「いた...」

手先に痛みを感じて、久しぶりに声をあげた。
ひび割れた指先を舐める。
唾液が染みて痛かった。

こんな小さな傷で苦しむなんて、あの頃は考えたこともなかった。



一日の大半を過ごすベッドは小さくて、寝苦しい。
ベットから３歩程の距離しかないところに、ほとんど入っていない小さな箪笥と使われない机。
私の世界はそれだけで、何もなかった。

そんな小さな世界の机の上にある、鍵のついた木箱。
鍵は捨てた。
そこに何が入っているか、私は知っている。
そこにあるだけで、拠り所になるもの。
でも、もう見たくなかった。
他の人にも見せたくなかった。

「よう」

そう言って、抱えていた袋を降ろした。
どすん、と音が鳴る。
それだけ重いものをここまで抱えて来た、ということ。

「適当に置いとくからな」

袋の中には、食べ物や生活用品が詰まっている。
それが箪笥やベットサイドに置かれていくのを見る。

「ほら」

手に持たされたのは焼き菓子だった。

「アルミンから手紙」

封筒を持たされる。
明日非番だから、また後でくる。
そう言って出ていった。

アルミン。
最初はアルミンだったのに、いつの間にか彼になっていた。

アルミンは兵団でも上の立場になったと聞いた。
アルミンはもともと凄く頭が良くて、強かった。
私は、何の力もない。
「 」の思い出から抜け出せない。
私はこうして、独りで死を迎えて、消え去る。

彼の背中を見送ってから、立ち上がって木箱に触れた。
ひび割れた指が痛かった。

×××××××××××××××××××

「お前も飲むか」

ジャンは、床に座ってお酒を飲んでいた。
いつもは何も言わないのに、珍しい。

「いらない」

返事をしたら、驚いたみたいだった。

「じっと見てただろ。気が変わるかもしれねえし、ほら」

少しだけ入ったグラスを持たされる。
ジャンが、「おつかれ」と言って、私のグラスに自分のグラスをぶつけた。
おつかれは違うと思う。
ジャンは今からまた疲れる。

ジャンは燻製肉を食べながらお酒を飲んでいた。
よく分からないことをずっと喋っていた。
時々、空いた自分のグラスに酒を注ぐ。

「ほら」

私のグラスにもお酒をいれてきた。
もういらない。
苦いし、もういい。

ジャンは笑っていた。
彼はこんなに、お人好しだっただろうか。
アルミンに会いたくなった。

かつての３人でいること。
どんなに望んでも、それは叶わない。
孤独だ。

アルミンは余りここに来なくなった。
アルミンは今、兵団にとってなくてはならない存在。
気軽にここには来れない。

そんなことに傷つくのは、彼の人格を否定することになる。

私にもっと力があれば。
守れるだけの力があれば、３人を続けることが、出来たのだろうか。

とりあえずここまで
出来ればまた明日くる

乙です
これまた書き手が分かりやすいスレタイだなww

ゴミスレ決定

こっちも期待

ジャンミカ？期待

ジャンミカは荒れるんだよな...

スレタイのミカサのビールって何だよ俺も飲みたい

ミカサのビールじか飲みとかかなり高度な変態でワロタ

投下
キャラ崩壊と捏造設定注意な
公開オナニーみたいなもんだと思ってくれ

ジャンはいつも、非番の前の日になるとここへやってくる。
空になったまま置かれたグラスに、並々とボトルの酒を注いだ。
早く。早く全部飲んで帰ってほしい。

「ありがとな」

ジャンは嬉しそうな顔をして、「うまい」と言った。
美味しいはずがない。
そのお酒には、私の鬱屈した毒が混じっている。
その後も、グラスが空になる度に、私はジャンに毒を盛った。

７杯目くらいで、ジャンは上機嫌に歌い出した。
春の訪れを喜ぶ花達の歌。
ジャンは歌がとても上手いのだと、はじめて知った。
母親の誕生日にパンケーキを作る娘の歌。
どれも子供向けばかりで、ジャンに似合わない。

「お前も何か歌ってくれよ」

頼む、とジャンは楽しそうだった。
私はシーツに手をついて、ジャンに向き直る。
何を歌うか、迷うことはなかった。

人類の勝利を祝福した、壁の向こうへの期待と希望を唄った歌。
数年前はよく聞こえていたけど、自分で歌うのは初めてだ。
だめ。
声がでない。感情が、歌になれなくて、息が

「もういい」

ジャンがそう言って、お酒ではなく水を注いでくれた。
私が落ち着くのを待って、いい歌声だったと言った。

「これを歌うとは思わなかった」
「歌詞は、うろ覚えだけど...よく歌われていて耳に残ったから」

嘘だった。
こんなに辛い歌はない。
なのに、街中が皆歌ってて、楽しそうに。
私はこの歌を、自分を慰めるために、恨むために覚えた。

「お前はアルミンと外行かないのか」

ジャンはパンが入った袋をゴソゴソしながら、興味がなさそうに言った。
興味がなさそうなのは、ジャンの優しさ。
ここで話すようになって、分かるようになった。
壁の向こう。海。もう終わった話だ。

「私は行けない」
「...なんか、方法があるんじゃないのか。アルミンだってお前と一緒の方が」
「迷惑はかけられない」
「...そうか」

そう言って、ジャンは果物が入った袋に手をつけた。
「かけられた方がちょうどいい迷惑もあるぞ」
独り言みたいだった。
責めるようで押してこない。ジャンの不思議なところだった。

「お前さ」
「...何」
「なんか、やりたいこととかないのか。行きたいところとか。いつまでもこんな囚人みたいに」

こんな風に聞いてくるのは初めてだ。
たぶん、私がさっき弱みを見せたから。
無防備に見えるのかもしれない。
でもジャンは、悪い人ではないことを知っている。
だから、吐き出してもいいと思ったのかもしれない。

「...時々、死んだ方が楽じゃないかと思う。でも、それはできない」

彼に、顔を合わせられない。

「私は生きないといけない。約束したから。でもそれがとても苦しい」

「俺は、ミカサが生きてて嬉しいよ」

その目は、嘘をついてなかった。
まっすぐこちらを見ていた。

「なぜ」
「何でだろうな」
「意味が分からない」

ジャンはグラスのお酒を飲み干して、「うまいなこれ。はは」と茶化した。
そのジャンの指に指輪を見つけた。

胸が傷んだ。
ジャンがなぜそんなものをつけているのか分からない。
趣味かもしれない。
でも、相手がいるのかもしれない。

ジャンは幸せものだ。
家族を失ったこともない。
巨人との戦いで、身体を失ったこともない。
ジャンの口から、マルコの名前が出たのも、もうずっと聞いたこともない。
なぜだろう。
ジャンと彼は、何が違ったの。

下らない。
妬ましさにも近い。
酔っているのかもしれない。
私の中の何かが、発作を起こそうとしている。
屈折した孤独感が、根を広げて火をつけようと。
いけない。駄目だ。
だめなのに。

とりあえずここまで

あったかくなって、そろそろビールがおいしい季節ですね
でも流石にチョコマシュマロは無理かな

エロないならタイトル普通にすれば良かったのに
だいぶ損してるぞ

遅かったが、期待。楽しみにまってる。>>1荒らされたりしたらスルー。OK？

いい意味で予想を裏切られたわ
支援

好きだな。続きを読みたい。

期待保守

ほす

ほしゅ

もう来ないか

保守

間空いてすみません
引越しでバタバタしてた
もう需要ないかもしれんが、一応最後まで書くつもりです

「ジャン、帰らなくていいの」
「何でだよ。言っただろ、明日非番だって」
「でも、帰ってほしい」

駄目だ。
ジャンがいると、私は。
こんなに、感情を抑えられなかった？

「...そう、か。付き合わせすぎたな。悪い」

酷く傷ついた顔をして、ジャンが立ち上がる。

「じゃあまた様子見に来るからな」
「違う、ジャン」

たった今、優しさを突き放した人に何を言おうとしているのか。
止めないと。止めないと。
ジャンは酷い。
私を独りにしてくれない。

きっとたくさんの友人や部下が居る筈なのに、私を大切に想っているかのような、優しくして、思わせ振りで。
分かっていても、私は寂しさに蝕まれてボロボロになっていた。
自分で立っていられなくて、誰かに寄りかかりたかった。

あの頃みたいに誰かを愛したり、せめて、体温だけでもほしかった。
寒くて、心細くて、凍えそうで、崩れそうで。

「...違う。帰らないでほしい」
「何だ。お前、今日はどうしたんだ」

立ち上がったジャンの手を掴もうとして、さ迷った手が袖を掴んだ。

「私は、ジャンと仲良くなりたい」
「本当にどうしたんだよ」
「...もっと、仲良くなりたい」

握った袖を引っ張ると、ジャンの目が、狼狽えて揺れた。

「...クソガキじゃないんだから、今更仲良しこよしもないだろ」
「ジャン、お願い」
「酔ったのかお前」
「そう。酔った。だからこれは本音」

私の中の思い出は、溶かされて、燃やされたがっている。
彼を想い続けている気持ちごと、燃やしつくしてほしい。
自分が、こんなに弱い人間だとは思わなかった。
いや、今までも、こうしてジャンの優しさに甘えたくて、堪えた時はあった。
でも今日は、それが何故か、耐えられない。

「ミカサ...」

まっすぐ見つめてくる。ジャンの、切れ長の瞳。
その目は、哀れみだろうか。
私は、哀れな人間に映っている。

「お前、そんな女じゃなかったはずだろ。安売りみたいなことするな」
「安売り...安売りでいい。使い捨てで構わない」
「ふざけんなよ！俺はずっとっ...！」

ジャンが怒鳴った後、何か言おうとして溜息を吐いた。
そんなに強く言わなくても、馬鹿なことを言っているのは、分かってる。

「明日また来るから、お前も内地に来い。アルミンの近くにいた方がいい」
「いやだ」

ふらつく体を持ち上げ、立ち上がろうとする。
倒れそうになった私の腕を、ジャンが掴んで支えてくれた。

「ジャン、私は、本気」

本気、だろうか。
私はまだ、あの日から目を逸らせなくて、彼への想いを誰かに、誰でもいいから誰かに、押し付けたいだけなのかもしれない。
きっとそうだ。
私はジャンに酷いことを言っている。
これは、ジャンの優しさに対する、侮辱。
でも、もうそれでいい。
私は、寒くて凍えきったこの体を、何かで温めたいだけ。
それが美しいものである必要なんて、ない。
灰だっていい。

「...本気だっていうなら」

ジャンは机の上のそれを掴んで、引き寄せた。

「これはいらねえはずだよな」

とりあえずここまで

続ききてた！
支援

待ってた甲斐があった
期待

待ってんよ

ほしゅ

ほ

思わせ振りなのではなくて、ほんとにジャンは大切に思ってるんだよミカサ｡ﾟ(ﾟ´Д｀ﾟ)ﾟ｡

「捨てちまうぞ、これ」

ジャンが手にとったのは、あの木箱だった。
中身は私の過去の全て、心の拠り所であると同時に、絡みつく鎖。
私という存在が、あの日消えなかったきっかけになったものでありながら、胸の中に晴れない喪失感を産み続ける源泉。

ジャンはそれを、捨てると言った。

それが無くなることを私は想像できない。

あの日から今まで、私はそれに縋って生きてきた。
「私」は、それを以て初めて証明できる。
それがないと私は、上手く息を吸うことさえ出来ない、薄くて脆い存在だから。

「こっそり隠しとくなんてやらねえぞ。今、お前が見てる目の前で、捨てる」

静かだった。
でも、ジャンの一言一言が、刺さって、痛い。
冷たくて、痛い。

「いいのか、ミカサ？」
「…………い、……い」

私が答えると、ジャンは溜息をついた。
ジャケットのポケットに右手を突っ込み、小さなナイフを出す。
ジャンは酷く冷たい目で、箱の中を見ている。
あの中には、彼がいる。

まだ外の世界を夢見て、努力し、笑って、泣いて、時々優しかった彼と、私と、アルミンと。

胸が、痛い。
比喩じゃない。
心臓を掴まれて、握り潰される。息も不規則で、苦しくて、早い。

ジャンが刃を立てる。
古くなった布は、ジジっと音をたて、裂かれる。

「あ、」

刃はあっという間に、マフラーだったものを、ただの2つの布切れへ変えた。
それは拾われて、また刃をたてられる。

あのマフラーは、今はもうどこにもない。
誰にも再現出来ない、唯一の、思い出。
私の、今でも私の、拠り所。

「い、いやだ」


赤い布に、思い出に、私の心に、刃が入って。
私の、心臓に。
『ミカサ、よく聞いて』
私の、思い出に。
『あったかいだろ』
私の、体に。
『落ち着いて、エレンは』
私の、恋心に。
『エレンはもういないんだ』

ジャンが、これで最後にする、と言って床に落ちた切れ端を掴んだ。

「いや、いやだ！壊さないで！返して！返して！わたし、エレ、エレン……！」

無様だった。
私はジャンの手の中の切れ端に、縋る。
ジャンに試されて確かめられたことを、何も構わずに手を伸ばしてしまう。

「わた、わたし、それがないと、おねがい、おね、がい」

ジャンは呆然として、布切れを床に落とした。
私はそれを追いかけて、這いつくばってすくい上げる。

「あ、あ、ああ、」

マフラーとして用をなさなくなったそれを首元で抱きしめた。
色を失ったみたいな思い出は、ほとんど掠れて消えてしまっている。
このマフラーを巻いてくれた時も、雨の日に手を繋いでくれた時も、絶望の中で立ち上がっていた背中も、もう掠れて、どんどん掠れて、思い出せなくなっていく。

なのに、形を残しているのは、私だった。

「いや、いやだ……忘れたくない！置いて行かないで、私だけ、私だけで、エレン！エレン！エレン！」

ぼろぼろになった布をかき集めても、もう手遅れだった。
そのマフラーは、私の思い出の証は、もう消えた。
やがてこのマフラーも、どんな形で、どんな肌触りだったのか思い出せなくなる。

泣きながら、その消え剃こないを抱きしめる私。
ジャンは、そんな私を冷たい目で見ているに違いない。

消えたかった。

それが無くなってしまったこともそうだが、自暴自棄になり切れず、手を伸ばしてしまった自分を、ただひたすら消してしまいたかった。

また飛び立てるかもしれないと歌った翼は、布切れを拾うために這いつくばり、飛び立つ力を失ってしまった。

泣いても泣いても、いくら吐き出しても、楽にならない。
ミカサ、とジャンが私を呼ぶ。
振り返る勇気はなかった。
何を言われても、痛い、辛い。
もし、決意できなかった私を、本当に冷たい目で見ていたら、この世界から居場所がなくなってしまう気がした。
滑稽。
崩れ落ちたまま、動けない。

とりあえずここまで。

長い間空いてすみません。
書き直そうかと思ったらまだスレが残ってて驚愕した
保守ありがとうございました

乙
待ってるよ

乙
続き読めてうれしい

乙

保守