【ミリマス】静香、恋愛 (19)
ミリオンライブ 、最上静香とPのSSです
地の文が多いです、ご容赦ください
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「どうしてアイドルは恋愛禁止なんでしょうか?」
私のぶつけた質問に、彼はズズズと麺をすすりながら、いたって端的に答えた。
「さあな」
「いや、さあなって……」
彼がどういう人間か――すなわち、彼がいかに雑でありガサツであり投げやりであり大雑把であり適当でありいい加減であり粗暴であり粗雑であり鈍感であり杜撰でありデタラメでありちゃらんぽらんであり……
形容する言葉を並べ立てればキリがないが、そういった彼の性格を理解している私であっても、先の言葉はあまりにぞんざいであると思う。
思ってムムムと睨んでやると、多少なりとも念が通じたのか、彼は丼に向けていた顔を上げた。
「俺が決めたルールじゃないし、何より俺たち付き合ってるだろ。そんなルール作るやつの気持ちなんて知ったことじゃない」
「……今日は随分突き放すんですね?」
「年末だからなー」
そこまで言うと、彼は再び箸を口に持っていった。
全く片手間な理由だが、今日は機嫌が悪いのだろうか。それとも単純に、触れてほしくない話題だったのか。
だとすればデリカシーに欠けるのは私ということになるが、何とも納得がいかない。
そんな私の思案を余所に、彼はさっさと饂飩を食べ終わり丼を持ち上げていた。
「アイドルはみんなのものなんだよ」
「え?」
唐突に飛び出た彼の言葉に、私の視線は彼の方を向いた。
丼に隠された向こうから、声が聞こえてくる。
「アイドルは、ファンのみんなを愛して、ファンのみんなから愛されなきゃいけない。たった一人にその愛を注いじゃアイドル失格ってことだろ」
彼はどんな顔で言っているのか。
それを見ることは叶わないが、彼の言葉はまるで重りのように私の胸へのしかかった。
まぁ、そうですよね。
分かっていたはずの現実で、理解しなければいけない事実だったのに、私はどうにも見つめることが出来なかった。
払拭したかった。
消し去ってやりたかった。
だから……だから、彼に相談したのだ。
私の犯した罪を、共犯者として背負って欲しかった。
勝手な押し付けでしかなかった。
地面に引っ張られるように、私の心は重く深く沈んでいく。
アイドル失格、か。厳しい現実だ。
「……静香、一応言っておくけどな、ダメなだけだぞ」
「え?」
次に顔を上げるのは、私の方だった。
気付けば彼は空になった丼を置いて、私の中身を見透かすように真っ直ぐこちらを見ていた。
「ダメだなんだって言われようと関係ない。静香がアイドル始めたときだって、そうじゃなかったのか?」
「あ……」
そうだった。
あのときだって、私は『ダメ』な選択肢を取っていた。
私を取り囲んでいた小さな社会全てに反対されても、私は自分の意思を突き通した。
それが今はなんだ。
ダメだって言われてる、それだけで、やりたいという気持ちからも、立ちはだかる問題からも逃げようとしていた。
「私、すっかり忘れてました……昔のこと」
「ははっ、歳食って日和ったか?」
「なっ!」
彼の視線はすっかり緩んで、いつも通り茶化すような笑いを浮かべている。
「私はまだ二十です! 大体そんなこと言うなら、プロデューサーだって三十のオジサンじゃないですか!」
「はぁ!? まだ全然体動くし、ラケットとかぶんぶん触れるからな! 三十路舐めんなよ!」
「へぇ、それじゃあ勝負しましょうか? どっちが年増か……」
「望むところよ」
気合いを入れるように肩を回すプロデューサーを見て、思わず笑いがこぼれた。
私は本当に、すっかり忘れていた。
変わらなければならない現実があっても、変えたくないものだってあることを。
夢とか、希望とか、そんな大切なものを失う方がよっぽどアイドル失格ではないか。
靴箱からシューズを取り出し、玄関の扉を開ける。
降り注ぐ太陽光が眩しい。
最高のテニス日和だ。
私の心はいつのまにか、空になった丼のように軽くなっていた。
……余談だが、件のテニス対決は、あまりの寒さにお互いコートを脱げず、やむなく延期となった。
以上です
最上静香と一緒にうどん食って駄弁りたい、という欲望だけで筆を進めました
個人的には書き納めだったりして、これで良いのかとも思いますが、静香はやはり可愛いというところで置かせていただきます
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