杏子「そして……叛逆の物語」 (410)

まどマギSSですよ。

『叛逆の物語』の後のお話。
なので、叛逆の物語を未見の方はご注意願います。

独自解釈・捏造などやりまくりなので、ご了承頂ける方のみ先にお進み下さいませ。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1394627640

杏子「……ん?」

夜、自分の部屋で、魔法少女・佐倉杏子は突如虚空を見つめた。

まるでその先に誰かが居るかのように。

この部屋には、彼女しか居ないはずなのに。

杏子「……な、なんだと?
──あ……いや、そうか……」

そのまましばらく訝しげな顔をすると、彼女は唇を噛み締めてうつむく。

杏子「うん……そう、だな。
わかった、確かにその通りだ。どこまで出来るかわからねえが、やってみるよ」

そして、杏子は決意の表情でそう言った。

─────────────────────

翌日、朝。登校時。

杏子「…………」

通学路にある木の上で、彼女はリンゴを頬張っていた。

杏子(そういえば……)

杏子は以前、似たような状況であの『悪魔』からちょっかいを出された事がある。

あれ以来、彼女から『悪魔として』の接触は無い。

杏子(……まあそうだろうな。今更そんな事をする意味ねえもん)

杏子はすべてを忘れていたのだから。

同じクラスではあり、杏子の友達の一人でもあるのでその辺りの関わりがあるだけ。

いや、『悪魔』側は杏子を友達とは思っていないどころか、まともに見てもいないのだろうが……

しかし、だからこそ。

杏子(チャンスがあるってね)

杏子がリンゴを食べ終えた丁度その時、彼女が待っていた相手が向こうから歩いて来た。

杏子『──おう、マミ』

その相手……巴マミに、杏子は木の上からテレパシーで語りかける。

巴マミ。

美しい髪を縦巻きにした、女性らしいスタイルの綺麗な少女。

そして、杏子と同じ魔法少女でもある。

マミ『おはよう佐倉さん。あなたにしては随分と早いじゃない?』

マミも、テレパシーで返事を返す。

その声色(といってもテレパシーだが)から察するに、杏子が待っていたのにすでに気付いていたのだろう。

杏子『その理由、わかってんだろ?
……話がある。ちょっと時間くれるかい?』

マミ『ええ』

と、マミは学校へと続く道から外れる方へと歩みを変えた。


バッ。


杏子も、彼女が向かう方へと跳ぶ。

もちろん、二人ともが周囲にあの悪魔の気配が無いのを確認してから、だ。

この辺りはさすが腕利きの魔法少女二人である。

─────────────────────

魔法少女。

神そのものである『概念』を貶めた悪魔・暁美ほむらが再編し、作り上げたこの世界でもそれは存在している。

魔獣と呼ばれる、生き物の『負』を糧として現れる存在と戦いながら。

─────────────────────

杏子とマミは、辺りに誰も居ない近くの河原まで来ると、そこに腰をかける。

杏子「さて、と……だ」

まずは杏子が口を開いた。

杏子「お前も昨日、聞いたよな?」

マミ「ええ。
……聞いた、と形容する事が正しいかどうかはわからないけれど」

杏子「違いないね」

少し、杏子が笑った。

杏子「……お前はこれからどう動くべきだと思う?」

マミ「慎重に、慎重に動きながら、静観ね。
どうするにしても、こちらから彼女になにかするにはまだ早い」

『彼女』……暁美ほむらの事だ。

http://i.imgur.com/tYsNUnX.jpg

杏子「……だな。戦うにしろ、まだあいつとは勝負にすらならないだろ」

マミ「目をつけられるだけでも、終わりでしょうしね」

そう。それだけの差が、彼女たちにはあった。

純粋な戦闘力という点では、あるいはその限りではないのかもしれないのだが……

かつては一魔法少女に過ぎなかったほむらが、世界再編という神のような真似が出来たのは、
彼女が貶め・奪った神の力を完全に自身の中に取り込む前だったからこそであり、
現在その力は暁美ほむらという『器』に完全に入っている為、今の彼女にはその時ほどの巨大な力は振るえない。

かつての神の力を完全に発揮するには、彼女の『器』では小さすぎるのだ。

もっとも、それにほむらは気付いていないのだろうが……

だが、それでもこの次元・宇宙は、ほむらが作った世界。

その一点だけでも、いわば創造神とも呼べる『悪魔』に真っ向から立ち向かうのは無謀であった。

たとえば……

杏子とマミの手の届かない遠距離から、二人が力尽きるまで延々と使い魔を送ったりなどは、
ほむらからすれば簡単な事だろう。

だが、杏子たちに手が無い訳ではない。

杏子「その為にも、今は静観、か……」

マミ「その間にするべき事を考えつつ、でも出来る限りの事をしながら期を待ちましょう」

杏子「そうだな」

マミ「ただし、動くべき時だと判断したら、少々無謀でもやらなければならないのでしょうけど」

杏子「時間が……無いもんな」

マミ「それが『いつ』なのかは、まだ具体的にはわからないけどね」

二人はもう数回、言葉を交わす。

杏子「──と」

その途中で杏子が小さな声を上げると、携帯を取り出す。

話に集中していて気付かなかった彼女だが、どうやら同じ人から何度も着信があったようだ。

杏子「さやかからだな」

美樹さやか。

現在、杏子が居候させて貰っている家の娘であり、
かつては、『円環の理』と呼ばれる概念に導かれてその一部となった少女なのだが……

今は、杏子やマミと同じく人としての命を持つ魔法少女。

彼女は、杏子が朝早い時間になにも言わずに出て来てしまったので、怒りつつも心配しているのだろう。

杏子は電話に出る。

杏子「ああ、ああ……大丈夫、こっちも今学校に向かってるから……」

軽く言葉を交わすと、彼女は電話を切った。

マミ「……そろそろ行かないと、暁美さんにも気付かれちゃうかもしれないわね」

杏子「そうだな」

言うと、二人は立ち上がって学校の方へと歩き出す。

話し足りないが、遅刻したり、学校を休んだりする訳にはいかない。

まあ、まだそこまで遅い時間ではないのだが……

二人には、迂闊に下手な行動やいつもと違う行動を取り、
自分たちの動きをほむらに勘付かれるのは絶対に避けなければならないのだ。

マミ「じゃあ私は先に行くわね」

これも、ほむらを警戒して。

住む家の位置などの問題で、彼女たちが共に登校する事はまずないのだ。

杏子「おう、また後でな」

にっこりほほえむと、マミは去っていった。

杏子はそれを見届けると、


バッ! タッ、タッ!


再び木の枝を跳んでいき、最初にマミを待っていた木の上まで戻る。


スタッ。


彼女はそのまま人目につかないよう地面に着地すると、素知らぬ顔でいつもの通学路へと戻った。

そこで、ショートカットをした少女と丁度出会う。

美樹さやかだ。

杏子「おう!」

さやか「杏子!」

さやかは杏子の姿を認めると、目を釣り上げて彼女の方へと詰め寄る。

さやか「あんたどこ行ってたのさ!
起きたらあんたの部屋には誰も居ないし、何度も電話やメールしたってのに!」

杏子「悪い悪い。今日はたまたま早くに目が覚めちまってさ、
するとなんか魔獣の気配がしたから、そいつ倒しに行ってたんだよ」

さやか「えっ……」

その言葉に、さやかの表情が心配そうなそれに変わる。

マミ杏子さやかで手を組んでまどか一人を犠牲にしようとする話しか
斬新で面白そうだな

さやか「大丈夫だったの?」

杏子「おう。ザコが一体だけだったからな」

さやか「そんなの、別にあたしを起こしてくれれば……」

杏子「朝早すぎたし、別に強敵って感じじゃあなかったからな。
ただまあ、勝手に突っ走ったのは悪かったよ」

さやか「もう……無茶だけはしないでよね!」

杏子「ああ」

──……これで、今朝マミと会っていた事はごまかせただろう──

さやかに嘘を吐いた罪悪感を軽く覚えつつも、杏子は安堵した。

まどか「あっ、さやかちゃんに杏子ちゃん!」

さやか「──おうっ、おはよ!」

そこへ現れた、柔らかな髪の毛をツインテールにした華奢で可愛らしい少女、鹿目まどかと、

杏子(……!)

ほむら「…………」

長い黒髪の少女──暁美ほむらの姿に、杏子の顔に緊張が走った。

ほむら「……?」

杏子(まずい!)

それはほんの一瞬だけだったが、ほむらは見逃さなかったようだ。

杏子「……おう二人とも!
っかし、こんな天気の良い朝だってのにあんたは相変わらずぶっきらぼうなんだな。
唐突に見たら幽霊みたいで怖かったぜ!」

ほむら「……ふん。
行くわよ、まどか」

頭をかきながら早口で言う杏子に、ほむらはいつものなんとも言えない笑みを浮かべると、再び歩き出した。

まどか「あっ、待って~」

杏子(……危ねえ)

これで、杏子の先ほどの反応は不意に現れたほむらに驚いただけであり、
今のはその気恥ずかしさを誤魔化す為の態度だと思って貰えただろう。

さやか「こら」

杏子「痛っ」

こっそりと胸をなで下ろす杏子の頭を、さやかが軽く小突いた。

さやか「いきなりそりゃ、ほむらに失礼だ」

杏子「わーったわーった。すまんすまん」

さやか「あんた悪いと思ってないでしょ!……って、あたしに思われてもしょうがないんだけど」

と、さやかは笑うと、

さやか「おい二人とも、待てよ~。一緒に行こうぜっ!」

まどかとほむらを追いかけた。

杏子(……まどか)

鹿目まどか。

本来の彼女は、絶望の未来しか待っていない、
魔法少女という存在のすべてを救済する神・『円環の理』そのものなのだが……

この次元に生きる彼女は、人としての命しか持たない歪で不完全な存在。

女神たる彼女は、貶められたのだ。

暁美ほむらの手によって。

杏子「…………」

杏子はまどかの背中を見つめつつ、


マミ『慎重に、慎重に動きながら、静観ね』


先ほどのマミの言葉を思い出す。

杏子(だな。何事も慎重にしねーと……)

もし彼女たちが失敗したら、目的は果たせなくなるだろう。

だが、たとえほむらによって杏子たちが倒されたとしても、
極めて危ういバランスで成り立っているこの世界──次元の崩壊は、遠い未来ではないのだが……

─────────────────────

その日の昼。

チャイムが鳴り、昼休みになった途端にさやかは立ち上がると、ほむらの元へと歩いていった。

杏子(!?
さやか……?)

今のさやかが放つ空気は、いつもの明るい彼女のものではなかった。

杏子は、さやかとほむらに意識を向ける。

──暁美ほむらは、クラス内どころか学校で浮いている。

いや。

基本的に無口であり、美人であり、他の誰にも持ち得ない近寄りがたい雰囲気を漂わせているので、
特別視・畏怖されていると言った方が正解だろうか。

そんな彼女はクラスメートから話しかけられる事はまずないし、
自分からも必要最低限にしかクラスメートとは関わろうとしない。

ただ一人、鹿目まどかを除いては。

だが、明るいさやかや、彼女の友達の志筑仁美や上条恭介、
杏子といった面々は、ほむらに話しかけるのもめずらしくはない。

だから、

さやか「ねえほむら、ちょっと付き合ってくれない?」

さやかがほむらにそう声をかける事が、周りから不審な目で見られる事はなかった。

ほむら「……構わないけれど」

さやか「悪いね杏子、まどか、ちょっとだけこいつ持ってくわ!」

さやかは、先ほどまでの空気など感じさせないいつもの様子で、近くのまどかと杏子に言った。

まどか「うんっ」

杏子「おう! じゃあ先に昼メシ食ってるぞ~!」

なにも気付いていないのだろうまどかはもちろん、杏子もいつも通りに言葉を返す。

さやか「オッケー!」

明るい笑顔のさやかと、シニカルな笑みを浮かべたほむらが教室から出ていった。

杏子「…………」

杏子は、早速魔力で聴力を高める。

彼女の耳に、『どこへ行くのかしら?』などと話す二人の会話が届き、二人の向かう場所はわかった。

まどか「杏子ちゃん、行こっか?」

まどかからの誘い。

いつもは、さやかとほむらを含め、
杏子、マミ、まどかの五人で昼食を取る場合が多い(たまに他の友人二人も混じるが、
彼女たちは二人きりで居る事の方が多い)のだが……

どうやら、今日それは無理そうな空気だ。

杏子「……そうだな」

上手い具合に抜けだし、こっそりとさやかたちを追おうかと思っていた杏子だったが、
やめてまどかとの食事に専念する事にした。


マミ『ただし、動くべき時だと判断したら、少々無謀でもやらなければならないのでしょうけど』


杏子(いきなりその時が来たっぽいが、ここはあたしは静観していよう)

注意をするのは、ほむらだけではない。

彼女と仲の良いまどかや、さやかにしてもそうなのだ。

迂闊な行動一つで、どこから杏子たちの動きがほむらの耳に届くかわからない。

杏子(つーか、今回動くとしたらあたしじゃなくて……)

杏子は、マミにテレパシーを送った。

─────────────────────

マミ「…………」

杏子のテレパシーを受けたマミは、さやかとほむらが対峙する様子を、校外の高層マンションの屋上から見ていた。

ここが、マミが魔力を使って高めた視力で、二人をしっかりと確認出来る限界の距離の場所。

事情を聞いたマミは、全速力でここへと向かったのだ。

ほむらの近くだと気付かれる恐れが多いし、彼女の使い魔も居る。

使い魔とほむらは繋がっているので、使い魔に見付かる事とほむらに見付かる事はイコールなのだ。

マミ(たぶん、ここからだとさすがに大丈夫だとは思うけれど……)

周りに、怪しげな気配はない。

──マミはともかく、これまでにも杏子は、さやかがあのような行動を取るのを目にした経験はあった。

ただし、彼女のその行動の真意は知らなかったが……

マミも含め、今は違う。

だから、二人にこの件をスルーする選択肢はなかったのだ。

マミ「…………」

さやかとほむらは、まず人が来ない校舎の裏で向かい合っていた。

マミは、聴力も魔力で高める。

─────────────────────

ほむら「──で? こんな所まで引っ張り出してなんなのかしら?」

さやか「あんたはなにがしたいのさ?」

怒気を孕んだ言葉と顔を向けられても、しかしほむらは例の笑みを崩さない。

さやか「こんな世界を作って、でも特別なにをする訳でもない……」

ほむら「ならそれで良いんじゃないの?」

さやか「そんな風に簡単に言えはしないだろ?」

ほむら「言えるわ」

さやか「……どうして?」

ほむら「ここは私の楽園だもの。
あなただって居心地は良いでしょう?」

さやか「居心地がよければそれで良いの?」

わずかに、ほむらの顔に疑問の色が浮かんだ。

ほむら「……なにが言いたいの?」

さやか「いくら居心地がよくても、永遠に続きやしない幻をただ与えられたり、
手にしたってだけであんたは満足なのかって言ってんの」

ほむら「そもそも、永遠に続くものなんてありはしないじゃない」

さやか「あたしが言いたいのはそんなんじゃなくて……」

ほむら「まあ、私とあなたは立場もなにもかもが違うから、理解し合えなくて当然なのでしょう」

さやか「……そうやってまた逃げるんだね」

ほむら「事実、でしょう?」

さやか「っ!
だからあんたは……
そんなだからこんな風になってもなにも気付かずに……!」

ほむら「もっと、なにが言いたいのかわからないわ」

悲しみと怒りを吐き出すさやかに対して、ほむらはふん、と小さく鼻を鳴らして話題を変える。

ほむら「そんな事より、今回は随分と早かったわね。
記憶を取り戻すの」

さやか「……そうだね」

ほむら「まあ、あなたの思い・意思は強いから、こんな時もあるでしょう」

軽く肩をすくめるほむらからは、なんの動揺も見られなかった。

すべての面において余裕があるからだ。

かつてとはいえ、『円環の理』の一部だった相手なのだから、
この程度のイレギュラーもあるだろうと思っていたから。

なにより、いくらさやかが記憶を取り戻そうと、それでほむらへなにが出来る訳でもないのだから。

さやか「それって褒めてないよね?」

ほむら「さあ? どうかしら」

これまでにも、記憶を取り戻したさやかがほむらの前に現れる事は何度もあった。

初めに二人が極めて深く接近したのは、ほむらがこの次元を作り上げた最初の頃。

すべての記憶を持ったさやかはほむらに近付いたが……

彼女は、その記憶と、円環の力にて自在に操れるようになった魔女の力もほむらに奪われた。

なんの抵抗も出来ずに。

いや、奪われたのではなく、『円環の理』を否定するこの次元の摂理が、
さやかの持つそれを排除しようと動いたというのが正解だ。

この摂理に関しては、ほむらの強烈な意思によって存在しているものである。

しかし、これこそが円環を宿す者の力なのか、
どうやらさやかの『中』にはその摂理の影響力は完全ではないようで、
時間が経てばまた記憶と力が戻るのだ。

ちなみに、これはまどかもほぼ同じ。

もっとも、ほむら(と、彼女の意思で存在している摂理)に常に見張られているまどかは、
ただ時間が経つだけでは決してなにも目覚めはしないのだが。

──そして、記憶の戻ったさやかは再びほむらの元へと訪れ……

その繰り返し。

ほむら「ともあれ、私はいつものように対応してあげるだけ」

さやか「…………」

ほむら「──愚かね美樹さやか。記憶が戻る度に私の所へ来るなんて」

『それで私をどうこうなんて出来るはずないのに』『だから同じ事を繰り返すはめになるのに』
と、ほむらはさやかを嘲る。

さやか「だって……見てらんないんだよ……」

ほむら「それも聞き飽きたわね。
私にあれだけ敵意を向けていた癖に」

さやか「……昔のあんたと同じだよ」

ほむら「……?」

さやか「あたしだって──まあ、さすがに『まどか』レベルに全部を全部知ってる訳じゃないけど──
それでもあたしだって『円環の理』の一部になって、
いろんな時間軸のいろんな可能性、未来・過去を知ってるんだよ?」

『まどか』か、『円環の理』か……それとも両方か。

おそらくその言葉に反応したのだろう。ここで初めて、ほむらの笑みが消えた。

ほむら「……私らしく、同じ言葉をループさせましょう。
なにが言いたいのかわからないわね」

さやか「だからあたしは、そんなあんたを──」

ほむら「黙りなさい」


パチンッ!


さやか「っ!」

ほむらが指を鳴らすと、さやかが体を軽く震わせて両ひざをついた。

ほむら「ふふっ、今度は魔女の力を使おうとする間も無かったわね」

さやか「く……そっ……!」

ほむら「まあ、『真の』あの子の事を思い出した存在は、
あの子に真実を取り戻させる可能性があるから……」

ほむらは、無表情のままゆっくりとさやかに近付く。

ほむら「わざわざ私と接触するという愚かな行動を繰り返してくれるあなたには、
むしろ助かっているのだけれどね」

──まどかが『まどか』に戻ってしまう可能性の一つを、いち早く潰せるから──

そう言って再び浮かべられたほむらの笑みは、先ほどまでのものとはどこか違っていた。

さやか「何度忘れても……あたしは絶対に忘れない……!
あんたが、悪魔っ……だって事……を……」


かくんっ。


ほむらを睨みながら小さくつぶやくと、さやかは両ひざを付いたまま深くうな垂れた。

ほむら「…………」

さやかは、もう数秒も経てば目覚めるだろう。

その時にはまた、『円環の理』に関する記憶は失っている。

ほむら「ふん」

ほむらは目を細めて髪を軽くかきあげると、歩き出した。

─────────────────────

杏子「…………」

その日の夜、杏子は自分の部屋でマミとメールでやり取りをしていた。

彼女は結局、昼休みの間にはさやかとほむら、学校から離れていたマミとも合流する事はなかった。

とはいえ、まどかと二人きりで取る昼食というのも、新鮮でなかなか楽しくあった杏子だったが。

例のさやかとほむらの件は、休み明けの授業中にマミからテレパシーで報告を受けた。

ほむらを目の前にしての行動とはいえ、さすがにテレパシーを使用するだけで、
その力を察知されたりはしないというのは『知っていた』。


ピロリロン♪


マミ『その辺りは、情報の通りね』

と、マミからメールが来た。

杏子『ああ。あんたに二人を監視して貰うのも含めてかなり大胆な行動だったけど、
テレパシーが使えないのは厳しすぎるからな。
問題なく出来て助かったよ』

それに、杏子が返信する。

そうだ。

この状況をなんとかするには、一人ではまず不可能。

動ける仲間を集めて力を合わせたり、情報の共有は必須である。

テレパシーは、その為に必要な、重要な手段の一つなのだ。

杏子(学校があったり、魔獣退治があったり……
さやかと暮らしている今の状況だと、マミと二人で会ったりってのはなかなか難しいからな。
あいつは一人暮らしだからまだマシだけど)

さやかや、その家族が寝静まってから動き出すというのも少し苦しい。

注意深く進んだり、油断さえしなければ、ほむらや彼女の使い魔と出くわす可能性は低いかもしれないが、
なにせ一度動けばそれで終わりではないのだ。

何度も行動を繰り返せば、彼女たちに見付かる危険性は当然どんどん高まる。

一度のミスが取り返しのつかないものになる上、
普段の生活を続けながらそれをするのは、心身的にも無理が出てくるのは容易に想像出来た。

マミ『大胆かつ慎重に……
やっぱり大変ね』

杏子『だが、話の通りあいつは神や概念ってほどではないみたいだからな。
そもそも『悪魔』ってのもアレだし、これならやってやれなくはないさ』

この次元を作ったのはほむらだが、だからといって彼女が、
『無条件で』この次元内のすべてを把握出来るのかといえばそうではないらしい。

だからこそ、たとえば物を運ぶとか物理的に力が必要な状況ならばわかるが、
そうではないのに使い魔がうろうろしていたりするのだろう。

杏子『まあ、ほむらのヤツが意識を向けたらその限りではないって話だが……』

マミ『その場合は、隠れて話していても、その様子を『視る』事も『聴く』事も可能なのだったわね。
テレパシーも、テレパシーをしていると知っていて、そこへ意識を向けられたら内容すら読まれてしまう』

杏子『ったく、厄介なモンだね』

マミ『……もうちょっと仲間を増やせないかしら?』

杏子『うーん……最終的にはさやかにも協力して貰うつもりだが……』

彼女はまだ、杏子やマミほどの事情は知らない。

なぜなら、さやかは『円環の理』と関わりが深い少女だから。

そんな彼女に、杏子・マミに対してと同じように動いてしまうと、
力が共鳴するなどしてこの次元が大きく揺らぐなど、なにかしらの現象が起こる危険性がある。

そうなるとまずほむらに勘付かれるだろうから、ひとまず避けたのだった。

杏子『あいつ意外と演技派だからな。
その危険性さえなければ、
他の能力的にも絶対に必要なヤツだから、さっさと事情を説明して手を貸して貰いたいってところだったんだろうけど』

杏子は、かつてほむらのソウルジェムの中に在った世界でのさやかの姿を思い出しているのだろう。

そんなさやかなら、すべてを知っても下手を打たずに上手く立ち回ってくれるに違いない、と杏子は思う。

マミ『意外とっていうのは失礼よ。
……美樹さんに関しても、タイミングを図ってからになるでしょうね』

今でもさやかは、ほむらの目を引きつける役割を担ってくれている。

もちろん、彼女自身はそうとは知らずにだが。

杏子「まどかは犠牲になれ、さやかは[ピーーー]」

マミ「そうよ、私の頭を食べたなぎさは死になさい」

杏子『……あいつを利用しているみたいで気分がよくねーよな』

マミ『そうね……
言い方は悪いけれど、はっきり言って囮になって貰ってる訳だからね。
なるべくならこんな状態は続けたくはない』

だがそれも、これからは彼女が記憶を取り戻していく感覚が短くなっていく為に、
段々と通用しなくなるだろうが……

そうなると、さすがにほむらも『なにかがおかしい』と感じるだろうし、
結果杏子とマミたちの動きに気付いて全力で彼女たちを潰しにかかるだろう。

杏子『そうなった時もタイムリミットだな』

マミ『ええ。
その時と、暁美さんが一番大事な事に最後まで気付かず、すべてが崩壊する時と……
私たちが目的を果たす時。
一体どれが早いのかしらね』

─────────────────────

杏子とマミの二人は、ここから数日間は合間を見て今後の方針などを相談しつつ、普段の生活を続けていた。

だが、結局それが決まる事はなく時間だけが過ぎ、彼女たちは焦りを募らせていた。

そんな中、少しだけ現状が動く。

今回はここまでに致します。

それでは、ありがとうございました~。

乙ん

乙ほむ

コメントありがとうございますなの。
それでは再開します。

─────────────────────

さやか「でやあぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!」

さやかの剣が、

杏子「はあッ!」

杏子の槍が、

マミ「ティロ・フィナーレッ!」

マミの大砲が、彼女たちを取り囲む魔獣の集団をあっさりと全滅させた。

マミ「ふっ……
終わったわねっ!」

河原での戦いが終わり、三人は一息吐く。

さやか「いやー、あたしちゃん大絶好調! もう魔獣なんて相手にもならないねっ!」

マミ「美樹さん、あまり調子に乗りすぎてはダメよ」

さやか「てへへ、ごめんなさ~い」

さやかは舌を軽く出して明るく謝ると、「そうだ!」と切り出す。

さやか「マミさん、あたしマミさんの紅茶が飲みたいなーっ」

マミ「 ふふっ、美樹さんたら。
──そうね、まだそんなに遅い時間じゃないし、家に行きましょうか?」

さやか「やったあ! さっすがマミさん大好きだぜ~っ!」

無邪気に喜ぶさやか。

杏子『おいマミ……そんな時間は……』

マミ『無いのかもしれないけど、ちょっとガス抜きしましょう。
なんだか疲れちゃったもの。
このままじゃあ頑張っても良い結果は得られないわ』

杏子『……確かに……正直、あたしも疲れたよ』

わずか数日とはいえ、マミと杏子は疲弊していた。特に、精神的に。

やろうとしている事が行き詰まっているのもあるが、
突如突きつけられた現実と、かつて経験の無い大きな使命が確実に彼女たちを蝕んでいたのだ。

いくら百戦錬磨で腕が立つ魔法少女とはいえ、二人はまだ中学生なのだから。

マミ『ここらで一度リフレッシュすれば、また違った発想が生まれるかもしれないし』

杏子『だな。
つーか、あたしもマミの紅茶と美味しいお菓子が食べたいや』

マミ「──それじゃあ行きましょうか」

さやか「は~いっ♪」

彼女たちは河原を後にした。

─────────────────────

杏子「ん?」

マミの家へと歩を進める途中の暗くなってきた街角で、杏子は向こうからやってくる、とある人物を発見した。

杏子「……まどか」

彼女のつぶやきに、今話題のドラマの話で盛り上がっていたマミとさやかも前を向く。

まどか「あっ、みんな!」

杏子たちの姿を認めたまどかが、笑顔で走り寄ってくる。

さやか「おう親友っ! どうしたんだこんな所でーっ!」

まどか「わっ!」

まどかが自分たちの前で立ち止まったと同時に、さやかが彼女に抱きついた。

さやか「くぅ~やっぱりまどかの抱き心地は最高だわ!」

まどか「く、苦しいよ、さやかちゃん///」

町中で抱きつかれたからか、はたまたさやかにこうされるのに純粋に照れたのか……

頬を赤らめるまどかを見て、

さやか「まどかは可愛いな。私の宝物だ」

さやかが少し気取った口調で言った。

マミ「?」

杏子「あー……今さやかのヤツ、昔のゲームにハマっててな」

今のセリフは、某ゲームのキャラクターのものらしい。

杏子はさやかと二人で遊ぶ事も多い為、それを知っているのだった。

杏子「で、どうしたんだい? こんな所で」

まどか「さっきまで仁美ちゃんとお買い物に行ってて、その帰り」

仁美──フルネームを志筑仁美という、まどかたちのクラスメートで友達の一人。

気品のある物腰と雰囲気を漂わせながらも、意思の強さを合わせ持つお嬢様だ。

杏子「おや、あいつと二人でなんてめずらしいじゃないか」

まどか「えっとね、仁美ちゃん今日は習い事が無かったんだ」

さやか「あー……なるほど、恭介はバイオリンの練習で忙しいだろうしねぇ」

まどか「そうなんだよ~」

さやか「ははっ、あんな可愛い彼女ほっといて、ホントあいつはしょうがない奴だな」

杏子・マミ『…………』

明るく笑うさやかからは、悲しみや未練といった負の感情はまったく見受けられない。

──上条恭介。やはりまどかたちのクラスメート・友達であり、仁美の恋人であり、さやかの幼なじみであり……

かつてのさやかの想い人。

まどか「さやかちゃんたちはどうしたの?
……あれっ? 今日はさやかちゃんと杏子ちゃんは用があるって言ってなかった?」

杏子・マミ『!』

さやか「あ、あー、そうなんだよ。えっと……」

無邪気に首を傾げるまどかに、さやかが『やばい』といった様子で目をそらした。

いつもはこのメンバーで下校するなり遊びに行くなりする場合も多いのだが、
今日は放課後すぐに魔獣の気配を察知したので、
さやかと杏子は用があるといってすぐに教室から抜け出したのだった。

今のまどかは、魔法少女や魔獣の件はなにも知らない。

つまり、内に『円環の理』としての繋がりを持つとはいえ、
少なくとも今の彼女は本当にただの一般人だと考えて良いだろう。

だが、今さやかたちが問題としているのはそこではなく……

さやか(これだと、まどかや仁美をハブにしたみたいじゃんっ!)

杏子「──見付かっちまったから言うけど、実はこないだ新しい喫茶店を発見したんだよ。
で、今日さやかと二人でこっそり行ってみて、良い感じだったらまた今度みんなで行こうと思ってさ」

と、横から杏子がフォローを入れてきた。

さやか『杏子!』

テレパシーで声をかけてくるさやかに、杏子はため息まじりで答える。

杏子『ここは合わせろ。上手くごまかしてやるから。
つか、そんな態度取ったら不信感しか与えねーだろ』

さやか『うう、すまんよぉ』

まどか「へえ、そうだったんだ~」

杏子「いきなりみんなで行ってよくない店だったらアレだし、なんつーか……サプライズってのをしてみたくてね。
黙ってて悪かった」

まどか「ううん、謝らないで。
ただ気になっただけだから、気を使わせちゃったなら、わたしこそごめんね」

まどかが、いつもの優しい笑顔を見せる。

まどか「マミさんも一緒に行ったんですか?」

マミ「え?
あ、うん。そうなのよ」

唐突に話を振られ、マミが慌てた様子で返事をした。

杏子「といっても、あたしとさやかが店に入ったら出くわしたって感じだけどな」

杏子は気付いていたのだが、さっきまでマミはずっと視線を泳がせていた。

これはたぶん、彼女も上手く言い繕おうとしていて、しかしそれが出来ずにいた為だろう。

杏子(やれやれ。さやかにしろマミにしろ、こういう事態には弱いんだから)

『ま、突発的に嘘吐けるあたしの方が、人としてはよくないんだろうけどな』と、杏子は人知れず苦笑した。

マミ「出くわしたって……佐倉さん酷い……」

杏子「ああ言い方が悪かった。悪かったからそんな目で見るなよ」

マミ「うふふっ。
──そうだ鹿目さん、これからみんなで私のお家に行ってお茶でも飲もうかと思ってたんだけど、
よかったらあなたもどうかしら?」

まどか「えっ、良いんですか!?」

マミ「もちろんよ」

さやか「だね。
まどかも来いこいっ!」

まどか「うんっ、じゃあお邪魔させて貰おうかな」

と、四人は再び歩き出した。

杏子『おい、マミ……』

マミ『わかってるわ。きっと、鹿目さんは暁美さんに常に見張られている』

まどかに仇なす存在が現れたら駆逐する為に。『自分の』まどかを守る為に。

マミ『だから迂闊な事は出来ないけれど、お友達を誘うくらい別に普通でしょう?
逆に、ここで誘わない方が不自然だと思うけれど』

杏子『まあそうだな。
細かい事は抜きで、まどかとも遊びたいしな』

マミ『そういう事ね』

まどかの前では魔獣・魔法少女関係等々の話は出来ないが、別に彼女の前でまでそんな話をしようとする必要も無い。

まどか「ところで、さっき言ってたお店ってどんな感じだったんですか?」

マミ「とってもオシャレで良いお店よ。
──ね、佐倉さん」

杏子「おう。あたしとさやかの見立てに間違いは無かったよ。
今度行こうぜっ」

まどか「楽しみだなぁ♪」

杏子「まあ、みんなを驚かせたかったのにマミが居たのは残念だったけどな~」

マミ「私、居たら残念なの……?」

杏子「あ~違う違う。めんどくせーなぁもう」

まどか「ふふふっ♪」

さやか「ははっ! でもやっぱ、マミさんはこの手のお店には強いや!」

─────────────────────

マミの家での楽しい集まりも終わり、杏子とまどかは二人で夜の河原を歩いていた。

まどか「ごめんね杏子ちゃん、わざわざお家まで送って貰っちゃって」

杏子「ん? 気にするなよ」

これはさやかも、『あたしも一緒に』と申し出はしたのだが、実は今日彼女は宿題を忘れていた。

その罰として今回他の人よりも多めの宿題を出されていた為、
それを杏子に指摘されたさやかは断念せざるを得なかったのである。

こういう事自体はこれまでにも何度かあったので、これもほむらの件は大丈夫だ。

まどか「わーっ、空が綺麗だねっ!」

杏子「そうだな……」

今晩は空気が澄んでいる為、美しい星々が鮮明に見える。

杏子(ムカついて、悲しくなるぐらいキレイだな。
……ちくしょう)

まどか「……あのね、杏子ちゃん」

ふと、まどかが足を止めて優しい瞳で杏子を見つめた。

まどか「ありがとう」

杏子「うん? どうした急に」

まどか「わたしに優しくしてくれて」

杏子「?」

まどか「わたしね、転校してきて不安だったんだ。
学校で上手くやっていけるかなって。クラスのみんなと仲良く出来るかなって」

杏子「なーに言ってんだ、別に人と関わるのが苦手って訳でもないヤツが」

面と向かって礼の言葉を言われたからだろう。そう言う杏子は早口で、頬がやや赤かった。

まどか「そんな事ないよ」

杏子「謙遜も度が過ぎると嫌味だぞ、まったく」

実際、まどかは転校してきてからすぐにクラスに馴染み、今はクラスメートのみんなから好かれる少女となっていた。

飛び抜けた能力がある訳ではない彼女がこうなれたのは、ひとえにその人間性が大きい。

気が弱い所があるが、誰よりも優しく頑張り屋で、そんな彼女に悪意を持つ人間はそうそう現れるはずはなかった。

杏子(まあ、いつもほむらのヤツが守ってるからってのもあるかもだけど)

まどか「でもね、今こうして楽しい毎日を過ごせているのは……
杏子ちゃんたちが居てくれたからなんだよ」

まどかは言う。そうやってみんなが手を引いてくれたから、今の幸せがあるんだよ、と。

杏子「……やめろよ。それが事実でも、クラス内で一番最初に動いたのはさやかなんだ。
あたしも仁美も、あいつがあんたとお喋りしてる流れで声をかけたんだから」

別の意味で一番にまどかと接触したのはほむらだが、
今の話題に沿った意味で最初にまどかに話しかけたのはさやかだった。

そしてまどかは、いつしかほむらや、気が付けば学年の違うマミとも良い交流を持てていた。

……余談だが、上記のまどかとほむらが接触した時に、まどかは円環に目覚めかけた。

結局それは防がれてしまったのだが、それをしたのは、前述した『円環の理』を否定・排除する働きを持つ、
ほむらの強烈な意思によってこの次元に存在する『摂理』である。

きっかけがあれば真の姿に目覚めかけるまどかではあるが、その力が表に出るほど覚醒しかけてしまうと、
やはり外からは排除されて再び中へと押し込められてしまうのだ。

もっともさすがにまどかは本家本元だからか、
その為に必要な力は、さやかに対するそれとは比にならないようだが……

まどか「うん……
でもね、ありがとう」

杏子「っだーっもうやめやめ! あたしはこういうのは苦手なんだっ!」

どこまでも真摯な表情と言葉を与えてくるまどかに、杏子は降参といった様子で歩き出した。

杏子「つか、さ。
そういうのは他のヤツにも言ってやりなよ。
みんな喜ぶと思うよ」

──いや、ほむらだけは苦しむのかな……──

そう、杏子は思った。

まどか「えへへっ、でもやっぱりこういうのは恥ずかしくって……なかなか、ね」

杏子「あー、それはわかる。
人に感謝するとかって照れくさいんだよなー。
本気であればあるほどさ」

まどか「うんうん」

杏子「まどかでもそうなんだな」

まどか「そりゃあそうだよ~。わたしだって人間だもん」

杏子「……ああ、そうだな」

──人間、か──

杏子(……なあほむら、あたしは……あたしとまどかは、この世界が好きだよ。
ううん、あたしだけじゃない。
マミも、きっと仁美も、恭介のヤツだって。さやかだってそうさ)

人ならざる存在になった者や、かつて命を失った存在がこうやって共に笑顔で過ごせる世界。

これは奇跡を超えた奇跡。

そこだけを見れば、優しい、完璧な楽園だ。

杏子(でもな。
あたしたちはそれを壊さないといけないんだ)

──救う為に──

まどか「ほむらちゃんとも、こうやって放課後も遊べれば良いのになぁ」

杏子「ははっ、あいつは付き合いが悪いからな。
昼をよく一緒にするようになっただけで、結構な進歩だよ」

まどか「あははっ、だよねっ」

杏子「……ふふっ」

まどかと笑い合う杏子のほほえみは、どこか寂しげだった。

─────────────────────

杏子「ふうーっ」

あれから家に帰り、次の日の準備などをしてからの入浴後。

部屋へと戻ってベッドに横になると、杏子は大きく息を吐いた。

ちなみに、さやかは宿題たちとの激闘を終えた疲労で、隣の部屋ですでに眠っている。

杏子「…………」

これから自分がしなければならない事と、数時間前に見たまどかの笑顔。

そして、ほむらの事。

あれこれ考えると、杏子は自分の心が曇るのを感じる。

杏子「……ダメだ。こんな事考えてたって仕方ねぇ」

大きく頭を振り、杏子が思ったその時。

部屋の暗がりから──

杏子「!」

とある存在が現れた。

杏子「……よお」

白い体に長い耳。それは……

キュゥべえ「やあ」

キュゥべえ──インキュベーターだった。

宇宙存続に必要なエネルギーを集める為に動いている、地球外生命体。

しかし、今の彼(インキュベーターに性別は無いのだろうが、便宜上こう述べる)は、
暁美ほむらの奴隷のような存在に堕ちているはずだが……

杏子「近いうちに、必ず現れると思ってたよ」

キュゥべえ「ふむ……
──久しぶりだね、佐倉杏子」

杏子「……ああ」

実は、ほむらが作り変えた世界では、杏子・マミ・さやかたちにはキュゥべえとは面識が無かった。

もしかしたらキュゥべえは、奴隷として働いている時に彼女たちの姿を目撃くらいはしていたかもしれないが。

杏子(思えば──あたしがさやかの家に居候させて貰ってるのもだが──
この時点で、もうどうしようもなくおかしかったんだよな。)

本来、魔法少女という存在になるには、キュゥべえと『契約』をしなければならない。

つまり、魔法少女である彼女たちがキュゥべえと出会った事がないなどありえないのだ。

だが、これまではそれを疑問に思う事すらなかった。

いや、思う事すら『出来なかった』。

これは、今までなかなかに深い付き合いをしてきたまどかに、
魔法少女の事などを『当たり前のように話さなかった』、『当たり前のように気付かれなかった』のも同じである。

この次元は、そういう風に作られていたのだから。

ちなみに、この次元でも魔法少女が魔女と呼ばれる異形の存在になる事はない。

この宇宙には円環へと導く概念の手が届かない以上、魔法少女の末路は、本来の『ソウルジェムを砕かれて死亡する』か、
『絶望の果てに魔女』になるかの二択しかないはずだが…

ここが、元々は円環のものである力にて再編された次元だからか、
さすがに元魔法少女であるほむらもこれには思うところがあったのか、あるいは両方か。

本当なら魔女化する状況に陥った魔法少女はそうはならず、消滅する事になっている。

これに関しても、そのように作られているからだ。

ただし、魔女化を免れた魔法少女の行く末は、決して円環へと導かれる訳ではない。

『消滅』だ。

これは、宇宙再編時にほむらが振るった力の元がなんであれ、あくまでそれの一部でしかない限界なのだろう。

この事はさやかにも当てはまり、上記と同じ理由で彼女はそれを知らないし、
そもそも円環としての力を胸に宿しているといっても、今はそれが薄れて弱まっている以上知り得ない。

杏子「早速本題に入ろうじゃないか。
用も無くここへ来た訳じゃないんだろ?」

キュゥべえ「もちろんだよ。
──それじゃあ始めようか、この宇宙を存続させる為の対話を」

─────────────────────

杏子「まず、お前はどこまで知っている?」

床でベッドを背もたれがわりにして座る杏子が、目の前のキュゥべえに鋭い視線を向ける。

キュゥべえ「どこまで、と言われてもね。知っている事だけさ」

杏子「…………」

キュゥべえ「そんなに警戒しないでくれよ」

杏子「そいつはムリな話だろ」

キュゥべえ「……まあ、そうだね。
けれど、我々インキュベーターとしては、もはや君やマミに協力を要請するしかないんだ。
今となっては、君たちと僕は手を結ぶ必要こそありはすれ、敵対をする理由は皆無なはずだよ」

杏子「…………」

杏子はなにも答えなかった。

キュゥべえの真意の予想はつくのだが、確証は無い為に下手な反応はするべきではないという判断だ。

キュゥべえ「……わかった。先に僕たちの話からさせて貰うよ。
なんにせよ、話が進まないのは芳しくない」

杏子「ああ、そうしてくれ」

─────────────────────

翌日の早朝、マミの家。

まだ日も昇ってない時間だ。

杏子「悪いね、こんな早くから」

マミ「良いのよ」


コトッ……


マミが、キッチンから持ってきた、ダージリンの入ったカップと蜂蜜色のマカロンをテーブルの上に置く。

マミ「……佐倉さんだから大丈夫だと思うけど、
ここに来るまでに暁美さんに気付かれるような事はなかったわよね?」

杏子「もちろん。使い魔とかにも細心の注意を払ったからね」

早速マカロンに手を伸ばしつつ、杏子は頷いた。

マミ「こんな時間にわざわざ家まで来たって事は、なにかあったのね?」

杏子「ああ。
……昨夜、キュゥべえが現れた」

マミ「……!」

杏子の言葉に、マミは鋭く目を細めた。

杏子「そいつに関しては今から話すが……
他にも、テレパシーとかメールじゃなく、一度顔を合わせてじっくり話をしないととも思っていたからさ」

マミ「……そうね。キュゥべえの事以外は、私とあなたの持っている情報は同じなはずだけれど……
私たちは肉体を持つ存在ですもの。
やっぱりこうやってちゃんとお話しないとね」

杏子「だな。
こんな機会はそうそう作れないだろうし、良いタイミングだからな。
──さて、じゃあ早速だが……」

マカロンを食べ終えて紅茶を一気に煽ると、杏子は語り出した。

……………………

………………

…………

……

──ええと、確かキュゥべえのヤツは、この話から始めたっけか。

わかり辛かったらすまん、マミ。

キュゥべえ「僕たちはずっと、この地球に入る術を探していた。
『暁美ほむらの支配より解放されてから』、ね』

杏子「…………」

キュゥべえ「まあ、地球を覆う力があまりに強すぎて、これまでは完全に手詰まりではあったんだけど……」

杏子「……地球を覆う力、とは?」

結論から言うと、キュゥべえの話のほとんどは、あたしはもちろんマミも知っているはずの内容だったよ。

けど、キュゥべえを警戒して、一応そんな素振りは見せないようには心がけた。

キュゥべえ「……そうだね。暁美ほむらが、この宇宙──次元を再編したのは知っているよね?」

杏子「ああ……それくらいなら」

キュゥべえ「その後のこの次元の一番最初には、宇宙全体を巨大な力が覆っていたんだ。
暁美ほむらの中にある、恐るべき力がね。
でもその力は、時間が経つにつれて覆える面積がどんどん狭くなっていった」

杏子「うん」

キュゥべえ「今それは、この地球全体を覆うだけのものしか残っていないはずさ」

杏子「どうしてだい?」

キュゥべえ「暁美ほむらの力が弱くなっていってるからだよ」

杏子「…………」

キュゥべえ「嬉しい誤算ながらその『力』から逃れた僕たち地球外のインキュベーターは、
かつての宇宙の記憶を取り戻した。
きっと、暁美ほむらの影響が無くなったからだろうね」

こいつが言った『記憶』ってのは、まどかがやってくれた方の改変世界のだな。

さすがに、魔女が居た世界の話ではないと思う。

まあ、キュゥべえはほむらの影響から外れたから、
ほむら改変後の世界では面識の無いあたしやマミを知ってた、思い出したって訳だ。

確認した所、さやかやまどかの事もね。

キュゥべえ「とはいえ『力』に関しては、暁美ほむらの影響が及ぶ範囲が狭まっているというだけで、
それ自体がどうしようもなく絶対で強固なものなのは変わらなかった。
これを破ろうにも、僕たちにはどうする事も出来なかったよ」

杏子「…………」

言わば、今の地球はこれ自体が一種の結界になってる訳さ。

キュゥべえ「しかし、諦める訳にはいかなかった。
……その様子だと君も知っているのだろう?
暁美ほむらが、引いてはこの宇宙が今どれだけ危うい状態なのか」

あたしは頷いた。

杏子「なるほど、それでお前は……」

キュゥべえ「その通りだよ。これも知っての通り、僕の目的は宇宙を存続させる事。
だからその目的を果たす為には、暁美ほむらを放っておくなど絶対に出来ない」

これは百パー納得したよ。

宇宙がどうとかってのに関してだけは、こいつはブレないからね。

キュゥべえ「……まぁ、そんな僕たちにとって絶対であるはずの目的も、
暁美ほむらの影響下では忘れさせられていたんだが」

杏子「……元々、この地球にもキュゥべえは居た……居るんだよな」

キュゥべえ「そうだよ。
その個体たちは、今も暁美ほむらに良いように使われているが」

その奴隷みたいになってる『キュゥべえ』も、今は自分の役割を思い出してるんだってさ。

杏子「完全に手詰まりだったのにも関わらず、この地球に入ってこれた理由は?」

キュゥべえ「打開策が見付からなくても、僕たちは諦めずに全力を持ってこの地球を監視・調査していた。
その途中、気付いたのさ。
これまでまったく手を出せなかった、地球を覆う力が弱まっていると」

この辺りもさすがといったところだろう。目的の為にはしつこいというかなんというか。

キュゥべえ「それによって、なんとか地球に突入する事と、
地球に居る『インキュベーター』との意識の共有が再び可能になった」

これまでは、地球のキュゥべえと、
あいつの影響から逃れた地球外のキュゥべえは完全に切り離された状態だったらしい。

で、意識の共有を再開した事によって、外のキュゥべえは今のほむらの状態を理解したんだな。

ちなみにその『共有』は、こっちからバラしたり、意識を向けられない限りほむらにバレたりはしないんだってよ。

それだけ当たり前に、かつ外になにも漏らさず秘密裏に行えるとかどうとか。

立ち位置としては、あたしたちのテレパシーと同じだな。

キュゥべえ「そこで慌てて僕がここへとやって来たのさ。
彼女を見たところ、もうあまり猶予は無いみたいだからね」

杏子「少々迂闊すぎないかい?
現状を知ってからいきなり突入なんて」

あたしたちと同じくもし行動を察知されれば、こいつらなんて簡単に潰されちまうだろうし。

キュゥべえ「その辺りは、地球に突入する前から問題無いだろうという結論が出ていた。
暁美ほむらの奴隷になっている個体の意識で」

杏子「?」

キュゥべえ「奴隷になっている個体は、その役割故に誰よりも近くで彼女を見てきたからね」

だから、奴隷のキュゥべえはかなり早い段階で気付いた。

悪魔・ほむらがとても不安定で危うい状況・存在であり、彼女の力がどんどん弱まっていってるのに。

そいつに、ほむら自身は気付かないだろうってのもな。

なぜなら今のあいつは、前は出せたはずのレベルの力を振るえなくなってるのに気付くほど、
大きな力を使う機会なんてないし……

まどかしか見てないから。

だから、まどかの存在しない地球外に自分の力が及ばなくなってるのも気付いてないし、
自分自身の事すらも注意がいかなくなってたのさ。

しかし、見ただけでわかるってのも凄いもんだよな。

キュゥべえと違って、あたしたちにはとても無理な話だ。

今ですら、ただ単に見た感じだと普通だもんな。ほむらのヤツ。

他のヤツには無い、近寄り難い雰囲気を纏ってるとかならまあわかるけど。

キュゥべえ「……あれはいつだったか……
宇宙再編からまだ間も無い夜の、とある崖の上での話だったかな?」

そこでボロ雑巾のようにされたあいつがほむらに視線をやった時、確かに確認したんだとさ。

ほむらの周りを──ほむらの魂を覆う、あまりに強大な『闇』を。

キュゥべえ「それを見て僕は確信したんだ。彼女は……この宇宙は長くないって」

杏子「なるほど……」

キュゥべえ「ともあれ、そんな彼女には僕一体の動き程度なら気付かれないと考え、地球への突入を決断した」

杏子「……分は悪くないと思うけど、それでも結構なバクチだね。
なんかお前らしくねー気もするが」

キュゥべえ「……まあ、これほどの事態でインキュベーターに出来る事は少ない──
あるいは皆無なのかもしれないけれど……
それでも、なにもしない訳にはいかないからね」

杏子「……お前は、この──まだ生きているほむらのテリトリーに入ってきても、
再びあいつの力に囚われる事はないのかい?」

キュゥべえ「ないようだね。
一度暁美ほむらの束縛から逃れた存在は、
彼女がまた記憶を作り変えたり、洗脳などをしようとしない限りは大丈夫みたいだ」

これはその通りだ。

今までは考える事すら出来なかったものを考えられ、こうやって動いているあたしたち自身が証拠だもんな。

杏子「その根拠は? あったから地球に来ようと思ったんだろ?」

キュゥべえ「……正直言って、これに関しては根拠と呼べるほどのものは無かった。
今の暁美ほむらの状態なら、あるいは……と予測はしていたけれど」

そして、幸いそれは当たっていた訳だな。

杏子「その予測が外れていたらどうしていたんだ?」

キュゥべえ「また外のインキュベーターが動くだけさ。新たに対策を練ってね。
いわば、この個体は特攻役みたいなものだった」

杏子「なるほどな」

で、地球に来て無事なのを確認してもそいつ一匹しか動いてないのは、
大人数……つって良いのか? だと見付かりやすくなると踏んで、らしい。

まあ違いない。

杏子「しかし、やっぱお前らしくねーな。そんな賭けをするなんて」

今回良い結果だったからよかったものの、もしこの個体が奴隷みたくされてたら、
それによってほむらにこいつらの動きを察知されちまってたかもしれないからな。

キュゥべえ「……それだけ宇宙は追い詰められているんだ」

こいつも当然、あたしが危惧した事くらいわかっていただろう。

だけど、もはやこの宇宙・次元に残された時間はあまりにも少ないから、こいつは賭けに出ざるを得なかった。


杏子『その予測が外れていたらどうしていたんだ?』

キュゥべえ『また外のインキュベーターが動くだけさ。新たに対策を練ってね』


さっきのこいつの言葉は本心だと思う。

たぶん、どうなっても最後の最後まで足掻くんだろう。

ただ……

……………………

………………

…………

……

マミ「『予測』が外れていたら、あの子たちにはもうどうする事も出来なかった……と?」

杏子「ああ。相変わらずハッキリとは口にしやがらなかったが、キュゥべえの言い方からはそう感じた」

マミ「実際、『地球に来ました。やっぱり暁美さんの奴隷にされました』じゃあどうしようもないわね」

杏子「あいつらがそこからいくら対策を練ろうが、手なんて無いだろうね。
完全に終わりだ。
キュゥべえはそこまで万能じゃない」

マミ「だから、自分の目的の為に人を魔法少女にする必要があったのだものね」

杏子「で、続きだが……」

……………………

………………

…………

……

キュゥべえ「ところで、やっぱり君も色々と知っているようだね」

杏子「……お前と同じで、知ってる事だけな」

キュゥべえ「そういえば、僕が現れてすぐに『近いうちに現れると思っていた』と言ってたね。
どうしてそう思っていたんだい?」

杏子「……!」

キュゥべえ「見たところ、君も暁美ほむら改変前の記憶を持っているように感じるんだが」

杏子「…………」

キュゥべえ「まさか君が地球外からやってきた『佐倉杏子』とは考え辛いし、
この地球はまだ暁美ほむらの影響下にある。
どうやって僕のようにそれから抜け出したんだい?」

なにを考えてるのか読めない目で、キュゥべえはあたしを見つめてくる。

正直、焦ったよ。やっぱりこいつは油断ならねえ。

杏子「……言えないね」

キュゥべえ「ふむ……」

杏子「あたしはあんたをまだ信用していないんだ。
だからこっちの手の内はそうそう見せられない」

キュゥべえは沈黙する。

杏子「大体、あんたはあたしと協力したいんだろ?
だが、あたしはあんたと絶対に手を組まなきゃならないって訳じゃないんだ」

ここは、こうして立場の違いを盾に取って乗り切る方法しか思い付かなかった。

キュゥべえ「……わかった。こちらとしては、君たちの力は絶対に必要なんだ。
この限られた時間で、僕たちに、僕たちだけで暁美ほむらをなんとかする力はたぶん無い。
君が言いたくない事は聞かないよ」

杏子「ああ、そうしてくれ」

キュゥべえ「それに、『円環の理』を観測しようとしたあの時を考えれば、
君が僕を信用出来ないのも当然だろうしね」

杏子「わかってんじゃねーか」

キュゥべえ「逆に言うと、僕を信用して貰うには……」

杏子「これから態度で示すのも当然だが、まずはそっちの手の内はとことん見せて貰う事だな」

キュゥべえ「うん、わかったよ」

杏子「……で、何度も話に出てきた『時間が無い』ってのは?」

キュゥべえ「僕たちの考えだと、近いうちに暁美ほむらはその力を完全に失い、その身に宿る『闇』に呑まれる」

『闇』──それは悪魔・暁美ほむらを悪魔たらしめている『力』であり、
今のあいつそのもの・あいつという存在の命でもある。

そして、ほむらでは……っつーか、魔法少女とか魔女では到底扱いきれない巨大で圧倒的な『力』でもあるな。

キュゥべえ「そうなると、『闇』が氾濫、暴走してしまうんだ」

それはつまり、ほむらそのものでもある『闇』が独立・暴走して荒れ狂い、
あいつやあいつが創り上げたすべてを滅ぼすって事。

時間が経つにつれてそいつの独立が進んでるから、ほむらの扱える力が落ちてきている訳だね。

杏子「……その時がすぐ側まで来ているから時間が無い、と?」

キュゥべえ「うん。なんと言ってもその『闇』は、仮にもこの宇宙を作り変えたほどの力だ。
それはつまり、宇宙を滅ぼすレベルの力でもある」

そんなものが、ほむらって『器』から抜け出して完全な形になり、暴走するとなると宇宙は確実に崩壊する──

さすがはキュゥべえ……いや、インキュベーターってところかな。当たってやがる。

キュゥべえ「だから、僕たちは動けるようになったらすぐに動かざるを得なかった。
まだ具体的な策を決めかねていても、せめて手を組める相手を見付けようとね」

杏子「……まず最初にあたしの所に来た理由は?」

キュゥべえ「別に特別な理由は無い。
様々な面を踏まえ、この件で僕たちが協力を要請出来ると考えた存在は四人。
佐倉杏子、巴マミ、美樹さやか、百江なぎさ」

杏子「うん」

キュゥべえ「その中で、美樹さやかは『円環の理』の断片をまだ宿しているみたいだから、
なにが起こるかわからない不安がある為に、最初に接触する相手としては除外だ」

キュゥべえは、奴隷の立場の個体が、記憶が復活する度にほむらに突っかかるさやかを目撃していたんだな。

それから、とキュゥべえが続ける。

キュゥべえ「百江なぎさの家は、僕が地球に降り立った場所からは遠かった。
これは、マミも同じだよ」

だからこいつは、まずは四人の中で一番近くにあるさやかの家に来て、あたしの前に姿を現したって訳だね。

杏子「…………」

……けど、どうやらキュゥべえは、この世界になってからあの子の姿すら見てないようだ。

さっきのあいつの言葉を考えたら、今のなぎさに関する知識が全然無いみたいだもんな。

キュゥべえ「だからもちろん……
そうだね、これも距離を考えたら次はマミと会うつもりだ」

杏子「なるほどな」

キュゥべえ「で、どうだろうか? 改めてお願いするよ。
ぜひ君たちの力を貸して欲しいんだ。宇宙を救う為に」

杏子「……そうだな……」

─────────────────────

マミ「──はい、紅茶のおかわりよ」

杏子「サンキュー、マミ」

杏子は礼を言うと、新しく作られ、注がれたオレンジペコに早速口をつける。

杏子「さすがに喋りっぱなしは喉が渇く」

マミ「それで、キュゥべえにはなんて答えたの?」

杏子「とりあえず、あいつの目的はあたしたちの目的と大差は無いからね。
キュゥべえが余計な行動をしない為にもオーケーしておいた」

杏子は、キュゥべえと同盟関係を築く事で、彼が独断で軽率な行動を取らないよう牽制をしたのだ。

杏子「って、あいつがそんなバカやる可能性は低いとは思うんだけどな」

マミ「まあそうね。
でも、その判断で正しかったと思う。
私たちだって仲間は欲しかったもの」

杏子「だな。
百パー信用するのは危険だが、本当にあいつが味方になってくれたなら心強い……と、そうそう」

杏子が思い出したかのように言う。

杏子「話の通りキュゥべえはマミとも会いたがってたから、とりあえず今日の放課後に来いって言っておいたぞ」

キュゥべえはすぐにでもマミの元へと向かいたがっていたが、
先に彼女とこういう話をしておきたかった杏子は許さなかった。

当然、その後に学校をサボってというのは論外なので、放課後にしたのだ。

ついでに杏子は、キュゥべえにその時まで下手に動くなとも釘を刺しておいたらしい。

マミ「わかったわ、ありがとう」

マミとしてもキュゥべえと話はしたい。彼女は頷いた。

マミ「……それにしても、ちょっと頭が混乱しているわ」

杏子「おう、あたしも同じだ。
上手い具合にあいつと話せたとは思うが、実は理解しきれてない部分もある」

マミ「ちょっと整理しましょうか?」

杏子「そうだな」

マミ「まずはキュゥべえの事だけど」

杏子「えっと、あいつは……」


・暁美ほむらの力減少の為、ほむらによって改変される前の次元の記憶と、自由を取り戻した。

・やがてほむらの『闇』が暴走して宇宙が滅んでしまう事は、
ほむらの行った再編後のかなり初期から気付いていた。

・それを防ごうと、記憶と自由を取り戻した地球外のキュゥべえは動き出した。

・だが、彼らは彼女の影響力がまだ大きく生きている地球には入れず、具体的な行動はおこせなかった。

・さらにほむらの力が弱まり、地球への侵入が可能になった上に、
奴隷にされている個体とのリンクも復活して現状を把握。

・地球に突入してもほむらには気付かれないと予測したので、キュゥべえは早速やって来た。

・ただし、自分たちだけでこの宇宙を救う事は厳しいと考え、まずは他に仲間を得ようとした。


マミ「その為に最初に接触したのが佐倉さんだったのね」

杏子「だな」

マミ「ただ、一つ気になる事があるわ」

マミが、厳しい表情で杏子を見る。

杏子「ん?」

マミ「キュゥべえは、どうやってこの宇宙を救うつもりなの?」

まさか、暁美さんを殺すつもり?──口にこそ出さなかったが、マミの視線はそう問いかけていた。

杏子「……ああ、マミの想像通りだよ」

マミ「やっぱり……あの子の考え方だとそうなるわよね……」

しかし、手段そのものとしては、実は杏子とマミが取ろうとしているものとそう変わらない。

けれど、断じて別物なのだ。

そう、杏子たちは……

杏子「実は、その辺りも突っ込んで話したんだ」

……………………

………………

…………

……

キュゥべえ「なんだって?」

杏子「だから、ほむらを殺すつもりなら手は貸せない」

キュゥべえ「どういう事だい?」

杏子「あたしやマミに、ほむらを殺す気はねーんだよ」

キュゥべえ「ふむ……じゃあ、どうするんだい?
君たちも、僕と同じくこの宇宙の崩壊を阻止する為に動いているのだと思っていたんだが……」

杏子「宇宙ってより、この世界、だね。
ぶっちゃけ、宇宙となると規模がデカすぎてあたしにはピンとこないんだ。
たぶんマミもそうなんじゃないかな」

キュゥべえ「……そうか。地球人は宇宙進出もまともに出来ていないのだから、それが普通なのかもしれない。
でも、同じ事だろう?」

杏子「違う。
似ているが、お前とは決定的に違うところがあるんだ」

キュゥべえ「?」

杏子「あたしたちはな、この世界を救い……

ほ む ら も 助 け る 。

その為に動いてんだ」

……………………

………………

…………

……

マミ「それで、キュゥべえはなんて答えたの?」

杏子「『……わかったよ。それで君が納得してくれるなら、こちらも暁美ほむらも助けるつもりで動こう。
僕たちは宇宙を存続させられればそれで良いんだからね』
……だったかな」

マミ「なるほど……」

杏子「ともあれ、やり方が同じだとしても、 ほむらを殺す気でやりはしないからな。
これをハッキリ言うのは譲れなかったし、手を組むなら、そんなつもりであいつが動くのは認められなかった」

マミ「うん」

同意の念を込め、マミが首を縦に振った。

別に結果が同じならば、そんな事に拘る必要は無いのかもしれない。

しかし、ここが彼女たちの若さ・甘さであり、同時になにものにも変えられない強さでもあるのだ。

『誰か』の為というのがなければ、杏子もマミもすでに潰れていた可能性すらある。

この信念・想いがあるから、突然襲ってきた重い現実にもまだ負けずに頑張っていられるのだ。

宇宙の為というだけでは、先の杏子の言葉が示すように『規模がデカすぎてピンとこ』ず、
動く動機にはなっても苦しさに立ち向かう力にはなり得ない。

……実はこの辺りは、『円環の理』も同様なのだが……

杏子「まああいつが裏切るとしたら、どれだけ手を尽くしてもダメで、
本当にほむらを殺るしか手段が無くなった時だろうし……
大体あいつの力じゃあ、今更裏切られてもそれでなにかが変わる訳じゃないからね」

キュゥべえが杏子たちの足を引っ張るような裏切り方をしてきたら話は別だが、
今回に限ってはそれはないだろう。

マミ「……なら、とりあえずは今回のキュゥべえは味方と考えて良いのかしら」

杏子「信用しすぎなければそれで良いと思う」

マミ「ええ、わかったわ。
──じゃあ、次は暁美さんの状態に関してね」

杏子「おう」


・もはやまどかしか見ていない暁美ほむらは、自分が力を失いつつある事に気付いていない。

・当然、『闇』の独立・氾濫・暴走……自分自身や、自身が再編した宇宙の崩壊が間近に迫って来ている事にも。

・『キュゥべえ』を変わらずに奴隷のように扱っているが、
彼が地球外のキュゥべえと意思疎通を再開し、そのキュゥべえが地球に侵入した事にも。


杏子「これが、私たちとキュゥべえが共通に知ってる分だな」

マミ「その他は?」

杏子「話した限りだと、これら以外は知らないと思う」

マミ「そう……よね。あの子の元にまで『彼女』が現れたとは考え辛いもの」

杏子「ああ。こんな現状になってる原因の一端でもあるヤツだし……」

マミ「キュゥべえの介入が、すべてにとっての嬉しい誤算になれば良いけど……」

杏子「──逆に、あたしとマミしか知らないものはなんだろう?」

マミ「そうね……私たちだけとなると、まず浮かぶのは『あれ』しかないわ。
佐倉さんも、誰にも話していないのでしょう?」

杏子「もちろんだ」

そう、それは……

『円環の理』と接触した事。

─────────────────────

杏子「……ん?」

数日前の夜、自分の部屋で、佐倉杏子は突如虚空を見つめた。

まるでその先に誰かが居るかのように。

この部屋には、彼女しか居ないはずなのに。

杏子「!?」

突然、『なにか』が杏子の中に入ってきた。

杏子「!? !!?
──ッ!!?」

それは、一瞬──本当に一瞬だった。

杏子「……な、なんだと?
──あ……いや、そうか……」

けれど、その一瞬で杏子は『理解』した。

彼女の元に現れたのは、『円環の理』と呼ばれる概念。

故にわざわざ物理的に対話をする必要はなく、
こうして、言わば魂と魂が交わるだけで『すべて』がわかるのだ。

杏子「うん……そう、だな。
わかった、確かにその通りだ。どこまで出来るかわからねえが、やってみるよ」

…………………………………………

『円環の理』は、まったく同じ時刻にマミの元にも現れた。

概念にとって、同時刻に複数の場所に現れるなど造作もない事である。

その時、杏子と同じようにマミもすべてを理解したのだった。

かつて過ぎ去った様々な過去と、これからあったかもしれない無数の未来を。

魔法少女や魔獣、そして魔女。

どうしてこんな歪んだ世界が生まれたのか、こうなる前の世界はどんなだったのかを……

ほむらの力が弱まった為に、
彼女に察知されずに地球に侵入出来るようになったのはキュゥべえだけではなかったのだ。

これは、ほむらが常に意識を向けている相手が、
『円環の理』というよりも『まどか』──この世界に居る、人としての彼女だからこそ可能なのであった。

まどかやさやかの『中』に眠るものはまだしも、
これまでは宇宙に流れる摂理によって、
外からは地球どころかこの次元そのものに介入・侵入も出来なかった『円環の理』だが……

この大いなる存在もまた、悪魔の影響から離れたこの次元の地球外からチャンスを伺っていたのだろう。

しかし、やって来た概念は、杏子たちの中も含めて今はこの地球には居ない。

さすがにその存在の巨大さ故、長居をすると確実にほむらに勘付かれるのもあるし、
なにより地球には、かなり弱まっているとはいえ、
ほむらの強烈な意思で存在している摂理がまだ健在の為に長時間の滞在は不可能だったからだ。

だから、ほんの一瞬の邂逅にて『円環の理』は杏子とマミに助けを求めた。

自分一人では叶わない、『彼女』の役割を果たす為に。

─────────────────────

杏子「つっても、もうおぼろげになってる部分もあるんだよなー」

マミ「そうね……」

杏子とマミは、あくまで『円環の理』と接触し、その知識や記憶を知るという経験を積んだだけ。

導かれて円環の一部やそのものとなった訳ではないので、
時間とともにその記憶が薄れていくのは人として自然であるし、
もちろん特殊な力を新たに得た訳でもない。

杏子「だからもうちょっと確認したいが……
結局、『円環の理』が動いているって事は……そういう事になるんだよな……」

マミ「……ええ」

杏子「……っかし、ほむらがああなっちまう前の記憶では、あの神さまに関しては知識としてはあったけどさ、
その根性っていうか、信念?
凄いよな」

マミ「そうね……なんとしても、自分が救える存在は救うっていう強固な意思を感じるわ」

杏子「ふふっ、今は裂かれちまってるとはいえ、まどからしいよ」

マミ「鹿目さんは、いつも誰かの為に頑張るような子だったものね……」

杏子「今の『円環の理』は、人としての記憶は無くしちまってるが……やっぱり同じまどかなんだよな」

人としてのまどかと、概念としてのまどか。

どちらか片方だけになっても、根本は変わらない。

マミ「だからこそ、あの子は『本物』なのね」

まどかがあれほどの存在になれたのは、
かつてのほむらがループを繰り返し、因果が束ねられて『力』を得たからではあるのだが……

それ以上に、やはり鹿目まどかが鹿目まどかだったからこそなのだ。

いくら力があれども、彼女でなければあのような存在には絶対になれなかっただろう。

杏子「……けど、さ」

大体は、魔法少女が魔女化する時に現れる『円環の理』がこんなに早く動くのは前代未聞だ。

自身が導いた存在と協力するのはともかく、杏子・マミのような、言わば生者に協力を要請するのも。

だが、それはこれまではただそうする必要が無かったからやらなかったというだけであり、
また、今回はそうでもしないと駄目だという事でもある。

救うべき存在を救う事以外には介入出来ないのがあの概念ではあるのだが、
逆にいうと、その為にどうしても必要でそこに繋がる為の行動ならば起こせるのだ。

それがつまり、彼女の求める救済となるのだから。

杏子「改めて考えてみると、これって本当にとんでもねー事態だよな。
……へへっ、情けねーけどビビッちまってるよ。あたし」

マミ「ふふっ。
──うん、私もよ」

ここまではすべてを知ってから時がそう経ってなく、
また、ここまで忙しく動いていたのもある為にまだマシな部分はあった。

だが、こうして落ち着いて話をすると、深く実感する。

自分たちに与えられた大きな大きな使命に。

杏子「まあ、だからって逃げ出したりはしないけどな。
そんな事したって宇宙が崩壊しちまったら一巻の終わりだし」

マミ「私たち、まだまだ死にたくなんてないものね。
──そしてなにより」

マミの視線を受け、杏子が大きく頷いた。

杏子「ああ。
ほむらのヤツをむざむざと殺させなんかするもんか。
『まどか』の為にも」

マミ「実質一人ぼっちになりながらも、諦めずに頑張り続けてきた美樹さんの為にも」

彼女たちは共に、自身の『愛』に従い、頑張っているのだから。

そんな大切な仲間たちを、見捨てる選択肢など無い。

杏子「もちろん、ほむらの為にもな」

マミ「……その暁美さんを、具体的にどうやって救うかだけど……」

杏子「ああ」

──これは、あの日に概念と接触した時からすでに二人の中で答えが出ていた。

ベストなのは、なんとかほむらを説得し、彼女がそれを素直に聞き入れてくれる事。

そうすれば、ほむらを攻撃して『闇』を滅ぼすだけ。

今はもう、暁美ほむらという存在は『闇』に染め上げられつつある為、
『闇』がかつてない濃さで彼女の全身を密着して包んでいる状態だ。

だからこそ逆に、ほむらは『闇』が離れつつある事に気付いていないのかもしれないし、
それは(魔法少女といえど)ただの人間では察知出来ないようだが……

その為に、たとえ杏子やマミが全力を持って攻撃したとしてもほむらには届かず、ダメージを負うのは『闇』。

ならば、全身全霊を持って攻めたてて『闇』を滅ぼせばよい。

さすがに、ほむらが無抵抗であり、彼女の中に在る為に不完全とはいえ、あんなものを滅ぼすには時間がかかるだろうから……

問題は時間切れと二人の魔力切れぐらいか。

……だが、ほむらは抵抗してくるだろう。むしろ、杏子側の話は一切聞かないのではないだろうか。

そもそも、今のほむらが存在していられるのは『闇』の力があるからこそ。

よって、彼女そのものでもある『闇』を滅ぼしてしまえば、悪魔・暁美ほむらの命は終わる。

今の彼女には人としての命は無いのだし、その辺りに関してはさすがにほむら自身が誰よりもわかっているはずだ。

そして、数奇な運命をくぐり抜けた末にようやく作り上げたこの世界を、
ほむらが自ら手離したり、死を受け入れて離れようとするなどありえない。

とすると、大切なものを失うまいと必死に抗ってくるだろうほむらと交戦しながら、
『闇』を滅ぼすという事になるが……

それに成功すれば、円環を拒絶するあの摂理は地球からも完全に無くなるだろう。

いくらほむらの意思があろうと、根本たる力がなくなるのだから。

あの摂理は宇宙自体とは違って、一度作ってしまえば創造主の手から離れても存続される類のものではない。

だが、ほむらはもう魔法少女でも魔女でもない為、
彼女が悪魔である事が出来る『闇』を滅ぼしてしまえば、ほむらに対しての円環の介入は不可能になる。

これは摂理もなにも関係ない。あの概念はそういう存在だからだ。

しかし、『闇』が滅ぶにしても決して瞬時には消滅しない。

コンマ以下の速さではあるが、ほむらの命と連動してフェードアウトしながら消えていく。

一秒にも満たない、『闇』とともに死を迎えゆくわずかな間は、ほむらは悪魔でいられるのである。

そのほんの一瞬に『円環の理』が現れ、ほむらを今度こそ導くのだ。

杏子「……まぁ簡単に言うと……
最終的にあたしとマミがやる事は、思いっきりほむらと戦うって事だな」

それになんとしても勝ち、後は偉大なる女神に任せれば良い。

マミ「そうね。
そこがわかりやすいのはありがたいわ」

杏子「……けどさ、さっきキュゥべえの話で、ほむらを殺す云々の話をしたが……」

マミ「?」

杏子「本当にほむらを殺さなきゃならない状況になっちまうのって、怖いよな」

つまり、タイムリミット──『闇』を、覚醒までに滅ぼす事が出来なかった場合だ。

だが、そうなってもまだ手はある。

実は覚醒といっても、『闇』が本当の意味で完全に覚醒するまでには、そこからさらにわずかな間が必要なのだ。

『円環の理』の知識では、数秒。

これはようするに、人が眠りから覚めても、
完全に目が覚めるまでは多少の時間が必要なのと同じだと考えて良い。

『闇』を覚醒させてしまったら、その『わずかな間』を突く事こそが本当に最後のチャンスとなるだろう。

それを逃せば、本来は神聖な神のものであり、今は邪悪な『闇』が真の力を取り戻してしまうのだから。

そうなると、超一流の魔法少女のマミや杏子の攻撃ですらまったく通じなくなってしまって完全に詰みである。

……実は、これはキュゥべえは知らなかった事だが……

その『わずかな間』には、ほむらの魂もまだ存在はしている。『闇』に覆われた深いところで。

だが、ここまで来てはもはや彼女は助けられない。

ここで上手く立ち回れても、『闇』の中に居るほむらには、彼女を救おうとする『円環の理』の手は届かないからだ。

ほむらから独立する事で、『悪魔』からただの力に戻った『闇』には、あの概念は干渉出来ないのだ。

杏子たちが失敗した後に宇宙とともに完全に喰われ尽くされるか、
杏子たちが最後のチャンスをものにした後、『闇』の深いところでそれと共に消滅するか……

『闇』覚醒後は、ほむらにはどちらかの道しかない。

マミ「……まあ、私たちはそんな状況になる想定は捨てて動いているはずだから、
そんな心配してもしょうがないわよ」

そう言うマミだが、彼女の本心はもちろん違う。

手遅れになって他に手段が無くなった時の話とはいえ、
事実上、自らの手でほむらにとどめを差さないといけないような事態に陥った場合を深く考えたくなかったのだ。

杏子「……それもそうだな」

二人は不安を振り払うかのようにほほえみ合った。

だが、杏子にはマミにも話していない大きな決意があった。

杏子(……でもなマミ。
あたしは、な……)

──もし、もしもだ……──

杏子「…………」

マミ「? 佐倉さん、どうしたの?」

杏子「──あ、いや、ちょっと眠くなってきてな。すまん」

暗い顔で俯いた自身へと心配そうな顔を向けるマミに、杏子は慌てて手を振って答えた。

マミ「ふふっ、朝早い上に喋りづくだもんね。
ちょっと休憩しましょうか?」

杏子「いや、続けよう。こうやって話せる時間は貴重だろうからな」

マミ「……うん、わかったわ」

杏子「つっても、もう今細かく話す事は消化した気がするけどね」

マミ「『闇』の覚醒が、具体的にいつになるかっていうのは、キュゥべえも知らなかったのかしら?」

杏子「ああ……」

さすがにそこまでは、キュゥべえだけでなく『円環の理』といえどもわからなかった。

ただ、その時が近いというだけ。

一週間やそれ以上猶予があるかもしれないし、もしかしたら明日その時が来るかもしれない。

杏子「だからこそやっぱり、急がないといけないんだね」

マミ「……そうね」

激しいプレッシャーや緊張感を胸に、頭にある策以上のものがないか、
あるいはそれをより盤石なものに出来ないかここ数日二人はあれこれ考えたが、結局なにも思い付かなかった。

ならば、もうさやかにも事情を話して協力して貰い、さっさとほむらに接触するべきなのかもしれない。

結局はすぐにそうするのが正解だったのかもしれないが、
これはスピード以上に絶対に失敗・敗北が許されない事態なのだから、
それがわかっていても即行動に移すという事は出来なかった。

だが、もう良いだろう。

杏子とマミは、これからもあれこれ考えても、良案が浮かぶどころかただ時間を浪費するだけだろうと感じていた。

その間にタイムリミットを迎えてしまって、『闇』に攻撃を仕掛ける暇もなく宇宙崩壊となれば目も当てられない。

この日までほむらと接触しなかった事でキュゥべえと出会え、彼と協力関係を築けた幸運もある。

むしろ、他に救援などが得られる存在が居ない為、
その幸運もこれ以上は望めない事を考えると今こそが行動を起こす最高のタイミングではないだろうか。

杏子・マミ((なら……))

二人は、今日の放課後にキュゥべえとはさやかも交えて会おうと決めた。

その時彼女たちに必要な話をし、その足でほむらの元へと向かうとも。

もちろん、そこでさやかなりキュゥべえなりから良い案が出ればまた考えるが……

ひとまず、杏子とマミに迷いは無くなった。

これは、今行った話し合いも含め、彼女たちがここまで自分に出来る精一杯をやってきたからこそだ。

キュゥべえが現れた事も、あるいはそれが呼んだ幸運だったのだろう。

……しばしの沈黙の後、杏子が再び口を開く。

杏子「……この世界、良いよな」

マミ「そうね。お父さんやお母さんは居ないから、私にとっては決してすべてが最高って訳じゃないけれど……
佐倉さんが居て、暁美さんが居て、美樹さんや鹿目さんも居て……みんな居て。
私、幸せよ」

杏子「うん……」

杏子が、幸福感と憂いを帯びた瞳をわずかに下に向けたが、すぐにまた前を向く。

杏子「……ほむらのやった事は神への叛逆だ。それも、あたしたち魔法少女にとっての。
やり方そのものは許されねーのかもしれない。
でも、それ以上にあたしは感謝してんだよ。こんな世界を作ってくれた事を」

──短い間だったけど、ここで暮らせた事を──

マミ「私もよ」

──たとえそれが、一夜の幻に等しいとしても──

レイケツ、オクビョウといった膨れ上がった自身の『負』を土台に、
偉大で純真で美しい……神以外が持つには分が過ぎる力を無理矢理奪って『闇』へと変えた彼女は、
最後にはその『闇』に喰われ、呑まれるのが正しい末路なのだろう。

その先に救いは無い。

彼女は、彼女を救いに来た存在たちの手を振り払い、貶めまでした。

救済される事を、自ら捨てたのだ。

だとすれば、救いの無い結末になるのは必然。

杏子たちがその必然を捻じ曲げるのに成功しても、
ほむらにはこの世界で暮らす未来が閉ざされているのもまた……

……そう、これまでの話を見てわかるように、
実はほむらにはこのままの状態で生き続けられる道は残されていない。

杏子「……あいつ、バカだよな。
まどかたちにあんな事した末に、こんな……こんな世界作って自己完結しやがった」

マミ「あるいはあの子、宇宙再編の前から自己完結はしていたのかもしれないけどね。
けれど、この世界を作った──作れた事でそれはより強固なものになってしまった」

杏子「…………」

マミ「私たちも、暁美さんも……
間違いなく幸せなのよね」

『闇』の問題が無ければ、あるいはこれでよかったのだろう。

大半の存在は宇宙が再構築された事に気付いていないし、ここまでは間違いなく彼女たちは幸せだったのだから。

それは、すべてに気付き・知った今も変わらない。決して。

杏子「つってもあたしには、あいつは常に泣いているようにも見えるけど……
痛みで、な」

でも。

マミ「今の暁美さんは、それすらも愛おしいほどに幸福を感じているのでしょうね」

二人が悲しそうにほほえむ。

杏子「まあ、あいつが勝手に自己完結してくれているおかげで、あたしたちにチャンスが生まれてるんだろうけどな」

そうでなければ、ほむらはもっと広く視野を持ち、
『円環の理』やキュゥべえが侵入してくる隙など与えなかったに違いない。

しかし、たとえ『円環の理』たちを拒めたとしても、『闇』の氾濫はほむらでは止められない。

いくら気付こうが対策を練ろうが、それを制御する力が彼女には無いから。

とすれば、杏子もマミも、誰も『闇』に立ち向かう事すら出来ず、
なにも知らずに全員が最悪の終末を迎えるだけだっただろう。

杏子「へへっ、あいつってずっと穴がありまくりだよな」

マミ「ふふっ、結構詰めが甘いのよね」

痛いほどの慈愛のこもった二人の言葉。

杏子「まあ、そのおかげで今回は助かっている訳だが……」

マミ「──今度は私たちがしてやりましょう」

杏子「ああ。
ほむらのヤツがあんな形で叛逆したのなら……
あたしたちは、あいつを呑み込もうとする『闇』に──」

救いのない結末という『必然』をもたらさんとする『力』に。

マミ「叛逆をする……!」

今回はここまでという事で。

ありがとうございましたです~。

ちょっとだけ投下です~。

─────────────────────


『おぉおおおおおお!』


周りから歓声が上がる。

教師「に、日本記録じゃないの……? これ……」

ほむら「…………」

走り高跳びを終えたほむらは、周囲の反応などまったく意に介せずにマットを降り、
待機するクラスメートの元へと戻って来た。

マミの家での話し合いから数時間後、体育の授業での事だ。

杏子「おう、さっすが!」

さやか「ひぇ~、あんたやっぱ凄いねえ」

ほむら「…………」

素直に感嘆して声をかけてくる杏子とさやかだが、ほむらは答えない。

さやか「ったく、相変わらず無愛想なやつ~。
たまには愛想よくしたら? あんた美人なんだし、隠れファンも割と居るみたいだからそんなんじゃもったいないよ」

確かに、クラス内を飛び越えて学校中でどこかしら畏怖されているほむらではあるが、
彼女へと憧れの視線を送る者もチラホラと居る。

これは、学年が違う生徒からもだ。

ほむら「放っておいて頂戴」

しかし、やはりほむらはそっけない。

仁美「ああっ、やっぱりクールな暁美さんって素敵ですわね……」

まどか「もーっ、仁美ちゃんたら、顔が赤いよ?」

まどかと、志筑仁美が話に加わってくる。

さやか「そーだぞー。
ったく、あんたには恭介が居るだろうに」

杏子「…………」

さやかと仁美、そして上条恭介の三角関係はこの世界でもあり、すでに完璧に決着がついていた。

いや、決着がついている事に『なっている』。

きっと、『じゃあこれまでにどんな経路で恋愛模様を解決したのか』などと聞いても、
彼女たちは上手く答えられないはずだ。

これまでは、その辺りを疑問に思う事すら無かった・出来なかった為にそれでもよかったのだろうが……

ちなみに、どれぐらい完璧に解決している(事になっている)のかと言うと、

仁美「そうですけど、これはこれですわ」

さやか「かーーーっ、こんな浮気性が相手だと恭介も苦労するよ」

仁美「あらまあ。この間は、『あんな頼りない奴が相手だと、仁美も苦労するねぇ』とか言ってらしたのに」

さやか「あれっ、そうだっけ?」

仁美「うふふっ、そうですわ」

さやか「あははっ!」

こうやって普段から他愛ない雑談に出来るくらいに、だ。

杏子「けどさ、さやかもよくあそこまでほむらに積極的に突っかかっていくよな~。
大抵、つれない反応しかされねーのにさ」

さやか「ん~? まあそうなんだけどね。
なんでかな……?
こいつ、ほっとけなくて」

ほむら「……私を小さな子供みたいに言わないで貰えるかしら?」

さやかの言葉に少々機嫌を損ねたのか、ほむらがぽつりと言う。

さやか「あっ、ゴメンゴメンそんなんじゃなくてね。
……う~ん、なんつーかほっとけないんだわ」

ほむら「訳がわからないわ」

それは、と杏子は思う。

杏子(それはなさやか、お前がまだ『円環の理』の一部を持っているからだし……)

いくら記憶を失くしても、再び人としての命を持っても、今も。

だがこれは、本家であるまどか以外だとさやかだからこその話だ。

魔法少女になった時間軸でのさやかは、魔女となって果てるか、
なにかしらの戦いで戦死するか、まどか再編後の世界だと円環に導かれるかのいずれかしかない。

どのケースの結末を迎えても、魔法少女になってから間がない為に内に秘めた能力が開花せずに終わり、
その上まどかという不世出の存在が近くに居て目立たなかったが、
実はさやかの魔法少女としての素質も相当凄かった。

そんな才能の持ち主であり、なによりも円環自身であるまどか一番の親友のさやかだからこそ、
このような状況になってもまだ『円環の理』の欠片を宿していられるのだ。

能力的にも、まどかとの繋がり的な意味でも、さやかは言わば円環世界のナンバー2だったと言って良い。

杏子(……なによりも、お前が『美樹さやか』だからだよ)

そう。

円環の一部として、
また、『ピンチの人を助けなきゃ!』というさやか個人のものとしての義務感も確かにあるのかもしれない。

だがそれだけではなく、自身の短い人生の中で深い縁を持てた相手の一人として、
義務感とは違うほむらへの『愛』も間違いなくあるのだ。

だから見捨てない。『愛』以外に思うところはあっても、見捨てられない。

まどかの事を最優先にしつつも、それでもさやかやマミ・杏子を死なせまいとも動いていた、
ループを繰り返していた時のほむら同じように、自分が出来る・状況が許す限りの精一杯をやって……

杏子(お前はまだ、ほむらを救おうとしてるんだよな)

まどか「でも、さやかちゃんの気持ちはわかるよ。
わたしも、ほむらちゃんはなんだか気になるっていうか……ほっとけない感じがするもん」

さやか「お~っ、さすがはまどか! あたしの嫁!」

ほむら「……まどか」

仁美「ですわね。
うふふっ、私もですわ……」

杏子(いや仁美、お前の『気になる』とまどかさやかの『気になる』は違うと思うぞ)

女子「ね、ねえねえ鹿目さん」

話が盛り上がる中、クラスメートがまどかの肩を叩いてくる。

まどか「なあに?」

教師「オホンッ」

女子「次は鹿目さんの番だよっ」

まどか「あ、あわわ……」

さやか「げっ」

仁美「あらぁ」

ジト目の教師と焦るクラスメートの様子を見たら、どうやらまどかは何度も呼ばれていたらしい。

教師「ほら、早く来なさい!
そこも私語は慎むっ」

どうやら、彼女たちが気付かない間に雑談も注意されていたようである。

まどか「す、すみません~」

さやか「ごめんなさい……」

仁美「申し訳ございませんでした」

まどかが、慌てて走り高跳びのスタートラインへと向かう。

杏子「いや、ははっ! 夢中になりすぎたみたいだね。
ドンマイさやか!」

さやか「あたしだけ!?」

仁美「うふふふっ」

教師「こらそこ~っ、いつまでやってるの! 廊下に立ってなさい!」

女子「先生、ここは校庭です……」

周りで起こる笑い。

杏子「はははっ!」

ほむら「……ふっ」

杏子「!……ほむら……」

めずらしく、いつものとは違う種類の笑いを見せたほむらを見て、果たして杏子はなにを思ったのか……

今回はここまでという事で。ありがとうございました~。

スーパー独自解釈

■ HTML化依頼スレッド Part16
■ HTML化依頼スレッド Part16 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1394756963/)

>>167
あ、それもここからが本番だったりしますので、そういうのが苦手な方は真面目にバック推奨です。


レスありがとうございます~。

さて、投下して行きますです。

─────────────────────

昼休み、いつもの屋上にて。

マミ「あら、志筑さんのタコさんウインナー、美味しそうね」

仁美「よろしければ召し上がられますか?」

マミ「良いの?」

仁美「はい。
その代わりと言ってはなんですが、私にはその卵焼きを頂けませんか?」

マミ「もちろん良いわよ♪」

そんな仁美とマミのやり取りを見て、杏子も動く。

杏子「なんだなんだオカズ交換か?
じゃあほむら、それくれよ」

杏子はほむらに言いながら、さやかの弁当からプチトマトを取って自分の口に入れた。

さやか「あっ良いなぁ。
じゃああたしはまどかの……ってなにすんじゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

杏子「フェイントだよフェイント」

怒れるさやかを、杏子は軽くいなす。

さやか「もう! じゃああたしは、まどかのと恭介のとほむらのを貰うんだっ!」


ヒョイパクヒョイパクヒョイパク。


まどか「わっ!?」

恭介「!」

ほむら「…………」

目にも留まらぬスピードで、さやかがまどかたちからオカズを拝借した。

さやか「うん美味い!
あ、これお返しね」

と、彼女は三人に自分のオカズを渡す。

さやか「──あっ!」

さやかはその流れのままに杏子の方を向くと、視線をあらぬ方へやってそちらを指差す。

杏子「えっ?」

さやか「あんたにもお返し!」

杏子「あっ!」

それに釣られた杏子の隙をついて、さやかは杏子からもオカズをGET。

杏子「なにすんだよっ、あたしの鳥肉!
つかそれは『お返し』違いだろっ!?」

さやか「だってあんたとは『交換』してなかったし?」

杏子「はぁ!? 『あたしの物はあたしの物、お前の物もあたしの物』ってヤツだよ!」

さやか「どこのガキ大将よ、それ?
……くくくぅ~、それにしてもお口がパラダイス!」

まだまどかたちの物も残っていたのだろう口内に、杏子のまで合流した事で、さやかは実に幸せそうな顔を見せる。

杏子「くっそ! じゃあそのハンバーグくれよ!」

さやか「ダメ!
ってか、あんたとあたしのお弁当、中身一緒じゃないっ!」

恭介「あはは、賑やかだね」

まどか「ふふっ、そうだね」

ほむら「……騒がしくてしょうがないわ」

唐突に始まった喧騒に、恭介とまどかはマイペースに言い合い、ほむらはため息混じりにひとりごちた。

ちなみに、マミと仁美は二人で料理についての話題で盛り上がっているようだ。

恭介「まぁ違いないかもね。
でも、僕はこういうの好きだな」

まどか「そうなんだ。
ちょっと意外かも」

恭介「そうかい?」

まどか「うん。上条くんみたいな人って、アーティスト気質って言うのかなぁ?
そんな人って、賑やかなのは苦手なのかなって。
……あっ、ごめんね。勝手な偏見だよね。悪い意味じゃないんだよ」

まどかが慌てて恭介に向かって両手を振る。

恭介「はははっ、うん。わかってるよ」

──やっぱり、この子は人に凄く気を使うんだな──

思いながら、恭介はまどかへと笑顔を返す。

恭介「……そうだね」

そのまま彼は顔を前に向ける。

恭介「正直に言うと、確かに静かな方が好みかな。
特に、バイオリンを引いていたり音楽を聴く時は、他の音はどんな些細なものも一切無い方が良い」

まどか・ほむら『…………』

ほほえみこそ消えてはいないが、前を向く恭介の瞳は先ほどまでのものとは変わっていた。

本気で人生を賭けるものへと向かって精一杯頑張っている人間が、その事について語る時の強い強い瞳へと。

ほむら(……『夢』、か。
ううん、彼ほどの実力者ならば、それはもう『現実』なのかしら?
──眩しいものね。私にはきっと、彼の瞳に映っているような景色は永遠に見られないでしょうから)

そんな風にこそ思うが、別にそれでほむらの心が動いたりはしない。

ほむら(まあ、こうしてまどかの側に居られるのだから、そんな事はどうでも良いのだけど)

と、心でのつぶやきを締め、ほむらは人知れず口元の笑みを深くした。

まどか「……そっか」

恭介「うん。
──けれどね、それはそれ、これはこれだよ」

再び恭介が、まどか、ほむらへと視線を戻した。

バイオリニストの彼ではなく、彼女たちの友達・上条恭介の瞳で。

恭介「今のこの現実の全部が、環境が、僕は凄く楽しくて嬉しいんだ」

まどか「今の環境?」

恭介「うん。
手が使えて、バイオリンが思う存分弾けて……
志筑さんやさやか、鹿目さんとか佐倉さんに暁美さん。みんな居てくれてさ。
こんな、『今』が」

まどか「上条くん……」

恭介「とてもとても大切なものを失いかけて、その途中馬鹿な僕は、
大切な友達であるさやかに酷い事を言ったりもしたよ。
でも『奇跡』に助けられ、周りの人たちからも僕は見捨てられなかった。
学校だって結構休んだのに、復帰してからクラスのみんなも優しく迎えてくれた」

まどか「……うん」

恭介「その先に待っていたのが、『今』」

そう。

恭介「この世界」

ほむら「……!」

恭介「なにも、誰も失わず、僕を優しく包んでくれる今の世界の全部が大好きなんだ。
だから……
本来は得意ではないはずの喧騒も、楽しくてしょうがないんだよ」

優しく──しかし熱い思いの込もった言葉を、恭介は噛みしめるように言った。

恭介「──って、僕はなに変な事言ってるのかな」

ははは、と笑いながら彼は照れ隠しに頭をかく。

まどか「ううん、全然変じゃないよ」

恭介「ありがとう。
まあ楽しいといっても、自分もあんな風にってのはちょっと無理なんだけどね」

まどか「見てるだけなのが最高ってのもあるもんね」

一緒にワイワイするのが、みんなの輪の中に居る唯一の方法ではないという事なのだろう。

こうやって離れた場所から見ているのが好きな人も居るし、そういう形の絆もあるのだ。

ほむら「……あなたは良い人ね、上条くん」

恭介「えっ?」

恭介が、驚いた様子でほむらを見た。

それもそのはず。

ほむらは、相手から話しかけられれば会話もするが、自分から誰かに話しかけるというのはまず無いのだ。

唯一まどか相手にだけは例外かもしれないが、それでもほむらからというのは少ない。

恭介(こんなの……初めてかも)

ほむら「そんなにこの世界が好き?」

例の笑みは変わらないが、問いかけるほむらはとても穏やかだ。

恭介「うん、大好きだよ」

その問いに答える恭介も、また穏やかで。

ほむら「……本当、良い人。
純粋で、毒が無さすぎる」

恭介「いや、そんな事は無いよ。
入院中は、さやかとか色んな人に迷惑ばかりかけちゃったから……
ほら、辛い時ほど人って本性が出るって言うからね」

ほむら「…………」

まどか「上条くん……」

ほむら「……あなたがそんな人だから、一つ助言をしてあげるわ」

恭介「?」

ほむら「純粋なのは結構だけど、それで知らない間に傷付く人も居るから気を付けなさい」

ほむらがこんな事を言うのは、自分が再編した世界を好きだと言ってくれたお礼なのか。

それとも、ただの気まぐれか……

恭介「えっ?」

まどか「そうだよ……!
仁美ちゃん、一人で寂しい思いしてる時が多かったりするみたいだよっ」

と、まどかが声量を落とし、恭介へと向けて唇を尖らせる。

この辺りの察しのよさや、食い付きのよさはやはり女の子。

恭介「……えっ?」

ほむら「脇目も振らずに夢中になれるものがあるのは素晴らしいけれど、もうちょっと周りを見るべきでしょうね。
まして『恋人』なんて、あなただって合意したからこそ出来た関係でしょう?
なら彼女を疎かにしすぎるのはどんな理由も言い訳よ」

恭介「えっ、え……??」

ほむら「あなたは、もう少しで良いからバイオリン以外にも欲を持つべきでしょうね。
彼女に対しても純粋すぎるのは、優しさとはちょっと違うでしょう?
それが悪いとは言わないけれど」

恭介「う、うん……」

初めてほむらから話しかけられた上、いつになく饒舌な彼女に恭介は混乱していたが、なんとか頷く。

まどか「わたしにはこれといった夢は無いし、恋人も居ないから想像なんだけど、
忙しかったらちょっとはこんな感じになっちゃうのかなってのは確かに思うんだ」

恭介「鹿目さん……」

まどか「でもね、もうちょっと仁美ちゃんも見てあげて欲しいかなって。
仁美ちゃんはあんまり弱音とかを出す子じゃないし、隠そうとはしてるんだと思うけど……
たまに見えちゃう時があるんだ」

恭介「……うん。わかったよ。君たちの言う通りだ。
──ふふっ、二人が居てくれてよかったな。
ありがとう」

まどか「ううん、むしろ嫌な事言っちゃってゴメンね」

ほむら「……ふん、ちょっと喋りすぎたわね」

ほむらは、髪をかき上げるとそっぽを向いた。

杏子「おう、そろそろ教室戻ろうぜ!」

まどか「あっ、そうだね」

会話をしながらも食事は続けていたので、すでに全員の弁当は無くなっているし、もう良い時間になっていた。

さやか「あ~っ、午後の授業めんどくさいなぁ」

杏子「サボろうぜ!」

さやか「サボろうか!」

どうやら、いつの間にか杏子とさやかは仲直りしていたらしい。

まあ、別に本気で喧嘩していた訳ではないのだが。

まどか「ダ、ダメだよ杏子ちゃん、さやかちゃん」

マミ「そうよ。そんな事しちゃダメ」

まどか「さすがマミさんっ!」

マミ「うふふっ♪」

仁美「巴先輩、色々教えて頂いてありがとうございました」

マミ「こちらこそ、とても勉強になったわ。ありがとう」

仁美は、マミと笑顔の交換をした後に恭介の隣へ行ってそっとつぶやく。

仁美「あっ上条くん、今度アップルパイを作って参りますわ。
巴先輩に作り方を教えて頂きましたの。
お嫌い……じゃあありませんでしたわよね?」

恭介「うん、普通に好きだよ。
──いつもありがとう志筑さん。楽しみにしてるね」

仁美「上条くん……?」

いつもとはどこか違う恭介の雰囲気を感じ取った仁美は首を傾げたが、

仁美「……はいっ!」

すぐに嬉しそうに頷いたのだった。

─────────────────────

杏子『……マミ』

教室に戻る為に屋上からの階段を降りている途中、最後尾に居る杏子が、隣を歩くマミへとテレパシーを使う。

マミ『……上条くん、私たちと同じ事を言ってたわね』

ずっとほむらへ注意を払っていたマミと杏子は、先ほどの会話を聞いていたのだ。

杏子『ああ……』

ここからわずかな間、沈黙した二人はなにを考えていたのか。

杏子『……なんだかんだでさ、ほむらのヤツも楽しそうっていうか、嬉しそうだったな』

マミ『ええ、そうね』

『痛みさえ愛おしい』段階まで行ったほむらとはいえ、
自身を……自身の行動の結果を肯定されるというのは、やはり良い意味で思うところがあるのだろう。

たとえ彼女がそれを必要としていなくとも、
不意に与えられたそれを、無理に否定して捨てる必要もまた無いのだから。

杏子『うっし! 頑張ろうぜ、マミ!』

マミ『うふふっ、なあに? 急に』

杏子『今までは世界とか、自分たちやほむらの為だけって感じだったが……
今が幸せなヤツが他にも居るってなら、そいつの幸せも守りたいって思ってね』

マミ『佐倉さん……
ええ、そうね! 私もだわっ!』

これまでは杏子もマミも、
こんな状況で魔法少女でもなんでもない普通の人たちまでを考える余裕も、器もまた無かった。

しかし先ほど恭介の思いを聞き、触れ、その考えに至ったのだった。

二人の成長だ。

──数時間後の放課後には、約束通り彼女たちの前にキュゥべえが現れるだろう。

そこからは、さやかも交えて悪魔へと接触する──

本当の終わりへ向けて、予定決行の時は近い。

杏子『けど……へへっ、我ながらくさいね』

マミ『そんな事無いわ。
知っての通り私もだけど、あなただって元々はそういう風に頑張る魔法少女になりたかったはずよ?』

杏子『あ~……そっか。
今のマミ、あたしの事もかなり深いところまで知ってるんだよな。
ちょっとやりにくいね』

マミ『ふふっ、あなただって『私』を知っているんだから、お互い様よ』

『円環の理』は、どこか別の次元で激しい絶望の末に果てかけ、
しかし大いなる力にて救われた『杏子』や『マミ』の記憶も内包している。

だから、その『想い』を受けとったこの世界の杏子とマミも、同じ記憶を持っているのだ。

杏子『へへっ、そうだね。
大体、今のあたしたちに細かい事はもう無意味か』

マミ『そうよ』

無限に近い時間軸の記憶を共有する今の二人は、もはやただの仲間ではない。

これはまどかとさやかの二人もそうだし、
あのような経歴で『悪魔』の力を得たほむらもまた、同じはずなのだが……


トッ。


先頭を行くまどかとほむらの足が、廊下へと置かれた。

その時。


グアッ!!!!!


強烈な『闇』の風が吹き荒れた。

杏子「なにっ!?」

マミ「!?」

さやか「えっ!?」

すざまじい烈風に、杏子、マミ、さやかの三人は反射的に腰を落として踏ん張るが、

まどか「ひゃあっ!?」

恭介「うわっ!?」

仁美「きゃっ!?」


ドガッ!


まどか、恭介、仁美の三人はなす術もなく吹き飛ばされ、壁に叩きつけられて気を失う。

マミ「みんなっ!」

杏子「ぐっ!」

飛ばされないよう踏ん張りつつまどかたちへと声を上げるマミに、前方を見ながら唇を噛みしめる杏子。

杏子の視線の先には、自分たちと同じく烈風で動けないでいるさやかと……

ほむら「っ、っっ、ッあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

自分で自分の体を抱くような体勢で、体全体から漆黒の『闇』をほとばしらせながら絶叫するほむらが居た。

マミ「暁美さんっ!」

やがて烈風は止み……

ほむら「…………」

黒く露出度の高いドレスやニーソックスを身につけ、禍々しい翼を生やしたほむらが立っていた。

杏子「……あれが、悪魔・暁美ほむらか……」

マミ「…………」

ほむらに宇宙を改変される瞬間、『円環の理』はほむらのこの姿を視ている。

だから知識としては持っていたが、杏子とマミがこのほむらの姿を実際に目にするのは初めてだ。

二人は背筋に冷たいものが走るのを感じつつ、前を向いたまま階段を何段か上がって間合いを取り、


シュンッ!


魔法少女へと変身して、杏子は槍、マミはマスケット銃というそれぞれの得物を手に構える。

ほむら「…………」

杏子「ぐっ!」

凄まじい殺気だ。

ほむらは無表情だが、それが逆に恐ろしさを増していた。

杏子「さやか! お前も早くこっちへ──」

さやか「──待って」

自分たちとほむらの間に居るさやかへとかけられる杏子の声だったが、
さやかはほむらから視線を外さずにそれを遮った。

さやか「……ねえ、ほむら」

ほむら「…………」

悲しげな声で名前を呼ぶさやかに、しかしほむらは答えずただ彼女を見つめるだけ。

さやか「──そう。
よかった。まだ間に合うんだね」

つぶやくさやかの表情は、背を向けられている杏子とマミには見えない。


シュインッ!


さやかも魔法少女に変身すると、

さやか「おあぁぁぁぁッ!!!」


ゴゴゴゴゴッ!!!


魔力を高め始めた!

さやか「待ってなほむら! 今助けてやるからさっ!」

杏子・マミ『!』

──円環の魔法少女・美樹さやか、覚醒。

さやかの叫びに、杏子とマミも魔力を高めて臨戦体制に入った。

杏子(そうだ、ボーっとしてるヒマはねえっ!
あたしたちの目的は……)

ほむら「ふふっ」

無表情で抑揚も無く、『ほむら』が嗤った。


ド ン ッ ! ! !


杏子・マミ・さやか『!?』

それと同時に学校が──いや、宇宙全体が大きく揺れた。

杏子「……なにっ!?」

瞬きをしたほんの一瞬。

マミ「えっ!?」

周囲の様子が『変わって』いた。

場所自体は同じなのだが、廊下に倒れている仁美や恭介などの人や物、
存在するありとあらゆるものが濃い紫のような色になり、静止している。

さやか「!?」

さやかが驚いた様子で振り向き、杏子とマミを見た。

マミ「な、なんなの? これは……」

杏子「『結界』……か?」

結界とは、魔女が現れる時に魔女が作る空間。

マミ「でも、それにしてはどこか空気が──
ううん、そんなものとはまるでオーラが違う……!」

さやか「──話は後っ!
二人とも、動けるなら手を貸して!」


バッ!


言うや否やさやかが愛剣を振りかざして、未だに無表情で嗤い続けているほむらに飛びかかる!

いや、あるいはその嗤い声は、『闇』のものなのかもしれない。

杏子「──おう!」

マミ「わかったわ!」

さやかの声に、一瞬で切り替える杏子とマミ。

さやか「はぁぁぁぁぁぁッ!!!」

ほむら「は は は は は は は は は は は は は は は は は は」


バシィッ!!!


さやか「!?」

さやかの剣での一撃は、ほむらを包む『闇』の濃い紫色をした防御壁を破れず、弾かれた。


ガィンッ!


猛スピードで降下してきた、マミの放った弾丸も同じ。

これは、ここが戦闘を行うには狭い場所の上に前方にさやかが居るという事で、
誤射を防ぐ為に天井に向かいマスケット銃を発射し、
弾丸が天井にぶつかる前に軌道を変えてほむらへと攻撃したものだった。

杏子「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!」

間髪いれずにさやかの脇から現れた杏子が槍を一閃!

だが、これも先の二つの攻撃と同様の運命をたどった。

杏子「チッ!」

思わず舌打ちをする杏子。

杏子(こんなんじゃダメだ! もっと威力を重視しねーとっ!)


カッッッ!!!!!


杏子・マミ・さやか『!!!』

唐突に、ほむらの『闇』が激しく発光した!

それは目くらましとなり、杏子たち三人は思わず顔を大きく逸らす。

さやか「──でもっ!」

杏子「ムダだッ!」

ほむらに接近していたさやかと杏子は、目を閉じつつもほむらが居た場所へと斬り上げ・突きを放つ。

さやか・杏子『!?』

しかし、目が見えなくとも感触でわかる。二人の攻撃は空を切った。

マミ「そこっ!!!」


ドウンッ!


続けて、杏子たちよりはほむらと距離があった為に、逆に冷静に気配を追えたのだろうマミが銃を放つ。

その弾丸が向かう先は、バックステップで剣と槍の攻撃をかわしたほむら。


バシィッ!


初弾よりは威力のあるマミのそれは見事『闇』の防御壁を貫いたが、さすがに単発ではダメージは無い。

だが、

ほむら「──ぐアッ!」

急にほむらが頭を抱えて苦しみだした。

マミ・杏子・さやか『!!?』

ほむら「あっ、うぁぁぁァぁぁぁっ、あぁぁぁぁっっ! ぁァァぁぁぁぁぁぁぁァァァァァぁぁぁぁぁぁッッ!!!!!」

声を上げ、髪を振り乱しながらよろめくほむらは、廊下に倒れているまどかに視線をやりつつ……


スッ……


自身を纏う『闇』と同化し、消えた。

さやか「ぐっ!」

杏子「逃げられた!?」

ほむらの気配が無くなった事を悟り、さやかたちの顔に焦りが浮かぶ。

マミ「くっ……!」

しかし、無理に追いかけようとはしない。

ほむらがどこに行ったか予想がついている杏子たちだが、まずは体勢を立て直すのが先だ。

ようやく視力が完全に戻った三人は、仁美と恭介の様子を調べる。

どうやら命に別状も怪我も無いようだが……

突然吹き飛ばされた為だろう。二人はやや無理な体勢で倒れていた。

マミ「……動かせないわね」

せめてその体勢だけは直してあげようとした彼女たちだったが、
しかし、仁美も恭介もまるで床に張り付いたかのように動かせなかった。

さやか「……ここはもう、ほむらの──ううん、『闇』の世界だからね。
今やこの宇宙の全部が『闇』に覆われてしまってるから……」

これは予想外の展開だった。

『闇』自体の大半はもう独立してしまっており、
ここまで来た上にほむら(『闇』)を逃がしてしまったのなら、本当はすべてが手遅れになっていたはずだった。

あとは誰の抵抗も受けずにほむらを呑み込み、
彼女という狭い器から完全に解放された『闇』が氾濫・暴走して宇宙を滅ぼすだけなのだから。

なのにまだ猶予があるというのは、ほむらが最大級の執念を持って、
ギリギリのところで自身が喰われるのを食い止めているからだろう。

楽園の終焉は絶対に許さないと。許したくないと。

その為に『闇』の一部はまだほむらの中にあり、
すべてを滅ぼすには力が足りず、まだ宇宙は静止するに留まっているのだ。

そんなほむらが『闇』に完全に敗北した瞬間が彼女の救いなき滅びの時であり、
その時に杏子たちがなにも出来なければ、今度こそ宇宙の消滅も確定する。

さやか「……ところで。
マミさんと杏子も、色々知ってる感じだし──」

と、さやかが杏子たちの方を向いた。

さやか「事情ってのを説明して貰えるよね?」

マミ「ええ、もちろんよ」

杏子「おう」

さやかに視線を向けられた三人は頷く。

三人。

つまり、マミ、杏子……

そして。

まどか「うんっ」

淡く輝く光を身に纏い、いつの間にか立ち上がっていた鹿目まどか。

─────────────────────

まどかは先ほどの宇宙が静止した瞬間に、円環の力の極々一部を取り戻していた。

この期に及べばもはやほむらに気付かれるもなにも無いので、あの概念は完全に覚醒しようと動いたのだ。

ギリギリで持ちこたえているとはいえ、もはやほむらには自身が使える『闇』の力はほとんど残されてはいない。

いくら彼女が強烈な意思で『円環の理』を否定・拒絶しようが、
これまでのようにそれをこの次元の『摂理』にするなど今は不可能である。

そう。『闇』の大半がほむらから独立して次元全体に広がるまでの、瞬きよりも短い期間……

この宇宙には、大きな力の影響はすべて消えていた。

『円環の理』はその空白期間に人としてのまどかと一体化しようと動き、
彼女との接触に成功したつい先ほど、完全体となって復活出来るはずだった。

しかし……それは叶わなかった。

『闇』に阻止されたのだ。

信じられない事に今の『闇』には、ほむらの意思無くしては存在し得ない摂理が消えても、
それと同じ円環を排除する特製が備わっていたのだ。

ただ最後に呑まれ・喰われ尽くされるだけだったはずのほむら。

しかし、彼女の『円環の理』への激しい負の感情が、その一部分だけとはいえ『闇』すらも汚染していたのである。

恐るべきは、あの概念に対するほむらの暗い想い……

人としての命を持つまどかと完璧に一体化出来た一部の『円環の理』は、
概念だけでは無くなっていた為になんとか大丈夫だった。

だが、『闇』に邪魔をされて一体化が間に合わなかった残りの概念だけの『円環の理』は、
ほむらの体を中心に、ゼロから宇宙全体に広がっていった『闇』に押しやられる形でこの宇宙から追い出され、
今も変わらずに幾多の次元に在るのだろう。

魔法少女たちを救済しながら。この次元に思いをはせながら。

この宇宙は、まどかやさやかの中にあるものを除けば、再び『円環の理』が入り込めない空間となっていたのである。

ちなみに、このタイミングでさやかが覚醒したのも似たような理由で、
『闇』が表に出てきたあの時がほむらの力──
つまり、あの概念を拒絶する力がもっとも弱まっていた瞬間だったからだ。

また、静止程度の『闇』の支配は無効化出来る能力を持つまどかやさやかはともかく、
世界がこうなれば、あくまでただの魔法少女でしかない杏子とマミも、他の人々や物と同じ運命をたどるはずだった。

なら、なぜ二人は無事に動けているか?

『まどか』が守ったからだ。

彼女が今回の目的を果たすには杏子とマミの力も必要であり、だからこそこのような形の介入が可能なのだった。

─────────────────────

さやか「なるほどね。
三人とも、このさやかちゃんを『ハブかちゃん』にして頑張ってくれちゃってたんだ」


ヴァヴァヴァヴァヴァヴァ!!!


変わらぬ学校の廊下で、まどかと共に虚空へと両手をかざしながらさやかが笑う。

まどか「ごめんね、さやかちゃん」

マミ「ごめんなさい……
悪意があって美樹さんを放っていた訳ではないのだけど……」

杏子「……すまん」

さやか「いや、そういった事情なら仕方ないよ。
あたしに気を使って、全部パーにしちゃったら元も子もないもん」


ヴァヴァヴァヴァヴァヴァ!!!


その知識にてほむらが逃げ込んだ場所を特定していたまどかとさやかは、空間を切り裂いて作ろうとしている。

ほむらの居る異空間へ続く道を。

こればかりは、次元すら越える円環の力を持つまどかとさやかにしか出来ない。

その最中にこの二人は意識を共有し、
さやかにとって空白になっている間の『円環の理』の記憶を、一瞬で彼女に移したのだった。

杏子「けど、このタイミングで『まどか』が復活したのは不幸中の幸いってヤツだろうな」

たとえ完全体ではないとしても、彼女たちには強力すぎるほどの援軍である。

さやか「まあ……
本当は、まどかにお出まし願う前にあたしがなんとかしたかったんだけどね……」

これまでにさやかが記憶を取り戻した時、人としてのまどかに接触していれば、
お互いの中に在る円環の欠片が共鳴してまどかも目覚めていただろう。

しかし、さやかが一度もそれをしようとせずにほむらの元へと向かい続けていたのは、
今回の件にまどかを関わらせたくなかったから。

この件を解決するには、どうあってもほむらと戦うか、無抵抗であっても彼女に攻撃を仕掛けるしかない。

さやかには、まどかにはそれは辛すぎるだろうし、
しかし助けを求められれば彼女はその辛さから逃げず、
自らの役割を果たす為に参戦するだろうとわかりきっていたのだ。

もちろん、まどかの助け無しでもなんとか出来る勝算があったからこそさやかはそうしていたのだが。

まず考えられないと言えども、諦めずに語りかけ続ければ、
ほむらが『闇』を滅ぼす事を了承・協力してくれるかもしれないというわずかな期待が無かった訳ではないし、
やはりそれがありえなくても、ほむらは徐々に力を無くしていっていた。

ならば一気に宇宙が滅びる事態にはならず、終末の前にさやかはまた記憶を取り戻せるだろうし、
いつか必ず、いつものような記憶や力を奪うという形で彼女を撃退する事は出来なくなるはずだった。

それは例の摂理の力だったのだから、ほむらの能力が衰えれば当然だ。

そこまで行くと、さやかは直接対決にて『闇』を滅ぼし、宇宙とほむらを救うつもりだったのだ。

本来の記憶と能力を取り戻したさやかであれば、例の摂理さえ無ければ実力的に単身でそれは可能だったから。

ただ、その最後にはどうしても『円環の理』本体にほむらを導いて貰う必要がある為、
本当にさやか一人の力では事態を完全に解決する事は不可能ではあった。

それでもまどかの気持ちを思えば、なるべく彼女の手は借りない。
まして、まどかにほむらを攻撃させるなんてもっての外──

さやかはそんな風に考えていたのだ。

まあ、その目論見は様々な要因で崩れ去った訳だが……

──ちなみに、一部だけながら『円環』がここに存在し『続けていられる』のは、
ほむらがあんな状態になっているからだ。

例の摂理は強力ではあるが完璧ではなく、
一度それを突破して中に入って来たあの概念を自然に弾く力までは無かった。

だからこそ、さやかやまどかが円環に目覚められる余地があった訳である。

そしてほむらは、いざその彼女にとってのピンチを迎えたら、
たとえば相手に抱きつくなどのアクションを取って、摂理の力をその対象に集中させないといけなかったのだ。

そうしてその場での『摂理』を強化しないと目覚めたさやかの記憶や力を奪う事は出来なかったし、
かつての学校の廊下でのまどかも覚醒していた。

つまり同じ特性を持っているとしても、ほむらと違って意思の無い『闇』には、
自身の内部に侵入して来た円環を排除する為に力を集中させる事は出来ないのだ。

それ故に『闇』の内部であるこの場に降臨さえ出来れば、
その『円環の理』はもはやこの次元から排除される事は無い。

さやか(……でも、まどかもだけど、あたしもこうやって戻ってこれてよかったよ)

実はさやかはこの次元で過ごすうち、
ほむらが悪魔だという事以外の円環関係を完全に忘れ去りそうになっていた時期もあった。

さすがにまどかに比べれば能力が劣る彼女は、
人として生きるうちにそちら側の純度が劣化し、円環の欠片が完全に眠りかけた(失う、ではない)のだ。

だが、さやかの強い意思力に加えてほむらの能力が衰えていった関係で、なんとかそれは免れた。

ほむら再編世界の初期ははまだかなり覚えていて、中期に一番忘れかけ、
末期に近付くにつれてまた鮮明に思い出していったのである。

もしさやかの円環の欠片が眠りきってしまっていたら、ここで覚醒は出来ていなかった可能性もあった。

……まだ、ほむらの居る異空間への道は出来ない。

さやか「くそっ。あたしがもっと万能だったら……
そこまでいかなくても、せめて百パー円環の力が使えればっ……!」

杏子「さやか……」

まどか「……神さまって言っても、本当の意味では万能じゃないんだよね」

杏子「……!!!」

さやか「あっ……ごめんまどか、あんたを責めるつもりじゃなかったんだ」

まどか「ううん、大丈夫。わかってるよ」

たとえば、神と言えども手が出せないものにはとことん手が出せない。

歯が立たないとかではなく、手自体が出せない。

まどか「わたしにとっては、魔法少女を救済する事だけが出来る事だから……」

それ以外は、なにも出来ない。

さやか「……つっても、逆に言えばその救済に繋がりさえするんなら、
時間も次元も飛び越えられるし、こうやって参戦も可能な訳で……
神って呼ばれる存在の中ではかなり自由がきく方ではあるんだけどね。
超々高位の神さまならまた話も変わってくるのかもだけどさ」

杏子「…………」

さやか「だから、魔法少女でもなんでもない、
ほむらから独立した『闇』には本来あたしたちは手出し出来ないんだよな~」

なのにこうして介入出来ているのは、救済対象であるほむらがまだ健在だからだ。

先に述べた、『円環』がこの場に存在出来る理由がここにもう一つあった。

マミ「……それにしても悲しいわね。
なにが『悪魔』よ。あの子……」

杏子「……神さま、か」


ヴァッ!!! ヴァヴァヴァヴァヴァッッッ!!!!!


まどか「……!」

ついに、空間が歪んだ。

さやか「──よしっ、来た!」


ヴゥ……ン。


二人が手をかざしていた場所の空間がねじれ、歪み、昏き道が出現した。

杏子「やった!」

マミ「これが……!」

歓喜に沸く四人。

知識を共有している全員がわかっている事をわざわざ話したりしていたのは、
この時まで行動の取りようがなかった激しい焦りを誤魔化す為であった。

さやか「ふう……思ったより時間かかっちゃったぜ!
さあ行こ……!?」

大きく息を吐き、浮かんだ額の汗を手で拭いながら、
早速その道へと足を踏み入れかけたさやかだったが……


フラッ──

ドサッ!


大きくよろめき、彼女はその場に倒れた。

まどか・マミ『!!』

杏子「さやか!?」

三人は慌ててさやかを抱き起こす。

さやか「はぁ、はぁ……」

疲労だ。

まどか「…………」

この道を作る為に、さやかとまどかはかなり消耗していた。

まどかがさやかほどの疲れを見せていないのは、自力の差だろう。

まどか「……やっぱり……調子が出ないよね」

さやか「ご、ごめん、時間が無いってのに……」

フラつきながらも、さやかは立ち上がった。

さやか「ああもうっ! マジで歯がゆいっ! あたしは完璧に目覚めてんのにッ!!」

完全体ではないまどかもだが、覚醒しきっているはずのさやかもまた、持つ力のすべては振るえないようだった。

『闇』は、力を集中して円環を排除する事は出来なくても、
彼女たちの本領を発揮させなくする事は出来るらしい。

今のまどかとさやかは、重りをつけられた状態であると例えればわかりやすいか。

ここばかりはほむらの摂理より優れている面であり、
すべてではないと言えども、これこそがほむらという小さな器から抜け出した『闇』の力なのであろう。

さやか「使えるパワーはどれくらいだ?
──ったく! あたしはともかく、まどかはただでさえ不完全も不完全だってのに、さらにハンデ持たされるのかよっ!」

まどか「あははっ。
でも大丈夫。わたしは負けないよ」

「だって、さやかちゃんたちが居てくれるし……」と言いながら、まどかは三人の顔を見回す。

まどか「わたしは、ほむらちゃんを助ける為にここに居るんだもん!」

だからいくらハンデがあろうと負けない。失敗などありえない。

負けるような事があってはならない。

失敗する訳が、ない。

今度こそ。

さやか「まどか……」

迷い無き彼女の凛とした姿に、さやかは目を奪われていた。

さやか(そっか……
あたしが、なるべく一人で解決してやるとかって気遣いは余計だったわ)

まどかにも、ほむらを攻撃しなければならない辛さはある。

だが、彼女を救う為にはそのような辛さになど負けない・迷いすら見せない強さもまた、まどかにはあった。

概念となった最初の頃ならば、あるいは一瞬の迷い程度は見せていたのかもしれないが……

まどかも成長していたのだ。概念となって精一杯役割を果たし続けてくる間に。

さやか(あんたは本物だから。本物の『慈愛』だから、あんな心配いらなかったね。
……ふふっ。導かれてからは、誰よりもあんたに近かったあたしがそんな事を忘れてたなんてさ。
これもあの『摂理』の影響だったのかな?)

そっと、さやかは苦笑した。

さやか「……よし。ゴメンねみんな。
もう大丈夫だから、改めて行こうっ!」

まどか「うんっ!」

杏子「おう!」

マミ「そうね!」

さやかの声にまどかたちは力強く頷くと、全員で歪んだ昏き道に足を踏み入れた。

杏子・マミ『…………』

まどか「──この先は異空間だけど、この次元であるのは変わらないから安心してね」

杏子とマミのわずかな不安を察知したまどかが、そっと言葉を口にして安心させる。

杏子「ああ!」

マミ「ええ、ありがとう鹿目さん」

そして。

この宇宙に残された四人の『希望』たちは、漆黒の中へと前進していった。

ひとまずここまでです。

それでは、今回もありがとうございました~。

さてさて、続きを始めますです。

─────────────────────

ほむら「う……ぐっ……」

なにも無い、上下左右すべてにただただ闇色が広がる空間で、悪魔・暁美ほむらが両膝をついて頭を抱えていた。

キュゥべえ「…………」

その傍にはキュゥべえ。

彼は杏子と出会った個体ではないし、静止はしていない。

『闇』の支配からインキュベーターを逃れさせられるのは、
今のほむらに残された数少ない出来る事の一つなのだ。

その数少ない一つが、ほむらが心底憎んでいるインキュベーターに対する支配力というのはなんとも皮肉な話だが、
これは彼がある意味誰よりもほむらに近い存在だからというのもあるのだろう。

ただし、その支配力が及ぶのは地球上に居るインキュベーターまでのようだが……

……ほむらはなぜ、この状況で力を使ってまで彼に自由を与えているのか。

理由は簡単。

止まっている彼を虐殺しても彼女にはなんの気晴らしにもならないから。

わざわざこの異空間に来てでも気休め程度でしかないその気晴らしをしないと、
制御を失いかけている自分の力が、自分の大切な楽園に向かってしまうのを止められないから。

ほむら「うぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッ!!!!!」


ぐしゃっ!


ほむらが右手を大きく振ると、それに呑まれたキュゥべえは声一つ上げる暇もなくただの肉塊へと成り果てた。

ほむら「き……なさいっ、キュゥべえッ!
早くッ!!!」

苦しげなほむらの絶叫に、新しい個体のキュゥべえが現れた。

ほむら「うぁ──────ッッッ!!!!!」

その姿を見たと同時に、ほむらはまたキュゥべえを『殺す』。

ほむら「ああああああああああああ!!!!!」

次に現れたキュゥべえも、また同じ。

彼らも、なんの抵抗もしなかった訳ではない。

動きをよく見たら、ほむらの攻撃を避けようとはしているようだ。

だが、彼らの能力ではまともな反応も出来ずにただ虐殺され続けていくのみ。

ほむら「ぐうぅぅぅ……!」

ほむらは足掻いていた。もがいていた。戦っていた。

自身の中で暴れる巨大な『闇』と。

だが、彼女が敗北する時は近い。

その時が……『終わり』。

ほむら(嫌だ、嫌だ、嫌だ!)

キュゥべえに八つ当たりをしながら、ほむらはもがき続ける。

理不尽に。みっともなく、無様に。

ほむら「あああっ、うああああああああああああああああ!!!!!!!!」

キュゥべえ「……これまでか」

何体目の『キュゥべえ』が殺されてからだろうか? とある個体が眈々とつぶやくと、


ザッ。


これまでは一体ずつしか現れなかったキュゥべえが、周囲の暗黒の中から何体も姿を見せた。

合計はおよそ百体ほど。

これが、現在この地球に残ったインキュベーターのすべて。

──いや、あと一体存在するか。この場には居ない、杏子と出会った個体が。

ほむら「キュ……ゥべえ?」

闇色の地面に両手足をついて息を荒げながら、彼らを見るほむら。

キュゥべえ「これ以上の時間稼ぎは無駄だと悟った。
一か八か、『インキュベーター』は君に叛逆をする!」


バッ!


ほむら「ふ……ふふふふふふふ!!!
奴隷が……」

言うや否や飛びかかってくるキュゥべえたちに、ほむらは乱れた髪と血走った瞳を向けると……

ほむら「それこそ無駄よ! 無駄だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!!」

全身から強烈な闇の波動を放ちながら、立ち上がる。

ほむら(無駄? 無駄だったの?
私のやった事は……無駄……)

彼女の攻撃に、キュゥべえは一体、また一体と倒れていく。

今のほむらには、こうして自分が振るっている力がなんなのかわからなかった。

ほむらは空中に浮き、そんな自分を追いかけて跳んできたキュゥべえの一体を、『闇』が纏わりつく手刀で引き裂く。

ほむら(これは私の力? それとも奪ってしまったまどかのもの?
それとも……)


杏子「あんたの中に居やがるクソ野郎のもんだッッッ!!!!!」


突如として響き渡った杏子の叫び声と同時に、


ズアッ!!!!!


ほむら「……!」

手には大剣を持ち、上半身を西洋の鎧で固め、下半身はまるで人魚のような姿形をしている巨大な騎士が出現した!

さやかが円環の力を使って召喚した、彼女の魔女としての姿である『Oktavia』だ。


ビュッ!

ドガッ!!!


ほむら「ぐっ!」

騎士がほむらに投げつけた大剣が、彼女に直撃する!


ザンッッッ!!!!!


ほむら「がッ!!」

そのまま騎士はすぐさま両の手の中に槍を生み出し、ほむらを薙ぎ払った!

この一撃の後に騎士は姿を消したが、攻撃は終わらない。

まどか・マミ『デーア・ティロ・デュエットッッ!!!!!!!!』

まどか・マミのコンビが放ったビームと大砲が合わさった、美しくも強力無比な光の柱がほむらへ向かって伸び──


ド ン ッ ! ! ! ! ! ! ! !


ほむら「!!?」

彼女を貫く!

杏子「おおおおおッ!!!」

さやか「やああああッ!!!」


ザンッ!!!


続けて、接近してきた杏子・さやかの槍と剣が閃いた!

ほむら「ぐあぁぁッ!!!」


ドカァッ!


『闇』の防御壁など取るに足らない、強烈な攻撃に吹き飛ばされたほむらが地面へと叩きつけられた。

──まどかたちには、『闇』に呑まれかけた今のほむらとはまともに話が出来ない事はわかりきっていた。

だから、彼女に抵抗の意思がある限り全力で戦う。

その末に話が出来るようならするし、出来ないようなら……

マミ(全力で戦って……)

杏子(『闇』を滅ぼす!)

さやか「…………」

まどか「……ほむらちゃん」

ほむらに遅れて地面に降り立った四人が、ふらつきつつ立ち上がる彼女を見る。

ほむら「ぐ……」

もちろん、『闇』に覆われたほむら自身にはまったくダメージは無いが……

杏子「……今のでも『闇』には大して効いてないみたいだな……」

ほむら「ァっ、ウ……!」

だが、これまでとは違ってノーダメージという訳ではないようだ。

杏子とマミはもちろん、いかな『円環の理』とはいえ、
まるで本領を発揮出来ないここではさすがに『闇』と比肩し得るほどの力は無いが、勝算は十分にある。

当然だ。元々この戦闘は、円環の知識を得た杏子とマミが、
自分たちの他にさやかを含めた三人で行おうとしていたのだから。

そんな杏子とマミ、ハンデを背負っているとはいえ彼女たち二人と同等の力を持つさやかや、
それでもなお最強の実力を誇るまどかの攻撃が通じない訳はない。

さやか「やってやるぜっ!
あたしはあんたを助ける為に、
どれだけ記憶を無くしてもあんたが『悪魔』である事をずっと忘れなかったんだからッ!!!」

杏子「さやか……」

さやか「引っ叩いてでもこっちに引き戻してやるよっ! ほむら!」


バッ!


さやかが叫びつつ、ほむらへと飛びかかった!

杏子「あんたたちは援護を頼むッ!」

そんなさやかに、杏子も続く。

まどかとマミの返答を待たずに。

キュゥべえ「君たち……来てくれたのか……」

わずかな間に半数以下に減らされたキュゥべえたちがまどかとマミの元へとやって来たが、
しかし彼女たちには彼らに対応する余裕はなかった。

マミ「ごめんねキュゥべえ、話は後でっ!」

まどか「下がってて!」

二人はキュゥべえに一瞥をすると、すぐに杏子とさやかを援護する為に動く。

キュゥべえ(ああ、良いんだそれで。
こんな状況で僕なんかに構っちゃいけない)

ほむら「うあぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーッ!!! ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!!」


スッ……


まどか・さやか・杏子・マミ・『!!!』

ほむらが絶叫すると、暗闇の中から複数の影が現れた。

イバリ、ネクラ、ウソツキ、レイケツ、ワガママ、ワルクチ、ノロマ、
ヤキモチ、ナマケ、ミエ、オクビョウ、マヌケ、ヒガミ、ガンコ……

それぞれが黒を基調とした衣装を身にまとい、共通するのは蒼白い肌に大きな瞳。

彼女たちは、着せ替え少女人形。

悪魔・暁美ほむらの使い魔だ。

さやか「ちぃぃっ!」

彼女らが邪魔で、さやかたちはほむらの元へとたどり着けない。

杏子「上等だ! まとめて相手してやるよッ!!!」

杏子たちと、悪魔の使い魔たちとの戦闘が始まった。

─────────────────────

元々この異空間は、ほむらの奴隷であるインキュベーターの個体を隔離している場所だった。

彼らは、必要になれば必要なだけここから外の世界に出されていたのだ。

絶対的な暗闇と孤独という環境と与え、『お前は私の都合のよい時にだけ使われる道具にすぎない』と思い知らせる為。

つまり、嫌がらせの為だ。

もっとも、感情の無いらしきインキュベーターにそんな事をしても特に意味は無かったのだが……

それをわかっていても行うほど、ほむらはインキュベーターという存在を憎んでいたのである。

思いつく限りの暴挙、虐待を楽しんでやるほどに。

その立場・環境を正しく理解していたインキュベーターは、ほむらに従いながら時を待った。

かつて、半分に欠けた月が見える丘の上で彼女にボロ雑巾のようにされた時、
ほむらの中に彼女には過ぎた力である『闇』が存在する事に気付いてから。

待った。ただただ待った。『闇』の力は、近いうちにほむらでは必ず扱いきれなくなると踏んでいたから。

そして予想通り、ほむらは気づかないうちに『闇』に侵食され始め、時間とともに彼女の支配力は大きく減少。

それによって自由となった地球外のインキュベーターは行動を開始し、まずは一つの個体を使って杏子と接触。

だがその後、宇宙が静止するという事態に襲われた。

杏子と接触した個体は地球上に居た為、
あらかじめこの星に居た個体たちと同じようにほむらの力で静止は免れたのだが……

この事態が『闇』の仕業だという確証は無く、
そうだとしても、宇宙が滅びずにこんな状態に留まっている理由もわからなかったインキュベーターだが、
それでもこの状況でこのような事が起こったのは、『闇』が氾濫したからだと断定した。

大した行動も出来ずにその時を迎えてしまった、地球上に残されたインキュベーターは考えた。

──どういう訳か、まだ僕たちに猶予はあるらしい──

──けれど動いている存在が居なくなった以上、もう仲間は増やせない。
ここはすぐに杏子と合流するべきだろう──

──彼女も無事とは限らないからそれを願うしかないし、
欲をいえば、杏子が他の動ける仲間を連れていてくれればなお良いが……──

──異空間に居る個体は、こうなったらなんらかの奇跡が起こって、
現世と異空間を繋ぐ『道』が現れる事に期待するしかない──

──もし都合よくそんな奇跡が起こったら、異空間より脱出出来た個体も、
無事であると信じる杏子の元へ向かって全員で暁美ほむらに戦いを挑もう──

─────────────────────

キュゥべえ(元々僕たち自身もありえないと思っていた事だから、当然そんな『道』は最初は現れなかったが……)

追い詰められた彼らは、あくまで『奇跡』に期待せざるを得なかったにすぎないのだから。

しかしその時、インキュベーターが予想もしていなかった事が起こった。

ほむらがこの異空間にやって来たのだ。

その理由はインキュベーターにはわからなかったが、
彼女とともにこの空間に隔離されてしまった彼らは最後の作戦を立てた。

なるべく時間稼ぎをして、杏子か、他に居れば誰でも良いので救援が来るのを待つ。

キュゥべえ(……最後の作戦というにはあまりにも情けないものだし、
まあ、これもありえないと考えていたんだけどね……)

インキュベーター自身はもちろん、
いくら実力者でも普通の魔法少女でしかない杏子やマミに異空間へ続く道を作る能力は無いので、
彼女たちが無事だったとしてもこの場にたどり着けるとは思えなかった。

それでも彼らには、『円環の理』を知る二人や、
円環の欠片を宿すさやか(と、さやかと同じ状態だと彼らが予測していた百江なぎさ)が動いているならば、
あるいは──という期待はあった。

実際、さやかと、不完全ながら目覚めたまどか。

インキュベーターには知る由もないが、この二人の力で異空間への道は開けたのだ。

キュゥべえ(もし杏子と合流が叶わないようなら、
一か八か、この場に居る全個体の全力を持って暁美ほむらを倒す気だった)

だが、自分たちとほむらの実力差を見ると、そんな事は不可能だと彼らは悟っていた。

ハッキリ言って作戦とも呼べない稚拙な理想でしかなかったが、インキュベーターにはこれが精一杯だったのだ。

今のほむらの力の及ばない地球外の個体は静止している為、
この空間に来る手立てが無いにしてもそれらを援軍として動かす事すらも不可能なのだから。

それでも、たとえ絶望しか見えなくても、彼らにはなにもしない・諦めるという選択肢は無かった。

すべては宇宙の存続の為。

……けれど、インキュベーターにとっての奇跡は起こった。

来た。来てくれたのだ。

キュゥべえ(佐倉杏子、巴マミ、美樹さやか……
……鹿目まどか)


ドサッ!


彼らの近くに、また一体の使い魔が倒れ伏した。

キュゥべえ「……凄い」

魔法少女と使い魔の戦闘が始まってまだ間も無いが、あっという間に使い魔たちは数を減らされていた。

最初は十四体いた人形どもは、すでに残り六体。

この使い魔たちは、一体一体が魔法少女一人分に近い力を持つ紛れもない強敵なのだが……

歴代の魔法少女の中でもトップレベルの実力を持つだろうマミ、そんな彼女に比肩しうる実力者の杏子、
全力こそ振るえないが、内に秘めた円環の欠片が覚醒したさやか、
本領発揮には程遠いにしても、『円環の理』の本体でありこの中でも圧倒的な能力を誇るまどか。

そんな四人の力に合わせて彼女たちの士気の高さもあり、
強者である使い魔たちもこのチームの前にはずっと劣勢だった。

だが、

まどか「はぁ、はぁ……!」

マミ「はぁ、はぁ……ふぅ……っ!」

一体一でも決して油断は出来ない相手の上に、さすがに数が多い。

初めから全力で飛ばしていた四人に、さすがに疲れが見える。

杏子「ぐっ……」

さやか「だ、大丈夫? 杏子……」

それに、もちろん無傷という訳でもない。

その中には、魔法少女でなければ致命傷になっていただろうものもある。

これで彼女たちが死んだりはしないが、やはり怪我の規模が大きければ大きいほど、
それを治したり痛みを誤魔化す為に魔力を沢山消費してしまう。


スタッ!


いったん間を取ろうと、杏子らは使い魔たちとは距離を取って集まった。


バッ!


だが、使い魔たちはすぐに彼女たちを追う!

杏子「チッ!」

杏子たちは即座に腰を落とすと、その場で迎え撃つ態勢を取った。


スッ……


キュゥべえ「……まずいね」

暗闇から新たに一体のインキュベーターが現れた。

昨夜、杏子に接触した個体だ。

杏子と合流しようと動いていたこの個体は、
魔法少女である彼女の気配を追いかけていくうちに異空間へ続く道を見付け──

それを通ってなんとかここまでたどり着いたのだった。

──インキュベーターは、いくら疲労しているといってもこの戦いに杏子たちが負けるとは思っていない。

しかし敵は使い魔だけではないのだ。

まだ、ほむらが。『闇』が控えている。

ほむら「うぐぅぅぅぅぅぅぅぅ……!!!」

彼女は地面の上でのたうちまわっている。

ほむらの体はすでに下半身が真っ黒に侵食されていて、
これまで纏っていたものとは違う黒い霧のようななにかが全身から出てきていた。

おそらく、彼女の体がすべて真っ黒に染まった時がタイムリミット。

キュゥべえ(この戦い、無駄に時間をかけられないのはもちろんだが……
みんなには余力も残しておいて貰わないと)


ガッ、ドガッ!!!!!


杏子「こいつッ!」

……先ほどまではあまりにレベルの高い乱戦だったため、インキュベーターでは援護一つ出来なかった。

下手に割り込むと、杏子たちの足を引っ張るだけになる可能性の方が高かったからだ。

だが、今は違う。

使い魔の数が減り、疲労によって杏子たちの動きが鈍ったからこそ、彼らに出来ることが生まれた。

キュゥべえ(まったく……
こんな僕たちが暁美ほむらと戦おうだなんて、やはり無謀だったね)


ゴウッ!!!


掌から黒い波動を放つオクビョウ。


杏子「!」

それが向かう先には杏子。

避けられる間合いとタイミングではない。彼女は、得物の槍で斬り裂こうと身構え……


バウンッ!!!


杏子「!!?」

唐突に。

横から彼女とオクビョウとの間に飛び込んできたインキュベーターの個体が複数、黒い波動に呑まれて弾けた。

キュゥべえ「杏子! 僕ごとこいつを倒すんだ!」

オクビョウ「……!」

さらに別の個体が叫びつつ、オクビョウの顔に飛び付く。

杏子「なんだと!?」

キュゥべえ「早くっ!」


ジュッ!


言葉を言い終えるや否や、オクビョウの顔に取り付いていたキュゥべえが闇色に染まり、溶けた。

杏子「……くらえッ!」

それとほぼ同時に突きを放った杏子だったが、わずかに遅かった。

その攻撃は、オクビョウの肩をかすめる程度で終わる。


バッ!


オクビョウは慌てて間合いを取った。

杏子「チッ!
……!?」

杏子が周りを見ると、まどかたちも似たような状況だった。

キュゥべえ「君たちの盾になったり使い魔の足止めをするから、
僕たちを気にせずに攻撃するんだ! まとめて倒してくれても良いっ!」

杏子・まどか・マミ・さやか『!?』

キュゥべえの、どうやらこれは四人全員に向けての言葉。

杏子『てめえ、なに考えてんだっ!?』

杏子は、オクビョウ・今しがた横から割り込んできたミエの二体と対峙しながら、キュゥべえにテレパシーを返す。

キュゥべえ「僕は、宇宙を存続させる為に自分が出来る事をやっているだけだよ」

杏子『キュゥべえ……』

ミエとオクビョウの体に、十を超えるインキュベーターの個体がまとわりついた。


キュゥべえ「さあ杏子っ!」

杏子『!』

キュゥべえ「知っての通り、僕たちはいくらこの体を潰されても問題は無い!
早くしてくれ! 長くは持たせられないっ!」

あれ? 変な改行があった。

>>267はノーカウントでやり直しです~。

杏子『てめえ、なに考えてんだっ!?』

杏子は、オクビョウ・今しがた横から割り込んできたミエの二体と対峙しながら、キュゥべえにテレパシーを返す。

キュゥべえ「僕は、宇宙を存続させる為に自分が出来る事をやっているだけだよ」

杏子『キュゥべえ……』

ミエとオクビョウの体に、十を超えるインキュベーターの個体がまとわりついた。

キュゥべえ「さあ杏子っ!」

杏子『!』

キュゥべえ「知っての通り、僕たちはいくらこの体を潰されても問題は無い!
早くしてくれ! 長くは持たせられないっ!」

杏子「──ああ! あたしは容赦しねーぞッ!!!」

キュゥべえ「うん!」


ザッ! ズンッ!!!


杏子の強烈な斬り払いと突きがミエとオクビョウを貫き、

杏子「オオオオッ!!!!!」

その状態のまま槍の先から広がった赤い光が、インキュベーターごと二体の使い魔を蒸発させた。

キュゥべえ「心配しなくても良い。僕たちはもう、君たちの前には──地球には現れないよ。
暁美ほむらの件で、人類の感情を利用する危険さを身を持って味わったからね」

全員の頭に響く、キュゥべえの言葉。

マミ「キュゥべえ……!」


バッ!


ウソツキと交戦しつつつぶやくマミの傍から、最後に残ったインキュベーターが飛び出した。

キュゥべえ「かつてない宇宙の危機に、僕たちという存在がこの程度の力にしかなれないのは非常に情けないが……
ただの生命体にすぎない僕たちでは、神や、それに伍する力にはとても太刀打ち出来ないという事だね」


ガッ! ドッ!


インキュベーターはウソツキの足に突撃をすると、その場で飛び上がって彼女の顎にもタックルをした。

キュゥべえ「なんとも慌ただしい再会になってしまったが、さあ、マミっ!」

そのまま彼は、別の個体がオクビョウにやったのと同じようにウソツキの顔にへばり付く。

マミ「──私は、あなたのやった事は認めていない。すべてが許せない。
きっとこれからも、ずっと」


ババババッ!


マミの周りに、複数のマスケット銃が生まれた。

マミ「でも……ありがとう。
あの時私を助けてくれて」

彼女はそのせいで深い後悔と苦しみを味わったが、けれどそのおかげで……

マミ(鹿目さんたちと出会えたのだから)


ドドドドドドドドッ!!!!!


ウソツキ「…………」


ドサッ。


マミの攻撃によって、全身が穴だらけになったウソツキと最後のインキュベーターが倒れ伏した。

マミ「…………」

杏子「ひとまず片付いたな」

気が付けば、他の三人がマミの側にやって来ていた。

どうやら、使い魔を全滅させる事が出来たようだ。

まどかのみインキュベーターごと攻撃するというのは性格的に難しかったようだが、
その辺りはさやかが上手くフォローしていた。

さやか「……あれこれ考えるのは後だね」

と、さやかが未だに地面に倒れたまま苦しみ続けるほむらの方を向き、歩き出す。

まどか「……うん」

マミ「そうね」

それに続くまどか、マミ、杏子。


ゴウッ!!!


さやか・まどか・マミ・杏子『っ!?』

だが数歩進んだ時、ほむらを起点に生まれた烈風に四人は足を止めた。

この風は瘴気であり、彼女たちに大きな不快感を与える。

ほむら「…………」

そんな中、ゆらりとほむらが立ち上がった。

まどか「……!」

反射的に四人は構えを取る。

ほむらは『変わって』いた。

あちこちが折れ、羽が抜け落ちて骨だけになった翼も合わせて、
首から下がすべて完全な暗黒に染まり、瞳も白目が無くなって真っ黒。

全身から放たれる、魔法少女のものとも魔女のものとも……『悪魔』のものとも違う禍々しいオーラ。

まどか「ほむらちゃん……!」

ほむらは、その存在の九割以上を『闇』に呑まれていた。

この後に及んで、彼女がまだ喰らい尽くされずに抵抗出来ているのは……

マミ「そこまでしてこの世界を守りたいのね……」

誰の為でもない、自分が離れたくないから。失いたくないから。

杏子「──ああ、わかってる。
任せなほむらっ!」

杏子たちが動く間も無く。

さやか「!?」

気が付けば、ほむらは先頭のさやかの目の前に居た。


ドガッ!


さやか「ぐあっ!」

振り払われた闇色の腕で、さやかが吹き飛ばされた!

まどか「さやかちゃんっ!」

最初に反応したのはまどかだった。


ド ン ッ ! ! !


ほむら「!?」

まどかの放った光の矢に貫かれ、ほむらが膝をつく。

杏子「くっ!」

続けて、杏子の一撃。


ザクッ!


杏子「……!」

手応えはあったが、唐突に背筋を襲った強烈な寒気に、彼女はすぐに後ろに大きく跳んだ。


ゴアッ!


それと同時に、昏き力がほむらを中心として円状に広がった。

回避行動が速かったので避けられた杏子だが、あれに呑まれていたらどうなっていたか……

想像するだけで、杏子の額に冷たい汗が流れる。

マミ「このっ!!!」

まどか「やぁーーーーーーーッ!!!」

杏子と同じく距離を取っていたマミとまどかが、遠距離から絶え間無く攻撃を仕掛けている。

さやか「危ねっ……!」

杏子「さやかっ、無事だったか!」

さやか「うん。剣でギリギリ、ガード出来たから……」


ドウンッ! ドッ!!! ドガァァァァァ!!!!!


ほむら「……て……」

杏子「──?」

矢と大砲の激しい攻撃を受けつつも、ほむらが零す小さなつぶやきが杏子たちの耳に届く。

ほむら「どうして……」

さやか「ほむら……?」

ほむらの姿は、爆風で見えない。

まどか「──!!」

マミ「っ!!」

さやか「!!!」

ほむら「どうしてェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェ!!!!!」

杏子「やばいっ!!!」


ババババババババババババババババ!!!!!!!!


射程範囲はどれほどのものだったのだろうか?

黒き雷が異空間に暴れ狂い、杏子たちを襲った。

今回はここまでです~。

それではありがとうございました。

sageよう

レスありがとうなのです。

それでは再開致します~。

杏子「か……はっ」


ドサッ。


声も無く彼女たちは倒れる。

ただ一人、抜けた実力を持つまどかを除いて。

まどか「うぅっ……」

ほむら「どうしてッ、どうしてッッッ、どうしてよォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!!!!!!」

まどか「!」

フラつくまどかへと突撃してきたほむらが、両手を振るう。

まどか「くっ!」

彼女は、ほむらの連続攻撃を手にする弓でなんとか受け流し続ける。

ほむら「どうしてっ、なんで! なんでこんな事になったの!?
私の中で暴れるのっ、苦しいの! 昏いものが! 『闇』が!
嬉しかったのに、幸せだったのにっ! どうしてよォォォォォッ!!!」


ガッ、ガッ!!


まどか「ほむらちゃん……!」

ほむらは、黒色だけの瞳から涙を流していた。

やはり、真っ黒な涙を。

さやか「やり方を間違っていたからだよ!」


ガギィンッ!


飛びかかってきたさやかの一撃を、ほむらは手首で受け止めた。

ほむら「や、り……方?」

さやか「そうさっ!
あんた、まどかから奪ったよね!? まどかから色んなものを!」

与えられるでも託されるでもなく。

さやか「奪 っ た よ ね ッ ! ! ?」


ギィンッ、ガィンッ!


今度は、さやかがほむらを攻めたてる。

さやか「その先にあったのがどんなに幸せな世界でも、そんな事をして得たものなんか長続きするもんか!
奪った奴は、いつか奪われるんだッ!! 失うんだッッ!!!」

ほむら「……っ」

攻撃を続けながらも悲しげに顔を歪めるさやかに、ほむらを唇を噛みしめる。

さやか「ホントはさ、あんただってわかってたんだろ? いつか必ずこうなってたんだって……」

これはほむら自身が数日前にさやかに言った事でもあるが、
やはり永遠に続く幸せ──いや、永遠に続くものなど存在しないのだ。

それが、道から外れた行動の果てに生まれたものならば尚更なのだろう。

ほむら「う……るさい」

さやか「バカだよあんた。大バカだよ。
あんな事しなければ、あんな事さえしなければ……!」

ほむら「うるさいッッッ!!!!!」


ドッ!!!


さやか「ぐあっ!」

喉を痛めるような声で絶叫するほむらの掌底が、さやかを吹き飛ばした。

マミ「暁美さんっ!」

ほむら「!」

さやかと入れ替わるように、マミがマスケット銃を両手にほむらの前へと立ちふさがった。

ほむら「巴……マミッ!」


ビュッ、ブンッ!


マミを認識したと同時に彼女に襲いかかるほむらだが、マミには攻撃が一切当たらない。

マミ「こうやってやり合うのは、あの……
あなたのソウルジェムの中で戦った時以来ね」

マミは無表情だった。

無表情のまま、ほむらの攻撃を避け続ける。

マミ「そんな大振りじゃあ何度やっても当たらないわ。
それに、暁美さんが魔法少女でなくなってからは、
あなたの強さのほとんどを占めていた時間停止能力と銃が無いんだもの。
さっきみたいな雷でも使われない限りそうそうやられはしないわよ」


ブンッ!


やはり空を切る、黒い左腕の大きな振り下ろしの後、


バッ!


ほむらは握りこぶしを作った右腕を差し出した。

その先から──

ほむら「うぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


ドンッ!!!


闇色の弾丸が放たれた!

マミ「!?」

不意をつかれたマミだが、それをなんとか回避する。

マミ「……惜しかったわね」

ほむら「巴マミ、巴マミ、巴マミぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!」

マミ「そうよ! もっと!! もっとぶつかって来なさいッ!!!
全力で!!!!!」

ほむらの叫びに、マミも絶叫を持って返した。

今度は腕からの銃弾も交えたほむらの猛攻を、マミは避け、あるいはマスケット銃で受け、あるいは弾丸で相殺する。

マミ「……め……ね」

そんな中、マミがぽつりとつぶやいた。

ほむら「!?」

マミ「私なら……
『巴マミ』なら、きっとあなたの孤独を──苦しみをほんの少しだけでもわかってあげられたはずなのに……
そうすれば、あなたの苦しみも少しは減らせていたはずなのに……」

それは、ほむらがループを繰り返していた時代と、まどかが再編した世界での話。

マミ「ごめんね……」

マミの瞳から涙がひと粒こぼれた。

ほむら「……!」

マミ「いつまで経っても、情けない先輩で……」

ほむら「と、もえ、さ……
……う……」

ほむらの頭に浮かぶのは、マミと……いや、マミたちと楽しく過ごした時。

マミともさやかとも杏子とも、すれ違い、憎み合って、
殺し合いすらした時間軸の方が多かった分その思い出はとても甘美だった。


バッ。


ほむら「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッッ!!!!!」


ドンッ!!!!!


ほむらの放った弾丸が、動きの止まったマミの腹を貫いて大穴を開ける。

その衝撃でマミは吹き飛ばされた。

ほむら「あぁぁっ! うあああッッ!!!」

杏子「マミは殺らせねぇッ!」

ほむら「!」


ギィン!


上空から突撃してきた杏子の突き下ろしを、ほむらは右腕で弾いた。


スタッ。


弾かれる流れに逆らわず、あえて後ろに飛ばされるままに任せた杏子が、
ほむらから三メートルほど離れた場所に着地して言う。

杏子「あたしとマミはな、生きてくって決めたんだ。
どんなに苦しくても、絶望的な状況になっても、力尽きるまで精一杯…… !」

ほむら「杏子ぉぉぉ……ッ!」

杏子「あんたが作ってくれたこの世界でな!」

ほむら「!」

それが生ある者の真摯なる態度。

魔法少女としてもそうだ。

なぜならその態度こそが、やがて必ず訪れる最期に現れ、
魔法少女である自分たちを救ってくれる『円環の理』への思いやりであり、優しさになるのだから。

そして、『愛』にも。

彼女の。彼女たちの。

ほむらのものとは違う形の。

ほむら「…………」

杏子「だからこんなところでマミをおめおめと死なせねーし、あたしだって死んでたまるかっ!
いつかその時が来るにしても、それは今じゃねえッ!
宇宙が滅びる時もな!!」

ほむら「杏子……っ。
杏子ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉォォォォォッッ!!!」


ドウンッ!

──ガギンッッ!!!


ほむら「……!」

闇の弾丸は、杏子に達する前に弾けて消えた。

杏子は、いつの間にか自分の前面に格子状の防御結界を張っていたのだ。

杏子「ムリだよ。あんたじゃムリだ。
前に進む事を放棄して勝手に自己完結したあんたには、未来を向くあたしの作ったこの結界は壊せねぇ」


ギリ……ッ!


憐れみの混じった視線を向ける杏子に、ほむらは大きく歯ぎしりをする。

そんな彼女から視線を外さず、杏子はほむらへと歩み寄る。

ほむら「寄るな……」

近寄ってくる杏子を睨みつけるほむらの瞳は、白目が残っていたら激しく血走っていただろう。

杏子「……でもな、あたしは……」

ほむら「寄るなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!!」


ドガッ!


杏子「っ!」

ほむらの目の前まで来た杏子は、彼女に殴り飛ばされた。

ほむら「……!?」

頭に血がのぼり、冷静さを失っていたほむらは気付いていなかった。

歩み寄ってきた杏子は、防御結界を解除して無防備になっていた事に。

ほむら「…………」

十メートルほど先に倒れる杏子の元へ向かって、今度はほむらが歩──

まどか「ほむらちゃん」

──き始めた時、後ろからまどかが彼女に声をかけた。

ほむら「!!!」

ほむらが慌てて振り向くと、まどかはすぐ目の前に居た。

まどか「もう良いんだよ。もう……」

ほむら「まどか……」

しかし、まどかの言葉は届かない。

ほむら「まどかァァァッ!!!」


ゴウッ!


まどか「……っ!」

ほむらは激しい瘴気を放ってまどかを竦ませる。


バッ!


その隙をつき、ほむらはまどかから間合いを取って叫ぶ。

ほむら「どうしてっ、どうしてその力をまた手にして、記憶を取り戻してそんな風に笑っていられるの!?
だってあなたは嫌がってたじゃない! 寂しがってたじゃないっ!! 概念で在る事を!!! あの……
花畑でッ!!!!!」

まどか「……うん、そうだね。
でも違うんだよ。
そして、その事はほむらちゃんも知っててくれているよね」

ほむら「!!!」

なぜなら彼女もまた、杏子・マミと同じように『円環の理』に触れた経験があるからだ。

まどか「でも、きっとちゃんと言葉にしないと伝わらないだろうから、改めて……こうして言うね」

ほむら「うっ……」

まどかを裂く時に悟り、しかしあの段階にまで至った以上、
それを認めたくなかったほむらがずっと目を背けてきたまどか自身の真の想いを。

今。

まどか「あれはわたしの本音。
けどね、『それでもさやかちゃんたちが居てくれるから寂しさなんかなんでもないよ』、
『だからこれからも続けていくの! 続けていきたいなっ!』っていう気持ちだってあったの。
今だって」

ほむら「…………」

まどか「だって、あの時のわたしって今以上に不完全なわたしだったでしょ?
それでもわたしはわたしだったから、言った事自体は嘘じゃないけど……
一部分だけを見て、それがわたしの『すべて』だと決めつけないで欲しいな」

ほむら「……!」

それは、まどかにしてはめずらしくはっきりとした言葉だった。

だが、この言葉に責めの感情はまったく込められてはいない。

まどかは、時にははっきりとものを言う事が真の優しさになると概念として生き続ける中で学び、
それを実践出来る強さも身につけていたのだ。

まどか「わたしはね、概念になった後悔は……全然無いって言ったら嘘かな。
まさかキュゥべえと契約して、あんな風になるとは思わなかったから」

苦笑するまどか。

まどか「けど、魔法少女のみんなを導くうち、そんな後悔や寂しさは減っていったの」

みんなから笑顔や感謝を向けられて、与えられ続けて。

やがて、一番の親友であるさやかも側に来てくれた。

まどか「『円環の理』は魔法少女を救う存在。
でも魔法少女は、『円環の理』を救う存在でもあるんだ」

だから後悔や寂しさに負けずにずっとやってこられた。

頑張ってきた、ですらない。色々と思うところはあれど楽しくやってこられたのだ。

まどか「わたしはね、そんな今のわたしが大好きなんだ。
昔の、無力で、自信もなにも無くてなにも出来なかった自分なんかよりよっぽど……
やっと自分を好きになれたの。『みんな』のおかげで」

ほむら「…………」

きっとこの先も、まどかの寂しさは完全には無くならないだろう。

でも、そんなものはこれからもどんどん減っていくはずだ。

永遠に、まどかは一人ではないのだから。

まどか「そして、これはわたしが選んだ道なんだ。
ずっと流されてきたわたしが、初めて自分の意思で選んだ大切な道。
お願いほむらちゃん、否定しないで」

ほむら「あ……」

何者にも犯せない強さを持つまどかの言葉だが、しかしほむらに向ける瞳は暖かく、信頼に満ちていた。

ほむら「ど、どうしてそんな目で私を見るの……?
自分にとって都合の良いところだけを見て、思い込んで、まどかの大切なものを奪った私を……」

まどか「それも、わたしを思ってくれたからだよね?」

それはまどかの真意とはかけ離れているものだったし、
たとえインキュベーターが『円環の理』を観測しようがどうしようが彼らの能力では所詮そこ止まりで、
神である『円環の理』を実際にどうこうはいくら足掻こうと未来永劫出来はしなかったりと、
ほむらの取った行動は結局まどかに対してなんの助けにもならなかったのだが……

話の焦点はそこではない。

まどか「そんな風に、わたしを思ってくれた人が相手だからだよ」

あの花畑でぽつりと弱音をこぼしたまどかを、ほむらは助けようとした。

問題なのは、その時のまどかからは概念としての『誇り』を持つ部分がすっぽり抜け落ちていた事だ。

──たとえば、ここに誰よりも優しい人が居るとしよう。

しかしどんなに優しい人でも多少は怒れる部分があるだろうし、
そこだけを抜き出したらそれは怒りの権化のようになってしまうに違いない。

だが、その怒りの権化も優しい人と同じ存在なのである。

なぜならそれは、元々は優しい人の中にあった、優しい人の一部なのだから……

あの時のほむらは、その事に気付きもせずに自分の中で決めつけてしまったから、このようなすれ違いが起こったのだ。

まどか「だから、ね。むしろその気持ち自体はすっごく嬉しいんだ。
へへっ、ありがとうね。ほむらちゃん」

ほむら「な……なにがありがとうなの!?
そんなのっ! もう、なにもっ! なにもかもが手遅れなのに!! そんなっ!!!」

まどか「ほむらちゃん……」

ほむら「私は言ったわよね!? いつか、あなたと敵対する時が来るかもしれないって!」

それが今。

ほむら「私は迷わないわ……! そして、今の状況を後悔なんてしない!
してたまるものですかっ!」

頭を抱え、髪を振り乱しながらほむらは叫ぶ。

まどか「うん、する必要なんてないよ」

ほむら「……!?」

まどかの優しい声に、ほむらは先ほどまでとは打って変わり、唖然としたように黙って彼女を見つめた。

ほむら「ま……どか?」

まどか「まあ、裂かれた瞬間は本当に痛かったから……
私の想いを否定するのもだけど、あれだってもうやめて欲しいけどね」

『えへへっ』と、まどかは笑う。いつものように。

まどか「……うん。さやかちゃんが言ったようにやり方はちょっとアレだったし、わたしとは考え方は違うけど……」

ほむら「…………」

まどか「ほむらちゃんの想い自体は間違ってなかったと思うよ。
少なくとも、わたしは否定しない。
むしろ肯定する」

──だって、わたしを助けようとしてくれた気持ちがあった事は間違いないんだもん──

ほむら「あ……」

凛とほむらの瞳を見つめ、はっきりとそう言うまどかの姿にほむらは見惚れていた。

それは、まさに女神と呼ぶに相応しい神々しさだったからだ。

さやか「おいおい。
肯定するとか、それはまどか、あんただけじゃないでしょ」

ほむら「!」

マミ「私だってそうよ」

杏子「あたしだってそうさ」

さやか、マミ、杏子が、ほほえみながら歩いてきた。

魔力で治したのだろう。彼女たちの体に、先ほどほむらにつけられた傷はまったく無い。

杏子「ったく、人が喋ってる途中でやってくれんじゃん。
……さっきの続きだけどな」

ほむら「…………」

杏子「──でもな、あたしはそんなあんたが嫌いじゃなかったんだよ」

だから杏子は、かつてほむらが繰り返したどのループでも、
彼女から接触してきた場合には必ず一度は話に耳を傾けた。

杏子「冷静に考えたらありえねーだろ?
見ず知らずのヤツがいきなり現れて、今度ワルプルギスみたいな伝説の魔女が現れるから、そいつ倒すのに協力してくれ……
とか、まともに対応する訳ねーぜ」

その通りだろう。

面識の無い相手がそんな事を言ってきても、信用するどころかただ怪しんで終わりなのが普通である。

まして百戦錬磨の杏子なのだから、尚更そんな相手は警戒して相手にしないはず……だった。

杏子「それでも──最初っから敵対した時間軸もありはしたが──とりあえず協力しようとしたのはさ……」

そこでマミが生存している場合は、本当にワルプルギスの夜が現れても、
絶対に逃げる事はしないであろう彼女を守ろうという気持ちもあった。

そこでマミが死亡している場合は、彼女が守ろうとし、彼女との思い出が詰まった見滝原を守ろうという気持ちもあった。

当然、ソウルジェムを入手しやすい場所をむざむざと失わない為という打算だってあった。

だが、それらだけではない。

杏子「あんたの中に『視た』からさ」

ほむら「……!」

ほむらの抱える『孤独』が。『苦しみ』が。

だから、自分の言いたい事だけを言い、まともにものの説明すらしないほむらを、
心を許さないまでも最初から突っぱねたりはしなかった。

杏子「まあ、誰だって──
魔法少女なら特になにかしらの事情は抱えてるモンだし、そんなのをいちいち気にしはしないけどさ。
でも、それでも、あたしはあんたが抱える大きな『なにか』に気付いちまって、
そんなあんたをただ見捨てるなんて事は出来なかった」

マミや、事情・人間性を知った後のさやかやまどかに対してと同じ、そんなほむらに好意を抱いてしまったから。

杏子「つっても、あの頃は当然ループだのなんだのってのは知らなかったけどさ」

杏子が笑う。

ほむら「…………」

さやか「──あたしはさ、あんたは変わったと思う。
いや、成長したって言った方が良いのかね?」

と、さやかが穏やかに口を開く。

ほむら「私が……成長?」

なにを言っているのかしら。むしろ逆なんじゃないの? と、ほむらが自虐に口元を歪めた。

さやか「そうだよ。
あんた、これまではあれこれを言い訳にしてさ、
それを……建前? 免罪符だっけ? みたいにして自分だけの時間に逃げ込み続けてた感じだったけど……
やっと本音を話して、通せるようになったじゃん」

ほむら「……!」

そう。よくも悪くもそれが出来るようになった事が、ほむらが『悪魔』となった理由であり原因だ。

さやか「あたしは、これって成長だと思うんだけどなぁ」

マミ「まあ、本音を通すだけってのも困りものだけどね」

さやか「いやまあそうなんですけど、押さえすぎても……ねえ、ホラ」

少し困ったように頭をかくさやかが思い出すのは、自身が『円環の理』に導かれる原因になった時の事。

あの時のさやかは、無理に自分を抑えすぎた為に自身を追い詰める結果となり、
心配してくれた仲間たちの気持ちを無下にして破滅への道を歩んでしまった。

まどかが世界を再編する前は、大切な親友である彼女に理不尽な暴言を吐き、傷つけてしまった事もある。

そうなってしまったのは、魔法少女になったからという前提はあれども、結局は自分の本音に嘘をつきすぎたから。

だからそこに至るまでに溜め込まれた膨大な感情が、取り返しのつかないレベルで爆発をしてしまったのだ。

魔法少女になった事自体は、さやか自身が選び、
そのおかげで愛しい人の笑顔を取り戻せたのだから彼女は納得出来ていた。

キュゥべえの策略があったのも確かだが、それでもだ。

だが、それ以降の言動は……

未だにさやかの中で、永遠に消えないだろう大きな後悔と罪悪感となって残っている。

マミ「結局はバランス……なのよね。
……これは私も偉そうには言えないけれど」

さやか「……はい」

自分の本音は、抑えすぎても駄目。出しすぎてもただ自分勝手になるだけだから駄目だろう。

この辺りのバランスは、生きていく上でとても大切なのだ。

杏子「まあ、さやかはまだともかく、マミとほむらは極端から極端に走るヤツだからなー」

さやか「ああ、確かにそんな感じだわ」

マミ「……返す言葉もございません」

杏子「前から思ってたけど、マミとほむらってどこか似てるぞ」

まどか「ふふっ、わたしもそう思うな」

杏子の横やりとまどかのほほえみに、辺りの空気がわずかに和らぐ。

ほむら(どうして……?)

そんな様子を、唖然と立ちすくみながら見つめるほむら。

ほむら(どうしてあなたたちはそんなに……
優しいの?)

マミ「──でも、暁美さんが『自分』を溜め込みすぎたのは、私にも原因があるわね。
……ごめんなさい」

マミは、ほむらのループの中で、彼女の話すら聞かずに険悪になるパターンも多かった。

それだけが原因では決してないが、これを繰り返すうち、
ほむらの心が頑なになっていった面があるのもまた確かだろう。

さやか「……いや、それを言ったらあたしもそうだわ。
仲良くなった時もあるけど、あんたとはマジでケンカしてた場合の方が多かったね。
ごめん」

ほむら「そ、そんな……そんな事は無いっ!」

……ほむらは気付いているだろうか?

ほむら「私だって、私だってあなたたちに嫌な態度を……」

彼女は、『悪魔』となってしまってから初めて他人にこのようなフォローを口にした事を。

まどか「そうだね。本当の最初の頃はともかく、ほむらちゃんの態度はどんどん悪くなっていったよ。
あれじゃあ人に信用して貰うなんて無理だよ。仲良くなんて出来っこない」

ほむら「ま、まどか……」

まどか「だから、マミさんたちがほむらちゃんにあんな反応をする事が多かったのは仕方ないよ。
マミさんたちは悪くない」

ほむら「……うん」

ほむらはガックリとうな垂れた。

まどか「──でもね」

ほむら「えっ?」

まどか「ほむらちゃんが、マミさんたちにあんな態度を取るようになってしまったのも仕方ないって思う。
だって、そうなるだけの悲しみを味わってきたんだもん」

ほむら「!!!」

さやか「うん、そうだね」

マミ「ええ」

杏子「ああ」

ほむら「み、みんな……」

まどか「だからね、ほむらちゃんだって悪くないよ。
──ううん、こんな事になっちゃったけど、誰も悪くないんだ。きっと」

そうだ。あのキュゥべえだって。

ほむらも今ではわかっている。

確かに、キュゥべえ──インキュベーターが動いてなければ、とっくの昔に宇宙は滅びていた。

彼らは常に真実を喋るような存在ではないが、宇宙云々に関してはまったく嘘は無かったのだから。

そのやり方こそ決して許せはしないが、じゃあ、インキュベーターや他の色々な生物の能力・宇宙の仕組みなど、
様々なものを考慮して他の方法があったのか?──などと考えても、少なくともほむらには思い付かなかった。

また、違う視点から見れば、先ほどの使い魔との戦闘中にマミが思ったように……

インキュベーターが存在してああやって活動してきたからこそ彼女たちは、
ほむらは、まどかや他のみんなと出会えたのだ。

その末にこんな事になってしまったが、きっと誰も悪くはないのだろう。

ただ、ただ、なにか歯車が狂ってしまったのだ。

ほむら「あ……」

ほむらが両膝をついた。

まどか「だからもう良いの。もう良いんだよほむらちゃん。
……ね?」

まどかがほむらに近付き、そっと手を差し伸べた。

ほむら「……無理よ。
無理よッ!」

しかし、ほむらはその手を弾く。

ほむら「だって、私は悪魔だから!
自分の事だけを考えて自分に都合の良い世界を作り上げ、その中で自己完結をした存在なの!
そんな私が今さら……」

さやか「……本当にそうなのかね?」

ほむら「……えっ?」

さやか「いや、『自分に都合の良い』ってのは間違いないんだろうけどさ……
本当に『自分の事だけ』考えてたの?」

ほむら「当然よッ!」

さやか「それ、さっき話に出てた花畑の時のあんたの気持ちと違くない?
今のあたしにはそん時の記憶もある訳だけど、あの時のあんたはまどかへの心配も確かにあったと思うんだけどなぁ」

ほむら「……!」

自身の発言の矛盾をつかれ、言葉に詰まるほむら。

さやか「ねえ、まどか」

頭をかきながら、さやかがまどかを見た。

まどか「うん、わたしもそれは違うんじゃないかなって」

ほむら「…………」

さやか(まあ、そんな『矛盾』だって自然な事なんだけどね)

人の心は難しくも複雑。

こうして、矛盾する本心をいくつも持っているのは感情がある生き物ならば別に普通だろう。

さやか「つーかさ、結局あんたの望みってなんだったの?」

ほむら「決まってるじゃないっ! まどかと、まどかとだけ一緒に居る事よ!」

さやか「じゃあなんであたしは『ここ』に居るのさ?
マミさんは? 杏子は?」

ほむら「!!!
…………」

さやかの言葉に、ほむらは大きく目をそらす。

さやか「本当にまどか『だけ』としか居たくないんだったら、
本当にまどか『しか』考えてないんだったら、あたしたちはあんたの作った世界には居ないと思うんだけど」

杏子「少なくとも、まどかの近くに存在してるなんてありえねーよな」

マミ「暁美さんが鹿目さんを独り占めするには、はっきり言って邪魔だものね。私たち」

杏子とマミが笑い合う。

ほむら「わ、私は別にまどかを独り占めしたかった訳じゃ……」

さやか「じゃあどうしたかったの?」

ほむら「私はただ、同じ世界でまどかとだけ一緒に居られればそれだけで……」

さやか「だから、『それだけ』にしてはあたしたちの存在がおかしいんだってば。
……いや、あたしたちだけじゃなくて、この世界自体、か」

ほむらが彼女が言う通りの願いしか持っていなかったのだとしたら、見滝原も、この星も……宇宙すら必要がない。

ただまどかと共に居たいだけなのだとしたら、
二人だけでずっと在る事が出来る空間のみを作るなり残すなりすればよかったのだ。

そう。それこそ、かつて『円環の理』となったまどかとほむらが対話をした空間のような。

いかに人としての命しか持たないまどか相手といえど、
あの時のほむらならば、そんな空間でも生きていけるようにまどかを再編する事も出来ていたはずだ。

なのに、わざわざ人にせよ建物にせよなんにせよ、すべてを再編するのは無意味に手間がかかるだけである。

ほむら「……じゃあ、それがなんだって言うの……?」

さやか「あんた、あたしたちの事『も』思ってくれたでしょ?」

ほむら「!」

だからほむらは、こんな風に再編した。

杏子「まあそうだよな。
わざわざあたしにさやかん家っていう場所まで用意してくれてさ」

マミ「私には、美樹さんや佐倉さんといった仲間を初めから。
特に佐倉さんとは、本来ならあったはずのすれ違いすら無かった事になっていたものね」

杏子「ついでに言えば、なんつったっけ? あのチーズのお嬢ちゃん。
あいつもそうだよな」

さやか「あー、なぎさね!」

百江なぎさ。

かつてはさやかと同じく『円環』の一部だった少女。

マミ「ふふっ。私、この世界でも彼女とはちょっとした縁で少しだけ面識あるのよねぇ」

杏子「おや、そうだったのか」

さやか「なんと!?
羨ましいぜマミさんっ。あたしもまたなぎさと遊びたいな!」

マミ「良いわね。今度みんなでお茶しましょう」

杏子「おっ! じゃああいつの好きなチーズいっぱい用意しなきゃだなっ」

さやか「そりゃあなぎさ喜ぶわ!
『チーズなのです!』とか言って目を輝かせながら、もきゅもきゅ食べるよきっとっ」

杏子「っと……まあともあれ、だ。あいつは──」

──なぎさは、この世界に居る。人として。

さやかほどの力が無い彼女はもはや円環の欠片は持っていないし、そもそも魔法少女でさえない。

なぜか?

さやか「あの子もあたしと同じく、人の命が与えられたのは巻き込まれたからで偶然なんだろうけど……
魔法少女ですらなくなったのに関しては、ほむらがやったんだよね?」

ほむら「!!
なにを根拠に……!」

マミ「最後には救われるとは言っても、あんなに小さい子が魔法少女になって戦って、傷付いて、苦しんで……」

奪う為に円環に触れたあの時、ほむらには様々な時間軸のなぎさの想いも流れ込んできていたのだ。

マミ「そんな運命からあの子を解き放ってあげたくなったんでしょ?」

ほむら「っ!!
だ、だからなにを根拠にそんな事を!?」

杏子「……まあ違うってなら構わないよ。
こればかりはハッキリとはわからないからね」

ほむら「…………」

ただ、なぎさが本当にただの人間として、毎日を幸せな笑顔で過ごしながらこの世界に在るのは紛れもない事実である。

さやか「──なんにせよ、本当の意味であたしたちがどうでもよければ、なんでわざわざこんな風にしたの?
ぶっちゃけ、あたし……たぶんマミさんも杏子も、なぎさだって。
あんたのおかげで今すっごい幸せなんですけど?」

さやかの言葉に、マミと杏子は頷く。

──これは、暁美さんの私たちへの──

──『思いやり』だったんじゃねーの?──

ほむら「…………」

まどか「ほむらちゃんはね、『全部』が大好きだったんだよ」

ほむら「──!」

まどか「この世界が、この世界に住む人たちが」

ほむら「そんな事は無いわ! 私は逆に憎んでいる!
どれだけ頑張っても幸せになれない世界が! 私を理解してくれない人たちが!」

だから彼女は『叛逆』をした。

まどか「だけど、それと同じくらい大好きだった」

だから彼女は世界に滅びを与えず、『再編』をした。

まどか「だって、ほむらちゃんの心が動かされたものはこの世界にあるんだもん。
本当に全部を嫌いになんてなれるはずないんだよ」

まどかや、他の魔法少女たち。

場合によっては、とあるループでひと月の短い間に仲良くなれたクラスメートも居た。

他にも、彼女が通ってきた道や寄った店、綺麗だと思った夕焼け……

今は記憶の中にしか無いものもあるが、その一つ一つが『暁美ほむら』が生きてきた確かな証なのだ。

もちろんそれは綺麗なものだけではない。魔法少女や魔女、魔獣という存在だって同じ。

ほむら「でも……私は……
たとえあなたたちの言う事が正しいとしても、私はまどかが一番大事なのっ!
まどかさえ居れば、他はなにもいらないと思えるくらいっ!」

さやか「別に良いじゃん、それぐらい」

ほむら「……えっ?」

さやか「あたしもね、生前ってーのかな? では、恭介が一番大事だったんだ。
一番の親友のおかげでもう完全に吹っ切れてるから、今あいつは同率で一位になってるけど」

杏子「さやか……」

さやか「やっぱ、誰だって『こいつが一番!』って相手は居るんじゃないかなぁ。
たとえばさ、恭介・まどかたちと見ず知らずの人のどっちを選ぶって言われたら、迷わずに恭介たち選ぶもん」

杏子「そりゃそうだ。
人間ってそういうもんだろ」

マミ「そうよね。
そうじゃない人なんて、他人はみんな悪い意味で同じで、どうでも良いように思っていると感じるわ。
そんな人は逆に信用出来ない」

さやか「これってまどかみたいな子でもそうだもん。
──さて、まどかの前で、あたしとほむらが崖から落ちそうになってます。
どっちも助けたいよね!?」

と、さやかがまどかを見る。

まどか「そりゃあそうだよ」

さやか「でも助けられるのは絶対に一人だけ! 二人ともは無し!
さあ、まどかはどっちを助けるでしょうか!?」

まどか「あ、あはは……」

右手をマイクのように向けられ、まどかは苦笑した。

さやか「……ってゴメン。これは悪ノリしすぎたけどさ、いずれにしてもね……
さやかちゃんとしては、あんたの感情っていうか気持ち? は普通なもんだと思う訳さ」

杏子「それにさ、『誰々が居れば他になにもいらない』って思うのと、
いざ本当にそいつ以外のすべてを失ったり捨てるのは同じじゃないしな」

マミ「そうね。
さっきの美樹さんの話にしたって、
実際にどっちを救うのかというのと、二人とも救いたいという感情はまた別の話だし」

まどか「だからねほむらちゃん。
ほむらちゃんの気持ち自体は、全然おかしくも悪くもないんだよ」

むしろ、当たり前。

感情のある生き物としては極々普通の気持ち。

ほむら「……私は……」

まどか「うん」

ほむら「私は、もう戻れないと思っていたわ。
いつかまどかと敵対する時が必ず来るという覚悟も出来ていた。
……もちろんこうなるようにしたのは私自身だから、その事に後悔は無いけれど……」

でも、と、ほむらは言う。

──まどかを貶めた罪……──

ほむら「私は……赦されるの……?」

──あなたたちと……
まどかと戦わなくて良いの……?──

さやか「だから、赦されるもなにも無いんだって。
あたしたちとっくに赦してんだもん」

マミ「今でもあえてそっちの話になる? する? としたら……」

杏子「裂かれて、言葉通りに痛い目合わされたまどかぐらいか?」

まどか「それだって、やめて欲しいって言っただけでわたしは別に怒ってないよ」

ほむら「まどか……みんな……」


ガクッ……


ほむらが、気が抜けたように大きくうな垂れた。

杏子「へへっ。それにしてもさ、あんた。
世界を再編したすぐ後、あたしとマミの前にこっそりと現れたみたいじゃん?
あとはさやかもか」

ほむら「……そうだったわね」

マミには通学路で。

杏子には、木の上でリンゴを頬張る彼女にちょっかいをかけるというやり方で。

さやか「……ああ、あの時か」

そして、さやかとは言い合いをした。

杏子「あれさ、なんのつもりだったんだい?」

ほむら「……三人に……別れを告げようと思って……」

ほむらは、自身の望んだ世界が手に入った。

しかし彼女は、そのやり方は決して胸を張れるものではなかった事を十分に自覚していた。

それを自覚していたからこそまどかといつか敵対する覚悟すら持てたのだし、
自ら暗い道を進んでしまったほむらは、杏子やマミ、さやかとも決別をしようとあのような行動を取った。

気付かれないように。

……ただ、さやかだけは円環の記憶と力を残していた為にそういう訳にはいかなかったが……

マミ「でも、それって……ねえ」

どこか嬉しそうに、マミが杏子を見る。

杏子「あたしたちに未練があったんだな」

それを受け、杏子も嬉しそうに続けた。

ほむら「……未練、か。
そう……かもしれないわね……」

本当に決別をするなら、別にあんな事をする必要は無い。

もう杏子たちには二度とほむらからコンタクトを取らず、永遠に無視をしておくだけでよかったのだから。

彼女たちへ別れを告げる為にわざわざなにかしらの『形式』を取ろうとした事自体が、
そんな発想に至った事自体が、彼女たちに対するほむらの未練を表していた。

ほむら(それ以前に、なんだかんだで彼女たちを魔法少女として再編したのもそうなのかもしれないわね……)

ほむらにとって、さやか・杏子・マミは、まどかと同じく深い縁を持った相手だから。

また、よくも悪くも『魔法少女』として共に戦った思い出が強くあるから。

だからこそ再編後も、決別したはずのさやかや杏子とつい同じクラスにしてしまったのだろう。

余談だが、ほむらがまどかを見滝原に転校してくるという形にしたのは、
彼女がかつてのまどかの位置に居たかったから。

他意は無い。物理的にまどかの側に居たいと思ったのと合わせ、
彼女は(歪んではいるが)純粋な想いで以前まどかという存在が居たその位置に座りたかったのだ。

それすら、自分のものにしたかった。

あと、まどかを見滝原に数年ぶりに戻ってくるという風にしたのは、
円環の力を奪った時に彼女のあの町への愛に直に触れたから。

まどかは、今も昔もあの町が大好きなのだ。

生まれ、育ち、様々な出会いと別れがあり……とても一言では言い表せない思い出の詰まった大切な故郷が。

転校してくるようにしたまどかに余計な過去を作る必要は特になかったのだが、
彼女の見滝原への想いを深く知ったほむらには、どうしてもそれを完全に無視する事は出来なかったのだ。

前述のさやかたちへの想いもそうだが、やはり人の気持ちとは難しく複雑だ。

なにが一番でも、それだけではない。たとえそれだけを貫く事が出来ても、その状態だって永遠には続きはしない。

だからこそ『感情』なのだろう。

そして、悪魔・暁美ほむらだって他のみんなと同じ、感情のある存在なのだ。

まどか「──さあ、ほむらちゃん。
行かないと」

ほむらの言うところの、『悪魔』となった彼女の向かうべき場所へ。

まどか「ね?」

まどかが、ほむらに再び手を差し出した。

悪魔・暁美ほむら。

その正体は、魔法少女としての自分を無くした代わりに『闇』の力を得、その強大なる『負』によって魔女すらも超えた……
言わば、魔女とは別の魔法少女の成れの果て。

『闇』とは元々『円環の理』の力だった為に、あの概念に導かれ、
円環のものと共に魔女の力すら自在に操れるようになったさやかとは別の形で進化を遂げた魔法少女とも呼べる。

だからこそほむらが『悪魔』であるうちは、『円環の理』は彼女を救済出来るのだ。

根本は魔法少女や魔女と同じ存在なのだから。

ほむら「……うん」

今度は拒否したりせず、ほむらはおずおずとまどかに手を伸ばす。

ほむら(結局こうなるのね)

一瞬、ほむらの胸に虚しさが生まれたが、それはすぐに消えた。

その代わりに生まれたのは……

まどかたちへの感謝。

まだ来なかった『アイ』は、ここに在った。

ほむら(ふふっ、この後に及んで私はなにを思っているのかしら。
本当に自分勝手ね、暁美ほむら)


そっ……


ほむらの指先とまどかの指先が触れた。

マミ(暁美さん……よかった)

杏子(これであとは『闇』を……)

その時。


パリンッ。


なんだろうか。

まるで宝石かなにかが砕け散るような音とともに、ほむらの全身が完全に真っ黒に染まった。

─────────────────────

そう、まどかたちは……

間に合わなかった。

─────────────────────

まどか・マミ『え……?』

さやか・杏子『な──』

まどかたちが思わず声を漏らしたのと、


『ルアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!!』


全身が黒色になったほむらの体を使い、『闇』が咆哮したのはほぼ同時だった。


ガシッ!


まどか「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」

『闇』に手を掴まれたまどかが、苦痛に顔を歪める。

さやか「くっ!」

この状況に真っ先に動いたのはさやかだった。


ガヅッ!!!


彼女の強烈な柄打ちがまどかを掴む『闇』の腕に直撃し、

『!』

その衝撃で『闇』はまどかから手を離した。

マミ「鹿目さんっ!」

まどか「マ、マミさ……」

その場でよろめいて倒れかけたまどかを、マミが慌てて抱き寄せる。

『…………』

体勢を崩す『闇』。

『闇』からは、今はそれほどの力は感じない。

おそらく先ほどまでのほむらと比べても大きく劣るだろう。

覚醒したばかりだからだ。

とはいえ、すぐさま本来の宇宙を滅ぼすほどの力が目覚めるだろうし、
そうなればこの場に居る存在では誰も太刀打ち出来ない。

だからこそこの宇宙を救うならば、今が『闇』を滅ぼす一撃を叩き込む最後のチャンスなのだが……

さやか「──ぐぅっ!」

持てる力のすべてを込めた剣を振りかぶる、さやかの動きが止まった。

さやか(ほむら……っ!)

マミ「ううっ!」

まどかを片手で抱きつつマスケット銃を構えるマミだが、やはり引き金を引けない。


『ルアアァァァァァアアアアアアアアァァァアアアアアアアアアアアアァァァァアアアアアッ!!!!!!』


ザアァァァ……


絶望的なスピードで力を増しつつ、『闇』はみるみるうちに人の形を無くし、周囲の黒と同化していく。

まどか「ほむらちゃんっ!」

もはやまどかの声すら届かない。


ヴァヴァヴァヴァヴァヴァッッッ!!!!!!


『闇』の全身から黒いオーラが溢れ、それはすべてを呑み込もうと拡が──

……りかけたその瞬間。

杏子「ほむらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!!」


ドンッ!!!!!!!!


最後に残っていた人としての形の部分……『闇』の左胸へと、杏子が槍を突き立てていた。

─────────────────────

光一つ射し込まない、空気の流れすらもないただただ孤独な空間に、ほむらは──いや、ほむらの魂は漂っていた。

身動きも、声を上げる事も出来ない。

ほむら(嫌だ……怖い……
だ、誰か助けて……!)

どれだけ心の中で叫ぼうが喚こうが、なにも起こらない。

誰も返事を返してはくれない。

ほむらは、自分という存在がどんどん消えていくのを感じる。

彼女が完全に消滅した時が『闇』が完全に覚醒する時。

そしてほむらにとっては、その手の中にあった『楽園』の真の終焉。

ほむら(嫌だ、嫌だ……!
私はこんな……)

ほむらは、いつかこんな時が来るのはわかっていた。

彼女にとってひとまずの結果こそよかったが、元々あんな歪な世界が長く続くとは思っていなかったからだ。

まどかと殺し合う事すら覚悟した事だって、決して嘘ではない。

だが、こうやって実際にその時を迎えると……

やはり、違う。

当たり前だ。

いくら覚悟が本物だろうと、いざ大切な存在と敵対したり、
大切なものを実際に失う時になにも思わないのでは、それらに対する想いは所詮偽物でしかない。

むしろそれらへの想いが本物だからこそ、本当に覚悟を決めていてもその時が来たらこんな風にもがくのだ。

ほむら(こんなのっ……)

ほむらは苦しかった。

彼女はそれまでも自分が幸福な人生だったとは思ってはいないが、
ループを繰り返し始めた時からずっとずっと苦しかった。

苦しかった。

……でも。

──果たして、自分は不幸なだけだったのだろうか?──

ほむらは思う。

幸せではなかっただろう。

けれど、なんの救いも無いほど不幸な人生だったか?

ほむら(美樹……さん……)

かつて彼女には、さやかと一番の親友同士になれた時間軸があった。

ほむら(杏子……)

杏子が一番の理解者・仲間になってくれた時間軸があった。

ほむら(……マミさん)

マミと、真に一つになれた時間軸があった。

ほむら(まどかぁ……)

まどかは、常に居てくれた。

彼女たちとは何度も悲惨な運命をたどってきたほむらだが、決してそれだけではなかったのだ。

それに、今とは違って時間遡行だって出来た。

残酷な結末を迎えても、またやり直せる。

そのせいで孤独なループを繰り返す事になったのかもしれないが、
だからこそほむらは、『まどかを救う』という目的を生きる道しるべにし続けられた。

彼女に時間遡行の力が無ければ、まどかを救えないという変えられない現実に早々と絶望し、
さっさと魔女になって果てていただろう。

ほむら(……ああ……そうか……)

ほむらは、決してあの頃に戻りたいとは思わない。思えない。

それでも。

ほむら(私……本当は恵まれてたんだな……)

それらは小さな小さな『救い』だったが、彼女は決して不幸なだけではなかったのだ。

まどかの世界改変後もそうだった。

彼女との大切な思い出があり、彼女のリボンまで手にし、周りの人たちと仲良くもやれていた。

あの世界でもほむらは孤独を抱えていたが、決して本当の意味での孤独ではなかった。

ほむら(いっそまどかの記憶が無ければ、こんなに苦しむ事はなかった──
そう思った時もあったけど……)

それは違うのだ。

人には……感情がある生き物には、『自由』がある。

たとえ手足を縛られて目隠しをされても、『思い』という『自由』だけは決して無くならない。

もしもそれすら出来なくても、生きている限り生き続けるという『自由』がある。

それらを自分で捨てる『自由』もまた。

まどかの記憶を持っていた事で生まれた、ほむらを魔女化にまで追い込んでしまった孤独は、
しかし逆にまどかの記憶を持っている事で防げたのだ。

ただ絶望に堕ちるだけではない。

まどか再編後のしばらくの間と同じく、彼女の記憶と想い・リボンを手に、
それらを孤独などには負けない生きる力に『し続ける』事が出来たはずなのだ。

ほむら(でも、実際には私は……)

……ほむらがこの道を選んだのは、彼女自身。

さやか・マミ・杏子はもちろん、優しい笑顔を向けてくれるクラスメートや教師だって居た。

その幸せに、結局彼女は気付かなかった。いや、慣れてしまった。

慣れは無感情を、ひいては不満を生む。

そして……

ほむら(あの時……まどかを裂いたりしなければ、こんな結末にはならなかったんだ)

あの時素直に彼女の手を取っていれば、無限の安息を、幸せを得られていたのだ。

さやかと、沢山の魔法少女たちと……

まどかと。

それはこれまでの苦しみすら超えるほどの大きな大きな報いだっただろうし、
これまで頑張ってきたほむらへの最高のご褒美になっていたに違いない。

そんな未来、今となっては想像するにどれだけ甘美か……

けれど、ほむらは自分からその道を捨てた。

多かれ少なかれ誰しもが持っている『自由』の中、それを自分で選んだのだ。

ほむら(……どうして……私、我慢出来なかったのかな)

──あの時、ほんの一瞬だけでも自分の感情を抑えられていたら……──

──そこに至るまでに『叛逆』を決意していたにしても、一瞬でも躊躇出来ていたら……──

まどかはきっと、裂かれてしまう前にほむらのその昏い感情すらも包み込んで、彼女を導けたに違いない。

叛逆した事だって、こうなってしまうまではほむらにとって十分な救いではあった。

だがそれ以外の救いの道も、彼女には何度も何度も示されていたのだ。

それらに気付かず、顔を背け、差し伸べられた手を払ったのはほむら自身。

ほむら(…………)

もはや泣き喚く力も無い。

ほむら(……消えていく……私が……)

意識すらも薄れていき、ほむらの魂は大きな恐怖に震え続ける。

ほむら(……ま・ど……)

そんな彼女が最後に視たものは……


カッ!!!!!


眩く大きな光と、まどか・マミ・杏子・さやかの笑顔だった。

─────────────────────

杏子「はぁ……はぁ……」

まどか「杏子……ちゃん……」

マミ「佐倉さん……」

さやか「杏子……」

大きく息を切らしながら座り込む杏子に、まどかたちがフラフラと近寄る。

……………………

………………

…………

……

あれから……

杏子の槍が、『闇』の左胸を貫いてから。


カッ!!!!!


槍の先から円状に強烈な光が生まれ、その光に呑まれた『闇』は完全に消滅した。

おそらく、あとほんの一秒でも彼女の攻撃が遅れていたらこうはいかなかっただろう。

……………………

………………

…………

……

杏子「……すまねえな、マミ」

マミ「えっ?」

杏子「もしこうなっちまったら……
あたしがこうするって初めから決めてたんだ……」


杏子((……でもなマミ。
あたしは、な……
もし、もしもだ……))


杏子が思い出すのは、この世界でキュゥべえと初めて会った後の早朝に、
マミと話し合いをした時の自身の決意。

マミ「……ううん、むしろ謝るのは私よ。
だって、私には出来なかったんだもの……
あなたに、あなたにこんな役をやらせてしまって……」

杏子「それで良いんだよ。
この中であいつにトドメを刺せるようなヤツはあたしだけだと思ってたし、
マミに──あんたらにそんな事させたくなかったからね」

『ははっ』と力無く笑い、杏子は俯いて続ける。

杏子「……まどかとさやかも……悪かった」

さやか「やめてよ。
あたしこそ……ゴメンね」

まどか「うん……
ごめん、ごめんね……杏子ちゃん」

杏子「……ははっ、謝ってばかりでバカみたいだな、あたしたち……」

杏子の声が揺れる。

さやか「──で、でもさっ、あれだっ!」

ところどころ裏声になりながら、さやかが必死に明るい声を上げた。

さやか「最悪の事態は防げたよねっ! だって、ほむらだってさ……
ね、まどか?」

まどか「う、うんっ!
凄い奇跡だよっ!」

さやかの視線を受け、まどかも明るく言う。

マミ「ええ……そうね」

『闇』の覚醒を許した以上、宇宙を救えてもほむらは『闇』とともに滅びるしかなかった。

……そう思っていた彼女たちだったのだが……

杏子の一撃にて消滅する『闇』の中、彼女たちは確かに感じ取っていたのだ。

見る影も無いほどに小さくなった、しかし完全には滅びなかった暁美ほむらの魂が、
ゆっくりと別の世界へ引き寄せられていくのを。

それは『闇』が完全に消え去った後だった為、
悪魔ではなくなったほむらには『円環の理』の救済は叶わなかったし、
もう魔法少女にはなれない彼女にあの概念の手は永遠に届かないが……

いずれにしても『円環の理』の知識とは違い、こうなってもほむらはまだ滅びなかった。

杏子「…………」

『円環の理』とて知らない事はある。

なぜなら、神といえども真の意味では万能ではないのだから。

だが、これは嬉しい誤算だった。

……けれど。

杏子「けど、さ。
ほむらは……ほむらの魂は……」

まどか「……うん」

ほむらの魂は、自分が生んだ──
これまでに生み続けてきた、常人にはとても作り出せない巨大な巨大な『負』の感情に蝕まれながら、
無限に続くであろう絶え間無い苦しみの海を漂っている。

これは、暁美ほむらという存在・魂がむき出しの状態での事なので、
肉体に同じだけの苦しみを負うよりもはるかに苦痛だろう。

前述の通り彼女はもはや『悪魔』ではないし、
今のほむらは『負』に穢れ果ててしまった人間の魂になってしまったと言って良い。

魔法少女を救う神に叛逆をした少女は、魔法少女でなくなり、魔女でもなくなり、ついには悪魔ですらなくなった。

杏子「でも、あいつはまだ『居る』から」

滅んではいないから。

マミ「それなら、助けられるのよね……?」

まどか「うん。今すぐにってのは無理だけど……
大丈夫。絶対」

このような結果になる事は知らなかった『円環の理』だが、
あんな状態になった魂が救われる為にどうすれば良いかは正しい知識を持っていた。

それは、ほむらへと感謝を送る事。

想い、与え、送り続ける事。それだけで良い。

それによって『負』に穢れて苦しむほむらの魂は徐々に浄化されていき、いずれ必ず救われる時が来る。

そして、このような行動が出来るのは神ではなく……

人間。

まどかもその想いによって救われ続けてきた。

絶望に終わるはずだった、救済される瞬間の魔法少女たちから、
今を生き、『円環の理』に想いを向ける──いや、与えてくれる魔法少女たちから。

感謝され、大切に想われるからこそ、『円環の理』は『円環の理』で在り続けられたのだ。

決して『祈る』でも『願う』でもない、人の『想い』。

それは、多くのものを破滅に導く事も……

ほむらはもちろん、神を救う事までも出来る、人間の偉大なる『自由』の力。

さやか「……現世で『人として』生きるには、そりゃあ人としての肉体はいるけどさ……
人の心さえ持ってれば、そいつはもう『人間』なんだよね」

たとえ本体がソウルジェムでもそれは変わらない。

人間として生まれ、魔法少女になり、魔女へと変貌し、『円環』に導かれ──

そして、巡り巡って再び現世で人としての命を得たさやかは、身を持ってその事を理解していた。

さやか「あたしは見捨てないよ、ほむらを」

マミ「私もよ」

杏子「たりめーだ」

複雑な想いが絡み合っていたとはいえ、ほむらが与え・残したさやかたちへの『思いやり』は、
再び彼女を助ける可能性を持つ一筋の光となった。

希望はまだ、尽きてはいない。

まどか「……でも、本当は……」

さやか「こうなる前に……」

マミ「助けたかった……わね……」

杏子「ああ……」

まどか「──っく……っ」

さやか「ぐ……ぅ」

マミ「う……うぅ……」

杏子「ち……きしょ……ッ!」

まどか「うううっ、あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁんっ!!!!!」

──彼女たちは、泣いた。

声の限り……泣いた。

─────────────────────

まどか「じゃあ、わたしは行くね」

全身を柔らかな光が包むまどかが、杏子たちにそう言った。

彼女の放つ輝きは、『黒』しかないはずのこの異空間ですら優しく照らしている。

杏子「ああ」

マミ「寂しく……なっちゃうわね……」

杏子「まぁまた必ず会えるさ」

まどか「うん、そうだよ」

マミ「……ええ、そうね」

それぞれの人生を精一杯生き抜き、いつか力尽きる時が来たら、また。

さやか「まどか……」

まどか「さやかちゃん……」

さやかは残る。

人としての肉体を持っている彼女は、これからも魔法少女として──人として生きていくのだ。

自害をして内に秘めた円環の力だけになればまどかと共にも行けるのだが、さやかは当然そんな真似はしない。

まどかも同じく人の肉体は持っているが、それはもう消えつつある。

『闇』が消えて円環を拒絶する力も無くなったので、まどかは『円環の理』として完全に覚醒していた。

同じ『円環の理』そのものとはいえ、本体であるまどかとその一部でしかないさやかでは内包する力の量が違う為、
まどかが女神としての真の『光』を納めるには人の器ではやはり小さすぎ……

人間としての彼女は、さやかと違ってこの世界では維持出来ないのだ。

だが、溢れ出る偉大で暖かな慈愛の『光』は、
自身の肉体すら優しく包みあげて大いなる祝福を与え、
その結果彼女という存在は自然と『円環の理』へと戻っていくのだ。

そう、自然と。

人が人として生き続けるのと同じように、それが今のまどかにとっての当たり前だから。

ありがたくも愛おしい『普通』だから。

さやか「まどか、みんなによろしくね」

まどか「うんっ。
わたし、これからもたくさんの魔法少女を救済するよ!」

さやか「おう! さっすがまどか!」

まどか「だから……よろしくね。
ほむらちゃんを。ほむらちゃんの作った世界を」

杏子「もちろんだ」

まどかの言葉に、杏子たちは大きく頷いた。

まどか「ありがとうっ!
わたし、マミさんと、杏子ちゃんと、さやかちゃんと……
みんなと出会えて本当によかったな」

と、まどかは可愛らしくも麗しい笑顔を浮かべると……


サアァッ……


ゆっくりと還っていった。

まどか自身が選び、作った──『幸せ』と『優しさ』そのものへと。

マミ「私こそ……
鹿目さん、あなたが居て……あなたでよかった」

杏子「ありがとう……」

さやか「……またな、親友」

彼女たちも笑顔だった。

それぞれの瞳に、現実・未来……そして、覚悟を映した重くも美しい笑顔。

杏子(まどか、あたしはあんたを喜ばせる為にも頑張るよ。
これまでのあたしは、神さまってヤツに願ってばかりだった。願いが叶わないと、憎みすらした。
……へっ、何様だよな。神さまはパシリじゃねーのに)

全知全能でもないのに。

杏子(だから、今度は逆にあんたを助けたい。喜んで貰いたい。
……最後はまあ、救済ってのをされちまうんだけど……)

それでも、もう求めるのではなく、願うのでも祈るのでもなく。

──あたしは神さまを、あんたを幸せにしたい──

そう、『想う』。

杏子「……じゃあ行こうか」

マミ「そうね」

さやか「おっしゃ!」

三人は歩き出した。

この空間の出口へと。

現在という過去を越え、未来へと進む道を。

さやか「さーて、これから忙しいぞっ!」

マミ「今まで以上に一生懸命生きないといけないものね」

ほむらが作り、遺した世界で。

さやか「おうっ!
それが、またこうしてマミさんや杏子と一緒に歩ける命をくれた、あいつへの礼儀になると思うしさ」

マミ「ふふふっ、そうね。
けど、それは私や佐倉さんも同じよ」

杏子「だな」

さやか「まっ、命をくれたって言っても、たまたまあたしが巻き込まれたからそうなったってだけだけどね~っ」

杏子「ははっ!」

マミ「──暁美さんを救う為に。
鹿目さんと再会した時に、胸を張って彼女と笑い合えるように」

一生懸命、生きる。

……ふと、杏子は以前マミと話した言葉を思い出す。


マミ『──今度は私たちがしてやりましょう』

杏子『ああ。
ほむらのヤツがあんな形で叛逆したのなら……
あたしたちは、あいつを呑み込もうとする『闇』に──』


杏子「……今回は失敗しちまったけどさ、今度こそやってやろうぜ」

マミ「?」

さやか「杏子?」

杏子「このままじゃあ終わらせねー。
あんな世界に落ちちまったほむらを助ける為──」

マミ「──!
ええ、そうね」

さやか「──おうっ!
あいつが苦しみ続けるこんな現実に……」


カッ……


彼女たちの前方に、光が生まれた。

『これまで』の出口であり、『これから』への入り口だ。

杏子「『叛逆』をする!」





完。

早いもので、『叛逆の物語』のBD・DVDの発売も近いですね。

この期に『君の銀の庭』を改めて聴き直してみたのですが、本当に素晴らしい曲です。
痛いほどに美しく、でもこの上なく切ない……

やっぱりこの曲を聴くと涙が出てしまうんだよなぁ。
苦しいくらいに、大好き。

それでは最後になりましたが、ここまでお付き合い下さいまして本当にありがとうございました。

またご縁がありましたらよろしくお願いします。

さてさて、ここからはコッソリとちょっとした誰得裏話でも。
興味無い方は絶対にスルーすべきですね(笑)

このお話には別ルートがありまして、それではなぎさは普通の人間ではなく魔法少女として世界に存在し、
杏子たちの味方として参戦する予定でした。

大筋こそほとんど変わりませんが、
なぎさの存在で戦力が充実する為にこのお話とは違うラストを迎えます。

これはBDや資料集などが出てから、きっともっと明らかにされるだろう設定を踏まえながら書いてみようと思って……
いたのですが、完成させた時にこのSSはこれで自分の中でしっくりきてしまいました(笑)
このお話に関しては、別のルートは無いなと。

なので別の『叛逆の物語』後のお話を書くとしたらまた別の内容になる……のかなぁ?
なぎさ参戦ルートは構想は完成しているので、結末だけは結局その構想のものにたどり着くかもですが。
いずれにしても、その時は前述のように新たに出てきているだろう設定を踏まえてのお話になるですね。

でも今書いてる野球SSが思いのほか長編になりそうなので、着手するにしてもいつになるやら(笑)
短編なら同時進行で書いたりもするのですが。

ちなみに、杏子がキュゥべえと手を組むのを断り、
結果クララドールズ戦の最中にああなって全部崩壊エンドのルートもあったりしましたが……まあ余談も余談ですね。

それでは改めて、ここまでお付き合い頂いた方々に感謝致します。

こいつほむらに親でも殺されたのか

まどか絶対正義派やたら多いよね
ほむらが正しいと言うつもりは無いけど
否定する場合大抵コレだからなんだかなあって感じ

まあどっちにしろこのままだといつかQBにシステム乗っ取られて終わりだしな

過去作を見たら地雷回避できるな

まどか達の主張見てるとまどかもほむらも肯定したらこうなったって所か
読み応えあったし全員優しいしほむらも救いが示されてるし良かったよ
スーパー解釈には違いないがSSだし俺はあり派だ乙


けど確かに厳しさと言うかほむら嫌いなのかなって雰囲気があるんだよな。
なんと言うか正しい答えに対する葛藤みたいなものが足りない様な。


無味乾燥な感じ。本人たちは必死なんだろうけど茶番を見てるみたい
一人称でやってみたらどうよ?

ほむほむ嫌いだったらこの手のオチで全体通してこんなに書き込まず杏子達にほむほむの行動あそこまで認めさせず最後あんな救済を提示したりしない気がするから俺はそうは感じなかったかな、でも内容的にこれは人それぞれだと思う
俺は>>309でQBはまどかを観測できてもそこまでと断言してるのが特に良かった、俺もQBはまどかに勝てないと思ってたから好きな解釈だったぞ
乙乙中々考えさせられて面白かった

一年保たずに破綻してるのがすごいと思いました(小並

>>404
ほんとに人それぞれだな。
俺は>>309はほむらの行為を「無駄」と切り捨てる為のレスに感じた。

この話の印象としては円環の理と言う絶対正義に刃向かった愚か者がその愚かさに相応しい場所に堕とされ絶対正義の慈悲が届くまで苦しみ続けるって感じだった。

どっちが正しいとか間違ってるとか言うレベルの低い話じゃなく、
まどかの書き換えは概念になっちゃうような代償があったのに
ほむらの場合はノーリスクってのはどう考えても理屈が通ってないから、
その一つの形としては面白かったな
どう終わらせるかはどうでもよくて、過程が大事なタイプの話

乙乙乙面白かった!
感情がゴチャゴチャになって良い感想が書けなくて悪いんだが映画の続き物としてはこれまでにあった中で1番面白かったし感動した
気が向いたらまた何か書いてくれ

書き換えたから概念になった、じゃなくて
概念になった結果、世界がそれにそった形になった
ほむらの場合も「新たな概念が生まれ世界が書き換わる」ってべえさんが言ってたかと

ほむら助けてから完じゃねーのか

このSSまとめへのコメント

このSSまとめにはまだコメントがありません

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom