アルミン「僕と皆とこれから」(37)
アルミン「心臓は約300グラム、脳は約1300グラム、魂は21グラム…僕は今だいたい55キロ」
ユミル「お前軽いな」
アルミン「小さいからね。筋肉がもう少しあればよかったんだけどな」
ユミル「あんだけ訓練してそれなら頭打ちだろ」
アルミン「…巨人は」
ユミル「は?」
アルミン「わからないことが多いよね」
ユミル「…まあな」
アルミン「臓器はもとより、魂の重さはわからない。魂があるのかすら」
アルミン「巨人に魂があるのなら何グラムなんだろう」
ユミル「さあな。そんなことはお前みたいな酔狂なやつしか考えないんじゃねえの」
アルミン「…僕はなんとなく人間と同じ21グラムのような気がするんだ」
ユミル「ほー?乙女な考えだな」
アルミン「乙女かな?もし、そうじゃないなら…」
「………」
ユミル「あぁ、大事な大事な親友様か」
アルミン「…ユミルはまだみてないんだっけ」
ユミル「エレンが巨人だったなんてな。意味がわからなくて傑作だ」
アルミン「巨人って…なんなんだろう」
ユミル「お前なあ」
ユミル「魂なんてもんは重さどころか存在すら見たこと無いぞ」
アルミン「うん、魂なんて所詮おとぎ話だよ。重さも眉唾だ。だから不思議なんだ」
ユミル「なにがだ?」
アルミン「僕らは心臓を捧げている。たった300グラム。芋2、3個分程度だ」
ユミル「サシャかよ」
アルミン「でも時に重く、時に驚くほど軽く感じるんだ」
ユミル「魂だの重さだのは感覚の問題ってことか」
アルミン「うん。21グラムはどれくらい軽いのかな…目にすらみえない、あるのかさえわからない。でも……」
ユミル「お前にとっちゃ軽くないんだろ」
アルミン「………うん」
ユミル「悪いけどな、慰めを求められても私には無理だぞ」
アルミン「ううん。僕こそ突然こんな話してごめんね」
ユミル「………なあ、なんで私に話した?」
アルミン「なんでだろうね。なんとなく他の人は慰めようと頑張ってくれる気がしたから…かな」
ユミル「じゃあご期待には添えたわけだ」
アルミン「どうだろう?」
ユミル「何で疑問系なんだよ」
アルミン「…ユミルがクリスタを怒らせたとして」
ユミル「クリスタがは滅多に怒らねえよ。いいこちゃんだからな」
アルミン「もしもだよ。謝る?」
ユミル「あー?知らねえ。謝らないときもあんだろ。私が正しいと思ってりゃな」
アルミン「じゃあ、笑わせる?」
ユミル「そりゃ泣かれたらな」
アルミン「だから疑問系」
ユミル「……お前、見た目に反してゲスいぞ」
アルミン「ユミルのちゃちゃの入れかたがうまいからだよ」
ユミル「勘違い甚だしいな」
アルミン「そう?」
ユミル「あのな、私だって間違えたら謝る。間違えとわかっててすることなんて腐るほどあるしな」
アルミン「正しいことだけじゃコトは進まないからね」
ユミル「正しいことがお好きな正義の味方もお人好しも貧乏くじだからな。私は私が一番好きなように生きたいだけだ」
アルミン「ユミルは…クリスタが大好きなんだね」
ユミル「お前話聞いてたか?」
アルミン「うん。女神も天使も利己的な幸せを望むべきってことは聞いてたよ」
ユミル「…話になんねぇな」
アルミン「僕はユミルと話すの嫌いじゃないな」
ユミル「さいですか」
アルミン「あっ!ねえ」
ユミル「んだよ!少しは黙ってブラッシン」バシャッ
ユミル「」
アルミン「…ごめん、後ろに水桶がって言おうとしたんだけど…」
ユミル「だー!今日は厄日かよ!もう馬は任せた!ブーツ乾かして来る!」
アルミン「滑らないように気を付けてね」
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コニー「おっアルミン!」
アルミン「どうしたの?」
コニー「これ、ミカサのジャケットじゃねえ?」
アルミン「そう…だね」
コニー「やっぱな!馬柵におきっぱなしだったぞ」
アルミン「忘れたのかな?」
コニー「知らねえ。ミカサ、最近ボーッとしてることあるもんな」
アルミン「うん…」
コニー「まあ、エレンがあんなんなっちまったししょうがねえけどよ」
コニー「アルミンは大丈夫か?」
アルミン「え」
コニー「?」
アルミン「あ…ごめん。心配されるのちょっと珍しくて」
コニー「はあ?」
アルミン「はは…どっちかっていうと僕がエレンやミカサの心配することが多かったから」
コニー「あーだろうなあ。つーか今も心配してんだろ?」
アルミン「うん…」
コニー「お前頭いいのにバカだよなー」
アルミン「バカなのかな?」
コニー「ミカサはともかくよ、エレンはなるようにしかならないだろ」
アルミン「そうなんだけどね」
コニー「…オレさ、調査兵団になるかかなり悩んだんだ。んで色んなやつと話した」
アルミン「僕やアニと話したときのこと?」
コニー「あんときもそーだな。サシャとかジャンとかにも色々聞いたんだ」
コニー「でもな、わかんなかった!」
コニー「考えれば考えるだけごちゃごちゃするしよ」
アルミン「うん…」
コニー「だからオレはなんも考えずに決めたんだ」
アルミン「なにも!?」
コニー「おう、決めるときに足がとどまったから調査兵団に入った」
アルミン「それが調査兵団に入った理由?」
コニー「おう!頭じゃわかんなくてもよ、どうしたいか決まってんだ。不思議とよ」
アルミン「…後悔は、してない?」
コニー「わかんねーよ。ただ、オレは決めたから頑張る。そんだけだ」
アルミン「コニーの21グラムは、きっと嘘をつかないんだね」
コニー「は?21グラム?」
アルミン「なんでもないよ」
コニー「エレンだってよ、殺されてたって変じゃなかっただろ」
アルミン「僕ですら生きてることが不思議なくらいだよ」
コニー「オレ、巨人は嫌いだけどよ」
アルミン「………」
コニー「あんときにエレンがいなきゃ死んでたってこと位はオレでもわかる。ああなったのはそう勝手になったんだ」
アルミン「コニー…」
コニー「感謝してるんだぜ?エレンに会ったらお礼言わないとなー」
アルミン「そうだね。僕もまだ言ってなかったな…」
コニー「あ!!」
アルミン「?」
コニー「お礼といやアニに本部ん時のまだ言ってねえ!あーくそっまた会えるか?」
アルミン「……ねえコニー、最後にアニと会話したの立体機動の確認のときだよね?」
コニー「そーだな」
アルミン「あの時さ、…アニにかわったところ無かった?」
コニー「いや?アイツはいつもあんなもんだろ。人を褒めるのは珍しいけどな」
アルミン「そう…だよね」
コニー「なんだよ」
アルミン「ううん。ただの気のせいだったみたいだ」
コニー「またなんか考えすぎてんのか」
アルミン「そうかも」
コニー「ま、オレが言いたいのは……なんだっけか」
アルミン「なるようになる?」
コニー「そうそう、それだ!」
アルミン「…僕は今までなにかを変えようと必死だったけど、コニーみたいな受け入れかたは出来てなかったのかもしれないな」
コニー「そういう難しいのはよくわかんねえけどよ。あんまり考えないの大切だと思うぞ」
アルミン「うん。僕の悪い癖だ」
コニー「んじゃ、オレ先にいくな」
アルミン「ジャケット、ミカサに渡しておくね」
コニー「おう」
アルミン「じゃあ、またあとでね!」
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ー
.
アルミン「いたいた!ミカサ!ジャケット忘れてるよ」
ミカサ「…気付かなかった」
アルミン「コニーが見つけてくれたんだ」
ミカサ「そう…」
「………」
アルミン「思い詰めた顔してるね。何かあった?」
ミカサ「アルミン、聞いてほしいことがある」
アルミン「…エレンのこと?」
ミカサ「そうだけど少し違う」
アルミン「なに?」
ミカサ「エレンとの子供をつくりたい」
アルミン「え!?」
ミカサ「ただ、いくつか問題や疑問が」
アルミン「待って!」
ミカサ「…まつ」
アルミン「待って、えーっと…結婚するには年齢が」
ミカサ「結婚はしなくても構わない」
アルミン「…付き合いは長いから冗談じゃないことはミカサを見たらわかるけど」
ミカサ「私は本気」
アルミン「なんで、突然?」
ミカサ「…エレンも私もいつ死ぬかわからないから」
アルミン「………ミカサ、座って話そう。ゆっくり話を聞きたいんだ。構わない?」
ミカサ「ええ」
……………
アルミン「ミカサは兵士をやめたい訳じゃないんだよね」
ミカサ「今、やめたくはない」
アルミン「エレンと結婚したいわけでもない」
ミカサ「私の感情はまだ定まっていない。例えエレンに恋愛感情を持っていても子供とは関係ない」
アルミン「関係ない?」
ミカサ「私は考えて子供をつくるのが今一番いいと思っただけ」
アルミン「そうなんだ。ならもう一度、今度は僕と一緒に考えてみようか」
ミカサ「答えあわせのよう」
アルミン「そうだね。嫌?」
ミカサ「…助かる。私一人じゃ見落としがあるかもしれない」
アルミン「じゃあ、切っ掛けは?」
ミカサ「最初はエレンが死んだときいたとき。…私も死んでも構わないと思った」
アルミン「うん」
ミカサ「でも、エレンの思い出すら消えるのは怖かった」
ミカサ「次にエレンが生きていたとき。嬉しくて…やはり怖かった」
アルミン「怖かった?」
ミカサ「エレンを残して死のうとした自分も、またあの絶望感をいつか味わうのも怖かった」
アルミン「そっか…」
ミカサ「私は家族を殺されている。実の両親もおばさんも…失意のなかで亡くなった」
ミカサ「だからエレンを守ると決めたのにこの体たらく」
アルミン「ミカサは強くなったよ」
ミカサ「それだけでは意味がない」
アルミン「だから、子供?」
ミカサ「…エレンの思い出、家族の役目をその子に託せたら。その子が生きていてくれたら…私は生き残っても死んでも悔いはないだろう」
ミカサ「エレンも、もしかしたら…その子のために無茶をしなくなるのではという期待もある」
アルミン「うん」
ミカサ「私、間違っている?」
アルミン「ううん。一生懸命考えたのは伝わったよ。でも、ミカサは納得しきれていないから僕に先に話したんだね?…止めてほしかった?」
ミカサ「………アルミンは誤魔化せない」
アルミン「そんな顔しないで」
ミカサ「私が考えた最善はこれ。ただ、何かが違っているのはわかっている」
アルミン「………エレンを最後に見たのはいつだっけ」
ミカサ「もう、10日会えていない。こんなに長く離れるのは初めて」
アルミン「最後にみたエレンはボロボロだったしね」
ミカサ「あのチビ…!」
アルミン「落ち着いて!」
ミカサ「頑張る」
アルミン「マフラー」
ミカサ「マフラー?」
アルミン「ジャケットは忘れてもマフラーは忘れなかったんだ…最近はずしてないよね?」
ミカサ「……最近なぜだか外せない。外すと不安になる」
アルミン「ミカサは寂しかったんだね」
ミカサ「!」
アルミン「コニーがなるようになる、考えすぎるなって言ってたけど…ミカサを見たらよく意味がわかったよ」
アルミン「考えて気をまぎらわせても解決にはならないんだ」
ミカサ「アル、ミン」
アルミン「僕で悪いけど手を握っていい?」
ミカサ「………かまわない」
アルミン「大丈夫、同じ兵団に入ったんだからすぐまた会えるよ。エレンはきっといつもと変わらずに声をかけてくれる」
ミカサ「エレンは、こんな私を見ても幻滅しないだろうか?」
アルミン「するわけないよ。むしろ安心するかもね」
ミカサ「なぜ」
アルミン「こんな時のミカサは普通の女の子だから」
ミカサ「エレンは私をそんな風に見てはいないと思う」
アルミン「はは、ミカサがこういう部分を見せたがらないからだよ」
ミカサ「?わからない…」
アルミン「いつか、エレンにもその弱くて素直なミカサをみせてあげて」
ミカサ「難しい話」
アルミン「立体機動より簡単だよ」
ミカサ「…やはり子供はやめておく」
アルミン「それがいいと思うよ」
ミカサ「エレンを信じてまつ。会えたらそのときまた考える」
アルミン「楽しみだね」
ミカサ「楽しみ?」
アルミン「会えずにクヨクヨするより、会えたらを考えてワクワクしたほうがずっといいよ」
ミカサ「そう、なら楽しみ」
アルミン「その調子!さ、そろそろ食事の時間だ」
ミカサ「アルミン」
アルミン「ん?」
ミカサ「ありがとう」
アルミン「あはは、お礼なんていいよ」
ミカサ「そういうわけにはいかない」
アルミン「僕はミカサの力になれて嬉しいんだから気にしないで」
ミカサ「…ならば私はいつかアルミンの力になろう」
アルミン「ミカサの恩返し?」
ミカサ「そう」
アルミン「義理堅い21グラムだね」
ミカサ「21グラム…魂の話?」
アルミン「!よく覚えてたね」
ミカサ「アルミンがしてくれる話は昔から興味深い」
アルミン「そうかな。じゃあこんな話は知ってる?」
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ー
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「不謹慎なんだけどこの暮らしを少し楽しんでいる僕がいるんだ」
「ああ」
「山奥で少ない食料で沢山のことに追い詰められているのに…皆がいるから」
「………色々と思い出すな」
「………」
「エレン、僕は君を守れないかもしれない」
「なんだ急に」
「単純に君のほうが強いし、リヴァイ兵長やミカサのほうが僕より君を守れるはずだ」
「…アルミンにしちゃ弱気だな」
「心臓を捧げる覚悟はいつでもあるんだ、でも」
「出来ることならば生きて生きて…一緒に僕らの夢を叶えたい」
「壁の外の世界か…」
「うん。僕には生きて見たいものは山ほどある」
「アルミンは昔から好奇心のかたまりだもんな。そこはずっと変わらない部分だ」
「オレは…生きていてほしい。アルミンもミカサも皆」
「オレのために誰かが死ぬのはもういやなんだ」
「………うん」
「オレはもう誰も死なせるつもりはねえ。この力だってそのためにあると思ってる」
「だから」
「強くなってやる!絶対に………!」
おわり
ありがとうございましたー
乙!なんか考えさせられた
こういうの大好きだわ
乙
いいね乙
ミカサの突拍子もない発想と断片的な口調から「ミカサは寂しかったんだね」の出口を見つけるアルミンに泣けた…
分かって貰えるっていいな
すごく良い話でした乙乙!
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