たぬきち「きみ、なまえは?」 あさみ「……」 (106)

どうぶつの森 たぬあさSS

たぬきち「へー、ここがふくやさんなんだなも」

たぬきち母「そうよ。ここの服は素材も技術も一流なんだからね」

あさみ「……」

たぬきち「ママ、あそこにいる女の子は?」

たぬきち母「ああ、店長の娘よ。たしか」

たぬきち「ねえきみ、なまえは?」

あさみ「……」

たぬきち「?」


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あさみ母「ごめんなさいね、うちの娘、無口でしょ」

あさみ母「たぬきちくんはすごいわね。そんなに喋れて!」

たぬきち「ふふふ! しょうばいにんになるためには、おしゃべりはたいせつなんだなも!」

あさみ「……」

たぬきち母「あなたはおしゃべりがにがてなんだね」


あさみ「……」コク

たぬきち母「ふふふ。みんな得意なこと、苦手なこと、色々あるからね」

たぬきち「……なるほど」

たぬきち母「あら、このエプロン素敵ね。これください!」

あさみ母「まいどあり!」

後日

たぬきち(あの女の子。けっきょく名前もわからなかっただなも)

たぬきち「またどこかで会えないかな」

カキカキ

たぬきち(木陰で誰かが絵を描いているだなも)

たぬきち(あの子は……、昨日の子だなも)


たぬきち「あっ」

たぬきち(だめだなも。あの子はしゃべるのがにがてだなも。それなら)

ダッ


数分後

あさみ「」カキカキ

たぬきち「」カキカキ

あさみ(……あのたぬきの男の子、なんでとなりで絵かいてるんやろ)

たぬきち「ふふふ……われながらいいおみせがかけただなも」

あさみ「」クスッ

たぬきち「あ! いまわらっただなも!」

あさみ「それ、おみせ、なん?」

たぬきち「そうだなも! ぼくはこのむら一番! いや、世界一のしょうばいにんになるだなも!」

あさみ「ふふふ……そうなんやね」

たぬきち「きみ、わらうとかわいいだなもね」

あさみ「」

たぬきち「あ、その、へんないみじゃないだなも」

たぬきち「ごめんだなも、かってにとなりでいて」

たぬきち「ぼく、かえるだなもね」

あさみ「……あさみ」

たぬきち「?」

あさみ「わたしのなまえ」

たぬきち「そうだなもね」

たぬきち「ぼくはたぬきち! よろしくだなも」

あさみ「……うん」

たぬきち(少しだけ、なかよくなれたかな)

たぬきち「じゃあ、また」

あさみ「……うん」



次の日

たぬきち「きょうも絵を描いてるだなも?」

あさみ「……うん」

たぬきち「描きおわったら見せてだなも」

あさみ「……うん」

数時間後

たぬきち「ふう、ぼくのおみせの間取り図、こんなもんでいいかな」

たぬきち「くらくなってきただなも。そろそろ帰ろうかな」

クイッ

たぬきち「?」

あさみ「……かけた」



たぬきち「これ、エプロンだなも?」

たぬきち「かっこいいだなも! 最高だなも!」

あさみ「///」

あさみ「よかった」

たぬきち「こんなエプロンきて、おみせができたらさいこうだなも!」

あさみ「……そっか」

あさみ母「あなた、最近楽しそうね?」

あさみ「そう?」

あさみ母「なんかええことあったん?」

あさみ「べ、別にないわ」

あさみ母「あははww あんたも嘘が下手やねww」

あさみ「嘘ちゃうもん!」

あさみ母「まあでも、友達は大切にしなよ」

あさみ母「友達だけじゃなくて、家族もね」

あさみ「わかっとるよ……」

あさみ母「うんうん。よろしい」

あさみ母「ごほっ、ごほっ」

あさみ「おかあちゃん? だいじょうぶ?」

あさみ母「平気よ。ただの風邪よ」

数か月後

たぬきち(あさみちゃんと出会って数か月。少しずつあさみちゃんもぼくにいろいろなことをはなしてくれるようになっただなも)


あさみ「妹がなあ、さいきんちょっとずつコトバがいえるようになってきたんよ!」

たぬきち「そういえばあさみちゃん、姉妹がいたんだなも」

あさみ「うん。二人いもうとがおるんよ。ケイトときぬよ」

たぬきち「きょうだいがいるのはうらやましいんだなも」

あさみ「へへ、ええやろww」

あさみ「いつか3人でおかあちゃんのおみせが手伝えたらええんやけどね」

たぬきち「すてきなゆめだなも」

たぬきち「おうえんするだなも」

それから数年後

あさみ「ふんふん」カタカタ

ケイト「ありゃ、おねえちゃんなに作ってるん?」

あさみ「み、みんといてよ!」

きぬよ「わかった! それたぬきちさんのやろ!」

あさみ「もう! うるさい! はなれて!」

あさみ母「こらこら、ケンカしないの……ごほっごほっ」

ケイト「おかあちゃん、まだカゼなん?」

あさみ「長くない?」

あさみ母「ええんよ。気にせんといて。仕事には差し支えんようにするから」

きぬよ「お母ちゃんやし、気合いで治せるやろ!」

あさみ母「当たり前やろ!」

あさみ(……なんか心配やな)

あさみ「でなあ、妹二人がほんまにやんちゃで大変なんよ!」

たぬきち「あさみちゃんは面倒見がいいから、色々と大変そうだなも」

あさみ「あーあ。うちもたぬきちさんみたいなお兄ちゃんがほしかったわ」

たぬきち「あはは、それはどうもだなも」

たぬきち「……ふう」

あさみ「どうしたん?」

たぬきち「ううん。なんでもないだなも」

  キラキラ

たぬきち「?」

あさみ「あ! 流星群や!」

たぬきち「おねがいごとしなきゃだなも!」

あさみ「うちも!」

たぬきち「……」

あさみ「……」

たぬきち「……」

たぬきち「あさみちゃん、大分ながいなもね」

あさみ「たぬきちさんこそ」

たぬきち「なに願ったんだなも?」

あさみ「言わんわ! 恥ずかしい!」

たぬきち「うーん。じゃあこういうのはどうだなも?」

あさみ「なに?」

たぬきち「手紙に書いて埋めるだなも」

あさみ「うちの夢を? それでどうするん?」

たぬきち「数年後に確認し合うだなも。そんで、お互いの夢がかなってるかどうかも確かめるだなも!」

あさみ「それ面白そうやね!」

あさみ「私な、この村をかわいい服でいっぱいにするのが夢やけん、それを書いたらええんやな」

たぬきち「あさみちゃん、言っちゃってるだなも!」

あさみ「あ!」

たぬきち「まったく。ぼくの世界一大きな店を作る夢に比べたら、小さな夢だなもね」

あさみ「たぬきちさんも言ってます!」

たぬきち「あ!」

たぬきち「……まあ、いいだなも。この夢も書いて、他の夢も書いておくだなも」

あさみ「他の夢もあるんやね」

たぬきち「あさみちゃんにはないんだも?」

あさみ「そうやね……あるにはあるし、書いてみるな」

たぬきち「ふふふ。叶ったらいいだなもね」

あさみ「ふふっ。そうやね」

たぬきち「でも、この村は僕には狭すぎるだなも。夢の実現のためには、僕はこんなところに収まる器じゃないだなも」

あさみ「えーww またそんなんいうてww」

たぬきち「お金より夢は大切だなも。でもその夢のためには努力が必要なんだなも」

あさみ「さすがたぬきちさんやね」

あさみ「がんばってな」

たぬきち「ありがとうだなも!」

あさみ(随分帰るんが遅くなったわ)

あさみ(みんなもう寝とるよな)

あさみ「ただいまー」

ケイト「姉ちゃん! お母ちゃんが! お母ちゃんが!」

あさみ「え!」

あさみ(おかあちゃんは、いつの間にか心臓が止まっていたらしい)

あさみ(もともと病気だったらしく、ずっと病院にもいかずに放置したためだとか)

あさみ(相談してくれたらよかったのに)

あさみ(気づかんうちもあほや……)

きぬよ「姉ちゃん、このお店、どうする?」

あさみ「決まってるやろ」

あさみ「うちらで続けるで」

ケイト「ほんまにいっとる!?」

あさみ「当たり前やろ」

あさみ「お母ちゃんが続けてた店、うちらが守らないかんやろ」

ケイト「うちにはうちの夢があるんや」

ケイト「この店との縁がそんなんしたら切れんくなるわ」

ケイト「お母ちゃんのことはつらいし、ここでおったらもっと辛くなる」

あさみ「ケイト、あんたまさか」

ケイト「うちは出ていく」

あさみ「ちょ、待ってケイト!」

ケイト「嫌や」

ケイト「こんな汚い店、うちの器じゃない」

あさみ「は!?!?」

あさみ「あんた、もうええわ」

あさみ「出ていき」

きぬよ「ちょ、二人とも!」

ケイト「もう戻ってこんけんね!」

翌日

あさみ(言いすぎてしまったやろか……)

あさみ(誰かに相談した方がええかな)

たぬきち「」

あさみ「たぬきちさん!」

あさみ「なあ、たぬきちさん」

あさみ「あれ」

あさみ「その荷物、なに?」

たぬきち「ぼく、ここを出ることにしただも」

あさみ「え」

たぬきち「商売のことに、真剣に向き合うために、都会に行くだなも」

あさみ「そう……なんや」

あさみ「うん。わかった」

たぬきち「あんまりびっくりしないんだなもね」

あさみ(びっくりしとるわ)

あさみ(しすぎて泣きそうやわ)

あさみ「たぬきちさん、戻ってくるん?」

たぬきち「わからないだなも」

あさみ「……そっか」

あさみ「じゃあ、さよなら」

たぬきち「……うん」

あさみ(……みんな、いなくなっていく)

あさみ(ケイトも……たぬきちさんも……)

今日はここまでにします。
たぬきちとあさみさんの話をオリ展開含めて少しまとめてみたくて書きました。
またよろしくおねがいします

おつおつ

おい森であさみの過去話が聞けたの最近知ったわ

あさみ(たぬきちさんが行ってからもう数年になる)

あさみ(元気にしとるんやろうか)

あさみ(夢はもう、つかんだんやろうか)

カタカタカタ

きぬよ「おねえちゃん」

あさみ(うち、あの人が帰ってくるん、待ってるんやろうか)

あさみ(もう帰ってこんのかもしれんのに)

きぬよ「お姉ちゃん!」

あさみ「あ! きぬちゃん」

きぬよ「おねえちゃん、ここんところずーっとそんな感じやで」

きぬよ「仕事のペースも落ちてるで」

あさみ「か、かんにんな……」

きぬよ「たぬきちさんのこと、まだ気にしてるんやろ」

あさみ「……そんなわけないやろ」

きぬよ「じゃあ、その作業服、誰のための服なん?」

あさみ「……こんなん」

あさみ「なんでもないよ」

あさみ「ごめん、ちょっと外の空気吸ってくる」

バンッ

きぬよ「ちょっと、お姉ちゃん!」

カランカラン

きぬよ「あ、お客さんやで! お姉ちゃん!」

みしらぬネコ「?」

みしらぬネコ「なんか困ってる? 俺で良ければ相談に乗るよ」

きぬよ「……別に、お客さんには関係のないことです」

みしらぬネコ「あら、そうなんだ」

みしらぬネコ「じゃあこの赤と黒のチェックの服ちょうだい。おしゃれだね、これ」

きぬよ「これは、お姉ちゃんのデザインなんよ」

みしらぬネコ「ふーん」

みしらぬネコ「すごいね」

村の外れの川

あさみ「こんな服……作るんやなかった」

あさみ「もうあの人は、戻ってこんのや」

ビリビリ

あさみ「もう、この仕事も辞めようかな……」

みしらぬネコ「ありゃりゃ、もったいない」

あさみ「え?」

みしらぬネコ「その服、全部やぶいちゃうつもり?」

あさみ「え……」

みしらぬネコ「よかったら、俺もらっちゃっていい?」

あさみ「だって、これ……」

みしらぬネコ「そうやってしまうより、誰かの手に渡った方がいいでしょ」

みしらぬネコ「金は天下の回りもの。服は天下の回りものってね」

あさみ「……はい。わかりました」

あさみ「こんなんでよければ」

みしらぬネコ「どうもありがとうね」

みしらぬネコ「もう俺、この村出るから。いい思い出にとっておきたかったんだ」

あさみ「そうなんですね」

みしらぬネコ「ところでさ、この村って服屋以外にお店ってないの?」

あさみ「……ないです」

あさみ「今は」

みしらぬネコ「今は?」

あさみ「はい。今のところは」

都会

たぬきち「……ちょっと待つだなも! 絶対に返すって約束しただなも!」

たぬきち「君の夢のためにと思って、貸したお金だなも! なんで踏み倒すだなんて!」

たぬきち「もしかして、君の借金、全部僕が!?」

たぬきち「そんな!」

たぬきち「ちょっと待つだなも! 電話を切ろうとするなだなも!」

ツー ツー ツー

たぬきち(お金より夢が大切だと思ってたのに)

たぬきち(いっぱい僕がためたお金、全部もってかれただなも)

たぬきち(それより、借金、どうしようか……)

たぬきち(あんなに啖呵切ったのに、今更村には戻れないだなも)

たぬきち(いっそ身投げでも)

みしらぬネコ「なにしょぼくれちゃってんの?」

たぬきち「誰だなも」

みしらぬネコ「別に名乗るほどの者じゃないよ」

みしらぬネコ「君を探してたんだ。君、たぬきちくんでしょ?」

たぬきち「ぼくを?」

みしらぬネコ「君宛のものだよ」

スッ

みしらぬネコ「この服に、君の名前が刺繍されてた」

たぬきち「この服」

たぬきち「もしかして、茶色いハリネズミの女の子が持っていただなも?」

みしらぬネコ「さあ、どうだったかな」

みしらぬネコ「あんな素敵な服を作る子を、悲しませたままじゃ、いけないなと思ったからね」

たぬきち「……」

たぬきち「知ったような口をきくなだなも」

みしらぬネコ「あはは! ごめんごめん!」

みしらぬネコ「でもさ、あんな素敵な子に思われてるだなんて、幸せだね、君は」

たぬきち「……」

みしらぬネコ「色々忙しいのはわかるけどさ、大切なことは忘れないようにね」

みしらぬネコ「それじゃ、俺もう行くから」

たぬきち「……」

たぬきち「そういえば、あの子の誕生日、もうすぐだっただなも」

ぺりお「おとどけものでーす!」

あさみ「はーい」

あさみ「誰からやろ」

ビリビリ

あさみ「あ……はさみ」

【誕生日おめでとうだなも。僕は僕なりにがんばるだなも。そっちもがんばって】

あさみ「……覚えてて、くれたんや」

たぬきち(強がって、なけなしのベルはたいて買ったはさみ)

たぬきち(あさみちゃんは喜んでくれただなもか)

ドンドン

借金取り「おい! 金返せ! いるんだろ!!」

たぬきち(……もう、ここでは暮らせないだなも)

たぬきち(窓から逃げるしかないだなも)

ガラッ

借金取り「まてやごるあああ!」

たぬきち「やばい! バレただなも!」

たぬきち「このままじゃ捕まってしまうだなも!」

ブロロロロ

たぬきち「しかも車まで来ただなも!」

たぬきち「え、タクシー?」

かっぺい「お客さん、この人かい?」

みしらぬネコ「そうだよ! ほら、たぬきち! 乗って!」

タクシー内

たぬきち「……助かっただなも」

みしらぬネコ「いやあ、よかったよかった」

たぬきち「どうして僕を助けただなも?」

みしらぬネコ「いや、別に?」

みしらぬネコ「君が困ってそうだったからさ」

みしらぬネコ「俺、困ってるやつ見捨てられないんだよね」

たぬきち「……」

たぬきち「別に、自分だけでも切り抜けただなも」

みしらぬネコ「君、素直じゃないって周りから言われてない?」

たぬきち「……」

たぬきち「このタクシー、どこに向かってるだなも?」

みしらぬネコ「どうぶつ村だけど」

たぬきち「待つだなも! 僕は今更故郷に帰るわけには!」

みしらぬネコ「あの村、お店ないんだよね」

みしらぬネコ「あれじゃあ、誰か来た時、買い物するところがないって、困るだろうなあ」

たぬきち「……」

ブロロロロ

かっぺい「ここでええだか?」

みしらぬネコ「うん! ありがとうね!」

たぬきち「君は降りないんだなも?」

みしらぬネコ「うん。ちょっと探さなきゃいけない人がいるから」

たぬきち「探さなきゃいけない人?」

みしらぬネコ「まあね」

たぬきち(今更こんなボロボロの一文無しで帰ってきても)

たぬきち(みんなにどんな顔されるか)

あさみ「あ」

たぬきち「あ」

あさみ「たぬきちさん……」

たぬきち「」プイッ

あさみ「夢をもって外にでたぬきちさんはすごいとおもう」

あさみ「うち、またたぬきちさんの顔が見れて、うれしい」

たぬきち「うるさい」

あさみ「え」

たぬきち「何が夢だなも」

たぬきち「夢なんか、お金の前じゃ、無力なんだなも!」

あさみ「ちょっと、たぬきちさん」

たぬきち「もうぼくに、かまわないでほしいだなも!」

へえ、君、住むところさがしてんの?

俺ね、ちょっとお勧めのところ知ってるんだ。

素敵な村だよ。

きっと新しい、素敵な人生が待ってるよ。

大丈夫。タクシーで行けば着く距離さ。

それに、素敵なお店もあるんだ。

是非君が行って、お買い物をいっぱいしてあげてよ。

すっごい、いい人たちだからさ。

俺?

俺は別に名乗るほどのものじゃないよ

それより、君の名前は?

今日はここまで

ノシ

>>28 
>>29
読んでくれてありがとうございます。
あさみさんのエピソードいいですよね。

あさみ「たぬきちさん、おる?」

たぬきち「なんだなも」

たぬきち「僕は具合が悪いんだなも。帰ってほしいだなも」

あさみ「お店はこの村でせんの?」

あさみ「たぬきちさん、この村でもできることはあると思うで」

あさみ「夢、あきらめたらあかんよ」

たぬきち「だから昨日も言っただなも」

たぬきち「夢なんてお金の力にはかなわないんだなも」

あさみ「……そう」

あさみ「じゃあ、うち帰るけんな」

あさみ「お店の仕事もあるし」

たぬきち「……」

あさみ「また来るね」

たぬきち「……」

たぬきち(もう引きこもってどれくらい経っただなもか)

たぬきち(僕の親も都会に出る前に亡くなってるし)

たぬきち(いよいよ本当の孤独だなも)

たぬきち(親が残してくれたものは、この店と)

たぬきち(もともと倉庫に使ってた家だけ)

たぬきち(でも暮らすためにはお金がいるだなも)

たぬきち(まずは村にある素材を使って、道具を作るだなも)

たぬきち(とりあえず釣竿はいるだなもね)

たぬきち(すると、あれも、これも、売れるかもしれない)

たぬきち(あれ)

たぬきち(なんだか楽しくなってきただなも)

たぬきち「ありがとうございましたー!」

たぬきち「ふう」

たぬきち「やっぱり商売が肌に合うだなもね」

たぬきち「でも、こんなちまちまとした売り上げじゃ、大成功には程遠いだなも」

プルルルル

たぬきち「はいもしもし。こちらたぬき商店」

たぬきち「え? うちの村に引っ越しだなも?」

あさみ(たぬきちさん、あの人間さんが引っ越してきてから、すごくお店が繁盛してるみたい)

あさみ(表情も少しずつやわらかくなってる)

きぬよ「お姉ちゃん最近機嫌ええな」

あさみ「そ、そうかな」

カタカタカタ

きぬよ「お姉ちゃん、その服売り物? えらいサイズが大きいけど」

あさみ「べ、べつに。なんでもないよ」

たぬきち「くしゅん!」

たぬきち「ふう……随分寒くなってきただなも」

たぬきち「売り上げも上がってきたし、そろそろ改装を……」

カランカラン

たぬきち「いらっしゃいませー」

あさみ「こんにちは」

たぬきち「あさみちゃ、さん……」

たぬきち「どうしただなも?」

あさみ「お店、うまくいってるみたいやね」

たぬきち「あの人間さんが来てくれたおかげだなも」

あさみ「服、ぼろぼろやないですか」

たぬきち「別に、気にしてないだも」

あさみ「この服、よかったら、もらってくれん?」

あさみ「たまたま作ったけん」

たぬきち「これ、冬服だなも」

たぬきち「いいんだなも?」

あさみ「うん」

あさみ「あ、じゃあうち、もう行くけん」

たぬきち「あ、ちょ」

たぬきち「行っちゃっただなも」

たぬきち「……」

たぬきち「やっぱりあの子の服は最高だなも」

しばらくして

たぬきち「また改装することになっただも!」

たぬきち「今度はスーパーだなも!」

あさみ「スーパー用の制服、作ったで」

たぬきち「あさみちゃん、いいんだなも?」

あさみ「ええ、たまたまなんで」

しばらくして

たぬきち「今度はデパートになるだなも」

あさみ「服作ったで」

たぬきち「……別にいつも気を遣わなくていいのに」

あさみ「うふふ、ごめんなさい」

あさみ(本当にうれしい時ほどそうなるの)

あさみ(かわいいなあ、たぬきちさん)

しばらくして

たぬきち(商売も楽しいけど)

たぬきち(家を売るほうがもうかるのがわかっただなも)

たぬきち(でもそれには、もっと顧客が集まるところに行かないと)

たぬきち(商店街がある村が少し離れたところにある)

たぬきち(そこで不動産を開けば)

しばらくして

たぬきち(商売も楽しいけど)

たぬきち(家を売るほうがもうかるのがわかっただなも)

たぬきち(でもそれには、もっと顧客が集まるところに行かないと)

たぬきち(商店街がある村が少し離れたところにある)

たぬきち(そこで不動産を開けば)

?「あのー」

?「これ買い取ってもらえます?」

たぬきち「あーはいはい、化石だなもね」

たぬきち(あの人間さん、ここ最近化石売りにくるだけだなも)

たぬきち(正直もう別の事業に)

たぬきち(あれ、この化石、何か手紙みたいなのが挟まってるだなも)

たぬきち(これ、なんか見覚えが)

たぬきち「僕、引っ越すことにしただなも」

あさみ「え」

あさみ「そうなん、やね」

たぬきち「不動産をすることにしただなも」

たぬきち「それには、この小さな村じゃやっていけないだなも」

あさみ「そっか」

あさみ「また、お別れやね」

たぬきち「何言ってるんだなも」

あさみ「え?」

たぬきち「君も一緒だなも」

あさみ「え、え、え、」

あさみ「どういうこと!?」

たぬきち「君も僕と一緒に引っ越すだなも」

たぬきち「金は出すだなも」

そうなんですよ。化石を発掘していたとき、タイムカプセルを掘り出した話をしたじゃないですか。

でもやっぱりあのタイムカプセルが気になりましてね、私、もう一回掘り出したんです!

そしたらですね! ホホーッ!

カプセルの手紙がなくなってたんですよ!

どなたか掘り返したんですかね。

なんでもあの手紙、何か文字を消した跡があったみたいで

そこに何が書いてたか、調べたかったんですけどね。

ちいさくても すてきなおみせをもちたい

そして、たぬきちさんのちかくで、ずっといたい




おおきくて、なんでもうってる おみせをもちたい
あさみちゃんのふくをきて はたらきたい

次回
たぶん最終回

ノシ

数年後

たぬきち「はいはい、新築のご相談だなもね」

たぬきち「うちの村、土地はまだ余ってるから、全然問題ないだなも」

たぬきち(不動産業も軌道に乗ってきただなも)

ホンマさん「たぬきちさん、その服大分古びてますね?」

ホンマさん「新しいのに変えたらどうです? いい店紹介しますよ?」

たぬきち「いいだなも」

たぬきち「お気に入りだなも」

その日の夜

みしらぬネコ「おお! 前の村からいなくなったと思ったら!」

みしらぬネコ「こんなところでいるとはね」

たぬきち「ああ、あなただなもか」

たぬきち「あの時はどうもだなも」

みしらぬネコ「いいってことよ」

たぬきち「今日はどうしてここに?」

みしらぬネコ「ちょっと訳ありでね」

あさみ「ことの、帰ってきてくれてありがとうね」

ことの「別にええよ。気にせんとって」

あさみ「それより、どうしてここが?」

ことの「案内してくれた男の人がいたの」

ことの「君のいる場所はここだって」

あさみ「そうなんや」

あさみ「親切な方やね」

みしらぬネコ「それより、不動産始めたんだね」

たぬきち「まあね」

たぬきち「人の暮らしを支える仕事だなも」

たぬきち「やりがいがあるだなも」

みしらぬネコ「そっかそっか」

みしらぬネコ「でも君のことだ」

みしらぬネコ「本当にやりたいこと、また出てきてるんじゃない?」

たぬきち「……」

たぬきち(本当にやりたいこと)

たぬきち(実は頭によぎっていること……)

たぬきち(僕は、みんなのくらしづくりを手伝いたい)

たぬきち(たとえばそう、無人島とか)

しずえ「無人島、ですか」

たぬきち「そうだなも。そこで新しい事業をしようかなと、思って」

しずえ「なるほど」

たぬきち「無茶だなもね」

しずえ「いえいえ、たぬきちさん!」

しずえ「素敵な夢だと思いますよ!」

グイッ

たぬきち「近い! 近いだなも!」

あさみ(ふふふ。たぬきちさんの制服もそろそろボロボロになってくるころ)

あさみ(この記事ならこれから来る冬も越せるやろうし)

あさみ(きっと喜んでくれるはず)

あさみ「たぬきちさん!」

たぬきち「それでねしずえさん。僕の新しい生活に」

たぬきち「いつか君もサポートを」

あさみ「」

しずえ「え!? 私ですか!?」

あさみ(あの方は、しずえさん)

あさみ(この村に最近来た村長さんのサポートをしている……)

あさみ(そっか。家の紹介とかもしずえさん関わっとるし)

あさみ(たぬきちさんと距離が近づくのも当然)

あさみ(私の出る幕は、もうないのかもしれない)

あさみ(……)

あさみ「」ダッ

しずえ「?」

たぬきち「しずえさん、どうしただなも?」

しずえ「今、あさみさんがいたような」

たぬきち「あさみちゃ……さんが?」

しずえ「え? 今たぬきちさん、あさみちゃんって」

たぬきち「言ってないだなも」

しずえ「え、今だって」

たぬきち「言ってないだなも」

しずえ「……」

たぬきち「言ってないだなも」

しずえ「私何も言ってませんよ」

しずえ「私としては、無人島、面白そうだと思うんですけど」

しずえ「もう少し、この村で、村長さんを待たしてもらっていいですか?」

しずえ「村長、ずっと家から出てこなくて、いきなり私がいなくなったらさみしいと思うので」

たぬきち「そうだなもね」

たぬきち「わかっただなも」

きぬよ「あら、お姉ちゃんお帰り」

あさみ「……ただいま」

きぬよ「どないしたん? 元気ないけど」

あさみ「なんでもない」

あさみ「もうどうでもええわ」

きぬよ「たぬきちさんのことでなんかあったんやね」

あさみ「なんでわかるん」

きぬよ「お姉ちゃんが落ち込むのって、たぬきちさんのこと以外なかったもん」

きぬよ「よかったら、話してみてくれる?」

あさみ「……どこから話せば」

カランカラン

きぬよ「あら、いらっしゃ……まめきちちゃん!」

まめきち「どうもきぬよさん! こんにちは! あさみさんもどうも!」

きぬよ「今日はお買い物?」

まめきち「いいえ、別件です」

きぬよ「無人島?」

まめきち「はい! たぬきちさんが新しく立ちあげようか是非一緒に島でお店をしませんか?」

きぬよ「面白そうやねえ。お姉ちゃんは」

あさみ「ええわ」

きぬよ「え?」

あさみ「お断りします」

まめきち「そうなんですか!?」

まめきち「まあ、たしかに、不便な環境に身を置くことにはなりますし」

まめきち「こちらとしても、無理強いはしませんが」

まめきち「たぬきちさんが、是非とも、と」


あさみ「さっきお伝えしましたよね」

あさみ「お断りします」

きぬよ「ちょっとお姉ちゃん!」

きぬよ「いくらなんでもそこまで」

あさみ「……じゃあ、仕事があるので」

まめきち「は、はい」

まめきち「では、これで!」

バタン

きぬよ「ええの?」

あさみ「……うん」

数週間後

あさみ(……本当にたぬきちさん、行ってしもた)

あさみ(きぬちゃんも最近店におらんこと多いし)

あさみ(なんか本当に一人ぼっちになった気分や)

しずえ「あのー」

あさみ「は、はい!」

あさみ「あれ!? しずえさん!?」

しずえ「はい! ちょっと服見てみようかなって」

しずえ「最近仕事も減りましたしね」

あさみ「だってしずえさん、たぬきちさんと」

しずえ「私にも守りたいものはありますから」

しずえ「踏ん切りがついたらたぬきちさんの島に行こうかなって思ってます」

あさみ「踏ん切り?」

しずえ「ええ。踏ん切り、というか、諦めに近いかもしれませんが」

しずえ「あさみさんは、行かなかったんですね」

しずえ「たぬきちさん、エイブルシスターズがあれば、きっと素敵な島になるって、言ってましたよ?」

あさみ「……そうなんですね」

あさみ「でも、人なんてすぐに離れていきますから」

あさみ「私の大切な人は、みんな離れていくんです」

あさみ「だから……もうええんです」


カランカラン

きぬよ「ただいまー」

あさみ「あ、きぬちゃんお帰り」

きぬよ「たぬきちさんの島、行ってきたんやけど大変そうやったで」

あさみ「え?」

きぬよ「物も全然ないし、テントしか立ってないけんさ」

きぬよ「あれじゃあ、きついと思うわ」

あさみ「……」



まめきち「きぬよさん! ありがとうございます!」

つぶきち「きぬよさんだけでも来てくれるのなら!」

まめきち「僕らとしてもうれしいです!」

きぬよ「ええんよええんよ」

きぬよ「お姉ちゃんが行ってあげてってどうしても」

まめきち「え!? あんなに反対してたのに!?」

きぬよ「昔から素直じゃないんよ、お姉ちゃん」

きぬよ「誰かさんみたいにね」

たぬきち「……」

たぬきち「別に、きぬよさんだけでも来てくれるんなら、別にかまわないんだなも」

たぬきち「じゃあ、僕は仕事があるから」

きぬよ「そうなん? じゃあまたね」

たぬきち「あ、そうだ」

たぬきち「これ、あさみさんに」

スッ

きぬよ「あら、これ」

たぬきち「別に、他意はないだなも」



あさみ「おかえりきぬちゃん」

あさみ「結構売れたんちゃうん? あの時期には必要そうなやつをそろえといたし」

きぬよ「お姉ちゃんの予想ばっちりやったで!」

きぬよ「それよりお姉ちゃん、これたぬきちさんから!」

あさみ「なにかしら」

あさみ「なに? 機械?」

きぬよ「たしかなんて言ってたかな」

きぬよ「スマホってやつ?」

あさみ「スマホ? なにそれ?」

きぬよ「なんか電話とか色々できるんやって」

あさみ「へー」

プルルルル

あさみ「うわっ! なんか鳴った!」

きぬよ「お姉ちゃん! それが電話や! 出な!」

あさみ「う、うん!」

ピッ

あさみ「もしもし?」

たぬきち「もしもし、たぬきちだなも」

たぬきち「あさみちゃん?」

あさみ「あ、は、はい」

あさみ「あさみ、です」



たぬきち「ね? いいところだなも?」

あさみ「……うん」

たぬきち「風も気持ちいいし、ここならいい暮らしができるだなも」

あさみ「……そうやね」

あさみ「ここなら、私もお店、立ててもええかも」

たぬきち「別に気を遣わなくていいだも」

あさみ「別に使ってないわ」

あさみ「ここで店するわ、決めたで」

たぬきち「……別にどっちでもよかったのに」

あさみ「じゃあ、やめようか?」

たぬきち「もうすぐ夏が来るだなも」

たぬきち「夏服を準備しておいてくれるとうれしいだなも」

あさみ「ふふふ」

あさみ「任せてください」

あさみ「この島を、かわいい服で、いっぱいにしてみせるけんな」

たぬきち「じゃあぼくも、みんなが満足する世界一の島にしてみせるだなも」


あさみ「良い夢ですね。お金の方が大事だったんやないですか?」

たぬきち「もちろん大事だなも」

たぬきち「でも、夢も大事だなも」

たぬきち「自分の人生を、自分の物にするためにも」




キラキラ

あさみ「あ、流れ星」

キラキラ キラキラ キラキラ

あさみ「たくさん降るんやね」

たぬきち「いくつでも願い事が言えるだなも」

あさみ「たぬきちさん、なにを願うんですか?」

たぬきち「ナイショだなも」

たぬきち「あさみちゃんは?」

あさみ「もうかなってるから、ええかな」

たぬきち「ふふふ」

たぬきち「ならよかっただなも」

おわり

あつもりでもたぬあさが見られることを願っての自己満作品でした。
久しぶりのSSで楽しかったです。
またどこかで

ノシ

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