「日本シリーズは、『SOS団一日団長』を賭けて戦ってもらいます!」
うららかな土曜の昼下がり、我が家のリビングに詰め掛けたSOS団+αを前に、ハルヒが妙なことを宣言しやがった。
「ハルヒ、ソフトバンクを応援してるやつが誰なのか知ってるのか?」
「もちろんよ、橘さんでしょ? 古泉くんから聞いたわ」
「おい」
「何よ」
「お前はいつから団長職に執着しなくなったんだ?」
古泉はともかくとしてだ。SOS団の部外者である橘に、団長の座が渡るかもしれないんだぞ。それなのに、どうしてお前はそんなに平然としていられるんだ。
それに、たった一日とはいえ、お前が団長の座を他の奴に渡すなんておかしいぞ。涼宮ハルヒありきのSOS団なんだろ? それなのに、お前自身が団長職を明け渡すようなことを言い出すなんて、気でも違ったのか?
「何を言い出すかと思えば、そんなこと?」
そんなこととは何だ。これでも俺は、平団員として所属団体の未来を憂慮してだな――
「キョン、あんたでも一日署長くらい知ってるわよね?」
「ああ、知ってるが」
「あの人たちって、別に『一日だけ署長職を務める人』じゃなくて、『一日署長』って役職なのよ」
意味がわからんぞ。もっとわかりやすく言え。
「だーかーらー! 一日署長が来たからって、本物の署長がいなくなるわけじゃないの! 一日署長が来てる日でも、署長は署長として働いてるの! だから、一日団長を任命したとしても、あたしはずっとSOS団の団長なの! わかった?」
尚もハルヒはまくしたてる。
「まったく、あんたも字面だけで中身を判断するようなことは止めなさい。もし一日署長に署長権限なんか持たせる世界があったら、適当な人を一日法務大臣に任命しちゃって、死刑執行のハンコをポンポン捺印させちゃうようなことが横行するわよ」
大臣の件はとこかくとして、お前の言いたいことは何となくわかった。だが、どうしてそんなことを提案する気になったんだ?
「SOS団の団長にふさわしいのはあたしだけよ。それは間違いないわ。でもね、あたし以外の人が団長をやったらどうなるのかなって思ったのよ」
だからと言っていきなり一日団長をさせるというのはどうなんだろうか。まあ、ハルヒらしいといえばハルヒらしいのかもしれんが。
俺の不安をよそに、日本シリーズの幕は切って落とされようとしていた。
33-4
※このスッドレは『涼宮ハルヒの憂鬱』シリーズに登場したキャラクターが、SOS団一日団長を賭けて担当チームを応援するスレです。
※原作『涼宮ハルヒの驚愕』までのネタバレがあるかもしれません。アニメだけしか観ていない方はご注意下さい。
※話の流れは実際の試合展開に順じます。
→ フジテレビ系列の地上波で視聴できます。
【主な登場人物】
・古泉一樹:中日ドラゴンズファン
・橘京子:福岡ソフトバンクホークスファン
・キョン:読売ジャイアンツファン
・佐々木さん:北海道日本ハムファイターズファン
>>6
なんでや! 阪神関係ないやろ!
一回表 鷹0-0竜 一死 P:和田
荒木 からさん
「ソフトバンクの先発は和田なんだな」
「ええ、シーズン中でもCSでも和田さんは好投してますからね。順当です」
橘の言う通り、ストレートを中心にぐいぐい攻めてきている。
荒木も粘っていたんだが、結局は三振に倒れてしまった。
「中日さんは右バッターが多いのですが、和田さんは右相手の方が成績いいので心配ないのです!」
一回表 鷹0-0竜 チェンジ P:和田
井端 遊ゴ
森野 みのさん
「さすが和田さんですね! 三者凡退でした!」
球数は要したものの、ふたつの三振を含む三者凡退に切って取った。
さすがパリーグを代表する好投手といったところだろう。
一回表 鷹0-0竜 二死二塁 P:チェン
川崎 二安
本多 投犠打
内川 遊ゴ
「中日の先発は吉見じゃないんだな」
「ええ、そのようですね。しかしチェン投手もCS第二戦で好投していますので、大勢に影響はないでしょう」
なるほどな。……とはいえ、先頭の川崎には内野安打を打たれ、続く本多には送りバントを決められてしまった。
「チェン投手のフォームが少し硬いようにも見えますね。そして中軸ですか……、何としても踏ん張ってもらいたいところですね」
内川は初球攻撃で倒れたものの、つきは四番でキャプテンの小久保だ。初回からいきなり得点機になっちまったか。
>>23
松田「えっ」
一回裏 鷹0-0竜 チェンジ P:チェン
小久保 遊ゴ
「うーん、惜しかったですね」
橘が大袈裟に溜息をついている。あまり悔しそうでないのは気のせいでもないのだろう。
「ソフトバンクは調子良さそうだな」
「もちろんですよ、7度目の正直でCS突破したのですから、調子悪いはずがないです」
7度目のCSを勝ち上がり、8年ぶりの日本シリーズ出場だったか。
ソフトバンクも苦労していたんだな……。
二回表 鷹0-0竜 二死 P:和田
ブランコ からさん
和田 みのさん
「和田は見逃し三振か」
「和田選手はボールと思ったようですね。しかしストライクとは、ここは和田投手のコントロールを褒めるしかありませんね」
「さすが和田さんですね! さすがです!」
お前ら、紛らわしいぞ。
日本シリーズがナイトゲームだと思ってる人かなりいそう
二回表 鷹0-0竜 チェンジ P:和田
谷繁 からさん
「ふむ……、この回は三者三振ですか」
「ここまで5三振ですね。今日の和田さんは絶好調みたいです」
二回までで、5三振かよ……。
中日打線が低調とはいえ、和田のピッチングはすごいな。
>>42
日本シリーズがデーゲームで開催されるのは、15年ぶりくらいだそうですね。
二回裏 鷹0-0竜 チェンジ P:チェン
小久保 からさん
長谷川 みのさん
多村 一ゴ
「長谷川のラストボールもストライクなのか」
「少々高いようにも見えたのですが、判定はストライクでしたね。今日の主審はゾーンが広いのかもしれません」
初回こそ得点圏にランナーを進められてしまったが、この回は三者凡退に抑えた。
和田と比べてしまうと、少しばかりコントロールが乱れているようにも感じられるが、チェンも好投しているようだ。
三回表 鷹0-0竜 チェンジ P:和田
平田 左飛
小池 一ゴ
大島 みのさん
「お、平田が打ったか?」
「いえ、もう一伸び足りなかったようですね。平田選手も巧く掬い上げたのですが」
平田の打球はフェンス手前のウォーニングゾーンまで飛んだのだが、レフトの福田に捕られてしまった。
そして、和田はそれに動揺することもなく、後続をピシャリと抑えている。
中日としては攻撃の糸口を掴みたいところなのだろうが、それさえも和田の投球の前に断たれてしまっているという感じだ。
三回裏 鷹0-0竜 二死二塁 P:チェン
福田 二ゴ
細川 からさん
川崎 中安
本多 (川崎盗塁成功)
「やりました! 川崎さんがヒットで出ましたよ」
「チェン投手も慎重に攻めていたのですが、変化球を巧く運ばれてしまいましたね」
しかし、ツーアウトでランナー一塁か。ソフトバンクとすれば得意の機動力が――
「ムネリンが盗塁成功ですね! さすがなのです!」
谷繁も速い送球をしていたんだが、コースが僅かにずれちまったようだ。これでソフトバンクは初回に続いてチャンスを迎えたことになるのか。
三回裏 鷹0-0竜 チェンジ P:チェン
本多 からさん
「おおっ! さすがチェン投手ですね。このピンチで三振とは、さすがですよ」
高めから落ちてくるスライダーに、本多はタイミングが合わなかったようだ。
今までがストレート主体だっただけに、スライダーの連投は読めなかったのかもしれないな。
四回表 鷹0-0竜 チェンジ P:和田
荒木 遊ゴ
井端 中飛
森野 中飛
「森野の打球は落ちなかったか」
「長谷川さんは守備範囲も広いですからね。それに、和田さんはこの回5球で抑えちゃいました。球数も抑えられたし、いい流れです」
初回はファウルで粘っていたアライバコンビも、この回は初球攻撃だったな。
三振を警戒してなのかもしれんが、勝負を早めるとますます和田が楽になるような気もするぞ。
四回裏 鷹0-0竜 一死一二塁 P:チェン
内川 一邪飛
松田 中安
小久保 よんたま(松田盗塁成功)
「松田は調子良さそうだな」
「松田さんは打率もホームランも盗塁もすごいですからね。それに、今年は怪我しなかったことが嬉しいです」
そういや、松田は怪我で離脱することが多かったか。
松田の離脱がなかったことも、ソフトバンクの躍進に一役買っていたのかも知れん。
四回裏 鷹1-0竜 二死一二塁 P:チェン
長谷川 中タイムリー!
多村 からさん
「♪わっしょい わっしょい! はっせがわ!」
橘がチャンステーマに合わせて踊っている。まったく、賑やかなことだ。
「長谷川選手も打率三割近い成績を残す怖いバッターですね。油断せず、慎重に――」
「やりました! 長谷川さんさすがです!」
左対左の勝負だってのに、うまくセンター前に運んだか。
さすがソフトバンクの攻撃力ってところだな。
四回裏 鷹1-0竜 チェンジ P:チェン
福田 からさん
「あー、一点どまりでしたか」
ソフトバンクが一点しか取れなかったというよりも、中日バッテリーがよく一点で凌いだって感じだな。
「チェン投手も、ストレートが浮いてしまうなど、コントロールに苦しんでいるようですが、なんとか最小失点に留めてくれたようですね」
連打を浴びればビッグイニングになりかねなかった展開だけに、後続を抑えたのは大きいだろう。
しかし、今日の和田では、一点のビハインドでさえ重くのしかかってきそうだ。
五回表 鷹1-0竜 一死一塁 P:和田
ブランコ 遊ゴ
和田 よんたま
「おお、和田選手はフォアボールを選びましたね」
「これで中日とすれば初めてランナーが出たのか」
「まだノーヒットではありますが、この走者を足がかりにして、和田投手にプレッシャーを与えて欲しいものですね」
しかし、相変わらずややこしい会話になるな。
五回表 鷹1-0竜 チェンジ P:和田
谷繁 中飛
平田 中飛
「谷繁さんには粘られちゃいましたけど、和田さんも動じなかったですね」
谷繁の打席では、ツーボールノーストライクとカウントを崩しかけた和田だったが、
その直後に平行カウントまで戻すところはさすがといったところだろうか。
五回裏 鷹1-0竜 チェンジ P:チェン
細川 遊飛
川崎 からさん
本多 みのさん
前の回では失点を許したチェンだったが、この回は外を中心にした攻めで三者凡退に打ち取った。
「チェン投手も持ち直したようですね。硬さも抜けて、フォームにも本来のしなりが見られるようです」
中盤を迎えてなおストレート主体のピッチングをしているわけだから、打者視点では伸びもすごいのだろう。
この試合もロースコアの競り合いになりそうだ。
六回表 鷹1-0竜 二死二塁 P:和田
小池 遊失
大島 投犠打
荒木 右飛
「この打球はムネリンの正面――ええっ!」
バウンドが合わなかったのか、ショート正面の打球を川崎が右へ逸らしてしまった。
「エラーとはいえ、ランナーに変わりありません。接戦ではミスが勝負をわけることも大いにありますからね」
続く大島はしっかり送って、これでワンナウト二塁となった。
中日はこの試合始めての得点機を迎えたわけだが、和田からタイムリーを放てるのか見ものだな。
六回表 鷹1-0竜 チェンジ P:和田
井端 よんたま
森野 三邪飛
「うぅー、フォアボールですか……」
橘が悔しそうに呻いている。まあ、和田のラストボールもストライクと言われてもおかしくないコースだったからな。
「そして森野選手ですか。ここまで和田投手にタイミングが合っていなかったようですが――」
古泉の不安は的中し、森野はファウルフライに倒れたか。
中日とすれば一本でもヒットが出ればという場面だったが、ノーヒットを続ける和田に阻止されちまったな。
六回裏 鷹1-0竜 チェンジ P:チェン
内川 二飛
松田 三邪飛(森野好捕!)
小久保 右飛
「おや、松田選手が打ち上げましたね」
「これならスタンドに入るんじゃ……ええーっ、捕っちゃったんですか?」
森野が体を伸ばして、スタンドに入ろうかというフライをもぎ取ってしまった。
「このプレイはチェン投手を助けましたね。松田選手は一発のあるバッターですので、森野選手の好プレイは大きいですよ」
しかし、内川がノーヒットなんだな。
チェンの好投もあるのだろうが、谷繁のリードに惑わされているのだろうか。
七回表 鷹1-1竜 一死 P:和田
ブランコ 二ゴ
和田 右ホームラン!
「ブランコも大振りだな」
「ホームランを狙っているのだと思いますが、しかし、和田投手のキレに抑えられてしまいましたね」
続く和田もホームランを期待できるバッターだが、今シーズンは不振が長引いて――おおっ! マジでか!
「初ヒットがホームランとは! さすが和田選手ですね! ここ一番というときに光り輝くバッティングを見せてくれますよ!」
古泉……、お前の賛辞を素直に受け入れられないのは、俺が悪いのか?
七回表 鷹1-1竜 チェンジ P:和田
谷繁 一ゴ
平田 からさん
この回、ホームランを打たれてしまった和田だったが、後続はしっかりと抑えたようだ。
「和田さんにはホームランを打たれちゃいましたけど、和田さんもすぐに立ち直ってくれたみたいですね。追いつかれちゃいましたけど、まだこれからです!」
橘、追いつかれてショックなのはわかる。
だが、混乱を招くような発言はやめてくれ……。
七回裏 鷹1-1竜 無死一塁 P:チェン
長谷川 よんたま
「ふむ……、先頭にフォアボールですか。いけませんね」
追いついた直後の回だってのに、先頭打者にフォアボールか。中日とすれば、嫌なランナーを出しちまったな。
「長谷川さんは盗塁もできるのです。持ち味の機動力を発揮してもらいたいですね!」
中日とすれば、単独スチールやエンドランも警戒しなくちゃならない場面か。苦しいところだな。
七回裏 鷹1-1竜 チェンジ P:チェン
多村 からさん
福田 からさん(福田盗塁死)
「バントしなかったのか」
「長谷川さんには盗塁がありますし、多村さんには長打力があるので、バントしなかったのかもです」
結局ランナーは進めずに、ワンナウトか。
「アウトは増えちゃいましたけど、盗塁のチャンスだってありますし、福田さんはセーフティだってできますから、まだまだ大丈夫です」
ソフトバンクには、いろいろと選択肢があるってことか。だからこそ迷いも生まれる――って、三振ゲッツーかよ。
「あ、あれ……?」
ノーアウトのランナーが出た場面だったが、ソフトバンクとしては作戦がうまくはまらなかったって感じだな。
八回表 鷹1-1竜 二死一塁 P:和田
小池 中安
大島 遊ゴ(二塁封殺)
荒木 一邪飛
「小池があっさり打っちまったな」
「外のストレートを綺麗に弾き返しましたね。終盤を迎えたことで、さすがの和田投手も少し球威が落ちたのかもしれません」
続く大島は送りバントを狙ったのだが、ツーストライクと追い込まれ、結局はショートゴロに倒れてしまった。
「……いけませんね。大島選手はCSでもバント失敗がありました。僅差のゲームであるだけに、しっかりと送ってもらいたかったものです」
荒木もフライアウトで、ツーアウト一塁か。さっきのソフトバンクと同じような流れになっちまったな。
八回表 鷹1-1竜 チェンジ P:和田
井端 からさん(大島盗塁成功、ハーフスイング)
「際どいタイミングでしたが、盗塁が成功したようですね」
「細川さんのスローイングも良かったのですけど……。やっぱり移籍一年目だから、ピッチャーとの呼吸が合いづらいのかもです」
「なんだよ、細川は盗塁刺せてないのか?」
「ええ……、盗塁阻止率は一割八分くらいですね。ちょっと良くないです」
盗塁の多いチームに居て、一割八分か。橘の言う通り、あまり阻止率は良くないな。
中日とすれば、盗塁を足がかりにしやすいってことなのかも知れん。
八回裏 鷹1-1竜 チェンジ P:チェン
細川 → OTZ みのさん
川崎 二ゴ
本多 投ゴ(チェン好捕!)
「すごいな、あれを捕ったのか」
本多の放ったセンター前に抜けようかという痛烈なゴロを、チェンがもぎ取ってしまった。
「抜けていれば、本多さんの盗塁と内川さんのタイムリーで一点取れるかもって場面だったのですけど……」
ソフトバンクはツーアウトからでも得点を期待できるだけに、チェンの好プレイには歯痒い思いを抱いただろうな。
九回表 鷹1-1竜 チェンジ P:ファルケンボーグ
森野 二飛
ブランコ みのさん
和田 二ゴ
※OTZ → 山崎(捕)
「和田は交代しちまったか」
「もう120球近く投げてますし、仕方ないです。次の試合もありますから。でも、ホークスは中継ぎのピッチャーもすごいのですよ」
橘の言う通り、交代したファルケンボーグは中日の中軸を三人で抑えてしまった。
「2メートルの長身から投げ下ろすストレートに、フォークを交えるピッチングが持ち味ですね。タイミングを外すカーブもあるので、バッターはすごく打ちづらいと思いますよ」
さっきホームランを打っていた和田も、外のストレートを引っ掛けたくらいだからな。相当打ちづらいのだろう。
九回裏 鷹1-1竜 二死一二塁 P:浅尾
内川 遊ゴ
松田 からさん
小久保 遊失(荒木悪送球、代走:明石)
長谷川 敬遠
「松田のスイングはすごかったな……」
「結局は三振だったのですけど、追い込まれるまでのスイングは『当たればホームラン』って感じでしたね」
ソフトバンクは積極的だな。しかし、フォークを連投した浅尾に軍配が――おおっ、ここでエラーかよ。
「すごいすごい! 荒木さんがまさかって感じですけど、次はCSの第三戦でサヨナラタイムリーを打った長谷川さんですからね! 一気にサヨナラも……って、敬遠ですかー!?」
左の長谷川よりも、右の多村ってことなんだろうが、ソフトバンクとすれば、調子のいい長谷川を敬遠されたのは悔しいだろうな。
九回裏 鷹1-1竜 チェンジ P:浅尾
多村 遊直
「キャー! えっ? あぁー……」
多村は初球を狙ったのだが、ショートへのライナーに倒れてしまった。
何というか、橘の叫び声が状況をよく表していると思う……。
十回表 鷹1-2竜 二死一塁 P:馬原
谷繁 右飛
平田 二飛
小池 左ホームラン!
大島 三内安(バントヒット)
「もう馬原が出てくるのか」
「延長十五回まで考えられる試合なのですけど、ファルケンボーグさんはCSの投球練習で足を痛めちゃったのでロングリリーフは避けたのかもですね」
登板した馬原だが、調子はあまりよくないようだ。
「馬原さん、今シーズンの開幕直前にお母さんを亡くしちゃって……。開幕してからもすごく調子が悪かったんです。でも、そういう不振を振り切って、また抑えとしてがんばってくれてるんです。だからあたし、馬原さんががんばってくれてる姿が本当に嬉しくて……」
なるほど、いい話だと思う。
しかし、橘の流す涙は馬原の力投のためなのか、小池に打たれたホームランのためなのか、判断に迷うところだな……。
十回表 鷹1-2竜 チェンジ P:馬原
荒木 (大島盗塁死)
ソフトバンクの攻撃に、耐え忍んでいるという展開が続いていたが、小池のホームランでようやく中日がリードを奪った。
「次の回は岩瀬なのか?」
「浅尾投手が続投するようですね。岩瀬投手は川崎選手の場面で出てくるのかもしれません」
ソフトバンクには、まだ松中もカブレラも残っているだけに、中日も気が抜けないな。
十回裏 鷹1-2竜 二死 P:浅尾
松中 からさん
カブレラ みのさん
「松中は三振か。CSじゃ満塁ホームランも打ってたんだが」
「大丈夫です。CSでも第三戦でリードを奪われちゃいましたが、それでも涌井さんを打ち崩して追いついたのです。きっと今日だって――」
橘の願いも及ばず、カブレラも三振に倒れてしまった。
「大丈夫です……」
しかも、ここで岩瀬に交代かよ。落合は容赦ねえな。
まあ、それが落合らしさってことなのかもしれんが。
十回裏 鷹1-2竜 チェンジ P:浅尾 → 岩瀬
川崎 からさん
「さすが岩瀬投手です。磐石のリレーでしたね」
「そんなぁ……」
古泉にとっても、橘にとっても、まさかという試合展開だったろう。
序盤こそ優勢に試合を進めていたソフトバンクだったが、五回以降ノーヒットに抑えられてしまった。
一方の中日といえば、あれほどの劣勢を耐え忍び、二本のホームランで勝利をもぎ取ったのだ。
戦前は、ソフトバンク優位と言われていた日本シリーズだったが、その初戦をとったのは中日だった。
今年のシリーズも去年と同じように、波乱が待ち受けていそうだな。
お疲れ様でした!
和田投手の好投に、6回までノーヒットに抑えられていた中日でしたが、
要所で飛び出したホームランによって、吉見を温存した初戦を勝ち取りました。
しかし、ソフトバンクの地力は、12球団一とも言われております。
第二戦以降の巻き返しがどうなるか、また中日がどういなすのか、楽しみになってしまいます。
本日はお付き合いいただきましてありがとうございました。
次の試合ですが、明日の18:10頃にスレ立てしようと思っております。
最後になりますが、多くのご支援ありがとうございました。
また次の試合でもお付き合い頂けますと幸いです。
日本シリーズ第一戦は、中日が二本のホームランでソフトバンクに競り勝った。
その劇的な展開に余韻はなかなか冷めることなく、ハルヒたちは古泉の呼び寄せたタクシーに乗り込んでからも、まだ試合について話しているようだった。
そして、俺もいつものように、佐々木を家まで送り届けているのだが――
「佐々木、CSの時は悪かった。野球にかまけて、お前の相手をしてやれなかったな」
「いや、それはいいのだよ。キョンが野球を楽しんでいる間、僕は涼宮さんや朝比奈さんと友誼を深めていたのだからね」
「…………」
「そうだったのか。申し訳なくもあるんだが、お前が楽しかったなら良かったよ」
「ふふ、そうだね。小学生の頃に憧れていた涼宮さんと同じ立場で話せたことは、実に楽しかったよ。それに、キョンの意外な一面も見えたことだしね」
「…………」
「意外な一面?」
「キョンは、自分をニヒリストであるかのように見せようとしている傾向があるけれど、野球を見ている時はそんな気配もなくなってしまうのだね。野球に熱中している姿を見てしまっては、やはりキミには男の子の血が流れているのだなと思わされたものだよ」
「…………」
「お前からそんなことを言われると――すまん佐々木、ちょっといいか?」
「もちろんさ、キミの好きにしたまえ」
俺は佐々木に断りと入れると、すぐ後ろを歩く人物へと振り返った。
「あれ? 何ですか?」
視線を向けられた橘は、驚いたように目を丸くしていた。
「何でお前がここにいる」
「えっ? あたしここに居ちゃいけませんでした?」
居て良いとか悪いとか、どこぞのアニメで取りざたされているような問題じゃないと思うのだが……。
「いや、そうじゃなくて。お前の家はこっちじゃないだろ」
「あー、そのことですか。それなら問題ないです」
なぜだ。
「あたし、今日は佐々木さんの家にお泊りするのです」
「キョン、彼女の言葉に嘘はない。これは以前から橘さんにお願いされていたことなのだ。そして、たまたま今日がその日だったというだけさ」
「どうして佐々木の家に泊まるんだ?」
「どうしてもこうしてもないですよ。お泊りしたって普通じゃないですか、あたしと佐々木さんはお友達なのですから――それとも親友って言ったほうがいいですかね?」
話題を振られた佐々木は、なぜか口ごもっている。
「ふふ、冗談ですよ。佐々木さんにとって親友は一人だけですよね」
ニヤニヤと意味ありげな笑みを浮かべる橘は、佐々木から俺へと視線をめぐらせる。
親友という単語をやたらと強調しているあたり、何か含みのある発言なのだろうが、その真意についてはわかるはずもない。
佐々木ならばと思い、隣を見やると――なぜだろうか、俯き加減の佐々木は、頬を赤く染めていた。
こうして佐々木の家の前まで到着した時のことである。
橘が突然、素っ頓狂な声をあげたのだ。
「あー! あたしってば歯ブラシ持ってくるの忘れちゃいました!」
「それなら、ウチに買い置きがあるから――」
「いいえ、佐々木さんの使っている歯ブラシをお借りするなんてできないですよ!」
「えっ? いや、わたしの歯ブラシじゃなくて、家には誰も使っていないスペアの歯ブラシがあるから――」
「そういうわけで近くのコンビニで買ってきます! ちょっとこの人借りますね!」
戸惑う佐々木を尻目に、俺の右手首を引っ掴んだ橘は脱兎の如く走り出す。
何なんだよ、まったく……。
「ふぅ……、ここまで来れば大丈夫かな」
追っ手が迫っているわけでもないというのに、橘は大袈裟に後ろを振り返り、息をついた。
「おい、あんな三文芝居までして、どうして俺を連れ出したんだ」
「あ、演技だってわかっちゃいました? これでも練習したのですけどね、えへっ」
かわいく笑えば誤魔化せるとでも思っているのだろうか。
「俺に用事があるんだろ?」
「はい」
「じゃあ、とっとと済ませちまおうぜ。まあ、俺ができることなんて、長門や古泉と比べりゃずいぶんと限られちゃいるが」
「いえ、そうじゃなくて。あたし、あなたに話を聞いてもらいたくて、無理矢理引っぱって来ちゃったのです」
なんだよ。また佐々木を神に仕立て上げるために協力しろとでも言い出すのか?
「違います」
きっぱりと言い切った橘は、表情を硬く引き締めていた。
「あなたには、まだちゃんと謝っていなかったので……」
何をだ? 朝比奈さん誘拐未遂事件についてだろうか。
「それも含めてですね。冬から春先の事件について、です」
街灯がもたらす頼りないスポットライトの中、橘は俯いたままゆっくりと口を開いた。
「あたしたちは、何ていうか、余裕がなかったの。スタートラインは似たようなものだったはずなのに、古泉さんの『機関』は着々と規模を大きくしていってて……。でも、あたしたちの組織は、その存在さえ危ぶまれるような状態にあった」
そこまでまくしたてるように喋った橘は、ふっと一息ついた。
「だからなの。あなたや佐々木さんが望んでもいないのに、涼宮さんの力を移そうと必死になってたのは」
相槌を打つタイミングも計れないままに、話は進められていく。
「あたちたちには力がなかった。……ううん、そうじゃなくて――価値がなかったのです」
えらく哲学的な話じゃないか。人生相談なら、俺よりも佐々木の方が良い訓示を与えてくれると思うぞ。
そんな軽口で重苦しい空気を吹き払いたくもあったのだが、小心者の俺がそんなこと言えるはずもなく、ただ橘の言葉を待った。
「例え話をしましょうか。例えば、あなたの前には二つの神社があります。一つの神社には神様がいる。もう一つの神社には神様がいない。――あなたは、どちらの神社にお賽銭を入れますか?」
橘の例え話は、実に下手クソだと思う。
比喩が直接的過ぎて、例えになっていない。こいつが何を言おうとしているのか、わかりすぎるほどわかっちまう。……だが、気を利かせたつもりで慰めの言葉でも口にすれば、話の腰を折っちまうんだろうな。
俺は、一般的だろうと思われる回答を口にするだけだった。
「……そりゃ、神様のいる方だろう」
「そうですよね。その通りです」
そして、橘は自嘲気味に唇をゆがめた。
あたちたち
「古泉さんの『機関』は、まさに神様のいる神社です。あたしが把握してるだけでも、相当の人材やお金が動いています。でも……、でも、あたしたちの組織は、人もお金も全然ないの。『神様のいない神社』だから」
お前のところだって、まるきりゼロってわけでもなかったんだろ? 少なくとも俺は、お前たちが車を所有していたことを目撃している。
「もちろん、資金なんかを提供してくれる団体さんはいました。でもそれって、あたしたちの理念に同調してくれたからってわけじゃないのですよね。
ただ、涼宮さんの力が……いえ、そうじゃないですね、『機関』に協力している企業と敵対しているから、あたしたちにその邪魔をさせようとお金を出してくれたって感じでした」
橘の声は、暗く沈んでいた。
「なんていうか、そういうのってショックじゃないです? あたしたちは正しいことだと思って、理想を掲げて行動しているのに、でも協力してくれる人たちでさえ、その考えを理解してくれない……。
だから、あんなことをしちゃったんだと思います。――佐々木さんが神様になれば、あたしたちは認めてもらえる。あたしたちの組織に存在意義が生まれるって。……藤原さんの提案が悪いことだって気付いてるのに、目を瞑って見えないフリして」
「………………」
橘側にも言い分というものはあるのだろう。だが、それを聞いたからといって、これまでのことを水に流すという気にもなれない。
藤原の口車に乗せられていただけなのかも知れんが、ひとつ間違えばハルヒやハカセくんの命が失われていたかもしれないのだ。
橘が、自らの属する組織にどれほどの影響力を持っているのかはわからん。しかし、こいつを許してしまえば、こいつの組織がやってきたことも赦してしまうような気がして、俺は何も言うことができなかった。
「別に許してもらおうとか、そういうんじゃないのです。許してもらうには、ひどいことをしすぎちゃったと思うし……。ただ、あなたにはすごく迷惑かけちゃったから、ちゃんと謝りたかっただけ。
――もう二度とあんなことはしません。本当にごめんなさいでした」
「…………そうか」
橘の謝罪に対して、俺が口に出来た言葉はそれだけだった。
「佐々木とはどうなんだ?」
「仲良くさせてもらってますよ」
橘は口元に、柔らかな笑みを浮かべる。重苦しい話題から方向転換するためだけに口にした言葉なのだが、予想以上の効果をあげてくれたようだ。
「あたし、今まで勘違いしてました。あたしが佐々木さんのためにできることって、佐々木さんを神様にすることだけだって、そう思ってた――でも、それって違うのですよね」
佐々木を神様にすることが橘にとっての信念だったのだろうが、今はその考えを改めたようだ。
「あなたは、古泉さんの力がどんなものか知ってます?」
ああ、この目で見たからな。あいつの力は、ハルヒの生み出す《神人》を倒す能力だろ。
「まあ、そうなのですけど……。それって結局は涼宮さんのストレスを解消してるってことですよね」
そうかもしれん。
「じゃあ、あたしのやってることと本質的には同じじゃないかなーって」
どういうことだ?
「今のあたしは、佐々木さんと一緒に遊んだり、おしゃべりしたり、ショッピングしたり、楽しい時間を過ごさせてもらってます。
これって佐々木さんのストレス発散になってますよね――つまり、古泉さんと手段は違うけど、ストレスを発散させてるって部分は一緒じゃないかなって」
なるほど、確かにそうかもしれん。
「今のあたしには古泉さん程の能力はありません。でも、あたしが佐々木さんにしてあげられることは、古泉さんが涼宮さんにしてあげていることとそんなに変わりはないんじゃないかなって、そう思ってます」
それについても、古泉はいろいろとがんばってると思うんだが……。
気を良くしている橘の手前、そこまで言うことは憚られた。
まあ、橘のがんばりがポジティブな方向へと向いている限り、誘拐未遂や轢き逃げ未遂なんて事態には陥らないのだろう。ならば俺が言うべきことは、こんなところだろうか。
「がんばれよ」
「はいっ!」
橘の顔は、街灯のスポットライトを浴びて、キラキラと輝いていた。
「それじゃ行きましょうか」
「どこに行くんだ?」
「もう忘れちゃったのですか? コンビニですよ、コ・ン・ビ・ニ」
「何だよ、お前本当に歯ブラシを買うつもりなのか?」
「当たり前じゃないですか。歯ブラシを買いに行くって言っておいて手ブラで帰ったら、佐々木さんに怪しまれちゃうじゃないですか。それに、女の子が歯磨きを怠るなんてありえないです!」
佐々木が俺たちの何を怪しむのかはわからんが、あいつに要らん気苦労をさせるのも気が引ける。ここは橘に従ったほうがいいのだろうな。
「話を聞いてくれたからってわけじゃないのですけど、何か奢りましょうか?」
「あー、そうだな」
超能力者に奢ってもらうものといえば、相場は決まっている。
「コーヒーを頼む」
「はい! いっちばん高いの買ってあげます!」
高いからってコーヒー豆とか買ってくるんじゃねえぞ。
「あ、そっちの方が良かったです? リッターサイズのペットボトルでも買ってやろうと思ってたのですけど」
『買ってやろう』とか言ってる時点で、悪意ありきの行動じゃねえか。
「待てよ、橘。俺に選ばせろ」
橘の笑い声は、夕闇に染まる空へと吸い込まれていった。
<2011年度日本シリーズ第二戦につづく>
驚愕では佐々木さんも橘さんもかわいそうだったので、
幸せになってくれればいいと思います! マジで!
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