神琳「一筆の心」 (12)


神琳「それでは用事がありますので、わたくしはこれで失礼しますね。ごきげんよう皆さま」

雨嘉「え? う、うん。また後でね、神琳」


梨璃「あれ? 雨嘉さんは神琳さんと一緒に行かないんですか?」

ミリアム「お主を残してあやつ一人ほっつき歩くとは、珍しいこともあるもんじゃのう?」

雨嘉「えっと、わたしもさっき初めて用事があるって聞いたんだ。神琳、どこに行っちゃうんだろ……」

梨璃「きっとなにか悩み事があるに違いありません! どうしましょう、すぐに追いかけないと──」 ガシ

梅「ま、あいつもたまには一人になりたい時間だってあるんじゃないか? そーゆーときはそっとしておくのがいいと思うゾ!」

ミリアム「まったく、梅様は楽観的すぎるのじゃ。鶴紗の件もあるじゃろう?」

雨嘉「もしかして梅様、なにか知ってるんですか……?」

梅「あっはっは! 梅はなーんにも知らないゾーっ!」 ビシュン

ミリアム「ぬわっ!? 《縮地》で逃げたぞい! 皆の衆よ、手分けして捕まえるのじゃー!」


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神琳「わたくしから無理をお願いしましたのに、お待たせして申し訳ございません。茜様」

茜「ううん、大丈夫よ神琳ちゃん。わたしもさっき着いたところだから」

神琳「ありがとうございます。こちらは既に準備が整っておりますが、いかがなされますか?」

茜「そうね。積もる話もあるし、それじゃあ──」


ギィィンッ


神琳「──っ!!」 ギャリィ

茜「あの頃みたいに、こうして手合わせしながらお喋りしよっか?」 ニコ

神琳(重くて速い……! わたくしだけではなく茜様も強くなっているとは予想していましたが、まさかこれ程とは!)


茜「ユユから聞いたわ。素敵な仲間と相棒に恵まれて、あなたは見違えるほど変わった」 ズダァン

神琳「はい、ですが一つ訂正を。相棒ではなく"朋友"です」 ギィン

茜「ふふっ。まさかあの神琳ちゃんにそこまで言わせるなんて、きっと素敵な娘なのね」

茜「わたしが教えたジャストガード、よく自分のものに落とし込めているわね。偉いわよ」

神琳「あれから色々と経験しましたから。何度もわたくしや仲間の窮地を救ってくれましたよ」 シュバッ

茜「ありがとう。そんなに誉めてくれるだなんて、師匠冥利に尽きるわね?」 ザリッ


茜「……台北市を襲ったヒュージを倒したって聞いて、少し心配していたの。神琳ちゃんがリリィを辞めてしまうのかもって」

神琳「まだすべてを取り戻したわけではありません。それに今は、仲間のことも守らなくてはいけませんから」

茜「そうね、本当によかったわ。だけれどね、神琳ちゃん」 ジャコン

茜「──あの頃に比べて、あなたは弱くなった」


ズダダァンッ


神琳「っ!! ぐっ……!? それは少し、聞き捨てなりませんね……!」 ズザァッ

茜「CHARMを交えるたびに気づいているのではないかしら? あなたはわたしが強くなったと思い込んでるようだけれど、それは違うの」

神琳「見くびってもらっては困ります茜様、わたくしは仲間と共に歩む強さを知りました。あの頃とは、違うのですッ!」 ズダァン

茜「それ自体が悪いことだけではないわ。だけれど戦場で生き残れるかはまた別の問題よ」 ギャリィン

茜「いまのあなたは、昔のような力への飢えや勝利への貪欲さを無くしてしまった。それに代わるものが必要なの」

神琳「では、それを茜様から無理矢理にでも聞きだしてみせましょう……!」


茜(仲間を得て、あなたは仲間を頼ることを覚えた。知ってしまった)

茜(心苦しいけれど、挫折を教えるのも師匠の役目。だからごめんなさい神琳ちゃん、これからあなたの心をへし折るわ)

神琳(個の戦い方ではいつか限界が来る、そうわたくしに問い続けてきたのは他ならぬ茜様です。ならばなぜ……)


神琳「この手合わせの決着で、わたくしの強さと成長を証明いたします。茜様、お覚悟を! ──《テスタメント》ッ!!」 キィィン

神琳(他の使い手から学んだ不可視の刃! この一撃は、あなたも知らないはず!)


ギャリィン


茜「あなたにできることを、師匠のわたしがどうしてできないと思ったの?」 ニコ

神琳「なっ……!? ありえな──」 ガツン


──────
────
──


神琳「う……わたくし、は……」 パチ

神琳(夕焼けが眩しい。結局わたくしは、茜様には勝てなかったのね)

茜「おはよう神琳ちゃん。ごめんなさいね、額はまだ痛むかしら?」

神琳「っ……意識させないでください、いじわるなお方です……」 ズキ

茜「うふふ、月詩にもよく言われるわ。それだけ元気なら大丈夫みたいね」


茜「さてと。そろそろ帰らないと月詩が心配するから、わたしはこの辺りで失礼するわ」

神琳「お待ちください茜様。わたくしに足りないものとは、一体なんだったのですか?」

茜「そうねぇ。神琳ちゃんは、一度初心に帰ってみたらどうかしら?」

神琳「初心……ですか」

茜「心を落ち着かせて、自分自身を見つめ直してみなさい。それじゃあごきげんよう、神琳ちゃん」



神琳(雨嘉さんや楓さんに相談しようとも思いましたが、そういうことではありませんよね)

神琳(おそらく、わたくしが自ら導き出さないと意味のない問いなのでしょう。茜様はそういう人ですから)

神琳(……そんなことを考えていると、自然とこの部屋の前まで来てしまいました)

神琳「畳と墨汁の匂い。久しく書道に手をつけていませんでしたが、ここはやはり落ち着きますね」


神琳「さて。いまのわたくしに必要なものとは、一体なんなのでしょうか」 サッ

半紙『力』

神琳「……いえ、きっと違いますね。力に代わるものが足りていないと、茜様も言っていたはずです」 ササッ

半紙『故郷』

半紙『家族』

神琳「これでもない……」


半紙『命』

半紙『優しさ』

半紙『たすけあい』

神琳「悩みますね。難しい課題を出されるお方だわ」

神琳「もし雨嘉さんが傍にいてくれたなら、わたくしと一緒に考えて──」


神琳(ああ、そういうことですか。困ったときに手を差し伸べてくれる方がいるから、わたくしはそれに頼ってしまっている)

神琳(それではいつか限界が来てしまうでしょう。大切な人の背中を守れるように、わたくし自身が強くならなければ)

神琳「肩を並べる戦友。互いに研鑽を積み合う仲間。青磁色に煌めく満月のような双眸──」 サッ


雨嘉「神琳、ここにいたんだ。もうお夕飯の時間だけど……」

神琳「あら雨嘉さん、わざわざわたくしを探しに来てくれたのですね。ご安心ください、用事はもう済みましたから」

雨嘉「うん、わかった。あのね神琳、本当はすぐに探そうって梨璃と話してたんだけど……」

神琳「ええ、わたくしのことを信じて待ってくれたのでしょう?」

雨嘉「……神琳はすごいね。どうしてわかっちゃったの?」

神琳「だって、他ならぬ雨嘉さんのことだもの。わたくしにわからないことはなに一つだってないわ」


半紙『朋』



おわり

以上です。ここまで読んでいただきありがとうございました。
二週目誕生日メモリアにストーリーが(以下略)

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おまけ(元ネタ)

2月6日 郭神琳誕生日メモリア《一筆の心》
https://i.imgur.com/FA4Q6oo.jpg

このSSまとめへのコメント

1 :  MilitaryGirl   2022年04月19日 (火) 23:03:46   ID: S:9DOh5e

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2 :  MilitaryGirl   2022年04月20日 (水) 21:20:20   ID: S:gij5Lz

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