限りない点線(8)

 ビルの間から見える景色を見てゎ夜の帳が毎日早くなっている事を感じる。藍色の空に灰色の雲が泳いでいる。風が強く、生温くて気持ち悪い。雑踏には人が蠢いてる。個体の集団でもあるそれらは、賢く波を潜り抜けては大それた目的もない場所を最短の距離で目指している。
滑稽だと思った。それらと、その一部である私を含めて。

 待ち合わせ場所に男は来ていた。会うのは三度目だったので、すぐに見つけられた。
男はこの街を象徴するとか大層な事を言われている置物の前で携帯をいじっている。刹那、私は男とその周りにいる人間が全て同じモノに見えた。無機質で、機械的で、意志を持たない。そんなもの。皆、携帯電話を弄り、一心不乱に何かを指で伝えている。送信だけを意識した関わりが、人を周囲から解脱させるのだ。
「よぉ」
ただ見つめていた男は私に気付き、仮面のようないつもの笑顔を作った。

「遅かったじゃん」

そう言いながら男は私の腰に手を回す。性交への欲望と、何か事故顕示欲の様なものを感じた。
そういうのは嫌いじゃない。シンプルでいい。

「考え事してたら、歩くのめんどくさくって」

私が理由を話すと、男は不自然に口角を上げる。

「やっぱなんか変わってんなぁ、お前。で、何考えてたのよ」

この男は黒目が小さい。まるで昼間の獣の様に感じるが、その雰囲気は嫌いじゃない。

「いや、皆糸電話持ってて、一方的な送信をして、その世界に入っててなんだか気味が悪かったから」

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