あかり「あるがままに」 (34)
~赤座家~
ちなつ「ごめんね、今日もいろいろ相談に乗ってくれて」
あかり「ううん、全然大丈夫だよぉ」
あかり「また相談したくなったら我慢せずに話してね」
ちなつ「うん、ありがと」
ちなつ(あかりちゃん、やっぱりやさしいなあ)
ちなつ「暗くなってきたから帰るね」
あかり「気をつけてね」
ちなつ「それじゃあ」
あかり「あ、ちなつちゃんちょっと待って」
ちなつ「どうしたの?」
あかり「頑張ってね、ちなつちゃん」
ちなつ「う、うん」
~帰り道~
ちなつ(またあかりちゃんに頼っちゃった)
ちなつ(ずっとあかりちゃんに慰めてもらってばかりじゃだめだよね)
ちなつ(よし、頑張るぞ)
ちなつ(結衣先輩に私の思いを伝えられますように……)
ちなつ(あかりちゃん、応援しててね……)ギュッ
~次の日、部室~
京子「……」カリカリ
京子「……ダメだ」
結衣「京子、どうした? 具合悪そうだぞ」
京子「実はゆうべ寝てないんだよね……」
ちなつ「どうしたんですか?」
京子「おお、聞いてくれるかこの絶望的状況を」
京子「ミラクるん本の原稿締め切りが七日後に迫っている」
京子「ただし今私の手元にあるのはネタ帳」
ちなつ「なるほど、アイデアがわかないと」
京子「いや、ネタ自体はあるけど面白くないんだよね」
結衣「ネタがあるなら書けばいいんじゃないか?」
京子「つまらないものを出すのは私のポリシーに反する」
結衣「そんなこと言ってる場合じゃないだろうに」
京子「これもう原稿落とすかも知んないな……」
京子「ああ、天からネタが降ってこないものだろうか……」
あかり「大丈夫だよぉ」
京子「だいじょう、ぶ?」
あかり「京子ちゃんには絶対面白いものが書けるよぉ」
京子「なんかさも当然のように言われると逆に怖いんだけど」
あかり「だってあかり、京子ちゃんが誰よりもミラクるん好きだって知ってるもん」
あかり「作品が好きな気持ちがあれば、絶対に大丈夫。自分を信じてあげて」
京子「……でも、これまで必死に考えてきてもダメだったんだぞ」
あかり「大丈夫。京子ちゃんはそのままでいいんだよぉ」
あかり「もっと楽に行こうよ。京子ちゃん力入りすぎだよぉ」
あかり「気楽に構えてたら、案外ぱっとアイデアが出るかも」
京子「っ、確かにそうかもしれない」
あかり「それよりも京子ちゃん、しっかり寝ないとダメだよぉ」
あかり「体が元気じゃないと良いものも書けないし、みんな心配してるんだよ?」
京子「……うん」
結衣「あかりに教えられたな」
京子「……ありがとう、あかり」
あかり「いえいえ、どういたしまして」ニコッ
ちなつ「……」
京子「よし、一度リラックスしよう。今からみんなで結衣のうちに行くぞ!」
結衣「いきなりだな」
結衣「まあ、いいけど」
ちなつ「でも、もうちょっとここでゆっくりしていきましょうよ」
ちなつ「今日新しいお茶の葉っぱがあるんですよ。飲んでください」
結衣「そうなんだ。ごちそうになろうか」
ちなつ「じゃあ用意してきますね」
京子「私ちょっとトイレ」バタバタ
結衣「……」
結衣(うわあ、見ちゃったよ)
結衣「あかり……あれ」
あかり「ちっちゃなクモさんだね」
結衣(うう、気分悪い……。やっぱり虫はダメだな)
結衣「ね、ねえあかり。潰してくれないかな、あれ」
あかり「えー、かわいそうだよぉ」
あかり「向こうには私たちに何かする気はないもん。潰しちゃうのはダメだよ」
あかり「ほっといてあげよ?」
結衣「……それも、そうだな」
京子「ただいまー」
ちなつ「お茶入りました―」
向こうには私たちに→向こうにはあかりたちに
結衣「お茶美味しかったよ」
ちなつ「わぁー、ありがとうございます!」
ちなつ(結衣先輩にほめられた……)グッ
京子「お茶も飲んだし、結衣の家に行こう!」
あかり「わあい、結衣ちゃん家久しぶりだよぉ」
ちなつ(……よし、今日告白しよう)
ちなつ(ちなつ、勇気を出すのよ……)
~結衣の家~
京子「結衣ー、お腹すいたぞー」
結衣「知らん」
京子「黙って私にラムレーズンを出せばいいんだよ」
結衣「ない。お前何様だよ」
あかり「まあまあ、結衣ちゃん。お菓子作ってくれると嬉しいな」
結衣「あかりがそう言うなら……。京子、あかりに感謝しなよ」
京子「ふん」
結衣「マドレーヌでも作るか」
……
京子「ちなつちゃんの髪を触りたい」
ちなつ「嫌ですよ」
京子「ちなつちゃんをなでることでネタが浮かぶかも知れない」
ちなつ「そうだとしても嫌です」
京子「いやあ、それにしてもあかりの話は効いたなあ」
京子「あかりってなんだかんだ言ってやさしいよね」
ちなつ「そうですよね! 私もあかりちゃんにいつも元気づけられてます」
あかり「そんなあ、照れるよぉ」
京子「いつもは目立たないけど、やっぱあかりがいないとごらく部は成り立たないよね」
あかり「落ち込んでる子がいたら慰めてあげる。あかりは当然のことをしてるだけだよ?」
京子(良い子だ……)
結衣「失敗した……」
ちなつ「どうしたんですか?」
結衣「いや、ベーキングパウダー入れ忘れてさ……」
京子「ぺっちゃんこだな」
結衣「ごめん、もう一回作りなおそうか」
あかり「そんなことしなくていいよぉ」パクッ
あかり「うん、美味しい! 結衣ちゃんお菓子作りも上手!」
あかり「ベーキングパウダーはないほうが体にいいし、味も美味しいんだからこのままでいいよぉ」
結衣「そう? ありがとう」
ちなつ「美味しいです、結衣先輩!」モグモグ
結衣「ありがとう、ちなつちゃん」
京子「ふうん、どれどれ」パクッ
京子「まあ、合格点だな」
結衣「だからお前は何様だ」
あかり「ごちそうさまー! 結衣ちゃん、作ってくれてありがとう!」ニコッ
結衣「う、うん」
結衣(いい笑顔だ……)
ちなつ「……」
ちなつ(あかりちゃん、私だけじゃなくて京子先輩と結衣先輩にもやさしくするんだな)
ちなつ(なんか、もやもやするな……)
ちなつ(私には、二人以上にやさしくしてほしい……)
ちなつ(……って、何を考えてるんだろ私)
京子「結衣が作ってる間あかりがやさしいことについて話してたんだけどさ」モグモグ
結衣「口の中に物いれたまましゃべるなよ……」
結衣「まあ、確かにそうだな。あかりはやさしい」
あかり「結衣ちゃんにも言われちゃったよぉ、えへへ」
京子「私あかりにお礼しなきゃいけない気がしてきた」
あかり「そ、そんな気をつかわなくていいよぉ」
あかり「あかりはみんなの幸せな顔がお礼の代わりだと思ってるから」
結衣(良い子だ……)
結衣「暗くなってきたな」
あかり「そろそろ帰るよぉ」
京子「今日のところはこれくらいにしといてやるか」
結衣「……」
ちなつ「そ、そうですね……」
京子「じゃーねー」
あかり「また明日!」
ちなつ(よ、よし……)
ちなつ「……あの、結衣先輩!」
結衣「? どうしたのちなつちゃん」
ちなつ「ちょ、ちょっと話が……」
あかり「……じゃあちなつちゃん、私たち先に行ってるよ」
結衣「話って何?」
ちなつ「その、きょ、今日はありがとうございました」
結衣「うん。私もちなつちゃんたちが来てくれてうれしいよ」
ちなつ「あの、その……」
結衣「うん?」
ちなつ(ダメよ、ちなつ……ここで頑張らないと)
ちなつ「……」
ちなつ「……」
結衣「どうしたの?」
ちなつ(……ダメだ)
ちなつ「きょ、今日はありがとうございました」ペコッ
結衣(それさっきも言ったよな……)
結衣「うん、どうも」
ちなつ「じゃあ、失礼します」
結衣「うん、また来てね」
~帰り道~
ちなつ(ダメだった……)
ちなつ(はあ……。結衣先輩の前になるとどうしてもダメになっちゃう)
ちなつ(でも、無理やりにでも告白しないともっとダメだよね……)
~赤座家~
ちなつ「ごめんね、何回もお邪魔させてもらって」
あかり「大丈夫、大丈夫だよぉ」
ちなつ「うっ……ごめんね」グスッ
あかり「泣かないで……」ポンポン
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