったの?」

須田「え?」

スクルメタ「いや、別に行くのが嫌なわけじゃないけどさ、その……のりこんさん?
      その人に会わせたくないなら俺がいないほうがいいんじゃないか?」

スクルメタ「俺がいると須田君ものりこんさんに会えないし」

須田「べ、別に、のりこんはめったに会えないから、
   のりこんと会えるためのポイント集めにスクルメタ君を利用しているわけじゃないでやんすよ?」

スクルメタ(そういうわけだったのか。たしかに前行った時も会計時に須田君が何かしてたな。
      まあ別に俺が損しているわけでもないんだしいいか……あれ?)

 ゴソゴソ

スクルメタ「……ない」

須田「ないって何がでやんすか?」

スクルメタ「財布が……部室に置いてきちゃったのかも。ちょっと取ってくるから先に行ってて」

須田「早くするでやんすよ」


スクルメタ「いや、今日はいいや。もう少し自主練したいし」

須田「スクルメタ君は練習の虫でやんすねえ。もういいでやんす。おいら一人で行くでやんす!」

 スタスタスタスタ

スクルメタ「さて、素振りでもするか」

・・・・・・・・・・・・・

スクルメタ「ふう、そろそろ終わろうかな……ん? あれはボール?」

 スタスタスタスタ、ヒョイ

スクルメタ「やっぱりそうだ。なおし忘れ……じゃないよな、ずいぶん汚れているし。もう使えそうにないや」

スクルメタ「きっと以前見つけられなかったやつの一つだろうな。捨てるのももったいないし、もらっておこう」


・・・・・・・・・・・・・

 ゴソゴソ

スクルメタ「! また部室から物音がする。これはきっと……」

A.祥子だろうな
B.しょこりんだろうな


A
 ガチャ

スクルメタ「おーい、祥子?」

祥子「へ? スクルメタ君!?」


B
 ガチャ

スクルメタ「おーい、しょうこりん?」

祥子「……なんでしょうか、ご主人様」

スクルメタ「じょ、冗談だよ。そんな目で見てくるのはやめてくれ」

 祥子の好感度が2下がった。


スクルメタ「やっぱりお前だったのか」

祥子「……え、えっとね。これは……」

スクルメタ「安心しろよ。別にお前をどうこうするつもりはない。また叫ばれて先生が来るのはこっちも嫌だし」

祥子「……いいの? 私は泥棒に入っただけかもよ?」

スクルメタ「練習中ならともかく、練習後なんて誰も荷物置いてないところにか?
      まさか野球道具盗みにきたわけでもないだろうし。
      それに、お前が野球部室くるぐらいだ。よっぽどのことなんだろ?」

祥子「ありがとう、スクルメタ君……でもね、野球道具とりにきたことは間違いじゃないよ」

スクルメタ「えっ!? どうして?」

祥子「兄ちゃんの野球道具をとりに来たんだ」

スクルメタ「兄ちゃんって塩谷先輩の? 頼まれたのか?」

祥子「う、うん。そんな感じ。この部室にあると思うんだけど……」

スクルメタ「いや、ないんじゃないかな? 基本引退した先輩たちは道具はちゃんと持ち帰ってるぞ」

祥子「でも家にはなかったし、ここ以外は考えにくいんだけど……」

スクルメタ「じゃあ捨てられたのかもな。ちなみに塩谷先輩が忘れたのって何なんだ? スパイク? グローブ?」

祥子「それは……秘密」

スクルメタ「はあ? どうしてだよ?」

祥子「どうしても、機密事項」


スクルメタ「……まあいいけどな。お前にもいろいろ理由があるのかもしれないし。
   それよりそろそろ出た方がいいぞ。見回りがくる」

祥子「えっ!? どうして?」

スクルメタ「お前の発言のせいで不審者対策として見回れることになったんだよ」

祥子「そんな……早く見つけないといけないのに」

スクルメタ(自業自得といえば自業自得だけど……)

A.これから一緒に探してやろうか?
B.諦めたほうがいいんじゃないか?


B
スクルメタ「諦めたほうがいいんじゃないか?」

祥子「そう、だよね……これ以上迷惑かけられないし。
   スクルメタ君、前のこととかごめん、そしてありがとう。感謝感激だよ」

 スタスタスタスタ

スクルメタ「これでよかったんだよな……?」

 攻略失敗


A
スクルメタ「これから一緒に探してやろうか?」

祥子「ええっ!? い、いいよ、そんなこと……」

スクルメタ「遠慮するなよ。それに俺の都合でもあるし」

祥子「え?」

スクルメタ「もし塩谷が他の誰かに見つかったら問題になるかもしれないだろ?
      それで練習や大会に支障が出たら困るじゃないか」

祥子「あ! ご、ごめん。私そういうこと無神経だったよ」

スクルメタ「そう思うんだったら協力させてくれよ」

祥子「でも私の兄ちゃんは……」

スクルメタ「早くしないと先生来るぞ」

祥子「……」

スクルメタ「……」

祥子「……お願いしてもいいかな?」

スクルメタ「もちろん!」

 祥子の好感度が3上がった。


スクルメタ「さて、今日は塩谷を手伝うわけだけど……塩谷、俺って何をすればいいんだ?」

祥子「ええ? 考えてなかったの?」

スクルメタ「ああ。塩谷を手伝うのは思いつきで言ったからな」

祥子「うーん、それじゃあ見張りのほうお願いするよ」

スクルメタ「それだけでいいのか?」

祥子「しかたないよ。探し物について黙っているのは私だし。
   あっ、重い物とかあって動かさないといけないときとかは手伝ってね」

スクルメタ「わかった。で、どこを探すんだ?」

祥子「うーん、あっ、そうだ! スクルメタ君が決めてよ」

スクルメタ「ええっ、俺が!?」

祥子「うん、私が思いつくところはだいたい探し回っちゃったし、スクルメタ君が場所を選んでよ、方針委託」

スクルメタ「えーと、それじゃあ」

A.忘れ物部屋
B.野球部室
C.体育倉庫
D.今日は探さない

A
スクルメタ「今日は職員室のほうに行ってみるか」

祥子「わかったよ。けど、どうして職員室なの?」

スクルメタ「職員室の隣に落し物置かれてる部屋があるだろ?
      あそこにいったものって基本捨てられずに溜められるらしいんだ」

スクルメタ「一応、行ってみたほうがいいんじゃないか?」

祥子「そうだね、合点承知」

・・・・・・・・・・・

 ガサゴソ、ゴソゴソ

スクルメタ「……見つかったか?」

祥子「……見つかったよ」

スクルメタ「そうか……って、ええ!?」

祥子「これがこんなところにあったなんてびっくりしたよ。ほら見てみて」スッ

スクルメタ「こ、これが……」ゴクリ

祥子「うん。これが…………校長先生のカツラ」

 どんがらがっしゃーん!


祥子「あれ? スクルメタ君どうしたの?」

スクルメタ「どうしたはこっちのセリフだ! 塩谷先輩のじゃないのかよ!!」

祥子「そんなわけないよ。さすがに十代でカツラをしている人は少ないよ。
   それに兄ちゃんもスクルメタ君たちと同じで坊主頭だったでしょ? カツラなんて必要ないよ」

スクルメタ「それはそうなんだけど、お前は塩谷先輩の忘れ物探してるんだろ。
     わざわざいらないものを探すなよ」

 探し物の正体を知らないから、カツラを出されたとき通りで言えないわけだと納得しかけたのは秘密だ。

祥子「いらなくなんてないよ! 髪の毛は大事だよ。校長先生今頃カツラがなくて泣いているかも」

スクルメタ「そういう意味じゃないんだが……」

スクルメタ「それと校長のほうはさっきもバレバレのカツラをのせて歩いているのを見たから大丈夫だ。
      おそらくそれはなくしたやつだろ。目をつぶってやれ」

祥子「校長先生の頭がまぶしいから目をつぶれなんてスクルメタ君酷いよ!」

スクルメタ「酷いのはお前だ!! ……はあ、ふざけてるなら手伝わないぞ?」

祥子「ごめんごめん。ちゃんとするよ、捜索再開」


・・・・・・・・・・・・

 ガサゴソ、ゴソゴソ

祥子「……なんかこうしているとあのときのこと思い出すね」

スクルメタ「あの時のこと?」

祥子「ほら、一年の頃に私がなくしものをして、放課後の教室を探し回っていたときだよ」

スクルメタ「ああ、そんなこともあったけ」

祥子「あのときもスクルメタ君は私を助けてくれたよね。
   あの後スクルメタ君すぐに練習に行っちゃったから言い忘れてたけど、本当にありがとう」

スクルメタ「どういたしまして……って、別にお礼を言われることじゃないけどな。
      あのときも結局見つけたのは塩谷だったし」

祥子「ううん、お礼を言うことなんだよ。
   だってスクルメタ君の前にも野球部の人たちはいたけど皆帰っちゃったし」

スクルメタ「……」

祥子「あっ、だからって別に悪く言うつもりはないよ。なくしたのは私のものだったし」

祥子「それにあの事件の後だから、しょうがないって感じかな。むしろ何もしてくれてないってだけで感謝だよ。
   恨み言を言われたっておかしくなかないもん」

スクルメタ「……塩谷が悪いことしたわけじゃないだろ」

祥子「うん、そうだね……でも、人ってそう簡単に割り切れないんだよ。割り切れる人はすごいんだよ」

祥子「だからスクルメタ君が一緒に探してくれたことが、普通に声をかけてくれたことが私には嬉しかったんだよ。
   ……ねえスクルメタ君、どうしてあの日一緒に探してくれたのかな?」

A.当然のことだから
B.同じクラスだったから
C.塩谷先輩の妹だったから
D.どうせ自主練習だったから


A
スクルメタ「困っていたら助けるのは人として当然だろ」

祥子「……やっぱりそうだよね、うん、スクルメタ君ならそう言うと思ってたよ」

 祥子の好感度が1上がった。


B
スクルメタ「同じクラスなんだし、別に探し物ぐらい手伝ってもおかしくないだろ」

祥子「……やっぱりそうだよね、うん、スクルメタ君ならそう言うと思ってたよ」

 祥子の好感度が1上がった。


C
スクルメタ「塩谷先輩にはお世話になったからな」

祥子「……兄ちゃんのこと、恨んでないの?」

スクルメタ「そりゃ少しは文句はあるけど、それとは話が別だろ。俺にとっては塩谷先輩は今でもいい先輩だったよ」

祥子「……やっぱりスクルメタ君はすごいよ」

 祥子の好感度が3上がった。


D
スクルメタ「あの日はどうせ自主練習だったからな」

祥子「えっ、それだけ……?」

スクルメタ「うん、それだけだけど、なんかおかしいか?」

祥子「う、ううん。やっぱりスクルメタ君だなあって思っただけだよ」

 祥子の好感度が1下がった。


祥子「……私ね、当時転校しようと思ってたんだよ」

スクルメタ「それは野球部に塩谷先輩の件で罪悪感があったからか?」

祥子「うん。自己満足の罪悪感だったけどね、私は本気だったんだよ」

祥子「でもあの日にスクルメタ君に助けてもらってなんとなく転校に乗り気じゃなくなって、
  気が付いたらクラスの野球部の皆がいなくなっちゃった」

祥子「私がずるずる先延ばしにしてたせいで……ごめんね、スクルメタ君」

スクルメタ「塩谷せいじゃない。もし塩谷が転校していたとしても結果は変わらなかったよ」

祥子「うん、ありがとう……でも今はそいうことを言いたいんじゃないの」

スクルメタ「え?」

祥子「……あ、あのね、私がこの学校に残ったのはね、す、スクルメタ君が……」

スクルメタ「俺が?」

祥子「すっ、すす…す……」ボソ

 タタタタタタタタ

教師「スクルメタ! 塩谷! ここでなにをしているー!!」

スクルメタ・塩谷「「わ、わあ!?」」

 この後説教を受けました。


・・・・・・・・・・・・・・

塩谷「……あはは、説教されちゃったね」

スクルメタ「あはは、じゃねえよ。塩谷、なんで先生のこと言わなかったんだよ」

 俺たちは監督者不在で落し物部屋にいたということで説教を受けた。
 どうやらあの部屋に入るには事前に先生の許可をとるのと、勝手に持ち物を盗み出さないように先生を一人監督につかせないといけないらしい。
 俺は鍵を取りに、塩谷はあの部屋への入室許可をもらいに別れていたので、俺はそのことを知らなかった。

塩谷「一応聞いたんだよ?
   そしたらあきらかに暇そうな先生に『今日は暇のある先生がいないから別の日にしなさい』って言われて。
   スクルメタ君は野球部の練習で忙しい中手伝ってくれているのに」

スクルメタ「だからってルールはルールだ。
      気持ちはわかるけど、気にくわないからって破っていい理由にはならないんじゃないか?」

塩谷「うん……ごめんね、スクルメタ君」シュン

スクルメタ「……まあ、塩谷は俺のことを気にかけてくれたんだろ?
      いけないことだけど、嬉しかったよ、ありがとう。次も一緒にあそこを探そうな」

塩谷「うん、次こそは校長先生のカツラを持ち帰ってみせるよ!」

スクルメタ「……目的が変わってないか?」

>>258

B
スクルメタ「今日は部室を探してみるか」

祥子「わかったよ、合点承知」

・・・・・・・・・・・・・・

 ガサゴソ、ゴソゴソ

スクルメタ「……見つかったか?」

祥子「まだ」

スクルメタ「やっぱりここにはなかったかなあ?」

祥子「うーん、ここが一番可能性が高いはずなんだけど……」

スクルメタ「でもここって荷物がそうあるわけじゃないし、何かあるならすぐに見つけられるはずだけど……」

祥子「もうちょっとだけ探させてよ、延長突入!」

スクルメタ「わかった」


・・・・・・・・・・・・

スクルメタ「……なあ、一つ聞いてもいいか?」

祥子「何を? 探し物の正体なら言えないよ?」

スクルメタ「それは知ってるよ。そのことじゃなくてさ」

祥子「私の好み? うーん、兄ちゃんみたいな人かな?」

スクルメタ「いや、それでもない」

祥子「私の性かんた……」

スクルメタ「それ以上は言わせないぞ!」

祥子「グフフ、いやらしいですなオマエら!」

スクルメタ「いやらしいのはお前だ!」

スクルメタ「それになんだよお前のその口調」

祥子「あれ? このセリフしらない?」

スクルメタ「え、何かのセリフだったのか?」

祥子「うん、最終兵器ジナイダってアニメだけど」

スクルメタ「知らないなあ、有名なのか?」

祥子「うん、最近の作品なんだけど、けっこう好きな人も多いらしいよ」

スクルメタ「へえ、まあ雑談寮にはテレビないからなあ」

祥子「大変だね」

スクルメタ「野球に集中するには良い環境だと思うけどな」


小波「ところでそのアニメはどんな話なんだ?」

祥子「えっとね、悪の組織にさらわれた少女が改造手術を受けてサイボーグになって」

スクルメタ「あ、わかったぞ! その悪の組織と戦うって展開だろ?」

祥子「違うよ」

スクルメタ「へ?」

祥子「悪の組織の一員として次々人を殺していくの」

スクルメタ「な、なんだって……!? そんなの普通に放送していいのか?」

祥子「さあ? 直接描写はないし、よかったんじゃないかな」

スクルメタ「そういう問題じゃないと思うが……」

祥子「その後はね主人公が次に命令されたところにいくんだけど、そこで家族を知って殺す対象のいる家庭の家族になろうとするんだけど」

スクルメタ「ああ、そこで悪の組織を裏切るのか」

祥子「いや、主人公はちゃんと命令通りに対象を殺したよ、任務遂行」

スクルメタ「……え!?」

祥子「葛藤はあったんだけどね。でも主人公は最後まで兵器であることを貫き通したんだよ」

スクルメタ「……なかなかダークな感じのSFだな」

祥子「SF? 違うよ、ギャグアニメだよ」

スクルメタ「ぎ、ギャグアニメ!? あきらかに設定も展開も暗すぎるじゃないか!」

祥子「なんかアニメの監督がせっかくのギャグアニメだから笑えるほど悲惨なほうがいいって言ったらしいよ」

スクルメタ「……なんてひねくれた監督だ」


祥子「ところでスクルメタ君が聞きたかったことってなにかな?」

スクルメタ「あっ、そうだそうだ、忘れてた」

祥子「もう、スクルメタ君から言い出したことなんだからしっかりしてよね! 若年健忘?」

スクルメタ「お前が脱線させるのが悪いと思うんだが」

スクルメタ「聞きたいことはあれだ……塩谷先輩は元気にしているか?」

 ピタッ

スクルメタ(え? 俺何か悪いこと言った?)

祥子「……どうしてそんなこと聞くの?」

スクルメタ「い、いや、別に深い意味はないんだ。
      ただお前が何を探しているのかは知らないけど、もしそれが野球道具ならまたいつか一緒に野球を……」

祥子「死んだよ」

スクルメタ「…………え?」

祥子「兄ちゃんは死んだよ。去年、夏に入る前に。首つり自殺だった」

A.嘘だろ?
B.本当なのか?
C.ごめん


A
スクルメタ「う、嘘だろ?」

祥子「こんなこと、嘘で言えないよ!」

 祥子の好感度が3下がった。


B
スクルメタ「本当、なのか?」

祥子「……うん」

 祥子の好感度が1上がった。


C
スクルメタ「……ごめん」

祥子「ううん、しかたないよ。スクルメタ君は知らなかったわけだし」

 祥子の好感度が3上がった。


スクルメタ「塩谷先輩はどうして……?」

祥子「罪の意識に耐えられなかったみたい。馬鹿だよね、自分がしたことなのに……」

スクルメタ「そんなこと……」

「……忘れ物をしてしまうとはな、うかつだった」……スタスタ

スクルメタ「あっ、誰か来るかも! 塩谷、急いで逃げろ!」

祥子「う、うん……ってどうしよう。ここから出るところ目撃されちゃったら意味ないよう!」

スクルメタ(あっ……そのこと考えてなかった)

 スタスタスタ

祥子「わわ……き、来ちゃう……!」

スクルメタ「くっ……塩谷、こっちだ!」

 グイッ

祥子「え?」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

杏香「あれ? 鍵が開いてる……誰かいますか?」

 シーン

杏香「……鍵の閉め忘れか、不用心だな」

スクルメタ(まさか杏香ちゃんだったとは)

祥子「すすす、スクルメタ君、これは……」コソコソ、ワタワタ

スクルメタ「ごめん。きついと思うけどちょっと我慢してくれ」コソコソ

祥子「い、いや。そうじゃなくて、この体勢は…はうう……」コソコソ、モジモジ

スクルメタ(というか、俺まで隠れる必要なかったな)


・・・・・・・・・・・・・・

杏香「さて、用事はすんだし、部屋から出るとするか」

スクルメタ「……なんとかやりすごせそうだな」コソコソ

祥子「そ、そうだね、うう……」コソコソ、ドキドキ

杏香「……これはただのひとり言だが、問題が生じて試合に出れなくなるようなことを防ぎたいならもっと考えて行動するべきだな」

スクルメタ・祥子「!!」ビクン!

杏香「それと、鍵のほうをよろしくな」

 ガラッ、スタスタスタスタ

祥子「……ばれてたみたいだね」

スクルメタ「ああ……とりあえずここから出るか」

 キイ、ガチャン

スクルメタ「塩谷、大丈夫だったか?」

祥子「う、うん。大丈夫だよ」

スクルメタ「それならいいんだけど……あれ?
      塩谷、顔が赤いようだけど本当に大丈夫なのか? 熱があるんじゃないのか?」

祥子「そ、それはスクルメタ君が……」ゴニョゴニョ

スクルメタ「ん? 俺がなんかしたか?」

祥子「や、やっぱなんでもない! 私なら本当に大丈夫、元気溌剌だから!」

スクルメタ「そっか? それならいいんだけど……で、どうする? まだ探すか?」

祥子「うーん、ここはもういいかな。それより他探してみるよ」

スクルメタ「わかった」


>>258
C
スクルメタ「今日は体育倉庫を探してみるか」

杏香「わかったよ、合点承知」

・・・・・・・・・・・

 ガサゴソ、ゴソゴソ

スクルメタ「……見つかったか?」

祥子「まだ」

 ガサゴソ、ゴソゴソ

スクルメタ「……なんとなくここに来たけどさ、ここにありそうか?」

祥子「うーん……正直に言うとね、ここにはないと思うよ」

スクルメタ「やっぱりそうか……って、そうなら早く言ってくれよ!
      可能性が低いならわざわざここを探す必要ないじゃないか」

祥子「それはそうなんだけど、今まで私が探していた場所にはなっかし……それに」

スクルメタ「それに?」

祥子「せっかくスクルメタ君が提案してくれたものだし、断りたくなかったんだよ」

スクルメタ「……それは、俺と塩谷先輩が同じ部活だったから、考えることが似ているとでも?」

祥子「違うよ。スクルメタ君の意見だから、だよ」

スクルメタ(恥ずかしいことを平気で言うなあ。せっかく逃げたのに)


祥子「それにしてもここは広いね。普段くることないからびっくりだよ」

スクルメタ「まあ授業で使うものだし、だいたいの球技は一式そろっているからな。
      気をつけろよ? 下手に積んである道具崩したらシャレにならないぞ?」

祥子「そのときは分校の弱小校にいって、甲子園優勝を目指すよ」

スクルメタ「お前はどこの野球選手だ」

祥子「えへへ、昨日テレビで特集やってたの見てたんだよ。
   すごいよね、怪我から立ち直っただけじゃなくて甲子園優勝までいくなんて、逆襲球児?」

スクルメタ「まあ、あの人はもとから才能があったからな。
      それでも努力したんだろうし、甲子園優勝なんてすごいことだけど」

祥子「……でもここの野球部も今はそんな感じだよね。
   強かったのに、どんどん人がいななくなって、落ちぶれて……お兄ちゃんのせい、だよね……?」

A.そうだ
B.そうじゃない
C.落ちぶれてなんていない


A
スクルメタ「そうかもな」

祥子「……ごめんね」

スクルメタ「別に謝る必要はないさ。塩谷のせいじゃないんだし」

祥子「……うん」

 祥子の好感度が1上がった。


B
スクルメタ「そんなことない」

祥子「でも、兄ちゃんが……」

スクルメタ「たしかに塩谷先輩のやったことは許されないことだよ。
   けど、他の学校にいった人たちは自分の意志でいったんだ。塩谷先輩は関係ない」

祥子「……うん、ありがとう」

 祥子の好感度が1上がった。


C
スクルメタ「落ちぶれてなんていないさ」

祥子「あっ、ごめん……無神経で。言い方が悪かったよね……」

スクルメタ「そうじゃない。いいか塩谷、俺たちは去年の秋大会で準決勝までいった。
      高校野球知らない人はピンとこないかもしれないけど、それってけっこうすごいことなんだぜ?」

祥子「……本当?」

スクルメタ「もちろん!
      それに今年は甲子園出場候補の一つとして雑誌に載ったことあるし、皆だって本気で甲子園優勝を目指しているんだ。
      そんなチームが落ちぶれいているわけないだろ?」

祥子「……そうだね、頑張ってねスクルメタ君!」

スクルメタ「ああ!」

 祥子の好感度が3上がった。


 ガサゴソ、ゴソゴソ

スクルメタ「ないか?」

 グラグラ……

祥子「……うん、ここにはなさそうかも」

クルメタ「そうか。悪かったな無駄足を踏まさせて」

祥子「ううん、ここにはないとわかっただけで収穫だよ」

スクルメタ「そういってもらえると助かる。そろそろ戻ってこいよ」

祥子「うん」チョン

スクルメタ(あ! 塩谷の体が積み上げている段ボールに当たった。これは倒れる!)

 グラッ

スクルメタ「塩谷、危ない!」

祥子「え?」

スクルメタ(間に合え!!)

 ガバッ!

 がらがらがらっ!!


スクルメタ「っ……塩谷、大丈夫か?」

祥子「う、うん。スクルメタ君は?」

スクルメタ「俺も大丈夫だ。ごめんな急に押したりして」

祥子「き、気にしてないよ。スクルメタ君は助けようとしてくれただけだし」

 急いでいた俺は塩谷を近くのマットへと押し倒し、その上に覆いかぶさるようにして塩谷を守った。
 その結果落下してきたものは全て俺にふってきたが、幸いなことにけがはない。

スクルメタ(しかし段ボールの中身は体育祭用のポンポンだったか。
      当然といえば当然か、重いものは上のほうには積まれないだろうし)

祥子「むしろ嬉しかったというか……」

スクルメタ(それにしてもはやとちりしすぎたな。おかげですりむいてしまった。
      まあ塩谷が怪我をしなくてすんだんだから結果オーライだけど、それよりも……)

 とりあえずの危機はさったが、俺が塩谷に覆いかぶさったままの今の状況は違う意味まずいだろう。
 だが俺は今の体勢上、後ろ側の様子がわからない。
 下手に動いて塩谷がまた危ない目にあったら意味がないのでまず塩谷に抜け出てもらうことにした。


祥子(はっ、今の状況って……まさか!)

スクルメタ「塩谷」

祥子「ひ、ひゃい!?」

スクルメタ「悪いけど先にどいてもらえると……」

祥子「だ、大丈夫!」

スクルメタ「へ?」

祥子「わ、私はもう心の用意はできてるよ、準備万端!」

スクルメタ「な、なにを……」

祥子「……」スッ

スクルメタ(なんで黙って目をつむるんだ……!?)

 ふんばっているが、体勢的に無理があるせいで筋肉がプルプルと震える。

 体の一部が熱くなってきた。

スクルメタ(これ、もうゴールしていいよね……?)

 ドクン、ドクン

祥子「……」ドキドキ

 ドクンドクン

スクルメタ「……」プルプル

 ドクンドクンドクン……


 ピンポンパンポーン

毒島『……三年スクルメタ』

スクルメタ・祥子「えっ?」

毒島『至急保健室に来るように以上』

 パンポンピンポーン

祥子「……呼ばれてたね」

スクルメタ「あ、ああ……行ってくる」

スクルメタ(なんとなく助かった気がする)


・・・・・・・・・・・・・・

スクルメタ「すみませーん」

毒島「……待ってた。怪我したところ見せて」

スクルメタ「あ、はい」

 塩谷には気付かれないように隠していたけど、ふんばっていたときから熱を持ちはじめた擦り傷からはそれなりに血が流れていた。

毒島「……このぐらいなら記憶を消さなくてすむ」ボソ

スクルメタ(なんか怖いことを言われた気がする……)ドヨーン

・・・・・・・・・・

 シュッ、シュッ、ペタッ

毒島「……これで終わり」

スクルメタ「ありがとうございます」

毒島「……場所は気を付けるべき。もしあの状況を誰かに見られたら、危なかった」

スクルメタ「いや、あれは……って、先生どうして知っているんですか?」

モブB「すみませーん。呼ばれたので来たんですけど……」

毒島「……あなたの治療は終わった。もう行って」

スクルメタ「は、はい」


>>258
D
スクルメタ「今日は……」

 ピピピ、ピピピ

祥子「あっ、私の携帯……ごめん、スクルメタ君。探せないや」

スクルメタ「なにかあったのか?」

祥子「たいしたことじゃないよ。バイトの呼び出しだから」

スクルメタ「バイトの日を忘れてたのか?」

祥子「ううん、そうじゃないよ。お店が忙しいから来られる人は来て連絡受けたんだよ、任意出勤」

スクルメタ「そうか、頑張れよ」

祥子「うん。でもバイトまで少し暇あるし、もう少し話そう。いいかな?」

スクルメタ「ああ、もともと捜索に使う時間だったし。別にいいぞ」


スクルメタ「しかしいまさらだけど、塩谷バイトしてたんだな。あの店で塩谷と会ったときは驚いたよ」

祥子「私もビックリしたよ。まさかスクルメタ君にメイド趣味があったなんて」

スクルメタ「いや、あれは一緒にいた野球部のやつに連れられて……」

祥子「で、でもね、それくらいなら私は大丈夫だから……」

スクルメタ「何を言っているんだ!?
      ほら、あそこに行ったのは野球のユニフォームのほうが料金安くなるし、他の店だと高くなるんだろ?」

祥子「? たしかにうちの店は野球姿だと料金安くなるけど、他の店行くと高くなるなんてないよ?」

スクルメタ(……須田君め、嘘つきやがったな)

・・・・・・・・・・

 雑談寮の須田の部屋

須田(そういえば、スクルメタ君に嘘だと教えるの忘れてたでやんす。まあいいでやんす~♪)

・・・・・・・・・・


スクルメタ「ま、まあそれはおいといてさ、どうして塩谷はバイトしてるんだ?
      たしかにここはバイトを禁止されてるわけではないけど、一年のころはしてなかっただろ?」

 ピタッ

祥子「……」

スクルメタ(しまった、地雷だったか?)

祥子「……うん、そうだね」

スクルメタ「い、言いたくなければいわなくていいけど……」

祥子「ううん、大丈夫だよ……あそこでバイトをしているのは私が弱いから……」

スクルメタ「?」

祥子「弱いから家にあまり帰りたくないんだよ」

スクルメタ「どういう意味なんだ? 家に帰りたくないって……」

祥子「深い意味はないよ。事情がいろいろあって家に居づらいだけ」

祥子「あっ、いろいろっていっても、別に私が酷い仕打ちにあってるわけじゃないよ?
   むしろ家族は私に気をつかっていて優しいんだ。本当に、優しい……それがなんか居心地悪くて……」

スクルメタ「……」

祥子「贅沢な悩みだよね」

祥子「家族皆に優しくされていながらそれを居心地悪く思うなんて……スクルメタ君もそう思うよね?」

スクルメタ「……ああ」

祥子「やっぱり、そうだよね……」

スクルメタ「でもしかたないんじゃないか?」

祥子「……えっ?」


スクルメタ「家族なんて一番気をつかわれたくない存在なのに気をつかわれるとかえって居づらくなるよな」

スクルメタ「しかもそれが相手からの善意だとやめてくれって言い辛いし」

祥子「う、うん……」

スクルメタ「元気に振るまっていてもさ、逆に無理してるんじゃないかと心配されたりして、
      結局いつも通りにして時間が過ぎていくのを待つしかないんだよな」

祥子「スクルメタ君にも経験あるの?」

スクルメタ「まあ一応」

スクルメタ「俺の家、両親いなくてさ、育ててくれている人が授業参観来るんだけどその後いつも優しくされるんだ。
      俺はまったく両親のことなんて気にしてないのにさ」

祥子「そうだったんだ」

スクルメタ「俺の場合は口下手だから野球することで気にしてないってアピールしていたよ」

祥子「……スクルメタ君は強いね」

スクルメタ「そうでもないさ。偉そうに言ったけど、こういうものって今だから言えるだけで、
      当時はただ居心地の悪さに悶々してそのはけ口が野球しかなかっただけだし」

祥子「ううん、強いよ。そうやって弱さを引きづってでも前に進んだのは強い証拠だよ。私なんて……」

スクルメタ「塩谷も同じだろ?」

祥子「え?」

スクルメタ「親に大丈夫だって、平気だってと伝えたい。だからバイトを始めたんだろ?」

祥子「スクルメタ君は私のこと買いかぶりすぎだよ。私は……」

スクルメタ「買いかぶってなんていない。たとえ塩谷が違うって言っても、本当にそう思ったことがなかったとしても、
     心の中に俺の言ったような部分があるはずなんだ。気づいてないだけで」


祥子「どうしてそこまで言えるの?」

スクルメタ「俺の知っている塩谷はそういうやつだからな」

祥子「!」

スクルメタ「まあ一年のころ同じクラスだっただけだった俺が塩谷のことをについて語れる立場じゃないと思うかもしれないけど……」

祥子「そ、そんなことないよ! むしろスクルメタ君が一番知ってるよ! よっ! 私博士!!」

スクルメタ「……フォローしてくれてるんだろうけど、その褒め方はどうなんだ?」

祥子「そ、それなら塩博士!」

スクルメタ「しょっぱそうな博士だな」

祥子「じゃあ女博士?」

スクルメタ「ただのスケベじゃねえか!」

祥子「……あっ、女泣かせ!」

スクルメタ「博士ですらなくなった!?」

 祥子の好感度が3上がった。


スクルメタ「さて、今日も探すか」

祥子「ねえスクルメタ君、今日は校長室探してもいいかな?」

スクルメタ「校長室!? そんなところにあるのか?」

祥子「わからない……でもありそうなところは一通り探しちゃったし……」

スクルメタ(たしかに野球道具で可能性がありそうな場所はもうなかったけど……校長室か)

祥子「駄目かな?」

A.いいぞ
B.だめだ


B
スクルメタ「だめだ。野球道具なんだろ? そんなところにはないよ」

祥子「そう、だよね。うん、別のところさがそっか」

 しかし結局塩谷は探し物を見つけることができなかったらしい。


A
スクルメタ「わかった。いくか」

祥子「やったー!」

・・・・・・・・・・・・・

スクルメタ「校長室に来たけど、何か策があるのか?
      さすがに探し物があるんで探させてくださいって言っても通じないと思うが」

祥子「私に任せてよ!」

 コンコン、コンコン

祥子「校長先生、いますかー? 宅配便ですよー」

スクルメタ「なんですぐばれる嘘をつくんだ!?」

祥子「誰にもばれないカツラお届けにあがりましたー」

スクルメタ「声に出してる時点でばれてるから!」

祥子「サービスとしてバリカンつけるので一ヶ月だけでも契約お願いしまーす」

スクルメタ「訪問販売になってる!? って、サービスの内容が悪意ありすぎだろ!」

 シーン

祥子「……どうやらいないみたいだね。よし、入ろう」

スクルメタ「……いたとしても出ないと思うけどな。というか、やっぱり無断侵入かよ」


・・・・・・・・・・・

 カチャカチャ、ガラッ

祥子「よし、侵入成功」

スクルメタ「……おい」

祥子「なに?」

スクルメタ「この扉、鍵かかってたよな?」

祥子「うん、そうだね」

スクルメタ「なんで開けれたんだ?」

祥子「バイト先で教わったんだよ。なんでも鍵抜けはメイドの嗜みだとか、必須項目」

スクルメタ「ピッキングが必須ってどんなメイドだ! ……はあ、とりあえず隠れる場所を探そうぜ」

祥子「? どうして?」

スクルメタ「さすがに今回は見つかったらマズイからな。出口が一か所しかないここは逃げるのも難しい。
      部室のときのように運よく隠れられるとも限らないし」

祥子「そ、そうだね。部室のときみたいに、はうう……」

スクルメタ「ん? どうかしたか?」

祥子「な、なんでもないよ!」


・・・・・・・・・・・

祥子「ここの物陰とかどうかな?」

スクルメタ「ああ、いいな。ここなら見つからなさそうだ。でも二人入るにはちょっとせまくないか?」

祥子「そ、そんなことないんじゃないかな?」アセアセ

スクルメタ「まあ、塩谷がいいなら何も言わないけど。
      隠れる場所も決まったし、俺は監視のほうに……」

 スタスタスタ

スクルメタ「早速きたな。塩谷、隠れるぞ」コソコソ

祥子「う、うん」コソコソ

 カチャ、ガラッ

スクルメタ(入ってきたのは校長先生と、教師先生……?)

教師「校長先生、どうしてですか!?」

校長「どうしてもこうしてもない。必要ないからいらないと言っているんだ」

スクルメタ(何の話だ? 校長と先生が言い争っている……ようには見えないな。
      先生が一人でヒートアップしているみたいだ)

教師「必要ないわけないでしょう!
   げんにスクルメタと塩谷の最近の行動は怪しいんですよ! 何かを探しているようですし」

スクルメタ(げっ、俺と塩谷のことがばれてる!?)


教師「きっと探しているのはあれの資料に決まってます。あれが見つかる前に対処するべきでは?」

校長「それは早合点しすぎではないのかね?
   彼らはれっきとした高校生だ。三年間をこの学び舎を過ごした普通の学生だよ」

スクルメタ(ん? 何の話だ?)

教師「どこかの組織のサイボーグという可能性もあります」

校長「それこそないな。塩谷祥子君はともかく、スクルメタ君は野球部のキャプテンなんだぞ。
   潜入捜査させるにはあきらかに不向きだ。
   だいたい、あれが狙いなら今動く理由はあるまい。二年前の夏の時点で動いてたはずだ」

祥子「!」

スクルメタ(二年前の、夏……?)

教師「……しかし万が一ということもあります」

校長「だから普通の生徒に監視をつけろと言うのかね?」

教師「少なくとも、牽制はしとくべきかと」

校長「ふう、あいかわらず君は頭がかたいねえ」

教師「かたくてけっこうです。もしあれがどこかの組織に渡れば私たちの二年間の努力が無駄になりますから。
   それに……」

 そのとき、塩谷がどんな顔をしていたのだろう。

教師「それに塩谷翔の犠牲も無駄になるんですよ?」

 塩谷翔(しおたに しょう)その名を聞いたとき俺は激しく動揺した。
 なぜならその人は塩谷祥子の兄であるのと同時に、二年前の夏、甲子園決勝を辞退させる理由になったアルコール事件の当事者なのだから。


スクルメタ(塩谷先輩が、犠牲? どういうことだ……はっ、塩谷!?)

校長「その件については……」

祥子「……どういうことですか」

校長・教師「!!」

 気付けば塩谷は物陰から飛び出していた。

教師「し、塩谷ぃ!?」

祥子「兄ちゃんが犠牲ってどういうことですか……」

教師「ど、どうしてお前がここに……」

祥子「私が聞いているんです!!」

教師「ひぃ!」ビクッ

校長「……」

祥子「教えてくださいよ、先生。兄ちゃんが犠牲ってどういうことなんですか?
   先生たちが兄ちゃんを自殺においこんだ……殺したんですか?」

スクルメタ「塩谷、落ち着け!」

 塩谷の様子が見ていられなくなったので俺も物陰から出る。


祥子「スクルメタ君? 落ち着いていますよ、私は……だから邪魔をしないでください」

スクルメタ「落ち着いているお前が教師先生をびびらせるほど怒鳴られるわけないだろ。
      それに顔も今まで見たことない表情だ。少なくとも落ち着いている時の顔じゃないな」

 話をすることで時間を稼ぐ。
 先生の言ったことは気になるがとりあえずは塩谷が優先すべきだろう。
 心の準備できていない今の状態ではどんな返事がきても塩谷はきっと受け止めきれない。

教師「こ、校長! やっぱりこいつら……」

校長「君も少し落ち着きたまえ。彼らはきっとここにもぐりこんだだけだろう。どういう事情かは知らないが。
   だが君の考えているようなことではあるまい。彼のことを知らなかったのだから」

祥子「その彼って兄ちゃんのことですか?」

校長「……どうして君たちはここにいるんだね?」

祥子「っ! 私が質問して……」

スクルメタ「塩谷待て。これは交換条件ってことですよね、校長先生?」

校長「好きに思いたまえ。ただし何も言わずにいた場合、今年の野球部はまた甲子園に挑戦する機会を失うかもしれないがな」

スクルメタ・塩谷「!!」

スクルメタ(勘違いしてた。俺たちと校長先生たちの立場は同じじゃない。こっちがお願いする立場か)

校長「さて、どうするかね?」

A.事情を話す
B.話さない


A
スクルメタ「塩谷、話していいか?」

祥子「……うん」

スクルメタ「ごめんな」

祥子「しょうがないよ。スクルメタ君たちが甲子園にいく権利を私のせいで失ってほしくないし」

スクルメタ「塩谷、ありがとう……校長先生、俺たちは探し物をしているんです」

 祥子の好感度が1上がった。


B
スクルメタ(駄目だ! 俺が塩谷を裏切るわけにはいかない)

教師「ど、どうした! 言わないのか!」

校長「……」

教師「校長、やはりこいつらスパイですよ」

校長「そう決めつけるのは早い。
   ……だが、そちらが答えないのならこちらもそれ相応の対処をさせてもらおう」

祥子「……!」

スクルメタ「っ」ギリッ

祥子「……私たちは探し物をしていました」

スクルメタ「塩谷……!?」

祥子「しょうがないよ。スクルメタ君が甲子園にいくのを私が奪う権利はないし」

 祥子の好感度が3上がった。


教師「探し物だとお!?」

スクルメタ「……はい。先生がおっしゃっていたように俺たちは最近、いろんなところで探し物を探していました。
      けどそれはたぶん、先生たちが隠そうとしているものとは違うと思います」

校長「じゃあ、何を探していたというのかね?」

スクルメタ「それは……」

祥子「ボールです。野球のボール。
   二年前の夏、兄ちゃんが甲子園出場を決めたときのボールを探していました」

スクルメタ(! たしかに二年前、予選決勝で最後のバッターをピッチャーフライに打ち取っていた。
      しかし、まさか塩谷が探していたのはあのウイニングボールだったとは……)

祥子「いままで野球のボールがありそうなところは全部探しました。
   でも見つからなくて、もしかしてここならって思ったんです。
   ここにはいろんな部活の優勝旗やトロフィーがありますし」

教師「そ、それを信じろって言うのか! 証拠もないものを!」

校長「……事情はわかった。それなら君たちがここにいたことにも納得がいったよ」

教師「校長!? まさか、信じるんですか?」

校長「私の判断にケチをつける気かね?」

教師「そ、そんなつもりはないですけど……」

校長「なら黙っていたまえ」

教師「……はい」


校長「さて、君たち。その件についてだが、残念ながらここにそのボールはないんだ」

祥子「そうですか」

スクルメタ(塩谷が落胆してない……そりゃそうか、ボールより気になることがあるもんな)

祥子「私たちのことは話しました。次は……」

校長「ああ、わかっているよ。だが……」チラッ

スクルメタ(ん? 今、校長は誰を見たんだ?)

校長「今の状況はいささかよろしくないな。
   教師先生、スクルメタ君、悪いが外に出て周りの様子を見張っていてくれないかね?」

スクルメタ「えっ?」

教師「なっ? 校長先生、二人きりになるなんて危険です! もし何かあったら……」

校長「はっはっはっ、心配はいらないよ。
   その場合は死んでも口は割らないし、そのための処置もなされている。

校長「それに君の言うとおり、本当にこの学び舎にスパイがいるのだとしたら、外部からの盗聴にも気を付けるべきではないのかね?」

教師「ぐっ……わかりました。スクルメタ出るぞ」


スクルメタ「お、俺は……」

祥子「大丈夫だよ、スクルメタ君。今度こそ落ち着いたよ。
   話を聞いたら後でスクルメタ君に教えてあげる。だからここは私に任せてもらえないかな?」

スクルメタ「塩谷……わかった。信じるぞ」

 スタスタスタ、ガラッ

教師「ちっ、老いぼれジジイめ」ブツブツ、スタスタスタスタ

スクルメタ「あっ、先生どこにいくんですか?」

教師「俺にはまだするべき仕事があるんだよ! 貴様はぼんやりとそこでも守ってろ!」スタスタスタスタ

スクルメタ「行っちゃったよ。勝手な人だなあ……」

スクルメタ「しかたない、俺だけでもここにいるか。塩谷を待たないといけないし」


・・・・・・・・・・・

 ガラッ

祥子「……」

スクルメタ「塩た、に……?」

 数十分後出てきた塩谷の様子はおかしかった。
 おかしいとは言っても呆然としているとか、レイプ目とかそういう感じではない。
 何か悩んでいるように見える。

スクルメタ(怒っているか、少なくとも泣いているとは思ってたけど……)

 予想に反して取り乱してはいなかった塩谷に安心半分、困惑半分。
 とりあえず今日は何も聞かないことにして何かおごってやることに決めた。

スクルメタ「塩谷、もしよかったらさ……」

祥子「スクルメタ君…………ごめん!」

 タタタタタタタ

スクルメタ「えっ? あっ、行っちゃった……何があったんだ……?」


スクルメタ「塩谷と最近話してないな。
      探し物についても放っておいたままだし。どうしたんだろ……ん?」

 ヒョイ

スクルメタ「これは手紙……?」

手紙『放課後屋上で待ってます 塩谷』

スクルメタ「これは……」

A.あのことについてか
B.告白の手紙だ
C.塩谷らしくないなあ
D.見なかったことにしよう


A
スクルメタ「あのことについてだろうな……よし、放課後行ってみるか」

 祥子の好感度が1上がった。


D
スクルメタ「……見なかったことにしよう。
      これ以上厄介事を抱えてまた野球部が試合禁止処分になったら困るし」

 攻略失敗


B
スクルメタ「告白の手紙だ」ニヤニヤ

須田「スクルメタ君、下駄箱で一人ニヤニヤしてのは気持ち悪いでやんすよ」

スクルメタ「わっ、須田君!? いつの間に?」

須田「丁度今でやんすよ。それなんでやんすか?
   ……もしかしてスクルメタ君おいらを差し置いてリア充になるつもりでやんすか?」ギロッ

スクルメタ「そ、そんなわけないだろ! こ、これはあれだよ……ふ、不幸の手紙さ」アセアセ

須田「それなら良かったでやんす~♪」

スクルメタ(ふう、なんとか須田君をごまかせたぞ……けど冷静に考えるとやっぱりあの日のことだろうな)

 祥子の好感度が1上がった。


C
スクルメタ「塩谷らしくないなあ」

祥子「私らしくないってどういうことかな?」

スクルメタ「いや、塩谷なら手紙でも何か一つぼけてくるんじゃないかって」

祥子「たとえば……『放課後屋上で待ってます。首を洗って待っていてください』みたいな感じかな?」

スクルメタ「そうそう、そんな感じ……って、塩谷!?」クルッ

 シーン

スクルメタ「あれ? 誰もいない……」

 祥子の好感度が3上がった。


・・・・・・・・・・・・・・

スクルメタ「ふう、屋上まで来たの久しぶりだなあ。
      あれ? そういえば屋上は昼休みしか開いてない気がする」

 ガチャ

スクルメタ「開いた……」

祥子「スクルメタ君、待ってたよ。早くドアをしめて。誰かに見られちゃうよ」

スクルメタ「お、おう」

 ガチャリ

祥子「いやー、それにしても暑いよね。もう七月だよ。そろそろ夏が来るね、夏期到来」

スクルメタ「あ、ああ……ここの鍵を開けたのもお前か?」

祥子「うん、メイドの嗜みだよ」

スクルメタ「だからそんなメイドは普通いないって」


スクルメタ「それでこんなところに呼び出してどうしたんだよ?」

祥子「ちょっとね……報告しようと思って」

スクルメタ「報告?」

祥子「うん……あっ、ごめんね、最近スクルメタ君を避けちゃってて」

スクルメタ「それはいいけど、わけぐらいは話してくれるんだろうな?」

祥子「もちろんだよ。その前にスクルメタ君、一つ聞いていいかな?」

スクルメタ「なんだ?」

祥子「野球部がなくなったらどうする?」

スクルメタ「えっ?」

祥子「やっぱり困るかな?」

スクルメタ「困る……というか、そんなこと考えたことないな。この学校には野球するために入学したもんだし」

祥子「そうだよね……うん、やっぱり間違ってなかったんだよ」

スクルメタ「何がだよ? さっきから思わせぶりな発言が多いぞ」

祥子「ごめんごめん。今から全部話すよ」


祥子「じゃあまず、スクルメタ君はこの学校のスポンサーがジャジメントだって知ってた?」

スクルメタ「えっと、たしか入学式で聞いたような……」

祥子「ジャジメントはね、ここ以外にもいろんな学校のスポンサーをやってたみたいなんだよ。
   その理由がね……人体実験。
   援助している学校の一部にしあわせ草から作った薬を生徒に服用させていたみたい」

スクルメタ「しあわせ草ってあの違法薬物に指定されているやつか?」

祥子「うん。一応しあわせ草は医療関係に使うことは許されているみたいだけどね。
   でもジャジメントがしていたことはしてはいけないことで、この学校では野球部が実験対象になってたって」

スクルメタ「嘘だろ……俺たち、そんなことした覚えなんて……」

祥子「自覚がないだけだよ。さすがに堂々と薬を使うと問題になるし、なるべくばれない形で摂取させていたみたい。
   例えば、食べ物や飲み物に薬をまぜたりね」

スクルメタ「! もしかして、雑談寮が……?」

祥子「……うん。さすがに個人の摂取量がコントロールできない購買や学食にはなかったみたいだけど」

スクルメタ「でも俺たちにはその薬が……」

祥子「ううん、それは違うみたいだよ。
   私たちが入学する前にジャジメントは解体してここのスポンサーおりちゃったみたいだから、スクルメタ君たちは平気」

 塩谷はそう言ったが喜ぶことはできない。だって俺たちが入学する前ってことは……

祥子「……だけど私たちの一つ上の代、そしてお兄ちゃんたちの世代は手遅れだった」


祥子「二年前に甲子園決勝戦辞退することになったアルコール事件の真相は、ドーピングした選手のいるチームを優勝させないためのカモフラージュだったんだよ。
   そしてお兄ちゃんはその犠牲になった」

スクルメタ「そ、そんなのおかしいだろ! 甲子園の決勝までいかせといて急に、そんな……」

祥子「実験のの真相を知っていたのは理事長とジャジメントから派遣された人たちぐらいで、
  そのほとんどはジャジメントの解体と一緒に消えちゃったから知りようがなかったんだって」

 NIP高校には俺が入学した時から理事長は不在ということになっている。

スクルメタ「校長は?」

祥子「知ったのは野球部が甲子園にいってから。
   それまではジャジメントに野球部のデータを渡すことで援助を受けていたことは知っていたけど、
  それがドーピングの人体実験の結果とまでは知らなかったみたいだよ」

 そういえば先輩たちの頃はやけに運動能力測定みたいなことをさせられるのが多くて、練習ができなかったという愚痴を聞いたことを思い出した。

祥子「ちなみに教師先生はジャジメントから派遣されて来たみたい」


スクルメタ「事情はわかった。だけどってわざわざどうしてアルコール事件なんて」

祥子「甲子園の決勝だからね。それなりに理由は必要だったんだよ。
   最終兵器ジナイダにもあったセリフだけど、大きな嘘を守るためには小さな嘘をつく必要があるんだよ」

スクルメタ「塩谷先輩はそのことを知っていたのか?」

祥子「校長先生は当時の二、三年の野球部には話したって……確認することはもうできないけど私もたぶん知っていたと思うよ。
   お兄ちゃん気弱だから頼まれたら断れないし、気弱だからあえてかぶった汚名でも罪悪感や自分のしてきた努力の無力感に耐えきれなくて……死んじゃった」

スクルメタ「そんなの校長たちが塩谷先輩の気弱な部分につけこんだことの体のいい言い訳じゃないか。
      お前はそれで納得出るのかよ?」

祥子「納得できるわけないよ!! 納得なんて、できるわけ……!
   ……でもね、私が知るのももう遅すぎたんだよ。全てが終わった後だった」


祥子「……知ってる? この学校、来年にはなくなるんだって」

スクルメタ「えっ?」

祥子「ジャジメントがスポンサーおりてからこの学校はずっと赤字経営だったんだよ。
   ジャジメントの解体と一緒に理事長が消えてから校長は私財を売って借金してまで維持してきたけどもう限界みたい。、
   一応合併ということで他の学校に吸収されるから今の一年生や二年生はそこにいくみたいだけど」

スクルメタ「校長先生はどうなるんだ?」

祥子「合併した後に自首するって言ってたよ。
   それまで私が我慢できないなら告発してもいいって、この学校がしてた違法行為に関する証拠もくれた。
   だから、私がどうしたところでこの学校の寿命を縮めることしかできないんだよ」

スクルメタ(野球部がなくなるってそういうことか……)

 痛々しい笑顔をの塩谷になんて声をかければいいのかなんてわからなかった。

祥子「でもね、私、弱いから怒りが収まらなくて、校長先生から話を聞いてから告発しようかどうかずっと悩んでた。
   悩んで悩んで悩んで……そしたら、過ぎちゃってた」

スクルメタ「……何が?」

祥子「お兄ちゃんの命日。先週末、一周忌だったんだよ」

 塩谷は顔を下に向けて、体を震わせていた。泣いているのかもしれない。

祥子「私ね、野球のボール探していたのはお兄ちゃんの一回忌に供えるつもりだったんだよ。
   せめてお兄ちゃんが一番楽しそうにしていたときの物を置いてあげたかった……でも、私は見つけられなかった」

 でも俺には彼女に何もできない。

祥子「そしたらね、許せないって思ってた気持ちもどんどんなくなっていって、だったらそのままでいいかなって思ったんだよ。
   だって私が行動しても悲しい思いをする人が増えるだけだもん」

 だって塩谷が言わないでいてくれているおかげで野球ができていることに感謝している自分がいるのだから。
 今言ったことが世間の明るみに出たら間違いなく甲子園どころではなくなるだろう。


祥子「だから今日はその報告。
   スクルメタ君、長い話を聞いてくれてありがとう。それとボールを一緒に探してくれて本当にありがとう。感謝感激だよ。
   ……それじゃあね!」

 タタタタタタタ

スクルメタ「あっ塩谷……」

 ガチャ

スクルメタ「……いったか」

 たとえ塩谷がこの場にいたままだとしても俺が気のきいたことなんて言えないだろうからこの別れはある意味よかったのかもしれない。
 俺がこれからするべきことは塩谷に感謝しつつ野球に全力を尽くすことだろう。

 もちろんそれはする。それはするけど、

スクルメタ(……塩谷を放って置くことなんてできない!)

 塩谷に笑顔でいて欲しい。そう気持ちをなんていうのかは知っている。
 おそらく二年前に塩谷の失くしものを探した時だってきっと……

 しかしその気持ちを盾に何をしてもいいのではないとはわかっている。
 塩谷が出した答えに口を出すつもりはない。その資格もない。

 だから俺がやることは……

スクルメタ(塩谷を元気づける。何をしてでも……!)



説明下手なのでまとめ三行
ジャジメントが元スポンサーのNIP高校では人体実験が行われていた
そのことが原因で甲子園優勝は許されず。アルコール事件はカモフラージュ
スポンサーがいなくなったのでNIP高校は潰れることが決定


スクルメタ(さて、塩谷を元気づけると決めたはいいものの、どうするべきか……)

A.喫茶店に行ってみる
B.物で釣る
C.七夕祭りに誘う


A
スクルメタ「喫茶店に行ってみるか!」

・・・・・・・・・・・・・

 カランカラーン

祥子「お帰りくださいませ、ご主じ……あっ!」

スクルメタ「よ、よう塩谷」

祥子「……誰のことですか? 私はしょこりんですよ?」

スクルメタ「そ、そうだったな。案内頼む」

祥子「かしこまりました」

 ガヤガヤガヤ

スクルメタ(今日は客がなかなか多いな。なんとか隙を見つけて話しかけられればいいんだけど……)

 しかしその日、客のあしはなかなか途絶えることはなく、ようやく落ち着いた頃には塩谷のバイトの時間を終えて帰っていた。

 バッドエンド


C
スクルメタ「そいえば地元で七夕祭りがあるって聞いたことがあるぞ。誘ってみるか」

 プルルルル、プルルルル

祥子「もしもし」

スクルメタ「もしもし、塩谷か?」

祥子「そうだよ」

スクルメタ「今週の七夕祭り一緒に行かないか?」

祥子「お祭り?」

スクルメタ「ああ、どうかな?」

祥子「……いいよ」

スクルメタ「よかった。じゃあ、祭りの日に」

祥子「うん」

 しかし当日、大雨がふり、七夕祭りは中止になった。

 バッドエンド


C
スクルメタ「そういえば七月第一週は塩谷は誕生日だっていってたな。
      何かプレゼントしてやれないかな……って、女子に何をプレゼントしたら喜ぶんだ?」

*5週目にボールを拾ってない場合*

須田「おいらに任せるでやんすー!!」

スクルメタ「須田君!? いつの間に……」

須田「細かいことはいいでやんす。それより女の子にプレゼントをしたいならおいらに任せるでやんす」

スクルメタ「い、いや。遠慮しとくよ」

須田「気をつかわないでいいでやんすよ。おいらとスクルメタ君の仲でやんすから」

 ガシッ

スクルメタ「いや、本当に! いいから! やめろー!!」

 その後結局まともにプレゼントを選ぶことはできなかった。
 結果がどうなったかなんて言う必要もない。
 俺は撃沈した。フルーツ(須田)

 バッドエンド


C
スクルメタ「そういえば七月第一週は塩谷は誕生日だっていってたな。
      何かプレゼントしてやれないかな……って、女子に何をプレゼントしたら喜ぶんだ?」

*5週目にボールを拾っていた場合*

 ポロッ

スクルメタ「あっ、前(五週目)に拾ったボールが……あれ? 待てよ。
      塩谷が探していたのってボールだよな。もしかしてこれが塩谷先輩のウイニングボールなのか……?」

A.ボールを塩谷に渡す
B.渡さない


A
スクルメタ「このボールを塩谷に渡そう。
      そうと決まればまずは塩谷を探さないとな。ボールはここに置いて、と。
      よし、行くか!」

・・・・・・・・・・・・・

須田「スクルメタ君に貸した漫画を返してもらうでやんす。
   ん? なんでやんすかこのボールは、ずいぶん汚れているけどなおし忘れでやんすかねえ?
   しかたない。おいらは優しいからスクルメタ君の代わりになおしておいてやるでやんす」 

・・・・・・・・・・・・・

スクルメタ「……塩谷、今日は見つけられなかったなあ。
      しかたない、明日こそ……あれ? ボールがなくなってる…………」ガビーン

 バッドエンド


祥子「お帰りくださいませ、ご主人様」

 ある日の午後、今日も俺はあの子のもとへと通う。

祥子「今日は何になさいますか?」

 彼女がいなくなってどれくらいたっただろうか。
 俺に何も言わずに学校を辞めたときは心配したが、この喫茶店であっさり見つけたときは少なからず安堵した。

祥子「かしこまりました。少々お待ちくださいね」

 ただそこにいたのは塩谷祥子ではなく、しょこりんだった。
 元気づけることを失敗して以来、俺は塩谷祥子とは一度も話せていない。

祥子「お会計千円になります。ご主人様、後少しでポイントがたまりますので頑張ってくださいね」


 彼女は自分のことを弱いと言った。そしてそれはたしかなのだろう。
 彼女は弱いからことのなりゆきをを時間に任せることしかできなかったし、その任せた結果さえ受け止めることができなかった。

 だから彼女は逃げたのだ。現実から。
 だから彼女は捨てたのだ。自分自身を。

スクルメタ「後五ポイントか……頑張らないとなあ」

 そしてそれは俺も同じ。
 たとえこのポイントをためて彼女と会ったところで彼女はしょこりんとでしか俺に会ってはくれないだろう。
 それでも、もしかしたら、きっとという言葉を信じずにはいられない。

 人は弱いからこそ希望にすがらないと生きてはいけないのだから。


>>308
B

スクルメタ「……確証のないものは渡せないよな。それよりも」

 プルルルル、プルルルル

祥子「もしもし」

スクルメタ「もしもし、塩谷か?」

祥子「そうだよ」

スクルメタ「今週の七夕祭り一緒に行かないか?」

祥子「お祭り? どうして?」

スクルメタ「今週誕生日だって言ったのお前だろ」

祥子「覚えててくれたんだ……うん、いいよ」

スクルメタ「よかった。じゃあ、祭りの日に」

祥子「うん」

スクルメタ「塩谷……俺、楽しみにしているから」

祥子「……うん、私も」

 祭り当日。天気予報では雨だったが、幸いにもはずれてくれて、祭りは計画通りに行われた。

祥子「わあ、お店がいっぱいだよ」

スクルメタ「ああ、そうだな。どこから行く?」

祥子「うーんと……あっ、田村さん!」

 タタタタタ

祥子「塩谷!? おい、どこに行くんだ!」


・・・・・・・・・・

田村「いらっしゃ……祥子ちゃん?」

祥子「おはようございますですよ、田村さん!」

田村「祥子ちゃん、ここは店じゃないからおはようじゃないよ?」

祥子「あっ、そうでした。では改めてこんばんわですよ、田村さん」

田村「うん、こんばんわ祥子ちゃん」

祥子「まさかここに田村さんがいるなんて思いませんでしたよ。これも料理の勉強ですか?」

田村「そんな感じかな。祥子ちゃんは一人?」

祥子「へっ? いや、ここにスクルメタ君が……あれ? スクルメタ君?」キョロキョロ

 ザッ

スクルメタ「ふう、ようやく追いついた」

祥子「スクルメタ君、私を放っておいてどこに行ってたの?」

スクルメタ「放ったのも、どこかに行ったのもお前だ! その人は?」

祥子「この人は田村さんっていって、私と一緒に働いているんだよ、料理担当」

スクルメタ「そうなのか。初めまして、俺、スクルメタっていいます」

田村「・・・ども」

スクルメタ(あれ? さっき塩谷と話していた時とは雰囲気が違うような)


祥子「た、田村さん、焼きそば一つお願いしますですよ!」

田村「うん」

 スタスタスタ

祥子「スクルメタ君、気にしないでね。
   田村さんは初対面はとっつきにくいところがあるけど、本当はすごく優しい人だよ」コソコソ

スクルメタ「あ、ああ、嫌われてるわけじゃないんだな。それなら大丈夫」コソコソ

祥子「あっ、でも田村さんを狙っちゃだめだよ? 田村さん、好きな人いるし」コソコソ

スクルメタ「へえ、あんな綺麗な人なのに恋人じゃないんだ」コソコソ

祥子「こ・な・み・く・ん?」キュピーン

スクルメタ「た、ただの感想だから……それより田村さんが好きになった人ってどんな人なんだ?」アセアセ

祥子「田村さんが前にお世話をした人みたいなんだよ」コソコソ

スクルメタ「お世話をした人? なった人じゃないのか?」コソコソ

祥子「うん、田村さんはお世話になったって言ってるけど、話に聞いているかぎりお世話をした人だと思うよ。
   だってその人、社会人なのに就職してないし、田村さんから定期的にご飯をもらってたって言ってたから」

スクルメタ(なんて駄目な大人なんだ……)


・・・・・・・・・・

「ハクシュン!」

桃井「ちょっと、あんた大丈夫? 夏風邪?」

「いや、そんな感じじゃないと思うんだけど」

桃井「それならいいんだけど……気を付けてよね。あたしにはあんたが必要なんだから」

「ぴ、ピンク……」ジーン

桃井(看病とか口実つけて漣とかいう女に来られたくないし)

「そ、それならさ、今日の晩御飯にエビフライつくってくれよ! そしたら……」

桃井「めんどくさいから嫌」

「うう……典子ちゃんのエビフライが恋しい…………」ボソ


・・・・・・・・・・

准「風来坊さん、気を付けた方がいいよ。
  今回は風来坊さんに向けてじゃないけど、風来坊さんにも当てはまっているんだから。
  いや、風来坊さんはむしろ悪口より悪い状態か」

風来坊「准、唐突に人の心をえぐるのは止めてくれ」

ゆらり「唐突でなければいいんですね。わかりました。
    次までに悪口を言うタイムスケジュール表と台本をつくっておきます」

風来坊「ゆ、ゆらり……それは冗談だよな?」

ゆらり「……」

風来坊「無言はやめてくれ。お前なら本当にしてきそうで怖い」

ゆらり「冗談ですよ。さすがにそんな台本を書いていたら手が腱鞘炎になりかねません」

風来坊「どんだけ俺への悪口があるんだ!?」


・・・・・・・・・・

田村「祥子ちゃん、お待たせ」

祥子「ありがとうございますですよ。あれ? 田村さんお箸二つ入ってますよ?」チャリン

田村「えっ、一つで良かったの?」

祥子「へ?」

田村「だってそこの人と一緒に食べるんでしょ? ……もしかして一緒のお箸で食べるの?」

祥子(スクルメタ君と一緒? スクルメタ君と一緒のお箸で食べる……はうう~~~)モジモジ

田村「ごめんね、気付かなくて。私そういうのに疎くて……」

祥子「ち、違いますですよ! こ、これは私一人で食べるやつなんです。
   だって私とスクルメタ君の関係はその……一言で言い表すには難しい、ただならぬ関係であるだけで……」

スクルメタ「間違いではないが、誤解を生むような表現を使うな!」

 その後パニックった塩谷を落ち着かせて田村さんと別れた。

 別れた後に気付いたのだが、塩谷の働いていた店の料理担当って言ってたし、塩谷さんがきっとのりこんなのだろう。
 須田君、ドンマイ。田村さん好きな人がいるってさ。


・・・・・・・・・・

祥子「ふう、お店がたくさんあって疲れたよ。でも楽しかったね。満足疲労」

 いくつか露天をまわった俺と塩谷は祭りの会場から少し離れたところにきていた。

祥子「スクルメタ君は七夕のお願い事なんて書いたの? やっぱり、甲子園出場?」

 七夕祭りということで露天の列の途中に願い事を書いた短冊を竹につるしていた神社があった。
 もちろん俺たちはそれに参加し、それぞれ願い事を書いた。

スクルメタ「まあ、似たようなもんだな。塩谷はなんて書いたんだ?」

祥子「私はね、家内安全、無病息災、商売繁盛かな?」

スクルメタ「……その願い事をするのは半年早いんじゃないか?」

祥子「違うよ。遅かったんだよ。一年と半年ぐらい……」

 塩谷はいつものボケを言い、笑顔を浮かべていた。
 だけどそれが本物ではないことぐらいいまさらわかる。


祥子「……スクルメタ君、お兄ちゃんのことを話していいかな?」

スクルメタ「どうしてだ?」

祥子「スクルメタ君に聞いてほしいから……今日スクルメタ君がお祭りに誘ってくれたのは私に気をつかってくれたんだよね?
   ありがとう、最高の誕生日プレゼントだった」

祥子「……でもね、許してくれるならもう一つお願いしたいことがあるんだよ」

スクルメタ「それが塩谷先輩のことを聞くことか?」

祥子「うん、愚痴っぽい話だし、聞いていても楽しくないかもしれないけど」

スクルメタ「どうして俺なんだ?」

祥子「だって私、スクルメタ君のことが好きだから」

スクルメタ「……」

祥子「……答えてくれないんだね」

スクルメタ「ムードもへったくれもないな」

祥子「あはは、そうだね……ダメかな?」

スクルメタ「愚痴くらいなら聞いてやる」

祥子「ありがとう。やっぱりスクルメタ君を好きになって良かったよ。
   それじゃあ、あつかましいけど愚痴らせてもらうね」


祥子「何から話そうかな……うん、決めたよ。まずね……」

 痛々しかった笑顔を消した後、二人きりの空間で塩谷はポツリと話し始めた。

祥子「……お兄ちゃんの遺体を最初に見つけたのは私だった」

 隣にいる俺にすらようやく届くほどの音量だっただがそれは聞かれないようにするためではなく、せいいっぱい声を絞り出してその大きさなのかもしれない。

祥子「アルコール事件の後のお兄ちゃんは意外と普通に過ごしていたんだよ」

祥子「普通に大学に入って、普通に野球を続けて、普通に私と会話して……だから気付けなくて」

祥子「……お兄ちゃんが死んだ日はね、私ね、お兄ちゃんをね、起こしにね、いったらね……死んでた」

祥子「前触れもなくて、遺書もなくて、最後にお兄ちゃんとの会話も私は覚えてなくて……」

スクルメタ「もういい。辛いならしゃべるな」

祥子「でも……」

スクルメタ「でももくそもあるか! 俺はお前の愚痴を聞いてやるって言ってやったんだ!」

スクルメタ「いいか、愚痴っていうのはな、自分に起こった不幸を誰かのせいにするために言うんだ!
      お前が言っているのは自分を傷つけるだけの自虐だ! 俺はそんなこと聞くと言った覚えはないぞ!」

祥子「……じゃあ、もう、私が話すことはないや……スクルメタ君、今までありがとうね」


スクルメタ「何勝手に終わらせようとしてるんだ?」

祥子「え?」

スクルメタ「お前の話を聞いたんだ。次は俺の話を聞いてくれてもいいんじゃないか?」

祥子「……うん、そうだね。何のお話かな?」

スクルメタ「お前の勘違いについてだ」

祥子「勘違い?」

スクルメタ「ああ、誕生日だからお前を祭りに誘ったのは間違いじゃないが、誘ったこと自体はプレゼントじゃない。
      誕生日プレゼントは他にある」

祥子「でもスクルメタ君、何も持っていないよ?」

スクルメタ「今はないからな」

祥子「今、は……?」

スクルメタ「そうだ。俺はお前にもらった最後のチャンスで甲子園を優勝する。
      そしてそのときのボールをやるよ。それがプレゼントだ。
      見つけられなかった塩谷先輩のウイニングボールの代わりとしてそなえてくれ」

祥子「甲子園を優勝って、できるの?
   私そんなに野球に詳しくないけど、そんなに簡単なことじゃないはずだよね……?」

スクルメタ「たしかに簡単なことじゃないな。けどできる、いや、絶対にやる!
      そのために今まで練習してきたんだ。それとも塩谷は俺を信じられないか?」


祥子「……どうしてスクルメタ君は私にそこまでしてくれるの? 私がお兄ちゃんの妹だから……?」

スクルメタ「違う。塩谷先輩の妹だからじゃない、お前が塩谷祥子だからだ」

祥子「!」

スクルメタ「勘違いの二つ目だ。塩谷、俺はお前に気をつかってこの祭りに誘ったわけじゃない。
      お前に笑顔でいてほしいから、一緒にいたいから今日は誘ったんだ」

祥子「だ、ダメだよ、スクルメタ君、そんな言い方したら……私、勘違いしちゃうよ…………」

スクルメタ「何を勘違いするんだ?」

祥子「それは、その……スクルメタ君が、私のことを……好きだって…………」

スクルメタ「好きだぞ」

祥子「え……?」

スクルメタ「俺は塩谷のことが好きだ。友人としても、異性としても。
      高校を卒業してからもずっと俺と一緒にいて欲しいと思ってる。それくらい俺は塩谷のことが大好きだ」

祥子「……嘘」

スクルメタ「嘘じゃない」

祥子「だって私の告白には……」

スクルメタ「返事をしていなかっただけだ。断った覚えはない」


祥子「でも何も言ってくれなかった」

スクルメタ「好きだけど……今の塩谷とは付き合いたくないんだ」

祥子「?」

スクルメタ「だって今の塩谷は俺に気をつかっているじゃないか。
      負い目を感じて、気丈にふるまって、弱さを隠して……そんな塩谷と俺は付き合いたいわけじゃないんだ」

祥子「で、でも、私は……」

スクルメタ「なあ塩谷、俺って実はわがままなんだ。野球と、塩谷。どっちか一つってなんて、俺には選べない。
      だけど塩谷には俺と塩谷先輩のどっちかを選ぶとき俺を選んでほしいんだ」

祥子「……選んだよ、私はスクルメタ君を選んだよ! だから……!」

スクルメタ「違う、お前は選んでなんていない。逃げたんだ。
      俺からも、塩谷先輩からも逃げて、時間が経つのを待って、どっちにも良い顔をして、自分を傷つけていただけだ」

祥子「じゃあ、お兄ちゃんのことは忘れろっていうの?」

スクルメタ「ああ、そうだよ」

祥子「ひどい……ひどいよ、スクルメタ君……」

スクルメタ「なんとでも言えよ。
      どんなに大切な思い出だろうとそれが辛い思いしかさせないのなら、その辛い思いを受け入れる強さがないのなら俺は忘れるべきだと思う」


スクルメタ「……でもな、それでもお前が塩谷先輩を忘れたくないなら、俺にも背負わせろ」

祥子「え?」

スクルメタ「辛いことや悩み事があったら自分を傷つける前に俺に話せ。
      自分のことを弱いっていうのなら、一人で抱え込もうとするなよ」

祥子「でもそしたらスクルメタ君に重荷が……」

スクルメタ「そのくらい背負ってやるさ。お前のためならな」

祥子「……」

スクルメタ「だから塩谷、約束してくれないか?
      俺が甲子園を優勝して、ウイニングボールを渡したら俺を、俺だけを見てくれるって。
      告白の返事はそのときに聞くよ」

祥子「…………うん、わかったよ」


 グラウンド

スクルメタ(塩谷を元気づけるまではいかなかったけど、つなぎとめることには成功した。
      正しかったのかはわからないけど今の俺が甲子園優勝するだけだ。よーし! 頑張るぞ!!)

 ダダダダダダ

スクルメタ「ウオオオオオオ!!」

 ブン、ブン、ブン。パシッ、パシッ、パシッ!

・・・・・・・・・・・・

 校舎

祥子「あっ、スクルメタ君……」

スクルメタ『ウオオオオオオ!!』

祥子「…………………………」

・・・・・・・・・・・・

 喫茶店

祥子「はあ……」

モブ店員「祥子、これ14番テーブルにお願い」

祥子「……」

モブ店員「祥子?」

祥子「あっ……は、はい! すみません!」

田村「……」

・・・・・・・・・・・


祥子「お待たせしました。こちらがご注文の……」

准「久しぶり、祥子。元気にしてた?」

祥子「じゅ、准さん!?」

准「そうだよ、私だよー。他に誰か見えた?」

祥子「そ、そういうわけじゃないですよ……お久しぶりです、准さん」

准「久しぶり。メイド術を教えて以来かな?」

祥子「その節はお世話になりましたですよ。准さんは今日はどうしてここに?」

准「宇宙開発チームの活動が一段落からね。ちょっと一息つきにきたんだよ」

祥子「そうですか……早く、完成できるといいですね」

准「早さよりも納得のいくものをつくりたいかな。もちろん早く完成させるにこしたことはないけど。
  次の火星への定期便に間に合わせないと少年の帰投に私のデザインした宇宙服を着てもらえなくなるし。
  焦ってはいないけど、結構忙しい毎日だね」

祥子「そう言っているわりには、准さん楽しそうです」

准「まあね。他の人から見たら枯れてるって思われるかもしれないけど、私的には充実していると思っているかな。
  大変だとしてもやりがいのあることをできているなら楽しいに決まってるよ」

祥子「そう、ですよね……」

准「それにストレス解消用のサンドバッグ(風来坊)もあるしね」ニヤリ

祥子「……」

准「……はあ、これはたしかに重症かな」ボソ


准「ねえ、祥子のほうは最近どうなの?」

祥子「わ、私ですか? ……ふ、普通ですよ、普通。
   もう普通すぎて毎日がエブリデイみたいな感じですよ!」

准「ふーん」

祥子(あっ、流された……!)

准「まあそれはいいとしてさ、祥子はどうして私を見たとき慌てたのかな?」

祥子「!」ギクッ

准「……もしかして私が教えたメイド術をつかって何かした?」ジト

祥子「そそそそ、そんなことあるわけないですよ」アセアセ

准「……まあ、祥子なら使うことはあっても悪用することはないと思って教えたから別にいいんだけどね。
  それより祥子、そっちに座ってちょっと私とおはなししない?」

祥子「い、いえ、仕事がありますし……」


田村「それなら大丈夫」

祥子「……へ?」

田村「私が代わりにフロアに出てるから」

祥子「た、田村さん!? ど、どうしたんですかですよ!?」

田村(准さん、祥子ちゃんのことよろしくお願いします)チラッ

准(はいはい、准お姉さんに任せておきなさい)コクリ

 スタスタスタ

祥子「あっ、田村さん……」

准「典子の許可も出たことだし、祥子はそっちに座ったら?」

祥子「う……は、はい……」オズオズ


准「さて、時間はあるからゆっくり話そうか」

祥子「わ、わりませんからね!」

准「ん?」

祥子「わ、私は准さんにメイド術の口撃を教わりました。対策はもうバッチリですよ!」

准「ほほー」

祥子「だから以前の私のように口をわらそうとしても……」

准「へえー、祥子は私に勝てるつもりなんだ。
  ……半人前のくせに師匠に勝てるとでも?」

祥子「ヒイッ!」ビクビク



田村「お待たせしました。ご注文のコーヒーになります」

須田「の、のりこんでやんすー! やったでやんすー! おいらは勝ち組でやんすー!」

田村(祥子ちゃん、私はこんな形でしか手助けすることできないけど、頑張って)


・・・・・・・・・・・・

准「なるほど、そんなことがあったんだ」

祥子「はい……准さん、私どうしたらいいんでしょうか……?」

准「……」

祥子「スクルメタ君に好きだって言ってもらえて、両思いだとわかって、私本当に嬉しかったんです。だけど私は……」

准「……どうにでもしたら?」

祥子「え?」

准「どうしたらいいって聞いたからね。答えてあげるよ、どうにでもしたらいいんじゃないかな?」

祥子「それってどういう……」

准「どういう意味もないよ。そのまんま。
  祥子が私に答えを丸投げしたから、私も祥子に投げ返しただけ。おかしい話じゃないでしょ?」

祥子「……そう、ですね」

准「私は当事者じゃないからね、責任の取れないことは言えないよ。
  だいたい、私が何か言ったら、その通りにしてたの?」

祥子「それは……」

准「しないでしょ? だったらどうしたらなんて軽々しく聞いちゃだめだよ」


祥子「でもスクルメタ君かお兄ちゃんのどっちかを選ぶなんて私には……」

准「そのどっちかで悩む必要はあるの?」

祥子「え?」

准「そのスクルメタ君って子が言ったんでしょ、『俺にも背負わせろ』って。
  だったら祥子が悩むべきは彼にも背負ってもらうか、あんたがいい顔をするために二人ともから逃げるかの二択じゃないの?」

祥子「でもそしたらスクルメタ君に負担が……」

准「スクルメタって子なら大丈夫だよ。祥子はまだわからないと思うけど、夢を持った人間は強いんだから。
  たとえ立ち止まったり、やめようかなって思うときがあっても、誰かの頑張れの一言で前に進めるんだよ」

祥子「……准さんの強さも夢を持っているからですか?」

准「……そうだね。夢を持っているから私は強いよ。
  私には手が差し伸べられることはなくても、頑張れって言ってくれる人もいるし。
  その一言で私はどこまでも頑張れるんだよ……たとえそれが強がりだとしても」ボソ

 思わず出た女性の最後の呟きは幸いにも少女に聞き取られることはなかった。


准「まあ、話を聞いただけの想像だから、スクルメタって子を過大評価しているかもしれないけど」

祥子「そ、そんなことありません!
   スクルメタ君は准さんに負けないくらい……いえ、准さん以上に強い人ですよ!」

准「へえー、私以上に強い人なんだ~。会ってみたいなあ、会ってみようかな~?」

祥子「……あ、あの、准さんよりとは言い過ぎました。准さんの次ぐらいかもですよ」

准「それくらいスクルメタって子を信じられるなら答えはもう出ているんじゃない?」

祥子「……」

准「この後は一人で好きなだけ考えて、悩んで結論を出すべきかな。
  最後に祥子言っておきたいことがあるんだけど」

祥子「な、なんでしょうか……?」

准「メイドの教えを忘れてない?」

祥子「メイドの教え……ですか?」

准「うん。メイド術を教える最初に言ったでしょ?
  メイドさんにはご主人様に仕える健気な心と、涙なしでは語れない背景が自動的に設定されてるって」


・・・・・・・・・・

風来坊「!」ゾク

維織「どうかした……?」

風来坊「い、いや、なぜか健気という言葉が黒く染まった気がして」

・・・・・・・・・・

「!」ゾク

紗矢香「……おにいちゃん、どうしたの? 大丈夫?」

「だ、大丈夫さ。紗矢香は健気だなあ……健気だよな……?」


・・・・・・・・・・

祥子「は、はい……たしかに教わりましたですよ」

准「あれはメイドとして相手に尽くすために教えたのに、今のあんたは逆に尽くされ過ぎてる。
  メイドとしては失格かな」

祥子「そ、それはそうですけど……」

准(まあメイドの教えなんてその場のノリで適当に考えただけなんだけどね)

祥子「でもどうして返したら……」

准「そこも自分で考えるべきじゃない? 今ここでスクルメタって子を一番知っているのはあんたでしょ?」

祥子「……」

准「さて、そろそろ私はいくね。いくところもあるし。次会うときはいつもの笑顔でいてほしいかな。じゃあね」

 スタスタスタ

祥子「……准さん」

 ピタッ

准「何?」

祥子「お願い……ううん、うまいお話があるんですが、聞いていかないですか?」

准「……へえ、祥子そんな目もできるんだね。いいよ、ちょっとだけ延長させてあげる」



 ざわざわ、ざわざわ

須田「……なんかお店の一角からどす黒いオーラが噴き出ているでやんす」


スクルメタ(今週は準々決勝から決勝まで試合がある……山場だな)

 夏大会が始まって数週間が経った。
 もともとこの夏に照準を合わせていたおかげもあって、NIP高校は破竹の勢いで勝ち続け、残るは去年の秋に負けた高校にリベンジをはたしていくだけである。

スクルメタ「今日はもう帰るとするか……あれ? 部室に誰かいるのか?」

 この日も試合があり、その後は休みとなっていたのだが、俺はどうにも落ち着けず、学校で一人練習をしていたのだが、なぜか部室から電気が点いていた。

 ガチャ

スクルメタ「おーい、誰かいるのか?」

祥子「……」

スクルメタ「し、塩谷!? ど、どうしてまたここに……」

祥子「……き」

スクルメタ「き?」

祥子「キャー!!」

スクルメタ「ええっ!?」


・・・・・・・・・・・・

 塩谷が叫んだことによって、俺たちはまた職員室に呼び出しをくらうことになった。
 もう夜のとばりが落ち始めていたせいか、そこには俺と塩谷、そして教師先生以外は見当たらない。

教師「またお前らか……今度はいったい何をしたんだ?」

 イライラを隠そうともせず先生は俺らをにらむ。
 だが、今回も俺にはまったくどういうことかわからないのだ。何も言えるわけがない。

祥子「じ、実は、不審者を見つけて」

 そんな中、塩谷はあの日と同じ口調でしゃべり始めた。

教師「それはおかしな。前の一件はお前のでっちあっげだと聞いたが」

祥子「今度は本当です!」

教師「そこまで言うなら、その不審者について教えてもらおうか。
   なんなら似顔絵を描いてもいいぞ? 描けるものならな!」


スクルメタ(塩谷、どうするんだ?)

 前回のときと同様に俺が来たから塩谷は悲鳴をあげたのだ。もちろん塩谷以外は誰もいなかった。
 だから似顔絵なんか描けるはずないと思ったのだが、

祥子「似顔絵なんて必要ありません。名前もわかってます。だって不審者の正体はこの学校の人だから」

 塩谷は自信満々にそう言った。

スクルメタ(あれ? 塩谷の口調が変わってる?)

 いつも俺と話すときとは違うのは当然だが、そうじゃなくても今の塩谷のしゃべりかたはいつもの塩谷らしくないと思った。

教師「……ほお、なかなか興味深いことを言うじゃないか塩谷。
   ではもちろんその人物を教えてくれるんだろうな?」

祥子「はい……というか、不審者は目の前にいます」

教師「はあ?」

祥子「不審者はあなたのことです。教師先生」

スクルメタ(ええっ!?)


教師「……ふざけているのか、塩谷?」

 先生はイライラを通り越してあきらかに怒りの様子だったが、塩谷は変わらず飄々としていた。

祥子「ふざけてなんかいませんよ。大真面目です。ね、校長先生?」

 スッ

校長「……ああ」

スクルメタ(! いつの間に……)

教師「こ、校長!? どうしてここに……いやそれよりも校長、こいつら……」

校長「……諦めたまえ。君のことに関して調べはもうついている」

教師「は、はあ……?」

校長「ジャジメントから派遣された君がどうしてジャジメントがなき今もここに残っているのか不思議だった。
   だがまさか、生徒を売っていたとはな」

教師「こ、校長、何を吹き込まれたが知りませんけどまさかこんなガキの言うことを信じるんですか?」

祥子「そのガキと呼んでいる人たちのデータを売りさばいたのはどこの誰ですか!!」

 そのとき一瞬見せた怒りは何よりす塩谷の気持ちを表していたと思う。


祥子「……教師先生、あなたが実験体とした人たちのデータをお土産に他の組織に取り入れようとしているのは知っているんですよ。
   そして、まだこの学校にいるのも、歴代最強と呼ばれたお兄ちゃんたちの世代のデータを手に入れるためでしょう?」

教師「で、でたらめだ! どこにそんな証拠がある!」

祥子「それはフラグですよ。証拠ならここに。見せてあげますよ。もちろんこれはコピーですが」パサ

 塩谷が渡した書類の束を教師はおそるおそる読み始める。
 そして読み進んでいくごとに教師の顔色が悪くなっていく。

校長「君の隠し事は薄々気付いてはいた。だが、このような結果になったのは残念だ。
   私としては勘違いであってほしかったがね……」

スクルメタ(あのとき(10週目)校長先生が見てたのは教師のことだったのか……)

教師「どうしてだ……どうして貴様のような小娘が俺のことを……」

祥子「伝説の情報屋」

教師「!」

祥子「私はたしかに小娘ですけど、どうやら周りの人たちには恵まれているみたいなんです」

教師「……」

祥子「他に何か弁解はありますか?」

教師「……はは、伝説の情報屋相手ならさすがにねえよ……だがな、いいのか校長?
   貴様が俺を疑ってでもこの学校に置き続けたのはそれ以外手がなかったからだろう?
   逃げた連中の残した実験の後処理、俺がいなくなったらお前一人でどうやってするつもりだ?」


祥子「それなら大丈夫です。
   NOZAKIグループから人を派遣してもらうことをお願いしましたから」

教師「……はあ?」

祥子「理解力の乏しい人ですね。もっと簡単に言ってあげましょうか?
   教師先生、あなたはもう必要ないんですよ」

スクルメタ(し、塩谷の後ろから暗黒のオーラが見える……)

教師「学校が潰れる前に俺を追い出すつもりか? そんなことして何の得がある、自己満足か?」

祥子「潰れる? ああ、ちなみにNOZAKIグループにはこの学校のスポンサーについてもらうことになりました。
   ですから、潰れるなんてことはありませんよ。ご心配なく」

 塩谷との付き合いを少し考え直そう。真剣にそう思った。

教師「なに!?」

祥子「だからあなたは後腐れも残さず出ていってくださいね、せ・ん・せ・い?」

教師「…………くそ…きが」

スクルメタ(ん? 教師の様子がおかしいぞ?)

教師「こっの、くそがきがー!!」

スクルメタ(あっ! 教師が塩谷のほうにつっこんだ!?)

A.塩谷をかばう
B.先生に突撃する


A
スクルメタ「塩谷! 危ない!!」バッ

祥子「えっ!? スクルメタ君!?」

教師「うおおおおおおおおお!!」

 グサッ!!

スクルメタ(ぐっ……あれ? 痛みがないぞ?)

祥子「准さん直伝!! しゃがみ足払い!」

 ガスッ、ドガッ!

祥子「アーンド、スタンガン!!!」

 ビリビリビリ

教師「ぎゃああああああ!!」バタリ

スクルメタ「……やったのか?」

祥子「……ううん、あいうち……かな」ガクッ

スクルメタ「塩谷!? お前……血が!」

祥子「これは……メイドの私でも、ちょっと……まずいかな……」

スクルメタ「校長先生! 早く救急車を!!」

校長「あ、ああ……」

 スタスタスタスタ


スクルメタ「塩谷、塩谷!!」

 ギュウ

祥子「痛いよ、スクルメタ君……でも、良かった……スクルメタ君を守れて。
   これで……ようやく、メイドらしいこと……できたかな?」

スクルメタ「こんなこと普通のメイドはしねえよ! ……どうして、どうして俺をかばったりなんかしたんだ!」

祥子「だって私、弱いから……弱いから、好きな人が……傷つくのは……たえられないんだよ…………」

スクルメタ「弱くない! お前は弱くなんてない……だから……!」

祥子「え、えへへ……うれしい、なあ……スクルメタ君……に……つ、よい……って」

スクルメタ「もういい、もうしゃべるな!」

祥子「……く、ん…………だ、い……す……き…………」ガクン

スクルメタ「しお、たに……? 嘘だろ……? 塩谷……塩谷――!!」

 それから後のことは覚えてない。
 葬式の後も塩谷が死んだこと……いや、俺が殺したことを受け止めることはできなかった。

 ビターエンド


准「君がスクルメタ君?」

 何度目かわからない塩谷の墓参りを繰り返したある日、俺は一人の女性に出会った。

スクルメタ「……あなたは?」

准「私の名前は夏目准。祥子の師匠であり、あの子をNOZAKIに紹介した張本人。
  いわば、間接的に祥子を殺した人だよ」

スクルメタ「……」

准「へえ……怒らないんだ」

スクルメタ「塩谷を殺したのは俺ですから。
      ……それに、そういう相手を許すのを強さっていうんじゃないんですか?」

准「……そうかもね」

 女性といれかわるように俺は祥子が眠る墓地をあとにする。
 その途中、墓地から誰かの泣くような声が聞こえた気がするけど気のせいだろう。

 俺は塩谷が亡くなってから一度も泣いていない。
 泣いたところで死者はよみがえらないし、泣くことは弱さを意味するのだから。
 最後まで俺を強いと信じ続けた彼女のためにも泣くわけにはいかない。

スクルメタ「これが強さなんだよな、塩谷……」

 年々塩谷の死を受け入れられるようになり、俺は強くなっていくのを実感する。
 ただどうしてだろうか。年々塩谷との思い出が薄れていくのは。

>>340

B
スクルメタ「ウオオオオオオ!!」

教師「なっ!? じゃ、邪魔だー!!」

 グサッ!!

スクルメタ「ぐっ」ガクッ

祥子「スクルメタ君!? よくも、スクルメタ君を!!」

 ゴウッ

祥子「准さん直伝!! しゃがみ足払い!」

 ガスッ、ドガッ!

祥子「アーンド、スタンガン!!!」

 ビリビリビリ

教師「ぎゃああああああ!!」バタリ

スクルメタ「……やったのか?」


祥子「しゃ、しゃべっちゃだめだよ、スクルメタ君! ナイフで刺さされたんだよ!?」

スクルメタ「ああ、それなら大丈夫だ」スクッ

祥子「え? どうして?」

スクルメタ「これが守ってくれた」スッ

祥子「それって、野球ボール?」

スクルメタ「ああ。以前(5週目)にこれを拾っててさ、それをずっと持っていたら、ナイフがそこに来て助かったんだよ。
      まあそれでも突きの威力でだいぶ痛かったけど、怪我はないから」

祥子「……本当?」

スクルメタ「ああ、見ての通りピンピンしてるだろ? まあボールのほうは完全に駄目になったけど」

 ペタン

スクルメタ「お、おい、どうしたんだよ塩谷。急にすわりこんで」

祥子「……良かった」

スクルメタ「へ?」

祥子「良かった……スクルメタ君が無事で……本当に、良かった…………!」

スクルメタ「……心配してくれてありがとうな、塩谷」


・・・・・・・・・・・・・・

 それから俺たちは警察に連絡し、気絶している間に縄でしばった教師を引き渡した。
 もちろん事情聴取されたものの、未成年ということで校長先生が主に担当してくれることになり、俺たちはすぐに帰路につくことが許可された。

祥子「スクルメタ君、今日はごめんね。危険なことに巻き込んじゃって」

スクルメタ「まあ怪我人も出なかったし、結果オーライだな。
      それより塩谷があんなに強かったなんてびっくりしたよ」

祥子「まあね。でもメイドとしてはまだ師匠には程遠いんだよ?
   気配の消してくる人相手だとまだまだ遅れをとるし」

スクルメタ「気配を消す人と相手するのはメイドのすることじゃないと思うが……」


スクルメタ「もしかしてさっきの塩谷のしゃべりかたもその師匠に習ったのか?」

祥子「そうだよ。口で戦うときは感情を出すといけないからね。
   まあ途中で破っちゃったけどね」

スクルメタ「ならあの挑発するような言い方もわざとだったのか?」

祥子「うん。教師先生の性格上素直に引いてくれるとは思わなかったからね。
   教師先生が会話でボロを出すように仕向けるつもりだったんだけ、誘導失敗」

スクルメタ「まあ追い詰められた人間がどうとるかなんて俺たちがそうそう予測できるものでもないしな」

祥子「一応、逆上されたときの切り札としてスタンガンは持ってたんだけど、まさかスクルメタ君まで突っ込んでくるなんてさすがに予想外だったよ」

スクルメタ「結局、ただのいらないお節介だったけどな」

祥子「ううん。私を助けようとしてくれたんでしょ?
   前にも言ったけど、スクルメタ君のそういうところが私にとって嬉しいんだよ」

スクルメタ「それなら頑張ったかいはあったな」

祥子「あっ、でももう二度とあんな無茶をしたらダメだからね!」

スクルメタ「それくらいわかってるさ」

祥子(本当かなあ……)


スクルメタ「ところでさ、NOZAKIグループが学校のスポンサーについてくれるって本当なのか?」

祥子「それは……」

スクルメタ「……嘘なのか?」

祥子「ううん、半分嘘で半分本当。NOZAKIの偉い人とお話ししてスポンサーになってもらえないか頼んだんだ。
   そしたら条件があるって」

スクルメタ「条件?」

祥子「……NIP高校の野球部が甲子園で優勝すること。
   NOZAKIも企業だから慈善だけじゃスポンサーにはなれないって」

スクルメタ「まあそれくらいは当然か。いや、むしろ望むところだな。やることは変わってないし」

祥子「うん、スクルメタ君ならそう言ってくれると思ったよ」

スクルメタ「……」

祥子「ん? どうかしたかな?」

スクルメタ「いや、変わったなって思ってさ。
      ちょっと前の塩谷だったら甲子園を優勝するなんて条件じゃなくて、自分を犠牲にする条件にしてたと思うからさ」

祥子「……そうかもね」


スクルメタ「何かあったのか?」

祥子「うん、ちょっとね……それに私は決めたから」

スクルメタ「決めたって、何を?」

祥子「スクルメタ君にいろいろ背負ってもらうことだよ。
   甲子園優勝の約束から、この学校の未来、そして私の弱さも……」

スクルメタ「それは大変だな」

祥子「大変だよ……でも、スクルメタ君なら背負ってくれるよね?」

スクルメタ「……いや、まだ足りないな」

祥子「えっ?」

スクルメタ「塩谷はまだ俺を頼りきっていないだろ」

祥子「そ、そんなことないよ! スクルメタ君には充分に……」

スクルメタ「だって塩谷は俺の前で泣いてないじゃないか」


祥子「! い、意外にスクルメタ君ってSなんだね。私の泣き顔をみたいだなんて。でもそのくらいなら……」

スクルメタ「どうせ塩谷先輩が死んでから泣いてないんだろ?」

祥子「…………どうして……?」

スクルメタ「家族の死んでいる姿なんてその場で見て泣けるもんじゃないしな。
      塩谷先輩が亡くなったって理解したころは家族を心配させないために泣かなかったんだろ?」

祥子「……」

スクルメタ「そして一周忌でもお前は泣けなかった……ボールが見つけられなかったもんな」

祥子「……ぐす」

スクルメタ「だから泣けよ、塩谷。俺を信じて背負わせるってそういうことだぞ」

祥子「う、う……う…………うわああああああああ」

 ダキッ

祥子「わああああああああん!!」

スクルメタ「……よし、これでようやくお前の弱さを背負えた。見てろよ、俺は必ず甲子園優勝するからな!」


スクルメタ「やった! 勝ったぞ! これで甲子園だ!」

 その後も俺たちは破竹の勢いで勝ち進めた。
 そして、

スクルメタ「……やった。やったぞ! 甲子園優勝だー!!」

須田「ぐすっ、おいら野球やってきて良かったでやんす」

スクルメタ「俺もだよ須田君」

 こうして俺の最後の夏は最高の結果で終わった。


・・・・・・・・・・・

祥子(やりましたね、スクルメタ君!)

校長「信じられん……まさか本当に優勝するとは」

祥子「これでこの学校にNOZAKグループIがスポンサーにつくことが決まりました。
   約束通り、あなたには今後もこの学校の校長を続けてもらいます」

校長「それは、かまわん……が、良いのか私で?
   NOZAKIに頼めばもっと優秀な人材を派遣してもらえるかもしれないぞ?」

祥子「そうかもしれません……ですが、あなたほどこの学校を愛している人はいないと思いますから。
   理事長が消えてから私財を捨てて借金を背負うほどこの学校が好きなんですよね?」

校長「……この学校は私の青春だった。
   どうしようもないほどやさぐれていた私をこの学校での出会いが変えてくれた。
   今の私があるのはこの学校のおかげだ……だからどうしても潰したくなかった」

祥子「その言葉を信じます。だからもう二度と生徒が犠牲になるようなことは起こさないでください。
   そして、この学校にいたことが誇らしくなるような学校をつくってください」

校長「塩谷翔君のことはいいのか?」

祥子「……私って実は弱いんですよ。
   だから怒りや憎しみをいつまで持ち続けることはできませんし、母校を嫌な思い出として残すことなんてできません」

祥子「それに……涙なしでは語れない背景があるのはメイドの嗜みですから」


・・・・・・・・・・・・

 甲子園から数日後、墓地

スクルメタ「はい塩谷、約束のボール」スッ

祥子「ありがとう……でもいいの? スクルメタ君にとっても大事なボールなんじゃ?」

スクルメタ「いいんだよ。ウイニングボールじゃなくて、甲子園の決勝で使われてたうちの一つってだけなんだから」

スクルメタ「それに俺のほうも嬉しいことにまだまだ野球との縁は続きそうだし。
      過去にすがらないって意味でもここに置いといてくれ」

祥子「うん、わかった。それじゃあもらっておくね」

 塩谷はボールを石碑の隣の袋に入れた。
 なんでもその中には塩谷先輩が生前使っていたグローブやスパイクが入っているだとか。

スクルメタ「……」

祥子「……」

 俺と塩谷は手を合わせ静かに黙祷をささげた。

 塩谷先輩、あなたのボールは見つけられませんでした、すみません。
 けどこれは塩谷先輩が野球部を残してくれたから取れたボールです……ありがとうございました。


・・・・・・・・・・・・

 墓参りが終わり、俺と塩谷は二人でゆっくり緑が生い茂る並木街道を歩いていた。

祥子「……スクルメタ君、プロにいくんだよね」

スクルメタ「一応な、ドラフトがあるまではまだわからないけど、声はかけてくれている球団はいるから。
      でももしプロにいけなかったとしても俺は野球を続けるだろうなあ。俺にとって野球はもう生活の一部だし」

祥子「あ、あのね!」

スクルメタ「ん?」

祥子「わ、私ってけっこうお買い得だと思うんだ!」

スクルメタ「……は?」

祥子「ほ、ほら、私ってメイドだから奉仕精神たっぷりだし、メイド術だって習得してるし」

スクルメタ「メイド術ってなんだよってそれよりも、お前に何か奉仕された覚えはないんだが?」

祥子「料理は……これから田村さんに習うことにして」

スクルメタ(……つくれないのか)

祥子「よよよ、夜のほうももちろん頑張るよ!
   そういう経験ないし、メイド術にもそういうのはないから上手くできないかもしれないけど」

祥子「あっ、でも、最初からマニアックなのはちょっと……」

スクルメタ「お前にとって俺ってどういうやつなんだ……」ドヨーン


祥子「だから……ダメ、かな……?」

スクルメタ「……」

祥子「……何も言ってくれないんだね」

スクルメタ「というか、俺が聞く側じゃないのか?」

祥子「えっ?」

スクルメタ「甲子園優勝の約束をしたときに告白の返事を聞くって言っただろ。忘れたのか?」

祥子「ううん、それは忘れてないけど……」

スクルメタ「けど……?」

祥子「主人公の心と秋の空、二人まで許すは罠ということわざもあるし」

スクルメタ「どんなことわざだよ。聞いたことないぞ」

祥子「じゃあ……!」

スクルメタ「ああ、俺の気持ちは変わってない。だから塩谷、返事をくれ」

祥子「……名前」

スクルメタ「え?」

祥子「名前で呼んでほしいな。そしたら返事をするよ」

スクルメタ「わかった……祥子、俺はお前が好きだ。
      お前の弱さも俺の弱さも二人で背負ってずっと一緒にいたい。だから俺と付き合ってくれないか?」

 タタタタタ、ダキッ!

祥子「……えへへへへへ」

スクルメタ「抱き着いてくれるのは嬉しいけど……祥子、返事は?」

祥子「もちろんОKだよ! これからずっと一緒だよ! よろしくね、スクルメタ君!」


 新たな花が咲く季節。
 桜舞う並木街道を三つの影が歩いていた。

「ねえねえ、お母さん、今日はどこに行くの?」

祥子「今日行くのはね、お父さんとお母さんの母校だよ」

「ぼこう……?」

祥子「うん。お父さんとお母さんが出会った大切な場所。できればあなたにもいってもらいたいな」

「? 今向かっているんじゃないの?」

スクルメタ「たしかにそうだけどな、お母さんはもう少しお前が大きくなってからまたそこに行ってほしいんだよ」

「大きくなっていくと良いことあるの?」

祥子「ふふふ、そうだね。きっとあなたにも幸せが訪れるから」

 桜舞う並木街道を三つの影が歩いていた。ただ、それだけの話。

 火星への定期便が無事についたと連絡が来た翌日、とある女性は久しぶりに親友のところに身を寄せていた。
 女性が職場から離れるのは年に数回あるかどうかなので、普通なら家に帰るのだが、残念ながら彼女に家はない。
 彼女が彼女の親友を助けると決め、裏の世界に踏み込むことになってから巻き込まないために自ら繋がりを断ったのだ。
 親友を助けるためとはいえ、何が彼女をそこまで駆り立てるのかというとそれは一つしかない。

 彼女は生まれながら仕えし者……メイドなのだから。

准「ふふ……今頃私のデザインした宇宙服が少年に届いたころかな?」

風来坊「准が笑ってる!? 今度はどんな悪巧みを思いついたんだ……?」

准「風来坊さん、宇宙服にしてあげようか? それともぞうきんがいい?」ニコニコ

風来坊「ご、ごめん。普通の人間でいさせてくれ」


風来坊「……しかし顔を合わせるのは久しぶりだな。今回はいつまでいるんだ?」

准「明日の朝には帰るよ」
 
風来坊「明日の朝!? それはまた早いな」

准「少年に宇宙服を着て姿を見せてもらう約束をしているからね。
  見るだけなら録画でもいいけど、いろいろ動いて確認したいこともあるし」

風来坊「それならしょうがないか。しかし准、お前はよく働くよなあ」

准「ヒモの誰かさんとは違うからね」ジト

風来坊「い、今は働いているだろ!」

准「ほぼ一日中、家に維織さんといるだけなのに?」

風来坊「それは維織さんが家を出ないだけで……」

准「しかもそれすら夜にはパトロールとか言ってどっかに出かけているくせに?」

風来坊「ぐっ……」


風来坊「ま、まあそれはおいといて、体には気をつけろよ。
    そういう俺もお前のことは応援することしかできないが……」

准「大丈夫」

 生粋のメイドである彼女は今後も誰かに尽くすために一生を使うだろう。
 それを可愛そうという人もいるかもしれない。
 しかし彼女は止まらない。彼女には叶えるべき夢と、

准「メイドさんは最後に望みが叶うようになってるから」

 彼女を応援してくれる人がいるのだから。


野田「暇つぶし雑談コーナーを担当する野田でやんす。さっそく今日のゲストをお呼びしたいと思うでやんす。
   第一回のゲストはもちろんこの人、主人公ことパワポケ君でやんす!」

パワポケ「……野田君、久しぶり」

野田「久しぶりでやんす。
   ん? どうかしたでやんすか? 浮かない顔でやんすが……」

パワポケ「いやさ、見ている人が野田君のことわかるかなあって。結局話には登場機械なかったし」

野田「察しがいい人ならわかるんじゃないでやんすか?
   まあ、結局はこのスレのオリジナル眼鏡ってだけだし、たいした存在ではないでやんす。
   それより、パワポケ君文句があるそうでやんすが、なんでやんすか?」

パワポケ「ああ、うん。根本的な話なんだけど……野球させろよ」

野田「無理でやんす」

パワポケ「即答かよ!」

野田「……しかたないでやんす。SSで野球は無理でやんす。ルール考えるのめんどくさいでやんすし」

パワポケ「じゃあせめて野球している様子かけよ! 彼女攻略だけさせてんじゃねえよ!
     ギャルゲーじゃないんだぞ! 野球部分の話をまずはつくれよ!」

野田「文句が多いでやんすね」

パワポケ「言っていることは一つだ! 野球させろ!」

野田「前向きに検討することを前向きに検討するでやんす」

パワポケ「おい、それってあきらかに考えるつもりないよな?」

野田「じゃあ今回はこれで終わりでやんす」

パワポケ「おい! ちょっ、まっ……野球させろー!!」

プロフィール No.1
パワポケ(主人公)
両親行方不明。現在はNIP高校の雑談寮に住んでいる。
野球は育ての親の影響で始め、中学校の部活の監督と出会い、本当に野球が好きになる。
父親の手がかり……なし
母親の手がかり……好みのタイプは島流しに会った後、潰れた工場を再建させるような人らしい


野田「大不評、暇つぶし雑談コーナーでやんす。司会はもちろんオイラ、野田が担当するでやんす。
   第二回のゲストはこの人、毒島さんでやんす。よろしくお願いするでやんす」

毒島「……よろしく」

野田「さて、さっそく雑談といきたいでやんすが、あんたも何か文句あるそうでやんすね?」

毒島「……当然」

野田「意外でやんすね。三人の中では一番文量が多くて優遇されてるでやんすのに」

毒島「そうだけど……メインパートのはずの私の出番、少ない。特に後半」

野田「……言われてみればたしかにそうでやんすね」

毒島「……12週目以外10週目からどんどん出番が少なくなっていって、14週目はゼロ。
   酷い。パートのメインヒロインなのに……」

野田「しかたないでやんす。出てくるキャラが一番多いやんすからね。
   話を進めたり、まとめたりするためにはわりをくうキャラも出てくるでやんす」


毒島「……そのわりには最後は力技。正直、どうかと思う」

野田「ぐっ……で、でもあんたのパートに出ていた主人公が一番まともな性格しているでやんすよ。
   杏香パートの主人公と祥子パートの主人公は話のために性格が安定してないでやんすし」

毒島「……それとこれとは話が別。十五週目だって頑張ればもっと出番増やせたはず。あれだけじゃ納得いかない」

野田「まあそこは目をつぶってもらうしかないでやんす。他には何か文句あるでやんすか?」

毒島「他……? …………ない」

野田「えっ? 名前のほうはいいでやんすか?」

毒島「……あれは別に」

野田「そ、そうでやんすか。それならオイラから何も言うことはないでやんす。
   今回の雑談コーナーはこれでおしまいでやんす」


プロフィール No.2
毒島 冽華(ぶすじま れつか)名前の元ネタ……ブス、劣化
元ジャジメント研究員で第二世代型アンドロイド
能力は催眠による特定時間の記憶を忘れさせたり、思い出させたりするいわば劣化友子
友子たちの脱走時、あえて一緒に行かず能力を活用して研究員の一人になりすました
学校の保健医をしているが、学校に通った記憶はないのでどの程度やればいいかわからずはりきってしまう。

名前の元ネタはあくまで名前だけの元ネタであり、本人の設定とは無関係
ただ勘違いされると困るので名前はパート中にはださなかった。


野田「つまらんと言われても決してやめない、暇つぶし雑談コーナーでやんす。司会はもちろんオイラ、野田が担当するでやんす。
   第三回のゲストはこの人、須田杏香さんでやんす。よろしくお願いするでやんす」

杏香「ああ、よろしく」

野田「で、どうせあんたも何か文句あるでやんすよね?」

杏香「当然だな。むしろあのできでないと言うほうがおかしい」

野田「じゃあさっさと言うでやんす」

杏香「まずはあれだな、私のパートは引用が多すぎる」

野田「まああんたの場合設定が設定でやんすからねえ」

杏香「それにしてもあれは以上だろ。
   選択肢はもちろんのこと、会話の大部分を丸々引用していたところもあったじゃないか」

野田「しかたないでやんす。本物っぽさを出すためには本物と同じセリフを使うのが一番でやんすから」


杏香「次にあれだ。私が彼女になるにはおかしくないか?」

野田「どういう意味でやんすか?」

杏香「いや、だって普通は回を重ねていくごとに親密になっていくものなのに、私のパートではむしろけんかしているじゃないか」

野田「な、なんでも言い合える仲ってことじゃないんでやんすか?」

杏香「そういうのが悪いとはいわないが、少なくとも私の場合は当てはまらないと思うが……
   そして最後はまた力技だし。これも問題じゃないか?」

野田「ぐっ……それは反論できないでやんす」

杏香「そしてなにより一番どうかと思ったのは」

野田「思ったのは……?」

杏香「私の妹設定はなんのた……」

野田「今回の雑談コーナーはこれでおしまいでやんす!」

プロフィール No.3
須田 杏香(すだ きょうか)名前の元ネタ……素手、強化
神条紫杏の影武者としてつくられたアンドロイド
うまれて間もないうちに用済みになりツナミに捨てられた
だから本来ならまだ高校生ではないが体の年齢に合わせた生活している。朱里とは中学生のころ偶然出会った。
ちなみに彼女の育ての父親はめったに帰ってこないため、何の仕事をしていたのかは聞かされていない。

最初の設定は名前の元ネタ通り、格闘系少女だった。


野田「作者イタイ、作者キモイはなんのその、暇つぶし雑談コーナーでやんす。司会はもちろんオイラ、野田が担当するでやんす。
   第四回のゲストはこの人、塩谷祥子さんでやんす。よろしくお願いするでやんす」

祥子「よろしく!」

野田「ごめんなさいでやんす!」

祥子「ええっ? ど、どうしたの急に」

野田「あんたの言うであろう文句はわかっているから先に謝っておくやんす」

祥子「あっ、やっぱりわかってるんだ。いいんよ、謝らなくて」

野田「……本当でやんすか?」

祥子「うん。だって謝られたって結局は文句言うしね」

野田「やっぱりそうでやんすか……」

祥子「だいたいおかしいよ! 私のパートに出てくる人たち誰一人としてキャラ安定してないよ!」

野田「あんたが一番展開をいろいろ変えたからしかたないでやんす」

祥子「それにしても酷いよ。教師先生なんて名前が同じだけで出てくる週ごとに性格が変わってるし。
   校長先生もギャグキャラかと思ったらいい人でカツラネタでいじくって罪悪感がいっぱいだよ!」

野田「まあ、二人は完全にモブキャラとして考えていたでやんすからね」


祥子「私のなぞの四字熟語キャラも後半になったらほとんど使われないし」

野田「代わりに週つぶしネタだっただけのはずのメイドキャラがたってたからいいんでやんす」

祥子「それとさ、一番の疑問なんだけど」

野田「なんでやんすか?」

祥子「ナイフで刺されたけど実はボールに刺さって助かった展開だけどさ、おかしいよね?
   あれってボールはどこにあったの?」

野田「……」

祥子「野球のユニフォームってさ、上着のほうにポケットないよね?
   最悪ズボンに入れてたとしても下半身めがけてナイフ突き出すってすごく不自然だよね」

野田「……あー、いやだいやだ。細かい設定を気にして話を楽しめない大人にはなりたくないでやんす」

祥子「いや、あれは設定とかいう問題じゃ……」

野田「これで終わるでやんす!」

プロフィール No.4
塩谷祥子(しおたに しょうこ) 名前の元ネタ……塩、コショウ
NIP高校の元エース、塩谷翔の妹。兄妹仲はそれなりに良かったが、別にブラコンと呼べるほどではない。
兄が死んでいこう、優しくしている両親と距離を測りかねてしまい、お互い気のつかう毎日をおくっている。
そんな中なんとなく入ったバイト先でメイド神に会い、様々なメイド術を教わる。

兄の名前の元ネタは塩、しょうゆ

これで終わりでやんす。もし読んでくれた人がいるならありがとうでやんす
パワポケのリメイクでもいいからでないでやんすかねえ

じゃあ、依頼出してくるでやんす

乙乙、パワポケは是非とも続編出てほしいねえ。
中古の価格すらやたら高いし…


15はまだか…

このSSまとめへのコメント

このSSまとめにはまだコメントがありません

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom