安価でシークレットゲーム6 (1000)

・このスレは安価(コンマ)でシークレットゲームをクリアすることを目的としています。


・プレイヤー数は14人で、主人公のPDAはJOKERという設定です。
 他の13人は、シークレットゲームに登場するキャラ(御剣、姫萩、等)です。


・基本は安価で選択肢を選ぶことになりますが、場合によってはコンマ下二桁判定を取ります。


・安価の選択肢に挙げられている中に正解のものが絶対含まれているかどうかは分かりません。


・安直な選択は死を招くので、ご注意を。


・今までのスレ

安価でシークレットゲーム

安価でシークレットゲーム2

安価でシークレットゲーム3

安価でシークレットゲーム4

安価でシークレットゲーム5

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1363087413

いつの間にか埋まっていたので、また新しくスレを立てました。
専ブラの方が見やすいと思います。

前回の流れ……


871 名前: ◆WNrWKtkPz.[saga] 投稿日:2013/03/09(土) 00:09:28.72 ID:QjRrywGS0 [1/2]
「それじゃ、私も」

「晶ちゃんも、行っちゃうの~?」

綺堂が悲しげな目で見てくるが、そんなことは知った事ではない。

「待ってください、神崎さん!」

「アンタは、まず頭を冷やすべきね――」

「ちょ――」

私は部屋を出てすぐに手塚を探し回り始める――



「ん……?」

私が歩き始めてすぐの場所に手塚が壁に寄りかかっていた。

「来ると思ってたぜ」

「私が来なかったらどうしたの?」

「俺は来ると確信していたからな、その場合については何も考えていない」

「ふーん……」

まあ、探す手間が無くなったので良しとしよう。

「で、どうするんだ? 組むのか、それとも同行するだけか……」

手塚は、PDAの番号を教えるか教えないか、ということを聞いているようだ。


私は……

1.私からPDAの番号を教える

2.手塚からPDAの番号を教えるように求める

3.教え合う事を拒否する

4.やっぱり単独行動を取る

5.その他

>>872
>>873
>>874

>>874のコンマ下二桁によって安価を決定
 
00~33 >>872
34~66 >>873
67~99 >>874



872 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage] 投稿日:2013/03/09(土) 00:11:31.76 ID:Bf03v58qo
3

873 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage saga] 投稿日:2013/03/09(土) 00:13:26.78 ID:OPQ+V3DW0


874 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage] 投稿日:2013/03/09(土) 00:16:36.92 ID:vOsZbycy0 [1/2]
2

――――
――

ここから進めていきます。

「PDAの番号を教えて」

私は手塚からPDAの番号を明かす事を求めた。

JOKERの立場であるため、手塚が嘘のPDAを教える事は出来ないというのは有りがたい事である。

生憎私はまだ偽装機能を使用していないため、手塚が2であるかどうかを確認出来ていない――

「俺は加藤から教えて貰いたいわけだが?」

「私はあなたの方から教えて貰いたいの――」


どっちも引けを取らないため、話が一向に進まない。

手塚も少なからず私のことを警戒しているのだから、先に教えたくないというのは分かるのだが――

「…………」

正直にJOKERというのは自滅行為に近い。

そのため偽装した番号を手塚に教えることになるわけだが……。

(万が一被った時……)

その教えた番号が手塚と一致してしまうと、非常に不味い事になってしまう。

確率は10%を切っているのだが、可能性がある限りそのリスクを無視する事は出来ない。


私は……

1.敢えてJOKERだということを教えよう

2.偽装した番号を先に教えよう(要記載:偽装番号)

3.意地でも手塚に先に言わせよう

4.一旦この話は終わりにして、後で教え合うことを提案する

5.手塚と別れる

6.その他

>>11
>>12
>>13

※>13>のコンマ下二桁によって安価を決定
 
00~33 >>11
34~66 >>12
67~99 >>13

4

「このままだと埒が明かないし、この話は一旦止めて、後で教え合うべきね」

「……そうだな。ま、取りあえず協力関係って形で行くか」

「そうね――」

結局、私たちは番号を教え合わないまま一緒に行動する事になった。

と言っても、また後になってこのようなやり取りをしなくてはならないのだが――

(次の節目はゲーム開始から6時間目か……)

戦闘解禁ということもあって、そこで教え合えなければ別れる可能性は高くなるだろう。

まあ、手塚と組むことにそこまで終着する必要性は無いと思うのだが……。



私たちはこのあと……

コンマ判定

>>20

00~40 私がGPSを見つける

41~80 手塚がGPSを見つける

81~99 何も見つからない

>>21

00~40 私がGPSを見つける

41~80 手塚がGPSを見つける

81~99 何も見つからない


GPSかもん

みつけろ

【06:00】

ゲームは開始から6時間……ようやくゲームが本格的に始まったといったところだろうか。

私たちはお互いに1個ずつGPSを見つけて、それぞれのPDAに導入した。

「で、戦闘解禁となったわけなんだが……どうする?」

「そうね……」

言わずもがな、ここからは表面上だけでも信頼関係とやらが必要となってくる。

それ無しに一緒に行動するというのは、精神的に難しいだろう。

それに、私たちはお互いに先に教えるのを拒んでいるために更に疑心が沸いているといったとこだろうか――


私は……

1.JOKERだということを打ち明ける

2.偽装した番号を先に教える(要記載:偽装番号)

3.手塚から教えないのであれば一緒に行動しないという

4.手塚は先に教える気が無さそうなので、何も言わずに別れる

5.手塚を殴り倒してPDAを奪い取る

6.その他

>>25
>>26
>>27

>>27のコンマ下二桁によって安価を決定
 
00~33 >>25
34~66 >>26
67~99 >>27

6 埒が明かないから同時に教え合う

3

「……私から言うから、あなたも教えなさい?」

性分じゃないが、ここは折れて私から言ったほうが良さそうである。

それも、本当の番号を――


「私のPDAは……JOKER」

「なッ……加藤、お前――!?」

画面を見た瞬間に、手塚は目を見開いて少し私と距離を置いた。

「ほら、教えたんだから早くそっちのPDAも教えなさい」

私は冷静なままで手塚にPDAを取り出させる。

「俺のPDAは……6だ」

6と言えば、JOKERの偽装機能を5回以上使用だったか――

「あら、運が良かったわね。お目当てのPDAが目の前にあるじゃない」

「まさかこんなにも早く見つかるとはとは、俺も思って無かったぜ」

お互いにPDAを明かしたことで、微妙な空気が流れ始める。

「それで、どうするの? 私は最低でも2人殺害しないといけないわけだけど」

JOKERの正体を暴露するという暴挙に出たのだが、手塚が6であることによって良い展開に持ち込めたかもしれない――

「……JOKERの偽装機能は、いま何回使っているんだ?」


私は……

1.もう5回使用したという

2.適当に嘘の回数を言う

3.まだ使っていないと正直に言う

4.教えない

5.その他

>>32
>>33
>>34

>>34のコンマ下二桁によって安価を決定
 
00~33 >>32
34~66 >>33
67~99 >>34

3

「残念、まだ1回も使用していないわ」

「そうか……」

私が正直に言った事に対して、手塚は少し考える素振りを見せる。

まあ、実際に見ていないのだからそう簡単には信じられないだろう。

「このまま私について来れば、偽装回数をカウントできるけど?」

若干ではあるが立場的には私が優勢になってきているように思える。

私は別に手塚と絶対に同行したいとは思っていないので、彼の返答次第で取る行動を選択すればいいだけの事であって――

「仮に俺がついていくとするなら、お前は1時間ごとに偽装してくれるのか?」


この質問に対して私は……

1.そうだ、という

2.気分次第だ、という

3.それは答えられない、という

4.条件を呑むならやる、という(要記載:条件)

5.その他

>>43
>>44
>>45

>>45のコンマ下二桁によって安価を決定
 
00~33 >>43
34~66 >>44
67~99 >>45

1

1

5.代わりに首輪とPDAをくれるならOKよ。

「ええ、そうよ?」

「……だったら、ついていく以外に選択肢が無いな」

手塚は少し間を置いてから返答をした。

無条件で協力するという奇怪さに戸惑ったのか、はたまた別の事を考えていたのか――

「そう、だったら早速偽装するわ」

私はJOKERを2に偽装して手塚にその画面を見せる。

「確かに、1回目だな」

「いまからだと、半日も経たない間に首輪が外れるんじゃない?」

「それはそれで何も面白みが無いゲームだな……」

取りあえず手塚と一緒に行動する事になったが、彼は首輪を外した後にどういう行動を取るのだろうか。

私だったら外した直後に、戦闘禁止エリアに駆けこんでゲーム終了までのんびり過ごすだろう。

(……無条件は不味かったか――)

こんなぬるい行動をとっていて、この先のゲームをやっていけるのだろうか――


私たちはこのあと……どうする?


>>50
>>51
>>52

>>52のコンマ下二桁によって安価を決定
 
00~33 >>50
34~66 >>51
67~99 >>52



武器を確保優先、他の参加者も隙があれば襲撃する

ひとまず、上を目指しましょう。

ところで、貴方が首輪を外したら首輪とPDAが欲しいのだけれど。

>>51

【07:00】

私たちはあれから武器を探すことにした――

1階なので見つかったものはフルーツナイフやコンバットナイフだった。

また、道中で地図拡張機能も見つけたのでようやく部屋の種類が地図上で確認できるようになった。

「それじゃ、2回目――」

私はJOKERを4に偽装して手塚に見せた。

「あと3回か」

「3時間なんてあっという間に経過するから、慌てなくても大丈夫よ」

「慌ててねぇよ……ただ、上手く行き過ぎていると思っているだけだ」

「確かに、そう疑ってしまうのも無理ないわね」

まあ、このままで終わるとは私は微塵たりとも思って無いが――


私たちはこのあと……

コンマ判定1個下

00~30 麗佳たちと出会う

31~60 北条たちと出会う

61~90 長沢たちと出会う

91~99 誰とも出会わない

【08:00】

時はあっという間に過ぎて行き――

「それじゃ、3回目――」

私が3回目の偽装を行おうとした時、真っ直ぐ向こうに人の姿を捉えた。

「ん、どうした?」

見えたのは3人で、向こうもこちらに気が付いたのか近寄ってきている。

「なんで…………」

私は目に映っている1人の姿が信じられなかった。

「どう、して――――」

「晶!?」

これは、主催者による私への試練だというのだろうか――

【08:30】

私たちが遭遇したのは葉月、高山、そして……麗佳の3人である。

「なんで麗佳がここにいるの!?」

「それはこっちの台詞よ! 向こうに居るのが晶だって分かった瞬間に、驚き過ぎて躓きかけたんだから!」

私と麗佳はお互いに興奮して言葉を交わしていた。

「お友達同士の会話は後にして、先にこっちの話を進めようぜ」

手塚達の方を見ると男性陣の困惑した顔が見えた。

「……そうね。麗佳、また後で話そう」

「ええ」

色々頭が混乱しているので、麗佳と話すのに少し時間を置いた方が良いだろう。

「それで、これからどうするかって話なんだが2人の意見はどうなんだ?」


私は……

1.このまま全員で行動することを提案する

2.この中で一緒に行動したい人を選択する(要記載:人物)

3.特に意見を言わない

4.引き続き手塚と行動する

5.その他

>>64
>>65
>>66

>>66のコンマ下二桁によって安価を決定
 
00~33 >>64
34~66 >>65
67~99 >>66

4

5手塚と2人で襲撃する

4

「私はこのまま手塚と行動するわ」

これ以上人数が増えるのは、私にとってあまり嬉しくない事である。

「私は……晶と一緒に行くことにします」

こうなることは予想できていたので私は何も言わなかった。

麗佳と比べて葉月と高山は信用できないので、このまま割れてくれればいいのだが――

「矢幡さん……」

葉月が何と無く感づいていたような顔をして麗佳を見ていた。

「それならば俺は単独行動を取る――」

「え……た、高山君!?」

ここが潮時だと思ったのか、高山はそれ以上何も言わずに部屋から出て行ってしまった。

「手塚、麗佳を連れて行っても良いよね?」

「……好きにすればいいさ」

手塚には殆ど権限が無いので、これは最初から決定事項である。

「ぼ、僕も連れて行ってくれないか!?」

高山に捨てられた葉月が顔を青ざめさせながら申し出てくる。


私は……

1.ついでに連れて行く

2.連れていかない

3.無視して部屋から出る

4.その他

>>73
>>74
>>75

>>75のコンマ下二桁によって安価を決定
 
00~33 >>73
34~66 >>74
67~99 >>75

1

チーム組んでるということは高山さんはおそらく殺人系じゃないので相手にしないのが無難
葉月は隙があったら殺人対象、麗佳は・・お前ら次第か

4はずきを襲う

「そうね…………」

私は目を細めながら葉月にゆっくり近づいて行く。

「お願いだ、頼む……!」

「それじゃ、葉月さんが私たちと同行するのに相応しいかどうか、試してあげる」

「試す、とは……どうやって……」

「こういう、ことよ――」

私はファイティングポーズを取り、佇む葉月に向かって拳を放った――

「ぐッ――――ッッッ!? …………ぅぁ――」

葉月は動くこともできずに、そのまま後方へ吹き飛んで倒れた。

「あき、ら……? な、何やってんのよ!?」

現状をいち早く察知した麗佳が、私にしがみ付いてきた

麗佳の目を見た瞬間に、私の頭は真白になった。



どうして、私は麗佳の目の前で人を殴ったりしたのか――

いや、そもそも標的でもない相手を唐突に殴ること自体意味が分からない――

私は、どうして――

「晶!!」

「………………」

私は……

1.麗佳を振り払い、葉月を殺害する

2.そのまま麗佳に体重を預ける

3.麗佳を殴る

4.その他

>>83
>>84
>>85

>>85のコンマ下二桁によって安価を決定
 
00~33 >>83
34~66 >>84
67~99 >>85


2

4.葉月に謝罪して治療を施す。怖がるなら麗佳にお願いする。
色々あって気が動転していたと誤魔化しつつ、手塚にあとでPDAと首輪を外したらもらうよう言い含める。

4、私はこんな風にこれから人を襲うけど邪魔しないのならついてきてもいい

今日はここまでです。

【現状】

死者:漆山

【体調】

体 健康

心 動揺(大)

【武器】

加藤:ナイフ

手塚:ナイフ

矢幡:???

【ツールボックス】

加藤:GPS、地図拡張機能

手塚:GPS

矢幡:???

【PDA情報】




5 北条
6 手塚



10



JOKER 加藤

男子1番・和泉直正(いずみ・なおまさ)

男子バスケットボール部キャプテン。
しっかりした性格。
西智美(女子14番)との口喧嘩が絶えない。

 

支給武器:シグ・ザウエル P230 9ミリショート
kill:なし
killed:斎藍(女子2番)
凶器:カマ
 

実は智美に恋心を抱いていた。
G=08エリアで智美と再会。喜んだのもつかの間、藍に発見される。智美を先に逃がして自分も逃げようとしたが、カマで手首を切られ出血多量死。

男子2番・井上稔(いのうえ・みのる)

部活は無所属。不良ペアの片割れ。
ケンカ好きでがさつ、大雑把だが、優しい部分もある。
麻生咲(女子1番)に恋心を抱いている。

 

支給武器:クマデ
kill:美祢達哉(男子17番)
能勢杏奈(女子15番)
killed:なし
凶器:なし
 

出発後、担任を殺されたことにより、坂出慎(男子5番)と共に政府に復讐しようとする。また、普通に接してくれていた皆川玉樹(男子16番)・咲に会おうと決心する。
F=01・02エリアの境目で和田純直(男子20番)・原田千秋(女子16番)が自殺したことを知りショックを受ける。火炎瓶の作り方の紙を入手。
F=08エリアで尾花哲也(男子3番)の死体を発見。銃を入手するが、G=08エリアで出会った土井雫(女子10番)に渡してしまう。
E=06エリアで中野尋代(女子13番)を看取る。
F=09エリアで着々と脱出の作戦の準備をしていたが、杏奈に襲われる。両足を負傷するが、慎の道連れ作戦(?)でその場から逃げ出す。政府・杏奈への復讐を誓って移動開始。銃を入手。
D=07エリアで咲が達哉に殺されかけているのを見つけ、咲に声を掛ける。咲が駆け寄ろうとしたが咲を殺害された。達哉を無言で銃殺。
その後合流した雫と移動。D=08エリアで休憩中に杏奈に襲われる。全身に被弾するが、致命傷にはならなかった。フリッサで杏奈の全身を刺して殺害。優勝。

男子3番・尾花哲也(おばな・てつや)

卓球部。クラス1大柄。
性格は大らかで面倒見も良い。
吉井英(男子19番)と最も仲が良い。

 

支給武器:S&W M29 44マグナム
kill:なし
killed:中野尋代(女子13番)
凶器:ベレッタM84
 

狂う。F=08エリアで尋代・武藤萌(女子19番)を発見。襲いかかるが、逆に尋代に左胸・腹を撃たれ死亡。

男子4番・門脇吉孝(かどわき・よしたか)

テニス部。自慢癖がある。
閑谷邦康(男子6番)が聞き役。
その他に親しい人物は特にいない。

 
支給武器:ポケットティッシュ5個
kill:なし
killed:美祢達哉(男子17番)
凶器:裁ちばさみ
 

G=02エリアで、石を投げながら慎重に移動していたが、その1つが達哉に当たってしまう。追いかけられ必死に逃げるがこけてしまい、腹をメッタ刺しにされ死亡。

男子一番 相葉優人(あいば・ゆうと)

身長 168cm
体重 51kg
誕生日 9月9日
血液型 B
部活動 バスケットボール
友人 雨宮悠希
川原龍輝
田中顕昌
内藤恒祐
春川英隆
日比野迅
望月卓也
(男子主流派グループ)
愛称 優人
出身小 帝東学院初等部
親の職業 デザイナー(父)

いつもへらへらとしたお茶らけた性格で、グループの盛り上げ役。
優しくて争いごとを嫌っており、人との衝突を避けるためなら濡れ衣を着せられることも厭わない。
グループ内では春川英隆・日比野迅・望月卓也と行動を共にすることが特に多い。
集団で行動している時には女子にも平気で声を掛けるが、1対1ではなかなか話すことができない照れ屋。しかし片想い中の小石川葉瑠に対しては積極的にアプローチしている。
バスケットボールをしている時の集中力は凄まじく、この時だけは周りから「かっこいい」と騒がれる。



 チーム: 第1班 
支給武器: 偽銃6個セット
kill: 荻野千世(女子三番)
killed: 室町古都美(女子十八番)
凶器: グロック19
 
F=03エリアにて潜伏。チームでの話し合いの結果、やる気でない且つ脱出手段を考えていそうな城ヶ崎麗(男子十番)のグループを探すことを決めたが突如襲撃を受けチームの宍貝雄大(男子八番)を失う。逃げ出したものの、襲撃者の中の1人が望月卓也(男子十六番)であることにショックを受ける。↓
潜伏していたが突如音がして逃げようとするが、現れた日比野迅(男子十五番)と水田早稀(女子十七番)がやる気でないことに安堵。話をして別れた。

B=06エリアにて潜伏。徐々に元気を取り戻していた。友人の状況を掴めていない荻野千世(女子三番)と小石川葉瑠(女子五番)に友人を探すことを提案し移動しようとしたが、突如リーダーである千世が春川英隆(男子十四番)らに狙撃される。リーダーの死亡により巻き添えになることを防ぐため、千世を射殺、罪悪感に慟哭。財前永佳(女子六番)に殺されそうになるが、偽銃セット“閃光銃”を葉瑠が使用し逃げ出すことに成功。下剋上ルール適用により、第1班リーダーとなる。↓
C=05エリアにて潜伏。雄大や千世を失ったこと、葉瑠に苦労をかけていることの全てを自分のせいだと思い涙していた。原裕一郎(男子十三番)・室町古都美(女子十八番)が現れ、雄大と千世が2人の親友であることに気付き泣きながら謝罪。しかし、葉瑠が狙われると、葉瑠を護るために2人に立ち向かう。一時優勢だったが、古都美に背後から撃たれた。葉瑠に自分を殺して生き残るように請うが拒否され、自分のせいで葉瑠を死に至らしめる結果になったことを悔い悲しみながら息絶えた。



これまで色々な子を書いてきましたが、トップクラスで書きにくいというか、書いてるこっちの気持ちもどんどん落ちていくほどに、プログラムに苦しみ悲しみ悩み続けた子でした。ここまでなる予定ではなかったのに←
ちゃらんぽらんなところを一切書けなかったなぁ…

女子五番 小石川葉瑠(こいしかわ・はる)

身長 157cm
体重 50kg
誕生日 1月15日
血液型 AB
部活動 吹奏楽部
友人 阪本遼子
蓮井未久
平野南海
広瀬邑子
山本真子
(女子主流派グループ)
愛称 葉瑠
出身小 帝東学院初等部
親の職業 大学教授(父)


場を盛り上げることが大好きで、冗談を言っては周りを笑わせている。
頭の回転が速く、何事にも動じない度胸がある。
趣味はイケメン探しで、“スポーツができて笑顔が爽やかでちょっと可愛さがある男子”を眺めて声をかけるのが好きだが、アイドルを追いかける感覚に近く、そこに恋愛感情はない。
何故か学校指定ジャージを常に上に着ている。



 チーム: 第1班 
支給武器: 双眼鏡
kill: なし
killed: なし(規定により首輪爆発)
凶器: 首輪
 
F=03エリアにて潜伏。チームでの話し合いの結果、やる気でない且つ脱出手段を考えていそうな城ヶ崎麗(男子十番)のグループを探すことを決めたが突如襲撃を受けチームの宍貝雄大(男子八番)を失う。逃げ出したものの、襲撃者の中の1人が望月卓也(男子十六番)であることにショックを受ける。

潜伏していたが突如音がして逃げようとするが、現れた日比野迅(男子十五番)と水田早稀(女子十七番)がやる気でないことに安堵。話をして別れた。

B=06エリアにて潜伏していたが、相葉優人(男子一番)の提案により、荻野千世(女子三番)と共に友人を探すことに。しかしリーダーである千世が突如春川英隆(男子十四番)に狙撃され、千世の死に巻き込まれないために優人が千世を殺害するさまを目の当たりにし、現況となった英隆を責める。財前永佳(女子六番)に撃たれ左腕を負傷するが、偽銃セット“閃光銃”を使用し優人と共にその場を離脱した。

C=05エリアにて、原裕一郎(男子十三番)・室町古都美(女子十八番)が現れる。葉瑠に対して殺意を向けた2人に狙われ、葉瑠を護った優人が眼前で撃たれる。古都美と、古都美のために命を捨てようとしている裕一郎の背中を見送る。優人の傷が致命傷だと悟り、生を諦める。現れた芳野利央(男子十九番)・阪本遼子(女子八番)・蓮井未久(女子十三番)に持っている全ての情報と武器を託した後、首輪の爆発により死亡。

口が達者な葉瑠は書いてて楽しかったです、もっと色々言わせて言葉で色んな人を追いつめる役割とかでもよかったな←
6話で早稀が言っていますが、もしプログラムに選ばれていなければ、そして優人が諦めていなければ、葉瑠は優人とくっついてたんだろうなぁと思います。

こんなにも、自分が何もできない人間だったなんて、思わなかった。

島の北側にある港からプログラム本部である小中学校を通り、島の南側にある漁港までを繋いでいる舗装された道路の脇のブッシュの陰――相葉優人(男子一番)と小石川葉瑠(女子五番)は並んで膝を抱えて座っていた。
4時間半程前に春川英隆(男子十四番)・財前永佳(女子六番)らの襲撃から何とか逃げ遂せたものの、リーダーだった荻野千世(女子三番)を失った。
それも、千世にとって味方であるはずの優人が命を奪う、という最悪の形で。
護身のために今も手にしているコルト・パイソンが、とても重く感じる。
千世の命の重みが加わったかのようだ。

優人は隣にいる葉瑠をちらりと見た。
そばかすの散らばる頬が、少しこけたのではないかと思う。
プログラムが始まって以来ろくな物を食べていないこともあるが、それ以上に何度もクラスメイトに襲われ目の前で仲間を失ってきたことが響いているのだろう。
縁無し眼鏡の銀色のつるが少し汚れているのは、拭き取り損ねた宍貝雄大(男子八番)の血や脳漿だろうか。

好きな子にこんな苦労させてる俺って、一体何なんだろう…

優人は膝に顔を埋めた。
視界が真っ暗になると、今までの出来事が次々と脳裏を過っていく。

チームメイトの雄大の突然の死。
突然の襲撃で、雄大は凶弾に倒れた。
あの時、優人は開いていた鞄から零れ落ちた荷物を拾うためにしゃがみ、千世と葉瑠もそれを手伝ってくれていた。
誰かの気配を察した様子だった雄大だけが立ったまま辺りを見回しており、そして標的となってしまったのだ。
あの時、どうして人の気配に気付くことができなかったのだろう。
いや、その前に、どうしてもっと辺りを警戒していなかったのだろう。
優人がもっと辺りに気を配っていれば、雄大は今も優人の隣にいたかもしれない。
あの時の優人は、親友の田中顕昌(男子十一番)が教室で殺害されたのを目の当たりにしたショックで周りに気を配る余裕が無く、葉瑠に心配を掛けまいと元気に振舞っていたが、頭の中には顕昌の亡骸が何度もちらついていた。
だが、そんなことは言い訳にならない。
言い訳して責任逃れできる程、雄大の死が軽いわけがない。
リーダーとしてのプレッシャーが圧し掛かっていた千世や、優人のことを気に掛けてくれていた葉瑠が気付かないのは仕方がないと思っている。
やはり、自分がもう少し周りの音に気を配ってさえいれば、結果は変わっていた。

そして、リーダーだった千世の死。
場面は違えど、雄大の時に犯した過ちを繰り返したようなものだった。
少しでも場を明るくしたいという思いが伝わってきた千世の振る舞いに感謝し、自分も元気でいなければと思って騒いだ。
それが命取りになることはわかっていたのに、少しでもいつも通りの自分たちでいることができれば何かが変わるかもしれない、プログラムなんてドッキリだったんだということになるかもしれないと、ほぼ100%あり得ない望みに縋り付きたかったのだ。
その結果、英隆たちに見つかり、千世が撃たれた。
千世の死により、優人と葉瑠の命を縛る首輪が爆発してしまう――弱っていく千世と、千世に必死に声を掛ける葉瑠を見、せめて葉瑠だけは助けなければならないと、死にたくないからと、千世に向けてコルト・パイソンの引き金を絞った。
千世を見殺しにするどころか、直接手を下してしまった。
英隆たちがすぐ近くにいたことに気付いてさえいれば、あの時騒いでいなければ、あの場所に隠れてさえいなければ――どうすることもできない仮定は次から次へと溢れ出し、優人の頭の中は後悔で一杯だった。

そもそも、この班にちゃらんぽらんな自分がいなければ、雄大や千世が命を落とすことなく、うまくチームとして機能していたのではないだろうか。
強烈なリーダーシップのある城ヶ崎麗(男子十番)だったなら、麗ほどではないがリーダーシップがあり冷静に物事を見ることができる芳野利央(男子十九番)だったなら、どこまでも真っ直ぐで普段は麗の下にいるけれども周りを引っ張っていけそうな木戸健太(男子六番)だったなら、本当に周りの人のために率先して動くことができる日比野迅(男子十五番)だったなら――優人ではなく彼らがこの班にいてくれたのなら良かったのに。

ユータも荻野ちゃんも、俺がいなければきっと死ななかった…
2人共、俺が殺したようなもんじゃないか…いや荻野ちゃんはまさしく俺が撃ったんだけど、ユータだって俺がもっとしっかりしていれば…

何で、どうして、2人が死んでしまって、俺なんかがここにいるんだろう――

「…優人、アンタ大丈夫…?」

葉瑠に呼ばれ、優人は顔を上げた。
目前には、スポーツドリンク(これは食料調達のために入った商店で戴いてきたものだ。ああ、あの時はまだ千世もいた)のペットボトルがあり、思わず少しだけ仰け反り、それからそれを差し出していた葉瑠に目を遣った。
葉瑠は眉間に皺を寄せていつもは吊り上がり気味の眉をハの字に下げ、優人を見つめていた。

「葉瑠…」

「ほら、飲みなって。
 水分と塩分は取っといた方がいいっしょ?
 一口でもいいからさ、ね?」

ああ、葉瑠はなんて優しいんだろう。
こんな俺のことを、心配してくれている。

葉瑠はとてもしっかりした女の子だ。
クラスの中心で騒ぐのが大好きで、周りを盛り上げようとふざけることも多いのだが、実際には非常に頭の回転が速く冷静に周りを見ている。
泣いてばかりの優人とは違い、喚きはしても冷静に追い込まれた状況を打破するための策を練っているのだ。
もしかすると、その冷静さが恐ろしいと思う人もいるかもしれないが、優人にはその落ち着きが羨ましく、美しく、恰好良く見えた。

優人は、そんな葉瑠のことが大好きだ。
決して容姿に恵まれているわけではないし、(一重瞼の眼は鋭く小さい、そばかすもある、特別スタイルが良いわけでもないし、おまけに何故か常に学校指定ジャージを着用している)、運動が得意なわけでもない、周りから「小石川のどこが良いのか」と訊かれたことも一度や二度ではなかった。
正直、良いところを挙げろと言われれば、優人でも言葉に詰まる。
だが、優人にとってそんなことはちっとも重要ではなかった。
男子相手なら人見知りもせず話ができる優人だが、女の子の前では緊張してしまい上手く喋ることができなかった。
しかし、葉瑠だけは違った。
初等部で一度同じクラスになった時から、葉瑠とだけは普通に話をすることができ、可笑しい話をしては笑い合うことができた。
それがとても心地良く、時が経つにつれて、自然と「ああ、きっと俺はじーさんになるまで葉瑠とずっと一緒にいるんだろうな」と思うようになっていた。
つまり、葉瑠に“生涯を共にする運命”を感じてきたのだ。

今となっては、葉瑠にとっては迷惑な話だろう。
こんな情けない男に、勝手に“運命”などというものを一方的に感じられ、ずっと離れようとしないのだから。

じわりと涙が滲み、視界が潤んだ。
プログラムが始まってからもう何度目になるかわからないけれど、優人は泣いた。
どうしてプログラム対象クラスに選ばれてしまったのか。
どうして英隆たちはクラスメイトを襲うことができるのか。
雄大と千世がここにいないのか。
どうして葉瑠は優しくしてくれるのか。
どうして自分はのうのうと生きているのか。
何を思っての涙なのか、もう、優人自身にもわからなかった。

「ごめん…ごめん、ごめんね、葉瑠…
 俺……泣いてばっかで…いっこも役に立たないし……」

「何で謝るのさ、優人は何も悪いことしてないのに」

葉瑠は優人が受け取らなかったペットボトルを地面に置くと、代わりにタオルハンカチをポケットから取り出し、優人の顔に押し付けた。

「泣けば良いじゃん、泣く程悲しいこと悔しいことだらけだったんだからさ。
 あたしはね、アンタが泣いてるのを見て、思うんだわ。
 『プログラムなんておかしい』とか『クラスメイトを傷つけるのが赦せない』とか…
 どんどんみんなが傷付けて傷付いていってる状態で、まだそんなことを思ってる
 あたしだけど、間違ってるわけじゃないんだなぁ…ってさ。
 だって、優人も同じ気持ちなんでしょう?」

青縁の伊達眼鏡がずれるのもお構いなしで、葉瑠は優人の涙を拭った。
擦れるタオル地が少し痛かったが、そんなことなどどうでもいいと思える程に、葉瑠の言葉はとても温かく嬉しいものだった。
プログラムなんておかしいと思い、クラスメイトを傷付けるのは嫌だし間違っていると思い、誰にも傷付いてほしくないと思っているのは、優人だけではない。
葉瑠も同じ思いを抱え、優人の隣にいる――それが、とてもありがたかった。

「葉瑠…やっぱ、俺、葉瑠大好きだなぁ…」

「はいはい。
 ほらこれもあげるから、垂れてる鼻水もとっとと拭きなっ」

愛を告げたというのに相変わらず素っ気ない反応を見せた葉瑠は、ハンカチを取り出したポケットから今度はポケットティッシュ(パチンコ屋の宣伝の紙が中に入れられていた、駅前かどこかで貰ったものだろう)を出し、袋ごと優人に差し出してきた。
涙と鼻水で顔を汚していた優人は、厚意に甘えてそれを受け取り、顔面を流れる液体たちを拭い取った。
素っ気なくても構わない、こんな情けない姿ばかり見せている自分の傍にいて優しく接してくれる葉瑠を愛しく想う気持ちに変わりはない。


がさっ


優人の耳に、これまでなかった異音が届いた。
普段なら何ということはないただの葉の擦れる音なのだが、葉を揺らすような風は吹いていないので、自然の力で突然音が鳴ることはありえない。
優人ははっとして葉瑠を見ると、葉瑠も唇を真一文字に結び眉間に皺を寄せ、先程までとは違う睨むような鋭い目つきで音のする方を睨んでいた。

そう、きっと、誰かがいる。
優人の身体は自然と震えだしていた。
また、誰かに襲われたら。
また、誰かに撃たれたら。
また、仲間を失ったら――

「あ…は、葉瑠…さ、下がってて…!!
 お、俺が、葉瑠を、ま、護る、から…!!」

優人は声を潜め、しかしそれでも届くように葉瑠に訴えた。
雄大も、千世も、死なせてしまった。
しかし、葉瑠は、葉瑠だけは失うわけにはいかない、失いたくない。

葉瑠は優人の方に顔を向け、表情を綻ばせた。

「あーらら、勇ましいこと言ってくれるじゃん、ヘタレなのに。
 …アンタが下がるんだよ、アンタ、今リーダーなんだから」

優人ははっとした。
リーダーである千世を殺害したのは優人であり、それはチームメイトの命を握るリーダーの座が優人に引き継がれたことを意味していることを、優人は思い出したのだ。
これまで誰も護ることはできていないのでせめて葉瑠は、好きだと想う女の子は護りたいのだが、優人が無茶をすると葉瑠の命を危険に晒すことになりかねない。
優人がジレンマに陥っているうちに、茂みから人影が現れた。

「…相葉…小石川……」

男子の中でも低い声に、隣にいた葉瑠の表情が僅かに晴れやかになった。
優人の胸が、ちくりと痛む。
葉瑠の趣味がイケメン探しだということも知っているし、様々な男子に声を掛けるがそこには恋愛感情が伴っていないことも知っているのだが、それでもやはり好きな子が自分ではない異性を見ていることに何も感じないはずがない。
そして、今目の前に現れたのは葉瑠の1番のお気に入りなのだから尚更だ。

「裕一郎くん…!! それに、古都美も…!!ほら、圭くんが放送で……だからさ、心配してたんだよ、大丈夫だった?あと、南海は一緒じゃないの?」

男子の中では健太に次いで小柄で無愛想な原裕一郎(男子十三番)は、葉瑠の姿を認めると一歩後ずさった。
葉瑠は裕一郎のことがいたくお気に召しているらしいが、裕一郎は優人すらも女好きに見えてしまうのではないかと思えるほどに女子と絡むことを苦手としているので、自分に積極的に関わってくる葉瑠のことはやや苦手のようだ。
しかし、女子を苦手とする裕一郎の脇には、2本の太い三つ編みと眼鏡が特徴の小柄で地味で大人しい室町古都美(女子十八番)が寄り添っている。
彼らと同じ班として教室を出発した、裕一郎とはライバル関係だった横山圭(男子十九番)は最初の放送で既に名前を呼ばれた。
そして、葉瑠とはいつも教室で一緒に騒いでいた平野南海(女子十四番)も同じ班だったはずだが、今ここに姿を見せていない。

「平野とは…はぐれた」

裕一郎が短く答えた。
その隣では、古都美が顔を青ざめさせて震えていた。
優人たちと同じように、古都美もチームメイトを失ったのだから、きっと相当に怖い思いをしたのだろう。

…あ……それに、そうだ…
ことちゃんは、確か、荻野ちゃんと仲良かった…
俺は、ことちゃんの親友を、殺したんだ…!!
それに、ユウはユータと仲良しで…

俺は…この2人から、親友を奪ったんだ…ッ!!

「ああ…ああああああっぁぁぁああッ!!!」

優人は頭を抱え、土下座のように平伏して地面に頭を何度も打ちつけた。
雄大と千世の最期が、優人の脳裏に何度も繰り返し浮かぶ。
裕一郎と古都美から親友を奪ってしまった罪悪感に押しつぶされそうだった。

「あ、相葉…!?」

裕一郎が驚きの声を上げた。
当然だ、突然奇声を発して頭を地面に打ちつけてるのだから。

「俺のせいで、ユータも荻野ちゃんも死んじゃったんだッ!!ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいッ!!!」
「ち…ちーちゃん……あ、ああ…相葉くんが……?どうして…ちーちゃん…あんなに良い子なのに……ッ!ちーちゃん……ちーちゃあん……ッ」

消え入りそうな震えた声を発した古都美は、へなへなと地面にへたり込んだ。
小さな双眸から、ぼろぼろと涙を零しているのを見、優人はまた地面に頭を打ちつけ、何度も何度も謝罪した。
謝っても赦されないのはわかっているが、これ以外にどうすればいいのかわからなかった。

「古都美…裕一郎くんも、ごめん…雄大くんも千世も同じ班だったんだけど…あたしたちが不甲斐なくて…護れなかったんだ…ほんと、ごめん……」

葉瑠が頭を下げ、小さな声で謝罪を述べた。
葉瑠に謝罪させてしまっていることが情けなくて、優人は一層泣いた。

「…相葉、土下座とかやめてくれ。小石川も、謝らなくてもいい」

裕一郎の低く静かで落ち着いた声に、優人は顔を上げた。
見上げた先、裕一郎の表情は、恐ろしい程に落ち着いていた。

「でも…ユータが……」
「宍貝のことは…辛い。けど、今がプログラムで宍貝は敵だったんだから…会えなくてよかったとも思う。大事なダチと、戦わずに、済んだんだから」

確かに、裕一郎の言うこともわかる。
お互い生きて会えたとしても、英隆や望月卓也(男子十七番)のように襲ってくるのなら、いっそ会わない方が良かったのかもしれないと思える。

…でも、あれ…?
今のユウの言葉…まさか…まさか…ッ!!

「ユウ、お前……プログラムに乗ったのか…っ!?」

戦わずに済んだ、つまり、裕一郎は雄大と出会っていれば戦うことになっていたと言ったに等しい。
雄大はプログラムに乗るようなヤツではないということは、雄大と仲が良くいつも面倒を見てもらっていた裕一郎の方がわかっているはずだ。
それでも戦うことになっていたと考えているということは、裕一郎がプログラムに乗ると決めているからではないのか。

裕一郎は優人の問いには答えず、へたり込み泣きじゃくる古都美の腕を掴み引っ張り上げて古都美を立ち上がらせた。
青ざめ泣きじゃくる女の子を無理に立ち上がらせるだなんて、ストイックな性格をした裕一郎らしいといえばらしいのだが、少し意外な気もした。
そして、次の言葉に、優人は言葉を失った。

「リーダーは、どっちだ?」

これは、決定的だ。
裕一郎は、プログラムに乗っている。
リーダーを聞いたということは、効率よくリーダーを狙って殺害し、リーダーでない方の首輪を爆発させてしまおうとしているということに違いない。
裕一郎の刺すような視線に、優人は目を逸らしてしまった。

「…相葉は俺から目を逸らした、小石川は一瞬相葉を見た。
 …リーダーは、相葉だな?」

優人と葉瑠が言葉を発するよりも早く、裕一郎が動いた。
やられるわけにはいかないのに、逃げなければならないのに、全身がブルブルと震えて動くことができない。
金縛りに遭ったかのように身動きが取れない優人の眼前まで迫った裕一郎は、右手を振り上げた。
優人は、そこで初めて裕一郎が右手に持っていたものを視認した。
未成年である優人たちには縁のないガラス製の灰皿を、裕一郎は優人の頭目掛けて振り下ろした(サスペンスドラマじゃあるまいし!)。
優人は左側頭部に衝撃を受け、勢いのまま地面に倒れた。

「優人ッ!!」

葉瑠が優人の傍に駆け寄ったのがわかった。
左側頭部はずんずんと痛むが意識ははっきりとしているため、どうやら命に関わるような攻撃ではなかったらしい。
ああ、葉瑠、葉瑠のためにここは逃げなければ――そう思っているのに、身体が全く言うことを聞いてくれない。

「室町」

裕一郎の声は、クラスメイトを殴った後のものとは思えない程に落ち着いていた。

「小石川を、撃つんだ」

優人は目を見開いた。
何故、リーダーが優人であると確認しておきながら、葉瑠を狙うのか。
何故、古都美に殺人を強要するのか。
まさか、嫌がる古都美に無理やり殺人を犯させるのでは――そう考えたが、古都美は泣きじゃくりながらも嫌がる素振りを見せることなく、小さな両手でしっかりと握り締めていた自動拳銃グロック19を構え、銃口をこちらに、正確には葉瑠に向けた。

「小石川さん…ごめんなさい…
 でも、こうするって…決めてるから…あたしが決めたから…ッ!!」

『あたしが決めた』…って…まさか、ことちゃんまで自分からやる気に…!?
どうして、何で、何で何で何で…!!!
と、とにかく、嫌だ、…葉瑠がいなくなるなんて、絶対駄目だ…!!
ユータも護れなかった、荻野ちゃんも護れなかった、せめて、せめて葉瑠だけは護らないと、葉瑠だけでも生きてくれないと…ッ!!

裕一郎や古都美がプログラムに乗る理由、そんなものは関係ない。
身体が震える、それが何だ。
殴られた頭が痛い、そんなことに構っていられるか。
葉瑠が狙われる理由、そんなものわからなくても問題ない。
葉瑠に生きてほしい、その望みが全てだ。

誰の傷付く姿だって見たくない、自分がヘタレだという自覚もある、強くなんてないし、頭脳だってテストではいつもクラスの平均点を下げる側、部活でやってきたバスケットボール以外に周りに誇れるようなことは何もない。
だけど、それでも、ここでやらなければ――せめて、好きな女の子一人だけでも護れないと、男じゃない。

「うううぅああああぁぁああああああああッ!!!」

優人は身体の震えを吹き飛ばすかのように雄叫びを上げ、立ち上がった。
驚愕の表情を浮かべた古都美に全力で突っ込み、体当たりを食らわせた。
小柄な古都美が衝撃に耐えられるはずもなく、バランスを崩し仰け反たった。
古都美が倒れる頃には優人は既に踵を返し、灰皿で再び優人に殴り掛かろうとしていた裕一郎の胴体に抱き付きそのまま押し倒した。
馬乗りになって裕一郎の手から灰皿をもぎ取り、茂みの方へ放り投げた。
そして、裕一郎に、コルト・パイソンの銃口を向けた。

「は、葉瑠を…護るんだ……ッ!!
 ごめん、ユウ、俺、俺……ッ!!」

コルト・パイソンを握る手が震える。
葉瑠を護りたい。
そのためには、葉瑠に対して殺意を抱く裕一郎と古都美を止めなければならない。
やらなければならないとわかっているのに、引き金に掛けた指に力が入らない。
裕一郎とはそこまで親しくしていたわけではなかったけれども、初等部で何度か同じクラスになった時のことや、2年生で同じクラスになってからの体育祭や文化祭といった学校行事での思い出や、席替えで席が前後になったある日の授業中に裕一郎の背中に指で文字を書いて遊んでいたら後で怒られたことなどの何気ない日常の一コマが、走馬灯のように次々と脳裏を過り、そうやって関わってきた相手を今から射殺しようとしていることへの罪悪感に飲まれてしまいそうだった。

「古都美、やめてぇッ!!」

葉瑠の叫びが聞こえ、優人はばっと振り返った。
優人が逡巡している間に身体を起こしていた古都美が、グロック19の銃口を優人に向けている――そう認識した次の瞬間、一瞬目の前が白み、同時に耳を劈くような破裂音が響き、数瞬遅れて優人は右胸部に衝撃を受けた。
裕一郎に殴られた時とは比べ物にならない激痛が優人を襲う。
撃たれたとわかった時には、優人は地面に仰向けに倒れていた。

「ああ…優人、優人ッ!!」

葉瑠が駆け寄ってくる足音が聞こえる。
駄目だ、裕一郎と古都美は葉瑠を狙っているというのに。
早く起き上がって、葉瑠を護らなければ。
そう思っているのに、今まで以上に身体が言うことをきかない。
喉の奥から何かがせり上がり、たまらず口を開くと生温かく色の濃い液体がごぼっと溢れ出した。
口の中一杯に鉄を舐めたような味が広がる――これは、血なのか。

「は……る……ッ!!」

ああ、本当に何一つ役に立てない、何もできない、情けない。
まだ葉瑠の命が危ないのに、動くことができないなんて。

誰か…お願い、誰か…誰か助けて…葉瑠を、助けて…ッ!!!

祈ることしか、できないなんて。

相葉優人(男子一番)とは初等部からの付き合いだ。
勉強はあまり好きではなく、特に数学とは相性が最悪らしい。
青縁の眼鏡を掛けているけれど、レンズに度は全く入っておらず、裸眼での視力は両目共に1.5と優秀な結果を叩き出している。
運動能力に恵まれており、所属するバスケットボール部内で身長は低い方だが、上級生が引退して以降はレギュラーの座を一度も譲っていない。
バスケットボールをしている時だけは、周りから歓声を受ける程に人気がある、正直、まあ、カッコイイとか思ったこともある。
でも、基本はちゃらんぽらんで、教室で喋ってることの殆どは特に意味のない馬鹿な話題ばかり、まあ聞いていて楽しいけれど。
交友関係は広いようだがそれは男子限定で、女子には結構奥手。
女子の名前を“ちゃん”付けで呼ぶことが多いのに、実は一人で女子を前にすると緊張してしまうと言っていた。
これが、小石川葉瑠(女子五番)の中における、優人の基本情報。

特記事項として、優人の好きな女子のタイプは、正直理解できない。
帝東学院中等部、殊3年A組には、可愛らしい女の子はたくさんいる。
その人気は中等部のみに留まらない帝東学院のマドンナ上野原咲良(女子二番)をはじめ、性格はかなりキツいが大和撫子という言葉が似合う和的美人の高須撫子(女子十番)、いつもにこにこと笑みを浮かべ人当たりの良い蓮井未久(女子十三番)、ムードメーカーで一緒にいると元気になれる平野南海(女子十四番)、元気いっぱいで誰とでも交友関係を築くことができる朝比奈紗羅(女子一番)、つい世話を焼きたくなる妹のような鳴神もみじ(女子十二番)や広瀬邑子(女子十五番)――挙げればきりがない。
それなのに、優人が選んだのは、可愛いだなんて異性から言われたことなど一度もない、むしろ煩いと疎まれることすらある葉瑠――この自分。
可愛い女子を前にすると照れてしまうからと、妥協でもしているのか。

何度突っ撥ねても、優人は葉瑠のことを好きだと言う。
優人のことが嫌いなわけではないけれど(むしろ、一緒に話をしていると楽しいので、近付いてくること自体が嫌だと思ったことはない)、優人がどうしてそこまで自分に執着しているのかがわからなくて、わからないからこそ不気味で、不気味と思ってしまうからこそその想いを受け入れることはできなかった。
優人の感情には何の裏もないことは、わかっていたのだけれど。

いつもはヘラヘラしていて。
ここぞという時に尻込みしてしまうヘタレで。
争い事が嫌いで怖がりで泣き虫で。
人が傷付くことが嫌いで。
何もかもを自分のせいだと思い込んで。
それでも自分がやらなければとずっと思っている頑張り屋で。
そのくせ無理しているのを隠すのが下手くそで。
正当防衛すらできない程に優しくて。

きっと、このクラスの誰よりも、プログラムに不向き。

そんな優人が、どうして、傷付かなければならないのか。


室町古都美(女子十八番)がその手に握るグロック19から放たれた弾丸は、優人の右胸部を抉った。
優人は目を大きく見開き、仰け反って倒れた。

「ああ…優人、優人ッ!!」

葉瑠は優人に駆け寄った。
優人は苦悶の表情を浮かべ、次の瞬間吐血した。
口の周りが真っ赤に汚れ、カッターシャツは半分以上が赤く変色していた。
医学の知識がなくてもわかる、これは、素人の応急処置ではどうにもならない。

「は……る……ッ!!」

優人が口の端に血のあぶくを吹きながら、懸命に葉瑠の名を呼んだ。
どうして、優人がこんな怪我を負わなければならないのか。
そもそも、原裕一郎(男子十三番)は葉瑠のことを狙えと言ったし、古都美も葉瑠のことを狙っていたはずなのに。
どうして、葉瑠ではなく優人が倒れているのか。

「あ、相葉くん…ご、ごめ…ッ」

「謝るなら…何でこんなことするわけ…?
 古都美も…裕一郎くんも…みんな、みんな、どうして…!!」

葉瑠は胸の内に渦巻く疑問や怒りや悲しみ、全てを綯い交ぜた靄を吐き出すかのように呻くように叫びながら、謝罪する古都美を見上げ――目を見開いた。
古都美は口では謝っているのに、その手に握るグロック19の銃口は、未だ葉瑠に向けられていた。

何なの…もう、どいつもこいつも…
あたしたちはプログラムなんてやりたくないのに、どうして、あたしたちのことを襲ってくるのさ…やりたいヤツはやりたいヤツ同士でやってればいいのに…!!

「古都美…アンタ、何なの。
 口先だけで謝ってんじゃないよ、偽善者…そんな『ごめんなさい』、いらない。
 何を言っても、あたし、アンタのこともう大嫌い、赦さない」

葉瑠が睨みを利かせると、古都美はびくっと身体を震わせた。
泣きじゃくり、グロック19を構える腕がガタガタと震えていた。
古都美は日頃星崎かれん(女子十六番)や湯浅季莉(女子二十番)にからかわれていたので、責められる言葉には身体が勝手に構えてしまうのかもしれない。
そんなの、どうでもいいことだけれど。

「…室町、もういい、行こう」

これまで黙っていた裕一郎が、古都美の隣に立ち、グロック19に手を添えてその銃口を下げさせた。
古都美は小さく頷くと踵を返し、覚束ない足取りで少しずつ遠ざかって行った。
裕一郎もその後を追おうと葉瑠に背中を向け――ばっと振り返った。
当然だ、葉瑠がコルト・パイソンの銃口を裕一郎に向けていたのだから。

「もういい…って、何さ。優人がもうすぐ死ぬから、あたしも死ぬから、放っておけばいいってこと?」
「……そうだ」
葉瑠は唇を噛みしめた。
今力を緩めると、嗚咽が零れてしまいそうだった。
無愛想でストイック、だけど本当はちょっと怖がりで甘いものが大好き――そんな二面性があり、自分の甘い部分を必死に隠す裕一郎の姿が愛らしくて愛しくて、見ていて飽きなくて、毎日毎日声を掛け続けた。
別に、裕一郎の彼女になりたいと思ったことはない。
ただ、仲良くなりたかっただけだ。
そんな裕一郎のたった3文字の無慈悲な言葉が、葉瑠の胸に突き刺さった。
「…小石川」
裕一郎は葉瑠に向き直り、真っ直ぐ葉瑠を見下ろした。
「いつも、こんな俺に声を掛けてくれて、ありがとう。ちゃんと返せなくて、ごめん」
葉瑠は思わずコルト・パイソンを下ろした。
葉瑠のことを撃てと言っておいて、優人のことを傷付けておいて、葉瑠たちの命を見限っておいて、どうして今更そんなことを言うのか。
そんなの、反則じゃないか。
「ずるい…そんなの、今言うなんて…ずるいよ…ずるすぎるから…化けて出てやる…裕一郎くんの枕元に立ってやる…」
実は怪談話が苦手な裕一郎のこと、普段このような話をすれば、強がって「ふざけるな」とか言ってその場を去った後、一人になってから怖がっていたと思う。
しかし、裕一郎は、無表情で、怖がっているのを隠した様子もなく、首を横に振った。
「…それは、無理だ。俺も、きっと…絶対、もうすぐ死ぬから。俺は、室町に、殺されるから」
葉瑠は眉を顰めた。
『もうすぐ死ぬ』とは一体――裕一郎の言葉の意図に考えを巡らせた。
裕一郎は古都美の手によって命を落とすつもりらしいこと、古都美は自らの意志でプログラムに乗っていること、あの時リーダーの優人ではなく葉瑠を狙ったこと――言葉数の少ない裕一郎と古都美から得た手掛かりは、ここにきていつになく冴え渡った葉瑠の頭の中に一つの結論を導き出した。
裕一郎と古都美の狙いは、班としての優勝ではなく、もう一つの生き残りルールである“リーダーのみが生き残った場合に試合終了となる”という状況を作ること。
そして、古都美がリーダーである、もしくは今後古都美がリーダーになるということ。
裕一郎が、自らの命を捨ててまで、古都美を生かそうとしているということ。
「…裕一郎くん。もしかして、古都美のこと…」
裕一郎は、僅かに表情を綻ばせた。
それは、初めて見る、葉瑠に向けた照れの混ざった笑み。
童顔である裕一郎のそれは、とても可愛らしいものだった。
そんな表情をここにきて初めて見せるだなんて、反則にも程がある。
優人をこんなに痛めつけて、葉瑠共々死に追いやろうとした相手だというのに、叶うことのない恋に縋るいじらしさを見せつけられてしまうと、嫌いになんてなれない。
恋心はなくとも、裕一郎にそこまで想われている古都美に嫉妬してしまいそうだ。
「そっか…わかったよ、やっぱあたしの目に狂いはなかったなぁ…あたし的イケメンランキング堂々の殿堂入りだわ。…バイバイ、裕一郎くん」
「ごめん……」
葉瑠が眉をハの字に下げて笑みを浮かべると、裕一郎は深々と頭を下げ、くるっと背中を向けると古都美を追いかけて行った
「は…る……」
裕一郎の背中が見えなくなった頃、優人の掠れた声が耳に届いた。
息に、ひゅーひゅーという異音が混じっている。
とても、苦しそうな呼吸だ。
「はる……おれを……ころ…して……い…きて……はる……はる……ッ」
優人はうわ言のように葉瑠の名前を呼び続けていた。
優人の言わんとしていることはわかる。
リーダーである優人が、今死の淵に瀕しているのだから、葉瑠が生き残る道はたった一つ――優人をこの手で殺害する他にない。
そんな、馬鹿馬鹿しい話があるもんか。
葉瑠は、小さく笑った。
「何、アンタ、あたしに人殺しになれっての?やだね、お断りだよ」
それも、よりにもよって、この世でただ一人自分のことを慕ってくれていた男の子をこの手で殺めるだなんて、できるわけがない。
優人の自らの血で汚れた手を、葉瑠は優しく、しかししっかりと握った。
「大体さぁ、アンタみたいな泣き虫ヘタレ、一人で放っておけるわけないじゃん」
「ごめ……ごめん……ごめんね……はる……」
優人が啜り泣く。
傷が痛むだろうし、呼吸は辛いだろうに、優人は泣き止まなかった。
お疲れ様、優人…
もう、良いんだよ…これでもう、泣くような辛いこと、ないんだよ…
がさがさっ
葉の擦れる音が聞こえた。
こんな時に、またも来客か――葉瑠は盛大に溜息を吐いた。
誰が近付いてきているのか、やる気なのか否か――頭を働かせるのもだるい。
全て、葉瑠にとってはもうどうでもいいことだ。
まあ、春川英隆(男子十四番)や財前永佳(女子六番)が来たら鼻で笑ってやろう、アンタたちはどれだけあたしらの死に様に興味があるんだ、と。

「あ……葉瑠…葉瑠じゃない…っ!!」
葉瑠の眼前に現れたのは、残念ながらというか何というか、英隆たちではなかった。
駆け寄ってきたのは、葉瑠とはいつも一緒にいた親友の阪本遼子(女子八番)と蓮井未久、そして2人の後ろに立っているのは委員長の芳野利央(男子十九番)――確か、3番目に教室を出発した班のメンバーだ。
「相葉くん…?相葉くん、大丈夫、しっかりして…!!」
未久が優人の許に駆け寄りその身体に触れ、息を呑んだ。
触れたカッターシャツがぐっしょりと濡れていることもあるし、その身体が酷く冷えているのもあるだろう――葉瑠が握っている手も、冷たくなってきているのがわかる。
「小石川……その……リーダーは誰――」
利央が訊きかけたが、葉瑠が答える必要はなかった。
代わりに、葉瑠の首輪から、ピッ、という電子音が鳴り始めたので。
そう、それは、優人が今まさに息を引き取ったという証。
そして、葉瑠の死へのカウントダウンが始まったことも意味していた。
優人…やっと、痛いのから解放されたんだね…
痛いのも嫌いだろうに、随分頑張ったね…お疲れさん。
「え…やだ、やだ、葉瑠ッ!!」
遼子が今までに見たことがないような焦りと悲しみを織り交ぜた泣き出しそうな逼迫した表情を浮かべ、葉瑠に縋った。
未久は目に涙を浮かべ口許を両手で覆い、利央を見上げた。
ポーカーフェイスのイメージが強い利央も、未久の視線から「何とかできないのか」という思いを汲み取ったのだろうが、どうすることもできるはずがなく悲痛な面持ちで葉瑠のことを見下ろしていた。
ああ、この3人は、今はやる気になってない側なんだ――少しだけ、安心した。
最期に会えたのがやる気でなさそうな人で、本当に良かった。
「心配いらないよ、遼子、未久…利央くんも。もう、いいんだ…疲れたよ。襲われたり誰かの死ぬところを見たり、疑ったり逃げたり…もう懲り懲り」
首輪から発せられる電子音は、少しずつその感覚を狭めていく。
残り時間が着実に減っていることを示していた。
「あたしたちの荷物、好きに使っていいよ。特に、優人の…あっちに落ちてるデイパックの中身、ちょっと変わっててさ。頭の良い利央くんなら、上手く使い分けられるんじゃないかな?」
「……ありがとう…って言うのも…何かおかしい気がするけど…」
申し訳なさそうな表情を浮かべる利央。
どうすることもできずに泣いている未久。
嫌だと駄々をこねて縋っている遼子。
麗くんたちのグループ、早稀や迅くん、多分智子と芥川くん、それに利央くんたち…
なんだ、まだ、捨てたもんじゃないのかもね…
やる気じゃない人が、まだこんなにもいるんだね…
「まだ、時間あるかな…遼子、未久、利央くん…あたしの持ってるありったけの情報をあげる。だから、やる気じゃないみんなを、助けてあげてくれる…?」
もう、時間が無い。
返事を待っている暇なんてなかった。
利央たちに情報を渡すことで、やる気でない皆のことを少しでも助けることができれば――葉瑠は大きく息を吸った。
「9班は原、室町、平野、あたしらは裕一郎くんと古都美にやられた。10班、春川、望月、財前、広瀬、班で優勝する気。1班はあたしら。あとは日比野、水田、芥川、奈良橋、ここはやる気じゃない。恐らく、真壁、上野原、高須…会ってないけど多分大丈夫じゃないかな。古都美も、英隆くんや永佳も銃を持ってるよ。これで全部の班構成がわかったかな?」
早口言葉のように息継ぐ間も惜しんで言い切った。
なんて可愛げのない遺言。
女の色気というものに縁がない自分らしいといえばらしいけれど。
「ありがとう、小石川…」
利央の声が、少し震えているような気がする。
おっとこれは意外な一面、もっと違う時に違う場所で知ることができていれば、利央のことももっとチェックしていたかもしれない。
しかし、今はあまりにも時間が無さ過ぎる。
やけに時間が長く感じるが、そろそろ1分程になるのだろうか。
電子音の鳴る間隔は、今にも繋がってしまいそうな程に狭まっている。
「…ほら、遼子、離れなって、危ないよ。…ありがとね、未久、遼子、利央くんも。負けないで、めげないで、頑張ってね…バイバイ」
「いや…嫌だ、嫌だぁ…葉瑠ッ!!」
泣きじゃくる遼子を、利央が無理やり引き剥がした。
遼子が酷く暴れたために、利央は顔面に一発拳を食らっていた、ご愁傷さま。
葉瑠は目を伏せた。
身体の震えを少しでも止めようと、優人の手をぎゅっと握り締めた。
首輪が爆発するって、痛いのか、それとも痛みを感じる間もないのか、死んだ後の自分の姿はどうなっているのか――考えると、怖くてたまらない。
そういう意味では、遼子たちが来てくれてよかった。
言葉を遺すことに意識を向けることができたので。
雄大くん、千世、ごめんね、今から謝りに行くからね。
優人も、あたしのこと護ろうとしてくれてたのに、ごめん。
でもさ、もう、いいでしょ?
あたしたちには不向きだったんだよ、プログラムなんてふざけたゲームは。
ロングトーンの機械音が耳に届いた。
ほんの一瞬、首元がかあっと熱を帯びたような気がした。
それが、葉瑠にとって、最期の知覚となった。
利央の呻き声も、未久の泣きじゃくる声も、遼子の悲鳴も、葉瑠には届かなかった。

女子十八番 室町古都美(むろまち・ことみ)

身長 154cm
体重 44kg
誕生日 2月23日
血液型 A
部活動 合唱部
友人 荻野千世
佐伯華那
鷹城雪美
(女子文化部グループ)
愛称 古都美・ことちゃん
出身小 小金井西小学校(東京)
親の職業 市議(父)

通常入試で合格し、帝東学院中等部に入学した。
大人しく真面目な性格。
内気で人見知りをするので、グループの人と部活の人としか話をしない。
星崎かれん・湯浅季莉にたまに苛められるため、2人のことが苦手で嫌い。
風紀委員。



 チーム: 9班(リーダー)
支給武器: グロック19
kill: 横山圭(男子十八番)
相葉優人(男子一番)
killed: NO DETA
凶器: NO DETA
 
教室を出発後、チームメイトの横山圭(男子十八番)に向けて発砲。その後平野南海(女子十四番)を狙った弾が圭に当たり、圭を殺害。南海には逃げられる。友人たちと生き残るためには“リーダーのみが生き残りプログラムが終わる”状況を作らなければならないと考え、メンバーを襲ったことを原裕一郎(男子十三番)に告げる。裕一郎に「友人たちに会うまでは生かしてほしい」と頼まれる。

C=05エリアにて、相葉優人(男子一番)・小石川葉瑠(女子五番)を発見。親友の荻野千世(女子三番)の死因を知り号泣するが、リーダーではない葉瑠へ殺意を向ける。葉瑠を護るために裕一郎ともみ合いになっていた優人を背後から狙撃、射殺。

女子一番 朝比奈紗羅(あさひな・さら)

身長 147cm
体重 39kg
誕生日 8月2日
血液型 B
部活動 新体操部
友人 池ノ坊奨
木戸健太
城ヶ崎麗
真壁瑠衣斗
上野原咲良
高須撫子
鳴神もみじ
(城ヶ崎グループ)
愛称 紗羅
出身小 月が丘小学校(東京)
親の
職業 会社員(父・母)

体操の一芸入試で合格し、帝東学院中等部に入学した。
やや気が短くストレートな物言いをするキツい性格である一方、非常に世話焼き。
誰とでも気軽に話すため交友関係は非常に広く、特に男女主流派グループやギャルグループとも仲が良い。
木戸健太・鳴神もみじとは幼馴染。
中学1年生の頃約2ヶ月だけ真壁瑠衣斗と付き合っていた。
体育委員。



チーム: 5班
支給武器: 救急箱
kill: NO DETA
killed: NO DETA
凶器: NO DETA
 
最初の出発。チームリーダーの城ヶ崎麗(男子十番)の、仲間たちを待つ意見に同意する。その後何者かの襲撃を受けて逃げる。

B=04エリアにて、池ノ坊奨(男子四番)・真壁瑠衣斗(男子十六番)・上野原咲良(女子二番)・高須撫子(女子十番)を探索するが発見できず、次の場所へ移動。

G=02エリアの民家にて潜伏。放送を聞き奨の死を知る。その後移動し、G=03エリアにて芳野利央(男子十九番)・阪本遼子(女子八番)・蓮井未久(女子十三番)と遭遇。情報交換後、別れる。

キルスコア




加害者 人数 被害者
1位 榊原賢吾(M7) 3人 川原龍輝(M5)
佐伯華那(F7)
池ノ坊奨(M4)

2位 室町古都美(F18) 2人 横山圭(M18)
相葉優人(M1)
2位 相葉優人(M1) 1人 荻野千世(F3)
松栄錬(M9) 1人 山本真子(F19)
真壁瑠衣斗(M16) 1人 如月梨杏(F4)
財前永佳(F6) 1人 宍貝雄大(M8)
湯浅季莉(F20) 1人 雨宮悠希(M3)

女子二番 上野原咲良(うえのはら・さくら)

身長 168cm
体重 52kg
誕生日 3月30日
血液型 O
部活動 美術部
友人 池ノ坊奨
木戸健太
城ヶ崎麗
真壁瑠衣斗
朝比奈紗羅
上野原咲良
高須撫子
鳴神もみじ
(城ヶ崎グループ)
愛称 咲良
出身小 帝東学院初等部
親の
職業 会社役員(父)

柔らかな物腰と愛らしい容姿により帝東学院のマドンナ的存在だが、本人は無自覚。
ピアノや絵画などを好む芸術肌だが、祖父が総合武術“葉鳥神道流”の師範をしており幼い頃から道場に通っていたため武術全般も嗜んでいる。
高須撫子とは共に武術を学んだ幼馴染。
代々城ヶ崎麗の家に仕えてきた家柄で、『有事の際には城ヶ崎家を守ること』が家訓だが、実際は幼い頃から麗の傍にいて、周りと揉める麗を池ノ坊奨と共に窘めてきた。
木戸健太と付き合っている。


チーム: 第4班 
支給武器: 特殊警棒
kill: NO DETA
killed: NO DETA
凶器: NO DETA
 
ルール説明中、アキヒロ(軍人)の向けた銃口の先にいた城ヶ崎麗(男子十番)を庇い、左腕を負傷。

G=03エリアにて池ノ坊奨(男子四番)と共に真壁瑠衣斗(男子十六番)・高須撫子(女子十番)の帰りを待っていたが、如月梨杏(女子四番)率いる第8班の襲撃を受ける。内藤恒祐(男子十二番)に撃たれそうになるが撫子に助けられる。やる気の人を放っておくと麗らに危害が及ぶ可能性を撫子に示唆され、戦う決意をして星崎かれん(女子十六番)を昏倒させる。瑠衣斗が梨杏を殺害したことにより、第4班全員の首輪が爆発する様を目の当たりにする。

麗たちを探すために御神山を登る途中、松栄錬(男子九番)・湯浅季莉(女子二十番)の襲撃を受ける。撫子が2人を足止めし、奨・瑠衣斗と共に逃げるが、途中錬らと同じ班の鷹城雪美(女子九番)が現れ、泣きながら助けを求められる。雪美の痛ましい姿に胸を痛めて雪美を信じ護とうとしたが、雪美の命を狙うという榊原賢吾(男子七番)が現れる。攻撃を受け止めようとしたが突然雪美に動きを封じられ、死を覚悟するが、奨に身体を張って護られた。奨の死に泣き叫ぶ。その様子を見て笑う雪美の姿に、騙されていたことを知る。何故か雪美に酷く嫌われており、その事実に涙する。“咲良の悲しむ様を見たい”という理由で狙われた瑠衣斗を庇い左手を負傷。仲間たちが自分の所為で死ぬかもしれないことにショックを受けており、死を望む発言までした。

女子十四番 平野南海(ひらの・みなみ)

身長 159cm
体重 51kg
誕生日 8月30日
血液型 A
部活動 ソフトボール部
友人 小石川葉瑠
阪本遼子
蓮井未久
広瀬邑子
山本真子
(女子主流派グループ)
愛称 南海
出身小 帝東学院初等部
親の職業 整体師(父)
ソフトボールコーチ(母)

クラス内の女子の中で1番のムードメーカーで、盛り上がることが大好きで誰とでも打ち解けて巻き込もうとする、少々お騒がせな性格。
冷静さにやや欠け、それはソフトボールの試合中でも垣間見られる。
父母共に元スポーツ選手で、その血を継ぎ女子学年トップクラスの運動能力を誇る。
現在は恋愛には無関心。
横山圭とは家が近く、阪本遼子と3人で寄り道をすることもある仲。



チーム: 9班
支給武器: NO DETA
kill: NO DETA
killed: NO DETA
凶器: NO DETA
 
小学校時代からの仲である田中顕昌(男子十一番)の死を目の当たりにし、呆然自失状態。チームメイトの横山圭(男子十八番)に支えられながら教室を出発。圭と原裕一郎(男子十三番)が今後の方針を話し合っている時、突如室町古都美(女子十八番)が圭に発砲。南海も狙われるが、圭に庇われる。圭に逃げろと言われ、何も持たず逃げ出した。

H=04エリアを歩いているところを阪本遼子(女子八番)・蓮井未久(女子十三番)に見つかる。声を掛けられるが拒絶し逃げ出した。

男子1番 相葉優人
(あいば・ゆうと) 女子1番 朝比奈紗羅
(あさひな・さら)
男子2番 芥川雅哉
(あくたがわ・まさや) 女子2番 上野原咲良
(うえのはら・さくら)
男子3番 雨宮悠希
(あまみや・ゆうき) 女子3番 荻野千世
(おぎの・ちせ)
男子4番 池ノ坊奨
(いけのぼう・しょう) 女子4番 如月梨杏
(きさらぎ・りあん)
男子5番 川原龍輝
(かわはら・りゅうき) 女子5番 小石川葉瑠
(こいしかわ・はる)
男子6番 木戸健太
(きど・けんた) 女子6番 財前永佳
(ざいぜん・ひさか)
男子7番 榊原賢吾
(さかきばら・けんご) 女子7番 佐伯華那
(さえき・かな)
男子8番 宍貝雄大
(ししがい・ゆうた) 女子8番 阪本遼子
(さかもと・りょうこ)
男子9番 松栄錬
(しょうえい・れん) 女子9番 鷹城雪美
(たかしろ・ゆきみ)
男子10番 城ヶ崎麗
(じょうがさき・れい) 女子10番 高須撫子
(たかす・なでしこ)
男子11番 田中顕昌
(たなか・あきまさ) 女子11番 奈良橋智子
(ならはし・ともこ)
男子12番 内藤恒祐
(ないとう・こうゆう) 女子12番 鳴神もみじ
(なるかみ・もみじ)
男子13番 原裕一郎
(はら・ゆういちろう) 女子13番 蓮井未久
(はすい・みく)
男子14番 春川英隆
(はるかわ・ひでたか) 女子14番 平野南海
(ひらの・みなみ)
男子15番 日比野迅
(ひびの・じん) 女子15番 広瀬邑子
(ひろせ・ゆうこ)
男子16番 真壁瑠衣斗
(まかべ・るいと) 女子16番 星崎かれん
(ほしざき・かれん)
男子17番 望月卓也
(もちづき・たくや) 女子17番 水田早稀
(みずた・さき)
男子18番 横山圭
(よこやま・けい) 女子18番 室町古都美
(むろまち・ことみ)
男子19番 芳野利央
(よしの・りお) 女子19番 山本真子
(やまもと・まこ)
男子20番 林崎洋海
(りんざき・ひろみ) 女子20番 湯浅季莉
(ゆあさ・きり)

戦闘記録

1 ○ アキヒロ(軍人) v.s.  田中顕昌(男子11番) ×
(5/31 2:29a.m. 田中顕昌 退場)

2 ○ 榊原賢吾(男子7番)
  湯浅季莉(女子20番) v.s.  木戸健太(男子6番) ×
 城ヶ崎麗(男子10番)
 朝比奈紗羅(女子1番)
 鳴神もみじ(女子12番)
(木戸健太・城ヶ崎麗・朝比奈紗羅・鳴神もみじ 撤退)

3 ○ 室町古都美(女子18番) v.s.  横山圭(男子18番) ×
(5/31 3:45a.m. 横山圭 退場)

4 ○ 財前永佳(女子6番) v.s.  相葉優人(男子1番) ×
 宍貝雄大(男子8番)
 荻野千世(女子3番)
 小石川葉瑠(女子5番)
(5/31 4:21a.m. 宍貝雄大 退場)
(相葉優人・荻野千世・小石川葉瑠 撤退)

5 ○ 池ノ坊奨(男子4番)
  真壁瑠衣斗(男子16番)
  上野原咲良(女子2番)
  高須撫子(女子10番) v.s.  内藤恒祐(男子12番) ×
 林崎洋海(男子20番)
 如月梨杏(女子4番)
 星崎かれん(女子16番)
(5/31 5:27a.m. 如月梨杏 退場)
(5/31 5:28a.m. 内藤恒祐 退場)
(5/31 5:28a.m. 林崎洋海 退場)
(5/31 5:28a.m. 星崎かれん 退場)

『残りは3人、頑張ってくださいね』
 

放送が切れた。

新しいクラスに変わった次の日から始まったプログラム。
恐らく今年度の第1号だ。
教室にいると、突然眠気に襲われ、気がつけばこの会場にいた。

試合の進行は遅かった。
恐らく、2日と20時間は戦い続けている。
この会場が、少し広すぎると思う。

 

“自分”はマシンガンを見つめる。
これは確か最初に殺した男子生徒が持っていた。
名前は知らない。
茶髪で肌が浅黒かった、恐らく運動部所属だろう、身のこなしが軽かった。

続いて、自動拳銃の弾数を確認する。
これは昨日の夕方に殺した女子生徒が持っていた。
1度だけ同じクラスになったことのある人。
大人しそうで、分厚いレンズをはめ込んだ眼鏡が印象的だった。

そして、地面に置かれていた探知機を手に取った。
これは、少し前に殺した男子生徒が持っていた。
名前は知らない。
血で汚れている“自分”に停戦を求めてきた彼は、恐らくクラスを束ねる委員長タイプだ。

“自分”は全身が赤黒く染まっていた。
自分の血は、ほとんどない。
大方殺した時に浴びた返り血だ。

キモチワルイ。

早く、終わらせたい。

 

残りは3人。

“自分”を入れて3人。

そして、残りの2人は、今こちらに向かって移動中だ。

誰かはわからない。

名簿にいちいち印などつけていないから。

知る必要もない。

どうせもうじき死ぬのだから。

女子五番/総合九番 久瀬ゆかり(くぜ・ゆかり)

身長 161cm
体重 51kg
誕生日 4月21日
血液型 A
部活動 テニス部
友人 宗和歩・辻莉津子
寺内紅緒・時岡千波
藤原奈央・堀内尚子
前川染香・水無瀬繭子
山崎雛子
(女子主流派グループ)
愛称 ゆかり

女子保健委員。
穏やかで優しい性格の持ち主。いつも穏やかな笑顔で友だちを見守っている、グループの母親的存在。
大人しく、クラス内やグループ内ではあまり目立たない。物事がはっきり言えない優柔不断な面もある。
 

支給武器:なし
kill:なし
killed:芝崎務(担任)
凶器:銃
 

芝崎務(担任)が東海林至(男子十番)に発砲したことにより、植本邦幸(男子三番)が錯乱。芝崎が、逃げ出そうとした邦幸に向けて発砲したが、その弾が頭部を直撃。死亡した。

 

というわけで、一度もセリフのないままに退場してしまったゆかりさん。
芝崎の酷さを出そうとした結果の犠牲になってしまいました。ごめんね、ゆかりさん。

女子十番/総合二十二番 寺内紅緒(てらうち・べにお)

身長 166cm
体重 54kg
誕生日 11月29日
血液型 O
部活動 バスケットボール部
友人 久瀬ゆかり・宗和歩
辻莉津子・時岡千波
藤原奈央・堀内尚子
前川染香・水無瀬繭子
山崎雛子
(女子主流派グループ)
愛称 紅緒・紅サマ・紅ちゃん

女子体育委員。
女子の中では最も背が高い。
粘り強い性格のグループのリーダー格。頼られることが多い。
熱くなると前しか見えなくなる熱血っ子で、我を通そうする。
左膝を痛めている。
 

支給武器:鉢巻き
kill:なし
killed:堀内尚子(女子十五番)
凶器:S

女子八番/総合十九番 宗和歩(そうわ・あゆみ)

身長 154cm
体重 46kg
誕生日 5月14日
血液型 A
部活動 バドミントン部
友人 久瀬ゆかり・辻莉津子
寺内紅緒・時岡千波
藤原奈央・堀内尚子
前川染香・水無瀬繭子
山崎雛子
(女子主流派グループ)
愛称 歩・あーちゃん

女子文化委員。
マイペースでおっとりとしている。ほんわかとした癒し系。
運動部員ながら、運動能力はそれほど高くない。自分で何かを考えるのは苦手で、誰かに頼りたがる。
秋庭俊人と付き合っている。
 

支給武器:ロープ
kill:なし
killed:酒井真澄(男子六番)
凶器:コルト・ガバメント

出発後、学校の外で隠れているところを田村光貴(男子十一番)に発見される。より安全な場所へ誘導される。

秋庭俊人(男子一番)と合流。I=09エリアにて潜伏。酒井真澄(男子六番)に発見される。俊人を庇って胸部に被弾。俊人に遺言を告げるが、再び真澄が発砲。俊人を貫通した弾を胸部に受け死亡。



出番が少ないわ、直前まで掘り下げないわで申し訳なかったあーちゃん。
活発じゃないけど運動部員ってあまり書かないなぁと思って書いた子でした。
もっとトシとのあれこれを書きたかったな。

中学3年生の交換日記

日向春人@Grand Guignol

栄、交換日記どうもありがとう。彼氏候補リスト…?何だそれは?

まずは自己紹介だな。
Grand Guignolの日向春人、鎌倉市立八幡中学校3年B組男子14番だ。部活は特に入っていないが、光利と同じ先生について日本舞踊を習っている。
…あぁ、これは本編では非公開だったネタだな、そういえば。まぁ本編に大きい支障がある訳じゃないし、ナルの書き忘れだと思って許してやってくれ。
以前に日記を書いた三村司閣と深井都、小峰桜の友人で日向光利の従兄弟だ。本編では向日悠二とも割と仲が良いな。
まぁ…こんな所か。

それじゃあお題は…「夏の思い出」だな。
思い出…思い出か…うーん、そういえば去年の夏に司閣、悠二、都、桜、後は俺と光利の6人で花火大会に行った時にみんなで浴衣を着ていくという事になって、司閣と悠二、都と桜の4人がうちに着て着付けをやる事になったのを覚えているな。
光利が都と桜を着付けて、俺が司閣と悠二の着付けを俺がやる事になった。男浴衣は人形仕立てでつい丈だし、女浴衣のようにお端折がないから、着付けるのはわりと楽だったんだが…帯を結ぶのに二人が思ったよりも手こずっていて、面白かった。
伊達締めまでは見よう見まねで何とか着付けてたんだが、帯はやっぱり説明しないと結べないみたいだったな。
しかも司閣は割と器用だから説明すれば何とか結べたのに悠二はなかなか結べなくて、結局光利たちと同じくらい時間がかかったんだ。
悠二に説明したのは基本の『貝の口』だったんだけどな(笑)ちなみに司閣はどうせ帰っても浴衣のまま寝るだろうから(都にそう聞いた。朝風呂が好きらしいな、アイツ)緩みにくくて結んでもコブが出来ない『片挟み』を教えた。俺は俺の好みで『神田結び』だったな、確か。
都も桜も光利も、みんな自分たちの持ち寄った浴衣を着てて髪もちゃんとセットしてて、ガラにもなく司閣や悠二が見とれてるのが面白かった。あぁいう所はやっぱり女子の方が凝り性だな。
光利も…普段は着物姿ばかりだから浴衣も案外似合ってて俺が驚かされたな…。

まぁ夏の思い出と言えばこんな所か?ナルは今年も花火大会に(行ければ)浴衣を着ていくつもりらしいな。ユニクロの安物らしいが。
…ちゃんと買うと浴衣も結構高いしな。仕方ないか。

それじゃあそろそろ次の人に回すか。
…そうだな…それじゃ俺の偏見だが、夏が好きそうな八尋幸太郎にお願いするか。
お題は引き続き「夏の思い出」と、少し気が早いかも知れないが「夏への抱負」を書いて貰うか。
ちなみにナルの夏の抱負は「オリバトをフィニッシュまで持っていく」と「バイトがんばる」だそうだ。
とりあえず終盤戦も進んで来たし、という事らしい。バイトも始めたし、夏はいっぱい稼いでいっぱい遊ぶそうだ。勉強もちゃんとやれよ。
それじゃあ後は…八尋、頼んだぞ。



生活バトン?俺もやるのか?
生活バトン

□学校用□
■学校のある日は何時に起きる?
 6時だな。家の門を開けるのが俺の役目だから、あまり寝坊は出来ないんだ。

■授業中爆睡した事ある?
 ぼーっとする事はあるが寝るまでには…

■部活に積極的に行ってる?
 悪いが帰宅部だ。

■寧ろ学校好き?嫌い?
 …わりと好きかも知れない。

■学校で怪我した事ある?
 美術の授業中に彫刻刀で指を切ったな。あまり器用じゃないんだ。
え、舞踊?それは関係ないだろう…

■給食は沢山食べる?すくなめ?
 弁当だが…まぁ普通じゃないか?悠二の多さに比べれば。

■好きな授業は?
 国語だな。特に古典は読んでて飽きない。

■逆に嫌いな授業は?
 英語。発音問題は本当に苦手なんだ。

■学校で人殴ったことある?
 あー…光利を苛めてた女子生徒を殴りかけた事はあるな。司閣に止められた。

■どこ掃除?
 今週は俺は掃除当番じゃないな。

■ブッチャケ授業聞いてないでしょ?
 …そんな事はない筈。

■ノートにラクガキが・・・・。
 ないだろう?

■体育祭(運動会)は活躍する方?しない方?
 普通だと思うが…球技大会は割と活躍するけどな。背も高い方だし(バスケとかバレーとか)

■回す人ー
 八尋、頼んだぞ。

女子一番/総合三番 磯田匡子(いそだ・きょうこ)

身長 159cm
体重 44kg
誕生日 6月1日
血液型 B
部活動 陸上部
友人 三枝妃・相模夕姫
(妃グループ)
愛称 匡子・キョーちゃん

弱い者イジメが嫌いで、そういう人には厳しく接する。陸上部で長距離選手をしているからか、精神的にタフ。
一方で、物の考え方はネガティブ。過去にイジメを受けていた経験があり、やや人間不信。
池埜多丞とは一応付き合っている。
 

支給武器:制汗スプレー
kill:なし
killed:政井威光(男子十六番)
凶器:USSR マカロフ
 

池埜多丞(男子二番)と合流。疎遠になっていたが、和解。

木下亘(特別参加者)・相模夕姫(女子七番)に遭遇。一触即発の雰囲気になるが、和解。夕姫に別れを告げた。

多丞との出会いは1年生の頃、イジメから助けてくれた。
休憩していたところに、政井威光(男子十六番)が現れる。威光の表情から異常を察知、発砲。それが威光の逆鱗に触れ暴力を奮われるが、多丞に救われる。多丞を「弱い」と言う威光に対し反論、多丞を抱きしめたところを威光に撃たれ、頭部に被弾し死亡した。


キャラを掴み切れなかった匡子ちゃんでした、ごめんよぅ。
人間不信なところは少し表わせたかな、ということにしておきます。
でも、多丞のことはなんだかんだで信じ続けてたんです、だって匡子のヒーローだから。


男子1番 秋庭俊人
(あきば・としひと) 女子1番 磯田匡子
(いそだ・きょうこ)
男子2番 池埜多丞
(いけの・たすけ) 女子2番 浦原舞
(うらはら・まい)
男子3番 植本邦幸
(うえもと・くにゆき) 女子3番 江南佳菜彩
(えなみ・かなせ)
男子4番 北修司
(きた・しゅうじ) 女子4番 川西亜由子
(かわにし・あゆこ)
男子5番 来栖生馬
(くるす・いくま) 女子5番 久瀬ゆかり
(くぜ・ゆかり)
男子6番 酒井真澄
(さかい・ますみ) 女子6番 三枝妃
(さえぐさ・きさき)
男子7番 佐藤史季
(さとう・ふみき) 女子7番 相模夕姫
(さがみ・ゆうき)
男子8番 紫垣靖隆
(しがき・やすたか) 女子8番 宗和歩
(そうわ・あゆみ)
男子9番 城龍慶
(じょう・りゅうけい) 女子9番 辻莉津子
(つじ・りつこ)
男子10番 東海林至
(しょうじ・いたる) 女子10番 寺内紅緒
(てらうち・べにお)
男子11番 関本春海
(せきもと・はるみ) 女子11番 時岡千波
(ときおか・ちなみ)
男子12番 田村光貴
(たむら・みつたか) 女子12番 中垣芽衣子
(なかがき・めいこ)
男子13番 二階堂哉多
(にかいどう・かなた) 女子13番 二階堂悠
(にかいどう・はるか)
男子14番 橋川新
(はしかわ・あらた) 女子14番 藤原奈央
(ふじわら・なお)
男子15番 林一紀
(はやし・かずのり) 女子15番 堀内尚子
(ほりうち・なおこ)
男子16番 政井威光
(まさい・たけみつ) 女子16番 前川染香
(まえかわ・そめか)
男子17番 道下未来
(みちした・みらい) 女子17番 水無瀬繭子
(みなせ・まゆこ)
男子18番 八尋幸太郎
(やひろ・こうたろう) 女子18番 宮嵜八千代
(みやざき・やちよ)
男子19番 楪静眞
(ゆずりは・しずま) 女子19番 柳田裕華
(やなぎだ・ひろか)
男子20番 米村直
(よねむら・すなお) 女子20番 山崎雛子
(やまさき・ひなこ)
特別参加者 木下亘
(きのした・わたる) 特別参加者 篠宮未琴
(しのみや・みこと)

【生存報告及び、更新予定日について】

最近忙しかったために更新ができないでいました。

今日明日も予定があるので、更新が再開できそうなのは21日の夕方辺りだと思います。

それでは。

「……麗佳――」

私は抵抗することなく、そのまま麗佳に体重を預けた。

「葉月のおっさん、大丈夫か?」

「…………ぁ、ぁぁ――」

葉月は今起きたことが信じられない、といった顔をしながらゆっくりと立ち上がる。

「晶、本当にどうしたのよ!? ……このゲームで気が狂ったっていうの!?」

麗佳が酷く興奮しながら怒声を上げる。

「…………」


私はどう言いわけする……?

1.なんとなく殴ったという

2.葉月の身体能力を量ろうとしたという

3.少しおかしくなっていたという

4.何も言わない

5.その他

>>153
>>154
>>155

>>155のコンマ下二桁によって安価を決定
 
00~33 >>153
34~66 >>154
67~99 >>155


3 混乱していたという

5葉月に謝罪し
混乱していてなにをするか解らないから一緒にこない方がいいと警告

「……少し、混乱してたみたい」

私は麗佳の話に合わせて言いわけする事にした。

「俺には混乱って言う割に、終始冷静に見えたがな?」

手塚が痛いところをついてきたため、私は何も言えなくなった。

「それより……あのパンチの早さと強さは何なんだ? 普通の女が出せるものじゃないと思うんだが?」

「それは、私が“元”プロボクサーだからよ」

「……成程な」

手塚は表情を変えないまま私のほうを見てくる。

「晶、葉月さんに謝って」

「……うん」

私は麗佳に解放されて、ゆっくりと葉月のほうへ近づいていく――

「ひっ――!? く、来るな!!」

放心状態だった葉月が、私の存在に気がついた瞬間にナイフを構えてきた。

「葉月さん、落ち着いて! 晶は少し混乱していただけで――」

「う、嘘だ! い、いきなり殴ってくるなんて、正気の沙汰じゃない!!」

葉月は血眼になりながらナイフを強く握りしめている。

これ以上近づくと特攻してきそうだ。


私は……

1.葉月に謝って離れる

2.葉月に謝って近づく

3.何も言わずに部屋から出る

4.葉月を殴り倒す

5.その他

>>158
>>159
>>160

>>160のコンマ下二桁によって安価を決定
 
00~33 >>158
34~66 >>159
67~99 >>160

3

5 こんな調子じゃ生き残れないかもしれないと葉月に忠告をして部屋を出る

「…………」

これ以上葉月に刺激を与えるのは不味いと判断した私は、何も言わずに部屋から出た――

【08:30】

部屋から出て少し時間が経過した後、姿を現したのは麗佳と手塚だった。

葉月は酷く錯乱していて、2人が何を言っても聞き入れずに走り去ってしまったらしい。

私は3回目のJOKERの偽装機能を使用し、手塚の条件を満たすまであと2回となっていた。

「さて、色々あったが新たに矢幡が加わったわけだが……PDAの番号はどうするんだ? 俺は教え合うことに賛成だがな」

「私も賛成よ。一緒に行動していくんだから、お互いの信頼関係は大切だと思うし」

手塚は勿論の事、麗佳もPDAの番号を教え合う事に賛成のようだ。


私は……

1.賛成する

2.反対する

3.その他


>>162
>>163
>>164

>>164のコンマ下二桁によって安価を決定
 
00~33 >>162
34~66 >>163
67~99 >>164

1

1

「私も賛成」

特に反対する理由も無かったので、私は賛成することにした。

「よし、それじゃあ俺から――」

手塚からPDAを取り出して、番号の確認が始まった――

「次は私ね。私のPDAは“J”よ――」

2や9だったらどうしようかと考えていたが、麗佳の解除条件は平和的なものだった。

「晶のPDAは?」

そうこうしている内に私の番が来ていた。

私は……


1.JOKERだと言う

2.偽装した番号を見せる(要記載:偽装した番号)

3.その他

>>166
>>167
>>168

>>168のコンマ下二桁によって安価を決定
 
00~33 >>166
34~66 >>167
67~99 >>168


1

「私のPDAは…………JOKERよ」

手塚と同行していた為、麗佳は私のPDAも平和的なものだと思っていたのだろう。

JOKERという単語を聞いた瞬間に、麗佳は固まってしまった。

「JOKER、って……それって――」

「いまは5に偽装してあるけど、1時間後にはJOKERの画面に戻るから。その時に分かるわね」

「そんな事を聞いてるんじゃないの!! JOKERって、人を殺さないといけないのよ!?」

「ええ、分かってるわ」

「分かってるって……。そんな軽いものじゃないでしょう!?」

「麗佳、落ち着いて」

取り乱した麗佳を私はなんとか静かにさせようとする。

「落ち着いて居られるわけないじゃない! どうして晶が殺人――」

「落ち着きなさい!!」

麗佳はスッと動きを止めて一度大きく深呼吸をした。

「……ごめんなさい。衝撃的過ぎて、頭が付いて行って無かったわ」

麗佳の前では久し振りに大きな声を出したような気がする。

「ま、お友達同士、仲良くやっていく方がいいんじゃねえか?」

「私は少なくとも麗佳を殺そうだなんて微塵も考えてないから」

「そこに俺が含まれてないのが怖いな……」

「寝首を掻かれないように気を付けた方が良いかもしれないわね?」

「クク……起きてる時も気を付けるぜ」

葉月の件があってから、手塚の私に対する警戒度が以上に増しているのは気が付いている。

まあ、そうなってしまうのはしょうがないが――

「取りあえず、これからどうするかを考えましょう――」


私たちはこの後……どうする?


>>170
>>171
>>172

>>172のコンマ下二桁によって安価を決定
 
00~33 >>170
34~66 >>171
67~99 >>172



麗佳を連れて逃げる

武器を確保に上の階にあがりましょう

一先ず武器を探しながら階段を目指す

一旦休憩します

【09:30】

私たちは上の階を目指すことにして、ようやく階段まで辿り着いた。

階段付近には誰も居なかったので、そのまま階段を上ることにした。

「残り1回か」

階段を上る前にJOKERの4回目の偽装を使用し、手塚の首輪解除まで残り1回となった。

「手塚は首輪を解除したらどうするつもり?」

「ん……それはその時の気分次第で変わるだろうよ」

「降りるんだったらせめて首輪は渡して頂戴?」

「ああ、いいぜ。PDAは無理だけどな――」

こういった白黒つけたがるのは、やはり麗佳らしいところと言った感じだろうか。

「身ぐるみ剥がそうとかは考えないから――」


麗佳が言葉を言い終わる前に、天井から何かが降ってきたのが見えた。

私は考える前に麗佳を引っ張ってそれを避けるように大きく踏み込んだ――

「な、何!?」

麗佳は私に突然引っ張られた事と、轟音が響いた事と二重に驚いていた。

「罠か!?」

私たちと手塚の間には鉄格子が現れており、それは分断を意味していた。

(やっぱり仕掛けてきたみたいね……)

運営側もそう易々と首輪を解除して貰ったら困るので、こうなることは予想できていた。

「全員怪我は無いみたいね」

「晶、ありがとう……」

私は膝を付いていた麗佳を立ち上がらせて鉄格子を動かしてみる。

「チッ、ビクともしねぇ……」

「完全に張り付いているみたいね」

なんて白々しい事を言いつつ私はPDAの地図を確認した。

「合流するにはかなり大回りしないといけないみたいね」

「タイミングが悪いったらないぜ、全く……」

「どうするの?」



私たちは……

1.手塚の首輪解除を優先するために1時間経過するのをここで待ち続ける

2.合流地点を決めて合流する

3.その他

>>178
>>179
>>180

>>180のコンマ下二桁によって安価を決定
 
00~33 >>178
34~66 >>179
67~99 >>180




2

「それじゃ、この中間地点辺りで合流しましょう」

「分かった。JOKERの偽装は合流した時にやってくれればいい」

私たちは一番距離が近そうな場所を選んで、合流する事にした。

まあ、ゲームの事を考えると合流できるとは思えないが――


【10:00】

手塚と別れた後、私たちは適当に部屋で武器やツールボックスを探しながら合流地点まで進んでいた。

途中で刃渡りが長いナイフとスタンガンを手に入れ、スタンガンは麗佳に持たせることにした。

「……こうやって晶と長く2人でいるのは久しぶりね」

「そうだね。麗佳は、大学の方頑張ってるの?」

「それなりにね。晶は……ボクシング、やめちゃったの?」

そういえば、麗佳には止めたことを言っていなかった気がする。

「うん。今は普通の会社員だよ」

このゲームで得た賞金で、のうのうと暮らしているとは言えなかった。

「そう、なんだ……」

麗佳は複雑そうな顔をしていたが、それ以上何も聞いてくる様子は見せなかった。

「でも、麗佳を守るくらいの動きなら、全然いけると思うよ?」

「もう、晶はいつまで私を弱者扱いしてるのよ!」

「ふふ……私から見れば麗佳は泣き虫のお姫様だよ」

「…………馬鹿」

久し振りに感じる人の温かさに、私の心は毒されてしまいそうだった。

麗佳だけは私にとって大切な友人で、失われたらいけない存在である――

「彼氏はできた?」

「……分かってて言ってるでしょ?」

「麗佳に彼氏が出来ないなんておかしいじゃん。周りの男たちはどうなってんの?」

「も、もう良いじゃない! 晶はどうなのよ!?」

「私は……いるよ」

「ぇ…………?」

「嘘だよ。私にできるわけないじゃん……」

「お、驚かさないでよ!」

「あれ? もしかして嫉妬しちゃった?」

「してない! 晶の馬鹿!」

麗佳は不機嫌になってそっぽを向いてしまう。

こんな繊細で可愛い存在を守りたくない者などいるのだろうか。

(麗佳……私が絶対に守って見せる――)

こんなゲームに麗佳を殺させてたまるものか――





今日はここまでです。

【現状】

死者:漆山

【体調】

体 健康

心 決意(小)

【武器】

加藤:コンバットナイフ、サバイバルナイフ

矢幡:ナイフ、スタンガン

【ツールボックス】

加藤:GPS、地図拡張機能

矢幡:GPS

【PDA情報】




5 北条
6 手塚



10
J 矢幡


JOKER 加藤

【10:30】

あれから30分、私たちは他愛もない話をしながら進んでいた。

もう少しすれば手塚との合流地点に辿り着くわけだが、恐らく彼はやって来ないと私は想定している。

「……ねぇ、晶は自分の解除条件についてどう思っているの?」

ふと、麗佳がそんな話を切り出した。

やはり殺害が含まれているため、私のことを心配しているのだろう。

「ん……そうね…………」

「私は……晶の為だったら、協力するから。役に立てるか分からないけれど……」

麗佳がそっと私の手を掴んで見つめてくる。



ここで私は……何と言う?

1.麗佳には殺人に関わって欲しくない

2.私は過去に人を殺したことがあるから大丈夫

3.気持ちだけ受け取っておく

4.私のことより自分の心配をして

5.その他

>>187
>>188
>>189

>>189のコンマ下二桁によって安価を決定
 
00~33 >>187
34~66 >>188
67~99 >>189



1

5ありがとう、たよりにしてるわ

「……麗佳には、殺人に関わって欲しくない」

私は軽く麗佳を突き放すような返答をした。

私は既に経験しているから良いのだが、麗佳には微塵たりとも関与してもらいたくない。

殺人は、簡単に人の心を蝕むと分かっているから、純粋な麗佳には尚更駄目だろう。

「私だけ逃げるなんて嫌よ……! 晶だけに背負わせるわけにはいかないわ!」

「これは私の解除条件なんだ。それに、私はボクシングで人を傷つける事に慣れてるから、大丈夫」

「ボクシングと殺人が一緒なわけ無いじゃない! お願いだから、1人で抱え込もうとしないで……!」

麗佳が私の腕を引きずるように強く掴む――

「……麗佳は優しすぎるんだ。まずは、自分の条件を満たす事を考えるべきだよ」

私は麗佳の手を握り返してサッと離した。

「晶……」

「取りあえず、いまは合流地点に急ごう。手塚が待ってるかもしれないし」

「……そうね」

麗佳を半ば強制的に納得させる形になってしまったが、こればかりは譲れなかった。

彼女の悲しげな目を見ていると気持ちが揺らぎそうだったため、私は彼女が視界に入らないように少し前を歩くことにした――



私たちはこのあと……

コンマ判定1個下

00~20 北条たちと出会う

21~40 郷田たちと出会う

41~60 長沢たちと出会う

61~80 御剣たちと出会う

81~99 誰とも出会わない

【11:00】

合流地点に到着してから少し時間が経過した時に、私たちは偶然御剣、姫萩、綺堂の3人と出会った。

3人とも攻撃性は無いというか、平和ボケしているように見えた。

「――それで、やっぱり協力していくにはお互いのPDAを教え合った方がいいと思うんです」

御剣は早速と言わんばかりにPDAの情報の共有を求めてきた。

JOKERは私であるから嘘は付けないということは分かっているのだが……。

「…………」

麗佳が“どうする?”というような視線を送って来ている。

これは、私がPDAの番号を教えるかどうか。

そして教えるとなれば、JOKERを教えるのか偽装番号を教えるのか……ということだろう。



私は……

1.まだお互いの事が分からないので教え合わないという

2.向こうの番号を聞いてからJOKERだということを教える

3.向こうの番号を聞いてから偽装番号を教える(要記載:偽装番号)

4.こちらから先にJOKERだということを教える

5.こちらから先に偽装番号を教える(要記載:偽装番号)

6.その他

>>193
>>194
>>195

>>195のコンマ下二桁によって安価を決定
 
00~33 >>193
34~66 >>194
67~99 >>195

3

2

1

「まだお互いの事が分からない事だし、教え合うのは後にしましょう?」

まだこの段階で教えるべきではないと判断した私は、御剣の提案をやんわりと断った。

「そう、ですか……。それじゃあ、俺のPDAを先に教えておきます」

「……どういうつもり?」

突然耳を疑うような事を言い出したため、私は目を細めて御剣を見た。

何かを企んでいるようには見えないが、そう易々と自分のPDAを勝手に明かすというのは疑わしい。

「加藤さんと矢幡さんに信用してもらいたいからです。……良いよね、姫萩さん、渚さん?」

2人に確認を取ったということは、明かすには少し躊躇うべき要素がある番号なのだろうか。

(……となると、Aや9――)

「俺のPDAは“3”です――」

3――PDAの3――3人以上の殺害――

そう理解したと同時に私は御剣と距離を離して腰に刺してあるナイフに手をかけた。

「大丈夫です、俺は人を殺そうと思ってません。というよりも、殺すことが出来ません」

「……それは、命を諦めたということ?」

「いや、そういうわけでもありません」

「じゃあ、どういうことかしら?」

「俺は解除条件以外の方法で首輪を解除する方法を探そうと思ってるんです」

(……何言ってんの、コイツ――)

正気なのか、と私は思わず黙り込んでしまった。

「その方法がある可能性は?」

麗佳が横から顔を出して御剣に問いかけた。

「……分かりません。でも、絶対無いとは言い切れないと思います」

「そう」

御剣の言っている事が出任せだと悟った麗佳は、即座に興味を無くしたようだった。

「総一君の言っていることは~本当だよ~? だって~総一君、優しいし~頼りになるもん~!」

甘ったるい声をした綺堂が御剣のフォローに入って来るが、私は特に反応をしなかった。

「晶……どうするの?」

麗佳が背後から小声で話しかけてくる。

御剣が3である以上、気が変わって殺しにかかってくる可能性は大いにある。

そのような人物と一緒に行動するべきか、否か――

いや、この平和ボケした3人ならば私の解除条件を満たすための的になりやすいとも考えられる――


私は……

1.御剣たちと行動する

2.御剣たちとは行動しない

3.その他

>>197
>>198
>>199

>>199のコンマ下二桁によって安価を決定
 
00~33 >>197
34~66 >>198
67~99 >>199

1

渚さんが怖いけど1で

とりあえず今は1かな

休憩します

予定が入ったので今日は更新しません。

「お互いの事を知るためにも、一緒に行動しましょう?」

「はい、よろしくお願いします」

私は御剣たちと同行する事にした。

見たところ3人とも的にするには申し分無いくらいに油断しているからである。

「……それで加藤さんたちは手塚さん、を待っているんですよね?」

「えぇ、そろそろ来てもおかしくない時間だけど」

分断された地点から丁度半分くらいの距離の場所を合流地点にしたのだから、手塚の方が少しより道をしていた私たちよりも先に着いていてもおかしくない。

まあ、なにかしらここへ辿り着けないアクシデントが起きたに違いないだろう。

「手塚さんはきっと来ると思います。だからもうしばらく待ちましょう?」

合った事も無い人物を信用しているような体で話しているのが滑稽だが、何も言わないでおこう。


私は……


1.手塚を待つ必要は無いという

2.御剣の言うとおり、手塚をしばらく待つ

3.麗佳に意見を求める

4.その他

>>211
>>212
>>213

>>213のコンマ下二桁によって安価を決定
 
00~33 >>211
34~66 >>212
67~99 >>213

2

3

「麗佳はどうするべきだと思う?」

私は取りあえず麗佳に意見を求めることにした。

主観的だけでは見えてない部分もあるだろう。

「私も待つべきだと思うわ。ただ、手塚が来るまでじゃなくて、ある程度時間を制限するべきよ」

御剣たちには分からないと思うが、麗佳は手塚から交渉材料となる首輪を手に入れたい、ということを言っている。

制限時間を設けるべきだ、ということはそこまで優先的ではないということだろう。

「麗佳がそう言うんだったら、私もそれに賛成よ」

「待つ時間は~どうするの~?」


制限時間は……

1.1時間

2.2時間

3.3時間

4.その他

>>215
>>216
>>217

>>217のコンマ下二桁によって安価を決定
 
00~33 >>215
34~66 >>216
67~99 >>217



2

【14:00】

私たちは3時間手塚を待ち続けたが、彼が姿を現すことは無かった。

「……来ないわね」

その場をずっと動かなかったため、かなり長く感じた。

結局のところ私の予想はあっていたようで、やはり手塚は何かしらの事情でここに来れないでいるらしい。

「時間ね。そろそろ出発しましょう?」

麗佳はPDAをポケットにしまって、支度を始めている。

「……御剣、どうしたの?」

私もそれに続いて荷物をまとめていると、1人動かないでいる御剣が視界に入った。

「……もう少し、待つべきだと思います」

「御剣……自分の言っている事が分かっている?」

全員で3時間まで待つと決めた事を、こういう風に破るべきではない。

もう来る可能性が限りなくゼロに近い人物を長々と待ち続けるのは、効率も悪い上にチームとしての雰囲気も悪くなる。

「もしかしたら、手塚さんは怪我をしていて移動するのに時間が掛かっているかもしれません」

「これだけ待っても来なかったんだから、もう来ないと考えて良いはずよ。それに君の言っている事は完全に妄想よね……?」

どういう思考回路を持てばこのような考えに至るのだろうか、と若干苛立ちが込み上げてくる。

「でも、完全に手塚さんが来ないとも言い切れないじゃないですか」

「…………」

また、この言い回しか――

自然と拳に力が入り始めているのが分かる。

このお花畑野郎を一発殴って目を覚まさせたい、と拳が言っている。


私は……

1.御剣を殴る

2.御剣を殺す

3.御剣の言うとおり、もう少し手塚の事を待ってみる

4.御剣たちを放っていく

5.その他

>>220
>>221
>>222

>>222のコンマ下二桁によって安価を決定
 
00~33 >>220
34~66 >>221
67~99 >>222

3

1ビンタして周りを見ろと説教する

すみませんが、今日はここまでです。

【現状】

死者:漆山

【体調】

体 健康

心 苛立(小)

【武器】

加藤:コンバットナイフ、サバイバルナイフ
矢幡:ナイフ、スタンガン
御剣:???
姫萩:???
綺堂:???

【ツールボックス】

加藤:GPS、地図拡張機能
矢幡:GPS
御剣:???
姫萩:???
綺堂:???

【PDA情報】


3 御剣

5 北条
6 手塚



10
J 矢幡


JOKER 加藤

リベリオンズをプレイしていてずっと更新できていませんでした。

いまから更新再開しようと思います。

「…………っ」

私は拳を振り上げようとしたが、直前でそれを止めた。

殴ったところで何も解決しないだろうし、何より麗佳がまた心配すると思ったからだ。

それに、葉月の時の様にここで3人と同行できなくなってしまったら的が減ってしまうだろう――

「そうね。もう少し待つわ……」

「加藤さん、ありがとうございます!」

「…………」

私は何故か感謝する御剣に見ようともせずに、壁にもたれかかった……。

【15:00】

――来た。

結論を言うと、手塚は御剣の言うとおり私たちの元へ来た。

私が痺れを切らしそうになろうとした直前に、足を引きずりながらやってる彼の姿が見えたのだ。

「――葉月さんに、ですって!?」

「あぁ……背後から銃弾を乱射してきやがったんだ……」

渚に治療を施されつつ、手塚は半笑いしながらそんな事を言う。

分断された直後、手塚は葉月に襲撃されたらしい。

話によると葉月は目の色を変えていたらしく、非常に危ない人間に成り果ててしまっていたようだ。

葉月と私の件をしっている3人には、どうして彼がそのようになってしまったのかは容易に想像がつく……。

それは、私が葉月に対して理由も根拠もない暴力を振るってしまったことだろう。

それが引き金となり、彼の心には他者に対しての尋常ではない疑心暗鬼が生まれてしまったのだ。

「……手塚、話があるからこっちに来なさい」

私は特に罪悪感を示す事も無く、治療したての手塚を呼び寄せて2人っきりになった。

「約束通り、5回目の偽装を使用するわ」

「あぁ、早いところ頼むぜ……」

複数個所から血の色が滲みだしている手塚にはもはやいつもの余裕の笑みは見られなかった。

(…………)

私はポケットに手を入れたところである思惑が生まれた。

このままだと恐らく手塚は首輪が外れた途端にこのゲームを降りるに違いない。

それならば、このまま素直に5回目の偽装を使用しても良いのだろうか。

幸い、御剣たちに加えて今は麗佳もここには居ない――

手塚は怪我により明らかに動きが鈍っているため、ここで早い内に手を打っておくことができる――

加えて、麗佳には比較的安全そうな御剣たちがいるためそのまま一旦彼女を任せるという手もあるだろう。

「ん……どうした? 早くしてくれ!」

「えぇ……」

私は……
1.手塚を殺す
2.素直に5回目の偽装を使用する
3.その他

>>232
>>233
>>234
>>234のコンマ下二桁によって安価を決定 
00~33 >>232
34~66 >>233
67~99 >>234

2

3 解除後、PDAと首輪を貰う

いや、ここで手塚を殺せば麗佳に幻滅されるだろう……。

私はPDAを取り出して、手塚の目の前で偽装して見せた――

「……よし、これで確かに5回目、だな――」

手塚は少し安堵した表情を見せて首輪のコネクターにPDAを接続した――


『おめでとうございます、あなたは首輪の解除条件を達成しました――』


粗末な電子音と共に手塚の首輪がスルリと外れた。

「こうも簡単に外れてくれるとはな」

「何? 自分だけもうゲームに参加できなくて寂しいのかしら……?」

私は手塚を試すような質問をしてみた。

「……いや、葉月のおっさんみたいなやつが今後増えるくらいなら、仲間外れにされたほうがましだってんだ」

なるほど、やはり手塚はもうこのゲームには乗り気ではないらしい。

一方的に銃弾を食らえば、いくら強靭な精神でも抉り取られてしまうのも無理はないと思うが――

「だったら、麗佳と約束した通り首輪を渡しなさい?」

「ああ、俺にはこんなもん必要ないしな――」

私は床に落ちている首輪を拾って、ポケットにしまう。

「……それと、PDAもよ」

「あ……?」

肩を掴んで、その場から動きだそうとしていた手塚を止めた。

「首輪を解除した今、もうPDAも必要ないでしょう?」

「何言ってんだてめぇは……。地図がなけりゃ居場所が分からなくなるだろうが。それに、お前はPDAを渡すという条件を言って無いだろ?」

「…………」

手塚の言っている事は至極正論で、現状は私の浅薄な行動から引き起こされたので、何も言えなくなる。

私は……

1.手塚からPDAを奪い取る

2.そのまま手塚を行かせる

3.手塚をナイフで脅す

4.手塚に頼み込む

5.その他

>>236
>>237
>>238

>>238のコンマ下二桁によって安価を決定
 
00~33 >>236
34~66 >>237
67~99 >>238


5 1階でも葉月のような人間と鉢合わせするかもしれないから2階の戦闘禁止エリアまで同行するほうがいいと説得


戦闘禁止エリアまで護衛しその報酬としてPDAをもらう

>>237

「これから1人で行動して、葉月さんは勿論の事、他のプレイヤーに襲撃されたら危ないわ。だから、戦闘禁止エリアまでは私たちと同行したほうがいいわ」

私は最もらしい理由をつけて手塚からPDAを受け取る流れを作った。

「……そりゃ、嬉しい限りだが。お前、自分が言った事がどういうことなのか分かっているのかよ?」

「……? どういうこと?」

手塚が意味深な言葉を言ってきたが、私は分からなかった。

「クク……いや、なんでもねぇよ――。それより、俺を戦闘禁止エリアまえ連れて行ってくれるんだろ?」

「えぇ、そうだけど……」


手塚は鼻で笑いながら麗佳たちがいる方へ向きを変える。

(何が……何がおかしいんだ――)

単に手塚が私をからかう為に冗談を言っているのか、それとも私が何かを見落としているのか――

(私は手塚を麗佳、そして御剣たちと共に戦闘禁止エリアまで連れて行く……。そして、PDAを受け取る――)

その一連の動きに何もおかしい点は無いはずだ――


私が見落としている事は……?

>>241
>>242
>>243

>>243のコンマ下二桁によって安価を決定
 
00~33 >>241
34~66 >>242
67~99 >>243

自分たちの装備の強化

戦闘禁止エリアで、首輪のない手塚に抵抗できないということに思い至る

ようなサムシング。

手塚の首輪が外れていることから御剣達にジョーカーだとバレる

「――――ッ!!」

手塚が一歩踏み出そうとした瞬間に、私は閃いた――

私のPDAがJOKERだと知っているのは手塚と麗佳だけであって、御剣たちは知らない。

そのため、このまま手塚が彼らの元へ行くのは不味いのだ。

手塚をわざわざ呼び寄せて2人きりになり、そして戻ったら彼の首輪が外れていた――

そうなると必然的に疑問が沸き、手塚のPDAの番号を御剣たちに教えることになって――

ここまでくれば言わなくても分かるだろう……。

このままだと私がJOKERだということが御剣たちにばれてしまう――

「待って、手塚!」

「ん……どうしたよ、加藤サン?」

手塚はいやらしい笑みでこちらに振り返った。

「……やっぱりさっきの話は無しよ」

手塚はやれやれと言った表情でこちらを見てきた。

「俺様の寛大な慈悲が無かったら、どうなったんだろうなァ……クク」

「……礼は言っておくわ」

あと少し気が付くのが遅れれば、私の立場は非常に危ういものになっていたかもしれない。

遠まわしではあったが、警告をくれた手塚には素直に感謝せざるを得なかった。

「そんな間抜けな事してると、命がいくつあっても足りねぇぜ?」

手塚は麗佳たちとは逆方向に歩き始めた。

そんな背中を見ながら私は……


1.手塚を無言で見送る

2.手塚を殺しに行く

3.その他

>>248
>>249
>>250

>>250のコンマ下二桁によって安価を決定
 
00~33 >>248
34~66 >>249
67~99 >>250

1

3.礼を言って分かれる。

おかしい。手塚の命を助けた筈なのに借りを作った感じだ。納得いかないwwwwww

「…………」

私は去っていく手塚をただ見送ることしかできなかった――


「……あれ、手塚さんはどうしたんですか?」

私が戻ると、御剣がすぐに手塚が付いてきていない事に気が付いた。

「手塚は1人で行くと言って、もう去ったわ」

「え!? そんな、手塚さん1人だと危険ですよ!!」

「大丈夫よ。怪我してるって言っても普通に歩けるようだし、放っておくべきよ」

私には御剣がどうしてそこまで他人に干渉したがるのかが分からなかった。

普通、他人よりも自分の身の事を第一に考えるべきだろう。

命がかかっているデスゲームともなれば、尚更――

「俺、手塚さんを探してきます!」

「あ、御剣さん、ま、待ってください!」

御剣が手塚を追って走り出したのに続いて、姫萩と綺堂が付いて行く――

(手塚が見つかると面倒か……)

いまの御剣を止める事は出来ないため、彼が手塚を見つけないよう祈るしかないか――

いや、彼は意地でも探そうとする上に手塚はそんなに早く移動していないため、時間の問題か――

「晶……どうするの?」

私がいま置かれている状況を察した麗佳が、私に意見を求めてきた。

選択の余地はあまり残されていないため、早く決めなければ――


私は……

1.御剣たちの後を追う

2.御剣たちを放っていく

3.麗佳を残してい御剣たちの後を追う

4.その他

>>252
>>253
>>254

>>254のコンマ下二桁によって安価を決定
 
00~33 >>252
34~66 >>253
67~99 >>254

3

2

2

「放って置こう」

私にはこれ以上御剣たちに構うメリットが無いと判断した。

彼らの後を追って手塚が見つかれば、私がJOKERだということに気が付かれる。

逆に見つからなかったとしても時間と体力の無駄だろう。

そうなると、ここで切るのが最善の策だと私は思ったのだ。

「えぇ、分かったわ」

麗佳も特に迷いを見せることなく御剣たちを切った。

「大丈夫だよ、手塚の首輪はちゃんと受け取ったから」

私は麗佳に首輪を手渡した。

「PDAは……無理よね」

「御剣たちがいなければ可能性があったけど……しょうがないよ」

「……そうね」

まあ、最初からPDAは手に入らないと思っていたので、良しとしよう。

「それで、これからどうするの?」

「そうだな……」

私たちは……どうする?

>>256
>>257
>>258

>>258のコンマ下二桁によって安価を決定
 
00~33 >>256
34~66 >>257
67~99 >>258


上の階へ。葉月が銃を持ってるという話だし。早めに良い武器を手に入れよう

>>256

武器を探しつつ上の階を目指す

「上の階へ行こう。上へ行けば、拳銃が手に入るかもしれないから」

葉月が既に拳銃を手に入れているため、私たちも早めに武装を強化しておきたいところだろう。

恐らく葉月は私を見たら獣の如く攻撃してくるに違いない。

私自身の武器である拳は、ゲーム序盤であるほんの少しの時間でしか効果は無いのだ。

ほぼ全てのプレイヤーが拳銃を手にした時点で、私のアドバンテージは一気に消え去る――

「近くに階段があるわ! ……×印があるけれど」

「そっちは恐らく行き止まりだよ。だからもう1つの階段を目指そう」

「どうして行き止まりだと思うの?」

「それは……なんとなくだけど?」

私は咄嗟に口から零れてしまった前回の経験を適当に誤魔化す。

「……まあ、印がある時点で良いことがあるとは思えないわね」

「うん、きっとそうだよ――」

私たちは上の階を目指して歩き始めた……。


私たちは移動途中に……

コンマ判定1個下

00~20 葉月たちと出会う

21~40 高山たちと出会う

41~60 北条たちと出会う

61~80 郷田たちと出会う

81~99 ツールボックス:同階数での他プレイヤーの接触情報を表示する を手に入れる

【16:00】

階段を目指して1時間ほどが経ち――

「ん……誰かいる」

かなり遠くにだが、人影があることに気が付いた。

「どうするの?」

見たところ向こうも2人で、両者は身長差があるように思える。

遠すぎて相手が危害ある人物かどうか分からないが、接触しないに越したことは無いだろう。


ここは……どう接触する?

1.こちらから話しかける

2.向こうが気が付くまで待ってみる

3.尾行して相手の人柄を確認した上で接触するかを考える

4.接触しない

5.その他

>>265
>>266
>>267

>>267のコンマ下二桁によって安価を決定
 
00~33 >>265
34~66 >>266
67~99 >>267


2

「……止めておこう」

「え……どうして?」

「何だが、あの2人には嫌な予感がする。それに、早めに3階へ行きたいからね」

「……晶の予想って、あんまり当たらないと思うんだけど?」

「確かに……」

私の予想は結構な確率で見当違いなことが多い反面、麗佳の予想はかなり当たるというジンクスがある。

いや、単純に考察力の差があるだけかもしれないが――

「でも、あの2人と話してたら時間が無駄になるかもしれないし、今回は晶の予想に乗る事にするわね」

「私の予想だって当たる事があるさ……」

「あぁ、ごめんね。別に悪気があって言ったわけじゃないの……」

事実だから、という言葉が裏に隠されていることについては私は敢えて言及しなかった。

麗佳はいつだって現実と向き合おうとするから、私よりもずっと正しい判断を下せるだろう。

私の身体に麗佳の頭脳――

これが組み合わされれば、最強の人間が出来るに違いない――

「ん……どうかした?」

「いや、麗佳は相変わらずだなって思ってさ」

「何よ、それ」

「何でもないよ。……よし、このまま一気に3階へ行こう」

「えぇ――」

私と麗佳が一致団結すれば、このゲームをクリアできる――

そんな根拠のない自信が、私の心から溢れ出していた……。

今日はここまでです。

【現状】

死者:漆山

【体調】

体 健康

心 普通

【武器】

加藤:コンバットナイフ、サバイバルナイフ

矢幡:ナイフ、スタンガン

【ツールボックス】

加藤:GPS、地図拡張機能

矢幡:GPS

【PDA情報】


3 御剣

5 北条
6 手塚



10
J 矢幡


JOKER 加藤


それでは。

【17:00】

私たちは2人のプレイヤーと接触せずにそのまま階段付近までやって来ていた。

その道中であった事は、死亡者数を表示するソフトウェアを手に入れ、私のPDAに導入したことくらいである。

死亡者数は1名であり、それは漆山以外はまだ死亡してい無いことを示していた。

「ん……誰かいるみたい」

音を立てずに階段前のホールを覗くと、3人のプレイヤーが視界に入った――

3人の特徴は受付嬢のような女性、中学生くらいの少女、そして――

「あ…………」

もう1人は見覚えがある人物だった――

確か私と手塚が行動して間もない頃に、寝ている状態で見つけた少女である。

「晶、どうかした?」

「いや、何でもないよ」

3人は見たところ他のプレイヤーを待っているように思えた。

少女二人はともかくとして、受付嬢のような女性は常に警戒しているように思える――

「どうするの……?」


私たちは……

1.3人の様子をしばらく見てみる

2.そのまま3人に接触する

3.引き返して2階で少し時間を潰す

4.その他

>>276
>>277
>>278

>>278のコンマ下二桁によって安価を決定
 
00~33 >>276
34~66 >>277
67~99 >>278


3

2

「少し、様子を見てみよう」

「えぇ、分かったわ」

私たちは3人がどのようなプレイヤーなのかを見定めるために、しばらく様子を見てみることにした。

『大丈夫よ――ちゃん。きっと――PDA――――から』

どうやら受付嬢が、寝ていた少女を慰めているようである。

所々聞こえない部分があったが、少女のPDAについて話しているようだった。

(……PDAは5だったから、条件的には特に心配することはないはずだけど――)

そうなると、解除条件以外で何かPDAについての問題があるということか。

PDAが破損した、とか……PDAを無くした、とか――

『――誰も、来ないね……』

もう1人の少女が、退屈そうな素振りを見せる。

「好戦的って感じではなさそうね」

「うん、そうだね……」

3人は単純に他のプレイヤーを待っているみたいである。

私は……

1.3人に襲撃を仕掛ける

2.3人に接触する

3.その他

>>280
>>281
>>282

>>282のコンマ下二桁によって安価を決定
 
00~33 >>280
34~66 >>281
67~99 >>282


2

2

【17:30】

私たちは階段前で待っていた3人――陸島文香、色条優希、北条かりんと接触した。

最初こそは陸島が警戒していたが、私たちに敵意が無い事が分かるとすぐに受け入れてくれた。

「北条のPDAが……」

「えぇ。恐らくだけど、誰かが寝ている間に奪って行ったと思うの」

陸島の話によると、北条のPDAが何者かによって盗られているらしい。

私は彼女のPDAが5だと知っているが、あの時奪わずに彼女の耳元に置いて行ったはずだが……。

(まさか……手塚が――)

そういえばあの時、私の後に手塚が部屋を出て行ったような気がする。

そうなると、私が背を向けた隙に手塚が北条のPDAを奪ったのかもしれない……。

「晶さん、何かかりんちゃんのPDAについて知らないかしら?」

「そうですね……」


私は……

1.知らない、と言う

2.手塚が奪って行ったのかもしれない、と言う

3.彼女のPDAが5だったということだけ言う

4.その他

>>284
>>285
>>286

>>286のコンマ下二桁によって安価を決定
 
00~33 >>284
34~66 >>285
67~99 >>286

1

「知らないです」

正直に答えると色々と不味いことになるため、私は嘘をつくことにした。

「そう……」

陸島はまるで自分のことであるかのように落ち込んでいた。

お人好しなのか、それとも良い人を演じていかは知らないが――

「……っ、文香さん、もう、無理だよ。私は、ここで死ぬしかないんだ……っ!」

北条の瞳が潤み始め、嗚咽し始める。

まあ、誰だってこの状況になれば絶望するしかないだろう。

「大丈夫よ、かりんちゃん。お姉さんが絶対にPDAを見つけてみせるから――」

陸島が泣いている北条を強く抱きしめて慰めていた。

「……陸島さんたちは、これからどうするつもりですか?」

私は泣いている北条を尻目に、陸島に話しかけた。

「私たちは、ここで他のプレイヤーを待ち続けるつもりよ」

「そうですか……」

あくまで北条のPDAを探すことを優先するということか。

待ち続けても、恐らく見つからないと思われるが――

(どうするか……)

私は……

1.陸島たちと共にここにいる

2.陸島たちと別れて3階へ上がる

3.陸島たちとPDAの番号を交換し合う事を提案する

4.手塚が持っていったかもしれない、という情報を与える

5.その他

>>288
>>289
>>290

>>290のコンマ下二桁によって安価を決定
 
00~33 >>288
34~66 >>289
67~99 >>290





4

2

相手から教えるという条件付きで3

「……それじゃ、私たちは3階へ上がります」

ここで待ち続けても私たちにとってはメリットが無いので、3階へ上がることにした。

「待って、晶さん。上がる前に、PDAの番号を交換し合わない? お互いに知っていた方が協力しやすいと思うから」

歩き出そうとしていた私たちを止めるように、陸島が前に来た。


私は……

1.陸島たちから教えるように求める(教えるのが偽装番号の場合はその番号を記載)

2.こちらから教える(同上)

3.拒否する

4.その他

>>292
>>293
>>294

>>294のコンマ下二桁によって安価を決定
 
00~33 >>292
34~66 >>293
67~99 >>294

2 ただし自分の偽造番号のみで偽造番号は6


御剣達に知られてるかもだし正直に教えて油断させよう


今のところ人を[ピーーー]つもりはないという

今日はここまでです。

【現状】

死者:漆山

【体調】

体 健康

心 普通

【武器】

加藤:コンバットナイフ、サバイバルナイフ

矢幡:ナイフ、スタンガン

【ツールボックス】

加藤:GPS、地図拡張機能、死亡者数表示

矢幡:GPS

【PDA情報】


3 御剣

5 北条
6 手塚 CLEAR



10
J 矢幡


JOKER 加藤

「……いいですよ。でも、そちらからお願いします」

PDAの番号を把握しておくことは条件上必要な事なので、私は提案に乗ることにした。

「分かったわ。優希ちゃんも、良いわよね?」

「うん、良いよ!」

特に渋る表情を見せることなく、陸島と色条はPDAを取り出した――

「それじゃ、私からね。私のPDAは……“A”よ」

Aの解除条件を思い出した直後に、私は少しだけ陸島から距離を置いた。

「でも、私はQを殺害しようだなんて思ってないわ」

「……そうですか。でも、それだと文香さんの首輪は解除されませんよ?」

御剣と同じような事を陸島は言っていた。

今回のゲームは善人が多いのか、それとも……。

「私のことはいいのよ。……私は、できるだけこのゲームで生存者の数を多くしたいと思っているから」

「自分の命より、他人の命、ですか」

「えぇ、そうよ」

「…………」

御剣、陸島と立て続けに他者の命を優先する人物と出会うと、私がおかしいのではないかと錯覚してしまいそうだった。

(いや、私が正しい……)

自分が生き残らなければ何も意味が無い、と私は前回のゲームで嫌と言うほど学んだのだ。

彼らがおかしいのであって、私は至って正常だ――

「私のことは良いとして……次は優希ちゃんの番よ」

「うん! 私のPDAは、“7”だよ!」

7と言えば6時間以降に死者を除く全員との遭遇である。

今回のゲームの中では難易度的には1位2位を争う易しさだろう。

「次は私の番ね。私のPDAはJよ」

麗佳が私に偽装する時間を与えてくれたのか、先に答えてくれた。

しかし、私はその思いを裏切ることになる――

「晶さんは?」

「私のPDAは…………JOKERです」

麗佳が驚嘆した目でこちらを見てくるが、私は冷静な目でそれを制した。

「JOKERですけど、今のところ誰かを殺そうだとかは考えていません」

「……今のところ、ね。私としてはできれば……いや、絶対に殺してほしくないわね」

陸島の視線が少し鋭くなったのを私は感じ取った。

「それは、私に死ねということですか?」

「ううん、そうじゃないわ。……私は、解除条件以外で首輪が外す方法を探そうと思っているの」

「……それは、難しいと思いますけど」

御剣なら喜んで賛同しそうな話だが、一度ゲームを経験している私からしたら馬鹿な妄想にしか聞こえなかった。

「俄かに分かってくれるとは思ってないわ。でも、殺人はして欲しくないの」

人に強制しないだけ、御剣とは違って現実は見えているということか――

「考えておきます――」

私は適当に答えて陸島たちと別れようとした――

「――ッ!?」

しかし、その動きはホール中に広がる轟音で止められた。

「な、何!?」

この場に居る全員が周りを見渡す中、私は階段がシャッターで塞がれた瞬間を見ていた。

~♪~♪

複数のPDAが騒がしく鳴り響き、その音が不安を煽っていた。

(……何か、仕掛けてきたか――)

全員が急いでPDAを取り出しているのに対して、私は冷静にPDAの画面をタップして音を消した――

PDAの画面を押すと現れたのは、スミスという不気味な南瓜のキャラクターだった。

どうやらシークレットゲームのマスコットキャラらしく、彼はエクストラゲームというものを提案してきた。

『――PDAが最初から無くなっていた、って可哀想だよね? そう思うよね?』

『うんうん……皆の憐れむ声が聞こえるよ』

どうやらPDAを所持していない北条に対してチャンスを与えようとしているらしい。

『だから、僕はそのプレイヤーにチャンスを与えようと思うんだ!』

「チャンス……!」

陸島のPDAを覗いていた北条の目が大きく見開かれる。

『そのチャンスっていうのは、誰かを殺害した場合に、その殺害されたプレイヤーのPDAの解除条件をそのまま使えるようになる、っていうものさ! あ、これはPDAを持ってないプレイヤーだけのものだから、注意してね』

「殺害って……ッ!!」

陸島が主催者の外道なやり方に怒りをあらわにしていた。

『あと、3階へ上がる階段と、1階へ降りる階段はシャッターで締まってるから、必然的に皆2階でしか行動できなくなっているよ!』

ということは、いまプレイヤーの全員が2階にいるということを意味しているのだろうか。

『ゲームの終了条件は、誰かが1人が殺害するまで! PDAを持ってないプレイヤーに殺されないように気を付けてね! もちろん、他の人が誰かを殺して終わらせても良いよ!』

『え? それだと全員に平等じゃない? 確かにそうだね。だから、殺害に成功したプレイヤーには今後の戦いで役に立つ強力な武器セットをプレゼントするよ! 中身については秘密だから、お楽しみにね!』

(……強力な武器、か)

それを誰かに手にいれられるのは不味いため、回収しておきたいところである。

『ゲーム開始は30分後! それまでは全面戦闘禁止エリアにしておくよ! あ、あと、開始後は全面戦闘許可だから、戦闘禁止エリアでも戦えるから、安心してねー!』

(本格的に潰し合いをさせようってことか)

まあ、これは私にとってもチャンスだろう。

このゲームを理由にして誰かを殺害すれば、麗佳も納得してくれるに違いない――

『それじゃ……エクストラゲーム開始まで、戦いの準備をしておいてねー』

一方的に話を進ませて、スミスは画面から消えてしまった。








「……こんなふざけた事に乗っては駄目よ!」

陸島が悔しそうな顔をして声を上げる。

「チャンス……生き残れるかもしれない、チャンス――」

「かりんちゃん、駄目よ! これは主催者が仕掛けてきた罠よ!」

絶望しかない地獄の果てに降りてきた救いの手に、北条は今にも掴み出そうとしていた。

「……死にたくない。死にたく……ない……。私は、生きたい――」

「かりんちゃん!! 待って!!」

陸島の手を振りほどいて、北条が走り出した。

こうなってしまえば、彼女を止める術は何も残されていないだろう――

北条のあとを陸島が追い、その後に色条も続いて行った。


私たちは……

1.陸島たちのあとを追う

2.エクストラゲームに向けて武器を整える

3.階段前に居る

4.その他

>>304
>>305
>>306

>>306のコンマ下二桁によって安価を決定
 
00~33 >>304
34~66 >>305
67~99 >>306

2 

2

「晶……」

麗佳が不安な顔をしてこちらを見てきた。

「エクストラゲームに向けて、武器を整えよう。葉月さんは拳銃を持っているみたいだからね」

私は、このエクストラゲームに乗らない人物はあまりいないと思っている。

そのため、武装を怠ってはいけないと判断している。

戦闘禁止エリアも使用できないため、完全に逃げ場がないというのもなかなか厳しいだろう――



私たちはエクストラゲームが始まるまでに……

コンマ判定1個下

00~05 拳銃を見つける

06~10 ボウガンを見つける

11~70 ナイフを見つける

71~80 スモークグレネードを見つける

81~99 何も見つけない

【18:00】

『エクストラゲ~~~ム! スタ~~ト~~~~~~!!』

不気味な声の掛け声とともに、エクストラゲームが始まった――

やはり2階ということもあってか、私たちは結局飛び道具を見つける事は出来なかった。

(まあ、それは他の人も一緒の条件だから……)

メインとなる武器がナイフであるため、私の拳も十分な武器となるだろう。

「……ねぇ。晶はこのゲームに乗る気なの?」

麗佳が歩みを止めて私に問う。

まあ、殺害ということに対して拒絶があるのは仕方ないか――


私は……

1.そうだ、と言う

2.乗らない、と言う

3.もし麗佳が私の状況ならどうするか、と聞く

4.分からない、と言う

5.何も言わない

6.その他

>>310
>>311
>>312

>>312のコンマ下二桁によって安価を決定
 
00~33 >>310
34~66 >>311
67~99 >>312

3+自分や友人の命が掛っているのならば綺麗事は言えないと言う

>>310

>>310

私は答え方をいろいろ考えた末に、麗佳に少し意地の悪い質問をすることにした。

「……もし麗佳が私の状況なら、どうする?」

「え……?」

「麗佳がJOKERだったら、このエクストラゲームに乗る? それとも乗らない?」

「それは……」

麗佳なら確実に“乗る”と答えるのを分かった上で聞いている私は、かなり性格が悪いだろう。

「私の命は勿論のことだけど、麗佳の命もかかってるんだ。だから、綺麗事なんて言ってられないよ」

私は麗佳が答えを出す前に続けざまに言葉を放つ。

「……そうね」

現実が分かっていながらも私には人を殺して欲しくない、という葛藤がその言葉に込められていた。

でも、大丈夫だ――

麗佳は私のことなど心配しなくても良い――











私の手はもう、血で赤く染まりきっているのだから――

だから、麗佳をこちら側に引き込ませてやるものか――



私たちはこのあと……

00~30 襲撃される

31~60 御剣たちと出会う

61~90 陸島たちと出会う

91~99 ???

【18:30】

私たちは周囲を警戒しながら他のプレイヤーを探していた。

「取りあえず、相手が1人で襲撃しやすそうだったら私1人で行くから」

「……分かったわ」

複数人居ると襲撃しにくい上に反撃を食らうかもしれないので、ここで狙うべきなのは1人で行動している人物だと私は考えている。

できれば北条や色条の様な子供をターゲットにしたいところだが……。

「あと、危険が生じたり万が一私が危機的状況になっても、麗佳は逃げるんだ」

「……! そんなの、できるわけないじゃない……!」

私は機敏に動けると思うが、恐らく麗佳はそう上手くいくとは思えない。

そのため、麗佳には自分の命を優先に動いて貰いたかった。

「何かが起きて2人とも助かろうとして、共倒れしたら元も子も無いんだよ。だから、自分の命を常に優先するんだ」

他のプレイヤーにはこんなことを言わない。

麗佳だからこそ、私は何としてでも生き残って欲しかった。

「変よ…………やっぱり、変よ! こんなの、いつもの晶じゃない……!」

麗佳は声を震わせながら私の前に立ちはだかる。

「私は麗佳に死んでほしくないんだよ。こんなゲームだからこそ、尚更ね……」

麗佳を傷つけているのが分かっていても、これだけは譲れない――

「私だって! 私だって……晶に死んでほしくないわよ……! 自分の命を優先しろって言ってるけど、晶はそうしようとしてないじゃない!」

「麗佳……分かってく――」

どうにか麗佳を説得しようとしていた時、私の視線の延長線上に光が反射する何かが見えた。

「――ッ!!」

それが襲撃を意味すると察知した私は……

1.麗佳を横に突き飛ばす

2.その場から動かない

3.麗佳に伏せろ、と言う

4.その他

>>318
>>319
>>320

>>320のコンマ下二桁によって安価を決定
 
00~33 >>318
34~66 >>319
67~99 >>320







麗佳を抱え床に伏せる

>>318

3

携帯から報告
明日の夜あたりから更新したいと思ってます

「――麗佳!」

私は咄嗟に床を蹴り、麗佳を庇うように抱えながら床に伏せた。

床に着く前に私の目には長細い金属が目に入り、それがボウガンの矢だと気が付く――



何者かによって撃ちだされた矢は……

コンマ判定1個下

00~05 肩に刺さっていた

06~15 背中に刺さっていた

16~25 脚に刺さっていた

26~55 腕を掠めた

56~98 外れた

  99 頭部に刺さっていた

「――ッ!!」

床に叩きつけられた衝撃で息が止まりそうになる。

どうやらボウガンの矢は私たちの上を通り抜けたようで、どちらも怪我はしていないようだった。

「な、なに……?」

「麗佳! 逃げるよ!」

まだ状況が理解できていない麗佳を私は引っ張って立ち上がらせた。

(ボウガンの矢の装填にはまだ時間がかかるはず……)

私は麗佳の手を引っ張ってできるだけ相手との距離を離していく。

「あ、晶……こ、転んじゃうわ!」

「もう少しだけ我慢して! ……次の角を右に曲がるよ」

「え、えぇ!」

躓きそうになる麗佳を引き上げながら私は廊下の角を曲がり終えた――

それと同時に、矢がまるで私たちの後を追っていたかのようにして通り過ぎて行った。

「はぁ……はぁ……晶、あ、ありがとう……」

「相手はボウガンを持っていて、こっちが明らかに不利だから逃げよう」

「分かったわ!」

向こうに遠距離武器がある以上、対抗するという手段は考えられなかった。

敵がこちらに近づいてくる足音が聞こえてきたため、私たちもその場をすぐに走り始めた……。


私たちはどうやって相手を撒く……?

1.常に本気で走り、相手に見失わせる

2.相手との距離を一定に保ちながら向こうに諦めさせる

3.いや、少しずつ距離を縮めてチャンスがあれば反撃しよう

4.私を囮にして麗佳を先に逃がす

5.その他

>>330
>>331
>>332

>>332のコンマ下二桁によって安価を決定
 
00~33 >>330
34~66 >>331
67~99 >>332

2

2 ただしこまめに曲がってボウガンの射線に入らないように

【19:00】

私たちは相手との距離を一定に保つようにしながら移動し続けた。

「……諦めたみたいだね」

しばらく耳を澄ませてみても、後を追いかけている足音は聞こえなくなっていた。

「はぁ……良かった…………」

緊張の糸が解けたのか、麗佳は壁に寄りかかりながら大きく息を吐く。

「少し休憩しよう」

「そうね……」

疲れた状態でまた襲撃されるのは不味いので、私たちは一旦休憩する事にした。


私たちはこのあと……

1.武器を探す

2.ターゲットを探す

3.このままエクストラゲームが終わるのを待つ

4.階段前に戻る

5.その他

>>334
>>335
>>336

>>336のコンマ下二桁によって安価を決定
 
00~33 >>334
34~66 >>335
67~99 >>336



襲撃と罠に警戒しながら1

3

【20:00】

私たちは他のプレイヤーがエクストラゲームを終わらせるまで待機することにした。

そして、部屋に留まって1時間ほど経過したころ――

~♪~♪

麗佳の淹れたコーヒーを飲んでいると、PDAが鳴りはじめた。

『やあ、僕スミス――』

南瓜のキャラクターが表情をしきりにかえながら伝えてきたのは、エクストラゲームが終了したことについてだった。

『と、言うわけで今からルールは通常のものに戻されるから、注意してね~!』

『え、また会いたい? そうだね~僕もまた出番が来ることを祈ってるよ! それじゃ~バイバ~イ!』

スミスは一方的に話し終わると、PDAの画面から消え去った。

(北条が殺したのか……それとも他の誰かが……)

スミスは、単に誰かが殺害されてエクストラゲームが終了したということしか教えてくれなかった。

それは別にいいとして、強力な武器セットが他のプレイヤーに渡ってしまったのは不味いだろう。

こうならないように積極的に殺害しに行くべきだったかどうかは分からないが、取りあえず起きてしまった事はどうしようもない――

(私たちも早く拳銃を手に入れないと……)

いまの武装状態では、その相手にとっては良い的でしかない。

早い内に武装を強化しなくてはならないだろう。

私たちはこの後……

1.階段へ向かう

2.早めに戦闘禁止エリアに向かって睡眠を取る

3.2階を徘徊する

4.その他

>>340
>>341
>>342

>>342のコンマ下二桁によって安価を決定
 
00~33 >>340
34~66 >>341
67~99 >>342







警戒しながら1

【21:00】

私たちは特に誰と出会う事も無く階段まで戻ってきた。

出会うことは無かったが、出発して間もない頃にもう1人死亡したという通知が来ていた。

(今のところ死者は3人か……)

今後死者が次々と出てくるはずなため、私も早いところ動かなければ……。

私たちは3階で……

コンマ判定

00~30 誰かと出会う

31~60 武器・ツールボックスを見つける

61~90 銃声を耳にする

91~99 襲撃される 

休憩挟みます

【21:00】

私は部屋にあったダンボール箱の中から、換気ダクトの見取り図のツールボックスを見つけた。

そして――

(やっと、見つけた――)

手に伝わる冷たさと黒光りした形容――

私の手には拳銃が確かに握られていた。

手にした瞬間に懐かしさと、哀しさを感じてしまう。

「晶、何か見つかった?」

「……うん、見つかったよ」

私が拳銃を麗佳に見せると、目を見開いて固まってしまった。

「そ、それって……ホンモノ、なの?」

「ここに玩具があるほうが珍しいんじゃないかな?」

私は麗佳にそれを手渡してやると、彼女はその重さでこれが本物であるということを悟った。

「どうするの、これ……?」

「私が持っておくよ。これがあれば……十分に戦える」

私は銃弾を詰めて腰に拳銃をさした。

「素人の私たちに扱えるのかしら……?」

「多分、大丈夫だよ。海外だと、子供だって普通に使っているでしょ?」

「……そうね」

本当は……前回のゲームで人を襲撃したり、殺したりしているうちにすぐに慣れたからであるが――

「早いところ、麗佳の分も見つけておこう。持っているだけでも、護身に役立つだろうし」


私たちはこのあと……どうする?

>>350
>>351
>>352

>>352のコンマ下二桁によって安価を決定
 
00~33 >>350
34~66 >>351
67~99 >>352

参加者みつけてコロシに行く

無防備そうな参加者を探しつつ階段を目指す

>>351

【22:30】

(また、か……)

私たちは更に武装を強化するために4階の階段を目指して移動している。

そんな私たちに通達されたのは、更に1人死亡者が出たということだった。

死亡者はこれで合計4人となり、条件を達成した手塚を除くとゲームの参加者は残り9人である。

いつまでも麗佳の事を気に掛けて殺害できないでいると、積んでしまうかもしれない。

この拳銃を手にしたいま、躊躇していてはいけない――

「麗佳……次に誰かと会ったら、私は殺しに行くつもりだから」

だから私は、改めて麗佳に忠告しておくことにした。

「……分かったわ。でも、無茶はしないで」

「うん」

麗佳は十中八九納得したという顔をして、私に殺人の許可を出した。

(……陸島たちか御剣たちが殺りやすいか)

彼らならば襲撃は勿論の事、一度近づいてからの奇襲も容易に可能だろう。

ただ条件上、まとめて2人を殺すことができないのが問題であるが――

私たちはこのあと……

コンマ判定1個下

00~30 ?と出会う

31~60 ?と出会う

60~90 誰とも出会わない

91~99 襲撃される

【23:00】

「…………」

私たちは複数の足音を聞きつけて、気づかれないように接近していた――

「あれは……」

私の目に映ったのは3人――

御剣、姫萩、綺堂が横一列に並んで歩いていた。

(当たりを引いたな――)

幸運にも向こうはこちらに気が付いていないようだった。

「晶……」

麗佳は息を殺しながら私の方を見ている。

向こうとはまだ100メートルほど離れており、銃弾を当てるには遠いかもしれない。

私は頷きながら……

1.狙いを定めて引き金を引く(要記載:狙う人物)

2.命中率を上げるためにもう少し距離を詰める

3.確実に当てるためにかなり距離を詰める

4.接触して油断したところに奇襲をかける

5.襲撃は見送るって4階へ向かう

6.その他

>>356
>>357
>>358

>>358のコンマ下二桁によって安価を決定
 
00~33 >>356
34~66 >>357
67~99 >>358

1 綺堂

1 サクミン

(いや……ここは外せないか……)

私は構えかけた拳銃を下ろして、距離を詰めることを麗佳に伝えた。

少しずつ近寄っていくと的が大きくなっていき、細やかな動きも次第に見えてくるようになってきた。

「…………」

御剣と姫萩は真っ直ぐ歩いているみたいであるが、綺堂は2人と会話をしながらも周囲を警戒しているみたいだった。

もしかしたら、見かけに寄らず綺堂はやり手なのかもしれない――

(まあ、ここで気が付けてない時点で――)

距離は最初の時の半分ほどとなり、相手が横一列に並んでいる事もあってかなり当てやすくなっている。

(ここで決めるか……)


私は拳銃の安全放置を外し……

1.引き金を引く(要記載:狙う人物)

2.もう少し距離を詰める

3.接触して油断したところに奇襲をかける

4.襲撃を見送って4階へ向かう

5.その他

>>361
>>362
>>363

>>363のコンマ下二桁によって安価を決定
 
00~33 >>361
34~66 >>362
67~99 >>363

1 綺堂

>>361

>>361

ここまで来て狙う人物など、言うまでもないだろう――

(綺堂さん……私のために、死んでもらうよ――)

私はゴスロリを着た人物に照準を定め、そして引き金に手をかけた――

「――伏せてッ!!」

私が引き金を引き終わる直前に、照星越しに綺堂と目が合った――

しかし、私はそれに臆することなくそのまま引き金を引き切り――


私の放った銃弾は……

コンマ判定

>>365

00~60 綺堂に向かう

61~75 御剣に向かう

76~99 姫萩に向かう

>>366

00~05 背中に命中する

06~10 腹部に命中する

11~30 肩に命中する

31~50 腕に命中する

50~61 脚に命中する

61~98 外れる

  99 頭部に命中する

いけっ

今日はここまでです。

【現状】

死者(4人):漆山、???、???、???

【体調】

体 健康

心 高揚

【武器】

加藤:コンバットナイフ、サバイバルナイフ、拳銃

矢幡:ナイフ×2、スタンガン

【ツールボックス】

加藤:GPS、地図拡張機能、死亡者数表示

矢幡:GPS、換気ダクト見取り図

【PDA情報】
A 陸島

3 御剣

5 北条
6 手塚
7 色条


10
J 矢幡


JOKER 加藤

乙~
なにげに「心 高翌揚」ってのが凡ミスとか足救われたりとかで怖そうだな



>>365-366
コンマ逆だったらなぁ
当たらないよりはずっといいけど

片方だけだから渚さんが何してくるか……
銃持ってたらヤバそうだな。ゼロ距離ガンナーもいるし

「――痛ッ!!」

銃口から真っ直ぐに飛んだ弾丸は、綺堂の肩に突き刺さった。

「チッ……」

あともう少し撃つのが早ければ急所に当たっていたが、命中しただけましと考えるべきだろう。

「な、渚さん!!」

御剣がすぐに綺堂の肩を組んで移動しようとする。

ここで逃すわけにはいかない、と私はすぐに追撃をするために再び照準を定めた――

私は……

1.綺堂を狙う

2.御剣を狙う

3.姫萩を狙う

4.いや、ここは一息入れて追跡しよう

5.追撃をやめる

6.その他

>>376
>>377
>>378

>>378のコンマ下二桁によって安価を決定
 
00~33 >>376
34~66 >>377
67~99 >>378

2

1.綺堂を狙う

1

私は銃口を御剣の方へ向けた。

綺堂の動きを止めるのも必要ではあるが、先に御剣の動きを止めておいた方が始末するには楽になるはずだ――

私はこちらを見ている御剣の背中目掛けて引き金を引く――

「……ッ!」

確実に当てるつもりだった弾丸は、3人の間をすり抜けて通り過ぎてしまった。

(御剣……ッ!)

御剣の動きは私の予想の遥か上をいくものだった。

普通ならば引き金を引かれるのを見ているのなら、伏せて避けようとするだろう。

しかし、御剣は避けなかった。

避けずに綺堂を庇うようにして横に動いていたのだ。

会って間もない他人のために自分の命を賭けるなど、私には想像できなかったのだ――

「――――晶ッ!!」

一瞬止まっていた私の体が、麗佳の声によって再び動かされた。

見ると綺堂が御剣の横から拳銃を取り出してこちらに銃口を向けていた――

「――――ッ!!」

私は咄嗟の判断で床を蹴って後ろに移動する――

それと同時に銃口から銀の塊が襲いかかる――


綺堂の放った銃弾は……

コンマ判定1個下

00~50 外れる

51~55 腹部

56~65 肩

66~85 腕

86~95 脚

96~98 胸部

  99 頭部

弾丸は私のすぐ横を通り抜けて、結果的に回避に成功した。

「総一君、今のうちに……!」

「は、はい!」

肩を抑えている綺堂に続いて御剣たちが逃げ始めた。

(……逃がすか!)

ここで獲物を逃してしまえば、他のプレイヤーに横取りされてしまう可能性がある。

それに、私の的は麗佳を除くと7人と意外に少なくなっているため、ここで殺しておきたいのだ――


私たちは……

1.追跡して綺堂を狙う

2.追跡して御剣を狙う

3.追跡して姫萩を狙う

4.追跡しない

5.その他

>>382
>>383
>>384

>>384のコンマ下二桁によって安価を決定
 
00~33 >>382
34~66 >>383
67~99 >>384

「麗佳、行くよ!」

「えぇ!」

私たちはすぐさま御剣たちの後を追うことにした――

【23:30】

追跡をしてからは、私と綺堂が着かず離れずで撃ち合っていた。

(弾も残り少ないか……)

弾倉が残すところ1個となったが、ここで補充をすれば彼らを逃してしまうだろう。

「加藤さん、銃を撃つのを止めてください! 俺たちは争うつもりは無いんです!」

廊下越しに御剣の声が聞こえるが、私はそれを遮るようにして銃弾を浴びせる――

「殺し合いなんてダメです! 主催者の思う壺じゃないですか!」

肩へ突き刺さった銃弾が効いてきたのか、綺堂たちの動きが徐々に遅くなっていく。

「綺堂さん、そろそろ限界のようね?」

「はぁ……はぁ……くっ……!」

片方の肩をぶらりとさせながら、綺堂は歯を食いしばって動き続けているようだった。

「加藤さん、気づいてください……。今あなたのやってることが……間違いだということを!」

「黙りなさい。間違ってるのは御剣、あなたよ――」

綺堂が床に膝を付け、拳銃も手から落ちたのを確認した私は銃口を彼らに向けながらゆっくり近づいて行った。

「加藤さんは主催者の思惑に操られているだけです……。人を殺して生き残っても――」

「総一、くん……逃げて」

「渚、さん……?」

「私を置いて……逃げ、て。咲実ちゃんと、はや、く……!」

綺堂は床に倒れながら、御剣たちに逃げるように促していた。

「渚さんを置いていくことなんてできるわけ無いじゃないですか!」

「いいから……私のことは、いいから! 行きなさい!」

綺堂の痛烈な怒声が廊下中に響き渡り、一瞬無の空間が創られた。

その瞬間に、御剣は何も言うことなく姫萩の手を引いてその場を走り出した。


私は……

1.動けない綺堂を殺す

2.綺堂のことは麗佳に任せておいて、御剣たちを狙いに行く

3.その他

>>386
>>387
>>388

>>388のコンマ下二桁によって安価を決定
 
00~33 >>386
34~66 >>387
67~99 >>388

1

今日はここまでです。

【現状】

死者(4人):漆山、???、???、???

【体調】

体 健康

心 昂揚

【武器】

加藤:コンバットナイフ、サバイバルナイフ、拳銃

矢幡:ナイフ×2、スタンガン

【ツールボックス】

加藤:GPS、地図拡張機能、死亡者数表示

矢幡:GPS、換気ダクト見取り図

【PDA情報】
A 陸島

3 御剣

5 北条
6 手塚
7 色条


10
J 矢幡


JOKER 加藤

私は御剣と姫萩の姿が見えなくなったのを確認し終わると、綺堂に向けて引き金を引いた。

「ぐッ……!!」

綺堂の顔に苦しみが浮かぶのを見ながら私は綺堂に近づく――

「悪いわね、綺堂さん……。でも、すぐ楽にしてあげるわ」

私は銃口を綺堂に向けて、確かに狙いを定めた。







「あなた……リピーター、ね…………」

「な……!?」

“リピーター”という単語を耳にした瞬間に、私の心は酷く動揺した。

「リピーター……?」

後ろに居た麗佳の不可解な声が、私の背筋を凍らせた。

「私もリピーター、だから、いまの、あなたの目を、見た瞬間に分かった、のよ……」

無意識のうちに私は引き金を引いていた――

「……手塚君よりも、冷徹で、人殺しに対して、躊躇いの無い、慣れた……目――」

「黙れ……ッ!」

連発して撃つが、銃弾は殆ど綺堂に当たらなかった。

「私には、誤魔化せないわ……。私と同じ、だから――」

「黙れ!」

引き金を何度も引くが、銃口からは虚しい金属音だけが流れた。

「晶……リピーターって……」

「麗佳、出鱈目だこんな事!」

私は大声を上げながら、麗佳の方へ振り向く――

「麗佳ちゃん……どうして、晶ちゃんがこんなにも殺人に躊躇が無くて、しかも銃の扱いに慣れているか、わかる……?」

「そ、それは…………」

麗佳は綺堂に対しての反論を考えているが、何も言えないでいた。

「それはね……晶ちゃんが、このゲームに参加したことが、あるからよ……。今までに、そうだと考えられるような、行動は無かった……?」

「黙れッ!!」

私は綺堂の胸倉を掴み、顔面を思いっきり殴った。

「…………麗佳ちゃんの、知っている、晶ちゃんは――」

私は腰からナイフを取り出して綺堂の胸に突き刺した。

返り血など気にする事も無く、奥深くに刺し込んだ――

「…………」

“居ない”――

綺堂は最期にそう呟いて、息を引き取った――

【24:30】

気が付けばゲーム開始から1日が経過していた――

綺堂を殺害した後、PDAを確認すると彼女のPDAは“K”であるということが分かった。

ようやく1人目の殺害に成功して、少しだけ余裕が出来た――と、言う気にはなれなかった。

「…………」

いつものように麗佳の淹れたコーヒーの飲んで休憩をしているというのに、いつものような居心地の良さは感じらない。

それどころか、緊張と不安が入り交ざったような、張り詰めた空気が部屋の中を支配していた――

「…………」

私は綺堂が死に際に零した言葉を、頭の中で一言一句何度も再生していた。


“リピーター”、“人殺し”、“居ない”――


誰にそのことを言われようが、気にはしないだろう。

しかし、それを麗佳に聞かれるのだけは――

「……ねぇ、晶」

「ぁ…………れい、か…………」

気が付くと麗佳の心配そうな顔が私の目の前にあった。

「大丈夫? 顔色が悪そうだけど……」

「う、うん……大丈夫…………」

私は麗佳の目を直視することが出来なかった。

いまの私は、化けの皮を剥がれた醜い獣だから。

そんな獣が、清純な麗佳の近くに居てはならないだろう――

「……渚さんが、言っていた事。本当、なの……?」

麗佳が言葉を詰まらせながら、そのような問いをかけてくる――

私は……

1.無言のまま何も言わない

2.あれは全部出鱈目だ、と言う

3.話題をすり替える

4.答えられない、と言う

5.その他

>>396
>>397
>>398

>>398のコンマ下二桁によって安価を決定
 
00~33 >>396
34~66 >>397
67~99 >>398


3

肯定する

5ごめんなさい今は言えないは、でも今は私を信じて欲しい

「そうだよ」

暫くの沈黙の後、私の口から出たのは肯定の言葉だった。

「……じゃあ、リピーターっていうのも……その、殺人も――」

「うん、本当……」

私はぽつりぽつりと前回のゲームについて麗佳に話し始めた――

【25:00】

「――それで、また今回のゲームに参加させられたんだ」

私は麗佳に何一つ隠すことなく話した。

何度か心が折れそうになったが、どうにか踏ん張って最後まで言い切ることが出来た。

「……私は麗佳に軽蔑されても良い。でも、麗佳だけは守りたいんだ」

私は理由がどうであれ、2人の人間……そして今回のゲームで3人を殺めた殺人者であることに間違いはないだろう。

それをどう受け止めるかは麗佳次第だ――

「…………」

麗佳の目に雫が浮かび始め、それが重力によって彼女の頬を伝っていく――

やはり麗佳にはショックが大きすぎたか、と私は目を瞑って俯く。

「綺堂さんが言った通り、もう麗佳の知っている私は――」

そんな私の体に突然何かがぶつかってきた。

「……麗佳――」

「そんな事……言わないでよ……! 晶は、晶なの! 何があっても、晶は私の知っている晶よ……っ!」

麗佳が私の胸の中で泣きじゃくる。

「麗佳……っ――」

私は麗佳を抱き返そうと手を後ろに回したが、それから進むことが出来なかった。

いまの私の手では彼女の白いワンピースを“血”で染めてしまうだろうから――

「私、気づいてあげられなかった……! 晶が苦しい思いをしてるのに、何も知らないで……っ」

「麗佳は悪くないよ……。悪いのは、言わなかった私の方だから――」

麗佳に嫌われたくないから、縁を切られたくないから――

親友のことを信用しきることができなかった私が、全て悪いのだ――

「……これから、私が居るから。晶のこと、絶対に1人にしないから。だから、2人でこのゲームをクリアしましょう?」

「うん……そうだね。……ありがとう、麗佳――」

私は麗佳に悟られないよう、息を殺して泣いた――


私たちはこのあと……どうする?

>>404
>>405
>>406

>>406のコンマ下二桁によって安価を決定
 
00~33 >>404
34~66 >>405
67~99 >>406


戦闘禁止エリアへ向かう

麗佳にお礼言ってから、渚さんの首輪とPDAを奪う

武器を探す

今日はここまでです。

【現状】

死者(5人):漆山、、綺堂、???、???、???

【体調】

体 健康

心 安心・罪悪

【武器】

加藤:コンバットナイフ、サバイバルナイフ、拳銃

矢幡:ナイフ×2、スタンガン、拳銃

【ツールボックス】

加藤:GPS、地図拡張機能、死亡者数表示

矢幡:GPS、換気ダクト見取り図

【PDA情報】
A 陸島

3 御剣

5 北条
6 手塚
7 色条


10
J 矢幡

K 綺堂
JOKER 加藤

【26:00】

麗佳との絆を再度感じ終わった後、私たちは新たな武器を探し回っていた。

綺堂のPDAはKなので、私は奇数のプレイヤーをもう1人殺害する必要がある。

いま分かっているPDAが奇数のプレイヤーは……Aの陸島、3の御剣、5の北条、7の色条、そしてJの麗佳――

(実質、5人か……)

まだ不明な9はともかくとして、他の4人は狙いやすいだろう。

前回のゲームと比べて死者が出るスピードが速いため、あまり呑気にしているとターゲットがいなくなってしまう可能性がある。

(いや、北条が5とか限らない、か……)

エクストラゲームで北条が殺害に成功していた場合、PDAが5から他のPDAに変化しているため迂闊には手を出せないだろう。

そうなると、確実に狙うことが出来るのは陸島、御剣、色条の3人となる。

(厳しくなってきたな)

死者は5人で、その内分かっているのは漆山と綺堂の2人。

残りの3人に陸島や色条が含まれているとしたら、的はどんどん絞られていくことになる。

何はともあれ、奇数のプレイヤーを見つけたら意地でも殺害するべきだろう――


私たちが手に入れた武器は……?

※階数にそぐわない物にはペナルティー

>>
>>

>>413
>>414

ドアの開閉や施錠が出来るツール

拳銃

私たちが手に入れたのはドアのリモートコントローラーと拳銃だった。

リモートコントローラは私のPDAに導入し、拳銃は麗佳の持っていた綺堂の拳銃よりも扱いやすいものだったので、交換する事にした。

「晶、そろそろ睡眠を取るべきじゃない?」

麗佳が少し眠そうな顔をしながらそう言う。

「そういえば……もう1日以上経過していたんだっけ……」

色々と有り過ぎて時間の感覚が狂っていたが、既に時間はゲーム開始から26時間を過ぎていた。

1日のほとんどを移動に費やし、何度か戦闘もあった。

そう考え始めると、一気に疲れが押し寄せてくるような感じがした――


私たちは……

1.ここで睡眠を取る

2.戦闘禁止エリアで睡眠を取る

3.睡眠は先送りにする

4.その他

>>416
>>417
>>418

>>418のコンマ下二桁によって安価を決定
 
00~33 >>416
34~66 >>417
67~99 >>418

禁止エリアが近ければ2
遠いようであれば1

2

「戦闘禁止エリアに行こう。ここで寝るのは危険だろうし」

「えぇ、分かったわ」

私たちは体に振りかかる疲れを押しのけて歩き始めた……。


私たちは移動途中に……。

コンマ判定1個下

00~30 死体を見つける

31~40 ?と出会う

41~60 ?と出会う

61~99 誰とも出会わない

すみません、早いですが今日はここまでにします。

携帯から報告します。
今日から土曜日まで予定が詰まっているので、更新は早くて日曜日の夕方からになると思います。

【27:30】

私たちは移動途中で誰とも出会うことなく戦闘禁止エリアまで辿り着いた。

「……麗佳、お疲れ様」

「ありがとう……」

私は椅子に座っている麗佳に熱いお茶を渡す。

今日一日でかなりの距離を歩いたため、足の裏に痛みを感じる――

「ここは一応安全だから、気を緩ませても大丈夫だよ」

「えぇ、分かっているわ。でも、全然実感が沸かないから……」

確かにここは他の部屋と比べて生活設備が整っているだけであって、ゲームの建物の一部である。

だから、たった扉一枚を境にして本当にここが安全なのか、と疑ってしまうのは無理もないだろう。

「2人で寝るというのは不味いだろうから、どっちが先か決めようか。あと、睡眠時間もね」

「そうね……」


寝る順番と睡眠時間は……

※睡眠時間も要記載

1.麗佳が先

2.私が先

3.二人で寝る

4.その他

>>435
>>436
>>437

>>437のコンマ下二桁によって安価を決定
 
00~33 >>435
34~66 >>436
67~99 >>437

1

4、入り口にバリケード もしくは音が鳴るよう仕掛けをしてレイカが先。

>>436

【28:00】

話し合いの末、麗佳が先に寝る事にした。

また、睡眠時間は取りあえず3時間交代で様子を見ることにした。


戦闘禁止エリアの扉の前に家具のバリケードを築き終わり、その後私はシャワーを浴びて汗を流している。

「…………」

プロボクサーを辞めて1年以上が経っているからであろう、前回のゲームと比べて体に疲れがかなり溜まっている。

正直、綺堂の銃弾が外れたのは運が良かっただけであって、本来なら食らっていたはずだろう。

麗佳には大きな口をきいてしまったが、今後もしっかりと麗佳を守ることが出来るだろうか――

(もし、私が死んだら――)

きっと、麗佳はきっと悲しむだろう。

いや、今考えるのはそのようなことではない――

(……麗佳も、死ぬ可能性が高い)

麗佳のPDAはJであり、24時間以上行動を一緒にしたプレイヤーが72時間生存しなければならない。

そうなると、いま麗佳と長時間行動しているのは私一人であり、その私が死亡すれば麗佳の条件を満たすプレイヤーがいなくなってしまうのだ。

(どうするか……)

私は……どうするべき?

1.他に仲間を増やしたほうがいいかもしれない

2.私が生き残れば良いだけなので、他に仲間は必要ない

3.まずは自分の条件を満たすことに集中する

4.このことについては考えない事にする

5.その他

>>439
>>440
>>441

>>441のコンマ下二桁によって安価を決定
 
00~33 >>439
34~66 >>440
67~99 >>441




2

3

(……仲間は必要ない、か)

私がヘマをして死ななければ良いだけであるし、何より麗佳が他のプレイヤーと一緒に行動したがらない可能性が高い。

それに、かなり加速しているこのゲームの中で新たに手を組もうとするプレイヤーがいるとも考えられなかった。

「……麗佳――」

彼女は一件平静を装っているが、心の中は不安と恐怖で埋め尽くされているはずだ。

そんな彼女を私は守り通して、何事も無かったかのように元の世界へ連れて帰らなければならない。

きっとそれが、私に与えられた使命だろう――



あの時――絶望の世界にいた――私を麗佳が救ってくれた時の様に――



「やっと、ちゃんとした恩返しができそうだよ――」



今後は私が麗佳を――この血まみれた地獄から――救って見せる――



【34:00】

私たちは約束通り3時間交代で睡眠を取った。

戦闘禁止エリアに来たプレイヤーは居らず、特に問題は何も無かった。

私が寝ている間に1階が侵入禁止エリアになっていたが、ここ3階は16時間後なので気にすることは無いだろう。


私たちはこのあとどうする?

>>443
>>444
>>445

>>445のコンマ下二桁によって安価を決定
 
00~33 >>443
34~66 >>444
67~99 >>445

探索

探索しつつレイカに前回のことについて、ある程度を話す。

>>444

【37:00】

私たちは3階をしばらく探索する事にした。

私たちが手に入れたものは……?

>>447
>>448
>>449

同じ階数に何人が存在するか判るツール(生存者のみ判明、死者は数えない)

スモークグレネード

サブマシンガン

私たちが手に入れたのは同階の生存者数表示のツールボックスとスモークグレネード、そしてサブマシンガンだった。

ただ、サブマシンガンは音だけが立派なだけであって銃口から放出されるものは遊技銃の弾丸だった。

つまりは、リアリティのあるエアガン――玩具というわけである。

「……脅しに少しくらい使えそうね」

麗佳は軽いそれを困惑した顔で見ながらそんな事を言う。

「まあ、一応持って行こう。素肌に当たればそれなりに痛いだろうし」

手に入れたツールボックスは私のPDAに導入して人数を確認すると、画面に表示された数字は“3”だった。

つまり、3階には私たち以外のプレイヤーが1人いるということになる。

「ねぇ、晶」

「うん、どうしたの?」

「……前回のゲームのことについて、教えて貰えない? 無理だったら、いいけれど」

麗佳にはゲームのことについて大まかに話しているが、詳細を知りたくなったのだろうか――

「……いいよ」

どんな私でも麗佳は認めてくれる。

だから、私は躊躇うことなく前回の事について話し始めた――

「――だから、前回の解除条件は平和的なものだったんだ」

「今回と比べると少し殺害系の解除条件が多かったから、私は協力者を作ることにしたんだ」

「そして、ゲーム開始6時間までに集めたのは2人だった。でも、他に孤立しているプレイヤーたちに比べると私たちのほうが有利だ、と思っていた」

「2人とも人柄が良い男で、私も当時はボクシングをしていたし、少しだけ安心していたんだ……」

「でも、戦闘が解禁されるな否や、1人の男が血相を変えて私に襲いかかってきた。ボクシングをしていることを言っていなかったから、向こうには格好の的に見えたんだと思うよ」

「……私は反射的に男に反撃したんだ。本気だったから、男は葉月さんの時よりも吹っ飛んで床に倒れていたけど、気絶していると思った」

「……もうひとりの男が確認しに行くと、その男は死んでいたんだ。倒れた時に頭を打って、その打ち所が悪かったんだよ」

「私はその瞬間に異常な喪失感に襲われたんだ。殺してしまった、意図していないと言っても……私はもう、殺人者なんだって――」

「――その後はもう1人の男と一緒に行動し続けたんだ。殺人を犯してしまった私のことを励そうとしてくれたよ」

「……でもね、そいつも所詮は最初の男と一緒だった。私が少し気を抜いた瞬間を狙って、下衆な事をしようとしてきたんだ」

「私はそいつをボコボコにした。一瞬でも、他人を信じてしまった私自身に対しての怒りも込めて、ね」

「――それからはもう誰も信じることが出来なくなって、独りで黙々と行動し続けていたよ。何度も襲撃をされたり、逆にし返したり……」

「そして、ゲーム終盤に逆恨みしてきたその男に再開して……私は容赦無く彼を殺した。今度は、私の“意志”で殺したんだ。このゲーム、主催者、襲撃してきたプレイヤー、そして彼への怒りを全部ぶつけた――」

「……ゲームが終わった瞬間に私は自分に恐怖した。私も、殺した2人と“同類”なんだってね」

「……違うわ。晶は何も悪くないし、その2人と同類でもないわよ……!」

麗佳が唇を噛みながら私の手を握ってきた。

「ううん、私はどうしようもない人間だよ。結局、私はこの“世界”を利用して、私利私欲に行動したんだ。もう、この世界に私は汚染されてしまっているんだ――」

だから、綺堂のことも躊躇い無く襲撃して、殺害もできた――

「そうやって自分の事を傷つけるのは止めてよ……っ! 悪いのは全部このゲームの主催者なんだから!」

泣き虫の麗佳は、また私の胸に顔を埋めて抱き着いてくる。

「……それは言い訳だよ。私の解除条件は殺人が必要なかったんだから、本来なら誰も殺さないで居られたはずだよ」

「それでも、晶は悪くない……! 悪くないの! お願いだから、これ以上自分を責めないでよ……!」

「…………っ――」

こちらを見上げる麗佳を見て、私の心から少しずつ感情が漏れ始めていた。

「晶……ッ!」

「私は、駄目なんだ。こんな血塗られた手で、麗佳を……」

抱きしめる事は許されない――

「麗佳を…………っ」

抱きしめる、事は――

「……れい、か。麗佳――ッ!」

「晶……」

もう、私の感情を理性で抑え切れることができなかった。

華奢な体を、私は強く抱きしめていた――

「麗佳……どうして、こんな、私を……っ」

「晶は私の親友だから、かけがえのない存在だからよ。私から見れば……晶は“泣き虫な王子様”、ね。ふふふ……」

見事に言い返されてしまって、私は泣きながら笑ってしまった。

「ふふ……私の負けだよ」

「たまには私が勝っても良いじゃない?」

「うん、そうだね。……麗佳――」

「ん……何――」

私は麗佳の頬に手を当ててサッと顔を近づけて――

「ん――っ! ん、んん…………」

最初こそは驚いた表情を見せたものの、麗佳は次第に肩の力を抜いて身を委ねてくる。

「い、いきなりなんて、ず、ズルよ……」

名残惜しそうに離された舌は、まだ求めているようだった。

「……私は麗佳の事が好きだよ」

「馬鹿……言葉と行動が逆じゃない…………」

私たちはしばらくの間、お互いに抱き続けた……。

今日はここまでです。

【現状】

死者(5人):漆山、、綺堂、???、???、???

【体調】

体 健康、疲労(小)

心 解放

【武器】

加藤:コンバットナイフ、サバイバルナイフ、拳銃

矢幡:ナイフ×2、スタンガン、拳銃、サブマシンガン(玩具)

【ツールボックス】

加藤:GPS、地図拡張機能、死亡者数表示、同階の生存者数表示

矢幡:GPS、換気ダクト見取り図

【PDA情報】
A 陸島

3 御剣

5 北条
6 手塚
7 色条


10
J 矢幡

K 綺堂
JOKER 加藤

【連絡】
しばらく更新が出来なくなると思います。いつ更新再開するかどうかも不明です。

いまから更新していこうと思います。

【38:00】

あと2時間もすれば2階が戦闘禁止エリアになる――

こうして徐々にフィールドが狭くなっていくにつれて、ゲームが着々と終焉へ進んでいるということがひしひしと感じられる。

私はあと1人――PDAが奇数のプレイヤーを殺害しなければならない。

早いところ手を打たなければならないが、ツール無しでプレイヤーと遭遇するのはかなり難しい。

それに加えて3階には私たちの他にプレイヤーがいないため、ジャマー機能を使用しない以外にこの階でプレイヤーと接触することはないだろう。

私たちはこのあと……どうする?

>>467
>>468
>>469

>>469のコンマ下二桁によって安価を決定
 
00~33 >>467
34~66 >>468
67~99 >>469

上に向かう

>>467

>>467

博士「ようやくできたワイ。 わしが研究に研究を積み重ねて作った
最高の作品!! くっくっく、さぁ、起動せよ。アトゥム!!」


ブゥゥゥゥン プシュー



アトゥム「こんにちは 博士。」

博士「よしっ!  起動成功じゃ!! わしの性欲処理を手伝うのじゃ。アトゥム!!」

【40:00】

2階が侵入禁止エリアになったと同時に私たちは4階へ到着した。

同階には私たちの他に4人のプレイヤーがいるみたいである。

「探知系のソフトウェアがそろそろ使われてくるだろうから、注意していこう」

「探知系、って?」

「画面にPDAの位置や首輪の位置を表示するものだよ。逆にそれを防ぐジャマーソフトもあるし」

「厳しくなってくるのね……」

探知系のソフトウェアをもっていない私たちは、持っているプレイヤーにとってすれば格好の的である。

どれだけ注意していても奇襲をすべて免れるのは難しいだろう……。

私たちはこのあと……

コンマ判定1個下

00~30 武器・ツールボックスを見つける

31~40 ???と出会う

41~50 ???と出会う

51~60 ???と出会う

61~90 死体を見つける

91~99 奇襲される

【42:00】

私たちは4階を探索することにした。

今まで以上に警戒度を高めているため、あまり早く進むことが出来なかった。

私たちが手に入れた物は?

※階数にそぐわないものはペナルティーが課されます。

>>474

>>475

催涙ガス

手榴弾

6月11日(1日目)、AM4:36――

金城玲奈(女子3番)は、学校で――いや、市内でもトップクラスの金持ちを両親に持つ子供だった。
父親は政府の役人、母親は人気デザイナー。
何一つ不自由なく、1人娘として甘やかされて育ってきた。
そんな環境が、玲奈を高飛車な性格にしたと言っても過言ではない。
誰よりも、自分が素晴らしい。
他の人間は、ただのクズ。
玲奈の高慢な性格が、他の人から嫌われようが関係無い。
所詮、恵まれない負け犬の遠吠えだ。
そんな玲奈が、プログラムに選ばれてしまった。
予想外の出来事だった。
まさか、この自分にそんな不幸が巡ってこようとは。
例え選ばれたとしても、父親の力で何とかしてくれると思っていた。
しかし、何ともしてくれなかった。
…ふざけるんじゃないわよ、どうしてこのあたしがこんな茶番に付き合わされなければならない訳?
あたしを誰だと思ってるの?
そこらのクズとは違うのよ!?
政府の連中に言ってやりたかった。
しかし、敢えて口には出さなかった。
だってそうでしょ?
思ったままに口にするなんて、バカのすることよ。
栗原もバカよね、わざわざ自分から死ぬような真似して…
死にたくない。
死ぬわけにはいかない。
こんなクズたちの為に、自分が死ぬなんて嫌だ。
そんな玲奈の出した結論は、たった1つ。
あたしが、優勝すればいい。
そうだ、自分が死なないなら、他のクズが[ピーーー]ばいい。
生きるべきは、あたし――

 

玲奈は支給されたデイパックの中に入っていた武器、サバイバルナイフを自分のスカートの腰の部分に挟んでいる。
鞘から抜けば、すぐに使える状態だ。

目の前にいる、獲物に向かって――

「玲奈、何か考え事?」
「何でもないわ」

玲奈は冷めた表情の獲物――桐島伊吹(女子4番)に向かって微笑んだ。

伊吹との付き合いは中学生になってからだ。

傍から見れば、伊吹を中心として玲奈・中原朝子(女子13番)・三河睦(女子17番)が周りを取り巻いているように見えるかもしれない。
事実、何かあったときには伊吹が中心だが。

しかし、実際はそんなに深い関係があるわけではない。
『互いに干渉しない』がモットーだ。
学校では一緒にいるだけ、4人はそんな関係だ。

表向きはそれなりに仲が良いが、裏ではそれぞれ何を考えているのかわからない。
もちろん、玲奈は朝子も睦も、伊吹さえも見下していた。
伊吹は何も考えていないだろう、他人には興味を持たない人間なので。

「ありがとうね、待っててくれて。心細かったのよ、こんな状況になっちゃって…」
「いいのよ、あたしも同じよ、伊吹」

嘘だ、別に心細くなんかない。
別に誰でも良かったが、どうせなら比較的能力の高そうな伊吹から殺そうと考えた。
最初が良ければ、調子に乗っていけそうなので。

フフ、前々から気に入らなかったのよ。
すました顔して、わけわからないんだもの。
その顔、もうすぐ恐怖で歪ませてあげるわ。
でも、その前に――

「ねえ、伊吹?」

玲奈が呼びかけると、伊吹は振り返った。

「何?」
「あのね、あなたの武器は何だったのかしら、と思って」

伊吹が怪訝そうな表情を浮かべる。
危ない、伊吹は勘がいい。
武器を知らなければならない理由は簡単だ、殺そうと襲ったはいいが、返り討ちにされてはたまらない。
仮に銃(いわゆる当たり武器は、この手の飛び道具だろう。一応サバイバルナイフも当たりの部類か?)を持っているなら、作戦を考えなければならない。
もちろん、そんな事を言えるはずがない。

「そんな顔しないで。ほら、急に誰かが出てきた時とか…危ないじゃない?念のためよ、ね?」
「あ…あぁ、そうよね」

伊吹がデイパックの中を漁った。
外れなら文句なし、ナイフの類もまあいいだろう。
とにかく、銃のような物でなければ、何でもいい。

「…これなのよ」

玲奈は伊吹の手にあるものを見た。
思わず口許が緩みそうになる。

「傷の手当てには一役買ってくれそうよね」

伊吹が苦笑する。
玲奈も笑った。
伊吹が笑うなら、隠す必要もないだろう。
伊吹の手にあるもの、それは何の変哲もないポケットティッシュだった。
外れ武器だ、どう考えても。
ふふ、所詮クズはクズらしい武器を貰っておけばいいのよ!
お似合いじゃないの!

「…で、玲奈は何なのよ?」

玲奈はにっこり微笑んだ。
風が吹き、玲奈の茶色のウェーブのかかった髪が揺れる。
作戦、決行。

「あたし? あたしは――」

すっと背中に右手を回し、サバイバルナイフの柄を持つと、鞘から引き抜く。
その勢いで、それを伊吹に向かって振る。
伊吹の前髪が数本、宙を舞う。

「れ…玲奈?」
「あたしの武器、これよ?中々の当たり武器だと思わない?」

玲奈はサバイバルナイフを振り回す。
伊吹はそれを間一髪で避ける。
さすが、運動神経はいいものね、伊吹。
でも…時間の問題でしょ?
伊吹の背中が1本の木の幹に付いた。
追い込んだ。

「玲奈…やめて…お願い…っ!」

伊吹が哀願している。
玲奈はくつくつと笑った。

「やめるわけないじゃない、あたしは死にたくないんだもの。そうよ、何であたしが死ななければならないの?あたしこそが生きるべき人間なのよ?あなたたちクズなんか、いらないのよ!」

「玲奈…っ」

伊吹の目には涙はない。
まあ、伊吹が泣く方が驚きだ。
とても想像はできない。
玲奈は極上の笑みを浮かべた。
街中の男が振り返るような、妖艶な笑みだった。

「あたしの為に[ピーーー]るなんて、光栄でしょう?」

玲奈はサバイバルナイフを振り上げた。
案外楽勝ね、この調子なら優勝だって余裕で――
バンッ
この会場に響いた初めての銃声が、玲奈の思考を止めた。
振り下ろしたサバイバルナイフは空を切り、玲奈は仰向けに倒れた。
その表情は、驚愕に満ちていた。
玲奈は一瞬、見た。自分に向いた、銃口を。そして、その先には――

「『あたしの為に[ピーーー]るなんて、光栄でしょう?』…か。バッカじゃないの? 自意識過剰」

伊吹は玲奈を見下ろした。玲奈の額には、1つの穴が開いていた。
そして、伊吹の手には、小型自動拳銃(FN ブローニング・ベビー)が握られ、銃口からは煙が出ていた。

「あたしの迫真の演技、中々だったでしょ?」

もう動かない玲奈に向かって、そっと囁いた。伊吹の支給武器は、ポケットティッシュなどではなかった。あれは、修学旅行の為に持ってきていたものだ。
デイパックに入れられていたものは、小型の拳銃だった。生き残る気だった伊吹は、1つの作戦を立てた。銃を持っていることを隠し、相手を騙し、[ピーーー]。心細くなどないし、仲間もいらない。偶然玲奈が支給武器を腰に仕込んでいるのを見つけたので、飛び道具でないなら大丈夫だろう、と誘っただけだ。そして、玲奈なら騙せるだろう、そう考えた。

プログラム本部となる中学校と、その南にあるアスレチック公園、その中間であるE=04を、2人の少年が歩いていた。
「おい、待てよ!」

後ろを歩く少年が声を上げる。
しかし、前を歩く少年は振り返らない。

「おい、待てって!わからなくもないけどよ、人の話を聞けっての!!おい、ケースケ!!」

ぐいっと腕を掴まれ、前を歩く少年――池田圭祐(男子3番)は振り返った。
その表情は、今にも泣き出しそうだったが無理に笑みを作っている、そんな感じだった。

「す…すんません、付き合ってもらったのに… 勝さん…」

圭祐の腕を掴んでいた真田勝(男子9番)は、手を離した。

「いや、気にすんなよ。 そんな他人な仲じゃねーんだし」

勝はその場に圭祐を座らせ、自分もその前に座った。
勝は煙草を咥え、火を点けようとしたが、止めた。
煙草の煙の臭いが嫌いな圭祐を気遣ったのだろう。

「なあ、マジでいいのか?ずっと…言いたかったんだろ?」
「…だって…あの状況を見た後に、とてもじゃないっスけど言えませんよ…」

圭祐が俯いた。
勝は溜息を吐き、煙草を箱に戻した。

「まあ、わからなくもないけどな…曽根崎…ね。 あんなチビのどこがいいんだか…」
「凪紗さんはいい子っスよ?可愛いし、優しいし、強いし…何より…」

圭祐は目を閉じた。

「こんなオレに普通に声を掛けてくれた、初めての女の子っスから…」

圭祐は曽根崎凪紗(女子10番)に恋心を抱いていた。
そのきっかけは、凪紗たちのグループと勝たちのグループが停戦協定を結んだ事だろう。
小学生の頃から、圭祐は自分にコンプレックスを感じていた。
細く小さな目つきの悪い目、中々治らなかった上に跡が残った頬のできもの、ぽっちゃりした体格――他にも色々とあるが、親譲りのものが多いので仕方がないとはいえ、嫌だった。
更に頭は悪く、運動能力は人並み。
おまけに声は元々低く、そこまで愛想も良くなかった。
お陰で、女子から話し掛けられたことはほとんどなかった。
中学生になり、勝たちと出会った。
お使いに行かされたり、面倒ごとを引き受けたりと、パシリ的存在だったが、不良は不良。
一層声を掛けてくれる者はいなくなった。
しかし、勝・新島恒彰(男子15番)・脇連太郎(男子20番)との付き合いは楽しかったので、そんな事を気にするのは止めた。
気にしていても仕方がない、今を楽しもう、と。

 「あ、ケースケ、隣だね、嬉しいな!」

停戦協定を結んだ中2の3学期の最初の席替えの時、初めてまともに凪紗と会話を交わした。
嬉しかった。
自分が横にいることが『嬉しい』と言ってくれた。
色々な話をしてくれた。

 「え? 女子が話し掛けてくれない?皆見る目ないなぁ… ケースケ、絶対いい男なのにね!人間外見じゃないよ、中身!!」

慰められたのかけなされたのかよくわからなかったが、たとえお世辞でも『いい男だ』と言ってくれたのは嬉しかった。
自分の中身を見てくれる女の子が、目の前にいる。
恋に落ちるのに、時間は掛からなかった。
だからこそ、こんなプログラムという最悪の状況になってしまったからこそ、自分の思いを伝えるつもりだった。
途中で偶然出会った勝に、ついて来てもらった。

そして――凪紗を見つけた。

体が、動かなかった。

凪紗は、凪紗といつも一緒にいた男3人組の1人、設楽海斗(男子10番)に抱きしめられ、泣いていた。

「ケースケ… どうするんだ…?」

少し気を遣ったような勝の声に我に返り、圭祐は急いでその場から離れた。
見たくなかった。
涙が出そうだった。
後ろから走って追いかけてくる勝の声にも反応せず、圭祐は凪紗たちから離れた。


どうしよう…!?
何でこんな事になっちゃったんだろう!?
濱中薫(女子14番)は泣きながら校舎を出、一目散に校門を駆け抜けた。
小柄な体ながらも、薫が所属するソフトボール部では誰にも負けない俊足を誇る薫は、20秒足らずで茂みの中に入った。

 

ぱらららっ

 

比較的近い所で、タイプライターのような音が聞こえた。
銃声だろうか?
薫は小さく悲鳴を上げ、その場にしゃがみ込んだ。
ぼろぼろと涙が溢れた。

「もう…やだぁ…っ薫、こんな所いたくないよぉ…っ!お父さん…お母さぁん…助けてぇ…っ!!」

怖い…怖い…怖い!!

普段はクラス1明るいムードメーカーである薫の姿は、どこにもなかった。
クラスメイトが殺し合わなければならない状況なので、仕方ないが。

怖い…怖い…怖い!!
助けて…誰か…助けて…

佑ちゃん…っ!!

薫の脳裏に先程起こった出来事が蘇る。
首が吹き飛んだ栗原佑(男子7番)の姿が、目に焼きついている。
完全に離れた頭と胴体。
少し前までくっついていた部分から噴き出す血。

「佑…ちゃ…ぁん…っ!」

『後輩相手に変な言い掛かりつけてんじゃねーよ、バーカ!!』

中2の初め、よそ見をしていてぶつかってしまった3年生の不良連中に絡まれた時、通りがかった佑が助けてくれた。
全身の至る所に痣を作りながらも、追い払ってくれた。

『女の子の顔殴るなんて、男の風上にも置けねぇヤツらだな!!』

連中の1人に殴られて腫れた薫の頬を見て、佑が怒っていた。
痛かったが、それ以上に嬉しかった。
助けてくれた事が。

『お礼なんていいって、男として当然の事だろ、女の子守るのは!』

傷だらけになりながら、そう笑っていた。
王子様みたい、そう思った。
大好きだった。
男気のある佑が。
小さな子のような元気な笑顔を浮かべる佑が。

『オレ…楽しかった!オレさ、このクラスになれて本当によかった!皆、大好きだぜ!だから…当分会いたくない、お別れだ!!』

最期の薫たちに向けられた言葉。
今も耳の奥に残っている。
きっと、消える事はないだろう。
大好きだった。
佑が曽根崎凪紗(女子10番)の事を好きだったのは、何となく知っていたが、そんな事は関係無い。
ただ好きでいるだけなら、本人の自由でしょ?
当分会いたくないってことは…皆に生きてって言いたかったってことだよね…?
でも…怖いよぉ…
皆を疑いたくなんかないけど…でも…でもぉ…っ

「佑ちゃん…佑ちゃん…!」

名前を呼んでも、返事があるはずはないが、薫は名前を呼び続けた。

「濱中さん…ですよね?」

D=04エリアにある中学校。
今はプログラムの会場本部となり、様々な機械などがあちこちの教室に置かれており、中学生の学び舎だとは思えない様相になっているが。
「先生!」

コンピューターと向かい合い、ヘッドホンで盗聴をしていた軍人の1人、足立(軍人)が叫んだ。
コンピューターのボタンを押すと、教室に設置されたスピーカーから声が流れた。

『オレはこのプログラムをぶっ潰す。
 でも、まさか今オレの首輪を爆破させるなんて野暮な事しないだろ?
 子供1人の戯言に弱気になるようなヤツらじゃない。そんな腰抜けなら、オレじゃなくても誰かが潰せるさ。そうだろ、筋肉男とその他諸々の野郎共』

教室内がざわめいた。
その中で、落ち着いた様子の進藤幹也(担当教官)がスポーツ刈りの頭を掻きながら足立の横に立った。

「これ、誰だい?」
「えっと…男子17番・不破千尋っスね!コイツ、ただの中坊じゃないっスよ!首輪の盗聴にも気付いて、あえてこんな事ぬかしやがったんスよ!!先生どうします、爆発させますかね!?」

進藤は頭を掻きながら、手元の資料をパラパラと捲った。
そして、爽やかな笑みを浮かべた。

「いや、しばし保留、要注意人物って事で」
「危なくないですかね?」

足立の横に座っていた田中(軍人)が口を挟んだ。
しかし、進藤は首を横に振った。

「どうせ具体案はまだないんだろ?こんな事言うやつ、クラスに1人2人はいるもんだ!それに――」

進藤は持っていた資料を2人に見せた。

「これは…トトカルチョのオッズ表?」

田中が訊いた。
進藤は頷き、千尋の部分を指差した。

「不破君、お偉いさんに大人気なんだよなぁ…成績優秀・スポーツ万能・喧嘩もできる、いい素質を持ってるしな!おまけに周りの評判もいい。 『曲者』、『悪魔』…」

「凄いっスね」

田中が思わず感嘆の声を上げた。
足立も口笛を吹いた。

「“普通の生徒”の中では1番人気だからな!首輪飛ばした日には、オレらの首も吹っ飛びかねない!」

進藤が自分の首を斬るジェスチャーをした。
「ゲッ」と足立が顔をしかめた。

「あと、他の人気は… “特別参加者”と“戦闘実験体”はもちろん大人気だな!」
「そりゃあそうっスよね!正直、オレはその2人で票が二分されると思ってたんスけど…そうでもないっスよね」

足立が進藤の手からオッズ表を取った。
進藤は頷いた。

「そうだな、正直オレもそう思ってたんだがなぁ…このクラスはいいのが揃ってるからな!でもやはり優勝はあの2人のどちらかだろうな!!」
「…そうだ!」

田中がポンッと手を合わせた。
足立と進藤が同時に田中に目を向けた。

「忘れてた、恒例のオレらのトトカルチョしません?もちろん、勝った人間が宴会費タダ!」
「お、そうだ、すっかり忘れてたなぁ!」

進藤の表情がぱあっと輝いた。
足立も「やるぞぉ!」と意気込んでいる。

「あ、トトカルチョっスか?オレも入れてくださいよ!」

教室に入ってきた西尾(軍人)が話に乗ってきた。
この4人は、何度も経験したプログラムの担当の時に、いつも宴会費を賭けてトトカルチョをしていた。

4人はソファーに腰掛けた。

「今回は、特別ルールにしません?」

田中が資料を漁った。

「“特別参加者”と“戦闘実験体”を入れるとつまらないでしょ?
 だから、この2人を除いて、誰が最後まで残るか…とか」

「…よっし、採用!!」

進藤が親指を立てて、爽やかに笑った。
歯が白く光りそうだ。

「じゃあ、オレはっと…やっぱり不破千尋だな!!
 プログラムを破壊する作戦が立てられようが立てられまいが、
 何だかんだで最後の方まで生き残りそうだ!!」

「お、さすが先生、1番人気!!」

足立が声を上げた。
自分も賭けるつもりだったのか、いささか不満げだったが。

田中は資料をまじまじと見つめ、ゆっくりと口を開けた。

「オレは…女子10番・曽根崎凪紗ですかねぇ…
 戦闘能力なら並の男子より優れてるみたいですし…
 今一緒にいる男子10番・設楽海斗も良いんですけど…」

「田中はそう来たか…じゃあ、オレは…」

足立が田中の手から資料をもぎ取った。

「やっぱ女子4番・桐島伊吹っスね!!
 なんか頭脳プレーで生き残れるタイプだし!!
 ダチを平然と殺してる事がポイントっスよね!!
 男子9番・真田勝も捨てがたいんスけど…
 いまいち情を捨てきれてなさそうっつーか…」

「そうだなぁ、上の人気も高いし、とっとと情を捨ててほしいもんだな!!」

「そうっすよねぇ!」

進藤と足立が高笑いをした。
この2人は性格が似ている、田中はあまりの騒がしさに溜息を吐いた。
そして、足立の手から資料を取り返し、西尾に渡した。

「お前は?」

「オレっスか?
 そりゃあもう、一目見た時から決まっていますとも!!」

田中は顔をしかめた。

西尾には、ある好みがある。
名付けるなら少女少年趣味、要は可愛らしい中性的な顔をした少年が好みだ。
それを知ったのは、初めて西尾と一緒にこの仕事をした時だ。
あの時は、気に入った男子生徒の写真を持って帰っていた。

「おい、どうするんだよ…」
「どうするって…言わなくてもいつかはバレるし…」

C=07エリアにあるデパートの中では男子たちの忍んだ声が聞こえた。
他に何の音もしない為、それが懐中電灯の明かりしかない暗闇の中で響くように聞こえ、それを気にしてか、その声は更に小さくなる。

「でも…言えるか?」

稲田藤馬(男子4番)が幾分沈んだ声で訊いた。

「…オレは……ちょっと……」

藤馬の相棒である斎藤穂高(男子8番)の声も、藤馬のそれに劣らず沈んでいた。
藤馬はそうだよな、と呟き、俯いた。

「なぁ…どうする、不破…」

穂高が見た先、不破千尋(男子17番)は無言でぼんやりと外を眺めていた。
脱出する為の準備作業は、今は中断されている。
それどころではなかったのだ。
つい先程あった、放送のせいで。

つい先程、進藤幹也(担当教官)の相変わらずうるさい声で放送があった。
今奥で仮眠を取っている濱中薫(女子14番)が起きなかったのが不思議なくらいだ。

次に禁止エリアになるのは、1時からは東の方にある畑の一部が入っているE=10エリア、3時からはアスレチック公園の西の一部が入っているF=2エリア、そして5時からは南側の住宅地が入っているI=06エリア。

しかし、そんな事は今はどうでもいい。
問題は、この放送で呼ばれた死者だ。
今回呼ばれたのは、「このプログラムで最多だ」と進藤が喜んでいた、6人だ。
サッカー少年だった笠井咲也(男子5番)。
真面目な姿が印象的だった津田彰臣(男子13番)。
グループは違うが千尋とは気があった不良少年の脇連太郎(男子20番)。
文学少女で将来は小説家になると豪語していた小南香澄(女子6番)。
彰臣の幼馴染で薫とは部活仲間だった高山淳(女子11番)。
――そして、12時間ほど前まではここにいた、姫川奈都希(女子15番)。

薫は寝ているのでまだ知らないだろう。
部活仲間もだが、幼馴染がもうこの世にいない事など。

「なぁ、不破ぁ…」

「…ヤな天気」

千尋がぽつりと呟いた。
全く関係のない事だったので、藤馬は文句を言おうとした。
しかし、懐中電灯の明かりで僅かに見える千尋の表情は、今までとは違う悲しげな笑みを浮かべていたので、何も言えなかった。

「今日は晴れてたら満月に近かったのにね…
 まあ、気持ちが晴れ晴れしてる人なんていないだろうし…
 丁度いい天気なのかもね…」

それだけ言い、再び千尋は黙ってしまった。
藤馬と穂高は顔を見合わせ、外を眺めた。
確かに月は確認できない。
そういえば、千尋が夕方にぼやいていた。
「明日は雨かな」、と。
皆の気持ちに天気が同調するかのように。

千尋もショックを受けているのだろう。
連太郎とは気が合っていたようだったし、帰ってくると約束していた奈都希ももういない。

朝っぱらからご苦労さんwww
マジキメエwwww

女子10番・曽根崎凪紗(そねざき・なぎさ)

部活は無所属。不良グループ1リーダー。クラス1低身長。
父親は反政府組織の人間。
父親に教え込まれ、銃の扱い・武術は得意。



外で設楽海斗(男子10番)と合流。話し掛けてきた周防悠哉(男子11番)から逃げ出す。
E=04エリアに潜伏。父親からの手紙を読み、全員を探す事を決意。麻酔銃入手。 真中那緒美(女子16番)の呼びかけ後、全員を探すために移動開始。
F=05エリアで真田勝(男子9番)に襲われるが、引き分ける。
G=06エリアで岩見智子(女子2番)・三河睦(女子17番)の死体を発見、その凄惨な光景に衝撃を受ける。 民家で矢田美晴(女子18番)と会い、仲間に誘うが拒否された為別れる。 海斗を守る事を誓う。
F=03エリアで長門悟也(男子14番)に会う。 悟也が死を受け入れている事に衝撃を受ける。
F=06エリアで悠哉から結城緋鶴(女子19番)の事を聞く。
G=06エリアで緋鶴に襲われる。負傷した海斗から緋鶴を離す為に奮闘し、麻酔弾を撃ち込むが、自身も負傷。意識を失う。ファイブセブン入手。
G=06エリアで覚醒。悠哉と羽山柾人(男子16番)に助けられていた。柾人と別れ、静養。その後悠哉と共に移動。
G=08エリアで海斗と再会。 放送後、移動。
倒れた不破千尋(男子17番)と勝を発見、2人を看取る。千尋のピアスを貰い、プログラム本部へ向かう。
本部で父の死を目の当たりにし、衝撃を受ける。爆発予定の校舎内にADGIメンバーが取り残されている事を知り、救出に向かう。竹原(元戦闘実験体)に襲われ窮地に陥るも、結城緋鷹に救われる。井上稔(ADGI)・柳瀬伊織(ADGI)を救出し、脱出の為にヘリに向かう。
ヘリ内で海斗を看取った。
失ったものの大きさに一時は抜け殻のようになるが、父からの手紙を読み、父の遺志を継ぐ為にADGIに入ることを決めた。

2年後、プログラムの妨害作戦に参戦。

 

FC2で暴れた凪紗ちゃんの2年前でした。
好き勝手に暴れてくれる凪紗ちゃんは書きやすくて好きな子です。
平穏な日は似合いません、日々喧嘩に明け暮れていた子ですからね(^_^;)

『残りは3人、頑張ってくださいね』
 

放送が切れた。

新しいクラスに変わった次の日から始まったプログラム。
恐らく今年度の第1号だ。
教室にいると、突然眠気に襲われ、気がつけばこの会場にいた。

試合の進行は遅かった。
恐らく、2日と20時間は戦い続けている。
この会場が、少し広すぎると思う。

 

“自分”はマシンガンを見つめる。
これは確か最初に殺した男子生徒が持っていた。
名前は知らない。
茶髪で肌が浅黒かった、恐らく運動部所属だろう、身のこなしが軽かった。

続いて、自動拳銃の弾数を確認する。
これは昨日の夕方に殺した女子生徒が持っていた。
1度だけ同じクラスになったことのある人。
大人しそうで、分厚いレンズをはめ込んだ眼鏡が印象的だった。

そして、地面に置かれていた探知機を手に取った。
これは、少し前に殺した男子生徒が持っていた。
名前は知らない。
血で汚れている“自分”に停戦を求めてきた彼は、恐らくクラスを束ねる委員長タイプだ。

 

“自分”は全身が赤黒く染まっていた。
自分の血は、ほとんどない。
大方殺した時に浴びた返り血だ。

キモチワルイ。

早く、終わらせたい。

 

残りは3人。

“自分”を入れて3人。

そして、残りの2人は、今こちらに向かって移動中だ。

誰かはわからない。

名簿にいちいち印などつけていないから。

知る必要もない。

どうせもうじき死ぬのだから。

姿が見えた。
向こうはこちらに気付いていない。

1人は、利発そうな男子。
自動拳銃を握り締めながら、慎重に辺りを見回している。
しかし、“自分”に気付いていないのはどうかと思う。

もう1人は、可愛らしい女子。
こちらは怪我をしているらしく、歩き方がおかしい。
持っているものは、刀だろうか。

彼女は知っている。

“自分”の、恋人の、双子の、妹。
恋人は、クラスが違うので、無事だろう。
妹の参加に反対して政府に何かをされていない限り。

2人でいるということは、“やる気”ではないのだろう。
しかし、たった2人しか生き残れないというこの状況で、残り3人しか居ない、どうする気なのだろう?

まあ、どうでもいいことだ。

殺してしまうのだから。

 

“自分”はマシンガンを構えた。
大丈夫、苦しませたりはしない。
銃の扱いには自信がある。
一思いに、殺してやる。

男子がようやく“自分”の存在に気付いた。

しかし、もう遅い。

“自分”のマシンガンが火を噴く。
同時に、2人の頭に数箇所穴が開き、2人はそのまま倒れた。

 

 

『おめでとうございます。
 禁止エリアを解除するので、本部に戻ってきてください』

 

 

まずは終わった。

長かった。

早く戻ろう。

こんな所に長居はしたくない。

早く帰りたい。

政府内部連絡文書二〇〇〇年度第〇〇〇〇四九号
総統府監房特殊企画部防衛担当官並専守防衛陸軍幕僚監部戦闘実験担当官発

共和国戦闘実験第六十八番プログラム二〇〇〇年度第一三号担当官宛

 

 次回ノ戦闘実験第六十八番プログラム対象クラス

 神奈川県四宮市立篠山中学校三年四組

 男子十九名

 女子二十名

 計三十九名

 コノクラスニハ戦闘実験体十六号ガ在籍シテイルトノコト

 

追加

 

 志願者一名

 兵庫県神戸市立春日第二中学校三年二組男子九番

 周防悠哉(スオウ・ユウヤ)

 志願理由不詳

 過去ノ戦闘経験等ナシ

 念ノタメ、動向ニハ注意スルコト

 尚、出席番号ハ男子十一番ニ入ル

神奈川県四宮市立四宮中学校3年4組について。
担任・関本美香

半数以上のクラスが学級崩壊をしている学校内では、異例のクラス。
問題児の数は他のクラスとは変わらないが、クラス内での問題は少ない。
3つに別れた問題児グループ間での問題は起きていない。
本人たち曰く、停戦状態らしい。
全体的にグループ間に隔てが少なく仲が良い。
唯一の問題は、いじめ問題だろう。
解決には、時間がかかりそうだ。

 

生徒たちに、クラスについて聞いてみた。

 

『今のクラスについて、どう思いますか?』

 

青山豪(あおやま・ごう/男子1番)

「好きだよ、仲良しなクラスだと思うしね。
 でも正直言うと、一緒にいたくない人もいるかも… 浅原は?」

浅原誠(あさはら・まこと/男子2番)

「普通だね。 レベルの高い連中もいるから。
 ただ、レベルの低いヤツに合わせるのは不満だね、ねぇ、池田」

池田圭祐(いけだ・けいすけ/男子3番)

「…それってオレの事じゃないっスかね?
 オレは結構気に入ってるっスよ、勝サンがいるっスから。 稲田は?」

稲田藤馬(いなだ・とうま/男子4番)

「オレも好き! 楽しいもんな、このクラス!
 あー早く修学旅行行きてぇな! 咲也はどうだ?」

笠井咲也(かさい・さくや/男子5番)

「オレも好きだなー、なんか落ち着ける感じ。
 怖い人もいるけど、実は結構いい人たちだしな! 次は尚!」

工藤久尚(くどう・ひさなお/男子6番)

「オレも好き、毎日楽しいし!
 休み時間が待ち遠しいよな、イエイ! 栗原どうよ?」

栗原佑(くりはら・たすく/男子7番)

「気に入ってるぜ、でもオレはケンカしてぇな…
 あと、オレをからかうのやめろ、千尋!! 斎藤もそう思わねぇ?」

斎藤穂高(さいとう・ほだか/男子8番)

「その様子は見てると楽しいんだけどねぇ…
 あ、このクラスは大好きだぜ!! 真田は?」

真田勝(さなだ・まさる/男子9番)
「見てて楽しいのは同感だな。 オレはからかわれねぇし?オレも嫌いじゃないぜ、このクラスは。 設楽もそうだろ?」

設楽海斗(したら・かいと/男子10番)
「そうか? 十分からかわれてるだろ。
 このクラスはちょっとほのぼのしすぎかもしれないな。 伊達は?」

伊達功一(だて・こういち/男子12番)
「オレは大好きだぜ、このクラス!なんせ女の子が皆可愛いのなんのって… なぁ、アキ?」

津田彰臣(つだ・あきおみ/男子13番)
「コウ、お前その軟派な性格どうにかしろよ。このクラスが好きなのは同感だけどな。 長門はどうだ?」

長門悟也(ながと・さとや/男子14番)
「いいクラスですよ、恐らく今までで最高ですね。願わくば、皆無事に卒業したいものです… ねぇ、新島君?」

新島恒彰(にいじま・つねあき/男子15番)
「あぁ? どーでもいいし、別に好きでも嫌いでもねぇよ。ケンカしてぇのは栗原のチビと同じだ。 羽山にパスだ」

羽山柾人(はやま・まさと/男子16番)

「えっと…その…ケンカは…やめた方が…あ、いや…
 僕もこのクラスは好き…多分… 不破君は?」

不破千尋(ふわ・ちひろ/男子17番)

「大好きさっ、からかい甲斐のある子が多くて多くて…
 でもさ、君はちょっとからかい辛いなぁ、由樹クン」

美作由樹(みまさか・ゆうき/男子18番)

「千尋君さぁ、かなり歪んでるよね、性格が。
 でも、僕も好きだなぁ、このクラスは楽しいしね。 康介君は?」

柚木康介(ゆのき・こうすけ/男子19番)

「ユキ君毒舌… あ、オレも好きかな。
 平和でいいよね、争い事はいけないよ。 ねぇ、脇?」

脇連太郎(わき・れんたろう/男子20番)

「平和ねぇ…オレはケンカはするからなぁ…ちょっと物足りないな。
 あ、伊達の言う事はわかるよ、すっごく。 な、梢サン?」

今岡梢(いまおか・こずえ/女子1番)

「あたしに聞かれても困るっての。
 でもこのクラスは好きだな、あ、でも…岩見さんは…」

岩見智子(いわみ・ともこ/女子2番)

「あたしは嫌い。 大っ嫌いよ、こんなクラスなんか。
 …ううん、学校が嫌いなの。 …次は誰? 金城さん?」

金城玲奈(かねしろ・れな/女子3番)

「ウジウジしてムカつくわねぇ、あなた。
 クラス? 別に好きとかじゃないわ、あたしは。 伊吹はどう?」

桐島伊吹(きりしま・いぶき/女子4番)

「別にどうでもいいわ、そんなの。
 誰が一緒だろうと、あたしは干渉しないしされないし。 はい、黒川」

黒川梨紗(くろかわ・りさ/女子5番)

「えっと…あたしは好き…かも。 楽しいもん。
 いい子がいっぱいいるし… ねぇ、香澄ちゃん?」

小南香澄(こみなみ・かすみ/女子6番)

「うん、大好き、いいクラスよ、ネタになるし!
 いつかこのクラスをモデルにした小説書くんだ! どう思う、陽子?」

坂本陽子(さかもと・ようこ/女子7番)

「それいいんじゃない? 書いたら絶対読むよ!
 友達いっぱいいるから、大好きだなぁ… 貴音サンは?」

椎名貴音(しいな・たかね/女子8番)

「いいんじゃない? 退屈しないもの。
 まあ、嫌いなタイプもいるけどね。 透子は好きでしょ?」

駿河透子(するが・とうこ/女子9番)

「うん、大好き! 全員いい子だもんね!
 副委員長やっててよかった、って思えるの! 凪紗ちゃんは?」

曽根崎凪紗(そねざき・なぎさ/女子10番)

「さすが副委員長、立派なこと言うねぇ!
 あたしも大好き、最近は勝たちとも仲良くできて… 淳は?」

高山淳(たかやま・じゅん/女子11番)

「おれも好きかな、男子もいいヤツばっかだしね。
 遊んでて楽しいよ、運動能力高いし! 敬子姐さんも遊ばないかい?」

遠江敬子(とおとうみ・けいこ/女子12番)

「皆で遊ぶのも楽しいかもしれないですね。
 私も好きですよ、毎日が充実しています。 中原さんはいかがです?」

中原朝子(なかはら・あさこ/女子13番)

「んー別に好きとか嫌いとかないなぁ、普通かな。
 ツネ君が一緒ならそれでいいの! 濱中さんは?」

濱中薫(はまなか・かおる/女子14番)

「うわ、朝子ちゃんノロケ? 暑い暑い…
 薫、このクラス大好き! 楽しい! ナッちゃんも一緒だしね!」

姫川奈都希(ひめかわ・なつき/女子15番)

「はいはい、あたしも一緒で嬉しいよ、薫。
 珍しいよね、こんなに仲の良いクラスも。 ねぇ、那緒美?」

真中那緒美(まなか・なおみ/女子16番)

「うん、珍しいねぇ…でも楽しいから良し!
 薫、絶対漫才デビューしようね! はい、三河さん!」

三河睦(みかわ・むつみ/女子17番)

「あたしは好きじゃないね、馴れ合いは嫌いなんだ。
 正直、少しウザいかも。 矢田さんは?」

矢田美晴(やだ・みはる/女子18番)

「あたしは好きよ、楽しいし…仲良い子もいるし…
 不破君さえいなけりゃもっと楽しいわよ! 緋鶴、わかってくれる?」

結城緋鶴(ゆうき・ひづる/女子19番)

「何言うとんねん、実は不破君に相手してもらえてうれしいんやろ?
 ウチも好き、転校生のウチを皆受け入れてくれて… 遼サンもね」

吉原遼(よしはら・りょう/女子20番)

「それは緋鶴ちゃんに魅力があるからじゃない?
 あたしも好きよ、一緒にいてくれる子がいるんだもの」

 

私もこのクラスが大好きだ。
担任になれてよかったと思っている。

2000年6月2日――

「稔、起きて? 稔ってば!!」
井上稔(いのうえ・みのる/ADGI)は部屋の外でドアを激しく叩く音で目を覚ました。1つ大きな欠伸をし、眠い目を擦った。

「ぁんだよ…こんな朝っぱらから…今日はバイトねぇし…寝かせてくれよぉ…」
「朝っぱらじゃない、もう11時だよ!!アンタももうすぐ二十歳なんだよ、しっかりしなさい!!それより電話だよ、電話!!」

部屋の外で母親が叫んでいる。

「あぁ…? オレいねーよ、只今外出中…」
「…いいんだね? 大槻さんって方から…急ぎの用って言ってるけど?」
「…あぁ… あぁ!? おっさん!?」

稔は慌てて飛び起きた。

今日はオレは組織には呼ばれてなかったはずだぞ?しかも急ぎの用って… 何かあったのか?

「もしもし、おっさん?」
『稔…まさかまだ寝ていたのか?』

電話の向こうでは今、大槻正樹(おおつき・まさき/ADGI)が呆れた顔をしているだろう。

「…んなことどうでもいいんだよ、それより用って何?」

『そうだった、稔、今から来れるか?』

「そりゃあ…飯食ったら…」
『それからでいい、来てくれないか。次のプログラム対象クラスがわかったんだ。それが…私たちと無関係というわけでもないんだ』

稔は顔をしかめた。
無関係じゃない…ってどういうことだろう?

稔は食事を素早く済ませ、家を出た。

車を走らせて大槻の家に着いた。

中には既に数人のメンバーがいた。

「あ、こんにちは、稔ちゃんv」

にっこりと微笑んでいる小柄な黒髪のショートカットの女性は、この中では最も歳が近い柳瀬伊織(やなせ・いおり/ADGI)。
稔の1つ上の伊織も稔と同じ、プログラムの優勝者だ。
伊織は普通に中学・高校を卒業し、看護専門学校生だ。
とても年上には見えないが。

「おそよー稔。 11時起きだって?」

爽やかな笑顔を浮かべているのは、稔より5つ上の高谷祐樹(たかや・ゆうき/ADGI)。
とても気さくで優しい、いい人だ。
高谷が何故ADGIに所属しているのかはわからないが、プログラムの優勝者ではないらしい。

「えっと…おっさんは?」

稔は辺りを見回した。
この部屋には大槻はいない。

「買い物」

不意に静かな声が聞こえ、稔は奥の部屋を覗き込んだ。
そこには長い茶髪を適当に束ねている園山シホ(そのやま・しほ/ADGI)がおり、稔と目が合うとふいっと顔を逸らした。
まだ17歳という彼女は、すべてが謎だ。
今までに何があったのか、今どこに住んでいるのか、稔は全く知らない。

「伊織姉が来た時には、もうおっさんいなかったのか?」
「うん。 でも人を呼んどいて買い物ってねぇ…」

伊織は溜息を吐いた。
そして、稔にそっと耳打ちした。

「ねぇねぇ、稔ちゃん。稔ちゃんは…シホのことどう思う?」

どうして年上の稔が“ちゃん”付けで、年下のシホが呼び捨てなのかは謎だが、それは今はどうでもいい。

「…オレ、アイツ怖い。 苦手なタイプかな。そういう伊織姉は?」
「うーん… あたしも苦手なんだよねぇ…得体の知れない子よねぇ…リーダーに聞いたら『本人が言うまで待ちなさい』って言われたし…」

2人はシホの方をちらっと見た。
シホは長細い黒のケースを大事そうに抱えている。
あの中には、シホが愛用している突撃銃(USSR AK74)が入っている。
何故そんな物騒な物を後生大事に持っているのか、それも謎だ。

因みに、伊織の言う“リーダー”とは大槻の事だ。
大槻はADGI神奈川県支部のトップなので、皆にはリーダーと呼ばれている。
稔を除いて。

「ただいま、待たせてすまなかったね」

ドアが開き、大槻が入ってきた。

「おっせーよ、おっさん! …あ、チワっす、匠サン」

稔は大槻に悪態づいたが、その後ろにいた曽根崎匠(そねざき・たくみ/ADGI)に気付き、ぺこりと頭を下げた。匠は稔が最も尊敬している人物だ。古株というわけではないが、頭も良く、銃や格闘技の腕前も卓越している。匠には1人娘がいる。稔は何度か会ったことがあるが、彼女も銃や格闘技の腕前は凄い。身長がとても低いが(“チビっこ”と呼ぶたびに怒られた)、中学3年生らしい。

「リーダー、それで、あたしたちを呼んだ用って…」

伊織が大槻を見つめた。稔と高谷も大槻を見、シホも奥の部屋から出てきた。大槻は大きく息を吐いた。

「落ち着いて聞いてくれるかな?」

それは全員に問い掛けているようだったが、視線はずっと匠の方に注がれていたような気がした。

「…ハッキングで次のプログラム対象クラスがわかったよ。日にちは不明だが。で、それが…」

匠が大槻の視線に気付いた。ゆっくりと、口を開いた。

「ま…まさか…そんな…っ」

大槻が視線を下に逸らした。匠がその場にへなへなっと力無く座り込んだ。稔を含め、全員が理解した。次の対象クラスは匠の愛娘が所属するクラスだ、と。

「くそ…っ!!」

匠が床を殴った。肩が小さく震えているのがわかった。

「どうして…アイツらは…どこまでオレの家族を…っ!!」
「…アタシらはそのプログラムを破壊するために呼ばれたんだね?」

シホが落ち着いた口調で訊いた。大槻は頷いた。そして、匠の側にしゃがみ、肩を軽く叩きながら、全員に向かって静かに言った。

「匠君、祐樹君、伊織、稔、シホ…あと、“タカ”と“ヨーヘイ”…7人でパーティーを組んでもらう。匠君、君がリーダーだ」
「オレ…ですか?」
「そうだ、今回のパーティーの最年長だからね。それに、私は君の能力を買ってるんだよ?」

大槻は立ち上がり、稔と伊織の前に来た。稔は暫く口をぱくぱくとさせていたが、ようやく声を出した。

「おっさん… オレ、パーティーに参加したことねぇよ…」
「あ、あたしも… あたしなんかが参加してもいいんですか…?」

伊織も震える声で言った。稔は今までは大槻にハッキング技術を学んできたし、伊織は専門学校や大槻から救護の技術を学んできた。2人共銃を撃つ練習はしてきたが、実際にその技術を活用させた事は無かった。主に裏方の仕事を手伝ってきたので。大槻はにっこりと微笑んだ。

「大丈夫、自信を持ちなさい。君らの技術は、十分にパーティーに役立つよ」

稔は伊織と顔を見合わせた。
やるしかない、お互いの表情はそう語っていた。

「このことは…娘には…」
「黙ってた方がいいんじゃないですか?」

匠の声を遮って、高谷が言った。

「知ったからといって、逃げられるわけじゃない…その日が来るまでは、学校生活を楽しませてあげた方が…」

大槻は低く唸った。

「祐樹の言う事も一理ある…けど、全く何も知らないままというのも…」
「手紙でも書けば?」

シホがぶっきらぼうに言った。

「何かあった時は開けろ、とか言っといてさ」
「…そうですね…そうします」

匠が引きつった笑顔を浮かべた。

やるしかない。
最低限、足を引っ張らないように、やるしかない――

6月10日、PM3:00――

「そこ座れ!! 今から予定の確認するよ!!ほら後ろ、ちゃんと聞け!!」
中学生活最大のイベント、修学旅行を迎えていた神奈川県四宮市立篠山中学校3年生。
コースは奈良・京都と定番だったが。
そんな修学旅行も、とうとう最終日を迎え、最後の予定である京都観光も終え、クラスに1台のバスに乗り込んだ。
そのなかの1台、4組の生徒39名が乗る4号車の中では、担任である新米教師、関本美香が声を張り上げていた。
さすが毎日のようにグラウンドで声を張り上げる体育教師、その声にバスガイドも目をぱちくりとさせている。

関本の怒鳴り声も止み、バスが発車した。今まで大人しくしていた生徒たちが、徐々に騒ぎ出す。

「なあなあ、八橋喰おーぜ!」

頭の上から声が聞こえ、曽根崎凪紗(神奈川県四宮市立篠山中学校3年4組女子10番)は顔を上げた。そこには、八橋の入った小さな袋を持った、男子にしては小柄で目元の傷が印象的な栗原佑(男子7番)がにっと笑顔を浮かべていた。
佑はその小柄な体からは想像できないが、空手はお世辞抜きで強い。凪紗と佑は小学生の頃からつるんでいた仲で、凪紗が最も信頼している仲間だ。

「…それ、家への土産じゃなかったのか?」

凪紗の横に座っていた、こちらは佑とは対照的にクラス1大柄な設楽海斗(男子10番)が眉をひそめた。その目は、PK戦でボールを蹴る相手を睨みつけているようだ、いつものことだが(海斗はクラブサッカーでGKを勤めている)。
海斗は笑顔を滅多に見せる事はない、今も明らかに呆れた表情を浮かべている。

「いーの、オレ我慢できねぇもん! 母さんダイエット中だし!ほれ、凪紗、海斗も喰え喰え!」
「いいの? じゃあ…」
「あ、そう? じゃあいただきますかねぇ」

凪紗の手よりも先に、佑の横から手がぬっと伸びた。明るい茶色に髪を染め、端正な顔に眼鏡を掛けた不破千尋(男子17番)が、並の女子なら悩殺されてしまいそうな笑顔を浮かべ、八橋を口に入れていた。そんな千尋は、実は学年でも常にトップの成績を取り続けている天才児だ。

因みに、凪紗・佑・海斗・千尋の4人が、このクラスに所属する不良問題児グループの1つだ。不良、とは言っても、たまに授業をサボったり(千尋は滅多にサボらないが)ケンカをしたりする程度の、比較的大人しめの集団だが。一見接点のない4人がつるんでいる理由は色々あるが、それは今はおいておこう。そんな4人の唯一とも言える共通点――喧嘩の腕は逸品だ。

「だぁ!! 千尋こんにゃろテメェ!!
 1人1個だ、テメェ、今いくつ取りやがった!?」
「佑クンってば見てなかったのかい? 2つじゃないか」
「1人1つだっつってんだろうが!!」

千尋は怒鳴り声を上げる佑の手から八橋の袋をひょいっと取り上げ、後ろを向いた。

「勝クン、お一ついかが?」
「こら千尋テメェ!!さも『オレのなんだけど』みたいな言い方すんな!!」

千尋の視線の先には、もう1つの不良グループのリーダーである真田勝(男子9番)が眉間にしわを寄せていた。
勝は視線を千尋から佑に移した。

「…不破はそう言ってるけど? 栗原、貰っていいのか?」
「…いいけどさ、1人1つだからな」

千尋の手の中にある袋に、ごつい手が伸びた。

「ケチくせぇこと言ってんなよ、チビ。
 おらよ、もーらい、レンも喰うか?」
「あ、ツネ、取って取って、オレは1つでいいからさっ」

勝の後ろの席から手を伸ばしてきたのは、茶髪を逆立てた人相があまりよろしくない新島恒彰(男子15番)。
その横でニマニマとした笑顔を浮かべているのは、分かれた前髪の間から広い額が覗く髪形をした脇連太郎(男子20番)。

「あ、ツネさん、取り過ぎっスよ! 佑さんに悪いって…」

恒彰を控えめながら制しているのは、佑より少しだけ背が高く、容姿が少々落ち目の池田圭祐(男子3番)。

勝・恒彰・連太郎・圭祐の4人が、もう1つの不良グループだ。
こちらは近郊でも名前の売れた不良問題児たちだ。
何度か警察にお世話になったこともある。
もっとも、圭祐はパシリ的存在だが。
喧嘩の腕で言えば、凪紗たちと同等くらいだろう。

篠山中学校はいわゆる“荒れた中学校”だ。
不良少年少女の数はとても多く、毎日のようにあちこちで問題が起こる。
ケンカ・煙草は当たり前、いじめなどによる不登校児の率も高い。

そんな学校の中、この3年4組は異例のクラスだ。
不良少年少女が多い割には、平和なクラスである。
その大きな理由の1つに、凪紗率いるグループと勝率いるグループの停戦協定が挙げられる。
近郊の学校全部が荒れているこの地域では、不良たちの勢力争いが激しい。
そこで、凪紗と勝が話し合い、いがみ合っても仕方がない、という結論に達した。
今では1つのグループになりつつある。

しかし、この2つのグループの中の喧嘩好き、佑と恒彰の争いは絶えない。
絶えないが、レベルは極めて低い。

「そうだぞ、このバカ男!! ケースケの言う通りだ!!とっとと返せ、このバカバカバカバーカ!!」
「…何だと? 誰がバカだ、このチビチビチビチビ!!」
「バカはバカじゃねーか!!この前の中間考査、5教科合計100点切ってたくせに!!」

「ケッ、テメェも似たようなモンだろうがよぉ!!」
「バーカ、おれは102点だったもんねっ!!」

因みに、恒彰と佑はいつでもクラス内成績最下位を争っている。
このような口喧嘩は日常茶飯事であり、凪紗たちはいつも勝手にやらせている。

「あーあ、こういうのを『目くそ鼻くそを笑う』って言うんだよねぇ」

千尋が溜息を吐き、くるっと向きを変えた。

「はい、凪紗チャン、海斗クン、お一つどうぞ」
「オレはいい、甘いのは好きじゃない」
「あたしはもーらおっ」

凪紗は八橋を1つ口の中に入れ、周りを見渡した。

横では、女子の中では比較的大人しいグループが楽しそうに佑と恒彰の口喧嘩を観戦していた。
前の席で苦笑しながら見ているのは、肩までの黒髪と大きな目が可愛らしい黒川梨紗(女子5番)。
その奥の席で大笑いしているのは、丸い眼鏡と癖のあるショートカットの、自称小説家の卵である小南香澄(女子6番)。
香澄の後ろで呆れた表情を浮かべているのは、長い黒髪を1つに束ね、ボストンタイプの眼鏡がその聡明さを物語っているような優等生の矢田美晴(女子18番)。
その手前で楽しそうに微笑んでいるのは、凪紗と変わらず小柄で可愛らしい、関西からの転校生である結城緋鶴(女子19番)。

「…今日は何回目やっけ?」
「んー…5回目かな、知ってるだけで」

緋鶴と香澄が話しているのを聞き、凪紗は首を横に振った。

「香澄、違うよ、これで8回目」
「自由行動の半分はこれで消えたからねぇ」

千尋も溜息混じりに苦笑した。
可哀想に、と香澄が呟いた。

 

「そこ、いい加減にくだらない喧嘩はやめな!!」

 

関本がマイク越しに叫ぶ。
思わず凪紗は耳を塞いだ。

「恒彰、佑、アンタたち引き分けだ、この2大バカ!!」

関本がつかつかと歩いてきて、佑と恒彰の頭に拳骨を喰らわせた。
それを見たクラスメイトが一斉に笑い出す。

「美香ちゃんセンセー、止めないでよぉ!!」
「これからがいいトコだってのに!!」

笑い混じりに叫んでいたのは、クラスのお調子者の真中那緒美(女子16番)と、爽やか少年の工藤久尚(男子6番)。

「佑ちゃん、ドンマイだよっ!!」

佑にエールを送っていたのは、同じくお調子者の濱中薫(女子14番)だ。
佑が“ちゃん”を付けるな、と怒鳴る。

「センセー、これ以上叩くと2人の頭が悪化すると思いまーす!」

爽やかな笑顔を浮かべてそう言い放ったのは、久尚の幼馴染の笠井咲也(男子5番)。
それを聞いて、バス中に更に笑いの渦が巻き起こる。
佑と恒彰は暫くヒクヒクと顔の筋肉を引きつらせていたが、やがて「ケッ」と悪態づいてシートに座った。
それが同時だったので、収まりかけた笑い声が再び湧き上がる。

このクラスが異例だというもう1つの理由は、問題児グループがそうでないグループと仲が良いことだろう。
このクラス内では、グループ間の壁が比較的低く、全体的に仲良しだ。

そんな中で浮いている存在なのが、通称女子ギャルグループの4人だ。
リーダー格の桐島伊吹(女子4番)は無関心そうに窓の外を眺めている。
その横ではクラス1のお嬢様である金城玲奈(女子3番)がつまらなさそうに欠伸をしている。
いかにも馬鹿馬鹿しいという顔をしているのは、グループ内で唯一暴力的な三河睦(女子17番)。
恒彰の彼女である中原朝子(女子13番)だけが、『ツネ君落ち込まないで!』と叫んでいる。
伊吹のモットーが『干渉しないから干渉するな』だからか、繋がりの薄そうなグループだ。

その中の玲奈と睦から執拗ないじめを受けているのが、岩見智子(女子2番)だ。
智子は中2の途中から学校に来なくなったが(この学校では2年から3年に上がる時のクラス替えがない)、修学旅行だけは、と皆で半ば強制的に連れてきた。
今は何を考えているのか、ぼんやりと前を見つめていた。

 

 

空の色が暗くなっているのに、凪紗は気付いた。

あれ? おかしいな… いつの間に…
うとうとしてたかな…?

横を見ると、海斗が通路に落ちそうになりながら、眠っていた。
前の席を覗くと、千尋の肩に佑が頭を預け、やはり眠っていた。
シートの上に膝を付き、後ろを見回したが、全員が眠っていた。
凪紗自身、今にも眠ってしまいそうだ。

これは…異常だ!!

 

ガンッ

 

眠くもなく、元気な時なら、普通に避ける事ができただろう。
しかし、できなかった。
突然背後から後頭部を殴られ、凪紗は海斗の膝の上に崩れ落ちた。

恐らく、このクラスの大方の人間は『このクラスが大好きだ』と言うだろう。
もちろん、凪紗もこのクラスが大好きだ。

幸せだった。

その幸せが、徐々に崩れていく。

全てを、奪いながら。

5つ並んだバスの1つだけが、ルートを外れた。
地獄へ向かって、走り出した。

あぁ、頬がなんか冷たいな…うん、これは、机の感触…授業だ、起きなきゃ、起きなきゃ――
 

濱中薫(女子14番)はがばっと身を起こした。癖で外に跳ねた茶髪のショートカットの頭を掻き、辺りを見回した。
全員が机に突っ伏して寝ている、とても奇妙な状況だった。席順はいつもと同じだ、前には教卓もある、しかし違和感がある。
――そうだ、うちの教室は、もっと新しい。こんな古びた部屋じゃない。

えっと…おかしいなぁ…確か、修学旅行に来てたはずで…

薫は無意識に手を首へやった。少し、苦しい感じがしたので。その理由が、わかった。薫の首には、何かが巻きついていた。

な、なんじゃこりゃあ!!薫、犬じゃないぞ、猿に似てるとは言われるけど…ってそんな場合じゃない!!

薫だけではない、銀色に輝くそれは、全員の首に巻きついていた。

「アキちゃん、アキちゃん、起きて!!凪紗ちゃんも起きてよ、ねぇ!!」

両隣に座っている津田彰臣(男子13番)と曽根崎凪紗(女子10番)の体を揺すった。

「佑ちゃん!! コウちゃん!!」

前後に座っている栗原佑(男子7番)と伊達功一(男子12番)の体も揺する。

「ん…っ」

右側に座る彰臣がゆっくりとその大柄な体を起こした。眠そうに目を擦り、そして薫の姿を確認した。

「…あ、濱中、おはよ……ここは…?」
「なんか変なの、おかしいの!!ここ、学校じゃないし、薫たち皆、変な首輪してるし!!」
「首輪ァ…?」

大きく欠伸をしながら、佑が後ろを向き、薫の方を見た。
そして、何度か瞬きをし、首を傾げた。

「…濱中、趣味悪いモンしてるなぁ……津田も、伊達も…何してんだ?」
「栗原もしてるじゃねーか…」

功一も起き、佑の首輪を見た後、自分の首輪に触れた。

「…何だよ…おい、淳、起きろよ! 梢も起きろ!!」

功一が自分の近くにいる幼馴染の高山淳(女子11番)と、元彼女の今岡梢(女子1番)を起こし始める。
徐々に教室内が騒がしくなっていく。

「痛っ!!」

突然凪紗が悲鳴を上げた。
凪紗の横に座っている不破千尋(男子17番)が凪紗の後頭部を撫でていた。

「んー…たんこぶできてるよ、凪紗チャン。何したの、まさか海斗クンに殴られた?やっだぁ、ひっどーい!」
「んなことしてねぇよ!!」

茶化す千尋に、凪紗の前で心配そうにしていた設楽海斗(男子10番)が怒鳴った。
凪紗が頭を摩りながら呟いた。

「なんかさぁ、気がついたら皆眠ってて…おかしいな、って思ってたら、突然後ろから殴られて…」
「ってことは、冗談じゃないわよね…人を殴ってまで、あたしたちをここに連れてこないといけない理由って…?」

千尋の後ろにいた優等生の矢田美晴(女子18番)が首を傾げた。

薫は右の方を見た。
薫の幼馴染である姫川奈都希(女子15番)は、席の近い仲の良いメンバーである青山豪(男子1番)・工藤久尚(男子6番)・真中那緒美(女子16番)と不安げな表情で喋っていた。
その後方では長門悟也(男子14番)と柚木康介(男子19番)が話している。
悟也の悲しげな表情が、少し気に掛かった。

「ねぇ、透子?」

後ろの方から、凛とした声が聞こえた。
お姉様グループのリーダー的存在であろう椎名貴音(女子8番)だった。

「センセーから何か聞いてないの?」
「副委員長さんなら、何か先生から聞いてるんじゃないですか?」

貴音の後ろから、遠江敬子(女子12番)がおっとりとした口調で付け足した。
視線が最前列にいる副委員長、駿河透子(女子9番)に集まる。
しかし、透子は首を横に振った。

「ううん、あたし何も聞いてない!
 浅原君、浅原君は何か聞いてる?」

「いや、僕は何も知らない」

今度は最後列にいる委員長、浅原誠(男子2番)に視線が集まる。
誠は眼鏡を中指でくいっと押し上げ、横にいる羽山柾人(男子16番)と何かを話し始めた。

「おい、不破!
 テメェは1番前に座ってたろ、何か聞いたんじゃねぇの?」

不良グループの片割れのリーダー、真田勝(男子9番)が千尋に呼びかけた。

「さあ、何も聞いてないねぇ。 香澄チャンは?」

「んー…あたしも知らない、気がついたら寝てたんだもん」

誠の前の席の小南香澄(女子6番)も首を横に振った。

「もう、一体何がどうなってるのよ!!」

透子の横で坂本陽子(女子7番)が裏返った声で叫んだ。

「落ち着いたら? 耳がキンキンしちゃう」

陽子の斜め後ろから美作由樹(男子18番)が溜息混じりに言った。
その言葉の端々には、刺がある気がする。
しかし、いつもと変わらず可愛らしい笑顔を浮かべている。
陽子もその笑顔を見て落ち着いたようだ。

突然透子が立ち上がった。

「よし、あたしちょっと外見てくるね。
 浅原君も行こ、クラス代表として」

「…そうだね、見てこようか」

誠も立ち上がる。

透子は誠を引き連れ、教室の前のドアを開けようとした。

しかし、透子が手を掛ける前に、ドアが勢いよく開かれた。
中に入ってきた、軍服を着た人物が、透子と誠を突き飛ばし、2人は小さく悲鳴を上げてしりもちを付いた。

「着席!!」

2人を突き飛ばした人物が、叫んだ。
しかし、2人はわけがわからず、ただその人物を見上げていた。

「着席と言っているだろ!!」

その人物は、懐から何かを取り出し、2人に向けた。

「きゃあああ!!」
「うわああぁあ!!」

2人は悲鳴を上げ、一目散に自分の席へ向かった。
当然だろう、それはどこから見ても拳銃だったので。

軍服を着た3人が同じタイミングで止まり、一斉に敬礼をした。
その前を、ランニングシャツを着た浅黒い肌の筋肉質な男が堂々と通り、教卓に持っていた紙の束をバンッと置いた。

「はい、静かに!!」

筋肉質な男は叫んだが、既に喋っている者は1人もいない。
静かにしている事が少ない薫でさえ、何も言えなかった。
本能的に感じた、喋ってはいけない、と。
筋肉質な男は、にかっと笑みを浮かべた。

「はじめまして、オレの名前は進藤幹也!!今日から君たちの担任になりました!!幹也先生と呼んでくれたまえ!!」

進藤幹也? 担任?
何だそれ、何言ってんの…?

薫を含め、全員がそう思ったことだろう。

進藤と名乗る男は、大きく息を吸い込み、そして机を叩いた。

「君たちは、今回のプログラム対象クラスに選ばれたんだ!!光栄な事だ、おめでとう!!」

誰かが、「え?」と声を洩らした。

2012年5月31日(1日目)、10:50p.m.――


「あ、猫ちゃんだ」

プログラム本部である小中学校から見て真東に位置するE=05エリア、茂みの下からひょっこり顔を覗かせた暗がりの中で光る2つの瞳に、広瀬邑子(女子十五番)はたたっと駆け寄ってしゃがみ、小さな手を差し伸べた。
警戒しているのだろうか、猫は近寄らずに耳をピクピクと動かしていた。

「…誰かの飼い猫だったのかもね、首輪が付いてる」

邑子の隣に財前永佳(女子六番)が腰を下ろし、じっと猫を見下ろしていた。
永佳とは物心ついた頃からの幼馴染なので、彼女が猫が好きなことも、しかし父親が猫アレルギーのため飼うことを許されなかったことも知っている。
今も、猫をじっと見つめる永佳の横顔は穏やかだ。

「猫ちゃん、お腹空いてないのかなぁ…」

「そりゃあ、空いてるんじゃない?
 飼い主はここにはいないし、誰も世話してないだろうし」

あ、そうか。
今はプログラム会場になっている御神島は有人島で、民家があるのだから当然人が住んでいて、猫に首輪が付いているということはこれも当然だが誰かに飼われていて、飼われていたのだから食糧は飼い主に恵んでもらっていたはずだ。
しかし、現在、ここには住人は一人もいない。
プログラムが開始されてまだ一日は経っていないけれど、昨日住人をここから追い出したわけではないだろうから、この猫は数日何も食べていないこともあり得る。

可哀想だなぁ…
人間の都合で飼い主に置き去りにされちゃって…

邑子は鞄の中を漁るが、出てきた食糧は支給されたパンのみ。
邑子は暫くじっとパンを見つめた後、永佳を見上げた。

「猫ちゃんって、パン食べるのかなぁ?」

「…あんま聞かないけど…良くないんじゃない?」

永佳は眉間に皺を寄せて答えると、持参の鞄のポケットを探っていたが、飴しか出て来なかったらしく、「早稀が勝手に鞄に入れてくることもあったんだけど、もう全部食べちゃったか」と呟いて溜息を吐いていた。
永佳の表情が曇ったように見えたのは、いつも一緒につるんでいた水田早稀(女子十七番)との何気ない日常風景と、今朝撃って傷付け揉み合いになった時のことを思い出したからではないだろうか。
あの時、邑子は、早稀の恋人である日比野迅(男子十五番)に拳銃を突き付けられ人質に取られた。
怪我を負うことはなかったけれど、あの時の迅の険しい表情と低い声、首が締め付けられる感覚を思い出し、邑子は身震いした。

「パンはやめときなさい、猫は一応肉食なんだから。
 残念だけど俺たちが持っていてあげられるものは、水くらいしかないよ」

邑子と永佳の間から、すっと腕が現れた。
邑子たちの幼馴染、春川英隆(男子十四番)が、水を満たした丸みを帯びた長方形のプラスチックケースを猫の前に置いた。
猫は暫く警戒していたようだったが、やがてぺろぺろと水を舐め始めた。

「…何、この入れ物」

「ああ、眼鏡ケースの半分だよ、カッターで切り離したの。
 こんな状況だし、眼鏡ケースの一つや二つ、惜しくなんてないでしょ?」

永佳の訝しんだ問いに、英隆は右手に持った縁無し眼鏡と、蓋を切り離した水色のプラスチック製の眼鏡ケースの片割れを見せて笑んだ。
英隆は日常生活に支障が出る程ではないがやや視力が悪いため、授業中に限って眼鏡を掛けており、修学旅行にも念のため持参していたらしい。

「可哀想になー、にゃんこ。
 俺ん家のわんこは元気なのかなー」

「え、卓也はわんちゃん飼ってるの?」

邑子を挟んで永佳と反対側にしゃがんでいた望月卓也(男子十七番)に訊くと、元気は足りないけれど人懐こい笑みを返してくれた。

「おう、チワワの“いぬ丸”と、最近拾って飼い始めた“ワン太”!
 すっげー可愛いの!」

「ほんっと卓也さんってネーミングセンスない」

「同感、それ自分の子供に“人太郎”とか“人子”って付けてるのと同じだよね」

「あっ、永佳もヒデも酷い…俺可哀想!!」

「可哀想なのは卓也さんの家のペットたちでしょ」

可愛いペットに付けた名前を永佳と英隆から辛辣に批判された卓也は、しゅんとして猫の背中をそろりと撫でていた。
3人のやり取りが、まるで普段の生活の中から切り取ってきたような穏やかなものだったので、邑子は表情が自然と緩むのを感じた。

卓也は外見だけを見ると、茶髪にピアスといった派手な身なりをしているので取っつき難そうなのだが、人当たりが良くて人懐こい。
イベント事になればクラスを盛り上げていた人たちの一人で、所属するテニス部でもムードメーカーだ。
男子テニス部は全国大会での上位を争う常連校なので、邑子が所属する女子テニス部も含めて学校を上げて応援に行く機会も何度かあったのだが、団体戦ではレギュラーでありながらも応援している部員たちを盛り上げる応援団長でもあった。
初等部の頃から何度か同じクラスになっていたことや男女テニス部でテニスコートを共有していることもあったため、卓也と話をする機会は非常に多く、邑子自身が自覚できる程に卓也には可愛がってもらってきた。

永佳とは物心ついた時には既に仲が良かった。
昔は卓也と同じようにクラスの中心でクラスメイトたちを盛り上げることが多かったのだが、今では無表情であることが多く言葉もぶっきらぼうで、両耳には痛くはないのかと心配してしまう程のピアスを付け、付き合う友人も少し崩れた感じの派手な容姿をした面々が多い。
しかし、あまり表には見せないが周りのことを良く見る優しさは昔から変わっておらず、邑子には昔から変わらず優しいお姉さんのように接してくれる。
卓也と付き合い始めた時は、卓也に永佳を取られたようで悔しかったけれど、永佳が変わらず邑子に気を配ってくれていることが嬉しかった。

英隆も、邑子の中にある一番古い記憶の中には既に存在している程に長い付き合いで、邑子と永佳にとってはお兄さんのような存在だった。
一般庶民である邑子や永佳とは違って、ゆくゆくは祖父が経営する商社を継いでいく御曹司というやつなのだが(邑子たちよりも、城ヶ崎麗(男子十番)に近い人種なのだ、本当は)、そのような育ちを鼻に掛けることはない。
仲の良い男子たちとは一緒に騒ぎつつも気を配って世話を焼き(しばしば相葉優人(男子一番)や川原龍輝(男子五番)あたりには“オカン”と言われていた)、親しくなくとも柔らかな物腰で接するので、周りから好感を持たれやすい。
一部女子の中には英隆のファンクラブができている程だ。
ある時を境に、永佳とはどこか余所余所しくなっていたが、邑子に対しては昔から変わらず親しくしてくれて「邑ちゃん」と呼んでくれる。

みんな、邑子にとって大切な人たち。
プログラムなんてとんでもないことだし、誰かと戦うのは嫌だし、怪我をするのも死ぬのも想像するだけでも怖い。
しかし、邑子の心の端には安心している部分があった。
英隆も卓也も永佳も、きっと自分を助けてくれるから大丈夫、と。
背丈は邑子と似ているのに邑子と違ってしっかりしていて気の強い阪本遼子(女子八番)の、「アンタ、永佳とか春川とかに甘えてばっかじゃ駄目なんじゃないの?」という声が聞こえてきそうだが。

いつまでも猫を相手にしているわけにもいかないので、邑子たちは猫に別れを告げ、再び歩き出した。
はっきりとした目的地はないのだが、クラスメイトを探すために。
クラスメイトを探し、殺めるために。

英隆と永佳はこれまでクラスメイトを発見すれば積極的に攻撃し、宍貝雄大(男子八番)を殺害し、荻野千世(女子三番)を死に至らしめる原因となった。
邑子と卓也は何もしなくて良い――2人からはそう言われていた。
2人に任せて自分は何もしないなんて良いのだろうかと疑問に思う反面、クラスメイトを傷付けなくても許される現状に安堵している自分もいた。
小石川葉瑠(女子五番)に“共犯”と責められた時にはショックを受けたが、涙が枯れる程泣いた後に改めて考えると、英隆たちを止めない自分は確かに“共犯”なのだろうと思った。

いいんだ、ゆーこは“共犯”で。
だって、死ぬなんて怖いもん。
でも、誰かを撃ったり刺したりするのも怖い。
どっちもしなくて済むなら、ゆーこは“共犯”って言われた方がずっとずっと良いもん。


がさっ


不意に、右側から葉の擦れる音がし、邑子は足を止めた。

「邑ちゃん…?」

英隆の声色からは、気を付けろという思いが伝わってきたのだが、邑子はさして気にも留めず、茂みの方へ足を向けた。

「さっきの猫ちゃんかも」

先程水を与えた猫が、ついて来てしまったのかもしれない。
どこかに、先程見たものと同じ光る瞳があるはずだ――邑子は茂みの傍にしゃがみ、枝の隙間を覗き込んで猫の姿を探した。
しかし、光る瞳はどこにも見当たらない。

代わりに邑子が目を留めたのは、枝の色とは少し違う、ブラウン地のチェック模様――そう、邑子にとって見慣れた、帝東学院中等部の男女の制服のズボンやスカートの布地の模様。
そこまで思考が及ぶと同時に邑子は丸い目を大きく見開き、ばっと顔を上げた。
何かが自分目掛けて近付いており、邑子は「わっ」と声を上げながら咄嗟に上半身を後ろに倒しつつ、反射的に両腕を顔の前に出して防御の構えを取った。
次の瞬間、左腕を鋭い激痛が襲った。

「あああぁぁぁぁあぁっぁあッ!!!」

邑子は絶叫し、痛みの突き上げる左腕を右手で押さえた。
右手が生温い液体で濡れた。
左掌から肘の裏側に掛けてすっぱりと皮膚が裂けていたのだが、ただ痛くてたまらないということ以外、今の邑子にはわからなかった。

「邑ちゃんッ!!」

英隆が邑子に駆け寄った。
邑子を抱えようとする英隆に、襲撃者が再び襲い掛かった。

「春川、前ッ!!」

永佳がデイパックをぶんっと振るうと、それは襲撃者に当たり、「ぐっ」という短い悲鳴が聞こえ、襲撃者の身体がよろけた。
永佳は目の端で別の人物を捉え、もう一度デイパックを振るったが、今度は空を切るに終わり、相手はお返しとばかりに何かを持った手を振り下ろしてきた。
永佳はデイパックを捨ててその手を押さえようとしたが、伸ばした手は空を切り、何かが緑色のカーディガンの左肩部分を掠めて繊維を裂いた。
永佳は一瞬怯んだが、すぐに襲撃者に飛びつき、2人はもんどり打って倒れた。

「財ぜ――……ッ!!」

英隆の叫びを掻き消すように、ばんっという破裂音が響いた。
次の瞬間、卓也が何かに弾かれたように仰け反り、尻餅をついた。

「卓也ッ!!」
「びびびびっくりしたぁ!!」

英隆の切羽詰まった叫びを掻き消すように卓也は大声を上げた、どうやら深刻な怪我は負っていないらしい。英隆が邑子を抱えて卓也に駆け寄ろうと腰を浮かしたが、邑子を斬り付けた襲撃者が刃物を振り翳したのを目の端で捉えると、邑子を庇うように覆い被さった。振り下ろされた刃物が、英隆の背中に突き刺さった。英隆の唸るような呻き声が、抱き締められた邑子の耳にも届いた。

「ハルカワ…ハルカワぁッ!!」
「だい…じょうぶ、平気…ッ」

英隆はそう答えるが、本当は大丈夫ではないことは、苦しげな声が物語っていた。そして、英隆の後ろ、邑子と英隆の血で汚れた刃が、三度襲い掛かろうとしているのを見、邑子はぎゅっと目を閉じた。

しかし、新たな痛みは来なかった。代わりに銃声が響き、邑子が目を開けた時には、襲撃者は表情を歪めながらぐらりと身体を傾けていた。
邑子は顔を少し右に向けた。視線の先、永佳が、大型自動拳銃コルト・ガバメントを両手でしっかりと構えているのが見えた。永佳が、邑子と英隆を助けるために発砲したのだ。

やっぱりひぃはゆーこを助けてくれた…ハルカワもゆーこを助けてくれる…ゆーこ、ひぃもハルカワもだーい好き…

「あらあら、容赦ないのね、財前さん」

おっとりとした、けれどもどこか冷たい声が聞こえ、邑子は視線をそちらに向けた。木の陰から現れたのは、クラスの中ではあまり目立たないタイプで、邑子はほとんど関わったことのない女の子――つい先程まで銃声が響き負傷者が出ている状況だというのに笑みを浮かべている鷹城雪美(女子九番)だった。いつも穏やかに笑顔を浮かべている人ではあったけれども、何かが違う。何が違うのか具体的に言葉にできないが、今の雪美の笑みを見ていると、何故か背筋を何かがぞわりと這い上がるのだ。

「…鷹城さん…そこから動かないで…動いたら…撃つから、季莉のこと」

永佳は鋭い視線を雪美に向けたまま、コルト・ガバメントの銃口を、永佳が馬乗り状態になっているために動けずにいる湯浅季莉(女子二十番)の額へ向けた。
銃弾を放ったばかりの熱せられた銃口が額に当たり、季莉は「ひッ!」と短く声を上げ、永佳を睨んだ。

「ひ…永佳…アンタ…ッ!!」
「何。 先に襲ってきたのは季莉でしょ。大体しょうがないじゃん、これ、プログラムなんだから」

永佳の冷たい声――いや、冷たく振舞う声は、邑子の耳にも届いていた。永佳が本当に心から“しょうがない”と思っているわけがない、なぜなら、永佳は昔からとても優しい人だから。
それでも、永佳は邑子たちと生き残ることを何よりも優先し、これまで親しくしてきた季莉に銃口を向けている。邑子たちのことを一番に考えてくれることが嬉しくて、けれども申し訳ない。

くつくつと上品な笑い声が聞こえ、邑子は身震いした。
雪美が笑っていたのだ、この状況で!

「そう…そうなの、財前さんたちは、やる気になっているのね」
「…だったら、何。これだけこっちのこと襲っといて怪我させといて、批難でもする気?」

今では殆ど表情を変えなくなってしまった永佳だったが、雪美の笑みも落ち着き払った声も不気味に思ったのだろう、眉間に皺を寄せて険しい表情を浮かべていた。むしろここまで表情を変えていないのは、笑顔を浮かべている雪美の方だった。雪美は笑みを浮かべたまま、首を横に振った。

「ううん、むしろ好感が持てるくらいよ?この状況で『戦うなんておかしい』とか言っている偽善者より、よっぽど信用できる」
「…信用とかされても、嬉しくない」
「やだ、つれないこと言わないで。せっかく、ここは引き分けにしてお互い引きましょうって、言おうと思ったのに」

邑子も、邑子の視線の先にいる永佳も、目を見開いた。邑子を護るように四つん這いになっている英隆も、肩越しに振り返り雪美を見た。
ここで、引き分け。ここで、この戦いが終わるのなら、みんなの手当てができる。みんな、死ななくて済む。すぐに雪美の言うことを受け入れるべきだ――邑子はそう思ったのだけれど、どうやら事態はそう単純なことではないようで、英隆が身体を起こして雪美に向き直った。邑子に向けた背中、カッターシャツがほぼ真っ赤に染まっていた。
心臓を握り潰されそうな感覚が、邑子を襲った。

「…わからないな、鷹城さん…その、真意は?」
「わからなくはないと思うけど…春川くんは馬鹿じゃなさそうだし。簡単な話よ、やる気になっている人同士がここで潰し合うより、お互い頑張って人数を減らした方が、早く終わらせることができるでしょ?だから、人数が減るまでは、お互いには手を出さずにいましょう、そういうことよ。悪い話じゃないと思わない?」

英隆の首が、少し右へ動いた。季莉の動きを拘束している永佳と、視線を交わしたのだ。
プログラムを生き抜くために、邑子や卓也を護りながら戦うことを決めた2人が、雪美の提案を受け入れるか否かを視線のみで相談したのだろう。その様子に雪美は一つ溜息を吐いた。

「わからない?見逃してあげる、そう言っているのよ?」

涼やかな声には迫力があるわけではないのだけれど、邑子の身体は硬直した。言うことを聞かなければいけない、邑子の中の生存本能が、そう叫んでいた。

「見逃す…随分上から言うね、ムカつく。あたしが季莉を撃てないとでも、思ってるの?」
「思ってないわ、あたし、財前さんのやる気を“信用”してるもの。信用してるからちゃんと忠告してあげる、今どっちが上なのかを。…賢吾、松栄くん」

雪美のやんわりとした呼びかけに、永佳の発砲で倒れていた、邑子と英隆を傷付けた犯人である榊原賢吾(男子七番)が中学3年生にしては少々老けている顔をしかめて右肩を押さえながら立ち上がり刀を英隆と邑子に向け、これまで姿を潜めていた松栄錬(男子九番)は気の弱そうな苦悶の表情を浮かべながらも卓也に向けて銃弾を放った回転式拳銃S&W M36“チーフスペシャル”の銃口を永佳に向けた。
英隆の「成程ね…」という引き攣った声も、離れた所にいる永佳の舌打ちも、邑子の耳にまで届いた。

「…わかった…退くよ、引き分け…というよりこっちの負けみたいなものだけど。
 財前、湯浅さんから離れなさい」

永佳が季莉にコルト・ガバメントの銃口を向けたまま立ち上がった。
雪美を睨み付けたが、雪美がいつもと変わらない垂れ気味の瞳でじっと永佳を見つめると、永佳は溜息を吐いて季莉から銃口を外した。

「ふふっ、話が早くて助かるわ。
 大丈夫よ、貴方たちが背中を向けた瞬間に『パーン!』ってことはしないから。
 ねえ、賢吾?」

「…あっそ、それは助かるわ。
 邑ちゃん、春川、立てる?
 それから卓也さん、腰抜かしてないで手伝って」

永佳は邑子と英隆の傍に駆け寄り、離れた場所で尻餅をついたまま固まっていた卓也に声を掛けた。
卓也は「だ、大丈夫、手伝う手伝う!」と騒がしく声を上げて駆け寄ってきた。
卓也は英隆の脇の下に腕を通し、立ち上がらせた。

「…馬鹿ヒデ、お前…大丈夫だよな?」

「うん、大丈夫…死なせたりしないから、安心して」

「おう、頼むよ…命大事にしてくれないと」

2人が囁き声でやり取りをしたのは、英隆がリーダーであることを雪美たちに知らせたくないからだろう。
「ほら、わっせ、ほいせっ」、「ちょ、卓也速い、響くから…」、「あ、ごめん」と言葉を交わしながら、2人の背中がゆっくりと離れていった。

「邑ちゃん、立てる? 抱っこしようか?」

永佳が邑子の背中と地面の間に腕を入れ、邑子の身体を起こした。
酷くふわふわとするこの感覚は何だろう――ああ、貧血だ、邑子は頭の中ですぐに自分を襲っている症状の答えを導き出した。
まずは永佳に「大丈夫だよ」と言わなければ――そう思い、口を開いたのだが、喉の奥から絞り出した声は、自分のものとは思えない程に弱々しく、微かな声すら永佳に届けることを邪魔するかのように、上下の歯がガチガチと小刻みにぶつかり合った。
身体が、震える――寒い。
幾ら日が暮れたとはいえ5月末、邑子は学校指定のブレザーは着用していないもののパーカーを身に付けているのだから、こんなにも寒いはずがないのに。

「…邑ちゃんどうしたの、寒いの…?」

邑子は、知らなかった。
賢吾に斬られた腕の傷は掌から裏肘に掛けて一文字に裂けていたのだが、手首の動脈も切り裂かれていたということを。
今が明るければ、地面に紅い水溜りができていることがはっきり見て取れることを。
クラスで最も小さなその身体からは、命に関わる量の血液が失われていたことを。

「…少し頑張って邑ちゃん、抱えて運ぶから」

永佳は邑子を所謂“お姫様だっこ”をして運ぼうと、邑子の膝の下に腕を入れた。
されるがままになっていた邑子は、視界にぼんやりと永佳を入れていたのだが、永佳の背後で賢吾が動き、反射的にそちらに焦点を合わせた。
賢吾が、刀を構えた。

ひぃが、危ない…!!

邑子は身体に残る力を振り絞り、永佳の手を振り払った。
永佳が驚愕で見開かれた瞳で邑子を追った時には、邑子は永佳と賢吾の間に立ちはだかっていた。


誰かを傷付けたり殺したりするのは怖い。
自分が死ぬのだって怖い。

でもね、ゆーこ、もっと怖いこと、わかったんだ。
ハルカワもひぃも、いつもゆーこを助けてくれる。
それは嬉しいよ、いつも甘えていたいって思ってきたよ。
でもね、でもね。
ハルカワの真っ赤な背中と、ひぃが錬にピストル向けられたの見て、わかったの。

ハルカワとひぃがいなくなる方が、もっと怖いの、嫌なの。


賢吾の一撃が、邑子の細い首を貫いた。
倒れる時、永佳の驚愕した表情が見え、英隆の叫び声が聞こえた。

ハルカワもひぃも、いなくなってない。
よかった、よかったよ、2人共いなくなってなくて、本当に――

邑子の意識は、深く深く潜り込んだ。
二度と戻ってくることができない、深い深い場所へ。

長く時間が開いたので、一先ず現在状況を載せます。

【現状】

死者(5人):漆山、、綺堂、???、???、???

【体調】

体 健康

心 普通

【武器】

加藤:コンバットナイフ、サバイバルナイフ、拳銃、スモークグレネード、手りゅう弾

矢幡:ナイフ×2、スタンガン、拳銃、サブマシンガン(玩具)、催涙ガス

【ツールボックス】

加藤:GPS、地図拡張機能、死亡者数表示、同階の生存者数表示

矢幡:GPS、換気ダクト見取り図

【PDA情報】
A 陸島

3 御剣

5 北条
6 手塚
7 色条


10
J 矢幡

K 綺堂
JOKER 加藤

私たちが手に入れたのは催涙ガスと手榴弾だった。

催涙ガスは麗佳に、手榴弾は私が持つことになった。

やはり階数が上がっていく度に緊張感が増してくるのは、前回と同じようである。

ここ、自分自身への罪悪感すらも全て無くしてくれるかのような、そんな狂った空間だ。

気が付けば綺堂を殺した感触すら、忘れかけている――

「……ねぇ、晶」

「ん、何?」

「晶はあと奇数のプレイヤーを1人殺害しないといけないのよね?」

「うん、そうだけど」

「もし、いま死亡しているプレイヤー全員……ううん、大半が奇数のプレイヤーだったら、条件を満たすのがかなり難しくなると思うけわ。だから、早い内に探知系のソフトウェアを手に入れるべきじゃないかしら……?」

「そう、だね……」

麗佳の言いたい事は分かっている。

死亡者5人全員が奇数だった場合、生き残っている奇数のプレイヤーは麗佳ともう1人の誰かである。しかし、エクストラゲームで北条が偶数のプレイヤーを殺害していたとしたら――


私は“麗佳”を殺さなければ解除条件を満たすことが出来ない。


それだけは有ってはならないことであり、だからこそ少しずつ焦りが出てきているのだ。

死亡者5人全員に偶数のプレイヤーが1人も含まれていない確率はかなり低いと言っても良い。

しかし、可能性は0ではないのだ。少しでも可能性があるからこそ、心が落ち着かないのだ。

「……晶」

私は不安な顔をしている麗佳の手を握った。

「考える前に行動しよう。それが、私たちにとって最善の策だからね」

「……ええ、そうね」

もたもたしている間にどんどん奇数のプレイヤーが減るかもしれない。

そうなる前に私が殺害すればいいのだ――

私たちはこのあとどうする?

>>525
>>526
>>527

>>527のコンマ下二桁によって安価を決定
 
00~33 >>525
34~66 >>526
67~99 >>527

参加者探し出す

探索する

探索する

「取りあえず、プレイヤーを探そう」

「ええ」

4階には私たちを除く4人がいるため、比較的出会いやすいだろう。

私たちはいつもより速く進み始めた……。


私たちが出会ったのは?

コンマ判定1個下


00~30 御剣たち

31~60 ???

61~90 ???

90~99 出会わない

【43:00】

歩き始めて1時間ほど経過した――

「……誰もいないみたいね」

奇襲を防ぐために前方を麗佳が、後方を私が見ながら進んでいるのだが、なかなか精神的に疲れてくるものがあった。

私は偶数のプレイヤーを殺害してはいけないため、奇襲されたら反撃すれば良いという軽い気持ちで行く事も出来ない、という要因もあるからであろう。

「麗佳、少し休憩しない? そろそろ集中力が切れてしまいそうだから」

「えぇ、そうね。それじゃ、そこの通りを曲がってすぐにある部屋に――ッ!!」

角を曲がりかけた麗佳が口を閉じて後ろへ下がった。

「麗佳!?」

「いま、葉月さんらしき人が居たわ……!」

小声で麗佳と会話をしていると、廊下を挟んで声がこちらに届いた。

「れ、麗佳さん! 無事だったんだね……!」

葉月の泣きそう声がこちらに聞こえてきた。

まさか彼がここまで生き残っているとは、驚きである。

「葉月さんも、よく御無事で……。ずっと1人で行動していたんですか?」

「あぁ、そうなんだ……。その、加藤さんは、無事なのかい……?」

彼は突拍子も無く殴りかかった私についても心がけているようだった。

麗佳は無言でどう答えるか、ということを訴えてくる。


ここは……

1.無事だ、と麗佳に答えさせる

2.無事だ、と私が答える

3.はぐれた、と嘘をつく

4.死亡した、と嘘をつく

5.その他

>>531
>>532
>>533

>>533のコンマ下二桁によって安価を決定
 
00~33 >>531
34~66 >>532
67~99 >>533

2

1

「私も無事よ」

少し迷ったが、あまり時間を置き過ぎると向こうに不信感を与えてしまうため、私は咄嗟に口を開いた。

「……そうか。2人とも無事でなによりだよ」

葉月は少し時間を置いてからそう答えた。

やはり私の声を聞いて、あの時のことを思い出したのだろうか。

「取りあえず、近くの部屋で話をしないかい? もしかしたら、お互いに協力し合えるかもしれないからね」

「晶、どうする……?」

「…………」


私たちは、葉月の提案に……

1.乗る

2.乗らない

3.条件付きで乗る(要記載:条件)

4.このまま襲撃する

5.提案に乗る振りをして襲撃する

6.走り去る

7.その他

>>536
>>537
>>538

>>538のコンマ下二桁によって安価を決定
 
00~33 >>536
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67~99 >>538


7,まず、いきなり殴ったことを謝罪。理由を聞かれたら1回目の参加時のトラウマと答える。
話には自分とレイカの安全を確保した上でなら乗る。

4 絶対罠だ

4 ブラック葉月だろこれは

「罠だ。葉月はきっと私たちを殺しに来るはず……。だから、こっちから襲撃しよう」

一度ゲームを経験している私だからこそ分かる。

恐らく葉月は私のことが殺したくて仕方ないだろう。

だからこそ、平然を装ってこちらが油断した隙を突こうという魂胆だ。

仮に殺す気が無いとしても、もはやここまでゲームが進んでしまえば同行者以外は“全員”敵である。

「確かに、そうですね……。私たちも色々話したいことが――」

麗佳が葉月と会話をして時間を稼いでくれているが、襲撃までにあまり時間は残されていない。

(いま私が持っている武器は……)



コンバットナイフ、サバイバルナイフ、拳銃、スモークグレネード、手りゅう弾



これが、私の持っている武器全てである。戦闘に使えそうなソフトウェアは無いため、これらを用いて襲撃するわけだが……。

(葉月のPDAの番号が分からないのは、厳しい――)

もし襲撃した際に、葉月を誤って殺害してしまった場合のリスクはかなり大きいだろう。

それにもし私のPDAの番号を向こうが知っているならば、かなり厳しい状況になってくる。

しかし、私は奇数のPDAを持つ生存者を麗佳以外知らないのだから、ここで引いてはならない。


私は……どう襲撃する?

>>542
>>543
>>544

>>544のコンマ下二桁によって安価を決定
 
00~33 >>542
34~66 >>543
67~99 >>544

スモックを先に使って、ナイフを使って葉月押し倒す

八幡のスタンガン 自分は丸腰を装い、安心させたところに

銃で足を撃ち麗佳に催眠ガスをなげてもらう

「――それじゃ、間の部屋で話しましょう」

私たちは、葉月の思惑を利用して逆に襲撃する形を取ることにした。

麗佳にはスタンガンをいつでも作動できるようにさせ、私は丸腰であるかのように振る舞うことにした。

私が戦闘で廊下に出ると葉月の姿が見え、お互いに距離を少しずつ縮めていく――

(……どうでるか)

一歩進むごとに空気が張り詰めていくのが、じわじわと感じられる。

普段と変わりない様子の葉月がいつ豹変するか、と私は瞬きをせずにじっと見つめていた。

(くっ……!)

あと10歩も満たない距離に近づいても、葉月は不審な動作を見せることが無かった。

逆に襲撃してこないことが不審である――

「加藤さん、大丈夫かい? 随分と顔色が悪いようだが……」

「……大丈夫よ」

葉月の“戯言”が私の精神に追い打ちをかける。

どういうタイミングで彼は襲撃してくるのか、ということが全く読めない――

「先に入らせてもらうよ――」

扉の前に先に辿り着いた葉月が部屋に入っていく。


私は……

1.ここで襲撃する

2.いや、取りあえず部屋に入ろう

3.このまま葉月を置いて引き返す

4.その他

>>546
>>547
>>548

>>548のコンマ下二桁によって安価を決定
 
00~33 >>546
34~66 >>547
67~99 >>548

2かな








――撃たれた

私が部屋に入ろうと扉を開けた瞬間に、銃声が響き渡った。

麗佳の叫び声が遠くから聞こえてくるような、そのような感じがする。


銃弾は……?

コンマ判定1個下

00~05 頭

06~15 胸

16~25 腹

26~45 脚

46~70 腕

71~99 外れる

「か、は…………っ――」

私は突如襲われた激痛に倒れそうになる。

「は、はは…………ハハハハハ! こうも簡単に騙されるとはね!」

葉月は続けざまに銃弾を放ち、私は気が付けば片膝を付いていた。

「晶!!」

麗佳が拳銃で葉月に銃弾を連発する。

「は、はは…………やった、僕はやり遂げたんだ……!」

葉月はそれを避ける事も無く全て受け止めて、そのまま床に倒れた。

「あぁ……もう、疲れたよ――」

麗佳が泣きながら葉月に銃弾を撃ち込み、気が付けば彼は動かなくなっていた。

「あぁ……れい、か…………」

「少し待って、いま救急セットを用意しているから!」

私は膝に力が入らなくなり、その場に横に倒れ込んだ。

「良かっ、た、傷は浅いみた、いね……っ! これなら、助かるわ……っ!」

「そう、なんだ……よかった、よ……」

私は痛みに堪えながら麗佳に笑みを送るが、彼女の瞳からは涙が止まっていなかった。

「ほら、少しずつ血が止まって……止まって…………ッ!」

「うん……ありがとう、麗佳……」

それは、体内からかなり流血してしまったからであろう。だが、その現実を麗佳は認めたく無いようだ。

「晶…………あき、ら……ッ!!」

麗佳の泣きじゃくった顔が、少しずつ淀んでいく。

「れいか……ごめん、ね……」

瞳から水が沸いて、麗佳の顔がぼやけて見える。

「大丈夫……大丈夫、だから……っ! 私たちは……一緒に、このゲームをクリアするんでしょ……?」

無理矢理に作られていると分かっていても、麗佳の笑顔が眩しい――

「そう、だったね……約束、守らなきゃ。私が、麗佳を……まも、るから……」

「約束よ……? ずっと……ずっと、私と一緒よ……っ?」

「うん……。麗佳……」

「うん。なに……?」

「好き、だよ……。いや……あい、してる――」

私は弱々しく麗佳の頬に手を当てる。

そして、軽くキスをした――

「私も、晶の事……っ! ずっと、愛してる“から”――」

【DEAD END】

【進展】

02:00  目を覚ます

02:30  御剣と姫萩が出会う 
       陸島と郷田、色条、高山、長沢が出会う……郷田、高山、長沢が去る

03:00  手塚と出会う
       矢幡と葉月が出会う
       綺堂と漆山が出会う
       
03:30  寝ている北条を見つける……PDAが“5”と判明 結果的に手塚がPDAを奪う

04:00 ■漆山が綺堂に暴行し、ルール違反で死亡
       綺堂/御剣/姫萩と出会う

04:30  ルールが全て揃う

05:30  矢幡/葉月が高山と出会う

06:00  GPSを入手
       手塚のPDAが“6”と判明
       北条と陸島/色条が出会う

07:00  コンバットナイフ、地図拡張機能を入手

08:00  矢幡/高山/葉月と出会う……手塚/矢幡と同行する事になる 葉月と高山が別れる
      ★加藤が葉月を襲撃……麗佳によって止められる
       葉月が去る

08:30  矢幡のPDAが“J”と判明

09:30  2階へ到着
       加藤/矢幡、手塚に分断される

10:00  サバイバルナイフ、スタンガンを入手
      ★葉月が手塚を襲撃……手塚が軽傷を負う 葉月が逃げ出す

10:30  長沢と高山が出会う

11:00  御剣/姫萩/綺堂と出会う
       御剣のPDAが“3”と判明

14:00

15:00  手塚と再会する
       手塚が解除条件を満たす……首輪を受け取る

16:00  高山/長沢を見つける……接触せず

17:30  陸島/色条/北条と出会う
       陸島のPDAが“A”、色条のPDAが“7”と判明
       階段がシャッターで閉じられる……エクストラゲームが提供

18:00  エクストラゲーム開始

18:30 ★高山/長沢が加藤/矢幡を襲撃……上手く回避

20:00 ■陸島が北条に殺害される……エクストラゲームによって北条のPDAがAとなる

20:10 ■色条が北条に殺害される

21:00  3階へ到着

22:00  換気ダクト見取り図、拳銃を入手

22:30 ■郷田が葉月に殺害される

23:00 ★加藤が御剣/姫萩/綺堂を襲撃……銃弾が綺堂の肩に命中

23:30 ■綺堂が加藤に殺害される

24:30  麗佳に過去のことを話す

26:00  ドアのリモートコントローラー、拳銃を入手

27:30  戦闘禁止エリアに到着

37:00  同階の生存者数表示、スモークグレネード、サブマシンガン(玩具)を入手
       麗佳と接吻

40:00  4階へ到着

42:00  催涙ガス、手りゅう弾を入手

43:00  葉月と出会う
      ■加藤が葉月に殺害される……DEAD END

【PDA情報】
A 陸島(北条) Q殺し 
2 葉月 JOKER破壊
3 御剣 3名以上殺害
4 郷田 首輪3つ
5 北条 チェックポイント
6 手塚 偽装機能5回 
7 色条 全員遭遇
8 高山 PDA5個破壊
9 漆山 殲滅
10 長沢 首輪5個爆破
J 矢幡 24時間以上共に過ごしたプレイヤーの生存
Q 姫萩 生存
K 綺堂 PDA5個回収
JOKER 加藤

【死者】
漆山、陸島、色条、郷田、綺堂、加藤


今回のゲームは主人公の死亡により、終了となります。

次回のゲームはいつになるか分かりませんが、続行すると思います。

次回からのゲームに対する要望や意見等があれば、お願いします。

それでは。

間が空いたからルールの確認とかしたいな。
連投の禁止とか、

>>562

ルールは考えられる限りでは……


・安価に明らかに関係ないレスは無効となる。

・安価時の連投は止むを得ない場合を除いて無効となる。

・安価が無効となった場合、1個下を採用する。

・ゲームやそれに関係すること以外で不必要にレスする事は控える。


ぐらいだと思います。

ご返答ありがとうございます。

>>1かWikiに書いてあれば参加しやすくなるんじゃないかな、とも。
明文化されてれば毎回、聞き直す必要もないですしね。

質問なんですが、リベリオンズが出たので2ndステージの方をやる予定はありますか?需要があるかはわかりませんが

>>564
確かにそうですね。次スレからは>>1に記載するようにします。

原作キャラとの知り合いが2回続いたけど、二人とも死んでしまったなあ・・・。
次回は知り合いじゃない普通?のキャラに回帰するんだろうか。

今回は、復讐のハヅキングにしてやられたなあ。

>>565
キラークイーンよりも需要があるのであれば、やるかもしれません。
ただ、1回しかプレイしていないのであやふやな部分が多々あります……。

>>567
他プレイヤーと知り合い関係となると、行動制限がかかってしまう点が難しいところだと思います。
また、次回からはリピーターに対してはある程度ペナルティーを加えようと思います。

リピーターが本気で行動すると真っ先にエレベーターで最上階行くんだろうなあ。

>>568 個人的にはキラークイーンの方がいいです。逆に同人版とか需要次第でありですか?

あぁ、せっかくレズカップルが…
8回終わって未だに生存描写がないのはNGSWと葉月さんだけか
そして死んでも生きてても印象の薄い郷田…

リベリオンズの方も面白そうやけど既に14人いるからPDA関係が難しそう

>>570
言って無かったのですが、建物にエレベーターは設置されていないという設定になっています。

>>571
有りです。ただ、現在のゲームから変更されるとしたら色条の性格くらいです。

>>572
コンマ判定で彼らと出会う確率が何故か低いという事と、彼らの人柄や性格上生き残り辛いのはしょうがないかと思います。

>>573
リベリオンズは割と人間関係に縛りがあるので、ゲームの進展が同じ感じになるかもしれません。
ですので、キラークイーンのキャラとリベリオンズのキャラをランダムに混ぜてやる、というのも一つの手かもしれません。

麻生咲(女子1番)は、一人ずつ教室を出始めてから24分後、デイパックをもらい部屋を出た。
時計を見ると、3時24分を指していた。かなりの時間、寝ていたらしい。

生まれて初めてだ。 人間の死体を見たのは。 それも身近な人間の。

中岡先生…あの人の死に方はひどかった…
あの兵士は狂ってる…普通、死んだ人を人に向かって投げつける?
そのせいで、近くで見てしまった…
頭が半分なくなっていた。顔についてたもの――あれは血と脳味噌だろうか? とにかく、それも見てしまった。

そして、閑谷邦康(男子6番)。 あまり親しくはなかったものの、ショックだった。
教室を出るとき、その死体を見てしまった。 見ないつもりだったのに。 胴から外れた頭。 うつろな瞳は、天井を睨んでいた。 怖かった。

 

外へ出た。

ここが、このふざけたゲームの会場になる。 ゲームと呼ぶこと自体がふざけているけれど。 緑あふれるこの場所で、クラスのほぼ全員が死ぬ。 考えただけで恐ろしかった。

みんな死ぬ…

そう、中岡や邦康のような死体がゴロゴロ転がる。
頭が半分なくなった死体、腕がもげた死体、首が胴から離れた死体…

胃の中のものが突き上げてきた。

咲は茂みの方へ入った。

「うぇ…かは…っ」

ダメ…あの2人の死体が目に焼きついている…

咲は、胃の中の物を出した。 目に涙が滲んでいた。
デイパックのジッパーを開け、ペットボトルを手探りで探した。 ペットボトルのふたを開け、水を口に含み、口を濯いで吐き出した。 まだ口の中に酸の味が残っている。

「もう…ヤだよぉ…」

どうしてこんな目に会わないといけないの?
どうしてウチのクラスなの?
どうして…?

そうだ…こうやっていつも私が泣いているときは…絶対に駆けつけてきてくれて…優しく抱きしめてくれた…
クラスのみんなは知らないだろうけど、一応付き合ってるんだよね、あたしたち。
本当に大好きだから…あたしは…会いたい…会いたいなぁ…

「咲!」

咲は慌てて振り返った。 聞き覚えのある、男子にしては高めの声…

「た…まき…?」

そこにはきゃしゃな体つき、そこらの女子よりも可愛らしい、いつもの皆川玉樹(男子16番)の姿があった。 月の光で白い顔と手がぼんやりと浮かんで見えた。

「咲、よかった…」

玉樹は優しく咲を抱きしめた。咲の茶色の髪を優しく撫でた。

「玉樹…玉樹…会いたかったよぉ…怖かったよぉ…うわあぁぁぁぁ!!」

咲は玉樹の胸の中で、泣いた。
きっとこれは危険行為だ。
それでも玉樹は何も言わず抱きしめていた。 さっきまでの一人きりの恐怖はどこかへ行ってしまっていた。 今あるのは、幼馴染であり恋人でもある、玉樹に会えた事による安堵感、それでいっぱいだった。

 

咲は大分落ち着いてきた。フウ、と一つ小さなため息をついた。

「咲、気分は大丈夫?」

「あ…うん、ゴメンね。 こんなところで…こんな場合じゃないのに…」

そうだ、ついさっき吐いちゃったんだ。そんなトコで…

玉樹は首を横に振った。

「いいよ。出しちゃった方がすっきりするでしょ?
 僕もホント…吐きそうだよ。こんな事になって…」

咲は「そうだ」と呟き、自分のデイパックを引っ張り、ジッパーを開けて中を漁り始めた。中には色々入っていた。食料、水、コンパス、懐中電灯…そして、果物ナイフ。そんなものが入っているとは聞いていないから、これが支給武器、というものだろう。

咲は玉樹の方を見た。ズボンのベルトにはベレッタM92Fが差し込まれていた。

これが銃…初めて見た…

ゴクッと唾を飲み込んだ。

玉樹は立ち上がった。

「とにかくここから離れよう?禁止エリアっていうのになっちゃうし…」

「でも…誰かに会うかも…」

「大丈夫だよ」

玉樹が座って自分の方を見ている咲に手を差し伸べた。そしてにっこり笑った。

「大丈夫。咲は僕が守るから」

咲は自分の顔が真っ赤になっているのがわかった。夜だから玉樹には見えてないよね、よかった。

何とか立ち上がり、デイパックとショルダーバッグを持った咲は、玉樹に手を引かれ、移動を始めた。

本当に、かっこいいな、玉樹は。こんな状況でも冷静だし…

ずっと…ずっと一緒にいたい…

やっぱり、あたしはあなたが大好き、大好きだよ…

坂出慎(男子5番)は、デイパックとショルダーバッグを担ぎ、部屋から出た。
逆立てた金髪を生やした頭を掻きながら、外の緑いっぱいの空気を吸って、吐いた。
やっぱ外っていいよな?…あの部屋、血の匂いが充満していやがった…

慎は唇を噛んだ。

ふざけんな、あの進藤とかいうマッチョ野郎…

「慎!」

聞き覚えのある声を聞き、その方向を向いた。 不良仲間で短めの茶髪にパーマをあてている、井上稔(男子2番)が茂みから顔を出して、こっちにこい、と合図をしていた。 慎は稔の方に駆け寄り、再会の喜びを表して、右手同士をパンッと合わせた。

「良かったぜ。待っててくれないと思ってたよ、稔」

「何いってんだバーカ。 お前は信用してるぜ?」

2人はハハッと笑い声を上げた。

  

少し移動し、I=07エリアを抜け、森林公園の入り口付近まで来た。 そこで腰を下ろした。

「慎…どう思うよ?」

稔が口を開いた。

「あの進藤とかいうふざけた野郎…」

慎は拳を強く握り、地面を思いっきり殴った。

「オレはあいつをブッ[ピーーー]!
 許さねぇ…あのマッチョ…中岡殺しやがって…」

ニッと稔が笑った。

「オレも同意見だ。さっすが、同じこと考えてたか」

担任の中岡は、パッと見はさえないおじさんだったが、慎にとっても稔にとっても大切な人だった。 小学生時代から荒れていた2人は、親にも見離され、先生達からも呆れられていた。 どの大人も、自分達を構わなかった。 むしろ、存在していないかのように扱った。 そのくせ、何か悪いことがあったらすべてを2人に押し付けた。 そのため、2人は’大人’という存在が大嫌いだった。

しかし、中岡は、そんな2人に他の生徒と同じように接してくれた。 時には叱ったりもするが、何かが出来たときは褒めてくれ、悩んでいるときは相談に乗ってくれた。 これは他の生徒達から見たら何の変哲もない事だったと思うが、2人にとってはそれがとても嬉しかった。

そんな中岡を、政府はあっさり殺した。

許せなかった。

「ブッ[ピーーー]…のはいいけどよ、どうやって…?」

慎は訊いた。許せない、だけど報復の仕方がさっぱりわからない。

「とりあえず…武器、見ようぜ。」

2人はデイパックのファスナーを開けた。

稔のデイパックから出てきたのは、クマデ(あの潮干狩り、とかいうくだらない遊びで使うやつだな)だった。 慎の支給武器は、スコップ(こっちは芋ほりで使うような鉄製の物)が出てきた。

「おいおい…オレらに砂遊びでもやれってのか?」

「いや…宝探しじゃねぇの?」

プログラムに参加した男子生徒2人が会場で金銀財宝を発見! 新聞のトップ記事はもらったぜ、イエイ! …おいコラちょっと待てよ? これでは復讐なんて出来るわけがない。 返り討ちだ。

「どーするよぉ…」

慎が頭を抱え込んだ。稔はしばらく考えた後、口を開いた。

「仲間…探すか?」

「仲間…かぁ…
 でも、オレらみたいなヤツ信用してくれそうなのって…誰だよ?」

そう、2人はケンカもする、カツアゲもする、タバコも吸う、根っからの不良だった。 クラスでも浮いた存在だった。 そんな2人に、しかもこの状況で、誰が信用してくれるだろうか? おそらく、ほとんどの生徒は、この2人はやる気だ、と思っていることだろう。 ちくしょう。 こんなことになるんだったらボランティア活動でもやっとくべきだったぜ。

「やっぱ…委員長ペアとか?」

稔が言った。

正義感の強い、男子委員長の高橋良太(男子9番)と女子委員長の津川麻保(女子9番)なら、きっとこの状況でも戦おうとはしないだろう。 それに、差別とかは嫌いだから、きっと受け入れてくれるはずだ。 しかし、逆に危険因子だからとかいって殺される可能性がないわけではない。 正当防衛だから仕方がない、とか? まともなヤツほど狂うんだよな、こういう場合。 まぁ、簡単にやられたりなんざしないけど。

「それか…あのへんどうだ?ほのぼのカップル」

今度は慎が言った。

ほのぼのカップル、和田純直(男子20番)と原田千秋(女子16番)は争いごとは嫌いな人間だ。 千秋は、デイパックを進藤に投げつけるほど、このゲームに乗らないと主張していた。 しかし、この2人が自分達を受け入れてくれるかはわからない。

まあ、あとはごくプレーンな堤良樹(男子10番)とか富田宗(男子11番)あたりだろうか。 でも、サービスエリアで少し脅したからな…無理か。

「…やっぱ、咲と玉樹くらいだな…」

「だよな、あの2人なら…」

皆川玉樹(男子16番)と麻生咲(女子1番)は、クラスで唯一自分達に自然に接してくれていた。

 

中2の校外学習の班決めの時だったような気がする。

8人グループを作る、という事になったが、クラスで浮いていた存在の稔と慎には誰も声をかけてこなかった。 どうせさぼるつもりだったから、誰でもよかった。 余ったところにでも適当に入ろうと思っていた。

「ねぇ、井上君、坂出君。 一緒の班にならない?」

教室中が静まり返った。 担任の中岡もこっちの方を見つめていた。

2人に声をかける人間なんていないと思っていたので、驚いて振り返ると、咲が笑顔で立っていた。 外見はいささか派手だけど、誰にでも優しく、よく知らないがクラスメイトにはとても好かれているらしい。

「は?お前バッカじゃねーの?」

稔が咲を鼻で笑った。 すると横から幼馴染とかなんとかいう玉樹が咲の後ろから出てきた。 女みたいなヤツだ、と陰で笑ったことがある。

「バカじゃないよ。
 僕たち今、6人グループで、男子2人足りないの。
 だから、ダメかな?」

慎が玉樹の後ろを見ると、美祢達哉(男子17番)、川上理映子(女子3番)、黒沢星子(女子5番)、仙道桜子(女子7番)が震えているような感じで立っていた。 なんだよ? オレらは妖怪かってんだよ。

稔がため息をつき、立ち上がった。 稔は平均身長よりもやや低いが、玉樹や咲よりは高いので、2人は稔を見上げていた。

「オレらしか余ってねーから、仕方なく…か? ざけんなよ」

玉樹と咲が不思議そうな顔をして、お互いに顔を見合わせた。

「違うよ。 僕たちは仕方なくとか思ってないよ?」

「じゃあ、やっぱテメーらバカじゃん。
 オレらがどんな奴か知ってるんだろ?」

今まで黙っていた慎が口を開いた。 玉樹を思いっきり睨みつけた。

咲が慎と玉樹の間に入った。

「知ってるよ。
 ケンカ好きだし、タバコは吸うし、授業はさぼってるし……。
 でもね、あたしは2人とも本当はいい人だと思うよ?
 本当に悪い人なんて、このクラスにはいないと思うの。
 だから、みんなは2人のこと怖がってるけど、あたしは全然怖くないの。
 それじゃあダメなの?
 そんな考え方をするあたしとか玉樹とかはバカなのかな?」

大人しく咲の演説を聞いていた慎がククッと笑った。

「…わかったよ、オレの負けだわ。 一緒の班になるぜ、麻生」

稔も『降参』というように両手を顔の横の辺りまで挙げた。 咲と玉樹がにっこり笑った。

  

実際に校外学習に行ってわかった。 あの2人は本当に自分達に普通に接してくれていた。 本当にこのクラスには悪い人はいない、と思っている。 それ以来、玉樹と咲には普通に会話もするようになった。 時々、玉樹に『ちゃん』を付けてからかったりもした。 玉樹はそのたびに怒っていた。 どれもこれも懐かしい思い出だ。

「あの2人ならオレらを信用してくれるはずだ!」

「…でもさ、あの2人生きてるのか…?」

「稔…どういう事だ?」

稔は真剣な顔で慎を見つめた。

「あの2人は、このクラスに悪い奴はいない、と思ってるんだぜ?
 だったら、もしもこんなクソゲームに乗った奴に出くわしても…
 全く疑ったりしない…って事だろ?」

慎は目を見開いた。

そうだ! ヤバイ! あの2人ならどんな奴にでもだまされて殺されるかもしれない! 例えば…あの不良ギャル女の日生吹雪(女子17番)とかはやる気になるかもしれない。 そんな奴らに会ったとしても絶対に疑わないだろう。 しかも仲間にしようとするかもしれない。 ヤバイ…マジでヤバイ…

「稔、行くぞ」

慎が立ち上がった。

「行くって…どこにだよ?」

「バカかテメェ! 咲と玉樹を探しに行くに決まってるだろ!」

しばらく慎を見つめていた稔も、頷いて立ち上がった。 どこにいるかはわからないけど、まだそんなに遠くには行っていないはずだ。 まだこの辺にいるかもしれない。

  

絶対に殺させはしない。

土井雫(女子10番)はその小さな手にボウガンを持っていた。教室を出て、雫はすぐにデイパックのジッパーを開けた。怖い…怖いよ…誰かが襲ってきたらどうしよう…?その時、丸腰だったら危険だから、とにかく何か武器を…中から何かゴツい感じの弓に銃とかの引き金がついたような物が出てきた。 最初はよくわからなかったが、少し明かりがついている廊下で説明書を読むと、なかなか扱いやすそうなものだった。 扱いたくはなかったけれど。

「早く行け!」

見張りの兵隊が雫にマシンガンの銃口を向けた。

「ひ…っ!」

雫は慌てて荷物をまとめて、立ち上がった。この武器を使う機会がありませんように…雫は必死に祈った。祈りながらゆっくりと廊下を進んだ。出口が近づいてきたあたりで、雫は足を止めた。誰かがいる…誰…?ボウガンを握った手がガタガタ震えた。

「だ…誰?誰なの…?」

雫は震える声で訊いた。女の子、女の子ならいい…。女の子なら大丈夫だ、きっとやる気じゃない…

「その声…お前、土井か…?」

雫は目を見開いた。女の子ではなかった。 男の子だ。しかも、幼馴染の堤良樹(男子10番)ではない。良樹より6分前に、震えながら慌てて出て行った、勢多翼(男子8番)だ。

「おい…お前、何持ってるんだよ…?」

翼がゆっくり近づいてきた。雫はゆっくりと下がった。

「嫌だよ…来ないでぇ…」

震える手でしっかりと握ったボウガンを翼の方に向けた。 翼が足の動きを止めた。

「土井…オレを…[ピーーー]…のか…?やる気なんだな…?」

翼の右手に握られたカッターナイフの刃が月の光に反射して、鈍く光った。

「ち…違う! やだ…! 違うよぉ…!」

どんなに言っても翼の耳には届いていなかった。

「やる気なんだろ? そうなんだろ…?
 う…うわあぁぁぁぁぁぁ!!」

翼がカッターを振り上げ、雫に向かってきた。

「きゃあああああ!!」

雫は泣き叫び、翼の横を抜けて外へ出た。 その時にカッターの刃が雫の頬をかすめた。 翼が振り返り、再び雫の方へ向かってきた。

「オレは死にたくない! 死んでたまるかあぁぁぁぁ!!」

カッターを振り上げ、走ってくる。 さすがサッカー部FW、速い。距離がだんだん狭くなる。襲ってくる。あたしを[ピーーー]ために…

「やだあぁぁぁぁぁぁ!!」

雫は無我夢中でボウガンの引き金を引いた。 その反動でしりもちをついた。

勢多君は…?

ゆっくり視線を翼の方へ向けた。翼の首に何かが刺さっている。あれは…あたしが撃ったボウガンの矢!?

「土…井……や…っぱ…り…」

それだけ言うと、翼は前のめりに倒れた。雫は恐る恐る翼に近づき、そして目を見開いた。 首にはしっかり矢が刺さっていて、地面にはゆるゆると血が流れ出していた。

「いやああああああ!!」

雫の目から涙がぼろぼろ流れた。あたしは…あたしは人を殺した…!あたしは人殺し!人殺し!人殺し!ヒトゴロシ!!

「雫!」

茂みから幼馴染の堤良樹が出てきた。良樹君は見たんだ!あたしが勢多君を殺したところを!どうしよう!どうしよう!まさかあたしを[ピーーー]気なんじゃ…

良樹は雫の手を掴んだ。

「いやあぁぁぁ!! 離して! 離してぇ!!」
「落ち着け! 落ち着け雫!!」

手を振り解こうと暴れる雫を良樹は必死になだめた。

「やだよぉ! あたし、殺したんだ! 殺したんだよぉ! 人を殺したの!人殺しなのよぉ!!」

良樹は泣き叫ぶ雫を思いっきり引っ叩いた。雫は泣き叫ぶのをやめ、良樹をゆっくり見上げた。

「落ち着け、これは事故だったんだ! しょうがなかったんだ!」

強く雫の肩を揺すり、良樹が叫んだ。

「事…故…?」

「そうだ、事故だ。忘れるんだ。
 雫、オレと一緒にいよう?
 オレは絶対にお前を殺さないよ。だから、怯える必要もないんだ。
 わかるか?」

雫は涙でくしゃくしゃになった顔で、ゆっくり頷いた。

「よし、行こう。 ここにいたら危ないから…」

「…うん…」

2人はその場から走り去った。

  

雫の次に出てきた富田宗(男子11番)は言葉を失った。

翼の首に何か刺さっていた。

自分が出てくる直前に、翼らしいの叫び声と共に雫らしい泣き声が聞こえた。 あたりを見回したが、雫の姿はない。

「まさか…土井が…?」

しばらく考えたが、フウ、とため息をつき首を横に振った。

何かの間違いだ。 あの叫び声は土井じゃなかったんだ。 あんな大人しい子が人殺しなんてするはずがない。 でも、どっちにしても、これは一体誰が…?

宗は唇を噛んだ。

そして、翼のデイパックを持ち、そばに落ちていたカッターを拾うと、その場から立ち去った。

F=09とF=10の境目にある、廃れた工場の物だったらしい倉庫に、仲山行人(男子12番)とそのとりまきがいた。 
「どうして…こんな事に…?」

内藤真依子(女子12番)がため息混じりに呟いた。 真依子の横では佐久間佳江(女子6番)が泣きじゃくっている。 鈴木明也(男子7番)は冷や汗でずれたメガネを中指で押し上げ、ため息をついた。

「ねぇ、行人君…どうしよう…ねぇ…何か言ってよぉ…」

野口素明(男子13番)が倉庫に入ってからずっと黙って座っている行人の肩を揺すった。

「やめろ、素明。
 行人だって何か考えているかもしれない。
 お前だって少しは考えたらどうなんだ?」

優等生に似合った、少しきつめの口調で明也が注意した。

「だって…オレ…そんなの何も思いつかないしさぁ…」

消えそうな声で、素明が呟いた。 それを見て、明也がため息をついた。

「思いつかない、じゃないだろ?考える努力をしろよ」

「何よ、明也…あなただって口先だけじゃないの。
 頭いいんだから、何か案でも出しなさいよ。
 こういう時のための優等生じゃないの」

真依子がいささかきつめの口調で言った。

「バーカ。
 こんな時にどうすればいいですか、
 とかいう問題なんて問題集には載ってないんだよ」

「バカですって?
 何よ、役に立たなかったら天才だって無意味だわ!」

「じゃあ真依子、お前だって何か考えろよ」

「あたしだってねぇ、さっきから考えてるの!」

口げんかが始まった。 これはいつものことだった。 2人は気が合わないのか、何かと言いがかりをつけてはもめている。 この口げんかで昼休みをすべてつぶした事だってある。

「もうやめてよ!!」

佳江が持っていた、涙で濡れて丸まっているハンカチを2人の方に投げつけた。

「もうやめて! 今はそれどころじゃないじゃない!
 ケンカなんかやってもどうにもならないじゃない!」

泣き叫ぶ佳江を見て、明也と真依子はケンカをやめた。 たしかにどうにもならない。 むしろ、ケンカがきっかけで殺しあってしまうかもしれない。 そんな状況なのだ。

「ケンカはいけないよ、2人とも」

行人が静かに口を開いた。倉庫に入って行人は初めて口を開いた。とりまき4人は静かになった。

明也がメガネを中指で上げた。

「何か思いついたのか、行人…?
 こんなくだらない戦いに参加しないでもいい方法…」

「ああ」

行人がにっこり笑った。

「何何!? どうすればいいの!?」

素明が嬉しそうに飛び跳ねた。 佳江と真依子は抱き合ってはしゃいだ。

F=09とF=10の境目にある、廃れた工場の物だったらしい倉庫に、仲山行人(男子12番)とそのとりまきがいた。 
「どうして…こんな事に…?」

内藤真依子(女子12番)がため息混じりに呟いた。 真依子の横では佐久間佳江(女子6番)が泣きじゃくっている。 鈴木明也(男子7番)は冷や汗でずれたメガネを中指で押し上げ、ため息をついた。

「ねぇ、行人君…どうしよう…ねぇ…何か言ってよぉ…」

野口素明(男子13番)が倉庫に入ってからずっと黙って座っている行人の肩を揺すった。

「やめろ、素明。
 行人だって何か考えているかもしれない。
 お前だって少しは考えたらどうなんだ?」

優等生に似合った、少しきつめの口調で明也が注意した。

「だって…オレ…そんなの何も思いつかないしさぁ…」

消えそうな声で、素明が呟いた。 それを見て、明也がため息をついた。

「思いつかない、じゃないだろ?考える努力をしろよ」

「何よ、明也…あなただって口先だけじゃないの。
 頭いいんだから、何か案でも出しなさいよ。
 こういう時のための優等生じゃないの」

真依子がいささかきつめの口調で言った。

「バーカ。
 こんな時にどうすればいいですか、
 とかいう問題なんて問題集には載ってないんだよ」

「バカですって?
 何よ、役に立たなかったら天才だって無意味だわ!」

「じゃあ真依子、お前だって何か考えろよ」

「あたしだってねぇ、さっきから考えてるの!」

口げんかが始まった。 これはいつものことだった。 2人は気が合わないのか、何かと言いがかりをつけてはもめている。 この口げんかで昼休みをすべてつぶした事だってある。

「もうやめてよ!!」

佳江が持っていた、涙で濡れて丸まっているハンカチを2人の方に投げつけた。

「もうやめて! 今はそれどころじゃないじゃない!
 ケンカなんかやってもどうにもならないじゃない!」

泣き叫ぶ佳江を見て、明也と真依子はケンカをやめた。 たしかにどうにもならない。 むしろ、ケンカがきっかけで殺しあってしまうかもしれない。 そんな状況なのだ。

「ケンカはいけないよ、2人とも」

行人が静かに口を開いた。倉庫に入って行人は初めて口を開いた。とりまき4人は静かになった。

明也がメガネを中指で上げた。

「何か思いついたのか、行人…?こんなくだらない戦いに参加しないでもいい方法…」
「ああ」

行人がにっこり笑った。

「何何!? どうすればいいの!?」

素明が嬉しそうに飛び跳ねた。 佳江と真依子は抱き合ってはしゃいだ。

「それじゃあ、まずは…」

行人の視線が全員の荷物の方に向いた。

「みんなの武器をここに出してくれないか?」

「わかった!」

素明と佳江と真依子は、急いでデイパックを開け、武器を探した。 明也は行人を凝視していた。 行人もその視線に気づき、「ほら、早く」というようにあごで荷物の方を指した。

行人…お前…まさか…いや、そんなハズない、行人に限って、そんな…

  

倉庫の中にあった木箱の上に全員の武器を置いた。

佳江のデイパックからは自動拳銃(トカレフTT?33)、素明のデイパックからはシンプルなデザインのマシンガン(トンプソン SMG)が出てきた。 この辺はアタリの部類だろう。 真依子のデイパックからはキリ(ほら、図工とかで木に穴を開けるやつね)が出てきた。 可もなく不可もなく…まあ、どちらかといえば不可か? そして、明也のデイパックから出てきたのはセロハンテープ、行人のデイパックからは瞬間接着剤だった。 なんだ、これは。 オレたちに図工でもしろというのか? くっつけることしか出来ないな。 美術評価1。

「へぇ…これがマシンガンねー…」

行人が珍しそうに(いや、本当に珍しいはずだ。普通の人なら)トンプソンを手に取った。

「それで?どうするの?ねぇ…」

真依子が行人の側に寄った。 行人が爽やかな笑顔を浮かべた。

「まあ、見てなって」

ぱぱぱぱぱ、というタイプライターのような銃声と同時に、真依子の体に沢山の穴が開き、後ろに吹っ飛んだ。 仰向けになった真依子の体から流れ出した大量の血が床を濡らしていった。

倉庫中に銃声の余韻が響き渡り、その後一瞬静かになった。新しい血の匂いが充満し始めていた。

「きゃあああああああ!!」

「うわあああああああ!!」

佳江と素明が同時に叫んだ。 明也は呆然と行人を見ていた。

「うるさいよ、お前ら」

再びぱぱぱぱぱ、という銃声が響き、行人の側から走って逃げていく素明の背骨に沿って、十数個の穴が開いた。 素明はそのままうつ伏せに倒れた。 もちろん、絶命していた。

明也は下に置いてあったもう1つの銃器であるトカレフをとっさに拾い上げ、行人の側から離れた。 そして、5mほど離れたところ、恐怖で腰が抜けた佳江の前で振り返ってトカレフを構えた。

「どういうことだ、行人…」

声が震えた。 ちくしょう、震えてる場合じゃないのに。

行人が笑った。その笑顔がかえって恐ろしかった。

「だって、お前らこのゲームに参加したくなんだろ?
 だから、参加しないでもいいように殺したんだよ。
 賢明なお前ならわかるだろ?」

「行人…やっぱりそうだったのか…」

予感が当たってしまった。 行人が人殺しをする、という予感が。 明也は行人を呆然としながらも見続けた。
明也は決してバカでも愚かでもない。
素明・真依子・佳江が行人のある種のカリスマ性に惹かれて行動を共にしているのとは違い、明也は行人に見初められてグループに入った。 察しの良さも、行人が気に入っている明也の能力の1つだ。

「そ…そんなぁ…」

佳江が震える声で言った。目には涙が溢れていた。

「行人君…やめてよぉ…あ…あたし…そんな行人君、嫌だよ…
 元の…普通のかっこいい行人君に戻ってよぉ…
 あたし、いつもの行人君が大好きなのに…」

「ふー…ん。 いいよ、好きじゃなくてもさ。
 はっきり言って、ウザかったんだよね、佳江。
 いっつも側ではしゃいでさ…」

トンプソンの銃口を佳江に向けた。 佳江は目を閉じた。

ぱぱぱぱぱ、と3度目の銃声が鳴り響いた。 死を覚悟して、目を閉じていた佳江が違和感を感じ、目をゆっくり開いた。

「どうして…あたし生きてる…?」

そして目の前を見て、「ひ…っ」と声にならない声を上げた。 前にいた明也の体がゆっくりと傾き、倒れた。 佳江をかばったのだ。

「あ…明也…明也!!」

明也はその声に反応して苦しそうにゆっくり目を開いた。 ゲホッと咳き込み、血を吐き出した。 メガネのレンズは、おそらく倒れたときの衝撃で割れていた。

「か…佳江…逃げ…ろ…」

震える手でトカレフを佳江の手に預けた。

「どうして!? 何でかばってくれたの!? どうして!?」

佳江が泣きながら明也の肩を揺らした。 明也が苦しそうに笑った。

「当たり前…だろ…?
 好きな…子…守るのって…男の常識…だろ?」

好き? 好きだった? あたしのことを?

「だから――」

それだけ言って、明也は目を閉じた。 もう、息はしていなかった。

しばらく固まっていた佳江は、ようやく言葉の意味を理解した。

「好き…? あたしを…?
 だって、あたしずっと行人君が好きだって言ってたじゃない…
 その度に怒った顔してさぁ…バカみたいとか言ってけなしてたくせに…
 それなのに…どうして…どうして…?」

涙が後から後から溢れ出していた。

明也の気持ちなんて、一度も考えたことはなかった。 明也の目の前で「行人君が好きなの」と何度も言った。 そのたびに明也はどんな思いをしていたのだろう? どんな思いであたしを見ていたのだろう? どんな思いで…

「あーあ…明也死んじゃった。
 オレのお気に入りだったから最後まで残しておこうと思ってたのにさ…
 佳江、お前気づいてなかったんだ。
 優等生で、そこそこかっこよくて、それなりに運動もできて…
 こんなヤツがお前なんかのコト好きだったんだぜ?
 それなのにお前はずっとオレのことばっか…かわいそうになぁ…明也…
 オレは知ってたぜ。
 だって明らかに真依子に対する態度と違ってたもんな」

ククッと行人が笑った。 佳江は行人を睨みつけた。 トカレフを握り、立ち上がってゆっくりと下がった。 入り口の方に向かって。

「あたし…あなたのこと誤解してたのね。
 もっといい人だと思ってたのに…」

「それはお前の人を見る目がなかったってことだな。 残念無念…ってか?」

「あたし、あなたなんかに殺されない!
 殺されてたまるもんか! 逃げてやる!
 行人君なんか、誰かに殺されちゃえばいいんだ! バカぁぁぁ!!」

それだけ叫ぶと、佳江は倉庫の扉を開いて外に出た。 走った。 トカレフだけはしっかり握って。

「他力本願って嫌いだな。 殺したきゃ自分でやりな…オレみたいにな!」

ぱぱぱぱぱ、という銃声と共に佳江の体にいくつもの衝撃が走り、そのままスライディングをするように倒れた。 腹から左胸にかけて穴が開き、草むらに血溜まりを作った。

  

行人は佳江に近づき、絶命していることを確認してから、側に落ちているトカレフを拾い上げた。 再び倉庫にもどり、2つのデイパックに自分の修学旅行用の荷物で必要そうなものと全員分の食料と水を入れ、立ち上がった。

初めてだ、人殺しなんて。 楽しい、楽しいじゃねーか! ナイスだ政府! あの素明の怯えきった時の行動、明也の震えた声、佳江の人に裏切られたという絶望に染まった顔…楽しい! すっげー楽しい! もっと見たい! 恐怖にゆがんだ顔! もっと聞きたい! 恐怖にゆがんだ声! いいぜ、やってやる! 優勝してやるよ! こんな楽しいこと、途中で止められるか!

 

こうして、仲山行人は殺人鬼と化した。

 

男子7番・鈴木明也
男子13番・野口素明
女子6番・佐久間佳江
女子12番・内藤真依子  死亡

【残り34人】

『残りは3人、頑張ってくださいね』

放送が切れた。新しいクラスに変わった次の日から始まったプログラム。恐らく今年度の第1号だ。教室にいると、突然眠気に襲われ、気がつけばこの会場にいた。試合の進行は遅かった。恐らく、2日と20時間は戦い続けている。この会場が、少し広すぎると思う。“自分”はマシンガンを見つめる。これは確か最初に殺した男子生徒が持っていた。名前は知らない。茶髪で肌が浅黒かった、恐らく運動部所属だろう、身のこなしが軽かった。続いて、自動拳銃の弾数を確認する。これは昨日の夕方に殺した女子生徒が持っていた。1度だけ同じクラスになったことのある人。大人しそうで、分厚いレンズをはめ込んだ眼鏡が印象的だった。そして、地面に置かれていた探知機を手に取った。これは、少し前に殺した男子生徒が持っていた。
名前は知らない。血で汚れている“自分”に停戦を求めてきた彼は、恐らくクラスを束ねる委員長タイプだ。

“自分”は全身が赤黒く染まっていた。
自分の血は、ほとんどない。
大方殺した時に浴びた返り血だ。

キモチワルイ。

早く、終わらせたい。

 

残りは3人。

“自分”を入れて3人。

そして、残りの2人は、今こちらに向かって移動中だ。

誰かはわからない。

名簿にいちいち印などつけていないから。

知る必要もない。

どうせもうじき死ぬのだから。

 

姿が見えた。向こうはこちらに気付いていない。

1人は、利発そうな男子。自動拳銃を握り締めながら、慎重に辺りを見回している。しかし、“自分”に気付いていないのはどうかと思う。

もう1人は、可愛らしい女子。
こちらは怪我をしているらしく、歩き方がおかしい。持っているものは、刀だろうか。

彼女は知っている。

“自分”の、恋人の、双子の、妹。
恋人は、クラスが違うので、無事だろう。
妹の参加に反対して政府に何かをされていない限り。

2人でいるということは、“やる気”ではないのだろう。
しかし、たった2人しか生き残れないというこの状況で、残り3人しか居ない、どうする気なのだろう?

まあ、どうでもいいことだ。

殺してしまうのだから。

 

“自分”はマシンガンを構えた。
大丈夫、苦しませたりはしない。
銃の扱いには自信がある。
一思いに、殺してやる。

男子がようやく“自分”の存在に気付いた。

しかし、もう遅い。

“自分”のマシンガンが火を噴く。
同時に、2人の頭に数箇所穴が開き、2人はそのまま倒れた。

『おめでとうございます。
 禁止エリアを解除するので、本部に戻ってきてください』

 

 

まずは終わった。

長かった。

早く戻ろう。

こんな所に長居はしたくない。

早く帰りたい。
 

ごめんなさい。

巻き込んで、ごめんなさい。

政府内部連絡文書二〇〇〇年度第〇〇〇〇四九号
総統府監房特殊企画部防衛担当官並専守防衛陸軍幕僚監部戦闘実験担当官発

共和国戦闘実験第六十八番プログラム二〇〇〇年度第一三号担当官宛

 

 次回ノ戦闘実験第六十八番プログラム対象クラス

 神奈川県四宮市立篠山中学校三年四組

 男子十九名

 女子二十名

 計三十九名

 コノクラスニハ戦闘実験体十六号ガ在籍シテイルトノコト

 

追加

 

 志願者一名

 兵庫県神戸市立春日第二中学校三年二組男子九番

 周防悠哉(スオウ・ユウヤ)

 志願理由不詳

 過去ノ戦闘経験等ナシ

 念ノタメ、動向ニハ注意スルコト

 尚、出席番号ハ男子十一番ニ入ル

神奈川県四宮市立四宮中学校3年4組について。
担任・関本美香

半数以上のクラスが学級崩壊をしている学校内では、異例のクラス。
問題児の数は他のクラスとは変わらないが、クラス内での問題は少ない。
3つに別れた問題児グループ間での問題は起きていない。
本人たち曰く、停戦状態らしい。
全体的にグループ間に隔てが少なく仲が良い。
唯一の問題は、いじめ問題だろう。
解決には、時間がかかりそうだ。

 

生徒たちに、クラスについて聞いてみた。

 

『今のクラスについて、どう思いますか?』

 

青山豪(あおやま・ごう/男子1番)

「好きだよ、仲良しなクラスだと思うしね。
 でも正直言うと、一緒にいたくない人もいるかも… 浅原は?」

浅原誠(あさはら・まこと/男子2番)

「普通だね。 レベルの高い連中もいるから。
 ただ、レベルの低いヤツに合わせるのは不満だね、ねぇ、池田」

池田圭祐(いけだ・けいすけ/男子3番)

「…それってオレの事じゃないっスかね?
 オレは結構気に入ってるっスよ、勝サンがいるっスから。 稲田は?」

稲田藤馬(いなだ・とうま/男子4番)

「オレも好き! 楽しいもんな、このクラス!
 あー早く修学旅行行きてぇな! 咲也はどうだ?」

笠井咲也(かさい・さくや/男子5番)

「オレも好きだなー、なんか落ち着ける感じ。
 怖い人もいるけど、実は結構いい人たちだしな! 次は尚!」

工藤久尚(くどう・ひさなお/男子6番)

「オレも好き、毎日楽しいし!
 休み時間が待ち遠しいよな、イエイ! 栗原どうよ?」

栗原佑(くりはら・たすく/男子7番)

「気に入ってるぜ、でもオレはケンカしてぇな…
 あと、オレをからかうのやめろ、千尋!! 斎藤もそう思わねぇ?」

斎藤穂高(さいとう・ほだか/男子8番)

「その様子は見てると楽しいんだけどねぇ…
 あ、このクラスは大好きだぜ!! 真田は?」

真田勝(さなだ・まさる/男子9番)

「見てて楽しいのは同感だな。 オレはからかわれねぇし?
 オレも嫌いじゃないぜ、このクラスは。 設楽もそうだろ?」

設楽海斗(したら・かいと/男子10番)

「そうか? 十分からかわれてるだろ。
 このクラスはちょっとほのぼのしすぎかもしれないな。 伊達は?」

伊達功一(だて・こういち/男子12番)

「オレは大好きだぜ、このクラス!
 なんせ女の子が皆可愛いのなんのって… なぁ、アキ?」

津田彰臣(つだ・あきおみ/男子13番)

「コウ、お前その軟派な性格どうにかしろよ。
 このクラスが好きなのは同感だけどな。 長門はどうだ?」

長門悟也(ながと・さとや/男子14番)

「いいクラスですよ、恐らく今までで最高ですね。
 願わくば、皆無事に卒業したいものです… ねぇ、新島君?」

新島恒彰(にいじま・つねあき/男子15番)

「あぁ? どーでもいいし、別に好きでも嫌いでもねぇよ。
 ケンカしてぇのは栗原のチビと同じだ。 羽山にパスだ」

羽山柾人(はやま・まさと/男子16番)

「えっと…その…ケンカは…やめた方が…あ、いや…
 僕もこのクラスは好き…多分… 不破君は?」

不破千尋(ふわ・ちひろ/男子17番)

「大好きさっ、からかい甲斐のある子が多くて多くて…
 でもさ、君はちょっとからかい辛いなぁ、由樹クン」

美作由樹(みまさか・ゆうき/男子18番)

「千尋君さぁ、かなり歪んでるよね、性格が。
 でも、僕も好きだなぁ、このクラスは楽しいしね。 康介君は?」

柚木康介(ゆのき・こうすけ/男子19番)

「ユキ君毒舌… あ、オレも好きかな。
 平和でいいよね、争い事はいけないよ。 ねぇ、脇?」

脇連太郎(わき・れんたろう/男子20番)

「平和ねぇ…オレはケンカはするからなぁ…ちょっと物足りないな。
 あ、伊達の言う事はわかるよ、すっごく。 な、梢サン?」

今岡梢(いまおか・こずえ/女子1番)

「あたしに聞かれても困るっての。
 でもこのクラスは好きだな、あ、でも…岩見さんは…」

岩見智子(いわみ・ともこ/女子2番)

「あたしは嫌い。 大っ嫌いよ、こんなクラスなんか。
 …ううん、学校が嫌いなの。 …次は誰? 金城さん?」

金城玲奈(かねしろ・れな/女子3番)

「ウジウジしてムカつくわねぇ、あなた。
 クラス? 別に好きとかじゃないわ、あたしは。 伊吹はどう?」

桐島伊吹(きりしま・いぶき/女子4番)

「別にどうでもいいわ、そんなの。
 誰が一緒だろうと、あたしは干渉しないしされないし。 はい、黒川」

黒川梨紗(くろかわ・りさ/女子5番)

「えっと…あたしは好き…かも。 楽しいもん。
 いい子がいっぱいいるし… ねぇ、香澄ちゃん?」

小南香澄(こみなみ・かすみ/女子6番)

「うん、大好き、いいクラスよ、ネタになるし!いつかこのクラスをモデルにした小説書くんだ! どう思う、陽子?」

坂本陽子(さかもと・ようこ/女子7番)

「それいいんじゃない? 書いたら絶対読むよ!友達いっぱいいるから、大好きだなぁ… 貴音サンは?」

椎名貴音(しいな・たかね/女子8番)

「いいんじゃない? 退屈しないもの。
 まあ、嫌いなタイプもいるけどね。 透子は好きでしょ?」

駿河透子(するが・とうこ/女子9番)

「うん、大好き! 全員いい子だもんね!副委員長やっててよかった、って思えるの! 凪紗ちゃんは?」

曽根崎凪紗(そねざき・なぎさ/女子10番)

「さすが副委員長、立派なこと言うねぇ!あたしも大好き、最近は勝たちとも仲良くできて… 淳は?」

高山淳(たかやま・じゅん/女子11番)

「おれも好きかな、男子もいいヤツばっかだしね。
 遊んでて楽しいよ、運動能力高いし! 敬子姐さんも遊ばないかい?」

遠江敬子(とおとうみ・けいこ/女子12番)

「皆で遊ぶのも楽しいかもしれないですね。
 私も好きですよ、毎日が充実しています。 中原さんはいかがです?」

中原朝子(なかはら・あさこ/女子13番)

「んー別に好きとか嫌いとかないなぁ、普通かな。
 ツネ君が一緒ならそれでいいの! 濱中さんは?」

濱中薫(はまなか・かおる/女子14番)

「うわ、朝子ちゃんノロケ? 暑い暑い…
 薫、このクラス大好き! 楽しい! ナッちゃんも一緒だしね!」

姫川奈都希(ひめかわ・なつき/女子15番)

「はいはい、あたしも一緒で嬉しいよ、薫。
 珍しいよね、こんなに仲の良いクラスも。 ねぇ、那緒美?」

真中那緒美(まなか・なおみ/女子16番)

「うん、珍しいねぇ…でも楽しいから良し!
 薫、絶対漫才デビューしようね! はい、三河さん!」

三河睦(みかわ・むつみ/女子17番)

「あたしは好きじゃないね、馴れ合いは嫌いなんだ。
 正直、少しウザいかも。 矢田さんは?」

矢田美晴(やだ・みはる/女子18番)

「あたしは好きよ、楽しいし…仲良い子もいるし…
 不破君さえいなけりゃもっと楽しいわよ! 緋鶴、わかってくれる?」

結城緋鶴(ゆうき・ひづる/女子19番)

「何言うとんねん、実は不破君に相手してもらえてうれしいんやろ?
 ウチも好き、転校生のウチを皆受け入れてくれて… 遼サンもね」

吉原遼(よしはら・りょう/女子20番)

「それは緋鶴ちゃんに魅力があるからじゃない?
 あたしも好きよ、一緒にいてくれる子がいるんだもの」

男子1番 青山豪
(あおやま・ごう) 女子1番 今岡梢
(いまおか・こずえ)
男子2番 浅原誠
(あさはら・まこと) 女子2番 岩見智子
(いわみ・ともこ)
男子3番 池田圭祐
(いけだ・けいすけ) 女子3番 金城玲奈
(かねしろ・れな)
男子4番 稲田藤馬
(いなだ・とうま) 女子4番 桐島伊吹
(きりしま・いぶき)
男子5番 笠井咲也
(かさい・さくや) 女子5番 黒川梨紗
(くろかわ・りさ)
男子6番 工藤久尚
(くどう・ひさなお) 女子6番 小南香澄
(こみなみ・かすみ)
男子7番 栗原佑
(くりはら・たすく) 女子7番 坂本陽子
(さかもと・ようこ)
男子8番 斎藤穂高
(さいとう・ほだか) 女子8番 椎名貴音
(しいな・たかね)
男子9番 真田勝
(さなだ・まさる) 女子9番 駿河透子
(するが・とうこ)
男子10番 設楽海斗
(したら・かいと) 女子10番 曽根崎凪紗
(そねざき・なぎさ)
男子11番 周防悠哉
(すおう・ゆうや) 女子11番 高山淳
(たかやま・じゅん)
男子12番 伊達功一
(だて・こういち) 女子12番 遠江敬子
(とおとうみ・けいこ)
男子13番 津田彰臣
(つだ・あきおみ) 女子13番 中原朝子
(なかはら・あさこ)
男子14番 長門悟也
(ながと・さとや) 女子14番 濱中薫
(はまなか・かおる)
男子15番 新島恒彰
(にいじま・つねあき) 女子15番 姫川奈都希
(ひめがわ・なつき)
男子16番 羽山柾人
(はやま・まさと) 女子16番 真中那緒美
(まなか・なおみ)
男子17番 不破千尋
(ふわ・ちひろ) 女子17番 三河睦
(みかわ・むつみ)
男子18番 美作由樹
(みまさか・ゆうき) 女子18番 矢田美晴
(やだ・みはる)
男子19番 柚木康介
(ゆのき・こうすけ) 女子19番 結城緋鶴
(ゆうき・ひづる)
男子20番 脇連太郎
(わき・れんたろう) 女子20番 吉原遼
(よしはら・りょう)

「稔、起きて? 稔ってば!!」
井上稔(いのうえ・みのる/ADGI)は部屋の外でドアを激しく叩く音で目を覚ました。
1つ大きな欠伸をし、眠い目を擦った。

「ぁんだよ…こんな朝っぱらから…
 今日はバイトねぇし…寝かせてくれよぉ…」

「朝っぱらじゃない、もう11時だよ!!
 アンタももうすぐ二十歳なんだよ、しっかりしなさい!!
 それより電話だよ、電話!!」

部屋の外で母親が叫んでいる。

「あぁ…? オレいねーよ、只今外出中…」

「…いいんだね? 大槻さんって方から…
 急ぎの用って言ってるけど?」

「…あぁ… あぁ!? おっさん!?」

稔は慌てて飛び起きた。

今日はオレは組織には呼ばれてなかったはずだぞ?
しかも急ぎの用って… 何かあったのか?

 

「もしもし、おっさん?」

『稔…まさかまだ寝ていたのか?』

電話の向こうでは今、大槻正樹(おおつき・まさき/ADGI)が呆れた顔をしているだろう。

「…んなことどうでもいいんだよ、それより用って何?」

『そうだった、稔、今から来れるか?』

「そりゃあ…飯食ったら…」

『それからでいい、来てくれないか。
 次のプログラム対象クラスがわかったんだ。
 それが…私たちと無関係というわけでもないんだ』

稔は顔をしかめた。
無関係じゃない…ってどういうことだろう?

稔は食事を素早く済ませ、家を出た。

車を走らせて大槻の家に着いた。

中には既に数人のメンバーがいた。

「あ、こんにちは、稔ちゃんv」

にっこりと微笑んでいる小柄な黒髪のショートカットの女性は、この中では最も歳が近い柳瀬伊織(やなせ・いおり/ADGI)。
稔の1つ上の伊織も稔と同じ、プログラムの優勝者だ。
伊織は普通に中学・高校を卒業し、看護専門学校生だ。
とても年上には見えないが。

「おそよー稔。 11時起きだって?」

爽やかな笑顔を浮かべているのは、稔より5つ上の高谷祐樹(たかや・ゆうき/ADGI)。
とても気さくで優しい、いい人だ。
高谷が何故ADGIに所属しているのかはわからないが、プログラムの優勝者ではないらしい。

「えっと…おっさんは?」

稔は辺りを見回した。
この部屋には大槻はいない。

「買い物」

不意に静かな声が聞こえ、稔は奥の部屋を覗き込んだ。
そこには長い茶髪を適当に束ねている園山シホ(そのやま・しほ/ADGI)がおり、稔と目が合うとふいっと顔を逸らした。
まだ17歳という彼女は、すべてが謎だ。
今までに何があったのか、今どこに住んでいるのか、稔は全く知らない。

「伊織姉が来た時には、もうおっさんいなかったのか?」

「うん。 でも人を呼んどいて買い物ってねぇ…」

伊織は溜息を吐いた。
そして、稔にそっと耳打ちした。

「ねぇねぇ、稔ちゃん。
 稔ちゃんは…シホのことどう思う?」

どうして年上の稔が“ちゃん”付けで、年下のシホが呼び捨てなのかは謎だが、それは今はどうでもいい。

「…オレ、アイツ怖い。 苦手なタイプかな。
 そういう伊織姉は?」

「うーん… あたしも苦手なんだよねぇ…
 得体の知れない子よねぇ…
 リーダーに聞いたら『本人が言うまで待ちなさい』って言われたし…」

2人はシホの方をちらっと見た。
シホは長細い黒のケースを大事そうに抱えている。
あの中には、シホが愛用している突撃銃(USSR AK74)が入っている。
何故そんな物騒な物を後生大事に持っているのか、それも謎だ。

因みに、伊織の言う“リーダー”とは大槻の事だ。
大槻はADGI神奈川県支部のトップなので、皆にはリーダーと呼ばれている。
稔を除いて。

 

「ただいま、待たせてすまなかったね」

 

ドアが開き、大槻が入ってきた。

「おっせーよ、おっさん! …あ、チワっす、匠サン」

稔は大槻に悪態づいたが、その後ろにいた曽根崎匠(そねざき・たくみ/ADGI)に気付き、ぺこりと頭を下げた。
匠は稔が最も尊敬している人物だ。
古株というわけではないが、頭も良く、銃や格闘技の腕前も卓越している。

匠には1人娘がいる。
稔は何度か会ったことがあるが、彼女も銃や格闘技の腕前は凄い。
身長がとても低いが(“チビっこ”と呼ぶたびに怒られた)、中学3年生らしい。

「リーダー、それで、あたしたちを呼んだ用って…」

伊織が大槻を見つめた。
稔と高谷も大槻を見、シホも奥の部屋から出てきた。
大槻は大きく息を吐いた。

「落ち着いて聞いてくれるかな?」

それは全員に問い掛けているようだったが、視線はずっと匠の方に注がれていたような気がした。

「…ハッキングで次のプログラム対象クラスがわかったよ。
 日にちは不明だが。 で、それが…」

匠が大槻の視線に気付いた。
ゆっくりと、口を開いた。

「ま…まさか…そんな…っ」

大槻が視線を下に逸らした。
匠がその場にへなへなっと力無く座り込んだ。
稔を含め、全員が理解した。
次の対象クラスは匠の愛娘が所属するクラスだ、と。

「くそ…っ!!」

匠が床を殴った。
肩が小さく震えているのがわかった。

「どうして…アイツらは…どこまでオレの家族を…っ!!」

「…アタシらはそのプログラムを破壊するために呼ばれたんだね?」

シホが落ち着いた口調で訊いた。
大槻は頷いた。
そして、匠の側にしゃがみ、肩を軽く叩きながら、全員に向かって静かに言った。

「匠君、祐樹君、伊織、稔、シホ…
 あと、“タカ”と“ヨーヘイ”…7人でパーティーを組んでもらう。
 匠君、君がリーダーだ」

「オレ…ですか?」

「そうだ、今回のパーティーの最年長だからね。
 それに、私は君の能力を買ってるんだよ?」

大槻は立ち上がり、稔と伊織の前に来た。
稔は暫く口をぱくぱくとさせていたが、ようやく声を出した。

「おっさん… オレ、パーティーに参加したことねぇよ…」

「あ、あたしも… あたしなんかが参加してもいいんですか…?」

伊織も震える声で言った。
稔は今までは大槻にハッキング技術を学んできたし、伊織は専門学校や大槻から救護の技術を学んできた。
2人共銃を撃つ練習はしてきたが、実際にその技術を活用させた事は無かった。
主に裏方の仕事を手伝ってきたので。

大槻はにっこりと微笑んだ。

「大丈夫、自信を持ちなさい。
 君らの技術は、十分にパーティーに役立つよ」

稔は伊織と顔を見合わせた。
やるしかない、お互いの表情はそう語っていた。

「このことは…娘には…」

「黙ってた方がいいんじゃないですか?」

匠の声を遮って、高谷が言った。

「知ったからといって、逃げられるわけじゃない…
 その日が来るまでは、学校生活を楽しませてあげた方が…」

大槻は低く唸った。

「祐樹の言う事も一理ある…
 けど、全く何も知らないままというのも…」

「手紙でも書けば?」

シホがぶっきらぼうに言った。

「何かあった時は開けろ、とか言っといてさ」

「…そうですね…そうします」

匠が引きつった笑顔を浮かべた。
やるしかない。
最低限、足を引っ張らないように、やるしかない――

匠の声を遮って、高谷が言った。

「知ったからといって、逃げられるわけじゃない…
 その日が来るまでは、学校生活を楽しませてあげた方が…」

大槻は低く唸った。

「祐樹の言う事も一理ある…
 けど、全く何も知らないままというのも…」

「手紙でも書けば?」

シホがぶっきらぼうに言った。

「何かあった時は開けろ、とか言っといてさ」

「…そうですね…そうします」

匠が引きつった笑顔を浮かべた。
やるしかない。
最低限、足を引っ張らないように、やるしかない――

「そこ座れ!! 今から予定の確認するよ!!
 ほら後ろ、ちゃんと聞け!!」
中学生活最大のイベント、修学旅行を迎えていた神奈川県四宮市立篠山中学校3年生。
コースは奈良・京都と定番だったが。
そんな修学旅行も、とうとう最終日を迎え、最後の予定である京都観光も終え、クラスに1台のバスに乗り込んだ。
そのなかの1台、4組の生徒39名が乗る4号車の中では、担任である新米教師、関本美香が声を張り上げていた。
さすが毎日のようにグラウンドで声を張り上げる体育教師、その声にバスガイドも目をぱちくりとさせている。

 

関本の怒鳴り声も止み、バスが発車した。
今まで大人しくしていた生徒たちが、徐々に騒ぎ出す。

「なあなあ、八橋喰おーぜ!」

頭の上から声が聞こえ、曽根崎凪紗(神奈川県四宮市立篠山中学校3年4組女子10番)は顔を上げた。
そこには、八橋の入った小さな袋を持った、男子にしては小柄で目元の傷が印象的な栗原佑(男子7番)がにっと笑顔を浮かべていた。
佑はその小柄な体からは想像できないが、空手はお世辞抜きで強い。
凪紗と佑は小学生の頃からつるんでいた仲で、凪紗が最も信頼している仲間だ。

「…それ、家への土産じゃなかったのか?」

凪紗の横に座っていた、こちらは佑とは対照的にクラス1大柄な設楽海斗(男子10番)が眉をひそめた。
その目は、PK戦でボールを蹴る相手を睨みつけているようだ、いつものことだが(海斗はクラブサッカーでGKを勤めている)。
海斗は笑顔を滅多に見せる事はない、今も明らかに呆れた表情を浮かべている。

「いーの、オレ我慢できねぇもん! 母さんダイエット中だし!
 ほれ、凪紗、海斗も喰え喰え!」

「いいの? じゃあ…」

「あ、そう? じゃあいただきますかねぇ」

凪紗の手よりも先に、佑の横から手がぬっと伸びた。
明るい茶色に髪を染め、端正な顔に眼鏡を掛けた不破千尋(男子17番)が、並の女子なら悩殺されてしまいそうな笑顔を浮かべ、八橋を口に入れていた。
そんな千尋は、実は学年でも常にトップの成績を取り続けている天才児だ。

因みに、凪紗・佑・海斗・千尋の4人が、このクラスに所属する不良問題児グループの1つだ。
不良、とは言っても、たまに授業をサボったり(千尋は滅多にサボらないが)ケンカをしたりする程度の、比較的大人しめの集団だが。
一見接点のない4人がつるんでいる理由は色々あるが、それは今はおいておこう。
そんな4人の唯一とも言える共通点――喧嘩の腕は逸品だ。

「だぁ!! 千尋こんにゃろテメェ!!
 1人1個だ、テメェ、今いくつ取りやがった!?」

「佑クンってば見てなかったのかい? 2つじゃないか」

「1人1つだっつってんだろうが!!」

千尋は怒鳴り声を上げる佑の手から八橋の袋をひょいっと取り上げ、後ろを向いた。

「勝クン、お一ついかが?」

「こら千尋テメェ!!
 さも『オレのなんだけど』みたいな言い方すんな!!」

千尋の視線の先には、もう1つの不良グループのリーダーである真田勝(男子9番)が眉間にしわを寄せていた。
勝は視線を千尋から佑に移した。

「…不破はそう言ってるけど? 栗原、貰っていいのか?」

「…いいけどさ、1人1つだからな」

千尋の手の中にある袋に、ごつい手が伸びた。

「ケチくせぇこと言ってんなよ、チビ。
 おらよ、もーらい、レンも喰うか?」

「あ、ツネ、取って取って、オレは1つでいいからさっ」

勝の後ろの席から手を伸ばしてきたのは、茶髪を逆立てた人相があまりよろしくない新島恒彰(男子15番)。
その横でニマニマとした笑顔を浮かべているのは、分かれた前髪の間から広い額が覗く髪形をした脇連太郎(男子20番)。

「あ、ツネさん、取り過ぎっスよ! 佑さんに悪いって…」

恒彰を控えめながら制しているのは、佑より少しだけ背が高く、容姿が少々落ち目の池田圭祐(男子3番)。

勝・恒彰・連太郎・圭祐の4人が、もう1つの不良グループだ。
こちらは近郊でも名前の売れた不良問題児たちだ。
何度か警察にお世話になったこともある。
もっとも、圭祐はパシリ的存在だが。
喧嘩の腕で言えば、凪紗たちと同等くらいだろう。

篠山中学校はいわゆる“荒れた中学校”だ。
不良少年少女の数はとても多く、毎日のようにあちこちで問題が起こる。
ケンカ・煙草は当たり前、いじめなどによる不登校児の率も高い。

そんな学校の中、この3年4組は異例のクラスだ。
不良少年少女が多い割には、平和なクラスである。
その大きな理由の1つに、凪紗率いるグループと勝率いるグループの停戦協定が挙げられる。
近郊の学校全部が荒れているこの地域では、不良たちの勢力争いが激しい。
そこで、凪紗と勝が話し合い、いがみ合っても仕方がない、という結論に達した。
今では1つのグループになりつつある。

しかし、この2つのグループの中の喧嘩好き、佑と恒彰の争いは絶えない。
絶えないが、レベルは極めて低い。

「そうだぞ、このバカ男!! ケースケの言う通りだ!!
 とっとと返せ、このバカバカバカバーカ!!」

「…何だと? 誰がバカだ、このチビチビチビチビ!!」

「バカはバカじゃねーか!!
 この前の中間考査、5教科合計100点切ってたくせに!!」

「ケッ、テメェも似たようなモンだろうがよぉ!!」

「バーカ、おれは102点だったもんねっ!!」

因みに、恒彰と佑はいつでもクラス内成績最下位を争っている。
このような口喧嘩は日常茶飯事であり、凪紗たちはいつも勝手にやらせている。

「あーあ、こういうのを『目くそ鼻くそを笑う』って言うんだよねぇ」

千尋が溜息を吐き、くるっと向きを変えた。

「はい、凪紗チャン、海斗クン、お一つどうぞ」

「オレはいい、甘いのは好きじゃない」

「あたしはもーらおっ」

凪紗は八橋を1つ口の中に入れ、周りを見渡した。

横では、女子の中では比較的大人しいグループが楽しそうに佑と恒彰の口喧嘩を観戦していた。
前の席で苦笑しながら見ているのは、肩までの黒髪と大きな目が可愛らしい黒川梨紗(女子5番)。
その奥の席で大笑いしているのは、丸い眼鏡と癖のあるショートカットの、自称小説家の卵である小南香澄(女子6番)。
香澄の後ろで呆れた表情を浮かべているのは、長い黒髪を1つに束ね、ボストンタイプの眼鏡がその聡明さを物語っているような優等生の矢田美晴(女子18番)。
その手前で楽しそうに微笑んでいるのは、凪紗と変わらず小柄で可愛らしい、関西からの転校生である結城緋鶴(女子19番)。

「…今日は何回目やっけ?」

「んー…5回目かな、知ってるだけで」

緋鶴と香澄が話しているのを聞き、凪紗は首を横に振った。

「香澄、違うよ、これで8回目」

「自由行動の半分はこれで消えたからねぇ」

千尋も溜息混じりに苦笑した。
可哀想に、と香澄が呟いた。

 

「そこ、いい加減にくだらない喧嘩はやめな!!」

 

関本がマイク越しに叫ぶ。
思わず凪紗は耳を塞いだ。

「恒彰、佑、アンタたち引き分けだ、この2大バカ!!」

関本がつかつかと歩いてきて、佑と恒彰の頭に拳骨を喰らわせた。
それを見たクラスメイトが一斉に笑い出す。

「美香ちゃんセンセー、止めないでよぉ!!」

「これからがいいトコだってのに!!」

笑い混じりに叫んでいたのは、クラスのお調子者の真中那緒美(女子16番)と、爽やか少年の工藤久尚(男子6番)。

「佑ちゃん、ドンマイだよっ!!」

佑にエールを送っていたのは、同じくお調子者の濱中薫(女子14番)だ。
佑が“ちゃん”を付けるな、と怒鳴る。

「センセー、これ以上叩くと2人の頭が悪化すると思いまーす!」

爽やかな笑顔を浮かべてそう言い放ったのは、久尚の幼馴染の笠井咲也(男子5番)。
それを聞いて、バス中に更に笑いの渦が巻き起こる。
佑と恒彰は暫くヒクヒクと顔の筋肉を引きつらせていたが、やがて「ケッ」と悪態づいてシートに座った。
それが同時だったので、収まりかけた笑い声が再び湧き上がる。

このクラスが異例だというもう1つの理由は、問題児グループがそうでないグループと仲が良いことだろう。
このクラス内では、グループ間の壁が比較的低く、全体的に仲良しだ。

そんな中で浮いている存在なのが、通称女子ギャルグループの4人だ。
リーダー格の桐島伊吹(女子4番)は無関心そうに窓の外を眺めている。
その横ではクラス1のお嬢様である金城玲奈(女子3番)がつまらなさそうに欠伸をしている。
いかにも馬鹿馬鹿しいという顔をしているのは、グループ内で唯一暴力的な三河睦(女子17番)。
恒彰の彼女である中原朝子(女子13番)だけが、『ツネ君落ち込まないで!』と叫んでいる。
伊吹のモットーが『干渉しないから干渉するな』だからか、繋がりの薄そうなグループだ。

その中の玲奈と睦から執拗ないじめを受けているのが、岩見智子(女子2番)だ。
智子は中2の途中から学校に来なくなったが(この学校では2年から3年に上がる時のクラス替えがない)、修学旅行だけは、と皆で半ば強制的に連れてきた。
今は何を考えているのか、ぼんやりと前を見つめていた。

 

 

空の色が暗くなっているのに、凪紗は気付いた。

あれ? おかしいな… いつの間に…
うとうとしてたかな…?

横を見ると、海斗が通路に落ちそうになりながら、眠っていた。
前の席を覗くと、千尋の肩に佑が頭を預け、やはり眠っていた。
シートの上に膝を付き、後ろを見回したが、全員が眠っていた。
凪紗自身、今にも眠ってしまいそうだ。

これは…異常だ!!

ガンッ

 

眠くもなく、元気な時なら、普通に避ける事ができただろう。
しかし、できなかった。
突然背後から後頭部を殴られ、凪紗は海斗の膝の上に崩れ落ちた。

 

恐らく、このクラスの大方の人間は『このクラスが大好きだ』と言うだろう。
もちろん、凪紗もこのクラスが大好きだ。

幸せだった。

その幸せが、徐々に崩れていく。

全てを、奪いながら。

 

5つ並んだバスの1つだけが、ルートを外れた。
地獄へ向かって、走り出した。

あぁ、頬がなんか冷たいな…
うん、これは、机の感触…
授業だ、起きなきゃ、起きなきゃ――
 

濱中薫(女子14番)はがばっと身を起こした。
癖で外に跳ねた茶髪のショートカットの頭を掻き、辺りを見回した。
全員が机に突っ伏して寝ている、とても奇妙な状況だった。
席順はいつもと同じだ、前には教卓もある、しかし違和感がある。
――そうだ、うちの教室は、もっと新しい。
こんな古びた部屋じゃない。

えっと…おかしいなぁ…
確か、修学旅行に来てたはずで…

薫は無意識に手を首へやった。
少し、苦しい感じがしたので。
その理由が、わかった。
薫の首には、何かが巻きついていた。

な、なんじゃこりゃあ!!
薫、犬じゃないぞ、猿に似てるとは言われるけど…ってそんな場合じゃない!!

薫だけではない、銀色に輝くそれは、全員の首に巻きついていた。

「アキちゃん、アキちゃん、起きて!!
 凪紗ちゃんも起きてよ、ねぇ!!」

両隣に座っている津田彰臣(男子13番)と曽根崎凪紗(女子10番)の体を揺すった。

「佑ちゃん!! コウちゃん!!」

前後に座っている栗原佑(男子7番)と伊達功一(男子12番)の体も揺する。

「ん…っ」

右側に座る彰臣がゆっくりとその大柄な体を起こした。
眠そうに目を擦り、そして薫の姿を確認した。

「…あ、濱中、おはよ……ここは…?」

「なんか変なの、おかしいの!!
 ここ、学校じゃないし、薫たち皆、変な首輪してるし!!」

「首輪ァ…?」

大きく欠伸をしながら、佑が後ろを向き、薫の方を見た。
そして、何度か瞬きをし、首を傾げた。

「…濱中、趣味悪いモンしてるなぁ…
 …津田も、伊達も…何してんだ?」

「栗原もしてるじゃねーか…」

功一も起き、佑の首輪を見た後、自分の首輪に触れた。

「…何だよ…おい、淳、起きろよ! 梢も起きろ!!」

功一が自分の近くにいる幼馴染の高山淳(女子11番)と、元彼女の今岡梢(女子1番)を起こし始める。
徐々に教室内が騒がしくなっていく。

「痛っ!!」

突然凪紗が悲鳴を上げた。
凪紗の横に座っている不破千尋(男子17番)が凪紗の後頭部を撫でていた。

「んー…たんこぶできてるよ、凪紗チャン。
 何したの、まさか海斗クンに殴られた?
 やっだぁ、ひっどーい!」

「んなことしてねぇよ!!」

茶化す千尋に、凪紗の前で心配そうにしていた設楽海斗(男子10番)が怒鳴った。
凪紗が頭を摩りながら呟いた。

「なんかさぁ、気がついたら皆眠ってて…
 おかしいな、って思ってたら、突然後ろから殴られて…」

「ってことは、冗談じゃないわよね…
 人を殴ってまで、あたしたちをここに連れてこないといけない理由って…?」

千尋の後ろにいた優等生の矢田美晴(女子18番)が首を傾げた。

薫は右の方を見た。
薫の幼馴染である姫川奈都希(女子15番)は、席の近い仲の良いメンバーである青山豪(男子1番)・工藤久尚(男子6番)・真中那緒美(女子16番)と不安げな表情で喋っていた。
その後方では長門悟也(男子14番)と柚木康介(男子19番)が話している。
悟也の悲しげな表情が、少し気に掛かった。

「ねぇ、透子?」

後ろの方から、凛とした声が聞こえた。
お姉様グループのリーダー的存在であろう椎名貴音(女子8番)だった。

「センセーから何か聞いてないの?」

「副委員長さんなら、何か先生から聞いてるんじゃないですか?」

貴音の後ろから、遠江敬子(女子12番)がおっとりとした口調で付け足した。
視線が最前列にいる副委員長、駿河透子(女子9番)に集まる。
しかし、透子は首を横に振った。

「ううん、あたし何も聞いてない!
 浅原君、浅原君は何か聞いてる?」

「いや、僕は何も知らない」

今度は最後列にいる委員長、浅原誠(男子2番)に視線が集まる。
誠は眼鏡を中指でくいっと押し上げ、横にいる羽山柾人(男子16番)と何かを話し始めた。

「おい、不破!
 テメェは1番前に座ってたろ、何か聞いたんじゃねぇの?」

不良グループの片割れのリーダー、真田勝(男子9番)が千尋に呼びかけた。

「さあ、何も聞いてないねぇ。 香澄チャンは?」

「んー…あたしも知らない、気がついたら寝てたんだもん」

誠の前の席の小南香澄(女子6番)も首を横に振った。

「もう、一体何がどうなってるのよ!!」

透子の横で坂本陽子(女子7番)が裏返った声で叫んだ。

「落ち着いたら? 耳がキンキンしちゃう」

陽子の斜め後ろから美作由樹(男子18番)が溜息混じりに言った。
その言葉の端々には、刺がある気がする。
しかし、いつもと変わらず可愛らしい笑顔を浮かべている。
陽子もその笑顔を見て落ち着いたようだ。

突然透子が立ち上がった。

「よし、あたしちょっと外見てくるね。
 浅原君も行こ、クラス代表として」

「…そうだね、見てこようか」

誠も立ち上がる。

透子は誠を引き連れ、教室の前のドアを開けようとした。

しかし、透子が手を掛ける前に、ドアが勢いよく開かれた。
中に入ってきた、軍服を着た人物が、透子と誠を突き飛ばし、2人は小さく悲鳴を上げてしりもちを付いた。

「着席!!」

2人を突き飛ばした人物が、叫んだ。
しかし、2人はわけがわからず、ただその人物を見上げていた。

「着席と言っているだろ!!」

その人物は、懐から何かを取り出し、2人に向けた。

「きゃあああ!!」

「うわああぁあ!!」

2人は悲鳴を上げ、一目散に自分の席へ向かった。
当然だろう、それはどこから見ても拳銃だったので。

軍服を着た3人が同じタイミングで止まり、一斉に敬礼をした。
その前を、ランニングシャツを着た浅黒い肌の筋肉質な男が堂々と通り、教卓に持っていた紙の束をバンッと置いた。

「はい、静かに!!」

筋肉質な男は叫んだが、既に喋っている者は1人もいない。
静かにしている事が少ない薫でさえ、何も言えなかった。
本能的に感じた、喋ってはいけない、と。
筋肉質な男は、にかっと笑みを浮かべた。

「はじめまして、オレの名前は進藤幹也!!
 今日から君たちの担任になりました!!
 幹也先生と呼んでくれたまえ!!」

進藤幹也? 担任?
何だそれ、何言ってんの…?

薫を含め、全員がそう思ったことだろう。

進藤と名乗る男は、大きく息を吸い込み、そして机を叩いた。

「君たちは、今回のプログラム対象クラスに選ばれたんだ!!光栄な事だ、おめでとう!!」

誰かが、「え?」と声を洩らした。

プログラム…
ああ、この前の中間考査で出たなぁ…
黒川梨紗(女子5番)は暢気にそんなことを考えた。

まだ記憶に残っている。

プログラム、正式名称、戦闘実験第六十八番プログラム。全国の中学校から任意に選出した三年生の学級内で、生徒同士を戦わせ、生き残った一人のみが、家に帰ることができる、わが大東亜共和国専守防衛陸軍が防衛上の必要から行っている戦闘シミュレーション。
全国の中学3年生が、最も恐れていることだ。

それに、選ばれた…?
あたしたちのクラスが…?
そんなバカな…

 

「…じょ…冗談キツいよ、お兄さん…?」

 

前方で弱々しい声が聞こえた。
クラスのムードメーカーペアの片割れ、真中那緒美(女子16番)が立ち上がって、やや震えた声で呟いた。

「ジョークは、人を笑わせるモンだよ? ねぇ、薫…」

「う、うん、そうだよ!
 薫笑えなかった、つまんない冗談っ!!」

ペアの片割れ、濱中薫(女子14番)も立ち上がる。

「そうだよな、冗談だよな…」

「うちらが選ばれるわけないじゃん」

「何なんだよ、あの筋肉男!」

徐々に教室が騒がしくなる。

しかし、すぐに静まり返った。
1発の銃声が響いたので。
弾は、那緒美の横を通り、那緒美の後ろの桐島伊吹(女子4番)の横にあった壁にめり込んだ。
伊吹が小さく悲鳴を上げ、その壁を凝視していた。

「冗談ではないぞ、オレはいつでも本気だ!!
 この銃も、もちろん本物だぞ!!
 えっと…真中さん、濱中さん、着席するんだ!!」

進藤幹也(担当教官)が、爽やかな笑顔を浮かべた。
那緒美と薫は無言でぺたんと椅子に座った。

あれ…本物のピストルなの…?
冗談じゃないの…?

梨紗の体がガクガクと震えた。

進藤は静まり返った教室を見回し、満足げに何度か頷いた。

「よしよし、静かになったな!
 じゃあ、今回サポートしてくれる先生の補佐の紹介だ!!
 右から田中、西尾、足立だ!!
 モヤシのような連中だが、まあよろしく頼むよ!!
 3人纏めて“モヤシ”と呼んでやりたまえ!!」

ハッハッハ、と大きく口を開けて笑う進藤に、モヤシ3兄弟の1人である田中が『やめてくださいよ』と訴えている。
いや、そんなことはどうでもいい。
先ほどから引っかかっている点が、ある。

「先生って…どういうことなんスか?
 オレらの担任は美香ちゃ…いえ、関本先生なんスけど?」

学校内でバンドを組み、恐らくその中で人気ナンバー1である斎藤穂高(男子8番)が、梨紗の疑問をそのまま口に出した。
何人かが同調するように頷く。
進藤は手をポンッと叩いた。

「ああ、あの美人の先生だな!
 あの人は、君たちがプログラムに参加するのに反対したんだ!」

進藤が目配せすると、入り口に近かった田中と西尾が外に出、担架を持って再び入ってきた。
その上には何かが乗っており、上に青いシートが被せられていた。
田中が、そのシートをめくった。

「うわあああぁああ!!」

「うわ、わあああああ!!」

「いやああああああ!!」

「きゃああああああ!!」

最前列の特等席で見た青山豪(男子1番)・池田圭祐(男子3番)・坂本陽子(女子7番)・駿河透子(女子9番)が悲鳴を上げ、それぞれ席を立ち、後ろに走って逃げた。
何、何なの?、と見た生徒が、次々と悲鳴を上げた。

「嘘…あれって…美香ちゃんセンセ…?」

梨紗の横で小南香澄(女子6番)が涙を浮かべながら呟いた。
梨紗は、その場に固まっていた。

担架の上に乗ったモノ、それは担任の関本美香――いや、関本美香だったものだった。
全身にいくつもの穴を開けていた。
服は大部分が赤黒く染まっていた。
頭の一部分が欠けていた。
そこから出たであろう赤黒いものと灰色のものが、残った顔の部分を汚していた。

生まれて初めて見た、人の亡骸だった。

「はいはい、着席!!
 田中、西尾、それ片付けるんだ、レディーが怖がっているぞ!」

田中と西尾は担架を担いで出て行き、しばらくすると戻ってきた。
床には、関本の血が小さな池を作っていた。

進藤に促され、徐々に生徒たちは自分の席に着いた。

「はい、これが冗談じゃない事はわかってくれたかな?
 濱中さん、どうかな?」

先ほど進藤に文句を言った薫は、小さく何度も頷いた。
その小さな肩は、小刻みに震えていた。

「よし、えっと…まずは…と。
 そうだそうだ、まずは転校生の紹介をしようか!!」

転校生…?
この状況で、このクラスに転校…?

梨紗は先ほど見た関本だったモノを忘れようと、必死に考えた。
思い出すだけで、胃の中の物が突き上がってくる感じがした。

「さあ、入ってきたまえ!!」

進藤が叫んだ。
奇妙な空気の流れる教室の中へ、1人の少年が入ってきた。
茶髪が肩まで伸びて女性のようにも見えたが、直感的に違うと感じた。
獲物を怯ませるようなその目つきが、怖かった。

「はじめまして、周防悠哉って言います」

少しおかしなイントネーションで、少年が喋った。
これは、関西弁だろう。

「神戸から来ました、仲良くしたってください。よろしくお願いします」

少年はにかっと笑んだ。
神戸… あ、そういえば…

梨紗は自分の親友である結城緋鶴(女子19番)の方を見た。彼女も確か神戸出身だったはずだ、3年の4月の中頃に転校してきたが。緋鶴は、無表情で少年の方を見ていた。視界に入っているだけ、かもしれないが。偶然だよね、神戸に中学校なんて一杯あるだろうし…少年は進藤に席を指示された。梨紗から見て、怖い方の不良グループの喧嘩好き、新島恒彰(男子15番)の後ろだ。その前に座るリーダー、真田勝(男子9番)は、少年を睨みつけていた。

「うおっと!!」

少年が声を上げた。崩れかけた態勢を立て直し、恒彰を睨んだ。

「お前…今足掛けたやろ…」
「知るか、そっちが勝手に躓いたんだろうが」

恒彰が少年を睨み返す。異様な空気が2人を包んでいるようだった。

「やめろ、ツネ」

勝が恒彰を制した。
恒彰はふいっと少年から視線を逸らした。
場合が場合だけに、やめた方が無難だと察したのだろうか。
少年も恒彰から目を逸らし、自分の席に着いた。

ふう、と一呼吸置き、進藤は数回手を叩いた。

「では、今からルールの説明を始めるぞ!!」

栗原佑(男子7番)は進藤幹也(担当教官)らが入ってきた時から、ずっと進藤を睨みつけていた。
プログラムに選ばれた、だと?
ふざけるな、冗談じゃない。
何でそんなことをしなけりゃならないんだ?
やってられるか、まっぴらごめんだ。

「では、今からルールの説明を始めるぞ!!」

進藤は数回手を叩いた。

「要は、最後の1人になるまで殺し合ってくれればいい!!
 最後の1人になった時点で、試合は終了!!
 仲間を作って騙すも良し、殺し歩くも良し!!建物の中に入るのも良し、物を拝借するも良し!!」

佑の口が、少しだけ笑みの形を作った。
このクラスでやる気になるヤツなんて、いるはずない。自分ももちろん乗らない。自分が好きなのは喧嘩であり、殺しではない。自分と同類である新島恒彰(男子15番)でさえ、乗らないだろう。恒彰は馬鹿だけれど、人を[ピーーー]ほど愚かではないと思う。だからこそ、転校生とかいうふざけたあの周防悠哉(男子11番)に喧嘩を売ったのだろう。

「あの、すいません」

進藤は首を傾げた。佑も我に返り、後ろを見た。声の主、クラスの委員長である浅原誠(男子2番)が手を挙げていた。

「…何だい、浅原君?」
「もし…最後の1人に残れたら…帰れるんですよね?」

佑は眉間にしわを寄せた。

最後の1人に残れたら、だと?あの野郎、やる気か!?

進藤は大きく頷いた。

「当然、家に帰れるぞ!!そして、生活保障が貰え、総統様のサイン色紙も貰えるぞ!!これはかなりのレア物だぞ!! 欲しいだろ!?」

誰がいるか、この筋肉男!!

佑は再び進藤を睨みつけた。睨み殺してやりたい、できることなら。進藤は続ける。

「当然、素手のファイトというわけにもいかないから、武器を配る!!武器以外にも、必要な物を配るからな!!田中、西尾」

田中(軍人)と西尾(軍人)が廊下に出、今度は鞄が沢山乗った大きな台車を押して入ってきた。進藤はその中の1つを手に取った。

「これを、皆に配るからな!!水、食料、地図にコンパス、懐中電灯、そして武器が1つずつ入っている!!当たりもあれば外れもあるだろう!!しかしこれは一種の不確定要素で…ま、いっか。とにかく、どんな武器を誰にを配るかは決まっていない!!君らの運次第だな!!」

進藤は教卓の中から模造紙を取り出した。それを開いて磁石で黒板に貼った。
地図が描かれていた。

「はい、注目、君らは今ここにいるんだ!!」

そう言って、進藤は“中学校”と書かれた部分を指差した。

「君らにはこの地図に描いてある範囲の中で戦ってもらう!!逃げられないぞ、有刺鉄線と高圧電流が回りに張り巡らせてある!!しかし、ずっと一箇所に固まってもらわれると困る!!そこで、その首輪だ!!」

佑ははっとして自分の首輪に触れた。存在自体が息苦しい、今すぐ外してしまいたい首輪。

「この首輪は防水、耐ショック性で絶対に外れないぞ!!あ、そこ、引っ張らないように!!無理して外そうとすると、そこ、私語は禁止だ!!」
「うわ…っ」

佑の斜め後ろに座っている曽根崎凪紗(女子10番)が小さく悲鳴を上げた。

進藤は突然何かを投げていた。
チョーク…などという平和な物ではない。
投げられた物、それは凪紗の前の席に座る設楽海斗(男子10番)の手によって、凪紗の目の前で止められた物――ナイフだった。

「な…凪紗チャンを[ピーーー]気!?」

凪紗の横にいた不破千尋(男子17番)が口をパクパクさせながら言った。
進藤は、溜息混じりに言った。

「いや、先生が[ピーーー]のは反則だろうなぁ…
 でも、私語は禁止だからな。
 ついつい勢いで投げてしまったよ、ごめんな!!」

佑の中で、何かが切れた。

千尋が立ち上がるよりも、海斗が掴みかかるよりも早く、佑は立ち上がって進藤の胸倉を掴んだ。

「テメェ、ふざけんじゃねぇよ!!
 人の命を何だと思ってやがるんだ!!
 このクソ政府、ブッ飛ばしてやらぁ!!」

3人の軍人が、一斉に銃を構えた。
しかし進藤はそれを下げさせ、佑を突き飛ばした。
あまりの力の強さに佑は吹っ飛ばされ、後ろにいた池田圭祐(男子3番)の机に突っ込んだ。

進藤が、何かリモコンのような物を取り出した。
佑の方に向けた。

「…何だよ、それ…」

佑は引きつった笑みを浮かべた。

進藤はにっこりと微笑んだ。

「君の発言は反政府的発言だ、罰しないといけない!!
 君に残された時間は、あと1分!!
 あと1分で、君の首輪は…ボンッ!!
 あ、皆、危ないから近づくなよ!!」

スイッチを、押した。
佑の首から、電子音が聞こえた。

佑は目を見開いた。

あと、1分…
マジかよ… ふざけんじゃねぇよ…!!

「佑!?」

凪紗が悲鳴を上げ、立ち上がった。

「く…来るんじゃねぇ!!」

佑は両手を前に突き出し、凪紗を止めた。
凪紗はビクッと反応し、止まる。

ちくしょう… オレ… 死んじまうのか…?
まだ、言いたい事、やりたい事、一杯あるってのに…

せめて――

「凪紗!!」

佑は叫んだ。
今できる精一杯の笑顔を浮かべた。

「オレ、ずっと…ずっと好きだったぞ!!大好きだ、凪紗!!」

凪紗が目を見開く。

何だよ、気付いてくれてなかったのか、まあ、鈍感そうだもんな――

「千尋、海斗…凪紗の事、任せた!!」
「いや…っ 佑…っ 佑!!」

佑に近づこうとする凪紗を、海斗と千尋が抑える。そうだ、それでいい… 近づいちゃダメなんだ…海斗、無口だけどさ、何か気が合ったよな…千尋、やたらからかわれたけどさ、楽しかったぜ…凪紗、凪紗…ダチでいてくれて…ありがとう…少しずつ、電子音の鳴る速度が上がっている。

クラスメイトたちを見回した。クラスメイトたちが、様々な表情で自分を見ている。驚愕している者、心配げに見る者、泣きそうになっている者――きっと、今までで、1番楽しいクラスだった。

「オレ…楽しかった!オレさ、このクラスになれて本当によかった!皆、大好きだっ!だから…当分会いたくない、お別れだ!!」

視界がぼやける。あちこちから、嗚咽が漏れているのが聞こえる。

皆、皆、大好きだった。
学校が、初めて楽しく思えた。

皆、ありがと――

佑は進藤を睨んだ。

「こんなの…絶対に間違ってる…!!
 ちくしょう、ただでやられてたまるか!!
 テメェも道連れに――」

 

ピー―――ッ

 

爆発音が響き、佑の首が、胴から離れた。
頭が、ごろんと床に落ち、少しだけ転がり、止まった。
頭があった部分から噴水のように血を吹き出した胴体は、それを待っていたかのように、ゆっくりと前に倒れた。

 

あぁ… 佑…

 

目の前で血の海に転がる仲間を、凪紗はただ呆然と見ていた。

男子1番・青山豪(あおやま・ごう)

サッカー部FW。男子運動部グループ。
いつでも努力を怠らない。
笠井咲也(男子5番)・工藤久尚(男子6番)と特に仲がいい。


支給武器:Cz75
kill:なし
killed:結城緋鶴(女子19番)
凶器:アイスピック
 

咲也・久尚・設楽海斗(男子10番)に嫉妬心を感じていた。

サッカー選手になるために優勝する事を決意するが、突然緋鶴に首を刺され死亡。

 

努力家、無念の退場でした。。
やろうとした事はともかく、1つの事に全てを捧げられる人ってかっこいいですよね。
彼のイメージ、『ホイッスル!』の主人公が元だったりします。

男子2番・浅原誠(あさはら・まこと)

囲碁部。男子文化系グループ。
成績は学年3位で、常に勝てない不破千尋(男子17番)を嫌っている。
愛国主義者で、将来の夢は政府官僚。


支給武器:フランキ スパス12
kill:濱中薫(女子14番)
矢田美晴(女子18番)
killed:不破千尋(男子17番)
凶器:フランキ スパス12
 

千尋を憎み、探し出して殺害しようとしている。

D=06エリアで薫と遭遇。 偶然千尋の居場所を聞き出せた上、千尋とも遭遇。 薫を銃[ピーーー]るが、千尋には逃げられる。
千尋と美晴を発見し、トラックを炎上させる。 千尋を庇い続ける美晴に苦戦するが、銃殺。 それに激怒した千尋も倒そうとしたが、腕と頭を撃たれ死亡。

 

プチオフ会でも見事に人気の無かった(苦笑)浅原君。「誠」の字が泣くよ。
結局最期まで勝てなかったのは、実力の差。
そして、奪う為の強さと護る為の強さ、2つの力の差。

男子3番・池田圭祐(いけだ・けいすけ)

部活は無所属。不良グループ2。
容姿は落ち目。グループのパシリ的存在。
真田勝(男子9番)のことを尊敬している。


支給武器:キャリコM950(マシンガン)
kill:なし
killed:真田勝(男子9番)
凶器:キャリコM950
 

曽根崎凪紗(女子10番)に恋心を抱いていた。

凪紗に告白しようと勝と共に探していたが、断念。勝に銃を向けられ驚くが、目的を聞いて納得し銃殺された。

 

最初考えていたより好きになった子でした。
自分の大好きな人の幸せが自分の幸せ、そんな考え方ができる人になりたいです。
他人の不幸は自分の幸福ですから(こら

男子4番・稲田藤馬(いなだ・とうま)

軽音楽部。クラスのバンドコンビの片割れ。ギター担当。
斎藤穂高(男子8番)らと一緒にバンドを組んでいる。
他のクラスに彼女がいる。


支給武器:ウージー9ミリサブマシンガン
kill:なし
killed:結城緋鶴(女子19番)
凶器:ファイブセブン
 

穂高と共に不破千尋(男子17番)に誘われ手伝いをする。
C=07エリアで濱中薫(女子14番)・姫川奈都希(女子15番)に会う。千尋の誘いに乗り、プログラム破壊作戦を手伝う事を決める。想い人を探す為に出て行く奈都希を見送った。
放送で奈都希の死を知り探しに行った薫の死にショックを受ける。B=08エリアに移動し、作戦準備再開。
放送で矢田美晴(女子18番)の危機を知り、作戦決行へ。「自分のやりたい事をやれ」と千尋に言われ、別れる。
E=07エリアで吉原遼(女子20番)に襲われる遠江敬子(女子12番)を救い、遼を追い払った。
G=06エリアで放心状態の千尋と再会、励ます。緋鶴に襲われ、穂高を殺される。怒りで緋鶴を倒そうとするが、隙を突かれ左胸部に被弾し死亡。

 

役割としては千尋のサポートでした。少しあっさりとしてしまったかな、と思います。
元は出番がほぼなかったのに、いつのまにかサブメインに昇進。
穂高に比べて突進キャラというか・・・そんな感じで書きました。

男子4番・稲田藤馬(いなだ・とうま)

軽音楽部。クラスのバンドコンビの片割れ。ギター担当。
斎藤穂高(男子8番)らと一緒にバンドを組んでいる。
他のクラスに彼女がいる。


支給武器:ウージー9ミリサブマシンガン
kill:なし
killed:結城緋鶴(女子19番)
凶器:ファイブセブン
 

穂高と共に不破千尋(男子17番)に誘われ手伝いをする。
C=07エリアで濱中薫(女子14番)・姫川奈都希(女子15番)に会う。千尋の誘いに乗り、プログラム破壊作戦を手伝う事を決める。想い人を探す為に出て行く奈都希を見送った。
放送で奈都希の死を知り探しに行った薫の死にショックを受ける。B=08エリアに移動し、作戦準備再開。
放送で矢田美晴(女子18番)の危機を知り、作戦決行へ。「自分のやりたい事をやれ」と千尋に言われ、別れる。
E=07エリアで吉原遼(女子20番)に襲われる遠江敬子(女子12番)を救い、遼を追い払った。
G=06エリアで放心状態の千尋と再会、励ます。緋鶴に襲われ、穂高を殺される。怒りで緋鶴を倒そうとするが、隙を突かれ左胸部に被弾し死亡。

 

役割としては千尋のサポートでした。少しあっさりとしてしまったかな、と思います。
元は出番がほぼなかったのに、いつのまにかサブメインに昇進。
穂高に比べて突進キャラというか・・・そんな感じで書きました。

男子5番・笠井咲也(かさい・さくや)

サッカー部FW。男子運動部グループ。
サッカーでは地域選抜にも選ばれる実力者。
幼馴染の工藤久尚(男子6番)と共に“爽やかペア”として人気がある。


支給武器:サッカーボール
kill:なし
killed:結城緋鶴(女子19番)
凶器:包丁
 

緋鶴に恋心を抱いている。

F=07エリアに久尚と共にいたが、周防悠哉(男子11番)と遭遇。久尚に逃がされる。
D=03エリアに潜伏していたが、久尚が悠哉に殺害された事を知り、復讐を誓う。 包丁を入手。 復讐に向かおうとしたが、緋鶴に会う。 緋鶴に想いを告げるが包丁で左胸部を刺され死亡。

 

復讐は叶いませんでしたが、想いは告げられただけ・・・良かったのかどうなのか。
もっと爽やかにしてあげたかったんですが、そういうわけにもいかなかったので。
サクちゃんも好きでした?v

男子12番・伊達功一(だて・こういち)

バスケ部。男子運動部グループ。
軟派な性格で、今岡梢(女子1番)の元彼氏だが、別れた原因は功一にある。
津田彰臣(男子13番)・高山淳(女子11番)とは幼馴染。


支給武器:カッターナイフ
kill:なし
killed:なし(事故死?)
凶器:なし(転落死)
 

H=02エリアの建物の屋上に彰臣と共に潜伏していたが、些細な事から争いに発展してしまう。 彰臣に両目を傷つけられ錯乱。 目が見えないまま誤って屋上から転落。

 

もう・・・何といいますか、口は災いの元ですね。
彰臣君もやり過ぎかもしれませんが、やっぱり自業自得かと。

男子11番・周防悠哉(すおう・ゆうや)

関西弁を話す特別参加者。
通っている学校ではバスケ部(幽霊部員)。
志願した理由などは明らかにされていない。


支給武器:コルト・ガバメント
kill:工藤久尚(男子6番)
killed:結城孝博
凶器:グロック19
 

反政府組織ADGIと関わりを持っている。
プログラムに参加した目的は、結城緋鶴(女子19番)の父、孝博を殺害し、緋鶴を自由にすること。

出発後すぐに見つけた設楽海斗(男子10番)・曽根崎凪紗(女子10番)に攻撃を受け、逃げられる。 その後緋鶴が青山豪(男子1番)を殺害するところを発見する。
F=07エリアで笠井咲也(男子5番)・工藤久尚(男子6番)と遭遇。久尚を銃殺。ベレッタM93R入手。
C=07エリアで不破千尋(男子16番)と対決するが和解。 CD?ROMを渡す。
F=06エリアで緋鶴を再発見。 悠哉がプログラムに参加した目的は、元彼女であり“戦闘実験体”としてクラスメイトを殺害し続ける緋鶴を止める事だった。 緋鶴を止めようとするが、脇腹を刺され、逃走される。 その後海斗・凪紗と再び会い、緋鶴の事を話す。 緋鶴を止める為、再び追う。
H=02エリアで羽山柾人(男子16番)と遭遇。緋鶴の事を頼み、別れるが、その後傷ついた凪紗と一緒にいるのを見つける。G=06エリアに連れて行く。柾人と別れ、静養中の凪紗と共に行動することに。
G=08エリアで海斗・黒川梨紗(女子5番)と合流。 放送後、移動。
E=07エリアで千尋・真田勝(男子9番)の最期を看取り、プログラム本部へ向かう。ウージー9ミリサブマシンガン、キャリコM950、S&W M36、S&W M10、シグ・ザウエル P220入手。
本部で結城の言動に激怒、向かっていくが側近・結城に撃たれ死亡。目的を達成する事はできなかった。

 

関西弁を書きたいがために関西からやってきた転校生でした。
ちなみに言葉はほぼ私の話し言葉なため、神戸弁に若干色々混ざっております(笑)
目的を達成させる事はできなかったけれど、[ピーーー]事をやめた緋鶴を見れた事がせめてもの救いかな、と思います。

女子6番・小南香澄(こみなみ・かすみ)

読書部。女子文化部グループ。
好奇心旺盛で何事にも興味を持つ。
将来の夢は小説家。


支給武器:ファイブセブン
kill:柚木康介(男子19番)
killed:結城緋鶴(女子19番)
凶器:Cz75
 

G=06エリアに潜んでいた。岩見智子(女子2番)と三河睦(女子17番)の死体を前に、好奇心を掻き立てられる。ジェリコ941入手。
D=05エリアで狂った康介に襲われ、驚いて発砲、殺害。『プログラム完全攻略本』入手。
F=04エリアで緋鶴に会う。 緋鶴に脇腹を撃たれ、ショックを受ける。何がなんだかわからないまま頭部に被弾し死亡。

 

小説家になりたくて好奇心旺盛だった女の子でした。
でも自分に危険が及ぶとそういう事は全部吹っ飛んでましたね、きっとそうだと思います、死の際にたたされると全て頭から消えてると思います。

男子13番・津田彰臣(つだ・あきおみ)

野球部エース。男子運動部グループ。
硬派。曲がった事が嫌いな性格。
伊達功一(男子12番)と高山淳(女子11番)とは幼馴染。


支給武器:アーミーナイフ
kill:なし
killed:桐島伊吹(女子4番)
凶器:ブローニング・ベビー
 

淳に恋心を抱いている。

H=02エリアの建物の屋上に功一と共に潜伏していたが、些細な事から争う。 威嚇のつもりで振ったナイフが功一の目を傷つける。 錯乱した功一が屋上から転落するのを助けられなかった。 淳と合流。
B=02エリアで淳に励まされ、生きている仲間を探す。 錯乱した伊吹を見つけ近づくが、伊吹に頭部を撃たれた。

 

曲がった事は嫌い、自分で責任を負ってしまう、真面目な感じを目指しました。
淳ちゃんからの告白に照れて何も言えないあたりが純情です(笑
良いですね、こういうタイプ・・・

「はい、着席、ちゃくせーき!!」
進藤幹也(担当教官)が大声で叫んだ。
後ろの方ではガタガタと席に着く音が聞こえるが、前の方ではほとんどが立ち尽くしていた。

設楽海斗(男子10番)は曽根崎凪紗(女子10番)を抑えたまま、呆然と栗原佑(男子7番)の死体を見つめていた。

信じられない。
佑が、死んでいる。
目の前で。

海斗は一緒に凪紗を抑えていた不破千尋(男子17番)の方を見た。
千尋は瞬きもせず、佑の方を凝視していた。
涙はないが、ショックを隠せないでいる。

いつも、4人一緒だった。
互いの足りない部分を補い合っているような、そんな関係だった。
そのピースが、1つ欠けた。

「…凪紗、座ろう。 千尋も、大丈夫か…?」

海斗は2人に声を掛けた。
千尋は今までに見せた事のないような呆然とした顔で、海斗を見た。

「…千尋?」

「あぁ…うん、大丈夫…」

千尋はずれかけた眼鏡の位置を直し、自分の席に腰掛けた。
海斗は、もう一度凪紗に声を掛けた。
しかし、凪紗は何も言わない。
聞こえてすらいないようだった。
海斗は凪紗に腰を下ろさせ、自分もその前に座った。
佑の顔が、よく見える。
怒りに満ちたその目は、天井を睨んでいた。

全員が、座った。
机の大部分が佑の血で汚れた池田圭祐(男子3番)の顔は青ざめていた。

進藤は佑の死体には目もくれず、話し始めた。

「わかったかな? 首輪はこうなってしまうんだ!!
 えっと…地図の話だったかな?
 君たちに配る地図は、100マスに分けられているんだ!!
 例えばここ、中学校はD=04エリア、という風になっている!!
 そして、6時間ごとに定時放送を行う!!
 その時に、禁止エリアというものを言うからな!!
 時間になってもそこにいる死んだ者はそのまま…
 だが、生きている者は、電波を送って…ボン!!
 栗原君のようになってしまうから、注意しような!!
 あと、怪しい行動を起こしても、こっちから電波を送る!!
 首を飛ばされたくなければ、頑張って殺し合おうな!!」

突然、後ろの方で誰かが呻き声を上げた。
吐瀉物が床にぶちまけられる音がした。
それを聞いて、またどこかで誰かが呻き声を上げた。
それの臭いと佑の血の臭いが、教室を満たしていた。

気分が悪い。
最悪だ、すべて最悪だ。

「さあ、何か質問はあるかな!?」

「…どうしても、しないといけないんですか?」

後方から聞こえた声は、稲田藤馬(男子4番)のものだった。
何人かが頷いた。
しかし、進藤は希望を打ち砕いた。

「しないといけないぞ、もう決まった事だ!!」

予想通りの返事だ、捻りも何もない。

「どうして…何でオレらなんですか…?」

いつも穏やかな柚木康介(男子19番)が、泣きそうな声で言った。

「これは、厳正な抽選の結果だ、君らの運が良かったんだな!!」

悪かった、の間違いだろうが。
こんなもの、嬉しがるヤツなんかいるはずがないだろう。

 

「よし、そろそろ出発だ!!
 あ、私物は自由に持っていっていいぞ!!

 その前に、皆机の中から紙と鉛筆を出したまえ!!」

海斗は机の中を漁った。
中からは新品らしい鉛筆と小さな紙が出てきた。

「はい、それに次のことを3回ずつ書こう!!
 『私たちは殺し合いをする』、はい!!
 『殺らなきゃ殺られる』、はい!!」

ふざけるな、誰が書くか。

海斗はささやかな反抗として、全く逆の事を書いた。
殺し合いなんかしない、殺さないし殺されない、誰が殺し合いなんかするか。

「最後に1つ、アドバイスをしてあげよう!!」

進藤が叫ぶ。
いい加減耳が痛くなってきた。

「いいかい、諸君?
 [ピーーー]か殺されるか、生きるか死ぬか…選ぶのは君自身だ――
 武運を祈る!!

 では出発だ!! 出席番号順だからな!!」

進藤は茶色の封筒を取り出し、封を手で切った。

「最初の出発者は…
 おお、何たる偶然!!
 男子1番、青山豪君!!」

ほぼ全員が、一斉に豪の方を見た。

「お…オレ…?」

豪がゆっくりと立ち上がった。

豪は震える手で自分の荷物を持ち、デイパックを受け取った。
ちらっと教室の中を見た。

「あ、そうだそうだ。
 この中学校があるエリアは、最後の人が出た20分後に禁止エリアだ!!
 注意するようにな!!

 あと、転校生の周防君は、出席番号11番に入るぞ!!

 さあ、青山君、出発だ!!」

豪はゆっくりと後ずさり、廊下に出るとダダダダッと足音を立て、走っていった。

「2分後に、女子1番、今岡梢さんだ!!」

 

6月11日、AM4:05、試合開始――

 

 

千尋は豪の出て行った入り口をぼんやり眺めていた。

千尋は気まぐれな人間だった。
好きなことはするが、嫌なことはしない。

千尋にとって、頭に知識を詰め込む事は、好きな事だった。
運動する事は、楽しい事だった。
喧嘩をする事は、ストレスを発散させられる事だった。
そして、凪紗・佑・海斗といる事は、何よりも幸せな事だった。

凪紗といると、癒されている自分がいた。
佑といると、楽しんでいる自分がいた。
海斗といると、落ち着ける自分がいた。
最高の、居場所だった。

特に、凪紗といる時は特別だった。
仲間として以上に、異性として、女性として大好きだった。
それは千尋だけでなく、佑もそうであったし、海斗もそうだろう。
過去に一度、3人で互いの気持ちを確認したことがある。
しかし、誰も告白したりはしなかった。
しばらくは仲の良い4人組でいたかった。

しかし――壊された。
いとも簡単に。
ピースが、欠けた。

「次、男子10番、設楽海斗君!!」

 

進藤の大声で、千尋は我に返った。
海斗の方を見た。
海斗はちらっと千尋の方を見た。
その目は、静かに怒りに燃えているようだった。
海斗は凪紗の方に視線を移し、すぐに千尋に戻した。

…うん、わかっているよ――

千尋は頷いた。
海斗はそれを確認し、デイパックを受け取ると、部屋を出て行った。

『千尋、海斗…凪紗の事、任せた!!』

大事な仲間が残した、遺言。
千尋と海斗には、それを守る義務がある。

海斗は絶対に外で凪紗を待っている。
放心状態の凪紗を出迎えるのが、先に出る海斗の役目。そんな凪紗を送り出すのが、後に出る千尋の役目。

「次、女子10番、曽根崎凪紗さん!!」

呼ばれたが、凪紗は気付いていない。進藤がもう一度名前を呼ぼうとしたのを制し、千尋は立ち上がり、凪紗の肩を叩いた。

「凪紗チャン…凪紗チャン?」

凪紗がようやく気付き、ゆっくりと千尋の顔を見た。

「ち…ひろ…?」
「凪紗チャンの番だよ、行かないと」
「あ…うん…」

凪紗は虚ろな目のまま、自分の鞄を手に取った。千尋は凪紗の耳にそっと自分の口を近づけた。

「外で、海斗クンが待ってるよ。海斗クンを見つけたら、すぐにここから離れるんだ、いいね?オレを待とうだなんて、思っちゃいけないよ?次は、あの得体の知れない転校生だから、危険だからね」

凪紗が驚いた表情で千尋を見た。

「でも、千尋…――」

パンッ

外で、1発の銃声が響いた。凪紗の肩がビクッと震えた。

「おーおー、始まったなぁ!!」

進藤が爽やかに笑みを浮かべた。今すぐ殴ってやりたいほど、爽やかに。

「まさか…海斗…っ」

凪紗が不安げな表情を浮かべた。千尋はにっこりと微笑んだ。

「大丈夫、多分… でもほら、行ってあげな、早く。オレのことは心配しないで、大丈夫だからさ」
「早くしろ!!」

田中(軍人)が銃を構えた。凪紗は田中をキッと睨んだが、すぐに視線を千尋に戻した。

「…千尋、絶対、会おうね…?」

千尋は頷いた。凪紗はデイパックを受け取り、教室を出ようとしたが、くるっと向きを変え、佑の亡骸の側にしゃがんだ。

「何している!!」
「…形見くらい、持って行ったっていいじゃない」

田中の方には目もくれずに言い、凪紗は佑の腕からリストバンドを外した。血を含んでいたが、それを自分の腕にはめ、凪紗は出て行った。

千尋は自分を睨んでいる進藤の視線に気付き、そちらを見た。
にっと笑って見せた。

海斗クンに任せれば、凪紗チャンは大丈夫…
ごめんね、できればオレも2人と一緒にいたかった…
でも、いられない…
オレが今からしようとすることは、きっと危険な事だから…

大丈夫、今生の別れになんか、なったりしない…
信じてる、生きてまた会えるって、信じてる…

絶対にまた会える…会えた、その時には…

オレの気持ち、聞いてもらうからね――

曽根崎凪紗(女子10番)は急いで外へ出た。
先ほどの銃声は、何だったのだろう?
海斗…海斗じゃないよね…?

凪紗の前に教室を出た設楽海斗(男子10番)は無事だろうか?

校舎の出口に着いた。
外はまだ暗いが、周りが見えないほどではない。
外はグラウンド、その向こうには校門が見え、その奥には森が広がっているようだ。

まずは、ここから出ないと…

凪紗は周りを見回し、誰もいない事を確認し、一気にグラウンドを駆け抜けた。
ああ、こうやって周りを警戒する自分が情けない。
皆を疑う気などないのに。
しかし、事実戦いは始まっているはずだ。
そうでなければ、銃声など聞こえるはずがない。

 

一気に茂みの中に駆け込んだ。
辺りを見回す。

「海斗…海斗…?」

小さな声で海斗の名を呼んだ。

死んで、ないよね?
嫌だよ、海斗もいなくなっちゃったら、あたしは――

「うわっ!!」

突然腕を掴まれ、凪紗は叫び声を上げた。

「バカ、オレだ」

抑揚の少ない、低い声が聞こえた。
聞き慣れた、落ち着く声。
凪紗はばっと振り向いた。

「か…海斗…無事だったんだね!!」

「まあな」

ぶっきらぼうで、短い言葉。
いつもと変わらない、海斗のままだ。

「銃声…海斗じゃないよね?」

「…いや、違う」

海斗は首を横に振った。

そっか… じゃあ、さっきのは一体…

 

 

「よぉ、ご両人!」

 

突然後ろから声を掛けられ、凪紗と海斗は同時に振り向いた。
自然と、喧嘩の前のように構えてしまう。

当然だろう、この声は、聞き覚えがない。

「…転校生…」

海斗が低く呟いた。

目の前にいるのは、茶髪に鋭い目、謎の転校生周防悠哉(男子11番)だった。
凪紗の次に出たであろう悠哉に、追いつかれてしまった。
笑顔を浮かべているが、正直言って怖い。

「…武器は?」

凪紗は悠哉には聞こえないように小声で訊いた。
海斗は首を横に振った。
まだ見ていないか、外れ武器かのどちらかだろう。

「そんな険しい顔せんといてぇな」

悠哉がカラカラと笑う。
笑ってはいるが、隙はあまりなさそうだ。

「千尋は、待つか?」

今度は海斗が呟き訊いた。

『海斗クンを見つけたら、すぐにここから離れるんだ、いいね?
 オレを待とうだなんて、思っちゃいけないよ?
 次は、あの得体の知れない転校生だから、危険だからね』

凪紗は不破千尋(男子17番)の言葉を思い出した。
本当は待っていたい。
しかし、ここで死ぬわけにはいかない。

「海斗、逃げよう…
 千尋は大丈夫、絶対会える、あたしは信じてる」

「…そうだな。
 あいつは曲者だ、易々とやられはしない」

目の前で悠哉が首をコキッと鳴らした。

「話は終わったんか?
 ちょっと色々と訊きたい事が――うわっ!!」

凪紗と海斗は思いっきり地を蹴り、悠哉にまっすぐに突っ込んだ。
海斗が足を振り上げる。
悠哉はすっと屈んでそれを交わす。

「危な――ゲッ!!」

ちょっと甘いよ、転校生!!
手加減した海斗の蹴りは、屈んでもらうための、ただの囮だよ!!

凪紗は、海斗が足を振り上げたと同時に悠哉の懐に潜り込んでいた。
悠哉が屈んでくれれば、小柄な凪紗でも楽に胸倉を掴める。

「…転校生…」

海斗が低く呟いた。

目の前にいるのは、茶髪に鋭い目、謎の転校生周防悠哉(男子11番)だった。
凪紗の次に出たであろう悠哉に、追いつかれてしまった。
笑顔を浮かべているが、正直言って怖い。

「…武器は?」

凪紗は悠哉には聞こえないように小声で訊いた。
海斗は首を横に振った。
まだ見ていないか、外れ武器かのどちらかだろう。

「そんな険しい顔せんといてぇな」

悠哉がカラカラと笑う。
笑ってはいるが、隙はあまりなさそうだ。

「千尋は、待つか?」

今度は海斗が呟き訊いた。

『海斗クンを見つけたら、すぐにここから離れるんだ、いいね?
 オレを待とうだなんて、思っちゃいけないよ?
 次は、あの得体の知れない転校生だから、危険だからね』

凪紗は不破千尋(男子17番)の言葉を思い出した。
本当は待っていたい。
しかし、ここで死ぬわけにはいかない。

「海斗、逃げよう…
 千尋は大丈夫、絶対会える、あたしは信じてる」

「…そうだな。
 あいつは曲者だ、易々とやられはしない」

目の前で悠哉が首をコキッと鳴らした。

「話は終わったんか?
 ちょっと色々と訊きたい事が――うわっ!!」

凪紗と海斗は思いっきり地を蹴り、悠哉にまっすぐに突っ込んだ。
海斗が足を振り上げる。
悠哉はすっと屈んでそれを交わす。

「危な――ゲッ!!」

ちょっと甘いよ、転校生!!
手加減した海斗の蹴りは、屈んでもらうための、ただの囮だよ!!

凪紗は、海斗が足を振り上げたと同時に悠哉の懐に潜り込んでいた。
悠哉が屈んでくれれば、小柄な凪紗でも楽に胸倉を掴める。

「はああぁっ!!」

悠哉の胸倉をぐいっと掴み、凪紗はその体を力の限り投げ飛ばした。
幼い頃から武道を嗜んでいた凪紗には、普通の体格の男子くらいなら楽に投げ飛ばせる。
勢いよく叩きつけられ、悠哉が咳き込む。
それを見ると同時に、2人は一目散に駆け出した。
薄暗い森の中、悠哉の視界から消える事は、容易い事だ。

「いってぇ… 少しナメとったわ…」

そんな悠哉の呟きなど、当然聞こえていない。

 

 

2人は5分ほど走ったところで足を止めた。

「こ…ここまで来れば…大丈夫、だよね?」

「ああ… お見事」

2人は辺りに人がいないのを確認し、腰を下ろした。

これで、千尋には会いにくくなっちゃったな…
仕方ない…か…

凪紗はふと目の前の海斗に目をやった。
正確には、その右手に。
海斗の右手は、進藤幹也(担当教官)が凪紗に投げたナイフを止めたせいで、血まみれになっていた。

「海斗…手当てしなきゃ…」

デイパックの中からペットボトルを出し、傷口を洗った。
手のひらがすっぱりと割れており、絶えず血が滲んでいた。

「…海斗、ごめんね… あたしが話し掛けたから…」

ハンカチを縛りながら、凪紗は俯いた。

「いや、気にするな」

「気にするよ!!」

凪紗が叫び声を上げたので、海斗が思わずビクッと震えた。

2人は5分ほど走ったところで足を止めた。

「こ…ここまで来れば…大丈夫、だよね?」

「ああ… お見事」

2人は辺りに人がいないのを確認し、腰を下ろした。

これで、千尋には会いにくくなっちゃったな…
仕方ない…か…

凪紗はふと目の前の海斗に目をやった。
正確には、その右手に。
海斗の右手は、進藤幹也(担当教官)が凪紗に投げたナイフを止めたせいで、血まみれになっていた。

「海斗…手当てしなきゃ…」

デイパックの中からペットボトルを出し、傷口を洗った。
手のひらがすっぱりと割れており、絶えず血が滲んでいた。

「…海斗、ごめんね… あたしが話し掛けたから…」

ハンカチを縛りながら、凪紗は俯いた。

「いや、気にするな」

「気にするよ!!」

凪紗が叫び声を上げたので、海斗が思わずビクッと震えた。

「気にするに決まってるよ…
 あたしが話し掛けなければ、海斗は怪我しなかった…
 それに…それに…佑は…っ」

凪紗は下唇を噛んだ。
そうだ、自分が話し掛けたりしなければ、栗原佑(男子7番)は首を飛ばされずに済んだはずだ。
どう考えても、自分に非がある。

「ごめん……っ」

これ以上言葉が出ない。
代わりに涙が出そうになる。
凪紗は必死に堪えた。
今は、泣いている場合じゃない。

「…痛い」

海斗の声に、凪紗は顔を上げた。

「傷が…?」

凪紗の少し震えた声に、海斗は首を横に振った。

「いや…なんっつーか…見てて痛い」

海斗はまっすぐに凪紗を見た。

海斗はまっすぐに凪紗を見た。
所属するクラブサッカーの試合の時のような、真剣な目だ。

「泣けよ」

凪紗が思わず「え?」と声を上げた。

「泣きたきゃ泣けよ。
 泣きたい時は、泣けばいいだろ」

海斗が凪紗の顔を自分の胸に押し付けた。
汗の臭いがする。
海斗の心臓の鼓動が聞こえる。

「だって…今はそんな場合じゃ…っ」

「オレより、千尋より、佑との付き合いは長かったんだ。
 …泣いてやれよ。
 自分の為に泣いてくれるヤツがいるって…嬉しい事と思わないか?
 少なくとも、オレは、嬉しい」

海斗がこんなに長く話をする事は、そう何度もあることではない。
たまに長く話す時は、大抵人を諭すような時だ。
その話に、佑も、千尋も、もちろん凪紗も心を打たれた。

塞き止めていた物が、壊れた。
凪紗の目から、涙が一気に溢れ出した。
それは、海斗のカッターシャツを濡らしていった。

海斗はそっと凪紗の頭を撫でていた。
凪紗の涙が、止まるまで。

金城玲奈(女子3番)は、学校で――いや、市内でもトップクラスの金持ちを両親に持つ子供だった。
父親は政府の役人、母親は人気デザイナー。
何一つ不自由なく、1人娘として甘やかされて育ってきた。

そんな環境が、玲奈を高飛車な性格にしたと言っても過言ではない。
誰よりも、自分が素晴らしい。
他の人間は、ただのクズ。
玲奈の高慢な性格が、他の人から嫌われようが関係無い。
所詮、恵まれない負け犬の遠吠えだ。

そんな玲奈が、プログラムに選ばれてしまった。

予想外の出来事だった。
まさか、この自分にそんな不幸が巡ってこようとは。
例え選ばれたとしても、父親の力で何とかしてくれると思っていた。
しかし、何ともしてくれなかった。

…ふざけるんじゃないわよ、どうしてこのあたしがこんな茶番に付き合わされなければならない訳?
あたしを誰だと思ってるの?
そこらのクズとは違うのよ!?

政府の連中に言ってやりたかった。
しかし、敢えて口には出さなかった。

だってそうでしょ?
思ったままに口にするなんて、バカのすることよ。
栗原もバカよね、わざわざ自分から死ぬような真似して…

 

死にたくない。
死ぬわけにはいかない。
こんなクズたちの為に、自分が死ぬなんて嫌だ。

そんな玲奈の出した結論は、たった1つ。

あたしが、優勝すればいい。

そうだ、自分が死なないなら、他のクズが[ピーーー]ばいい。
生きるべきは、あたし――

 

玲奈は支給されたデイパックの中に入っていた武器、サバイバルナイフを自分のスカートの腰の部分に挟んでいる。
鞘から抜けば、すぐに使える状態だ。

目の前にいる、獲物に向かって――

「玲奈、何か考え事?」

「何でもないわ」

玲奈は冷めた表情の獲物――桐島伊吹(女子4番)に向かって微笑んだ。

伊吹との付き合いは中学生になってからだ。

傍から見れば、伊吹を中心として玲奈・中原朝子(女子13番)・三河睦(女子17番)が周りを取り巻いているように見えるかもしれない。事実、何かあったときには伊吹が中心だが。

しかし、実際はそんなに深い関係があるわけではない。
『互いに干渉しない』がモットーだ。
学校では一緒にいるだけ、4人はそんな関係だ。

表向きはそれなりに仲が良いが、裏ではそれぞれ何を考えているのかわからない。
もちろん、玲奈は朝子も睦も、伊吹さえも見下していた。
伊吹は何も考えていないだろう、他人には興味を持たない人間なので。

「ありがとうね、待っててくれて。心細かったのよ、こんな状況になっちゃって…」

「いいのよ、あたしも同じよ、伊吹」

嘘だ、別に心細くなんかない。
別に誰でも良かったが、どうせなら比較的能力の高そうな伊吹から殺そうと考えた。
最初が良ければ、調子に乗っていけそうなので。

フフ、前々から気に入らなかったのよ。
すました顔して、わけわからないんだもの。
その顔、もうすぐ恐怖で歪ませてあげるわ。
でも、その前に――

「ねえ、伊吹?」

玲奈が呼びかけると、伊吹は振り返った。

「何?」

「あのね、あなたの武器は何だったのかしら、と思って」

伊吹が怪訝そうな表情を浮かべる。
危ない、伊吹は勘がいい。
武器を知らなければならない理由は簡単だ、殺そうと襲ったはいいが、返り討ちにされてはたまらない。
仮に銃(いわゆる当たり武器は、この手の飛び道具だろう。一応サバイバルナイフも当たりの部類か?)を持っているなら、作戦を考えなければならない。
もちろん、そんな事を言えるはずがない。

「そんな顔しないで。
 ほら、急に誰かが出てきた時とか…危ないじゃない?
 念のためよ、ね?」

「あ…あぁ、そうよね」

伊吹がデイパックの中を漁った。
外れなら文句なし、ナイフの類もまあいいだろう。
とにかく、銃のような物でなければ、何でもいい。

「…これなのよ」

玲奈は伊吹の手にあるものを見た。
思わず口許が緩みそうになる。

「傷の手当てには一役買ってくれそうよね」

伊吹が苦笑する。
玲奈も笑った。
伊吹が笑うなら、隠す必要もないだろう。

伊吹の手にあるもの、それは何の変哲もないポケットティッシュだった。
外れ武器だ、どう考えても。

ふふ、所詮クズはクズらしい武器を貰っておけばいいのよ!
お似合いじゃないの!

「…で、玲奈は何なのよ?」

玲奈はにっこり微笑んだ。
風が吹き、玲奈の茶色のウェーブのかかった髪が揺れる。

作戦、決行。

「あたし? あたしは――」

すっと背中に右手を回し、サバイバルナイフの柄を持つと、鞘から引き抜く。
その勢いで、それを伊吹に向かって振る。
伊吹の前髪が数本、宙を舞う。

「れ…玲奈?」

「あたしの武器、これよ?
 中々の当たり武器だと思わない?」

玲奈はサバイバルナイフを振り回す。
伊吹はそれを間一髪で避ける。

さすが、運動神経はいいものね、伊吹。
でも…時間の問題でしょ?

伊吹の背中が1本の木の幹に付いた。
追い込んだ。

「玲奈…やめて…お願い…っ!」

伊吹が哀願している。
玲奈はくつくつと笑った。

「やめるわけないじゃない、あたしは死にたくないんだもの。
 そうよ、何であたしが死ななければならないの?
 あたしこそが生きるべき人間なのよ?
 あなたたちクズなんか、いらないのよ!」

「玲奈…っ」

伊吹の目には涙はない。
まあ、伊吹が泣く方が驚きだ。
とても想像はできない。

玲奈は極上の笑みを浮かべた。
街中の男が振り返るような、妖艶な笑みだった。

「あたしの為に[ピーーー]るなんて、光栄でしょう?」

玲奈はサバイバルナイフを振り上げた。

案外楽勝ね、この調子なら優勝だって余裕で――

 

バンッ

 

この会場に響いた初めての銃声が、玲奈の思考を止めた。
振り下ろしたサバイバルナイフは空を切り、玲奈は仰向けに倒れた。
その表情は、驚愕に満ちていた。

玲奈は一瞬、見た。

自分に向いた、銃口を。

そして、その先には――

 

「『あたしの為に[ピーーー]るなんて、光栄でしょう?』…か。
 バッカじゃないの? 自意識過剰」

伊吹は玲奈を見下ろした。

玲奈の額には、1つの穴が開いていた。

そして、伊吹の手には、小型自動拳銃(FN ブローニング・ベビー)が握られ、銃口からは煙が出ていた。

「あたしの迫真の演技、中々だったでしょ?」

もう動かない玲奈に向かって、そっと囁いた。

伊吹の支給武器は、ポケットティッシュなどではなかった。
あれは、修学旅行の為に持ってきていたものだ。
デイパックに入れられていたものは、小型の拳銃だった。

生き残る気だった伊吹は、1つの作戦を立てた。
銃を持っていることを隠し、相手を騙し、[ピーーー]。

心細くなどないし、仲間もいらない。
偶然玲奈が支給武器を腰に仕込んでいるのを見つけたので、飛び道具でないなら大丈夫だろう、と誘っただけだ。
そして、玲奈なら騙せるだろう、そう考えた。

作戦通りだったわね…
いけないわよ、玲奈、あたしみたいな人間の言う事を信じたら…

圭祐は曽根崎凪紗(女子10番)に恋心を抱いていた。
そのきっかけは、凪紗たちのグループと勝たちのグループが停戦協定を結んだ事だろう。

小学生の頃から、圭祐は自分にコンプレックスを感じていた。
細く小さな目つきの悪い目、中々治らなかった上に跡が残った頬のできもの、ぽっちゃりした体格――他にも色々とあるが、親譲りのものが多いので仕方がないとはいえ、嫌だった。
更に頭は悪く、運動能力は人並み。
おまけに声は元々低く、そこまで愛想も良くなかった。

お陰で、女子から話し掛けられたことはほとんどなかった。

中学生になり、勝たちと出会った。
お使いに行かされたり、面倒ごとを引き受けたりと、パシリ的存在だったが、不良は不良。
一層声を掛けてくれる者はいなくなった。
しかし、勝・新島恒彰(男子15番)・脇連太郎(男子20番)との付き合いは楽しかったので、そんな事を気にするのは止めた。
気にしていても仕方がない、今を楽しもう、と。

 「あ、ケースケ、隣だね、嬉しいな!」

停戦協定を結んだ中2の3学期の最初の席替えの時、初めてまともに凪紗と会話を交わした。

嬉しかった。
自分が横にいることが『嬉しい』と言ってくれた。
色々な話をしてくれた。

 「え? 女子が話し掛けてくれない?
  皆見る目ないなぁ… ケースケ、絶対いい男なのにね!
  人間外見じゃないよ、中身!!」

慰められたのかけなされたのかよくわからなかったが、たとえお世辞でも『いい男だ』と言ってくれたのは嬉しかった。

自分の中身を見てくれる女の子が、目の前にいる。

恋に落ちるのに、時間は掛からなかった。

 

だからこそ、こんなプログラムという最悪の状況になってしまったからこそ、自分の思いを伝えるつもりだった。
途中で偶然出会った勝に、ついて来てもらった。

そして――凪紗を見つけた。

体が、動かなかった。

凪紗は、凪紗といつも一緒にいた男3人組の1人、設楽海斗(男子10番)に抱きしめられ、泣いていた。

「ケースケ… どうするんだ…?」

少し気を遣ったような勝の声に我に返り、圭祐は急いでその場から離れた。
見たくなかった。
涙が出そうだった。
後ろから走って追いかけてくる勝の声にも反応せず、圭祐は凪紗たちから離れた。

 

 

「ケースケ… 後悔しねぇのか?」

心配げな勝の言葉に、圭祐は首を横に振った。

「仕方ないっスよ… 相手が海斗さんじゃ…勝ち目ゼロっスから…」

「そうかァ?
 テメェは良い男だぞ、オレが保障してやる。
 中身は文句なしでテメェの勝ちだ」

またもけなされているような気がしたが、圭祐は笑顔を見せた。

凪紗さんにも同じ事言われたっスね…
少しは…本当だって信じても…いいんスよね…?

どうしよう…!?
何でこんな事になっちゃったんだろう!?
濱中薫(女子14番)は泣きながら校舎を出、一目散に校門を駆け抜けた。
小柄な体ながらも、薫が所属するソフトボール部では誰にも負けない俊足を誇る薫は、20秒足らずで茂みの中に入った。

 

ぱらららっ

 

比較的近い所で、タイプライターのような音が聞こえた。
銃声だろうか?
薫は小さく悲鳴を上げ、その場にしゃがみ込んだ。
ぼろぼろと涙が溢れた。

「もう…やだぁ…っ
 薫、こんな所いたくないよぉ…っ!
 お父さん…お母さぁん…助けてぇ…っ!!」

怖い…怖い…怖い!!

普段はクラス1明るいムードメーカーである薫の姿は、どこにもなかった。
クラスメイトが殺し合わなければならない状況なので、仕方ないが。

怖い…怖い…怖い!!
助けて…誰か…助けて…

佑ちゃん…っ!!

薫の脳裏に先程起こった出来事が蘇る。
首が吹き飛んだ栗原佑(男子7番)の姿が、目に焼きついている。
完全に離れた頭と胴体。
少し前までくっついていた部分から噴き出す血。

「佑…ちゃ…ぁん…っ!」

 

『後輩相手に変な言い掛かりつけてんじゃねーよ、バーカ!!』

中2の初め、よそ見をしていてぶつかってしまった3年生の不良連中に絡まれた時、通りがかった佑が助けてくれた。
全身の至る所に痣を作りながらも、追い払ってくれた。

『女の子の顔殴るなんて、男の風上にも置けねぇヤツらだな!!』

連中の1人に殴られて腫れた薫の頬を見て、佑が怒っていた。
痛かったが、それ以上に嬉しかった。
助けてくれた事が。

『お礼なんていいって、男として当然の事だろ、女の子守るのは!』

傷だらけになりながら、そう笑っていた。
王子様みたい、そう思った。

大好きだった。
男気のある佑が。
小さな子のような元気な笑顔を浮かべる佑が。

 

『オレ…楽しかった!
 オレさ、このクラスになれて本当によかった!
 皆、大好きだぜ!
 だから…当分会いたくない、お別れだ!!』

 

最期の薫たちに向けられた言葉。
今も耳の奥に残っている。
きっと、消える事はないだろう。

大好きだった。
佑が曽根崎凪紗(女子10番)の事を好きだったのは、何となく知っていたが、そんな事は関係無い。
ただ好きでいるだけなら、本人の自由でしょ?

大好きだった。
佑が曽根崎凪紗(女子10番)の事を好きだったのは、何となく知っていたが、そんな事は関係無い。
ただ好きでいるだけなら、本人の自由でしょ?

当分会いたくないってことは…皆に生きてって言いたかったってことだよね…?
でも…怖いよぉ…
皆を疑いたくなんかないけど…でも…でもぉ…っ

「佑ちゃん…佑ちゃん…!」

名前を呼んでも、返事があるはずはないが、薫は名前を呼び続けた。

 

「濱中さん…ですよね?」

 

突然上から穏やかな声が聞こえ、薫はビクッと顔を上げた。

逃げなきゃ…逃げなきゃ!!

薫は立ち上がり逃げようとしたが、少し出っ張った石に躓いた。
声の主がくつくつと笑う。

「大丈夫ですよ、僕は貴女に危害を加える気はありません」

その言葉に、薫の眼からぶわっと涙が溢れた。

「うぅ…っ 悟ちゃぁん…っ」

ぼろぼろと涙を流す薫を見て、声の主――長門悟也(男子14番)は苦笑いを浮かべた。

「座ってください、膝、怪我してますよ?」

薫はその場に腰を下ろした。
悟也は自分のデイパックから水を出し、丁寧に薫の膝を手当てしてくれている。

長門悟也、薫にとっては謎の人物だった。
何故か誰に対してでも敬語を遣う(クラスのお姉様的存在、遠江敬子(女子12番)もそうだが)、ミステリアスな雰囲気に包まれた少年。
長めの綺麗な黒髪が、それを強調しているように見える。
四角い縁の眼鏡の奥に見える眼は、いつも穏やかだ。
今も、何一つ変わらない。

「はい、できましたよ? 足元には気をつけてくださいね」

「うん…ありがと…」

 

薫は目の前に座る悟也を見た。
悟也はその視線には気付かず、自分の左手首についている数珠のようなブレスレットを弄んでいた。

「…ねぇ、悟ちゃん…」

悟也は顔を上げた。

「悟ちゃんは…どう思う…?」

「…何がですか?」

「皆を…信じられる…?」

悟也はブレスレットから手を離した。
薫の眼をじっと見つめた。
何かを見透かされそうな気がした。

「濱中さんは、どう思うんですか?」

薫は悟也から目を逸らし、抱え込んだ膝の上に顎を乗せた。

「…薫は…信じてるよ…信じたいよ…
 皆、殺し合いなんて…しないって…信じたい…
 でも…怖い…怖くて怖くて仕方がないんだぁ…
 心の奥底では、誰も信じられてないんだ、多分…
 そんな自分が…すっごい嫌…」

どうして信じられないんだろう?
信じたいのに。
でも、銃声も聞こえた。
もしかしたら誰かの命が消えたかもしれない。
自分もいつか誰かに殺されるかもしれない。
そう考えると――怖い。

「貴女らしくないですよ?」

薫は悟也の顔を見た。
悟也がにっこりと微笑んだ。

「いつもの貴女でいればいいじゃないですか」

「いつもの…薫…?」

薫はきょとんとし、首を傾げた。

「そうやって疑心暗鬼になるから、プログラムは進むんです、多分。
 クラスの大部分は、きっと貴女と同じ気持ちですよ。

 貴女は、クラスの皆さんが好きなんですよね?
 皆さんを信じていたいんでしょう?
 だったら、その気持ちを貫き通しなさい。
 それがいつもの貴女でしょう?
 他愛もない事かもしれないですが、1番大切な事ですよ」

「いつもの…」

相変わらず不思議な人間だ、悟也は。
この歳で何かを悟っているのだろうか?
ただ、その言葉は薫の心に響いた。
心のもやが、晴れた気がした。

「そう――あ…」

悟也が突然横を向いた。
薫がその視線を追い――立ち上がった。
ぱあっと表情が輝いた。

「ナッちゃん!!」

「薫!!」

勢い良く走ってきて薫を抱きしめたのは、薫にとって誰よりも大好きで、誰よりも信頼できる、大切な幼馴染、姫川奈都希(女子15番)だった。
悟也は穏やかな笑顔でその様子を見ていた。

「薫…無事でよかった…
 部屋の中で銃声が聞こえたから…心配して…っ」

奈都希が泣き出した。
薫の眼にも再び涙が溜まった。
それを手の甲で拭い、奈都希を自分から離し、その手を握った。

「ナッちゃん、行こっ!
 ここのエリア、禁止エリアになっちゃうよ!」

「あ…うん、そうね」

奈都希も涙を拭った。

男子14番・長門悟也(ながと・さとや)

部活は無所属。男子文化系グループ。
ミステリアスな雰囲気に包まれている。
実家は寺。予知夢を見ることができるらしい。


支給武器:ボウガン
kill:吉原遼(女子20番)
killed:真田勝(男子9番)
凶器:キャリコM950
 

偶然出会った濱中薫(女子14番)を諭す。薫と別れ、移動。
F=03エリアで羽山柾人(男子16番)と会う。励まし、別れる。
設楽海斗(男子10番)・曽根崎凪紗(女子10番)と会う。 悟也は予知夢で自分がここで死ぬ事を覚悟していた。 それを聞いた凪紗に殴られる。 そのまま別れる。
夢の通り、遼を発見し殺害。 勝を目にして初めて予知夢に逆らい、勝から逃げようとするが、全身に被弾し死亡。

 

遼ちゃんも書きにくいですが悟也君も書きにくかったです。(*_*)
結果は一緒でしたが、最後まで頑張っただけ何か得たものがあったかもしれません。
書きにくいですが好きな子でした。

男子15番・新島恒彰(にいじま・つねあき)

部活は無所属。不良グループ2。
喧嘩好きで粗雑で乱暴。好きな言葉は下剋上。
中原朝子(女子13番)の彼氏。


支給武器:毒薬
kill:中原朝子(女子13番)
駿河透子(女子9番)
killed:真田勝(男子9番)
凶器:キャリコM950
 

頂点に立つ為に優勝を目指す。

E=08エリアで朝子を発見、毒殺。
F=01エリアで勝と透子を襲い、透子を銃殺。下剋上を成し遂げる為に勝も殺害しようとするが、怒った勝に敵わず銃殺される。

 

真田君とは反対のタイプといいますかなんと言いますか。
真田君にとっては「友達」以上にはなれない人でした。
こんな人は彼氏にしたくないです、私は。

男子20番・脇連太郎(わき・れんたろう)

部活は無所属。不良グループ2。
将来の夢も希望もなく、ただ何となく生きている。
趣味はナンパ。


支給武器:小刀
kill:なし
killed:椎名貴音(女子8番)
凶器:小刀
 

J=01エリアで貴音と遭遇。恐怖で錯乱していた為、貴音に襲い掛かる。もみ合いの末、首に小刀が刺さり失血死。

 

FC3書いていて初めて主観の話がなかったレン君。いいとこなし(汗
別に嫌いなわけじゃないんですけどね、スランプ・・・

女子19番・結城緋鶴(ゆうき・ひづる)

部活は無所属。女子文化部グループ。
神戸からの転校生で、前の学校では吹奏楽部だった。
クラスでは2番目に小柄だが、運動神経は良い。


支給武器:アイスピック
kill:青山豪(男子1番)
真中那緒美(女子16番)
笠井咲也(男子5番)
小南香澄(女子6番)
桐島伊吹(女子4番)
斎藤穂高(男子8番)
稲田藤馬(男子4番)
killed:なし
凶器:なし
 

D=05エリアで豪を発見、背後から一撃で殺害。Cz75入手。
E=06エリアで皆に呼びかける那緒美を発見、銃殺。
D=03エリアで咲也に告白されるが、咲也の持っていた包丁で殺害。
F=06エリアで周防悠哉(男子11番)と遭遇。神戸の中学校で悠哉と付き合っていたが、プログラムで悠哉の妹を殺害しており、別れた。 “戦闘実験体”であり、今回が4度目のプログラムになる。 悠哉に殺しを止められるが、悠哉の腹を刺してその場を去った。
F=04エリアで香澄を発見。頭部を撃ち殺害。ファイブセブン入手。
D=05エリアで伊吹を発見、頭部を打ち抜き殺害。ブローニング・ベビー入手。
G=06エリアで曽根崎凪紗(女子10番)と戦闘。重傷を負わせるものの、麻酔弾を撃ち込まれる。
D=06エリアで穂高・藤馬を銃殺。不破千尋(男子17番)も殺害しようとするが、逃げられる。
F=03エリアで羽山柾人(男子16番)を発見、急襲。しかし、柾人から弟・結城緋鷹が保護された事を聞く。プログラム中止の放送でもう殺害しなくてもいい事を知り、泣く。プログラム本部に着いたが、そこにいたのは父、結城孝博だった。悠哉を殺害されショックを受ける。柾人を護る為に戦う。危ないところを緋鷹に助けられ、共に父に銃を向けた。結城の死亡により自由の身となった。
今までの罪滅ぼしなどの為にADGIの仕事を緋鷹と共に手伝う事を決意、渡米。

2年後、米帝にあるADGIの支部で裏方作業。
柾人との関係は恐らく進展している。

 

私の中ではFC3のもう1人の主人公でした、ひぃちゃんです。
外見とのギャップとか、強い女の子とか大好きなので、ひぃちゃんは書いていて辛かったですが同時に楽しかったです。

青山豪(男子1番)は努力を怠らない少年だった。
所属するサッカー部では、誰よりも早く朝練に行き、誰よりも遅くまで残って放課後は練習した。
それ以外にも、朝練の前と夜には近所の公園でランニングをし、昼休みも軽くボールを蹴る。

将来の夢は、プロのサッカー選手になる事。
その為になら、努力は怠らない。
その為になら、何を犠牲にしても構わない。
友達と遊ぶ事も、テレビゲームも、何もいらない。

そんな豪には、許せない人間がいる。

才能のある、人間。

豪にはそれがなかった。
始めてボールに触ったのは小学校2年生の頃だった。
放課後に近くの広場で毎日遊んでいたが、全く上達しなかった。
リフティングすらできない状態だった。

なので、サッカー選手を夢に見始めてからは、必死に練習をした。
リフティングも、ドリブルも、パスも、できるようになっていった。

豪の努力はそれなりに実り、部活の中では常にレギュラーの座を得た。

そんな折、豪は地域選抜を選ぶ合宿に呼ばれた。
他にも同じサッカー部からは、豪と仲の良い笠井咲也(男子5番)と工藤久尚(男子6番)、そして部活には入っていないものの、地元のクラブサッカーに所属しているという不良少年、設楽海斗(男子10番)もいた。

咲也と久尚、そして海斗――彼らは正に“才能のある”人間だった。

初めて会った時から、咲也と久尚の上手さは知っていた。
教えられた事も瞬時にこなす、合宿中で最も有名になったペアだろう。

海斗の反射能力は、他に呼ばれたGK候補の中で群を抜いていた。
あれは天性の能力だろう。
訓練をしてどうにかなるというレベルの話ではなかった。

結果、咲也・久尚・海斗は合格した。
学校内で、豪だけが落ちた。
地域選抜に選ばれる事は、プロへの第一歩だったのに。

――気に入らない。

あんなに努力したのに。
どうして選ばれなかった?
自分だけ。

結果の出た後も、表向きは咲也と久尚と仲良くしていたが、心の中では嫉妬心が渦巻いていた。

 

 

豪は自分のデイパックを開けた。

水、食料(不味そうなパンだ、端が乾いている)、地図、懐中電灯――色々と入っていて、中はごちゃごちゃしていた。
その底にあった金属に指が触れた。
豪はそれを慌てて引き出した。
一緒に出てきた説明書に目を通す。

Cz75――自動拳銃。
命中精度が高いらしい。
初心者の自分に扱えるかは謎だが。

扱う。

人に、向ける。

豪のCz75を持つ手が震えた。

これって…当たりの部類だよな?
でも…これを、使うのか? オレが?
こんなもんで攻撃したら、相手が死んじゃうじゃないか!!

更にデイパックの中を探る。
箱が出てきた。
弾が入っているのだろうか。
予備のマガジンも出てきた。

そして――

「…名簿?」

何でこんな物が入っている?
死んだ人間のチェックでもしろと?
悪趣味な…

豪の眼に、彼らの名前の文字が止まった。
咲也、久尚、海斗。

――待てよ、チャンスじゃないか!
ここであの3人がいなくなれば、地域選抜に穴ができる!
そうすれば、またオレにだってチャンスが回ってくる!
プロへの、第一歩が踏み出せる!!

Cz75を握る手に力が入る。

ここで死ぬわけにはいかない、プロになりたい。
プロになる階段を上がる方法はたった1つ。

優勝する、プログラムで。

全員殺してしまえばいい。
プロになりたいんだ。
サッカーをし続けていたいんだ。
大丈夫、努力さえすれば報われる。
今までもその為に全てを犠牲にしてきた。
今回だって、同じ事じゃないか。
クラスメイトを犠牲にして、サッカー選手になる!!

 

「青山君?」

 

声が聞こえた。
可愛らしい、少女の声だ。

同時に、首の後ろに痛みが走った。

「あ…っ」

嘘だろ?
君も、優勝する気なのか…?

待てよ…オレは…サッカー選手に…

豪は、そのままうつ伏せになって倒れた。
既に、事切れていた。

「ふーん…これは外れってわけやないって事かぁ…意外にも…」

地に伏した豪を見ながら、関西弁を話す少女――結城緋鶴(女子19番)は数回頷き、豪から武器を引き抜いた。

アイスピック、これが出てきた時には少しショックだったが、意外と使える。

「…でもやっぱ、うちにはこっちの方がえぇよな、使いやすい」

緋鶴は豪の手からCz75を抜き取り、豪のデイパックから素早く食料と水、予備マガジンと銃弾の入った箱を取り出し、自分のデイパックに突っ込んだ。

後方を一瞥し、緋鶴は森の奥に姿を消した。

 

 

 

「うっわー…今絶対こっち見たよなぁ…
 おっそろしい女やのぅ…」

緋鶴の見た方向にいた周防悠哉(男子11番)が茶髪の頭を掻いた。
明らかに目が合った。
僅かに笑んだ気がした。

悠哉は緋鶴がいなくなったのを見て、豪の元へ駆け寄った。
穴が開き、血が溢れ出している部分にそっと触れた。

「延髄を一突き…即死やなぁ…
 あれって氷とかかち割るヤツやんなぁ…
 あんなモンでも人殺せるんかいな…

 ま、ご愁傷様、アオヤマ君…やっけ?」

前に会った男女ペアといい、このクラスは中々ハイレベルな戦いをしそうだ。

『このクラスは全体的に能力が高いんだ!!
 楽しみだとは思わないかい、特別参加者君!!』

教室に行く前に、進藤幹也(担当教官)に言われた。
確かにその通りだろう。

ただ…ちょいと厄介やなぁ…

BGM「レクイエム」――

 

不破千尋「いやー…何か気分出るねぇ♪」

設楽海斗「そりゃあ、バトロワのテーマ曲みたいなモンだからな」

曽根崎凪紗「管理人、これ目覚ましにした事あるんだよ?」

栗原佑「恐ろしい目覚めの曲だな、オレならヤだね!」

 

 

凪紗「というわけで、FC3初の座談会!」

千尋「今回は、ラジオ形式でいこうと思うんだ、見てコレ」

海斗「…葉書?」

佑 「これの質問に答えるんだな!」

千尋「要は、管理人が自問自答するって寸法さ♪」

凪紗「後は、BBSのカキコを見て言いたい事も言おうかな、ってさ」

 

 

凪紗「じゃあ、最初の葉書を!」

『何で最初の犠牲者が佑君なんですか!?
 ふざけんじゃねーよこんにゃろう!!』

佑 「それ、オレが1番聞きたいっての!! 何でオレ!?」

真田勝「愛がねーから?」

佑 「うお、勝!? つーか何だよそれはぁ!!」

濱中薫「そんな事ないよ、ドンマイだよ佑ちゃん!!」

佑 「濱中…頼むから“ちゃん”付けるなっての!!」

海斗「話が進まないぞ」

千尋「んー…あ、これは管理人の脳内ノート! どれどれ…『凪紗がプログラム経験者で、取り巻き3人いたって決めた時に、1人は教室の中で死なせるって決めてた』…だって」

佑 「だからって…何でオレ!? 千尋は!? 海斗は!?」

千尋「やだなぁ、オレがいなかったらつまらないじゃないか♪」

佑 「んな事あるか、オレだってつまんないだろうが!!」

千尋「さあ、次行ってみよう!(無視)」

佑 「話を逸らすなぁ!!」

凪紗「『キレて政府に無鉄砲に突っ込んでいくのは佑以外には考えられなかったから』だってさ」

海斗「じゃあ、2つ目」

『千尋君ってオカマ?』

間。

薫 「うそっ!? そうだったの!?」

佑 「だっはーっはははははっ!!オカマ!!カマ!!」

凪紗「これ、管理人のオフ友に言われたんだって」

佑 「どわっはーっはははは!!ナイス!!ナイスオフ友!!」

千尋「…何がそんなに面白いんだい、佑クン? あの秘密…バラしちゃおうっかな??」

佑 「ヒーッヒヒ… って秘密って何だ、どれだ!?」

勝 「不破のその喋り方がカマ臭いって言ってるんじゃないのか?」

海斗「同感だな」

池田圭祐「2人共、酷いっスよ!!」

佑 「ケースケ!! 聞いたか、カマ!!ここにカマがいるぞ!!」

圭祐「ひぃっ!!」

圭祐が指差す先、物凄い恐ろしい表情を浮かべる千尋。

佑 「ギャー――――!!!」

千尋「あのね、オレの喋り方はただの癖。 オレの1つの特徴。 だって、オレも佑クンも海斗クンも同じだったらつまらないじゃない?」

海斗「そうか?」

 

 

千尋「ほら、これだって一緒でしょ?」

『ケースケ君は何で敬語なんですか?』

圭祐「そうっスよね、つーか敬語とは少し違うっスけど…」

勝 「そーいや、何でだ? 人にも“さん”付けるし…」

圭祐「癖っスかねぇ…あと、オレは下っ端っスから…」

凪紗「下っ端ぁ? そう思ってるのってツネ(新島恒彰)とレン(脇連太郎)だけじゃないの?」

佑 「だよなぁ、勝は思ってねーだろ?」

勝 「ああ、オレにとってケースケは仲間だからな、下も上もない」

圭祐「ま…勝さん…っ!」

凪紗「あ、そーいえば、何で“圭祐”じゃなくて“ケースケ”なの?」

夏至が近づく6月11日、午前6時前だが既に辺りは明るくなっていた。
曽根崎凪紗(女子10番)は泣き疲れたのか、設楽海斗(男子10番)の肩に頭を預け、眠っていた。
海斗は何も言わず、ずっと凪紗の背中を優しく叩いていた。

海斗は自分の腕時計に目を遣った。

「…凪紗、起きろ。 もうすぐ6時だ」

凪紗はうっすらと眼を開けた。

「ああ…うん、おはよー…」

凪紗はぼんやりとしていたが、やがて状況を理解したのか、慌てて頭を起こした。

「うわ、海斗ゴメン!!
 あたしバカみたいに眠っちゃってたよ!!」

海斗は凪紗の大声に驚いていたが、少しだけ笑みを浮かべた。

「気にするな、眠りたいなら眠ればいい」

「…ありがと」

凪紗は微笑んだ。
海斗が一緒にいてくれて、本当に良かった。
こんなに落ち着いていられるのは、海斗が一緒にいてくれるからだろう。

「凪紗…その、腕のは…」

海斗が凪紗の右腕にはめられたリストバンドに初めて気付いた。
黒のベースに銀色の糸で十字架が刺繍された物。
しかし、今はその十字架の大部分が黒ずんでいた。

「うん…佑の。 貰ってきたんだ。
 ほら、佑、あたしの事…好きだって…言ってくれたでしょ?
 嬉しかったけど…その気持ちに、あたしは答えられないから…
 せめて…ね、一緒にいたいなって…」

凪紗は俯いた。
海斗はじっと栗原佑(男子7番)のリストバンドを見つめていた。
首が胴から離れ、その時に飛び散った血が十字架の模様をほぼ消している。
あの時の状況は、眼に焼きついている。

佑の気持ちに答えられない…ということは、凪紗は佑の事を好き、というわけではないということか?

不意に、昔の出来事が頭をよぎった。

 

「オレ、凪紗の事、好きなんだ」

修学旅行の1週間ほど前、突然佑が言った。

唯一男女別の授業である体育の授業中、内容はバスケットボールだったが、一度にコートに入ることのできるチーム数が限られているので、海斗・佑・不破千尋(男子17番)は体育館の隅で試合を眺めていた。

ボールを抱えていた千尋が、思わずそれを落とした。
そして、笑顔を浮かべた。

「…それ、オレらに言ってどうするのさ?」

佑が千尋と海斗の前に立った。

「オレ、本気だぞ」

「だから、どうした?」

海斗は佑の考えが全く読めず、首を傾げた。
佑は2人を交互に見た。

「…お前らは、アイツの事どう思ってる?
 ただのダチか? それともそれ以上か?」

千尋の顔から、笑顔が消えた。

「聞いてどうするわけ?」

佑の表情は、いつになく真剣だった。

「オレ、修学旅行で告る。
 でも、2人が好きだって言うなら、多分しない。
 抜け駆けみたいで嫌だからさ」

「ふーん…なるほどね」

千尋は落としたボールを拾い上げ、それを指の上で回した。
それを止め、再び笑顔を浮かべた。

「本当の事言っていい?
 オレも凪紗チャンの事好きだよ。
 それは、佑クンや海斗クンが好きっていうのとは、絶対違う。

 海斗クンだって、そうなんでしょ?」

突然話を振られ、海斗は視線を下に向けた。
顔が火照る感じがした。

海斗も凪紗の事が好きだった。
初めて出会った時はむしろ嫌いな人間の部類だったが、一緒にいるうちに惹かれていった。
残りの2人も似たような感じだろうが。

「やっぱそうかぁ…」

佑が溜息を吐き、その場に座った。
そして2人を見上げた。

「じゃあ、オレはしばらく言わない。
 時が来るまでは、絶対に言わない。
 抜け駆け禁止な、絶対!!」

「何でさ?」

千尋が頬を少し膨らませた。
男がやるのはどうかと思うが。

「…だって、抜け駆けとかしたら、グループの雰囲気が悪くなりそう。
 オレ、それだけは絶対嫌だからな!
 暫くは仲良し4人組でいたいんだ、オレこのグループ好きだし!」

「なるほどねぇ… だってさ、海斗クン?」

「わかった」

この4人組が好きなのは佑だけではない。
もちろん、海斗も気に入っていた。
誰かが抜け駆けをして壊れてしまうのは、絶対に嫌だと思う。

ここに、3人だけしか知らない同盟が組まれた。

 

多分、このクラスがプログラムに選ばれてしまった今こそが、その『時』なのだろう。
事実、佑は最期に言った。

海斗は凪紗の横顔を見た。

まだ、言わない。
千尋が何処にいるかわからない状況で言うのは、卑怯な気がする。

「…海斗、どうしたの?」

いつの間にか凪紗はこちらを向いていた。
海斗は何でもない、と首を横に振った。

千尋とオレが凪紗に気持ちを伝えられるように、その時が来るまで、凪紗を守る――それがオレの今の役目だな…
千尋のヤツは…何をしているんだろう…?

 

ブツッ

 

上の方からスイッチを入れるような音がした。
海斗は上を見上げた。
木にスピーカーのような物がくくり付けられていた。

「…放送だね」

凪紗が腕時計を見ながら呟いた。

『グッモーニング、エブリワン!! おっと米帝語はいかんな!!
 皆元気に殺し合いしているかなぁ!?
 では、早速戦いに散った友達の名前を言おう、死んだ順番だ!!
 地図の入ったファイルに名簿も入っているから、チェックしたまえ!!』

海斗はあまりに大きな声に顔をしかめながら、デイパックを初めて開けた。
1番上に食料が入っており、その下に地図らしき物が見えた。

『男子7番、栗原佑君…は知っているか。
 女子3番、金城玲奈さん!!
 男子3番、池田圭祐君!!
 男子1番、青山豪君!!
 ぼちぼちのペースだな、まあ最初だからオーケイか!!』

「け…ケースケ…っ そんな…!」

凪紗が小さく悲鳴を上げた。

圭祐は海斗もそれなりに仲良くしていた。
佑と新島恒彰(男子15番)のくだらない口喧嘩を最終的に止めるのは、海斗と圭祐の役目になる事が多かったので。
とても謙虚な、いい奴だった。

金城玲奈はよく知らない。
ただ、何となく見下されている気がしていたので、好きなタイプではなかった。

青山豪とは地域選抜を選ぶ合宿で一緒になった。
特に会話を交わしたというわけではなかったが、一生懸命頑張る奴だと感じた。

頭の中にそれぞれの顔が浮かび、そして消えた。
佑は別として、3人がこの会場で生を終えた。
3人が自殺をしたとはとても考えられない(特に玲奈は)。誰かが、手を下したのだろう。転校生が全員を殺した、というのも違う気がする。このクラスの誰かが、このくだらないゲームに乗ったのだろうか?

『続いて禁止エリア!! よく聞くようにな!!今から1時間後、7時からC=04エリア!!9時からはH=10エリア、11時からはB=07エリアだ!!』

海斗は必死に書き留めた。
本部である中学校の北のエリアと、南の方にある住宅地の端と、北の方にあるデパートの側のエリアには、入れなくなる。
自分たちが今いるE=04エリアとは関係がない。

『先生からのアドバイスだ!
 転校生はまだ1人も殺していないぞ、そして3人は自殺じゃない!!
 この意味を、よーく考えるようにな!!』

ブツッと放送が切れた。

クソッ、やっぱり乗った人間がいたか…

海斗は凪紗の方を見た。
凪紗は自分が修学旅行に持って行った鞄を漁っていた。

「どうした?」

「なんか、政府がくれたパンが不味そうだから…
 修学旅行のお菓子とか残ってないかなって…
 土産はあるけど、海斗は甘い物苦手でしょ?」

ああ、また無理して笑っている。

素直に泣きたい時に泣けないのは、凪紗の癖なんだろうか?
圭祐が放送を名前で呼ばれたショックは大きいだろうに。

まいったな、オレは色々喋るのは苦手なんだけどな…
饒舌な千尋ならこういうのは平気なんだろうけど…
でも、元気付けてやらないと…

「あのな、凪紗…」

「何…これ…」

慰めようとした海斗の声を遮り、凪紗が声を上げた。

「何…これ…」
曽根崎凪紗(女子10番)の手の上には、20cm四方ほどの箱が乗っていた。
鞄の1番奥底に入っていた。

気付かなかった…でも、あたしこんなの入れたっけ?

「お前が入れたんじゃないのか?」

その箱を怪訝そうに眺めていた設楽海斗(男子10番)が訊いた。
凪紗は首を横に振った。

あたしじゃなかったら…お父さん?

ひらっと何かが落ちた。
凪紗はそれを拾った。
そこには、見慣れた父親の字で、こう書かれていた。

『非常事態の時以外は開けないこと』

「…今って非常事態かな?」

「今以上に非常な事態があると思うか?」

「だよねぇ」

凪紗は箱を開けることにした。
箱を床に置き、蓋をそっと持ち上げた。

え…!?

凪紗は目を見開いた。
海斗も息を呑んだ。

箱の中には、1丁の拳銃が入っていた。

「これ…何で!?」

「凪紗、これって手紙か?」

海斗が箱の蓋に付いていた封筒を剥がした。
それを渡され、凪紗は慌てて封を切った。
そこにも、見慣れた字が並んでいた。
最初の1文に、2人は顔を見合わせた。

『注意・首輪には盗聴器が付いているので怪しい言動は避ける事』

「と…とうち…ムグッ」

「バカ、駄目だ!」

海斗に口を塞がれ、凪紗は危うく窒息死するところだった。
しかし、それがなければ言ってはいけない事を口にするところだった。

危ない危ない…
読んだ後の1発目の言葉が、正に怪しい言葉になるところだった!!

続きに目を遣った。

『凪紗へ。

 この手紙を見ているという事は、プログラムに選ばれてしまったのかな?
 そうなら、この後を読み進めなさい。
 実は、お父さんはこの事を事前に知っていたんだ。
 だけど、それを敢えて伝えなかった。
 毎日を不安に駆られたまま学校生活を送ってほしくなかったんだ。
 だから、こうして手紙を書きます。
 絶対にお父さんが何とかしてあげるから、生き延びなさい。
 時間はかかるかもしれないけど、プログラムを壊してあげるから。
 だから、何があっても絶対に友達を殺してはいけないよ?
 友達にも停戦を呼びかけなさい。
 少しでも犠牲者を減らすのが、凪紗の役目。
 凪紗ならできると信じているよ。

 無事を祈っています。

 お父さんより。

 P.S.銃は麻酔の薬を塗った弾の出る改造エアガンだよ。
 万が一の時には使いなさい』

凪紗の、手紙を持つ手に力が入った。
眼に涙が滲んだ。

お父さん…わかった…
あたし、絶対に、殺し合いをしている人たちを止める…

「海斗、付き合ってくれない?
 あたし、皆を止めたい。
 だって…もうこれ以上、大事な人たちを失いたくないよ――」

海斗が頷いた。

「オレも、同感だ」

凪紗は涙を拭い、麻酔銃を手に取った。
5mほど離れた所に生えた木に照準を定め、引き金を引いた。
ピュッと小さな弾が飛び出し、その木にめり込んだ。

「実弾じゃないよね、よかった…
 でも、ちょっと威力ありそうだなぁ…」

「な…凪紗…?」

海斗が驚いた表情で凪紗と木を交互に見ていた。

「あ、これ?
 あたし、よくお父さんと射撃翌練習場行ってたから、結構上手いよ?」

今思えば、それもこのプログラムを想定しての事だったのだろうか?

 

凪紗の母親は、今はもうこの世にはいない。
凪紗が小学4年生の頃に、この世を去った。
表向きの死因は交通事故だ。
しかし、凪紗も父親も本当の死因を知っている。
母親は、政府の人間に殺された。

母親は、反政府組織に所属していたので。

その反政府組織は今も存在している。
父親は後を継いで、その反政府組織に所属している。
母親は自分の命に代えても組織の秘密を守り通した、と聞いた。

 「凪紗ちゃん、これやってみようか?
  ほら、いつかは、役に立つかもしれないじゃない?」

そう言って凪紗に射撃翌練習を勧めたのは、亡き母親だった。

よくよく考えてみれば、普通に生活していれば絶対に要らない技術だ。
要るとすれば、母親と同じ道に進んで反政府組織に所属するか、逆の道に進んで政府の軍人になるか――万が一の可能性として、銃などを使わざるを得ない状況、即ちプログラムの対象クラスに選ばれるかだ。

お母さんだって、まさかあたしがプログラムの対象に選ばれるなんて思いもしなかっただろうな、万が一の可能性ってくらいで…
こんな所で技術が役に立つなんて…

「凪紗、見てみろ」

不意に声を掛けられ、凪紗は我に返った。
海斗の手には、1本の文化包丁が握られていた。

「支給武器」

海斗は華麗にそれをくるくると手で回した。
プロの料理人も真っ青。

「へぇ…こんなモンも配られるんだ…
 武器っつーか…料理道具だよねぇ…」

凪紗は苦笑した。
ただ、ドラマなどでは包丁は立派な凶器になっている。
当たりの方なのだろうか?

そうだ、あたしは…

凪紗は自分のデイパックを漁った。
底の方に、掌より僅かに大きいサイズの四角い物が出てきた。

「ゲームか?」

海斗は不思議そうにそれを覗く。
凪紗はデイパックの奥底でくしゃくしゃになった説明書を取り出した。

「えーっと… 探知機…ガダ…ルカナル…対応…?
 ガダル…カナルの電波を受信し表示します…
 誰がどこにいるのかバッチリ☆…だって。
 ガダル…カナルって何?」

「…さぁ… でも、要は探知機なんだろ?
 今オレらにとって最高に役立つ武器じゃないか」

「そっか、そうだよね!」

確かに、クラスメイトを見つけて停戦を呼びかけなければならない2人にとっては、銃なんかよりも当たりになる武器だ。

凪紗は説明書を広げた。
そして探知機の電源を入れた。
液晶画面に2つの点が現れた。
凪紗と海斗の反応だろう。
脇にあるスイッチを押すと、地図がどんどん縮小されていく。
最も広範囲に見られる地図で、エリア1つ分だ。

「よし、これで千尋とか勝とか…皆探そっ!」

「そうだな」

「もちろん、梨紗も探そうね!」

梨紗――黒川梨紗(女子5番)の名前を出され、海斗が首を傾げた。

「何で黒川?」

「何でって…幼馴染が心配じゃないわけ!?
 あんな見るからに弱そうな子、乗った人の格好の獲物じゃない!!」

「獲物って…」

ああ、可哀想に、梨紗。
恋愛沙汰に何故か敏感な千尋の情報だと、梨紗は海斗が好きなんだよ?
なのに…まあ、海斗らしいけど…
とにかく探してあげないと…何かちょっと会ってほしくない気もするけど…
やきもち? わからないけど…

青山豪(男子1番)が結城緋鶴(女子19番)に殺害された後になる。

真中那緒美(女子16番)はE=06エリアにある小学校の、3年2組と書かれた教室の中の、机の1つに腰掛けていた。
ぼんやりと後ろの掲示板に貼られた絵を見ていた。
恐らくテーマは『友達を描こう』か何かだろう。
その中に、2つの三つ編みにそばかすの女の子の絵があった。
自分に似ていたが、微妙に子供らしい下手な絵なので、思わず吹き出した。

那緒美はクラスに必ず1人はいる、ムードメーカー的存在だった。
クラス1のおてんば娘、濱中薫(女子14番)と共にクラスを盛り上げた。
全く意識していないが、2人の会話は漫才のようらしく、2人の会話を聞く周りの友達によく笑われていた。

全くもう、薫のヤツ、あたしの事忘れてたんじゃない?
酷いなぁ、置いてけぼりかぁ…
まあ、薫らしいかもしれないけどね…

那緒美は溜息を吐いた。
教室内での薫の様子から、何となく行動は予想できた。
怯えて外に出て、次の次に出てくる幼馴染の姫川奈都希(女子15番)にどうにかして会い、あまりの嬉しさに那緒美の事を忘れていた、というような事だろう。

薫、大丈夫かなぁ…
栗原君があんなことになって、結構こたえてたからなぁ…
凪紗ちゃんとか不破君とかも、心配だなぁ…

栗原佑(男子7番)の首が飛ぶ瞬間が脳裏によぎった。
関本美香(担任)の穴だらけになった死体も、死ぬまで頭から離れないだろう。

「…まったく、冗談じゃないよねぇ…」

那緒美は溜息を吐いた。

あの筋肉男ともやし軍団…
人に平気で銃向けたり、楽しそうに人の首を飛ばしたり…
神経イカれてるんじゃないの!?

大体、あたしたちが殺し合い?
バッカじゃないの、するわけないじゃない。
あんなに仲の良いクラスなんだよ、できるはずない!
2回聞こえた銃声だって、きっと誰かのデイパックの中に入ってて、興味本位で木とかを撃ったとか、怖がって動けなかった子に政府の人が威嚇で撃ったとか、そんなのだよね!

那緒美の頭には、クラスメイトが殺し合いをする姿は想像もつかなかった。
誰も、怖くない。

例えば片方の不良グループのリーダー、真田勝(男子9番)も怖くない。
見た目は少し怖いが、話してみれば意外と柔らかい印象を受けた。
無気力な感じだが、仲間の事になると少し熱くなるような、そんな人だ。

同じグループの新島恒彰(男子15番)も怖くない。
話をした事はあまりないが、友達を[ピーーー]ほど落ちてはいないはずだ。

那緒美からすると女子の中で最も近寄りがたい三河睦(女子17番)も怖くない。
怖がって震えているとは思えないけれど、殺しまわっているはずがない。
根拠は何もないけれど。

睦と同じグループの桐島伊吹(女子4番)も怖くない。
人に興味は持たなさそうな彼女も、今ならきっと友達を心配しているだろう。

大丈夫、誰も死んでいない。
自ら命を絶っていない限り。

大丈夫、皆が集まれば何とかなる。
このクラスには頭の良い人が沢山いる。

ここまでの前向きな考えは、常にプラス思考である那緒美だからこそ成せる業だろう。

ただ、注意が必要なのは、転校生の周防悠哉(男子11番)だ。
いくら那緒美でも、得体の知れない人間は怖い。

ま、あの人だけ注意しとけばどうにかなるでしょっ!

那緒美はデイパックを見下ろした。
注意する、つまりは会わないようにする事。
那緒美に支給された物では、例えば会ったとして、絶対に太刀打ちできない。
お世辞にも武器とは言えないので。

 

『グッモーニング、エブリワン!!おっと米帝語はいかんな!!
 皆元気に殺し合いしているかなぁ!?』

放送が鳴った。
進藤幹也(担当教官)が言っていた定時放送だ。

『では、早速戦いに散った友達の名前を言おう、死んだ順番だ!!
 地図の入ったファイルに名簿も入っているから、チェックしたまえ!!』

まあ、誰もいないだろうけど…

そう、思っていた。
放送が進んだ。
驚愕した。

クラスメイトが、3人も、死んでいた。

そして、最後の言葉。

クラスの誰かが、人を殺している。
しばらく、動く事ができなかった。

 

「何で…どうして殺し合いなんか…っ
 …あ、そうか、きっと疑心暗鬼になってるんだ!」

殺し合いなんて、絶対にしちゃ駄目!!

那緒美は座っていた机から飛び降り、デイパックを担ぐと、教室を飛び出した。
1段飛ばしで階段を上り、屋上に出た。
3階建てなので、そこまで高くはないが、景色はそれなりに良い。
下には、グラウンドが広がっている。

皆、本当は殺し合いなんかしたくないんだよね!?
そうでしょ!?
大丈夫、皆で集まればきっとどうにかなるから!!

那緒美はデイパックから、政府に支給された物を取り出した。
ハンドマイク、これが出てきた時にはどうしようかと思ったが、それなりに役に立ってくれそうだ。

脇に付いていた音量調整のねじを最大まで回し、大きく、息を吸った。

『皆ぁ!! 戦っちゃ駄目ー!!』

腹の底から声を出した。
恐らく、今まで生きてきた人生の中で、最も大きな声だ。

『皆、わかってるんでしょ!?
 殺し合いなんて、しちゃ駄目なのぉ!!
 誰も怖くないよ、皆、皆、友達じゃない!!』

皆、お願い、聞いて!

『あたし、真中那緒美は、絶対に戦わないよ!!
 皆も、武器を捨てて!!』

武器なんか、必要ない。
そんな物がなければ、誰も死なないで済む。

『皆で集まって考えれば、絶対どうにか、なるよ!!
 皆で、考えよう!?
 お願い、小学校まで、来て!!
 皆で、ここから出よう!?
 皆で――』

那緒美はふと下に目を向けた。
1人の少女が、笑顔を浮かべながら、手を振っていた。

やった…来てくれた!!
あなたなら絶対来てくれるって思ってた!!

那緒美は笑顔で手を振り返した。
しかし、その表情はすぐに豹変した。
驚愕の、表情に。

少女は、何かをこちらに向けていた。
それが銃だとわかるのに、時間は掛からなかった。

『お願い、そんなの下ろして!!
 怖くないよ、大丈夫だってばぁ!!
 お願い、やめて…やめて!! ひ――』

 

タァン

 

1発の銃声が響いた。

ハンドマイクが手から落ち、地面に落ちて壊れた。

那緒美の体がぐらっと揺らぎ、そのまま仰向けに倒れた。
その額には、ぽつんと1つ、穴が開いていた。

那緒美はデイパックから、政府に支給された物を取り出した。
ハンドマイク、これが出てきた時にはどうしようかと思ったが、それなりに役に立ってくれそうだ。

脇に付いていた音量調整のねじを最大まで回し、大きく、息を吸った。

『皆ぁ!! 戦っちゃ駄目ー!!』

腹の底から声を出した。
恐らく、今まで生きてきた人生の中で、最も大きな声だ。

『皆、わかってるんでしょ!?
 殺し合いなんて、しちゃ駄目なのぉ!!
 誰も怖くないよ、皆、皆、友達じゃない!!』

皆、お願い、聞いて!

『あたし、真中那緒美は、絶対に戦わないよ!!
 皆も、武器を捨てて!!』

武器なんか、必要ない。
そんな物がなければ、誰も死なないで済む。

『皆で集まって考えれば、絶対どうにか、なるよ!!
 皆で、考えよう!?
 お願い、小学校まで、来て!!
 皆で、ここから出よう!?
 皆で――』

那緒美はふと下に目を向けた。
1人の少女が、笑顔を浮かべながら、手を振っていた。

やった…来てくれた!!
あなたなら絶対来てくれるって思ってた!!

那緒美は笑顔で手を振り返した。
しかし、その表情はすぐに豹変した。
驚愕の、表情に。

少女は、何かをこちらに向けていた。
それが銃だとわかるのに、時間は掛からなかった。

『お願い、そんなの下ろして!!
 怖くないよ、大丈夫だってばぁ!!
 お願い、やめて…やめて!! ひ――』

 

タァン

 

1発の銃声が響いた。

ハンドマイクが手から落ち、地面に落ちて壊れた。

那緒美の体がぐらっと揺らぎ、そのまま仰向けに倒れた。
その額には、ぽつんと1つ、穴が開いていた。

曽根崎凪紗(女子10番)は小学校のある方角を呆然と見ていた。
設楽海斗(男子10番)も同じく。誰かが必死に停戦を訴えていた。それが、真中那緒美(女子16番)だと気付いたのは、彼女が自分の名前を口に出した時だった。那緒美なら大丈夫、嘘をついているとは思えない。そう思い、2人で小学校へ向かおうとした、その矢先だった。那緒美の様子が変わった。恐らく誰かを見つけたのだろう。武器を向けられたのだろうか、必死に訴えていた。そして――銃声が響いた。

がしゃんという音が僅かに聞こえた。那緒美の声は、もう、しなかった。

「那緒美…死ん…じゃった…?」

凪紗は錆びたブリキ人形のように、海斗の方を向いた。海斗はゆっくりと、ビデオをスロー再生させているかのように、首を縦に1度振った。

「だろうな…」
「あの言い方…相手は転校生じゃ…ないよねぇ…?」

那緒美は『怖くないよ、大丈夫』と言っていた。つまり、相手は怖がっていそうな――恐らく女子だろう。或いは、怖がりそうな(例えば羽山柾人(男子16番)のようなひ弱そうな)男子か。とにかく、転校生ではない事は確かだ。

「ヤバい…な」

海斗が呟いた。ギリッと歯を食いしばった。

「何で…?」
「真中の事で、やる気がなくても殺される可能性がある事がわかった」
「…怖がる人が増えて、プログラムに乗る人が増えるかもって事?」

海斗は頷いた。凪紗は拳で地面を殴りつけた。許せない。誰がやったのかはわからないが、絶対に許せない。

「ねぇ、海斗…たとえこの後怖がって乗る人が増えたとしても…那緒美のやった事は、間違いじゃないよね…?正しい事、やってたんだよね…?」

海斗は頷いた。

「真中は凄い。あんな事、よっぽど皆を信じていないとできないだろ」
「そうだよね!?」

凪紗は立ち上がった。那緒美、アンタ偉いよ…!後は任せて、絶対に皆を止めてあげるんだから!

「行こう!怖がってる子を安心させてあげなきゃ、それが役目だよね!」
「そうだな」

海斗もどっこらせ、と立ち上がり、荷物を肩に掛けた。とりあえず、探知機によるとこのエリアには今は誰もいない。他のエリアへ行こう。

絶対に、犠牲者を減らしてみせる――

「おい、まだかよーっ」

反政府組織、ADGI神奈川県支部の建物(表向きには大槻正樹(ADGI)の経営する小さな会社、ということになっている)の一室で、井上稔(ADGI)は不満そうな声を上げた。パソコンのディスプレイを見ると(もちろんハッキング中だ)、既にプログラムは始まっている。犠牲者は既に5人。少しでも犠牲者を減らすためには、早く行かなければならない。しかし、まだ出発していなかった。

「仕方ないわよ、武器もまだないんだもの…」

柳瀬伊織(ADGI)が手櫛で黒髪のショートカットを整えつつ言った。伊織の言うとおり、武器――主に銃器だ――はまだ手元にはない。本当なら既にあるはずだった。しかし、正樹が言うには、普段武器を手に入れるルートが警察に摘発されたため、他のルートを取ったらしい。連携がいまいち上手くいっていないため、まだ武器は届いていない。武器がなければ、どうすることもできない。そして、もう1つ理由がある。メンバーが揃っていない。今ここにいるのは、稔と伊織、高谷祐樹(ADGI)と園山シホ(ADGI)だけだ。大槻は武器の到着を待つために待ち合わせ場所に行っており、曽根崎匠(ADGI)は残りのメンバーのもとへ行っている。

トゥルルルルッ

『もしもプログラムに選ばれたらどうしますか?』

 

 


朝倉伸行(あさくら・のぶゆき/男子1番)
「あー…うわーってなっちゃったりするんじゃないの?委員長は?」

 

宇津晴明(うづ・はるあき/男子2番)

「俺は絶対に殺さない、それだけはわかるよ。江原…お前は?」

 

江原清二(えばら・せいじ/男子3番)

「知らねぇよ、そんなこと。遠藤は…優勝できねぇだろ?」

 

遠藤圭一(えんどう・けいいち/男子4番)

「うん…死んじゃうな…1人しか残れないんでしょ?無理だよ…そんなの。笠原君は?」

笠原飛夕(かさはら・ひゆう/男子5番)

「どうだろうな、でも、[ピーーー]とか…無理だろ。 陸は?」

陸社(くが・やしろ/男子6番)

「わからない、その時の状況によるだろうな。 お前はどうだ、楠本」

楠本章宏(くすもと・あきひろ/男子7番)

「俺、優勝するぜ、死にたくねーもん! でも新藤は違うんだろ?」

新藤鷹臣(しんどう・たかおみ/男子8番)

「絶対戦わない…とか言っていられないのかな、実際は。 義弘は?」

宝田義弘(たからだ・よしひろ/男子9番)

「みんなで脱出とか出来ない? 昔香川でいたろ、脱出した人。 和は?」

土谷和(つちや・かず/男子10番)

「超人にでもなって会場壊すよ! ドッカーンってね! 航は?」

都竹航(つづき・わたる/男子11番)

「わからない…西野は嫌か?」

西野葵(にしの・あおい/男子12番)

「嫌だよ、それ以前に何で僕が死なないといけないわけ?ねぇ、土方ぁ?」

土方涼太(ひじかた・りょうた/男子13番)

「知らねぇよ、とにかく俺は絶対逃げ出してやる! そん時は翼も一緒だ!」

日向翼(ひゅうが・つばさ/男子14番)

「ありがとな! でも嫌だな、本当にそんなことになったらさ…なぁ、福屋」

福屋和行(ふくや・かずゆき/男子15番)

「まぁな、でも選ばれたら宝田に勝つ! 蓮はどうだ?」

水城蓮(みずき・れん/男子16番)

「僕は…凛ちゃんと家に帰りたいな…水原君はどうしたい?」

水原翔(みずはら・しょう/男子17番)

「政府のやつらにキレるな、どうしてこんな目に…ってな。 実月裕太は?」

段々と寒くなってきた12月半ば、茨城県北浦市立桜崎中学校の校門前に黒いセダンが止まった。
中からスーツに桃印の記章を付けた政府の役人が3人出てきた。
その3人は校長室に入っていった。
校長室には校長・教頭・そして30代の男性がいた。
3人の男は会釈をし、書類を校長の机に置いた。
「厳正なる抽選の結果、こちらの3年1組がプログラム対象クラスに選ばれた」

校長は頷いた。
とても悲しそうに。

「はい…連絡を受けております。
 こちらは3年1組の担任です」

校長に紹介され、30代の男――東田晴樹(ひだしだ・はるき)は会釈した。
黒渕の眼鏡がよく似合う、数学教師だ。

「僕の担任しているクラスが選ばれるなんて…」

「厳正なる抽選の結果だ。
 抵抗するなら始末してもいいんだぞ」

「い、いや…そんなつもりは…」

「ならいい」

そう言うと、役人の1人が別の書類を差し出した。

「実は、今回もいつもの六十八番プログラムをする予定だったんだが…
 会議の結果、七十番プログラムを施行することになった」

「な…七十…?
 何ですか、それ…」

「今年施行される、通称“ペアバトル”だ。
 優勝者は2名になる。
 少子化になっていることを考慮して決められたルールだ」

「はぁ…」

役人の話を、校長たちは不安そうに聞いていた。
優勝者が増えたとはいえ、38人は確実に死んでしまうのだ。

「そこでだ、とりあえず3年1組の名簿と、その担任を借りたいのだが…」

東田は目を見開いた。

「ぼ、僕が…何ででしょう…?」

「生徒の詳しい情報について聞いておきたいと上が言っている。反抗すれば容赦はしない」
「は…はぁ……」

3人の役人と東田は学校を後にした。
校長・教頭はその様子を見ていることしかできなかった。セダンに乗り込んだあと、東田は考えた。どうしてこのクラスなんだろう…みんないい子たちなのに…まあ、少し悪い子もいたけど、根はいい子だと信じている…

僕がみんなにできる事、それは…

「あ、あの…」

東田が口を開くと、横に座っていた役人が「何だ?」と睨みつけた。

「あの、あの子たちのプログラムの担任…僕にやらせていただけないでしょうか!?」

「は?」

役人たちは一斉に東田を見た。

「何を言っている?」
「あの子たちを最後まで見守ることが…
 担任としての僕の役目だと思うんです」

助手席に座っていた役人が、携帯電話を取り出した。

「お前の意見は、オレは正しいと思う。
 上部に聞いてやろう」

そういうと、その電話で話を始めた。
時々「はぁ」、「そうです」、「わかってます」などと言っていたが、10分ほどして電話を切った。

茨城県の北浦市営地下鉄の桜崎駅を降りて徒歩5分、そこに茨城県北浦市立桜崎中学校はある。
築20年にしてはそこそこきれいな校舎。
グランドはここら一帯の中学校の中では最も広い。
在校生は約600人、決して少なくないが多くもない。
2学期の終業式も終わり、普通なら受験前の最期の追い込みの時期でもあり、クリスマスやお正月といったイベントのある楽しい冬休み、のはずだった。
しかし、ここ3年1組は全員教室にいた。
担任の東田晴樹(ひがしだ・はるき)の担当、数学の授業がある。
どうやら授業が遅れているらしい。

「めんどくせーなぁ…数学なんて」

「そっかぁ? 俺は数学は好きだぞ」

水原翔(茨城県北浦市立桜崎中学校3年1組男子17番)が数学の教科書をパラパラとめくっている横で、土方涼太(男子13番)は私立の数学の入試問題を解いていた。
涼太とは元同じサッカー部員で、最も気の合う親友だ。

「けっ! テメェと違ってな、俺は数学はできねぇんだよっ!」

「何言ってんだ、お前は体育以外できないじゃん!」

翔が上を向くと、おそらくクラス1のお調子者の土谷和(男子10番)が悪戯っぽくケケッと笑っていた。

「うるっせぇ!
 いいんだよ、俺、公立行かねぇもん!」

「あぁ、そりゃ高校から願い下げだろ?」

「ほっとけ!!」

ふう、と翔は息を吐いた。
同時に、翔の後ろで結んでいる髪が突然解かれた。

「ダメだぞ?
 そんな口の悪さじゃ私立高校からも願い下げがくるぞ、翔チャン?」

「黙ってたらすっごいかわいいんだけどなぁ…」

テメェ、と叫びながら後ろを見ると、宝田義弘(男子9番)と日向翼(男子14番)が笑っていた。
翼の言うとおり、翔は黙っていれば女に間違えられるほど可愛らしい。
正確には『小生意気で可愛らしい』少女に間違えられる。

「いちいち解くな!
 ゴム返せ、ちくしょう!」

義弘から取り上げたゴムで再び肩まで伸びた髪を結んだ。

ちっくしょう!
そろいもそろってバカにしやがって!

 

「あ、そうだ、凛!
 昨日ウチに消しゴム忘れただろ?」

突然前にいた涼太が叫んだ。
前の席で友達と喋っていた水城凛(女子13番)がパタパタと翔たちのいる後ろの方に走ってきた。
身なりは左の薬指の指輪に金色のコインのネックレス、短くしたスカートと派手だし、元・不良ということも手伝って、翔から見れば少し怖い女子だ。
しかし、そんな怖い女子と涼太は付き合っている。
かく言う翔も、休み時間には一緒に遊ぶこともあるが。

「ほれ、間違えて少し使っちまったけど…」

「あ? ああ、いいよ別に。
 たかが消しゴムだろ?
 わたし、そんな消しゴム貸すの拒否するほどケチじゃないよ」

凛はにかっと笑うとまたパタパタと戻っていった。

「なぁ…涼太さ、凛サンのこと怖くないのか?」

翔が尋ねると、涼太はいつも笑う。

「外見は派手だけどね、弟思いの優しい子だぞ」なんだそうだ。
実際、一緒に遊んでみると、全然怖くないが、それはあくまでも遊んでいる時の話だ。

「おい、涼太…また蓮が睨んでるぞ?」

義弘が苦笑いをしながら言った。凛の弟である水城蓮(男子16番)はかなりのシスコンだ。凛に近づく男には特に敵意を払っている。可愛らしい顔(翔とは違ってか弱い女子みたいな感じだ)をしているが、睨まれると本当に怖い。涼太も蓮は苦手らしい(本人曰く「噛みつかれそう」、さすが凛サンの番犬!)。しかし蓮は凛に近づく女子には敵意は払っていない。現に凛と一緒にいる睦月麻(女子14番)や依羅ゆた(女子18番)とは普通に喋っている。

双子で同じクラスになっているのは、蓮は体が弱いからだ。
もしもの時に、傍に姉がいた方が安心できるということで許可されたらしい。

怖いといえば、うちのクラスの不良たちもかなり怖い。
凛が抜けて6人になったが、それでもやはり怖いものは怖い。
翔は不良グループがたまっている廊下側の後ろの席を見た。
只の数学の授業だというのに、全員学校に来ている。
明日は大雪警報だな、或いは地球滅亡かも?

中心に座っているのが彼らのリーダー、江原清二(男子3番)だ。
ケンカは強いわ、イジメはするわ、授業はサボるわで教師たちも手におえない。

清二の横の席の机に腰掛けているのは副リーダー的存在の今村草子(女子4番)。
派手な装飾品に身を包み、常にポケットにはナイフを入れているらしい。
銃刀法違反じゃないのか?

清二の前に立っている見るからに不良のあまり顔はよろしくない(おっと失礼、でも思うのは勝手だろ?)少年は楠本章宏(男子7番)。
その横にいる口の左下のほくろが特徴の黒髪の少女は平馬美和子(女子11番)。
この2人は清二たちには劣るがケンカは強い。
あの2人とトラブルをおこした生徒は、次の日は必ず生傷をこさえてくる。
近づく何とかに祟りなし、とはよく言ったものだ。

草子の横にいるウェーブのかかった茶髪の少女は高原椎音(女子8番)。
その横にいる無表情で黒髪で前髪の長い少年は都竹航(男子11番)。
この2人はかなり美男美女だし、ケンカをするわけでもないのでまだマシだ。
しかし、噂では盗みのプロらしい。
特に航は喜怒哀楽を見たことがないので、得体の知れない感じが怖い。

というわけで、このグループには誰も近寄らない。

近寄りづらい人物はまだいる。
真ん中の列の1番後ろに座っている金坂葵(女子5番)だ。
無口で何を考えているかよくわからない。
親しい生徒がいないのか、1人でいる事が多い。
グループ行動をしないといけない時は凛・麻・ゆたと一緒にいるが。

翔はあたりを見回すのをやめ、数学の教科書に視線を戻した。
空間図形とかいう、3次元で考えないといけないややこしい分野だ。
考えるだけで頭がクラクラしてくる。

それにしても、東田遅いな…

時計を見ると、午前9時。
開始予定時刻から10分ほど過ぎていた。

 

バタンッ

 

突然何かが倒れる音がした。
翔が見ると、前でお嬢様の鈴原架乃(女子7番)や、大人しいメガネっ娘の鳥江葉月(女子9番)が倒れていた。
周りにいる女子も床に座り込んだり、机に突っ伏していた。
教室を見回すと、前の方にいる生徒全員が眠っていた。

どうなってるんだ!?

「ふあぁ…眠…っ」

横にいた和や義弘、翼も床に座り込んでしまった。
翔もだんだん頭が重くなってきた。

ちくしょう…眠い……

「り…涼太……これは……?」

涼太を見ると、涼太は皮肉っぽく笑っていた。

「来やがった……
 まさか今日とはな……
 翔、覚悟しとけ……
 これは……プログラム……」

そこまで言って、涼太も机に身を任せ眠ってしまった。

「プ…プログラム……?」

プログラムってアレか…?
クラスで殺しあう…
何で俺たちが…?
それ以前に何で涼太が知ってるんだ…?

翔の眠気もピークに来ていた。
これ以上何も考える事が出来なかった。
そのまま深い眠りに落ちた。

 

クラス全員が眠った頃、教室にマスクをした担任の東田が入ってきた。
後ろには数十人の軍人がいた。

「…運んでください」

東田の合図で軍人たちは生徒たちと彼らの荷物を運び出した。

「みんな…ごめんな……」

目から涙が落ちたが、軍人たちは誰も気付かなかった。

眠い…あれ、俺…寝てたのか…?机の感触…何で…?あ、そっか…今日は数学の補習授業で…そうだ、起きないと…センセに怒られちまうぞ…むくっと起き上がった藁路文雄(男子22番)は周りを見回した。周りにいる全員が寝ている。前の席の土谷和(男子10番)も、横の席の陸社(男子6番)も、宇津晴明(男子2番)も。あら…?授業はどうしたんだ?

文雄は自分の短い黒髪が生えた頭を掻いた。
何がどうなっているのかがわからない。

ふと違和感を感じた。
首に何かが巻き付いている。
触ると冷たい金属の感触がした。

なんだこれ…俺にこんな趣味ねぇぞ?

取ろうと思ったが、どうすればいいのかわからない。引っ張ろうと手に力を入れかけた。これでも空手は全国3位の実力だ。力なら自信がある。

「ワラ、やめとけ」

文雄は首輪から手を放し、声のした方を見た。窓側(いつもの教室なら)の1番後ろの席に座っている土方涼太(男子13番)が文雄の方を見ていた。涼太かっこいいからな、照れるぜ…なんていってる場合じゃないな。

「涼太、何なんだこの首輪…」

訊くと、涼太は困った顔をしたが、言った。

「どうせ後から知ることだもんな。これは…プログラムだ」

プ…プログラム!?それってあの運動会のプログラムとかじゃなく!?あの中3のヤツが年50クラス選ばれて殺し合いするアレか!?

「何を冗談…」
「冗談じゃないぜ、この首輪が証拠だよ。これ、引っ張ると…ボンッ!なんだってよ」

文雄の背筋に悪寒が走った。何で涼太がそんなことを知っているのかはわからない。だけど、とりあえず命を救われた…みたいだ。

「マジで?マジで…プログラムかよ?」

涼太の前の席、可愛らしい顔した(オレのタイプかも?)水原翔(男子17番)が起きた。

「マジだ、俺の知り合いが教えてくれたんだ…」

涼太の言葉で翔が涼太の胸倉を掴んだ。

「知ってたのか!?知ってて何で教えてくれなかった!?みんなで逃げられたかも知れないじゃんか!!」

翔の怒鳴り声で周りのヤツらも起きだした。

「逃げられないよ…逃げたら…きっと殺される、政府のヤツらに…政府の連中は俺たちの命なんかカスみたいなモンとか思ってるんだ」
「……ックソ…っ!」

翔は手を放した。ゴメン、と呟いていた。

「プログラムに選ばれたって…今そんな事言ってたよね?」

女子委員長の藤村優(女子10番)が前の席の赤木明子(女子2番)に話し掛けたのをきっかけとして、皆が騒ぎ出した。その騒ぎでクラス全員が目を覚ましたようだ。

「嫌だ…嫌だあぁぁぁ!!何で僕がこんな目にあわないといけないんだぁ!?」

1番取り乱していたのはこちらも翔に負けず劣らず可愛らしい西野葵(男子12番)。まあ、普段から自分に都合が悪くなったりするといつもああなるから仕方ないか。

「プログラムって…アレだよね?」
「うん、あの最後の1人になるまで殺し合うっていう…」

文雄より後ろの席では鳥江葉月(女子9番)と朝霧楓(女子3番)が会話をしている。

「そんなぁ…金坂さんもそう思う?」
「…まあね、そうなんじゃないの?」

葉月の前の席、結木紗奈(女子15番)は、文雄の斜め後ろの金坂葵(女子5番)に声をかけている。そう言えば、金坂の声ってめったに聞かないな。友達いないらしいからな。女子って心配事とかあると、仲良くないヤツにも話し掛けたりするもんなんだな。

「嫌です、どうしてそんな…!嘘ですよね!?」

クラス1育ちの良いお嬢様、鈴原架乃(女子7番)が前方で叫んでいる。

「もしかして、この変な首輪みたいなの…これが証拠なのか!?」
「やだ、あたしこんな所で死にたくなんかないわよ!香枝、どうしよう!?」

男らしくクラス1背の高い女子睦月麻(女子14番)と、いつも明るい湯中天利(女子17番)も一緒にパニックになっている。

「そんなのあたしに言われたって…」

元文化委員長、相原香枝(女子1番)は困り果てていた。

男子22番・藁路文雄(わらじ・ふみお)

空手部。実力は全国3位。快活・豪胆で正義感が強い。
政府に両親を殺され、養護施設に住んでいる。
森川達志(男子20番)とは幼馴染。


ペア:森川達志(男子20番)
支給武器:イングラムM11
kill:なし
killed:金坂葵(女子5番)
凶器:文化包丁
 

D=07エリアで達志と共に陸社(男子6番)・依羅ゆた(女子18番)に会うが別れる。脱出を計画している。
D=10エリアで土谷和(男子10番)・朝霧楓(女子3番)ペアと合流。
楓と材料探しへ。楓に過去を打ち明ける。
D=08エリアで水原翔(男子17番)を救出。
禁止エリア指定のため、移動開始。
達志を笠原飛夕(男子5番)に殺されたこと、飛夕がやる気だったこと、和が飛夕を殺したと勘違いしたこと、葵に襲われたことにより逆上。葵に襲い掛かるが、腹を包丁で刺され、失血死。

 

快活・豪胆・・・おっかしいなぁ、微妙だった(泣
好きだったんですけどね、彼。落ち着いてさえいれば、まだ生きていたはずです。
因みに、別に朝霧サンには惚れてません。ただ、「ちょっと良い子だな」程度で。
朝霧サンにアタックっぽいことをしてたのは、おちゃらけです。

男子20番・森川達志(もりかわ・たつし)

部活は無所属。超小柄で大人しく優しい性格。
趣味は小説を書くこと、将来の夢は小説家。
藁路文雄(男子22番)とは幼馴染。


ペア:藁路文雄(男子22番)
支給武器:ガソリン1リットル
kill:なし
killed:笠原飛夕(男子5番)
凶器:Vz61スコーピオン
 

D=07エリアで文雄と共に陸社(男子6番)・依羅ゆた(女子18番)に会うが別れる。
D=10エリアで土谷和(男子10番)・朝霧楓(女子3番)ペアと合流。
C=09エリアで鳥江葉月(女子9番)を救う。
禁止エリア指定のため、移動開始。移動途中で飛夕に襲われ、失血死。

 

脱出作戦グループの初の死者です。。
立ち位置が悪かった、要は運がなかったと(をい
長身の飛夕君にしがみつくクラス1の低身長のタツ君を想像してかわいいかも、と思ったのは私だけですか。

男子18番・実月裕太(みづき・ゆうた)

科学部。ガリ勉で友達が少ない。
相原香枝(女子1番)とは幼馴染。
科学で証明できないことは間違っていると考えている。


ペア:相原香枝(女子1番)
支給武器:スタンガン
kill:なし
killed:相原香枝(女子1番)
凶器:釣り糸
 

E=07エリアで香枝と潜伏していたが、自分の無愛想さに香枝が激怒。本人はそのつもりはなかったが、香枝は自分が殺されると考える。逃げ出した香枝を必死に追うが、いつの間にか後ろに回りこまれ絞殺される。

決して悪い子ではないです。
ただ、普段から人付き合いが少なかったせいか、無愛想だっただけです。
きっと逃げ出す方法とかを考えていたんじゃないでしょうか・・・?
哀れな子です・・・
 (by あいすくろー様)

男子15番・福屋和行(ふくや・かずゆき)

バスケットボール部。常に控え。
頭は中の下、何事も中途半端。
宝田義弘(男子9番)にコンプレックスを持っている。


ペア:宝田義弘(男子9番)
支給武器:サバイバルナイフ
kill:宝田義弘(男子9番)
killed:江原清二(男子3番)
凶器:ミニウージー
 

義弘と別れたが、義弘に勝つために殺そうと考える。非常食・文化包丁入手。
C=06エリアで義弘と再会。油断させた隙に腹・腕・首を刺して殺害。喜んだのもつかの間、義弘に痺れ薬を撃たれた傷が原因で、動けなくなる。そこに清二が来、ゲームに破れ全身を撃たれ死亡。

常に劣等感を感じていた彼、結構好きでした。
もっと別の方法で勝てればよかったんですけどね・・・
そういえば、平馬ちゃんと髪型かぶってしまいました(汗
 (by kai様)

男子1番 朝倉伸行
(あさくら・のぶゆき) 女子1番 相原香枝
(あいはら・かえ)
男子2番 宇津晴明
(うづ・はるあき) 女子2番 赤木明子
(あかぎ・めいこ)
男子3番 江原清二
(えばら・せいじ) 女子3番 朝霧楓
(あさぎり・かえで)
男子4番 遠藤圭一
(えんどう・けいいち) 女子4番 今村草子
(いまむら・そうこ)
男子5番 笠原飛夕
(かさはら・ひゆう) 女子5番 金坂葵
(かねさか・あおい)
男子6番 陸社
(くが・やしろ) 女子6番 小泉洋子
(こいずみ・ようこ)
男子7番 楠本章宏
(くすもと・あきひろ) 女子7番 鈴原架乃
(すずはら・かの)
男子8番 新藤鷹臣
(しんどう・たかおみ) 女子8番 高原椎音
(たかはら・しいね)
男子9番 宝田義弘
(たからだ・よしひろ) 女子9番 鳥江葉月
(とりえ・はづき)
男子10番 土谷和
(つちや・かず) 女子10番 藤村優
(ふじむら・ゆう)
男子11番 都竹航
(つづき・わたる) 女子11番 平馬美和子
(へいま・みわこ)
男子12番 西野葵
(にしの・あおい) 女子12番 牧山久美
(まきやま・くみ)
男子13番 土方涼太
(ひじかた・りょうた) 女子13番 水城凛
(みずき・りん)
男子14番 日向翼
(ひゅうが・つばさ) 女子14番 睦月麻
(むつき・あさ)
男子15番 福屋和行
(ふくや・かずゆき) 女子15番 結木紗奈
(ゆいき・さな)
男子16番 水城蓮
(みずき・れん) 女子16番 雪倉早苗
(ゆきくら・さなえ)
男子17番 水原翔
(みずはら・しょう) 女子17番 湯中天利
(ゆなか・あまり)
男子18番 実月裕太
(みづき・ゆうた) 女子18番 依羅ゆた
(よさみ・ゆた)
男子19番 宮脇一希
(みやわき・かずき)
男子20番 森川達志
(もりかわ・たつし)
男子21番 矢口宗樹
(やぐち・しゅうき)
男子22番 藁路文雄
(わらじ・ふみお)

2番目に出発したのは、朝倉伸行(男子1番)と牧山久美(女子12番)。
伸行と久美に接点があったかというと、全くない。
伸行はカードゲームでずっと他のクラスの友達と遊んでいたし、彼女もいない。
関係無いが、身長は160cmに満たない、男子にしては小柄だった。

一方久美は上の方で2つに分けて結んだ髪がとても可愛らしい小柄な女の子で、確か2組に付き合ってる男子がいる、と聞いたことがある。
伸行はその男子とは1年で同じクラスになったが、運動神経抜群で、いかにも人気があります、という感じだった。
しかも、久美の父親は県長(と言っても、名前だけの職業だったが)の娘、すなわちお嬢様だ。

はっきり言って、何でペアになったのかわからない。
久美なら、同じお嬢様の鈴原架乃(女子7番)や、いつも一緒にいる藤村優(女子10番)やその友達など、一緒に組める人間はいっぱいいるはずだ。
確か、ここに連れて来られる前はやたら騒がしい赤木明子(女子2番)や、負けず嫌いで有名な同じバドミントン部の湯中天利(女子17番)などと一緒に騒いでいた。
何で彼女らとではないのだろうか。

伸行はそんなにクラスで親しくしている友達はいないので、同じように孤立してる生徒と一緒になってもおかしくないはずだ。
いじめられっ子の遠藤圭一(男子4番)や、中性的な顔の西野葵(男子12番)や、現実主義者の実月裕太(男子18番)など。

しかし、圭一のネガティブな思想は、一緒にいると苛立たしい。
楠本章宏(男子7番)や平馬美和子(女子11番)が苛める気持ちもわからなくはない。
葵は有事の時にパニックになるのをよく見かけた。
あれはとても手に負えないが、葵は笠原飛夕(男子5番)と仲が良いらしいので、飛夕とペアになるのかもしれない。
真面目な裕太ちは気が合いそうにない。
そう考えると、久美と出られたのはマシなのかもしれない。

何より、バスケットボール部の人間と一緒の出発でなくて良かった。
バスケットボール部には、中学に入学して、バスケットボールってかっこいいかな、という軽い気持ちで入部したが、最悪だった。
何といっても練習がキツい。
合宿で燃えるほどバスケットボールには人生を賭けていないし、放課後の練習の終了時間の遅さにもうんざりした。

そのようなことを言っていると、今度は部の連中が嫌がらせをしてきた。
バッシュにマヨネーズを入れてみたり、ロッカーを荒らされたり、ボール磨きをやらされたり、挙げればきりがない。
明らかに『早く辞めろ』と言われてるみたいで気に食わなかった。
バスケ部員で人の良さそうだった、宇津晴明(男子2番)や新藤鷹臣(男子8番)や宝田義弘(男子9番)にそのことを打ち明けたが、苦笑いしていた。
だから、辞めてやった、望みどおりに。

辞めてからマネージャーだった結木紗奈(女子15番)が謝りに来た。
可愛い顔をして、紗奈も共犯だったということだ。
謝りに来るだけ、他よりはマシかもしれないが。

まあ、昔の事はどうでもいい。
はっきり言って、プログラムとは驚いた。
しかも東田晴樹(担任)が試合進行役。
東田も最悪の教師だったというわけか。

伸行と久美は外に出た。
4時過ぎだが12月なので、日が傾きかけている。
目の前には親切に標識が立っている。
このまままっすぐ歩くと道路にでるようだ。

そうだ、支給武器とかいうのが入ってるんだっけ?
あ、牧山が歩いて行っちまう!

「牧山! ちょっと待てよ、武器の確認しとこうぜ」

久美が立ち止まってそこにしゃがんだ。

俺とのこの距離は何?
あ、そうですか、俺は信用できないわけね。

伸行はデイパックのジッパーを開けた。
色々と入っている。
その奥底に、小さいケースが入っていた。
蓋を開けると、針と小さな鋏と糸。

「マジかよ…っ」

伸行は愕然とした。
なにしろ唯一の武器が裁縫セット。
傷の縫合くらいなら出来るだろうが、戦闘になれば役には立たない。

しかし、相方の武器によっては戦いようもある。
気を取り直し、久美を見た。

「牧山、お前何が入ってた?」

久美はゆっくりと顔を上げた。
その目が、少しおかしいと思った。
どこか虚ろで、伸行を見ているようで見ていない。
その手には、弓に拳銃をくっつけた物があった。

「それって…ボウガンってヤツか?」

「…うん」

久美はそのボウガンをゆっくり上げた。
説明書を取り出し、それを音読し始めた。

「…矢を装着…こうかな……?
 あとは狙いを定めて引き金を引く…」

おいおい、こっちに向けるなって!
当たったら死んじゃうじゃないかよっ!

「威力はすごいけど、急所を外すと死にません…」

あ、そうなの、死なないの…ってそういう問題じゃないだろ!?

「しっかり狙いを定めて、両足を踏ん張って撃ちましょう…」

そこまで言って、久美は立ち上がった。
相変わらずボウガンは伸行の方を向いている。

伸行はあまり勘が鋭い方ではない。
だが、この状況はどんな馬鹿でも理解できるだろう。
自分は狙われている、ということが。

「ちくしょう、何なんだ!?」

伸行は叫んで立ち上がると、一目散に逃げ出した。
荷物なんていらない、命の方が大事だ。

しかし、伸行は突然自分の脚に激痛が走って倒れた。脚を見ると、久美の撃ったボウガンの矢が、伸行の右太腿に刺さっていた。

「ぅぐ…っ!」

伸行はその矢を引き抜いた。肉が裂け、血が噴き出した。その矢を捨てて、上を見上げると、そこには既に久美が立っていた。

「俺が何したってんだよぉ!!俺、別にお前を殺そうとかしてないじゃねぇか!!」
「…あたし帰るの。こんな所でなんか死にたくない…!」

久美がもう1回引き金を引いた。
その顔は、とても恐ろしかった。
さっきの虚ろな目から一変、目が血走っていて、いつもの可愛らしい久美はとても思い出せない。

それが伸行の見た最後の久美の姿。
ボウガンの矢が撃たれた音が最後に聞いた音。
頭に衝撃を受けたが、それも一瞬の出来事。

こうして、伸行は死んだ。

 

 

久美は目の前で倒れた伸行を見下ろした。
急所と言われても、どこのことかわからなかった。
なので、頭なら死ぬかな、そう思って撃った。

だって久美、朝倉くんと行動なんてできないもの!
久美のパートナーはあなたじゃないのよ!

「ミツくん…待ってて…
 久美、絶対あなたの所に帰るから…
 久美のパートナーはあなただけだからね…」

ミツくん――八杉満(3年2組)は久美の彼氏だ。
自分のパートナーは満でないといけない、そう思った。

あなたのためなら、久美は殺人鬼にだってなってやるのよ!
何人殺してでもあなたの所へ帰るのよ!!

「あはは…あはははは!
 みんな[ピーーー]…殺し合いをするの!!
 あははははは!!」

久美は伸行の頭から矢を抜き取り、地面に落ちた矢も拾ってケースに戻した。
伸行の頭に開いた穴からは、血と不気味な灰色の液体がどろどろと流れてた。

気持ち悪いけど、みんなこうならないと、久美がこうなっちゃう!

地図を見て、1人は行きそうな住宅地に行く事にした。

久美はもういつもの優しい久美じゃないのっ!
久美はミツくんのためなら悪魔にだってなってやるんだから…っ!

女子12番・牧山久美(まきやま・くみ)

バドミントン部。県長の娘。
優しい性格・可愛らしい容姿から人気がある。少し臆病。
他クラスに彼氏(八杉満)がいる。


ペア:朝倉伸行(男子1番)
支給武器:ボウガン
kill:朝倉伸行(男子1番)
小泉洋子(女子6番)
宮脇一希(男子19番)
killed:江原清二(男子3番)
凶器:ミニウージー
 

満のもとへ帰るためにやる気になる。
出発直後、伸行を殺害。
C=06エリアで一希と洋子を発見。殺害。手榴弾入手。本人は自覚していないが、狂いかけている。
D=07エリアで清二と会う。清二を殺そうとするが、清二に圧倒され、頭部に被弾し死亡。

 

彼氏のためにやる気になってみました。
狂いかけの状態じゃなく、完全に狂っていれば、江原君相手でも勢いでどうにかなったかもしれないし、ならなかったかもしれないし。
 (by 船木崇史様)

茨城県沖大宮島には、山が2つある。
正式名称を知る島民が少ないので、西にある山は“西の山”、東にある山は“東の山”として慕われている。
西の山は既に禁止エリアに指定されているが、東の山は違う。
その東の山の中腹辺りに1人の少女がいた。
高い所で2つに結んだ綺麗な黒髪と大きな目と優しい性格から、特に男子からの人気が高いその少女の名は、牧山久美(女子12番)。

しかし、今の久美からはそんなことは想像できないだろう。
髪は既にぼさぼさになり、大きな目は真っ赤に充血している。
右手には血で汚れた矢を装着したボウガンを携えている。

この今の様子を見て、声を掛ける男子がいるだろうか?

 

久美は優勝する気だ。
彼氏――八杉満のところへ帰るために。

 

満は、人気の高い男子だ。
サッカー部のFWで、プロ並のプレーをすることから、サッカーの強い私立高校から声を掛けられているらしい。

そんな満と初めて会ったのは、3年になったばかりの頃、満が教室へ来たからだ。

「おーい、翔、辞書貸せ辞書!」

そう言って教室に入ってきた。
翔――水原翔(男子17番)とはサッカー部ではFW同士、ライバルであり親友らしい。

「辞書ぉ? …あぁーっ!! ない! 忘れた!」

「マジ?使えねーヤツだな。 涼太は?」

「使えなくて悪かったな、コラ。 涼太は休みだよっ!」

満は困り果てていた。
久美のクラスもだが、英語の先生は怖い。
辞書を持ってこないと、先生の辞書で頭を殴られる。

「あ、あの…あ、あたしのでよければ…使う?」

翔の横の席にいた久美は、満にすっと辞書を差し出した。
不思議そうに見ていた満は、すぐににぱっと笑顔を浮かべた。

「マジでマジで!?
 サンキュー!
 えっと…牧山サン…だっけ?」

「え…何で名前…」

「俺のダチに人気だぜ、アンタ。
 へぇ…ダチの隠し撮りは見たけど…実物の方がいいじゃん!
 可愛いし優しいし… 翔、牧山サンを見習え!」

「どういう意味だッ!!」

そこでチャイムが鳴り、満は慌てて出て行った。

本気だったのか冗談だったのか、とにかく嬉しかった。
とてもかっこいい人に、可愛い、と言ってもらえた。

久美が恋に落ちた瞬間だった。

この後、満が教室に来る度に会話を交わすようになった。
満はとても面白い人だった。
不思議と会話が弾んだ。

そして、満の方から告白された。
今でもその時の言葉は覚えている。

「あのさ、俺、牧山サンのこと好きっぽい」

あの時、絶対久美の顔は真っ赤になっていたはずだ。
当然「久美も」と返事をし、2人は付き合い始めた。

 

ミツくん…久美、絶対に家に帰るからね…
そしたら、またデートしようね。
今やってる映画、見たいって言ってたでしょ?
久美、割引チケットもらったんだ。
一緒に行こうね…

帰るためなら、友達だって[ピーーー]と決めた。
といっても、仲の良かった女子で残っているのは朝霧楓(女子3番)だけだが。
クラスメイトに嫌われようが関係ない、どうせ皆死んでしまうのだから。

久美は顔を上げた。
気配を感じた、とかそういうわけではない。
ただ、何となく嫌な予感がした。
女の勘というやつか。
とにかく、視線を左に向けた。

目が合った。

久美は咄嗟に木の陰に隠れた。
同時に、銃声が連続して響き、木のくずが舞った。

どうして…何でこんな所にいるの!?
こんな広い島じゃない、こんな所に来ないでもいいじゃない!!

正気をほぼ失っている久美だったが、とてつもない恐怖が襲った。
彼への恐怖が、少しだけ正気を蘇らせたのかもしれない。

江原清二(男子3番)がいた。
清二が撃ってきた。
恐らくマシンガンか何かだろう。

久美はボウガンを握り締めた。
怖い、しかし殺らなければ殺られてしまう。
しかも、相手はあの江原清二だ。
学校――いや、近郊では最強とも言われているらしい、あの江原清二だ。

怖いけど…やってやる!
ミツくん…久美、頑張るから…!

久美はボウガンの引き金に指を掛け、飛び出した。
清二の姿を確認すると、引き金を引いた。
びゅっと矢が飛んだが、清二には当たらなかった。

「久美、頑張る…絶対負けない…」

何度も自分に言い聞かせた。

大丈夫、相手は不良だけど、久美だって3人殺してる。
不良が何よ、所詮みんな人間じゃない、中学3年生じゃない!

清二が再びマシンガン(ミニウージー)の引き金を引いた。
弾が久美の右手に当たり、ボウガンと共に久美の右手人差し指を弾き飛ばした。

「きゃあああ!! 痛い…痛いぃぃぃぃ!!」

久美は右手を抑え、悲鳴を上げながらその場に蹲った。

何してくれるのよ!? 痛いじゃない!!
あの不良…許さない…殺してやる!!

しかし、10mほど先に飛ばされたボウガンは、原型を留めていなかった。
ここまで3人を殺してきた武器が、壊れた。

「いやああああああああ!!」

久美は泣き叫んだ。
武器が壊れた。
勝てる希望が無くなった。

「うるせぇんだよ」

清二の低い声が聞こえ、顔の左側に蹴りが飛んだ。
久美は右側に倒れたが、すぐに起き上がった。
清二の顔を見上げて――背筋が凍った。
これが最強と謳われる男の顔なのか。
表情の無いその顔を見ただけで、死を予感させる。

久美は震える声を振り絞った。

「久美…死なないもん…か…帰るんだもん…く――」

「黙れ」

今度は顔の真正面から蹴られ、久美は仰向けに倒れた。
その腹を清二は思いっきり踏みつけ、久美は咳き込んだ。

ミニウージーの銃口を久美の顔に向けた。

「[ピーーー]や、オジョーサマ」

――ミツくん…!!

銃声が鳴り響き、久美の顔は弾け飛んだ。
綺麗だった黒髪は血に浸り、可愛らしかった顔も原型を留めていなかった。

清二は靴に飛んだ久美の血や脳漿を軽く払い、久美のデイパックから手榴弾(これは宮脇一希(男子19番)の物だった)だけを取ると、自分のデイパックに入れ、山を降り始めた。

清二が偶然久美を見つけ、尾行していたことなど、久美は知る由も無い。

男子3番・江原清二(えばら・せいじ)

部活は無所属。不良グループリーダー。
ケンカが強く、運動神経は抜群。学力は人並。
今村草子(女子4番)とは小学生の頃からの仲。


ペア:今村草子(女子4番)
支給武器:ジェリコ941
kill:遠藤圭一(男子4番)
福屋和行(男子15番)
宇津晴明(男子2番)
結木紗奈(女子15番)
今村草子(女子4番)
牧山久美(女子12番)
陸社(男子6番)
朝霧楓(女子3番)
killed:春野櫻(軍人)
凶器:マシンガン(種類は不明)
 

E=05エリアで圭一・湯中天利(女子17番)を襲撃。圭一を殺害し、天利も殺害しようとしたが、隙を作って形勢逆転されるが、草子に救われた。日本刀・フリッサ入手。
D=05エリアで土方涼太(男子13番)・水城凛(女子13番)と遭遇。涼太を人質に取り草子と凛の戦いを見守った。
E=07エリアで晴明・紗奈・雪倉早苗(女子16番)に会い、ゲームで晴明を刺殺、残った紗奈を銃殺。双眼鏡入手。
F=05エリアで都竹航(男子11番)に襲われ、油断した隙に草子に致命傷を負わせてしまう。草子に頼まれ、草子を射殺。
D=07エリアで久美を発見し尾行。射殺。手榴弾入手。
真剣にプリグラムに乗る。
E=06エリアで社と依羅ゆた(女子18番)を発見。社を銃殺。ベレッタM8000入手。
E=05エリアで楓を襲う。楓にすべてを託され、水原翔(男子17番)たちの後を追うことにした。コルト・ロウマン入手。
E=04エリアで翔たちを発見。井上稔(ADGI)の説得(脅し?)により脱出計画を手伝うことに。
E=05エリアで政府に襲われる。右足骨折。その場に残り応戦。凛たちを守って生きる自信を得るために1人戦うが、櫻によって射殺。最期は手榴弾により相打ちに持ち込んだ。

 

最初は楽しんで、途中から本気になって、最期は守るために戦って…心境の変化の激しい子でした(汗
誰よりも人を殺し、そのことに悩み、守るために散った子でした。好きでした。

男子1番・朝倉伸行(あさくら・のぶゆき)

元バスケ部。カードゲームおたく。
休み時間は他クラスの仲間とカードゲームをしている。


ペア:牧山久美(女子12番)
支給武器:裁縫セット
kill:なし
killed:牧山久美(女子12番)
凶器:ボウガン
 

出発直後、久美に襲われる。逃げようとするが、右足負傷。矢が頭部に刺さり死亡。

最初の犠牲者となりました。
殺され役ということで送っていただいたので、活用させていただきました。
う…ん…DDRが得意という設定は全く出てきませんでした。
バスケ部のイジメの印象がすごいキツかったんで。
 (by 船木由美子様)

水原翔(男子17番)は過去にないほど知恵を振り絞った。
笠原飛夕(男子5番)をどうにか説得して仲間にしたい。
しかし、飛夕には今冷静に考えるということが抜けている、と思う。
そして、今、翔を殺そうとしている。

話し合うためには、まず飛夕に武器を捨てさせなければいけない。
しかし、体格も力も圧倒的に負けている。
今唯一勝っている点は、武器の強さだけだ。
飛夕の小型なリボルバー(コルト ロウマン)に対し、翔の武器は小型ながらもマシンガン(Vz61 スコーピオン)。

マシンガンで飛夕の銃を落とさせるか――ってことができればいいんだけどな…
銃に当たる前に飛夕に穴が開きそうだしなぁ…無理だな。

考えている間にも、銃声が聞こえ、弾が横を通り抜けている。

弾切れまで待つか?
いやいや、弾切れになるまで見えない相手に撃ち続けるほどバカじゃないよな、いくら飛夕でも…

その予想は当たっていた。
飛夕は翔が見えないので発砲を止め、木の陰から飛び出した。

足音が聞こえ、翔はばっと上を見上げた。
そこには飛夕がコルト ロウマンの銃口を翔に向けて立っていた。

「くそっ!!」

翔は咄嗟に立ち上がり、飛夕の右手に飛び掛った。

「何するんだ、放せよ!!」

飛夕が必死に翔の手を引き剥がそうとしている。
誰が放すかってんだよ!

「飛夕、落ち着けよ!!
 よく考えたらわかるだろ!?
 殺して家に帰るより、みんなで脱出した方がいいに決まってる!!」

「だから言っただろ!?
 俺は確実に早く帰れる道を選ぶ!!」

飛夕が翔の腹を思い切り蹴った。
痛みはそんなになかったものの、翔は飛夕の手を放し、仰向けに倒れた。

そっと目を開け、飛夕を見た。
こちらに向く銃口、逃げようとすればすぐに引き金を引くだろう。

逃げられない…
マジで…?俺、死ぬのか…?
いや、待てよ…運がよければ……

 

「じゃあな、翔――」

 

飛夕の悲痛な声に少し遅れて、銃声が響いた。
激痛が走り、意識が遠のいていった。

 

弾切れを起こすまで翔の上半身に弾を撃ち込んだ飛夕は、じわじわとコートが変色していく様子を見て、黙祷を捧げた。
スコーピオンを拾い、辺りを見回した。

「…鳥江は…こっちか?」

コルト ロウマンに弾を込め、飛夕は立ち去った。

C=05エリアの民家の中では、5人の男女がテーブルを囲んで座っていた。
土方涼太(男子13番)は頭を抱えて俯いていた。
テーブルには、小さな水溜りができている。

どうして…どうして死んじまったんだ…
助かるかもしれなかったのに…どうして…

日向翼(男子14番)が目の前で死んだ。
しかも、自らの手首を切って。

馬鹿だと思った。
クラスの半分以上が、恐らく生きたかったはずなのに生きられなかった。
それなのに、自ら命を絶つなんて、おかしい。
生きられなかった人たちに恨まれるぞ、絶対。

しかし、翼の気持ちは理解できる気がした。

翼は、とても優しい人間だった。

「日向…一緒に帰れると思ってたのにな…」

睦月麻(女子14番)が小さく呟いた。
麻は涙は見せないものの、ずっと放心状態でどこか遠くを見つめていた。

「翼は…優しすぎたんだ…本当に、悲しいくらいに…」

涼太はそれだけ呟き、再び俯いた。

何食わぬ顔で、学年でも5本の指に入る成績を取る翼。
笑顔を浮かべながら、サッカーで涼太からゴールを奪う翼。
下手なんだと言いつつ、宝田義弘(男子9番)とのバスケットボールのシュート対決で勝ってしまう翼。
苦手なんだと言いつつ、土谷和(男子10番)にマラソンで勝ってしまう翼。
それでも絶対に嫌いになれないのは、彼の性格・人の良さのなせる業だ。

優しさ――これが翼の最大の長所だろう。
しかし、この状況ではそれが最大の欠点となってしまった。

翼が水城蓮(男子16番)を殺害してしまったことは、絶対に許されることではない。
恐らく翼は悩みながらも割り切ったのだろう、『生きるためには仕方がない』、と。
しかし、実際に人を殺してしまい、その過ちに気がついたはずだ。

もしあそこで涼太が翼を咎めもせず、水城凛(女子13番)も怒ったりせずに(これは無理なことだとは思うが)、麻・井上稔(ADGI)・曽根崎凪紗(ADGI)に会っていれば、自殺をせざるを得なくなるまでならなかったかもしれない。

俺が、凛が、翼をあんなにも追い詰めてしまった。

凛も同じように考えているらしい。
涼太の横で、『わたしのせいだ』と呟きながら、ずっと嗚咽を漏らしながら下を向いていた。

「ねえ、落ち込むのは後にしない?
 いつまでもこうしてるわけにもいかないじゃん」

 

凪紗の声が聞こえた。
気のせいだろうか、幾分苛立っているようだった。

…何だよ、それ…

「そんな言い方ないじゃないか!!」

凛が叫んだ。
涙で濡れたその目は、凪紗を睨みつけていた。
凪紗も凛を睨み返す。
正に、一触即発の雰囲気だ。

「でも、本当のことでしょ?
 こうしている間にも、プログラムは進行してるんだからさ」

凪紗の言葉は、涼太の勘に触った。
しかし、涼太が言い返そうとする前に、凛がテーブルに乗り上げて凪紗の胸倉を掴んだ。

「アンタなんかに、わたしらの気持ちなんかわかんない!!
 仲良しの人を失ったことなんてないんでしょ!?」

凛が拳を振り上げようとしたので、涼太はそれを押さえた。
凪紗は凛の腕を捻って放させ、凛がいた部屋に入っていった。
一瞬だけ、凪紗が悲しげな表情を見せた気がした。

「凪紗、ちょっと待て!!」

稔が凪紗の後を追って部屋に入っていった。

 

「…何か話してるのかな?」

麻がそっと席を立ち、2人のいる部屋に耳を当てた。

「おい…立ち聞きなんて…」

涼太が咎めようとするのを、凛が制止した。
凛も麻の横で同じようにしたので、仕方なく涼太も耳を当てた。

もしかしたら、凪紗の悲しげだった表情の理由がわかるかもしれないので。

小さい声だったが、何とか声は聞き取れた。

「凪紗、さっきのは言い方が悪かったんじゃねぇの?」

「でも事実じゃないですか」

凛が怒りの表情を浮かべていた。

怒るのもわかる…あんなに淡々としなくったっていいじゃないか――

「みんなの気持ちがわからないわけじゃない…」

凪紗の声が幾分沈んだ。

「わかるから…痛いほどわかるから…
 今動かないと、今残っている他の子も危ないかもしれない…
 そうなると、更に傷つくのは目に見えてるじゃないですか…」

「そりゃそうだけどな…」

凛はきつく握り締めていた拳を緩めた。
確かに、まだ生きているクラスメイトはいる――その中には、やる気になっているヤツもいるだろう。

「稔さん、あたしたちの役目はみんなを助けること…
 同時に、あたしたちと同じ目に合うのを防ぐこと、そうでしょ?
 みんなにはこれ以上友達を失ってほしくない…」

…“あたしたち”?
井上サンは優勝者だって聞いてたけど…“たち”って…

水原翔(男子17番)たちはE=05エリアにある集会所に来た。
『集会室壱』と書かれた部屋にはまだ西野葵(男子12番)の死体が転がっているので、翔と鳥江葉月(女子9番)が入るのを拒否した。
よって、今はその向かいの『集会室弐』にいる。
「…マジでたった6人だけ…なのかよ?」

土方涼太(男子13番)が頭を抱え込んだ。

「40人…いたのにね、このクラス…」

「最悪だよな、2日前にはみんな元気にしてたのにさ…」

水城凛(女子13番)と睦月麻(女子14番)が沈んだ声で呟いた。

 

江原清二(男子3番)が仲間に加わった後、まだ生きているであろう生徒たちを探そうとした。
井上稔(ADGI)と曽根崎凪紗(ADGI)がまだ放送で呼ばれていない生徒の名前を挙げ終わった後、清二が首を傾げた。

「…日向は?」

それは翔も違和感を覚えていた。
日向翼(男子14番)も名前を呼ばれていないはずだが、稔たちの口からは翼の名前は出ていなかった。

清二の質問に、涼太・凛・麻の表情が暗くなった。
涼太の目には涙が浮かんでいた。

「…涼太 もしかして、翼は…」

翔の言葉に涼太は反応を示さなかったが、この3人の様子から見て取れた。

翼は、もうこの世にはいない、ということが。

「くそっ!!」

翔は地面に思い切り拳をぶつけた。
翼まで死んでしまった。
また1人、減ってしまった。

「…じゃあ、この6人で全部じゃねーか」

清二が呟いた。
翔たちは一斉に清二を見た。

「…どういうことだ?」

稔が聞いた。
清二は頭を掻き、溜息を一つ吐いた。

「日向は死んだんだろ?
 で、金坂はそこで死んでる。
 そっちの兄貴、土谷が死んでるのも見つけたんだろ?」

そうだった。
“そっちの兄貴”――稔が探知機で見つけた反応は、既に事切れた土谷和(男子10番)のものだったようだ(容姿云々を聞くと、和以外には考えられなかった)。
本当に、金坂葵(女子5番)に殺されてしまったのだろう。

清二は続けようとしたが、一度大きく深呼吸をした。
少し、言いにくそうに見えた。

「……陸…アイツは俺が殺した…
 朝霧は…いや、朝霧も多分俺が殺した…
 朝霧を見つけた時に、依羅が横で死んでるのを見た…

 これで全員、だろ?」

翔は目を見開いた。
陸社(男子6番)と朝霧楓(女子3番)を清二が殺した、そうはっきりと聞いた。
依羅ゆた(女子18番)については、本人の言い方では別の人間が殺した、ということらしかった。

誰もが、衝撃を受けた。

『どうして人を[ピーーー]んだ?』とは言えなかった。
翔には言える資格などないので(数はあっちの方が上だけど、そういう問題じゃないだろ?)。

 

もう他に誰もいないなら作戦を立てる、稔がそう言ったので、今は集会所にいる。

社と楓を殺した、と言っていた清二は、今はやや沈んでいるようだった。
後悔しているのかどうかは知らないが、多分ここに来る途中に稔が清二に言った一言が効いているのだろう。

『土方の彼女、テメェのこと、ずっと信じてたぞ』

それを聞いた時、清二の表情が一瞬悲しげに歪んだ。
「何でだよ…」と言ったのが聞こえたのは、恐らく稔と、その時偶然清二の横にいた翔だけだろう。

江原にも、何か事情があったのか…?
例えば今村サンを守っていた、とか…
俺が葉月を守るために金坂を殺してしまったように…

 

「テメェら、今からこれからどうするか説明するぞ」

 

稔の声で、翔は我に返った。

先ほどまで何故か涼太が持っていたパソコンをいじっていた稔が、今度は持っている武器をすべて机の上に出した。
凪紗も同じようにする。
2人の武器だけで凄い量だった。

「とりあえず、武器出せ。
 ちゃんと分けるから」

翔は和のものだったベレッタM1934を机の上に出した。
机の上には涼太が出したベレッタM92F、凛が出したジェリコ941とバタフライナイフ、清二が出したミニウージー、日本刀、フリッサ、手榴弾、ベレッタM8000、コルト・ロウマン、そして葵が持っていたVz61スコーピオン(弾は翔が持っていた)とブローニング・ベビーがばらばらに置かれていた。

「おーおー、よくもまあこんなに…」

稔は苦笑した。
こんなに多くの武器があるということは、それだけ人から奪ってきたということになる。
清二は一体何人を襲ったのか。

「ま、とにかく分けるか…」

 

稔の仕分けの結果、翔はベレッタM8000(清二が持っていた物と稔が持ってきていた物)を2丁、葉月はベレッタM92Fを、涼太はミニウージーとコルト・ロウマンを、凛はジェリコ941を、麻は凪紗から受け取ったワルサーPPKを、清二は稔から受け取ったキャリコM950を持つことになり、残りは稔と凪紗が分担していた。

稔の仕分けの結果、翔はベレッタM8000(清二が持っていた物と稔が持ってきていた物)を2丁、葉月はベレッタM92Fを、涼太はミニウージーとコルト・ロウマンを、凛はジェリコ941を、麻は凪紗から受け取ったワルサーPPKを、清二は稔から受け取ったキャリコM950を持つことになり、残りは稔と凪紗が分担していた。
予備マガジンもそれぞれ受け取り、デイパックの中を武器と万が一の止血用のタオルなどだけにした。
刃物類は元通り凛と清二が持つことになった。

「いい、みんな…弾は無駄遣いしちゃ駄目だからね」

凪紗が念を押して何度も言った。

稔はキャリコM950を手に持ち、全員の前に立った。

「…いいか?
 ここからは、戦争って言っても過言じゃない。
 マジで『殺らなきゃ殺られる』の世界だ。
 政府のヤツらには情けは掛けるな。
 そもそもテメェらをこんなモンに巻き込んだのは、アイツら政府だ。
 ダチが死んだり何なりしたのも、全部アイツらのせいだ。

 …覚悟、できてるか?」

翔たちは互いに顔を見合わせた。
相手が誰にせよ、今からしようとしているのは人殺しであり、立派な犯罪行為だ。

急に覚悟と言われても…

しばらくし、最初に声を挙げたのは、涼太だった。

「…俺は、できてる。
 井上サンが助けに来てくれるって知った時から、予想はしてた」

「要は政府を全部倒せば、生きて帰れるんだろ?
 上等だ、やってやんぜ!」

清二は拳を握った。
そして、横にいた涼太と顔を見合わせ、拳同士をぶつけ合った。

凛と麻も顔を見合わせて頷き、翔も目が合ったので頷いた。

やってやる…もう、後には退けない…
俺が人を殺した責任を全部押し付けるわけじゃないけど、やっぱり悪いのは高みの見物をしている政府の連中だ…
俺らをこんなモンに巻き込んだこと、後悔させてやる!!

翔は葉月を見た。
葉月は小刻みに体を震わせていた。
翔は震える葉月の手を握った。
葉月が驚いてこちらを見たので、翔はにっと笑って見せた。

「俺、今度こそ守るから、絶対」

葉月は少し安心したのか、にっこりと微笑み返してくれた。

大丈夫、絶対に守るから。
絶対に死なせやしない…!

 

その時だった。
物凄い轟音が聞こえたのは。

 

 

 

 

一方プログラム本部は、慌しく動いていた。
生き残っている6人が全員一箇所に集まっているにも拘らず、何も盗聴ができない。
畠案山子(担当補佐)の判断で、“不穏な動きを見せている”として首輪を爆発させようと信号を送ったが、何故か誰も死んでいない。

「…やっぱり侵入者が細工したか…」

畠は肩を落とした。
上に報告すれば自分の首が飛びそうなので、ここは内密に処理しなければならない。
大丈夫だ、全員殺してしまい、後でデータを書き換えて時間切れにでもしてしまえば問題ないだろう。

「畠先生!!」

軍人が敬礼をした。

「ただいま、A班・B班が6人のいる建物付近に到着したそうです!
 内刃と春野が“M2”の発射準備ができたと…」

畠は薄笑いを浮かべ、軍人からトランシーバーを受け取った。
“M2”――万が一に備えて用意された無反動砲だ。
本来は500m離れた位置からでも戦車を撃破できるほどの威力を持つが、ここにある物は少々改造され、威力はやや落とされている。
それでも、建物を吹き飛ばすことくらいなら容易にできるだろう。

「あ、そうなの?
 あれ1発しか弾がないから、上手く狙って撃つように、と伝えて。
 瓦礫で埋もれて死んでくれることを祈って…発射!」

残念だったね、生徒諸君。
せめてもの情けで、即死してくれることを祈るよ…

突然大きな爆発音が聞こえ、壁の一部が破壊され、集会所の天井に穴が開いた。
滅茶苦茶になった集会所の瓦礫を押しのけて出てきたのは、井上稔(ADGI)だった。
稔は運良く瓦礫の間にいたため、落ちてきた瓦礫が直撃して右手の小指が使い物にならなくなったのと、無数の擦り傷だけで済んだ。

その稔の下から、曽根崎凪紗(ADGI)が這い出してきた。
稔が咄嗟に側にいた凪紗を守ったため、凪紗は奇跡的にほぼ無傷だった。

「みんな、無事!?」

凪紗が叫んだ。

「ちくしょう、政府の対応が良かったな…
 俺らだけ生き残って残り全滅なんて、冗談じゃねぇぞ…」

稔は右手を押さえながら呻いた。

 

「うらぁ!!」

 

突然声が聞こえ、稔と凪紗はその方向を見た。
瓦礫が音を立てて崩れ、下から睦月麻(女子14番)が出てきた。
麻の頭からは血が流れていたが、どうやら切っただけのようだった。

「麻ちゃん!!」

凪紗は麻を手伝い、瓦礫を除けた。

「ふぅ…一体何なんだい!?
 潜った机も壊れちまったよ!!
 でもその隙間にいて助かったけどね…
 大丈夫か? 水原、鳥江さん?」

瓦礫の中から水原翔(男子17番)と鳥江葉月(女子9番)も出てきた。
翔は苦しそうに咳き込んでは胸部を押さえていたが、葉月はほぼ無事なようだった。

「睦月は…無事か?」

稔が訊くと、麻は両手を稔に見せた。

「これ除けるために手がボロボロ。
 あと…骨は大丈夫っぽいけどさ、右腕がズキズキする。

 …凛は?」

麻が辺りを見回した。
確かに、江原清二(男子3番)、土方涼太(男子13番)、水城凛(女子13番)の姿はない。
まだ、この瓦礫の下にいる。

「凛…凛!?
 どこだい!?
 土方、江原ぁ!!」

麻は腕の痛みも気に留めず、辺りの瓦礫を除け始めた。
凪紗もそれを手伝う。

 「まだ生きているらしいぞ、突入!!」

遠くで声が聞こえた。
ちくしょう、首輪の反応があるからだな。

稔は急いで凪紗と共に死守した武器を入れたカバンを下から引っ張り上げ、キャリコM950を取り出した。
そしてヘリの中で高谷祐樹(ADGI)から貰った高性能暗視スコープを装着した。
もう1つのカバンを取り、凪紗に渡した。

「凪紗、連中が来るぞ、応戦準備だ!
 凪紗はそっちの壊れた壁から、俺はドアの方だ!!
 睦月たちは3人を探せ!!」

稔は瓦礫の上を軽々と走り、ドアの方から外を見た。
軍人たちが来るのを見つけると、キャリコM950の引き金を引いた。
連続した銃声に、軍人たちも撃ち返してくる。
後ろからも銃声が聞こえ、瓦礫を除ける音も聞こえる。

ちくしょう、何人いやがるんだ…

稔は舌打ちをした。
状況は良くない。
3人の生徒の無事を確認できていない、相手はどれくらいなのかわからない――下手すればここで全滅だ。

麻と翔が同時に叫んだのが聞こえた。
稔が一瞥すると、除けた瓦礫の間から頭を押さえる涼太と、怪我をしたのだろう、顔を歪めた凛の姿が見えた。

「清二が… 清二がまだ…っ」

凛の搾り出すような声が聞こえた。
そして葉月の悲鳴が聞こえた。
清二に何かあったことは明白だ。

「睦月、こっち来て代われ!!」

稔は麻に一通り撃ち方を教え、暗視スコープを渡した。
腕が痛いと言っていたが、麻以外に頼める人がいなかった。
翔はずっと胸部が痛いと言っており、涼太は今瓦礫の下から這い出したばかりなので頼めない、凛は表情からして無理だ、そして葉月にはマシンガンの反動に耐えられる腕力はないだろう。

「悪いな」

「…いいよ、できる限り頑張るから。
 それより、他の子を助けてやってよ…」

稔は頷き、再び瓦礫の上を走って清二たちの方へ向かった。
涼太の頭を押さえる手の指の間からは、ゆるゆると血が流れており、どこか虚ろな目をしていた。

「…土方、大丈夫か?」

「…あんまり……まだ頭がクラクラしてるっす…
 でも、俺が…1番マシ…だから…」

とりあえず涼太を瓦礫の上だがともかく寝かせた。
あちこちに打撲を負っているようだが、それ以外は大丈夫だろう。

次に凛に目を遣った。
凛の左腕は、あらぬ方向に曲がっていた。
明らかに折れていた。
痛みに耐えるように、涙を目に溜めながら歯を食いしばっていた。

「彼女、腕以外は…?」

凛は短く息を漏らした。

「いいから…清二を助けて…脚が…っ」

脚…?

稔はようやく清二に目を向けた。
清二は呻き声を上げながら、必死に自分の足の上にある瓦礫を除けようとしていた。

「あぁ…イテェ……くそったれ……政府の野郎…ブッ[ピーーー]…」

悪態を吐く清二の声には覇気がない。

「待ってろ、今除けるから!!」

稔は瓦礫の端に手を掛け、力を込めた。
折れた指に激痛が走ったが、弱音を吐いている場合ではない。

瓦礫を除けると、清二の左足は見たところ大丈夫なようだったが、右足は凛の左腕同様折れ曲がっており、下には血溜まりができていた。

「うわっ、思ったよりヒデェな、これは…」

清二が自分の足を見て引き攣った笑いを見せた。
しかし、どう見ても笑っていられる傷ではない。

「…外に出るにも、この状況じゃ無理、か…」

どうすればいい?
できるなら本部を襲撃したいが、この怪我人たちを連れてはいけないし、だからといって置いていくわけにもいかない。

突然清二は瓦礫の隙間に手を突っ込み、デイパックを3つ引きずり出した。
その中の1つの中身を確認し、ほっと息を吐いた。

「隅っこにやってよかったぜ、無事だ…」

中からキャリコM950を取り出し、右手に持った。
そして、稔を見た。

「今の、状況は…?」

「…外に政府の連中がいやがる。
 何人かは倒したけどな」

清二はキャリコM950を握る手に力を入れた。

「兄貴、他のヤツら連れて、本部に行けよ…俺が…片付けてやる…っ」

稔は目を見開いた。

「な…テメェ自分の怪我わかってんのか!?その脚で…」
「この脚じゃ、そんなに動けないんだよ。だから、ここでじゃないと戦えないから…」

確かに、あの脚での移動は無理だろう。
しかし、いくら動かないといっても分が悪すぎる。

「そんなこと、許せるはずが…」
「わたしも、残る…」

凛の声が聞こえた。

「おい、彼女…っ」
「足引っ張りたくないから、ここにいる…それに、清二を1人で置いていけないじゃん…」

清二はニッと笑い、凛にデイパックを投げた。それを右手で受け取り、中からジェリコ941を出した。

「凛が残るなら、俺も残る…俺は頭がちょっとクラクラするだけだし」

涼太は頭の血を拭いながら立ち上がった。清二の側からデイパックを取り、ミニウージーを出した。

…言っても聞かないだろうな、どいつもこいつも…

稔は笑みを浮かべた。とりあえず清二を引っ張り上げた。

「凪紗、こっちのこと、頼むぞ」

凪紗はマガジンを変えながら、大きく頷いた。それを確認し、稔は自分のカバンから予備の暗視スコープを無事な涼太に渡した。

「こっちで死人出したら承知しねぇからな」
「…わかってますって」

涼太は暗視スコープを装着して立ち上がり、入り口側で応戦を続ける麻のもとへ向かった。
二言三言交わした後、麻が戻ってきた。

井上稔(ADGI)は水原翔(男子17番)・鳥江葉月(女子9番)・睦月麻(女子14番)を率いて出て行った。
土方涼太(男子13番)が援護射撃をし、稔も同じようにして3人を奥に行かせ――そこから後は知らない。
江原清二(男子3番)が見たのはそこまでだったので。

「…清二、これ飲みなよ」

横から水城凛(女子13番)が無事な右手を差し出した。
その上には、錠剤が1錠乗っていた。

「…なんだよこれ」

「痛み止め。 わたしの支給武器の1つ。
 気休めくらいにはなるんじゃない?
 あたしも飲んだし、水原にも渡したから、これで最後。
 飲んで」

清二は眉間にしわを寄せた。
『飲んで』だと?
最後の1錠だろ?
テメェの腕だって、痛むだろ?

「…凛が飲めよ、凛の持ち物だろ?」

凛が首を横に振った。

「清二の方が痛そうだから、あげる」

凛はそう言うと、無理やり清二の口の中に錠剤を入れた。
苦い味が広がる。
水はなかったが、なんとかそれを飲み込んだ。

『清二の方が痛そう』、だと?
どこがだよ。
テメェの方が痛そうだぞ、そんな顔して。
どうして、そんなに人を心配するんだよ…

 

清二の両親は、清二が生まれてすぐに離婚した。
母親に引き取られたが、清二が小学生になった頃から、家に滅多に帰ってこなくなった。
男でもできたのだろうか。

家では誰も相手をしてくれる人はいなかった。
学校では誰かに相手をしてほしい、と色々な事をやった。
ケンカをした、備品を壊した、万引きをした。
しかし、最初は相手にしていた教師たちも、次第に見放していった。
『悪い子』の清二には、誰も近寄らなくなった。
誰も、相手をしてくれなくなった。

もう、諦めた。

時々自分にケンカを売ってくる不良たちとケンカをする毎日になった。
『学校1の問題児』と言われるようになった。
ますます独りになっていったが、別に相手をしてもらわなくても気にしなくなった。

そんな清二に、転機が訪れた。

小4の頃、今村草子(女子4番)と出会った。
同じように相手にされなくなった問題児だった草子とは、次第に仲良くなっていった。
互いの奥深くまで踏み込むような仲ではなかったが、多少は心を開ける存在となった。

中学に入り、楠本章宏(男子7番)・都竹航(男子11番)・高原椎音(女子8番)・平馬美和子(女子11番)・凛と出会った。
『最強の男』として敬われた(航はよくわからなかったが)。

個性的な面々に囲まれる中、凛は特別だった。
少なくとも小学生の頃は『良い子』に分類された凛との付き合いは、草子たちとはまた違い、とても新鮮だった。

自分のことよりもまずは他人のこと。
凛はそういう人間だった。
水城蓮(男子16番)のことをずっと第一に考えてきたことが影響しているのだろう。
自分のことを後回しにする人間に、初めて出会った。

良い子だと思った。
本当なら、自分と友達になることがおかしいような。

それでも、凛はこんな自分を信じてくれていた。
一度襲ったのにも拘らず、笑顔で迎えてくれた。

それがどんなに救いになったか、気付いていないだろ?
こんなに嬉しかったことも、凛からすれば当たり前のことなんだろ?
でも、兄貴にそれを聞いた時、嬉しかったと同時に罪悪感が募ったことも、知らないだろ?凛の笑顔を見たときに、『自分のしたことは何だったんだろう』と思ったんだ…

男子16番・水城蓮(みずき・れん)

吹奏楽部。病弱で運動は不得意。
水城凛(女子13番)の双子の弟。
可愛らしい容姿から、女子に見間違えられることが多い。


ペア:赤木明子(女子2番)
支給武器:シグ・ザウエル P230
kill:赤木明子(女子2番)
高原椎音(女子8番)
藤村優(女子10番)
killed:日向翼(男子14番)
凶器:シグ・ザウエル P220
 

出発直後に明子を銃殺。
姉・凛と生き残るためにやる気になるが、病気になり診療所で睡眠をとる。
診療所を椎音が訪れ、油断させて銃殺。ワルサーP99入手。
C=06エリアで優を殺害。その後凛と再会。喜んでいたが、その時翼が発砲。凛をかばい死亡。

 

弟思いの姉思いな子。個人的には好きでした。
姉と生きるために殺し回ったことに罪悪感を少しも感じてなかった蓮君。
それはいきすぎですけど家族への愛のなせる業。悪くはないんじゃないですか?

いまから新しいゲームを始めたいと思います。

取りあえず今回もキラークイーンで行きます。

リベリオンズや同人版などは需要がありそうであれば次回からという事で。

まずは恒例の主人公設定から


性別

>>710
>>711
>>712

>>712のコンマ下二桁によって安価を決定
 
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年齢

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>>714
>>715

>>715のコンマ下二桁によって安価を決定
 
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性別 男 

年齢 39



性格
>>724
>>725
>>726

>>726のコンマ下二桁によって安価を決定
 
00~33 >>724
34~66 >>725
67~99 >>726


特徴
>>727
>>728
>>729

>>729のコンマ下二桁によって安価を決定
 
00~33 >>727
34~66 >>728
67~99 >>729

どこか抜けているようで意外としっかりしている

真面目で実直だが天然

年齢より若々しい容姿

童顔で見た目は20代半ば

老け顔で白髪が多い

え?特徴まだじゃね?

性格 男

年齢 39

性格 真面目で実直だが天然

特徴 若干オカマ


職業
>>733
>>734
>>735

>>735のコンマ下二桁によって安価を決定
 
00~33 >>733
34~66 >>734
67~99 >>735

名前
>>736
>>737
>>738

>>738のコンマ下二桁によって安価を決定
 
00~33 >>736
34~66 >>737
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警察官

パン屋さん

医者

朝田良男

木ノ下薫(きのしたかおる)

美川憲一

性格 男

年齢 39

性格 真面目で実直だが天然

特徴 若干オカマ

職業 パン屋

名前 美川憲一



家族

>>741
>>742
>>743

>>743のコンマ下二桁によって安価を決定
 
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趣味

>>744
>>745
>>746

>>746のコンマ下二桁によって安価を決定
 
00~33 >>744
34~66 >>745
67~99 >>746

自分1人他は他界している

養子の高校生の息子が一人で妻は死別

>>742

独り身

美味しいパンを作る為に日夜研究している、

レース編み

性格 男

年齢 39

性格 真面目で実直だが天然

特徴 若干オカマ

職業 パン屋

名前 美川憲一

家族 養子の高校生の息子(既婚)

趣味 レース編み




好きなこと(もの)
>>
>>
>>

※>>のコンマ下二桁によって安価を決定
 
00~33 >>
34~66 >>
67~99 >>



嫌いなこと(もの)
>>
>>
>>

※>>のコンマ下二桁によって安価を決定
 
00~33 >>
34~66 >>
67~99 >>

性格 男

年齢 39

性格 真面目で実直だが天然

特徴 若干オカマ

職業 パン屋

名前 美川憲一

家族 養子の高校生の息子(既婚)

趣味 レース編み

好きなこと(もの) 酒

嫌いなこと(もの) 自己中心的な人


長所
>>756
>>757
>>758

>>758のコンマ下二桁によって安価を決定
 
00~33 >>756
34~66 >>757
67~99 >>758

短所
>>759
>>760
>>761

>>761のコンマ下二桁によって安価を決定
 
00~33 >>759
34~66 >>760
67~99 >>761

温和で人の信頼を得やすい

相手を信用すると決めたら、けして裏切らない事

人望があり初対面で好印象を持たれやすい

細かいことに興味がもてない

ちょとエッチな事

派手好き

性格 男

年齢 39

性格 真面目で実直だが天然

特徴 若干オカマ

職業 パン屋

名前 美川憲一

家族 養子の高校生の息子(既婚)

趣味 レース編み

好きなこと(もの) 酒

嫌いなこと(もの) 自己中心的な人

長所 信用した相手は裏切らない

短所 大雑把



原作キャラとの接点(無しも可)
>>763
>>764
>>765

>>765のコンマ下二桁によって安価を決定
 
00~33 >>763
34~66 >>764
67~99 >>765

ゲームとの関連性(無しも可)
>>766
>>767
>>768

>>768のコンマ下二桁によって安価を決定
 
00~33 >>766
34~66 >>767
67~99 >>768

姫萩の高校の近くのパン屋

綺堂 渚とは今結婚を前提に付き合っている

麻生真奈美の親戚

無し

息子がゲーム参加した事があり、生きて帰って来た

なし

性格 男

年齢 39

性格 真面目で実直だが天然

特徴 若干オカマ

職業 パン屋

名前 美川憲一

家族 養子の高校生の息子(既婚)

趣味 レース編み

好きなこと(もの) 酒

嫌いなこと(もの) 自己中心的な人

長所 信用した相手は裏切らない

短所 大雑把

原作キャラとの接点 経営している高校の近くのパン屋に姫萩が良く来る

ゲームとの関連性 無し



JOKERの解除条件

※解除条件は、JOKERの機能を用いる必要があるもの、殺人が含まれているもの、またはそれらに近しい難易度のものでなければ無効となります。

解除条件については、今回のゲームに合いそうなものを私が安価の中から採用します。

>>772
>>773
>>774
>>775




3人以上殺害した人物を1人殺害

女性を皆殺しせよ

過去に一度以上偽装したことのある番号のPDAを一台入手
(入手してから偽装するのはなし)

開始から72時間経過までジョーカーPDAを誰にも渡さない

【主人公設定】

性格 男

年齢 39

性格 真面目で実直だが天然

特徴 若干オカマ

職業 パン屋

名前 美川憲一

家族 養子の高校生の息子(既婚)

趣味 レース編み

好きなこと(もの) 酒

嫌いなこと(もの) 自己中心的な人

長所 信用した相手は裏切らない

短所 大雑把

原作キャラとの接点 経営している高校の近くのパン屋に姫萩が良く来る

ゲームとの関連性 無し

【JOKERの解除条件】
全ての女性プレイヤーの死亡。
※手段は問わない


以上の設定でゲームを開始します。

信用した相手を裏切れないただの一般人がこのゲームの女性陣の抹殺とか無理ゲーすぎる

>>779
前回同様に配布されるPDAはランダムです
また、ゲームの流れを分かりやすくするためにも以前の最近のゲームを見て頂くことをお勧めします。

【02:20】

私は、嫌な汗をかきながら今一度自分のPDAを見直していた――

何故ここへ自分が連れて来られたのか、何か恨みを買うようなことをしたか、と考える余裕は無かった。


PDAに載っていたルールは?(コンマ判定)
※被った場合は1個下のルールが採用

>>783
>>784

3 00~15
4 16~30
5 31~45
6 46~60
7 61~75
8 76~90
9 91~99

でや

私のPDAに載っていたのは基本ルールの1と2に加えて、ルール8と9だった。

ルール8はゲーム開始から6時間までは全面戦闘禁止エリアであるということが載っている。

また、ルール9にはそれぞれのプレイヤーに課された解除条件が載っていた。

解除条件の中には残酷なものが複数あり、それらの条件だけは与えられたくなかった。

――無かった、のに。

(こんなのって……こんなの、って――)

私のPDAの画面には“3”の数字――解除条件は3人以上の殺害だった。

私はただパン屋で平和に息子と一緒に生活していただけだというのに、どうしてこおような理不尽な事に巻き込まれなければならないのか――

「修一、美幸……お父さん、どうすれば良いのかな……」

私にとっての生甲斐となっている息子と、今は亡き妻に助けを求めるが、その声は冷たい部屋に寂しく響くだけであった……。

私はこのあと、どうする……?

1.しばらく部屋に居る

2.他の参加者を探しに行く

3.その他

>>787
>>788
>>789

>>789のコンマ下二桁によって安価を決定
 
00~33 >>787
34~66 >>788
67~99 >>789


2

2

【03:30】

私は、取りあえずルールを集めるために他の参加者を探す事にした。

孤独という空間に不安になりながらも、私はひたすらに歩き続けた。

(ん……あれって……!)

ふと横目に入ったのは私以外に動く何かだった。

きっと私以外のプレイヤーに違いない、と私は咄嗟に走り始めた――


その先に居たのは……?

コンマ判定1個下

00~30 御剣たち

30~60 色条たち

60~90 漆山たち

91~99 気のせいだった

すみません、今日はここまでにします。

私が出会ったのは色条優希という少女と、高山浩太という男性だった。

「――じゃあ、優希ちゃんは学校の帰りの途中から記憶が無いんだね?」

「うん、そうなの……。でも、これってきっとドッキリだよね?」

「ま、まあ、そうだと思うけど……」

優希のまだゲームを受け入れていない明るい瞳を、私は直視し続けることが出来なかった。

私の息子よりも幼い子供を巻き込んでいる犯人に対して、私は怒りが沸いてきていた。

「ゲームの真偽は取りあえず置いて、ルールを交換しよう。俺たちがいま置かれている現状を把握しなければ、ドッキリかどうかも確かめようがないしな」

高山は表情を常に一定のまま話を進めることを求めてきた。

「そうだね。それじゃあ私から――」

私たちは各々PDAを取り出してルールを交換する事にした……。


色条と高山が持っていたルールは?

PDAに載っていたルールは?(コンマ判定)
※被った場合は1個下のルールが採用

>>804
>>805
>>806
>>807

3 00~15
4 16~30
5 31~45
6 46~60
7 61~75
8 76~90
9 91~99

高山と色条が持っていたルールは5、6、7、8の4つだった。

4つのうちルール8は私が持っているので、実質3つ新たにルールを手に入れたという事になる。

ルール5は侵入禁止エリアについて、ルール6は賞金について、そしてルール7は戦闘禁止エリアについての内容だった。

賞金20億を勝者で山分けというのは、どうも現実味が無い。

しかし、もし貰えるならば修一に苦労をかけさせる事も無くなるか――

「あと判明していないルールは3と4か」

「他の参加者にも会いたいところだけど、なかなか難しいところだね」

できるならば、ゲーム開始から6時間以内にルールを全て把握しておきたい。

戦闘が解禁されてしまうと、お互いに警戒し合うことになり、ルールを交換するどころか近付く事さえも躊躇ってしまう可能性があるのだ。

「おじさん、これからどうするの……?」

「ん、そうだね……」

色条が不安そうな顔をして服の裾を引っ張ってくる。


私たちはこれから……

1.他の参加者を探そうと言う

2.お互いにPDAの番号を教え合おうという

3.高山に聞いてみる

4.2人と別れて行動する

5.その他

>>816
>>817
>>818

>>818のコンマ下二桁によって安価を決定
 
00~33 >>816
34~66 >>817
67~99 >>818

5、今いる3人で他の面子探し
番号や解除条件などは明かさない

安価↑

>>816

  (⌒Y⌒)
     (⌒*☆*⌒)

      ~(__人__)~
         | ,、
    _    |/ノ
     \`ヽ、|
      \, V

        L,,_ 
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        〃                      ヘ
       /                    ハ
     /     ,   ,イ                  :
     /      〃  /」  ,1i   ト,          i
.     ;       i l  / il.  / ll.  「l   il       l
    i     丨|ハ/  l| / |l|  ! ll j l       l
     l     N z云ェ、`^′ !ヘ._リ Lソ .l       !
     l      |Y´ヒU升     =テ示'x.亅    !    
      !     l   ゞ‐'       ヒUリ`Yj      .!
     V    .l       ,.     `¨´  ;    リ
     ゝ,   !             /    /
      ヘト、 >.  ‘、 ̄ ぅ    /   / /
        `ヽト.>,、   ̄´  ,.. < _彡少'′

         __,ニコ.`≧=≦´ レ/l/'′         ┼ヽ  -|r‐、. レ |
.      ,.ィ=八 } ̄`ヽ.   ,z=┴1、__           d⌒) ./| _ノ  __ノ
    ,.イ  {-| `ミ'ー=ニ⊥f__... =ヘ、`,テ=r 、

 (⌒Y⌒)
     (⌒*☆*⌒)

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1・名前は?

 天条野恵(てんじょう・のえ)!

2・あだ名は?

 フッツーに野恵かな。

3・生年月日、血液型は?

 3月3日、うお座のA型!

4・家族構成は?

 お父さん、お母さん、あとは弟。

5・趣味は?

 ・・・テニスかな?

6・身長は?

 164cm、意外だとか思った??

7・あなたの入っている部活は?

 テニ部!

8・委員会は?

 何も入ってないよ。

9・得意な科目は?

 音楽かな?

10・苦手な科目は?

 数学!あれは嫌!

11・特技は?

 カラオケかな?

12・あなたはあなた自身の性格についてどう思いますか?
単刀直入!

13・支給武器は?
携帯電話!色々教えてもらえて便利だよ。

14・あなたはやる気ですか?
・・・今は違うよ。

15・誰を殺しましたか?
岡(岡哲平・男子3番)。アイツ嫌い!あとは幽子(小路幽子・女子7番)と苑(山南苑・女子21番)と小枝子(盛岡小枝子・女子20番)。

16・誰に殺されましたか?
まだ生きてるよぅ!

17・現在あなたは何をしている?
転校して、受験勉強。

18・あなたと一番仲の良い人は誰?
誰だろ・・・タッキー(佐々川多希・女子6番)かな?

19・仲の悪い人は誰ですか?
これってネタバレかな?幽子とはあまり仲良くないの。

20・仲良くしたいなぁ…と思っている人は誰ですか?
 ・・・あたしは今のままでいいよ。

21・この人は好きになれないなぁ…(もしくは嫌い)な人は?
岡!絶対無理!!

22・親友と言えるような人はいますか?
タッキーと、茉有(野尻茉有・女子15番)かな。

学校の屋上での昼食――いつもの光景だ。

「あ、大和くん、ほっぺにご飯粒付いてるよ」

「お、サンキュ!」

喬ちゃん(玖珂喬子)と大和(須藤大和)がイチャついてるのも、いつもの光景。
それを見て勝則(藤野勝則)が不機嫌そうに睨むのも、環(村主環)が無関心そうなのも、全ていつもの光景。

それにしても、喬ちゃんと大和は、人前でこんなにイチャついてて恥ずかしくないのか?
アタシ、野原惇子は大和との付き合いが長いけど、あんなに楽しそうにするのも、優しい表情をするのも、喬ちゃんと知り合う前には見たことがない。
そこまで好きなんだ、そりゃごちそうさん。

「あ、あっちゃーんv ほっぺにパンクズが、取ってあげようか?」

「…と、取っていらんわっ!!」

アタシは、弘也(山神弘也)の手を振り払った。
弘也はアタシの彼氏、らしい、一応。
弘也は大和たちの真似がしたかったらしい。
立場が逆だっての。

どうもダメなんだ。
どうしてアタシは弘也の彼女なんだ?
いや、そりゃあ、アタシは…その…なんだ、好きだよ、弘也のコト。
ああもう何言わせてんだ!

だけど、弘也はアタシの何が好きなんだ?
とても理解できない。
喬ちゃんみたいに可愛くないし、環みたいに美人なわけでもない。
図体だってでかいし、態度も悪いし、口も悪い。
もしもアタシが男なら、絶対こんなヤツを彼女になんてしない。

対して弘也は、ね、かっこいいだろ?
細身で背が高いし、キレイな顔してるし。
結構人気あるらしい、女に優しいしね。

だから、とても不安になる。
絶対に釣り合わないから。
アタシは、いつ嫌われてしまう?
別れ話をされる?

喬ちゃんに肩を叩かれ、我に返った。
もう昼休みが終わるらしい。
アタシはまだパンを食べている途中だ。

「何ぼーっとしてんだ、バーカ。
 次美術だから行くぞ」

大和が喬ちゃんを連れて屋上の扉の中に消えた。
勝則と環も後について行く。
まあね、大和は手先がありえないくらいに器用だから、美術は好きなんだ。
弘也もそういうのは好き。
環もやる気はないけど成績はいい。
だから、皆出る授業だ。

「よいしょ」

おっさんくさい言葉を発して、弘也がアタシの横に腰掛けた。

「…行けよ、授業始まるよ?」

「いいよ、あっちゃんが食べ終わるの待ってる」

弘也はにこにこしてアタシがパンを食べきるのを見てる。
食べてるところをマジマジと見るな、恥ずいから!!

…恥ずいついでだ、ちくしょう。

「弘也」

「ん? なあに?」

「……やっぱいいや」

「うっわ、気になること言わないでさぁ、教えてよ、なぁに?」

「………言わね」

「あっちゃんってば、イジワル言わないでさぁ!」

アタシはミルクティーでパンを流し込む。
そして、弘也を睨む。
いや、睨む気はないけど、目つきが悪いんだ、文句あるか?

オレと豊は生まれた時から一緒だ。

家は隣。

親同士も仲良し。

どちらかがいないことなんか、考えらんない。

幼稚園も、小学校も、中学校も一緒。

性格も趣味も全く違うけど、

誰よりも気が合う親友だ。

仮にオレらが異性なら、絶対にラブラブだ。

だけど、同性だから、いつかはそれぞれ恋人が出来る。

女の趣味も違うんだろうか?

一緒なら、正々堂々勝負しようぜ。

違うなら、もちろん応援してやるよ。

お前、ちょっと大人しいから不安だけどさ、

彼女が出来たら守ってやれよ?

でも、できるまでは――

オレが絶対守ってやるからな。

どんなことがあってもさ。

オレと豊は生まれた時から一緒だ。

家は隣。

親同士も仲良し。

どちらかがいないことなんか、考えらんない。

幼稚園も、小学校も、中学校も一緒。

性格も趣味も全く違うけど、

誰よりも気が合う親友だ。

仮にオレらが異性なら、絶対にラブラブだ。

だけど、同性だから、いつかはそれぞれ恋人が出来る。

女の趣味も違うんだろうか?

一緒なら、正々堂々勝負しようぜ。

違うなら、もちろん応援してやるよ。

お前、ちょっと大人しいから不安だけどさ、

彼女が出来たら守ってやれよ?

でも、できるまでは――

オレが絶対守ってやるからな。

どんなことがあってもさ。

オレ――良元礼の周りには色んなタイプのヤツがいる。
爽やかな中国人とのハーフとか、ぼーっとしてるけどいいヤツとか、
やる気なさげなロック好きとか、笑い声の煩さでは負けないヤツとか、
騒がしいけど正義感の強いヤツとか、笑い方が変なヤツとか…
あと、バカが2人。
名前を出すと、拓也(稲毛拓也)と東(西川東)。
特にあれだ、拓也のバカはどうにかならないもんかな?

 

ゲーッホゲホゲホゴホゴホッ

ズズッ

カサカサ  チーン ズズズッ

和久「…うるさい」

稲毛「悪かったなチクショー……ぶぇっくしょい!!」

李「どうしたんだよ稲毛、珍しく学校に来たと思ったら…」

堀田「オレ知らなかったぜ、バカでも風邪ひくんだな!!」

岡「同感!! ナイス勝海!! ギャハハハハハハッ!!」

稲毛「うるせぇ、好きでひいたんじゃねぇやい!!」

杉江「そういえば、東も風邪ひいて今日休んでるらしいよ?」

白川「ゲハハハッ!! Wバカが風邪かよ!!」

稲毛「ケッ!! もういい、テメェらと一緒にいたらムカつく!!」

李「あっ……あーあ、行っちゃった」

和久「いいよ、静かになって」

 

ゲホゲホッエホッゴホゲハゲハッ

ズズズズッ

良元「…うるせぇな」

稲毛「テメェまでそう言うか…ズズッ」

良元「そりゃあ人が予習してる時に横でゲホゲホ言われちゃあな」

稲毛「ケッ…ふ…ぶえっくしょい!!だーこんちきしょう!!」

良元「オヤジかテメェは」

稲毛「礼?…風邪ひいた…」

良元「見ての通りだな」

稲毛「…理由聞いてくれよ」

良元「別に興味ねぇよ」

稲毛「良いから聞けってんだ!!…ぶわっくしょい!!」

良元「きたねぇ!!唾飛ばすな!!つーかそれが人に物を頼む態度か?」

稲毛「良いから聞けよチクショー…ズズズッ」

良元「……言いたきゃ言えよ」

稲毛「それがよ、昨日東のバカがオレに喧嘩吹っ掛けてきやがってよ、
   橋の上で喧嘩してたらよ、アイツが川に落ちやがったんだ!
   バッカだろ??」

良元「…で、何でテメェも風邪ひいてんだ?」

あれは、中間テストを控えたある日の事。

僕、皆川玉樹は、慎――(坂出慎)の勉強を見る事になった。

 

玉樹「じゃあ、公民やろうか」

慎 「げぇ、オレ嫌い、公民嫌い!!」

玉樹「…あのね、慎。 好き嫌いの問題じゃないの」

慎 「…わーったよ、やりますよ、やりゃあいいんだろ」

玉樹「そうだよ、やればいいんだよ」

 

玉樹「じゃあ、第1問ね」

慎 「クイズ形式か? 押しボタンはねぇの?」

玉樹「頭でも叩きなよ」

慎 「玉樹ってさ、オレに冷たくない?」
玉樹「そんなことないよぉ」
慎 「…稔は?」
玉樹「稔は咲と一緒にやってるよ」
慎 「…咲っていい女だもんなぁ」
玉樹「咲をそんな変な目で見ないでよ、怒るよ?」
慎 「………………すいませんでした」

 

玉樹「じゃあ、第一問」

慎 「あいよ」

玉樹「“プログラム”の正式名称は?」

慎 「あれって、オレらが選ばれるかもしんねぇよなぁ…」

玉樹「大丈夫だよ、すっごい可能性低いもん」

慎 「だよな、1年で…えっと…100クラス?」

玉樹「50クラスだよ」
慎 「そうそう! 宝くじより難しいよな!」
玉樹「いいから答えは?」
慎 「今日授業でやったばかりだ、慎様の頭をナメるなよ!」
玉樹「あ、自信満々じゃないっ!」
慎 「セントウジッケンダイロクジュウハチバンプログラム!」
玉樹「正解!! じゃあ、漢字で書いて?」
慎 「え…ああ…お…おう、任せろ!!」

千 頭 実 剣

玉樹「………………何の奥義?」
慎 「………………違うか、やっぱ」
 

公民がどうとかこうとかいう問題じゃないよね、こんなの。

でもね、そんな慎が、僕は結構好きだよ。

2年の冬休み、あたし、曽根崎凪紗は、風邪をひいた。原因は元はといえば勝(真田勝)たちのグループのせいだ。偶然勝たちのグループとこっちのグループが橋の上で鉢合わせて、些細な事から口論になった。というか向こうが言いがかりをつけてきた。それで、それが口論から一気に殴りあいになって。あたしは別に負けたわけじゃないんだけど、体格的に不利で。勝の攻撃を避ける為に橋の桟に登った時、海斗(設楽海斗)に殴られてよたついたツネ(新島恒彰)がこっちに来て。それにどつかれて、あたしは、川に落ちた。勝と海斗、それに千尋(不破千尋)が後から飛び込んで助けてくれた(佑(栗原佑)はツネをボコボコに殴ってた)。

次の日、あたしは風邪をひいた。12月の川に落ちたんだから、当然かもしれないけど。千尋が無理矢理勝グループを連れてきた。元はといえばそっちが悪いんだから償え、とか何とか。後から海斗と佑も来て、家は人でごった返した。お父さんは仕事でいなかった、平日だしね。つまり、皆学校をさぼって来てくれた。

「んー…あ、おかゆさん作ったらどうっスかね?」

ケースケ(池田圭祐)が提案。

「え、風邪っていったら林檎でしょう!」

レン(脇連太郎)が持参の林檎を取り出した。レッツクッキング。皆が台所にたかる中で、勝はあたしの横でタオルを絞っていた。起き上がろうとするあたしを無理矢理寝かせて、タオルを額に置いた。

「病人なら大人しくしてろ」
「…誰のせいでこうなったんだか」

あたしが悪態付くと、勝は苦笑いを浮かべた。何かを言おうとした時。台所の方が騒がしくなった。

「新島、火が強い!!」
「うるせぇ!!」

佑とツネの口論の声。

「栗原さん、それ塩じゃなくて砂糖っスよ!!」

慌てるケースケの声。佑、おかゆに砂糖は入れないで、甘ったるくなりそう。

ガシャン

「どあっちゃー!!」
「うわっ、冷やせ冷やせ!!」

何かを落とす音と、同時に聞こえたツネの悲鳴。慌てる佑の声。

「皿はこれか?」
「ゲッ…卵のカラが…」
「ねぇ、林檎って摩り下ろし?」

その騒ぎをよそにマイペースな海斗、レン、千尋。

「うわ、おかゆさん沸騰してるっスよ!!」

慌てるケースケの声。火を止めろ、皿こっち、と色々な声が上がる。

「つーか作りすぎっしょ、これ。どうする、オレらで食う?」

レンの提案。

「じゃあ、隠し味は何が良いかな?っと♪」
「うわ、千尋テメェ今何持ってるんだ!!」
「栗原、止めろ、不破をおかゆに近づけるな!!」

千尋のうきうきした声と、佑とツネの悲鳴混じりの声。千尋、何持ってるの、ホント。

「あいつら、人の家で何やってんだ…」

勝が横で溜息を吐いた。あたしも苦笑する。

「おい、チビ」
「チビって何よ」
「…悪かったな、風邪ひかせた上に大騒ぎして」

あたしは驚いて勝を見上げた。

「…何だよ」
「いや…真田でも謝る事あるんだぁ…」
「そりゃああるっての」
「凪紗、おかゆできたぜ、食え!!」
「辛くても何か食べなきゃダメだよ、凪紗チャン♪」
「…真田、こっち、食うか?」
「うわあ、設楽さん、それは不破君がアレを入れて…!!」
「言うなケースケ、実験をだなぁ…」
「ツネのバカ、何正直に…」

続々と部屋に入ってくる6人。

「…テメェらオレに何を食わせようとしたぁ!!」

勝がツネとレンに技をかける。オロオロとするケースケ。放っておけ、と無責任な海斗。それを見て笑う千尋と佑。

…もしかしたら、皆で仲良くなれるかも。

青山豪(男子1番)が結城緋鶴(女子19番)に殺害された後になる。

真中那緒美(女子16番)はE=06エリアにある小学校の、3年2組と書かれた教室の中の、机の1つに腰掛けていた。
ぼんやりと後ろの掲示板に貼られた絵を見ていた。
恐らくテーマは『友達を描こう』か何かだろう。
その中に、2つの三つ編みにそばかすの女の子の絵があった。
自分に似ていたが、微妙に子供らしい下手な絵なので、思わず吹き出した。

那緒美はクラスに必ず1人はいる、ムードメーカー的存在だった。
クラス1のおてんば娘、濱中薫(女子14番)と共にクラスを盛り上げた。
全く意識していないが、2人の会話は漫才のようらしく、2人の会話を聞く周りの友達によく笑われていた。

全くもう、薫のヤツ、あたしの事忘れてたんじゃない?
酷いなぁ、置いてけぼりかぁ…
まあ、薫らしいかもしれないけどね…

那緒美は溜息を吐いた。
教室内での薫の様子から、何となく行動は予想できた。
怯えて外に出て、次の次に出てくる幼馴染の姫川奈都希(女子15番)にどうにかして会い、あまりの嬉しさに那緒美の事を忘れていた、というような事だろう。

薫、大丈夫かなぁ…
栗原君があんなことになって、結構こたえてたからなぁ…
凪紗ちゃんとか不破君とかも、心配だなぁ…

栗原佑(男子7番)の首が飛ぶ瞬間が脳裏によぎった。
関本美香(担任)の穴だらけになった死体も、死ぬまで頭から離れないだろう。

「…まったく、冗談じゃないよねぇ…」

那緒美は溜息を吐いた。

あの筋肉男ともやし軍団…
人に平気で銃向けたり、楽しそうに人の首を飛ばしたり…
神経イカれてるんじゃないの!?

大体、あたしたちが殺し合い?
バッカじゃないの、するわけないじゃない。
あんなに仲の良いクラスなんだよ、できるはずない!
2回聞こえた銃声だって、きっと誰かのデイパックの中に入ってて、興味本位で木とかを撃ったとか、怖がって動けなかった子に政府の人が威嚇で撃ったとか、そんなのだよね!

那緒美の頭には、クラスメイトが殺し合いをする姿は想像もつかなかった。
誰も、怖くない。

例えば片方の不良グループのリーダー、真田勝(男子9番)も怖くない。
見た目は少し怖いが、話してみれば意外と柔らかい印象を受けた。
無気力な感じだが、仲間の事になると少し熱くなるような、そんな人だ。

同じグループの新島恒彰(男子15番)も怖くない。
話をした事はあまりないが、友達を[ピーーー]ほど落ちてはいないはずだ。

那緒美からすると女子の中で最も近寄りがたい三河睦(女子17番)も怖くない。
怖がって震えているとは思えないけれど、殺しまわっているはずがない。
根拠は何もないけれど。

睦と同じグループの桐島伊吹(女子4番)も怖くない。
人に興味は持たなさそうな彼女も、今ならきっと友達を心配しているだろう。

大丈夫、誰も死んでいない。
自ら命を絶っていない限り。

大丈夫、皆が集まれば何とかなる。
このクラスには頭の良い人が沢山いる。

ここまでの前向きな考えは、常にプラス思考である那緒美だからこそ成せる業だろう。

ただ、注意が必要なのは、転校生の周防悠哉(男子11番)だ。
いくら那緒美でも、得体の知れない人間は怖い。

ま、あの人だけ注意しとけばどうにかなるでしょっ!

曽根崎凪紗(女子10番)は小学校のある方角を呆然と見ていた。
設楽海斗(男子10番)も同じく。

誰かが必死に停戦を訴えていた。
それが、真中那緒美(女子16番)だと気付いたのは、彼女が自分の名前を口に出した時だった。

那緒美なら大丈夫、嘘をついているとは思えない。

そう思い、2人で小学校へ向かおうとした、その矢先だった。

那緒美の様子が変わった。
恐らく誰かを見つけたのだろう。
武器を向けられたのだろうか、必死に訴えていた。

そして――銃声が響いた。

がしゃんという音が僅かに聞こえた。
那緒美の声は、もう、しなかった。

「那緒美…死ん…じゃった…?」

凪紗は錆びたブリキ人形のように、海斗の方を向いた。
海斗はゆっくりと、ビデオをスロー再生させているかのように、首を縦に1度振った。

「だろうな…」

「あの言い方…相手は転校生じゃ…ないよねぇ…?」

那緒美は『怖くないよ、大丈夫』と言っていた。
つまり、相手は怖がっていそうな――恐らく女子だろう。
或いは、怖がりそうな(例えば羽山柾人(男子16番)のようなひ弱そうな)男子か。
とにかく、転校生ではない事は確かだ。

「ヤバい…な」

海斗が呟いた。
ギリッと歯を食いしばった。

「何で…?」

「真中の事で、やる気がなくても殺される可能性がある事がわかった」

「…怖がる人が増えて、プログラムに乗る人が増えるかもって事?」

海斗は頷いた。

凪紗は拳で地面を殴りつけた。
許せない。
誰がやったのかはわからないが、絶対に許せない。

「ねぇ、海斗…
 たとえこの後怖がって乗る人が増えたとしても…
 那緒美のやった事は、間違いじゃないよね…?
 正しい事、やってたんだよね…?」

海斗は頷いた。

「真中は凄い。
 あんな事、よっぽど皆を信じていないとできないだろ」

「そうだよね!?」

凪紗は立ち上がった。

那緒美、アンタ偉いよ…!
後は任せて、絶対に皆を止めてあげるんだから!

「行こう!
 怖がってる子を安心させてあげなきゃ、それが役目だよね!」

「そうだな」

海斗もどっこらせ、と立ち上がり、荷物を肩に掛けた。

とりあえず、探知機によるとこのエリアには今は誰もいない。
他のエリアへ行こう。

絶対に、犠牲者を減らしてみせる――

C=07エリアにあるデパートの中では男子たちの忍んだ声が聞こえた。
他に何の音もしない為、それが懐中電灯の明かりしかない暗闇の中で響くように聞こえ、それを気にしてか、その声は更に小さくなる。

「でも…言えるか?」

稲田藤馬(男子4番)が幾分沈んだ声で訊いた。

「…オレは……ちょっと……」

藤馬の相棒である斎藤穂高(男子8番)の声も、藤馬のそれに劣らず沈んでいた。
藤馬はそうだよな、と呟き、俯いた。

「なぁ…どうする、不破…」

穂高が見た先、不破千尋(男子17番)は無言でぼんやりと外を眺めていた。
脱出する為の準備作業は、今は中断されている。
それどころではなかったのだ。
つい先程あった、放送のせいで。

つい先程、進藤幹也(担当教官)の相変わらずうるさい声で放送があった。
今奥で仮眠を取っている濱中薫(女子14番)が起きなかったのが不思議なくらいだ。

次に禁止エリアになるのは、1時からは東の方にある畑の一部が入っているE=10エリア、3時からはアスレチック公園の西の一部が入っているF=2エリア、そして5時からは南側の住宅地が入っているI=06エリア。

しかし、そんな事は今はどうでもいい。
問題は、この放送で呼ばれた死者だ。
今回呼ばれたのは、「このプログラムで最多だ」と進藤が喜んでいた、6人だ。
サッカー少年だった笠井咲也(男子5番)。
真面目な姿が印象的だった津田彰臣(男子13番)。
グループは違うが千尋とは気があった不良少年の脇連太郎(男子20番)。
文学少女で将来は小説家になると豪語していた小南香澄(女子6番)。
彰臣の幼馴染で薫とは部活仲間だった高山淳(女子11番)。
――そして、12時間ほど前まではここにいた、姫川奈都希(女子15番)。

薫は寝ているのでまだ知らないだろう。
部活仲間もだが、幼馴染がもうこの世にいない事など。

「なぁ、不破ぁ…」

「…ヤな天気」

千尋がぽつりと呟いた。
全く関係のない事だったので、藤馬は文句を言おうとした。
しかし、懐中電灯の明かりで僅かに見える千尋の表情は、今までとは違う悲しげな笑みを浮かべていたので、何も言えなかった。

「今日は晴れてたら満月に近かったのにね…
 まあ、気持ちが晴れ晴れしてる人なんていないだろうし…
 丁度いい天気なのかもね…」

それだけ言い、再び千尋は黙ってしまった。
藤馬と穂高は顔を見合わせ、外を眺めた。
確かに月は確認できない。
そういえば、千尋が夕方にぼやいていた。
「明日は雨かな」、と。
皆の気持ちに天気が同調するかのように。

千尋もショックを受けているのだろう。
連太郎とは気が合っていたようだったし、帰ってくると約束していた奈都希ももういない。

「おはよ…」

茂みの中に隠れていた設楽海斗(男子10番)と曽根崎凪紗(女子10番)は互いに顔を見合わせた。

偶然だった。
走ってきた2人の人物が、偶然にも凪紗たちの前で止まったので、とりあえず隠れて様子を見ていた。
その2人――周防悠哉(男子11番)と結城緋鶴(女子19番)はどうやら知り合いらしく、いけない気もしたが、隠れて話を聞いていた。

2人が元は恋人同士だった事には驚いた。
普段大人しそうな緋鶴が、悠哉のような派手な人と付き合っていたとは。
しかし、話が進むにつれて、更に驚いた。
“戦闘実験体”意味のわからない言葉が飛び、緋鶴は今までに4回もプログラムに参加してきたという。
あの緋鶴が、今までに何人も人を殺しているとは、想像もできない。

そして緋鶴が去った今、悠哉は地面に倒れたまま、何度も地面を殴っていた。
緋鶴を止められなかった事が悔しいようだった。

「…どうするんだ?」

海斗がもう一度訊いた。
凪紗は気遣わしげに海斗を見上げた。
海斗は溜息を吐き、僅かに笑んだ。

「わかってる、気になるんだろ?
 まあいい、悪いヤツではなさそうだからな」

「…ありがと、海斗。
 あの転校生怪我してるから、ほっとくわけにもいかないよ」

「そうだな」

凪紗と海斗は、再び悠哉に目を向けた。

 

「ねぇ、こんな所で寝てたら危なくない?」

悠哉の側に来た凪紗が、声を掛けた。
悠哉の頭がピクッと反応し、目線を凪紗に向けた。

そこを、1人の少年が歩いていた。
本来ならここにはいないはずの存在――転校生の周防悠哉(男子11番)。
転校生と言えば聞こえは良いかもしれないが、要はこのプログラムに自ら進んで参加しに来た志願者である。

元々は兵庫県神戸市にある中学校に通っている。
クラスでは中心に立って盛り上がるムードメーカー的存在で、本来なら殺害してしまった工藤久尚(男子6番)のような人は、一緒に盛り上がる事のできる好きなタイプだ。

部活はバスケ部に所属しているが、ほとんど参加していない。
それでも試合に出られるのは、ずば抜けた運動神経の成せる業だろうか。
スポーツならオールマイティにできるので、しばしば他の部活の助っ人に行ったりもしていた。

町で不良に絡まれれば喧嘩もしていた。
しかし、警察にお世話になったり停学になったりした事はない。
見つかる前にさっさと逃げるのは得意とするところだったので。

そんな少し人よりスポーツが得意で、少し喧嘩好きなだけの普通の中学3年生が、わざわざ全国の中学3年生のほぼ全員が選ばれないように祈っているであろうプログラムに志願した事には、当然理由がある。
政府の連中には『ちょっと興味があってん』としか言っていないが、当然こんなふざけたゲームに興味本位で来たわけではない。

探している人物がいる。
ただそれだけの理由だ。

少し抜けたところのある悠哉は、一度その人物を見つけたのにも拘らず、見失ってしまった。
いや、抜けていたからという理由ではない。
仕方がなかったのだ。
結城緋鶴(女子19番)を見失ってしまった事は。

緋鶴が学校の屋上で停戦を呼びかけていた少女――真中那緒美(女子16番)を殺害した瞬間は、しっかりと目に焼きついている。
その光景はあまりにショックで、思わず屋上の少女を見に行ってしまった。
もしかしたら息があるかもしれない、それなら手当てをしないといけないと思ったので。
もちろん少女は死んでいたし、その間に緋鶴はどこかへ行ってしまった。
それ以来会っていない。

その家のリビング。
その隅っこで、坂本陽子(女子7番)はガタガタと震えていた。
茶色に染めた髪も、部活で浅黒く焼けた肌も、少しヨレッとした夏服のブラウスも、赤黒く汚れていた。
親友の血の色だ。

親友の今岡梢(女子1番)を、この手で殺してしまった。
今思えば、梢には殺意は無かったのかもしれない(かも、ではなく殺意など欠片も無かった)。

凶器になってしまったナタは、デイパックに突っ込んで少し離れた所に捨て置いてある。
触るのも怖い。
また、恐怖で誰かを手に掛けてしまいそうで。

けど…だけど…
あたし、見たんだ…
新島君が…中原さんを…

何度も蘇るあの光景。
再会する事ができて安心しきっていた中原朝子(女子13番)に、毒薬を飲ませて殺害した新島恒彰(男子15番)の姿。
いくら不良と呼ばれているからと言っても、自分の彼女をあんなに簡単に殺害できるとは思わなかった。
朝子も信じられなかっただろう。

「…ダメ…やっぱり…信じちゃダメなんだ…っ
 うぅ…ああぁぁ…っ」

陽子は頭を抱えた。
悲鳴になりきらない呻き声が静かな空間に響くように聞こえた。

元々陽子は精神的に強くない。
所属するテニス部の練習でも、上手くできなかったら狂ったように叫び声を上げたりする。
それでもまだマシな方で、更に状況が悪化すると、部の備品を壊そうとする。
正気に戻った時に、いつも後悔した。
どうしてこんなにおかしくなってしまうのだろうか、と。

『大丈夫、落ち着いたらできますよ?』

同じ部活に所属する遠江敬子(女子12番)にも何度も諭された。
しかし、落ち着く事ができれば苦労はしていない。

もう半分くらいまで減っちゃったよね…?
プログラムは進行してるんだ…
淳も奈都希も死んだ…

次は、あたし…?

身震いがした。
歯がガチガチと音を立てた。

怖い…もう嫌…
家に帰りたいよぉ…っ

陽子は膝に顔を埋めた。
何かハプニングでも起こってプログラムが中止にならないだろうか?
死にたくない。
最悪、自分の知らない所で、皆が死んでしまったら良い。
そうすれば、自分は帰る事ができる。

G=06エリアは住宅地の端にあたる。
曽根崎凪紗(女子10番)と設楽海斗(男子10番)はその中を1軒1軒覗きながら進んでいた。
凪紗の持つ探知機に、反応があった。
同じような場所に2つ、少し離れた場所に1つ。
「むぅ…全部反応はこの辺だよねぇ?」

「ああ。 でも後はもう覗いていくしかないな」

2人の目的は仲間を探す事でもあるが、もう1つ、救急道具を探す事でもあった。
真田勝(男子9番)に襲われた時に傷つけられた海斗の肩からは、まだ少しだが血が出ていた。
ちゃんとした道具を探して手当てをしようとしたが、民家はほぼ全て鍵がかかっていて入れなかったし、入れても道具を見つけることが出来なかった。

 

「あ、ここは鍵が開いてる…」

凪紗がドアを開けた。
キィッと音がした。

「…油断するなよ」

「わかってる、入るよ?」

2人はそっと中に入り、ドアを閉めた。
念のため、鍵をかけた。

土足のまま廊下に上がった(だって埃っぽいし?)。
見つけたドアをそっと開けていく。
物置・トイレ・洗面所――建てられてから結構経っているのだろう、あちこちが薄汚れていた。

「んー…ないなぁ…」

物置を漁りながら凪紗が呟いた。
ここの住人が帰ってきたら驚くだろう、凪紗は物置に置かれた物をほとんど廊下に投げ捨てているのだから。

「…もう少し大事に扱えよ…」

海斗が溜息を吐きながらそれを廊下の隅に整頓して並べていた。

「だって海斗の怪我、早く手当てしたいもん!」

「いや、それはありがたいんだけどな、音は立てない方が…」

「…あっ」

凪紗の動きが止まった。
すっかり忘れていた。
この家には誰かがいるかもしれないのだ。

凪紗は物置を漁るのを止めた。
救急箱はなさそうだった。
一体どこにあるんだろう?

進藤幹也(担当教官)が大声で叫んだ。
後ろの方ではガタガタと席に着く音が聞こえるが、前の方ではほとんどが立ち尽くしていた。

設楽海斗(男子10番)は曽根崎凪紗(女子10番)を抑えたまま、呆然と栗原佑(男子7番)の死体を見つめていた。

信じられない。
佑が、死んでいる。
目の前で。

海斗は一緒に凪紗を抑えていた不破千尋(男子17番)の方を見た。
千尋は瞬きもせず、佑の方を凝視していた。
涙はないが、ショックを隠せないでいる。

いつも、4人一緒だった。
互いの足りない部分を補い合っているような、そんな関係だった。
そのピースが、1つ欠けた。

「…凪紗、座ろう。 千尋も、大丈夫か…?」

海斗は2人に声を掛けた。
千尋は今までに見せた事のないような呆然とした顔で、海斗を見た。

「…千尋?」

「あぁ…うん、大丈夫…」

千尋はずれかけた眼鏡の位置を直し、自分の席に腰掛けた。
海斗は、もう一度凪紗に声を掛けた。
しかし、凪紗は何も言わない。
聞こえてすらいないようだった。
海斗は凪紗に腰を下ろさせ、自分もその前に座った。
佑の顔が、よく見える。
怒りに満ちたその目は、天井を睨んでいた。

 

全員が、座った。
机の大部分が佑の血で汚れた池田圭祐(男子3番)の顔は青ざめていた。

進藤は佑の死体には目もくれず、話し始めた。

「わかったかな? 首輪はこうなってしまうんだ!!
 えっと…地図の話だったかな?
 君たちに配る地図は、100マスに分けられているんだ!!
 例えばここ、中学校はD=04エリア、という風になっている!!
 そして、6時間ごとに定時放送を行う!!
 その時に、禁止エリアというものを言うからな!!
 時間になってもそこにいる死んだ者はそのまま…
 だが、生きている者は、電波を送って…ボン!!
 栗原君のようになってしまうから、注意しような!!
 あと、怪しい行動を起こしても、こっちから電波を送る!!
 首を飛ばされたくなければ、頑張って殺し合おうな!!」

突然、後ろの方で誰かが呻き声を上げた。
吐瀉物が床にぶちまけられる音がした。
それを聞いて、またどこかで誰かが呻き声を上げた。
それの臭いと佑の血の臭いが、教室を満たしていた。

気分が悪い。
最悪だ、すべて最悪だ。

「さあ、何か質問はあるかな!?」

「…どうしても、しないといけないんですか?」

後方から聞こえた声は、稲田藤馬(男子4番)のものだった。
何人かが頷いた。
しかし、進藤は希望を打ち砕いた。

「しないといけないぞ、もう決まった事だ!!」

予想通りの返事だ、捻りも何もない。

「どうして…何でオレらなんですか…?」

いつも穏やかな柚木康介(男子19番)が、泣きそうな声で言った。

C=07エリアに聳え立つデパートの1階では、3人の少年少女がそれぞれやるべき事をしていた。
このプログラムを中止に持ち込むために。
作戦はいたってシンプルだ。
爆弾を作り爆破させ、本部ごと吹っ飛ばす。

爆弾を作る為に、爆薬の原料にする漂白剤を水で練り込み、それに木炭を砕いて入れ、ゆっくりと混ぜ合わせているのは、稲田藤馬(男子4番)。

そこから少し離れた所で、ガソリンに肥料を入れ、藤馬と同じように混ぜ合わせているのは、藤馬の相方である斎藤穂高(男子8番)。

そして、管理モニター室の前で監視カメラの画面とにらめっこをしているのは、姫川奈都希(女子15番)が抜けた為に紅一点となった濱中薫(女子14番)。

「うぇっ…ガソリン臭…っ
 換気しようぜ、換気っ!!」

穂高が眉間にしわを寄せながら叫んだ。
もうこれで何度目だかわからないが、穂高の顔色は悪い。

「穂高っ! 人が真剣に混ぜてる時に…
 これ、下手したら爆発する…って不破が言ってたんだぞ!?」

藤馬が叫び、溜息を吐いた。

「でも限界… 薫、頼む、窓開けてくれ窓っ!!」

「え? あ、うんっ!」

薫は慌てて一番近い場所にあった窓に手をかけた。
そこで、外に人影を確認した。
勢いよく窓を開け、大きく手を振った。

「おかえり、ちーちゃんっ!」

作戦を考えた張本人、不破千尋(男子17番)は少し驚いた表情を浮かべたが、すぐにいつもの笑顔を浮かべて手を振り返した。

千尋はドアをキィッと開け、ガソリンの臭いに僅かに顔をしかめた。

「おかえり、探し物は見つかったか?」

外の空気を吸う為に入り口まで来た穂高が、深呼吸をしながら訊いた。
千尋は口には出さなかったが、Vサインをした。
それを見て、穂高は「そっか」とにっこりと笑った。

千尋は1時間半ほど前に探し物をする為に外へ出た。
探し物は必要な薬品類、向かう先は南西にある小学校だ。
小学校といえば、クラスメイトに停戦を呼びかけて何者かに殺害された真中那緒美(女子15番)がいた場所だが、那緒美を見る気にはならなかったので、理科室を探してそこから薬品を持ち出し、そのまますぐに戻ってきた。

千尋は荷物を置き、中から学校から持ってきた物を出した。
そして、籠に入れて置いてあった陶器でできた花瓶と、何の変哲もない砂糖も取り出した。

「よし…こんなもんでしょ」

意気込む千尋の前に、薫がしゃがんだ。

「…ちーちゃん、これで何か作るの?」

「ん? あぁ、大した物じゃないよ、ただの簡易手榴弾。
 武器になるかな、と思ってさ」

「手榴弾!?」

離れた所で聞いていた藤馬と穂高が声をそろえた。
薫も目をぱちくりとさせている。

「おい不破、お前何でそんな事できるんだよ…
 どういう環境で育ったらそんな知識が…」

「失礼な、普通の環境だし、育ったのは普通の家庭――」

千尋は口を噤んだ。
ふっと笑う声が漏れた。

不破千尋(男子17番)は不敵な笑みを浮かべ、監視カメラの画面に背を向けた。
濱中薫(女子14番)がばっと振り返る。

「ちーちゃん!?」

「おい、不破、何する気だよ!?」

稲田藤馬(男子4番)も振り返り叫んだ。

「…逃げた方が良くないか?
 相手はわけわかんない転校生だぜ!?」

斎藤穂高(男子8番)が千尋に近づき訊いた。
しかし、千尋は首を横に振った。

「転校生をここに入れるわけにはいかないでしょ?」

「じゃあ皆で…」

「1人で大丈夫だよ」

千尋は藤馬の提案をあっさりと却下した。
ウージー9ミリサブマシンガンの紐を肩から下げ、不安げに見つめる3人の方を向き、にっと笑った。
それは普段浮かべているのとは少し違い、3人はそれぞれ顔を強張らせた。
それもそのはずだ、この笑顔を喧嘩相手に向けると、相手は必ず怯むのだから。

「オレは、負けない」

千尋はそれだけ言い残し、外に出て行った。

「不破…死んだりしないよな…?」

「大丈夫だよ、ちーちゃんは。
 薫は、ちーちゃんを信じるの」

藤馬と穂高が心配そうに千尋を見送る横で、薫ははっきりと言った。

『曲者』で『悪魔』――それが他のクラスの不良たちから見たちーちゃん…
だったら、こんな所で負けたりはしないはず…
それでなくても、薫は信じてるよ…
だって、ちーちゃんが負けるところなんて、想像できないもん!!

 

 

千尋は外に出た。
少し建物から離れたところで、声を掛けられた。

「ちょっとそこのお兄さん♪」

千尋が睥睨すると、そこには肩まで伸びた茶髪に鋭い目――周防悠哉(男子11番)が笑顔で手を振っていた。

「…やぁ、周防悠哉クン…といったかな?」

千尋も笑顔を返す。
ただし、互いに相手の腹の探りあいをしているので、笑顔を浮かべてはいるが和やかな雰囲気ではない。

千尋が認識した時には、既に悠哉の手にはコルト・ガバメントが握られており、弾が発射されていた。
弾は千尋の左腕に着弾し、思わず顔をしかめた。
悠哉はすぐに千尋に突っ込んでいき、左の拳を振るう。
顔面めがけて殴りかかってくる拳を、千尋は何とか腕でガードする。
千尋は悠哉の手を振り払い、ウージーを向け、引き金を引く。
悠哉は咄嗟に横に飛んで茂みに入り、その弾の嵐を避けた。

あまりに速い出来事に、千尋は少し荒くなった息を整え、ギリッと歯を食いしばった。
左腕をゆるゆると血が流れ、地面に少しずつ血溜まりを作っていく。

…思ってたより素早い…
反射神経は、海斗クン並ってとこか…
大きい銃は、こっちの動きが鈍って不利だね…

千尋は悠哉を見据えたまま、デパートの窓――換気のために薫が開けていた――からウージーを投げ入れた。
「うわっ」という声が中から聞こえた。
千尋は前に外に出たときからずっと腰のベルトに差し込んであったワルサーPPKを左手に取った。

これで万が一コイツが中に入っても迎撃できる…
ま、そんな事はさせないけど?

「なんや、武器2つも持ってたんか…
 つーかやっぱ中に誰かおるんやな?」

悠哉がニッと笑む。
千尋も笑みを返す。

「関係無いね、どうせ君は中には入れない…」

「…言い方があるんちゃう?
 気に入らんわ……邪魔や、アンタ」

悠哉が再びコルト・ガバメントを構えた。
引き金が引かれたが、千尋は今度は横に飛んで避ける。
千尋がワルサーの引き金を引くが、悠哉には当たらなかった。
千尋は舌打ちをし、悠哉に突っ込んでいった。

千尋は喧嘩歴はそれほど長くないし、格闘技をやってきたわけでもない。
しかし、素手の喧嘩では今までに一度しか負けた事が無かった。
それはとても小柄で可愛らしい女の子――曽根崎凪紗(女子10番)。

肉弾戦では負けるわけにはいかない…
オレに勝っていいのは、凪紗チャンだけ…
オレの上に立っていいのは、凪紗チャンだけ…

こんなヤツに、オレは負けない――

「邪魔はそっちだ、周防悠哉」

千尋はカッと目を見開き、ワルサーを悠哉に向け、撃った。
あまりに至近距離だったので悠哉は避けきれず、弾は初めて悠哉を捕らえた(頬を掠めただけだったが)。
すぐに横向きに倒れた悠哉の上に飛び乗り、ワルサーの銃口を悠哉の額に当てた。

「退け」

ワルサーの銃口をきつく押し付けた。
薫たちが聞いたら驚くだろう――普段は中性的な千尋の声は、今ははるかに低く静かだった。
悠哉の喉が一度だけ上下に動いた。

「…わ、わかった… 入らんから、それ直してくれへん?」

千尋は動かない。

「…頼むわ、誓うわ、もうアンタを襲ったりせぇへんから!!」

千尋は少し迷った後、悠哉から離れた。
もっとも、銃口はまだ悠哉に向けていたが。

悠哉はその場に座り、溜息を吐きながら頭を掻いた。

「ったく、このクラスありえんわ…
 アンタといい、最初に会ったチビちゃんと大きい男のペアといい…」

チビちゃんと大きい男…?
それってまさか…

「その…小さい方って…茶髪を二つくくりにした女の子…?
 男の方って、やたら無愛想な…?」

千尋の口調も声色も普段通りに戻っていた。

「何や、知っとるんか…って当然やな、クラスメイトやし。
 ありえんねん、チビちゃんに投げ飛ばされてん!!」

千尋の考えは確信に変わった。
凪紗と設楽海斗(男子10番)だ。
千尋の顔に、今までで1番の笑顔が浮かんだ。

アスレチック公園の一部になるF=04エリアは、休憩所のような簡単なつくりの建物がある。
中にはベンチとゴミ箱と自動販売機しかない。

小南香澄(女子6番)はそのベンチの中の1つに腰掛けていた。
自動販売機を壊してジュースでも飲もうと思ったが、香澄にはそんな力はないし、電気の通ってない自動販売機の、生ぬるい賞味期限がいつかもわからないようなジュースを飲むのは気が引けたので、それは諦めた。
因みに、すぐ隣のエリアにはアスレチックを陣取っているミステリアスな少年、長門悟也(男子14番)がいるが、香澄はその事には全く気付いていない。

香澄は反射的にとはいえ、人を殺してしまった。
彼――柚木康介(男子19番)は、狂っていた。
奇声をあげながら香澄に襲い掛かってきたので、反射的に手に持っていた小型自動拳銃(ファイブセブン)の引き金を引いてしまった。
あの時の光景は今でも目に浮かぶし、初めて引いた引き金の感覚もしっかりと手に残っている。

康介は普段はとても穏やかで優しい人だった。
常に周りの人に気を使っていて、修学旅行で同じ班になったので班行動をしていた時も、班員に気を配り、疲れきっていた黒川梨紗(女子5番)の荷物を持ったりもしていた。

そんな彼も、命のかかったこの状況では思いやりの欠片も感じられなかった。

あれが、素だったのかな…?
ううん、そんな事は無いよね、きっと。
混乱しただけで、狂っちゃっただけで、理性が働いていれば優しい人。

このクラスには、優しくて楽しい人たちがたくさんいる。
それは作り上げた性格なんかじゃない、そう信じている。

香澄は自分の荷物から1冊のノートを出した。
ごく普通の大学ノートだが、中はびっしりと文字が書かれている。
香澄が何かがある毎に書き記していた、このクラスの物語。
今のクラスになった2年の1学期から記録を始めた。
このノートは3冊目だ。

香澄はノートをパラパラと捲った。
修学旅行の事はまだ書けていないので、一番新しい大きな行事の記録は、篠山中学校春の恒例行事、新入生歓迎春の運動会だ。
運動会と言ってもそんなに体育会系の行事ではなく、楽しく障害物リレーをやってみたり、音楽を流してイントロクイズをしたりという楽しい行事だ。

 

とても楽しかった。
いつになく盛り上がった。
というのも、曽根崎凪紗(女子10番)率いるグループと真田勝(男子9番)率いるグループ、2つの不良グループが何故か燃えていたからだ。
“やるからには優勝を狙う”をモットーに掲げ、クラス全体が盛り上がった。

障害物リレーでは濱中薫(女子14番)が網の下をくぐり、高山淳(女子11番)が体を10回転させられて目を回し、伊達功一(男子12番)が何が混ざっているかわからないミックスジュースを一気飲みして、吐きそうになりながらも1位でアンカーにバトンを渡したにも拘らず、アンカーの栗原佑(男子7番)がハードル跳びで派手にこけて最下位になってしまった。
佑は後で勝や新島恒彰(男子15番)あたりにボコボコにされていた。

イントロクイズでは真中那緒美(女子16番)が意外にも音痴である事が発覚し、クラス全員に爆笑され、那緒美自身も大声で笑っていた。
バンドでボーカルをしている斎藤穂高(男子8番)がマイクを持った時には、2・3年の大勢の女子が盛り上がり、一時穂高のワンマンショーのようになっていた。

春の運動会内では珍しく運動会らしいリレーでは、それぞれ部活で陸上部顔負けの走りを見せる笠井咲也(男子5番)・工藤久尚(男子6番)・今岡梢(女子1番)・駿河透子(女子9番)と、「リレーなら任せろ」と参加した設楽海斗(男子10番)・不破千尋(男子17番)・凪紗といった不良グループの面々と、篠山中学校が誇る陸上部エースの椎名貴音(女子8番)が、見事なバトンリレーを見せて全校1位をもぎ取った。
応援はこの時が1番盛り上がっていた。

そして最後に1クラスずつが走ってタイムを競った40人41脚では、梨紗が最初に転んでそれが波紋のように周りに広がってしまい、それが何度も繰り返されて記録は悪かった(時には羽山柾人(男子16番)もこけていた)。
梨紗が何度も泣きながら謝っていたのを、皆で慰めた。

 

皆楽しくて良い人ばかりで…
でも、こんな事になっちゃったから、もうあのクラスには戻れないんだなぁ…

ノートにぽとっと雫が1滴落ちた。
黒目がちの大きな目には、涙が滲んでおり、それは頬を伝ってノートに落ちていった。

もう、あのクラスには戻れない。
たくさんのクラスメイトが死んでしまった。
不味そうなミックスジュースを見事飲み干した功一も、ハードルに引っ掛かって派手に転んだ佑も、音痴ながらも一生懸命歌っていた那緒美も、リレーで見事な走りを見せたも久尚も梢も、皆死んでしまった。
それも、クラスメイトに殺されてしまった。

どんな気持ちだったんだろう…?
仲が良いと思っていたクラスメイトに撃たれたり刺されたりして、何を思って死んでいったんだろう…?

あたしに撃たれた柚木君は、どんな気持ちだったんだろう…?

姫川奈都希(女子15番)はF=07エリアにいた。

奈都希は幼馴染の濱中薫(女子14番)と共に、C=07エリアで稲田藤馬(男子4番)と斎藤穂高(男子8番)、そして不破千尋(男子17番)と共にプログラムを潰し逃げ出す為の作戦の準備をしていた。
しかし、とある事情で今は別行動をしている。

事情――愛しい人を探す事。

隠しているつもりだったが、見事に千尋に見破られ、半ば強引に追い出された。

『行きたいなら、後悔したくないなら、探しに行くべきだね』

千尋が言った事は、その通りだと思った。
行かないで後悔するなら、行って後悔した方が良い。
もちろん、後悔する気は無いけれど――いや、無かったけれど。

奈都希も当然1時間ほど前にあった放送を聞いていた。
愛しい人――工藤久尚(男子6番)の名前が呼ばれていた。
とてもショックだった。
体の震えが止まらなかった。
それでも、涙は出てこなかった。
頭のどこかで、久尚の死を信じていなかったからかもしれない。

しかし――

奈都希の足元の砂は、赤黒く汚れていた。
教室でしたような血の臭いはしない。
地面に染み込み、乾いたのだろう。

そして、その汚れた血の上には、見慣れた人。

工藤久尚がうつ伏せで倒れていた。

久尚……

奈都希はその場に膝を付いた。

そっと久尚に触れた。
人とは思えないほど、冷たくなっていた。

ぐっと力を込め、仰向けにした。
カッターシャツの腹の部分が黒くなっていた。
他には傷らしきものが見当たらない。
腹の傷が致命傷だったという事だろうか。

頬に付いた土を払い落とした。
小石がめり込んで型ができていたが、それ以外はほとんど変わらない、いつもの久尚の顔だ。
眠っているように穏やかだ。

「久尚…何穏やかな顔してんのよ…
 アンタ、死んでるんだよ…?」

この傷がどれだけ痛いものなのかは想像もつかない。
ただ、今まで感じた事の無いような痛みだっただろう。
それなのに、どうして表情に出ていないのだろう。
死ぬ瞬間、何を考えていたのだろう。

奈都希は久尚の体を抱き寄せた(死後硬直の為にとても大変だったが)。
愛しい人の一度は触れてみたいと思っていた体は、生きている時に想像していたものとは違っていた。
本当なら、生きている時にこうしてみたかった。
『うわ、何するんだよぉ!!』とでも反応してくれただろうが、当然の事だが反応は無い。

「ごめんね、久尚…
 アンタ好きな人いたのかな…?
 だったら、ホントごめんね、あたしなんかがこんな事してさ…」

奈都希が久尚の事を好きなように、久尚も奈都希の事が好きだったという事は当然知らない。

「でもさ…ちょっとくらい…良いよね…?
 あたしさぁ…好きだったんだよ、久尚…」

当然の事だが、返事は無い。
それでも奈都希は続けた。

「ほら、修学旅行…グループ一緒だったじゃん?あそこで…言えばよかったんだけど……あたしにだって…照れとか不安とか…あったわけよ……」

奈都希は久尚の体を抱いたまま、ばっと振り返った。
銃を構えたそのクラスメイトの姿に、言葉を失った。
さらっとした黒髪に、可愛らしいがどこか毒のありそうな笑顔、華奢な体つき――美作由樹(男子18番)だった。
それなりに親しかった友人だった。
由樹は銃――S&W M36を下ろした。

「奈都希ちゃん…」

由樹は奈都希の顔をじっと見つめ、不思議そうに首を傾げた。

「どうして、そんなに泣いているの?」

「え…?」

奈都希は思わず声を洩らした。
“どうして”、それはこちらのセリフだ。
どうしてこの状況がわからない?
奈都希の腕の中には、動かなくなった久尚。
好きな人だったということは別にしても、仲の良かった友人が目の前で死んでいれば泣くだろう。
もしも泣かなかったとしても、理由は明白だ。

それなのに。

「ユキちゃんは…悲しくないの…?
 久尚、死んでるんだよ…?」

由樹は瞬きをするだけで、何も言わない。

「何で!? 何とも思わないの!?
 ユキちゃんだって久尚と仲良かったじゃない!!」

それでも何も言わない由樹を、奈都希は睨み上げた。

「頭おかしいんじゃないの!?
 悲しいだとか悔しいだとか…何か感じるのが普通でしょ!?
 何でそんなに平然としてんのよ!!」

由樹は笑顔を浮かべたまま、溜息混じりに首を軽く横に振った。
何故か、寒気がした。

「うーん… やっぱ僕って…頭おかしいのかな?
 久尚が死んでも、功一が死んでも、別に何も思わないんだ。多分、奈都希ちゃんが死んでも、何も感じないよ」

それをまじまじと見つめていた今岡梢(女子1番)は、自分の鞄をそっと線に当てた。
バチッという音がし、鞄の端が焦げた。

うっわぁ… 電流とか流れてんのかねぇ…
念入りだな、有刺鉄線張るだけで十分じゃん…

梢は心の中で悪態付き、傍の家の庭に入り腰を下ろした。

クラスの女子の中で唯一身長170cmを越す梢は、運動能力に恵まれ、所属している(していた、だな。帰られそうにないし)バレー部でも活躍していた。
体力には自信があったが、放送ごとに減っていくクラスメイト、いつ襲われるかわからない恐怖などが手伝って、疲れが溜まっていた。

最悪だな、プログラムなんてさ…
あたしってあんま運良くないけどさ、まさかねぇ…プログラムかよ…
疫病神でも憑いてんのかねぇ…?

「…いや、違うな…」

梢は呟いた。
静かな場所はあまり好きではないので、自分の声だけでもそれなりに落ち着ける。

「あのバカのせいじゃん…
 つーかあのバカに会った事が不幸の始まりだもんな…

 …そうだよ、全部アレのせいだ!!」

梢は怒鳴り、壁を殴った。
ハスキーな声を持つ梢の怒鳴り声は、クラスの友達にも部活の友達にも恐れられている。
好きでこんな声をしているわけじゃないんだけど…

 

 

「なぁなぁ、オレと付き合わない?」

「…は?」

あれは中2の始めの頃だ。
初めての会話がこんなものであるのはどうかと思う。
しかし、彼はそれをやってのけた。
今思えば、彼との出会いが不幸の始まりだったのかもしれない。

初めてクラスメイトになった彼、伊達功一(男子12番)。

「…アンタ誰?」

「うわ、キッツー!
 オレね、伊達功一っつーの、よろしく!」

何なんだコイツは、それが第一印象だ(当然でしょ?)。

「で、なんで初っ端に告ってんの?」

「梢ちゃんってバレー部だろ?
 オレバスケ部なんだよね。
 で、部活の時に梢ちゃんを見て、一目惚れってわけ。
 好きだぜ、梢ちゃん」

何で名前を知っているのか、何で馴れ馴れしく“梢ちゃん”と呼ぶのか、気になったがまあいい。
顔は良かったし、ノリも良いので、付き合ってみるのも良いかと思った。
後々後悔するとは思ってもいなかった。

付き合うのは楽しかった。
功一は明るい性格でリードも上手く、色々な所に遊びに行ったりもした。

津田彰臣(男子13番)は今にも泣き出しそうな表情で、建物の屋上から下を見ていた。

下には、幼馴染だった伊達功一(男子12番)が倒れている。恐らく、もう息はないだろう。首が変な方向に曲がっており、頭の下には血が広がっている。自分が直接手を下したわけではない。功一が勝手に落ちた。自分は助けようとして手を伸ばしたが、届かなかった。――と割り切ってしまう事ができれば苦労はしない。オレがコウに怪我をさせなければ、コウは死ななかった…オレのせいだ…

彰臣は頭を抱えた。気が合わないとはいえ、掛け替えのない幼馴染を殺してしまった。その罪悪感は、彰臣の背中にずっしりと圧し掛かっていた。

「コウ!!?」

下で悲鳴とも取れる叫び声が聞こえた。
彰臣は弾かれた様に顔を上げ、屋上から僅かに身を乗り出した。この声は…

「コウ、何でこんな…っ」

功一の傍に駆け寄っていた人物が、建物を見上げた。
彰臣と目が合った。
彰臣は慌てて顔を引っ込めた。

どうする… 見られた…
もう、駄目だ…っ

彰臣はその場に蹲った。
全身がガタガタと震える。

下にいたのは、この状況を誰よりも見てほしくなかった、もう1人の幼馴染で彰臣の想い人――高山淳(女子11番)だった。
淳はこの状況をどう見たかはわからない。
ただ、十中八九、彰臣が功一に突き落とされたとでも思うだろうが。

階段を駆け上がる音が聞こえる。
徐々に大きくなっている。
間違いなく、淳だ。

どうなる…責められるよな、やっぱり…
決定的に嫌われただろうな…どうする…?

彰臣は、自分のアーミーナイフをじっと見つめた。ナイフ部分は赤く汚れている。

…仕方が、ないよな…当然の報いだよな…オレは、人を殺してしまったんだから…

ナイフを、そっと自分の手首に当てた。
震えを何とか堪え、静かに目を閉じた。

ごめん、淳… オレ、ちゃんと責任取るから…コウが死んだのは、オレのせいだから…頼む、嫌いにならないでくれ…自分勝手な願いだけど…頼むよ…

ナイフが僅かに皮膚に食い込み、そこから赤い液体がじんわりと滲んだ。

同時に、パンッと屋上のドアが開いた。

「アキ、何やってんだい!!」

淳が怒声を上げ、彰臣に突っ込んできた。
彰臣の手からナイフをもぎ取り、遠くに放り投げた。
そして、彰臣の肩を掴んで激しく揺らした。

「アンタ今何しようとしたか、わかってんのか!?」
「じゃあ…どうしろってんだ…」

消えてしまいそうな彰臣の声に、淳は眉間にしわを寄せた。彰臣は両手で自分の頭を抱えた。

「コウが…死んだのは…オレのせいだ…オレが…殺したようなものなんだ…っ」

淳がはっと息を呑んだ。

「それって…どういう…」

彰臣はしばらく黙っていたが、やがて訥々と語り始めた。自分と功一の間に起こった衝突の事、功一が襲ってきた事、功一の目を切りつけてしまった事、そして――

会場内に音楽が流れ始めた。
某人気アニメの初代オープニング曲だ。

「やあ、みんな、おっはよ?!担任のサトルだぜ!」

1日目、午前6時――担当教官のサトルの声が、機械を通して聞こえてきた。

「あ、6時かぁ…」

「ホントだ、時計ちゃんと合わせないとね」

瀧野槙子(女子9番)が顔を上げた。
横では同じ中間派グループの佐々川多希(女子6番)が持参した時計の時刻を合わせている。

「じゃあ、さっそく死んだ仲間の名前を言うぜ!
 死んだ順番だから、気をつけてくれよ!」

ガサガサッと紙の擦れる音が聞こえた。

「えっと…まず、女子19番の森秋乃ちゃん!
 続いて女子18番の向井あずさちゃん!
 女子22番の若狭恵麻ちゃん!
 そして男子10番の西田大輔君!
 始まってから間もないからなぁ…まあまあのスタートだぜ!
 この調子でがんばってくれよ!」

やだ…まだ始まって1時間ちょっとしか経ってないのに…もう死んじゃった人が…?

槙子は溜息を吐いて名簿にチェックを入れた。
涙は出てこない。
まだ“死”に対する実感がないからだろうか。

「続いて禁止エリアだ!
 最後の人が出てから20分後だから、6時12分にG=04エリア!
 7時からはI=02、9時からはH=04、11時からはD=10だ!
 いいかい?この時間を過ぎてもそのエリアにいたら首輪がボンッ!
 だから、ちゃんと離れろよ!
 G=04、I=02、H=04、D=10だからな!
 みんな、がんばって殺しあってくれよ!
 あ、死神君はもう既に殺しているからな!
 うかうかしてると10人殺されちゃうぞ!」

ブツッと放送が切れた。

禁止エリアは自分たちがいるI=08エリアとは当面関係がなかった。

ちなみに、2人が今いるのはI=08エリアにある稔が丘高校内にある化学実験室だ。
鍵が開いていたので入れた。

「タッキー…もう4人も死んじゃったね…」
「う…ん」

多希は自分の黒髪のショートカットの頭を掻いた。これは多希が考え込んだ時に必ずする癖だ。

何考えてるのかな…?まさか脱出の方法?無理だよね、そんなのは…

多希と槙子なら、成績は槙子の方が上だ。しかし、それは教科書範囲での知識の量の話。雑学に関しては多希の知識はすごい。槙子の知らないことを沢山知っている。槙子は無意識に自分の髪に触れた。2つに結んだ肩までの髪は、今はボサボサになっていた。あっちゃー…結構必死に走ったもんなぁ…

とりあえず髪を結び直すことにした。
多希は時々名簿を見たりしながら相変わらず考え事をしていた。

「マキ、作戦会議しよっ!」

10分ほどたった後、突然多希が槙子に声を掛けた。

「作戦…会議?」
「うん、これからどうするのか…とりあえず、あたしは何もせずに死ぬのは嫌だな。マキは?」
「あ、あたしも嫌…」

多希が名簿を机の上に広げた。
既に退場した4人の名前には斜線が引かれていたが、それ以外にチェックが入っていた。

「もしも、明らかにやる気になりそうにない人で
 更に他の人のために自[ピーーー]るような人だったら、
 死神を選んだ意味がないじゃない?
 明らかにやる気になりそうな人が死神になったら
 その人はがんばって10人殺そうとするし、
 他の人は10人にならないように少しでも沢山の人を殺そうとする…
 それが死神の存在理由だと思うんだよね。
 そうすれば進行も早くなるでしょ?」

そこまで言うと、槙子は名簿を見た。
女子にもチェックが入っている。
これは最初の推理が当たっている可能性がそこまで高くないからだろう。

多希の言う死神候補はこの通りだ。

稲毛拓也(男子1番)
戎嘉一(男子2番)
西川東(男子9番)
浜本卓朗(男子11番)
良元礼(男子16番)
近藤楓(女子5番)
瀬川小夜(女子8番)

「あれ?」槙子は首を傾げた。

「戎君と浜本君…何で?
 2人とも大人しい人じゃない?
 楓と小夜ちゃんも…。
 むしろ良元委員長の友達の方が怪しいんじゃ…」

もっともな話だった。
戎嘉一は恐らくクラスの男子の中で1番大人しい。
浜本卓朗は真面目ないい人だ。
槙子たちと同じグループである天条野恵(女子12番)の彼氏だ。
2人ともやる気になりそうではない。

「そうなんだけどね…」多希が溜息を吐いた。

「ほら、戎君って大人しかったでしょ?
 だからかえって何をするかわからないんだよなぁ…
 浜本君はお兄ちゃんがプログラムに巻き込まれたでしょ?
 政府の人たちがオフザケで死神にしちゃうかなって思って。
 まあ、これは信じたくないな…野恵のためにも…ね。
 委員長の友達は怪しいとは思うけど…そんなに悪い人じゃないと思う…
 楓と小夜はね…グループ対立がすごかったでしょ?
 もしかしたら相手のグループを全滅させようとするかもって…
 自分たちのグループが生き残るために…
 もしかしたら秋乃たちを殺したのも…」

槙子は俯いた。
多希はクラスメイトを疑っている。
みんなやる気なんじゃないだろうか…と。
しかし、男子委員長グループの一部をやる気にはならない、という考えは、少しだけでもみんなを信用したい、という気持ちがあるからだろう。

確かに疑ってみれば全員疑わしい。
しかし、ここで信じなくてはいけない。
疑心暗鬼に陥らせることが、このプログラムを円滑に進行させることになるのだから。

「そうだ、これからの作戦だねっ」

多希は思い出したようにポンッと手を合わせた。

「あたしはね、脱出したい。 ここから…」

「脱出? 出来るの?」

槙子が訊くと、多希は首を横に振った。

「わからない…けど、信用できる人を集めて脱出したいの。
 そのためには、また知恵を振り絞らなきゃいけないんだけど…
 とりあえず野恵を探したいな」

今回のプログラムの会場の端、A=01エリアは森だ。
木が好き勝手に伸びているので、日の光も届きにくい。
そのため、他の場所より涼しく、避暑にはもってこいの場所だ。

そんな場所にいるのは真木頼和(男子14番)。
頼和はMDウォークマンで音楽を聴きながら涼んでいた。
今聞いている音楽は、米帝(アメリカの事を大東亜ではそう呼ぶ)から輸入されてきた退廃音楽、つまりロックである。
頼和は隠れロックファンだ。
何しろ日本では禁止されている音楽、政府にバレたりしたらどうなるかわかったものじゃない。

何でこんなカッコイイ曲、ダメなんだろうな…
絶対流行ると思うんだけどなぁ…

因みに、クラス内にはもう1人ロックファンがいる。
和久瑛介(男子18番)だ。
瑛介は一見真面目そうに見えるが、実はとても不真面目な人間だ。
オマケに軽楽部に入って、顧問にも内緒でロックを演奏しているらしい。
いつかロックについて語り合ってみたい、と思った事もある。

あーあ、オレは結局誰とも共通の趣味について語り合うことがないのかな…
死にたくないけど…それはみんな同じだろうし…
オレ、襲われても抵抗できないし…

頼和はもう何度したのかもわからない溜息をまた吐いた。
そして、ポケットに入れていた1枚の写真を取り出した。

せめて…せめて君には会いたいな…
最後に…気持ちを伝えたいな…

その写真には、隠し撮りをした佐々川多希(女子6番)が写っていた。
コーラス部の大会会場にこっそり行き、出てきた多希を撮ったものだ。
ストーカーっぽい行動をした事はわかっている。
しかし、頼和はあまり異性に親しく話し掛けることが出来なかった。
部活のテニスの大会では常に優勝するという優秀な成績を持っていたが、それとこれとは話が別だ。

「佐々川さん…元気にやってるかな…?
 そう簡単に死ぬ人じゃないと思うんだけど…ねぇ?」

頼和は写真の中の多希に声を掛けた。
当然の事だが、答えてはくれない。
頼和がそう考えるのには理由がある。
多希は頭が良い。
成績もいいが、それ以上に色々な知識を持っている。
きっと今も、その知識をフル活用して脱出方法か何かを考えているに違いない。
頼和はそう考え、ずっと今の場所から動かずにいた。

きっと、ここで勇気のある男子…
例えば…星弥とかならきっと好きな女子とか探しに行くんだろうな…
でもオレは…怖いな……
できればずっとここでロックを聴いていたい…
最悪な男だと思われるかもしれないけど…
オレはまだ死にたくないし、佐々川さんだってきっと生きてるはずだ…
でも…佐々川さんは女の子だし…
きっと怖がってるかもしれないし…
守ってあげるべきだよな、男として…
でも…

頼和の頭の中ではこの考えがずっと回っていた。
もしも武器が良い物なら、きっと探しにいっていただろう。
しかし、頼和のデイパックに入っていたものはスプーン1本だけだった。
今回の支給武器で最もハズレの物だろう。
ナイフのように切ることも出来なければ、フォークのように突き刺すこともできない。

これが自分の支給武器だと気付いた時はショックを受けた。
スプーンを思い切り地面に叩きつけた。

ちくしょう、これで目でも抉ってろっていうのか!?
あのペケモンマスターめ、ふざけんな!!

因みに『ペケモン』というのは、今子供たちに人気のあるアニメの名前だ。
主人公『サトル』がペケモンを連れて旅をしてペケモンを戦わせて…
あの担当教官は、正にサトルのコスプレだ(名前まで一緒にしていやがる)。

居心地が良い場所だったので、離れるのは名残惜しかったが、そんなことを言っている場合じゃない。
ゆっくりと周りの様子を見ながら進んだ。

途中公園を通った。
地図でいうC=03エリア、様々な遊具がある。
その遊具の中で最も背の高いアスレチック。
その下を通りかかった時、少し離れたところに何かが落ちているのがわかった。

え……何だアレ……?

頼和がゆっくりと近づくと、それは人であることがわかった。
女子だ、茶髪の。

あ……酷い……

それは昼の放送で名前を呼ばれていた月野郁江(女子11番)だった。
左腕と背中の左部分がどす黒く染まっている。
近くの草も、血の海になっていたらしい、今は血が固まっているが。
口も血で汚れており、目は見開かれていた。

「うぅ…っ!」

胃の中の物が一気に逆流を始めた。
頼和はその場で吐いた。
胃の中にはあまり物が入っていなかったので、あまり出なかったが。
あたりにすっぱい酸の匂いが充満した。

頼和はデイパックの中からペットボトルの1本を出し、残っていた半分の水を一気に飲み干した。
荒い息をしながら、頼和はよろよろと立ち上がった。

行かなくちゃ…行かなくちゃ…
佐々川さんのこんな姿…見たくない…
早く離れよう…少しでも早くここから……

おぼつかない足取りで何とか5mほど離れた所で、頼和は立ち止まった。
くるっと方向を変え、郁江の所まで戻ると、郁江を仰向けに寝かせた。
顔のあちこちに赤紫っぽい斑点が付いていて(死斑とかいうやつか)、それでまた吐き気が襲ってきたが、今度はこらえた。
目を閉じさせた後、腕を組ませようとしたが、硬直していたために出来なかった。

「月野さん…成仏してよね……
 無理かな…こんな理不尽な殺し合いに巻き込まれて…」

自分の手の中には銃(CZ M75)が握られている。
その銃口からはまだ煙が出ていた。
目の前には稲毛拓也(男子1番)が転がっている。
理由は簡単だ、彼の命を奪ったのは他の誰でもない、自分なのだから――

戎嘉一(男子2番)はCZ M75を下ろし、拓也の死体を見つめた。
腹の傷によって、カッターシャツは赤く染まっていた。
頭の傷からはゆるゆると血が流れている。

「稲毛…ケンカは強かったんだけどね…
 こんなにあっさりと死んじゃうんだねぇ…」

嘉一は拓也の傍に落ちていたダガーナイフを拾い上げた。
これが拓也の支給武器だったのだろうか?
とにかく、拓也はそのナイフで嘉一を殺そうとしていた事には変わりはない。

「全く…
 太陽を背に襲ったらバレバレじゃないか…
 ま、クラス最下位らしいし、仕方ないかな…」

嘉一は決して気配に敏感な方ではないし、反射神経も良くない方だ。
それでも拓也の存在に気付いたのは、拓也が朝日を背に立ったため、影が出来てしまったからだ。
その影に気付き、そちらを向いた時に拓也は丁度ナイフを振り上げていた。
だから、返り討ちにする事が出来たのだ。

とりあえず、嘉一は拓也のズボンに手を突っ込んだ。
紙に触れたのがわかり、それを出した。
真っ白の紙だった。

なんだ、死神じゃないのか…
コイツはオレを殺そうとしたのか…
ただ人数を減らすためだけに…

ふーん、と2,3度頷いた。

「一応同じ考えかな?
 ただ僕は君みたいに計画性の欠片も感じられないバカじゃないけどね」

クラスの連中はバカばかりだ。
一緒にいてもつまらない連中ばかりだ。
成績がどうこう、という問題ではない(因みに嘉一は10位前後を彷徨っている)。
存在がバカらしいのだ、つまらないのだ。
だから誰とも喋る事はなかった。
周りから見れば、真面目で根暗だとか思われているだろうが関係ない。
つまらない連中の相手をするほど暇ではないだけだ。

まあ、あんなバカなやつらは生きていても仕方がないだろ?
生き残るべきは…僕だよなぁ?

嘉一は右の方で分けている髪に触れた後、黒渕の眼鏡をクイッと上げた。
そのレンズの奥の目は、殺意に満ちていた。

 

 

 

 

嘉一が拓也を殺害するところを、誰も見なかったわけではなかった。
実は嘉一から5mほど離れたところに1人の少年がいた。

三木総一郎(男子15番)は今、走ってアパート密集地を抜けようとした。
涙が溢れ、鼻水も垂れていた。
男子で1番小柄で丸っこい総一郎は、転がるように走った。

戎が…戎が稲毛を殺した!
みんなやる気なんだ!!
昨日まで仲が良くても関係ないんだ!!
昨日の友は今日の敵だ!!

総一郎は自分のズボンのベルトに挟んでいたコルトガバメントM45口径を抜いた。
決して使わないだろうと思っていた。
さっきまでは。

しかし、もう誰も信用してはいけない。
何人生き残る事が出来ようが関係ない、信ずる者は己のみ、だ。
親友だった真木頼和(男子14番)も、時々休み時間に一緒に騒いでいた川口優太(男子4番)も信用してはいけない。
嘉一などは論外だ。
目の前で殺人をやってのけたのだから。

一番最初に目を覚ましたのは佐々川多希(女子6番)だった。
あれ…? あたしは確か勉強合宿で……

周りを見て、多希ははっきりと目覚めた。
自分は錆びたパイプ椅子に腰掛け、木製の机に身を任せていた。
明らかに旅館ではない。周りを見ると、誰も起きていなかった。席順は夏休み前の授業時の席順と同じだった。窓際の後ろから2番目、そこが多希の席だった。どうやら、手入れしていない教室らしい。黒板もちゃんとあるが、電気は薄暗いし机は埃が被っている。

「ちょっと……茉有? 茉有ってばぁ……」

後ろの席にいた親友の野尻茉有(女子15番)の肩を揺すった。しかし茉有は目覚めない。茉有の肩を揺らしながら、多希は茉有の首に銀色の何かが付いているのがわかった。

何だこりゃ……悪趣味だなぁ……

しかし、それが周りのクラスメイトにも、そして自分にも付いているのがわかった。存在に気付くと急に鬱陶しい存在になる。

「ふああああ……」

あくびが聞こえ、多希は右を見た。男子委員長の良元礼(男子16番)だ。

「い……委員長……」

多希が声を掛けると、礼は振り向いた。そして、にっと笑った。

「よっす、グッドモーニング。 ……佐々川、今何時だ?」

多希は自分の時計を見た。超人気テレビアニメの『ドラ太郎』というネコ型ロボットの絵がある時計だ。あ、いや、そんなことはどうでもいい。

「えっと……4時前だよ、あ、午前の」
「あ? なんだそら。 ほとんど一日寝てたのか、オレら……」

そうだ、最後の記憶は朝ご飯を食べていた時だ。ちょっと寝すぎかな?頭がぼーっとしてる……おなかもすいた。

そのうち、生徒たちがだんだん起き始め、室内がざわついてきた。

「タッキー、何これ……」

茉有が目を覚ました。何か、だって? 知るかそんなもん。

多希が見回すと、誰とも喋っていない生徒が目についた。

多希の前方、1番前に座る幼馴染の天条野恵(女子12番)が、隣の席に座る彼氏である浜本卓朗(男子11番)やその後ろの月野郁江(女子11番)と喋っているために喋る相手がいない小路幽子(女子7番)、多希の2列横の武田紘乃(女子10番)の1つ後ろ、普段から友達付き合いがほとんど無い戎嘉一(男子2番)、嘉一の2つ横、男子に周りを囲まれている大野迪子(女子3番)、そして廊下側(船海第一中学と同じなら)の1番後ろで腕組をしている稲毛拓也(男子1番)。拓也の口が僅かに笑みの形を作っているような気がした。

稲毛君……何か知ってるのかな?

そう思ったが、詳しく聞くことはなかった。教室前方の扉がガラッと開き、4人の男女が入ってきた。

「さぁ、みんな静かにしろよぉ!」

赤い帽子を被った4人の中で最も背の低い15,6歳頃の男(160ないかもしれない)が叫びながら手を叩いた。すぐに教室内は静まり返った。

「ようし、みんなイイコだな!はじめまして、今日からみんなのトレーナー…いや、担任になったサトルだぜ!よろしくな!ついでに、皆から見て1番右にいるのが、タケル…あ、タケルはお姉さん大好きだから、女の子は注意してね!その横にいる見るからにオテンバそうな気の強そうな女はアスミだ!自称オテンバ人魚らしいけど、絶対ウソ、むしろ魚人…ウソだよ、イテッ!そして、1番左にいるキザなヤツは、オレのライバルのシゲキだ!皆君たちの世話をしてくれるんだ! よろしくな!」

タケルは今から登山にでも行くのかという格好をしている。アスミはヘソ出しにミニのズボン、海の近くに住んでいそうだ。さすが自称人魚。シゲキは普通の紫色のトレーナーを着ている。何なんだ、このアンバランスな組み合わせは。

え? 何、この人たち……何?

多希が声を出そうとしたとき、ガタッと椅子の動く音がした。

「何なんだ、お前らは……何するんだよ?」

それはクラス1騒がしい人間、堀田勝海(男子13番)だった。

「最初の人は……君だぜ! 男子12番、平野辰紀君!」
サトル(担当教官)の声に、平野辰紀(男子12番)の体がビクッと震えた。

マジかよ……何でオレ? 40人もいるのに何でオレなわけ?

「平野君、はやくしなさいよ!」

紅一点のアスミ(軍人)が喝を入れたので、辰紀は立ち上がった。
その時に「ひゃい!」という返事も忘れていない。
アスミがフフッと笑った。

「ここのエリアは、最後の人が出てから20分後に禁止エリアになるから、
 気をつけろよ!
 次の人が出てくるのは2分後だ、見つからないようにな!」

サトルが付け足した。

知るか、んな事は最初に言っとけよ!

ほのぼの系グループの1人と言われる辰紀でさえ、もう堪忍袋の緒が切れていた。
自分のショルダーバッグを担ぎ上げると、デイパックの所へ行った。
そこで1番温厚そうなタケル(軍人)がデイパックを1つ持った。

「今からオレの言う事を3回言って?
 『私たちは殺し合いをする』…はい?」

何だ? 何言ってるんだ、コイツ……誰が言うか!

…などと思っていたが、この中で最もクールそうなシゲキ(軍人)が銃を構えたので、やけくそになって叫んだ。

「私たちは殺し合いをする、殺し合いをする、殺し合いをする!
 チクショウ!」

「『やらなきゃやられる』……はい?」

「やらなきゃやられる、やらなきゃやられる、やらなきゃらられる!
 クソ!」

「はい、よくできました。 最後噛んでたけどな。 舌回ってないぞ?」

デイパックを受け取ると、辰紀は走って部屋から出て行った。

「2分後、天条野恵さんの出発だぜ!」

試合開始 7月24日午前4時22分――

辰紀は外に出た。右側には木が茂っている。放っとかれたせいだろう。四方八方にツルも蔓延っている。

「チクショウ、何でこんな目に合わないといけないんだよ…」

とりあえず植物の中に隠れた。当然、殺し合いなんかには乗らない。だから、仲間を探そうと考えた。しかし運の悪いことに、親友の神田輪(男子5番)・関克哉(男子8番)・浜本卓朗(男子11番)、全員当分出てこない。そういえば、武器っていうのが入ってるんだっけ……何だろ?デイパックを開き、中を漁った。ペットボトル、不味そうなパン、地図、懐中電灯…ん?何か丸いものが……それが何か、すぐにわかった。自分が見慣れているもの…サッカーボールだった。はぁ!? ふざけんな! そりゃオレはサッカー部だよ! でもこれが武器? 武器じゃないっしょ、これは!しかし、捨てるのも勿体無いので、それの上に腰掛けてみた。チクショウ、椅子じゃないって!

「両手を挙げて?」

不意に後ろから声を掛けられた。同時に、後頭部に何かが押し付けられた。え? もしかしてオレって早速やばい!?

「ちちちち違う! オレやる気じゃないし!つーか武器サッカーボールだし! 命だけはぁ!」

全く、なんて情けない姿だ。しかし、手を挙げて必死に命乞いした。こんな所で出てすぐ殺されるなんて最悪だ。

「さ…サッカーボール? それって武器?」

聞き覚えのある声だった。それなりに交流のあった少女の声だった。

「て…天条?」
「ん?何?」

少女…天条野恵(女子12番)が、いつもと変わらない調子で訊き返してきた。
辰紀は脱力した。

「オレの頭に押し付けてるの…何?」
「ん? あぁ、ゴメンね、タツキ君。これ、あたしの支給されたヤツ。 君のと同レベルかもね」

辰紀が振り返ると、野恵が右手に携帯電話を持って微笑んでいた。どうやら頭に押し付けていたのはアンテナ部分だったようだ。

「け…ケータイ?」
「うん。 最悪だね、あの政府…武器って言うから銃とかナイフとか想像してたのにね」

嫌だ!オレはまだ死なないんだ!
死なない、死にたくない!!
西田大輔(男子10番)は逃げた。
必死に走った。

「ちくしょう、待ちやがれ!ブッ殺してやる!!」

後ろからはケンカが強いことで有名な不良、西川東(男子9番)が追いかけてくる。

何でだよ、どうしてオレを追いかけてくるんだよぉ!!
オレが何をしたんだ!?
ちくしょう、だから不良は嫌なんだよぉ!!

 

 

先ほど良元礼(男子16番)が若狭恵麻(女子22番)らを襲った銃声は教室で聞いた。

 

バババッ

 

「ヒッ」と前の席の瀧野槙子(女子9番)が小さく声を洩らした。

「あ、みんな早速バトルしてるな!」

サトルがニカッと笑いながら言った。

何度か銃声が聞こえた後、それは静まった。
その銃声は大輔を怯えさせるには十分だった。

出発後大輔は丁度東から10mほど離れた場所で息を潜めていた。

嫌だ、何でオレがこんな目に遭わなきゃならないんだよぉ!
オレはまだ死にたくない!生きたいのに!死にたくないよぉ!!
誰か助けて助けて助けて!!誰かぁ!!

とりあえず、誰もいなさそうな民家か何かに入って落ち着こう、そう考えて大輔は四つん這いのまま移動を始めた。

 

ガサッ

 

「うわああああ!」

大輔は思わず大声を出してしまった。
目の前にいたのが、果物ナイフを持った西川東だったので。

ヤバイ!殺されちゃう殺される殺される!!

「嫌だ嫌だ嫌だあああ!!」

「待てよ」

大輔は必死に逃げようとしたが、東にカッターシャツを掴まれて身動きが取れなくなってしまった。

「ひぃぃ!」

嫌だ!あのナイフで斬る気なんだ!
首とかザクッとやっちゃう気なんだ!
嫌だ嫌だ!!

「助けて…死にたくないぃ!!」
「うるっせぇな。黙れ!」

頬を殴られた。

「痛いっ痛いいいい!!」

そうか、リンチか!ちくしょう、オレをリンチしてから[ピーーー]気なんだな!?ちくしょう、[ピーーー]なら一気に殺せ…って死にたくないんだって!嫌だ!こんな所で死んでたまるかぁ!!大輔はデイパックを振り回した。それが東の頭に当たり、ガンッという音を立てた。東の手が離れた。やった!まだ死なない!何が入ってるんだ、このデイパック…そういえば、まだ武器の確認してなかったなぁ…

草が多い茂っている以外に何もないH=03エリア、その草の間から一人の少女が顔を出した。
クラス内での身長の低さは5本の指に入る。
ほんの少し染めた茶色の髪で2本のみつ編みを結うその少女は、可愛らしい容姿からクラス内、外両方から人気があった。
その少女――武田紘乃(女子10番)は溜息を吐いた。

朝の放送を聞いて涙が出てきた。
昨日まで仲良くしていたクラスメイトたちが死んでいくのはショックだった。
しかも、4人のうち3人が自分と親しかったので尚更――

紘乃は瀬川小夜(女子8番)率いるグループの人たちと仲が良かった。しかし、あまりの大人数で騒ぐのはあまり好きではなかった紘乃は、大抵月野郁江(女子11番)と一緒にいた(グループ争いに巻き込まれたくなかったことも原因だ)。

ああもうあたしの大バカ!
どうして郁ちゃんを待たなかったのよぉ!冗談じゃない、こんな所で1人きりなんて…

紘乃はずっと後悔していた。出発直後は恐怖で頭が混乱していたため、人を待つということができなかった。たった4分待てば郁ちゃんに会えたのに――考えれば考えるほど、悲しくなった。

紘乃は出発後ずっと同じ場所に隠れていた。別に武器が外れだったわけでも、移動がつらいわけでも、恐怖で足が竦んでるわけでもない。

支給された武器はベレッタM8000という自動拳銃だ。説明書を見てもよくわからないが、撃った時の反動が吸収されるため、連続発射時の命中精度が高くなるらしい。しかし、その銃は今はデイパックの中にしまってある。紘乃はバドミントン部員だった(引退したから過去形でいいのよ)。部内では3年12人中3番目に強かったし、それなりに筋力も発達していた。その気になれば銃を手に会場内を歩き回ることも出来るが、それはしなかった。
紘乃にはやる気の欠片もなかった。

確かにこの状況、4人が死んでいる状況は怖かった。しかし、足が竦んで動けないほどではない。クラスの大半の生徒を信用しているから。人殺しをするような人ではない、と。名前を呼ばれた4人は死神に選ばれた人が仕方なく殺してしまったんだと考えることにした。

どのくらいの時間が経っただろうか。

周囲の僅かな葉が擦れる音にも敏感に反応し、常に辺りを見回している。緊張しているために少し疲労している。

疲れた…おなかすいたなぁ…

ガサッ  ガサガサガサッ

紘乃の小さな背中がピクッと震えた。
偶然風で葉が擦れた音ではない。そして、その音は徐々に近づいてきていた。誰…誰なの……?

「ひ…紘乃……お前紘乃か?」

声変わりした男子生徒の声。それは自分がクラスの男子の中で最も聞きなれた声だった。紘乃はほっと溜息を吐き、笑顔で振り返った。

「テツ君……」

その少年は岡哲平(男子3番)だった。
最も親しい人物――紘乃の恋人だ。紘乃の左手の薬指にはめられた指輪、これも哲平からのプレゼントだ。

「紘乃…よかった、探してたんだぜ。…横座ってもいいか?」
「あ、いいよ。 どうぞ」

哲平は紘乃の横に腰掛けた。そして、紘乃の肩に手を回した。

「会えてよかった…紘乃チビだから見つからないかと思ってたぜ」
「あ、失礼なっ!」
「ゴメン、ジョーダンだよ。でも無事でよかった…怪我はしてないな?」

紘乃は自分の体重を哲平に預け、小さく頷いた。幸せだった。大好きな人と一緒にいられることが。

「紘乃はさ、これからどうするつもりだったんだ?」

まだー

電子音の間隔が、もう殆どなくなっている。
咲良は撫子の腕にしがみついた。
撫子は咲良を護るように立っていたが、その身体は震えていた。
瑠衣斗は2人から離れた所でその様子を見ていたが、眉を顰め、目を伏せた。

「いやっ、死にたくない、死にたくないのにぃいぃっぃいぃぃッ!!!」

「助けてよ、誰か、誰かああぁぁぁぁぁぁあぁぁっぁッ!!!」

短音が繋がったロングトーンの電子音と、2人の悲鳴が響き渡った。
電子音が鳴り止んだ刹那、くぐもった爆発音が鳴った。
咲良たちの眼前の3か所で、紅い噴水が噴き上がった。
静寂の中、液体が地面に落ちる音だけが耳朶を打つ。
呆然と鮮血の舞う光景を見つめていた咲良と撫子の足元に、ころころと何かが転がってきた――その大部分が紅く汚れた、恒祐の、頭部だ。

『咲良は、お祖父ちゃんの“葉鳥神道流”が嫌いかな?』

『うん、さくら、ピアノしたりおえかきしたりする方が好き。
 だって、たたいたりけったりしたら、された人がいたいでしょ?』

『そうかそうか…それでいい。
 咲良、お前は人の痛みをわかってあげられる優しい子でありなさい。
 そして――』



「咲良さん…傷…痛みますか…?」

ぼそぼそと低く小さな声で池ノ坊奨(男子四番)が気遣わし気に聞いてきたので、上野原咲良(女子二番)は顔を上げ、できるだけいつもと変わらない笑顔を浮かべられるように表情筋を動かし、奨の小さく鋭い目を見つめた。

「大丈夫だよ、心配してくれてありがとう、奨くん」

腕の傷はずきずきと痛み、あまりの痛みに頭痛までしてきた。
しかし、これ以上心配を掛けるわけにはいかない。
ただでさえ教室を出発した時には奨に支えてもらわなければ立ち上がることすらできない状態だったし、今は真壁瑠衣斗(男子十六番)と高須撫子(女子十番)が咲良の腕の怪我を処置し直すために、少し離れた場所にある診療所に必要な物を取りに行ってくれている。
こんなにも皆に迷惑を掛けてしまっていることが本当に情けない。

木戸健太(男子六番)がいない。
城ヶ崎麗(男子十番)がいない。
そのことがこんなにも響くなんて。

本当に心から愛しくてたまらない恋人の健太。
少しぶっきらぼうなところはあるけれど優しくて、とても真っ直ぐで熱くて目標のための努力を惜しまない、男らしくてかっこいい人。
初等部時代のとある出来事の際に初めて健太と出会ったのだが、曲ったことが許せない正義感の強さとどんなことにも怯まない勇ましさに、一目で惹かれた。
まさか中等部に上がって、健太が帝東学院に入学してくるとは思っていなかった。
再会できたことが嬉しくて、健太も咲良のことを覚えていて声を掛けてくれたことが嬉しくて、咲良と同じように健太も自分のことを想ってくれていたということを告げられた時はそのまま昇天してしまいそうな程だった。
毎日話をして、休日は健太はテニス部の活動があるのでそこに顔を出して、たまに休みになると一緒に出かけて(2人で並ぶと咲良の方が背が高い。咲良はそれが少し嫌だった。もっと小柄に生まれたかった。咲良の身長は168cmと女子平均を遥かに上回り、クラスでは荻野千世(女子三番)に次いで背が高い)――些細なことがとても幸せで、このままこの幸せが続いていけばいい、そう願っていたのに。

心臓が止まってしまいそうだった。
もしも健太や麗、朝比奈紗羅(女子一番)や鳴神もみじ(女子十二番)に万が一のことがあったとしたら――すぐに駆けつけたいのに、その場を動くことが許されず、気が気ではないまま1時間半も経ってしまった。
無事であることをただ祈るしかなかった。

どうして、プログラムに選ばれてしまったのだろう。
どうして、プログラムなどというものが存在するのだろう。
クラスメイトが傷付け合うことを大人たちが強制するなんて、おかしすぎる。
田中顕昌(男子十一番)だって、横山圭(男子十八番)だって、死ななければならない理由なんて何一つなかったのに――いや、誰にだって死ななければならない理由なんかあるはずがない。

咲良は自分の隣に転がっている特殊警棒に目を向けた。
デイパックの中に入っていた物だ。
咲良の祖父が師範をしており咲良も幼い頃から鍛錬を積んできている“葉鳥神道流”は総合武術のため、素手での格闘だけでなく剣や薙刀などの道具を使ったものもあり、棒を使用しての格闘も当然身に付けてはいるのだが、それをクラスメイトに使えるかというと話は別だ。
人の痛ましい様を見るのは大嫌いだ。
本当は、格闘技や武道も好きではない。
祖父が師範をしていなければ、絶対に縁を持つことはなった。
試合も好きではないのに、戦闘だなんて、絶対に嫌だ。

「あたしも、奨くんみたいなのがよかったな…
 武器なんて、欲しくなかった…」

「……これは……多分……」

「うん、政府の人たちにしてみたら“ハズレ”…なんだろうね。
 でも…優しくて温かい奨くんらしい気はする。
 これって、ロイヤルゴペンハーゲンでしょう?
 あの人たち、センスは良いと思うな」

太陽の姿はまだ確認できていないが、空が白み、木々に付けられた頼りない電球など必要としない程に周りは明るくなってきた。
プログラム本部である小中学校からは真西に位置するE=02エリアも緑が多いが頭上に茂る葉の間から薄い青色が確認でき、周りの景色を確認することができるようになってきていた。
学校の周りに比べれば木々が少なくて周りの状況を確認しやすいこの場所は、更に西へ行けば島の端に出るからか、そよぐ風には僅かに潮の香りが混ざっている。
地図によればあと数十メートル西に行くと森が切れて原っぱになっており、御神島の周りをぐるっと1周している道路に行きつくらしい。

…まあ、どうでもいいことだけど、そんなの。

芥川雅哉(男子二番)は大きな欠伸をし(首を上げたら、背中を預けている木の幹に頭部をぶつけた、痛い)、両腕を目一杯上げて固まっていた体を伸ばした。
目に入りそうな位まで伸ばしている銀色の前髪を指で摘まんだ――あーあ、せっかくプリンになりかけてたのを一昨日染め直して赤メッシュもちゃんとやり直したのにプログラムだってさ。染め直した時間と金返せっての、まあ金があってももうどうにもならないけど。
まさか自分のいるクラスがプログラム対象クラスに選ばれるとは、夢にも思っていなかった。
眠らされ、変な部屋に閉じ込められ、謎の首輪を付けられ、見知らぬ男たちが突然「殺し合え」と強要してくるだなんて、笑えなさすぎる。

『選ばれたのが雅哉で良かった』、そう思っていることだろう、両親も、他の親族も。
そして、兄も。


雅哉には3つ年の離れた兄がいる。
雅哉の物心がつく前から兄は物事の吸収が早くしっかりしていたそうで、両親や親族からその将来を既に期待されている存在だった。
両親はどんな時でも兄のことを優先し、期待に応えて成長していく兄に一層の期待をかけ、兄がやりたいと言った習い事は何でもさせて兄が欲しいと言ったものは何でも買い与え、兄は一家の王だった。
雅哉はいつもそんな兄の陰にいた。
運動はできない、勉強も苦手――周りの同級生より遥かに劣っていた雅哉に対する両親の見切りの早さは生みの親とは思えないものだった。
何をどんなに頑張っても、誰も見てくれない。
それなら、何もしなくても変わらない。
気付いた時には、雅哉は何に対しても執着できない人間となっていた。

優秀な兄は、3年前には名門帝東学院中等部の生徒会長を務め、現在は高等部で再び生徒会長の職に就いている。
文武両道で人望もある、学院内の人気者だ。
そんな兄は、弟である雅哉のことを無視している。
“芥川”という苗字はそうあるものではないので、雅哉のことを知った周りの人間が「弟君もきっとあなたに似て優秀なんでしょう」と訊く度に、兄は「あれと俺を結び付けるのはやめてくれないか」と言って血の繋がりを拒絶していると噂で聞いた。
そのことが耳に入れば弟が傷付くことなんて聡明な兄ならわかるだろうに。
雅哉は当てつけのように、悪目立ちするように髪を銀色に染め、足りないと見ると赤メッシュを入れ、ごついピアスをいくつも耳に付け、指にもごてごてとしたリングをはめ、嫌でも人の目に留まるような容姿をした。
へらへらと女子に声をかけ、軽い告白をし、軽い男を演じた。
振られるなら振られるで、そこまでその子への執着がないので全く引きずらないし、稀にこんな野郎に引っ掛かる女子もいたけれど少し付き合って上手くいけばその身体をそれなりに堪能させて頂いて(お育ちの良い人間の多いこの学校じゃ、経験値はトップクラスだと自負している。負けてるかもしれないのは、援助交際していると噂のある星崎かれん(女子十六番)くらいだろう)それで終わり。
お陰様で雅哉の評判は男女共にすこぶる悪く、きっとこの噂は高等部にも届いているのではないだろうか。
兄がどれだけ否定しようが雅哉は正真正銘血の繋がった弟だ、雅哉の行動はきっと兄の評判を僅かだろうが落としていることだろう――いい気味だ。

そんな雅哉がもう家に帰って来ないかもしれないという事実に、あの家族が心の底から悲しむはずなどないのだ、むしろ帰って来なければ良いと思っているだろう。
それならば、とっととこんな人生を終わらせてしまえばいい。
生まれ変わって新しい人生を謳歌する方がよっぽど良い。

これだけうだうだと考えるのなら自殺でもすればいいのだが、ところがどっこい雅哉に支給された物は扇子だった。
扇子自殺、だなんて聞いたことがない。
こんな物ではどうすることもできないので、今ものうのうと生きている。

そしてもう1つ、死に踏み切れない理由があった。
その理由は、眼前にある。

「…芥川くん…?
 どうしたの、ぼーっとしてるけど…あ…体調良くない…?」

向かいで膝を抱えて座っている奈良橋智子(女子十一番)が、泣き腫らした赤い目を雅哉に向け、心配そうに眉をハの字に下げていた。

「…内緒、言ったらトモまた泣くから」

「……良い話…のわけ…ないよね……こんな…プログラム…の中だし…」

智子はじわりと目に浮かんだ涙を指で拭い、小さく笑った。
無理して笑うことないのに。
どうせ雅哉に気遣って笑顔を浮かべたのだろうけれど、かえってこちらが気を遣ってしまうので困る。

智子は3年A組の副委員長だ。
ただしこれは智子が立候補して役職に就いたのではなく、新学期の始めの委員会を決めるホームルームの時に、星崎かれんや湯浅季莉(女子二十番)が「奈良橋さんがいいと思いまーす」という推薦という名の押し付けを行い、智子はそれを断ることができなかったので任命されることになったものだ。
押し付けられてもきっちりと仕事をこなす辺り、智子は根っから真面目なのだと思う――つまり、雅哉とは真逆の人間だ。
共通している点といえば、お互い友人と呼べる存在がいないことくらいだろうか。雅哉は自分で自分の評価を落として周りが寄って来なかったし友人を必要とすることもなかったからなのだが、智子は見る限りでは、人見知りがあまりにも激しくてなかなか人に声を掛けられず、特にA組の女子には気の強い者が多いので、誰とも関係を築くことができなかったのだろう。

そんな智子こそが、雅哉の命をも握るチームリーダーだ。
智子が自らの腕のリーダーの印を見た時の錯乱の仕方は凄まじかった。
普段は物静かな智子が、「わたしなんかがみんなの命を背負うなんてできるはずがない、誰かわたしを殺して!!」と、珍しく感情を爆発させ泣き喚いていた。
メンバー全員で動きを抑えて宥めて、ようやく大人しくなった。
今も時々泣いているのは、その重圧に耐えかねてのことだろう。

残りの2人は現在近くの探索に出ているので、留守を預かる雅哉が智子の様子をしっかりと窺っておくことを頼まれた。
雅哉自身はそこまで生に執着がないのだが、この場にいない2人が智子の死によって突然首輪が爆発するというのは流石に気の毒だし、それ以上に、何となく、智子には死んでほしくないような気がしているのだ。
多分、自分のことを見てくれる唯一の存在だから、という理由で。

「トモ」

「…何、どうしたの…?」

声を掛けると、絶対にこちらを向いてくれる。
家族にすら無視されることの多かった雅哉にとって、それがどれだけ希少なことか。

「…んーん、別に。
 トモは可愛いなーって、見てただけ」

「やだ…こんな時に冗談とか言わないでよ…」

ふいっと顔を逸らされた。
でも耳まで真っ赤になっているところが、本当に可愛いと思う、ウブだなって。
その耳に触れたらもっと赤くなるのだろうか、見てみたい――雅哉は身を乗り出して四つん這いで智子に歩み寄り、手を伸ばした。

後頭部に、鈍痛。
上部からの圧力を受け、雅哉は地面に顔面をぶつけた。

上から降ってきた女子の声に、雅哉はほっと胸を撫で下ろした。
雅哉のことを愛称で呼ぶ奇特な女子はクラスにたった1人しかおらず、その1人こそが雅哉と智子と運命を共にする同じチームの一員なので。
雅哉は自分の頭を押さえつける圧力が弱まったのを感じると、押さえつけていた何か(まあ、足だな。靴で踏まれた感触だ)を振り払うように無理やり起き上がりつつ首を捻って足の主を見た。

「…ちょっとさー、スカートの下にショートパンツ履くのやめよーぜ、つまんねー。
 水玉模様とか期待してた――いてててっ!」

「この状況でセクハラ発言はどうかと思うぞ」

耳たぶを引っ張られた後、最後の1人のチームメイトの声が降ってきた。

「ははっ、ジョーダンだって、ジョーダン!
 場を明るくするジョークじゃん、ね」

「もっと楽しい内容にしてよ、内容がサイテーっ。
 あー戻ってきて良かったぁ、智子、コイツに変なことされてない?」

空の明るさが髪を透かし、一層赤みが増して見える茶髪のショートヘアーが眩しい。
アングル的には短いスカートの中を十分覗けたのだが残念ながら黒いショートパンツという男の敵とも言えるガードを身に付けていた水田早稀(女子十七番)は、もう一度雅哉の頭を踏み付けた後、大袈裟な口調で智子に声を掛けていた。
早稀は智子に嫌がらせをしていたかれんや季莉といつも行動を共にしていたが、サバサバとしている早稀がそのような行為をしているところは一度も見たことがないし、智子も早稀と同じチームになったことにストレスを感じている様子はない。

余談だが、早稀のことも口説いたことがあるのだが、「軽い男とかサイテー」と一蹴された上に、顔面にパンチを喰らった。
一時期喧嘩に明け暮れていたらしい、という噂のことを忘れていたので完全に油断していたために、左頬に出来た痣は暫く消えなかった。

「…何も変わったことはなかったか、芥川」

「特に何も。
 そっちこそさ、2人きりで何してたんだか――いてっ」

「ただの探索だっての、お前が期待してそうなことは何もねーよ」

雅哉の脳天にチョップを喰らわせた後横にどさっと腰を下ろしたのは、早稀と現在付き合っているという日比野迅(男子十五番)。
独りでふらふらしている雅哉とは違い、クラスの中心で盛り上がるグループの一員。
180cmという身長と抜群の運動神経を活かしてバスケットボール部で活躍するスポーツマン、つまり雅哉とは真逆の人間だ。

「早稀ー、奈良橋も、集合」

迅は女子2人を呼び、4人は小さな輪になって座った。

「とりあえず俺と早稀で南の住宅地に行って、食糧と救急道具持ってきた。
 飯は缶詰と菓子くらいしか見つからなかったけど、ないよりマシだろ。
 早稀ー、良い子だから、菓子全部食うなよ?」

「食べないよっ、全部はっ!」

早稀がぷうっと頬を膨らませると、隣で智子が小さく笑った。
迅もふっと笑みを零したが、すぐに真顔に戻った。

身体が弱いので、今のように長時間外にいて不規則な生活をすれば恐らくすぐに熱を出すだろうし、例えば誰かに襲われたとしても走ることができるのは僅かな距離で、それ以上は身体がもたない。
なんという足手まとい、我ながら笑える弱さ。
こんな自分と同じチームだなんて、皆超ハズレくじ引かされたんだな、カワイソウ。

「…やっだ、そういうことは早く言ってくんなきゃ!!」

早稀が叫んだ。
迅も早稀も呆れたことだろう。
智子はリーダーだからたとえ足を引っ張っても護るだろうけれど、ただのメンバーで嫌われ者で病弱な雅哉のことなど見捨てるに決まっている。
家族ですら見捨てたのだから、関わりの薄いクラスメイトなら尚更だ。
見捨てるなら見捨てればいい、慣れてる、そんなの。

しかし、早稀の言葉は雅哉の予想とは違うものだった。

「ってことは、万一の時は、智子とマサを先に逃がすって方向でいいのかな、迅」

「…だな。
 俺と早稀で時間を稼ぐから、無理しない速さで逃げてもらうって感じだな。
 言うだけなら簡単なんだけどなー。
 あ、薬は絶対落とすなよ、芥川」

雅哉は目をぱちくりとさせた。
迅も早稀も、雅哉を見捨てるという選択肢は端からないような口調で、当たり前のように雅哉をも護ろうとしている。
命懸けの状況で、“時間を稼ぐ”だなんて下手をすれば自殺行為になるというのに、この2人はどうしてそれを当然のように口に出来るのだろう。

「…あ、智子が『私物持って行ってもいい?』ってイケメンおっちゃんに訊いたでしょ。
 あれって、もしかして…マサの薬のこと?」

早稀の質問に、智子が小さく頷いた。
まあこれはわかっていた。
智子は教室でのルール説明の後、イケメンおっちゃんことライド(担当教官)に私物を持って行ってもいいかということを質問し、その後に一瞬目が合ったのだ。
智子は以前たまたま雅哉が薬を服用しているところを目撃し、それ以来校外学習や泊りがけの学校行事など、イベントの際にはいつも雅哉の身体を気遣い声を掛けてきていた(今回の修学旅行でも、サービスエリアでの昼休憩の時間には『薬忘れてない?』と声を掛けてきた)。
智子がプログラム対象クラスに選ばれたという状況ですら雅哉の体を気遣ってくれたことは嬉しくて、皆が引き攣った顔をしていたというのに思わずにやけてしまった。

「よし、マサ、あたしと迅はアンタと智子を護るから!
 だからアンタは、智子をしっかりしっかり、しーっかり護ること!!
 男らしく、姫を護る王子になんなきゃね!!」

何故か早稀のテンションが急に上がり、雅哉は顔をしかめた。
智子の方を見ると目が合ったのだが、姫と王子という早稀の喩えに反応したのか智子は頬を僅かにピンクに染めてふいっと顔を逸らした。
ほーんと、ウブだね、トモは。
俺?別に、ただの喩えだし。

迅と早稀は恋人同士で仲が良いのは当然として、クラス内では友人がおらず浮いた存在だった雅哉と智子も巻き込んで、チームとしては良い雰囲気なのかもしれない。
智子も発言は少ないが落ち着いてきているようだったし、雅哉も皆が自分の身体を気遣ってくれるという慣れないこの状況がむず痒いけれども心地良かった。
だからこそ、油断をしていたのだ。
というよりも何よりも、早稀の声が大きかったと思うのだけれど。

突如、銃声が響いたのだ。

智子と早稀が悲鳴を上げ、その場に蹲った。
雅哉と迅は辺りを見回し、迅の後ろの木の幹に、先程までなかった窪みを確認した。
この状況が示していることはただ1つ、何者かに狙われているという事実。

「ちっ…万一がもう来たのかよっ!!
 さっき言った通りだ、奈良橋、芥川、行けッ!!」

迅が顔をしかめて舌打ちをし、支給武器である全長10cm程度の小型自動拳銃、NAA ガーディアンを大きな右手に握り締めて構えた。
刹那、再び銃声が響き、雅哉の眼前にいて身体を起こしていた早稀が、何かに弾かれたように後ろに仰け反り、倒れた。

「早稀ちゃん!?」

「いやああ!! 水田さん…ッ!!」

「早稀っ!?」

雅哉と智子の声に恋人に起きた異常事態を知った迅が駆け寄り、その身体を抱き寄せて起こした。
鉛弾が早稀の左肩を貫通していたようで、左肩を抑えている早稀の小さくややぷくぷくとした手は真っ赤に染まっていた。

「こ…の…ッ!!」

苦痛と憎悪に顔を歪め、早稀は唸った。
怒りに燃えた瞳に、いつも飄々としている雅哉ですら、思わず怯んだ。
迅に目を向けると、迅の早稀を見つめるその表情が、少し悲しげに見えた。

「日比野…」

「…大丈夫、早稀は大丈夫だから。
 だから、早く行け、芥川。
 絶対全員生きて合流するぞ、だから、奈良橋を頼む。
 …ッ!! 早稀ッ!!」

迅の腕の中にいた早稀が身を捩って腕を振り払い、襲撃者のいるであろう方向へと飛び掛かった。
迅は舌打ちをし、「行け!!」ともう一度叫ぶと、早稀を追っていった。

誰だ、あたしを撃ったのは!

水田早稀(女子十七番)の左肩に激痛が走った。
芥川雅哉(男子二番)の叫び声、奈良橋智子(女子十二番)の悲鳴、日比野迅(十五番)に抱き起こされた感覚――全てが自分から遠いもののように感じる程に、早稀の中では怒りの感情が迸っていた。

「こ…の…ッ!!」

あたしに喧嘩売ろうってか、ざけんな、百万年早いんだよッ!!



早稀は昔から騒ぐのが大好きなサバサバとした性格で、家では忙しい両親の代わりに2人の弟の世話をする面倒見の良さもある、今でこそ見た目は少々派手だが恋愛話が大好きなイマドキの女の子だ。

しかし、中等部に入って間もない頃から、喧嘩に明け暮れるようになった。
正確に言うと、喧嘩を売られるようになったのだ。
中等部に入学してからお洒落をするということに目覚めて、髪を赤みのある茶色に染め、派手な色のパーカーを着、スカートの裾を切って短くし、とにかく派手に自分を飾り、人の集まる場所に繰り出すようになった。
特にゲームをやるのも見るのも好きで、ゲームセンターに入り浸っていた。
目立つ容姿に加え名門校の制服に身を包んだ小柄な早稀は、ゲームをし過ぎて小遣いが足りなくなった連中にとっての恰好の獲物だった。
幾度となく裏路地に連れて行かれ、金をせびられた。
当時から気の強かった早稀は必死に抵抗し、時には蹴り、時にはパンチをかまし、時にはその辺に落ちている武器になりそうなもので殴り、1円たりとも渡すことはなかった(当たり前でしょ、あたしのお金は、あたしがお菓子買うためのものよ)。
しかし、一度早稀を脅した連中は仕返しと称して何度も早稀を襲い、早稀は抵抗しているうちに徐々に喧嘩の経験値を積んでいった。
次第に先手必勝という言葉の影響を受け、自分から喧嘩を売るようにもなった。
全身痣だらけになり、学校では恐れられて徐々に周りから距離を置かれた。

今では生活が落ち着き、迅に出会ってからは迅に相応しい女の子になろうと喧嘩をやめ、女の子らしく振舞おうとしてきた。
してきたのだけれど。



怒りの感情に支配された早稀は迅の腕を振り解き、襲撃者がいるであろう方向へ突っ込んでいった。
木と木の間を抜け――人影を確認した。
がぅん、と銃声が響いたが、今回は早稀の髪を数本引き千切っただけに終わり、早稀は怯むことなくその人影に突っ込み、襟首を掴み、押し倒して馬乗りになった。

「あたしのこと狙いやがったな、えぇっ!?
 その顔面原型なくなるまでブン殴ってやろ……え…?」

すーっと、血の気が引いていくのが自分でもわかった。
早稀が押し倒した人物の正体に、ようやく気付いたのだ。

「…早稀、柄悪っ」

女子にしては低めで抑揚の少ない声が、早稀の名を呼んだ。
襟足を伸ばした特徴的な黒髪、両耳に光る数多くのピアス、鋭い目の中性的な顔立ち――早稀の親しくしている友人の1人、財前永佳(女子六番)がそこにいた。

「ひ…さか……
 ……そう、アンタがあたしらを襲って…あたしに怪我させたんだ?」

早稀の後頭部に何かが押し付けられた。
髪を通してチリチリと熱さを感じる、硬い何か――早稀はごくりと唾を飲み込んだ。
あくまで永佳からは目を逸らさなかったのだが、全神経が後頭部に集まっているかのような感覚だ。

「…へぇ…じゃあ、あたしにボコられるのは、アンタなわけ?
 言っとくけどさ、イケメンだろうが容赦しないよ…ヒデ」

心地良いテノールボイスの主、春川英隆(男子十四番)こそが、現在早稀の後頭部に銃口を押し付けている犯人だ。
強気なことを口にしてみるものの、早稀の口の中は急激にからからに乾き、汗が頬を伝い、少し油断すれば泣いてしまうのではないかという程に、怖い。
次の瞬間にでも英隆がトリガーを引けば、そこで早稀の人生は終わるのだから。

「早稀から離れろ…ヒデッ!!」

「…迅」

早稀を追ってきた迅が目の前の光景に顔を歪ませながらも、NAAガーディアンの銃口を英隆に向けた。
英隆は先程まで早稀に突き付けていたベレッタM92Fを迅へ向けた。
迅の名を呼んだその声は、僅かに震えていた。

「ちょっとヒデ…迅に傷1つでも付けてみな、顔面ボコじゃ済ませないんだから」

「水田さんこそ、財前から離れなさい」

「とか言って、早稀が財前から離れたら、早稀を撃つ気じゃねぇだろうな?」

互いが互いの様子を窺いながら、動けずにいる。
押し倒した時に銃を手離しているのだが、永佳がいつそれを取りに行くかわからないので警戒を解けない早稀。


男子1番 相葉優人
(あいば・ゆうと) 女子1番 朝比奈紗羅
(あさひな・さら)
男子2番 芥川雅哉
(あくたがわ・まさや) 女子2番 上野原咲良
(うえのはら・さくら)
男子3番 雨宮悠希
(あまみや・ゆうき) 女子3番 荻野千世
(おぎの・ちせ)
男子4番 池ノ坊奨
(いけのぼう・しょう) 女子4番 如月梨杏
(きさらぎ・りあん)
男子5番 川原龍輝
(かわはら・りゅうき) 女子5番 小石川葉瑠
(こいしかわ・はる)
男子6番 木戸健太
(きど・けんた) 女子6番 財前永佳
(ざいぜん・ひさか)
男子7番 榊原賢吾
(さかきばら・けんご) 女子7番 佐伯華那
(さえき・かな)
男子8番 宍貝雄大
(ししがい・ゆうた) 女子8番 阪本遼子
(さかもと・りょうこ)
男子9番 松栄錬
(しょうえい・れん) 女子9番 鷹城雪美
(たかしろ・ゆきみ)
男子10番 城ヶ崎麗
(じょうがさき・れい) 女子10番 高須撫子
(たかす・なでしこ)
男子11番 田中顕昌
(たなか・あきまさ) 女子11番 奈良橋智子
(ならはし・ともこ)
男子12番 内藤恒祐
(ないとう・こうゆう) 女子12番 鳴神もみじ
(なるかみ・もみじ)
男子13番 原裕一郎
(はら・ゆういちろう) 女子13番 蓮井未久
(はすい・みく)
男子14番 春川英隆
(はるかわ・ひでたか) 女子14番 平野南海
(ひらの・みなみ)
男子15番 日比野迅
(ひびの・じん) 女子15番 広瀬邑子
(ひろせ・ゆうこ)
男子16番 真壁瑠衣斗
(まかべ・るいと) 女子16番 星崎かれん
(ほしざき・かれん)
男子17番 望月卓也
(もちづき・たくや) 女子17番 水田早稀
(みずた・さき)
男子18番 横山圭
(よこやま・けい) 女子18番 室町古都美
(むろまち・ことみ)
男子19番 芳野利央
(よしの・りお) 女子19番 山本真子
(やまもと・まこ)
男子20番 林崎洋海
(りんざき・ひろみ) 女子20番 湯浅季莉
(ゆあさ・きり)


1 ○ 榊原健吾(男子7番)
  鷹城雪美(女子9番) v.s.  池ノ坊奨(男子4番) ×
 真壁瑠衣斗(男子16番)
 上野原咲良(女子2番)
(5/31 2:48p.m. 池ノ坊奨 退場)

2 △ 高須撫子(女子10番) v.s.  松栄錬(男子9番) △
 湯浅季莉(女子20番)
(高須撫子 逃走)

3 ○ 相葉優人(男子1番) v.s.  荻野千世(女子3番) ×
(5/31 4:19p.m. 荻野千世 退場)
第一班リーダー変更:荻野千世→相葉優人

4 △ 相葉優人(男子1番)
  小石川葉瑠(女子5番) v.s.  春川英隆(男子14番) △
 望月卓也(男子17番)
 財前永佳(女子6番)
 広瀬邑子(女子15番)
(相葉優人・小石川葉瑠 逃走)

 

 

チーム編成
1班 男子一番・相葉優人 男子八番・宍貝雄大 女子三番・荻野千世 女子五番・小石川葉瑠
2班 男子二番・芥川雅哉 男子十五番・日比野迅 女子十一番・奈良橋智子 女子十七番・水田早稀
3班 男子三番・雨宮悠希 男子五番・川原龍輝 女子七番・佐伯華那 女子十九番・山本真子
4班 男子四番・池ノ坊奨 男子十六番・真壁瑠衣斗 女子二番・上野原咲良 女子十番・高須撫子
5班 男子六番・木戸健太 男子十番・城ヶ崎麗 女子一番・朝比奈紗羅 女子十二番・鳴神もみじ
6班 男子七番・榊原賢吾 男子九番・松栄錬 女子九番・鷹城雪美 女子二十番・湯浅季莉
7班 男子十一番・田中顕昌 男子十九番・芳野利央 女子八番・阪本遼子 女子十三番・蓮井未久
8班 男子十二番・内藤恒祐 男子二十番・林崎洋海 女子四番・如月梨杏 女子十六番・星崎かれん
9班 男子十三番・原裕一郎 男子十八番・横山圭 女子十四番・平野南海 女子十八番・室町古都美10班 男子十四番・春川英隆 男子十七番・望月卓也 女子六番・財前永佳 女子十五番・広瀬邑子

E=04エリアの御神島小中学校は現在行われているプログラムの本部となっており、未だに田中顕昌(男子十一番)の亡骸が転がったままの6年生教室の隣の多目的教室は普通の教室の倍程の広さがあるのだが、今は多数のモニターや機材が運び込まれているためにそう広さを感じない。

「おー、怖い怖い」

つい先程まで動きのあった3班と6班のメンバーの盗聴(生徒たちがはめている首輪には盗聴機能が付いており、これで行動の詳細を知ることができる。もちろん、不穏な発言をする者を警戒することも可能だ)をスピーカーで聞いていたライド(担当教官)は、彼らの会話の内容を聞いた感想をそう表し、肩を竦めた。

「雨宮君、川原君、佐伯さん、山本さん退場…3班は全滅かぁ。
 結構良いチームやってんけどなぁ、相手が悪かったな」

シン(軍人)がソファーに腰掛けて生徒資料をチェックしながら呟き、死亡が確認された雨宮悠希(男子三番)・川原龍輝(男子五番)・佐伯華那(女子七番)・山本真子(女子十九番)の資料をバインダーから抜き、報告書の作成の準備を始めていた。
向かいに座っていたアキヒロ(軍人)が、シンの抜いた資料を手に取り、「ふーん」と鼻を鳴らして眺めた。
アキヒロの手からライドはそれを取り、アキヒロの隣に腰掛けた。

「確かにバランスは良かったな。
 佐伯さんの頭脳は勉強の面以外でもええ感じやし、雨宮君もおるし。
 運動面なら万能な川原君と、サッカー推薦の雨宮君、山本さんも中々やしな」

「ま、武器が最悪だったね」

アキヒロが溜息混じりに呟くと、モニター前に座る軍人たちに指示をしていたエツヤ(軍人)の背中に向けて、声を掛けた。

「エツ君、もうちょっとバランス良い武器の渡し方できなかったの?
 いくらなんでも3班の武器は気の毒だよ」

「え、俺!?
 そんなん、俺のせいちゃうよ、別に中身確認して渡してへんやんか!」

エツヤは振り返りながら言葉を返すと、唇を尖らせながらライドたちの方に来ると、シンの隣にどかっと腰掛けた。
「エツくじ運悪いもんなぁ、でも自分のくじ運の悪さに子どもを巻き込んだらあかんわ」というシンの言葉に「それ関係あらへん!」と声を荒げて言い返すと、ライドの前に広げられた資料に視線を落とした。

「…まあ、確かになぁ…悪かったなぁ…俺のせいちゃうけど。
 …あ、この子、川原…やっけ、ガンプラ当てたん!
 確か作ったんやんなぁ、いっやーこの子マジ熱いな!
 死んだのが惜しすぎるわ、ガンニョムについて語ってみたかったわぁ。
 でもエキュシアな、エキュシアもえぇねんけどな、やっぱ赤ザキュよな!
 赤い彗星ジャアの…あ、でもギュフもえぇよな、ザキュとは違うんだよザキュとは!
 なんせ3倍の――」

「エツ、エーツ」

シンにファイルでぱこっと頭を叩かれ、エツヤは機動戦士ガンニョムについての熱いトークを中断し、またも唇を尖らせてシンを睥睨した。

「睨まんといてぇや、今仕事中やねんからガンニョムの話は後。
 ほんまエツは昔っからガンニョム好きやもんな。
 ジャア好きすぎて、ずっと赤いTシャツ着てたもんな、エツのおかん呆れてたわ。
 『ジャア専用Tシャツやー』言うてはしゃいでなぁ…
 そうそう、シャツだけやなくて、確かランドセルも――」

「わああ、もう、シンちゃん今その話いらんっ!!
 もうせぇへんから、ガンニョムの話!!」

慌ててシンの口を押さえるエツヤの様子に、ライドはくくっと笑った。
アキヒロも溜息を吐いているものの、唇の端がくいっと上がっていた。
ライドとシン・エツヤとの出会いは専守防衛軍の養成学校に入って1年程経った頃だったのだが、シンとエツヤは幼馴染ということでいつもじゃれていた。
エツヤはライドやシンの1つ年下だというのにしょっちゅうシンのところに遊びに来るほどシンに懐いていたし、シンは昔からの付き合いの後輩ということでエツヤには少し厳しい面もあるのだが大切にしているのは見ていてすぐにわかった。

誰か1人が飛び抜けた才能がある、もしくは強烈なリーダーシップを持っているというわけではないが、全体のステータスを見ればバランスの取れた班がこの4つだ。
1班の相葉優人(男子一番)と小石川葉瑠(女子五番)、3班の雨宮悠希と川原龍輝または龍輝と佐伯華那、7班の阪本遼子(女子八番)と蓮井未久(女子十三番)、9班の原裕一郎(男子十三番)と横山圭(男子十九番)または圭と平野南海(女子十四番)のように、普段から仲の良い生徒を同じ班にして、そこを中心にまとまることができるように配慮もした。
結果として、方向性はそれぞれあれど、全ての班で中心になるように配した生徒たちが班をまとめてくれたと思う。
9班の室町古都美(女子十八番)による内乱は完全に予想外だったが、良いデータが取れたということでこれも良しとする。
1班は宍貝雄大(男子八番)が、3班は全員が、7班は顕昌が、9班は圭が既に退場しているので(尤も、顕昌の退場はアキヒロが彼を射殺したからなのでプログラムの進行とは無関係だが)、人数が欠けた班がどのように動いていくのかはこれからも注目しておかなければならない。
偶然か必然か、今残っている班の中でメンバーが欠けているのはバランス型とした1班・7班・9班のみなので、これもデータとして残しておく必要があるだろう。

 あの班はチームワークの欠片もない感じやったよなぁ」

シンの苦笑しながらのコメントに、ライドは頷いた。

「うん、8班の内藤・林崎・如月・星崎班は、自己中そうなメンバーで固めてん。
 まあ、内藤君は担任の塚村センセの資料で見たよりは仲間想いやったけど。
 どうなるかなー思ったけど、やっぱチームワークって大事やな。
 まあ、あれはあれで良いデータになったわ」

最初に全滅することになった8班。
やはりチーム戦においてはチームワークは必須なのだろう。
上辺だけで繋がっていたこの班がもしももっと協力して戦うことができていたなら、全滅は避けることができたかもしれない。
まあ、これが1回目の事例なので今後のプログラムでもデータを取らなければ一概には言えないのだけれど、今回に限って言えば、戦闘におけるチームワークの大切さを彼らは身をもって教えてくれた。

「なあライド、2班は?
 俺、あの班が一番謎やねんけど。
 いやまあ日比野君と水田さんはともかくとして、後の2人が。
 バランス型かなぁとも思ったけど、ちょっと頭弱いし、この班。
 運動も芥川君と奈良橋さんが足引っ張るし…ステータスとしては悪いやろ、これ」

エツヤはライドがノートパソコンを自分の前に置くスペースを確保するために他の場所に散らかした資料を集めながら(几帳面なエツヤらしい行動だ)訊いた。

「2班の芥川・日比野・奈良橋・水田班は、そういうのちゃうねん。
 クラスで孤立してる芥川君と奈良橋さんやねんけど、塚村センセの話やと、どうも
 2人は孤立はしてるけど互いを気にしてる節があるみたいってことやって。
 芥川君は病気のコンプレックスが酷い、奈良橋さんはいじめられっ子…
 あんま生きようって意思見せなさそうな2人やけど、一緒にしたらどうかなぁってさ。
 人の心の成長…っての? そういうの見られへんかなぁって思ってん。
 そのきっかけを作ってくれそうかなって思ったんが、水田さんみたいに人の関係に
 興味津津な子かなって思ってくっつけてみてん」

他の班の襲撃に遭って今は別行動をしているが、気遣い上手な日比野迅(男子十五番)と意外に面倒見の良い水田早稀(女子十七番)が一緒にいたことによって、盗聴を聞いた限りでは自身がリーダーであることに絶望していた奈良橋智子(女子十一番)も自身の命に対して投げやりになっていた芥川雅哉(男子二番)も、今は生きて迅と早稀と再会しようとしているようだ。

「よう言うわ、アッキーってば朝比奈さんに銃向けてたくせに。
 4班の池ノ坊・真壁・上野原・高須班と5班の木戸・城ヶ崎・朝比奈・鳴神班。
 これは結構悩んでんけど、まあええ分け方になったと思うわ。
 5班は、城ヶ崎と幼馴染3人組。
 これは10班の春川・望月・財前・広瀬班とも対比になってるしな。
 幼馴染の中に入るその1人が、リーダーかそうでないかの違いしかないけど。
 ま、どっちも3対1の構図にはならんかったのは、ちょっとつまらんけどな。
 まあ5班は能力的には1番有利ちゃう?
 運動能力は全員高いし、勉強的な意味での頭の良さもあるし。
 絶対的リーダーの城ヶ崎が全員を落ち着かせてまとめあげてるしな」

ライドは無糖マシュマロを1つ口に入れ、続けた。

「対する4班はバランスがあんま良くない…というか繋がりが少し弱い班やな。
 塚村センセの資料によると、いつも一緒にいるけども、互いの関わりは少ない。
 池ノ坊君と上野原さんは、先祖代々城ヶ崎君の家に仕えてきた家の末裔。
 高須さんは上野原さんとは仲良しやけど、城ヶ崎君以外とはほとんど会話もせん。
 真壁君は城ヶ崎君がグループに引き込んだけどグループの輪の一番外側におる。
 …つまり、全員城ヶ崎君がおるからこそ一緒に行動してたってことやな。
 その絶対的リーダーがいない今、どう動くかなぁって思って」

4班に関しては、いつも一緒にいただけのことはあり思ったよりもまとまっている。
これは真壁瑠衣斗(男子十六番)が前情報以上にグループのメンバーを普段からよく見ていたことが大きいのかもしれない。
特に気が合わなさそうだった高須撫子(女子十番)を叱咤激励するとは思っていなかった。
行動面では瑠衣斗がリーダーらしさを発揮して、今は城ヶ崎麗(男子十番)ら5班のメンバーを探しているらしい。
そして撫子が誰よりも大切に思い、池ノ坊奨(男子四番)が身を挺して護り、瑠衣斗もその人柄を認めている上野原咲良(女子二番)が精神面で班を一つにしている。
絶対的リーダーが不在でもまとまるあたりは、麗が認めていたメンバーたちというだけのことはあるのかもしれない。

麗はその強烈なリーダーシップでもって、木戸健太(男子六番)・朝比奈紗羅(女子一番)・鳴神もみじ(女子十二番)を引っ張っている。
資料によれば、どうやら健太たちは帝東学院入学以前から麗とは顔見知りだったらしく、そもそも帝東学院を受験したきっかけは麗にあったらしい。
それだけ強い絆で結ばれているのだから、班が分裂するということはないだろう。
4班と再会することがあればどうなるかわからないが。

一方鷹城雪美(女子九番)のリーダーシップは、モニターしている軍人たちや担当教官歴の長いライドたちでさえも戦慄させる恐ろしさだった。
恐怖で縛り付けるだけならまだしも、最初に全員に殺人という禁忌(まあプログラムではそれが許されるのだけれど、突然プログラムに放り込まれたごく普通の中学生の持つ常識としては、やはり殺人は禁忌に当たるだろう)を犯させたというのは、共犯として自分の傍から逃がさないようにする手段としてはなかなかのものだ。
松栄錬(男子九番)と湯浅季莉(女子二十番)は覚悟を決めたようなので、プログラム進行の台風の目になるだろう。

同じようにプログラムに乗る10班。
全員が乗るわけではなく、春川英隆(男子十四番)と財前永佳(女子七番)がその意思を見せ、望月卓也(男子十七番)と広瀬邑子(女子十五番)は2人のその意思を知ったものの恐らく戦うことはないだろう。
全員がプログラムに乗る6班と、2人が乗り残る2人には人を殺させたくないとしている10班――この2つの班の動きは注意しておかなければならない。
プログラムのスムーズな進行のためには、しばらく出遭わないでほしいものだ。

「ふーん、成程…
 ライドなりに色々考えてんな。
 俺的には、落ち着いた芳野君と蓮井さんがおる7班が優勝やと思うな。
 今は様子見らしいけど、体力温存して後半から頑張ってくれるんちゃうかな」

エツヤはそう言いながらコーヒーを飲み干した。

「あれ、トトカルチョ?
 エツ、そういうの好きとちゃうんちゃうの?」

「うん、人の命で賭け事とか、お偉いさんはやってるみたいやけど俺は嫌やで。
 そういうんちゃうくて、単に俺が思ってるだけ」

シンの疑問にエツヤは眉を顰めて答えた。
国の上層部ではプログラムの優勝者を予想して金を賭けるトトカルチョが行われており多額の金が動いている。
現場でもその真似事をする担当教官や軍人たちも多々いるのだが、ライドはそれを好まなかった。
プログラムは子どもたちの命懸けの戦いを通して国防のために必要なデータを収集するためのものであるのでプログラム自体に反対することはないが、子どもたちの命を賭け事の対象にするのは彼らに失礼ではないかと思うのだ。

ライドのこの意見を『真面目すぎる』『プログラム担当教官に向かない』と揶揄する者もいるが、担当教官仲間に同じような意見を持つ者はいるし、いつも一緒に仕事をするシン・エツヤ・アキヒロはこの意見に賛同してくれている。

「僕はやっぱり6班が有力候補だと思うけど?
 鷹城のリーダーシップが続く限りは、早々負けたりしないでしょ」

「アッキーは鷹城さんと気が合いそ――あっはは、何でもない!
 俺はねー、個人的には4班に頑張ってほしいかなぁ。
 上野原さんと高須さん…女の子のレベルが高い! 可愛い女の子は正義!!」

「…何言ってんの、シンちゃん。
 ま、武道の心得がある2人は注目すべきといえばすべきだよね。
 ライド君は、誰に注目してるの?」

6つの瞳が向けられたライドは、視線をパソコンの画面から上げ、笑みを浮かべた。

「俺は、早々に自分の意志でプログラムに乗ることを決めて行動した10班かな。
 でも、みんなに頑張ってほしいな、ってのが本音…いつもやけど。
 大東亜のために戦うみんなが、俺たち大東亜の国民の誇りやからね」

頑張れ、子どもたち。
君たちの血が、肉が、命が、大東亜の未来を切り開くのだ。

「何で……?」
阿部美咲がそう言った瞬間、銃声が鳴り響いた。
それとほぼ同時に、牛尾まどかの左胸に大きな穴が開き、そこから血が溢れ出た。
そして、まどかは倒れた。
二度と動くことはなかった。
「…………」
蓮実は何も言わず、銃をみんなに向けた。
「ひっ!」
「きゃああああ!!」
「嫌ああぁああああ!!!!」
生徒達は一斉に上に戻った。
途中、階段で三田彩音と坪内匠が射殺された。
「ハスミン!やめーーー」
脇村肇が蓮実を説得しようと試みたが、蓮実は無言で肇を撃ち殺した。

「う、うああああ!!!」
有馬透が階段から飛び降りるが、弾を込め終えた蓮実が確実に彼を捉えた。
「ハスミン!何で!?どうして!?」
佐藤真優が蓮実の足にしがみつくが、蓮実は彼女を蹴り飛ばし、そして射殺した。
「きゃあああ!!」
「やめてぇ!!」
今度は小野寺楓子を射[ピーーー]る。
その後、柏原亜里があまりにも煩かったため、彼女を階段から突き落とした。
そして、去来川舞、塚原悠希、吉田桃子を射殺した。

「は、ハス…お、お願い、もうやめーーー」
美咲が土下座して命乞いするが、蓮実は無言で彼女を撃った。
銃弾は彼女の頭頂部に当たり、彼女の血と脳髄が辺りに巻き散った。
「う………」
蓮実が階段を降りると亜里が必死になって這って移動しようとしていた。
蓮実は彼女を撃つと、隠れた生徒を掃射するため、廊下を駆けた。

最期に、会いたかった…一目だけでも…――

斬られる、はずだった。
しかし、予想した痛みは来なかった。
恐る恐る目を開け――驚愕に目を見開いた。

「大丈夫ですか…咲良さん…」

咲良の眼前には、奨がいた。
いつもは殆ど変わらない表情をしているのに、今は眉間に皺を寄せ、顔を引き攣らせ、それでも小さくとも穏やかな瞳に咲良を映していた。
じわじわと背中側からカッターシャツが紅く変色し始めている――咲良と雪美を庇い、賢吾の刃を背中に受けたのだ。

「しょ……奨…くん……なん…で……?」

また、庇われた。
洋海に襲われた時も奨は身を挺して咲良を護ってくれた。
そして、今回も。
本当に穏やかで優しくて争い事が苦手で、きっとプログラムという戦場に最も似つかわしくないはず奨のことは、武術を嗜む自分が護らなければならなかったのに。

しかし、奨は、咲良ですら滅多に拝めない笑みを浮かべてみせた。
本当は苦痛でそんな余裕もないはずなのに、とても穏やかで、慈しむようなそれを。

「当然です……
 自分は……咲良さんが――」

奨の身体がびくりと震えた。
腹部から、カッターシャツを突き破り、てらてらと紅く光る刃が覗いた。
それがずるりと引き抜かれると、奨は、咲良に向かってどうっと倒れた。
70kgを超す巨体に圧し掛かられたので支えきれずに咲良はその下敷きとなったが、ぶつかった時の痛みとか、そんなことはどうでも良かった。
触れた咲良の左手が、奨の口が触れているカーディガンの肩口の部分が、真っ赤に染まったこと――それが全てだった。

「奨…くん…?」

震える声で名前を呼ぶと、奨はゆっくりと身体を起こした。
息は絶え絶えで、目は虚ろだった。
本来なら絶対安静で、今すぐにでも医者に診てもらわなければならない程の怪我だということは、素人目で見てもはっきりとわかった。
しかし奨は刺されて吐血したために真っ赤に染まった歯を食い縛りながら、咲良の右腕に未だしがみ付いている雪美へと掴み掛った。

賢吾が奨の襟首を掴むと地面に押さえつけ、その太い首に、刀を突き刺した。
刀が引き抜かれると同時に、鮮血が噴き上がった。
自らの血で全てを赤く染めた奨の目は、もう何も見ていなかった。

物心ついた頃にはいつも近くにいて、近くにいることが当たり前で。
周りからは怖がられてしまう容姿をしているけれど実際にはとても平和的で。
いつもいつも優しく見守ってくれて。
その奨が、今、目の前で、動かなくなった。

信じられない、受け入れたくない。
けれど、これは現実。
今までの思い出が次々と脳裏を過り、咲良の目にはみるみる涙が溜まっていった。

「奨…くん…奨くん…奨くん、奨くん奨くん奨くん…ッ!!
 いや…ッ、起きて、いやあああッ!!!」

咲良は奨に覆い縋り、泣き叫んだ。
顔に、髪に、服に、奨の生温かい血液が飛び散った。
みるみる体温を奪われていくことが嫌で、出血の酷い首を手で押さえるけれど、奨の身体が冷たくなっていくのを止めることはできなかった。


「あらあらお気の毒に…
 ふふっ…計画とは少し違ったけれど…上出来だわ、賢吾」


柔らかい、けれど酷く冷たい声が降ってきて、咲良は顔を上げた。
先程まで「怖い」と泣きじゃくっていたはずの雪美が、口許に手を添えてくつくつと笑いながら咲良を見下ろしていた。

プログラム本部となっている御神島小中学校の敷地を出ると鬱蒼とした森が広がっているが、皆が長年踏み締めて出来た道を暫く歩いていくと、アスファルトで舗装された道路に出る。
御神島に設置された道路は、御神島をぐるりと一周できるように巡らされているのに加え、島のほぼ中央に位置する小中学校を起点として南北それぞれの端にある港と西にある灯台を結ぶものと、南北の港を結ぶ道路の東側に大凡平行になる形で商店や診療所といった主要な施設の脇を通るように作られたものがある。
それ程大きくはない島だが、主要な場所には車で行きやすいように整備が施されているのだ。

小中学校の真東にあたる南北をつなぐ2本の道路に挟まれたE=05エリアには、4番目に呼ばれたチーム4人が隠れていた。
このメンバーの名が呼ばれた時、残る誰もが思っただろう。
この4人に一体何の共通点があるのか、と。
それは、4人中3番目に名前を呼ばれた如月梨杏(女子四番)も同意見だ。
どうして自分がこんな連中と行動を共にしなければならないのか、理解に苦しむ。

そもそも梨杏は3年A組に対して思い入れもなければ親しくする者もいない。
いや、親しくする価値のある人間なんて、このクラスにはほとんどいないのだ。
誰も彼も馬鹿ばかり。
せいぜい認めてやっても良いのは、成績で梨杏の上を行く学年首席の真壁瑠衣斗(男子十六番)・委員長の芳野利央(男子十九番)・副委員長の奈良橋智子(女子十一番)くらいのものだ。
それ以外の人間とは、同じ空間にいるだけでも嫌になる。
梨杏は、馬鹿で愚かな人間が嫌いなのだ。

梨杏は黒いストレートヘアーを指先で弄びながら溜息を吐いた。

「…あのさ如月さん。
 ムカつくからさ、溜息とかやめてくれない?」

「私が何をしようが勝手でしょ。
 …じゃあ言わせてもらうけど、ムカつくので喋らないでくれる?」

「…マジムカつく、一回死んで」

梨杏に文句を言ってきた星崎かれん(女子十六番)は大袈裟な舌打ちをし、不機嫌な表情を浮かべて梨杏から視線を逸らした。

梨杏に文句を言ってきた星崎かれん(女子十六番)は大袈裟な舌打ちをし、不機嫌な表情を浮かべて梨杏から視線を逸らした。

そう、まずこの女。
大東亜人には似合わない金髪と、中学生らしからぬケバいメイクとチャラチャラとしたアクセサリー類、男を誘っているとしか思えない短すぎるスカート――どんなに頑張って見ようとしても馬鹿以外の何者にも見えない(事実勉強もできない馬鹿だ、この女は)、梨杏が最も忌み嫌う下品なギャルだ。
伝統ある帝東学院において頭の湧いたような、街中で自分は頭が軽い馬鹿だという看板を掲げながら闊歩しているギャルはそれ程数が多くないのだけれど(ギャルがニュース番組などのインタビューを受けているのをたまに見るが、発言も喋り方も態度も全てが馬鹿みたいだ、あんなのと同じ生き物だと思うだけで吐き気がする)、このクラスにはそれが4人も存在している。
派手さはかれんを凌ぐ、金髪を巻いたツインテールに赤いピアス、赤いブーツに紫のセーターと、色合いからして馬鹿みたいで、耳に入ってくる声は腹立たしい程騒がしく甲高い湯浅季莉(女子二十番)。
髪色はかれんや季莉よりは落ち着いているがそれでも明るい赤みがかった茶色に染め、鼓膜を破りかねないような大声で季莉と騒いでいる、昔は喧嘩ばかりしていたという荒っぽい女、水田早稀(女子十七番)。
そして騒がしくないだけまだマシだが、両耳には頭がイカれているのかと思えるほどに多くのピアスをしており、昔は万引きの常習犯だったという噂もある財前永佳(女子六番)。
かれんは彼女らと行動を共にしているだけでなく、クラス内にいる彼氏と仲良くやっている3人とは異なり、援助交際という淫行に手を染めていると聞いたことがある。
そんな女が仲間だなんて、ありえない。

その隣で膝を抱えているのは内藤恒祐(男子十二番)。
A組男子の中で最も派手で馬鹿丸出しの出で立ちをしている恒祐も、梨杏の嫌う愚かな人間の1人だ。
いつも教室の真ん中でくだらない話をして大騒ぎしており、どこにいても恒祐の声は聞こえてくるのではないかと思えるほど煩い。
非常に軽い男であり気に入った女子に次々と声をかけていることは有名で、梨杏はその全てを知っているわけではないが、朝比奈紗羅(女子一番)や平野南海(女子十四番)といった、頭の軽そうな女子に軽く告白をしては振られているのは、彼女らが話をしていたのを小耳に挟んでいたので知っている。
その軽さから、頭の軽いギャルグループとも比較的親しく、かれんともそれなりに仲良くしていた記憶がある。

今はその騒がしさも軽さもなりを潜めており、顔を膝に埋め、時折嗚咽や鼻を啜る音が聞こえる。
軽い男は嫌いだが、うじうじしているのも見ていて腹が立つ。

「内藤くん。
 いつまでもうじうじ泣くのはやめてくれない?
 こっちまで気が滅入るわ」

「は? その言い方はさすがにないんじゃないの?
 内藤は、田中と仲が良かったんだから」

反論してきたのは恒祐ではなくかれんだった。
馬鹿が馬鹿の擁護?――馬鹿らしい。

ライド(担当教官)にプログラムに対する異議を申し立てて射殺された田中顕昌(男子十一番)――余計なことを言えばああなる可能性はこの国でなら十分あり得る話だというのに、その考えに至らなかった憐れで愚かな男。
あまり目立たない地味な印象の顕昌が、派手な恒祐と親しいのは意外だった。

「…ああなることなんて目に見えてたのに。
 それがわからずに行動した人を悼んで泣かれても迷惑なのよ」

「テメェ…ッ!!」

恒祐がばっと顔を上げ、泣き腫らした目で梨杏を睨んだかと思うと、腰を浮かせて手を伸ばし梨杏の胸倉を掴んで後ろの幹に叩きつけた。
梨杏は背中を打ち、「うっ」と呻いた。

「あんなこと言えばああなることくらい、アッキーは絶対わかってたんだよ!!
 それでも言っちまうくらいに、アッキーは優しいんだよッ!!
 それを…テメェは馬鹿にしたな…アッキーを馬鹿にしたな…如月…ッ!!」

「煩いわね、誰かに見つかったらどうするのよ」

梨杏は右横に置いていた自身に支給されたデイパックの中に入っていた銀色に光る銃身と黒いグリップが特徴のリボルバー式拳銃、S&W M686を掴むと、その銃口を恒祐の額に向けた。
恒祐の元々ぎょろっとしている瞳が一層見開かれる。

「こ…の…ッ!!!」

恒祐も梨杏のM686と同じ位の大きさだが形が大きく違う黒光りする自動拳銃、ジェリコ941Lをベルトから抜き、梨杏に向けてきた。
梨杏自身人に銃口を突き付けているというのに、恒祐の行動に息を呑んだ。

「貴方…馬鹿じゃないの…?」

「ああ、馬鹿だよ、テメェに比べりゃ馬鹿だよそれがどうしたよッ!!
 ダチ1人できない冷徹女に比べたら、大馬鹿の方がマシだねッ!!」

“ダチ1人できない冷徹女”――確かに梨杏には友人と呼べる人はいない。
くだらない馬鹿な人間たちとつるむくらいなら読書をしている方が何倍も有益なので、休み時間はいつも自分の席で読書に勤しんでいた。

不意に恒祐が梨杏から離れた――いや、恒祐は大きく目を見開いた状態で自分の意思に反して梨杏との距離を取らされた、という言い方が正しい。
恒祐は襟を後ろから引っ張られ、バランスを崩して仰向けに倒れていた。

「何すんだよ…林崎ッ!!」

恒祐は起き上がりながら、自分を引っ張ったもう1人のチームメンバーである林崎洋海(男子二十番)を見上げた。
細身だがクラスで最も背の高い洋海は、手にしていた金属バットを振り下ろした。
恒祐が身を起こすために地面に付けていた右手のすぐ横にそれは振り下ろされ、小石に当たったらしくカァンという高音が響いた。
恒祐はぎこちなく首を動かして金属バットが振り下ろされた先を見、口許をわなわなと震わせていた。

洋海は梨杏とは同じ文芸部に所属する部活仲間だ。
とは言うものの、洋海は挨拶以外では言葉を発しないのではないかと思う程に無口で(このクラスには池ノ坊奨(男子四番)や榊原賢吾(男子七番)や瑠衣斗や利央といった口数の少ない者が多いが、その彼らですら饒舌だと思えてしまう程に洋海の無口さは群を抜いていた)、梨杏も挨拶以外には言葉を交わさない。
梨杏に言わせれば、何を考えているのかさっぱり理解できない、勉強も運動も人並以下のことしかできないウドの大木だ。
辺りを見回しているところをみると、騒いで誰かに見つかるのを防ぐために、梨杏と恒祐を引き剥がし、騒がしい恒祐を威圧して黙らせたのだろうか。
洋海自身がこの間一言も発していないので、真相は定かではないが。

「あーあ、馬鹿馬鹿しい」

かれんはわざとらしく溜息を吐き、人工的な睫毛に覆われた瞳で3人を見遣った。

「一応チームメイトなわけだしさ、仲間割れとかやめない?
 こんなところ誰かに狙われたら、あっという間に全滅じゃないの」

「星崎…でも俺やだぜ。
 星崎と林崎はともかく、如月とつるむとか絶対できねーよ。
 しかも、他のヤツらと戦うことになったとしたら、コイツ護らなきゃいけないとか…
 やだよ、こんな最悪なヤツのために命張るとか」

恒祐は失礼なことに梨杏を指差した。
そう、この共通点もなければ普段の接点もなければチームワークが生まれる兆しもないチームのリーダーは、他でもない梨杏だ。
馬鹿たちの命を、梨杏は背負っているのだ。
自分の左腕に王冠のマークを見つけた時、心底ほっとした。
当たり前だ、こんな馬鹿たちの中の誰かに自分の命を握られていたかもしれないだなんて、考えただけでぞっとする。

日比野迅(男子十五番)と水田早稀(女子十七番)が休息を取っている民家から見ると北西に位置するE=06エリアに、迅と早稀が探し回っている対象である芥川雅哉(男子二番)と奈良橋智子(女子十一番)はいた。

「…トモー、ここは神社?」

「…みたいだね、鳥居があるし。
 この階段の上が境内なのかなぁ…?」

雅哉と智子は目の前に立ちはだかる昇り階段を見上げた。
ぼんやりと浮かんで見える赤く古ぼけた鳥居、真夜中のため最初の数段以降は暗闇に飲まれているので階段が何段程あるのか確認はできないこと、“丑三つ時”に差し掛かる時間帯――怪談話に興味がなくとも、不気味さを感じずにはいられない。
智子自身、心霊番組などにはあまり興味がないのだが、さすがに怖い(もっとも、この現状では、何よりも恐ろしいのはクラスメイトなのだが)。

「…上がってみる……?」

雅哉を見上げて訊いてみたものの、語尾が震えてしまったことが情けなく、俯いてしまった。

「んー…あんま上りたくないかな。
 しんどそうだし、不気味だし、早稀ちゃんたちがいそうなイメージないし」

智子が顔を上げると、「夜中の神社ってやだねー」と、雅哉は笑みを浮かべていた。
何だ、怖いのはわたしだけじゃなかったんだ――智子は安心して笑みを返した。

2人は5時間程前に、早稀がいるのではないかという予想をしてC=06エリアにある商店に行ったが誰もおらず(ただし、誰かが潜伏していた痕跡はあった。飲み食いをしたゴミが残っていたし、棚の商品も抜き取った跡があった)、交代で睡眠を取った後に商店を出て、道に沿って南下してきた。
1時間以上歩きっ放しだったため、階段の傍の茂みの中に入って腰を下ろした。

智子は隣で膝に顔を埋めている雅哉に目を遣った。
いつ誰に襲われるかわからない神経をすり減らし、ゆっくりと休むことも十分な睡眠を取ることも許されず、慣れない土地を動き回っている。
体力が人並みでが健康優良児である智子ですら辛い状況だ、身体の弱い雅哉が疲弊するのは当然で、智子の前では元気に振舞おうとしているが無理をしているのが目に見えてわかる。

そして、戦場において頼りない智子を支えて励ましてくれる優しさ。
星崎かれん(女子十六番)から、『雅哉に騙されてはいけない』と忠告を受けたこともあったが、今智子の隣にいる雅哉の言動に嘘があるとは思えない。
きっとかれんは、派手な外見や気だるそうな態度の中にある雅哉の本当の心を見ていなかっただけに違いない。
智子が惹かれているその心こそが、雅哉の本質だと信じている。

雅哉が自分なんかのことを何とも思っていないこと位はわかっている。
雅哉が自分なんかを特別扱いしているなんて、そんな奢った考えは持っていない。
それでも、構わない。
雅哉の役に立ちたいと思う自分の心は本物で、せめて少しでも長い間一緒にいられたらという願いが叶うのならこんなに嬉しいことはない。

雅哉のためにできることは、死なないこと。
班のリーダーである自分が死ぬことは、雅哉を道連れにしてしまうことになってしまうので、何としても避けなければならない。
そして、一刻も早く迅と早稀と合流すること。
これは、これまで何度も何度も自分に言い聞かせてきたことだ。

では、そのためにはどうするか。
迅と早稀に逃がされてからこれまで誰とも出会っていない智子たちには、誰が危険人物で、誰が信用に足る人物なのかという情報が全くない。
誰かを発見すれば気付かれずに逃げるのが鉄則なのだが、もしもその相手がやる気ではない且つ迅と早稀に出会っていて何かの情報を持っているとしたら、迅と早稀に会うチャンスを潰してしまう可能性もある。
早稀の支給武器は探知機であること、2人揃って交友関係が広いことを考えると、積極的に人に会い、信用できると判断すれば智子と雅哉を探していることを伝えている可能性は十分にある。
迅と早稀からのメッセージを受け取るには、クラスメイト全員を避けるわけにはいかないが、誰彼構わず近付けば命を落としかねないことは、クラスメイトがほぼ半分にまで減ってしまった現状が物語っている。
つまり、今必要なのは、今持っている少ない情報から、誰が危険で誰がそうではないかというある程度の予測と線引きをしておくことだ。

智子は頭の中の情報を引っ張り出した。
少なくとも、班編成だけは全てを把握している。
名簿にもメモをしてあるが、いちいち見直す程のものではない。人に誇れることなどあまりないが、記憶力と物事を整理し分析する能力についてはクラス内でトップレベルだということは自負している。

伊達に、頭脳レベルが全国平均を大きく上回る帝東学院において、真壁瑠衣斗(男子十六番)・芳野利央(男子十九番)に次ぐ、クラス・学年共に第三位の成績を修め続けてはいない。

少ない情報の中、智子が最も警戒しているのは、榊原賢吾(男子七番)・松栄錬(男子九番)・鷹城雪美(女子九番)・湯浅季莉(女子二十番)という一見バラバラに見えるが個別に見れば関係性のある6班だ。
その根拠は、プログラム開始直後に響いた銃声だ。
最初に出発した木戸健太(男子五番)・城ヶ崎麗(男子十番)・朝比奈紗羅(女子一番)・鳴神もみじ(女子十二番)という麗とその取り巻きで構成された5班と、6班のみが教室を出た時点で銃声が響いた。
双方未だ全員が健在という点から、これは本格的な戦闘ではなく、どちらかがどちらかを襲撃し、襲われた方が発砲し無事逃げることに成功したという可能性が高い。
本格的な戦闘であるなら銃声が一度だけということが不自然で、仮に襲った側が発砲したのなら逃げる相手目掛けて数回発砲するだろうが、逃げた側の発砲だとすれば相手を怯ませるために一度だけ発砲するという理由ができる。

もしそうであると仮定するなら、襲った側は6班、逃げた側は5班である可能性が高い、と智子は見ている。
襲った側が6班とする根拠は、誰一人犠牲にならなかったことだ。
10個の班の中で、最も運動能力が高いのは、全員が運動能力に秀でている5班。
対する6班は、錬と雪美が人並み以下で、足も遅い(雪美になら、智子は勝てる)。
運動能力や体力に関しては、プログラムにおいて、普段の成績が大凡そのまま能力値として反映されるだろうから、5班全員が追いかければ錬か雪美を捕まえ殺害することができただろう。

このことから、全員が生き延びることができる可能性は、6班が追いかけて5班が逃げ切ったという構図の方が高い。
もちろん、麗が出発前に放った『俺は政府の連中の言うことなんか絶対聞いてやらねぇ』という言葉とその言葉を裏切らないであろう人柄も加味しての考察なので、論理としては穴は多いが、その宣言を聞いた直後に5班を襲った可能性が高い6班の面々は、疑って掛かって損はない。

それから、横山圭(男子十八番)を殺害した人物についてだ。
圭は教室を出て間もなく響いた数度の銃声の中で命を落とした。
これは6班は関与していないと思われる。
何度も銃を発砲できるのなら、5班との戦闘でも同じことができたはずだからだ。
やる気ではなくその場を立ち去っていたであろう5班を除外すると、利央・阪本遼子(女子八番)・蓮井未久(女子十三番)という男子委員長と女子主流派グループ2人が属する7班(本当は田中顕昌(男子十一番)もメンバーの一員だが、彼は誰もできなかった勇気ある行動を取った結果、出発前に命を落とした)と、内藤恒祐(男子十二番)・林崎洋海(男子二十番)・如月梨杏(女子四番)・かれんという関係性を見出すことが容易ではない8班が、圭の死に関与した可能性がある。
8班が関与しているのであれば、最初の放送で全員が名前を呼ばれてしまっているのでこれ以上考える必要はないが(この考え方は酷く冷たいけれども)、7班であったとするなら運動能力が総じて高く、麗とは違うタイプのリーダーシップを持つ利央がいることを考えれば大きな脅威である(尤も、真実は圭の仲間であるはずの室町古都美(女子十八番)が犯人である、ということだが、智子の知るところではない。仲間に恵まれ内部で揉めることのなかった智子には、仲間割れの可能性までには考えが及ばなかった)。

小石川葉瑠(女子五番)といえば、遼子や未久と仲が良く、教室でいつも大きな声で騒いでいるムードメーカーの一人で、頭の回転が速い女の子だったが、先程の放送で名前を呼ばれた。
ライド(担当教官)曰く、リーダーの相葉優人(男子一番)の死亡により、首輪が爆発したことが死因となった。
その場に居合わせたということは、智子たちの首にも巻き付いている首輪が爆発するところを目の当たりにしてしまったのだろう。
想像しただけで胃の中の物が逆流してきそうだった。

「小石川は、はっきりと、奈良橋たちはやる気じゃないと言っていた。
 恐らく、日比野か水田か、その両方かと会ったんだろうな」

智子たちがいつまで経っても会えずにいる迅と早稀に会っていた人がいた――クラスで浮いた存在である智子や雅哉にも気さくに話しかけてくれて気遣ってくれた2人のことだ、葉瑠とも仲良く話をしたのだろう。
日頃の元気な2人の姿を思い浮かべると、一層会いたいという思いが募った。

「葉瑠はね、最期に言ってたの…『やる気じゃないみんなを、助けてあげて』って。
 あたしたちは葉瑠を助けられなかった…だから、せめて、葉瑠がやる気じゃない
 って言ってた奈良橋さんたちを助けたい、葉瑠の願いを叶えたい。
 だから、あたしたちが知ってること、全部教えてあげたい…いいかな?」

未久は今にも泣き出しそうな声で、しかしはっきりと述べ、最後は遼子と利央の顔を交互に見遣った。
無言を許可と取った未久は「ありがとう」と小さく呟き、智子たちに向き直った。

未久が主導で話し、利央と遼子がたまに補足を入れた。
3人から得た情報は、非常に大きなものだった。
智子の推測通り、やる気になっている6班(賢吾と季莉が確実にやる気になっているそうで、賢吾と親しい利央、季莉と同じ部活をしている未久は辛そうだった)と、やる気ではないが銃を所持している5班との衝突の話。
銃を所持し、且つやる気になっている10班。
そして何より驚いたことは、圭を殺害した犯人が、同じ班の仲間だったはずの古都美という事実だ。
これは完全に予想外で、大人しい古都美や真面目なイメージのある原裕一郎(男子十三番)がやる気になっているということも考えもしなかった。

プログラム本部である小中学校から見て真東に位置するE=05エリア、茂みの下からひょっこり顔を覗かせた暗がりの中で光る2つの瞳に、広瀬邑子(女子十五番)はたたっと駆け寄ってしゃがみ、小さな手を差し伸べた。
警戒しているのだろうか、猫は近寄らずに耳をピクピクと動かしていた。

「…誰かの飼い猫だったのかもね、首輪が付いてる」

邑子の隣に財前永佳(女子六番)が腰を下ろし、じっと猫を見下ろしていた。
永佳とは物心ついた頃からの幼馴染なので、彼女が猫が好きなことも、しかし父親が猫アレルギーのため飼うことを許されなかったことも知っている。
今も、猫をじっと見つめる永佳の横顔は穏やかだ。

「猫ちゃん、お腹空いてないのかなぁ…」

「そりゃあ、空いてるんじゃない?
 飼い主はここにはいないし、誰も世話してないだろうし」

あ、そうか。
今はプログラム会場になっている御神島は有人島で、民家があるのだから当然人が住んでいて、猫に首輪が付いているということはこれも当然だが誰かに飼われていて、飼われていたのだから食糧は飼い主に恵んでもらっていたはずだ。
しかし、現在、ここには住人は一人もいない。
プログラムが開始されてまだ一日は経っていないけれど、昨日住人をここから追い出したわけではないだろうから、この猫は数日何も食べていないこともあり得る。

可哀想だなぁ…
人間の都合で飼い主に置き去りにされちゃって…

邑子は鞄の中を漁るが、出てきた食糧は支給されたパンのみ。
邑子は暫くじっとパンを見つめた後、永佳を見上げた。

「猫ちゃんって、パン食べるのかなぁ?」

「…あんま聞かないけど…良くないんじゃない?」

永佳は眉間に皺を寄せて答えると、持参の鞄のポケットを探っていたが、飴しか出て来なかったらしく、「早稀が勝手に鞄に入れてくることもあったんだけど、もう全部食べちゃったか」と呟いて溜息を吐いていた。
永佳の表情が曇ったように見えたのは、いつも一緒につるんでいた水田早稀(女子十七番)との何気ない日常風景と、今朝撃って傷付け揉み合いになった時のことを思い出したからではないだろうか。
あの時、邑子は、早稀の恋人である日比野迅(男子十五番)に拳銃を突き付けられ人質に取られた。
怪我を負うことはなかったけれど、あの時の迅の険しい表情と低い声、首が締め付けられる感覚を思い出し、邑子は身震いした。

「パンはやめときなさい、猫は一応肉食なんだから。
 残念だけど俺たちが持っていてあげられるものは、水くらいしかないよ」

邑子と永佳の間から、すっと腕が現れた。
邑子たちの幼馴染、春川英隆(男子十四番)が、水を満たした丸みを帯びた長方形のプラスチックケースを猫の前に置いた。

邑子を挟んで永佳と反対側にしゃがんでいた望月卓也(男子十七番)に訊くと、元気は足りないけれど人懐こい笑みを返してくれた。

「おう、チワワの“いぬ丸”と、最近拾って飼い始めた“ワン太”!
 すっげー可愛いの!」

「ほんっと卓也さんってネーミングセンスない」

「同感、それ自分の子供に“人太郎”とか“人子”って付けてるのと同じだよね」

「あっ、永佳もヒデも酷い…俺可哀想!!」

「可哀想なのは卓也さんの家のペットたちでしょ」

可愛いペットに付けた名前を永佳と英隆から辛辣に批判された卓也は、しゅんとして猫の背中をそろりと撫でていた。
3人のやり取りが、まるで普段の生活の中から切り取ってきたような穏やかなものだったので、邑子は表情が自然と緩むのを感じた。

卓也は外見だけを見ると、茶髪にピアスといった派手な身なりをしているので取っつき難そうなのだが、人当たりが良くて人懐こい。
イベント事になればクラスを盛り上げていた人たちの一人で、所属するテニス部でもムードメーカーだ。
男子テニス部は全国大会での上位を争う常連校なので、邑子が所属する女子テニス部も含めて学校を上げて応援に行く機会も何度かあったのだが、団体戦ではレギュラーでありながらも応援している部員たちを盛り上げる応援団長でもあった。
初等部の頃から何度か同じクラスになっていたことや男女テニス部でテニスコートを共有していることもあったため、卓也と話をする機会は非常に多く、邑子自身が自覚できる程に卓也には可愛がってもらってきた。

永佳とは物心ついた時には既に仲が良かった。
昔は卓也と同じようにクラスの中心でクラスメイトたちを盛り上げることが多かったのだが、今では無表情であることが多く言葉もぶっきらぼうで、両耳には痛くはないのかと心配してしまう程のピアスを付け、付き合う友人も少し崩れた感じの派手な容姿をした面々が多い。
しかし、あまり表には見せないが周りのことを良く見る優しさは昔から変わっておらず、邑子には昔から変わらず優しいお姉さんのように接してくれる。
卓也と付き合い始めた時は、卓也に永佳を取られたようで悔しかったけれど、永佳が変わらず邑子に気を配ってくれていることが嬉しかった。

英隆も、邑子の中にある一番古い記憶の中には既に存在している程に長い付き合いで、邑子と永佳にとってはお兄さんのような存在だった。
一般庶民である邑子や永佳とは違って、ゆくゆくは祖父が経営する商社を継いでいく御曹司というやつなのだが(邑子たちよりも、城ヶ崎麗(男子十番)に近い人種なのだ、本当は)、そのような育ちを鼻に掛けることはない。
仲の良い男子たちとは一緒に騒ぎつつも気を配って世話を焼き(しばしば相葉優人(男子一番)や川原龍輝(男子五番)あたりには“オカン”と言われていた)、親しくなくとも柔らかな物腰で接するので、周りから好感を持たれやすい。

背丈は邑子と似ているのに邑子と違ってしっかりしていて気の強い阪本遼子(女子八番)の、「アンタ、永佳とか春川とかに甘えてばっかじゃ駄目なんじゃないの?」という声が聞こえてきそうだが。

いつまでも猫を相手にしているわけにもいかないので、邑子たちは猫に別れを告げ、再び歩き出した。
はっきりとした目的地はないのだが、クラスメイトを探すために。
クラスメイトを探し、殺めるために。

英隆と永佳はこれまでクラスメイトを発見すれば積極的に攻撃し、宍貝雄大(男子八番)を殺害し、荻野千世(女子三番)を死に至らしめる原因となった。
邑子と卓也は何もしなくて良い――2人からはそう言われていた。
2人に任せて自分は何もしないなんて良いのだろうかと疑問に思う反面、クラスメイトを傷付けなくても許される現状に安堵している自分もいた。
小石川葉瑠(女子五番)に“共犯”と責められた時にはショックを受けたが、涙が枯れる程泣いた後に改めて考えると、英隆たちを止めない自分は確かに“共犯”なのだろうと思った。

いいんだ、ゆーこは“共犯”で。
だって、死ぬなんて怖いもん。
でも、誰かを撃ったり刺したりするのも怖い。
どっちもしなくて済むなら、ゆーこは“共犯”って言われた方がずっとずっと良いもん。


がさっ


不意に、右側から葉の擦れる音がし、邑子は足を止めた。

「邑ちゃん…?」

英隆の声色からは、気を付けろという思いが伝わってきたのだが、邑子はさして気にも留めず、茂みの方へ足を向けた。

「さっきの猫ちゃんかも」

先程水を与えた猫が、ついて来てしまったのかもしれない。
どこかに、先程見たものと同じ光る瞳があるはずだ――邑子は茂みの傍にしゃがみ、枝の隙間を覗き込んで猫の姿を探した。
しかし、光る瞳はどこにも見当たらない。

代わりに邑子が目を留めたのは、枝の色とは少し違う、ブラウン地のチェック模様――そう、邑子にとって見慣れた、帝東学院中等部の男女の制服のズボンやスカートの布地の模様。
そこまで思考が及ぶと同時に邑子は丸い目を大きく見開き、ばっと顔を上げた。
何かが自分目掛けて近付いており、邑子は「わっ」と声を上げながら咄嗟に上半身を後ろに倒しつつ、反射的に両腕を顔の前に出して防御の構えを取った。
次の瞬間、左腕を鋭い激痛が襲った。

「あああぁぁぁぁあぁっぁあッ!!!」

邑子は絶叫し、痛みの突き上げる左腕を右手で押さえた。
右手が生温い液体で濡れた。
左掌から肘の裏側に掛けてすっぱりと皮膚が裂けていたのだが、ただ痛くてたまらないということ以外、今の邑子にはわからなかった。

「邑ちゃんッ!!」

英隆が邑子に駆け寄った。
邑子を抱えようとする英隆に、襲撃者が再び襲い掛かった。

「春川、前ッ!!」

永佳がデイパックをぶんっと振るうと、それは襲撃者に当たり、「ぐっ」という短い悲鳴が聞こえ、襲撃者の身体がよろけた。
永佳は目の端で別の人物を捉え、もう一度デイパックを振るったが、今度は空を切るに終わり、相手はお返しとばかりに何かを持った手を振り下ろしてきた。
永佳はデイパックを捨ててその手を押さえようとしたが、伸ばした手は空を切り、何かが緑色のカーディガンの左肩部分を掠めて繊維を裂いた。

身体に痛みを憶え、湯浅季莉(女子二十番)はゆっくりと瞼を持ち上げた。
顔の下敷きになっていた右手がじんじんと痺れているし、首が痛む。
まるで授業中によく眠った後のよう――そこまで考え、季莉は眉を顰めた。
おかしい。
季莉は上半身を持ち上げたのだが周りは暗くてよく見えないので、自分が体を預けていた板を触り、そこから手を滑らせてその全体像を把握した。
これは、学校で使うような机だ。
しかし、帝東学院のものとは少し形が違う。
同様に自分が腰掛けている椅子にも触れてみたが、やはり形状が違うようだ。

ここは、どこ?
学校じゃない。
そもそも、あたしたちは修学旅行に行く途中だったはず――あれが夢じゃなければ。

季莉は前に手を伸ばしてみた。
すぐに、温かい何かに触れることができた。
これは、人の体温による温かさ――丸みを帯びたフォルムは、恐らく背中だ。
少し手を上にずらしてみると、別の布の感触がした。
それを掴み、形を確認してみる――フードだろうか、これは。

「…早稀?」

季莉は友人の水田早稀(女子十七番)の名前を呼んでみた。
フードがついている服を着ている人間で最初に思い浮かんだのが全体はカーキ色でそこに白黒のストライプ模様のフードが付いたパーカーをいつも着ている早稀だったこともあるが、早稀が前にいるのなら、それは教室での席順と同じ可能性が高いからだ。

前にいる人物は何も答えないので、今度は後ろや左側に手を伸ばしてみたが空を掴んだだけに終わった。
季莉の席は最後列で窓側から2列目、ただし窓際の列は机が1つ少ないので季莉の左隣には誰も座っていなかった――つまり、やはりこれは教室での席順と同じ並び方なのではないだろうか。
そうであれば、右隣にはクラス1大きな体を持つ無愛想な林崎洋海(男子二十番)がいるのだろうし、右斜め前には副委員長の奈良橋智子(女子十一番)が、左斜め前には銀髪赤メッシュという、パーマをかけた明るい金髪をツインテールにしている季莉と同レベルで派手な頭をしているサボリ魔の芥川雅哉(男子二番)がいるはずだ。
とにかく、こう暗くては確認することも困難なのだけれど。

「ねえ、早稀…早稀ってば」

洋海とは会話をしたことはないし、智子はたまにからかったり嫌がらせをしてやったりしたこともある仲だし、雅哉は女子相手にヘラヘラしているところがあまり好きではないので、声を掛けるならやはり前にいるであろう早稀しかいなかった。
お互い一時は問題児扱いされていた者同士ということもあって仲良くなったのだけれど、お互い落ち着いた今では様々なことに対して同じテンションではしゃぐことができる1番の親友だ。

536 :名無しさん@お腹いっぱい。:2013/08/05(月) 08:11:26.09 ID:IiiUx2HC
ゲーム本編はシナリオとの絡みがあるからなー
メインヒロインとされる霧切さんですら恋愛成分はかなり控えめだし
その制約の中でも、セレスさんの自由行動は特に回数が多くてラストの密度が濃い
アニメ組にも自由行動は是非やってもらいたい所だ

 東堂あかね(女子14番)の姿が見えなくなってから、澤部淳一(男子6番)は小さく息を吐いた。そこには、どこか安堵したような響きが含まれている。

 

――ようやく厄介払いできたか。

 

 右手に持ったままの鉄製の定規(あかねの首筋に当てたのはこれだ。本人は刃物の類いと思っただろうが)をポケットにしまい、足下に置いた荷物に細心の注意を払いながら、玄関の方へと視線を向ける。どうやら、宮崎亮介(男子15番)はまだ教室から出てきていないようだ。けれど、もう出てくるのも時間の問題。あかねが一人でいたところから、もう同じようなことを考える輩はいないだろうが、念のためにもう一度ブレザーの左ポケットから端末を取り出して電源を入れた。すぐに画面が明るくなり、画面に星マークが現れる。

 個々がつけている首輪に反応する探知機――それが、淳一に支給された武器だった。画面上だけでは誰であるかは分からないという欠点はあるし、直接攻撃するといった観点から見れば、まったく役に立たない代物だろう。けれど、身を守る上でこれほどありがたいものはない。この探知機の範囲百メートルよりも外から遠隔射撃でもされない限り、不意打ちで殺されることはまずないからだ。だからこそ無事に学校まで戻ってこられたのだし、玄関近くに誰かが留まっていることもすぐに分かった。近づけば、その内の一人があかねであるということも。

 亮介と合流するにあたって、極力別の誰かが入ることは避けたい。そのためには、ここに自分以外の誰かがいてもらっては困る。それに、亮介がまだ教室にいるかどうかも知りたい。そこで、まずはあかねが薮内秋奈(女子17番)と合流できないようにし(複数だと何かと面倒だからだ。それに秋奈はああ見えて頑固なところがあるので)、必要な情報を聞き出した。そうしてから、わざと挑発的な言い方であかねを煽り、正門の方へと行くように仕向けた。ああ言えば、あかねの性格上必ず確かめに行くと踏んだからだ。狙い通りあかねは正門へ行ってくれたし、おそらくしばらくこちらに戻ってくることはないだろう。今も探知機に映し出されている彼女を示す星マークは動いていない。つまり、まだあそこにいるのだ。いや、正確には動けないといったところか。もしかしたら禁止エリアになるまであそこに留まるのかもしれないが、それは淳一の預かり知るところではない。

 

 気になるのは、今も淳一の近くにいるであろうもう一人の存在。その人物は、探知機の表示によれば校門とは反対方向、左手にある建物の影に潜んでいるようだ。あかねがここにいるときから何もアクションを起こさないところからして、仲間を作ろうとしている輩ではないだろう。そして攻撃するつもりもないということは、今も沈黙を守っているところからして明白だ。しかしそれなら、何のためにここにいるのか分からない。もう教室に残っているのは、亮介と最後の出発である槙村日向(男子14番)だけ。亮介と合流しようとしているのは自分くらいしかいないだろうし、日向なら加藤龍一郎(男子4番)や弓塚太一(男子17番)が考えられるが、それにしても単独で待っているのが引っかかる。それに日向を待つくらいなら、あかねにだって声をかけるはずだ。もしかしたら他に何か目的があるのかもしれない。けれど、少なくともわざわざこちらからアクションを起こす必要はないだろう。そこまで考え、淳一は探知機の電源を落としていた。

 須田雅人(男子9番)が発したその一言は、この教室全体に波紋を広げていた。橘亜美(女子12番)も、一瞬我を忘れてポカンとする。それは、心の奥底では誰もが思っていたことだけれど、同時にこの状況では言うことを躊躇う内容でもあったから。

 

「それって、自分は参加したくないってことかなー?」
「い、いや、そうじゃなくて……。このクラスで殺し合いとかするのが嫌なんです。中止するとか……できませんか?」

 

 雅人の言っていることは、日常生活の中で言えば真っ当なことだ。クラス内での殺し合いなど赦されることではないし、できるかできないかと言われれば、もちろんできないに決まっている。

 けれど、このプログラムの場においては、それはあまりにも現実を見ていない発言ともとれてしまうのも――また事実だった。

 

「須田くんは、今までどれくらいのクラスに対してプログラムが行われたか……知ってるかな?」

 

 寿担当官に質問に質問で返されたせいか、雅人は「えっ……?」と呟いたきり、何も言えずにいた。プログラムは、確か1947年から毎年行われているはず。毎年五十クラス、今年が1993年。頭の中で概算してみたが、それよりも担当官が答える方が早かった。

 高槻清太郎(男子十四番)は地面のぬめりに足を取られて滑り落ちぬよう気を付けつつ、斜面に対して平行に歩いていた。
 七時間睡眠を基本としている普段の生活と比べて、十分な睡眠時間を取れたとは言い難いが、生死の狭間に立たされたこの状況下では、幾分でも休息をとれたというのは幸運だったのかもしれない。いろいろあって疲れていた夜間よりも、足取りが軽くなったような感覚があった。
 支給されたバッグを肩に掛けているが、その重さもさほど気にならない。林間学校用に家から持ってきた私物も詰めているが、必要な物だけを選別した甲斐があった。先日買ったばかりのカードゲームの束など、破棄するのを躊躇われた物もあったが、命には代えられない。
 支給品の他で残したものは、少ない衣類と菓子類くらいに留まった。
 苦渋の決断の末に身軽さを手に入れることができた清太郎。だが、支給された武器が頼りなく、不安は残る。
 本来は木材などに穴を開けるために用いられる工具である錐を、利き手でしっかりと握り締める。今、自らの身を守ってくれるものは、頼りなくともその唯一の武器しかないのだ。
 敵に見つからぬよう周囲に注意を払いつつ、物音を最小限に抑えるよう努めた。目指すはG-5エリアにある洞窟である。
 昨夜、西村歩美(女子十二番)と行動している増田拓海(男子二十二番)が、清太郎が隠れている傍を通りかかった際に、そこで“皆”と合流する、と確かに話していた。
 “皆”とは一体誰のことなのか分からないが、それなりの人数が集結するらしいと窺える。それも歩美や拓海の様子から察するに、ゲームに乗る目的ではなさそうだ。
 同じくクラスメートと戦う気など毛頭なく、今後どう行動するべきか考えが纏まっていなかった清太郎は、その集合場所とやらの様子が気になっていた。
 何人、誰が、どういう目的で集まるのか、それらを探った上で、仲間に入れてもらうか、別に行動するかを判断したかった。
 幸いなことに、G-5はそんなに遠いエリアではない。誰かに襲われたりしていなければ、夜間に行動していた拓海たちはとっくに到着しているはずだ。
 問題は、無事に仲間と合流を果たした彼らが、その後もその場所に留まっているのか、ということ。
 うっかりしていたが、G-5はアジトではなく、ただの集合場所でしかないのかもしれない。拓海たちはずっと同じ場所に留まり続けるつもりなのだと勝手に思い込んでしまっていたが、メンバーが集まり次第、さらにどこかに移動してしまう可能性だってあると、朝になって気付いてしまった。
 己の迂闊さに嫌気がさした清太郎は、癖毛でもじゃもじゃの頭を掻き毟った。
 普段の冷静さがあれば、このようなミスをしでかすなんて考えられないが、よほど頭も疲れていたのだろう。
 拓海たち以外のメンバーが、都合よく集合場所の近くからスタートできたとは思えないので、おそらく未だ合流は果たせていないと思われるが。G-5に留まっていることを願うしかない。

「俺らのアジトはすぐ近くだからさ。歓迎するよ」
 そう言って拳銃の大男、浜田智史(男子十八番)は手を伸ばしてきた。
 強く握手を交わし、清太郎は「よろしく」と返す。
 そして今度は清太郎から、マシンガンの小太り男、佐久間祐貴(男子九番)へと手を差し出す。
 祐貴は数秒間黙って清太郎の手を見ていたが、これまで緊張していた顔を緩めて、最終的に握り返してきてくれた。
「しかし、そんな貧相な武器でよく無事にたどり着いたな」清太郎が拾い上げた錐を見て、智史があきれたように言った。
「政府も人が悪いよな。こんなもんで戦わそうなんて」
「ははっ。俺らみたいに銃とか持ってる相手には、威嚇にすりゃならねぇわな」
 笑いながら智史が見せるのは、自動拳銃シグザウエルP250。一方、祐貴が抱えているのはIMIウージー・サブマシンガン。確かに彼らが殺意を持つ相手だったなら、全く相手にすらならなかった。

 複雑に絡み合った植物の茎に足をとられそうになりながら、必死に逃げているのは高橋宗一(男子十五番)。お調子者で常にテンションが高い彼は、地声が大きくてボリュームの調整がきかず、内緒話等も周囲に聞かれてしまったりすることが度々ある。それがクラスメート同士の諍いの種になってしまう可能性もあるため、秀之からは注意レベルと評価されていた。
「くそっ、なんで俺がこんな目に……」
 背後に迫る脅威に怯え、宗一は走りながら時々後ろを振り返る。
 視界の中、流れていく森の景色の奥に、禍々しく殺意を滾らせる追跡者の姿をはっきりと捉えた。狐の面を被った転校生、危険レベルの辻斬り狐(男子二十五番)。その手には大型のククリナイフが握られており、重厚で切れ味の鋭そうな刃が暗闇で時折光る。
 脳裏をよぎったのは、自らが斬り付けられる凄惨な光景。背筋が、ぞくっ、とした。
 絶対に追いつかれてしまっては駄目だ。仮に戦っても勝ち目はない。こちらの武器である手万力は、戦闘においてククリナイフより劣るし、そうでなくても宗一は他人と争うことが苦手だった。
 必死に森の奥へ奥へと進む。今、自分が島のどの辺りにいるのか、もはや全く分からない。
 位置を確認しようにも、走っている最中にバッグから地図を取り出すのは難しい。
 森の中から抜け出すには、いったいどれだけ走らなければならないのだろうか。足場のよい平地に出ないことには、まともに走ることもできない。このままでは追いつかれてしまうのも時間の問題だ。そもそもこういう追いかけっこでは、相手の動きを見て走るコースを選べることから、追いかける側のほうが断然有利なのだ。
「ヘケケケケケケケッ! 待ァーテェーーーーーーッ!」
 仮面の内側に仕込んであるらしいボイスチェンジャーを介した、不気味な笑い声が森の中に響く。命がかかっているこのクソゲームを、心の底から楽しんでいるかのようだ。
「誰が待つかー!」
 辻斬り狐の挑発に、律儀に反応してしまう生真面目さが、自分でも嫌になる。
 船の中にいたときの言動を聞いたかぎり、相手は頭のイかれた快楽殺人者と何ら変わらない。常識が通用しない彼の挙動に、一々反応することは無駄でしかない。
 走っている最中、時折足がもつれて転びそうになる。雑草と木の根が這う地面は凸凹していて足場が悪く、そのうえ背負った大きな荷物に身体を揺さぶられるためだ。政府から支給された物品以外に、林間学校のために持ち込んだ余計な私物も持ち歩いていたのが失敗だった。
 余分に用意してきた着替えとか、おふざけで持ってきた変装道具なんか、今となってはただただ邪魔だ。
 しかし今さら走りながら荷物を仕分けるのは不可能だし、大切な食料などが入っているバッグごと捨てるわけにもいかない。

 鳴神空也(男子二十六番)と山田花子(女子二十五番)のことだ。二人は船の中で口数が少なく、一見した限りでは辻斬り狐ほどの異常性は感じられないが、この糞ゲームに志願する理由なんて、確かに殺人への興味以外に考えられない。
「僕ノ場合ハ、テレビゲームガ好キデサ。特ニ、出テクル敵ヲ銃トカ[ピザ]ッ殺スヤツ。バキューン、バキューン、ッテネ。デモ、ソレニ飽キテキタノカ、近頃ハゲームナンカデハ興奮デキナクナッテキテネ」
「現実でやってみたくなったわけか……」
「ソウイウコト!」
「その仮面は?」
「コレ雰囲気出テイイデショ。イカニモ殺人鬼ッテ感ジデ。顔モ声モ謎ニシタ方ガ、皆ノ恐怖感ヲ高メルト思ッテ、ワザワザ用意シタンダヨ」
 などと楽しそうに語りながら、宗一の頭を踏みつけている足に、より体重をかけてくる。
 コイツ、マジで狂ってやがる。
 宗一は怒りと悔しさのあまり、顔を歪ませる。
「アッ、ソノ表情生意気! カチーン」
 唐突に振り下ろされるナイフ。腕を貫通して脇腹にまで到達し、激痛から悲鳴が漏れる。元からそういう色だったのかと見間違うほど、制服全体がもはや血で真っ赤だ。人間は血液の三分の一を失うと死ぬというが、傷を放っておけば、それに近い量が余裕で流れ出してしまいそうだ。
 嫌だ。こんなところで死にたくない。
 絶望に立ち向かうべく、今度は手足に力を集中させようとするが、既に血を流し過ぎているのか、どうにも身体が言うことを聞いてくれない。僅かに四肢が浮き上がるだけで、それ以上はどうにもならない。
「ヘケケケケケッ」
 辻斬り狐のあの独特な笑い声が聞こえる。まず一人目の獲物を順調に仕留め、とても昂揚している様子だ。
 もちろんこれで満足したわけではないだろう彼は、宗一の全てを終わらせた後、また新たな獲物を求めて動き出すだろう。そして、第二、第三と殺人を繰り返すに違いない。
 他人のことを考えている余裕なんて皆無であったが、自分を陥れた相手に一矢報いたいという思いからか、気がつくと、満足に力が入らない手で、辻斬り狐の足首を掴んでいた。
「……コレ、僕ヲ捕マエタツモリカイ?」
 血濡れの手で白い靴下を汚されたからか、ボイスチェンジャー越しの声は僅かに不快感が入り混じったようだった。
「ボケガッ! コノ程度ノ握力デ、僕ヲ止メラレルハズガナイダロ!」
 辻斬り狐はいとも簡単に拘束を解き、その足を振り上げて一気に下ろした。
 短い、しかし断末魔のような悲鳴が上がる。
 バキリと音をたてて砕かれた宗一の指は、あらぬ方向へと曲がっていた。かなり複雑に粉砕したようで、関節がどこにあったのかも分からないような形になってしまっている。本人的には身体の傷よりもこちらのほうが、目も当てられぬ光景に思えた。

 潮風が吹き付ける海岸をゆっくりと歩く人影は、肩にかけたバッグの意外な重さに、早くも音を上げそうになっていた。
 細身で小柄なその正体は、足立宏(男子一番)。
 彼は、海とは反対側の茂みの中から沖田秀之に覗かれていることに気づいておらず、砂浜に僅かに残されている移動の痕跡も、完全に見落としていた。まさか自らが参加することになるとは夢にも思っていなかったプログラムに突如巻き込まれたことにより、情緒不安定な状態に陥ってしまい、冷静に周囲に注意を払えるほどの余裕なんて残されていなかった。
 寒いわけではないのに身体の震えが止まらず、俯き加減になりながらしきりに、両腕で自らの肩を抱いたり、癖毛でもじゃもじゃの頭を抱えたりを繰り返した。
 歩を進めるごとに、力が入らない足を砂にとられ、体勢を崩してしまいそうになる。
 決して強くはない彼の精神はかなり深くまで恐怖に蝕まれており、それに伴って気力が急激な速度で奪われていた。
 怖い……死ぬのは嫌だ……。
 クラスメート達に自分が殺される不吉な映像が、何度も頭の中をよぎる。気弱で力の無い自分は、皆にとって格好の標的なのではないか、という、悪い考えばかりに頭の中を支配されていた。
 プログラムに巻き込まれる以前の平和な日常においても、宏は弄られ役としてターゲットにされることが多かった。そして、そのポジションに大いに不満があっても、反抗することが全くできなかった。
 弄られる程度ならまだ良かったのかもしれない。特に関口康輔(男子十二番)たち不良グループからは、ほぼ苛めに近いことをしつこく繰り返され、学校に通うのが憂鬱に感じるほどになっていた。
 そんな昨日までのことを思い出すだけで、さらに気分が沈み、蓄積されたストレスが我慢の限界点まで迫ってくるのが自分でも分かった。
 なんとかして落ち着かなければ、気がどうにかなってしまいそうだった。しかし死と隣り合わせのこの状況下では、むしろストレスは一方的に溜まっていくばかり。
 まるで脱出不可能な迷宮に迷い込んでしまったかのような、どうしようもない状況だ。
 宏はおもむろに肩にかけたバッグを引き寄せ、政府からの至急品である飲料水のペットボトルを取り出し、口に含んだ。喉の渇きを癒せば、少しは気分が落ち着くかもしれないと思ったのだった。しかし残念なことに、そのくらいの事では状況は何も好転しない。
 ボトルの蓋を捻り、バッグに戻そうとしたとき、開いたファスナーの隙間から“武器”が姿を覗かせた。
 ドクン、と胸が高鳴る。
 自分の身を守るために必要な物であるとはいえ、死を直接的に連想させるその存在は、なるべく目にしたくは無い。
 武器を隠すように、そっとその上にペットボトルを乗せ、そそくさとファスナーを半分だけ閉めた。半分開けておいたのは無意識だが、いざというときに武器を取り出しやすいようにしておかないと不安、という気持ちの表れなのかもしれない。
 宏はバッグから目を逸らすようにして前を向き直った。
「誰? そこのアンタ!」
 視線を進行方向に向けると同時に、誰かから声をかけられて飛び上がりそうになった。
 今まで余所見をしていたせいで気づかなかったが、前方に誰かが立っている。
 しまった。誰にも遭いたくなかったのに、つい他の事に気を散らせて、こんなにも相手の接近を許してしまうなんて……。と宏は自らの不用意さを心底恨んだ。
 ほんの数メートルという距離なのに、暗さのせいで相手の顔がはっきりとは見えない。しかし癖のかかった髪を少し伸ばしているのは分かるし、スカートを穿いていることから、女であるのは間違いない。そして背は、小柄な宏ですら見下ろすほどに低い。
「だ、黙ってないで答えなさいよ!」
 強気で威勢の良い口調の相手も、この状況に怯えているのか、声がうわずって発言の所々で吃っている。
 右手の指に挟んでいるのはタバコだろうか。小さな赤い点が鈍く光っているのが見える。
 このクラスで喫煙者は数少なく、女子では根来晴美(女子十三番)の一人しかいない。

?烙焔島(らくえんじま)?

千葉県から数キロ沖に存在する、およそ2km四方の島。
廃村等の存在から、かつては人が暮らしていたのが分かるが、今は無人となっている。
長い間外界から遮断されていたため、あまり調査は進んでいない。
島内の施設も、何のために造られたのか、不明なものが多い。

「…今、何か音…したか…?」
滝井良悟(男子10番)から直線距離にして50m。
間には本棚が並んでいるため視界は開けていないので存在には気付いていないが、常陸音哉(男子14番)は音を聞いた。
微かに、聞こえた気がした。

「さぁ…あたしは聞こえなかったけど…?」

高井愛美(女子13番)は首を傾げた。

「疲れてるんじゃないの?
 かれこれこんな状況で1日起きてるわけだし…」

愛美は小さく欠伸をし、横で椅子を4つ並べて作った簡易ベッド(寝心地は最悪だけど、床よりは感触が少しだけ柔らかい)に寝転がっている伊賀紗和子(女子3番)の頭を、優しく撫でた。
紗和子は規則正しい寝息を立てて眠っている。
放送があった時には、呼ばれた人数の多さと、呼ばれた全員が仲が良かったはずだということにショックを受けて泣きじゃくっていたが、この緊張状態では、紗和子の小さな身体は疲れきっていたようで、5分も経たないうちに眠ってしまった。

鳳紫乃(女子6番)との争いを避けて図書館に入った後、3人は2階の奥の方で休息を取ることになった。
1人が眠り、2人が見張る。
そう決めて、放送の前までは愛美が眠っていた。
唯一の男である音哉は、自分が最後まで起きて見張っておくべきだと思ったので、最後まで起きていることを買って出た。
愛美が寝ている間、紗和子がこくりこくりと舟を漕いでいたのが微笑ましかった。

音哉は政府からありがたく頂戴した煙草を1本取り出し、口に咥えた。
口元を落ち着けるためなので、火は点けていない。

先ほどの放送で、40人いたクラスは残り半分となった。
生き残ることができる可能性は10%――少しずつパーセンテージが上がってきているのだと思うと、複雑な心境になる。
パーセンテージが上がるということは、それだけクラスメイトが死んでいるということなのだから。
そして、いつ自分がその数字を上げることに貢献するのか――つまり、退場しなければならなくなるのか、それを考えると、かなり、怖い。

音哉は溜息を吐いた。
なぜ15歳という歳で、せいぜい風邪をひいたことがあるくらいの健康体である自分が、戦いを強要され、死と隣り合わせにならなければならないのか。

…チッ、わかってる…アイツらの…政府のせいだ。

蘇る紅い記憶。
権力に怯える自分の姿。
歯向かうことのできなかった、弱い自分の姿。

「…ねぇ、音哉くん?」

愛美に呼ばれ、音哉は顔をそちらに向けた。
愛美は首を傾げた。

「ずっと気になってたんだけど…
 音哉くんは昔は須藤くんたちと一緒に悪いことしてたんでしょ?
 何で今は大人しくなって、生徒会長までしてるの?」

「悪いことって…せいぜい喧嘩くらいだって。
 荒れに荒れてた大和のストッパー役。
 でもまぁ…聞く?」

音哉は記憶の引き出しを引いた。
できれば封印していたいけれど、なくなってほしくはない記憶。
音哉の転機。
人生の目標を掲げるきっかけ。

 

 

小学生の頃の音哉は、決して馬鹿ではなかった。
教師たちに反抗するようなことは表向きはしなかったし、勉強もそこそこできた。
ただ、素行はあまり良くなかったので、教師受けは悪かった。
須藤大和(男子7番)・山神弘也(男子17番)・野原惇子(女子16番)といった、教師受けの悪い連中とつるみ、暴力という手段を使って、反抗してくる者たちを屈服させていたのだから。

そんな音哉の家族構成は、自分と父母と祖父。
祖父は数ヶ月前に祖母が他界したことをきっかけに、同居するようになった。
歳に比べれば若々しい雰囲気を持つ、元気な老人だった。

音哉は祖父が大好きだった。
何故か父母には祖父とあまり関わるなと言われていたが、その忠告は無視した。
理由がわからなかったし、そういう父母の方が好きではなかったので、反抗したい気分になったからだ。

祖父は優しいわけではなかったが、同じ目線で話せる人だった。

「音哉、お前また喧嘩かァ?
 ほら顔見せなさい、消毒してやるから」

「…ってぇ…染みる…!
 喧嘩したっていーじゃん、年寄りの小言なんか聞きたかねぇよ!」

「年寄り言うな、クソガキ!
 俺のハートはいつでも若々しいんじゃい!
 大体喧嘩が悪いなんざ言ってないだろうが。
 俺が若い時にゃ毎日のようにバトルしとったもんだ」

「へぇ、若い時なんてあったのかよ」

「馬鹿たれが!
 こんなダンディーが小学校にいたら怖いだろうが!」

「ダンディーって…自分で言うなっつーの」

口喧嘩のような会話が楽しかった。
音哉の弁舌は、この頃形成されていったのかもしれない。
大好きな祖父だった。

祖父は週に1,2度、1人で出かける日があった。
行き先は決して教えてくれなかった。
父母に聞いても、関わるな、と言われるだけだった。

その日も、祖父は出かける準備をしていた。
小さな鞄を1つ持っていた。

「今日も行き先は内緒なわけ?」

音哉が玄関で靴を履く祖父に後ろから声をかけると、祖父は笑った。

「秘密を持つ男っつーのはミステリアスで良いだろうが」

「ミステリアスっつー歳かよ」

音哉も笑った。
祖父はよく外来語を使っていた。
今思えば、その理由は何となくわかる。

祖父が靴を履き終わったので、音哉は靴を履かないで玄関に下り、祖父が開いたドアを支えた。

「ジジィ、帰ったら将棋の相手してくれるんだろ?」

「俺の連勝記録を伸ばしてくれんのか、音哉は良い子だなぁ」

「違うっつーの、連勝記録を今日こそ止めてやるの!」

「ははっ、楽しみ楽しみ」

祖父は音哉を軽くあしらい、外へ出て行った。

その時だった。

音哉は目を見開いた。
突然、眼前に散る、紅い雫。
それを撒き散らす、祖父の姿。

「ジジィッ!!」

音哉は祖父に駆け寄った。
そして、見た。
祖父の額に開いた、穴。
そこから流れる、紅いモノ。

な…何がどうなって……

足音が聞こえ、音哉は呆然としながらもそちらを見た。
2人の男が立っていた。
その胸元には、桃のバッヂ――政府関係者の証。

理解した。
祖父は、政府にとって不利益となる活動をしていたのだ。
1人で出掛けていた先は、その関係だ。
父母が祖父に関わるなと言ったのは、政府に楯突いている祖父と関わることで音哉の身が危険に晒されるのを防ぐためだったのだ。

1人の男が近付いてきた。
そして、音哉の方にサイレンサー付きの銃口を向けた。

「お前は何も見なかった、良いな?」

音哉は、頷くことしかできなかった。
ふざけるな、と掴みかかることも、殴りかかることもできなかった。
男たちが去っていく背中を見続けることしかできなかった。
怖かったのだ。
歯向かえば殺されることが、わかっていたのだから。
大好きな祖父だったのに、何もできなかった。

人工の薄明かりでぼんやりと見えたのは、我らが母校、春日宮中学の生徒会長、常陸音哉(男子14番)。学年トップの頭脳と、パソコン部部長らしからぬ運動能力の持ち主で、クラスメイトや教師からの信頼が厚い。不良連中とも良好な関係を築いているので、誰とでも分け隔てなく接することができるのだろう。簡単に言うと、反吐が出るような野郎ということだ。
「…そこにいるの、会長だよな?」
滝井良悟(男子10番)は、恐る恐るという風を装って、訊いた。正体なんてとっくにわかっているけど、敢えて訊いた。音哉の横で、音哉の恋人だという高井愛美(女子13番)が動いた。小さく声が聞こえ、副委員長である伊賀紗和子(女子3番)も一緒にいるということがわかった。知力は2人共音哉には及ばないまでも優秀で、運動能力についても、愛美は陸上部中距離部門のエースで、他の競技でも苦手なものは無いほどだ。さすが生徒会長様、侍らす女も只者じゃない。
「そうだよ…良悟」
音哉が笑みを浮かべ、答えた。誰からも好まれる穏やかな笑顔だ。良悟も笑みを返した。大丈夫だ、負けない。頭の良さは月とスッポンなのだから、下手な小細工をしても仕方がない。運動能力なら、この中では1番だ。全国区プレイヤーをなめてもらっては困る。パソコン部部長と、女2人になんて、負けない。生き残ると決めた。人のためになんて死にたくないのだから、[ピーーー]のは仕方がない。北王子馨(男子5番)の分も生きるんだ。そう、決めたんだ。…運が悪かったな、会長――
「なぁ、会長。悪いけどさ、俺のために、死んでくれない?」
「ちょ――滝井くんッ!?」
愛美が非難の声を上げた。それに対して、音哉の反応は静かだった。
「…本気?」
声も口調も穏やかだった。それなのに、何故か、背中に冷たいものが走った。しかし、それに負けてはいられない。
「マジに決まってんだろうが、冗談だとでも思ったのか?死にたくないから、[ピーーー]んだよ。文句、あんのか?」
「人を[ピーーー]って…そんな簡単に言えることなのかな…?その重さがわかってるのかな、良悟…」
ハッ、これだから優等生は…
良悟は鼻で笑った。ずっと右手に握り締めていた大型の自動拳銃(コルト・ガバメント)の銃口をゆっくりと上げ、照準を音哉に定めた。
「うるせぇよ、優等生が…説得でもする気かよ?俺は、翔平も淑仁も…馨だって殺ったんだよ。そんな俺がよ、お前を[ピーーー]のに、躊躇うと思ってんのか?」
愛美と紗和子が息を呑んだ。机に隠れて頭だけを出した紗和子が、震える声で、呟いた。
「そ、それって…3人とも…仲良かったんじゃ……」
「そうよ、それに馨くんはあなたのパートナーじゃないの!?」
愛美が叫んだ。その言葉が、胸に刺さった、少しだけだけど。罪悪感は、もう置いてきたんだ、ここにはない。
「これがプログラムなんだ、関係ないだろ?…とにかく、テメェらなんか、ブッ殺せるっつーこった」
更に何かを言おうとした愛美を制し、音哉が1歩前へ出た。
「ルール上、君に関係あるのは俺の死だけだ、愛美ちゃんたちは無関係だよ。2人には手を出さないでもらいたいな」
「…テメェが死ぬならそれでも構わないぜ」
音哉は前髪を掻きあげ、黒縁の眼鏡を指で押し上げた。手の間から見える瞳が、妙に涼しげだった。
「……俺に、勝てるとでも?」
穏やかな口調なのに、威圧感があった。
何かが、何かが違う。いや、気のせいに決まっている。ハッタリだ、頭の良いヤツが考えそうなことじゃないか。
「オタクパソ部の部長なんか、瞬殺だっつーの!!」
良悟は気付いていなかった。これは優越感に浸って出た言葉ではなく、精一杯の虚勢だということを。頭では優勢だと思っているのに、本能がそれを否定しているということを。鳥肌が立った。音哉が、笑い声を上げた。それは低くて小さくて、それなのに酷く響いた。気のせいじゃ、ない…?笑いを収めてもう一度前髪を掻きあげた後、音哉は笑みを浮かべた。先ほどまでとは明らかに違う、“不敵”という言葉が似合う笑顔だった。
「様子見てたけど、お前はマジでやる気っつーことだな?よくわかったよ、良悟。話し合いっつー平和的解決法は通用しないってことがな」
口調まで違う。どういうことだ、これは。
「お、お前…何なんだ……!?」
声が震えた。無意識のうちに、疑問が口を出た。ようやく頭で理解した――銃口を向けているのはこちらなのに優勢ではないし、主導権も握っていないということを。引き金を引いてしまえばいいのに、引けなかった湧き上がってくる疑問と恐怖が、指を硬直させていた。音哉は鼻で笑った。

「ハッ、何言ってんの、お前。お前が言ってただろ、生徒会長でパソ部部長の常陸音哉だよ」

その手から、何かが落ちた。煙草だ。何で、誰からも信頼される優等生の生徒会長の手に、煙草がある?音哉は指の関節を鳴らした。

「大和たちに比べれば劣るかもしれないけど、場数は踏んでんだよ…ま、大分鈍ってんだけどね。とにかく、お前に俺は倒せない、残念だけど――」

音哉の視線が、良悟から離れた。

「…良悟、後ろ……」

良悟は目を丸くし、次の瞬間には笑った。

何だ、やっぱりハッタリか。
後ろに注意を向けておいて、その隙に――ありきたりな戦法だ。
やられまいとして、役作りまでしたっつーわけか。

「バーカ、いくら俺がバカでも、そんなハッタリに騙されるかよっ!!」

「馬鹿、後ろ……弘也だッ!!」

え、弘也……山神…ッ!?

説明中に、男子相手には容赦しないと宣言していた山神弘也(男子17番)。
後ろにいるなら、確実に、殺られる。

良悟は、音哉の声に反射的に振り返った。
目の前には、汚れたカーディガンとカッターシャツ。
そして、鎌。

ヤバい……ッ!!

「ああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」


男子10番・滝井良悟(たきい・りょうご)

テニス部。男子主流派運動部系。
金持ちの家に生まれ育てられた為か、自己中心的な性格。
しかし部内では北王子馨(男子5番)とペアを組み、その実力は全国クラス。

身長/174cm
愛称/良悟、タキ、タキくん

能力値

知力:

体力:

精神力:

敏捷性:

攻撃性:

決断力:

★☆☆☆☆

★★★★★

★★★☆☆

★★★★★

★★★★☆

★★★☆☆
 


支給武器:コルト・ガバメント
kill:津村翔平(男子12番)
出雲淑仁(男子1番)
北王子馨(男子5番)
killed:山神弘也(男子17番)
凶器:鎌
 

B=06エリアで馨を襲う。馨のことが嫌い?

G=05エリアで翔平を襲う。右手を負傷するが、翔平を銃殺。

F=06エリアで吉住徳馬(男子18番)を襲う。後一歩のところまで追い詰めるが、西谷克樹(男子13番)に邪魔され逃走。負傷した模様。

D=04エリアで淑仁と馨を発見。2人を銃殺。ワルサーPPK入手。

B=07エリアにいる。馨が嫌いだと思っていたが、本当は馨が嫌いだと思っている自分のことが嫌いだと言うことに気付き、悔やむ。人の声に気付き、殺害するために移動開始。それは常陸音哉(男子14番)・伊賀紗和子(女子3番)・高井愛美(女子13番)だった。対峙するが、音哉の豹変に動揺。その音哉に忠告を受けたが間に合わず、背後にいた弘也に鎌で頭部を刺され死亡。

 

終盤戦最初の犠牲者はタキでした。
友だちがまぶしすぎて自分が陰になってしまう・・・割とありそうじゃないですか?
自己中というよりも、人間らしかったんじゃないかなぁと思ったりします。


男子13番・西谷克樹(にしたに・かつき)

部活は無所属。孤立派。
クラス1大柄な体と強面のために、滅多に人が寄り付かない。
顔の傷は不良との喧嘩で付いたと噂されている。

身長/182cm
愛称/特になし

能力値

知力:

体力:

精神力:

敏捷性:

攻撃性:

決断力:

★★☆☆☆

★★★★★

★★★★☆

★★★★☆

★★★★★

★★★★☆
 

支給武器:ブローニング・ハイパワー9ミリ
kill:なし
killed:村主環(女子12番)
凶器:USSR マカロフ
 

顔面の傷は、母親からの虐待によって付けられたもの。
小学生の頃から、村主環(女子12番)を気にかけている。

甲斐駿一(男子3番)・鳳紫乃(女子6番)に襲われている高谷貴瑛(女子13番)を救い、共に行動する。

誰かを探している。吉住徳馬(男子18番)を探す貴瑛と共に行動し続けることにする。

F=06エリアで、滝井良悟(男子10番)に襲われている徳馬を救う。

C=03エリアで休息を取る。貴瑛に告白するか悩む徳馬の背中を押してやり、気を遣って外に出た。D=02エリアで駿一・紫乃に再び襲われ、被弾と腹部を刺されたことで瀕死の重傷を負うが、駿一を刺して逃げ出す。E=02エリアで環に発見され、上半身を撃たれる。最期に環を助けられなかったことを謝り、想いを告げ、息を引き取った

 

今作の無口ボーイ、克樹くんでした。人間不信って難しいですね。
でも、本当は優しくて、人を思いやることができる良い子だったんです、ということが伝わればなぁと思います。個人的に書きにくいけど好きな子でした。

 



女子1番・逢坂珠尚(あいさか・すなお)

テニス部。孤児院組。
クラス1低身長で、外見・中身共に幼い。
天真爛漫で、時に我侭。

身長/144cm
愛称/珠尚、珠尚ちゃん
特記/両親が事故死したため、施設に引き取られた。

能力値

知力:

体力:

精神力:

敏捷性:

攻撃性:

決断力:

★★★☆☆

★★★☆☆

★★☆☆☆

★★★★☆

★★★☆☆

★★★★☆
 


支給武器:S&W M686
kill:薮内桃子(女子19番)
佐倉信祐(男子6番)
梶原匡充(男子4番)
吉住徳馬(男子18番)
伊賀紗和子(女子3番)
須藤大和(男子7番)
加古美里(女子7番)
killed:玖珂喬子(女子9番)
凶器:鎌
 

潤井正純(男子2番)と生き残る為にやる気になる。

D=07エリアで桃子を銃殺、津村翔平(男子12番)に傷を負わせる。翔平に突き飛ばされ、追う事ができなかった。

F=10エリアで村主環(女子12番)と戦闘になるが、環に追い詰められたため敗走。

D=04エリアでの騒ぎを聞きつけた。クラスメイトたちの亡骸の中愕然としていた信祐を発見、銃殺。Vz61 スコーピオン入手。

D=02エリアで匡充と遭遇。昔は懐いていたが、「いらない」と突き放し、銃殺。探知機入手。

F=04エリアで常陸音哉(男子14番)・伊賀紗和子(女子3番)・高井愛美(女子13番)に襲撃をかけ、紗和子に傷を負わせる。追撃を音哉に阻まれ、音哉にも傷を負わせるが、自らも傷を負った。その後吉住徳馬(男子18番)・高谷貴瑛(女子14番)を発見、攻撃。徳馬を銃殺した。更に探知機を使って音哉たちを発見し再び襲うが、紗和子の邪魔で音哉と愛美を逃がし、探知機も破壊された。癇癪を起こして紗和子を射殺。

E=06エリアで正純・加古美里(女子7番)を発見。美里を負傷させるが、正純から予想外の抵抗を受け敗走。図書館(B=08エリア)で癇癪を起こし暴れ、スッキリする。

E=10エリアで須藤大和(男子7番)と山神弘也(男子17番)の決闘を目撃。弘也が倒れた後、隙だらけの大和と玖珂喬子(女子9番)を撃ち、正純を優勝へ導く。美里を[ピーーー]ため、礼拝堂へ向かう。

H=08エリアの礼拝堂で、正純・美里を発見。2人の仲睦まじさに機嫌を損ね、美里と正純を罵り、正純の過去を暴露。怒った美里を殺害。更に正純に見下されたことに腹を立てて殺そうとしたが、殺したはずの喬子からの襲撃を受ける。腹部を撃たれ重傷。正純に助けを求めるが叶わず、鎌で頭部を刺され死亡。

 

幼い、天真爛漫、我侭・・・全ての設定を活かせたと思われる珠尚でした。
読者様からも怖いという意見をいっぱい頂き、嬉しかったです。
動かしやすく、書いてて楽しい子でした。決して悪い子ではないと思います。

「俺のは誰が書くの? あぁ、山城ね、ナルホド。
 正純は良いヤツだな、誰にでも優しいし…あ、正純、宿題見せて!!
 いつも同じ孤児院の連中とつるんでるから、時々少し近寄りがたい」
 

男子2番・潤井正純
「たまには宿題は自分でやろうよ、淑仁。
 シュンは他の野球部員に比べたら大人しい感じだよね、それっぽくないというか…
 鳳さんに尻に敷かれてない?」

 

男子3番・甲斐駿一
「敷かれてないよ!! 正純失礼だよ!!
 カジは明るいヤツ、小さいけど俺なんかよりすごいしっかりしてる。
 可愛いよね、顔立ちが」

 

男子4番・梶原匡充
「小さいとか可愛いとか余計なこと言い過ぎ、シュンの馬鹿っ!!
 馨くんはなんかほんわかしてるよね、でもテニスすると別人になるらしいよ!
 俺ね、馨くんの青い目に憧れるんだ!!」

 

男子5番・北王子馨
「これは親の遺伝だからね、匡充、憧れるならカラコンとか入れてみる?
 信祐は赤縁眼鏡のお洒落さん、黙ってればいい男だと思うけど少しうるさいかな。
 うわ、殴らないでよ!!」

 

男子6番・佐倉信祐
「黙ってなくたって良い男だいっ!! そりゃ馨ちゃんには負けますけどねっ!!
 大和はおっかない――嘘です、とってもかっこよくてとっても喧嘩がお強い!!
 髪留めてるピン、いつもしてるけどチャームポイント?」

 

男子7番・須藤大和
「これは喬子が可愛いって言うから…って何言わせる、[ピーーー]ぞ信祐っ!!
 隅谷は小さい、女顔、やかましい、多分しょっちゅう暴走してる。
 あ、信祐とは従兄弟、だったか?」

 

男子8番・隅谷雪彰
「女顔って言わないで…いや、何でもないです須藤サン!
 勇人はとってもおっとりしてるよね、爽やか笑顔っ!!
 吹奏楽部で…楽器何やってるの?」

男子9番・十河勇人
「パーカッションだよ。 てか別に爽やかじゃ…雪彰の方が爽やかかも。
 良悟はお金持ちでテニスが上手で僕なんかよりとてもすごい人。
 馨とペアを組んで全国大会に行ったこともあるみたい」

 

男子10番・滝井良悟
「うぜっ、何卑屈になってんだっての、十河。
 ナオは外見すっげぇぼーっとしてんのに、実はすごいヤツだよな。
 頭も良くて運動もできてさ」

 

男子11番・多田尚明
「なぁ良悟、俺ってそんなにぼーっとしてるか?
 翔平はとても面倒見いい人だ、多分薮内が関係してるんだろ。
 水泳頑張ってるから肌すっげぇ黒いな、紫外線大丈夫か?」

 

男子12番・津村翔平
「大丈夫だろ、わかんねぇけどさ。 多田っちも大概焼けてるぜ?
 俺西谷の事書くの? よくわかんないから書けないって!! 無愛想で無口だし…
 顔にあるでっかい傷、喧嘩でついたのかな?」

 

男子13番・西谷克樹
「津村、余計な詮索はするな。
 常陸は生徒会長。 学年1の天才。 運動もできる。 教師にも信頼されている。
 眼鏡を掛けている。 身長は俺より低い」

 

男子14番・常陸音哉
「そりゃあそうだよ、西谷は1番背が高いじゃないか。
 勝則は不良少年、粗暴だし学校の備品は壊すし反省文はサボるし煙草臭いし。
 まぁ、俺はあまり関わりを持ってないからわからないけどね」

 

男子15番・藤野勝則
「嘘付け!! 会長だって昔は…いいや、すまん、許せ。
 持留はウゼェ、ちまちましてるし、うじうじしてるし、ちょっかい出すと泣くしよ。多田がお守り役なんだろ?」

男子17番・山神弘也
「持留、言っとくけど俺は女の子には優しいんよ?
 吉住はうちのクラスの委員長だ、真面目なヤツだな。
 この他己紹介の紙回そうって言い始めた張本人」

 

男子18番・吉住徳馬
「山神君、後がつかえてるから1週間も持つのは…ごめん、何でもない。
 四方君は頭がいい人、クラスでは2番目か3番目?
 休み時間はいつも難しそうな問題集解いてるよね」

 

男子19番・四方健太郎
「あの問題集は吉住ごときには解けない代物だぜ。
 湧井はサッカー部だか何だかに入っているタレ目。
 もっと真面目に勉強するべきだと思うけど?」

 

男子20番・湧井慶樹
「うるせー四方、余計なお世話だよ。
 逢坂は多分クラスで1番ちっこいよな、可愛らしいと思うぜ。
 部活とか見てて思うんだけど、テニスのラケット大きくないか?」

 

女子1番・逢坂珠尚
「あー! 慶ちゃんひどぉい!! 人と同じラケットでも大きく見えちゃうの!!
 怜江ちゃんは珠尚の次に小さいの、大人しい良い子だよ☆
 珠尚も怜江ちゃんくらい女の子らしくならなきゃ!」

 

女子2番・有馬怜江
「そんな…あたしは珠尚ちゃんみたいに明るくなりたいな…
 伊賀さんはこのクラスの副委員長さんでしっかりしてる人。
 とても頭が良くて、真面目な人」

 

女子3番・伊賀紗和子
「有馬さん、そんなに褒めないで。
 卜部さんは明るくて、とても人懐こい人。
 運動神経抜群で、いつも元気にはしゃいでいる人」

 

女子4番・卜部かりん
「紗和子、そんな他人行儀に名前呼ばないで、かりんで良いって!
 純佳はとっても派手、美人、だけど口悪いよね!
 …追加、柄も悪い、今もこれ見られて頭叩かれたっ!!」

 

女子5番・大谷純佳
「うるせーよかりん、人の事言えるほどそっちも上品じゃないだろ!
 鳳は大人びてる、あたしより小さいくせに。
 甲斐と付き合ってるって事くらいしか知らない」

 

女子6番・鳳紫乃
「小さいって大谷さんより1cm低いだけじゃない。
 美里はあたしの記憶ではクラスの女子の中で1番の長身。
 とても美人で長いストレートヘアーが似合っていて素敵よ」

 

女子7番・加古美里
「うっわ照れる! 紫乃、褒めても何も出ないよ!
 茉沙美は普段は大人しめ、テニスがとっても上手!色んな子に“まぁ子”って言われてるの、可愛いよね!」

女子8番・柏原茉沙美
「美里ちゃんも呼んでもいいよ、ちなみにこれ最初に言い始めたのはかりん。
 喬ちゃんは頭が良くて可愛らしい子、誰とでも話ができる良い子。
 何で須藤君みたいな人と付き合ってるのかわからない」

 

女子9番・玖珂喬子
「柏原さんも付き合ってみればわかるよ、大和くんは良い人だって!
 リッちゃんはとっても素敵でかっこいい女の子。
 体育でサッカーしてるのを見て、本当に憧れたもん!」

 

女子10番・河本李花子
「喬子に褒められた! 頬染めて書いてる、マジ可愛いっ!!
 サチは頭も良いし運動もできて冗談もわかってくれる良い子!
 知ってた? サチって男子に人気あるんだよ?」

 

女子11番・志摩早智子
「そんな事ないって、それよりリッちゃんはピンクな話ないの?
 環サンは大人っぽくて綺麗な人、きっと笑顔もとっても素敵だよ☆
 やっぱり…喧嘩とか強いの…?」

 

女子12番・村主環
「さぁ。 周りの人が強いから出番少ないし。
 高井は頭が良い、喬子と一緒の塾に通ってる、三つ編み2本。
 確か常陸と付き合ってる」

 

女子13番・高井愛美
「何で村主さんが知ってるの!?
 貴瑛ちゃんは女の子って感じの女の子だよね、ラブリィ☆
 お兄ちゃんっ子って感じだよね、いつもお兄ちゃんの話してる」

 

女子14番・高谷貴瑛
「愛美ちゃんも見たらわかるよ、お兄ちゃん素敵な人なの☆
 鶴田さんはあたしの中ではクラスで1番大人っぽい人。
 お化粧もして、大きいピアスもして…中学生とは思えないくらい大人」

 

女子15番・鶴田香苗
「あら、ありがとう高谷さん。 というか何でこんなの真面目に書くの?
 野原さんには女っ気が足りないと思う。 がさつっぽいし喧嘩はするし。
 何で山神くんがこんな人選ぶのか理解できないわ」

 

女子16番・野原惇子
「鶴田だって書いてるし。 こんな紙で嫉妬炸裂させんなっての。
 畠山は良いトコのお嬢さんなんだっけ? 見た感じそうだけど。
 喬ちゃん情報では茶道部だって。 オシトヤカだねぇ」

創立50年を超えた春日宮中学校では、部活動が盛んである。
特に運動部は、全国大会まで出場する者も出るほどの、ごく普通の公立中学とは思えない成績を残してきている。
春日宮中学校で最も有名なのは、男子テニス部だろう。
特に、あるダブルスペアは、朝練が7時半から始まるにもかかわらず、たくさんの見学者がテニスコートの周りに戯れている。

女子が大部分を占める見学者の注目の的にいる少年――北王子馨(男子5番)は、ラケットのガットをギシギシと指で弄びながら、ぼーっと遠くにある水道を眺めていた。
大東亜人の父と、大東亜に旅行に来た時に出会ったというフランス人の母を持つ馨は、母の血を強く受け継いでおり、色白の肌に栗色の髪と青い瞳を持つ為に、嫌でも皆の目を引いてしまう。

 

ぱこん

 

馨の後頭部に、衝撃が来た。
見ると、テニスボールが当たったようだった。

「馨、ボーッとしてんな、練習するぞ!」

「…あぁ、ごめん、タキ、やるよやるよ」

馨は後ろでラケットを手で器用に回している滝井良悟(男子10番)に謝り、コートに入った。
良悟は両耳に計6つのピアスにチョーカー、明るい茶髪という派手な外見をしている為、馨とは別の意味で目立っている。
もっとも、部活が終わればリングが両手に3つはまるので、今はまだマシな方だが。

馨と良悟は、全国でも名の知れたダブルスペアである。
1年生の時にペアを組み始め、2年生で全国大会まで行ったが2回戦敗退、今は優勝目指して練習に励んでいる。

「で、何ボーッとしてたんだよ。
 ま、馨がぼけてるのはいつもの事か」

「失礼だなぁ、タキはいつも。
 いやね、今日北山さん見てないなぁ、と思って」

北山さんとは、男子テニス部のマネージャーである。
現在2年生の、まだあどけなさの残る可愛らしい女の子だ。

「北山は調子悪いんだと。
 今日は柏原が代わりに手伝ってくれてるみたいだぜ」

「柏原…?
 何で、女テニは今日休みでしょ?」

「間違って来たんだと、アイツ抜けてるトコあるからな」

馨は倉庫からボールの入った籠を出して派手に転んだ柏原茉沙美(女子8番)を見つけた。
ボーイッシュなショートヘアーを砂埃で汚した茉沙美は、恥ずかしそうにいそいそとボールを片付けている。
顔を真っ赤にし、小さな瞳は今にも泣き出しそうになっている。

馨の声を遮って、派手な音が響いた。
見ると、テニスコートの横、学校の外にボールが飛び出さないように高く張られた金網フェンスが小刻みに揺れていた。
フェンスにぶつかり、急に失速したソフトボールが、テニスコートに落ちた。

「おーい!!
 馨ちゃん、タキ、どっちでもいいや、ボール取ってー!!」

フェンスの向こう、手を振っていたのは、ユニフォームに小柄な身を包んだ少女、水上朱里(女子18番)だった。
ボールに近かった良悟がボールを手に取り、バッターボックスを一瞥し、大きく息を吸い込み、叫んだ。

「テメェはバカか、かりん!!
 手加減を知れ、いつかフェンスがブッ壊れるぞ!!」

「はっ、良悟にゃ言われたかないねぇ!!
 いつもいつも相手を完膚なきまでに倒してるくせに!!」

間髪いれず、ホームランを打った女子のハスキーな声が飛んでくる。

「俺ぁいつでも真剣勝負なんだよ!!」

「矛盾してんだよ、バァカ!!」

100mほど離れた所で、口の悪い良悟に張り合う口の悪さで対抗しているのは、朱里と同じソフトボール部員の卜部かりん(女子4番)。
男家系で育ったからか、女子とは思えないほどの口の悪さをしているが、それでも全く憎めないのは、サバサバとしたかりんの性格のお陰だろう。

「朱里も大変だね、あのかりんはもう止まらないでしょ」

「まぁね、でも幼馴染だもん、慣れてるよ」

馨は声を嗄らして口論を繰り広げる良悟からボールを取り上げ、ボールを待っている朱里に手渡した。

 

「朝から元気ね、かりんもタキも」

 

不意に朱里の横から声が掛かり、2人はぎょっとして声のした方を見た。
上は半袖のTシャツ、下は学校指定のジャージを膝まで捲り上げる、という格好をした鳳紫乃(女子6番)がバット数本を手に溜息を吐いていた。
肩に付くほどの黒髪を耳に掛けている紫乃は、かもし出す雰囲気が大人びている。

「おはよう、馨くん、朱里ちゃん」

「や、シュン、おはよ」

紫乃の後ろからひょこっと顔を出したのは、穏やかな笑みを称えた甲斐駿一(男子3番)。
野球部のユニフォームに身を包み、ボールの入った籠を抱えていた。
駿一と紫乃は野球部の控え投手とマネージャーという関係であると同時に、恋人同士である。

あたしたちはみんな仲良し。

プログラムなんて、成り立つはずがない。



「君たちは、この大東亜共和国の名誉ある第68番プログラムに選ばれた。」
低く美しい声で紡がれた信じられない言葉に、櫻田かおる(女子1番)は言葉を失った。
かおるだけではなく、全員が信じられないといった様子で、教壇に立つ紳士風の男を見上げていた。

第68番プログラム――大東亜共和国に住む中学3年生で、この言葉を知らない人などいない。
全国の中学校から任意に選出した3年生の学級内で、生徒同士を戦わせ、生き残った一人のみが、家に帰ることができる、わが大東亜共和国専守防衛陸軍が防衛上の必要から行っている戦闘シミュレーション――小学4年生の社会の教科書にも出てくるし、ローカルニュースで年に一度くらいは目にするものだ。
傷だらけ血塗れの少年少女が両脇を軍人らしき人たちに抱えられながらカメラの方をじっと見つめ、なぜか総じて笑みを浮かべる――ニュースで流れるホラー映画顔負けの不気味な映像は、かおるの脳裏にもしっかりと焼きつき、忘れようと思っても忘れられない。

「い…いやぁ……冗談っしょ?うちみたいなさ、6人しかいないちっちゃいクラスでそんなの…なぁ?」

神尾龍之介(男子3番)が引き攣った声を上げ、クラスメイトたちを見回した。「誰か、冗談だって言ってくれ」、龍之介の目が訴えてきたけれど、かおるは視線をそらし、俯くことしかできなかった。

「ごめんなあ、神尾ーこれ、冗談ちゃうねん。でもこんな空気の中頑張って発言した神尾の勇気に免じて一コケシやろ!」

チューリップハットに花柄のシャツを着た若い男はヘラッと笑い、龍之介の机の上にコケシを置いた。
龍之介はコケシを凝視し、視線をチューリップハット男の顔へと上げ――笑顔を向けられて慌てて視線を逸らしていた。
龍之介の背中越しに見えるコケシの顔が不気味に見えて、かおるはぶるっと体を震わせた。

「話を戻そう。君たちは第68番プログラムに選ばれた。つまり、これから、君たちには殺し合いをしてもらう」

”殺し合い”――その言葉が、ずしんとかおるに圧し掛かる。

そんな、たった6人の仲良し同士なのに…そうだよ、できるわけないよ。
みんな、いい子だもん、そんな酷いこと、できるわけない…よね?

かおるは隣に座っている大塚千晴(男子1番)へと目を遣った。
椅子に深く腰掛け、じっと前に座る龍之介の広い背中を見つめていた千晴だったが、かおるの視線に気づいたのかかおるの方へ首を傾け、ふっと笑みを浮かべた。
大丈夫だよ、かおるちゃん。そう言ってくれているみたいで、少しだけ、心が落ち着いた気がした。

「プログラムの間、私たちが君たちの担当となる。私は、担任の、榊原五郎(さかきばら・ごろう)だ。隣の2人は、私の補佐を行っていただく先生方で、右側が虎崎れんげ(とらさき・れんげ)先生、左側が渡部ヲサム(わたなべ・をさむ)先生だ」

榊原と名乗るスーツ姿の男は、まるで指揮者がタクトを振るような優雅な動きで黒板に名前を書いた。
ピンクジャージの気が強そうな中年女性は虎崎、チューリップハット男が渡部だそうだ。

「ちょっと待ってください」

かおるの前の席に座る中條晶子(女子2番)が声を上げた。
かおるは、ぴっちりと綺麗に結い上げられた晶子のお団子頭に視線を向けた。

「私たちの担任は、藤くん…藤丸先生です。藤丸先生は、私たちがプログラムに参加することを認めるはずがありません」

凛とした声、はっきりとした口調。いつもと変わらない、委員長であるかおるよりもずっとしっかりとした口調で、晶子が述べた。

そう、かおるたちの担任は藤丸英一先生。23歳の新任の先生で、クラスのみんなから「藤くん」と慕われ、藤丸も全員のことをファーストネームで呼ぶ。休み時間に一緒に遊ぶこともあれば、放課後に勉強に付き合ってくれることもあり、生徒たちにラーメンを奢ってくれることもある、先生と言うよりもお兄さんのような存在。
そんな藤丸が、かおるたちのプログラム参加を認めるはずがない。

「中條、次からは質問の際は挙手をするように。
確かに藤丸先生は君たちがプログラムに参加することを反対しておられた。そのため、少々手荒な手段を取らせてもらった」

榊原は渡部に視線を投げ、ぴしっと親指以外の指を前方に突き出した。渡部は頷いて一度廊下に出ると、ずるずると何かを引きずりながら戻ってきた。

「いやあああああッ!!!藤くん、藤くんッ!!!」

かおるの後ろ、成瀬萌(女子3番)が金切り声を上げた。
元々色白だが、むしろ顔面蒼白となった萌がふらりと椅子から崩れ落ちたが、隣の席の柏谷天馬(男子2番)が咄嗟に両手を伸ばして受け止めたので、床に体を打ち付けることはなかった。
萌の華奢な身体を抱き止めた天馬の表情は引きつっていた。そして、それは、天馬だけではなく全員だったのだが。
それもそのはず、渡部が引きずり椅子に座らせたのは、かおるたちの担任の藤丸だった。
ただし、その姿は、見慣れたものではなかった。青いTシャツは所々黒く変色し、Tシャツから生えた筋肉質な腕にはいくつもの痣ができ、やや幼いけれども整ったパーツが並べられた顔は見る影もない程に腫れ上がり、外はねのクセがある赤みのある茶髪はぼさぼさになっていた。小さく肩を上下させているので息はあるようだが、意識があるのかどうかはわからない。

「藤くんッ!!!」

机を倒して駆け寄ろうとした龍之介だったが、虎崎の蹴りを鳩尾に食らって吹っ飛び、千晴の机へ突っ込んだ。

「勝手に席を立つんじゃないよ!!今度やったら、こんなモンじゃ済まないからね!!」

龍之介のもとに駆け寄ろうと腰を上げていた晶子が、虎崎の怒声に身を硬直させた。
かおるは身が竦んで動くことすらできず、ただ苦しそうに咳込む龍之介と、「大丈夫か」と声を掛けて背中を摩る千晴を見ていることしかできなかった。

「静粛に。それでは、藤丸先生もいらしたところで、プログラムのルールについて説明を始める。皆の命に関わることなので、注意して聞くように。神尾、柏谷、成瀬、席に着け」

千晴の机に体を預けて咳込んでいた龍之介が、ふらふらと立ち上がり、自分で倒した机を元に戻して着席した。痛みと恐怖と怒りが綯い交ぜになったような、普段の明るく元気な姿からは想像できないような表情を浮かべていた。
天馬は萌を座らせた後無言で席に戻ったが、その体はずっと震えていた。

龍之介と天馬と萌が席に着く様を確認すると、榊原は黒板の脇に丸めて立て掛けられていた模造紙を開き、黒板に磁石で貼り付けた。縦横4マスずつに区切られた地図のようだった。榊原は咳払いを一つし、話し始めた。

「ルールについては皆知っていると思うが、最後の1人になるまで殺し合いをしてもらう。基本的にここでは何をしてもらっても構わないし、誰かと手を組むことも、裏切ることも、また単独行動をするのも自由だ。
黒板に注目してほしい。これは、皆が戦う会場、青春海立運動公園(せいしゅんうみだちうんどうこうえん)の地図だ。端には柵を作ってあるので、この地図に書かれていない場所へは行くことができないので注意するように。ちなみに、今皆がいるのは、B-3エリアにある公園の管理事務所だ」

青春海立運動公園――かおるは、何度か訪れたことがあった。春は桜、秋は紅葉が美しいことで有名な場所であり、家族と来たこともあれば、美術部仲間の千晴とスケッチに来たこともあった。そんな場所で、プログラムを行うだなんて。

「プログラム中、誰かが死亡する毎にこちらから放送を行う。その時に、禁止エリアというものを発表する。禁止エリアとは、立ち入りを禁止するエリアのことだ。
それに関係するのが皆に装着してもらっている首輪だが、これは皆の居場所や生死をモニターするものである。禁止エリアに立ち入った場合、こちらから首輪に電波を送る。電波を受信した首輪は、1分間警告音を発した後爆発するので、禁止エリアには立ち入らないように。また、警告音が鳴った場合には、1分以内に禁止エリア外に出るように。
それと、無理に引っ張っても爆発するからあまり触らないように、櫻田」

首元に手をやっていたかおるは、榊原から名指しで注意されて慌てて手を膝の上に戻した。それにしても、首輪が爆発だなんて、おかしいにも程がある。今、かおるたちは、首に爆弾を着けて座っているということになるのだから。

「それから、出発の際には、こちらから荷物を渡す。水や食料、会場の地図と磁石、懐中電灯と時計、それから武器を入れてある。これはランダムで渡すので、武器を選ぶことはできない」

渡部が再び廊下に出、今度は6つのデイパックを両腕に提げて戻って来た。相当の重さがあるのだろう、それらを床に置いた時にはその振動が足元に伝わってきた。

「説明は以上だ、質問はあるか」

かおるは俯いた。質問なんて、「どうして自分たちがプログラムに参加しなければならないのか」くらいしか思い浮かばないが、そんなことを言えば藤丸や龍之介のように理不尽な暴力を振るわれるに決まっている。
ちらっと隣を盗み見ると、千晴も同じように俯いていた。クラス1騒がしい龍之介も、しっかり者の晶子も、何も言わなかった。

「っく…ひっく……いや…怖いよぅ…」

かおるの後ろで、萌が消え入りそうな声で嗚咽交じりに呟いた。その悲痛な声に、かおるの双眸からもぼろぼろと涙が零れ落ちた。怖い、怖い、怖くてたまらない。

「泣き事言ってんじゃないよ!!世の中、嫌なことを避けて進めるようにはできてないんだよッ!!」

虎崎の怒号が飛び、かおるはびくっと体を震わせた。萌の嗚咽が一瞬止まったが、先程よりもより大きな声で泣きじゃくり始めた。
そのことに苛立ったらしい虎崎が、大きな足音を立てて萌の横に立ち、萌のふんわりとした栗色の髪を鷲掴んだ。萌が「いやぁッ!!」と甲高い悲鳴を上げた。

「や、やめろよ、成瀬を離せッ!!
泣いたって、怖がったって…そんなの当たり前だ!!今から殺し合えとか言われて平気なヤツ、いるわけないだろ!!成瀬の反応ってすっげー普通じゃん、声にしてなくたって、俺ら全員絶対同じこと思ってるし!!!」

天馬が叫んだ(恐怖からか、声は引き攣り時に裏返っていたけれど)。
虎崎は萌から手を離し、今度は天馬の隣へと移動し、拳を振り上げた。「天ちゃん!!」とあちこちから声が上がり、天馬は目をぎゅっと瞑った――が、天馬が先の龍之介のように吹っ飛ぶことはなかった。拳が当たる寸前で、榊原から制止の声が掛かったのだ。

「まあまあ虎崎先生、落ち着いてください。柏谷の言う通りですよ」

「…まあ、そうだねぇ」

虎崎は納得したように何度か頷くと、教室の前方へと戻って行った。
萌が席を立って天馬に泣きついた時には立ち止まって振り返りその様子を睨んでいたが、「ほれ、さっさと席に戻りな」というお咎めの言葉以外は何もなく、皆がほっと溜息を吐いた。

「それでは、これから1人ずつ順番に出発してもらう。なお、足元に置いてある各自の私物は持って行っても構わない。
出発した者が本部のあるB-3エリアを出た時点で次の者が出発し、最後の者が出発してから20分後にこのエリアは禁止エリアに指定されるので、早くここから立ち去るように。あまりに長いこと居座っていると後が閊えてしまうから、その場合には制裁を行うこともありうるので気を付けること」

榊原はスーツの内ポケットから封筒を取り出すと、鋏で封を切った。中から1枚の紙を出した。

「それでは、最初の出発者を発表する。

男子1番・大塚千晴、逝ってよし!」

全員の視線が、千晴に集まった。千晴はぽかんとしていたが、虎崎の「ほれほれ!!」と急かす怒号に押されるように立ち上がった。足元の鞄を肩に掛け、ゆっくりと教卓の前に立った。

「みんなのご家族にはちゃんと報告してあるから、存分に戦ってな!ほんなら大塚、先生の言う言葉を繰り返してなー!
私たちは殺し合いをする、はい!」

渡部の口から飛び出したとんでもない言葉に、千晴は「…え?」と茫然とした声を漏らした。

「ほらほら、ちゃんと言わなコケシで殴るで?私たちは殺し合いをする、はい!」

「わ…たしたち、は、殺し合いを、する…」

「よっしゃよくできました、ほんなら次、殺らなきゃ殺られる、はい!」

「やらなきゃ…やられる…」

まるで洗脳しているみたいだ、かおるは思った。

「…千晴……ごめんな……」

不意に、小さな声が聞こえた。掠れて虚ろだけれど、藤丸の声だった。
千晴が藤丸の方に顔を向けた。

「藤くんのせいじゃないよ……藤くんは、何も悪くない…でしょ?」

千晴の静かで優しい声。相手を思いやり労わる、聞き慣れた声。
千晴はあんな上辺だけの言葉で洗脳なんかされやしない、いつもの穏やかで優しい千晴のままだ。

千晴は渡部からデイパックを受け取ると、クラスメイトたちの方へ向き直った。一人ひとりの顔を順番に見遣り、小さく笑んだ。

「俺は、みんなを信じてる…だから、みんなも俺を信じて」

千晴はそう言うと、まるで毎日の下校時のような足取りで教室を出て行った。

千晴の残した言葉は、ほんの僅かだけれど教室内に満ちた重苦しい空気を晴らした――少なくともかおるはそう感じた。

そう、きっと大丈夫。誰も、実際に殺し合いなんてするわけがないんだ。

【残り6人】

藁路文雄(男子22番)はペアの森川達志(男子20番)に声を掛けた。
達志は半泣きの状態でその場に蹲った。

「おい、タツ!
 危ないって、こんなところで止まってたら…」

因みにここはD=07エリアにある山の麓だ。
ここは木がはげていて、周りから見たら一発で見つかるような場所だ。

「だって…俺怖い…
 今のピストルの音で誰かが死んだんだよ、きっとっ!」

達志は文雄の幼馴染だ。
小さい頃から一緒に遊んだりした仲なので、達志についてはよく知っている。
達志はとても優しい少年なので、きっと今の銃声で死んだと思われるクラスメイトに心を痛めているのだろう。
心を痛めてるのは文雄も一緒だが。

文雄は達志の頭をポンッと軽く叩いた。

「わかってる、俺だって怖いし。
 でもな、俺はまだ死にたくないし、お前にも死んでほしくないんだ。
 和に手紙渡して合流できるようにしたから…
 俺らはその場所に先に行かないとな」

「手紙…?」

「ああ、この島の1番東で落ち合おう…ってな。
 和なら大丈夫だ、俺は信用できるし、タツもできるだろ?」

和――土谷和(男子10番)は、殺し合いができるような人間ではないと思う。
あの不良グループのリーダーの江原清二(男子3番)にさえ、気軽に話し掛けられるほど友好的な人間だ。
文雄とは席が前後だったこともあって、手紙を渡す事が出来た。

「できるだけ仲間を集めたいんだ。
 信用できるヤツを集めて、脱出したい」

「だ…脱出!?」

達志が驚いて顔を上げたので、文雄は頷いてみせた。
脱出、確か何年か前に香川でそれをやってのけたヤツらがいたらしい。
政府が血眼になって探しても見つかっていない。
このクソゲームには、穴があるに違いない。

政府の言いなりになんかなるもんか!

 

文雄は養護施設で育った。

文雄が4歳くらいの時だったと思う。
それまでは普通に家で家族に囲まれて過ごしていた。
しかし、ある日突然政府の連中がオレの家にずかずかと入り込んだ(靴ぐらい脱げってんだ)。

文雄が4歳くらいの時だったと思う。
それまでは普通に家で家族に囲まれて過ごしていた。
しかし、ある日突然政府の連中がオレの家にずかずかと入り込んだ(靴ぐらい脱げってんだ)。
そして、いきなり父親を撃ち殺した。
母親は文雄を押入れの中に隠し、その後撃ち殺された。

文雄は運良く見つからなかったので、今もこうして生きている。
文雄の両親は、どうやら反政府組織に入っていたらしく、それがバレて殺された。

 

政府に両親を殺された文雄が出来る政府への仕返し、それはこのクソゲームから脱出する事だ。
逃げ出して、政府のやつらに一泡吹かせてやる。

「ふ…文雄!」

達志がいきなり文雄の名前を呼んだ。
すごい怯えた声で。

「何だ、どうかしたか?」

「だ…誰かが今そこに…!」

何だと!?
文雄は舌打ちをして、支給されたマシンガン(イングラム M11)を構えた。

「誰だ、出て来い!
 あ、言っとくけど、俺は殺し合いなんかしないからなっ!
 神様仏様に誓ってこれ撃たねぇからなっ!」

達志は自分のデイパックを自分たちから離して置いた。
それはもちろん正しい行動だ。
達志の支給武器はガソリン1リットル、引火したらただじゃ済まない。

やがて、茂みの中から2人出てきた。

「陸ちゃん! 依羅!」

文雄は声を上げて、イングラムを下ろした。
それは陸社(男子6番)と依羅ゆた(女子18番)だった。
社は、達志と仲が良くていつも一緒にいた。
小説家志望の達志と、読書好きの社は気が合うらしい。
ゆたはすごいボーイッシュな女子で、休み時間はよく一緒に遊んだ。
最近は受験勉強だ何だで、遊んでくれないが。

「ワラ…タツ…無事だったのか」

社の声はとても静かで、かっこいい。
そんな声で話し掛けられたら照れる…ってそんなことはどうでもいいか。

「陸ちゃん!!」

達志が社のもとに走り寄った。
社は少し笑って、達志の頭を撫でた。
たった142cmしかない達志と、文雄より2cmほど高い179cmもある社は、まるで父子だ。

「なあ、陸ちゃん、依羅。俺らと組む気ないか?」

文雄の提案に、2人は文雄の方を見た。

「俺ら、仲間を探してるんだ。だから…」
「いや、やめとくよ」

社は文雄の言葉を遮って答えた。

「あ、勘違いしないでくれよな。別にワラたちを疑っているわけじゃない。ただ…」

ゆたにバトンタッチ。

「信じきれる自信もないんだよね。そのせいでギクシャクして…っていうのも嫌でしょ?」

文雄は言葉に詰まった。確かに、こんな状況で人を信じることは難しいだろう。

「…わかった、じゃあ引き止めない。でもさ…俺らがもう1回会って、その時陸ちゃんたちの力が必要なら…その時は力になってくれないかな?」

「……考えておくよ」

それだけ言うと、社とゆたはまた茂みの中に入っていった。文雄と達志は再び東を目指した。同時刻、新藤鷹臣(男子8番)は支給されたリボルバー式拳銃(S&W M686)を右手に、とにかく学校から離れていた。横には、先程の銃声に怯えきった幼馴染の雪倉早苗(女子16番)がいる。

同時刻、新藤鷹臣(男子8番)は支給されたリボルバー式拳銃(S&W M686)を右手に、とにかく学校から離れていた。
横には、先程の銃声に怯えきった幼馴染の雪倉早苗(女子16番)がいる。
早苗の手にはうちわが握られている。
こんな物が武器って言えるのか?

「…早苗、少し休むか?」

「え? あ、ううん、大丈夫。
 鷹臣こそ大丈夫?
 あたしの荷物まで持ってもらっちゃって…」

「平気だって。
 これでも元運動部員だぜ?」

そう、オレはまだ大丈夫なんだ…
問題なのは早苗だ…

早苗はこのプログラムには最も相応しくない非暴力主義者だ。
とても大人しくて、か弱い女の子だ、ついでに関係ないが元演劇部員だ。

何でかは知らないが、昔から早苗は虐められていた。
その度に鷹臣は早苗を守った。
今では虐めもなくなったが、早苗を虐めた張本人は同じクラスだ。
不良グループの楠本章宏(男子7番)と平馬美和子(女子11番)。
早苗は今でもあの2人に怯えている。

あの2人はきっと早苗に会ったら躊躇せずに殺しにかかるだろう。
そうなる前に、自分ががあの2人をどうにかしないといけない。
しかし、早苗は鷹臣が暴力を振るおうとすると怒る。
「鷹臣、暴力なんてだめ!!」、と泣いて怒る。
きっと、今のこの状況でも、早苗は同じ事を言うだろう。

「…早苗、もし誰かが襲ってきたら…どうする?」

早苗はにっこり微笑む。

「説得かな?
 それはきっと怖いから襲ってくるのよ。
 だから、落ち着かせたら大丈夫…だと思うの」

ほら、やっぱり。
しかし、本気でプログラムに乗る人間だっているはずだ。
だから毎回毎回プログラムの優勝者というものが出てくるんだと思う。
乗った人間には何を言っても無駄だろう。
おそらく朝倉伸行(男子1番)を殺した人物も乗ったか、狂ったかだ。
伸行も抵抗したに違いない、しかし死んだ。

俺はただ早苗を守りたいだけなんだ…

なので、鷹臣は1つの決心をした。
誰か絶対的な信用ができる友達――例えば委員長の宇津晴明(男子2番)や、早苗の友達――例えば結木紗奈(女子15番)らがいるペアを見つけたら、早苗を彼らに預けよう。

そうすれば、早苗もきっと安全だし、鷹臣は自分のしたいことができる。
鷹臣は楠本たちを許さない。
早苗に危害を加えようとするヤツも許さない。

「鷹臣、どうしたの?
 そんな険しい顔しちゃって…」

早苗が鷹臣の顔を覗き込んだ。
鷹臣は早苗の頭を撫でた。小さい頃から、早苗が心配そうな顔をした時にはやっていたことだ。

赤木明子(女子2番)は、学校の廊下を先先進んでいく水城蓮(男子16番)を追いかけている。
明子は蓮のことを『蓮くん』と呼んでいるが、決して親しいわけではない。
何しろ『みずきくん』と呼ぶと、実月裕太(男子18番)と一緒になってしまう。
これは明子だけでなく、クラスメイト全員がそう呼んでいる。
蓮や裕太を苗字で呼ぶ人はいない。
しかし『蓮くん』と呼ぶのには、蓮は可愛らしいのでお近づきになりたいという下心が、ないわけではない。
関係無いが、可愛いとは言っても、身長は明子の方が低い。
バレー部に所属していたにもかかわらず、明子の身長は151cm。
バレー部だと背が高くなる、と聞いて入ったが高くならなかった。
蓮は男子にしては低いが、それでも160cm。

「ね、ねぇ、蓮くん!
 ちょっと待ってよぉ!」

明子が叫ぶと、蓮は歩くのをやめた。
振り返って明子が来るのを待っていた。

蓮は、とても優しい人だと思う。
双子の姉の水城凛(女子13番)に近寄る男子に対しては別だが。

例えば凛と付き合っているという土方涼太(男子13番)への対応は凄い。
朝、涼太が登校してきたらまず睨む。
授業中、涼太が当てられてたら睨む。
休み時間、涼太の声が大きかったら睨む。
凛と喋れば睨む。
昼休み、お弁当を食べている涼太を睨む。
とにかく1日中睨み続けてる。

何でそんなに明子が知っているのか。
それは、明子がずっと蓮を見ているからだ。

蓮のプロフィールは頭の中に入っている。
誕生日は6月29日で、血液型はB型だとか。
昔から体が弱くて、運動があまりできないとか。
いつも森川達志(男子20番)や陸社(男子6番)と一緒にいるとか。
凛の事が大好きだとか…

明子の口から無意識のうちに溜息が出た。
こんなに見ていても、蓮にとってはただのクラスメイトに過ぎない。

「どうしたの、赤木さん…?」

「あ、ううん、何でもない…
 どうしてこんな事になっちゃったのかな、って思っただけで…」

「…そうだよね、どうして…凛ちゃん……凛ちゃん、誰とペアなんだろう…
 嫌だよ、土方とペアになってるとか…」

明子は何も言わなかった。ただ、本当に凛の事が好きなんだな、と思った。なんとなく悔しい。嫉妬でもしているのかな…?おかしいね、ただの血を分けた姉弟なのに。明子と蓮は学校の外に出ると、正面の茂みに身を隠した。

「蓮くん、誰か待ってるの?」
「凛ちゃんが誰と出てくるか見ないと…」
「…そう」

あたしはまた溜息を吐いて、デイパックを開けた。中は荷物を無理に詰め込んだようでパンパンだ。とりあえず防寒具を外に出し、支給武器を探した。誰かを殺そう、とか考えているわけではない。ただ、護身用に何かあったほうが良いかな、と思っただけだ。

「あ、あった、コレかな……え…?」

明子は開いた口が塞がらなかった。当然だろう。武器だと思われた物が、季節外れの花火セットだったので。

「…何?どうしたの、赤木さん?」

蓮が明子の方を見て、同じくポカンと口を開いた。そして、笑った。その笑顔はとても愛らしく、おそらく男子が見ても惚れてしまうだろう。

「それで遊べって事かな?」
「いや…そんな…」

明子は自分の頬が火照っているのがわかった。あんな可愛い天使のような笑顔を向けられたら誰だってこうなってしまう、きっと。蓮も自分のデイパックを開いて武器を探し始めたようだ。

「あ、あった…」

蓮の武器はシグ・ザウエルP230という名前の銃だった。蓮の視線はそれに釘付けになっている。当然だろう、普通の中学生が手にできるような物ではないのだから。明子もそれをずっと見ていた。こんな物で簡単に人を[ピーーー]事ができる。そう考えるととても怖かった。

「蓮くん…それ…使うの…?」

明子が訊くと、蓮は笑った。明子にはその笑顔の意味がわからなかった。『使うわけないじゃない』っていう笑い?それとも『使うに決まってるでしょ?』という笑い?先程の笑顔とは少し違うようだった。

「ねぇ、赤木さん…」蓮が明子の名前を呼んだ。「赤木さんは…死ぬとどうなるかわかる?」

明子は首を傾げた。もちろんそんな事を知るわけが無いし、どうしてそんな事を突然言うのかわからなかったので。

第1回放送
PM4:07 朝倉伸行(M1) 牧山久美(F12) ボウガン 頭部損傷 D=06
PM4:11 矢口宗樹(M21) 金坂葵(F5) ブローニング・ベビー 頭部被弾 D=06
PM4:36 赤木明子(F2) 水城蓮(M16) シグ・ザウエルP230 胸部被弾 D=06
PM4:44 西野葵(M12) 笠原飛夕(M5) コルト・ロウマン 胸部被弾 E=05
PM5:02 実月裕太(M18) 相原香枝(F1) 釣り糸 窒息死 E=07
PM5:32 遠藤圭一(M4) 江原清二(M3) ミニウージー 全身被弾 E=05
PM5:40 湯中天利(F17) 今村草子(F4) ジェリコ941 胸部被弾 E=05
第2回放送
PM7:02 平馬美和子(F11) 高原椎音(F8) ワルサーP99 頭部被弾 D=03
PM8:17 宝田義弘(M9) 福屋和行(M15) 文化包丁 失血死 C=06
PM8:19 福屋和行(M15) 江原清二(M3) ミニウージー 全身被弾 C=06
PM10:07 新藤鷹臣(M8) 都竹航(M11) シグ・ザウエルSP2340 頭部被弾 C=06
PM10:07 楠本章宏(M7) 都竹航(M11) シグ・ザウエルSP2340 頭部被弾 C=06
第3回放送
AM0:51 鈴原架乃(F7) 高原椎音(F8) ワルサーP99 失血死 F=02
AM2:05 宇津晴明(M2) 江原清二(M3) サバイバルナイフ 失血死 E=07
AM2:05 雪倉早苗(F16) 今村草子(F4) 日本刀 頭部損傷 E=07
AM2:06 結木紗奈(F15) 江原清二(M3) ミニウージー 全身被弾 E=07
AM2:58 相原香枝(F1) 都竹航(M11) シグ・ザウエルSP2340 頭部被弾 C=05
第4回放送
AM6:29 高原椎音(F8) 水城蓮(M16) シグ・ザウエルP230 頭部被弾 G=05
AM7:10 小泉洋子(F6) 牧山久美(F12) ボウガン 首損傷 C=06
AM7:11 宮脇一希(M19) 牧山久美(F12) ボウガン 頭部損傷 C=06
AM8:44 今村草子(F4) 江原清二(M3) グロック19 頭部被弾 F=05
第5回放送
PM0:06 都竹航(M11) なし(自殺) 毒薬 毒物飲用 G=05
PM1:32 藤村優(F10) 水城蓮(M16) シグ・ザウエルP230 頭部被弾 C=06
PM1:41 水城蓮(M16) 日向翼(M14) シグ・ザウエルP220 胸部被弾 C=06
PM2:42 牧山久美(F12) 江原清二(M3) ミニウージー 頭部被弾 D=07
PM4:28 森川達志(M20) 笠原飛夕(M5) Vz61スコーピオン 失血死 C=08
PM4:29 笠原飛夕(M5) 金坂葵(F5) ブローニング・ベビー 頭部被弾 C=08
PM4:36 藁路文雄(M22) 金坂葵(F5) 文化包丁 失血死 C=08
第6回放送
PM6:28 日向翼(M14) なし(自殺) カッターナイフ 失血死 C=05
PM7:22 陸社(M6) 江原清二(M3) グロック19 頭部被弾 E=06
PM7:24 依羅ゆた(F18) 金坂葵(F5) 文化包丁 首損傷 E=05
PM8:40 朝霧楓(F3) 江原清二(M3) ミニウージー 失血死 E=05
PM9:20 土谷和(M10) 金坂葵(F5) ブローニング・ベビー 胸部被弾 E=04
PM9:31 金坂葵(F5) 水原翔(M17) ベレッタM1934 頭部被弾 E=04
PM11:59 江原清二(M3) 春野櫻(軍人) マシンガン 失血死 E=05

男子8番・新藤鷹臣(しんどう・たかおみ)

バスケットボール部。正義感が強く、優しい。
雪倉早苗(女子16番)とは幼馴染で昔早苗をいじめた人物を憎んでいる。


ペア:雪倉早苗(女子16番)
支給武器:S&W M686
kill:なし
killed:都竹航(男子11番)
凶器:シグ・ザウエル SP2340
 

早苗と共に学校から離れるが、いつか信用できる人を見つけたらその人に早苗を預け、自分は楠本章宏(男子7番)や平馬美和子(女子11番)を[ピーーー]つもりでいる。
D=08エリアで宇津晴明(男子2番)・結木紗奈(女子15番)と合流し、早苗を預けて別行動を取る。
C=06エリアで章宏・航を発見し襲うが、章宏がやる気でないことを知りショックを受ける。和解し、別れようとしたところを、背後から航に頭部を撃たれ死亡。

サブメインに見せかけてたくせに退場させてしまいました(ToT)
でも、1/3まで進んだんで・・・かなり理想の男子ですね、クラスに欲しいもんです!
「タカさん」は某テニス漫画の某バーニングから・・・名前を見た瞬間にピンときてしまいました、、

戦闘実験第七十番プログラム、通称「ペアバトル」のルール

 

今回の試験クラス

→茨城県北浦市立桜崎中学校3年1組

 

会場

→茨城県沖にある大宮島。約3km×2.5km。中には村と山が2つずつある。学校は小・中・高一環になっている。

 

ペアバトルとは・・・

→政府側があらかじめ決めておいたペアで教室を出発する。

→出発後に相手を殺害または別行動をしてもかまわない。出発後のペアの組換えも自由。

→優勝者は最後に残った2人。

 

制限時間

→会場内を100に分けたエリアがすべて禁止エリアになるまで。例外は以下の通り。

最後に誰かが死亡してから24時間以内に誰も死亡しない場合はその時点で終了。
制限時間を過ぎた場合は、生き残っているすべての生徒の首輪が爆発する。優勝者はなし。

 

優勝条件

→最後の2人になるまで生き残った場合。

 

定時放送について

→放送されるのは以下の事。

前の定時放送後に死亡した生徒の名前(死亡順)
禁止エリアの報告
担当教官からの激励(ない場合もある)
 

禁止エリアについて

→1日目は2時間に1箇所設定。
 (学校のあるエリアは最後の生徒が出てから20分後に指定される)

→2日目以降は1時間に1箇所設定。

禁止エリアに侵入した場合、警告音が鳴り、1分後に首輪は爆発する。

水原翔(男子17番)は空のポリタンクを持って移動していた。
森川達志(男子20番)・朝霧楓(女子3番)・鳥江葉月(女子9番)の3人で全員分の荷物を持ち、土谷和(男子10番)と藁路文雄(男子22番)で中身の入ったポリタンクを持っている。
文雄はそうでもないが、和は足がふらついている。
「…和、やっぱ俺も持つって」

翔はもう何度目かになる言葉を発した。

「怪我人だろ? 気、遣うなって。
 つーか、荷物持って咳き込んで…不安になるし。
 俺だって運動部員だったんだ、ナメちゃあアカンぜよ」

「アカンぜよって…どこの人だぁ、和」

和も何度目かになる言葉を返す(“アカンぜよ”は初めてだな)。
文雄もつっこむが、どうもいつもの勢いは無い。
それも当然だろう、ポリタンクの重さは半端ではない。
いくら文雄が空手全国3位の実力者だと言っても、気を張り続けなければならないこの状況も手伝って、疲れがピークに達そうとしているのだろう。

「あ、あの… やっぱあたしも…」

「やめときなさい、鳥江さん。
 今の荷物の量でふらついてる人に、誰が持たせられるってのよ?」

「ご、ごめんなさい…」

葉月と楓の会話も、これで何度目だろうか?
葉月はクールな楓が少々苦手らしい。
言葉を掛けられるたびにビクビクしている気がする。

翔たちが目指しているのは、先程までいた花屋から見て西にあたるC=07エリアだ。
そう距離は無い。

「…そうだ、翔」

文雄が疲れきった声で言ったので、翔は足は止め振り返った。

「あー…足止めなくていい、早くエリア出たいしな。
 あの…飛夕は…説得できなかったのか?
 アイツは馬鹿だけどさ…そんな融通の利かない馬鹿じゃないだろ?」

「…できなかった。
 『確実に生きる道を選ぶ』…だってさ」

そっか、と言う文雄の表情が暗くなった。
文雄と笠原飛夕(男子5番)は、クラスでは仲良くしていた仲だ。
その飛夕が人を殺そうとした。
正義感が強い文雄にとっては、何よりも許せないことであり、何よりもショックなことだろう。

「…あのさ、もしもまた飛夕に会えたら…ビックリするだろうね。
 翔が生きてるんだもん」

ここまで黙々と荷物を運んでいた達志が口を開いた。
翔は自分左胸を何度かポンッと軽く叩き(痛みが走り、咳き込んだ)、苦笑した。

「だよなぁ…
 心臓撃ち抜いて、血が出るのも見えたはずなのに、ってな」

「翔くん、血が出たの!?」

「あー…何か眠くなってきたな…
 良い子は寝る時間だし?」
「…今時こんな時間になんか小学生だって寝てないわ」

「そんな冷たいこと言わないでくれよ、朝霧…」

B=08エリアの中心より西寄り、鬱蒼と茂る木々の間を、藁路文雄(男子22番)と朝霧楓(女子3番)は進んでいだ。
普段接点などなかったので、傍から見れば奇妙な組み合わせだろう。

その上、文雄には森川達志(男子20番)、楓には土谷和(男子10番)というペアがそれぞれいる。
しかし、今は2人はここにはいない。
C=08エリアの商店街にある、花屋で留守番だ。

 

 

時間を遡ること3時間前、4人はプログラムを破壊する作戦(学校ごと燃やしてしまうという単純な作戦だが)の準備のため、材料と準備場所を探していた。

そんな時に文雄が見つけた場所、それが花屋だ。

誰も世話をしていないからだろう、花は大部分が枯れてしまっていた。
しかし、さすが花屋だ、肥料が置いてあった。
肥料に含まれる物の中には、可燃性のものもある。
ガソリンに混ぜれば火の勢いも強まる。

店の奥の畳の部屋に上がり(土足さ、ゴメンよ)、ちゃぶ台を囲んだ。
達志はちゃぶ台の上に支給されたガソリンを出した。

このグループのリーダー的存在である文雄は、咳払いを一つし、本題に入った。

「…とりあえず、ここで準備だ。
 ここからの行動は2人1組にしようぜ。
 1組は外に出て探し物…俺と組んだヤツな。
 もう1組は留守番な、この店の中と、近所なら出てもいいか。
 使えそうだなって思ったやつを集めてきてくれ。
 非常食とか、あったら助かる」

3人は頷いた。
文雄はガソリンの横に置かれた武器、イングラムM11とベレッタM1934に視線を移し、またすぐに3人に視線を戻した。

「武器は1組1つずつな。
 イングラムはオレが持つ。 
 移動範囲が広い分危険が大きいだろうからな。
 ベレッタはもう1組な」

「…絶対にあなたが裏切らないっていう保障はあるの?
 そんなマシンガンなら、皆一撃じゃない…」

楓が鋭い視線で文雄を睨んだ。
達志と和の顔も強張る。
文雄は強く首を横に振った。

「神に誓って、俺はそんなことしない。
 疑うなら、俺はベレッタを持つ…それでいいか?」

楓はしばらく文雄を睨んでいたが、やがて視線を外した。
イングラムに手を伸ばした。

「遠くに行くならマシンガンの方がいいって言ったのはあなただわ。
 …いいわ、あたしがあなたと一緒に行く。
 でも、マシンガンはあたしが持つわ。
 あたしは…油断しないから」

「でも、朝霧だって…」

反論しようとした達志を、文雄が制止した。
でも、というように目で訴えかける達志に、首を横に振って見せた。

「疑ってちゃキリがない…俺は信用する、朝霧を。
 行こうぜ」

こうして花屋を出た文雄と楓は、最初に北村住宅地へ向かったが、最も重要な物が見つからなかったので、港に向かった。

こうして今に至る。銃声が聞こえるたびに、2人は辺りを警戒し続けたので、移動はそう早くない。

「ガソリン…ねぇ…そう簡単に見つかるものかしら?」

楓が文雄のコートを引っ張った。

「さあ…な。でもさ、何となくあるかも…だろ?」
「どうだろ?」
「ま、やってみなきゃ何もわかんないっしょ!」

文雄は北村住宅地で手に入れた空の灯油のポリタンクを振り回した。楓は溜息を吐いた。

「そんな適当でいいわけ?」
「適当にやってるつもりなんてないさ。俺の元からの性格なんだわ」
「…幸せ者ね……」

やがて港の倉庫の前に辿り着いた。文雄は側においてあったトラックのガソリンを入れる部分を、転がっていたコンクリートブロックを何度もぶつけて開けた。

「あ、あったぜ!」

文雄は灯油のポリタンクの蓋を開け、灯油を移すパイプのような物を取り出した。パイプの先をトラックのガソリンの中に入れ、上のスポイド部分を押した。ガソリンは少しずつだが、ポリタンクに溜まっていく。

「へぇ…あるもんなのね、ガソリン…」
「ほらな、言っただろ?ただ…ちょっと入れ物が足りないかもなぁ…」

文雄は溜息を吐いた。あと1,2個タンクを持ってきておけばよかった。

「大丈夫でしょ、花屋からそう離れてないし…」
「あ、そっか、そうだよな!」

さすが朝霧、いつでも冷静っつーかクールっつーか…ちょっと取っ付きにくそうだったけど、実際はそうでもないしな。
頼りになるな、かなり…

「ねぇ…」

楓が文雄の横に腰を下ろした。

「何で、政府にたてつこうと思ったの?
 危険なのに…」

文雄は楓に視線を移した。文雄の方を見ていた楓と目が合った。

「…何? 朝霧は政府擁護派?」

楓が目を逸らす。

「そんなわけないじゃない、政府なんて最悪よ」

「同意見だな」

ガソリンがなくなったので、文雄もそこに腰を下ろした。

「俺は政府を許さない、絶対にな」

力のこもったその声に、楓はビクッと震えた。いやいや、そんなに怖がらないでおくれよ。

「何か…あったの?」

文雄はポリタンクの蓋を閉め、目を閉じた。それだけで、あの時の光景が蘇る。

「…ガキの頃にさ、政府に殺されたんだ、俺の両親」

忘れはしない、あの日のことを。雨が降っていたと思う。文雄は両親と共に夕食を取っていた頃だったので、夜の7時くらいか。突然ドアの開いた音がしたかと思うと、土足でフローリングの廊下を歩く音が聞こえた。当時4歳の文雄は何が起こったのかさっぱりわからなかったが、両親は顔色を変えたのを覚えている。

女子4番・今村草子(いまむら・そうこ)

部活は無所属。不良グループ副リーダー。
常に凶器を携えている。体力は人並、頭は良くない。
江原清二(男子3番)とは小学生の頃からの仲で、唯一心を開ける存在。


ペア:江原清二(男子3番)
支給武器:ミニウージー
kill:湯中天利(女子17番)
雪倉早苗(女子16番)
killed:江原清二(男子3番)
凶器:グロック19
 

E=05エリアで清二を殺しかけていた天利を銃殺。口げんかをしつつ、南へ向かう。
D=05エリアで水城凛(女子13番)・土方涼太(男子13番)と遭遇。凛をゲームに誘い対決。凛に重傷を負わせたが、催涙スプレーによって戦闘不能になり敗北。
E=07エリアで宇津晴明(男子2番)・結木紗奈(女子15番)・早苗に会う。早苗を刺殺。グロック19入手。
F=05エリアで都竹航(男子11番)に襲われる。油断した隙に腹を刺される。痛みから解放されるため、清二に頼んで殺してもらった。
ゲームに乗っていた。

草子ちゃん好きでした。それにしてもゲーム好きなんて設定なかったのに(汗
本当はもっと清二君と一緒にいてほしかったんですが・・・ここで退場です。
凛ちゃんの件も併せて、敗因は油断ですかね。

>>370
いいや、誤解はない
理解している

それは「24時間監視を、フルメンテを、発注を、していないから単独犯ではありえない」と
同じ事を繰り返しているだけ
単独犯ではできない事を想定して「単独犯ではない」と言っているだけだ

だがそれは、
「もし24時間監視を、メンテを、発注をしていなかった場合」にも、
犯人は「単独犯ではない」という結論には絶対になりえない

監視、メンテ、発注、していなかった場合はどのようにしてるか、
今まで色々予想して挙げてきたが、
全部無かったかのように戻しちゃうもんだから呆れてるんだがな

375 :風の谷の名無しさん@実況は実況板で:2013/08/06(火) 05:45:45.17 ID:wCtCOgSE0
>>371
もしかしたら昭和からタイムスリップしてきた人なんじゃね?
自動顔認証や異常察知しての自動通報なんてとっくに実用化されてる技術だけど昭和辺りの人から見たら超科学なんだろ

376 :風の谷の名無しさん@実況は実況板で:2013/08/06(火) 05:46:48.99 ID:dokZ5PxT0
>>371
心臓止まったら知らせる機械って現代の場合、全員胸に色々貼り付けてる事になるよ
埋め込み式にすると電池交換も必要な上、皮膚の上から埋め込まれてるの見えるし

377 :風の谷の名無しさん@実況は実況板で:2013/08/06(火) 05:48:33.62 ID:dokZ5PxT0
>>374
自分はモノクマがくつろぎつつ、メンテとか発注とか監視とか
脱走者を出さない為の工夫とか、一人で全部してるという設定は無理があると思うだけ

374はそれが無理があると思わないだけ
見解の相違だから、これ以上はなしてもムダじゃね?

『ぴかちう かいりう やどりん ぴしょん…♪』
ひたすら某アニメのモンスター名を言っていく歌が流れている。
『150匹言えるかな?』というようなやつだ。
その機械によってやや歪んだ歌が会場内に響き渡っている。

昼…?

天条野恵(女子12番)は顔を上げた。
野恵は今I=05エリアにいた。
そう、自分が今探している幼馴染の小路幽子(女子7番)がいると言われたエリアだ。
元いた場所からそう離れてはいなかったが、あたりを警戒しつつゆっくりと進んだので、かなり時間が掛かってしまった。

「みんな、元気してるかい?
 お昼の放送の時間だぜっ!
 じゃあ早速名簿出せよ、死んだ仲間の名前を言うぜ!」

野恵は名簿を眺めた。
既に死んだ生徒のチェックは終わっている。
野恵の支給武器の携帯電話にリアルタイムでメールが届くからだ。
自分たち中間派グループの中にも犠牲者が出た。
木村絢子(女子4番)と松嶋聡子(女子17番)の死を知った時は驚いた。
涙は出なかったが。
2人の死亡通知メールは3分差で来た。
一緒にいて誰かに襲われたのだろうか?

「女子10番の武田紘乃ちゃん!
 男子3番の岡哲平君!
 男子1番の稲毛拓也君!
 男子4番の川口優太君!
 女子11番の月野郁江ちゃん!
 女子4番の木村絢子ちゃん!
 女子17番の松嶋聡子ちゃん!
 そして、男子17番の李星弥君!
 中々いいペースだぜ、オレ嬉しいぞ!
 続いて禁止エリアだぜ!」

野恵は地図とペンを出した。
字はあまり上手な方ではないので、少し見苦しい。

「よく聞いてくれよ!
 1時からG=06、3時からH=05、5時からA=09!
 みんな気をつけてくれよ!
 あと死神君は4人殺してるからな!
 みんながんばって殺さないと10人殺されちゃうぜ!
 じゃあ6時間後な!」

ブツッと放送が切れた。

「うーん…大回りして東の端まで行って北に上がればエリアにはひっかからないよね?」

頭を掻きつつ呟いた。
やはり地図は苦手だ。
首に巻いたタオルで額の汗を拭いた。
11時半前にかかってきた電話(時間過ぎてるんだけど?)で質問したところ、今日の最高気温は35度だそうだ。

暑いなぁ…もう……
水2リットルじゃ体が持たないよぉ…
あたしは一応6リットル持ってるけど…
半端じゃなく重い…!

できるだけ日陰を移動していたが、湿度が少し高めなのか、やはり暑い。
水はそれなりにあるので、それは不自由しなかったが。
この暑さではそのうち蜃気楼でも見えそうだ。
真冬にやるよりはいいが(野恵は冷え性だ)、真夏に外にずっといるのも考え物だ。
お陰で肌が少し黒くなっている。

「えっと…死神は4人目…か。
 この調子でいかれると6時間後くらいには全員アウトじゃないの…?」

野恵は唇を噛んだ。
そんなことになったら自分はともかく彼氏の浜本卓朗(男子12番)も死んでしまう。
それは避けたかった。

タクは死んじゃいけない…
タクのお母さん、兄弟2人ともプログラムで死んじゃったら悲しむし…
あたしは死んでも…タクには生き残ってもらいたい…!

溜息を一つ吐いた。
一刻も早く死神の正体を知って、悪いけど殺さないといけない。
それなのに、タケル(軍人)に貰ったヒントはくだらない。

『今生きている人だよ!』

『今クラスで1番人を殺している人だよ!』

だそうだ。

ったくもう…そこまで知られたくないわけ?
そりゃあ生きてるでしょ、死んでたら正体なんてどうでもいいって!
今1番人を殺してるって…そんなの誰か知ってるわけないじゃない!!

暑さの影響もあり、苛々していた。
まとまった雨が降ってくれればきっと楽になると思うが、雲ひとつないこの空では期待できない。
天気予報士ではないが、そのくらいのことならわかる。
夕立でもあれば別だけど…

持ってきていたうちわを出し、ぱたぱたと扇いだ。
ぬるい風が体に当たる。

野恵が最後に武田紘乃・岡哲平に会ってから、見かけたのは1人。
住宅地内を通った時に、横の通りを走り過ぎた、あれは杉江貴一(男子7番)だろうか?
別に大して仲良くもなかったので声は掛けなかった。
自分の目的に仲間はいらない事も理由の一つだが。

「さてと…」

自分のデイパックからペットボトルを取り出し、一口だけ水を飲んだ。
そして鎖鎌を取り出して手にもった。
鎖が少し邪魔だが、仕方がない。

幽子探さないと…
このエリア内にいるはずだよね…?

野恵は茂みの中を進んだ。
できるだけ音を立てないように。

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仮面ライダーシリーズ > 仮面ライダーW
平成仮面ライダーシリーズ
第10作 仮面ライダーディケイド 2009年1月 - 8月
第11作 仮面ライダーW 2009年9月
- 2010年8月
第12作 仮面ライダーオーズ/OOO 2010年9月
- 2011年8月
仮面ライダーW
ジャンル 特撮テレビドラマ
放送時間 日曜 8:00 - 8:30(30分)
放送期間 2009年9月6日 - 2010年8月29日(全49話)
放送国 日本
制作局 テレビ朝日
監督 田?竜太 他
原作 石ノ森章太郎
脚本 三条陸 他
プロデューサー 本井健吾(テレビ朝日)
塚田英明・高橋一浩(東映)
出演者 桐山漣
菅田将暉
山本ひかる
木ノ本嶺浩 他
音声 ステレオ放送
字幕 文字多重放送[1]
データ放送 地上デジタル放送
オープニング 「W-B-X ~W-Boiled Extreme~」
歌:上木彩矢 w TAKUYA
テンプレートを表示
『仮面ライダーW』(かめんライダーダブル)[2]は、2009年(平成21年)9月6日から2010年(平成22年)8月29日までテレビ朝日系列で毎週日曜8時00分から8時30分(JST)に放映された特撮テレビドラマ作品、および作中で主人公が変身するヒーローの名称である。全49話。

平成仮面ライダーシリーズ第11作。キャッチコピーは、「平成仮面ライダー10周年プロジェクト 秋の陣」「俺たちは / 僕たちは、二人で一人の仮面ライダーさ」[3]「これで決まりだ!」[4]

高校の春休みにさまざまなテレビ局や雑誌の編集部へマネージャーと共にあいさつ回りをするために東映本社を訪れた際、仮面ライダーのプロデューサーと偶然に出会い翌日にある仮面ライダーWのオーディションの誘いを受け、見事、桐山漣とともに平成11代目の主演ライダーの座を手に入れる。

ちなみに本人はこの作品で学んだことは、人生は面白いという事と年齢に関係なく人や友情の素晴らしさを知ったことだそうであり、菅田自身が俳優として得た最初のオーディションである。

Wでフィリップが単独変身することになった場合、劇中のファングメモリに愛着があるため「仮面ライダーファングをやりたい」と「仮面ライダーWリターンズ公式読本」などで度々語っている。

190 :名無しくん、、、好きです。。。:2013/03/19(火) 23:56:22.54 ID:oB9zWCru
5pbは間違いなく後発マルチするし下手すると追加要素入れてくるから
正直様子見だな。シナリオよさそうなら買うかもしれんが。

191 :名無しくん、、、好きです。。。:2013/03/20(水) 11:10:04.73 ID:92g/3OUE
第一印象ではデュナミスのほうが良かったな
新作はなんかエロゲーっぽい

192 :名無しくん、、、好きです。。。:2013/03/20(水) 15:19:27.02 ID:aUgjB7RG
音楽が阿保さんだといいな

193 :名無しくん、、、好きです。。。:2013/03/21(木) 00:14:12.12 ID:AJepalzk
梓さんが・・・
http://www.famitsu.com/images/000/030/473/5147e20389848.html

194 :名無しくん、、、好きです。。。:2013/03/21(木) 01:11:09.31 ID:cXF8qjIj
なんか面白そうやね

195 :名無しくん、、、好きです。。。:2013/03/21(木) 12:24:38.00 ID:z9DfT2T5
果たしてホントにあずにゃんなのか…
うぉぉぉぉおっ眞波もいるやん!と思ってサムネクリックしたら別人でしたorz
これがホントにあずにゃんでD15と繋がってたらマジ嬉しい

196 :名無しくん、、、好きです。。。:2013/03/21(木) 13:52:10.08 ID:FkY2GfFl
ttp://www.famitsu.com/images/000/030/473/l_5147e2030c097.jpg
自己主張の激しいメッセージウインドウだなww

197 :名無しくん、、、好きです。。。:2013/03/21(木) 14:16:11.01 ID:dQxO1Yex
これ透過レベルって問題じゃない見づらさだな

198 :名無しくん、、、好きです。。。:2013/03/21(木) 21:19:16.13 ID:/aSKfiDL
うわぁ黒一色にしたい・・・

199 :名無しくん、、、好きです。。。:2013/03/23(土) 16:25:27.54 ID:6DZrBB86
新作発表あったのにこの過疎っぷり...wwwwww

200 :名無しくん、、、好きです。。。:2013/03/23(土) 20:51:02.49 ID:OhTnHbtv
ディスオーダー本スレもなかなか鈍い動きだしなぁ

1時間半ほど前にプログラム最初の生徒同士の殺し合いによる死者が出た、C=06エリアの文学部棟。
その2階には、その時間よりも前からずっと人がいた。
津村翔平(男子12番)は文学部内礼拝室にいた。
ここは恐らく学生が日々礼拝を行う為に作られた場所だろう。
あちこちにステンドグラスがはめられ、上から釣り下がっている電灯は点ければとても綺麗だろう。
置き忘れの聖書がいくつか置いてあり、捲ってみると目次の一部分に“テスト範囲!”と大きく書かれている。
恐らく聖書に関する授業でもあるのだろう。

翔平は元々色素が濃く色黒だが、水泳部に所属して日々屋外で活動しているためか、周りの運動部員と比べても群を抜いて色黒である。
それは、茶髪(周りにはプールの塩素で色が抜けたと言っているが、本当は少しだけ染めている)と大差ないので、よく友達にからかわれる。

その翔平の膝を借りて横になっているのは、幼馴染の薮内桃子(女子19番)だ。
小さい頃から体が弱い桃子は、プログラムという非常事態に巻き込まれて、ショックからか体調を崩した。
少し熱っぽく、しかし顔は青ざめている。
ここに来る前に一度吐いてしまったので仕方がないが。

1時間半前の1階での騒動には、翔平も驚いた。
桃子も怯え、翔平のカッターシャツの裾を震える手で握っていた。
口論だったのか、叫ぶような声が聞こえた。
離れた所の声なので、誰のものかはわからなかったが。
懸念していた銃声のようなものも聞こえなかったので、恐らく何もなかったのだろう、そう思う事にした。

「うぅ…っ」

桃子が膝元で呻き声を上げた。
翔平はその頭をそっと撫でた。
ふわっとウェーブの掛かった柔らかい毛で、気持ちよかった。

「どした?
 もっかいトイレ行くか?」

桃子は小さく頷いた。
翔平は桃子の手を取って立ち上がらせ、1番近いトイレに入った。
水道が使えないので、水は止められてしまっているらしい。
しかし、トイレのタンクにまだ水が残っているので、1回は流す事ができる。
吐瀉物をそのまま放置するのはどうかと思うので、トイレを使わせている。
1番手前のトイレは既に使ったので、今度は2番目だ。

呻く声を聞かれるのは嫌だろう、と思い、翔平はトイレから少し離れた所に腰を下ろした。
首から提げていた地図の入ったクリアファイルに、ポケットに入れていた懐中電灯の光を当てた。
外の電灯が点いているので電気は通っているのだろうが、急に電気を点けると誰かがいた時に見つかってしまうので、それはできなかった。
その誰か、というのはクラスメイト以外ありえないのに、疑ってしまう自分が少し嫌になる。

「…ま、しゃーないよなぁ…うん…」

自分にそう言い聞かせ、そんな自分に笑いが込み上げた。
結構ビビッてるのかもしれない。

とにかく、今は自分の事はいい。
桃子をどうにかしなくてはならない。
今の状態で嘔吐し続けるのは、胃にもあまり良くないだろうし、精神的にも体力的にもきついだろう。

「桃ちゃーん、大丈夫かー?
 歩けるなら保健館に行ってみないかー?
 色々薬とかあるかも知んないし、少なくともベッドはあるし。
 良かったら1回だけドア叩いてなー」

コンッ、と木の戸を叩く音がした。

「あいよー。
 ま、落ち着いたら出てきな、別に急いでねーし」

翔平は立ち上がり、辺りを見回した。
大学の校舎は中学とは全く違うので珍しかった。
○年○組、といった区切りはない。
クラスとかはないのだろうか?
様々な部活やサークルの張り紙が重なって張ってある。
こんなにも種類があるのか、と感心する。

「桃ちゃん、俺ちょっと1階見てくるから、待っててな」

そう言い残し、翔平は階段を降りた。
1階にもたくさんの張り紙があった気がしたので、興味が湧いた。
それだけだった。

1階に下り、別のものに興味が湧いた。
半開きになった扉。
人気はない。

あ、もしかして、前の口論ってここでやってたのかな?
ドアくらい閉めとけっての、なんか半開きって怖いじゃん…

閉めようと近づき――見てしまった。
誰かが、倒れている。

「お、おい…っ」

翔平は勢いよく中に入った。
中の光景に、力無くへたり込む。

「モッチー……多田っち……っ」

目の前に倒れているのは、小柄で可愛らしい少年だった持留奏太(男子16番)――今は首がさっくりと裂け、顔を血溜まりに埋めている。
その奥にいるのは、頼りになる兄のような存在だった多田尚明(男子11番)――頭部を奏太と同じように血溜まりに埋めているが、ぱっと見たときに傷は確認できなかった。
2人は確か幼馴染だったはずだ、自分と桃子のように。

翔平は恐る恐る尚明に近づいた。
気絶しているだけで生きているはずだ、そう信じて。
しかし、目の前に倒れているのが魂の抜け殻である事がわかった。
眠るように倒れる尚明の頭の天辺に、穴が開いていた(見開かれていた目は、野原惇子(女子16番)が閉じさせたが、翔平の知るところではない)。

水上朱里(女子18番)とは違う、クラスメイト同士の殺し合いがついに始まったのだという事が、嫌でもわかる。
涙が滲み、次いで胃の辺りに違和感を憶え、喉の辺りがグルグルッと鳴った。
嘔吐しそうになるのを必死に堪え、翔平は部屋を這いずって出た。

「あー…見なきゃよかった…」

涙声で呟き、扉を閉めた。
桃子には見せられない。
卒倒してしまうだろうし、体調をさらに崩してしまうだろうから。

 

「翔ちゃん…?」

 

上から桃子の声がした。
不安になって、翔平を探したのだろう。
2人分の荷物を持ち、階段をトトトッと下りてきた。

「あれま、桃ちゃん。
 待っててって言ったのになぁ」

「えへへ…待ちくたびれちゃった」

桃子は翔平の前に荷物を置き――翔平の顔に目を止めた。
心配そうな瞳で覗き込む。

「…翔ちゃん……泣いてる……?
 悲しい事…あった…?」

翔平はそこで初めて自分の頬に涙が伝っている事に気付いた。
慌ててそれを拭い、首を横に振る。
気付かせてはいけない、この扉の奥の悲劇は。

「なーんでもないよ!
 さっきそこで激しく肘打っちゃってさ、痛かっただけ!
 ほら、ジーンってするっしょ、ね?」

必死の言い訳。
桃子は納得できていないようだった。
多分わかってしまっているんだ、これが強がりだという事は。
物心付いた時からの付き合いだ、当然かもしれない。

「…そっか、わかった」

桃子は微笑んだ。
昔から変わっていない。
翔平が必死に言い訳をして強がった時、桃子はそれがたとえ強がりだとわかっていてもそれ以上言及しない。
それが翔平を困らせる事だという事がわかっているからだろう。

桃子は優しい。
生まれつき病弱で、何度も何度も入院しなければならないような体をしているのに、人の事を気にかける。
つぶらで優しげな瞳が、その性格を表しているようだ。

そんな桃子が、とても好きだ。
ずっと前から。

だから、決めた。
この優しくて弱い女の子を、何が何でも護る、と。

「じゃ、少し頑張ってな。
 保健館に行こう」

焼けた浅黒い手を差し伸べる。
その上に、雪のように白い手が乗る。
白いその手は、とてもとても小さくて、とてもとても細かった。
それをきゅっと握り締め、2人は外に出た。

まだ薄暗い外は、あちこちに設置された電灯に照らされているため、懐中電灯などは使わなくても十分移動できる。

武器はない。
翔平のスポーツバッグの中に入っていたのは野球ボール1ダースだし、桃子にはメガホンが支給されていた。
なんだよ、野球部の応援グッズか?
もっとも、さっきまでは武器なんていらないと思っていた。
クラスメイト同士が争うなどという事が考えられなかったので。

しかし、尚明と奏太が死んでいる。
ということは、襲ってくる人だっている、という事だ。
山神弘也(男子17番)は「男には容赦しない」というニュアンスの言葉を発していた。
翔平は冗談か、せいぜい脅し程度にしか考えていなかった。
しかし、今となってはあの言葉も本気と考えた方が身のためだろう。

文学部棟の前には、広場が広がっている。
草木が覆い茂った場所で、恐らく学生たちが楽しくランチタイムを過ごしたり、遊んだりしていた場所だろう。

周りを囲む植木からそっと中を覗いたが、誰もいない。
だだっ広い所を横切るのは危険かもしれないが、保健館への距離を大幅に短縮できるので、横切ることにした。

「桃ちゃん、ちょっとだけダッシュ、オーケイ?」

「えと…オーケイ…かな?」

桃子の足が遅い事くらいわかっている。
しかし、あまり見通しの良い所で身長に歩きすぎるのは駄目だ。
翔平は桃子の手をしっかりと握り締めたまま、広場に出た。
一気に走り抜ける。
運動部のヒーローたちが集まる3年C組の中では、翔平の足の速さは中くらいだが、平均から見れば速い。
桃子を半ば引きずるようにして、駆け抜けた。
駆け抜けようと、した。

 

ばんっ

 

銃声。
急に重くなる、左手。
鳴り続ける、耳を劈くような音。
数瞬遅れてやってきた、激しい痛み。

先に桃子が倒れ、それに引っ張られて翔平も膝をついた。
翔平は痛みの走る左脇腹を押さえた。
生ぬるい感触がし、手を開いてみると、赤く汚れた。

撃たれた…?
マジで…何で…誰が…?

疑問が次から次へと湧き上がった。
しかし、ここで重大な事を思い出した。
後ろを振り返る。

「桃ちゃん…? 桃ちゃん、大丈夫か!?」

大切な幼馴染は、辛うじて指先を動かした。
アイボリーカラーのカーディガンの背中側、ゆっくりと赤く染まっている。
白く細い右足も、濃い赤色に染まっている。

「えー…まだ生きてるのぉ?」

 

可愛らしい声が聞こえた。
言っている事は、対照的にとても恐ろしい事だったが。

「珠尚…ちゃん…」

翔平は呟いた。
ゆっくりと歩み寄ってくる少女の名を。
少女――逢坂珠尚(女子1番)は、少し不機嫌そうな表情を浮かべた。
クラス1小柄な珠尚の小さな手には、全く似合っていない回転式拳銃(S&W M686)が握られている。

「ちぇー、殺したと思ったのにぃ」

「…え……?」

珠尚の溜息混じりの言葉が、一瞬何を意味しているのか理解できなかった。
こんな小さな女の子が、まさか“乗る”なんて思わなかったのだから。

「珠尚ちゃん……ど…して…?」

桃子が消え入りそうな声で訊いた。
珠尚はすぐに答えた。
はっきりと、絶対に自分が正しいという自信を持って。

「だって、殺さなきゃ生き残れないんでしょ?
 珠尚、死にたくないもん。
 だから[ピーーー]んだもん」

なんて利己的な理屈。
だけど、プログラムの中では、もしかしたら正しい事なのかもしれない。
とても哀しい、正しい事。

「じゃあ……翔ちゃんは……関係無いから……逃がして……」

翔平はばっと桃子を見た。
桃子は苦痛とショックで泣きじゃくりながら、それでも真っ直ぐ珠尚を見つめていた。

桃ちゃんが死んで…俺が残る…?
そんなの駄目だ!!

「桃ちゃん、何言ってんだ!!」

「翔ちゃんは……死んじゃ……嫌――」

「ううん、ダメー。
 だって、珠尚は翔平くんとは生き残りたくないもん。
 女の子は珠尚が残って、男の子は正純くんが生きるの。
 それ以外はいーやっ!」

桃子の提案は、あっという間に否定された。
まるで子どもの我侭。

珠尚が好きなのは潤井正純(男子2番)なんだ、とか。
梶原匡充(男子4番)だって、同じ孤児院で育った仲だろうに、とか。
そんな事は頭になかった。
頭で考えるよりも先に、体が動いた。
珠尚の小さな体を突き飛ばし、桃子を抱えて、一目散に逃げ出した。
荷物などいらない、逃げ出せればそれでいい。

 

クラスメイト同士が戦うなんてありえない、そう考えていた自分は甘かったのだろうか。
死にたくないから[ピーーー]、という珠尚の我侭が、ここでは正しいのだろうか。
確かに、わからなくはない。
こんな所で死ぬなんて、絶対にお断りだ。
だけど、自分にはとても実行できるとは思えない。

クラスメイト同士が戦うなんてありえない、そう考えていた自分は甘かったのだろうか。
死にたくないから[ピーーー]、という珠尚の我侭が、ここでは正しいのだろうか。
確かに、わからなくはない。
こんな所で死ぬなんて、絶対にお断りだ。
だけど、自分にはとても実行できるとは思えない。
人として、殺人は禁忌であるはずだ、そう思っていたから。

「桃ちゃん……俺……甘かったの…かな……?」

桃子からの返事はない。

「血……足りなくなっちゃった……のか……」

翔平は桃子の体をそっと下ろした。
抱えていた両手は、真っ赤に染まっていた。

護りたかった。
護れなかった。

全ては、自分の甘い考えが原因だ。

「ちぇっ…なんだよ……生きるには……殺さなきゃ…駄目なのか……
 やだなぁ……やだよぉ……桃ちゃん……っ」

桃子は答えない。
自分のせいで、答える事ができなくなった。

『翔ちゃんは……死んじゃ……嫌――』

桃子の最期の願い。
せめて、これだけは護らないといけない、気がする。
クラスメイトを傷つけるような真似はしたくない。
だけど――

桃ちゃんだって…死ぬのは嫌だったんだ…
俺だけ嫌な事避けるなんて…駄目だよなぁ…

「桃ちゃん…俺は……桃ちゃんの分も生きるよ……
 ダイジョーブ…俺…嫌な事でも頑張れるヤツだし…うん…」

溢れる涙を血で濡れた両手で拭う。
後から後から流れるのを、一生懸命拭い続ける。

高谷貴瑛「ざ、座談会だぁ、ドキドキするねっ!」

西谷克樹「……(頷く)」

山神弘也「へぇ、西谷でもドキドキすんの? 貴瑛ちゃんのドキドキはとーってもキュートで可愛いけどv」

玖珂喬子「弘也くん、貴瑛ちゃんばっかり褒めたら、あっちゃんが拗ねちゃうよ?」

佐倉信祐「山神サーン、ね…姐さんが…!!」

須藤大和「あ、惇子、落ち着け、な、な?」

逢坂珠尚「野原さん…怖い…」

野原惇子「…どーせアタシは可愛くないさ……悪いかコンチクショウ!!!」

どかばきどかっ(備品が壊れる音)

潤井正純「ヒイィィィィィッ!!」

北王子馨「皆元気だなぁ…あ、お茶こぼれた…」

鳳紫乃「あらら…拭かなきゃね。 常陸くん、あの騒ぎは止めないでいいの?」

常陸音哉「止めたって俺には何の利益もないからね、イ・ヤ☆」

 

 

音哉「まったく、皆さ、初めての座談会だっていうのにこんなに暴れて…」

大和「言っとくけどな、暴れたのは惇子だけだぞっ!!」

克樹「……(頷く)」

弘也「そんなあっちゃんがベリベリキュート☆」

惇子「…このバカ弘也…」

喬子「あ、あっちゃん照れてる、可愛いっ!」

惇子「…アンタの方が可愛いよ、喬ちゃんっ!!」

正純「野原さんの羽交い絞め、凄いなぁ…」

紫乃「正純、あれは抱き締めてるだけよ、勝手に技にしないの」

馨「ねぇねぇ、とりあえず最初だしさ、自己紹介した方がいいよねぇ?」

信祐「そうだなっ! じゃ、出席番号順って事で!」

珠尚「はいはーい! 皆さんこんにちはーv 女子1番、逢坂珠尚だよぉ! クラス内をグループ分けするなら、孤児院組ってことになるかなぁ? えっとねぇ、珠尚はさっき1人殺したんだ、だって死にたくないもん」

貴瑛「怖…っ」

正純「え、えと…男子2番、潤井正純です。 珠尚と一緒で孤児院組です。 僕はあの…今はとりあえず匡充と美里と隠れてる感じ…かな」

紫乃「こんにちは、女子6番、鳳紫乃です。 女子運動部グループかしら、一応あたしはマネージャーなんだけど。 あたしはシュンと一緒に生き残ろうとしているところよ」

馨「こんにちはー。 男子5番、北王子馨だよ、ハーフだからこんな目立つ容姿してるんだよね。 俺は男子運動部グループだよ、テニ部だしね。 パートナーのタキに『嫌い』って言われて凹み中…さっちゃんと一緒にいるよ」

喬子「こんにちは! 女子9番の玖珂喬子だよ。 一応不良グループなのかなぁ、皆いい人なのに不良とか…ねぇ。 あたしは大和くんと一緒にいるよ!」

信祐「どもども、佐倉信祐、男子6番! 馨ちゃんと同じく男子運動部グループ! 俺はまだ出てきてないなぁ」

大和「男子7番、須藤大和。 不良グループだとさ。 今は喬子と一緒にいる」

貴瑛「女子14番の高谷貴瑛です。 女子文化部グループになりますね。 あたしは今は西谷くんと一緒にいます」

克樹「男子13番…西谷克樹。 グループはない。 高谷を助けた」

惇子「女子16番、野原惇子だ。 不良グループだ。 どっかのバカを止められなかったんだよね。 今は単独行動してるよ」

音哉「こんにちは。 男子14番の常陸音哉です。 俺は明進塾組になりますね。 今は愛美ちゃんと一緒に行動していますよ(営業スマイル)」

弘也「うさんくさー… あ、どうもどうも、全国の可愛いお嬢さん☆…とその他。 男子17番、山神弘也だよー! 不良グループ率いてます☆ 俺は帰るためにやる気だね、あ、女の子には手は出さないよ」

音哉「さて、一通り自己紹介は終わったね。 これで“試合開始”が終わったわけなんだけど、早くもジェノの頭角を現しはじめた人がちょこちょこいるね」

貴瑛「えと…鳳さんと甲斐くん、山神くん、珠尚ちゃん…かなぁ?」

大和「うっわ、ここに3人もいやがる、怖っ!!」

信祐「しかも、山神サン以外は男女関係あるかー!ってのだしね」

紫乃「タキはどうなのかしら?」

馨「タキ……何で……」

喬子「わっ! 北王子くんが黒い影背負った!」

正純「馨くん、元気出してよ!」

音哉「良悟は馨限定なのかそうでないのか、まだわからないね」

惇子「凹んだ北王子は完全無視かい、いい性格してるねぇ、アンタは」

音哉「あははっ、それ程でもないよ」

惇子「褒めてないっての」

珠尚「西谷くんはどうなのかな、珠尚、やる気になると思ってたんだけど」

貴瑛「え、でも西谷くんは、あたしを助けてくれたよ?」

弘也「どうなんだよ、西谷」

克樹「……」

音哉「ま、本心では何考えてるのかわからないからね。 本当に助けただけかもしれないし、取って喰う気かもしれないし」

大和「お前ね、ちょっとは思いやり溢れた言葉を掛けられないのか?」

音哉「んー…俺の思いやりはちょっと割高だけど、いるか?」

大和「金を取るな、金を」

克樹「俺…人は喰えないぞ」

間。

信祐「あっはっは、西谷サンおもれーっ!!」

正純「えっと…西谷サン、あのね…」

喬子「うん、西谷くんが人を食べられないのは皆わかってるよ、うん」

弘也「わかんないよー、実は人の皮を被ったオ――」

惇子「話をややこしくするな、このバカッ!!」

バキッ

弘也「痛っ!」

珠尚「西谷くんって意外とお茶目さんだねー! ものの喩えだよ、た・と・え!」

克樹「そうか」

馨「ま、西谷がこれからどうするのかは、今の段階じゃわかんないね」

弘也「そうだそうだ、音哉さぁ、まだ愛美ちゃんに好きって言ったことないの?」

音哉「…あれ、言ってなかったっけ?」

大和(うさんくせー)

惇子(わざとらしー)

音哉「何そこの幼馴染コンビ、何か言いたい事でも?」

大和「別にー」

信祐「あとはあれだな、翔平はどうなるのかな?」

貴瑛「最初はただショック受けるだけだったみたいだよ、津村くん」

音哉「あぁ、早くも予定が変わってきている、ってワケだね、作者」

喬子「試合開始時点で…早っ!」

珠尚「それにしても、終わりの方、いつもの翔平くんじゃなかったよねぇ。 なんかちょっと変っていうか…」

大和「お前が言うな、お前が。 誰のせいだと思ってんだ」

紫乃「そうそう、あなたが言える立場じゃないでしょ」

惇子「ま、アンタが言える立場でもないけどね」

 

弘也「そーいや、大和ってヤラレキャラなんだっけ? 座談会で」

音哉「うん」

大和「こらそこぉっ!! 勝手に言うな、んでもって勝手に認めるな!!」

音哉「言っただろ、5周年の座談会で。 聞いてなかったのか?」

弘也「ほら、大和って結構ボケボケだからさ」

惇子「あ、昔からそうだったなぁ、そういや」

大和「だから勝手に話を進めるなっての!!」

喬子「大丈夫、大和くん! あたし、そんな大和くんも大好きだよ!」

珠尚「わ! 愛の告白っ!」

大和「…俺、泣きたい」

克樹「……(ハンカチを手渡す)」

信祐「『ほら、このハンカチーフで、その溢れる情熱を拭きたまえ』…ってさ」


男子12番・津村翔平(つむら・しょうへい)

水泳部。男子主流派運動部系。
明朗活発で、面倒見が良い。
スポーツ万能で、特に水泳の実力は全国クラス。

身長/176cm
愛称/翔平、翔平くん、翔ちゃん
特記/薮内桃子(女子19番)とは幼馴染

能力値

知力:

体力:

精神力:

敏捷性:

攻撃性:

決断力:

★★★☆☆

★★★★★

★★★★★

★★★★☆

★★☆☆☆

★★★★★
 


支給武器:野球ボール1ダース
kill:なし
killed:滝井良悟(男子10番)
凶器:コルト・ガバメント
 

桃子と共に行動していたが、逢坂珠尚(女子1番)に襲われて脇腹被弾。桃子を失い、桃子の遺言どおり生きようと決意。

桃子の分も生きることを決意し、武器を探しにG=05エリアへ。カッターを入手後、良悟に襲われる。良悟を殺害しようとするが、傷が響き敗北、頭部被弾により死亡。

 

翔ちゃんについてはちらほら先行きを気にしていただきましたが、こんな感じになりました。 サブメインには上げられませんでした。
彼は狂ったわけではなく、ただ覚悟を決めただけです。

大東亜総合大学の後ろには、山がどっしりと構えている。
決して大きなものではないが(せいぜい標高300mほどだろう)、正面から見たキャンパスと、その奥の緑の覆い茂る山とのセットは、見る者を多少なりと感動させる。
裏山そのものはプログラムのエリア外だが、その入り口はエリア内だ。
地図の左上、A=01エリアからA=03エリアまでがそれにあたる。
その中のA=03エリアに須藤大和(男子7番)と玖珂喬子(女子9番)はいた。
最初はもう少し西、つまりA=02エリアにいたが、近くに馬小屋――馬術部のものだろう、大東亜総合大学の馬術部はそれなりに全国に名を知られている――があり、今はもう馬はいないが、小屋特有の臭いはまだ消えきっておらず、鼻の曲がりそうな小屋の側に潜伏することは不可能だったので、引き返して今の場所に落ち着いた。
こちらは馬術部員用の宿舎だろうか、古びたコンクリート製の平屋が建っており、今はその中の一室にいる。
ささくれ立った畳が敷かれており、埃も被っていたので、逃げる時のことも考えて土足で入った。

喬子は日に焼けた壁に背中を預け、畳をじっと見つめている。
命懸けのこの状況だ、憔悴しきっていてもおかしくない。

そんな喬子から目を離し、大和は外を見つめた。
ムカつくくらいの晴天で、ただの日常であれば絶好のサボり日和だっただろう。

「…見ろよ、喬子。
 すっげぇ良い天気だぜ?」

普通の会話をすれば少しは元気になるだろうか。
そう思い、当り障りのない話題を出した。
喬子がゆっくりと顔を上げた。
そして、にっこりと微笑む。

「…うん、絶好のピクニック日和ね」

「あ、さすが、喬子らしいな。
 俺はサボって屋上でごろんって寝転がりたいって思った」

「もう、サボることばっか考えちゃ駄目だよ?」

「いーって。
 センコーの説明よりも、喬子の説明の方がわかりやすい!
 ……あ――」

大和は慌てて口を塞いだ。
学校の話をしてしまったじゃないか。
最早届かない、日常生活の話を。

喬子を見たが、表立って変化はなかった。
大和の気持ちを汲んで、見せなかったのだろうか。

おそらくそうだろう、喬子は――俺の彼女は、そういう子だ。

「わかり、やすかった?」

「そりゃあもう、俺の成績の伸びっぷり見たろ?
 先生になれるぜ、絶対!」

あぁ、また傷を与えてしまったかもしれない。
一瞬、C組の担任だった岡本隆志の顔が浮かんで、消えた。
自分たちを見捨てた男。
クソッ、気に入らないヤツだ。

だけど、この言葉にはお世辞も何も入っていない。
大和の成績が急成長したのも事実だし――学校の教師たちの大和を見る目が変わったのが、はっきりとわかった――、喬子の将来の夢である教師になれると思ったのも事実だ。
そう、喬子には夢があった。
大和の家で勉強会を始めて少しした頃、照れくさそうに言っていた。
「学校の先生になるのが夢なの」、と。

喬子の夢を応援している。
だから、護り抜いてみせる。
誰にも殺させやしない。
大和はベレッタM84Fを握り締めた。

ふと、喬子の視線が、大和の手元に行っていることに気付いた。

「どうした?」

「…ううん、ただ……」

喬子は視線をそらした。
畳の網目をじっと見ていた。

「北王子くんと…滝井くんのこと、考えてたの…」

その言葉に真夜中の出来事が蘇る。
北王子馨(男子5番)が滝井良悟(男子10番)に襲われていた光景だ。
これがプログラムだとはいえ、親交がなくても親友だと(いや、あんなことがあったのだから、親友だった、と言ったほうが正しいのかもしれない、クソ)わかるくらいの2人だったのに、戦っていた。
潤井正純(男子2番)あたりに言った、「親しかろうが何だろうが、疑った方が身の為だ」という言葉の真実性を見てしまった瞬間だった。
2人共放送で名前を呼ばれていないので、馨が逃げ切ったのだろう。

「あの2人…親友同士…なのに…あんなことになって…それで…」

喬子が顔を上げた。その瞳は不安に揺れていた。

「大和くんは、どうする…?もし、もしも…」
「もしもっつーか、弘也は確実だな」

喬子は言葉を濁したが、何を言いたいのかは理解できた。要は、もしも仲間が襲ってきたらどうするのか、ということだろう。

「言ったろ、俺は自分と喬子を護るためにしかコレは使わないって。襲ってきたら、正当防衛は仕方ない。逃げるなんて、俺の性には合わねぇし。ただ…」

頭の中に仲間たちの顔が浮かんでは消える。どいつもこいつも笑えるほどに曲者揃いだ。まったく、どうしてこんなに濃いメンバーが集まってしまったのやら。

「できれば、戦いたく…ないよな」

喬子は頷いた。大和にとっての仲間は喬子にとっても仲間なのだから、当然だろう。

「あたし…あたしね、ずっと、考えてた。もしも友達に…襲われたりしたら…って」

そうだ、喬子には大和の仲間以外にも親しい友人がいる。通っている(これも過去形になるのか、くそったれめ)塾の友達だ。喬子は笑みを浮かべた。笑っているけど、今にも泣き出しそうだ。

「あたしには…頑張って生きるだけの…価値があるのかな…って。だって、あたしはもう――」
「喬子っ!!」

言葉を遮って、叫んだ。
これより先を言わせたくなかった。
今、喬子は自分の心の奥に封じていた闇を引き出そうとしていたのだから。

「…それ以上言うな。
 そういうの、言ってほしくない」

「でも、あたしはもう、誰にも――」

大和は喬子の両肩に手を置いた。
その指に力を込める。
少しきつかったのだろう、喬子が僅かに声を洩らした。

「そういう、自分を苦しめる言葉、言うな。
 約束しただろ、俺ら。

 俺には喬子が必要だ。

 …不満か?」

喬子はしばらく大和の顔を見つめ、首を横に振った。
今度はにっこりと笑った。
少し、頬を紅く染めていた。

「…そうだよね、ごめんね。
 約束、破っちゃうところだった。
 あたしも、大和くんがいれば、それでいい…」

「…へへっ、なんか照れる」

そう言いつつ、大和はそっと喬子の背中に手を回した。
その華奢な体をそっと引き寄せる。
喬子の髪は、ふんわりといい匂いがした。

 

「いやあぁぁぁぁぁっ!!」

 

不意に悲鳴が聞こえ、大和は咄嗟に床に置いていたベレッタM84Fを手に取り、声のした方に向けた。
もちろん、喬子を自分の後ろに隠すのも忘れていない。
またお預けを喰らってしまったが、仕方がない。

「玖珂さんから離れてよ、このケダモノっ!!」
「け…けだ…っ!?」

一瞬何を言われたのかわからなかった。
ケダモノって何だそりゃ。
俺は人間だぞ、尻尾とか生えてないし。
あぁ、そういう意味じゃないって?
でもさ、自分の彼女を抱き締めて何が悪いんだ?

「ちょ…ちょっと待って、紗和ちゃん!!」

喬子も何がなんだかわからない様子で叫んだ。喬子の声に、大和をケダモノ扱いした少女――伊賀紗和子(女子3番)がそちらを見た。

「玖珂さん…」
「紗和ちゃん、よかった…怪我、ない?」

大和は2人が近づいてぽつりぽつりと会話を交わす間に、紗和子についての知っている限りの情報を頭の中から引っ張り出した。伊賀紗和子、3年C組副委員長。ただ、その役職は進んでなったわけではなく、選挙で選ばれたものだ。それでも立派に役をこなしているところを見ると、真面目な性格のようだ。2つくくりをした肩までの黒髪、大きめの縁の眼鏡――見るからに優等生だし、事実有名進学塾の“明進塾”に通っており、成績優秀だ。明進塾――つまり、喬子の塾友達だ。個人的にはあまり関わりがなかったのだが、何か恨みをかうような真似をしただろうか。もしかして、喬子と付き合っているということを知らないのか。ありえる、紗和子は色恋沙汰には疎そうだ。

「ちょ、ちょっと、紗和ちゃんっ!?」

喬子の驚いた声に、大和は我に返った。
眼前に、紗和子が迫っていた。その手にはバターナイフが握られている。これが支給された武器なのか?とにかく、大和は寸前で避けた。ざくっと音がし、バターナイフが畳に突き刺さった。

「待て、伊賀!!俺は別にお前を襲う気とか…」
「うるさいうるさいうるさいっ!!」

いつもは大人しそうなヤツだ、と思っていた少女が、わめき散らす。バターナイフをしっかりと握り締めて振り回す。このプログラムでは男女1人ずつが生き残ることができる。女の紗和子が男の大和を襲って、万が一殺害したとしても、生き残る確率は1%も増えない。そんなことは、紗和子もわかっているはずだ。

わたしは、不良って呼ばれる人たちが嫌い。
あのろくに努力も何もしない姿とか、校則を完全に無視した容姿とか、学校に来ているくせに授業に出ていない怠慢さとか。
それは、結構前から思っていたこと。
だけど、今は“嫌い”なんて言葉では片付けられない。
そう、“憎い”、の方が正しい。
憎くて憎くてたまらない。
ずっと陰で恨み続けてきた。

だって、あの人たちは――

 

 

伊賀紗和子(女子3番)は両手首を掴む手を見つめ、まずは右側からゆっくりと腕、肩、首、と上に視線を移していった。

「紗和ちゃん、そんな物騒なもの振り回すなんて、らしくないよ?」

「…常陸くん…」

常陸音哉(男子14番)が、空いている右手で、紗和子の手に握られたバターナイフをそっと取り上げた。
黒縁眼鏡の奥の瞳はいつもと変わらず優しい。
だけど何故だろう、どこか違和感を感じる。

「まずは落ち着こう、ね?」

左側から声を掛けられる。
今度はそちらに目を向けると、高井愛美(女子13番)が優しく微笑んでいた。
しっかり編まれた2本の三つ編みに端整な顔立ち、ピシッとしたその姿も、いつもと変わりない。

両手を解放された紗和子は、ゆっくりと手を下ろし、その場に力無く座り込んだ。
再び襲い掛かろうとしないことに安心したのか、音哉は紗和子の側を離れ、畳の上で折り重なって倒れている玖珂喬子(女子9番)と須藤大和(男子7番)の方へ近づいた。
大和の手にまだベレッタM84Fが握られていることを確認し、目を見開いた。

「常陸くん、危ない、銃が…っ!!」

「大丈夫」

愛美が落ち着かせるように、紗和子の方に手を置いた。
何が大丈夫なものか。
相手は不良で、銃を持っているのに。

紗和子の心配を他所に、音哉は大和と喬子の横にしゃがんだ。

「フフッ、いつまで見せつけてるのさ?」

「るせー、テメェに関係あるかっ」

頬を紅く染めて反論する大和がおかしかったのか、音哉は楽しそうに、それでも小さめに笑い声を上げた。
立ち上がり、喬子の腕を引っ張って2人を引き離した。
そして、上半身を持ち上げた大和に向かって拳を掲げる。
大和もニヤッと笑みを浮かべ、それに自分の拳をぶつけた。

「俺生きてたよ、心配してくれてた?」

「バカが、テメェがそう易々と死ぬかよ」

2人は親しげに会話を交わしていた。
そういえば、小学生の頃は仲が良かったっけ。
紗和子も同じ小学校出身なので、その親交は知っていた。
当時は今とは比べ物にならないくらいの無愛想さと怖さで有名だった大和と、いつもその側にいた音哉。

「さて、と」

仕切りなおすように、音哉が声を上げた。
そして、背中に手を回し、再び前にやった。
その時には、右手にはしっかりと拳銃(シグ・ザウエル P230だが、紗和子の知るところではない)が握られ、銃口は大和に向けられていた。

紗和子はとても大人しい少女だ。
自分から人に声を掛けるということは苦手とするところで、生真面目な性格も手伝ってか、中々友達ができなかった。

そんな小学校時代、唯一と言ってもいい友達がいた。
それが、玖珂喬子だった。

当時の喬子は今になってみると想像できないほどに暗い少女で、いつも思いつめたような表情を浮かべていた。
友達と言っても一緒に遊ぶようなことはなかったが、勉強でわからないことがあったら聞き合ったり、一緒に図書館に自習しに行く仲だった。

中学校に上がった頃、喬子の成績が下がった。
成績順に分けられていた明進塾のクラスが、1つ落ちた。
「もう、限界なの…」、今にも泣き出しそうな表情で呟いた喬子の姿は、傍から見ても本当に痛々しいものだったと思う。

それからしばらくして、喬子の付き合いが悪くなった。
今までは塾のない日は図書館に行っていたが、誘っても「用事がある」とほとんど断られるようになった。
更に、別の小学校だった明進塾のメンバーとの付き合いが希薄になった。
当時から一緒にいるようになった音哉や愛美、四方健太郎(男子19番)らと一緒にいる回数が目に見えて減った。

その理由がわかったのは、1ヵ月後くらいだっただろうか。
喬子が親しげに話をしているのは、紗和子が嫌う不良のメンバーらだった。
噂で、喬子が須藤大和と付き合っている、というのを聞いた。

直感した。

喬子は、騙されている。

弱みに付け込まれて利用されている、そう思った。
喬子は可愛らしい子だ、きっと狙われたに違いない。
須藤大和という、あの悪魔に。
大和と一緒にいる喬子は、紗和子が見たことない程に表情豊かだった。
だけど、それも騙されているんだ。
いつか裏切られて、捨てられて、喬子は傷つくんだ。

今まで不良に対して持っていた嫌悪が、憎悪に変わった瞬間だった。

許さない、不良なんて…大嫌いだ…
わたしの1番大切な友達を、傷つけようとする人たちなんて…っ

 

 

プログラムが始まり、紗和子は1人で放浪していた。
どうすればいいのかわからなかったので、とりあえず音哉や愛美や健太郎、そして喬子を探そうと思っていた。

そんな時に見つけてしまった。
喬子と、あの悪魔――須藤大和を。
そして、あろうことか、2人は抱き合っていた。

紗和子の中で、何かが切れた。

もう、許さない。
喬子が、大切な友達が傷つく姿なんて見たくない。
だったら――傷つけられる前に殺してしまえばいい。
そう、思った。

 

わたしは友達を思っただけ…
なのに、どうしてわたしは責められているの…?

紗和子の目に涙が滲んだ。
愛美が不安げにそれを見つめている。

「紗和ちゃん…?」

音哉に声を掛けられたが、紗和子の耳には届いていなかった。
キッと大和を睨みつけた。
睨み殺してしまいたかった。
それは叶わなかったが、怯ませることには成功したようだ。

「アンタなんか…大嫌い…っ」

搾り出すように出した声は、信じられないほどに低かった。
紗和子の唸るような声に、その場にいた全員が言葉を失った。

「大嫌い…大嫌い…憎い…憎い…っ
 だから…殺そうと……須藤くんを……あたしは…殺そうと…っ」

大和が反射的にベレッタを掴んだ。
喬子は信じられないといった目で、紗和子を見つめている。
その瞳が潤んでいた。

「どうして……どうして…そんな…」

喬子の声が震えていた。
紗和子は喬子を睨む。

「どうして、じゃないわっ!!
 わたしはただ、玖珂さんのことを思っただけ!!
 玖珂さんが不良の人たちと仲良くするから!!
 わたしは心配だったのよ、いつ裏切られてしまうのか!!
 玖珂さんの傷つく姿なんて、見たくなかったのっ!!」

今までに出したことのない大声で、紗和子は泣き喚いた。
自分自身、こんなに声が出るなんて思わなかった。
紗和子は大和に目を向けた。

「玖珂さんを側に置いて、何を考えてるのっ!?
 まさか、盾にでもしようとしたんじゃないわよねっ!?
 そんなの、絶対にさせない、許さないっ!!
 そんなことする前に、わたしがアンタを――」

「バカァッ!!」

紗和子の叫びを遮ったのは、喬子の声だった。
喬子が駆け寄って来た。
涙に濡れたその目で紗和子を睨み、右手を高く掲げた。
それは勢いよく振り下ろされ、紗和子の頬を打った。
勢いで紗和子はよたつき、それを側にいた音哉が支える。

「くが…さん…」

「どうして、どうしてそんな風に言うのぉっ!?
 そんな風に大和くんを悪く言わないで、何も…何も知らないくせに!!
 あたしは大和くんに救われた!!
 大和くんが、あたしの世界を変えてくれた!!
 大和くんを殺させなんかしないっ!!」

紗和子は頭に、大きな鉄球が直撃するような衝撃を感じた。
自分が大切に思っていた人に怒鳴られた。
自分の考えを否定された。

…だけど、わかっていた。
心のどこかでは。
大和が喬子のことを利用しているわけではない、ということは。
だから、余計に憎かった、あの男が。

「…玖珂さんは…わたしの友達だもん…っ!!」

喬子が目を見開いた。
その奥で、大和も驚いた様子でこちらを見つめている。

「わたしの1番大好きな、大切な友達なのっ!!
 わたしの方が先に友達になったのっ!!
 なのに、なのに、後から出てきたアンタが…アンタたちが…っ!!

 わたしの友達を取らないでぇっ!!」

最早子供の屁理屈だ。
だけど、悔しかった。
大切な友達が自分から離れていくことが。
自分とは別のところで、笑っていることが。

プログラム本部となっている3号棟の真北に位置する2号棟は、地図におけるA=05エリアにあたっている。
その3階にある比較的大きな2?3A教室の窓を開けて外を見ていた常陸音哉(男子14番)が、少しがっかりしたように溜息を吐いた。

「仕方ないわ…
 窓に鉄板張ってあったから…」

伊賀紗和子(女子3番)もその横から外を見て、音哉に目を遣った。
30分ほど前には泣き喚いていたが、今は落ち着いている。
1番の友達と友情が確認できたので、すっきりしたのだろう。

「ま、予想通りだけどね」

機嫌をやや損ねたらしい音哉は、プログラム本部を睥睨し、音が立たないように慎重に窓を閉めた。
そして、紗和子に向かって微笑んだ。

「まぁ、休憩でもしようか。
 体力は温存しとかないといけないからね」

「そうね、わたし、さっき叫びすぎて疲れちゃった…」

音哉の提案に、紗和子は苦笑しながら近くの椅子に腰掛けた。

その様子を見ながら、高井愛美(女子13番)はおかしさを堪えていた。
改めて音哉の二重人格っぷりを見ると、おかしくて仕方がない。
紗和子と会話をしている音哉を見ていると、鳥肌が立つ。
今までは当然だったのに、本性を知ってしまうと、違和感たっぷりだ。

音哉は入り口付近で見張りをしていた愛美に近づいてきた。
愛美が微笑んでみせると、音哉も笑みを浮かべた。
紗和子に向けたものとは違う、鋭い笑み。

「使い分け、大変ね」

「ハッ、別に。
 何年続けてきたと思ってんだよ」

「あぁ、随分と経験値をお積みでいらっしゃる」

いけない。
どうも音哉の本性と出くわしてから、自分の性格が変わった気がする。
先程別れた須藤大和(男子7番)にも、「高井って意外といい性格してるんだな、さすがだぜ」とか言われた。
音哉の皮肉がうつったようだ。

愛美は紗和子と音哉のやりとりを思い出し、どうしようか少し迷ったが、訊くことにした。

「…で?」

「何だよ」

音哉は訊き返しながら、前から2番目の長机に腰掛けた。
1番前のそれに腰掛けていた愛美とは、至近距離で向かい合う形だ。
その端正な顔は、やっぱりかっこいいと思う。

「紗和ちゃんには、ずっと猫被って接するの?」

多分これから先、ずっと一緒に行動するのであれば、それは多少なりとも音哉の負担になるだろう。
それに、3人でいる限り猫を被り続けるはずなので、本当の音哉にしっくりきている愛美にとっては、あまり気持ちのいいものではない。

音哉は紗和子を一瞥した後、顎に手を添えて目を伏せた。
考え事をしている時に見せる癖は、ずっと変わらない。
しばらくして、顔を上げた。

「てか、お前と違って驚くだろ」

「失礼ね、あたしだって驚いたわよ」

しかし、音哉の言っていることは事実だ。
ある程度予想をしていた愛美ですら、その豹変振りには驚いた。
何も知らない紗和子なら、尚更驚くだろう。
元々柄の良くない人たちに対して好印象を持っていない紗和子だ、大和の時のように襲い掛かるかもしれない。

「猫被った方が身のためかもしれないわね」

「…だろうな」

音哉は言いながら、胸の内ポケットに手を遣った。
中からでてきたのは、煙草のケースだった。
支給されたものとは違うもののようだった。

「ちょっと、何それ」

音哉が煙草を吸ってるなんて聞いてない。
服に匂いが付いていることはあったが、それは大和や山神弘也(男子17番)といった、周りから喫煙者と知られている面々と接した結果だと信じてきたので。
そもそも未成年の喫煙なんて許されない。
愛美は不機嫌さを露わにして言った。

音哉は自分の手に握られたものに目を遣り、愛美に視線を戻した。
そして、不敵な笑みを浮かべた。

「お前バカ?
 見てわかるだろ、煙草だよ」

「そんなの見たらわかるわよ。
 どうしてそんな物を持ってるの、っていう話!」

思わず大声を張り上げた。
紗和子が何事かと、2人に近づいてきた。
そして、その右手に握られたものを見て、眉間にしわを寄せた。

「紗和ちゃん、大丈夫よ。
 口は悪いけど、中身は紗和ちゃんの知ってる音哉くんと一緒だから」

そう、会話をしているうちに何となくわかった。
口調は悪いし、言葉に歪みが出ている。
だけど、根本的なところは変わっていない。

「で、でも――」

 

ぎぃっ

 

鈍い音がした。
愛美は反射的に振り返る。
それは油の錆びかけた、この教室のドアが開く音だったからだ。

「四方…くん…」

体を強張らせていた紗和子が、肩を撫で下ろした。
入り口に立っていたのは、愛美たちと同じく明進塾に通う仲間、四方健太郎(男子19番)だった。
やや性格が悪く、愛美は正直なところあまり好きではない。
紗和子もあまり好印象を持っていないようだった、学校の教師たちに批判をする様が、あまり気に入らなかったらしい。
自分第一主義者で、将来は政治家――こんなプログラムなんてやっているような馬鹿みたいな国の政治家だなんて、なんて物好きなんだろう――志望の、エリート思考の持ち主だ。
しかし、仲間には変わりない。

「凄い偶然ね、全員がここに揃うなんて…」

愛美は健太郎に向かって笑みを浮かべた。
しかし、それは健太郎には届かなかった。
健太郎が右手に携えていた黒い物体――拳銃(グロック19という自動拳銃だ、もちろんそんな名前は愛美の知るところではないけれど)を持ち上げたのだ。

「愛美、伏せろっ!!」

音哉が叫び、同時に机から飛び降りて、紗和子を庇うように倒れた。
愛美も音哉の声を聞くよりも早く、机の下に伏せた。
彼女である自分ではなく、友達の紗和子を庇っていることに少し嫉妬したが、状況や愛美と紗和子の身体能力の差からして仕方がないし、そもそもそんなことを考えている場合ではない。
刹那、ばんっという耳の痛くなる音が響き、教室の後ろの窓――先程音哉と紗和子が外を見ていたそれ――のガラスにひびを入れた。

「何やってんだ、お前っ!!」

音哉が叫ぶ。
健太郎は何も答えない。
いや、何か小声で呟いていた。

「……だよ………ぼく………」

愛美は見た。
健太郎の小さな目は、白目が真っ赤に見えるほど充血しており、元々あまり整えていない髪も、寝起きのようにボサボサになっている様を。
そして、その顔に張り付いた、奇妙に歪んだ笑みを。

…四方くん……いつもと違う…っ

「音哉くん!!
 四方くん、おかしい…なんか…――きゃあっ!!」

愛美は悲鳴を上げた。
銃声が響き、愛美の足のすぐ横に着弾した。

全身がガタガタと震える。
だけど、動かない。
今、とても立てそうにない。

怖い……嫌……っ

横で、足音が聞こえた。
ちらっと見えたその黒い革靴から、それが音哉の走る音だとわかった。

「お前、今何したかわかってんのか!?」

だんっと床に響く音。
震える体を動かして、どうにか机を支えにして上半身を外に出した。
入り口付近で、健太郎が倒れ、その上に音哉が馬乗りになっていた。

銃声。
音哉の背中に隠されていたので、その様子は見ていない。
だけど、わかった。
音哉が、シグ・ザウエルP230の引き金を引いた。
そして、健太郎は動かなくなった。

「お…とや…くん…」

「来るなっ!!」

傍に寄ろうとした愛美に、音哉が怒鳴り、愛美は止まった。
同じく紗和子も立ち上がろうとしていたが、動きを止めた。

「見ない方がいい…」

音哉はもう一度言うと、背中側のベルトにシグ・ザウエルを挟み、ポケットに入っていたハンカチを出して広げ、健太郎の頭にそっと被せた。
そして、健太郎が手に握り締めていたグロック19を指から引き離し――1本ずつ引き剥がしていた、嫌な作業だ――、それを手に取り、立った。
音哉が立ち上がって、愛美は倒れる仲間(元、か)の姿を確認した。
ハンカチの下、床にゆるゆると血の池が広がり始めていた。

音哉はゆっくりと下がり、愛美の横に来た。
小さく息を吐いた後、床に落ちていた煙草のケースを拾い、中から1本出すと、同じく胸ポケットに入っていたライターで先に火を点けた。
鼻をつく煙草の匂い。
だけど、愛美は今度は何も言わなかった。
それが、何とかして気分を落ち着けようとする努力に思えたので。

「仕方が…なかった……」

愛美は音哉のライターを持つ手にそっと触れた。
僅かだが、小刻みに震えていた。
当然だ、クラスメイトを、それも良く知った仲間を手に掛けたのだから。

「1人で背負うことないのよ…?」

愛美にはわかった。
音哉は健太郎を撃つ時、それを自分以外が見なくて済むように角度を計算していた、ということを。
口は悪くなっても、『自分にとって得になることしかしない』と言っても、やはり周りから信頼を得ることができる天性の人徳は変わらないのだろうか。

「見殺しにした、わたしたちも、同罪…だと思う…」

紗和子も呟いた。
その声が僅かに震えていた。
視線は健太郎に注がれていた。
音哉が1人で罪を背負うことのないよう、その姿を目に焼き付けているのだろうか。

「10時19分、四方健太郎退場…か」
B=05エリア、プログラム本部のある3号棟の1室は、多くのパソコンが主に壁際に設置され、部屋の中心には四角いテーブルと、それに向かい合わせになるようにソファーが設置されている。
その片方に遠藤勇(担当教官)は腰掛け、束になった資料の1枚にペンを走らせていた。

「総司、誰が殺った?」

遠藤に訊かれた岸田総司(担当補佐)が、傍にあるパソコンの画面に目を遣り、それに向かっていた部下と2,3言会話を交わし、遠藤の方を向いた。

「えーっと…彼ですねぇ。
 男子14番の」

「常陸か」

遠藤は再びペンを走らせる。

「へぇ、アイツか、やるじゃねぇの。
 教室がパニクってた時に落ち着いてたヤツだろ?」

遠藤の向かいに足を組んで座っていた天方歳三(担当補佐)が顎に手を遣り、楽しそうに笑みを浮かべた。
ふんぞり返って座るその姿は、担当補佐とは思えない。

遠藤はその副官の姿に苦笑する。
今は責任者と副官という立場の違いがあるが、元々近所に住んでいた2人は幼馴染であるので、多少の態度のでかさは構わない。
あまりにでかすぎると周りの部下に影響が出るので、全てを許すわけにはいかないが、これくらいは許容範囲だ。

「天方君」

天方の背後から、おっとりとした声が聞こえた。
遠藤は顔を上げる。
天方も肩越しに、声の主を見ていた。

「あぁ、アンタか、山北さん」

天方が、やや鬱陶しげに名を呼んだ。
遠藤は少し顔を歪める。
天方は彼――山北敬助(やまきた・けいすけ/担当補佐)とはあまり仲が良くない。
気が合わないんだそうだ。
山北は、天方や岸田と同じ担当補佐という立場にいるが、教室内での生徒への説明の時には姿を現していない。
それは、おっとりとしていて非情になりきれない山北を生徒の前に出すことは、プラスには働かないという、天方の判断によった。
それは正しかったと言える。
水上朱里(女子18番)を処刑したことについて、山北はいい顔をしなかった。

山北はもう一度名前を呼んだ。

「いくら君と局長が幼馴染とはいえ、ここは仕事の場。その態度はいけないんじゃないのかな?」
「…あぁ、だったらアンタも座ればいい」
「そういう問題じゃないだろう」

山北と天方の言い争いが始まった。それは熱い戦いというわけではないが、明らかに火花が散っている。

「あーあ、また始まっちゃいましたねぇ」

いつの間にか背後に来ていた岸田が溜息混じりに言った。その顔には、『局長が止めてくださいよ』と書いてある。2人の間に割って入るのは簡単なことではないが、仕方がない。

「2人共、その辺で――」
「まーたやってんスか、お二方!」

妙に大きな声が室内に響いた。その声に、遠藤は顔をほころばせた。

「おぉ、右之か」
「やめようぜぇ、こんな所でよぉ!」

あっけらかんとした声とごつい顔、それはとびっきりのムードメーカー、原田右之助(はらだ・うのすけ/軍人)のものだ。原田は山北と天方の間に割って入り、互いを宥めた。その姿に毒気を抜かれたのか、天方は諦めて、ソファーに行儀良く座り直した。

「助かったよ、右之」
「いえいえ、お安い御用ですとも」

原田はニカッと笑った。本当に助かった、余計な労力を使わずに済んだ。原田の後ろにいた永倉古八(ながくら・こぱち/軍人)は、パソコンに向かっていた2人の男の側に行き、肩を叩いた。

「斎藤さん、凸助、見張り交代の時間だ」

2人の男の内、やや幼さの残る藤堂凸助(とうどう・とつすけ/軍人)が先に振り返り、「わかりました」と立ち上がり、永倉の持っていたライフルを受け取った。そして、横にいるどことなく気だるそうな男、斎藤万(さいとう・よろず/軍人)に声を掛ける。斎藤はゆっくりと立ち上がり、原田から同じようにライフルを受け取り、凸助と共に部屋を出て行った。

「…私も少し暇を頂きます」

山北は遠藤に向かって一礼し、部屋を出て行った。居心地が悪いというわけではなく、単に交代に取っている仮眠の時間が、山北の番になったからだろう。書類を書き上げている途中で、テーブルに置いていた電話が鳴った。遠藤は慌てて受話器を取った。

「はい、こちらプログラム本部…あ、これはこれは、お世話になっております、はい。え、はい、それはもう順調ですよ、7人退場しまして、はい。…え、山神ですか?彼は1人殺ってますね、やる気十分ですよ。…あ、野原?野原は別行動ですね、今は女子5番の大谷と行動しています。……えぇ、そうです。あぁ、でも思ったより良いですよ、並の男より男気ありますし。……ははっ、そうですそうです、はい。…はい、はい、はい…あ、はい、お疲れ様です」

遠藤は受話器を置いた。そして、大きく息を吐いた。

「…どこぞのお偉いさんからかい?」

天方が訊いた。山北がいなくてよかった、今の発言は必ず咎めるだろうから。

「あぁ、国交省の副大臣だ。トトカルチョで山神と野原に賭けてるらしい」
「トトカルチョ…あぁ、例の」

中学3年生の子供たちが命懸けで行う椅子取りゲームで、国のお偉方が誰が優勝するのかという賭け事をしていることは、こちらの世界では有名な話だ。天方が知っているのも当然の話だ。噂では、1回のプログラムで億単位の金が動くという。

「ねぇねぇ、土方さん!」

遠藤の後ろにいた岸田が声を上げた。それは新しいおもちゃを見つけた子供のような、弾んだ声だった。

「俺たちもしませんか、トトカルチョ!…焼肉喰い放題を賭けて!!」
「乗ったぁっ!!」

1番に声を上げたのは、原田だ。祭り事の好きな原田らしい。その横では永倉も笑みを浮かべている、やる気らしい。

「…って言ってるけど、どうする、遠藤さん」

天方が意見を仰ぐ。しかし、その瞳は既に勝負師のそれだ。訊いているが、やる気十分のようだ。遠藤は溜息を吐き、やれやれ、と呟いた。

│  ↑
└─┘
おらっしゃあぁぁ!!!
 ∩∧ ∧
 ヽ( ゚Д゚)
   \⊂\
    O-、 )?
      ∪

495 :風の谷の名無しさん@実況は実況板で:2013/08/06(火) 15:51:17.77 ID:nrgZcsZn0
>>492
俺アニメ組だけど
原作の出来がいいならなおそのまま見たいわ
原作組だったとしたら尚更変えて欲しくないし
アニオリってどうしても原作のカラーに馴染まず違和感出るものだし
アンソロジーコミック読みにきたんじゃないから原作通りがいいな

496 :風の谷の名無しさん@実況は実況板で:2013/08/06(火) 15:52:50.15 ID:HWu7jZQQ0
>>495
残念、アニメ版は劣化版なのでした?

497 :風の谷の名無しさん@実況は実況板で:2013/08/06(火) 15:53:48.13 ID:nrgZcsZn0
アニメ組だけど
プレイ動画観た後でのアニメの感想として、
「ええと、さくらってのは…」
「我だ」
『………』
の間が凄く良かったw

498 :風の谷の名無しさん@実況は実況板で:2013/08/06(火) 15:54:15.60 ID:zjcEqFZ60
スポーツのハイライトってあるでしょ。このアニメってまさにそれ見てる感じ

499 :風の谷の名無しさん@実況は実況板で:2013/08/06(火) 15:54:29.45 ID:pixGP2740
どうしたって尺の問題だよなぁ
体験版だけにしたらダレるし

500 :風の谷の名無しさん@実況は実況板で:2013/08/06(火) 15:57:23.12 ID:HWu7jZQQ0
俺この出来だったらアンソロジーコミック読みたいわ

501 :風の谷の名無しさん@実況は実況板で:2013/08/06(火) 16:01:01.73 ID:VHtehorM0
原作スタッフが岸にアニメの尺でなんとかなるようにストーリー書きましょうか?って持ちかけたけど
岸が話を変えるなんてとんでもないとかいって今の惨状になったとかなんとか

502 :風の谷の名無しさん@実況は実況板で:2013/08/06(火) 16:04:04.64 ID:pixGP2740
> アニメの尺でなんとかなるようにストーリー書きましょうか?
これは知らんかったがマジ?
俺はアニメはゲームと変えてって要望したとしか知らんかった
それが原作側が変えて書こうとしたってのはむしろ
原作ファンとしてはそっちのがメチャクチャ見たいんだが

503 :風の谷の名無しさん@実況は実況板で:2013/08/06(火) 16:05:16.27 ID:HWu7jZQQ0
いやスパイクはシナリオは変えてもいいよって言っただけじゃね

504 :風の谷の名無しさん@実況は実況板で:2013/08/06(火) 16:05:42.31 ID:lkDHRFGf0
なぜバターなのかというと
「ちびくろさんぼ」という童話で虎が木のまわりを
黒と黄色の縞が混ざり合ってまるでバター色に見えるくらいに速くグルグル回って
しまいには本当にバターになっちゃったという寓話のパロディ

505 :風の谷の名無しさん@実況は実況板で:2013/08/06(火) 16:06:05.49 ID:pw5VvU3i0
ジャージ処分できたならポスターも処分できたんじゃ

506 :風の谷の名無しさん@実況は実況板で:2013/08/06(火) 16:07:15.72 ID:nrgZcsZn0
>>496
上で書いたが、原作ファンには悪いけど、アニメとして面白かったところは結構あるよ
学級裁判開始のグルグル回るシーンとかコトダマ装填とか
「あ、これゲーム演出なんだろうな」とワクワクしたし

まあお前さんとはアニメの趣味が合わないんだろうからとっとと切って原作愛しててくれ

>>500
それと趣味が合わないついでに俺はアンソロジーコミックが大嫌いなので
アンソロジー読む奴にしたり顔でアニメ貶されてもとしか感じない

508 :風の谷の名無しさん@実況は実況板で:2013/08/06(火) 16:09:21.76 ID:HWu7jZQQ0
>学級裁判開始のグルグル回るシーンとかコトダマ装填とか
これゲームより劣化してるんだよな

というか裁判の演出は基本的に全部劣化してるからな

509 :風の谷の名無しさん@実況は実況板で:2013/08/06(火) 16:09:41.29 ID:lqCcro3O0
スパイク側はオリジナル展開も考えたけど元のストーリーありきのものにしかならないから原作通りにした
とコメントしてる

510 :風の谷の名無しさん@実況は実況板で:2013/08/06(火) 16:12:35.58 ID:VHtehorM0
グルグル回るのはまだしもアナグラムとコトダマ×3はバッサリカットして他の描写不足のとこに回したほうがよかった

511 :風の谷の名無しさん@実況は実況板で:2013/08/06(火) 16:12:37.86 ID:HWu7jZQQ0
>>509
あれ、全然違うんだけど
http://animeanime.jp/article/2013/07/03/14659_2.html

512 :風の谷の名無しさん@実況は実況板で:2013/08/06(火) 16:23:22.46 ID:m4t54TxV0
>>506
原作やってない者からすれば意味不明な演出
正直無くてもいい

513 :風の谷の名無しさん@実況は実況板で:2013/08/06(火) 16:24:09.00 ID:Ql zpuR4P
バターといえば露天のじゃがバターってマーガリンなんだってな、だまされたお

514 :風の谷の名無しさん@実況は実況板で:2013/08/06(火) 16:25:16.67 ID:T3jpf4No0
コトダマって言弾はないのに何をリロードしてるのあの演出

―― 今回のアニメ化で、原作のスパイク・チュンソフトさんからの注文は?

―― 岸 
何にもないです(笑)。むしろ最初に会ったときに「アニメ用にドンドン変えてください」的な事を言われて、私が「嫌です」と言いました(笑)。
「原作スタッフもワクワクするような新しい『ダンガンロンパ』を見てみたいんです」
「いやいや、根本的な部分は絶対変えませんから」変わったやり取りが有りましたね。

―― 上江洲
もし新しく作るんだったら、僕は小高さん(※原作ゲーム『ダンガンロンパ』の企画・シナリオを担当した小高和剛氏)の書く新作が見たいんですよね。僕の出る幕じゃない。

―― 岸 
ただ「そのままやろう」と言いつつも、当然それを映像化するにはそのまま放り込んで成立はしない。だからゲームで遊んだときの印象を引っ張ってくるという方法論ですよね。
『ダンガンロンパ』では学級裁判なんて最たるものですね。とりあえず最近のアニメでは見たことない仕上がりになってると思います。本当に学級裁判のパートをアニメにするのは大変でした。だいたいゲームで操作するパートって、アニメで表現するのは大変なんですけどね。

―― 上江洲
ゲームをプレイしているときは自分で操作しているからこそ楽しい部分も多いのですが、アニメだとオートゲームみたいな状態なので、例えばそのまま捜査パートをやっても面白くならない。
かと言ってそこに原作にないエピソードを差し込むのはNGしたから、シリーズ構成をするにあたって難しかったのはそこですね。
どこもかしこもできるだけ再現したい。とはいえ、原作のテキストデータと比較したら、10分の1ぐらいの量にしなければならない。でも、『ダンガンロンパ』の恐ろしいところはテキストが全部面白くて、カットできる箇所もない。

腐川とジェノの通信簿埋めてないんだが
何故殺人鬼の裏人格が生まれてしまったのかって話はあるの?

451 :枯れた名無しの水平思考:2013/08/06(火) 15:53:04.66 ID:3nKJZ3lq0
>>450 あるよ

452 :枯れた名無しの水平思考:2013/08/06(火) 16:07:34.77 ID:82eZyrcU0
>>439
結構いい感じじゃないか
カップ麺付きは無かった?

453 :枯れた名無しの水平思考:2013/08/06(火) 16:11:06.70 ID:ZhsNZNZB0
>>411
見つかったあああやっとすっきりしたよサンクス

454 :枯れた名無しの水平思考:2013/08/06(火) 16:19:35.30 ID:NitjvIIcP
弐大はEP4で仲間たちが次々と日向たちから離れていき恐ろしい孤独感に苛まれる中
「さあ、行こうか!」とパートナーになってくれた、あの安心感を俺は忘れない

「仕方ないな。
 …ビール飲み放題も付けること」

「よぉっしゃぁっ!!」

原田が喜びの声を上げた。
酒が入ったのでより一層やる気が出たのだろう。

「決まりだ、よし、アンタから言ってくれ、遠藤さん」

天方に促され、遠藤は資料を捲った。
男女1人ずつということで、単純にそれぞれの能力だけ見るわけにはいかない。
優勝候補者と一緒にいるパートナーも生き残る可能性はある。

「…常陸音哉と高井愛美…かな」

「あぁ、高井さん…彼女良い性格してますよね」

岸田がくつくつと笑った。
確かに、生徒たちの首に巻きつけてある首輪に付けられた盗聴器による記録によれば、音哉も愛美もそれぞれ言葉の端々に毒があり、聞いていて飽きない(これは岸田が言っていた、真面目に仕事をしろ、仕事を)。

「じゃ、俺は山神弘也と鶴田香苗にしとくか。
 やる気マンマンだからな、2人共。
 総司、お前は誰に賭ける?」

「あ、天方さんったらずるい!!
 じゃあ私は…須藤大和君と玖珂喬子さんに。
 あの2人の記録聞いてると、恥ずかしくて恥ずかしくて…」

「お前ねぇ…」

遠藤は溜息を吐いた。
盗聴器が付けられているのは、会話を聞いて楽しむためではない。
1番の理由は、万が一不穏な動きをする者がいた場合、それを口に出してもらえばすぐに本部に作戦が筒抜けになるからだ。
作戦を聞いてしまえば、いくらでも対処の仕方がある。岸田は単に楽しむことにしか使っていないようだが。もちろん、盗聴器の存在は生徒たちには伝えられていない。中には可能性として盗聴器の存在を考える生徒もいるようだが。

「原田さんは?」

岸田に聞かれ、原田は無精髭の生えた顎をさすった。しかし、名前が出てこないのか、遠藤に生徒資料を借りた。しばらくそれを捲っていたが、その手が止まった。

「俺ね、このコ、高谷貴瑛ちゃん。野郎は…今誰かと一緒にいんの?」
「確か、西谷克樹君と一緒ですよ」
「何、マジで!?よっしゃ、有力株じゃねぇの、じゃあ貴瑛ちゃんと西谷克樹!!」

原田の意見に、天方が眉間にしわを寄せた。

「高谷って…何で?他にも大谷とか野原とか村主とか…有力なのいるだろ?」

原田は片目を瞑り、舌打ちをしながら人差し指を横に振った。ごつい男のウインクは、見ていても気味悪さしか感じない。

「だーって死んでほしくないし。教室出る時、あの子に道教えてあげたんよ。そしたらお辞儀してくれちゃって、なんか嬉しかったからさ!」

天方が鼻で笑った。こういうことにあまり関心を持たないのは、昔から変わらない。また、人情派の原田も、高校時代に出会ってから変わらない。軍人になっても代わらない友人たちに、遠藤は苦笑した。

「で、ぱっつぁんはどうなのよ?」

原田は横にいた永倉に訊いた。

「…そうだな。滝井良悟…彼の目は良かった、戦う者の目だ。女子は…卜部かりんだな、彼女の目も戦う者の目だ」
「何だそりゃ」

原田が笑った。それにむっとした永倉が、“戦う者の目”がいかなるものかということを力説し始めた。最初は聞いていた遠藤だが、その行き過ぎる熱意に呆れ、仕事に戻った。天方と岸田も、それぞれの持ち場に戻る。確かに、このクラスには有力候補が大勢いる。永倉の言う“戦う者の目”を持つ者も多い。彼らの戦いはどのようなものになるのか。…ククッ、楽しみだな……遠藤は生徒たちの首輪の発信機により現在位置を表示している画面を見た。その中に、接近しつつある2つの反応を見つける。そこに表示された出席番号と、手元にある資料を照らし合わせた。

友情なんて脆いモノ。
ほんのささいなきっかけから、ひびがいく。
ひび割れたモノは、直らない。
それはガラスのごとく。
女の仲間割れは醜いモノ。
昨日の友は今日の敵。
あっという間に裏切るのだ。
その仕打ちは、いやらしくて、きたなくて、陰湿で。
相手の痛みなんて、考えもしない。

だから、わたしは誰も信じない。
裏切られた痛みを、辛さを、悔しさを、知っているから。

そして、わたしは赦さない。
あの日の出来事に、第三者なんていないのだから――

 

 

遠藤勇(担当教官)が目を止めたエリアは、地図上のF=10エリアにあたる。
このエリアは、細長い建物である1号棟及びその周りが含まれている。

遠藤の注目株の片方――村主環(女子12番)は1号棟の1階ロビーにいた。
不良グループに属する環は、“優勝候補の一角”である。
もちろん、そんなことは本人の知るところではないが。

環は派手な少女だ。
眩しいほどの金髪は肩に当たる程度に伸ばし、広めのブラウスの胸元からはシルバーに輝くシンプルなチェーン型ネックレスが覗いている。
短めに切り詰めたスカートから覗く足は白く、その見た目は大東亜の人間ではないようにも見えるが、北王子馨(男子5番)とは違い、環は純大東亜人の血を引いている。

そして、細く整えられた眉に、吊り上がった瞳、すっと通った鼻筋と真一文字に結ばれた薄い唇は、ほとんど動かされることがない。
発する機会は少ないが、その声は凛としている。
全体的に大人びた空気をかもし出す環は、15歳には見えない。

そんな環の横には、金属バットが置かれている。
大人びた少女と安っぽいスポーツ用品は、まるで合わない。
しかし、これが環に支給された武器だった。
握りすぎで手に豆ができるのを嫌い、今は置いているだけだが、いざという時にはそれで応戦しなければならない。
その用途は、当然相手を殴打するということになるのだろうが、そのことに関しては環はほとんど抵抗を感じていない。

理由は簡単。
この状況下、誰一人として信じていないからだ。

普段からあまり人と親交を深めていない。
それは同じグループである玖珂喬子(女子9番)や野原惇子(女子16番)ですら例外ではない。
相手がどんなに近づいてこようとも、環は一線引いてきた。

プログラムにおいては、尚更だ。
命の奪い合いの状況で人を信じるというのは、愚かだ。
特に女子は、全員が敵だ。
誰一人信じてはいけない。
信じたら負けだ。
信じたら、裏切られ、寝首を掻かれるのがオチだ。

環が人と深い交友をすることができなくなったことには、理由があった。
それは、小学6年生の頃まで遡らなければならない。

環は昔から表情の少ない少女だったわけではない。
親友と呼べる人もいたし、喜怒哀楽もはっきりと表れていた。
この頃から多少大人びてはいたが、髪も黒く、どこから見ても普通の小学6年生だった。

きっかけは、些細なものだった。

親友のうちの1人、“愛子ちゃん”と、ちょっとした意見の食い違いだった。
それも、「クラス対抗バレーボール大会の朝練の待ち合わせ時間は7時? それとも7時5分?」という、傍から見ればくだらないものだった。
7時5分に待ち合わせ場所に行った環は、愛子ちゃんの機嫌を損ねた。

『環ちゃん遅いよ、7時待ち合わせって言ったじゃん!!』

そう怒鳴った愛子ちゃんは、怒って先に学校へ行ってしまった。
環は7時5分が待ち合わせの時間だと思っていたし、事実、前日に約束をしたときには7時5分だった。

だが、本当の時間なんて関係なかった。
愛子ちゃんとの関係は、完全に壊れた。

最初はお互い無視し合っていた。
それだけなら些細な喧嘩だし、周りが「早く仲直りしなよ」と間を取り持ってくれて、気が付けば仲直りする――それで終わりだった。

ところが、愛子ちゃんは周りを味方につけた。
以前からあまり良好な関係ではなかったグループを味方につけ、そこからクラスの女子全員に広まり、集団で環を無視し始めた。

逢坂珠尚「おっじゃまっしまぁすv」

高谷貴瑛「いつ見てもすごいおうち…きゃっ!!」

西谷克樹「…きょろきょろするな」

潤井正純「わっ、西谷サンが喋った、しかも高谷さんを助けた!!」

鳳紫乃「まぁ、抱きとめて助けるなんて…素敵ね」

玖珂喬子「きゃあ、西谷くんかっこいいっ!」

山神弘也「あらら、彼氏持ちペアが西谷を絶賛?」

野原惇子「それにしても、茶菓子も出ないのかい、この家は」

佐倉信祐「そうですよねぇ、姐さん!」

常陸音哉「俺、コーヒーの方がいいんだけど…」

須藤大和「テメェら、人ん家に勝手に上がりこんでその言い草は何だぁっ!!」

北王子馨「あっはっはっは」

 

 

音哉「さて、2回目の座談会、場所はお馴染み、大和の家でお送りします」

大和「お馴染みじゃねぇっ!!」

馨「でも結局お馴染みになると思うよー」

惇子「北王子の意見に賛成!」

弘也「あっちゃんの意見に賛成!」

信祐「山神サンの意見に賛成!」

弘也「男に賛成されても嬉しくないしー」

信祐「わっ、すんません!!」

大和「そこ、黙れ!!」

紫乃「あら、でもここはとても落ち着くわ」

喬子「でしょ? あたしも大和くんの家、落ち着くから好きなのv」

大和「…ちっ、しゃーねぇな」

正純「わ、玖珂さんの一言で…」

珠尚「ばっかみたぁい」

貴瑛「あ、ちょ、ちょっと珠尚ちゃん、そんな正直に――あ」

克樹「落ち着け」

音哉「ほらほら大和、とっととお茶菓子出しなよ」

惇子「つーか腹減った、大和、何か作れ!」

大和「バカかテメェ、誰が――」

喬子「大和くん、あたし、ホットケーキが食べたいなぁv」

大和「…ちょっと待ってろ」

キッチンへ行く大和。

A=04エリアの北の端にある茂みの中に大谷純佳(女子5番)はいた。
横には野原惇子(女子16番)が、その大きな体を横たわせている。
純佳は、鶴田香苗(女子15番)に襲われ、逃げていたところを惇子に助けられ、その後ずっと行動を共にしている。
とはいうものの、香苗に襲われたショックが大きすぎてしばらく動くことができなかったので、それほど移動はしていない。

純佳が泣いていた間も、憔悴しきって横になっていた間も、惇子は無言で側についていてくれた。
今は少し疲れたということで、横になっている。

山城このみ(女子20番)が殺害されてから5時間ほど経っているが、その映像は鮮明に脳に焼きつき、離れない。
それは何度も純佳の胃を刺激し、その度に嘔吐しそうになった。
惇子にこれ以上の迷惑をかけたくないので、なんとか堪えたが。

…香苗……
アンタは一体、何を考えてんだ…

このみは、最も憧れ、最も信頼していたであろう香苗に殺害された。
山神弘也(男子17番)のことが好きだ、たったそれだけの理由で。
それも一瞬で。
眉1つ動かさずにやってのけた。
普通の神経の持ち主ではできない芸当だ。
しかし、香苗はそれをやった。

思えば、普段から奇妙な女だった。
出会ったときには既に、普通の女ではなかった。

ねぇあなた、あたしと一緒に、稼がない?

出会ったその日に言われた言葉だ。
今でも鮮明に覚えている。
天使のような微笑を浮かべ、そう誘ってきた。
それが援助交際だとは、すぐにはわからなかった。
当然だ、誰が出会ったばかりのクラスメイトを、援助交際に誘うだろうか。

純佳やこのみは、せいぜい一緒に遊んで小遣いを貰う程度にしかしなかった。
しかし、香苗は違った。
途中で別れ、自分の父親と年の変わらないような中年男と、夜の繁華街へ消えていったことは何度もある。
少しも嫌な顔をせず、あの笑顔を浮かべて。

そんな香苗が、弘也のことを好きだとは。
あまりにも意外な事実だった。
好きな人がいるのに、援助交際を続けていたのか。
それも、恐らく、自分たちがやったことよりも相当犯罪に近いことまで。

アンタさ、もっと自分を大事にすべきだよ?

いつだったか、香苗に言ったことがある。
これでも友人だ、自分のことを何とも思っていないような所業に、純佳は純佳なりに心配していた。
それは見事にはぐらかされてしまったが。

…香苗……

 

ぶつっ

 

やや歪んだ、スイッチを入れるような音が聞こえた。
腕時計に目をやると、デジタルの画面には0の文字が3つ並んでいた。
昼0時の定時放送の時間だ。

「…野原」

「わかってるよ」

純佳が呼びかける前に目を覚ましていたのだろう、惇子はすぐに起き上がり、小さく欠伸をした後、支給されたスポーツバッグから名簿と地図とペンの入ったビニルケースを引っ張り出した。

『諸君、よく戦ってくれているな。
 定時放送の時間だ。
 各自、名簿と地図を出すように』

純佳は眉間にしわを寄せた。

「…“よく戦ってくれている”…か」

「だろうね、銃声とか聞こえたし」

惇子は溜息を吐いた。惇子の言う銃声は、確か10時半前に聞こえたものだ。他にも何度か聞こえたが、これが1番大きく聞こえたので、近かったのだろう。

『まずは戦死者だ。午前6時50分、女子20番・山城このみ。午前9時2分、男子12番・津村翔平。午前10時19分、男子19番・四方健太郎。午前11時17分、男子9番・十河勇人。午前11時18分、女子17番・畠山和華。以上の5名だ』

このみ…

目の前で見たのでわかっているのに、改めて名前を呼ばれると、胸が締め付けられたように痛む。
ほんわかとした笑顔が脳裏によぎる。
とても気の利く良い子だった。

「…四方か、あれ」

惇子は名前に赤線を入れていきながら呟いた。
放送は嘘を流しているわけではないと思うので、最も近くで聞こえた銃声による犠牲者は四方健太郎で、恐らくこの近くに亡骸が転がっているだろう。
健太郎といえば、普段から自分の頭の良さを鼻にかけ、あまり頭の良くない純佳は健太郎にとっては侮蔑の対象であったと思うので、悪いがそこまで心が痛むということはない。
というよりも、このみのことが別格なのかもしれない。

気に掛かったのは、勇人と和華。
退場した時間は僅かに1分の差しかない。
一緒にいたのだろうか。
2人が一緒にいるということが想像しがたいが、純佳が惇子といることだって、周りから見れば想像しがたいことなので、可能性がないわけではない。
もちろん、これは純佳の思い違いだが、わかるはずもない。

『次に、禁止エリアだ。
 1時からA=04、3時からG=10、5時からJ=07、以上だ。
 また6時間後に放送を流す。
 諸君らの健闘を祈る』

無愛想な放送が切れた。

「…野原、ここ、1時間後だね」

「だね、移動しなきゃだねぇ」

純佳は荷物を片付け始めた。
地図は一応出しておくことにした。
エリアの境目は地面に描いてあるわけではないので、地図がなければ安心することはできない。

ふと惇子に目をやると、惇子はじっと名簿を見つめていた。

「…どうしたんだよ野原、浮かない顔してさ」

惇子は自分の名簿を純佳の目の前に出した。
純佳の視線は、自然と赤色で塗られた枠を彷徨う。
男子は散らばっているが、女子は名簿の下側だ。
女子17番の和華から20番のこのみまで、全員が既に死亡している。

「なんか嫌だわ、この名簿の並び。
 死へのカウントダウンっつーの?
 次、アタシ死ぬかもしんないよねぇ」

惇子は苦笑した。
そうか、16番は惇子なのだ。
17番から下が赤くなっている名簿。
そんな規則性など通用するはずがないのだが、妙な不安に駆られる。
張本人の惇子は尚更だろう。

どうも、水金です。

FATED CHILDREN ?、これにて完結となります。

ややこしいヤツら反政府組織が絡まなかったので、100話は行きませんでした。

でも95話ということで、プログラムとしては過去最長だったかと。

そして、ENDLESS NIGHTMARE ?改稿版と並行進行だったので、完結遅れました。

そういう意味でも、過去最長のお付き合いだったのかもしれません。

 

大学生になって福祉を学んでから始めて考えた作品でした。

児童福祉を専攻する身としましては、やっぱ虐待は切り離せないものでした。

学び始めに考えたものなので、いろいろ後悔はあったりするんですが、見逃してください。

ある意味今までで最も重い内容だったかなぁと思います。

家庭に関わる色んな問題を書いたからです。

 

身体的虐待を受け、親に無理矢理犯罪に加担させられた潤井正純。

生まれた直後に母を亡くし、父が逃亡した梶原匡充。

両親に捨てられ存在すらも否定された須藤大和。

育児不安からヒステリーに陥った母から傷つけられた西谷克樹。

DVに巻き込まれ、DVにより家族を亡くした山神弘也。

両親を亡くし親戚の荷物とされた逢坂珠尚。

生まれて間もなく両親に捨てられた加古美里。

両親の期待に潰され、家族から不必要とされた玖珂喬子。

親戚をたらい回しにされ弄ばれ、性的非行へと走った鶴田香苗。

アルコール中毒の父親からの暴力に怯えてきた野原惇子。

 

列挙すると、かなり書いたんだなぁと改めて思いました。

福祉における虐待4つって、身体的・心理的・性的・ネグレクト(育児放棄)なんですよ。

全部いるし。

どれもこれも、似たようなことはどこかで誰かがやってる・やられていることなんですよね。


女子2番・有馬怜江(ありま・さとえ)

卓球部。女子運動部グループ。
臆病で、1人でいることを嫌う。
特に志摩早智子(女子11番)になついている。

身長/146cm
愛称/怜江、怜江ちゃん

能力値

知力:

体力:

精神力:

敏捷性:

攻撃性:

決断力:

★★★★☆

★★★☆☆

★☆☆☆☆

★★★☆☆

★☆☆☆☆

★☆☆☆☆
 


支給武器:USSR マカロフ
kill:なし
killed:出雲淑仁(男子1番)
凶器:ワルサーPPK
 

早智子に近づく人に殺意を抱く。

E=09エリアに潜伏していたが、出雲淑仁(男子1番)に発見される。早智子を探すために手を組むが、内心殺意を抱いている。

D=04エリアで早智子・北王子馨(男子5番)に会う。発砲。2人に説得されていたが、その後ろから淑仁に撃たれ、胸部に被弾し死亡。

 

中盤戦ラストを締める出来事の引き金となった怜江ちゃんでした。
ルール上2人が残るのは不可能だけど、そんなことは関係なく、ただ親友の側にいたかったという望みの結果が、こんなことに。書きにくい子でした。


女子11番・志摩早智子(しま・さちこ)

卓球部。女子運動部グループ。
真面目な性格の優等生だが、冗談も通じる柔軟性がある。
優しい性格も手伝って、異性からの人気が高い。

身長/156cm
愛称/早智子、早智子ちゃん、サチ、サッちゃん

能力値

知力:

体力:

精神力:

敏捷性:

攻撃性:

決断力:

★★★★★

★★★★☆

★★★★★

★★★★★

★★☆☆☆

★★★★☆

支給武器:S&W M19
kill:なし
killed:出雲淑仁(男子1番)
凶器:ワルサーPPK
 

B=06エリアで滝井良悟(男子10番)に襲われていた北王子馨(男子5番)を救出。

馨の過去を知り、驚く。村主環(女子12番)に襲われるが、見逃される。環の狙いを知り、狙われそうな人を探しに行く。

嫌な予感がする。D=04エリアで、耐え切れずに馨に告白する。いい雰囲気になったところで、出雲淑仁(男子1番)、有馬怜江(女子2番)と会う。再会を喜んだのも束の間、怜江が発砲。淑仁が怜江を殺害したことに怒る。淑仁が続けて殺害しようとした馨を庇い、被弾。失血死。

 

メガネっ娘、サッちゃんでした。
思っていたよりも行動派な子になってました、馨のためなら銃を人に向け続けましたからね・・・(汗) 好きな子でした。


女子13番・高井愛美(たかい・まなみ)

陸上部。明進塾組。
何でもそつなくこなす文武両道の優等生。
さっぱりした性格。

身長/164cm
愛称/愛美、愛美ちゃん
特記/常陸音哉(男子14番)とは恋仲

能力値

知力:

体力:

精神力:

敏捷性:

攻撃性:

決断力:

★★★★★

★★★★★

★★★★☆

★★★★★

★★☆☆☆

★★★★☆
 


支給武器:シグ・ザウエルP230
kill:なし
killed:鳳紫乃(女子6番)
凶器:ミニウージー
 

音哉と行動を共にする。音哉が何を考えているのかわからず、本性を見せるよう要求。腹の探り合いを続けながら、共に行動する事に。

A=03エリアで須藤大和(男子7番)・玖珂喬子(女子9番)を襲う伊賀紗和子(女子3番)を止める。和解を見届け、大和・喬子と別れる。

A=05エリアに潜伏。四方健太郎(男子19番)が訪れるが、健太郎は狂っていた。音哉が殺害するのを目撃する。

健太郎を殺害したことでショックを受けていた音哉を励ます。A=07エリアで鳳紫乃(女子6番)と会うが、戦闘回避。

A=07エリアで休息。滝井良悟(男子10番)と対峙。しかし、後から現れた山神弘也(男子17番)が良悟を殺害。音哉も殺害されそうになるが、盾となりそれを阻止。

F=04エリアで逢坂珠尚(女子1番)の襲撃を受ける。負傷した紗和子を背負い、音哉に伝言を残して戦線離脱。後に再び珠尚の襲撃を受けるが、紗和子の体を張った行動のために脱出に成功する。

D=06エリアで喬子と再会、大和が襲われていることを知る。

D=10エリアにて音哉・大和・喬子と潜伏。不戦協定を結んだ直後、甲斐駿一(男子3番)・紫乃に襲われる。飛び出した喬子に気を取られた音哉が狙われ、それを庇い重傷。危機を喬子に救われる。その後音哉と共に逃げるが、背後から紫乃に撃たれ、その傷が元で失血死。

 

音哉と共に性格が変わった愛美でした。書いてて楽しかったです。
本当によく動いてくれた子でした。音哉の幸せ者め。
音哉に口喧嘩で勝てるとしたら、この子以外にはいないでしょうね。

吉住徳馬(M18) 伊賀紗和子(F3) 持留奏太(M16) 四方健太郎(M19) 梶原匡充(M4) 逢坂珠尚(F1)
高谷貴瑛(F14) 玖珂喬子(F9) 甲斐駿一(M3) 河本李花子(F10) 高井愛美(F13) 十河勇人(M9)
須藤大和(M7) 常陸音哉(M14) 隅谷雪彰(M8) 湧井慶樹(M20) 山城このみ(F20) 水上朱里(F18)
佐倉信祐(M6) 卜部かりん(F4) 大谷純佳(F5) 出雲淑仁(M1) 畠山和華(F17) 滝井良悟(M10)
野原惇子(F16) 村主環(F12) 薮内桃子(F19) 加古美里(F7) 志摩早智子(F11) 北王子馨(M5)
山神弘也(M17) 鶴田香苗(F15) 津村翔平(M12) 潤井正純(M2) 有馬怜江(F2) 西谷克樹(M13)
藤野勝則(M15) 柏原茉沙美(F8) 鳳紫乃(F6) 多田尚明(M11)

時間は玖珂喬子(女子9番)が出発した頃まで遡る。
 

7番目に教室を出たのは北王子馨(男子5番)。
栗色の髪が夜風に靡いている。
青い瞳は不安に揺れている。

 

馨は、大東亜人とフランス人のハーフだ。
そもそも、半鎖国状態である大東亜にかねてから関心を持って旅行に来たというフランス人の母が、街中で道に迷っていたところ、偶然通りかかった父に助けられ、それが出会いだったという。
互いに一目惚れをし、母がややこしい手続きを済ませて大東亜国籍を得た。
大東亜語を必死で勉強し、今ではとても流暢に話すことができる。

馨はそんな両親の間に生まれた。
母の血を非常に濃く受け継いだ為、白い肌に鼻筋の通った顔、時に色気すら感じてしまうような口許のほくろ、青みを帯びた優しげな瞳、繊細な栗色の髪――大東亜人離れしたその容姿は、どこでも注目を浴びた。
“美しい”という形容詞がとても似合う少年だ。

小さい頃は、違いを原因に苛められる事もあった。
しかし、それすらも気にしていないような柔らかな物腰と、争いを好まない温和な性格、そして、類稀なる美しい容姿から、次第に人気者へとなっていった。

さらに、幼い頃から趣味でやっていたテニスの腕は非凡なものがあり、一度ラケットを手にすると、コート内を華麗に舞った。
中学に入ってペアを組むようになった滝井良悟(男子10番)が超攻撃的なテニスをするのに比べ、馨は守って守ってのカウンター型、2人のプレイスタイルは正反対だが、それがパズルのようにしっくりと合い、学校を代表するプレイヤーとなった。
それが更に人気に拍車をかけた事は言うまでもない。

それでいて、どこかぽーっとしていて、時に突拍子もない事を言う。
そんなところも人に気に入られるのだろう。

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