悪魔が約束を絶対守るって風潮あるじゃん? (18)
悪魔「……私を召喚したのは貴様か?」
女「そうです」
悪魔「ふふふ、小娘ごときが私にいったい何の用だ」
女「契約して欲しいんです」
悪魔「ほほう! 悪魔に対して自ら契約を持ち掛ける奴など初めてだ! して、望みは何だ?」
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女「契約してほしいのです」
悪魔「話の分からん奴だな。だから、望みを言えと……」
女「まあ、私の話を聞いてください」
悪魔「……」
女「私、保険の外交員をやっているんです」
悪魔「ほう、みなまで言うな。成績が良くないのであろう? それで、世界一のセールストークを欲しているといったところか」
女「いえ、成績は会社でトップを張っています」
悪魔「……じゃあ、なぜ?」
女「つい昨日まで、毎日のように、訪問する全ての家々から契約を勝ち取ってきました」
悪魔「昨日まで?」
女「そう、昨日のことです。私は、次のお客様を求めてゼンリン地図を広げていました。そして気づいてしまったのです。私が担当する、この地区にはもう……私の取り扱っている保険に入っている人がいないということに!」
悪魔「えぇ……めっちゃ、すごいやん。私も、契約をとってくるのが仕事みたいなもんだから。貴様のすごさが身にしみてわかるぞ」
女「お褒めに預かり光栄です」
悪魔「営業のコツとかあるの?」
女「まあ、基本的なところですけど。まずは、相手の興味を引くことですね」
悪魔「ふむふむ」
女「そして、心をつかんだ後は喋り過ぎないこと。むしろ、相手に喋らせることが重要です」
悪魔「相手に喋らせる?」
女「そうです。お客様の言葉というのは宝箱のようなもの。なんともない話からニーズを掘り起こすのです」
悪魔「簡単に言ってくれるけど、それが難しいんだよな~」
女「まあまあ、そこはテクニック次第ですよ。時に不安をあおり、時におだて、時にこじつけ、お客さんと商品を関連付けさせるのです」
悪魔「なるほどなあ……。でも、そういうテクニックを使うのって、ちょっと罪悪感がでちゃうんだよなあ」
女「その様子ですと、営業に苦労していらっしゃるようですね」
悪魔「そうそう。そうなんだよ。悪魔ってのも、なかなか大変でね」
女「やっぱり、魂をとってくるのが仕事なんですか?」
悪魔「基本はそうだね。相手の望むものを、提供して。代わりに相手からは、魂を受け取る感じかな」
女「支払いが魂でってなると、相手が尻込みしちゃいそうですね」
悪魔「そうなんだよ! ようやく契約がまとまりそうな段取りになったところで、びびっちゃう奴が多いこと多いこと!」
悪魔「呼び出しておいて、そりゃないぜ! って気持ちよ!」
女「ノルマなんかもあるんですか?」
悪魔「あるよ~、もうしんどいしんどい。中には、心労で倒れちゃう悪魔だっているんだから」
女「……へぇ、悪魔も倒れることがあるんですか」
悪魔「まあ、基本的な体のつくりは人間と同じだしね」
女「悪魔さんはくれぐれも、お体に気を付けてくださいね? 倒れちゃったら、大変です」
悪魔「へへへ、ありがとう。俺にも、家族がいるしね……まだまだ倒れるわけにはいかないよ」
女「……ねえ、悪魔さん。嫌な話になるんですけど、ちゃんと転ばぬ先の杖って用意してます?」
悪魔「転ばぬ先の杖?」
女「もし、悪魔さんが倒れちゃった時、ご家族を養えるだけの貯えはあるんですか?」
悪魔「……少しはあるけど。でも、子供もまだまだこれからお金がかかる時期だしなあ」
女「私……悪魔さんの、お手伝いができるかもしれません」
悪魔「あ、保険の勧誘? いや、うちはそういうのいいから」
女「いえ、いい機会です。ちょっと想像してみてください。悪魔さんが倒れてしまった時の、ご家庭の様子を」
悪魔「……」
女「大黒柱が倒れて、不安を抱かない家族なんていません。奥様やお子さんの、心労幾ばくか……」
悪魔「確かに、あいつらを不安な思いにはさせたくはないな……」
女「でしょう!? 私が取り扱っている医療保険に入っていれば、ご家族に心配をかけることもないでしょう」
悪魔「契約します!」
女「ありがとうございます!」
悪魔「いや~、してやられちゃったよwww流石、営業成績ナンバーワンなだけあるねえwww」
女「へへへwww有難うございます。あ、この保険にはガンの特約もあるんですが」
悪魔「ガンかぁ……、実のところ悪魔にとってガンが一番の敵なんだよねえ」
女「と、いいますと?」
悪魔「いま、一番、人間の魂とってくるのってガンなんだよ。あいつらが、ばんばん人間殺すせいで、こっちも商売あがったりさ」
女「でしたら、ぜひ! このガン特約で復讐をしてやりましょう!」
悪魔「そうだな! ガン特約も入ります!」
女「毎度!」
そして、月日が流れ
prrrrr prrrr
悪魔「あ、もしもし女さん? お久しぶりです~」
女「これはこれは、悪魔様。いかがいたしました?」
悪魔「実は、ガンになっちゃってねw保険に入っていて本当によかったよwww」
女「それはそれは……」
悪魔「まあ早期の大腸ガンで、命に別状はないんだけどね」
女「早期ですか……もしかして、『上皮内ガン』ですか?」
悪魔「そうそう、さすが詳しいね」
女「……申し訳ありませんが。上皮内ガンは、保険の対象外となります」
悪魔「はあ!?」
女「約款にも、そのように記載されてあります」
悪魔「いやいやいや、ちょっと待ってよ!」
女「詳しいお話は、当社のご相談センターへご連絡ください。それでは」ガチャ プー プー
悪魔「……」
悪魔「…………奴らの方がよっぽど悪魔だ」
おわり
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