超絶ネタバレ注意
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日向「"未来機関第十四支部 支部長"か……お前みたいなちびっ子が……」
そう呟いて、書類が乱雑に散らばったデスクの上から一枚の名刺を拾い上げる。
苗木「『何かあったらお前が責任を取れ』って、暗に言われてるだけだよ……いや、待って。ちびっ子って何さ」
見目幼い支部長様はムスッと口を膨らませた。
日向「っていうか、名刺なんて必要なのか?」
渡す相手なんてそういないと思う。世が世だし。
苗木「『こういうのは形から入るべきよ』って霧切さんが……ディテールには拘る方らしくて……」
日向「なるほどな……」
──本当に責任を取るべきは……俺たちの方だけどな。
と、俺は気まずさを感じていた。
そんな俺のわずかな表情の変化を読みとったのか、苗木は小さく苦笑した。
苗木「……『お前が責任を取ることないのに』とか、そんなこと考えたでしょ」
日向「……さあな」
苗木「わかるよ。エスパーだからね」
日向「前から思ってたけどなんなんだよ、それ。お前、"超高校級の超能力者"なのか?」
苗木「超能力者に"超高校級"も何もない気がするけど……」
まあ、その時点で超人だからな。
苗木「心配することないよ。日向くんたちのおかげで僕もなんとか首の皮一枚繋げたから」
日向「おかげも何も、俺たちはお前らに助けられただけだ」
苗木誠。霧切響子。十神白夜。朝日奈葵。葉隠康比呂。腐川冬子。不二咲千尋……のアルターエゴ。
『絶望の見せしめ』に巻き込まれた希望ヶ峰学園の生き残りにして、未来機関第十四支部のメンバー。
彼らが未来機関を裏切ってまで助けてくれなかったら、俺たちは今頃──
日向「ホントに危ない橋を渡らせちまってたんだな……」
苗木「僕が望んでやったことだよ」
苗木「まあ、みんな最後まで反対してたけどね……葉隠くんなんか泣きながら夜逃げの準備してたよ」
それでも結局協力してくれた、ってところが、苗木の人望の厚さを物語っているようだ。
苗木「無理強いはしてないんだけど……『僕が一人でやる』って言ったら取り囲まれて、正座させられて、小一時間お説教喰らっちゃって……」
日向「愛されてるんだな」
苗木「十神くんと霧切さんは延々僕の背中に蹴りを浴びせてきたよ」
日向「愛されてるんだよ」
苗木「え、嘘? それを聞いてもなお?」
──苗木たちの作り上げた『希望更正プログラム』によって、俺たちは絶望から救いあげられた。
『強制シャットダウン』という、半ば残酷な終わり方を迎えたプログラムだったけど、今となっては間違っていなかったと、胸を張って言える。
何故なら、『コロシアイ修学旅行』で命を落としたメンバーが、長い時間をかけてではあるものの、次々に目を覚ましていったからだ。
苗木の言葉を借りるなら、『奇跡は必然として訪れた』んだ。
目を覚ましたあいつらは、"俺のよく知る"あいつらで……俺たちは涙を流して喜び合った。
未来機関もしぶしぶながら、十四支部が俺たちを匿うことを黙認しているらしい。
希望更正は上手くいったんだ。
気がかりだった、"あの二人"も含めて。
と、そのとき、背後の扉が勢いよく開かれて、人影が俺めがけて突進してきた。
罪木「ひ、日向さぁん!! 苗木さぁん!!」
日向「うわっ! つ、罪木!?」
俺は半泣きで駆け寄る罪木の体を抱き留めた。
またいつものことだとは思うが、一応訊いてみる。
日向「……何かあったのか?」
罪木「あ、朝日奈さんが……朝日奈さんが……」
苗木「朝日奈さんがどうしたの?」
罪木「私に……ドーナツを分けてくれたんですよぉ!!」
日向「……」
苗木「……」
罪木が持っているドーナツは強く握りしめられたせいでかなり変形していた。
罪木「不要なものなんですかね!? 『ゴミだからお前処分しろよ』ってことなんですかねぇ!?」
案の定だった。
俺と苗木は顔を見合わせる。
苗木「そんなことないよ。朝日奈さんはドーナツを心の底から愛してるはずだから」
罪木「ってことは、これやっぱり大切なものなんですよね!? い、今すぐ返しに行ってきますぅ!!」
日向「待て待て」
駆け出そうとした罪木の肩を掴んで止める。
──俺の気がかりだった人物の一人、罪木蜜柑。
俺の見たあの恐ろしい罪木はもう居ない。
ただ、絶望はしなかったものの、このねじ曲がった物の考え方だけは『希望更正プログラム』ではどうにもできなかった。
日向「あのな罪木……そんなの返されても困るだけだ」
罪木「うぅ……そうですね……ぐしゃぐしゃですもんね……」
罪木「あっ! じゃあ押し花みたいに潰して額縁に飾ればいいんですね! 形も気にならないし、一生の思い出にできます!」
日向「いや食べろよ」
苗木「ねえ、罪木さん。朝日奈さんはそれを君に食べて欲しくて渡したんだよ?」
罪木「で、でも、大切なドーナツを私なんかに……私、その気持ちだけでお腹いっぱいです……」
日向「なら、朝日奈に直接そう言えばいいさ。返すにしても食べるにしても」
苗木「うーん……良いのかな」
まあ、朝日奈なら上手くフォローしてくれるだろ。
罪木「私……ちゃんと言います。お礼……ぐすっ……」
日向「あ、ああ……そうした方が……」
俺の胸に顔をうずめて本格的に嬉し泣きし始めた罪木の肩に手をかけて、気づいた。
開いた扉の向こうからの、視線に。
狛枝「……」
日向「……」
狛枝凪斗が、ドーナツを頬張りながら、人懐っこそうな笑みを浮かべて、こちらを見ていた。
狛枝はごくんとドーナツを飲み込むと、楽しそうに言った。
狛枝「……ごちそうさま」
日向「それはドーナツに対してか? 今の俺の状況に対してか?」
狛枝「なんのことだかわからないよ、日向くん」
そこで罪木は慌てて俺から離れ、
罪木「ごごごめんなさぁぁぁい!!」
顔を真っ赤にしながら逃げるように走り去っていった。
狛枝「良い感じのところ、お邪魔だったかな?」
そう思うなら、少しは悪びれる様子を見せて欲しい。
……って、そうじゃない。
日向「良い感じでもなんでもない。っていうか苗木、なんでお前はさっきから気配を消そうとしてるんだ」
苗木「良い感じだったから、邪魔かなって……」
日向「お前ら……」
狛枝「まあまあ。僕は苗木くんと世間話をしに来ただけだから、日向くんは構わず罪木さんを追いかけると良いよ」
苗木「え? ま、また?」
日向「……」
──俺の気がかりだった人物の二人目、狛枝凪斗。
こいつには結局、『希望更正』なんて意味が無かった。……と俺は思う。
元々希望への盲信で塗り固められたような存在だったから。
『希望への踏み台』と称して殺し合いをするような……『絶望は希望の糧』とかのたまうような……そういう奴だった。
だから、外へ出てからも俺はこいつが何をしでかすか気が気でなかった。
……んだけど。
狛枝「やあ、苗木くん! 調子はどう? 食事は三食きちんと摂ってる? 睡眠は十分かな?」
苗木「あ、うん。昨日も言ったけど調子はまあまあかな……」
日向「お前な……いい加減ストーカーやめてやれよ……」
狛枝「失礼なことを言わないで欲しいな。僕の愛はそんな下劣かつ下世話な言葉で表せるものじゃないよ」
狛枝「あぁ、もちろん僕自身は下劣で下世話な人間だけどさ……でも僕は、この愛に関しては絶対の自信を持ってるんだ! はははっ!」
日向「……」
苗木「……」
──狛枝は、別の意味で危ない奴になってしまった。
いや、苗木の貞操とかそういう意味ではないと思うが……ただ、狛枝はずっと苗木にご執心のようだ。
苗木「あ、あの、日向くん狛枝くん……僕、ちょっと用事を思い出したから……」
日向「あ、おい!」
苗木は止める間もなく、脱兎の如く逃げ出していった。
ポカンとしている狛枝の横で、俺は大きく溜息を吐く。
狛枝「……日向くん。君はどうやら避けられてるみたいだね」
日向「どう考えても避けられてるのはお前だ!」
──本人曰く、『絶望を糧に希望を育てる』方針は止めにしたらしい。
狛枝はこんなことを言っていた。
狛枝「あの考えはね。かつての君たちの希望が未熟で、育てる余地があると思ったからこそ主張していたものなんだ。でも、今この場においてそんなものは必要ないよ」
狛枝「だって、彼の前では僕の用意した試練なんて踏み台にすらならないよ……彼の絶対的な希望の前では、ね」
狛枝「言うなれば、『魔王を一撃で倒せる勇者にスライムでレベル上げさせる』ようなものだよ!」
狛枝「あ、これは七海さんに聞いた話に喩えてみたんだけど。どうかな? 僕なんかにしてはなかなかユーモアのある喩えじゃないかな?」
相変わらずの独自理論をよくわからない喩えで語る狛枝の目は、希望に満ちあふれていた。
ともかく、苗木を唯一神のように崇めている限りは、狛枝が妙な気を起こすことは無さそうだ。
苗木がそれ相応の苦労をすることになるかもしれないが、致し方ない。
日向「……お前、もう部屋に戻って大人しくしてろよ」
狛枝「残念だけど、そうしようかな……苗木くんと話せないとなると、僕にはもうすることが無いからね」
日向「仕事手伝ったり、掃除とか雑務も色々あるだろ……」
狛枝「とはいえ、僕は左手が満足に使えないからモップ掛けすら……そうだ! じゃあその散らかったデスクの上の片づけでもしようかな!」
日向「…………」
──苗木の私物を漁ろうとする狛枝を全力で止めながら過ごした。
とりあえずここまで
ではまた
あ、とりあえず確定してる狛枝くんの腕以外はみんな割と健康的な状態ってことで
このSSまとめへのコメント
面白いw
続きみたいなー