荒木比奈「溶け出す日常」 (27)
喜多見柚「あー」
荒木比奈「どうしたんスか。大きな声出して」
柚「比奈サン、いまアタシたちってなにしてるんだっけ」
比奈「なにって」
比奈「公園でアイス食べてる」
柚「そうそう。夏休み。びっくり暑い。公園。アイス」
柚「友達。やばい。楽しいカモ」
比奈「びっくり暑いとは」
比奈「楽しいならいいのでは?」
柚「うん。いい感じ」ニパ
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比奈「アタシは暑くて溶けちゃいそうっスけど」
柚「アタシはある程度の暑さは楽しくなってきちゃうタイプ!」
比奈「あーいるっスよねそういう人。ちょっとなに言ってるか分かんないっス」
柚「みんみーん」
比奈「分かんないっス」
柚「今年こそプールとか行きたかったナー」
比奈「どうせ行くなら川かな。あー。また行きたい。行きたくない」
柚「難しいこと言うね?」
比奈「柚も大人になったら……分かんないか」
柚「?」ニパニパ
柚「ぶらんこー」
比奈「アイス食べながらブランコは危ないっスよ」
柚「ねっ。比奈サンは子どものころ夏休みってなにしてた?」
比奈「うーん。別に。普通に。部屋にいたっスよ」
柚「普通に部屋に……?」
比奈「そこかー」
比奈「えっと」
比奈「いつも以上に漫画描いてたかなって感じっス。時間使えるし、いろいろイベントも多い時期だし」
柚「なるほど」
比奈「ああ。それを思うと」
柚「?」
比奈「夏。公園。アイス」
比奈「友達」
比奈「なんというか、アタシの場合はアイドルになってからの方がフツウの青春してるかもっスね」
柚「そんなことないよ。青春のカタチは人それぞれなんだって」
比奈「プロデューサー?」
柚「と、楓サンが言ってた」
比奈「なるほど」
柚「ね。比奈サンもぶらんこしよーよ」
比奈「暑い。溶ける。今日だけっスよ」
柚「わーい」
みーんみんみん
柚「そろそろ行こっか」
比奈「もういいんスか?」
柚「うん。見てても会場に入れるわけでも、大会、やるわけでもないしね。よっと」
柚「アリガト比奈サン。暑いなか付き合ってくれて」
比奈「ほんとっス。溶けるかと思ったっス」
柚「手厳しい!」
比奈「ふふ」
比奈「アタシには分かんないっスから。大会目指して頑張ったとかないから」
柚「イベントに向けて徹夜してるのは違うんだ?」
比奈「あれはほら、なんかもっとこう業が深い話で。ごにょごにょ」
・・・・・
楓「子どものころの夏休み……ですか」
P「ええ。番組のアンケートなんですけど」
仁奈「はい!仁奈はラジオ体操・だいキグルミを開発ちゅーでやがりますよ!」
P「だい着ぐるみとは」
仁奈「そのままやりやがると熱中症になりやがりますので、熱を逃がす仁奈じるしの体操です」
P「斬新な自由研究だなぁ」
楓「焼きとうもろこしですね」
P「好きな出店のQ&Aではないです」
仁奈「仁奈はわたがしです!」
P「もしかして俺だけこの通話ラグってます?」
・・・・・
比奈「言っていいっスか?」
柚「ン?」
比奈「正直意外だったっス。柚がそんなに部活に真剣なタイプだったんだなーって」
比奈「勝ち負けより楽しいにこだわるタイプかと思ってた」
柚「あー。昔はそうだったカモ」
比奈「昔って歳っスか」
柚「歳じゃなくて。ほら、前のアタシと今のアタシだとけっこう違うし」
柚「アイドルになる前と、なった後のアタシ」
比奈「あー」
比奈「……」
柚「どうかした?」
比奈「や。それすごい分かるんでスけど」
比奈「アイドルになる前の柚って……意外と想像つかないっスね」
柚「そう?」
比奈「そんなに変わったのかなって思っちゃいまスけど」
柚「んふふ。アイドル柚チャンは魔法がかかってるからね」
比奈「じゃあ魔法かけた人に聞くのが一番いいかな」
柚「おっ。それはちょっと恥ずかしいカナ!」
比奈「じゃあ自分で語りまス?」
柚「それも恥ずい!」
比奈「プロデューサーいま電話出れるっスかねー」
柚「あーあー。ごめんなさい。語る語る!」
比奈「あんまぐいぐい来られるとこういうのってそれはそれで」
柚「もて遊ぶね!」
比奈「面白いんだもん。あと暑いし」
柚「半分八つ当たりだ!」
・・・・・
P「くしゅん」
仁奈「はっ。えいえい」
P「無言でアルコールスプレーありがとう。それたぶん仁奈のスマホにすげーかかってるだけだけど」
仁奈「着ぐるみの消毒は欠かせねーですから!おまかせくだせー!」
楓「大丈夫ですか?プロデューサー」
P「すみません。体温体調とも問題はないですから。むずむずしただけなので」
楓「よかった」
楓「すみません、長時間お話いただいて……。こうしてリモートでする打合せも、すっかり慣れましたね」
P「いえいえ。そうですね」
仁奈「はい」
P「はい。仁奈どうぞ」
仁奈「はい」
仁奈「えっと、でもやっぱり仁奈はちょっとさみしーですよ。プロデューサーにも楓おねーさんにも会えないし、直接もふってもらえねーですし……」
P「……そうだな」モフモフ
P「一応、希望どおり仁奈が送ってくれた着ぐるみはこうして着てるんだけどね?」
楓「いつもお似合いですよプロデューサー。ふす」
P「いま笑いましたよね?」
仁奈「それでぎりぎり仁奈はやっていけてるですよ……そいつを仁奈と思ってもふってくだせー……」
P「お、おう。まかせろ」
楓「まかせて、仁奈ちゃん。もふもふ。元気出してね」
P「楓さんは普通に似合うからずるいですよね」
楓「だからぷふロデューサーもお似合いですって」
P「やっぱり笑ってますよね?」
仁奈「ほんと楓おねーさんはお似合いですよ!仁奈も楓おねーさん用のキグルミ選びでやってけてるです!」
P「俺のときと声のハリが違うなあ」
P「じゃあ今日はこの辺で。二人とも自主トレの時間が多いですが」
P「例年以上に暑い夏ですし。無理しないようにしてください」
仁奈「はーい。Pも無理しないですよ」
P「うん。ありがとう」
楓「ありがとうございました。こんどはお酒、付き合ってくださいね」
P「ええ。いつでも声かけてください」
楓「あら、それなら」ブツッ
P「…………切れた」
P「いま一瞬、お酒の瓶が見えた気がしたけど……気のせいだな。うん」
P「……着ぐるみ脱ぐか。とりあえず」
PRRRRRRRR
P「おっと。はい。もしもし」
柚『もしもしPサン!』
P「うわびっくりした。あれ?柚?」
比奈『こら柚っ。返すっス!』
柚『やー。アタシのスマホー』
比奈『いやアタシのっス』
P「姉妹ケンカするなよ」
比奈『だれが姉妹っスかだれが』
比奈『ほい。追加アイス』
柚『あむ。むあー。あたまがきーんっ』
P「なにしてんだ」
比奈『あ、すいませんお騒がせして。ちょっといま柚と出かけてて』
P「あんまり目立つなよ。自粛推奨だぞ」
比奈『うっス。一応屋外っスから』
P「…………?おくがい……??」
比奈『や、アタシが外いるのそこまで驚かなくても』
比奈『大会なくなっちゃったから』
比奈『会場だけ見に行きたいって言うので。付き合ったんでス』
P「ああ。そっか」
P「へこんでたからな。慰めてやってくれ」
比奈『そうなんでスよ』
比奈『プロデューサーは知ってたんでスね』
P「ん?……ああ」
P「最近、大会が好きになったんだってさ。想いはそれぞれ違うけど、みんな本気の気持ちを持って来てる場所に自分も立つと、ぴりぴりして、目が覚めるような気がするんだと」
比奈『うおー。そんな強キャラみたいな』
P「そうやって真剣になることの楽しさを知ったって意味ではそうだろうな」
比奈『なるほどっス。はー。そりゃすげー。敵わないっスね』
柚『ぐわらきーん』
比奈『ちなみにまだアイスでキーンってまスけど』
P「優しくしてやれよ」
P「他人事みたいに言ってるけどな」
P「お前もずいぶん変わったと思うけどな。アイスだけでしのげる暑さじゃないだろ」
比奈『あー』
比奈『へへ。そうっスかね。そうでもないっスけど』
P「そうか?」
比奈『というかプロデューサー、アタシらの会話聞いてました?ちょっとかんたんに話通じすぎて怖いんでスけど』
P「それはほら。プロデューサーだから」
比奈『魔法使いがほいほい魔法の言葉使うのチートくさいっス』
P「俺は別に魔法使いじゃないよ」
柚『ふっかつ!とおっ!』
比奈『あぐっ』
P「元気そうだな。柚」
柚『うんっ元気!アタシはいつでも元気だよー』
P「そっか」
楓『あら。柚ちゃん、比奈ちゃん。いまはお外なのね?んふふ』
柚『あっ。楓サンだー』
比奈『どもっス』
P「あれ?楓さんもしかしてお酒入ってます?」
楓『不可抗力です。さっきまでずっと、プロデューサーとの通話が続いてると思ってえんえんと話しかけてたのに無視されたので、不可抗力です』
P「あれ?それ俺が悪いです?」
比奈『悪いっスね』
柚『悪いねー』
P「即答」
柚『比奈サン。これ仁奈チャンも招待しよ』
比奈『そうっスね。うへぇ。外でグループ通話って陽キャ』
P「あ、仁奈と通話するなら二人も着ぐるみ着てやるんだぞ」
比奈『あえてつっこまなかったんスけどやっぱそれそういう。いやでも外で着たら死んじゃう』
柚『帰りながらおしゃべりして、家についたら着よっか。おっ。仁奈チャンやっほー』
仁奈『あー。みんないやがるです。やっほーです』
仁奈『おねーさんたちアイス食べてやがります。いいなー』
比奈『でも外っスよ。暑いっスよ。溶けちゃいそうっス』
仁奈『ぷー。仁奈もお外で遊びたかったですよ』
比奈『そうくる』
柚『こんどは一緒に出かけようねー』
P「楓さんそれこないだネットで買ったって言ってた」
楓『あ、お気づきですか?ふふ……そうなんです。おいしいので、こんど送りますよ』
P「いつもすみません」
楓『いえいえ。こうして付き合ってもらうお礼ですから』
仁奈『じゃーん!』
楓『おー』
柚『わたがし機だー!買ってもらったの?』
仁奈『です!これでいつでももふもふのふわふわが作れるです。こうしてですね』
柚『おー』
楓『ひゅーひゅー』
P「楽しそうだな。俺も買おうかな」
比奈『あはは』
比奈『あー。あの。プロデューサー』
P「うん?」
比奈『なんかフツウに始めちゃいましたけど。すみません。プロデューサーって仕事中なんじゃ』
P「ああ。うん。でもまあほら、前はこういうの当たり前だったし。大丈夫だよ」
比奈『そうっスか?』
P「俺はともかく、二人ともちゃんと帰って涼むんだぞ」
比奈『はいっス。そろそろ溶けるっス……マジで、アイスもアタシも』
P「だろうな」
比奈『でもあれっスね。なんかこうやっていつでもみんなと会えるのって、なんかもう溶けてるようなもんって感じしません?日常も、アタシらも溶けてるというか』
P「ああ。分かる分かる」
楓『それでは始めます。第一回だれの嗜好品がいまいちばん魅力的か選手権』
仁奈『わたがしがぜってーいちばんになるですよ!』
柚『お外で食べるアイスも負けないよーっ』
P「話題もなんか溶け気味だしな」
比奈『たしかに』
比奈『夏ってキホン暑くて嫌いだったっスけど。溶けるのも悪くないっスね』
P「そうだな」
P「やっぱり比奈は敵わないなんてことないよ」
比奈『……へへ』
比奈『魔法使いだから叶わないとかけてまス?』
P「照れ隠しのつもりだろうけど墓穴ってるぞ」
比奈『そうでもないっスよ』
P「ん。そっか」
仁奈『あー。わたがしうめーですー』
柚『あー。着ぐるみ仁奈チャンわたがしゆうしょーだこれ』
楓『もぐもぐ』
P「なんか目を離した隙に優勝してるし楓さんは焼きとうもろこし食っとる」
比奈『あはは。がっつり溶けてるっスね』
おわりん
お読みいただき、ありがとうございました。
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