~大型スーパーマーケット~
自動ドアが開く。
ガーッ!
男「…………」
店長「いらっしゃいませー!」
店員「いらっしゃいませー!」
男「…………」スタスタ…
店長「また来たな……」
店員「一週間ぶりですね……」
~エスカレーター~
男「…………」
ゴウンゴウン……
エスカレーターとは、人間を上の階や下の階に運ぶ機械である。
階段と手すりが電力によって、絶えず上へ下へと流れている。
ゴウンゴウン……
乗って移動する以外の用途があるはずないのだが──
男は迷うことなく、エスカレーターの動く手すりに股間を押しつけた。
グイッ……
男「あああ~~~~~~~~~~っ!!!」
ゴウンゴウン……
男「あああ~~~~~~~~~~っ!!!」
ゴウンゴウン……
男「いいい~~~~~~~~~~っ!!!」
ゴウンゴウン……
男「ううう~~~~~~~~~~っ!!!」
ゴウンゴウン……
男「えええ~~~~~~~~~~っ!!!」
ゴウンゴウン……
男「おおお~~~~~~~~~~っ!!!」
ゴウンゴウン……
ゴウンゴウン……
男「はうう~~~~~~~~~~っ!!!」
男「たまらぬっ!」
男「たまりませぬっ!」
男「ゴム製手すりの弾力ある硬度が、股間にゴリゴリとした感触を与えてくれるっ!」
男「まるで股間で砂肝を噛んでいるかのようだっ!」
男「ウレタン製じゃ、この絶妙な感覚は味わえませんっ!」
男「ほおわ~~~~~~~~~~っ!!!」
ゴウンゴウン……
ゴウンゴウン……
男「いいい~~~~~~~~~~んっ!!!」
男「さらに特筆すべきはこの微振動!」
男「微振動が、常に股間に新鮮なショックを与え、飽きさせない!」
男「ゴリゴリとブルブル!」
男「略してゴリブル!」
男「このゴリブルが、我が股間に最適かつ究極の刺激を与えているのだ!」
男「わおお~~~~~~~~~~んっ!!!」
ゴウンゴウン……
ゴウンゴウン……
ガタンッ
男「エスカレーターに人が乗った!」
男「人が乗ったことによって生じる、超微妙な手すりの震動と角度の変化!」
男「これがまた楽しい!」
男「新しいゴリブルが、我が股間にやってくるわけですな、コレ!」
男「あうう~~~~~~~~~~んっ!!!」
男「あ、あ、あ、あ、あ~~~~~~~~~~~っ!!!」
男「お、お、お、お、お~~~~~~~~~~~っ!!!」
ゴウンゴウン……
男「あひぃ~~~~~~~~~~んっ!!!」
男「もっと、もっと、もっとぉ~~~~~~~~~~~っ!!!」
ゴウンゴウン……
幼女「ママ~、あれなにしてるの?」
母「シッ、見ちゃいけません!」
子供「ボクもやってい~い?」
母「ダメに決まってるでしょ!」バシッ
子供「びえぇぇぇ~~~~~~~~~~んっ!!!」
女子高生「なにあれ? ヘンタイ?」
主婦「こわいわねぇ~」
老人「ワシも若い頃はよくやったもんじゃ」
サラリーマン「おそらく暑さで頭が……」
中学生「ハハハ、すげーな」
ゴウンゴウン……
男「他人に見られてる、注目されている、という感覚が」
男「さらなるエクスタシーをもたらす!」
男「我、新たなる扉を開けり!」
男「おうぅ~~~~~~~~~~んっ!!!」
店員「店長、いつもいつも思うんですけど……」
店員「止めなくていいんですか?」
店員「お客さん、みんな不気味がってますよ」
店員「ごくわずかに楽しんでる人や共感してる人もいるみたいですけど」
店長「他のお客さんとトラブルにならない限り、彼のことは放っておくんだ」
店長「詳しいことは分からんが、それが上からの命令でね」
店員「はぁ……」
ゴウンゴウン……
男「あひゅぅ~~~~~~~~~~んっ!!!」
ゴウンゴウン……
男「もっと、もっと、もっとぉぉぉぉぉ~~~~~~~~~~っ!!!」
ゴウンゴウン……
男「ゴリブルきた! すっごいゴリブルきた!」
ゴウンゴウン……
男「あおおおお~~~~~~~~~~っ!!!」
ゴウンゴウン……
一時間後──
男「ふぅ……」
男「さて、今日のところはこれまでだ」
男「帰るとしよう」スタスタ…
店員「あ、やっと帰っていきますね」
店長「ああ、ジャスト一時間。いつもどおりだな」
店員「……それにしても、あの男はいったい何者なんでしょうか?」
店長「さあな……」
店長「ただのヘンタイ……というだけではないのはたしかだろう」
~自宅~
男(今日も最高に気持ちよかった……)
男(しかし)
男(どんなに刺激的でも、どんなに変化があっても)
男(こう何度も繰り返せば──)
男(次第にゴリブルがどのようにやってくるか予測できるようになり)
男(飽きた……というわけではないが、慣れてきてしまった)
男(どうやらそろそろ、次のステージに進む時が来たようだな)
~最大手エスカレーター会社~
秘書「あの、社長」
秘書「社長にどうしても会いたいという方が来ておりまして」
社長「来客!? 私はなにも聞いていないぞ! すぐに追い返せ!」
秘書「ですが……その……」
社長「なんだ!?」
秘書「もうすでにそこまで……来ておりまして……」
社長「なにい!?」
男「はじめまして」
男「御社のエスカレーター技術をぜひお貸しいただきたいと思いまして」
男「お願いに参りました」
社長「なんだ、君は!?」
社長「悪いが、私は忙しいんだ! この後も予定が入っとる!」
社長「だいたいアポもなしに、いきなり社長である私に会おうなどと……」
社長「常識がないのか、常識が!」
男「ちなみにわたくし、こういうものです」スッ…
社長(名刺……?)
社長「!?」
社長「あ、あなたは……まさか……」ガタガタ…
秘書「どうしました、社長!?」
社長「石油、コンピュータ、軍需産業を支配する世界最大の大企業──」
社長「『ゴリブル・コーポレーション』の総帥でございますか!?」
男「ああ」
秘書「なんですってぇぇっ!?」
秘書「メディア露出が極端に少ないため、一般的知名度こそ低いものの──」
秘書「経済界においてはもっとも恐れられている人物である、あの方ですか!?」
社長「君、何をしている! すぐお茶をお出ししたまえ!」
社長「もちろん最高級のだぞ!?」
秘書「は、はいっ!」
男「いや、おかまいなく」
社長「ところで、今日はいったいどのようなご用件で……?」
男「エスカレーター業界最大手である、御社の力を貸して欲しい」
男「金はいくらでも出す」
男「股間をこすりつけるのに最適な、究極のエスカレーターを開発して欲しい」
社長「は……?」
社長「あの……もう一度おっしゃっていただけますか?」
男「股間をこすりつけるのに最適な、究極のエスカレーターを開発して欲しい」
社長(やっぱり聞き間違いじゃなかった!)
社長「えぇ~と、なぜ、でしょうか……?」
男「私はエスカレーターの手すりに、股間をこすりつけるのが趣味なんだ」
社長「!?」ギョッ
男「変か?」
社長「あ、いや、全然! 全然変じゃないっす!」
社長「私ももう、何度やったことか……ハハ。たまんないですよね!」
男「だろう?」ニッ
男「しかし、既存のエスカレーターには徐々に慣れ始めてしまってな」
男「だったら、自分で股間こすりつけ用エスカレーターを作ろうと思い立ったのだ!」
社長「なるほどぉ~~~~~!」
社長(なにひとつ理解できん!)
男「しかし、我が社よりは御社の方がエスカレーター開発には一日の長がある」
男「だから、力を貸して欲しいのだ!」
男「頼むっ! 金ならいくらでも出すっ!」
男「もちろん、開発には全面協力する! というか、させて下さい!」
男「どうか……頼むっ!」
社長「…………」
社長「分かりました」
社長「引き受けましょう!」
男「ありがとう!」
社長(ライオンの頼みを断れるウサギなど、いるはずがない)
~技術開発センター~
所長「私が技術開発センターの所長です」
所長「よろしくお願いします」
男「こちらこそ、よろしく」
所長「エスカレーター開発部隊のプライドにかけて」
所長「必ずやあなたを満足させるエスカレーターを作ってみせます!」
男「実に頼もしい言葉だ」
男「期待しているよ」
所長「まず手すりですが……ご希望通りゴム製でいきます」
所長「そしてあなたのナニのサイズを調べ、それにフィットした突起物をつけましょう」
男「おお、突起物! その発想はなかった!」
所長「もちろん、同じ突起物をいくつもつけるだけでは芸がありません」
所長「絵画の世界でいうグラデーションのように」
所長「さまざまなサイズ、形状、感触の突起物をつけましょう」
所長「そうすれば、あなたのおっしゃられる『ゴリブル』は──」
所長「あなたすら未体験の領域へと進化することでしょう」
男「素晴らしい!」
男「想像するだけで股間がうずいてきた!」ウズウズ…
所長「あと留意すべきは、エスカレーターの速度と震動ですが──」
所長「これらはモニターを雇って、調整するしかないでしょうね」
所長「そうすれば、いずれ理想の速度と震動にたどり着き──」
男「あ、あのっ!」
所長「はい?」
男「モニターは、ぜひこの私にやらせて下さいっ!」
男「お願いいたします!」
男「この通りです!」ガバッ
所長「分かりました……土下座までされては仕方ありませんね」
こうして、本来の用途である『人間の輸送』ではなく、
『押しつけられた股間に快感を与えること』を目的とした
究極のエスカレーターの開発がスタートした。
はたしてこの研究はエスカレーター業界に、何をもたらすのだろうか?
それは誰にも分からない。
ゴウンゴウン……
男「あおお~~~~~~~~~~っ!」
所長「あおお、では分かりません。ちゃんと感想をおっしゃって下さい」
ゴウンゴウン……
男「ちょっとデコボコがキツすぎる……タマが押し潰されそうになった!」
所長「なるほど」カリカリ…
ゴウンゴウン……
ゴウンゴウン……
所長「速度はどうですか?」
男「おっふ、私は遅漏です!」
ゴウンゴウン……
所長「そうではありません。エスカレーターの速度です」
男「あ……もうちょっと速い方が好みでぇーっす!」
ゴウンゴウン……
ゴウンゴウン……
所長「さまざまな大きさで震動をかけていますが、いかがです?」
男「あうあぁ~~~~~~~~~~~っ!!!」
ゴウンゴウン……
男「あ、今! 今の震動がベストでございまぁ~~~~~っする!」
所長「では、震動の大きさはこれで決定ですね」
ゴウンゴウン……
そして、ついに『究極のエスカレーター』は完成した!
所長「お待たせいたしました」
所長「あなたの好みに、エスカレーター技術者としての私のエッセンスを加え──」
所長「ついに完成いたしました」
所長「このエスカレーターこそが、あなたに究極の快感を与えるエスカレーターです!」
所長「ご覧下さい!」グイッ
バサァッ!
男「おおっ! これは素晴らしい!」ビクビクッ
所長「ではもう待ちきれないというご様子ですので」
所長「さっそく試運転及び“試こすり”を行いましょう」
所長「もちろん、“試こすり”はあなたにやっていただきます」
男「ありがとう!」
所長「では、位置について下さい」
男「ああ」スッ…
所長「それでは……スイッチオン!」
部下「はい!」パチッ
ゴウンゴウン……
男「!?」ビクビクッ
男「…………」
男「うえぇぇ~~~~~~~~~~いっ!!!」
ゴウンゴウン……
男「はばぁ~~~~~~~~~~っ!!!」
ゴウンゴウン……
男「どっしぇ~~~~~~~~~~っ!!!」
ゴウンゴウン……
男「ふぁい、ふぁい、ふぁい、ふぁいぃっ!!!」
ゴウンゴウン……
男「えくぼぉ~~~~~~~~~~~っ!!!」
ゴウンゴウン……
ゴウンゴウン……
男「ヤバイ! ヤバイってこれ!」
男「速度、震動、突起物があいまって──」
男「快感がどんどんどんどんどんどんどんどん高まってくぅ!」
男「しかも、1、2、3、4……ってお上品に上がってくんじゃないの!」
男「1、2、4、8、16……って感じで上がってくぅぅぅぅぅ~~~~~!!!」
男「しかも、時折ある鋭い突起のチクリとした感触が」
男「私を一瞬我に返してくれて、それがさらに快感を高めるぅぅぅぅぅ!!!」
所長(そう、それが私が加えた“エッセンス”です)ニヤッ
男「あ~~~~~はぁ~~~~~……ぁ~~~~~んっ!!!」
ゴウンゴウン……
ゴウンゴウン……
男「ゴリブルも今までとは比べものにならんほどいい!」
男「よすぎぃぃ~~~~~~~~~~っ!!!」
男「あばばっ、あばばばばばばっ!」
男「どこまぁ~でも、どこまぁ~でも、果てしぃなぁ~いそらぁ~っ!!!」
男「しん、じて、いるかぁ~ぎりぃ~ゴリブルおわらないぃぃ~っ!!!」
男「うふぁ~~~~~んっ!!!」
男「あいぁ~~~~~んっ!!!」
男「うっ!?」ビクッ
男「おおおおおあああああっ!?」ビュルビュルビュルビュル
男「あんっ!!!!!」ビュクンッ
ゴウンゴウン……
ゴウンゴウン……
男(なんて長いエスカレーターだ……)
男(ずぅ~っとずぅ~っと、上まで続いてる)
男(もう地上が見えないくらい昇ったのに、まだ目的地が見えないや)
男(これが──)
男(これが究極のエスカレーターなんだろうな……)
男(どこまでも昇っていく……)
男(嗚呼……たまらなく幸福だ……)
ゴウンゴウン……
─
───
─────
部下「……亡くなられていますね」
所長「そうか……」
所長「それにしても、なんと幸せそうな死に顔だろうか」
所長「従来のエスカレーターの用途はいうまでもなく、人や物を運ぶことだが──」
所長「私はこのエスカレーターは何も運ばない、ただの快感製造装置だと思っていた」
所長「しかし、そうではなかった」
所長「この究極のエスカレーターは──」
所長「股間をこすりつけた人間を天国へと運んでくれるエスカレーターだったんだ……」
おわり
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