【艦これ】彼女たちが戦う理由 (3)

 諸君、士官学校卒業おめでとう、心から祝福させてもらうよ。

君たちはこれから各鎮守府に提督として赴任することになるが、最後に一つ大事な話をしておこう。

この戦いの理由だ、なぜ艦娘が深海棲艦と戦うかわかるかね?

深海棲艦から人類を守るため?なるほど、確かに人類は深海棲艦によって大きな被害を受けた。

しかし、この八年間というもの人類の死者は一人もいない、海での事故死はもちろんあるが深海棲艦によるものはない。

多くの艦娘たちが傷つき、あるいは撃沈されたが、人類への被害は食い止められている、艦娘たちの奮闘努力には大いに敬意を払わなくてはなるまいね。

不思議なことに深海棲艦は艦娘を執拗に狙う、まるで親の仇であるかのようだ。

今では人類の船が深海棲艦の横を通っても無視して艦娘を追いかけて行く、艦娘がオトリとなっている?いやいや、そうではないんだ。

深海棲艦にとって艦娘を撃沈することが存在理由となっているのだよ。

もはや人類と戦っていることなど深海棲艦は覚えていまい、ひたすらに艦娘を憎み、追い求めている。

君たちが着任する鎮守府周辺には敵深海棲艦が満ち溢れている、いくら倒してもきりがないと思うだろう。

だが鎮守府から10キロほど離れた都市は平和そのものだ、かつては外出禁止令が出され人がいなかった海岸も海水浴客で賑わっている。

もう深海棲艦は人類に対する興味を失っている、いや忘れてしまったと言っていい。

かつて深海棲艦が人類の前に初めてあらわれたとき、人類には対抗できる兵器はほとんどなかった、君たちも資料アーカイブで海軍艦艇と深海棲艦の戦闘をみたことがあるはずだ。

海軍の艦船は次々と撃沈され、人類は海洋から駆逐されるかと思えた、八年前に投入されたのが新兵器「艦娘」だ。

君たちも基礎知識として講習を受けたかな、鹵獲された深海棲艦を洗脳改造し製造されたのが「艦娘」となった。

初期の頃はずいぶんと乱暴な手術が行われたようだがね、技術の進歩とは素晴らしい、今では見た目は人間の少女そのままだ。

だが彼女たちは生体兵器なのだから、少女と思って手を出せば痛い目をみることは注意しておきたまえ。

 深海棲艦を洗脳する過程で判明したのが、彼女の原記憶の存在だ。

かつての大戦で敵味方に別れて戦った軍艦の記憶がそれだ、船に記憶があるのが理解できないかね?

人間の脳とて分解していけば電気信号とタンパク質に過ぎない、無機物に記憶があってもおかしくはあるまい。

人類の戦いによって暗く冷たい海底に沈められ、何十年も過ごしたことが人類に対する憎しみとなったのだろう。

憎しみがボロボロに錆付いた鉄の船体を造り替え、人類へ復讐するために海上にあらわれる、それが深海棲艦というものだ。

我々は洗脳で人間に対する憎しみを消していったが、全ての憎しみを消し去ってしまえばタダのロボットになってしまうことに気がついた。

ロボットでは多様な戦場に対応できない、ある程度の憎しみや感情は優秀な兵器として必要だった。

結果として深海棲艦に対する果てしなき増悪が艦娘を支配することになった、悲しいかな彼女たちが戦うのは深海棲艦が憎らしいからだよ。

艦娘の憎悪を利用して人類を守る、罪深いことだね、艦娘が哀れすぎて涙すら出てきてしまう。

だが忘れてはいけない、深海棲艦が多くの人類を傷つけ殺したことを、艦娘が深海棲艦から造られていることを。

人を殺した罪を深海棲艦を[ピーーー]ことで償う、提督はその手伝いをしなければならないのだよ。

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 最初の「艦娘」が完成した時、我々はそれの量産に取り掛かった。

海軍も官僚組織である以上、予算の制約は免れぬし、前線からの新兵器投入の要請は急を告げていた。

同じ艦娘を大量生産することが最適解だと思われたが、失敗に終わった。

君たちも艦隊編成の基礎で習ったはずだ、同じ艦娘は同じ艦隊に配備することができない。

量産された彼女は同じ艦娘に拒否反応を示した、気持ちはわからないでもない。

キミが家に帰ったときに同じ顔と記憶を持った別人がいて、キミの家族と仲良く過ごしていたらどう思うかね?

もちろん軍隊は命令によって支配される、無理やり同じ艦娘を同じ艦隊に所属させたさ、結果は発狂して共食いをはじめた。

洗脳の過程で記憶の消去をやりすぎたせいかもしれない、彼女たちには軍艦の記憶しかない、それが人間の身体をもち生活し戦争をしなければならない。

どこかで無理が生じるのもしかたがないことだろう、かつて我々が成年クローンの作成に失敗したのも同じ理由かもしれないね。

とはいえ、この共食いにもメリットがあった、生き残った艦娘の戦闘力が飛躍的に向上する、これが「近代化改修」さ、今はもっとスマートな方法になったが。

 艦娘の大量生産が失敗したが、試験的に実戦投入された初期型艦娘のおかげで興味深いことが判明した。

深海棲艦がなぜあのような姿をしているか、理解できるかな?

まるで軍艦と工業製品と人間をミキサーにかけて混ぜ合わせたようだ、おぞましいものだ。

深海棲艦は復讐のために自らを人間に擬して体を作り上げた、それがもっと人間に近い艦娘を見たらどう思うかね?

心を持った故に人間に近づきたいが、戦うための身体は捨てられぬ、深海棲艦が成りたくて成れない姿が艦娘なのだよ。

艦娘が人間の少女にそっくりな理由が理解できたかね?あの姿が深海棲艦の果てしなき増悪を産み出している。

そのおかげで人類のことは深海棲艦の記憶から消え、人類は平和に暮らしていける、感謝しなければならないな。

こうして深海棲艦は艦娘をどこまでも憎み続ける、艦娘と深海棲艦の憎しみのループがはじまったわけだ。

彼女たちは許せないのだよ、自分自身と同じ記憶を持ち優れた容姿が存在していることが、だから傷つけ殺しあう。

撃沈された艦娘が深海棲艦として甦り、人としての心を求めて艦娘を狙い沈め、転生する。

彼女たちは延々と輪廻を繰り返すことになる、仏教徒ならいつかは成仏しそうだが、彼女たちは殺生の罪悪を重ねている、成仏はできまいね。

 私もかつては提督として鎮守府の指揮をとっていた、その経験を話すことは無駄にはならないだろう。

鎮守府生活というのは退屈なものだ、毎日任務をこなし司令室で艦隊の戦闘を見守る。

毎日しなければならない任務に「建造」がある、捕虜収容所から活きのいい深海棲艦を選び洗脳改造することの別名だ。

ただ洗脳改造にも適正というのがあってね、たっぷりと鉄やボーキを食わせてやっても生まれてくるのはダブり駆逐艦だったりする。

目当ての艦娘が来ないからと言って彼女を恨んではいけないよ、自身がダブりだと知った時の気持ちを考えてあげなさい。

同じ艦娘と何人も出会うことになるが、ダブったら速やかに「解体」してあげなさい、それが彼女たちのためでもある。

「解体」を秘書艦にきけば艤装を解体して普通の女の子に戻ることと答えるだろう、それが彼女の夢だ、夢を壊してはいけないよ。

実際は艤装を取り上げて海の中に放り込むことになる、時間が経ち洗脳がとければ深海棲艦に戻ってしまう、悲しいことだ。

普通の女の子にしてあげたい?バカを言ってはいけないな、重油を何ガロンも飲む女の子が暮らしていけると思うかね。

焼却処分もね、初期に試したが憎しみというのは痛みが強いほど残るものだ、焼いて消えるものではない。

大規模作戦のためにサブ艦が欲しい?仕方ないね、だが決して同じ艦隊に入れてはいけないよ、共食いするとこなど見たくはないだろう?

艦娘のことはできるだけ人間として扱ってやりなさい、それが彼女の自尊心を満足させ深海棲艦への優越感を植え付けることになる。

キミが気に入ったのなら結婚のマネ事でもしてやるといい、きっと艦娘は大喜びでキミのために命を投げ出すようになる、数の多い深海棲艦相手の戦いには必要なことだ。

乱暴に扱ってくれてもかまわないよ、幸いにしていくらでも替えがきく存在だ、もっとも人間の力で艦娘を撃沈した記録はないがね。


 さて、ずいぶんと血生臭い話をしてしまったが、艦娘の扱い方がわかってきたかね?

そうだよ、そのとおりだ、彼女たちは大いに殺し合いをさせたまえ、彼女たちはそれを望んでいるのだ。

艦娘と深海棲艦の永遠の戦いこそが、人類の平和につながる、忘れてはいけないよ。

さあ、鎮守府に向かいたまえ、艦娘たちが待っている。

END

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