2011年。4月18日。晴れのち土砂降り。
裏生徒会、書記。緑川花。
その日、私はあの男と出会った。
藤野清志。通称、キヨシ。
第一印象は冴えない男だった。
私立八光学園に入学してきた男子生徒の中では、あまり特徴がなく、地味な印象を受けた。
私は女子風呂を覗くという蛮行を犯した男子への懲罰として四つ葉のクローバー集めを命じたのだが、その間、自前のタンポポ茶を飲んだ。
よもやそのオリジナルブレンドの紅茶に利尿作用があるとは思わず、催した私は限界ギリギリの状態で雑木林に駆け込んでおしっこをした。
ドサッ!
半分くらい出したところで突然、目の前に人が降ってきて、それがなんとキヨシだったのだ。
私は泣いた。
お股を見られたことより尿道口から迸るおしっこを目撃されたことが、恥ずかしかった。
おまけに外で。だからキヨシに口止めした。
「い、言わないでええぇっ!?」
我ながら情けない声だったと思う。
それでも裏生徒会の副会長である白木芽衣子に外でおしっこをしていたことを隠したかった。
キヨシは芽衣子ちゃんに何も言わなかった。
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4月14日。晴れのちにわか雨。
私は先日の野外放尿目撃事件から立ち直った。
というか、危機感が羞恥を上回ったのである。
口止めしたとはいえキヨシがその約束を守る確信はなく、奴の言動を監視する必要があった。
だから私は付きっきりでキヨシの荒地開墾作業を監視していた。そして、好機が訪れた。
「すみません。トイレに行ってきます」
「私も行く」
作業中に用を足しに行く彼について行った。
放尿を見られた私は、不公平を感じていた。
彼の放尿という弱み見ることでそのことを私が黙っている代わりにキヨシの口を封じることが出来ると考えたのだ。我ながら名案だと思う。
それに男の子のおしっこがどんな風に出てくるのかについて興味があったことは、否めない。
「花さん! 近いですって!」
「近くでちゃんと見せなさいよ!」
「これじゃあ出るものも出ませんって!」
間近でキヨシの先っちょからおしっこが迸るのを今か今かと待ち構えていた私だったのだが。
「あっ」
ちょろろろろろろろろろろろろろろろろんっ!
色々あって、私はキヨシのおしっこを頭から浴びて、汚された。汚い。私は汚れてしまった。
「花! どうした!?」
「芽衣子ちゃん……私、汚れちゃった」
「花ああああああああああっ!?!!」
キヨシのおしっこは臭くて、しょっぱかった。
5月12日。曇りのち猛暑。
正直、この日の出来事は書きたくない。
その日あったことは記すことさえ憚られる。
今でも思い返すと顔が熱くてお股が。お股が。
(なに……コレ)
先日の報復として保健室でキヨシにおしっこをかけようとした私は、裏生徒会の会長である栗原万里の妹の千代ちゃんが乱入したことで、下半身を露出したまま、あられもない格好でキヨシとベッドの下に隠れていたのだけど。
(なんか……当たってるんだけど)
(ごめんなさいごめんなさいごめんなさい)
向かいあったキヨシの股間から何やら得体の知れない硬くて熱いものが私のお股に。お股に。
(は、花さん……?)
その後のことは記憶にない。
気を失って、気づいたらキヨシはいなかった。
もうあいつは居ないのに。それなのになんで。
(お股……熱い)
キヨシの熱が。
硬くて熱い、生々しい感触が。
ずっと私のお股に残っていて、拭い去れない。
6月10日。曇りのち雨のち土砂崩れ。
キヨシとキスした。
キヨシと、キスをした。
先日の保健室での一件の後、一時的に記憶喪失に陥っていた私だったがエリンギによって完全にあの時のことを思い出し、奴を追い詰めた。
キヨシはハサミを手に取った私にエリンギをちょん切られると勘違いしていたようだけど、そんなことをするつもりはなくハサミでペットボトルを丁寧に切り、それを手渡して奴に放尿しろと命じた。
するとキヨシは口答えしてきた。
「僕は腰に手を当てないとおしっこ出来ないんです。だから花さん、持っていてください」
何を言っているのかわからなかった。
あまりに馬鹿馬鹿しくて面倒臭くなった。
だから私は手っ取り早く復讐を済ませるべく。
キヨシにおしっこをかけようとしたらあいつのエリンギが。エリンギが。また、硬くなって。
「すみません! ほんと、すみません!!」
「もうやだ……」
私はまた泣いた。また、キヨシに泣かされた。
許せなかった。私ばっかりいつも泣かされる。
汚されるのは私だけで、キヨシは綺麗なまま。
「お前、千代ちゃんのこと……好きだろ?」
だから私は。キヨシの大事なものを、奪った。
ちゅっ。
「あはっ……お前の初めて、奪ってやったぞ」
同時に自分のファーストキスを捧げていることなど、当時の私は気づかず、愚かだった。
(やった! やったぞ! ざまあみろ!!)
キヨシにキスをして私は浮かれていた。
奴の千代ちゃんへの想いを蹂躙したから。
だからキヨシはもう、自分のもので。なのに。
「んむっ!?」
何かが口の中に這入ってきた。
おかしいな。私は今、キスしてる筈なのに。
なのになんで、どこから這入ってきたんだろ。
(あ……これ、キヨシの舌だ)
私の口の中にキヨシの舌がある。不思議だ。
好き勝手に動いて、口の中を舐り回してくる。
息、あつい。舌、あつい。顔があっついよぉ。
(息……苦しいのに、どうして……私、へん)
キヨシの舌に舌で触れる。
息継ぎすると、引っ込んでしまう。
また這入ってくると、ほっとする。
(なんで……なんで、嫌じゃないの……?)
嫌じゃない自分が不思議だった。
キヨシも嫌じゃないのか気になった。
だってこいつは千代ちゃんが好きなのに。
なのになんで。なんで私とこんな。苦しいよ。
(お尻に硬いのが当たって……ああ、もうダメ)
バカになるくらい執拗にベロチューされて。
ペットボトル越しにあの硬くて熱いエリンギをお尻に押し付けられた私は、鼻血を噴いた挙句、グルンと白目を剥いて気を失った。
6月30日。午前9時20分ごろ。雨のち晴天。
その日、とうとう私は成し遂げた。
長かった。この間、様々なことがあった。
表生徒会の策略によって監獄に収監されたりしたけど、それでも私はついに悲願を叶えた。
「ふーっ……ふーっ」
荒い吐息を吐き出して、愉悦を抑える。
キヨシは股間に吐息がぶつかるとビクつく。
私の股間からは止めどなく尿が滴っていた。
(顔で拭いたら……怒るかな?)
ウロボロスの体位での放尿。
つまり、私はキヨシの顔面に尿をかけた。
実に清々しい気分だった。気持ちいい。
拭くものがないので彼の顔面に擦り付けてやろうかと思ったけど。さすがにはしたないよね。
(これでキヨシは私のもの。誰にも渡さない)
そんな征服感と支配欲が満たされた。満足だ。
キヨシはまだ千代ちゃんのことが好きらしい。
だけどそんなの関係ない。お前は私のものだ。
「花さん、教えてください。おしっこをかけられた人はどんな顔をすれば……んむっ」
そんな想いを込めて、キヨシにキスをした。
(千代ちゃんに悪いことしちゃったな……)
察するに千代ちゃんもキヨシを意識している。
今更ながら自分がしたことがどのような意味を持つのかに気づいて、罪悪感が募った。
結局、私は愉悦をぶち撒けることなく、尿塗れでシーツに包まれたキヨシを放置して静かにその場をあとにした。だけど、後悔はなかった。
8月某日。臨海学校は晴天だった。
「君が好きです! 付き合ってください!」
(ヤダヤダヤダ……嫌だっ!)
大粒の雨が降っている。
せっかく晴れたのに、どうして。
あんなに晴れていたのに、どうして私は。
「ヤダ! ヤダ! やっぱり嫌だぁーっ!!」
どうして私はこんなに泣きじゃくっているの。
「見苦しいぞ、緑川花!!」
キヨシ。
キヨシが私を責めている。
私だって、こんな自分が嫌だった。
人の幸せを素直に祝えない自分が、嫌だった。
「花さん……」
千代ちゃんの同情が伝わってくる。
キヨシに告白された千代ちゃんの。
それは私にとって屈辱でしかなく。
「うぇっへっへっへ……千代ちゃん」
気づけば私は、そんな邪悪な笑みを浮かべて、千代ちゃんに今自分が穿いている下着を見せつけていた。それは、キヨシの、下着だった。
「それは、もしかして……?」
「そうさぁ……キヨシの下着だよぉ。うぇっへっへ……これじゃないとしっくりこなくてさぁ」
息を飲む千代ちゃん。全部台無しにしてやる。
「やめろ! 花さん!」
「キヨシ! お前も穿いてんだろ!?」
「な、何を、馬鹿な……」
「お前も私の下着を穿いてる筈だ!!」
そう確信して、私は潔くその場でキヨシの下着を脱ぎ、それを奴の顔面目がけて投げつけた。
「パンツ返せよ! 今すぐ返せよぉ!!」
「な、何を言ってるんですか花さん!?」
「わかってんだろ! お前にはわかる筈だ!」
私とキヨシは同じ死線を潜り抜けてきた。
だからきっと。キヨシだって、きっと。
一番しっくりくる私のパンツを穿いてる筈だ。
「は、花さん、落ち着いて……話し合おう!」
「いいから脱げオラ!!」
往生際の悪いキヨシのズボンを剥ぎ取ると、そこには思った通り、私の縞々パンツがあった。
それを千代ちゃんに見せつけ勝利を確信したその瞬間。キヨシの股間から噴水が立ち昇った。
ぷしゅっ!
「フハッ!」
「は、花、さん……?」
ぷしゃあああああああああああああっ!!!!
「フハハハハハハハハハハハハハッ!!!!」
戸惑う千代ちゃんを尻目に愉悦をぶち撒ける。
高らかに哄笑して、この子を幻滅させるべく。
これが私で、これがキヨシだとわからせよう。
「フハハハハハハハハハハハハハッ!!!!」
どうだ、キヨシ。ざまあみろ。
これでお前の恋はおしまいだ。
たとえ千代ちゃんが暗黒面に堕ちたとしても。
私はお前を。キヨシ。私は、お前のことがさ。
(キヨシ、あのね……私はね、こう思うんだ)
お前となら、たとえ監獄だって悪くない、と。
【PRISON・URINATION】
FIN
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