選択肢は深海棲艦と艦娘。 (47)


駄文です。

取り敢えず結構鬱っぽくなるかもしれません。

反応あれば書きます。

よろしくお願いします。




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「大丈夫か……?」


 俺は疲れていたのかもしれない。
 どうして〝敵〟である彼女に、手を差し伸べてしまったのか。
 それを善行というか、悪行というか、それは誰に聞いたって、間違いなく後者だと言われるだろう。

 普段なら俺と彼女の力量差は明らか。それも彼女にとって俺は格好の獲物だ。


 そう、普段ならな。


 俺は彼女を見下ろした。
 両の腕と片目を失い、弾を打ち切り、足にいくつもの打撲痕を抱えている。
 俺はポケットからハンカチを取り出し、波打ち際で横たわる彼女の足の傷口へと巻きつけ、止血した。


「これで動く事ぐらいは何とかなるだろう。後は好きにしろ」

「ナゼ……

「勘違いするな、次に会った時は敵同士だからな」

「…………」


 この日、提督である俺は、戦力を失い波打ち際で倒れていた深海棲艦 : 空母ヲ級を、見逃した。


 



 
 俺、柿 大志(かき たいし)には、なんの取り柄という物も無かった。いや、強いて挙げるなら色々な事が人並みに出来たという事だけだ。何をやっても平均より下でも上でもない。
 そしてそれを憂う事も誇る事も無かった。


 ただ、俺の大本営(周囲)は違った。ある日突然、俺を持ち上げ始めたのだ。


 何でもないその日を、俺はいつものように軍の寮で目覚め、日課である早朝トレーニングを機械的にこなした。
 そうして与えられた仕事をこなし、昼食を取ろうとした時だった。


 大本営から直々に呼び出しを食らったのだ。


 何事かと思いすぐに赴くと、見知らぬ初老の男性が元帥の前に立っていた。



「お、た、大志? 大志かぁ……? 大きくなって」
 

 



 
 俺、柿 大志(かき たいし)には、なんの取り柄という物も無かった。いや、強いて挙げるなら色々な事が人並みに出来たという事だけだ。何をやっても平均より下でも上でもない。
 そしてそれを憂う事も誇る事も無かった。

 ただ、俺の大本営(周囲)は違った。ある日突然、俺を持ち上げ始めたのだ。

 何でもないその日を、俺はいつものように軍の寮で目覚め、日課である早朝トレーニングを機械的にこなした。
 そうして与えられた仕事をこなし、昼食を取ろうとした時だった。

 大本営から直々に呼び出しを食らったのだ。

 何事かと思いすぐに赴くと、見知らぬ初老の男性が元帥の前に立っていた。


「お、た、大志? 大志かぁ……? 大きくなって」
 


 その声を聞いた瞬間、全身の毛が粟立つ様な錯覚をおぼえた。



「柿くん、だったかな? おめでとう。君の親御さん、見つかったらしいじゃないか」



 元帥がその言葉を発する事で、俺は現実逃避できない状況であることを悟った。
 その場でおいおいと泣く男は、硬直した俺を抱きしめ、大志、大志と何度も俺の名前を呼んだ。

 俺を捨てた親が見つかった。その親が俺を見て涙を流している……?

 その時俺が抱いた感情は、とてもではないが親に向ける様なものでは無かった。



 そして……



「大志、頼みがあるんだ」



「俺を、助けてくれないか?」



 これは、空母を助けたあの日の、丁度半年前の日の話だ。


 

登場する艦娘を10人ほど募集します。

1人5人まで言って頂いて結構です。
多かった艦娘を採用させて頂きます。

1時5分まで待ちます。おねがいします。



 

「明石、曙、朝潮、潮、加賀、時雨、扶桑、山風、大和、夕立」

 俺はこの横須賀鎮守府にいる艦娘達の名前を読み上げた。そこに感情の起伏は一切ない。ただ精神的にしんどいなと、感じるばかりだった。


 そう、気付けば俺は提督になっていた。それも、【相当イかれているこの鎮守府】の、だ。


 何がイかれてるって、別に重労働だとか、給料が安いだとか、そんな話じゃない。


 ここ、横須賀鎮守府に集められた艦娘達は、所謂〝ブラック鎮守府〟の経験者達ーー否、被害者達だ。
 つまり、提督という存在に対して恐怖や疑心といった様なものを抱いており、反抗したり命令に従ってくれなかったりする。

 ここは行き場所も使い道もない、そんな艦娘達が集められた、大本営にとっても言わば目の上のたんこぶ的な場所なのだ。

 簡単に言えば、俺は実の親によって大本営に『売られた』という事になる。
 いや、俺は父親への金の援助を条件に、売られることを確かに了承したのだから、受身形にするのは少しおかしいかもしれない。


 

 


 
 しかし、どうして売られる事を受け入れたのかは、自分でも分からない。拒絶反応を起こしつつも、俺は初めての親という存在に対して、多少なりとも希望を、愛を抱いたのかもしれない。


 なんて、嘘かもしれないし、本当かもしれない。


 誰かの為になるなら良いやなんて、そんな大層な考えじゃない。確固たるものじゃない。


 ただ、なんとなく、受け入れてしまったのだ。


 かくして、俺は大本営からこの問題児の集う横須賀鎮守府へと着任させられた訳だ。


 前置きが長くなったが、実際この鎮守府の荒れ具合なんかは、これから起こる出来事を見てくれれば大体わかると思う……






続きは明日。



 
「ほんと、そういうの辞めてくれないかな?」



 時雨が凍える様な冷たい瞳で、そう零した。




 それは俺が、食堂で艦娘達の朝食を作っている時だった。

 この鎮守府には、例えば間宮さんの様な、美味しいご飯を作れる人材は居ない。
 しかしそれでも普通に運営出来ている理由とは、そもそも艦娘達の栄養摂取に、『美味しい』という要素がいらないからだ。
 詰まるところ燃料の補給さえ出来れば、明石がメンテナンスを行いさえすれば、艦娘は生きていける。

 だが、それではあまりにも味気ない。
 それは俺がここの話を聞いて、最初に思った事だった。艦娘だって、美味しいと感じられるなら、それに越した事はないだろう。
 食事だって大切なものだ。生きる糧にだってなり得る。

 だから俺はこの鎮守府に来てから、余裕のあるときは、こうやって艦娘達の為に料理を振舞っていた。


 




 しかし。



「君の努力は凄いよ。でも、意味がないとは思わないの?」

「…………」



 そう、時雨の言う通り、俺の料理はいつも“徒労に終わる”。
 だからこそこうやって、保存の効くものを作っている訳だが。


 それでも余ったものは俺を育ててくれた教会へ送っている。因みに、今まで俺の料理を艦娘達が食べてくれた事はないので、結局教会の子供達のために作っている感じだ。



 だが、それを艦娘達は知らない。

 
 

 
 
 
「僕は……僕達は何があったって、君の施しなんて受けない。心を許したが最後、どんな酷いことをされるか分からないからね」


「そんな事をするつもりはない。安心してくれ」

「無理だね。君が努力している理由なんて、どうせ僕達を私利私欲の為に利用する様な、傷つける様な、浅ましく、醜いものに決まってる」

「時雨、俺は前の鎮守府の提督とは違……



 言いかけて、ドンッ! と突然後方でテーブルが叩かれた音に中断される。
 驚き振り向くと、夕立が癇癪を起こしていた。



「気安く時雨の名前を呼ばないで欲しいっぽいーーーっ!!」

「…………」


 





 そんな怒った夕立の顔を、俺は臆する事なく真っ直ぐに見た。
 着任して間もない頃は、度々起こす彼女の奇行に畏怖し、しっかりと向き合う度量も俺にはなかった。



 しかし、今は違う。



 その翡翠色に輝いた瞳の奥は潤んでおり、怒りの他に恐怖を映している事を、俺は最近になってようやく理解した。



「夕立、名前っていうのはとても大切な物だ。それを言葉にするのに、気安いもクソもない。ついでに言うなら、俺は一度でも誰かの名前を気軽に呼んだことなんてない」



 




 俺は捨てられていて、それを教会に拾ってもらった。



 柿 大志という名前が本当に俺に正しく与えられたものかどうかなんて、2ヶ月前に売られたあの日に、ようやく実感した事だ。




 だからそれまで俺は柿 大志なのか、それとも別の誰かなのか、自分の事がわからなかった。それについて悩んだ事もあった。




 もし柿 大志が偽りの名前だったのなら、俺は一体誰なんだろうって、そんなしょうもない事を考えていた。
 それが顔も知らぬ親から唯一、与えられた愛情なのかもしれない、なんて……



 だから俺は人一倍、名前には敏感だったのだ。


 



 
「名前が大切なんて事ぐらい、夕立だって知ってるっぽい……っ! だからこそ、貴方には時雨の事を時雨って呼んで欲しくないって言ってるっぽ……んっ! はぁッはぁッ…

「夕立っ!?」

「おい大丈夫か夕立! 少し落ち着け」



 夕立は度々こうして喘息の様な症状を起こす。
 原因はブラック鎮守府で受けた、過度のストレスと仕打ちの為だった。



「はっ、はっ、はっカバ……ンっ!」

「時雨! 夕立のショルダーバッグから、早く薬を!」

「言われなくても分かってるよ!」


 




 時雨は苦しそうにうずくまる夕立のカバンから、吸入型のステロイド薬を取り出し、彼女の口元へ当てがった。



「すぅー、すぅー、はぁ、はぁ……」

「落ち着いて、ゆっくりでいいからね?」



 ……聞こえる音は、夕立の呼吸音と、優しい時雨の言葉だけだ。
 下手に刺激してはいけない。俺はただ黙って見守る事しか出来ない自身の無力感に苛まれながら、彼女の回復を待つ。



 それから数十秒程して、ようやく夕立が立ち上がった。



「ありがとう、時雨。面倒かけたね」

「面倒なんて思わないよ。僕達は家族だ。困ったときは助け合うのが当然さ」


 




 夕立は改めてありがとう、と零した後、近くの椅子へと腰掛けた。



「夕立、僕の事なら気にしないでいいよ。この人の事、鬱陶しいと思ってるだけで、名前で呼ばれても聞き流しているから」

「へぇ、鬱陶しいって思っているだけ、なんだな。意外に優しいじゃないか」

「はあ。勘違いしないで欲しいんだけど、君が何をしようが、僕達は何も変わらないよ。鬱陶しいと思われているのを好意的に解釈するなんて、君はどれだけ頭がお花畑なんだ」



 部屋に戻ろう。と時雨が夕立に声をかけ、2人が去っていく。



「夕立!」


 




 彼女達が角を曲がる寸前で、俺は彼女の名前を呼んだ。



 正直無視されると思ったが、意外にも、夕立はその場で立ち止まってくれた。



「本当に、大丈夫なのか?」


 夕立は此方を向かないまま、その言葉にこくりと頷き、再び歩き始めた。




ーー『僕達は何も変わらない』……か。


 




「いーや、お前らは確かに変わってるぞ……」



 2ヶ月前、着任してまだ間もない頃、時雨は俺が出した料理を滅茶苦茶にした。実費で買い揃えた食器を粉々にし、「これ以上目障りな真似をするなら覚悟してね」と零していた。



 しかしそんな彼女が、暫くして邪魔をしなくなり、今日、俺の努力を評価した。



 夕立だってそうだ。
 最初、俺が彼女の名前を呼んだ時は、決まって癇癪を起こしていた。



 だけど今は違う。


 




 暫くして、夕立は名前を呼ばれても怒らなくなった。代わりに名前で呼ぶと無視を貫いてきた。
 しかし最近の夕立は、名前で呼んでもある程度の反応を返してくれる様になったのだ。




 まだ時雨の事になると怒り出すが、それでもさっきの反応は、最初の事を考えるとかなりの進歩だと思う。




「少しずつだが、彼女達は変わってきている……」



 

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