履歴書に並ぶ「公」の文字。
小学校から大学まで公立で、現在は都内某区役所に公務員として勤務している。
「こりゃあ、将来はお見合い結婚だ」
とは島根にいる実父の言。
お見合いどころか艶っぽい話とはまるで無縁のまま三十路の壁を越えてしまったけれど、いざ越えてしまえば開き直るしかなく、されど諦観することもできないままなんとなく日々を過ごしている。
「趣味は?」
と聞かれて
「探してるんですけどねぇ」
と返すことが予定調和になってしまったけれど、本当は一つだけ趣味と呼べるものがある。
本当の本当は趣味などという言葉で片付けたくはないのだけれど、自分への照れ隠しだ。
若林智香というアイドルがいる。
彼女を応援することだ。
つまり、アイドルオタクだ。
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「ワッキーさん、お待たせしました!お疲れさまです!」
その声で我に返り、やや自虐の混ざった自身のドキュメンタリーの再生を打ち切る。
「いえいえ、私もいま来たところですよ。マウントさんこそ、お疲れさまです」
彼は山川…もとい、マウントリバーPだ。
Pとはプロデューサーの意で、アイドルも自身のファンのことをそう呼ぶ。
私なら「若林智香担当のウイングワッキーP」となる。
彼は「藤原肇担当のマウントリバーP」だ。
彼と知り合ってから、9ヶ月と少々が経つ。
初めて彼を見たのは、秋葉原にある某テナントビル4階の346プロのオフィシャルショップ。
藤原肇コーナーの前で15分ばかり立ち尽くしている姿を見かねて、思わず声をかけた。
「肇ちゃんのクリアキーホルダー、オススメです……」
1万歩譲っても余計なお世話で、自分でもそれが分かっているからこそ更に余計なことを言った。
「ポスターも良いですよ……?夜桜小町バージョン」
「…じゃあ、両方」
人間というのはミスをリカバリーしようとするとどんどん空回りする生き物で、クルクルと回った私は支払いの終わった彼を喫茶店に誘った。
あの日はたしか日曜日で、街には薄く雪が積もっていた。
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