魔王「助けてよぉ、父様ぁ、姉様ぁー……　ﾋｸｯ…」

勇者「あ、あのー」

魔王「ひっ！　ぐずっ、な、泣いてない！　泣いてなんかないぞ！！」

勇者（いや、無茶苦茶泣いてるでしょ…）

魔王「な、なんだその顔は！　ｽﾞｽﾞｯ……　泣いてないったら泣いてない！！」

勇者「いや、泣いてるかどうかは一度置いといて」

魔王「お、おいといて……？」

勇者「何があったのか話してくれない？」

魔王「な、ななな、なにがってなにだ！　なにもあるわけないだろ！！」

勇者「いや、そんだけ動揺しておいてそれはない」

勇者「ほら、もしかしたら力になれるかもしれないよ？」

魔王「ふざけるな！　勇者に何も話すことなどない！！」

勇者「そんな事言わないで、ね？」

魔王「うるさい！　さっさと私を倒してさっさと国に帰れ！」

勇者「そういえば、ここに貼ってある【差し押さえ】ってシールは何？」

魔王「話を聞けぇ！！」

勇者「あと…… キミって女の子だから『王』じゃなくて『女王』なんじゃないかな」

魔王「知るかぁ！！」

勇者「父様と姉様って言ってたけど、その人達強いの？　そっちが魔王なの？」

魔王「うるさい！　私が本物だ！　本物の魔王だ！！」

勇者「お、タンス発見！　何があるかな～♪」

魔王「ふざけるな貴様ぁ！！　やめろおおぉ！！」

勇者「お、貯金通帳はっけーん！」

魔王「ば、馬鹿！　それを見るなあぁぁ！！」

勇者「えっと、中身は～～……」


通帳残高：　０Ｇ


勇者「………」

魔王「………」

勇者「……あ、あの…」

魔王「………」

勇者「………」

魔王「……どうした勇者　……笑えよ」

勇者「……ごめんなさい」

勇者「えっと、何があったのか話してくれない？」

魔王「……財政難だよ」

勇者「え？」

魔王「財政難。　人間と戦争で借金して、こうなった」

勇者「………」

魔王「ちなみに、父様と姉様は強いから地下世界で『えすぴー』とかになって出稼ぎしてる……」

勇者「地下世界？　ＳＰ？」

魔王「私は弱いから、何も出来なかった。　だからここに残って魔王をやることにした」

勇者「………」

魔王「どうした、笑えよ……　目の前に居るのは最弱の借金魔王だぞ…」

勇者「…は、はぁ……そうですか…」

魔王「ハハハッ、もういいよ。　もう死んじゃったほうが楽なんだ……」

勇者「………」

魔王「死にたいよぉ……　でも、死にたくないよぉ……」

勇者（やばい、これやばい……　なんていうかヤバイ……）

魔王「もうやだよぉ……　塩のスープも、土の団子も食べたくないよぉ……」

勇者「へ？　土の団子？」

魔王「……今、部下居ないし、お金もない」

勇者「い、いや、でも心配してくれるひと……　いや魔物とか居たでしょ？」

魔王「配下から恵んでもらうなんて出来るか。　金は無くとも誇りだけは捨てん」

勇者「いや、そこは妥協すれば……」

魔王「……王は、大小関わらず、民を食い物にし始めた瞬間から『暴君』だ。　どの様な事情があってもな」

勇者「……それで、土団子？」

魔王「………」

勇者「は、はぁ……　そうですか…」

魔王「……もういいだろ、さっさと殺せ…」

勇者「いや、そう言われてもねぇ……」

魔王「空腹で倒れるよりも、勇者に倒されるほうがマシだ……」

勇者「でも、それって死ぬって事なんだよ」

魔王「魔王、ハラペコで倒れるって記録に残されてみろ。　一生の笑いものだ」

勇者「……あ、あはは…」

魔王「……ハハッ、借金魔王だもんな、もう既に笑いものだったな…」

勇者「ちょっと、ボクは何も言ってませんよー」

魔王「あ、明日からお裁縫の仕事出来なくなるって伝えてこなきゃ……」

勇者「ちょっと、進めないでくださーい」

魔王「もういいよ……　プスッとやってくれ、プスッとさ…」

勇者「……ふむ…」

ジロジロー…

魔王「……なんだよ…」

勇者「嘘…… じゃなさそう…… 悪い人… でもないな……」

魔王「……なんだ？　さっさと終わらせろよ……」

勇者「……それに　……うん、可愛いし…」


………

魔王「……な、なななっ/// ！？！！？」

勇者「よしっ、決めた！」

魔王「な、なんだよ！？　い、いきなり大声を出すな！！」

勇者「よし、魔王！！

　　　その問題解決、ボクも手伝うよ！！」


魔王「………はああぁぁ！！？」

魔王「お、お前は何を言っているのかわかってるのか！？」

勇者「え？ それはわかってるつもりだよ」

魔王「いいや！ お前は何もわかってない！！ 勇者が魔王を助けるだと！？」

勇者「うん、別にいいんじゃないかな？」

魔王「問題大有りだ！ ドコにそんな勇者がいるんだ！！」


勇者「ココにいる！」ﾄﾞｫﾝｯ！

魔王「そういうことじゃなぁぁああい！！」

勇者「それじゃ、キミはどうすればいいって言うんだい？」

魔王「そんなもの…… 勇者と魔王らしく、ここで決闘すればいいじゃないか！」

勇者「それは断るッ！」

魔王「こ、断るだとぉ！？」

勇者「うん、断る」

魔王「なぜだ！ なぜ戦わない！！ 私が弱いからか！？」

勇者「いや、違うよ」

魔王「そ、それなら…… 私を倒すと借金が取得ゴールドとして入ってくると知ってるから…？」

勇者「そんなの初耳だよ！ そんな罠を仕掛けてたの！？ 魔王凄く怖いよ！！」

魔王「……なら、なぜ倒さないんだ」

勇者「う～ん…… 上手く言えないけど、強いて言うなら……」

魔王「言うなら……？」


勇者「困っている人を助けるのが、勇者だからかな？」


魔王「……いや、私は魔物なんだけど」

勇者「そ、それじゃ困ってる魔物もってことで……」

魔王「はぁ…… もういい、疲れた」

勇者「ん？ どうしたの？」

魔王「勇者の相手をするのに疲れたんだよ……」

勇者「えぇ～と、なんかゴメンね？」

魔王「……はぁ、もういいよ」

勇者「さ～て、それじゃどうするかを考えてみようか」


魔王「……はぁ？」


勇者「とりあえず、どれくらいの借金なのかを知らなきゃなぁ」

魔王「お、おい、勇者？」

勇者「ん、なに？ 魔王？」

魔王「ま、まさかお前、この問題に首突っ込むつもりか……？」


勇者「え、うん。 当たり前じゃないか」ｷｮﾄﾝ

魔王「あ、当たり前なわけあるかぁ！！！」

魔王「いいか！ お前は勇者で、私は魔王だ！！ 何回でも言うぞ！！」

勇者「え、う、うん。 そうだね」

魔王「古今東西、今昔世界で勇者の力を借りる魔王がいたことなんてないんだよ！」

勇者「やったね！ 魔王が初めて力を借りた魔王になるんだよ！」

魔王「ふ、ふ、ふざけるなぁぁぁ！！！」

勇者「ふざけてなんかないよ！」

魔王「ならなおさらタチが悪いっ！！！」

魔王「もういい！ 戦わないんだったら帰れよ！！」

勇者「いや、困ってる人をおいていくなんて出来ないよ」

魔王「五月蠅い！ 私は魔王なんだ！ 困ってなんかいない！！」

勇者「いや、その涙の跡と充血した眼で言われても……」

魔王「………」

ｺﾞｼｺﾞｼｯ ｺﾞｼｯ

魔王「こ、これでどうだ！」

勇者「いや、どうだ！ じゃないでしょ……」

魔王「もう…… 頼むからほおっておいてよぉ……」

勇者「まぁまぁ、ボクもいろんな方法を考えてみるし、相談したりするから」

魔王「ｸﾞｽｯ…… 勇者に借りを作りたくない…」

勇者「ボクがやりたくてやる事なんだから、借りとかって考えなくていいよ、ね？」

魔王「……ﾋｯｸｯ…」

勇者「ボクも貧乏は辛いって知ってるから、大丈夫。 心配しないで」

魔王「……ｳﾝ…」

勇者「さ～て、まずは相談してみるかな？ ボクじゃ解決できそうもないし……」

[一週間後　王都]


「「「わー！　わー！　ゆうしゃさまー！　お幸せにー！」」」

「「「「魔族との戦争は終わりだー！　わーい！」」」」

「今日はめでたい！　酒だー！！」

ワー、ワー……



[その王都の教会、結婚待機室]


魔王「な、ななな、なんだこれはああぁぁぁ！！！」

勇者「なんだって、結婚式だよ？」

魔王「そういうことではない！　どうしてこんな事になってるのだ！！」

勇者「どうしてって、ボクがキミを連れて来て、結婚するってことになったからだよ」

魔王「そういうことではなああぁぁぁい！！！」

魔王「なんだよこれはぁ……　魔王と勇者の戦い、様式美は何処いった…」

勇者「まぁ、そんなに深く考えなくてもいいんじゃないかな？」

コンコンッ　ガチャッ

王「ふぉっふぉっふぉ、失礼するぞ？」

勇者「王様、如何いたしましたか？」

王「そろそろ式の準備が終わるからのぉ、準備は出来ておるか？」

勇者「はい、私は問題ありません」

魔王「うぅぅ…… 最後の戦い… 魔族の希望… 人生の墓場ぁ……」

王「ところで、魔王は大丈夫かのぉ？」

勇者「まぁ、たぶん大丈夫、きっと、メイビー」

王「それダメってことじゃろ」

魔王「もうやだ、恥だ、勇者と結婚なんて笑いものどころか失笑物だよぉ……」

勇者「まぁまぁ、いつかそれも笑える日が来るって」

魔王「うるさい元凶！」

王「ふぉっふぉっふぉ、仲が良いようで、ワシも安心じゃ」

魔王「今の何処を見たらそう思うんだよ……」

王「思えば勇者は、幼少期は本に、子供の頃はマンガに、背が大きくなってからはアニメに、

　　そしてついこの間までは二次元にハマっていると言っておったのぉ……」

魔王「おい、子供の頃らへんからちょっと待て」

王「いやぁ～、ホントよかった…… よかった……」

勇者「王様、ご迷惑をお掛け致しました」

魔王「オイ、そんな一言で済まされちゃいけないくらい泣いてるぞ」

魔王「……というかソッチはどうでもいい！ 他に方法はないのか！？」

王「ん、他の方法というと？」


魔王「なぜ私が！ 名目上のみといえども勇者とけ、け、結ｯｺﾝ/// な、なんて、することになるんだ！！」

王「まぁ、色々と手っ取り早いからじゃよ」

魔王「何がだ！！」

王「何がって、色々じゃよ

　　魔族との和睦、援助、名目、今後の対応など、もろもろがやりやすくなるからじゃよ」

魔王「……ｴ、ｴｯﾄ… ｿﾉ…」

勇者「つまり、これから人と魔物が仲良く暮らせるようにって考えてくれてるんですね」

王「もちろんじゃ、ワシ戦争キライじゃし」

魔王「……そ、そうだよな！ わ、わかってたし！ ハハ、ハハハッ！ ///」

勇者（なんか無理してるなぁ）

魔王「ゴホンッ、理屈はわかった…… で、他の方法はなかったのか？」

王「他の方法じゃと？ ううむ……」

魔王「何でも良い、他の案はないのか？」


王「フム、それじゃ質問させて貰うが、ワシらがキミに食料等の支援を無条件で行おうとしたら？」

魔王「……戦争を行っている相手側の施しなど、受けられるか」

王「フム、質問２。 勇者が魔王の部下になってソレを行うとしたら？」

魔王「ハッ、勇者が部下など、考えたくもないが……　下の者から施しは受けん！」

王「質問３。 キミの肉親が、何かあげるって言ったら？」

魔王「……無礼は承知だが、謹んで貰い受けよう」

王「……やっぱこれしか方法ないのぉ」

魔王「だから何でそうなるんだ！！」

王「自覚なしかのぉ……」

王「とにかくっ！　そろそろ時間じゃ。 心の準備を頼むぞい！　ではな」

ガチャッ　バタン


魔王「……はぁ…」

勇者「ん？　どうかしたの？」

魔王「どうかしていないと思っているのか？」

勇者「まったく、堅く考えすぎだよ～」

魔王「うるさい！　私は魔王なんだぞ！！」

勇者「まぁ、そうだけど……」

魔王「……まぁ、今の設定は『現・魔王の娘』だがな…」

勇者（設定も何も、それ事実なんじゃないかなぁ……）

魔王「……今、何を考えた？」

勇者「ナニモカンガエテナイヨ」

魔王「嘘つけ！ この勇者が！！」

魔王「うぅぅ、なんでこんなことに……」

勇者「まぁ相談してみて、一番良かったのがこの答えだったからでしょ？」

魔王「だからといって、名目上だけでも、結婚はないだろうがぁ！！」

勇者「うーん、そういわれてもねぇ」

魔王「つーか、お前！　実は他にも方法があったのではないのか！？」

勇者「他の方法？」

魔王「そ、そうだ！　お前は、わ、私の、か、肉体… が目当てでこんな……///」

勇者「いや、それはない」

ポカッ！

勇者「あ痛っ、って魔王！？ か、『回復魔法！！』 」

魔王「ぁぅぅ…… 手が痛い～っ……」

勇者「まったく、大丈夫？ もう痛くない？」

魔王「ぅぅ～！ 知るか！ 勇者のバカ！！」

魔王「………」

カチャカチャ カチャ

勇者「うーん、このヨロイ、派手すぎるよなぁ……」

魔王「……おい…」

勇者「ん？　なにかな？」

魔王「本当に、父様と姉様を、助けてくれるんだな？」

勇者「もちろん！ まぁ、ボクじゃなくて、王様が助けてくれるんだけどね」

魔王「そうか……」

勇者「うん、だから安心してね」

魔王「あ、あぁ……」

………ｺﾞｿｺﾞｿ

スチャッ……

勇者「ううむ…… 剣は、あまり仰々しいものじゃなくて……」

魔王「……なぁ…」

勇者「なにかな？」

魔王「……今日から私は、こっちに住むのか？」

勇者「基本的にはそうだよ。　魔王城に行くのも全然ＯＫだけどね～」

魔王「そ、そうか……」

勇者「そうだよ～」

魔王「………」

魔王「………」

勇者「う～む、これで大丈夫かなぁ？」

魔王「……なぁ、ゆう」


コンコンッ　ガチャッ

魔王「…っ！！」 ビクッ!?

メイド「失礼致します」

勇者「お、メイドさん、お久しぶりです」

メイド「はい、勇者様。 お久しぶりです」

魔王「……ゴ、ゴホンっ。 勇者、こいつは何者なんだ？」

勇者「えっと、この人は…」

メイド「失礼致しました。 私、王様の付き人をやっております『メイド』です」

魔王「……『魔王』だ。 よろしく」

勇者「こら、魔王。 そんなぶっきらぼうに答えなくても」

メイド「いいえ勇者様。 魔王様と私では立場が違います故、こちらの方が正しい対応でございますよ」

勇者「え”っ？」

メイド「平等であろうとすることは良いことですが、勇者様も立場を御考えください」

勇者「は、はい。 すみません……」

魔王「……ﾌﾝ」

勇者「ん、どうしたんだい？ 魔王？」

魔王「……何でもない」


メイド「あら？ あらあら、ウフフ♪」

勇者「それでメイドさん、どうしたんだい？ そろそろ移動するの？」

メイド「はい、準備がおおよそ出来ましたので、教会の待機室へ移動して頂くよう仰せつかいました」

勇者「わかったよ。 それじゃ魔王、行こうか」

魔王「あ、あぁ……」ｽｯ…

勇者「それじゃ、メイドさん。 移動の道案内お願いします」


メイド「………」ゴゴゴゴゴ……ッ！

勇者「あ、あれ？ メイド…… さん…？」

メイド「……すみません、勇者様。 ちょっとこの扉の向こうでオハナシ致しません？」

勇者「えっ…… う、うそ…… ボク、な、何かやっちまった…？」

メイド「いいえ、何もしてません。 それが問題なのですが」

勇者「えぇ！？ どういうこと！？」

メイド「魔王様、申し訳ございませんが、お時間を頂いてもよろしいでしょうか」

魔王「あ、あぁ…… 別に…」

メイド「有難う御座います。 勇者様？ 少々こちらへ……」

勇者「は、はい……」

ガチャッ バタンッ

魔王「………」

………

ﾒｲﾄﾞ『……ねぇ勇者様？ 魔王様にお声掛けはしたかしらぁ？』

ﾕｰｼｬ『ちょ、ちょっとメイド姉さん！ 怖い！ すげぇ怖いから！！』

ﾒｲﾄﾞ『そんなの聞いてないの。 ねぇ、ちゃ～んとお話し、した？』

ﾕｰｼｬ『も、もちろんだよ！ これから魔王の話とか、戦争の後の話とか……』

ﾒｲﾄﾞ『政治の話じゃなくて、雑談はどうだったのぉ？』

ﾕｰｼｬ『え…… それは…… ちょっとは、した…… けど…』

ﾒｲﾄﾞ『……まぁ百歩譲って、もちろん貴方から話しかけたのよね？』

ﾕｰｼｬ『……ｴｯﾄ…ｿﾉ……』

ﾒｲﾄﾞ『………』 ゴゴゴゴゴゴッ！！！

ﾕｰｼｬ『ご、ごめんなさい！ ごめんなさい！！』

ﾒｲﾄﾞ『アンタって奴はああぁぁぁ！！』 ゴゴゴゴゴゴッ！！！


魔王「……なんなんだ、こいつらは」 ｸｽｯ…

………

ガチャッ

メイド「魔王様、御待たせしてしまい誠に申し訳御座いません」

魔王「……別に、気にするな」

メイド「それではお時間もあまり御座いませんので、このまま教会までご案内致します」

コツ コツ コツ ……

勇者「………」テクテクテク…

魔王「………」テフテフテフ…

勇者「……ね、ねぇ魔王」 テクテクテク…

魔王「何だ、勇者？」テフテフテフ…

勇者「そ、その…ね？ えぇと…」テクテクテク…

魔王「………」テフテフテフ…

勇者「そ、その服、似合ってるよ！」

魔王「……そうか」

勇者「う、うん」

魔王「………」テフテフテフ…

勇者「………」テクテクテク…

メイド「………」コツ コツ コツ…

テクテクテク… ピタッ

魔王「……ん、どうした？」テフ…

勇者「……魔王！ ホントごめんっ！！」

魔王「な、なんだいきなり！？」

勇者「色々と考え足らずで、不安にさせちゃったり、気を使わせちゃったりしたかなって……」

魔王「……フンッ」

勇者「さっきも、魔王が色々と話しかけてくれたのに、ゴメンッ！」

魔王「う、五月蠅い！ あれは只の独り言だ！！」

勇者「とにかくっ！ もっと魔王の旦那さん役として頑張るからね！！」

魔王「出来るなら、その役目が必要ない案を考えてほしいんだけど……」

勇者「う～ん…… それは、ボクには思いつかないし……」

魔王「……あと、無理をするな」

勇者「ん、無理？」

魔王「さっきの会話、私にも聞こえてたぞ」

勇者「え、さっきのって……」

魔王「勇者とメイドとの話だ」

勇者「え”っ、そうなの！？」

魔王「あぁ、だから言ってやるが、気にするな」

勇者「うぅむ、気にするなって言われても……」

魔王「名目上だけの関係なんだ。 寧ろ私はお前が嫌いだ」

勇者「え”っ！？ なんで！？」

魔王「普通に考えろ！ 勇者に好意を持つ魔王がいてたまるか！！」

勇者「いや、まぁそうだろうけど、ねぇ？」

魔王「ん、なんだ？」

勇者「多少は好意を持ってもらってもいいんじゃないか？」

魔王「お前のドコに好意を持てと言うんだ！？」

勇者「う～ん、勇者であるとことか？」

魔王「お前は私にケンカを売ってるのか！！」

勇者「ほ、他には～、えぇと～……」

魔王「大体、今回の件だって私にとっては最悪だ！！」

勇者「えっ！？ いきなりなに！？」

魔王「お前が『任せろ』って言ったから信じてやったら、お前と結婚！？ 頭がオカシイんじゃないのか！？」

勇者「そ、それは仕様がないじゃないか！ 魔王も反対しなかったでしょ！？」

魔王「私の返事ひとつで魔族が救われるって状況で反対できるわけないだろ！！」

勇者「それはそうかもしれないけど！ だったら『私はイヤだ』って言えばよかったでしょ！」

魔王「だから今！ そう言ってるだろうが！！」

勇者「今じゃなくてもっと前の時に言えばよかったでしょうが！！」

魔王「もっと前っていつだ！ 何時なんふん何秒！！」

勇者「あーっ！ そんなこと言っちゃうんだ！？ いいよ！ ボクだって」

パァンッ！！！

勇者・魔王「「！？」」ﾋﾞｸｩｯ!!?

メイド「……そろそろ到着いたします。 御歓談もお控えくださいませ」 ゴゴゴゴゴゴッ！！！

勇者・魔王「「は…… はい……」」

[王都の教会、講堂]

………

大司教「新郎、あなたは新婦を愛し、生涯支えあうことを誓いますか？」

勇者「誓います」

大司教「新婦、あなたは新郎を愛し、生涯支えあうことを誓いますか？」

魔王「……誓い…ます」


「わぁ～、綺麗～♪」
「どっちかって言うと可愛いじゃない？」
「どっちでもいいだろ、いい結婚式なんだから……」
「そうだな…… あの男、可愛いよな…… ｳﾎｯ」
「……俺は何も聞かなかった、うん、聞かなかった」


勇者（なんだろう…… スゴイ寒気がするんだけど…）

魔王（オイ、勇者）

勇者（ん、なに？ 魔王？）

魔王（このあとどうするんだ？）

勇者（この後は、頭に聖水をかけて貰って、大司教様から御声を貰って、それで終了だよ）

魔王（せい……すい、だとぉ…！？）

勇者（あ、大丈夫だよっ！ ただの水に替えてあるから心配しないで、ね？）

魔王（あ、あぁ…… それならだいじょうぶ…）


大司教「それでは汝等の幸せを願い、祝福を……」

ガチャッ ギィィィ……

勇者（ん？ 誰かドアを開けた？）

魔王（……あっ…！）

勇者（魔王、知ってる人？）

魔王「父上……っ！！」

魔王ﾊﾟﾊﾟﾝ「……失礼、続けてくれたまえ」


「え、あれが魔王……」
「すげぇ…… しかもでけぇ……」
「でもでも、格好良くない？」
「年上のオーラ……ｳﾎｯ!」
「なんでこんな奴が隣にいるんだ……」
「ま、魔王って…… その… 大丈夫なの…？」

ザワザワ、ザワザワザワ……


大司教「……ゴホンッ、それでは汝等の幸せを願い、祝福を」

魔王ﾊﾟﾊﾟﾝ「………」ニッコリ

魔王（父上だ！ 父上に会えたっ！！）

勇者（なんでだろう…… 良い笑顔なのに、悪寒が倍以上になってる……） ｶﾞｸｶﾞｸﾌﾞﾙﾌﾞﾙ…

[結婚式終了後、城の会議室]

魔王「ちちうえー！！」ﾀﾞｯ…！

ﾊﾟﾊﾟﾝ「こらこら、はしたない真似はやめなさい」

魔王「うぅ…… でも…… でも…っ！」

魔姉「いいじゃないの。 父さんも嬉しいくせに～」

魔王「姉上！ あねうえも…っ！！」

魔姉「フフフッ♪ お姉さんのむねに飛び込んできなさ～い♪」

魔王「うん……っ！ うんっ…！」ｸﾞｽｯ

ぎゅっ

魔姉「……ほんと、ごめんね？ ありがと…」

魔王「うん…っ！ うんっ…！」ｸﾞｽｯ


メイド「アンタ、完全に無視状態だねぇ～」

勇者「姉ちゃん、素出てるよ。 それにこれでいいんじゃない？」

メイド「ふ～ん？ ま、私は何も言わないけどね～」

ﾊﾟﾊﾟﾝ「失礼、貴方が勇者ですか？」

勇者「……はい、この王国の勇者で御座います」

ﾊﾟﾊﾟﾝ「ハハハッ、そう畏まらずとも構いません。 寧ろ私等があなたに頭を下げねば……」

勇者「そんな、ボクは何もしておりません。 すべてあの娘が頑張った結果で御座います」

ﾊﾟﾊﾟﾝ「そうだとしても、礼を言わせて頂きます」

勇者「勿体なきお言葉です」

ｱﾈｳｴｰ ｸﾞｽｯ

ｵｰ ﾖｼﾖｼ♪


ﾊﾟﾊﾟﾝ「……ちなみに勇者さん、あの子の新郎役をして頂き、有難うございます」

勇者「いえ、そのような……」

　　　　　手　を　出　し　た　ら　　コ　　ロ　　ス
ﾊﾟﾊﾟﾝ「どうかあの子の事、よろしくお願いします」

勇者「どう発音してるんですかソレ」

叩かれ承知でトリ解放。 本日ここまで。 それでは

メイド「それでは、私はこちらの魔王様を王様の居る会議室まで御送りします」

ﾊﾟﾊﾟﾝ「あぁ、よろしく頼むよ。 それでは」

ガチャッ バタンッ……


勇者（……うわぁぁ！！ こ、怖かったぁぁぁ！！！）

魔王「……おい、勇者」

勇者（何アレ、ボクはあんなのと戦おうとしてたのか…… ない、アレはない…）

魔王「勇者、聞こえているんだろ？ 返事をしろ」

勇者（もう戦闘レベルとかそういう次元じゃない…… あんな…）

魔王「オイッ！ 勇者！！」

勇者「は、はいっ！？」

魔王「……私を無視するとはいい度胸だなぁ？」

勇者「ご、ごめんなさい……」

魔王「大体、お前は自分勝手で、最初の時もそうだ」ｸﾄﾞｸﾄﾞ

勇者「はい、それはごもっともで……」

魔王「言う事はデカいくせに出来ることはないし、私を騙すし」ｸﾄﾞｸﾄﾞ

勇者「だ、騙したわけじゃないけど…… ごめん…」

魔王「いきなりタンスを開けたりする常識知らずで、バカだし…」ｸﾄﾞｸ…

コツンッ

魔王「痛っ！？」

勇者「えっ？ 魔王？」

魔王「～～っ！ あ、姉上…！？」

魔姉「はいはい、魔王ちゃんそこまでっ！ 今の魔王ちゃんは悪い子だよ？」

魔王「で、でもっ！ コイツは勇者で……」

魔姉「勇者とか関係ないの！ 私たちの命の恩人さんなんだよ？」

魔王「それはコイツがやったことじゃないのに！？」

魔姉「勇者がいろいろ動いてくれなかったら、死んじゃってたのに？」

魔王「う”っ……」

魔姉「ほ～ら、勇者にごめんなさい、しよ？」


魔王「……フンッ！」

魔姉「あ～！ こら～！」

勇者「まぁまぁ、ボクは構いませんから」
　　（というか、いろいろ急展開すぎて頭がついていってないよ……）

魔王「ふ～んだっ、なんだ姉上も……」ﾌﾞﾂﾌﾞﾂ…


魔姉「もう…… 妹に代わって、謝罪致します」

勇者「いえ、御気になさらずに。 魔王が言った事も間違いじゃないですから」

魔姉「それでも、勇者さんは命の恩人なんですから」

勇者「いえ、ボクは何もしてませんよ。 魔王が頑張ってくれたからですよ」

魔姉「う～ん、それじゃそういうことにしておくわね♪」

勇者（あぁ、この人はまともそうだなぁ…… 色々と心が救われるよ……）

魔王「……フンッ」

勇者「……そういえば、聞いてみたいことがあったんですけど」

魔姉「ん？ どんなこと？」

勇者「いえ、どうして人と魔族で戦争をしたのかなぁ、と思いまして」
　　（いい人みたいだし、大丈夫…… かな…？）

魔姉「え～？ それは土地が欲しかったからじゃない？」

勇者「でも、魔族の方々も十分土地を持ってましたし、なんでそれ以上広げようと……」


魔姉「ん～？ そんなの簡単でしょ？

　　　だって、私たち強いんだからそれだけ持ってなきゃオカシイでしょ？」

勇者（あ、ヤバイ。 これ別の意味でヤバイ）

魔姉「そんなことより、勇者さん？」

勇者「は、はい！ なんでしょうか！？」

魔姉「ちょ～っと私と手合せしてくれない？」

勇者「て、手合せって、こう、手と手を合わせれば…？」

魔姉「違うよ～、ちょっとアナタと戦ってみたいの♪」

勇者「あぁ！ なるほど！ それじゃ武器は竹刀で？ それとも木刀に？」

魔姉「またまた～♪ 勇者さん冗談が上手なんだから～♪」

勇者（コッチは冗談じゃないんですが……）

魔姉「ソッチの最強装備でお願い♪ もしアナタが勝ったら何してもいいから♪」

勇者「全力でお断りします」

魔姉「いや～、一目見てから勇者さん強そうだな～って思っててね♪」 ゴゴゴゴゴッ！！

勇者「ちょっと！ お断りしたんだから！ ここはだめか～って言うところでしょ！？」

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 　 ｱｿ
魔姉「どれだけ戦えるか楽しみ♪ さあ！ 殺びましょ♪」 ゴゴゴゴゴッ！！！

勇者「魔王！ 後で何でもしてあげるからお姉さんを止めてぇ！！」

魔王「……モノには言い方があるだろ」

勇者「魔王様、どうか私めに慈悲の心をお与え願います」

魔姉「うん？ 頭とヒザを地面につけて…… 新しい構えかな？」

魔王「……姉上、すとっぷ」

魔姉「え～？ まぁ魔王ちゃんのお願いだから、聞いてあげよ～♪」

勇者「魔王ありがとう！ マジでありがとう！！」

魔王「……フンッ」

魔姉「さ～て、それじゃ私は地下世界に戻るかな？」

魔王「え？ 姉上はこちらで暮らさないの？」

魔姉「あぁ。 私は向こうの世界で仕事があるからね♪」

魔王「そんなぁ……」

魔姉「そんな顔しないのっ！ 呼んでくれたらすぐにコッチに来るからね？」

魔王「……うん、わかった」

勇者「う～ん、ちなみにどんな仕事なんですか？」

魔姉「お、知りたい？ 実技で教えてあげるよ？」 ゴゴゴゴゴッ！！

勇者「ごめんなさい、魔王様お助け下さい……」

魔王「……姉上、すとっぷ」

魔姉「はいはい、つまんないな～」

魔姉「まぁ、結局借金をこの国に肩代わりしてもらってるだけだからさ、それ返したら一緒にくらそ♪」

魔王「……うん、わかった」

魔姉「よしよし、いい子いい子♪」

魔王「……///」


勇者（こうしてるとただの仲良い姉妹なんだけどなぁ）


魔姉「さ～て、それじゃ明日から壊すぞ～♪」 ゴゴゴゴゴッ！！

魔王「姉上、頑張ってきてねっ！」


勇者（言ってることと迫力が本物の魔王だな、コレ）

魔姉「それじゃ～ね～♪」

ガチャッ バタン

………

魔王「………」

勇者（ハァ…… とにかく、無事に済んでよかったぁ…）

魔王「……オイ、勇者」

勇者「ん、なに？」

魔王「お前、弱いのか？」

勇者「ど、どうしてそう思ったの……」

魔王「だって、姉上と闘わなかったし、全力で避けていたみたいだからな」

勇者「う～ん、まぁ自分では弱くないとは思ってるけどねぇ」

魔王「それじゃ、姉上より弱いから闘わなかったのか」

勇者「う～ん、ソッチよりも、ココで闘いたくなかったからかな？」

魔王「どういうことだ？」

勇者「和平を結んだって証の結婚式やってたのに、闘ってちゃオカシイでしょ？」

魔王「それは…… そうだな」

勇者「だから、止めてくれて本当に助かったよ。 ありがとう」

魔王「……フンッ」


勇者（……もしかしたら、この魔王が一番常識的なのかもしれないなぁ…）

勇者「さて、と」

スッ……

魔王「ん？ なんだ？ 手を出してきて……」

勇者「とりあえず、これからよろしくって思ってさ」

魔王「………」

勇者「これから、少なくとも表面上は仲良くして欲しいから、ね？」

魔王「……私はお前が嫌いだ」

勇者「うん、それでいいからさ」

魔王「………」

勇者「魔王は借金のため、ボクはこれからの平和のためにさ、頑張ろ？」

魔王「……まぁいい」ｽｯ…

ギュッ……

魔王「せいぜい私のために働け、勇者」

勇者「これからよろしく、魔王」

魔王「ハァ…… しかし疲れた。 勇者、椅子を用意しろ」

勇者「何を言って…… それくらい自分でやりなよ」

魔王「ん？ さっき何でもすると言っていたが、嘘だったのか？」

勇者「ぐっ…… わ、わかったよ…」スッ…

魔王「うむ、良い心がけだ」

勇者「はぁ、ついでだし、お茶でも飲むかい？」


魔王「えっ？ お、お茶なんてあるのか！？」

勇者「えっ、あるけど？ 紅茶も緑茶もあるけど、どうする？」

魔王「そ、そんな嗜好品が選り取り見取り……」

勇者「そこまで驚くようなものじゃないし、選り取り見取りって量じゃないでしょ！？」

魔王「勇者！ 今お前の事を少し見直したぞ！！」

勇者「こんなことで見直されたくなかった……」

魔王「紅茶！ 紅茶を頼むぞ！ ん、どうした勇者？」

勇者「いや、なんでもないよ……」

魔王「ま、まさか今になって紅茶を出すのが惜しくなったか！？」

勇者「いや、大丈夫だから……」ｺﾎﾟｺﾎﾟｺﾎﾟ……


魔王「あぁ…… いい香りだ…」

勇者「はいどうぞ、魔王」ｶﾁｬｯ

魔王「お、おかわりはしていいか！？」

勇者「何杯でもどうぞ」

魔王「わーい♪ やったー！」

勇者（ま、これだけ喜んでくれれば、悪い気はしないや）

魔王「ふーっ、ふーっ…… ん… あちっ」

勇者「ほらほら、そんなにがっつかないで、ね？」

魔王「うるさいっ、ふーっ… ふーっ…」

勇者「まったく……」


魔王「ん、そういえば勇者。 聞きたいことがあるんだが」

勇者「ん、なに？」

魔王「私の部屋はドコで、休む時はどこを使うんだ？」


勇者「あれ、言ってなかったっけ？ 魔王の部屋はここだよ」

………

魔王（けっこん ＋ おなじへや ＝ 殺す ！！？？）

>>71ミス　下に変更お願い
――――――――――――――――――――――――――――――

魔王「ふーっ、ふーっ…… ん… あちっ」

勇者「ほらほら、そんなにがっつかないで、ね？」

魔王「うるさいっ、ふーっ… ふーっ…」

勇者「まったく……」


魔王「ん、そういえば勇者。 聞きたいことがあるんだが」

勇者「ん、なに？」

魔王「私の部屋はドコで、休む時はどこを使うんだ？」


勇者「あれ、言ってなかったっけ？ 魔王の部屋はここだよ」

………

魔王（けっこん ＋ おなじへや ＝ [ﾋﾟｰｰ] ！！？？）

魔王「なっ！？ な、なななっななっ！！？！？ ///」

勇者「ん、どうしたの？」

魔王「ど、どどど、どうしたもあるかあぁぁ！！」

勇者「えっ！？ なんで怒ってるの！？」

魔王「こ、この部屋に、お、お前とく、暮らすの……か…？ ///」

勇者「え”っ？」

………

勇者「……あ。 そ、そうじゃない！ そうじゃないから！！ ///」

魔王「や、やっぱり私の身体が目当てだったのかっ！！？ ///」

勇者「ち、違うっ！ 違いますから！ 話を聞いてくれぇ！！ ///」

………

魔王「つ、つまり…… ここは私の部屋で、お前はあっちのトビラの向こうなんだな？」

勇者「そういうこと。 部屋に入るときはソコのドアを使うけど、それ以外は大丈夫」

魔王「お前が外に出るときは？」

勇者「一応、ここの部屋を通らなくても出られるんだよ」

魔王「……そこのドアからお前が突然入ってくることもあるのか？」

勇者「入るときはノックするし、鍵もあるし、魔法でロックかけてあるから大丈夫」

魔王「………」

勇者「……あ、安心して頂けましたでしょうか？」

魔王「……フンッ」

勇者（わ、わかったってことだよな…… たぶん…）

魔王「……疲れた、もう寝る」

勇者「えっ、わ、わかったよ。 それじゃボクは向こうに行くから」

魔王「あぁ、さっさと行ってくれ」

勇者「はいはい、それじゃおやすみ」

魔王「あぁ、おやすみ」


ガチャッ バタン


勇者「………はぁぁぁ、つかれたぁぁ……」

………

勇者「ボクも寝たいけど、そういうわけにもいかないしなぁ……」

ペラッ……

勇者「さて、魔王と仲が良いって見せつけるために有効そうな計画書はあるかな？」

ペラッ、ペラッ……

勇者「……ま、仕方ないし、頑張るかー」

[３日後]

チクチクッ……

魔王「ふ～ん、ふふ～ん♪」

チクチクッ チクッ！

魔王「よーしっ、魔王印の『威厳あるドレス』の完成だ♪」

………

魔王「……何やってんだろう、私」

………

魔王「……ホントに…… はぁぁぁ…」


コンコンッ

魔王「ん、誰だ？ 声を出せ」

勇者『勇者だけど、今あけて大丈夫？』

魔王「勇者か…… まぁいい、開けろ」


ガチャッ

勇者「それじゃ失礼するよ、魔王」

魔王「あぁ、よく来たな。 勇者、そこで踊れ」

勇者「来るなり酷くないか！？ なんでそんなこと言ったの！？

魔王「ヒマなんだよ」

勇者「暇だからなんなの！？ ボクの踊りはそんなに面白いの！？」

魔王「いや、ツマランだろうが、あらかじめツマランと思っていれば笑えるだろうと思ってな」

勇者「酷い！ 酷すぎだよ！？」

魔王「文句の多い奴だな。 なら仕方ない、ソコで何か面白い事しろ」

勇者「ハードルが上がったぁ！？」

勇者「というか、魔王こそ何やってるの？」

魔王「私は勇者に説明する舌など持ってない」

勇者「これってドレス？ どこから仕入れてきたの？」

魔王「ハッ！ 金のない私への誹謗か？」

勇者「いや、この前に使っていいってお金渡したよね？」

魔王「お前から渡された金など使わん」

勇者「いや、でもね……？」

魔王「私は腐っても、嫁いだとしても魔王だ。 勇者と必要以上に慣れあうつもりもない」

勇者「う～ん」

魔王「それに、私は勇者、お前が嫌いだ」

勇者「……うん、わかったよ」

魔王「わかればいい」

勇者「う～ん、でもこのドレス何処で作ったやつなんだ？」

魔王「……そんなに気になるのか？」

勇者「うん、出来が凄く良いし、あまり見たこと無い作りのヤツだし」

魔王「そうか…… ﾌﾌｯ」

勇者「ん？ 魔王どうしたの？」

魔王「いや、別に…… でもこれくらいならいいか…」

勇者（さっきからニコニコしたり、難しい顔したり、どうしたんだろ）

魔王「でも…… しかし…… うん…」

勇者「あの～、魔王？ どうしかしたの？」

魔王「……よしっ！ 勇者！」

勇者「は、はいっ！？」

魔王「聞いて驚け！ そのドレスは私の手作りだ！」


………

勇者「えっ！？ コレが！？」

魔王「あぁ！ どうだ！ 凄いだろう！！」

勇者「うん！ 本当に凄いよ！！」

魔王「フハハハッ！ もっと褒め称えろ！ いや、やっぱりいい」

勇者「いや、どっちなの…」

魔王「褒められるのは嬉しいが、勇者に言われるのは嫌だ」

勇者「はぁ、そんなにボクの事が嫌いなの？」

魔王「嫌いだ」

勇者「そこまで断言されちゃうと流石のボクも傷つくよ！」

魔王「勇者が傷つくだと？ それはいいな」

勇者「普通に酷い！？」

魔王「……ん？ 一つ聞くぞ、いいな？」

勇者「ん、何かな？」

魔王「なぜ男の勇者に『ドレス』の良さがわかったんだ？」

勇者「あぁ、それはね」

魔王「……まさか、女装癖か？」

勇者「えっ？」

魔王「まぁ、私は何も言わん。 だが品位を落とすような事はするなよ」

勇者「ちょ、ちょっと待って！ なんでそうなるの！？」

魔王「あと、そうなら私の半径５ｍ範囲内に入ってくるなよ」

勇者「まずは話を聞いて！ お願いだから！！」

………

魔王「フム、つまり貴族と話す機会が多くなり、自然と目が肥えたというわけか」

勇者「そう、そういうこと」

魔王「フンッ、つまらん」

勇者「つまらないって……」

魔王「そういえば、勇者は何しに来たんだ？」

勇者「あっ、そうだった。 危なく伝えたいことを伝え忘れるところだった……」

魔王「そういう話はどうでもいい、要件を伝えろ」

勇者「うん、魔王

　　　明日あたりに、買い物に行かない？」

【翌日 市場の通り】

「はいよー！ 魚の塩漬けはどうだいー！」
「西方より伝ってきた靴はいかがー？」
「塩をその値段では売れないなぁ…… もう一声！」
「ｳﾎｯ! いいバナナ……」


魔王「……凄い活気だ……ですね」

勇者「うん、ここはいろんな国から商人がやってくるトコだからね」

魔王「なるほど、感得致しましたわ♪」

勇者（……魔王、別にいつも通りでいいんだけど？）

魔王（馬鹿かお前は。 表向きは仲良くする必要があるだろうが）

勇者（う～ん、でも慣れないというか……）

魔王（慣れろ。 でなければ結婚なんて馬鹿げたことやった意味がなくなる）

「ねぇ、あの方々は勇者様じゃない？」
「ついこの前、結婚式を挙げたあの勇者様？」
「隣にいるのは…… 魔王の娘だっけ？」
「へぇー、初めて見たけど可愛いじゃないか」
「仲良さそうだなぁ～、いいなぁ～」


魔王（……わかるか？ いま私達は見られているんだぞ？）

勇者（う～ん、でもいつも通りでいいんじゃないの？）

魔王（ここでお前が嫌いといってやろうか？ すぐに戦争となるぞ？）

勇者（いや、さすがにそこまで神経質じゃないんじゃ……）

魔王（何を言っているんだ、物事は最悪を考えて行動するべきだぞ）

勇者（う～ん……）

魔王（そうじゃないと、すぐに泥団子と塩スープの生活になるぞ……）

勇者（ごめん、変なこと思い出させちゃって）

魔王（勇者と居たくない、でも塩スープ生活…… 私は…… 私はぁぁ……）

勇者（魔王、落ち着いて！ あと地味にボクも傷つくからやめて！）


「やっぱり勇者様たち、仲良さそうねぇ」

魔王「そういえば勇者様、本日はどちらへ連れて行って貰えるのですか？」

勇者「ん、そういえば言ってなかったっけ？」

魔王「はい、本日はどこに連れてってもらえるのか、楽しみにしてましたよ♪」

勇者「うん、あそこに見える建物なんだけどね」


魔王「わぁぁ♪」

勇者「デパートっていうらしいんだけど、いろんなものがそろってるお店なんだ」

魔王「とても大きな建物ですね♪」

勇者「うん、お城を除けば一番の大きさなんだって」

魔王「へぇぇ♪ 勇者様は物知りですね！」

勇者（魔王、やっぱりいつも通りにならない？）

魔王（慣れろ。 私も鳥肌を立てながらも頑張ってるんだぞ……）

勇者（だって、いつもとキャラが違いすぎるよ……）

魔王（言うな…… 無知なお嬢様を演じてるんだから…… なんで私が…… こんな…）

【デパート】

勇者「ここがデパートってところだよ、魔王」

魔王「………」ﾎﾟｶｰﾝ…

勇者「ど、どうしたの？」

魔王「……はっ!? す、すみません、少々驚いておりました…」

勇者「そう、人込みで疲れたんだったら言ってね？」


「勇者さんやさしー」
「あれくらい当たり前だろ？」
「おぉ、勇者カップルに初遭遇だ！」

魔王（こ、ここは天国なのか……）

勇者（ちょっと！ どうしたの魔王！？）

魔王（こ、こんなに物に囲まれるなんて…… まるで夢のようで…！）

勇者（魔王？ 落ち着いて、ね？）

魔王（なぁ勇者！ あそこのベッドで寝てみてもいいか！？）

勇者（ダメだから！ 魔王、落ち着いてよ！）

魔王（こんなに物に囲まれて寝られたら幸せそう……♪）

勇者（そんなことで幸せ感じないで、お願いだから……）

魔王「……ぁぁぁ♪」ｷﾗｷﾗｷﾗｯ！

勇者（凄い目を輝かせて…… はぁ…）

魔王「わぁぁ……♪」ｷﾗｷﾗｷﾗｯ！

勇者「ま、魔王？ どうかな？」

魔王「すごいっ！ すっごくいい！！」

勇者「そ、そう？ それならよかったけど…」

魔王「うんっ！ ありがとう、勇者！」

勇者「ど、どういたしまして……」

魔王「わぁぁ……♪」ｷﾗｷﾗｷﾗｯ！

勇者「………」

魔王「綺麗だなぁ……♪」ｷﾗｷﾗｷﾗｯ！

勇者（ど、どうしようこの状況……）

魔王「ぉぉ…♪」ｷﾗｷﾗｷﾗｯ！

勇者「………」

魔王「ふふ……♪」ｷﾗｷﾗｷﾗｯ！

勇者「………」

魔王「へぇぇ……♪」ｷﾗｷﾗｷﾗｯ！

勇者「……ねぇ魔王？」

魔王「なに？」ｷﾗｷﾗｷﾗｯ！

勇者「そろそろ上の階の服売り場に移動し……」

魔王「えっ……？」ｷﾗｷ… ｼｭﾝ……


勇者「ようと思ったけど、もう少しここにいよっか？」

魔王「うんっ！！」ｷﾗｷﾗｷﾗｯ！

勇者「………」

魔王「わぁぁ……♪」ｷﾗｷﾗｷﾗｯ！

勇者（いろいろ反則だよ、魔王……）

【デパート ２階 服売り場】

勇者「はぁ、楽しかった？ 魔王」

魔王「うｎ…… ごほんっ。 えぇ、とても興味深いものでした♪」

勇者「それならよかったよ」

魔王（あぁ…… あんなに家具とかに囲まれたのは生まれて初めてだ……♪）

勇者（普通は洋服とかに感激するものじゃないの？）

魔王（洋服は作れるが、私は家具を作ることが出来ないからな）

勇者（ふぅん？ そういうものなんだ）

魔王（あぁ、そういうもの…… ん？）


テフテフテフ……

魔王「………」ｼﾞｰｯ

勇者「ん、どうしたの？」

魔王「……ちょっと、興味ある服を見つけてまして」

勇者「どれかな？」

魔王「これ」

ファサァ……！

勇者「へぇぇ、綺麗だなぁ」

魔王「あぁ、きめ細やかな布も、ふっくらとしたこの生地も良い……」

勇者「……よしっ！ これ貰おっか」

魔王「えっ！ いや、いい！ いらない！」

勇者「えっ、どうして？」

魔王「そ、そんな贅沢、いらないっ！」

勇者「いや、贅沢って…… 買い物しに来たんだから……」

魔王「そ、それでもいらないっ！」

勇者「……よーし、そっちがその気なら…」

魔王「な、なんだよ…… 文句があるのか…？」

勇者「すみませーん、これくださーい！」

魔王「なっ！？」


店員「はい、勇者様。 こちらの商品でよろしいでしょうか？」

勇者「はい、それをお願いします。 寸法は彼女にあわせてください」

店員「畏まりました」

魔王「お、おい勇者！ 勝手なことをするな！！」

勇者「いや、ソッチが意地はってるんだから、ボクも意地はって勝手なことをするよ！」

魔王「だーもうっ！！ ふざけ……」

勇者「とりあえず、みんなの前だし今回はボクの顔を立てて、ね？」


ザワザワ…… ザワ…

魔王「う”っ…… わ、わかった…」

勇者「うん、ありがと」


「なぁ…… 壁殴りたくね？」
「奇遇だな、俺もそう思ってたんだ……」
「お客様、勝手に壁を殴らないでください。 あちらに殴り壁がありますので」
「壁殴り代行です、ただ今5分間半額セールしておりまーす」

続けたまえ

ああ、続けろ

あ、壁殴り代行おねがーい

把握しました、このまままったり続けていきますね
>>101,>>102　返信ありがとう！

店員「有難うございましたー♪」


魔王「うぅ……」

勇者「さて、次はどこに行くかな？」

魔王「えぇ！？ まだ次があるのか！？」

勇者「うん、ここはお城くらい広いところだし、行けるところはまだまだあるよ？」

魔王「そ、そうなのか……」

勇者「どうする？ 特に指定がないんだったら、ボクが決めちゃうけど」

魔王「ま、まて！ ええと…… うぅと……」

勇者「あと魔王、地の口調が出てるよ？」

魔王「えっ……？ あっ…！？」

………


勇者「でも、ボクはそっちの方がいいと思うけどね」

魔王「…… 帰る」

勇者「えっ！？」

魔王「もう帰るっ！ 行くぞ勇者！」

テフテフテフ……


勇者「えっ？ その、なにかやっちゃった…… のか…？」


「えっ、もしかして今のケンカ？」
「内容は知らないけど、勇者が悪いな」
「うん、あんな可愛い子が悪いわけない」
「可愛いって言っても、魔王の娘だぞ？」
「「だからどうした！」」


勇者（あれ？ この状況、色々とマズくないか……？）

………

魔王「どうした勇者！ 置いてくぞ！」

勇者「ま、待ってよ！ 魔王！」


「ただ今のみ、壁殴り代行の無料キャンペーンを実施しておりまーす」
「勇者が氏にそうなくらいの量、お願いします」

【魔王の部屋】

ガチャッ バタン

魔王「………」

勇者「………」

………

勇者（ええと、なんでこんな機嫌が悪そうなんだろ？）


魔王「おい、勇者」

勇者「なに、魔王？」

魔王「私は休む、さっさと出ろ」

勇者「あ、あぁ、わかったよ」


ガチャッ

勇者「それじゃ、今日はありがとね？ 魔王」

バタンッ

魔王「……フンッ」

魔王「………」

………

魔王「………」

ガサゴソガサゴソ…

魔王「……この服、どうしろと言うんだ…」


コンコンッ

魔王「ん、誰だ？ 声を出せ」

メイド『失礼致します、メイドで御座います』

魔王「フンッ、入っていいぞ」

ガチャッ

メイド「それでは失礼致します、魔王様」

支援有難うございますorz　少々更新しますね～

魔王「フンッ、何の用だ？」

メイド「大変恐縮ですが、お伺いしたいことがあり、お尋ね致しました」

魔王「ん、今更なにを聞くと言うんだ？」

メイド「本日、いらっしゃいましたデパートへの交遊についてで御座います」

魔王「ん、なぜそんなことを？」

メイド「勇者様のご予定より、お早い御帰宅でしたので、何事か確認の為、ご質問致しました」

魔王「……つまり、上の奴らを納得させるために、何があったのか言えということか？」

メイド「そうとらえて頂いて構いません」

魔王「……フンッ、まぁいい。 なら…」


メイド「という名目でお二人のデート内容を事細かに教えてください」

魔王「………」

メイド「………」

魔王「……デートじゃない」

メイド「いいえ？ デートですよね？」

魔王「いや、デートじゃない」

メイド「またまた、御冗談を」

魔王「デートじゃないったら、じゃない」

メイド「いいえ、デートですったら、デートです」

魔王「………」 ゴゴゴゴゴッ！

メイド「………」 ゴゴゴゴゴッ！

魔王「……はぁ、わかった。 デートという事にしておいてやる」

メイド「はい、わかっております」

魔王「魔族の為に、仕方なく嫌々やった デ、デート… だったがな」

メイド「それで構いませんので、事細かに詳細を詳しくねっとりと…」

魔王「……お前、キャラが変わりすぎじゃないか…？」

メイド「今まで猫を被っていただけです」

魔王「それは私に向かって言っていい事なのか？」

メイド「本来、言ってはいけないと思いますよ」

魔王「オイ」

メイド「もし魔王様が国王様に御報告しましたら、即刻解雇になるでしょうね」

魔王「オイ」

メイド「もしそうなりましたら、いつまでも貴女様をお恨み致しますね♪」ﾆｺｯ♪

魔王「オイ……」

メイド「まぁ、御冗談はさておきまして……」

魔王「冗談に聞こえなかったがな……」


メイド「こほんっ、正直な話ですが、勇者様…… 弟の事が心配なのですよ」

魔王「………」

メイド「あの子、基本的に人魔畜無害のいい子ですが、バカですから」

魔王「……ばかなのは、知ってる」

メイド「それは重畳です」

魔王「……フンッ」

メイド「ふふっ♪」

[魔王 説明中…… 魔王 説明中…… ]


魔王「……以上で全部だ」

メイド「……ご質問宜しいでしょうか？」

魔王「なんだ？」

メイド「勇者様のプレゼントにそこまで嫌と言うのはなぜですか？」

魔王「はぁ？ 当たり前だろう？」

メイド「そこまで勇者様が嫌いなのですか？」

魔王「嫌いだ」


………

メイド「勇者様が嫌いなのは、筋金入りですね……」

魔王「当たり前だろう、魔王だしな」

メイド「まぁ、勇者様が嫌いでも 物に罪はありませんし、いいではないですか」

魔王「ま、まぁそうなんだが……」

メイド「ふむふむ、それでは何がご不満なのですか？」

魔王「……どのような事情があろうと、私は魔王だ」

メイド「はい」

魔王「魔王として勇者と対等で有るべきだ、と思う」

メイド「ふむふむ」

魔王「だから、ヤツから何かを貰うというのは…… なんというか……」

メイド（……もしやこれはノロケでしょうか？）

魔王「借りを作りっぱなしになっているような気がしてな……」

メイド（その割には真面目な顔をしていらっしゃるし…… ううむ、こりゃ弟に脈なしかも…）

魔王「……まぁ、この服が欲しかったのは事実だがな」

メイド（あ、ちょっとデレた…… のかな…？）

魔王「……私はどうすればいいだろうか」

メイド「ふむ…… ちょっと質問宜しいでしょうか？」

魔王「あぁ、構わん」

メイド「魔王様の問題としては、勇者様から物を一方的に受け取っているという現状ですか？」

魔王「まぁ、そんなところだ」

メイド「ふむふむ…… それでは一つ案があるのですが」

魔王「どんな案だ？」

メイド「それはですね……」

【三日後 城内】

勇者「ううむ……」

　　（どうしよう、あれから魔王は引き篭もっちゃうし……

　　　姉さんは待ってろって言うだけだし……

　　　ボクはどうすれば……）

勇者「はぁ……」

魔王「………」

勇者「………」

魔王「………」

勇者「………」

魔王「……おい、勇者」

勇者「どわあぁぁ！？ ま、魔王！？」

魔王「な、なんだ！ そんな驚いて…… 気色悪いぞ」

勇者「気色悪…… まぁいいや」

勇者「ところで、どうしたの？」

魔王「今、ヒマか？」

勇者「うん、暇だよ」

魔王「だったらそこでちょっと待て」


バタンッ

勇者「また引き籠もり…… って訳じゃなさそうだけど」


ガチャッ

勇者（あ、すぐ出てきた）

魔王「……コレ、くれてやる」

勇者「……こ、これは…！！？」

≪ 勇者 は 手作り手袋＆マフラー を てにいれた ≫ ﾃﾚﾚﾚｰ♪

勇者「………」

魔王「前回、服を押し付けられたが、私も不義理じゃないからな」

勇者「………」

魔王「メイドと相談して、まぁそれで良いだろうってものを作ったから渡す」

勇者「………」

魔王「これで服の借りは返したってことにするからな、じゃあな」


バタンッ


勇者「………」

………

勇者「……ぅぅぅぅぅううううっ！！！ いやっっっった(ry」

メイド「うっさいわこの愚弟！！」ドカッ！

勇者「ぎゃふんっ！」

『ﾋｬｯﾊｰ!! ｶﾎｳﾀﾞｰ!』

『ﾏﾃ,ｵﾄｳﾄ! ｷﾓﾁ ﾊ ﾜｶﾙｶﾞ ｵﾁﾂｹ!!』


魔王「……あ、あの程度で喜ぶのか…？」


『ｾﾞｯﾀｲ ﾀﾞｲｼﾞﾆｽﾙ!! ｾﾞｯﾀｲﾀﾞ!!』

『ﾀﾞｶﾗ ｵﾁﾂｹｰ!!!』 ｺﾞｽｯ！！！

『ｹﾞﾌｯ……』



魔王「……フン」

【しばらく後の日】


勇者「……どうすればいいんだ」

メイド「ん、どうしたの勇者？」

勇者「姉さん…… ちょっと、いや凄く困ってることがあってさ……」

メイド「なに？ この前魔王様から色々貰って喜んでたじゃない」



勇者「その魔王が、部屋から出てこない……」

メイド「……そういえばお部屋掃除の時、いつも居たわね」

勇者「どうしよう…… 暴れられたりするのはアレだけど、今の状態も……」

メイド「まぁ、あの魔王様が暴れても大事にはならなそうだけどね」

勇者「姉さん！ ボクはどうすればいいの！？」

メイド「どうすればって…… 御部屋から出して差し上げればいいじゃない？」

勇者「どうやって！！」

メイド「どうやってってアンタ…… ハァ、どこかにお誘いしてあげればいいじゃない」

勇者「ボクが一般人を誘える場所なんて数えるほどしかないよ！」

メイド「声を上げて言う事じゃないでしょうが！！」

勇者「うぅぅ…… 四天王と闘うより難しいよ…」

メイド「同列にするなって、まったくもう…」

勇者「うぅむ…… 姉さんだったら、何処に連れてって貰ったら嬉しい？」

メイド「お、プラス思考は良い事よ？ でも教えない」

勇者「なんで！？」

メイド「当たり前の話だけどね、私は『女の子』だけど、『魔王』様じゃないの」

勇者「それはどういうこと？」

メイド「私の好きなものと、魔王様の好きなものは違うってこと」

勇者「う～ん、そうなの？」

メイド「さぁ？」

勇者「さぁ、って姉さん無責任じゃないか！？」

メイド「だって知らないんだもの。 そうとしか言えないじゃない」

勇者「何を言って……」

メイド「貴方は聞いてないの？ 魔王様が何を好いてるか、とかを？」

勇者「それは……」

メイド「会話っていうのは相手の事を知ろうとする行動よ？ ちゃんと話さなきゃ」

勇者「う”……」

メイド「……まぁ、今回は助けてあげるから、頑張りなさい」

勇者「ほ、ホント！？ ありがとう姉さん！！」

メイド「はいはい、頑張りなさいよ？」

………

魔王「で、何をしに来たんだ？」

勇者「いや…… 最近魔王の顔を見てなかったから、心配でね？」

魔王「フンッ、魔王の私に大事があったら、勇者は喜ぶべき事態だろうからな」

勇者「いや、そんなこと思ってないから、というか大変なことになっちゃうから」

魔王「……それで、顔を見に来ただけならもういいだろう？ さっさと出ろ」

勇者「いやいや、もう一つ用事があってさ？」

魔王「ん、なんだ？ さっさと言え」

勇者「ええと、魔王さ……

　　　ピクニックに行かない？」

魔王「………」


勇者（これ失敗じゃないか!? 魔王の反応が無いし!? 姉さん本当に大丈夫なの!?）


魔王「……ふむ、ぴくにっく、か」


勇者（ほら!! たぶん呆れてる反応だよコレ！！ どうしよう、なんて言えば……）


魔王「勇者、ぴくにっくとは確か、そこらの岡や川を目指し、辺りを散策するものだったか？」

勇者「へっ！？ あ、そ、そうだよ！？」

魔王「そうか…… ふむ……」

勇者「………」ﾄﾞｷﾄﾞｷ

魔王「……わかった、行く」

勇者「……へっ？」

魔王「いつ行く予定なんだ？」

勇者「えっ？ えぇと、明日とか……」

魔王「なんだと？ なんでもっと早く言ってくれなかったんだ！？」

勇者「へっ！？ ご、ごめん！」

魔王「まぁいい、何人くらいで行くんだ？」

勇者「え、ええと、ボクと魔王と、姉さんで、かな？」

魔王「大体３人くらいか…… わかった」