小鳥「765プロが倒産してもう一年ね……」(767)

765プロの事務所が解体されるその日、私は夜遅くまで事務所に残って荷物を片づけていました。
傍らには同じく事務員兼プロデューサーの律子さんがせっせとダンボールに備品を詰め込んでいます。
「小鳥さん、ここの風景とももうお別れですね」
「はい、みんなの思い出がいっ~ぱい詰まった場所ですから。ちょっと、寂しいですね。」
「これからどうするとか決まってるんですか?」
「そうねぇ……。三十路までに彼女いない歴=年齢っていうトコを何とかしたいですねぇ」
「そこですか……。ま、どうなるにしても小鳥さんなら、きっとうまくいきますよ」
「ありがとうございます。乙女よ大志を抱け、ですね!」
「その意気です!」「はい!」
それから1年経ちました。そんな私の今の生活は……

「はい!牛丼並盛お待たせいたしました!」
「あ、つゆだくにして欲しいって言ったんですけれど……」

まさか、まさかうら若き乙女が、一人牛丼を食べる毎日だなんて……

今回、前作見なくても話がわかるようにするつもりなので
いつも通りノープラン

自己紹介が遅れました。元、アイドル事務所で働いていました事務員、音無小鳥3×歳です。
趣味は妄想とネット掲示板巡り。去年まではどこにでもいるOLでした……。
けれど……。

「紅ショウガをちょっとのせると美味しいのよね~」
スーツや作業着を着たおじさんに囲まれて、ホカホカの牛丼に紅ショウガをちょっと振りかけます。
「はふ、はふ」
牛丼をかきこむように口に入れました。
学生時代はファミレスに入るのも、ちょっと躊躇していましたが今は恥も外聞もありません。
周りを見渡すと、男の人ばっかりです。私を一瞥したあとにまた視線を元に戻します。

うぅ、そんなに三十路女性1人で牛丼屋にいるのが珍しいのかしら……。
早めに平らげて、500円玉をカウンターに置いて店の外へ出ました。


「あっつい……」
クーラーの効いた店外から出ると日光が照りつけます。


プロデューサーさぁん……私ニートになっちゃいましたぁ……。

特に何もすることが無いので、駅前のベンチに座り、ボーっとしました。
「はぁ……みんな元気なのかなぁ。何してるのかしら」
道行く女の子を眺めます。
あ、あのリボンの子は春香ちゃんに似てるわねぇ、とかやよいちゃんが成長したらあんな感じになるのかしら
な~んて妄想を脳内で繰り広げて暇つぶしをします。

765プロは去年、営業不振で倒産しました。その主な原因は……
プロデューサーさんの過労死です。

私の隣のデスクで働いていたプロデューサーさんはアイドルの皆からとても慕われていました。
黙々とパソコンを叩いて作業している時も、必ずだれかが話しかけていたり、遊んだり、差し入れを持ってきてたりしました。
そんな光景を見ていると、あぁ私765プロに就職してよかったなんて思ったりもしました。

だけど、プロデューサーさんは毎日残業をして、会社に泊って……。
そして、ついに自宅で倒れて意識が戻らなくなったそうです。

私もプロデューサーさんをとても尊敬していたし、好きでした。
夜遅くまで二人っきりで仕事に追われていた日々が蘇ってきます。

薄暗い事務所でカップラーメンを二人して啜りながら、同じ書類に目を通していました。
「それにしても、本当にすごいですよね。まさか春香ちゃんが雑誌に載るだなんて」
「はい、この企画は春香にとって、アイドルの第一歩となるでしょう」
プロデューサーさんはまるで自分の事であるかのように喜んでいました。

だけど、そんな頼れる同僚であり、親しい友人でもあったプロデューサーさんはもういないのです。
悲劇のヒロインを気取って傷心するようなお年頃では無いのはわかっているつもりですが、
どうしても皆の泣き顔が心に浮かんできてしまいます……。

アイドルに囲まれていた頃は私もヒロイックな気分に浸れていました。
けれど、今はただの平凡な元OLです。
なんだか現実って厳しいですねー……。

「はぁ……」
最近ため息が多くなってきました。
こんな時は妄想か……コレに限ります。

私はポケットから携帯電話を取り出し、一つのファイルを開きました。
電子機器の扱いは、主に乙女の欲求を満たすために随分と上達しました。


「「春香!おめでとうー!」」
「え、えへへ。みんなありがとう」
携帯電話の荒い画質と音声ですが、何度も何度も再生した動画です。
小さなレストランを貸し切って、春香ちゃんの雑誌掲載記念パーティーをした時のものです。
上座に座る春香ちゃんの目の前には大きなケーキが置かれていました。

765プロのアイドルたち全員が笑顔で拍手をしています。
春香ちゃんの隣にはデュオを組んでいる千早ちゃん。やっぱり千早ちゃんも笑顔です。

「春香ちゃん!今の感想をどうぞー!」
撮影をしているので姿が見えませんが、私の声が聞こえてきました。
春香ちゃんは頭をポリポリとかき、照れ笑いを浮かべて
「なんだか私はアイドル!って初めて思えた気がします。」
それから椅子の上に立ちあがって
「天海春香!トップアイドル目指します!」と叫びました。

この直後どうなったかは想像に難しくないと思います……。

ここで一旦動画が途切れます。
そして切り分けたケーキを食べている千早ちゃんが写りました。
「千早ちゃん、パートナーとして祝辞を一言お願いします!」
「はい。この調子でいけば、私の歌が認められる日も遠くないかと……」

この頃の千早ちゃんはちょっと近寄りがたい雰囲気をまとっていました。
そんな千早ちゃんも765プロの皆と仲良くなっていくうちに、随分と変わりました。

「真美ー!一番おっきいケーキを取るのだ!」
「りょーかい!亜美とつげきー!」
亜美ちゃんと真美ちゃんが大皿に向かって手をフォークを伸ばしています。
雪歩ちゃんがそれの下敷きになっています。

「ねぇ響、ハム蔵もケーキ食べるかなぁ?」
「なんくるないさー」
響ちゃんと真ちゃんがちょっと離れた場所で座り込んでいます。

「いおりんのMAマジさ──」

この後も動画は続くのですが……。
私は携帯電話をしまいました。

765プロの元事務員として、せめて皆が不自由なく幸せな暮らしをしてくれていれば……。
そう願って止みません。

「きっと、みんなのことだから大丈夫よね」
それに……少なくとも春香ちゃんと千早ちゃんと律子さんは元気そうですから。

もう一度携帯電話を取り出して、お気に入りを開きます。
駅前のベンチでニヤニヤしながら携帯電話を眺めている私をちょっと不審そうに通り過ぎていきますが、
きにしません。だって、春香ちゃんのブログにこ~んな更新があったんですもの。

みなさん!今日は更新が遅くなってごめんなさい!
今日はなんとあの如月千早ちゃんと秋月律子さんに会っちゃいました!
オーディションの帰りがけにばったりと会ったんですが、本当にビックリ☆
すぐにまた仲良しの3人に戻って、すっかり話しこんじゃいました。
今回のオーディションは、自信があります!皆さん、これからも天海春香を応援してくださいねー。

さすが、元気いっぱいで、太陽が嫉妬するほど明るかった春香ちゃんです。
今もアイドルを目指して頑張ってる。

そう思うと、崖っぷちな私でも、ちょっと勇気が出てきます。

私もグダグダしてないで、婚活も就活も頑張らなくちゃいけません。
「そうよ!音無小鳥、まだまだこれから!」

ベンチから勢いをつけて立ち上がり、
「とりあえず新刊のチェックをしましょう!」
と、本屋に向かいました。

すると……
下校途中の中学生らしき集団に巻き込まれました。
「わわっ」

あれよこれよと人並みに流されていきます。
これじゃ私のお気に入りの百合漫画が売り切れちゃうかも知れないぴよっ!
私はすかさず、サイドステップをして中学生集団を横に抜けました。

「ふぅ、ダンスレッスンをこっそり真似してた成果が出たわね……」
この集団が通り過ぎないと本屋に行けないわ……。
私は頬に手を当てながら列が途切れるのを待っていました。

「あら……?」
その中の一人が、ふと目につきました。
あの丁髷の髪留めのヘアスタイルってどう見ても……。
「亜美ちゃん……か、真美ちゃん……よね?」

「んん~……」

後ろ姿をよ~く観察します。
ヒップ……は同じね。
ウェスト……も一緒でした。
バスト……は背中からは見えないけど多分一緒です。

じゃあ見分けがつくとしたら……
左についた赤い髪留めに真美ちゃんより短いサイドテール。
どうやら亜美ちゃんのようです。
歩くのに合わせて、ゆさゆさと揺れています。

「もう亜美ちゃんも中学2年生かぁ」
年をとると時間が過ぎるのはあっという間ですが、
きっと亜美ちゃんにとってはこの1年はずっと長く感じられたことでしょう。

プロデューサーさんの件を、ちゃんと乗り越えられていればいいのですが……。

亜美真美をビッチにしてみろ
死ぬぞ

>>62
介錯してやるよ

>>64
悪いやよいの為にも死ねなかったわ

>>65
やよいは餓死してるだろ
後追ってやれよ

>>66
代々木公園来いよオラァ

そこで、ささいな疑問が頭をよぎりました。

いつも二人で一人の双海姉妹ですが、今日は一人っきりです。
まぁ、四六時中トイレもお風呂も一緒というわけではないでしょうが
下校が別々なのはちょっと気になります。

それに……なんだか周りの子との様子がおかしい気が

「おい、亜美!あれやれよ!」
男子学生の一人が手を叩いてはやしたてます。
「とかちやれよ!とかち!」
そう言って背中をどんと押します。

「……あーなーただけが……使えるテークニックで……とかちつくちて……」
駅前の真ん中で、男子学生に囲まれながら、振り付け付きで『夜のエージェント』を
亜美ちゃんは踊っていました。

「あっはっは!マジうけるんだけど!」
それを見た周りの子たちは大笑いをしています。
亜美ちゃんは悔しそうに歯を食いしばっています。

「ちょ、ちょっとこれって……」
段々と心臓の鼓動が速くなってきました。
血の気がひいていきます。

>>73
ここに俺が登場してこの中学生をボコボコにするんですね!わかります!
・・・・そうしてください

周りの男子の排除は俺がする
だから誰か亜美を保護してやってくれ
家にはもう美希がいるから俺には保護できない

やめてくれよ…(絶望)
ふざけんな!(声だけ迫真)

>>75「やめろよ、亜美ちゃんが嫌がってるじゃないか!!」

ボコッバキッ

>>75「すいませんでした。あ、あの殴るのやめてください……」


亜美「……」

>>79
俺がボコボコにするわwwww
そんで保護もするwwwww


今日のアニメ、亜美真美回なのにな・・・・

>>75「やめろよ!」
>>79「亜美ちゃんが!!」
>>84「嫌がってるじゃないか!!」

ボコッバキッ

>>75>>79>>84「すいませんでした。あ、あの殴るのやめてください……」


亜美「……」

悪いが俺には武道の心得があるんでね
そう簡単にはやられんさ キリッ

>>89「悪いが俺には武道の心得が…」

ドガッ


>>89「調子のってすしませんでした、ああっ蹴らないで」


亜美「……」

亜美ちゃんは大きく体を震わせました。
おそるおそる振り返ります。そんなに怖がらなくてもいいのに……。

私の顔を見て、すぐに気付いたようです。

「ピ、ピヨちゃん……」

亜美ちゃんは、ほんの少しだけ背が伸びましたが
外見はほとんど変わらず、去年のままでした。
だけど、半袖から覗く素肌には細かい擦り傷と何か火傷したような小さな赤痣がついていました。

私の顔を見て少し目をそらして、それから腕で目をゴシゴシと擦って
「んっふっふー!お久しぶりだねぇ、ピヨちゃん!調子はDo-dai?」
白い歯を見せて悪戯っ子の笑みを向けました。

「亜美ちゃん……」
「亜美はメチャ元気だよ→!さっきも楽しく遊んでたんだ!」

外見も、口調も、テンションも、何もかも亜美ちゃんのままのはずなのになんて悲しいのでしょう。
「ちょっと、アイスクリームか牛丼を奢るからお話しましょう。亜美ちゃん」

気がつくと もう一人 仮面つけた自分がいる
本当はカラ元気なんじゃないの? どうなの?

>>94
自分、自害いいすか(憔悴)

ねぇ 今までなんとも思わないで 楽しく過ごしてきたのに 最近
恋したり 夢描いたりすると 胸の奥に 複雑な気持ちが生まれるの

今大人になる道の途中 あふれる初体験 毎日を飾る

だけど この空がいつも私のこと見守ってる もっともっと強く 励ましてる
だから 怖くない どこでも行きたいところに行ける 輝いた未来 まっすぐにね

お気に入りのリボン うまく結べなくて
何度も解いてやり直し
夢ににてるよ 簡単じゃないんだ

妥協しない 追求したい
頑張るコト探して ねぇ 走るよ

君まで届きたい 裸足のままで
坂道続いても諦めたりしない
手に入れたいものを数え上げて
いつだってピカピカでいたい
私 shiny smile

ハッピー ハッピー
幸せはきっと
ひとりではなれないから
ハッピー ハッピー
みんなと分け合って
お腹も胸もいっぱい

振り返った真美ちゃんは、やっぱり髪型は変わっていませんでした。
亜美ちゃんより長いサイドテールに、小さな髪留め。

だけど……
「真美ちゃん、大人っぽくなったわね」
真美ちゃんは、先ほどの亜美ちゃんとはうってかわってお化粧が濃くなりました。
そして、服装もまるでゴシックプリンセスのような黒を基調とした格好です。
それが、ちょっと背伸びした印象を与えています。
不良=黒のイメージはいつの時代でも不変のようです。


「……ピヨちゃん。久しぶりだね」
携帯ゲームに目を戻し、気だるそうに、挨拶をされました。

そのままボタンを押す手は緩めずに続けます。
「どうして真美がここにいるってわかったの?グーゼン?」
「亜美ちゃんが教えてくれたの」
「……」

ボタンを動かす指がピタリと止まりました。
「ふふーん。そっか。亜美かぁ……」

昔は全く見分けのつかない双海姉妹でしたが、今では誰が見ても区別できると思います。

「亜美は元気なの→?」
「えっ、真美ちゃん……知らないの?」
「うん、ほとんど会ってないもん」


これは喜ぶべきか悲しむべきなのでしょうか。


私は口元に手をあてて、思案を巡らせます。
真美ちゃんは亜美ちゃんがイジめられている事を知らない……。
だったらここで私が勝手にそれを伝えるのは、良くない気がしました。
あの傷の様子だと、イジめられているのは大分前からのようです。
きっと、それまでに相談くらいはしているハズです。
それが無いということは、きっと真美ちゃんには知られたくないのでしょう。

そこで、私は漠然とした質問をすることにしました。

「真美ちゃん、一体何があったの?」
「……」

黙ってしまいました。こういうところは双子なだけあって、そっくりです。
だけど、真美ちゃんの方がちょっぴりお姉さんな分、話を続けてくれました。

「……医療ミスだよ」

また携帯ゲームを再開し始めました。まるで気を紛らわすかのように。

「…いよっと……真美のパパがお医者さんなのは知ってるよね?」
「えぇ」
確か、この近くの病院に勤めている主治医ということは、以前に聞いていました。

「そんでね→。兄ちゃんが死んじゃってから真美と亜美は……えぃ!……ちょ~っとだけヤバかったんだよね」
「……」
「だからね→。……うん、そーゆーことだよ。」
あまり言いたくないようです。
要するに、真美ちゃんと亜美ちゃんはプロデューサーさんの死がショックでとても落ち込んでしまって
それで、お父さんはそれを気にかけて医療ミスをしてしまった。

これで繋がりました。亜美ちゃんが犯罪者と言われて、イジめられていた理由が。
それにきっと、プロデューサーさんの事も関係しているのでしょう。
噂は一度広まれば、本当のことじゃなくても事実になってしまうものです……。

「そんでね、そんでね。パパとママが離婚するんだ」
「えっ……」
「真美はパパ、真美はママについていくことに決まったんだよ」
「……」
「あ、ゲームオーバーになっちゃった」

真美ちゃんの顔は、下方の画面を向いていました。
けれど、私には、真っ黒い液晶画面に反射して、唇が小刻みに震えているのが見えてしまいました。

ごめん決定的な間違いをしてしまった……。
亜美がママです

余りに過酷な境遇に、私は打ちのめされてしまいました。
さっきまで私が何とかする、と張り切っていた威勢がどんどんと萎えていきます。
回れ右をしたい気持ちが膨らんできます。
そういえば、私、3×歳の現在無職でした。

「あ、あのね……真美ちゃん、私が何とか……」
どの口が言うのでしょう。

「……ピヨちゃんに何が出来るのさ」
「……」
「兄ちゃんも!社長さんも!はるるんも!千早ねーちゃんも!もうみーんないないんだよ?!」
「……」

だけど、なんとかしたいんです、私は。
絶対に私が助けるから!嘘でもいい、そう言うつもりでした。
だけど口から出たのは……

「そ、そう。じゃあ、が、がんばってね……」

あら?

お、おかしいわね。こんなハズじゃ……。

「き、きっとなんとかなるから」
「……」
真美ちゃんは、唖然としていました。
それから、フッと鼻で笑って
「さんきゅ→ピヨちゃんも元気でね……」
と私に伝えた後に、

「かみーさまーねぇー…かみさーまー……」

真美ちゃんは『スタ→トスタ→』を口ずさみました。
それから、私はしばらく立ち尽くしていましたが、一度として真美ちゃんが私の方を向くことはありませんでした……。

し、仕方ないわよね。私はアイドルじゃないただの一般人だしこれから
就職も決めなくちゃならないし結婚もしなくちゃならないし来週合コンあるしコミケもそろそろ近いし……

そんないいわけを、家に帰ってひたすら並べたてました。
「はぁ~……たとえば石油王なんかが突然現れて、玉の輿にでもなれないかしら……」
缶ビールといかの燻製を口に入れながら、そんな妄想をしてしまいます。

わかってます。そんなアニメみたいな展開、あるわけ無いんです。
いい加減、夢物語から冷めなければならないのはわかっています。
けれど、私の若い頃を思い出してしまうと、どうしても妄想癖が止まりません。

「今のみんなは、私と同じ気持ちなのかな~……」
6本目の缶ビールを飲みながら、天井を見上げました。

缶ビールが切れたので、賞味期限の切れた牛乳やチーズを掻き分けて
赤ワインを発掘しました。グラスに注ぎます。

このまま10年くらいたって、同窓会で「久しぶり!」なんて言うのかな……。

そしたら亜美ちゃんや真美ちゃんもすっかり大人になっちゃってて……。
あ、春香ちゃんはいい奥さんになりそうねぇ。
「昔はアイドルやってたんですよ、私!」な~んて他愛なく笑っちゃったりしたりして
千早ちゃんもすっかり丸くなって「今はカラオケの先生をやってます」とか言っちゃうのかしら……。
真ちゃんと雪歩ちゃんはとっても仲が良いから、10年後も二人で会場に来そうねぇ……。
あずささんは運命の人見つけて、お子さんを連れてくるのかしら……。


「やだな……」

グラスを人差し指で傾けながら、また自分の世界につかってしまいました。

突然、携帯電話が鳴り響きました。
「わわっ」
その音で現実世界に引き戻されます。

「は、はいぃ、もしもしぃ……」
「あらあら~音無さん酔っているんですかぁ~?」

「あずささんですかぁ?」
『はい~』
穏やかながらもどこか艶っぽい声が聞こえてきました
あずささんとは765プロが倒産した後も、呑み友達としてたま~にたるき亭で飲み明かしています。
主な内容は、恋愛話、もとい私に彼氏ができないという愚痴なのですが。

「聞いてください~。私ダメダメなんですぅ……」
『はい~』
「このままじゃ彼氏なんてできませんよぅ~……」
『ダメですよ。音無さん、そんな弱音いってたら春香ちゃんに笑われちゃいますよ~』
「へ?春香ちゃん?」
『はい~。つい先日会ったんです。なんだかちょっと元気無さそうでしたけれど、やっぱりと~ってもいい子でした』
……春香ちゃん、オーディションあんまりうまくいって無かったのかしら。

「そうですか。私も、頑張らないとですよね。お互い運命の人見つけましょうね!」
『……あの~その件なのですけれども、すいませんお電話でお伝えしてしまって~。』
「えっ?」
『私、お見合い結婚することになりました~』

……。

寝ようとしてだけど続きが来てること期待して765で検索したらホントにひっかかってしまった
でもずっと待ってたかいがあったわ >>1ガンバレ

それから数日が過ぎて……。

「ふぁ……」
また、夕方に目が覚めてしまいました。
机に置いてあった飲みかけのお茶を飲んで、お腹をかきながらそのままPCの前に胡坐をかきます。

ひたすら3ちゃんねるを見て、お腹が減ったら何か食べて、寝る生活を数日続けていると
なんだか全部どうでもよくなってきてしまいました。

亜美ちゃんや真美ちゃんのことも、リアリティが薄れてあれは夢か何かかと思えてきます。
それでも未だに「春香ちゃんはできる子応援団」なる名目で春香ちゃんのブログにコメントを
し続けているのは、せめてもの、765プロとの繋がりを持ちたかったからかもしれません。

「何か面白いスレッド無いかしら……」
眠気眼でマウスを動かし、文字の羅列を上から下へ眺めます。

時間が潰せれば、もう何でもいいです。
そしてふと、1つのスレッドが目にとまりました。

──密ドル★3

密ドル……聞き慣れない言葉ですがこういう言いまわしはきっとアイドルに関係するものなのでしょう。
それに短時間で3スレッドも消費しています。

「……祭りの予感ね」

私はすかさずスレッドを目にもとまらぬ速さで開きます。
そして、ざっとレスを眺めて、有益な情報が無いことを確認すると
『kwsk』
と打ち込みました。
鼻をすんすんと鳴らして、返信が来るのをうずうずと待ちます。

返信が来ました。
URLだけが張られています。

それを開くと『Kugyuu!ニュース』の記事にリンクが飛びました。
見出しは「違法ペットショップ 検挙」

「うーん、世の中にはひどいお店もあるのね……」

だけど、これだけだとそこまで騒ぐようなことじゃない気がします。
スレッドを更新すると何でも、そこで働いていたアルバイトが元アイドルだそうで。
「密猟アイドル」を略して「密ドル」と呼んでいるそうです。

……なんだかイヤな胸騒ぎがしてきました。
でもまさか、そんなハズは無いと思います。

ああああああああああああああああああああ

『特定マダー?』
『もうちょっとで本名わかるわ』

そんなやりとりがスレッド上で繰り広げられています。
そんなハズは無いわ。そう何度も心の中で繰り返してもドキドキが止まりません。

「早く、早く」
違うことを確認して、ホッとして、夕飯に出かけたいのです。


『特定した。こいつだわ』


張られているサイトは、私が以前に作った765プロの響ちゃんの紹介ページでした。
響ちゃんが満面の笑みでピースをしています。

「あ……あぁ……」
嘘よ、まさか響ちゃんに限ってそんなこと……。

──確かめないと。

私は、泣きそうな気持ちをグッと堪えて、財布を掴んで、響ちゃんのアパートに向かいました。

すまん……今日はここまで……

仕事から帰ってきたら再開します
明日で必ず終わらせますので、申し訳ない

お疲れ
気長に待ってる

夕方4時過ぎから投下します

待ってます

質問だけど、>>95>>100>>104>>108のは誰の歌?

>>267

>>95
ポジティブ!
>>100
まっすぐ
>>104
shiny smile
>>108
ハッピース(DS)

小鳥さんの見てるねらーは民度が低いな
俺なら響を特定した時点で「許した」ってレスするわ

>>279
AKBのアイドルだったら許してた?

おいフラグ立てんな

響ちゃんは765プロきっての動物好きな優しい子です。
そんな響ちゃんがよもや法に触れるようなことを率先して行うハズがありません。

響ちゃんの一人暮らしのアパートに到着しました。
ほとんどパジャマのまま、しかもサンダルで来てしまいました。

「響ちゃん……」
胸のあたりをギュッと抑え、塗装が禿げて茶色い鉄骨階段を1段1段慎重に上がります。
きっと、「ピヨ子、久しぶりだなー!」なんて言って私にダーイビーングしてくるでしょう。

部屋の前に近づいていくと、響ちゃんの声ではないどこか芯のある低い声が少しだけ開いたドア越しに聞こえました。
「響、辛いのはわかってるよ!だけど、ここは頑張らなくちゃ!」
木製のドアがビリビリと揺れています。どうやら先客がいるみたいです。

ドアの隙間から、音をたてないようにそ~っと覗きこみました。
見ると、アタッシュケースを両手に抱えた響ちゃんと……

「ま、真ちゃん……?」

「自分、もう沖縄帰る……」

……?!ウソウソウソよね?
あの萎れた声が、響ちゃんなの?
真ちゃんは、そんな響ちゃんの肩をやや乱暴に掴みました。
「そんなこと言っちゃダメだ!それに、響は悪くないだろ」
「カメ子も、サル平も……みんな殺されちゃうんだ……」

きっと、ペットショップの響ちゃんが世話をしていた動物の名前なのでしょう。
ニュースに書いてありました。引き取り手が見つからない動物は「処理」されてしまうそうです。

響ちゃんは真ちゃんの手を払いのけると私がいるドアに向かってアタッシュケースを引きずってきます。
「……響!」
真ちゃんが今度は、背中側から肩を掴みました。

「それに……」
「えっ……」
「取り調べで、お前も関わってたんだろって、動物も虐待してたんだろって。そんな顔してるって。
 真、自分そんな顔してるか?」

……。
響ちゃんは、沖縄で悠々自適で開放的な生活を送ってきました。人を疑うなんてことを今まで全くしてこなかったのでしょう。
そんな響ちゃんが、お店の人に裏切られたこと、そして自分を信じてくれなかった事が大きく影を落としている。そんな風に私には見えました。

いおりん早く来てくれー!

って時系列的に今はまだ家出中?

                / ⌒ヽ

                /      \
              ,.-‐''⌒ヽ   ,.=、  ヽー、
              ,〃/∠彡ニ\ (.fゃ)  |  j
            /       ミ彡三ヘ`=´   | |
         /       ミ彡三∧    j ./
           ト ャ''"    ミ彡三∧.   //
        」i _;''_,    ミ彡'ニミヘ、 〃
          リ ´ ̄     リ´ f'`ij }/「i|
         ヽ-         '´/ソ'川||
         ヽ一       「彡'川ll.|||
          T   _   / ´ j||.川||
           ` ̄了、     i! 川.川|
              _」. \    | j| 川|ト、
        _/ ̄  \  \   '_/./川 `
        ̄       `    ̄  ´
       ネゴトワ・ネティエ[Negtva Netie]

       (ルーマニア.1935~54)

マダカナー

遅れてすいません今から書きます
保守ありがとうございます

「…じゃあな真。みんなに会えたら、よろしくね」

響ちゃんは、俯いたまま玄関に向かいパンプスを履こうとしました。
だけど、一度猛った真ちゃんは中々止まりません。
とにもかくにも真ちゃんは、765プロ1友達思いの子なのですから。

「待てよ!響!」
今度は、掴んだ手を思いっきり引っ張りました。
二人はきりもむように倒れ、響ちゃんは真ちゃんの下敷きになります。
「あ……」
「……」

「ぴよっ?!」
こ、これは中々美味しいシチュエーションじゃ……。ひびまこは至高!
っていけないいけない。こんな状況で妄想は場違いにも程があります。

「沖縄に帰るのは勝手だよ……だけど、だけどこんなんじゃ天国のプロデューサーが悲しむだろ!」
真ちゃんの、お腹の底からの叫びが響きました。

だけど……
「もう、なんくるなくないさー……」
それも、響ちゃんの心には届かなかったようです。

なんくるないわけないだろ!いい加減にしろ!

いい加減にしろよ・・・

急に、場が静まり返りました。
……音無小鳥、完全に出るチャンスを逃してしまったようです。
というより、私は一体何のために来たのでしょう。

勢いに任せてここまで来たのはいいですが、その先を全く考えていませんでした。
また無責任な励ましをかけてあげるつもりだったのでしょうか。
亜美ちゃんを忘れて3ちゃんねる三昧をしていたことを思い出し、ちょっとだけブルーになってしまいます。

けれど、立場は真ちゃんも同じハズです。だったら、私も……。

『つながるハートに伝わる。鼓動が乗ーり越えーたデジタル……』

と、ドアノブに手をかけようとした時に、携帯電話の着信メロディが鳴りました。
真ちゃんは、渋々といった具合で立ちあがり、ポケットから携帯電話を取り出しました。
「う……」
画面を確認すると眉を八の字にして、小さくうめき声が漏れました。
「ご、ごめん。響、出るね」
「……」
響ちゃんは上半身だけ起き上がって、そのまま小さく丸まってしまいました。

雪歩か

「もしもし?あーうん……今、響のとこにいるよ。ちゃんと言っただろ?」
真ちゃんは落ち着きなく、部屋の周りをグルグルと周回しています。
「あと1時間で帰るから……。えっ、う、うん。……わかった。じゃあね。」

真ちゃんはボタンを1つ押すと同時に
「はぁ……」
とため息が一つ漏れました。

それから前髪をかきあげるような仕草をしました。ドキッ。
「ごめん。響、あと1時間以内に帰らないと、ボク、なんだか埋められちゃうらしいから」

……真ちゃん、苦労人の相が出てるとは昔から思っていたけれど。
やっぱり大変なようです。

「心変わりする気はない?」
「……」
響ちゃんは依然として、アルマジロのように丸まったままです。

……。

前髪をあげた手はそのままで、やれやれと言った表情をして真ちゃんは言いました。
「……わかったよ。じゃあ、ボクが一時的に動物たちを全部買い取る」
「えっ……」
響ちゃんが目を丸くして真ちゃんを見上げました。

伏線回収か

「な、何言ってるんだ真。そんなことできるわけ……」
「なんとかするよ」
「どれだけお金がかかるか……」
「なんとかする」

真ちゃんはそう言って、携帯電話をジーンズのポケットに差し込み響ちゃんの肩を優しくポンと叩きました。
「さぁ、あとは響が、自分の力で立ちあがるんだ。」
そのまま帰ろうとする真ちゃん。それを響ちゃんがシャツの裾を掴んで引き留めました。

「何でそこまでするんだ……。真は、真は関係ないだろ!!」
今日初めて響ちゃんの大きな声が聞こえました。
その手を包み込むように握って、真ちゃんは言いました。
「関係あるよ……。だってボクたちは──」


その後、真ちゃんはドアを思い切り開け放ちました。
「?」 キョロキョロと不審そうに辺りを見渡しています。
私は、それを、数歩先の壁から覗きこんでいました。

それからしばらく壁際にもたれかかって、やがてズルズルと滑りおちて、尻もちをつきました。

引退?

千早「待ってください」

千早「2000円足りないです」

ですが?

おお、きてる

小鳥さんが百合好きなのって公式設定なの?

>>531
ゲームの無印版公式にある壁紙見てみ
色々と酷いから

おい









おい

小鳥さんたまにはガンバレ

キタ━━━━(゚∀゚)━━━━ !!!!!

キタ━━━━(゚∀゚)━━━━ !!!!!

ピヨちゃんマジ空気

多勢に無勢な今こそピヨちゃんが出来る子になる時!

>>593
ここで「流石真美ちゃん、私の出番はないようね」って言って
真美がボコられて泣き叫ぶなか耳を塞ぎながら帰るのが今までの小鳥さん

小鳥さんいけぇぇぇぇぇ!!!

きたああああああああああああああああああああああああああ

小鳥さんはピヨちゃんに進化した
「ゆうきをだす」を覚えた
人としての尊厳が上がった
合コンに行けなくなった
年齢が2X歳から3X歳になった

いい!それでいいんだ!

ピヨちゃんどうした
おかげで台風来そうじゃないか

亜美が助けにきたのか

なんかいい終わり方だね

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