ナレーター「パチンカスの朝は早い」 (126)
東京都八王子市。
駅から徒歩3分ほど歩いた所に小さなパチンコ店があった。
パチンカス>>1の仕事場である。
日本でも有数のパチンカス。
彼らの仕事は決して世間に知らされるものではない。
我々は、パチンカスの一日を追った。
Q.朝早いですね?
俺「そうですね、狙い台があるので誰よりも早く来なければいけなかったので。ただ、ちょっと早すぎましたね、まだ誰も来る気配ないです。」
日が昇る前、人々が行動する前から>>1は動き出す。
俺「まぁ早く来て損はないので……ちょっとコーヒー買ってくるのでここで待っててくださいね。」
そう言って駆け足で買い物に行く>>1の目は輝いていた。
Q.これからお仕事ですか?
俺「そうですね、って言ってもまだ仕事まで4時間ぐらいありますが(笑)」
時刻はもうすぐ6時になろうとしていた。
俺「あっ、コーヒー買ってきたので皆さんもどうぞ。」
そう言って我々スタッフにコーヒーを配る>>1。
熱い缶コーヒーを持つ>>1の手は、誰よりも熱い。
朝7時半。
>>1の下に一人の老人が現れた。
Q.お知り合いですか?
俺「そうですね。この人は常連の人なんですよ。最近仲良くなったんです。まぁ名前も連絡先も知らないんですけどね。」
老人は少し話し、雑誌を置いてどこかへ言ってしまった。
Q.この雑誌は?
俺「場所取りですね。あんまり良くないんですが、暗黙の了解みたいになってます(笑)」
8時。
人がかなり増えてきた。
Q.なぜこんなに人が?
俺「今日は7がつく日なんですよ。7がつく日はかなりアツいので、隣の市からも人が来たりしますね……」
>>1の顔に少し焦りが見えた。
俺「いつもより人が多い……ちょっと厳しい戦いになりそうですね。」
そう言って>>1はタバコに火を着けた。
焦りを悟られては行けない。
勝負は並びから始まってると>>1は言う。
8時半。
店のスタッフが小さな箱を持ってきた。
Q.あの箱は?
俺「あの箱には抽選券が入っているんです。番号が早い順に店に入れるので、ここが勝負所ですね。」
Q.抽選だと早く並ぶ必用は無かったのでは?
俺「あっ、その訳はあとで。今は一緒にクジを引いてください。できれば下の方から。」
運命の抽選が始まる。
我々と>>1合わせて3枚のクジを引いた。
>>1に我々のクジを見せると、少し表情を歪めた。
俺「んー、一番早くて30番か……狙い台は取れるか微妙ですね。」
焦りを隠せないのか、タバコに火を着ける
Q.なぜクジは下から?
俺「そうですね、実はここの店は下の方からクジをとると早い番号がとれるんですよ。常連さんと研究しましたからね(笑)」
そう言って笑う >>1の笑顔に、プロの面影が確かに見えた。
9時。
我々と>>1は近くのファミリーレストランに向かった。
Q.朝食ですか?
俺「そうですね。もし高設定をつかんだ場合、夜まで何も食べれないですからね。皆さんも今のうちに食べてください。」
そう言い放つ>>1の顔は少し痩せている。
睡眠、食事、この2つが満足に取れないこの仕事は非常に危険なのだ。
俺「あっ!もうこんな時間ですね。急ぎましょう!」
束の間の休息も、もう終わりのようだ。
9時45分。
我々と>>1は駆け足で店に戻る。
Q.少し時間が早いのでは?
俺「いえ、遅すぎるぐらいですね。他のライバル達が何を打つか、何番で入るかなど聞いておかないとダメなんです。」
>>1は異常な熱気に包まれた人だかりへ、飛び込んでいった。
10時。
遂に開店である。
番号順に呼ばれて入る人々はまるで、戦場に向かう戦士のようだ。
俺「さぁ、もうすぐ僕たちの番ですね。少し駆け足になります。」
感情が高ぶっているのか、声が震えていた。
30番が呼ばれ、>>1が駆け足で行く。
>>1の背中は他の人とは違うオーラを放っていた。
我々が>>1の下へたどり着いたとき、試合は始まっていた。
Q.狙い台はとれましたか?
俺「2番狙いの台が取れましたね。みんな新台の方に走っていったので、運が良かったです。」
この運の良さもまたプロには必用なのであると>>1は語る。
Q.この台は何ですか?
俺「スロットの緑ドンですね。実はここ数ヶ月、7の日に設定を入れてなかったんですよ。今日はおそらく入ってると思いますね。」
我々に説明しながら仕事をしている>>1の顔はとても自信に満ちていた。
12時。
回りの台が騒がしくなってきたが、>>1の台は依然として静かである。
俺「……少し調子が悪いですね。」
そう言って>>1は席を立った。
Q.どこかへ行くのですか?
俺「……あっ、いえ、少し回りの様子を見ようかなと。自分の台がもし低設定だったら、少しでも早く見切りをつけないといけないですからね。」
設定の見極めが、この仕事の全てであると>>1は言う。
店内をぐるりと回って>>1は帰ってきた。
俺「他の台もそんなに出てないし、まだこの台が低設定だと言い切れない。一応様子を見ながら打ちます。」
回りを気にしながら仕事に打ち込む >>1は流石というべきか。
昼1時。
ようやく>>1の台も騒がしくなってきた。
俺「ようやく1000枚ですね。まだ4万負けているので、ここからが勝負です。」
そう我々に言いながら箱にメダルをスムーズに移す。
熟練の技がここにあった。
Q.4万負けとは?
俺「そうですね、この1000枚出すのに6万円使ったんです。1枚20円なので1000枚で2万円。なのであと4万、つまり2000枚出さないと負けなんです。」
午後3時
1000枚あったメダルも、もう無くなろうとしていた。
俺「さて、台を変えましょう。」
そう言って>>1は箱に僅かなメダルを入れて歩き出した。
俺「!ちょっとすいません!」
おもむろに走り出す>>1
人混みを縫うように避けて台の所まで行った。
俺「見てください!」
そう言ってデータの方に指を指す。
そこには1053Gと表示があった。
Q.これは何ですか?
俺「この、バジリスクという台なんですけどね、天井があと200Gなんですよ!」
興奮を隠せない彼は急いで打ち始めた。
Q.天井というと?
俺「天井って言うのは、その天井にいけば必ず当たるゲーム数のことです。この台だと1000枚ぐらい出るかもしれないですね!」
嬉しそうに語る>>1。
やはり知識も豊富である。
長いプロ生活のため、ほとんどの台の知識はあると豪語していた。
台を変えてから程なくして、どうやら天井に入ったようだ。
俺「よし!天井からARTスタートです!ここからどれだけ伸ばせるか、今日の負けをどれだけ取り返せるか!」
気合いを入れて回す>>1の動きは、もはや何かに取り憑かれているような気迫を感じた。
午後4時。
>>1の台が静かになった。
俺「……900枚か、上出来だ。さて、これはもう流します。」
そう言ってメダルを箱に移し、店員の所へ持っていく。
Q.今日はもう終わりですか?
俺「はい。今日はもう終わりです。もう高設定も空いてないだろうし打つだけマイナスになってしまいますからね。」
メダルを流し終わると、>>1は店内を歩き回り始めた。
どうやらデータを集めてるみたいだ。
仕事がうまくいかなくても、次の為のデータ収集を怠らない。
そこにも、彼がいかにプロであるかというのが伝わる。
俺「いやー、さっき打ってた緑ドン。調子が上がってますね。もしかしたら設定あったかもしれないですね。」
苦笑いしながら、我々に悟られないように唇を噛み締めているのが分かった。
プロはこういうのを何度も経験するという。
店から出ると>>1はタバコに火を着け、一服し始めた。
Q.これからのご予定は?
俺「んー、帰って今日の収支をつけますね。また10時半頃にデータを取りにここに戻ります。」
Q.それを毎日ですか?
俺「ほぼ毎日ですね。やっぱりデータが無いと勝てないですから。この仕事はデータ命です。」
Q.毎日だと辛くはないのですか?
俺「そうですね……正直辛いですね。収支も安定しないですし、こんな仕事じゃ結婚もできない。就職も考えたこともありました。」
Q.では、なぜこの仕事を?
俺「やっぱり忘れられないんですよね。フリーズを引いた興奮、万枚出したときの達成感、これがあるからこの仕事をやめられないんですよね!」
そう語る>>1の目はとても輝いていた。
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