エレン「会いたい」(181)

登場人物(予定)
エレン/リヴァイ/ミカサ
※腐ではない

よくあるネタだと思いつつ
エレンが監禁されてる未来を捏造
更新は遅いと思う


夢を見ていた。


ソファーでうたた寝をしていると、肩を揺すられながら母に起こされる。

――エレン、起きなさい。今日はアルミンと約束があるんだろ?

閉じそうな瞼をこすりながら体を伸ばし、床に足をつける。
ミカサはもう昼食を済ませていたようで、カチャカチャと音を立てながら食器を片づけていた。

よさげ 期待

――早く食べてしまいなさい。約束の時間に遅れるよ。

テーブルで本を読みながら父が言う。
慌ててパンを口に詰め込み、スープで一気に流し込むと、あっという間に食器は空になった。
食器を流し場に運ぶと、そのまま洗いものをしていたミカサの手を引きながら、速足で出入口へと進む。
扉の取っ手に手をかけると、振り返って、父と母の顔を交互に見た。

「行ってきます」

――行ってらっしゃい。

せっかくの母特製のスープを味わえなかった。まだ残っているだろうか。
帰ったらもう一度食べさせてもらおう。

家を飛び出し、温かい日の光を全身に浴びる。
アルミンは今日、どんな話を聞かせてくれるだろう。
ミカサと目を合わせながら、駆け足でアルミンの元へと向かった。

湿った空気と、カビの匂い。
目を開けると、重々しい石の天井が広がっている。

鉄格子の向こうには中年の大柄な兵士が一人、背を向けて座りこんでいた。その肩がゆっくりと上下している。
どうやら眠っているらしい。監視をする気があるのだろうか。
カビ臭いシーツを払いのけると、石壁に鎖の音が反響した。
喉に乾きを覚え、水を飲もうと枕元に置いてある水差しに手を伸ばしたが、触れた瞬間、それが空であることが分かった。

「すみません」

監視役の男に声をかける。反応はない。

「すみません」

声を張り、もう一度呼びかけた。
男は一瞬動きを止めたが、身じろぎをして座りなおすと、再び寝息を立て始めた。
水差しを投げつけてやろうとも思ったが、相手の機嫌を損ねるとまた数日間食事を抜かれるかもしれない。
ベッドの上で壁にもたれかかり、男が自然と目を覚ますのを待つことにした。

今は朝だろうか、夜だろうか。
もうずっと長い間、蝋燭以外の光を見ていない。
毎日きちんと食事が与えられる訳でもない。
監視の兵が交代するタイミングで、どうにか日付の変化を掴んでいた。

2年前、壁内の謎が明かされたあの日、巨人の脅威が消えたあの日以来、エレンはこの生活を続けていた。

人類最後の脅威として。

ただ寝て、起きて、食事をとる。
起きていてもすることが無いので、一日のほとんどは睡眠に費やされた。

最近、よくあたたかな夢を見る。

シガンシナにいた頃、アルミンが語る外の世界に目を輝かせていたあの日。

母と父と、ミカサと一緒に暮らしていた、他愛のない日々。

3年間を共に過ごした仲間達との、訓練時代。

どちらが夢で、どちらが現実なのか、分からなくなる。
幸せな時間に酔いしれるように、眠る時間が多くなっていった。
巨人に怯え、家畜のようだと不満を洩らしていたはずのあの日常が、たまらなく愛しかった。


もう一度シーツを被り、ベッドの上に横になる。
眠っていれば喉の渇きも誤魔化せるだろう。
またあの夢を見ようと、体を丸め、目を閉じた。

階段の方から、カツカツと足音が聞こえてくる。
誰かが地下へ降りてきている。
監視役の交代の時間だろうか。
だが、この足音はこの2年間聞いたことがない。新入りだろうか。

ベッドから身を起こすと、足音に気付いた監視役が慌てて跳び上がり、足音の主に敬礼をしているところだった。

監視役の男よりもずっと背の低い、小柄な兵士。
時折夢の中にも現れていた懐かしい人物が、そこに立っていた。

震える声で、その名を呼ぶ。


「……リヴァイ兵長」

とりあえずここまで
あまり長くならない予定

おつ 待ってる

「少し髪が伸びたな。」

久しく聞くその声は、相変わらず不機嫌そうだった。

「はい…」

答えながら、再びベッドから身を起こす。

「…これでも先日切ったばかりなんですが。」

上体を起こし、鉄格子の向こうのリヴァイの姿を正面から見つめた。
自分はまだ夢を見ているのだろうか。
もう一生会う事はないと思っていた。

「この前まで肩の位置まで伸びていたんですよ。
さすがに気味が悪いから切れと監視の人に言われて…」

いまいち現実感の無いまま、虚像に向かって話しかけるような心地で会話をしていた。

「お久しぶりです。2年ぶり…ですよね」

「正確には1年と10ヶ月だな」

「あぁ、思ってたよりも短かったですね。」

「時間を把握できているのか」

「ええ、大体ですが。」

リヴァイは口を閉ざすと、周囲に視線を移動させた。

古びたベッドと小さなテーブルが一つ。
冷たい石壁に囲まれた箱のような空間。
肌で感じる湿った空気。
決して衛生的とはいえないそこに、エレンの姿はあった。

「すまないな…。こうしてお前と話をするためだけに、クソみてぇに時間がかかっちまった。」

懐かしい口癖に、思わずふっと笑みがこぼれてしまう。

「いえ、もう誰にも会う事はないと思っていたので…ありがたいです」

うまく言葉が出てこない。
こんなに喋るのは久しぶりだ。

「とりあえずこの2年間に起きたことを伝えておこう」

監視用の椅子を引き寄せると、リヴァイはそこに腰かけた。
牢の中に入ることは許されていないのだろう。

「2年前の記憶は、お前もはっきりしていないんだろう」

「はい…」

全ての決着がついたあの日、巨人化したエレンは、人の姿に戻ることなく暴走を続けた。

叫び声を上げながら岩に頭を打ち付け、エレンを止めようとする兵士達をその手で叩きつけた。

リヴァイが無理やり本体ごとうなじを削り取りその場は沈静化されたが、それまでに多くの負傷者が出ていた。

その負傷者の中には、ミカサとアルミンもいた。


人類のために力を尽くし、英雄視されるはずだった「兵士」は、その一件で「ただの巨人」でしかなくなった。

エレンが消えた時こそが、人類の本当の勝利であると。
壁内に暮らす全ての住民から、その存在を非難された。

「兵長や、団長…、ハンジさん達が、俺のために、ご尽力頂いたことは覚えています。」

一度は殺処分が決定したエレンを救い出したのは、志を同じくし、共に戦い抜いてきた調査兵団のメンバーだった。

巨人でない彼は、ただの人間である。
人間の彼に人類を攻撃する意思はない。
巨人化させずに生かしておけばよい。

そう主張を続けた。

いつ、何が起こるか分からない。
巨人以外の脅威が発生するかもしれない。
そんな時、即戦力にもなり得るエレンを失うのは得策ではない。

そう結論付けられ、どうにかエレンが殺される話は無くなった。
しかしその代償として、日の元で生きる権利を奪われた。

そしてエレンは、その結論を甘んじて受け入れた。

「アルミンは今も王政に働きかけている」

「お前をここから出し、共に生きるためにな。」

「そんな…何やってんだ、あいつ…」

自分とは関係のない場所で、幸せに生きてほしい。
化物の幼馴染のことなど忘れて、夢だった外の世界へ行けばいいのだ。

長く喋っているうちに、咳きこんでしまった。
喉が渇いていたことを思い出し、今度こそ水を貰う。

格子から差し込まれた水差しを受け取ると、足に付けられた枷の音を響かせながら、再び奥へと戻った。

ベッドに腰かけ、水差しから直接水を飲む。

「ちなみにジャンだが」

リヴァイが重々しい声の調子を替えて、話題を移した。

「昨年調査兵団に入団した女兵に口説かれているようだ」

思わず口に含んでいた水を吹き出した。

「マジかよ…あの馬面」

口の端からこぼれた水がズボンにしみ込む。

ああ、せっかくの水が。

意味もなくジャンに苛ついた。

「俺も詳しくは知らん。本人は困っているようだが」

そういえば調査兵団に入ってからのジャンはやたらしっかりしているように見えたし、あれでも優秀な兵士だ。
食いつかない女がいない方がおかしいのかもしれない。

「あとこれは結構前の話だが、ナイルに3番目の子が生まれた」

話題がころころと変わる。

「あ、そ…そうですか。」

「それともう一つ」



「ミカサに子供が産まれた。」

一旦休憩。
原作の方でも明確な敵とか解決への道とか明記されてないんで、
2年前の出来事はあえてモヤッと書いてます。

エレンとの子供か?
じゃなきゃなんの希望もない世界だわな…


割とどうでもいい話だと視線をずらし一呼吸している間に、とんでもない言葉が放たれた。

「……え?」

素っ頓狂な声をあげてしまう。
リヴァイの方を見ると、エレンの反応を伺うようにじっと見つめていた。
聞き間違いだろうか。

「え、子供…?ミカサに、ですか?」

「ああ、結構前の話だがな。ちなみに女だ。」

あまりに唐突すぎる話にどう返していいか分からず、視線を泳がせる。
手元に視線を移すと、水差しを握りしめたままだったことに気付き、ベッドの脇に置いた。

あのミカサが。いつの間に。相手は誰だ。

思考が追い付かない。

子供の頃から知っているあのミカサが母親になっているということが、全く想像できなかった。

「強靭な腹筋してやがるからな。妊婦の割に全然腹が出てこねぇ。」

「俺も周りの奴らも、アルミンに聞かされるまで全然気が付かなかった。」

困惑しているエレンに構わず、リヴァイは喋り続けた。

「今は周りの助けを借りながら、子育てをしている。」

まだ頭は混乱している。
だが、その言葉に少し安堵した。
ミカサの周りには、手を差し伸べてくれる人間がいる。

「そうか、あいつ…いい相手見つけたんだな」

自分に執着していたあのミカサが、ついに他の男にも目を向けるようになったのかと、安心する。

同時に、胸の中に空気が吹き抜けるような、妙な寂しさがあった。

「相手の男だが、」

はっと視線を上げ、息を飲む。

最も気になっていた事だ。
自分の知っている人物なのだろうか。

「ミカサがなかなか口を割ろうとしなくてな」

え、と声を出し、リヴァイの目を見つめる。

リヴァイもまた、エレンの瞳を見つめ返した。

「ジャンでもないしアルミンでもない」

「少なくともお前の知り合いの中にはいないようだ。」

「え…」

考えたくはないが…

東洋の血を引き、一度は人買いに攫われたミカサだ。
加えて整った顔立ちをしている。
開拓地にいた頃、ミカサを好奇な目で見る男達によって、何度か危険な目に遭う事もあった。

まさか

ひどい目に遭わされたのだろうか。


ミカサの幸せを祝福しようとしていた気持ちはどこかへ消え去り、名も知らない男に怒りが湧いてくる。

「相手は分からないままなんですか」

身を乗り出してリヴァイの言葉を待った。

リヴァイはエレンから視線を逸らさず、はっきりと言った。


「関係を持った男はただ一人らしい」


一瞬、呼吸が止まる。

ドクン、と、心臓の撥ねる音が聞こえた。


「エレンよ」

リヴァイの目がエレンを射抜く。


あの日。

巨人の殲滅戦を決行する前夜、ミカサはエレンの部屋に居た。

恐怖に震えるミカサの体を、骨が軋むほどきつく抱きしめる。

そこでエレンは初めて、吸いつくようなミカサの肌に触れた。


「相手の男に心当たりはあるか。」


今もなお耳に残る甘い声と、顔にかかる熱い吐息を思い出す。





「…はい。」

とりあえず休憩。
単語と表現力の引き出しが少ないんで書くのに時間がかかってます。

確かに口をわるわけにはいかんよな

期待
救いがありますように

期待
確かにエレンが相手ならミカサも口を割れんか
父親が誰かバレたら子供もただ事では済まんだろうしな

時間が止まったように、リヴァイもエレンも、身じろぎひとつしない。
リヴァイはもう、確信を得ているようだった。

監視の兵が、小さく咳払いをする。
しばしの沈黙の後、エレンはリヴァイから視線を落とした。

「はは…」

うつむき、太腿に両肘をついた。両手で顔を覆う。

「『結構前の話』って…それ、いつの話ですか…」

嘲笑しながら問う。
声が震えている。

「産まれたのはちょうど一年前だ。3日前が誕生日だった。」

喉の奥が詰まる。うまく呼吸ができない。

「女のガキなんて何を与えていいか分からんからな。
とりあえず涎かけを渡しておいた。
涎を撒き散らしてうろちょろされたら堪ったもんじゃねえ」

「兵長とお揃いですか?」

「あ?」

俯いたまま冗談を口にし、激しく揺れ始めた感情を鎮めようとする。

「アルミンは服をやっていた。ミカサとおそろいの柄だ。」

女の子が喜ぶものをちゃんと分かっているところが、アルミンらしい。

「ジャンは熊の人形だった。すぐに奴のおしゃぶりと化したが。」

「それからハンジは…手作りの人形だったな。
綿を詰めただけの歪な肌色の物体だったが、おそらく巨人を模したものだろう。
これも貰った瞬間からおしゃぶりだ。」

…同じ色だからメシと間違えたのかもしれんな、と、突然納得したように呟いた。

誕生会の話が続けられる。

熱くなる目頭を両の手のひらで押さえる。
顔を上げることができず、乱れる呼吸を整えようと、大きく息を吐いた。

「ジャンは『間違っても死に急ぎ野郎みたいにはなってほしくない』と言っていたな。」

「うるっせぇよ…あの馬面…」

いちいち腹の立つ男だ。

「ああ、アルミンが『子供のジャンに対する第一声は馬面かも』と言っていたな。
ミカサは、…」

少しの間を置き、言葉を続けた。


「ミカサは、泣いていた。」

熱いものが頬を伝う。
自分で制御することができず、自然と歯を食いしばった。

「兵長」

かすれる声で、呟く。

リヴァイが静かに椅子から立ち上がり、片手で鉄格子を掴んだ。

「答えろエレン」

地下牢の中でリヴァイと初めて話をした日を思い出した。
こちらの意志を問おうとしている。

「お前はあの時、人類のためなら、仲間の安全のためならと、自らが幽閉されることを選んだ」

「お前の友人達が差しのべた手を振り払ってまでだ」

あの時、自分が恐ろしかった。
巨人の殺戮を、破壊の衝動を、心地よいと感じていた。

「最後の巨人として、地下で生涯を終えることを望んだ。」

その衝動を、いつ仲間達へ向けてしまうのか。

「それがお前の意思ならばと、俺はそれを尊重し、この状況を甘受してきた。」

それが何よりも恐ろしかった。

「答えろ」

溢れ出る涙が、ぽたぽたと服に染みをつくっていく。
もう手で隠すこともできない。

「このまま一度も日の光を浴びず、家畜以下の生活を送り、孤独で死ぬこと、」

心の奥底に封じ込めた箱を、リヴァイがこじ開けようとしている。

「それがお前の望みなのか。」


やめてくれ。

もう諦めたことなんだ。

しっかりと鍵をかけた、あの想いを。

幸せになる未来を。

涙で濡れた両手を下にずらし、口を抑える。
強く眼球を押さえていたため、視界が少し濁っていた。
強い圧迫から解放された涙が、とめどなく溢れ出る。

もう喉まで出てきている言葉を、必死に飲みこもうとする。

息が苦しい。


「答えろ」



「……たい」

自分の意志に反し、言葉がこぼれた。
もう、無理だ。


「…会いたい」

絞り出すような声で言う。
顔を上げられない。
リヴァイは黙っている。どういう表情をしているのか分からない。


「ミカサ…、アルミン…」

「皆に…会わせてください…」

エレンにとって、決して口にしてはいけない言葉だった。

何度も、夢に見続けていた。

実現するはずもない望みを抱いたところで、空しいだけではないか。

口にした瞬間、想いが爆発した。


会いたい、


会いたい、


会いたい――。



体を屈曲させ、獣のように唸りながら、エレンは牢の中で泣き続けた。

今日はここまで。
とりあえず4分の3くらいは終わった。


すごく引き込まれた

おつ
良い

乙!
続きも楽しみにしてる

「もう時間だ」

そう言うと、リヴァイは握りしめていた鉄格子から手を離し、一歩下がった。
エレンが顔を上げる。目はすっかり腫れあがっていた。

「…まだあと5分ありますが。」

監視兵が言う。リヴァイが地下に降りてきて15分が経っていた。

「こいつのこの言葉が聞けりゃ充分だ」

こっちは全力でやらせてもらう。そう言うと出口の方へ向かった。

「兵長…っ」

ベッドから腰を上げ、鉄格子に駆け寄る。
リヴァイが足を止め、踵を返した。

「おいお前」

「ハッ」

エレンの前を素通りし、監視兵に詰め寄る。
体格の良い監視兵の前に立つと、リヴァイの小柄さが際立った。頭一つ分以上の身長差がある。

「今日のことは一切口外するな」

その小柄な体から放たれたとは思えないドスの利いた声で言う。
外でそれらしい情報を聞いた時点で真っ先に削ぎに行く、と、相手が脂汗をかくまで充分に脅してから、その場を去った。

もうリヴァイに会うのはあれで最後だったかもしれない。
と、まともに別れの言葉も言えなかった事を悔やんだが、杞憂に終わった。

あれからちょうど1週間後に、再びリヴァイは現れた。
監視の当番はあの時と同じ大柄の男だ。

手招きをされ近づいていくと、重みのある白い布を手渡された。ベッドのシーツだ。
首を振って遠慮するエレンの胸に無理やり押し付ける。

「うちにあった使い古しだ。処分に困っている。
黙って受け取れ。」

リヴァイが手を離したので、床に落ちそうになるシーツを慌てて掴んだ。

リヴァイの方を見直すと、懐からおもむろにハサミを取り出していた。
思わず身構える。

「おい、お前」

「は!?」

同じく銃に手をかけ身構えていた監視兵は、突然手招きをされ間抜けな声をあげた。

「手伝え。」

ハサミをエレンに手渡し、懐から小さな裁縫道具を取り出す。

今まで使っていたボロボロのシーツは細かく裁断され、地下牢を掃除するための雑巾が大量に生産された。

さらに1週間後、再び地下牢に訪れたリヴァイは、手に白いシャツとズボンを持っていた。

性懲りもなく居眠りをしていた監視兵が慌てて飛び起きる。
もしかしてこの男が当番になる時を狙っているのだろうか。

シャツに腕を通すと、エレンの体にぴったりの大きさだった。

「兵長、これは」

「使い古しだ。」

確かに新品ではないが、確実にリヴァイのものではないだろう。
それだけ言うと、リヴァイはさっさと帰ってしまった。

面会時間は20分与えられているはずだ。
前回まともに会話ができなかった分、話を聞こうと思っていたため、あまりにあっけない面会に呆然と立ち尽くした。

監視兵も口を開けたまま出口の方を眺めている。

奥に戻りベッドに腰掛けようとしたが、シャツに皺を寄せてしまうのを勿体なく思い、着馴れた古いものに着替えなおした。

ベッドに脱ぎ捨てていたシャツを畳もうと手に取ると、襟足の部分に見覚えのあるイニシャルを見つけた。
思わず顔をしかめる。

複雑な心境のなか、馬面の友人の顔を思い浮かべながら丁寧にシャツを畳み、そっと棚にしまった。

1週間後、再びリヴァイは現れた。手に肩の高さまである箒を持っている。

この様子だとまたきっちり1週間後に現れるのではないか。そしてまた何かしらの品を持ってくるのではないか。

鉄格子の隙間から無理やり箒を押し込む。

「使え。」

その日の20分間はリヴァイの指導の下、監視兵を含む3人で地下牢の掃除が行われた。

清潔なシーツに包まれた心地よい眠りの中、ガンッという金属音で目が覚めた。リヴァイが鉄格子に足をかけている。

「起きろ」

1週間ぶりの声だ。
箒を貰ってからというものの、体がリヴァイ班にいた頃を思い出してしまったらしく、徹底的な掃除がエレンの日課になっていた。

ベッドから起き上がると、いつものように手招きをされる。
今度は何を持ってきたのだろうと構えていると、懐から見覚えのあるハサミを取り出していた。

まさかまた雑巾を作るつもりだろうか。
リヴァイからハサミを受け取る。

「切れ。」

自身の髪を指差しながら言った。

「先日切ったばかりですが」

「先日とはいつだ。ひと月以上前だろう。
目障りだ。切れ。」

寝起きで今ひとつ脳が覚醒していない状態のまま、自分の髪にハサミを入れた。

ジャキッという音と共に、床に黒い髪の束が落ちた。

その様子を見たリヴァイの眉間に深い皺が寄る。片手をエレンの目の前にかざし、動きを制した。

視線を真横に移す。

「おい、お前。」

「…ハッ」

「切ってやれ」

がっしりとした体格にそぐわない器用な手つきで、監視兵はエレンの髪を整えていった。

ちょっと休憩

夢うつつの中、カツン、カツン、と階段を下る足音が聞こえてくる。

監視役の交代ではない。
あれから1週間経った。いい加減聞き慣れたリヴァイの足音だ。

それに続くように、もう一つの足音が聞こえてくる。
交代する監視兵が一緒についてきたのだろうか。

新しいシャツに身を包んだ体を、ベッドから起き上がらせた。シーツをめくり、床に足を下ろす。

ベッドに腰掛け、リヴァイの到着を待った。

牢の直前で、二つの足音が止まる。壁に隠れてリヴァイの姿は見えない。

何をしているのだろうと首を伸ばしてみると、足音が再開する。すぐにその姿を現した。

半ば眠っていた脳が、一気に覚醒する。

ゆっくりと目を見開く。

無意識に、呼吸を止めていた。


壁から姿を現したのは、リヴァイでも、交代の監視兵でもなかった。

今日はここまで。

なんて所で止めるんだwww乙!

乙!
いいところでおあずけくらうとは…
続き楽しみにしてる

腰を上げ、ゆっくりと立ちあがる。
その名を呼ぼうと口を開けるが、喉から乾いた息が出るだけだった。

鉄格子の向こうで、肩まで伸びた黒い髪を揺らしながら、エレンの瞳をまっすぐ見つめている。
腹の前で震える両手を握りしめ、必死に何かを抑えようとしていた。

後ろから現れたリヴァイの腕の中では、黒髪の小さな子供がもたれかかり、すやすやと眠っていた。

「ミカサ、入れ。」

↑流石に中途半端すぎたので追加。

凄く良い。
続き期待

余計気になるわw

期待


続き期待してる

監視兵がカギを開けると、胸の高さまでしかない入口をミカサが素早くくぐり抜ける。

ほんの2メートル程の距離が、ひどく遠く感じた。
膝下まであるスカートを翻し、転びそうになりながら、ミカサがこちらへ向かってくる。

その場を動けないまま、無意識のうちに、頼りなくやせ細った腕を広げていた。
ミカサの表情を認識できたのはほんの一瞬で、次の瞬間にはミカサはエレンの胸に飛び込んでいた。
その勢いに体勢を崩し、足枷の鎖を踏んづけてしまう。
ジャラッ、と鎖の音が反響した。

脇からエレンの背に腕を回し、指が食い込むほど強い力で抱きしめてきた。
シャツに深い皺が寄る。
ためらいがちに、ミカサの背に手を添えた。

これは本当にミカサなのだろうか。

ミカサは自分と変わらぬ体格だったはずだ。
こんな風に腕の中に収まるはずがない。
また自分の夢ではないのか。
似たような夢は何度も見てきた。

「…エレン」

ミカサの声がする。

「…エレ…、ひっ…ぅ…」

ミカサが泣いている。
何か声をかけなければ。
何か―――

ただ熱い息を吐くだけで、声が出てこない。
視界が歪み、涙が頬を伝うのが分かった。

「エレン…エレン…っ」

自分の首元に顔を埋め、何度も名を呼んでいる。
ミカサの顔を両手で挟み、顔を向かせた。

白い肌、艶やかな唇、吸い込まれるような瞳。
あの日の夜と、何も変わらない。
その瞳から、涙がぼろぼろと零れ落ちていた。
唇を震わせながら、じっとエレンの瞳を見つめている。

もう一度名を呼ぼうと開かれたその口に、衝動的に唇を押しつけた。

背にしがみついていたミカサの手が、一瞬だけ緩む。

一度唇を離すと、角度を変え、再びミカサの口を覆うように口付ける。
ミカサの後頭部に手を回し、もう片方の手で腰を抱き寄せた。
ミカサは目も閉じぬまま、エレンを仰ぐようにして、唇に伝う熱を受け入れていた。

唇を離し、今度はしっかりと抱きしめる。
力を入れ過ぎたのか、ミカサが「んっ」と苦しそうな声をあげたが、かまわず力を入れ続けた。
ミカサの耳元に唇を寄せ、やっとの思いで声を絞り出した。

「ミカサ」

夢でもない、幻覚でもない。
もう会うことを諦めていた、ただ一人の家族。
胸の奥深くから、名の付けがたい感情が込み上げてくる。

「ミカサ…っ」

涙が止まらない。

「エレっ……」

ミカサの声が詰まる。

「エレン…ふ、ぅ、うあああ…」

互いを抱きしめながら、しばらくの間、二人は声をあげて泣き続けた。



ひ、ひ、としゃくりあげるミカサの背をトントンと叩いてやる。

ミカサの嗚咽が治まったところで、ようやく体を離した。
伏し目がちなそのまつ毛に、涙の粒がかかっている。
お互い、もう落ち着きを取り戻していた。

「…元気にしてたか。」

月並みな言葉をかけると、鼻をすすりながら、ミカサは頷いた。
エレンを見上げ、心配そうな表情で問う。

「エレン…ちゃんと食べてるの」

すっかり筋肉の落ちた上腕に、不安げに触れる。

「出されてる分はちゃんと食ってるよ」

それだけ言うと、黙り込んだ。
何から、どう話せばよいのか分からない。
おそらくそれはミカサも同じなのだろう。

黙ったまま、エレンの頬を撫でている。その手に、自分の手を重ねた。
今までミカサとどのように会話していたのかを、必死に思い出す。

ふと一番気がかりだったことを思い出し、問い出そうとしたその瞬間、リヴァイの声が沈黙を破った。

「おい」

二人同時に、リヴァイの方に顔を向ける。

「起きたぞ。」

リヴァイの腕の中で、小さな頭がキョロキョロと動いている。
顔をあげ、自分が抱かれているのが母でないことが分かると、瞬く間にその表情が崩れていった。
ひいひいという泣き声が、徐々に叫ぶような泣き声に変化し、地下全体に響き渡る。

リヴァイが無言で監視兵を見つめている。眉間の皺がいつもに増して深い。
その視線の意味をすぐに理解した監視兵は、黙って鉄格子の鍵を開けた。

泣きじゃくり、母の元へと手を伸ばす子を両脇から抱え、ミカサに手渡す。

リヴァイがすっかり凝っていた肩をほぐしていると、隣から鼻をすする音が聞こえてきた。
視線を横にずらすと、監視兵が不自然に斜め上を向き、顔を合わせないようにしている。
瞬きが無駄に多い。

敢えて追及はせず、鉄格子から離れ壁にもたれかかると、牢の中に居る三人の親子を見守った。

ここまで。
予定より少し長引きましたがあと2、3回くらいの投稿で終わると思います


凄く良い
期待

今年の最大降雨量…
監視兵もカワエエ
続き楽しみにしてます

乙乙
監視兵いい奴だな...
私は貝になりたいを思い出したわ

続き期待!

>>82
あのおっさんいいよね…

ミカサが子を抱きかかえた途端、泣き声がぴたりと止んだ。
慣れた手つきで子どもの背中をポンポンと叩きながら、エレンの元へと戻る。

不意に、ミカサが間合いを詰めてきた。
驚いてミカサの顔を見ると、その目が「子を抱け」と言っているのが分かった。

「え…」

狼狽しながら、足を後ろに引く。子どもの抱き方など分からない。
エレンが後ずさった分だけミカサが踏み寄り、再度抱くよう促した。

「いや…」

ミカサの胸元へ視線を移す。
母の腕に抱かれながら、指をしゃぶっている。その頬には、まだ涙の跡が残っていた。

「また泣き出すぞ」

「大丈夫」

何が大丈夫だというのか。
それでも拒もうとするエレンに、強引に子を押しつけた。
慌てて両手で抱きかかえる。

突然母から引き離され、エレンの胸を押しのけながら再びひんひんと泣き声をあげ始めた。
落ちないように腕でしっかりと支えてやる。

「あぁ―…」

だから言ったのに、と文句を垂れていると、ミカサがエレンの背後に移動した。
エレンの肩越しに、子をあやし始める。

母の顔が見えることに安心したのか、すぐに泣くのを止めた。
体をエレンの胸にぴったりと張り付けながら、母の顔を見つめている。
その体が驚くほど温かかった。自分の体が冷えているせいだろうか。

ふと、子の方を見ると、その瞳がエレンの顔をじっと見上げていた。思わず怯んでしまう。
エレンの瞳の色に興味があるのか、小さな手を伸ばしエレンの顔をペチンと叩いた。
その手がとても温かい。

「…ほら、お父さんだよ。」

今までに聞いたことがないほど柔らかな口調で、ミカサが言った。
その声に驚き振り返ると、知らず知らずその表情に魅入っていた。
そこに居たのは、寒さに震える少女でも、稀に見る逸材と言われた兵士でもない、一人の「母」の姿だった。

ミカサが子に話しかけながらあやしている。
そこでエレンは初めて、子どもの名前を知った。

「いい名前だな」

ミカサが顔を上げる。

「お前がつけたのか」

こくりと頷くと、愛おしそうに子の頬に触れた。

「アルミンと一緒に考えた」

エレンの脳裏に、二人が名前を考えている光景が浮かび上がる。

「エレンが嫉妬するかもね、って、アルミンが」

「しねぇよ、ばか。」

ミカサの頭を小突こうかと思ったが、両手が塞がっているため、代わりに肘で軽く胸のあたりを突いた。

ミカサが子の腕を掴み、その手の平をエレンの頬に触れさせる。

「お父さんだよ、ほら、おとうさん」

「おとうさん」とゆっくり強調しながら、エレンの顔をペチペチと触れさせた。
片方の手をしゃぶりながらエレンを見つめ、あー、ぅあー、と、何か言葉のようなものを発している。

「…お父さんって言ってる」

ミカサが真顔で言う。

「いや、絶対違うだろ…」

本気なのか冗談なのか、エレンは苦笑した。

中途半端ですがここまで。

赤子かわいいな…
続き待ってます乙乙!

今までの子守経験から、1歳児ってこんな感じだよなーとか思いながら書いてます

おお…乙
凄く良い

乙!
エレンとミカサと赤ん坊のやりとりがとても良かった…

ほしゅ

アルミンと名前考えたってことは、アルミンは知ってたんだな

全員エレンとの子供であろうことは知ってて、気づかないふりしてたんじゃないか

「あと10分だ」

リヴァイのその一言で、突然現実に引き戻された。

「俺もミカサも…そのガキにも、次はいつ会えるか分からんぞ」

ミカサと顔を見合わせる。

「面会が許されていたのは今回までだ」

聞き間違いであって欲しかったが、はっきりとした声で、リヴァイはそう言った。
締めつけられたように、息が苦しくなる。
また来週もリヴァイが、あの不機嫌な顔で現れるものと、そう思っていた。

エレンはその時初めて、僅かながらも、ミカサと子どもにも毎週会えるのではないかという期待を抱いていたことに気付いた。

「…もう会えないんですか」

「さあな…交渉次第だが、半年先か、1年か、…それ以上か」

それ以上とはいつだ。その時に自分は生きているのか。

深い、底の無い谷に突き落とされたような気分だ。
徐々に目の前が暗くなっていく。
またあの孤独な日々に戻るというのか。

あと10分。
時間の経過が急に恐ろしくなった。

呆然とするエレンの腕から、突然、子が引き離された。
胸に感じていた温度が急に失われ、たまらない寂しさが襲う。

ミカサが子の両脇を抱えたまま、ゆっくりと床におろす。
その両足がしっかりと床についていることを確認すると、慎重にその手を離した。

転ぶのではないかとエレンが咄嗟に手を伸ばしたが、次の瞬間、目を見開いた。
子は、尻餅をつくことなく、しっかりとその場に立っていた。

少し離れた場所でミカサがしゃがみ込み名前を呼ぶと、よたよたと母の元へ歩いてゆく。
口を開けて呆けているエレンを見上げながら、ミカサが目を細めた。

「8ヶ月の時には歩いていた」

子供がいつ頃から歩き始めるのかは知らないが、ミカサの誇らしげな顔を見る限り、おそらく早い方なのだろう。

「はは…さすがミカサの子だな」

驚嘆しながら、涎を撒き散らしてうろちょろされたら堪らない、というリヴァイの言葉を思い出した。

「涎がすごかったって?」

言いながら、エレンもその場にしゃがみ込んだ。

「ええ、今はもう落ちついているけど、見ていて不安になるくらい口から垂れていた」

思わず吹き出してしまう。

無駄だと思いながらも、ミカサの真似をして手を叩きながら名前を呼んでみた。
案の定、こちらをちらりと見るだけで、母から離れようとしなかった。
ミカサと顔を合わせながら笑う。

ミカサが立ちあがり、エレンの隣に移動し座り込むと、すぐにミカサの後をついてきた。
歩き疲れたのか、ペタンとその場に尻をつく。
掃除をしておいてよかった。そう思いながら、周囲の床を軽くはたいた。

エレンが腰を落とし胡坐をかくと、子どもの目が鎖に釘付けになっていることに気付いた。
足枷の鎖をばしばしと手で叩きながら母を見上げ、口をパクパクと動かしながら「んまー」「ぅあー」と必死に何かを伝えようとしていた。

「…何だ、お前、こんなもんに興味あんのか?」

エレンが呆れ顔で足を動かすと、金属がすれあう音が響く。
突然、手を叩きながらきゃっきゃと笑い声をあげた。

笑った顔を初めて見る。
予想外の反応に驚きつつ、もう一度足を動かしジャラジャラと音を鳴らしてみると、何が面白いのか、一際高い声で笑い出した。

無意識に、エレンの口元が緩んでいく。

可愛い。

心からそう思った。
ミカサが突然立ち上がり、子を前から持ち上げると、そのまま胡座をかいているエレンの足の間に座らせた。
予想外のミカサの行動に動揺するも、もうエレンに慣れたのか、鎖で遊ぶことに夢中なのか、泣き出すことはなかった。
時折、鎖をいじりながらエレンを見上げている。

牢の外でその様子を見ていたリヴァイは、眩しいものを見るように目を細めた。
その姿は、我が子と遊ぶ父親そのものだった。

「サシャやコニーがよく相手をしてくれる」

夢中で遊んでいる子を見ながら、ミカサが言った。
サシャとコニーが子どもと戯れている様子を思い浮かべた。妙にしっくりくる。

「へー…あいつら元気か?」

「…うん」

ミカサが微笑む。
それからしばらく、ミカサの身の回りのことを聞いた。

街から少しだけ離れた森で、リヴァイ班で生活を共にしていること。
子どもをそこで産んだこと。
アルミンとジャンが幹部補佐として、日々務めを果たしていること。

そうしている間も、容赦なく時間が過ぎていく。

「あと1分だ。用意しろ。」

ミカサと目が合う。
ミカサが立ち上がり、エレンの足の間から子を持ち上げた。
手にはまだ鎖を握っていたが、持ち上げるには重いのだろう。ガシャンと、鎖の落ちる音が小さく響いた。

続いてエレンも腰を上げる。
黙り込んで目を伏せているミカサのつむじを見つめた。
いつの間に、こんなに身長差がついてしまったのだろう。

そういえばこの前、兵長にシーツを貰ったんだ――
今着てるのはジャンのシャツで――
監視の人に髪を切ってもらって――

再会した直後は何を話せばよいのか分からなかったというのに、話したいことが次から次へと溢れてくる。

「もう時間だ。出ろ。」

リヴァイが急き立てる。
少しでも規則に反すると、二度と面会の許可が下らない可能性がある。

「エレン、これ」

ミカサが片手で子を抱えたまま懐から手紙を取り出し、エレンに渡した。

「アルミンから預かって来た」

丁寧に折りたたまれ、見慣れた文字で「エレンへ」と書かれてある。

「アルミンが…頑張ってるから、」

「ジャンも、リヴァイ兵長も、団長も…皆…」

「だから…」

一緒に…、

それだけ絞り出して、ミカサはまた俯いた。短く息を吐きながら、呼吸を整えている。
もう一度顔を上げ、精一杯、震える声で言った。

「一緒に、シガンシナに帰ろう?」

その目から今にも零れようとしている涙を、必死に堪えていた。


あぁ、帰ろう。

その一言が、どうしても言えなかった。
地下から出ることを許されていない自分に、何ができるというのか。
ただ時間が過ぎて行くのを待つことしかできない。
ここから出るにしても、ここで死ぬにしても――

何も言えず俯いているエレンの頬に、ミカサが口付けた。
ミカサと目が合う。留めきれなかった涙が、ミカサの頬を伝うのが見えた。

顔が離れないうちにミカサの首に手を回す。
人目もはばからず、噛みつくように唇を重ねた。

唇を唇で食みながら、その形を、柔らかさを覚えようとする。二度と忘れないように。
互いの温度が伝わるまで、長く、長く口付けた。

はぁ、と息を吐きながら、名残惜しげに唇を離す。
腰をかがめ、今度は我が子の頬と額に唇を落とした。
くりくりとした瞳がエレンを見上げ、ぽかんとした表情のまま母の方を振り返った。
両親から受け継がれた黒い髪を、ポンポンと叩いてやる。
その頭がくるりと振り返り、もう一度エレンを見上げた。

はち切れそうな程の愛しさがこみ上げ、精一杯の力で二人を抱きしめた。
ミカサが片方の手をエレンの背に回し、優しくさすった。

抱きしめていた腕を解き、ミカサの肩を掴んで体を反転させると、その背中を押した。
一度だけミカサが振り返ったが、前を向きなおすと、そのまま鉄格子の外へくぐり出た。

「じゃあな」

そう言うリヴァイの後ろをついて、振り返らないまま、ミカサは歩き始めた。
エレンが子に向かって手を振ると、指をしゃぶりながら、片方の手を上げた。エレンの真似をしているのだろうか。

壁の向こうに消えて行くその間際まで、その目はエレンを見つめていた。
足音が遠退いていく。

静寂が、再び地下を覆った。

とりあえずここまで

乙です。続きが気になる…!

乙です。続きが気になる…!

おつ 切ないな…

目頭が熱くなるよ……

無理矢理の設定だからなのか知らんけど
どうしてもウエットな感情ににはなれないんだな

続きキテター!
帰ろうと言えなかったエレンが悲しいな

無理矢理な設定だろうが破天荒だろうが好きに書けるのがssじゃないか!(^^)
個人的には有り得なくもない未来だと思う…1乙

ほほ

待ってる

さて、どうしようか。

気持ちを切り替えるように腰に手を当て、周りを見渡した。
部屋の隅に置かれた箒と雑巾に目が止まる。

そういえば今日の掃除がまだだった。
いつものように箒を手に取り、床を掃こうとする。

瞬間、さっきまでの光景が脳裏をよぎった。

ミカサと子どもが居た空間。3人で一緒に座り込んだ床。

しばらくそこを見つめた後、静かに箒を元の場所に置いた。

ベッドに戻り、いつものように腰かける。
後ろに手をつき、足元の鎖を見ながら、あの小さな手を、自分を見上げていた綺麗な瞳を思い出す。

意味もなく、足を振って鎖を鳴らした。
またあの笑い声が聞けないだろうか。
石壁に囲まれた空間に、空しく金属の音が響いた。

何もする気が起きず、そのままブラブラと足を動かす。
そのうちそれも面倒になり、そのまま後ろに倒れこんだ。
いつもの、重くのしかかるような天井が、視界に広がった。

――会えてよかった。

不思議と穏やかな気持ちだった。

そうだ、もともと、死ぬまで会えないと思っていた相手だ。
俺があの日、会いたいと言ったから、兵長は会わせてくれた。
それで充分じゃないか。

もう、充分だ。

目を閉じ、強く自分にそう言い聞かせる。余計なことを考えないように。

ふと、ミカサから預かった手紙のことを思い出し、目を開けた。

どこへやったのか分からなくなり一瞬焦ったが、すぐにベッド脇の棚の上にあるのが視界に入り、心底ほっとした。
掃除をしようとする時に、無意識に置いていたらしい。

手を伸ばし手紙を取ると、ベッドに座りなおした。
丁寧にその封を開ける。
中にはゆるく折りたたまれた少し厚めの紙と、2枚の便箋が入っていた。

『エレンへ』

『エレン、久しぶりだね。

元気にしていたかい?ちゃんと食事はさせて貰っているかい?』

初っ端から独り立ちした息子を気遣う母のような口ぶりに、思わずふっと笑ってしまった。
アルミンの字は、読んでいると不思議と心が落ちつく。

『リヴァイ兵士長の交渉で、ようやく一人だけ面会の許可が下りたんだ。

僕も会いに行きたかったけど、ミカサ以外に適任はいないからね。

満場一致でミカサに決まったよ。

ミカサに会えて嬉しかったかい?』

お前にも会いたかったよ、と手紙に向かって呟く。
一瞬、監視兵と目が合ったが、すぐに視線を手紙に戻した。

『ミカサに子供がいて驚いただろ?

君の驚く顔が是非見てみたかったよ。』

ああ、驚いたとも。

ひと月前、リヴァイが最初に訪れた日を思い出す。
世間話をするように突然、子供の存在を告げられた。
そしてそれが誰の子なのか分からない、ということも。

『ミカサが妊娠しているのが分かった時、ミカサは父親のことを、誰にも、僕にさえ明かそうとしなかった。

子どもが産まれて1年経った今でも、父親については口を閉ざしたままだ。

でも、皆、気付いているよ。』

『あの子が無事産まれたとき、ミカサはずっと泣いていたよ。

血まみれのまま僕にしがみついて、大声で泣きながらずっと、何度も、「エレンに会いたい」と言っていた。

僕も皆も、それで確信したんだ。』

ぐっ、と手紙を持つ手に力が入る。
皺がつかないよう、慌てて指の力を緩めた。

『ミカサが黙っていたのは、子どものためだよ。

地下に幽閉されている巨人が父親だなんて知れたら、あの子の命はなかったかもしれない。』

分かってはいたが、頭を強く殴られたような気分だった。
最後の巨人、地下の化物、やはり自分は、世界からそういう存在でしか見られていないのだろう。

『ミカサは今、あの子を守ることに全てを捧げている。』

1枚目は、そこで終わっていた。

分かっている。自分は存在していちゃいけない、すぐに消えるべき存在だ。

エレンを守ることに固執していたミカサに、他に守るべきものができた。

自分はもう必要ない。
自分の代わりは、あの子が担ってくれるはずだ。

微かに残っていた未練が、ようやく消え去ろうとしていた。

しかし、2枚目の便箋に綴られていたアルミンの言葉は、エレンにとって予想外のものだった。


『だから君は、あの子のためにも、そこから出なくてはならない。』

『脅威ではなく、この壁内の英雄であることを、全うな人間であることを証明しなくてはならない。

あの子はミカサの宝だ。そして君がこの世界に存在していた証でもある。

あの子もエレンも、ミカサにとっては何よりも大切な存在なんだ。』

『君のことだから、自分さえいなくなれば僕らが幸せになる、とでも考えているんだろうね。

もしそうなら、君は本当に馬鹿だ。

君がいない世界で、僕らが幸せになれるはずがないじゃないか。

ただ一言「助けてほしい」と言ってくれれば、君に手を差し伸べてくれる人間は、君が思っているよりもたくさんいるんだよ。』

『あれから2年が経過して、壁内の状況も落ち着いてきた。

人々の巨人に対する恐怖はまだ消えないけれど、その恐怖を終わらせた「奇跡の存在」に興味を持つ人たちも少しずつ現れてきている。

可能性は僅かだけど、君が胸を張って生きていける世界になるかもしれない。』

『エレン、絶対に君をそこから救い出す。

だからエレン、帰ってきてくれ。

いま地下に居るだけの君には何もできないかもしれない。

時間が過ぎて行くのを待つことしかできないかもしれない。

ただ、希望を捨てないでいてくれ。

生きていてくれ、エレン。


そして一緒に、あの子と4人で、旅をしよう。』

最後に『アルミン・アルレルト』と名を綴り、手紙は終わった。

丁寧に綴られていたはずの文字が、最後の数行で力強く走り書かれているのが分かった。
手紙を書くアルミンの表情が、そのまま文字に反映されているようだった。

ちょっと休憩

続き来てたー!乙です

拭うことも忘れていた涙が一粒、手紙に染みを作った。
慌ててシャツの袖で水滴を拭き取ったが、その間もポタポタと涙がこぼれ落ちていった。

今まで希望を抱くことを恐れていた。
会いたいとどれだけ願っても、誰も、この地下へ来てはくれなかった。
人々から忘れ去られ、孤独で朽ちろと、世界からそう言われているような気がした。

『君に手を差し伸べてくれる人間は、君が思っているよりもたくさんいるんだよ』

与えられないのならば、最初から望まなければいい。
そう割り切ることで、孤独を嘆くことから逃げていた。

『希望を捨てないでいてくれ』

何度も手紙を読み返す。
ずっと、何よりも望んでいた言葉だった。

望んでいいのだと。
「会いたい」と願っていいのだと。
幸福な未来を、信じてもいいのだと――。


今日だけでどれだけ涙を流せば気が済むのか。
自分に呆れてしまう。
まるで子供みたいだ。

ようやく嗚咽が落ちついた頃に、便箋と一緒に入れられていた紙を取り出した。
広げてみると、ちょうどエレンの掌と同じくらいの大きさだった。

そこには、黒いインクで小さな手形が押されていた。
ミカサの字で、「1歳記念日」と書かれてある。
その手形をそっとなでる。
ただの紙切れに、あの温度を感じたような気がした。

階段から足音が聞こえてきた。監視の交代の時間だ。
食事を持って、細身の若い兵が現れた。
先に居た監視兵に軽く挨拶をすると、鉄格子を開き、食事の載ったトレイを入口の床に置いた。
いつもの質素なスープとパンだ。
再び鍵がかけられたころに、トレイを取りに行く。

当番を終えた大柄の監視兵が、去り際にエレンに目をやる。
エレンがそれに気付き視線を返すと、監視兵は僅かに目を見開いた。
この数分間のエレンの変化に気付いたのだろうか。
そのまま監視兵はその場を去り、階段を上っていった。


もう、恐れない。

いつになるかは分からない。

トレイをテーブルに置き、棚の上に飾った手形と手紙を見つめた。

2年間、地下に誰も近づけなかったのも、極端に面会が少ないのも、エレンを衰弱させあわよくば死んでもらおうという上の企みなのだろう。

――お前等の思い通りになんかなってたまるか。

口を大きく開き、パンにかじりついた。

――俺は家畜じゃない。

しっかりとパンを噛みながら、スープを流し込む。
勢いをつけすぎて軽く咳きこんでしまった。
もともと量の少ない食事ではあったが、いつもより早く完食した。

空の皿とトレイを牢の入り口に置き、再びベッドへ戻った。

鉄格子越しに、監視兵を見つめる。
20代前半くらいだろうか。ふた月ほど前から監視を務めるようになった若い兵士だ。
まだ少し垢抜けなさが残っている。

「すみません」

「…なんだ、便所か」

「いえ、紙とペンを持っていませんか」

「…は?」

怪訝な顔で返される。

「何をするつもりだ…」

「手紙を書きたいんです」

ますます怪訝な顔をされた。

分かっている。書いたところで相手に渡されることはないだろう。
それでも、アルミンやミカサ達への想いを書き綴りたかった。

「ここに紙なんか無い。諦めろ」

「分かりました。じゃあ今度持ってきてください」

口を開けて呆然としている監視兵をよそに、エレンは棚の方に向き直った。
監視の兵とちゃんと会話をしたのは初めてだが、なんだかあの兵士はジャンに似ているな、と思った。

ベッドに仰向けに寝転がり、ふと、自分の唇に手を当てた。
まだあの柔らかい感触が残っている。

――一緒に、シガンシナに帰ろう?

「…ああ。」

天井の向こうの、地上に向かって呟く。
もう少しで届きそうなそこに、手を伸ばした。

「ああ、帰ろう。」

絶対に、帰る。

帰ったらもう一度、思いっきり、二人を抱きしめよう。
離れていた分、たくさん、一緒に過ごそう。
今度会えた時は、何をしてあげようか――。

エレンの口元に笑みが浮かぶ。
少しずつ、瞼が重くなってくる。
少し眠るのが惜しいと思いながらも、エレンの意識は闇に包まれていった。
その日見た夢は、いつもより幸福なものだった。

とりあえずここまで
当初の予定よりちょっと長引いてますがもうちょっとだけ続きます

きたー!

希望が見えてきたな…良かった
続き待ってる

すごく素敵ですー!

次の投下でラストになります。エピローグのようなものです。




「はわ~相変わらずもちもちしたほっぺですね~。食べちゃいたいです!うりゃうりゃ~!」

少女のきゃっきゃという笑い声が部屋中に響き渡った。

「おいサシャ遊んでんじゃねえぞ!盛りつけは終わったのかよ!」

「違いますよコニー、これは子守りです、ミカサのお手伝いですよ!遊んでません!」

子どもと一緒に床に転がりながら反論していると、ジャンが怒鳴りこんできた。

「おい誰だよサラダのトマト食ったやつ!!」

ずるずるとサシャの腕から抜け出てきた子どもに、アルミンが笑顔で話しかける。

「ほら、このお兄ちゃんの名前覚えてる?言ってごらん、ほら。うーまーづーら」

「うまぅあ~」

「おいアルミンてめぇ何言わせてんだ!」

「ジャン、怒鳴らないで。怯えてる」

「お、おう…すまん、ミカサ」

アルミンは子どもを引き寄せると、棚の上にある肖像画を手に取り、しゃがみ込んで目の高さを合わせた。

「これはもう分かるだろ?『おとうさん』」

アルミンから肖像画を受け取ると、肖像画を指差しながら言う。

「おとーしゃ」

「うん、よくできました~」

思わず目尻が下がってしまう。

「それさあ、エレンのことじゃなくて肖像画そのものを『おとうさん』だと思ってんじゃねえの」

「ち、違うよ!多分…。もう2歳だし父親の判別くらいできるだろ!」

せっかくモブリットさんに描いてもらったのに、と口を尖らせていると、突然名を呼ばれた。

「あうみん」

「ん?」

「はい」と言いながら肖像画を差し出してくる。

「あ、返してくれるの?ありがと~」

そう言いながら受け取ると、にんまりと得意げな笑顔を向けられた。
すぐに振り返り、とたとたと部屋を駆け回る。
あぁこれは父親のこと分かってないな…と、がくりと首を落とし、肖像画を棚の上に戻した。

「ぉかあしゃー」

「おいミカサ、呼ばれてるぞ」

「いま行く」

ミカサが動くよりも先に駆け寄られ、足にしがみつかれた。

腰を落とし、顔を近づけ互いの額をこつん、と当てる
皆に遊んでもらって機嫌が良いのか、母に向かってにっこりと笑った。
ミカサも笑い返し、優しく囁く。

「今日は素敵な誕生日プレゼントがあるよ」


* * *



二つの人影が、ガサガサと落ち葉や枝を踏みしめながら森の中を進んでいく。

「まだ目は痛むか」

「ええ、でも大分マシになってきました」

ふぅ、と息を吐きながら、目を覆っていた手を離す。

「太陽ってこんなに眩しかったんですね…」

眉間に皺を寄せ、薄く開いた視界から必死に外の様子を見ようとする。
3年間蝋燭の光だけで生活してきたエレンにとって、太陽の光は強すぎた。
馬車の移動中に目を休めていたが、森を歩くとなると目を閉じる訳にはいかない。
木々が作ってくれる影が有難かった。

「すぐに森を抜ける。歩き辛いだろうが耐えろ」

「…はい」

リヴァイの後ろ姿を見ながら、エレンは朝の出来事を思い出していた。


それは本当に突然の事だった。
今朝、いつものように目を覚ますと、ベッドの脇にリヴァイが立っていた。
心臓の止まる勢いで跳び起きたが、事態を把握するよりも先にリヴァイが指示を出した。

「着替えろ」

実に1年ぶりの声だったが、新しいシャツとズボンを投げ渡され、寝起きで回らない頭のまま指示に従った。
シャツを着替えたものの、ズボンに関しては足枷がついたままでは替えることができない。
戸惑っていると、リヴァイが鍵を取り出し足枷を外した。

思わず目を丸くする。
何故鍵を持っているのか。そもそも何故牢の中に居るのか。

「さっさと着替えろ」

急かされ、今度こそ全身を新しい服で纏った。

「荷物を詰めろ」

空のリュックを投げ渡される。
訳の分からぬまま、少しの着替えと、棚に飾っていたアルミンの手紙と子どもの手形、そして1年間書き溜めた手紙を丁寧に詰め込んだ。
リヴァイが部屋の隅を指差しながら言う。

「おい、アレもだ」

慌てて箒を手に取る。
それを確認すると、リヴァイは鉄格子の出入り口を潜り抜け、牢の中に居るエレンに向かって次の指示を出した。

「帰るぞ。」

呆けた状態のまま「え、え」と監視兵とリヴァイを交互に見る。
監視兵はいつものようにがっしりとした身体をピンと伸ばし、横目でエレンを見ていた。

その場から動こうとしないエレンに向かってリヴァイが小さく怒鳴る。

「早くしろ、グズ野郎」

その声に、反射的に鉄格子を潜り出た。
箒を掴んだまま胸にリュックを抱え、足早に階段を上って行くリヴァイの後を必死についていく。

息を切らしながら、ふと牢の方を振り返ると、監視兵がエレンに向かって小さく片手を上げていた。
唇の動きで、「またな」と言っているのが分かった。
壁に遮られる間際、その口元が笑っているように見えた。




少し光に目が慣れてきた頃、森を抜けると、ところどころに民家が見えてきた。
馬車を降りてからそう長い距離は歩いていないはずだが、長い間まともに動いていなかったエレンにはかなり堪えた。
目的地までの距離が気になり、息を切らしながら問う。

「兵長、あの…さっきから何処に向かっているんですか?」

「俺の班の拠点だ」

「リヴァイ班の拠点…」

真っ先にミカサとアルミンの顔が浮かぶ。

「ああ、お前の嫁と子どもがいるぞ」

「よっ…め、じゃ、ないですよ別に!」

「人前で2度も濃厚な接吻しておいて何言ってんだ。俺はてっきりあのまま2人目を作る気なのかと思ったぞ」

リヴァイの言葉に色々と突っ込みたかったが、顔から火が噴きそうになるのを抑えられなかった。

「あの時は…本当に、今生の別れだと…」

「…まあ、確かに、そうなっていた可能性もあったな」

若干からかい口調だったリヴァイの声が、急に落ちついた。
この1年の間にも、色々なことがあったのだろう。

「…アルミンに感謝しろ」

「それは…もちろんですよ。」

もちろんアルミンだけではない。リヴァイを含め、何人もの人物がこの日のために動いてくれたのだろう。
だが、エレンに生きる気力を与えてくれたという意味では、アルミンの功績は大きかった。

歩き疲れ、シャツにじんわりと汗が染み込んでいるのが分かった。
そういえば着替える時に気付いたが、今朝貰ったばかりのこのシャツは新品という訳ではなかった。

「……なんでまたジャンの服なんですか」

「お前の体格に一番合うのがあいつしかいないからだ。文句を言うな」

「いえ別に文句というわけでは…ないんですが…」

もごもごと喋りながら目を逸らした。

「…本当は4日前には迎えに行ってもよかったんだがな」

「え…なんでわざわざ遅らせたんですか」

「まぁ…気分だ。」

話しながら、一軒の家に近づいていく。
外が静かだからなのか、単に家の中が騒がしいのか、話し声が微かに聞こえてきた。
聞き覚えのある声が飛び交っているのが分かる。

胸が高鳴ると同時に、体に妙な緊張が走った。

考えてみれば、ミカサ以外の同期に会うのは3年ぶりだ。

どういう顔をすればいいんだ。
どう喋りかければいいんだ。

ついに扉の前まで来てしまった。
目に見えて焦り始めたエレンに、リヴァイが声をかける。

「…ひとつ面白いことを教えてやろう」

「え、何ですか」

「コニーに髪が生えている」

「は!?」

不覚にも大きい声を出してしまった。
家の中まで聞こえたのではないか、と焦ったが、中はかなり騒がしいらしい。

扉の向こうで、サシャと子どもがはしゃぐ声が聞こえてきた。
ミカサが子の名前を呼んでいる。

1年前に感じた、あの胸を灼くようなたまらない想いが、再び込み上げてくる。

そのまま立ちつくしていると、リヴァイが顎で促した。

「お前が開けろ」


少しためらいながら、扉の取っ手に手をかける。

取っ手を握る手に力を込め、手前に引く。

建て付けが悪いのか少し抵抗があったが、すぐに扉は開いた。


真っ先に、見覚えのある、くりくりとした大きな目に射抜かれる。

各々作業をしている大人たちの中に一人、小さな少女が佇んでいた。

小さな手で指をさされ、愛らしい声が、エレンの耳に届いた。


「おとーしゃ」



END

色々とベタでひねりの無い展開でしたが、ここまで読んでくれた方々、ありがとうございます。
原作の展開的に終盤で進撃のキャラがちゃんと生きてるのかも危ういですが、皆幸せになってほしいです。


面白かったです!

かえって来れて本当によかった
監視兵がベジータに見えたよ

ベジータwww
途中でも言われてましたが、若干「私は貝になりたい」のおっさんをイメージしてました

>>86らへん
http://i.imgur.com/J4oJHuM.jpg


とてもよかった

やたらアルミンアルミン気持ち悪い乙

本文も絵もすごく素敵でした。
終わってしまって寂しいです。

乙!
面白かったよ
ハッピーエンドで終われて良かった

普通に市販の小説を読んでる様な情感、読みやすさに終始心揺さぶられました
作者は内容云々おっしゃってるが、それを表現するセンスがすごく良いのだろうな
温かい良いお話をありがとう
乙でした!

ラフですがもう一枚だけ
http://i.imgur.com/WkFtzZT.jpg

感想をありがとうございます。
SSを書くのは初めてなのでこれでもかと言うほど辞書を引きまくりました。
拙い文でしたが最後までお付き合い頂きありがとうございました。

これで初めてとは・・・
キャラクターの特徴を掴んでいるし、
進撃の未来としてあっても違和感ない出来で
とても楽しませて頂きました。

次回作に期待!
最後のイラストにほのぼのしてしまった。

初ssとは思えぬ心揺さぶるクオリティ…!!
しかも絵も上手い……
本当に乙です>>1、そして監視兵に敬礼

いいものを見せてもらったよ

皆幸せに暮らせよ…マジで…


モブの監視兵がいいキャラしてたな

続編希望

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2014年02月16日 (日) 17:42:35   ID: 3AC_iJvJ

これフィルタ無効化しないとちゃんと読めない

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