千香瑠「暗示装置……?」
一葉「はい、エレンスゲの上層部が千香瑠様のために作ったそうです。なんでも過去のトラウマを乗り越えることができるとか……」
恋花「怪しいな~、そんなもんに手なんか出さないほうがいいんじゃない?」
瑤「わたしも、ちょっと反対。千香瑠はどうしたい?」
千香瑠「みんな心配してくれてありがとう。けれど、いつまでもこのままだといけない気がするの。もっとみんなの力になりたい……!」
藍「ちかる、だいじょーぶ? 無理してない?」
恋花「ま、千香瑠がそれでいいならあたしは止めないけどさー……」
一葉「とはいえ、仮に千香瑠様が本来の実力を発揮できればヘルヴォルはさらに強くなれます。もっと多くの人を助けることができるに違いありません!」
瑤「一応、何かあったときのために準備はしておく。わたしたちがついてること、忘れないで」
千香瑠「分かったわ。少し怖いけど、みんなとの思い出があればきっと頑張れそうよ!」
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一葉「それではヘッドギアをかぶってください。千香瑠様、準備はいいですか?」
千香瑠「ええ。いつでもお願いね、一葉ちゃん」
一葉「では装置を起動します。数分ほどで終わりますので、そのままリラックスして……はい、その調子です───」
千香瑠(ヘルヴォルの皆さん……わたしの大切な、家族以上の宝物。この手で守るために、わたしが変わらなくちゃ……!) イィィン
一葉『誰も死なせません。楯の乙女の名にかけて、すべての人々を必ず救ってみせます!』
千香瑠(ああ……やっぱり一葉ちゃんは本当に美しいわ。だから、わたしはこの人の傍に───)
恋花『千香瑠はいつも気張りすぎだって。血反吐を吐くのもいいけどさ、たまには息抜きしなよー?』 ザッ…
瑤『千香瑠の作る料理、わたしは好き。この動物さんクッキーも、食べるのがもったいないくらい』 ザザッ
千香瑠(……あれ……?)
依奈『これを千香瑠、あなたに託すわ。このゲイボルグは、きっとあなたが扱うのが一番相応しいから』
藍『ちかる、いつもありがとう。らん、ちかるのこと大好きだよ』
千香瑠(この人たちは……?) ザザッ
真琴『千香、瑠……約束、して……必ず、エレンスゲに……!』
千香瑠「……───」 プツン
一葉「千香瑠様、大丈夫ですか? お気分の方は……」
藍「ちかる、へいき? なんともない?」
千香瑠「……その、制服」
瑤「?」
千香瑠「親ゲヘナガーデン、エレンスゲ女学院の生徒ね……それ以上近寄らないで頂戴」 ギロ
一葉「えっ……」
恋花「いや、あんたも同じ制服着てるでしょーが。急にどうしちゃったのさ?」
千香瑠「わたしがエレンスゲに? 信じられないわね、どうして親ゲヘナガーデンなんかを選んだのかしら……汚らわしい」
藍「ちかる、怒ってるの……? 今日のちかる、なんか変だよ」
瑤「待って藍。千香瑠の様子がおかしい……それに、すごく殺気立ってる」
千香瑠「っ……頭が、痛い……あなたたち、この装置でわたしに何をしようとしていたの?」
一葉「それは……千香瑠様が、過去に負ったトラウマを乗り越えるために……」
千香瑠「ワケの分からないことを言わないで頂戴。わたしにそんな過去はありません……一体何を隠しているのかしら」
千香瑠「この装置でわたしを洗脳し、このガーデンの生徒にしようとしていたのかしらね? 本当にゲヘナらしい、汚いやり口だわ」 ガシャン
恋花「そんな……あんた、あたしや一葉のことまで綺麗さっぱり忘れちゃったって言いたいの!?」
瑤「聞いて、千香瑠! 一葉は千香瑠のために……!」
千香瑠「本当のことを話すつもりはない、ということね。なら全員地べたに這いつくばらせてから、無理矢理にでも吐かせてあげるわ!」 ギィンッ
一葉「ぐぅっ!?」 ザザッ
一葉(は、速いっ! それに一撃が重すぎる……! 以前の千香瑠様とはまるで別人ではないですか!?)
千香瑠「やはりあなたがリーダー格のようね。悪いけれど、一気に仕留めさせてもらうわよ!」 ガシャン
一葉「なっ……!? 超近接戦闘でシューティングモード!? この動き、ガンカタですか!」 ズダァン
瑤(なんて身のこなし……照準が定まらない、一葉に当たる!)
恋花「瑤! 危ない!!」 ギィン
瑤「っ……! 恋花、助かった。怪我はないよ」
恋花「千香瑠のヤツ、一葉をデュエルで圧倒しながらあたしたちまで狙撃してきてる。はっきり言って滅茶苦茶すぎるわ……!」
瑤「遠距離だとこちらが不利。だけど、このままだと一葉が……!」
ダッ
藍「《ルナティックトランサー》ッ!! ちかるぅぅぅ!!」 ギィィン
千香瑠(っ! こんな小さな子まで……! いえ、この気配は本当にリリィなの?)
藍「ちかる、みんなをいじめるのやめて! これ以上したら、ちかるでもゆるさない!」
千香瑠「またワケの分からないことを……けれどあなたは危険ね、ここで排除するわ!」
恋花「もうこれ以上は……! こちらヘルヴォル、飯島恋花! 実験は失敗だ、今すぐ千香瑠の暗示を解け!!」
教導官『こちらエレンスゲ本部。ヘルヴォルは引き続き暴走した芹沢千香瑠の戦闘データ収集に協力せよ。要請を却下する』
恋花「はあ!? このっ……ふざっけんじゃないわよ!!」 ブツッ
藍「らん、ちかると戦うのちっとも楽しくない! 悲しい気持ちでいっぱいになる!」
千香瑠「随分と余裕ね。生きるか死ぬかの戦いに、感情なんていらないわ!!」 ガシッ
藍「え───」 フワ
ズドォン
藍「あぅぅっ!? げ、ほっ……いた、い……やだ……」
千香瑠「命までは取りません。けれど、もう二度とCHARMを握れない腕にしてあげる!」 ジャキン
藍「うぅ、やめて……! ちかる、おねがい……!」
千香瑠「────」 ビタッ
恋花「いい加減目を覚ませ!! 千香瑠ぅぅぅッ!!」 ギィィン
恋花「あんなに藍が懐いていたのに! それすら忘れたってんなら、あたしが血反吐を吐かせてでも思い出させてやる!!」
千香瑠「わたしに仲間なんていないわ! これまでもずっと一人で生きてきた、そしてこれからもよ!!」
一葉「瑤様! 藍は大丈夫ですか!?」
藍「けほっ……ちかる、ごめんなさい……藍、いいこにするから……」 ギュッ
瑤「……身体の方は、思ったよりダメージが少ない。だけど、藍はもう……千香瑠と戦えない」
一葉「くっ……! 無理もありません。藍のためにも、わたし達だけで千香瑠様を止めなければ!」
一葉「ヘルヴォル、フォーメーションいるかさん! 戦術展開により千香瑠様に畳みかけます!」
瑤(三方向からの同時接近攻撃で───)
恋花(一気に千香瑠を仕留めるッ!)
千香瑠(この位置取り……そうね、わたしもその状況なら同じ選択をしたと思う。だけど……)
千香瑠「相手が悪かったわね! ───《ヘリオスフィア》!!」 シュォォン
一葉「な!? ここでレアスキルを……うわぁぁぁっ!!」ザシュ
恋花「マジか、くそっ! 避けきれない!」
瑤「恋花ぁっ!! あぐ、ぅっ……!」 ズダダァン
千香瑠「手間を取らせたわね。もうおしまいかしら?」
一葉(これが……あの地獄と呼ばれた御台場迎撃戦で唯一、功績を上げ続けた第三部隊の鬼神。芹沢千香瑠の実力ですか……!)
恋花「瑤、あたしを庇って……ちっくしょう!」
一葉「瑤様! やらせは、しないッ……!」 ググ
瑤「げ、ほっ……! 一葉、恋花……!」 ジッ
一葉・恋花「───!」 コクン
千香瑠「瞳から闘志が消えていない……まだ何かを企んでいる? どちらにせよ、ここで確実に終わらせてあげます」 ジャコン
一葉「これが千香瑠様を取り戻す最後のチャンスです! ───《レジスタ》!! 共に参りましょう、恋花様ぁぁぁっ!!」
恋花「《フェイズトランセンデンス》!! 今まで一葉が、みんなが積み上げた絆を断ち切らせてたまるか!! さっさと起きろ、こんのぉぉぉっ!!」
千香瑠「───ッ!!」 ギャリィィン
恋花「やった……! 千香瑠がCHARMを手放し───が、ふっ!?」 メキィ
千香瑠「……CHARMを手放せばリリィを無力化できる。その思考があなたの強さの限界よ」
恋花(膝、蹴り……? レアスキルで、動体視力も上がってるハズなのに……まったく、捉えられなかっ……) ズシャァ
一葉「恋花様ぁっ!!」
千香瑠「動かないで頂戴。それ以上わたしに近づけば、この子の首をへし折ります」 ガシッ
瑤「あぁっ……ぐっ、ぅ……」 ギリィ
一葉「千香瑠、様……」
千香瑠「ゆっくりとCHARMを地面に置いてください。仲間の命は惜しいでしょう?」
一葉「……わたし達の勝利です」
千香瑠「何を……言っているのかしら?」
ガシッ
瑤「───《ブレイブ》ッ! 戻ってきて、千香瑠っ……!!」 パァァ
千香瑠「えっ……どうして敵のわたしにレアスキルを、うぅっ!?」 ズキィ
千香瑠「頭が、割れる……! その手を離しなさい、やめて瑤さんっ!」
瑤「名前、やっと呼んでくれたね。だけど、絶対に離さないよ」
千香瑠(っ……知らない記憶が、洪水みたいに押し寄せてくる……! 怖い、思い出したくない……!)
瑤『千香瑠はいつも、みんなのことがよく見えてる。だからわたし達は、これからも安心して戦える』
恋花『いや、謝られても困るんですけど。そーいうときは素直にありがとうって言えばいいんじゃない?』
依奈『千香瑠。あなたには光るものがあるけれど、心が邪魔をしているわ。これからあなただけの戦い方を教えてあげる』
千香瑠「いや……嘘……」
一葉『いまのヘルヴォルには、わたしには千香瑠様のようなお優しい方が必要なんです』
藍『ちかるがらんのこと守ってくれるの、すごくうれしい。だかららんもちかるのこと、絶対守ってあげるね』
千香瑠「ひっ……うぁ、ぁ……」 フルフル
真琴『ありがとう……わたしの大切な、親友……』 ザザッ
千香瑠「いやぁあぁあああぁぁあぁぁぁ!! うわぁぁああぁあああぁぁぁっ!!!」
瑤「千香瑠……やっと、思い出せたん、だね……よかっ……」 ドサ
千香瑠「あ、ああぁ……瑤さん、恋花さん……わたし、なんてことを───!」
千香瑠「ごめんなさいっ……傷つけて、本当にごめんなさい……! わたしのせいだ、わたしがぁ……!」 フラ
チャキ
一葉「! いけない……千香瑠様ぁっ!!」
千香瑠「お願い、わたしを許して……こんな形でしか、犯した罪は償えないから───!」
藍「ちかるぅぅぅぅぅ!! やだぁぁぁぁぁっ!!」 ガシッ
千香瑠「───藍、ちゃん……」
藍「ちかる、らんに死んじゃダメって言った! だかららんも、ちかるが死んじゃうのはやだ!」
千香瑠「それは……でも、わたしのせいで……」 ポロポロ
一葉「……千香瑠様、CHARMは守るべき相手に向けるべきではありません。それは千香瑠様自身も含みます」 ギュ
一葉「今回の件に関しては、あんなものを疑いもなくあなたに渡してしまったわたしの責任です。千香瑠様は何も悪くありませんよ」
千香瑠「でも、わたし……! みんなのことを忘れて、あんなに酷いこともたくさん……!」 グス
恋花「気にすんな、っての……誰かさんのせいで、血反吐なんか吐きなれてるし。こんなの数の内にも、入んないわよ」
一葉「嫌な思い出は、なかったことにしてはいけなかったんです。つらい出来事、悲しい思い出。すべて背負い続けて前に進ねば意味はありません」
一葉「なのでこれからも共に、千香瑠様の過去を背負わせてはくれませんか……?」
千香瑠「一葉、ちゃん……! ひぐっ……ありが、とう……ごめんなさいっ……!」 ギュゥゥ
藍「ちかる、ちゃんと仲直りできてよかった。らんがいい子いい子、してあげるね」
千香瑠「ありがとう、藍ちゃん……藍ちゃんもわたしにはもったいないくらい、とってもいい子よ……!」
恋花「これで一件落着ね、良かった良かった。ところで医務官を呼んできてくれると嬉しいなー……」
一葉「見つけましたよ教導官どの、これを返します! 燃えるゴミの日は明後日なので、処分に困ってしまいまして!」
教導官「相澤一葉。芹沢千香瑠に関する戦闘データ収集の協力、感謝する」
一葉「重傷者二名、戦意喪失者二名。素晴らしい功績です、エレンスゲの開発部門はきっと優秀な方々なのでしょうね!」
教導官「…………」
一葉「お話は終わりですか? これ以上話してもどうせ何も感じないとは思いますが。時間を有効に使いたいので、それでは失礼します!」
教導官「……すまなかった」 ボソ
ピタ
一葉「……すまな、かった……? すまなかった、ですって!?」 ガシ
一葉「ふざけないで頂きたいッ! あなた方のせいで、どれほど千香瑠様が傷ついたことか!! このっ……!」 グッ
教導官「……わたしの失言だ。これから起こる行為について、一切を不問とする」
一葉「……───! くっ……!」 スッ
教導官「どうした、相澤一葉。君にはそうする権利があるのだぞ?」
一葉「……たとえ血反吐を吐くまであなたを殴りつけても、千香瑠様の受けた痛みには到底及びません。そのことを、お忘れなきよう」 ギロ
教導官「……承知した。上層部にも、そう伝えておこう」
─────
───
─
一葉「これは……!」
千香瑠「おかえりなさい、一葉ちゃん! 色々考えたのだけれど、こんなことでしかお詫びができなくて……」
瑤「すごい量の御馳走。これ、ぜんぶ千香瑠が一人で作ったんだって」
恋花「あたしのはラーメンって、これでも怪我人よ? もっと消化のいいもの寄越しなさいよ。ま、食べるけどさー」
藍「かずはー、ちかるが朝からくっついてくる。いい加減、うっとーしい」
瑤「ふふ。でも藍、満更でもないって顔してる。可愛い……」
一葉(よかった。千香瑠様はもう、いつもの優しい千香瑠様だ)
千香瑠「どうしたの? 一葉ちゃん」
一葉「いえ。やはり千香瑠様には、笑顔が一番似合うと思いまして」
千香瑠「……えっ!? い、いきなりそんなことを言われても困ってしまうわ……」 カァァ
恋花「この天然ジゴロめ……」 ボソ
藍「らんはもうお腹ぺこぺこー。かずは、はやく食べよう?」
一葉「それでは皆さん、席に着いてください。今日は千香瑠様の復帰祝いです!」
千香瑠「皆さん、ご迷惑をかけてしまってすみません。それでも、なかったことにはできないから……」
一葉「傷ついた分だけ、わたし達ヘルヴォルはきっと強くなれます。過ごした日々、流した涙。すべてを飲み干して、明日を生きましょう」
一葉「目標、千香瑠様の手料理───冷めないうちに殲滅します! オペレーションあおむしさん、作戦開始です!」
おわり
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次回からはこちらへ直接投下します
ふるーつの瑤様かわいい……
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