志保「担当Pはおせっかいで困る」 (15)
志保「私ひとりで大抵のことはできるんだから、放っておいてくれればいいのに」
静香「あー、その気持ち分かるかも」
志保「スケジュールは目を通せば覚えられるし、仕事場だってひとりで行けるし、レッスンは集中したい。だから一々ついてこられても迷惑なのよ」
静香「うんうん」
志保「私には合わない、ああいう面倒見のいいだけのPは」
静香「私のところも似たようなものかな、Pには犬みたいに追いかけまわされて。んー、私は大丈夫だから助けが必要な人をサポートしてあげてっていつも思うわ」
志保「心配性なのよ、私だって子供じゃないんだから……」
静香「まったくだわ」
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志保「私、なべ焼きうどん」
静香「味噌煮込みうどんお願いします」
志保「…………」
静香「え、なに?」
志保「気、使ってない?」
静香「ええ?!」
志保「調理時間の長いなべ焼きうどん、それに合わせて同じく調理時間の長い味噌煮込みを合わせてきた」
静香「考えすぎだよ!」
志保「それ、Pさんにもよく言われる……」
静香「…………うん」
志保「別に考えすぎて困ることなんてないのに」
静香「(私がちょっと反応に困ってるよ)」
志保「私、けっこう安定して見えると思うんだけどな。なんてPさんはあんなに心配そうにするんだろう」
静香「まあ、仕事ってのもあるんじゃない」
志保「私のことが好きなのかな」
静香「ぶっ?!」
志保「でもPさんの担当にはもっと可愛い子いっぱいいるし」
静香「…………」
志保「いや好みのタイプは人それぞれだから」
静香「(集中力があるだけに自分の世界に没頭しやすいな、この子は)」
志保「せめてPさんがもうちょっと渋かったら」
静香「……好みのタイプは人それぞれよね、志保さん」
志保「なにより割れ物みたいに扱われるのが気に食わない」
静香「いいじゃない、優しくしてくれるなら」
志保「優しいって程度じゃないのよ、うちのPさんは」
静香「へえ、そうなの」
志保「この前の学園ドラマ、女王役やったじゃない」
静香「やってたわね」
志保「片手で竹刀を振りまわすシーンがあったんだけど、そのときPさんが監督に」
グリP「ムリ言うんじゃねぇ!普通の女子中学生が軽々と片手で竹刀を持てるかバカ野郎っ!」
志保「——って掴みかかって」
静香「……まあ確かに、竹刀は重いけど」
志保「人を病弱の女の子みたいに……、あれは見ている私が恥ずかしかった」
静香「学園ドラマって言えば、志保さんソロステージもやったよね」
志保「ああ、あれか」ギロッ
静香「志保さん、顔がっ、顔が怖い!」
志保「ステージ当日に衣装を渡されたのよ、てっきりドラマの制服で踊るのかと思っていたのに」
静香「フリフリで可愛かったよね〜、あの服」
志保「女王の驚き顔をリアルに映像にしたかったって……、それぐらい演技できるっちゅうに」ギリギリ
静香「り、臨場感は最高だったよ」
志保「これまたPさんが暴れるようにコールを入れてくるし」
静香「泣いて喜んでたね、志保さんの担当Pさん」
志保「そのあとみっちりしばいてやったわ」
静香「それ見てたよ。志保さん片手で竹刀を振り回してた」
志保「Pさんは私生活にも干渉してくるのよね」
静香「ああ、うちもそうだよ」
志保「あんたは私の親なのかと……」
静香「私の場合は実の両親がアイドル活動にあんまりいい顔してなくて。うっかりそのことをPさんに話してから、Pさんには何かと家のことを心配されちゃって」
志保「え、大丈夫?すごい心配なんだけど」
静香「だから大丈夫だって!」
志保「だって家に味方がいないんでしょ?」
静香「たしかに親と話すとちょっと消耗するけどね。いざってときはPさんもウチに来ればいいって言ってくれたし」
志保「…………ん?」
静香「あ…………」
志保「( ´_ゝ`)フーン」
静香「し、志保さんはどうなんです?」
志保「ウチのPさんの場合は交友関係にうるさいね。私いつもひとりだから、それを心配される」
静香「ああ、今日お昼が一緒になったのも偶然だしね」
志保「まさか同じ店で遭遇するとはねえ」
静香「まあ私の場合は、よくここのうどん屋には来るんだけど」
志保「常連さんか、美味しいんだココ」
静香「そうだね。私がうどんが好きってこともあるけれど」
志保「それならオススメとか教えてくれればいいのに」
静香「全部オススメだよ」
志保「…………」
静香「…………」
志保「なるほど」
静香「ちょっと私も心配かな、志保さんの学校生活は」
志保「気ままにやってるわよ。芸能活動はじめたら、学業なんてオマケだし」
静香「でも最低限の学力は身につけておかないと」
志保「記憶力いいから、勉強も得意なんだ」
静香「う、うらやましい……」
志保「だから心配事なんてないって。どうせ高校も芸能科に行くだろうし」
静香「高校進学かー、両親との亀裂の第一要因だわ」
志保「私もいまは公立の中学だけど。芸能科は楽そうだよね、仕事してる生徒がいっぱいいるだろうし。学校に登校しなくてもいいし、友達なんて作る人の方が少ないはず……」
静香「え?」
志保「ん?静香も忙しいから、あんまり学校に友達いないでしょ?」
静香「あ、いや。芸能活動を応援してくれる友達は何人か」
志保「…………あう?」
静香「ただでさえ親がうるさいのに、友達の応援がないとやってけないよ」
志保「…………」
静香「い、いるでしょ。志保さんにもひとりぐらいはそういう人!」
志保「……いない」
静香「いやいや!だってドラマで女王、主役級やったじゃん!知ってるでしょクラスメイトも!」
志保「う、うん……」
静香「あっちから話しかけてくるでしょ?!」
志保「ぜんぶ、無視した」
静香「なんでやねん!!」
志保「私からみんなに話せることなんて、そんなにないし」
静香「(し、心配だ……。高校、この子と同じとこに行こうかな)」
志保「……あ、あの」
静香「芸能界っ。アイドルの友達いっぱいできたもんね、大丈夫!」
志保「…………しゅん」
静香「私とか!……私とか!私とかいるから!」
志保「ううん、気を遣わないで。私にはPさんが。……あ、いや。ひとりで余裕だから」
静香「(とりあえず明日もお昼、志保さんと一緒に食べて……)」
志保「その……、ぬいぐるみがあったら落ち着けるしさ」
静香「(ダメっ、もうなに言っても強がりにしか聞こえない!)」
志保「なんで黙るの?つまんないかな私の話」
静香「いやいやいやいやいやいやいやいやいや!」
店員「大変お待たせしました、味噌煮込みうどんのお客様」
静香「あひぃ!」
静香「ズルズル……」
志保「…………」
静香「(落ち着いて考えろ静香。私のクラスメイトを紹介してみようか、私の出演している学園ドラマだし主役と言えば友達は喜んで会ってくれるはず。志保さんが会話が苦手だったら私も極力つきそってサポート。カラオケは大丈夫かな、さすがにアイドルだし人前で歌うことに抵抗ないよね志保さん。いやでもたまーにいるんだよね、私生活では人前で歌えない二重人格みたいな人が。志保さんはどっちなんだろう、どっちでもいいか、カラオケ止めるか。ボーリングにしとこうか、さすがに行ったことあるよね志保さん。どうしよう志保さんがボーリングに行ったことがない人だったら、シューズ借りるのに手間取ったり、踏み込み線超えちゃったり、ガーター連発しちゃったりしたら。志保さんプライド高そうだから傷つくかな、そしたら余計に塞ぎこんじゃうかな。そもそも志保さんスポーツ得意そうじゃないんだよな、演技やダンスのときも体が動かなくて難儀してたし。テニスとか行ったらハードル高いかな、下手な人ってレシーブすらできないからなあ。無難にショッピングにしとくか、服を見たり買い食いをしたり。あの気難しい千早さんですら、他のアイドルと休日に服を買いに行けたんだから。志保さんでもきっとできるはず。うん、きっとできるよ。きっとうまくいくよ。ああ、なつかしいなこの気持ち。以前、クラス委員をしたとき以来だ。どうしよう、なんかみなぎってきた)」
静香「あー、おいしいなー」
志保「あんまり美味しそうな顔に見えないんだけど」
店員「お待たせしました、鍋焼きうどん——」
静香「志保さんってぬいぐるみ好きなんだよね」ズルズル
志保「そうね、よく持ち歩くし家にもいっぱい」ズルズル
静香「志保さんのPさんにもぬいぐるみプレゼントされてたよね、打ち上げで」
志保「あー、人前で渡されて恥ずかしかったわ」
静香「それも普段持ち歩いているの?」
志保「あんまり見せびらかすとPさんが喜んでうるさいから、ベッドにおいてあるの」
静香「へえ、そうなんだ」
志保「Pさんのは、寝る前に抱きしめる用」
静香「(なんでこんなに可愛い子に友達がいないんだろう、……なんか涙が出てきた)」ズルズル
静香「そうなんだ志保さ、……いや志保ちゃんっ」クワッ
志保「ど、どうしたの静香。きゅうに目を見開いて」
静香「んふふふ……」
〜翌日〜
グリP「志保、飲み物いるか。筋肉痛は?この前は右足を少し引きずってたよな。分かるさ、ちゃんと見てるから!」
静香「志保ちゃん、ここのステップできそう?難しいわよね、このダンス。ちょっと合わせない?」
グリP「ノドは乾燥してないか、志保。アメあるぞ、のど飴。高音が出ないならムリするなよ!」
静香「サビのフレーズ高低差がすごいね、歌い切るには練習が必要そう。歌は得意だから分からないことがあったらなんでも私に聞いてね、ね!」
グリP「出演まで待ち時間が長いな、志保。トランプ持ってきているんだ、神経衰弱するか?志保記憶力いいから勝負にならないかなアハハハ。え、しっかり番組見てろ?すいませんっ!」
静香「今回の司会者、新人にも優しいからちゃんと拾ってもらいましょうね。無愛想な顔しちゃダメだよ志保ちゃん。愛想よく、愛想よく。え、私も?そうだね……」
グリP「志保、飯食いにいこうぜー。どうしよう、おごっちゃおうかな〜」チラッ
志保「す、すいません。今日もゆっくり、ひとりでご飯を」
静香「さあ行こうか志保ちゃん。昨日は私の好きな食べ物だったから、今日は志保ちゃんの好きな食べものね。あるよね、行きつけのお店ぐらい」グイッ
志保「おせっかいが一人増えてる!なんで?!」
おわりです、ありがとうございました!
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北沢志保(14)
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最上静香(14)
乙
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