キョン「お前、誰だ?」(610)
携帯電話が鳴った。
どうやら意識を失っていたらしかった俺は、その振動で目を覚ました。
あたりを見回すとそこは見慣れたにも程がある自分の部屋で、俺はベッドの上に居た。
時計の針は午後5時40分を指している。
はて。
俺はどうしてベッドの上なんかに居るのだろう。
携帯電話はまだ手の中で震えていた。
画面の名前を確かめてみると、そこに表示されていたのは俺の知らない名前だった。
『古泉一樹』
……誰だ?
見たことも聞いたこともない名前だった。多分、男だろう。
目を閉じて思考するも思いつかない。電話帳に登録した覚えもない。
しかし、こうして表示されているということは登録したからであろう。
では、どうしてその覚えがないのか。
考えている間も電話が切れることはなかった。
しつこいやつだな。そんなに俺と話がしたいのか。
しかし相手は知らない奴だ。素直に出てしまっていいものだろうか。
躊躇った俺は、あと10数えても電話が切れなかったら通話ボタンを押すことに決めた。
3数えたところで、手の中の携帯電話が静まった。
諦めてくれたか。
俺は安堵し、携帯電話を枕元へ置こうとした、が。
いや、待て。ここで確かめておいたほうがいいのではないだろうか。
再び携帯電話を手に取り、俺は電話帳を開いた。
思ったとおりだ。
そこには「古泉一樹」以外にも俺の知らない名前が幾つかあった。
朝比奈みくる
涼宮ハルヒ
長門有希
履歴を見るとよく電話をかけているらしかった。
特に涼宮ハルヒ。
こいつとは昨日も電話したばかりらしい。俺はそんな奴記憶にないんだがな。
もちろん通話した覚えもない。どうなっているんだ、これは。
他にも幾つか知らない名前があった。
いや、ひとつだけ知っている。
朝比奈みくる、ってのはもしや同じ学校のひとつ上の先輩の、朝比奈みくるさんのことだろうか。
名前は知っている。顔もなんとなくだが見たことがある。
確か谷口がギャーギャー騒いでいた気がするな。この学校のアイドルだなんだってな。
電話帳を見ている最中に、また電話がかかってきた。
さっきと同じ、「古泉一樹」からだ。
期待支援
さるさんには気をつけろよ
>>4
ありがとう
気づいたら俺は通話ボタンを押してしまっていた。
しまった。
慌てて電話を耳元へ持っていくと、向こう側から男の声がした。
『こんばんは、古泉です』
声を聞いてもやはり心当たりはなかった。
やけに爽やかなトーンで話すその男は、口調からして俺と親しい関係らしい。
『涼宮さんから聞きましたが、今日早退なされたそうですね』
早退?
『あなたが早退だなんて珍しいので、なにかあったのかと思いましたよ。どうかしたのですか?』
待て、俺は今日早退した覚えなんてないのだが
『……何を言っているんですか?涼宮さんがとても心配していましたよ』
いや待て。
慌てて記憶を辿ってみる。
俺は今日もいつもどおり普通に登校して、普通に授業受けて、普通に飯食って……
あれ?
どういうことか体育の授業の前に着替えた後のことが思い出せなかった。
確かに昼休みに体操着に着替えた覚えはある。
しかし体育の授業を受けた覚えがない。どういうことだ?
『どうしました?』
しばらく黙っていた俺を不審に思ったのか男は電話口で心配そうに、
いや、落ち着け俺。そもそもだな、
「お前、誰だ?」
『……失礼ですが、寝ぼけていらっしゃるのですか?』
寝ぼけてなんかいない。
「本当にお前のことを知らないんだ。お前の言っている涼宮、って奴のことも俺は知らない」
『…………』
「だがな、なぜかお前の名前が俺の携帯電話に入っているんだよ。これはどういうことだ?」
俺がそう言うと、電話の向こうは静かになった。
反応があったのは30秒後ぐらいだ。
電話口からは心底困ったような声で
『……これは……困ったことになってしまったようです』
「あ?」
『すみませんが、これから外に出てもらえませんか』
相手は知らない奴だ。
だが相手は俺のことを知っているらしい。
少し躊躇ったが、了承の意を伝えると男は
『ではいつもの場所で……と言っても分からないですよね、すみません。北口駅前でお待ちしております』
と、それだけ言ってから電話を切った。
いつもの場所、ということはいつも駅前で待ち合わせをして一緒に出かけていたということなんだろうな。
思考をめぐらしてみても、やはりそんな覚えはなかった。
とにかく俺は、財布だけ持って家を出た。
何も考えずに家を出たわけだが、俺は相手の顔を知らない。
どうやって相手を見つければいいのだろうか、と待ち合わせ場所へ着くまで考えていたのだが、
それは杞憂で終わった。
駅前につくと、俺に向かって手を上げている男が居た。
その男は俺と同じ制服をきっちりと着ていた。どうやらあれが古泉一樹だろう。
その両隣にはうちの高校の制服を着た女生徒が1人ずつ立っていた。
左にはカーディガンを着たショートカットの女子が無表情で直立し、
右にはなんだか見たことのある……ああそうだ、あの人が朝比奈みくるさんだ。
朝比奈さんは俺を視界に捕らえると、今にも泣きそうな顔をした。
「やあ、どうも」
電話口で聞いた声と同じだった。
「僕のこと、覚えてらっしゃいませんか?」
顔を見ても、やはり俺の記憶の中にはなかった。
軽く頷くと、急に片腕に柔らかさを感じ、そこへ顔を向けてみると
朝比奈さんが俺の腕に抱きついていた。
「キョンくん……あ、あたしのことも、忘れちゃいましたか……?」
さびしげな表情で、しかも目に涙をいっぱい溜めながら見上げられても
やはりなにも思い出せない。というか覚えがない。
とても申し訳ない気持ちになり、すみません、と呟くとその人は惜しむように俺
の腕から離れた。
本当に俺はこんなに可愛らしい人と親しかったのであろうか。
いくら考えてもやはり思い出せなかった。
ふと、視線を感じてそちらに顔を向けると
カーディガンを着た女生徒がこちらをじっと見ているのに気がついた。
ずっと目を合わせているとその瞳に飲み込まれそうな気がしたので、目をそらすと
男が一歩近づいて口を開いた。……なんていうか、顔が近い気がするんだが。
「僕は古泉一樹です。よろしく。こちらの方は朝比奈みくるさん、そしてこちらが長門有希さんです」
名前にあわせて古泉が左右に手をスライドさせた。
それにつられて俺も2人の顔を見る。
片方はとうとう泣き出してしまっていて、片方は無表情のままだった。
「……俺のことは知っているんだよな」
「もちろん。仲良くさせていただいていましたよ。ここで立ち話もなんですから、どこかお店に入ってお話しましょうか」
そういうと古泉は慣れた足取りで喫茶店へと向かっていった。
それに俺もついていく。
喫茶店へ入り、適当に席に着くと古泉はウェイトレスに「コーヒーを4つ」と頼み、手を組んで俺に顔を向けた。
「さて、早速ですがお話しましょう。……その前にいくつか質問をしてもよろしいですか?」
「ああ」
「先程、涼宮さんのことを知らないと仰っていましたよね」
「……ああ」
「入学時を思い出してください。あなたの後ろの席には、どなたが座っていたのでしょう」
「……瀬能、だっけな」
「そこから既に、僕たちが持っている記憶と違いますね」
そんなこと言われてもな。
「涼宮さんは、あなたと同じクラスなんです」
「だったら、俺の後ろか前の席に座っているはずだろう」
「ええ、そうです。僕たちの記憶では、涼宮さんはあなたの後ろの席に座っていました」
何を言ってるんだこいつは。
「待て、俺は本当に涼宮なんて知らないし、この記憶は確かなはずだ」
ところどころ抜け落ちている部分はあるだろうが、俺はちゃんと入学の日のことを覚えている。
涼宮なんて生徒はいなかったし、今もクラスには居ない。
こう見えても俺は人の名前を覚えるのは苦手ではないし、もうクラス全員の名前は覚えてしまっている。
確かに涼宮なんて生徒はいない。
「始まりから、僕たちとあなたの記憶は違っています。これはただの記憶喪失ではなさそうです」
「そう」
会ってから初めて口を開いたショートカットの少女(長門さん、だっけか)は、
俺の目をじっと見つめながら
信じられないことを言い出した。
「今ここにいる彼は昨日までここに存在していた彼と異なる」
「と、いいますと」
「彼は異世界同位体」
「……なるほど。では、昨晩までこちらの世界に存在していた彼は、今は違う世界に居ると、そういうことでしょうか」
「そう。正確には今日の13時10分00秒まで」
「では、13時までここに存在していた彼は、今は何処へ?」
「おそらく、以前にわたしが改変した世界にいる」
「……!やはり、2つの世界は同時に存在していて、今までも同時進行していたということになるのですね」
「違う。わたしが改変した世界は、あの時確かに消滅した。しかし、今なぜかまた存在している。これは予想していなかった事態」
「ということは、なんらかの理由でまた世界が存在し始めた、と」
「そう。今ここに居る彼は、改変後の世界にいた彼。つまり、」
「待ってくれ!」
店内の空気が静まった。
思わず俺は立ち上がっていて、3人は黙って俺を見上げていた。
俺が椅子へ戻ると、また店内はそれまでの空気を取り戻したような気がした。
「……勝手に話を進めないでくれ。俺にもわかるように説明しろ」
異世界同位体だと?なんだそれは。意味がわからない。
古泉は申し訳なさそうに笑い(そういえばこいつはずっと笑っているな)長門さんに目配せしながら
「すみません。一から説明しますと、長くなってしまうので簡潔に説明いたしますね」
古泉はポケットからペンを取り出すと、テーブルの端にあった紙を1枚取り出し、
何やら図を書き始めた。
ひとつ、ふたつ。大きな円を2つ書いた古泉は、片方の円の中を指差し、
「これが、今、僕らが存在している世界だとします」
そう言って、円の中に涼宮と俺、それと一緒に居る3人の名前を書き出した。
「そしてこちらが、この世界ではないもうひとつの世界だとします」
そう言ってその円の中へ長門さんと俺、朝比奈さんの名前を書いた。
「元はあなたはこちらの世界に存在していたはずなのですが」
そう言いながら後に名前を入れたほうの円を軽く指で叩き、
「何らかの理由で、こちらの世界にいるあなたと入れ替わってしまった」
そう言って、先に名前を入れた方の円を指で叩いた。
2つの円の中の俺の名前が、矢印で結ばれる。
「先程僕と長門さんが話していたのはこういうことです。簡単に言いますと、あなたは別の世界から来た、ということになります」
そう説明されても俺にはちっとも分からなかった。
俺は、別の世界から来た、だと?
「憶測ですが、あなたが元居た世界も、こちらの世界とはなんら変わりはないのでしょう。ただひとつ違うのは、涼宮ハルヒと面識がなかった」
わけがわからない。
古泉は口を閉じず今も平行世界がどうだか、時空移動がどうだかくっちゃべっていたが
それは俺の頭にはまったく入ってこなかった。なにがどうなっているんだ。入れ替わった?どうして。
「ご理解いただけましたか?」
話は終わったようだ。まったく聞いていなかったがとりあえず肯定しておく。
そこに見計ったかのようにコーヒーが運ばれてきた。
ウェイトレスが各々の前にコーヒーカップを置いていくのを皆で静かに見守り
最後に伝票が置かれたところで、俺は口を開いた。
「ところで長門さん、とやらは何者なんだ。さっきから聞いていれば世界を改変したとかどうだか……」
長門さんが口を開いた。
「さんはいらない」
「そういえばまだ僕たちの事をお話してませんでしたね、失礼しました」
またお前が喋るのか。
「実はここに居る3人は普通の人間ではないんですよ。まぁ僕は一点を除けば至って平凡な高校生なのですが」
コーヒーを一口、すすり
「長門さんは宇宙人で朝比奈さんは未来人。そして僕は、そうですね、超能力者と呼ばれる存在なのです」
にっこり。
……もっと早く気づけばよかったな。
こいつらはみんなまとめて頭がお花畑なんじゃないだろうか。
………
……
…
「……ョン!キョン!キョン!」
……うるさいな。
「キョン!起きたか!」
「よかった……」
目の前は安堵感溢れている谷口と国木田の顔があった。
「……ここはどこだ」
身体を起こす。頭が痛い気がする。
「保健室だよ」
「ったく、お前は何も覚えてないのか!?」
落ち着いた声で答える国木田の横で、谷口はでかい口をあけて声を張り上げた。うるさいぞお前。
俺は体操着を着ていた。目の前の谷口と国木田も同じ体操着を着ている。
おかしいな。俺はこの体育が嫌で早退したはずなんだが。
「何言ってやがる。お前はなあ、体育館に行く途中の階段で滑って頭打ったんだよ」
は?
「もしかして、覚えてない?」
だんだん、ぼやけていた頭がはっきりとしてきた。
おかしい。
「お前らこそ何言ってやがる。俺は確かに昼休みに早退したはずだ」
今日は珍しいことに朝から体調が悪く、昼休みに限界がきた。
国木田はそんな俺を見て、次は体育なんだから早退しちゃえば?なんて言ったんだ。
俺はその言葉に背中を押され、早退することにした。ああ、ちゃんと家にも着いて、自分のベッドの上に寝転んだんだ。
……それから?
「……キョン、もしかして頭打っておかしくなっちゃったんじゃ……」
目の前の国木田は心から心配しているような顔を俺に向けた。
「おかしくなってなんかいない。ちゃんと記憶がある。俺は確かに昼休みに早退して家に帰ったんだ」
「じゃあなんでお前はここに居るんだよ。それに俺もちゃんと記憶はあるぞ。確かにお前と一緒に着替えた」
谷口が言う。
「俺は体操着に着替えた覚えなんぞないぞ」
俺はそれに答えた。
既視感。
俺と谷口の間に眉を八の字にした国木田が割り込んだ。
「キリがないよ。とにかく、体育には出られる?もうすぐ授業始まっちゃうけど」
「……頭は大丈夫だ」
俺がベッドから降りたちょうどその時、予鈴がなった。
気がついた。
噛み合わない谷口との会話。心配そうな国木田の目。
前にも一度だけ同じことがあった。
忘れもしない去年の12月。
もしかしたら。
胸が騒ぐ。
どうしてかは分からない。わかってしまったんだ。
古泉、今ならお前の気持ちも分かる気がするよ。
今この学校にはハルヒと古泉は居ない。
いくら2度目だといっても、落ち着きすぎていないか、俺。
自分の適応力に喜べばいいのか、嘆けばいいのか。
体育の授業を特になんの問題もなく終え、
体操着のまま俺は真っ先に2年9組の教室へと向かった。
俺の勘が外れていれば、そこには万年ニヤケ野郎が居るはずだった。
しかし予想通りと言うべきか、俺の記憶上9組の教室があったその場所は
初めからそうであったように、非常階段へと続く踊り場が広がっていた。
当たり前か。きっと最初からここは踊り場だったんだ。
流石に2回目は驚かない。少し残念ではあったがな。
しかしまだわずかに残る希望を抱えて俺は着替えるべく教室へ戻った。
「キョン、さっきすごく急いでたみたいだけど、どこに行ってたのさ」
教室で着替えている最中に国木田に問われ、適当に「トイレ」と答えた。
俺の後ろの席に座っているのは誰なのか。今はそれで頭がいっぱいになっていたからだ。
……大体検討はついているが。
視界の端で国木田が眉を下げるのが見えた。
「男子、入っていいよ」
女子が着替え終わるのを廊下で待っていた俺たち男子一同は、その声を合図に教室へと足を向けた。
扉の正面。窓際の後ろから2番目が俺の席である。
窓際の一番後ろの席。つまり俺のひとつ後ろ。
そこに座っていたのはやはり
予想通りであり、期待はずれの人間だった。
「階段から落ちたって聞いたけど、大丈夫なの?」
にっこり。
俺の後ろの席。昨日までハルヒの席だったそこに座っていたのは。
「……朝倉」
どうしてお前がここにいる、なんて野暮な質問はしないさ。
可哀想な奴扱いされるのはもう懲りたんでね。
朝倉涼子がここに存在していることを確認して、確信した。
俺はまた厄介なことに巻き込まれてしまったらしい。
「どうしたの?顔色が悪いわよ」
席に着くと、朝倉が後ろから肩越しにのぞき込んでくる。
ああ、顔も青くなるさ。
なんせ今俺の後ろに座っているのは俺を殺そうとした殺人未遂犯だ。しかも2度もな。
俺がだんまりを決め込んでいると、朝倉は俺にしか聞こえないような小さな声で
囁いた。
「お久しぶり、ね」
背筋に電撃が走った。
思わず振り向いてしまう。バッチリ目が合う。しまった。
そこには「にっこり」と形容するのはさわやかすぎる、
えげつない笑みを顔に張り付けた朝倉涼子が居た。
「お、前……」
こいつは全部知っている。
「あーあ、あの時は残念だったわ。遂にやったと思ったのに」
にたり、と効果音が聞こえるんじゃないかと思えるほど、朝倉は顔を歪めた。目が笑っていない。
「でも、こうしてまた会えて嬉しいわ」
どうしてここまで顔と声の感情を分けられるのか、尊敬するね。
声だけはやたら爽やかだ。
これ以上目を合わせていてはいけない。
俺の脳内で警告音がけたたましく鳴り響く。
しかし、目を逸らすことができなかった。
「ねぇ、放課後空いているかしら?少しお話したいことがあるの」
一体何をする気だ。
「あら、警戒しなくてもいいわよ。楽しみは最後までとっておいた方がいいもの」
今度は「にっこり」と微笑んだ。
「あなたも長門さんに聞きたいことがあるんじゃない?」
チャイムが鳴った。
教師が教室に入ってくると同時に、すかさず朝倉が号令をかけた。
起立、礼、着席。
雑音に紛れ、朝倉の声。
「ちょうどいいわ。放課後、文芸部室ね」
もう一度にっこり微笑むと、すっかり委員長モードに戻った朝倉が授業の準備をはじめた。
俺も前に向き直る。
……朝倉の誘いにホイホイついて行ってもいいものだろうか。
しかし長門に聞きたいことがある、というのも確かである。
俺は黒板とすっかり親友になっている教師の背中を見ながら、
早くハルヒに会いたいと思った。
………
……
…
「わたしの家に来て欲しい」という長門の申し出に、俺たちは頷いた。
これ以上は喫茶店なんぞでは話せない、ということだったんだろう。
長門が一人暮らししているらしいマンションへ向かっている最中、俺は隣を歩く古泉から多数の質問を受けていた。
北高に入学してから今までになにか変わったことは起きなかったか。
部活動は。
放課後は何をしていたか。
「そんなこと聞かれてもお前の期待には応えられないぞ俺は」
「ありのままを話してくれればいいのですよ」
ありのまま、ねぇ。
俺は入学してから2学年に上がった今まで、特になにもなく、平凡な高校生活を送っていたに過ぎない。
目の前に宇宙人が現れたりとか、時空を超えただとか、そんなことは一切なかった。
「ではこちらから質問します。去年の12月のことです。些細なことでもいいので、何か変わったことはありませんでしたか」
「……そういえば」
去年の12月と言われて思い出した。
12月の中頃だっただろうか。
俺の記憶が3日間、ぽっかりと穴があいていることがあった。
何を言われても、その時自分が何をしていたのか覚えていないのだ。
だが友人によれば「確かに学校に来ていた」と言う。
しかもおかしなことばかり口走って、明らかにいつもと様子がおかしかったと、皆口を揃えて言うのだ。
「それです。今のあなたの言葉で確信しました」
古泉は得意げに笑った。
「それがなんだって?」
「詳しいことは長門さんのマンションでお話します。もうすぐそこですよ」
古泉がそう言ってから5分後くらいだろうか。長門が立ち止まった。
見上げる。いかにも高級そうなマンションである。こんなところに一人で暮らしているのか。
長門は玄関のキーロックに暗証番号を打ち込んで施錠を解除し、そのままロビーへ向かった。
4人で無言でエレベーターに乗り込む。
長門はまっすぐ前だけ向いていて、古泉は笑ったまま顔を固定している。
朝比奈さんは何かに怯えているように身を縮めていた。
そういえば会ってからあんまり喋っていないが、この人はお喋りが苦手なんだろうか。
エレベーターが止まる。すこし歩き、ある扉の前で立ち止まった。708号室。
「入って」
長門が静かに言った。
「お邪魔します」
長門の部屋はぱっと見た感じ、こたつしかない。
「座って」
そう促され、俺は適当に腰を下ろした。古泉が俺の左隣に座る。
朝比奈さんは俺の右隣に腰を下ろそうとして、はっとしたように口を開いた。
「あっ、あたし、お茶淹れます。い、いいですか?」
長門が朝比奈さんを見る。
いかにもオドオドとしている朝比奈さんに向かってゆっくり顔を縦に振ると、
朝比奈さんはそれを笑顔で受け取り、キッチンへと向かった。
それを見送り、長門は俺の正面に腰をおろした。
「さて、どこから説明しましょうか」
古泉の問いかけに答えたのは長門だった。
「わたしから」
喫茶店で改変がどうの異次元がどうの言っていたよな。
俺は、どんな電波話が繰り出されるのかと身構えた。
長門が静かに口を開く。
長門の口からは俺の想像以上の規模の電波話が繰り出された。
とても俺の脳みそでは処理しきれない。
古泉は時々「なるほど」やら「確かに」などと相槌を打っていたが、本当に分かっているのか。
そうか、頭がお花畑だったんだっけな。
「……つまり、長門は人間じゃなくて、その対有機なんたらっていう……」
「対有機生命体コンタクト用ヒューマノイド・インターフェース」
「簡単に言ってしまうと宇宙人なわけです」
「涼宮ハルヒとかいう女の監視をするために地上に降りてきた宇宙人ってとこか」
「そんなところですね」
これはどこから突っ込めばいいのかね。
「にわかには信じられないかもしれませんが」
「でも、信じて」
長門と古泉の目は、真っ直ぐ俺を捕らえていた。
信じて、ねぇ。
「お待たせしましたぁ」
そこにカチャカチャと音を立てて、朝比奈さんがキッチンから現れた。
湯のみを乗せたお盆を持ったその足取りは、なんとも危なっかしいものだ。
「わたしからも、説明しなければならないことがあります」
朝比奈さんは長門、古泉、俺の順に湯飲みを目の前に置いていき
最後に自分の前に盆ごと置き、腰を降ろして俺と目を合わせる。
「聞いてもらえますか?」
この人からも電波話を聞かなければならないのか。
……
結局、2時間かけて3人から各々の視点で「涼宮ハルヒ」という存在を説明された。
それから、SOS団とかいう涼宮ハルヒが立ち上げた団での出来事なども聞かせていただいた。
電波話もここまで詳しく、しかも3人から聞かされてしまうと信じてしまいたくなる。
「あなたはこの話が僕たちが想像上造り上げた話かと思っているかもしれませんが、全て本当のことなんです」
そう言う古泉はいたって真剣な顔をしている。朝比奈さんもだ。
長門は相変わらず無表情である。
視線が突き刺さる。
「……分かったよ。お前たちを信じる」
付き合ってやろうじゃないか。
「お前は、俺がその涼宮ハルヒにとって鍵である存在だって、言ってたよな」
「その通りです」
「……俺はどうすればいいんだ」
「そこが問題です」
シエソナタ
「涼宮さんには、このことは黙っていたほうがいいのでしょうか」
このこと、とは俺が「涼宮ハルヒを知らない世界」から来たってことだろう。
俺の言動が涼宮ハルヒに大きな影響を与えるのだとしたら、下手な行動は取れないんじゃないだろうか。
「隠し通せる可能性は低い」
「記憶喪失ってことにすれば……いいんじゃないですか?」
朝比奈さんが控えめな口調で言った。
「やはりそれが一番いいでしょう」
「では、彼は自宅の階段からすべり、頭の打ち所が悪く記憶をなくしてしまった、ということにしましょう」
古泉の言葉に朝比奈さんと長門が頷く。
やけに軽く言われたような気がするが、まぁ大体合ってると言っちゃ合ってるんじゃないだろうか。
実際、涼宮ハルヒと過ごしていた記憶は俺にはないんだ。目の前の古泉や長門、朝比奈さんに対しても同じだが。
「では明日の朝一番、部室に集合です。涼宮さんには僕から連絡しておきます」
古泉が立ち上がる。長門と朝比奈さんもそれに倣い、俺もつられて立ち上がった。
今日はこれにてお開き。
長門のマンションからの帰路。俺はぼんやりと考えていた。
世界を大いに盛り上げるための涼宮ハルヒの団。長門と古泉と朝比奈さん。
この世界の俺はSOS団と一緒に野球大会に出たり、でかいカマドウマと戦ったり、七夕には3年前に行ったり、
孤島で嵐に遭ったり、夏休みを1万回も繰り返したり、映画を撮ったり、雪山で遭難したり、していたのか。
ここの俺は頭がおかしかったんじゃないだろうか。
ほんの少しだが、楽しそうだなと思ってしまった俺を殴るべきだろうか。
世界崩壊寸前を立ち会ったり、同級生に刺されるなんてのはまっぴらごめんだが
宇宙人と未来人と超能力者と、そんな体験をしている俺を羨ましいと思ってしまった。
この世界に居たはずの俺は、今どんな気持ちでいるのだろうか。
いかんな。俺も頭がおかしくなってきたらしい。
「そういえば」
自分の部屋に入り、携帯電話を部屋に忘れていった事に今更気づき、思い出した。
古泉が確信したとか言っていた、俺の12月の3日間の記憶がない理由。それをまだ説明されていないぞ。
今から電話したら、多分すぐに出るだろう。
携帯電話を手にとり、やめた。わざわざ電話しなくてもいい。明日聞くことにしよう。
こちらの世界でも毎朝妹が起こしにくるのだろうか。
そんなことを思いながら俺はベッドに潜った。
バイトへ行く時間になってしまいました。
もし残っていたら、また夜に来ます。
支援ありがとう
ちなみに次は朝倉さんのターンからスタート
何時に帰ってくるの?
>>75
11時ごろになると思う
これは良SS
一瞬七夕の人かとオモタ
>>86
キョン「また、七夕に会おう」か
あの日は良SSに恵まれてたな
キョン「お前、誰だ?」
???「俺?」
???「俺、佐藤裕也(`ェ´)ピャー」
保守
>>91
IDwww
キョン「お前は誰だお前は誰だお前は誰だお前は誰だ…」
鏡「…」
ほ
我
>>130
kwsk
>>144
キョン「……今日も雨か」(鬱ハルヒ)
キョン「また、七夕に会おう」
うおおおおおおおおおお残ってるううううううううううううう
保守ありがとう!お前ら大好き!
>>1です
ただいま。
投下ペースすごく遅くなるかもしれん
………
……
…
放課後。
女子と談笑する朝倉を横目に、俺は急ぎ足で教室を出た。
向かうところはひとつしかない。文芸部室だ。
朝倉の物言いからして、長門は文芸部室に居るはずだ。
居てくれ、長門。
「文芸部室」と書かれたプレート。
その上にハルヒの字でSOS団と書かれた紙なんて、やはり貼ってなかった。
なにを期待しているんだ俺は。分かっていただろう。
扉を軽くノックする。2回。
中から返事は聞こえなかったが、俺はドアノブに手を伸ばした。
みんな無理しないで寝てくれ。今来たとこだけど俺も眠い
「……長門」
安心した。
そこには、一度見たことがある光景が広がっていた。
本棚と数個のパイプ椅子、長テーブルとその上に置いてある旧式のデスクトップパソコン。
本を読む長門有希。
長門は膝元に置かれた分厚い本から顔をあげ、俺を見た。
…………あれ?
長門は眼鏡をかけていた。ここまでは予想通りである。
しかし、眼鏡の奥にある瞳はとても見慣れたものだった。
「待ってた」
落ち着いた声で呟いた長門は、昨日も一緒にSOS団部室に居た、長門有希そのものだった。
思い出した。
短針銃を撃ったんだ。
俺の前で頬を紅く染め、微笑むような長門有希を、
俺の良く知っている宇宙人・長門有希が撃った。
そうだった……。
またあの長門に会えるかもしれない、と心の片隅で楽しみにしていた俺を誰か殴ってくれ。
むしろよかったじゃないか。こっちの長門のほうが頼りになる。
頼りになるから……。
目の前で項垂れている俺を見て、眼鏡をかけた長門は首をかしげた。
「どうしたの」
長門の声で我に返った。
そうだ。こんなことで落ち込んでいる場合ではない。なんてお気楽野郎だ俺は。
しかし2回目ということもあってか、
何があっても結局は元の世界に戻れるんじゃないかという余裕が俺の中にはあった。
この世界には俺の知っている長門も居る。案外簡単に戻れるんじゃないか?
コン、コン
長門が俺に向かって何かを言おうと口を開いた、ちょうどその時だった。
「長門さん、わたしよ」
朝倉の声だ。
反射で背筋が伸びる。
いかんな。こんな調子では朝倉の思う壺ではなかろうか。
長門は朝倉の声を受け取り、俺のほうに目をやった。
……俺の了解を待っているのか、これは。
試しにうなずいてみる。
それを見て、長門は扉に向かって「入って」と呟いた。
「お邪魔するわよ」
両手でドアノブを持って扉を開ける朝倉の顔には、委員長スマイルが広がっていた。
「キョン君ったら、置いて行っちゃうなんて酷いんじゃない?」
「朝倉涼子」
パタン。
長門が膝元で開かれていた本を閉じた。
「何しに来たの」
バタン。
朝倉が微笑んだまま後ろ手でドアを閉めた。
「その言い方は酷いんじゃないかしら、長門さん」
「2人っきりで居るところをお邪魔したのは悪かったわ」
「朝倉涼子」
長門の顔には「これ以上喋るな」と書かれていたようだ。
朝倉は長門の顔を見て、笑顔で肩をすくめた。
「さっきの質問だけど」
朝倉はドアの側に立てかけてあったパイプ椅子を長門の隣に持って行き、広げた。
「このキョン君に話があるの」
あなたも座ったら?と朝倉。
俺はそれに従った。
パイプ椅子を、机を挟んで長門の正面になる位置へ持っていく。
「そういえば、俺のことが分かるか?長門」
我ながら可笑しな質問だと思ったが、長門には意味が通じたようだ。
「……あなたはこの世界のあなたではない」
「確認するがお前は、えっと……対有機生命体」
「コンタクト用ヒューマノイド・インターフェース」
俺が最後まで言い終わる前に言われてしまった。
ここに居る長門は宇宙人らしい。
「お前もだよな?朝倉」
俺の問いに朝倉は笑顔で答えた。朝倉も宇宙人、と。
俺は長門に向かって聞いた。
「一体どうなっているんだ?説明してくれ」
「他人に答えを請う前に少しは自分で考えろって教わらなかったのかしら」
すかさず朝倉が口を挟んだ。ぐ、その言葉は痛い。
怯んだ俺を見てニヤリと笑った。長門は朝倉を見ている。
「わたしが説明するわね」
「あ、その前にひとつ。言おうと思ってたことがあったんだわ」
ぱんっと両手を合わせて、俺を見てにっこり笑った。
「わたしね、もうあなたに殺意なんて抱いていないのよ」
それだけよ。朝倉は言った。
「はぁ?」
おっと、思ったことがそのまま口に出てしまった。
「じゃあ、さっきのは」
「さっきって言うのは教室で話してたことかしら、あれね」
長門が不思議な表情で朝倉を見ていた。この表情は、見たことがないな。
「あなたの反応がとっても面白かったから、ついからかってみたくなっちゃって」
ウインクから星が出そうな勢いである。随分楽しそうだな。
勘弁してくれ。
「だから、これからもうあなたの命を狙うようなことはしないわ。安心して」
そうは言われても、俺は既に朝倉に2度も殺されそうになっているのである。
易々と信じられる自信はないな。
「約束するわ」
朝倉は寂しそうに言った。
その目は「わたしのことを信じられないのね」と言っているようだ。
「……分かったよ」
何が分かったんだろうな、俺。
「大丈夫」
聞き役に徹していた長門がようやく口を開いたようだ。
「朝倉涼子の言葉が嘘であったとしても、わたしがあなたを守る」
俺をまっすぐに捕らえる長門の瞳。
「必ず」
それは見たことがあるようで、見たことのない瞳だった。
この世界の長門は、やっぱり俺がよく知る長門ではないようだ。
「そんな怖い顔をしないでよ、長門さん」
朝倉はきゃぴきゃぴという擬音が似合いそうな仕草で長門の肩をつついた。
対して長門は無表情……いや、拗ねているような、呆れているような顔をしている。
それは完全に、俺の知らない長門有希だった。
この世界の長門は、俺の知っている長門よりも感情豊かなのかもしれない。
というか、そうである。先程から驚かされてばかりだ。
俺の知っている長門も、初めて会った頃に比べれば、随分人間くさくなったもんだ。
冗談を言ったり、朝比奈さんの台詞を真似たりな。
この世界の長門は、それよりも一段階も二段階も人間に近いのかもしれない。
俺はこの長門ともっと喋ってみたいと思った。
すまん、もう寝る
ところどころ文章がおかしくなっている所があるかもしれない。ごめん。
支援ありがとう。明日の昼ごろまた来ます。
それまでよろしくお願いしたい。
>>1です。保守thx
ていうか2日ルールあるのか。
本当にこの調子じゃ終わらないどころか1スレじゃ足りなくなるかもしれんが
とりあえずやれるとこまでやります。って言っても今日もバイトあるんだが
勢いで書いてるのでおかしいところは脳内補完よろ
>>232の続き
「さて、そろそろ本題に入ろうかしら。まずは何から聞きたい?」
長門を散々つつき回して気が済んだようだ。朝倉が俺に向き直した。
「ここはどこだ。……俺の勘ではここには一回来たことがある気がするんだが」
「あなたの言う通りよ」
朝倉は顔の前で手を組み、続ける。
「去年の12月に長門さんが改変した世界、って言って分かるかしら」
それだけで十分だ。
だが待て、この世界は長門によって再改変されたんじゃなかったのか。
「長門さんはそうね、例えるなら上書き保存しようとしたんだわ」
でもね、と朝倉は続けた。
「上書き保存って、保存しようとしているファイル名とされようとしているファイル名が同じだから実行されるわけでしょ」
この例えはちょっと分かり難かったかしら、と朝倉は首を傾げた。
「そこでね、私はある細工をしたの」
同じ場所に同じ名前のファイルは存在できない。
「だったら少しでも、名前を変えればいいんだわ。ドットでもカンマでも、ひとつ入れればそれは違う名前のファイルになるの」
なるほどな。朝倉の言っていることは大体分かった。
「長門が再改変しようとした世界を、お前が防いだのか」
「ええ、そうよ」
ん?いや、ひとつおかしな点がある。
考えてみれば明らかにおかしい。
俺が怪訝な顔をするのを見て、朝倉は俺が何を言おうとしているのか分かったらしい。
微笑みながら俺の言葉を待っているようだ。
あまり待たせるのはよくないな。朝倉の期待に応えてやる。
「お前はどうしてここに居る」
今正面に居る長門は短針銃の効果をもろに浴びている。
ならば朝倉は?どうして平気な顔をしている。あの時確かに長門にナイフと一緒に消されたはずだ。
俺は目の前で朝倉が消えていく瞬間を確かに見た。
待っていた、とばかりに微笑んだ朝倉は、自分の頭部から髪の毛を一本抜きとった。
「わたしたちって結構便利につくられているのよ」
「この髪の毛一本からだって、朝倉涼子を構成することができるの」
自分の髪の毛を指で弄りながら朝倉は言った。
俺の視線をどう取ったのか、
「今ここでわたしのコピーを作ることもできるけど、今はしないわよ」
弄っていた髪の毛を床に落とす。
「それにね、作るにはそれなりのエネルギーと時間がかかるの」
「あの時ね、念のために自分の髪の毛を切り取っておいたの」
あの時とは、俺が朝倉に横腹を刺された時のことだろう。
朝倉がこれくらい、と指を広げた。ざっと10cmはあるんじゃないだろうか。
「素材が多ければ多いほど時間は短縮できるのよ」
長門に消去された後、その髪の毛を使って「朝倉涼子」を再構成したっていうのか。
「さすがキョン君ね。そうよ。なんとか長門さんが再改変を完了させる前に手を加えることができたわ」
なんとかって。朝倉が消えてから長門が再改変を行うまで、その間はほんの十数分しかなかったはずだ。
そんな短時間で人ひとり再構成できてしまうのか。
「ね、便利でしょ」
ガタッ。
急に長門が立ち上がった。
「……どうした?長門」
「約束の時間」
約束の時間?
「誰と?」
「涼宮ハルヒ」
思わず俺も立ち上がった。
もしかして、あの時から今までSOS団は続いていたのか。
長門が軽く頷く。
「ハルヒがここに来るのか?」
「違う。駅前の喫茶店」
ああ、そういえばハルヒが言ってた気がするな。
学校からここまで来るのは交通が不便だって。思い出したよ。
「もうすぐ朝比奈みくるが来るはず」
長門の話によると、放課後は毎日朝比奈さんと文芸部室で待ち合わせをして、2人で喫茶店に向かうらしい。
喫茶店でハルヒと古泉と落ち合うと、そこから色々なところへ赴くようだ。
この世界のSOS団は、俺たちが土曜日に行っている不思議探索パトロールを放課後に行っているらしかった。
コンコン
扉が鳴った。
「入って」
「長門さん、お待たせしまし……た……」
扉の向こうから現れたのは朝比奈さんだ。
この部屋に長門以外の人間がいることが相当珍しかったのだろう。
朝比奈さんは大きな目をパチパチ、と瞬かせて、それから朝倉と俺の顔を順に見た。
「あっ……」
俺の顔を見て可愛らしい口元が開かれる。どうやら俺のことを覚えているらしい。
そして俺も思い出した。あの時の朝比奈さんの目。
なんとも居ずらい状況に置かれてしまった俺は
どうすればいい、と長門に目配せをした。我ながらヘタレである。
「あのっ……キョン君、ですよね?……ジョン君って言ったほうがいいのかな」
予想外だ。朝比奈さんの方から声をかけていただいた。
「涼宮さんからいつも話を聞いているの」
にっこりと笑った。その笑顔はまるで向日葵のごとく明るく綺麗なものだった。
「あの時は、その……ごめんなさい。私、酷いこと言いましたよね」
朝比奈さんはハルヒから全てを聞いているらしい。
別の世界から来たらしいということ、その俺は朝比奈さんや長門を知っていたこと。
それからこちらの朝比奈さんはやけに勘が良いらしい。
今の俺を「あの時、ここに連れて来てくれたジョン君ですよね」と何の説明も聞かずに言ったのだ。
こちらの朝比奈さんも未来人か何かなのか?
「朝比奈みくるは至って普通の人間。未来人でも宇宙人でもない」
長門が言うんなら間違いないな。
「なんだか、見た瞬間そんな感じがしたんです。あ、ジョン君だって」
恐るべき第六感。
「そろそろ行った方がいいんじゃないかしら」
いかん、朝比奈さんの笑顔に見とれていた。
長門は朝倉の言葉に頷くと、自分の鞄を肩にかけた。
「長門、俺も一緒に行っていいか」
「もっもちろんです!涼宮さん、きっと喜ぶんじゃないかなぁ」
長門への問いかけに朝比奈さんが答えてくれた。両手を合わせて微笑む朝比奈さん。
また、あのハルヒに会える。
まだ部室に残っているという朝倉に、部室の鍵を渡して俺たちはこの部屋を後にした。
「キョン君」
長門、朝比奈さんの後に続いて退室しようとしていた俺に、朝倉が声をかけた。
「長門さんに何かあったら、真っ先にあなたを疑うからね」
にったり。
……おいおい、さっきの約束はどこにいった。
掴まれている右腕から殺意を感じるんだが気のせいかな。
「長門さんに、お夕飯作って待ってるからって伝えておいて。じゃあね」
朝倉は微笑み、俺を扉の外へ軽く突き飛ばす。バタン。
やけに乱暴に閉じられた。
……なんなんだ、あいつは。
俺は、名前を呼ぶ朝比奈さんの声を聞き、小走りで2人の後を追った。
校内から出て、坂道を降りている最中。
朝比奈さんと長門はずっと寄り添って俺の前を歩いていた。
とても楽しそうに話をしている朝比奈さんと、それを頷いて聞いている長門の横顔が見える。
俺の知っている朝比奈さんと長門からは想像のできない光景だな。
あの調子じゃ休日には2人で買い物行ったりしているんじゃないだろうか。
駅前に着き、馴染みのある喫茶店が目に入った。
朝比奈さんがそこを指差した。
「ジョン君、あそこです」
この世界のSOS団もここの常連らしい。
喫茶店に入り、朝比奈さんは店内を見回した。
「涼宮さんたちはまだ来てないみたいです」
そうですか、と俺が朝比奈さんに返す前に
長門は店の奥まで進んでいき、あるテーブルの前で立ち止まった。
「いつもあそこに座るんですよ」
朝比奈さんも長門について行く。俺もそれに倣う。
奥から長門、朝比奈さん、俺の順に一列に座ってハルヒを待つ。
「朝比奈さんたちは、あの後どうしたんですか?」
ここに来る最中に浮かんだ疑問を朝比奈さんに聞いてみた。
あの後、とは俺が部室でエンターキーを押した後のことである。
「えっと……ジョン君が目の前で消えちゃったんです」
消えた?
「そうです。びっくりしちゃって、慌てて皆で部室の周りを探したんですけど、どこにも居なくて」
朝比奈さんは指を口元に当てて、必死に思い出しているようだ。
「その後、えっと、自己紹介しようって涼宮さんが言ったんです」
部室で、4人が輪になりひとりひとり自己紹介している光景が頭に浮かんだ。
なんというか、シュールだ。
「それから、喫茶店、ここです。このお店に、明日の放課後集合!って言われて」
それを聞いて俺は懐かしいような、嬉しいようなむず痒いような、
形容しがたい気持ちになった。
「そうですか」
俺がそう言った瞬間、喫茶店のドアが来客の合図を鳴らした。
扉の向こうから光陽園学院の制服を着た女が現れた。
ハルヒだ。
俺は思わず自分の目を疑った。
そこに居たハルヒは、俺の記憶の中にあった「この世界のハルヒ」と微妙に外見が異なっていた。
リボン付きの黄色いカチューシャが収まっている髪の毛の長さが、
俺の見慣れたものだったからだ。
以前見たときは腰まであった長い髪の毛が、肩の上で揃っていた。
爛々としている瞳はよく知っている。服装を除けば俺のよく知っているハルヒと全く同じだった。
ハルヒの後ろには学ランを着た古泉も居た。
ハルヒは手を上げている朝比奈さんに気が付き、それから俺にも気がついたらしい。
顔に驚きと、喜びの表情を浮かべて、しかしそれは一瞬で引っ込んでしまった。
眉を寄せてこっちにずんずん歩いてくる。なんだ?
「ちょっとあんた。今更何しにきたのよ」
ハルヒは俺の前に立ち、そう言った。
なんのことだか分からない。
「しらばっくれんじゃないわよ、あんたあたしに向かってお前、誰だ?なんて言ったじゃない」
あたしは忘れてないわよ。とハルヒ。
その瞳は怒り一色で塗られていた。相当お怒りのようだ。
朝比奈さんが慌てて立ち上がり、
「ちょっと待ってください、涼宮さん。えっと、ジョン君なんです!」
ハルヒは怒った目のまま朝比奈さんのほうを向いた。「ひぃっ」とたじろぐ朝比奈さん。
「……本当に?」
どうやらハルヒはこの世界の俺に酷い扱いを受けたらしい。
そりゃ悪いことをしたな、この世界の俺が。
「久しぶりだな。俺はまた異世界に飛んできたみたいだ」
ハルヒに抱きつかれた。
「!!!」
朝比奈さんも長門も、ハルヒの鞄を持って立っている古泉も驚いたようだ。
つーか俺が一番驚いた。
「は、ハルヒ、ちょっと」
ハルヒの両腕が俺の首を容赦なく締め付ける。そろそろ苦しくなってきた。
俺の声を聞いて我に返ったらしいハルヒは、ハッと顔をあげてすぐに飛びのいた。
「えっ、えっと、これは、その、ちがうのよ」
何が違うんだって?
みるみるうちに真っ赤になっていくハルヒの顔。
それを黙って見ている俺たち。
「っ、ジョン!いいから説明しなさい!」
沈黙に耐えられなくなったハルヒが俺を指差した。
俺は保健室で目が覚めてから今までの出来事をハルヒに話した。
こうして説明してみると、なんだか短い気がするな。
「ふーん。とにかくあんたは12月に会ったジョンなわけね」
ああ。
「あの時は急に消えちゃうからびっくりしたわよ。探したのにどこにもいないし」
それは朝比奈さんからもう聞いた。
「あたし、次の日に北高に行って確かめてみたの」
「どうやって」
「中学の制服を着て、『部活動の見学をしたいんですけど』って言ってみたのよ」
なるほど。よく思いついたなそんなこと。
「すんなり入れたわ。拍子抜けしたわよ。あんたの学校ユルユルね」
ハルヒは右手を頭の横でくるくる回した。
「とりあえず、1年の教室を端から見て回ったわ。あんたの教室聞いておけばよかったと思ったわよ」
そりゃ悪かったな。5組だよ。
ハルヒは「今言われても遅いわよ」と少し目を吊り上げて言った。
朝比奈さんや古泉は微笑しながらハルヒの話を聞いていた。多分既に一回聞いたんだろうな。
「それでね、やっと見つけたの。あんたと同じ顔」
ハルヒは幼稚園児に怪談話をしているような仕草で、顔の横に指を立てた。
「あたしはやっと見つけた!と思ったわ。すぐ教室に入っていったの。そしたらあんたと目があったわ」
それで?
俺が続きを促すと、ハルヒの目は「聞きたい?」とでも言うように一層輝いた。
なんか楽しそうだなお前。
「あたしは言ったの。あんた昨日どこに行ったのよって」
バイトの時間だ。
ちょうど書き溜めも切れてしまいました。全部書いてから始めればよかった
また夜に来るけど、落としちゃってもかまわないです。
むしろここまで残るとは思わなかったぜ。
できるだけ頑張るけど、終わらなかったらまた後で暇なときにスレ立てることにするよ
保守するなんて言われたら嬉しくなっちゃう!
2日ルールだったら落ちるのは明日の昼かな?
夜中頑張るぜ
ただいま戻りました。
保守ありがとう。席を外してばかりで申し訳ない。
11時ごろ再開予定
再開。>>367の続きから
「そしたら、あんたあたしになんて言ったと思う?」
お前、誰だ?だっけか。
「そうよ!なんで分かったの?」
ハルヒは目を開いて身を乗り出した。なんでって、お前。
「さっき自分で言ってただろ」
「そういえばそうだったわ」
こいつアホなんじゃないだろうか。
「続けるわ。あんた、あたしが何を言っても知らないの一点張りで、どうしてやろうかと思ったの」
「でもね、その時教室にあたしと同じ中学の奴が居たみたいで」
ハルヒは水を一口飲んで、続ける。
「こいつが涼宮ハルヒだよ!って誰かが叫んだの。そしたら教室に居る連中が皆あたしの方を向いて、あぁ、こいつが涼宮ハルヒかって顔をするのよ」
多分叫んだのは谷口だ。その光景が頭に浮かんでくる。
「わけがわからなかったわ。あんたはまだ俺は知らないって同じことばっかり言うし」
ハルヒは水の入ったグラスを両手で持ち、目を閉じている。
多分思い出しているんだろう。
「それからどうしたんだ?」
「帰ったわ」
帰った?
予想外である。
こいつなら俺の首根っこを掴んで無理矢理文芸部室に連れて行きそうなもんだが。
それもよかったけど、とハルヒ。
「あたし悟ったの、こいつはジョンじゃないんだって」
隣でハルヒの話を聞いている朝比奈さんは目を涙で潤わせている。
今の話のどこに泣く要素があったのだろう。
「それからね、またジョンに会えるんじゃないかって、そんな気がしてたの」
だからそれ以降あんたに会いに行かなかったわ。と、ハルヒ。
「本当にまた会えるなんて思ってなかった」
話は終わったらしい。
ハルヒ掴んでいたグラスを口へ持っていき、中身を全部飲み干してしまった。
「涼宮さん、門限……大丈夫ですか?」
朝比奈さんが控えめな声をハルヒに向けた。
「門限なんてあるのか」
「一応ね。まぁ少し遅れたって平気よ」
そういってハルヒはまたグラスを口に運ぶ。氷を食べるなんてお行儀がよくないぞ。
「古泉君、今何時?」
「6時43分です」
古泉よ、お前はいつから財布から時計に成り下がってしまったんだ。
「でもそろそろ帰ったほうがいいわね」
ハルヒは片腕をあげると、解散!と高らかに言った。
×ハルヒ掴んでいた
○ハルヒは掴んでいた
すまん
ちなみに長門は、ずっと黙々とチョコレートパフェを食べていた。
長門の前には空の容器が5つ並んでいる。
「今日は喋ってるだけで終わっちゃったわね」
そういえばいつもは探索しているんだっけか。
「明日はちゃんと行く場所を決めておくわ。じゃあね」
ハルヒは俺たちを置いてさっさと喫茶店を出て行ってしまった。
このパフェの代金は誰が払うのだろうと思っていたら、まぁ予想通りと言うか、古泉が払うようだ。
いつの間にか「ハルヒの財布」から「SOS団の財布」へとグレードアップしていたらしい。
今は古泉が支払いを終えるのを喫茶店の外で待っている。そういえば。
「長門、朝倉が夕飯作って待ってるって言ってたぞ」
「カレーが良い」
俺に言われても困る。
扉から古泉が出てきた。
「それじゃあ、また明日」
軽く手を振る朝比奈さんの後姿を見送る。
長門も歩き出した。さて、俺も帰るか。
方向転換したところで右肩を叩かれた。
「すみません、少しお時間よろしいですか」
他の誰でもない。残っているのは古泉のみである。振り返る。
「2人でお話したいことがありまして」
丁度目に入ったファーストフード店に、2人で入る。
喫茶店では気づかなかったが、古泉の顔はやつれていた。
悪い予感しかしないぞ。
「えーっと……どこから説明しましょうか」
笑みが消えている古泉の顔は、疲れきっているようだった。
なんとなく、俺に伝えたいであろう内容は分かっていたので、こちらから話を振ることにする。
「閉鎖空間か」
「……ええ、そうです。本当に驚きました。あなたの言っていた事と同じなんです」
「3ヶ月前です。目を覚ますとそこは一面灰色でした」
3ヶ月前。俺がここのハルヒに会った後だ。
「薄暗い空間の中で、青白く光る巨人……神人が暴れていました」
この世界の古泉も、妙な肩書きを持つことになってしまったらしい。
「それが涼宮さんの力だとはすぐに分かりました。なんとなくですが、分かってしまったのですよ」
同じような台詞を別の古泉からも聞いたよ。
「それから、機関の人間が僕の元にきて……多分、あなたの知っている僕と同じだと思います」
古泉はコーヒーを口へ運んだ。
「……そちらの世界の僕もこんなことをしていたんですね」
俺には返す言葉が見つからなかった。
「涼宮さんには願望を実現する能力がある」
古泉は目を閉じて呟いた。
「本当に驚いたんです。あなたが言った通りでした」
なんだか申し訳なくなってきた。
「俺がハルヒに余計なことを喋ったからか。ハルヒの能力が目覚めたのは」
「そうではありません。きっと、能力自体はあなたの世界の涼宮さんと同様3年前、いえ4年前になりますか。その時からあったんだと推測しています」
あくまで我々の推測ですが、と古泉。
「あなたの世界の涼宮さんと違って、能力が表にでなかっただけであって、ずっと涼宮さんの中にはあったんですよ。それが、丁度3ヶ月前に表に出始めた」
きっかけはなんだ?
「僕たちはこう考えているんです」
あなたに会いたいと、強く望み始めたからではないかと。
きっかけは俺か。結局俺が悪いんじゃないか。
「謝らないでくださいよ。むしろ感謝しているくらいなんです」
感謝だと?神人狩りの仕事を押し付けられて感謝しているなんて、なんてマゾヒストなんだお前は。
「そうではありませんよ」
古泉は苦虫をつぶしたような顔で笑った。
「あなたに会ってからというもの、涼宮さんは毎日輝いているんです」
「まるで別人ですよ。涼宮さんがあんな表情をするなんて、僕は知りませんでした」
古泉は俯きながら続ける。
「今では毎日が楽しそうで、なによりです」
この世界の古泉は笑顔を固めるのが苦手らしい。俺の世界の古泉と会わせてやりたいよ。
「そういえば、お前ハルヒのことが好きだって言ってたよな」
告白はしたのか?
おれがそう聞くと、古泉は目を大きく見開かせた。
「えっと……言い方が悪くなってしまうかもしれませんが」
古泉は一度視線を右に向けてから、俺に戻した。
「僕は、切れると分かっているロープでバンジージャンプするほど馬鹿ではありませんよ」
はぁ?なんだそれは。
「……あなたのそれは天然ですか?それとも僕をからかって」
「俺は至って真面目に話しているんだが」
古泉はきょとんとしている。
それからすぐにふっと笑って、貴方には敵いませんよ、と呟いた。
「話はこれだけです」
それでは、と軽く手をあげる古泉。
「早く寝ろよ」
俺はそれだけ言って背を向けた。
………
……
…
「キョーンくぅーん、おーきーてー!ちこくだよぉー」
妹の声で目を覚ます。朝か。
「でんわ、ぶーぶーってなってるよ?」
電話?
枕元で手を動かす。あった。
ディスプレイには「古泉一樹」の文字。通話ボタンを押す。
『僕、朝一番に部室で、って言いましたよね』
忘れてた。
どうやら一晩では世界は元に戻らなかったらしい。
『詳しい時間を伝えなかった僕も悪いです。とにかくできるだけ急いで学校に来てもらえませんか』
電話の向こうではすでに俺以外のメンバーは揃っているらしい。
急いで来いと言われたので急いで行く。
俺は今までにこんなスピードで着替えが終わっただろうかと思うほどの速さで制服に着替え、
妹の「ごはんたべないのー?」という言葉を背に家を飛び出した。
「…………」
これほど坂道がキツイと思ったことはない。
あのハイキングコースを走ったのは初めてかもしれないな。
文芸部室の扉を前に、俺は何故こんなに必死になっているんだろうと思う。
2回ノック。
「おはようございます」
笑顔の朝比奈さんが出迎えてくれた。なんだこれ、癒される。
部室には長門、古泉と他にもう一人居た。後ろを向いていて顔は把握できない。
……というかなんだこの部室は。やたらめったら物が多いな。
「やっと来たの!?遅いじゃない!」
部室の中を眺めていると、後ろを向いていた女が振り向いた。
驚愕した。えらい美人がそこに居たからだ。
これが涼宮ハルヒなのか。
「古泉君、本当に記憶喪失なの?」
「ええ、先ほどご説明したとおりです」
涼宮ハルヒが俺の前まで歩いてきた。
「キョン、あたしのことが分からない?」
俺のほうが背が高いので、自然と見おろす形になる。
「あ、ああ。何も覚えてないんだ。すまないな、えっと……涼宮、さん」
俺の言葉を聞いた涼宮ハルヒは目を大きく見開いた。
「……本当に記憶がないのね」
その目の中には明らかな落胆の色が浮かんでいる。
「もしかしたら古泉君とキョンがグルになってあたしをドッキリに仕掛けようとしてるのかと思ったけど」
どうやら違うみたいね、と呟いた直後、チャイムが鳴った。
「そろそろ教室に戻ったほうがよさそうですね」
古泉が席を立った。
「また放課後に会いましょう」
教室の俺の座席は、俺の記憶のものと同じだった。
涼宮ハルヒは俺の後ろの席らしい。
俺の記憶の中では、俺の後ろは委員長の朝倉の席だったな。
「いつから記憶がないの?」
古泉から聞いたんじゃなかったのか。
「昨日の夕方、自分のベッドの上で目が覚めた時からだ」
これは本当である。
「……じゃあ早退した後ね。ベッドの上ってあんた、階段から落ちたんじゃなかったの?」
「階段から落ちた後、家族がベッドに運んでくれたらしいんだよ」
ふーん、と涼宮ハルヒ。なにか気になる点でもあるのか。
「おはようキョン」
「おーすキョン」
谷口と国木田だ。こっちの世界にもちゃんと居るんだな。
軽く手を上げて答える。
「ちょっとキョン」
右腕をシャープペンシルの先で突かれた。結構痛いぞそれ。
「あいつらのことは覚えてるの?」
と、谷口と国木田を指差す。
「ああ、なんとなくだがな」
「記憶がないのはSOS団のメンバーだけなのね」
涼宮ハルヒは紙切れを机の中から取り出し、そこに書き出し始めた。
・SOS団のメンバーを覚えていない
・SOS団以外の人物は覚えている
「涼宮さんさ」
「涼宮でいいわよ」
紙切れに視線を固定したまま返された。
「あんたに涼宮さんって呼ばれるとなんだか鳥肌が立つのよね、気色悪くて」
そりゃ悪かったな。
「記憶喪失だからって、あたしは態度を変えたりしないわよ。いつも通りで居たほうが早く思い出すかもしれないでしょ」
荒治療だな。
「うるさいわね」
涼宮はまだせっせと紙にシャープペンシルを走らせていた。
午前中の授業もつつがなく終了して、昼休み。
振り向くと涼宮の姿はなかった。学食か?
「あー飯だ飯だ」
谷口が弁当片手に俺の元へやってきた。
国木田がハルヒの席に座る。
やっぱりこの3人で昼飯を食べているのか。
「何やってるの?キョン。早く食べようよ」
国木田に促され、俺は鞄から弁当を取り出した。
何の問題もなく昼休みも終わり、午後の授業も終了。
「涼宮、放課後って……」
後ろを振り向くと涼宮の姿はない。デジャビュ。
あいつは瞬間移動でも使っているのだろうか。
とりあえず俺は朝と同じ場所に向かうことにした。
「やぁ、どうも」
文芸部室には古泉しか居なかった。
「他は?」
「先ほど涼宮さんが、朝比奈さんと長門さんを連れてどこかお買い物に行かれましたよ」
なんだそりゃ。
「いつもこんな感じなのか?」
「いつもこんな感じですよ」
オセロでもいかがですか
と、古泉は部室の隅からオセロの箱を取り出した。
古泉はオセロが弱かった。
「もしかしたらと思ったのですが、やはりダメでしたね」
3戦3勝0敗である。俺はいつもこんな感じで古泉とボードゲームを嗜んでいたのか。
勝敗が決まったボードの上のコマを片付けているところで、部室の扉が開いた。
スレが落ちるまでに書き終わらなそうなので
パー速に移ったほうがいいのかな。そこまでして読みたいかこれ
なんとなくパー速は苦手なんだなぁ
まさかここまで伸びるとは思ってなかった
面白いって言ってもらえてものすごく嬉しかったです
眠い
もう一度出直してくることにします
自分勝手で本当に申し訳ない
2月中にまたVIPにスレ立てる
スレタイは同じで
明日は用事があって夜まで来られないのでここでお別れの挨拶
たくさんの支援・保守ありがとうございました。
また会いましょう。そのときもよろしくお願いします。
おまえら寝ろよ!
このSSまとめへのコメント
このSSまとめにはまだコメントがありません