響「たるき亭に自分に似た声の店員がいるぞ……」 (17)

 最初にピヨコに聞いた時は冗談だと思ったけどほんとに似てたなあ……

 彼女は自分達のことを応援してくれてて、自分が来たときにはこっそり沖縄の調味料で味付けしてくれてたりするんだぞ。

 自分すぐに仲良くなって、ねえねって呼ぶようになったさー。

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 今日は珍しく撮影が早く終わって、午後の収録に余裕をもって準備するために早めにたるき亭で昼御飯を食べるぞー。
 
 ねえねは今日自分が仕事って知ってるし、いつもならこの日はスタジオの近くで食べるからねえね驚くだろうなー。

 早くねえねの驚いた顔が見たい。それだけを考えながらたるき亭に向かっていると。

 「だから、もう少し時間がほしいの!」

 今までに聞いたことの無いように大きなねえねの叫びが聞こえたんだ。

 「ごめん……うん。また連絡する」

 電話を切って、溜め息をついて、その場にしゃがみこむねえね。

 いつも明るいねえねとは全然違うその姿に、自分思わず声をかけちゃったぞ。

 「……ねえね?」

 「!? 響……聞いてた?」

 「うん。ごめんなさい。でも自分……」

 「いや、響は悪くないよ。悪いのは全部あたし……」

 「あ、あのさねえね。自分でよかったらどういうことか話してみてよ」

 お節介だってわかってる。でも、これ以上ねえねの辛いところはみたくなかった。

 それからねえねはゆっくりと話してくれた。

 自分が父子家庭であること。母親と会えない訳じゃないけど、どこか気まずいこと。

 ねえねは役者をやっていて、今度大きな舞台があるからそこに招待すればいいと弟さんから言われたこと。

 話を聞き終えて、自分は反射的にねえねにこう答えていた。

 「ねえね。それ、絶対会うべきだぞ! 会わないと後悔する」

 「後悔……?」

 「自分には、もう、会いたくても会えない人がいるんだ」

 たーりー、自分の父親は自分の子供の頃に死んでしまった。

 写真もビデオも残ってるからたーりーがどんな人かはわかるけど直接見たことはない。

 「自分、ねえねにはそんな思いをしてほしくないぞ」

 東京で、事務所以外で出来た初めての友達。

 いつの間にか、家族みたいに大切に感じるようになってた。

 だから、自分はねえねをねえね、お姉ちゃんって呼ぶんだ。

 いつの間にか、泣きながらねえねに話していた自分の涙を、ねえねは優しく拭いてくれた。

 やっぱりねえねはねえねだなあって思った。

 それからしばらくしてねえねの名前をインターネットで調べたら、ねえねの写真が乗ってるブログが出てきた。

 そこには「15年ぶりにお母さんと会えました!」って書いてあった。

 自分は、ねえねに「おめでとう。良かったね」ってメールをした。

 店は休みのはずだけど、ねえねからは返信がなかった。

 役者の仕事が忙しいのかもしれない。

 ある日の夕方。夕飯を食べにたるき亭に行こうとしたらサングラスと帽子被った怪しい人に声をかけられた。

 一瞬身構えたけどよく見たらねえねだった。ねえね、正直その変装はどうかと思うぞ……

 「あれから仕事が忙しくなってさ。報告できなくて、ごめん。たるき亭でのアルバイトも今日で終わりなんだ」

 え、それは急すぎるぞ……

 「そんな……せっかく仲良くなれたのに……」

 「ごめんね……でも、響はトップアイドルになるんでしょ? あたしも、響が「おー。ねえねまた出てるぞー」って言えるような役者になるよ」

 それから、自分を抱きしめて、ねえねはこういった。

 「ありがとう。響に出会えて、よかった」

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