【モバマス】「燻る心に火をつけて」 (17)
※ライブを見た感想を見て浮かんだネタ
ヒーローが好きだ。
毎週朝のヒーローの活躍が大好きで、楽しみで。
女の癖になんて関係ない、私はヒーローが大好きなんだ。
でも、それを言うことなんてできなくて。
スマホの向こうの誰かさんに飛ばす言葉は一つのいいねもつきやしない。
クラスメイトは服に恋、化粧にお菓子で全くわからなくて。
空虚に響く感想も、凄いと思った感情も、誰にも届かず消えていく。
それならこの感情を持つ意味なんて、ないじゃないか?
凄いって言っても、カッコいいって思っても。
誰にも伝わらない、届かない。
ましてや私はヒーローなんかになれっこない。
画面の向こうで生き生きと動くヒーロー達が、余りにも遠くて、心が軋んで、痛くて。
胸の奥が、とても冷たい。
「3」
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いい子だなんて言われたくない。
周りのいい子ちゃんが嫌いで、ガリ勉、ど真面目、委員長。
校則きっかり、時間も守って、教師の言葉は絶対で。
テストの結果が十全で、そんな学校大嫌い。
だからアタシは逆らった。
いたずらしたし遅刻もしたし、親に怒鳴られ教師に呼ばれ。
問題児なんて言われたことが爽快で、逆らうことに満足で。
結局不良にはなりきれなくて、クラスに浮いて俯いて。
さん付けなんてするんじゃない、いい子ちゃん達大嫌い。
それでも一線は超えられない臆病者な自分が一番嫌い。
いたずらっ子なんて子供な答えが、自分の目指すものなわけないのに。
結局お利口に学校の宿題を自宅の机で熟す自分が本当に嫌で。
結局どっちつかずに、何も選べず。
どっちにも行けず進まずに。
胸の中は、止まっている。
「2」
画面の向こうの対戦がとってもとってもつまらない。
ゲームが好きだ、対戦も、冒険も、通信も色々と。
ゲームはなんだって好きで、どんなジャンルでも飛び込んで。
ケラケラ笑ってプレイして、そして結局口が止まる。
どんなにゲームを頑張ったって、そんなの褒めてもらえない。
頑張っても、凄い人には勝てなくて。
中の下、三級、中級者、Bランクだとかシルバーとか。
半端な自分を突きつけられてるみたいで嫌になる。
このゲームなら一番になれるかも、なんて浅い夢見て手にとって。
毎回毎回打ちのめされるんだ。
好きなのに、手を伸ばしてるのに、目の前の画面の敗北シーンが突き刺さる。
やめちゃえばいい、このゲームもダメなんだよ。
そう言い聞かせて、コントローラーを投げる。
心がとても、乾いている。
「1」
でも、考える。
何かがあれば、私は前を向けるから。
何かがあれば、アタシは踏み出せる。
何かがあれば、あたしは自分を信じられる。
だから、だから、だから。
「「「イグニッション、ゼロ!!!」」」
「みんなっ! 今日は学園祭に呼んでくれてありがとう! 全っ力で盛り上げるから! ついてきてくれ!」
「このレイナ様が来たからには! 学園祭の成功は約束してあげるわ! 感謝なさい!」
「ライブが終わったらゲーム大会行くからねっ! みんな見にきて! いっぱい盛り上げるからさっ!」
騒ぐ歓声、響く陽気なBGM。
キラキラで、笑顔に満ちた、目の前の光景。
「じゃあ聞いてくれ! 一曲目! あたしたちの熱意を!受け取ってくれ!」
「思いっきり爆発させなさい! アタシの砲撃に合わせてね!」
「ちょっと麗奈ちゃん!? それ危ないって!」
目の前の少し上でマイクを持った3人が、大きく息を吸って。
「いくぞみんな!付いてきてくれ!」
「思いっきり行くよ! ゲームスタート!」
「付いてこれないなんて言わせないわよ!」
歌が、音が、胸に届く。
なんだろう、なんて言えばいいんだろう。
「あ」って声が出た。
凄いとか、かっこいいとか、かわいいとか、そういうことじゃなくて。
「あ」って、ぽかんと空いた口から声が出て。
『偶然』となりの人も同じように声を出していて。
目の前の光景に目を離せなくなっていた。
目の前で踊る女の子がヒーロー大好きなのは知っていた。
あんなにも輝いて、かっこよくて、まるで本当のヒーローみたいに凄い。
ステージの真ん中で、足を開いて地に足ついて、堂々と。
南条光ちゃん、名前の通りに光って、ぴかぴかして、羨ましい。
明るい音楽、勇気付ける歌詞、そして踏みしめるようなステップ。
すごい、すごい、すごい。
突き出すように手を出して、偶然にも私にウィンクが飛ぶ。
まるで、私に手を伸ばされたみたいで。
『私もあんな風になりたい』
音楽に体が揺れて、見逃したくなくて目を見開いて、声が勝手に飛び出して。
胸が熱い、燃えるみたいに強く強く、締め付けられるみたいに熱い。
心が、燃える。
不敵に笑う顔から目を離せない。
音楽をぶち壊すようにクラッカーを鳴らして、無駄に大きくステージをふみ鳴らす姿。
でもそれがステージを盛り上げて、観客が歓声をあげて、音楽にも波長が合う。
大胆不敵で、傍若無人で、自分を曲げない姿からアタシは目を離せなくて。
小関麗奈という彼女の個性に惹きつけられる。
呆然と、恍惚と見ていたアタシに彼女がまさか、拡声器まで取り出して。
『ボーッとしてるんじゃないわよ!』
まるでアタシに言ったみたいに間奏にコールを呼びかけ、音を叩きつけてくる。
その拡声器の音がビリビリとして震えて、痺れて、体に染み込んで。
心臓が、脈打っているのがわかる、体が熱く動く。
二人を見ながら、軽快に跳ねて合わせて動いてるのがわかった。
クルクルと、ぴょんぴょんと、ゲームのキャラみたいに軽快に。
手を振って観客に笑いかけながら、ステージを縦横無尽に動き回る。
二人の動きを考えて、それでも自分を全力で魅せていて。
汗が二人よりも多い。息が上がっているのもわかる。
でも、笑顔を崩さないで、誰が見てもわかる。本気の姿だ。
目線が飛び交って、観客の声に応えてみせて。
仲間に、ステージに、観客に、どれにも余さず全力な姿。
ここまでの『本気』を、あたしは出したこと、あったかな。
手はいつの間にか握られていた。強く、強く。
目の前で頑張っている姿が、鳴り響く音楽が、耳に残る歌詞が。
嬉しくて、悔しくて、視界がボヤけて。
心が、騒ぎ立てる。血が巡って乾いた心が目を覚ます。
「「「ありがとうございましたっ!」」」
そう言って手を振る3人がステージを降りたのを見届けて息を吐いた。
まだ熱気が残っていて、周りの人たちも感想を言い合ってワイワイとしていて。
それを聞いて湧き上がる熱、声を出さずにいられない。
「よかったぁぁぁ!!光ちゃんかっこよかったぁ!」
「あぁぁぁもう最っ高! 麗奈さま良すぎだって!」
「紗南ちゃん凄かったなぁ……ホント」
「「「ん?」」」
全く同じタイミングだったせいで顔を見合わせる。
互いに互いが初対面、なのに、何故だろう。
いや理由はわかってる。当てられた熱が胸に残ってるから。
心が『点火』されたのがわかるから。
だから、私は自分の好きを偽らない。
だから、アタシは自分の好きだけ進めたい。
だから、あたしは自分の好きを本気にしたい。
「ねぇ、この後ゲーム大会のところ行かない? 紗南ちゃん出るって言ってたし!」
「ってことは、麗奈さまも応援にきてるかも!? 行く行く!アタシはいく!」
「えーっとあたしは………参加者だから」
「え? ゲー研なの!? ならわかるよね? 光ちゃんもいる!?」
「知らない知らない! でも……紗南ちゃんと対戦は……したいから」
「んじゃいくわよ! アンタが紗南ちゃんと戦ってればアタシ達は光ちゃんと麗奈さまと話せるかもだし!」
「うーわ打算、でも乗った! ねぇ名前教えてよ、せっかくだし」
「はぁ? まぁいいけど、アンタ何年よ」
「あたしは……3年の……」
「「え? 先輩?」」
くだらない会話をしながらも、胸が弾む。
冷たかった心が、止まっていた心が、乾いていた心が。
熱く熱く脈動して動いているのがわかるから。
こんなに魅せられたんじゃ『ファン』としては、ダメになっていられないから。
だから、これから頑張っていけるはずだ。
彼女達に負けないように。
終わり
ライブの感極まった感想を語る人たちのツイートを見て浮かんだネタでした。
アイドルのライブで心動かされた人たちがいたら、実際の現地でそうなっていたらと思います。
いつかイグゼロのライブが見られたらな、と思ってしまったりします。
依頼出してきます。
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