勇者「ダウトだ」 (188)
春らんまん。桜が街をピンク色に染めています。
柔らかな風が吹くこの季節ですが、勇者はどうお過ごしでしょうか。
国の情勢も悪化し、そろそろ旅立たれる頃でしょうか。
大変険しい道のりになるとは思いますが、是非旅路の最中にでも顔を見せてくれると嬉しく思います。
既に旅立たれている場合は、この想いが届いていることを願います。
決して最後まで諦めず邁進してくれることを私は願います。
天候不順のみぎり、どうかお体を大切になさってください。
かしこ
祖母より
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母「勇者ー。そろそろ時間よー」
勇者「わかってるよー。今行くー」カリカリ
勇者「……うん、最後の手紙が書けた」
勇者「おばあちゃん、……ぼ、僕、頑張るよ」
勇者「そして、絶対会いに行くからね」
勇者「……だから待っててね、おばあちゃん」
母「勇者ー」
勇者「…はーい。わかってるよー」
勇者「……締まらないなぁ、もー」
ガチャ
母「おはよう。やっと出てきたわね」
勇者(テーブルには飲みかけのコーヒー1カップと未使用の男物のカップが1カップ)
勇者(台所には既に食事を済ませたであろう母の食器が片付けられていた)
勇者「おはよう、母さん。旅立ちの日だっていうのに随分急かすね」
母「旅立ちの日だから急かすんじゃない」
勇者「……そんなに早く出てって欲しいの? 」
母「違うわよ。これから王様に会いに行くんでしょ? 遅刻なんてしたら恥ずかしいじゃない」
勇者「そんな理由で……。こっちは感傷に浸ってたのに 」
母 「それは魔王に完勝してからになさい」
勇者 「……」
母「……何よ、辛気臭い顔してたから元気付けようとしてるのに」
勇者「……心機一転頑張るよ」
母「それにしてもあなたも遂に旅立つのね。寂しいわね」
勇者「……本当に思ってるの?」
母「当たり前じゃない。旦那も旅に出て早15年。勇者も居なくなって、1人この家に残される悲しさがわかる?」
勇者 「……」
母 「……なんて勇者の方が大変よね。ごめんなさいね、私が弱音なんか吐いちゃって」
勇者「ううん、それは大丈夫だよ」
勇者(軽く化粧の施された母が伏し目がちに答える)
母「……そろそろ時間ね。頑張ってくるのよ。勇者」
勇者「……ありがとう、母さん。頑張ってくるよ」
母 「……ゆっくりでもいいから無事帰ってくるのよ。愛してるわ」
勇者 「……うん。じゃあ行ってくるね」
ガチャ
勇者(桜満開の中、家を後にした)
勇者(母を1人残し旅に出るのは不安だ)
勇者(20年一緒に過ごした母と離れるのも寂しい)
勇者(……だけど世界を救う旅をしなければいけない)
勇者(勇者として選ばれたからには世界を救いに行く義務がある)
勇者(戦いが終わるまでは弱音なんて吐いてはいけない)
勇者(自分にそう言い聞かせた)
勇者(そして、後ろ髪を引かれながらも歩を進めた)
勇者(母も同様に寂しく思ってくれているだろう)
勇者(……なんて)
魔王まで頼むぜ!
勇者「ダウトだ」
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勇者(まず空のコーヒーカップ)
勇者(あれは自分の為に用意されたものでは断じてない)
勇者(自分の為のものならば何故朝食が用意されていないのか)
勇者(母の分は既に片付け終わっているのに)
勇者(それに朝早くからしている化粧)
勇者(答えは明白だ)
勇者(これから誰が来るのだろう。それも父以外の男が)
勇者(あんなに家を早く出るよう急かして居たのも、家で落ち合う約束をしているからだろう)
勇者(……だから母は少しも悲しんでなんていないのだ)
勇者(寂しいなんて……帰ってくることを願ってる……愛しているなんて……)
勇者(そんなのは嘘だ)
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ガチャ
村人「お待たせ。遅くなったね」
母「いいのよ。丁度あの子も出ていった所だし」
村人「そうかそうか、それは丁度良かった」チッ、ジュッ
母「もう、煙草なんて吸って。うちには灰皿なんてないのよ」
村人「あー、ごめんごめん。でも寂しくなるんじゃない? 自分の子が旅立って行くのわ」スパー
母 「……そうね、だからあなたが慰めてね」
村人「お安い御用だよ!」
母「調子良いんだから、全く。はい、コーヒーと灰皿よ」コトッ
村人「おぉ、サンキュー。ってあれ、これ食器じゃないの? いいの、使って?」
母 「あの子の食器だけど……まぁいいわよ。だって」
母 「もう使うことないでしょ?」
勇者(この世は嘘まみれだ)
勇者(騙される方が馬鹿だと言うがそれは違うと思う)
勇者(騙されている方が幸せなのだ)
勇者(知らない方が良かった事なんてこの世には山程ある)
勇者(気づいたとしても黙っていた方が良い事なんて山程ある)
勇者(……だから自分を騙し、気づいていない振りを続ける)
勇者(騙している者も、騙されている者も幸せになれるから)
勇者(これはそんな嘘つき者達の嘘つき者達による嘘まみれの)
勇者(嘘つき物語だ)
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-王城・入口-
勇者(さて、城の入口までついたものの……)
兵士1「ふあぁぁあ」
兵士2「こらっ、もっと気を張らんか!」ボカッ
兵士1「痛っ!」
勇者(ちょっと早く着きすぎたかな……)
勇者「おはようごさいます、兵士さん」
兵士2「ん……? これはこれは勇者様! お早いお着きで!」
勇者「……え、ええ、まあ。王様に会うのに遅れる訳にはいかないですからね」
兵士1「流石だね、勇者様はこんな早くに。俺は眠くて……ふあぁぁ」
兵士2「いい加減にしろ! 勇者様の前だぞ!」ボカッ
兵士1「痛い! そんなに殴らなくても!」
勇者「あはは……、平和そうで何よりです」
兵士2「すみません、とんだ御無礼を! 新米なもので」
勇者「僕の事は気にしなくて大丈夫ですよ。それより通ってもいいですか?」
兵士2「もちろんです! どうぞお通り下さい!」サッ
勇者「ありがとうごさいます。それでは、見張り頑張ってくださいね」
兵士1「ありがとうございまーす。……ふあぁぁあ」
兵士2「お前は最後まで! ちょっと強いからといって図に乗りおって!」ボカッ
兵士1「痛いっ! だってこの国、何十年も魔物なんて襲って来たことないじゃないすか! それなのに見張りなんているんすか?」
兵士2「万が一危険があった時の為にいるんだろうが!」ボカッ
兵士1「痛っ! ……俺的には兵士さんが1番危険だっての」ボソッ
兵士2「何だと~?」グッ
兵士1「わあぁ! タンマタンマ! 謝りますから! だから殴らな……」
ギャアアアアアア
勇者「……ぼ、僕は何も見てない聞いてない」スタスタ
-王城・広間-
ガチャ
兵士3「これはこれは、勇者様。お待ちしておりました」
勇者「お出迎えありがとうございます。ちょっと早く着きすぎちゃいましたけど大丈夫ですか?」
兵士3「全然大丈夫ですよ。待機室がございますのでお時間までそちらでお休みになられますか?」
勇者「そうですね、そうします」
兵士3「かしこまりました。それでは、案内します」
勇者「いえ、お気になさらず。場所さえ教えて頂ければ大丈夫ですよ」
兵士3「お気遣いありがとうございます。でしたら、あちらを右に曲がって、その後……」
勇者(……しかし)
兵士4「ふあぁぁあ……」
兵士5「……zzz」
勇者(随分と兵士が待機しているな)
兵士3「……で、そこが待機室です。わかりましたか?」
勇者「え? あ、はい?」
兵士3「それでは私はこれで。何かありましたらお声かけ下さい」スタスタ
勇者「あ……」
勇者(まずい、全然聞いてなかった)
勇者(……けどまぁ、適当に歩いてたら着くでしょう)
勇者(流石に建物の中で迷うようなことなんて無いだろうし)
勇者(それに、本当に困ったら声かければいいしね)
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--
勇者(……さて)
勇者「ここどこだろう……」
スタスタスタ
勇者(おかしいな、さっきまではあってる気がしたんだけどな)
勇者(……気づけばなんか薄暗いところに出てるし)
勇者(このまま進んで大丈夫なのかな?)
勇者(それとも引き返した方が良いのかな?)
勇者(……けどここまで来たのに引き返すのもなんだかなぁ)
勇者(もしこの先が待機室だったら二度手間だし……)
勇者(うん、そうだよね。もうちょっとだけ先に進んでみよう)
勇者(もしかしたら合ってるかもしれないし)
勇者(……はぁ、早めに来ておいて良かったな)
勇者「……って、ん?」
勇者「なんだろう、この扉……」
勇者(見るからに頑丈そうな材質に厳重な鍵)
勇者(お城の華やかな雰囲気にはそぐわない無機質で飾り気のない扉だ)
勇者(余程大切な物を保管しているのか、或いは余程見られたくない物を隠してあるのか)
勇者(間違いなく1つ断言出来るのは……)
勇者「とりあえずここは待機室では無さそうだね……」
???「そこで何をしている!!」ジャキ
勇者「ひぃっ! 私は決して怪しい者では……!」
???「不審者は決まってそう言う! ……って、なんだ、勇者じゃないか」
勇者「違うんです、誤解なんです! ……って、兵長さん?」
兵長「おぉ、勇者、久しぶり……って何!? 勇者じゃないのか!!」ジャキ
勇者「違います! 誤解ってそっちの方じゃなくて……って違いますも勇者じゃないっていう意味じゃなくて!」
兵長「あっはっは! わかってるよ。さっきのは嘘だよ、冗談だよ」
勇者「……洒落にならない殺気でしたけどね」
兵長「しかし久しぶりだなー。で? 勇者が何でこんな所にいるんだ?」
勇者「……ちょ、ちょっとお城を探索してて」
兵長「ふーん…」
勇者「……それよりも兵長さんはこんな所で何してるんですか?」
兵長「俺か? あまりにも暇なんで城の見廻りだよ。お前みたいな不審者がいないかのな」
勇者「不審者じゃないですよ! ……それで、ここは何の部屋なんですか?」
兵長「ここか? さあ、俺にもわからんな」
勇者 「兵長さんでも知らないんですか? 随分と長い事ここで働いていらっしゃるのに」
兵長「そうだな、お前の親父と変わって15年にもなるが……って、あー」
勇者「……いえ、大丈夫ですよ。お気になさらず」
兵長「…悪い。でもこの部屋は俺も気になって色んな人に聞いたが、誰一人としてさっぱり知らねえんだよ 」
兵士「まぁ、相当な財宝を隠しているとか、軍の実験施設だとか、昔死んだ王が化けて出るから封印しているとか噂は色々あるけどな」
勇者「へぇ……」
兵長「しかも、この部屋の謎を知ったやつが突然姿を消したという噂もある」
勇者「なるほど……。神隠しの噂まであるんですね」
兵長「ああ。だから触らぬ神になんとやらだ。知らない方がいい事だってあるからな」
勇者「……」
兵長「……さて、ちょっとお喋りし過ぎたな。俺はそろそろ行くぜ」
勇者「あ、ちょっと待って下さい。最後に1つだけお聞きしたいんですけど」
兵長「なんだ? といっても、他にこの部屋のことなんて知らないぜ」
勇者「いえ、この部屋のことじゃなくて…… 」
兵長「じゃあなんだ?」
勇者「えっと……、その……」
勇者「……待機室の場所を教えて下さい」
-待機室-
ガチャ
兵長「ほれ。ここが待機室だ」
勇者「すみません、ありがとうございます……」
兵長「まったく。迷子になったんなら最初からそう言えよ」
勇者「い、いえ、ただお城の探索をしてただけであって、決して迷子になんて……!」
兵長「嘘こけ。全く、幾つになっても変わらんな」
勇者「え?」
兵長「昔も良く城の中で迷子になってわんわん泣いてただろ」
勇者「そ、そんな昔のことなんて一々覚えてないですよ!」
兵長「嘘こけ。はぁ、今度こそ俺は行くぞ」
勇者「あ、ありがとうございます。で、でも僕は本当に迷子になんて……!」
兵長「わかったわかった。そういう事にしておくよ。嘘の付き方も昔のまんまだな」
勇者「うっ……」
兵長「まぁ頑張れよ。無事帰ってくることを祈ってるぜ」
勇者 「ありがとうございます、兵長さん」
兵長「あと……」
勇者「はい?」
兵長「もう少し自分に正直に生きたらどうだ? 親父の後を追うのはわかるけどよ」
勇者「そ、そんなことは……」
兵長「嘘こけ。きっとお前の親父も自分らしく生きてくれって思ってると思うぞ」
勇者「……」
兵長「……まぁお前がそういう風に生きるって決めたなら止めないけどよ。頑張れよ、じゃあな」
ガチャ
勇者「……」
勇者(自分に正直に……自分らしく……か)
勇者(とりあえず……)
勇者「時間までに待機室に着けて良かった……」
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コンコンッ
勇者「はい」
ガチャ
兵士3「失礼します。お時間になりました」
勇者「あ、はい、わかりました」
兵士3「王がお待ちしております。王の間へお越しください」
勇者「はい、わかりました」
兵士3「……」
勇者「……」
兵士3「……あれ、向かわれないのですか?」
勇者「……あれ、案内してくれないのですか?」
兵士3「え? ですが王の間はすぐそこで……」
勇者「……いえ、一応念の為にお願いします」
-王の間-
王「良くぞ来てくれた、勇者よ。楽にするが良い」
勇者「はっ、ありがとうございます」
王「さて、早速本題に入るが、今日ここに来てもらったのは他でもない。そなたを勇者として任命する」
勇者「はっ、ありがたき幸せ 」
王「これが勇者の紋章じゃ。受け取るが良い」
勇者「ありがとうございます」
王「うむ。よく似合っておるぞ。流石、前勇者の息子じゃな」
勇者「……あ、ありがとうございます」
王「さて、早速だが魔王討伐に向かって貰うぞ」
勇者「かしこまりました。……ところで、王様。1件よろしいでしょうか」
王「……なんじゃ、言うてみい」
勇者「ありがとうございます。通例では、餞別と仲間の紹介をしてくださるとお聞きしたのですが…… 」
王「……おぉ。そうじゃったな、すまない。今用意するからちと待っておれ」
勇者「……かしこまりました」
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王「待たせたな。勇者よ」
勇者「……いえ、滅相もありません」
王「まずは餞別じゃ。武器は自前のがあるから良かろう」
勇者「……はい、ありがとうございます」
王「それと仲間の件じゃが……良いぞ、入って参れ」
ギィ
剣士「うーす。突然呼び出してなんの用ですか、王様」
勇者「……さっきの門番の」
兵士1「おぉ、勇者様じゃねえか! 朝振り! でも俺が呼ばれたのと何の関係が……って、もしかして朝の件で怒られんのか!?」
王「なんじゃ知り合いなのか。なら話が早い」
兵士1「ん?」
王「それと朝の件とはなんじゃ」
兵士1「え? いや、何でもないっすよ、あはは……」
王「ふむ、まぁ良い。何があったかは知らんが不問としよう」
兵士1「……ふぅ、助かった」
王「勇者よ、この剣士と共に魔王討伐に行くが良い」
勇者「……かしこまりました」
剣士(兵士1)「……ん? 何? どゆこと?」
王「剣士よ」
剣士「はぁ」
王「そなたに魔王討伐を命じる。勇者と共に魔王を討ち取って参れ」
剣士「はぁ……。って、本当か!?」
王「お主にも餞別金を授けよう。武器は支給の物を持っていくがいい」
剣士「ありがとうございます!」
王「……さて、この国の平和はお主らにかかっておる。必ずや魔王を倒してくれることを期待しておるぞ。さて、用件は以上じゃ。下がって良いぞ 」
剣士「うぃっす! 失礼します! 」
勇者「……失礼します」
バタン
剣士「……おいおいおい、マジかよ! 俺が魔王退治に任命されるなんてよ!」
勇者「……」
剣士「しっかし、王様も人が悪いな。今日の今日まで黙ってるなんてよ」
勇者「……」
剣士「いやー、それにしても鼻が高いねー。軍に入ってまだ間もないってのに、こんな大抜擢。相当、俺の実力が買われてんのかね」
勇者「……」
剣士「今日から出発するんだろ? だったら急いで準備しなくちゃな」
勇者「…… 」
剣士「ところで、王様はいくらくれたんだ……って、500Gかよ、しけてんな。まっ、貰えないよりはマシか」
勇者「……」
剣士「……なんだよ、勇者様、だんまり決め込んじゃって。俺一人で喋ってばっかで馬鹿みてえじゃねか。何か言ってくれよ」
勇者「……だ」
剣士「え? なんだって?」
勇者「ダウトだ 」
剣士「……は? いきなりなんだ?」
勇者「王様の発言のことですよ。何もかも嘘まみれです」
剣士「あ? 一体どういうことだ?」
勇者「この国の平和がかかってる、期待しているなんてのは真っ赤な嘘ですよ」
剣士「はぁ? 何でだよ。王が国の平和を願ってないっていうのか?」
勇者「そもそも願う必要がないんですよ」
剣士「え?」
勇者「それこそ朝、剣士さんが言ってたじゃないですか」
剣士「は? 俺が何を……って、ああ、そういうことか」
勇者「そう、何十年も魔物が襲ってきて無いんですよ。それなのにわざわざ勇者なんか送り出す必要がないんですよ」
剣士「…なるほどな、一理ある。だがよ、未来の安全を見据えて送り出したってことはねえか?」
勇者「だとしたら尚更おかしいですよ。魔王を倒すのに500Gで何の準備が出来るっていうんですか」
剣士「……確かにな」
勇者「そ、それに送り出す人材が、僕と剣士さんの2人っていうのもおかしいんですよ」
剣士「……何でだよ。それは俺らの実力が認められたからかもしんねえだろ?」
勇者「ま、万が一、仮に剣士さんはそうだったとしても……僕は前勇者の子供ってだけです。軍にも所属している訳じゃないのに実力なんて分かるわけないんです。それなら兵長さんとかを勇者に選ぶのが普通だと思うんですよ」
剣士「まぁ、確かに……」
勇者「兵長さんも暇そうにしてましたからね。それに剣士さんを魔王討伐のメンバーに決めたのもついさっきみたいですし」
剣士「……なんだって?」
勇者「魔王討伐の出発当日に任命するなんてありえないですよ、普通。王様に仲間を紹介してくれないんですかって聞いたら、今用意するって言ってましたからね」
剣士「……」
勇者「……ま、そもそも勇者っていう制度自体おかしいですけどね。本気で魔王を倒したいのなら、それこそ他の国の軍とか総動員して向かわせるべきですよ。2人程度で倒せっていうのが無茶な注文ですよ」
剣士「……違いねえな」
勇者「そう。だから期待してるだなんて真っ赤な嘘。王様は魔王を倒せるなんて微塵も思ってないんですよ」
剣士「……だったら俺らは何の為に魔王城に向かうんだよ 」
勇者「そうですね……、さしずめ…… 」
勇者「人柱って言ったとこですかね」
剣士「……」
勇者「まぁ、そこまでして送り出す理由はわからないですけどね。政治の絡みとか、他の国からの評判みたいなのがあるのかもしれませんが」
剣士「……」
勇者「……どうします、剣士さん? 今ならまだ断れるかもしれませんよ。王様も元々、1人しか送り出すつもりがなかったでしょうし」
剣士「……おもしれぇじゃねえか」
勇者「え?」
剣士「王の野郎舐めやがって……、良いぜ、上等だ」
勇者「剣士さん……?」
剣士「やってやろうじゃねぇか、魔王退治! 絶対ぶっ倒してやる!」
勇者「え、いや、でも、本当にいいんですか?」
剣士「あぁ、俺は嘘が大嫌いだからな!」
勇者「…… 」
剣士「だから真実にしてやる」
勇者「え?」
剣士「だから、本当に魔王を倒して王に、魔王を倒せると信じていたぞって言わせてやる!」
勇者「……」
剣士「そしたら俺らは人柱なんかじゃなく、本当に勇者一行だ!」
勇者「……ふふっ」
剣士「……なんだよ、何が面白いんだよ?」
勇者「いえ、面白い考え方だなって思って」
剣士「あ? なんだ、馬鹿にしてんのか?」
勇者「いえいえ、そんなことないですよ。嘘を真実に変える……面白い考え方ですね」
剣士「嘘から出た実っていうだろ?」
勇者「……嘘も方便っていうのもありますけどね」
剣士「ひねくれてんな」
勇者「……剣士さんが真っ直ぐすぎるんですよ」
これ勇者は推察でダウトっていってるだけ?
勇者の能力的なもの?
剣士「まぁ良い。善は急げだ。とりあえず俺は悪を倒す準備をしてくるわ」
勇者「そ、そうですね、僕もやる事があるので後で合流しましょうか」
剣士「そうだな。じゃあ色々と終わったら国の入口のとこで落ち合おうぜ」
勇者「そうしましょう」
剣士「了解。じゃあまた後でな」
勇者「ええ、それでは」
スタスタスタスタ
勇者(……さて、こっちもやる事やらないと)
勇者(と言っても、手紙を出すくらいだけどね)
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-王国-
カタン
勇者(……手紙も無事投函し終わったし)
勇者(あとは伝書鳩が無事届けてくれることを祈るばかりだね)
勇者(旅立ちの準備は既に出来てるし入口の所で待ってよう)
スタスタスタスタ
勇者(……)
勇者(嘘を真実に変える)
勇者(絶対に魔王を倒してやる)
勇者(本当の勇者一行になる……か)
勇者(……あれだけはっきり言えるのは凄いね)
勇者(勇敢なのか、はたまた無謀なのか)
勇者(……何にせよ)
剣士「悪ぃ、遅くなったな」
勇者「あ、剣士さん。もう準備終わったのですね」
剣士「いや、結構時間かかったと思うぞ?」
勇者「え?」
勇者(……あ、本当だ。結構陽の位置がかわってる)
勇者(思ったより考え混んでいたみたいだ)
剣士「勇者? どうした?」
勇者「あ、いえ、ちょっと考え事をしていただけです。ぼ、僕も今さっきここに着いたところですよ」
剣士「おう、そうか。ところで何か悩んでんのか?」
勇者「え?」
剣士「いや、随分と難しい顔してたからよ」
勇者「あぁ……いえ、何でもないですよ」
剣士「そうか? しかし、お堅いな、勇者様はよ」
勇者「え? 何がですか?」
剣士「いやな、どんな縁であれ折角一緒に旅するのに、敬語だと距離を感じるだろ?」
勇者「……」
剣士「まぁ会ったばかりだし、気ぃ使うのもわかるが対して歳も変わんなさそうだしよ。もっとフランクに行こうぜ!」
勇者「……」
剣士「今日から俺らは仲間なんだからよ。もっと腹割って会話しようぜ!」
勇者「……そう……だね」
剣士「おう! その感じで仲良くやろうぜ、勇者よ!」
勇者「……うん、よろしくね、剣士」
剣士「あぁ! 絶対に魔王を倒して英雄になってやろうぜ!」
勇者「……」
勇者(勇敢で、仲間思いで、真っ直ぐで)
勇者(周りの人を勇気付けるような存在)
勇者(それはまさに……)
勇者「……君は勇者より勇者だね」
剣士「……は? なんだ、急に?」
勇者「言葉の通りだよ。もしかしたら君が本当の勇者なのかもね」
剣士「はぁ、何言ってんだ? 勇者はお前だろ?」
勇者「……形式上は…ね」
剣士「……悪ぃ、全っ然意味がわかんねえ 」
勇者「あはは、わかんなくてもしょうがないよ」
剣士「……それは俺が馬鹿だっていいてえのか?」
勇者「ち、違う違う。もし、僕が勇者に選ばれ無かったら、君が勇者だったのかもねっていう話だよ」
剣士「……余計によくわからん」
勇者「わかんないままでいてくれた方が嬉しいかな」
剣士「……謎かけか?」
勇者「知らないままの方が幸せなことだってあるんだよ」
剣士「は? 何でも知ってた方が良いに決まってるだろ?」
勇者「…知ってしまって、悲しくなって、自分にはどうしようもないことだとしも?」
剣士「だったらどうにかする方法を知ればいいだろ」
勇者「……うん、やっぱり君は勇者だよ」
剣士「は?」
勇者「ううん、なんでもないよ。真の勇者様」
剣士「なんだそれ。だったらお前は偽の勇者かよ」
勇者「……あはは、そうだね! 言い得て妙だよ」
剣士「俺からすればお前が妙な奴だよ 」
勇者「ふふっ、そうかもね」
剣士「変なやつ……。まっ、とりあえず元気になったみたいだし良かったよ」
勇者「……ありがとう、剣士」
剣士「おう、これからよろしくな。勇者」
勇者「うん、こちらこそよろしく。剣士」
剣士「……じゃあ行こうぜ。魔王討伐の旅によ!」
勇者「うん!」
勇者(こうして2人で街を出発した)
勇者(期待されてもいないだろう、魔王討伐の旅へ)
勇者(これから数多の困難が待ち受けているだろう)
勇者(幾度も挫けそうになるだろう)
勇者(だけど、なんとなくだけど……)
勇者(本当に、なんとなくだけど)
勇者(剣士がいればどうにかなる)
勇者(本当に魔王を倒せる)
勇者(……そんな気がした)
勇者(こうして2人は街を出発した)
勇者(嘘の勇者と実の勇者の旅が)
勇者(…嘘の勇者と実の勇者の物語が始まった)
今日はここまでにします!
また書き溜め出来たら更新します!
>>6
ありがとうございます! 頑張ります!
>>24
能力じゃなくて推察です!
>>34
すみません、安価ミスです
能力じゃなくて推察です
なるほど
ならダウトしてもホントの可能性とか実はもっと深刻なのを隠してるとかもあり得るのか
続き待ってますね
>>46-48
コメントありがとうございます!
再開します!
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--
-森-
ガァガァ
剣士「……なあ」
勇者「……」
剣士「……おい、勇者」
勇者「……はい」
剣士「一つ聞いていいか」
勇者「……はい」
剣士「俺たち隣の街に向かってたよな」
勇者「……うん、そうだね」
剣士「かれこれ、十数時間は歩いたよな」
勇者「……そうだね 」
剣士「迷ってないか、これ 」
勇者「気づいてたんならもっと早く言ってよ!!」
剣士「いや、だってお前がずんずん進んでいくから」
勇者「隣の街に行くだけなのに迷うなんて思わないじゃん! それに剣士も何も言わないから合ってるのかと思って……」
剣士「同じようなところグルグルし始めた辺りで流石に変だと思ったよ」
勇者「……とりあえず喰種が出なくて良かったよ」
剣士「腹はグルグル鳴ってるけどな」
勇者「空も真っ暗になってるしね……」
剣士「このままだと空腹で死ねるな」
勇者「……もう、いっそのことここで寝る?」
剣士「……そうだな。これ以上道に迷うのは御免だしな」
勇者「……ごめんなさい」
剣士「止めなかった俺も悪いしな。大丈夫だ」
勇者「……ありがとう。とりあえずここに泊まろうか」
剣士「だな。ただ明日からは俺が先頭な」
勇者「……はい」
パチパチ
剣士「しかし、初日から野営になるとは思わなかったぜ」
勇者「うっ……」
剣士「お前、相当方向音痴なのな」
勇者「ち、違うし! ちょ、ちょっと遠回りしてレベル上げしようとしただけだし!」
剣士「道中1匹も見なかっただろ」
勇者「……い、いや、ほら一応調査を……ね?」
剣士「無理があるだろ」
勇者「……ですよねー」
剣士「しっかし、この付近は本当に魔物いねえのな」
勇者「……そうだね。それこそ年に1回喰種が出るか出ないかだもんね」
剣士「それな。正直、魔物の被害も殆どねえのに魔王討伐って言われてもあんま実感湧かねえよなぁ」
勇者「ねー。そもそも、魔物が現れ出したのも割と最近だしね」
剣士「俺がまだ餓鬼の頃にはいなかったしな。10年ちょっと前とかだろ」
勇者「……そうだね。15年前だね」
剣士「しかし、なんでまた急に現れ出したのかね」
勇者「本当にね。ずっと昔に魔物は滅んだって本でも読んだのに」
剣士「あれか? 魔王が復活したとかそんなんか?」
勇者「復活?」
剣士「過去の勇者が命と引替えに魔王を封印したが、何年もの時を経てその封印が解けた……とかじゃね!?」
勇者「……うーん、どうなんだろう。もしそうだとしたら書物とかで残ってそうだけどね」
剣士「……現実的だなぁ。ただの想像だけど男の浪漫! って感じで良くなかったか?」
勇者「えっ? ……あ、あはは、そうかもね。そうだとしたら格好良いね」
剣士「だろ? そういうのちょっと憧れるよな…… 」
勇者「そ、そうだね…… 」
剣士「……なんかあんまピンと来てない感じだな」
勇者「そ、そんなことないよ。……でもまぁ、もしそうだとしたら魔王城から遠いこの辺が魔物少ないのも納得かもね」
剣士「……やっぱ現実的だな、勇者はよ」
勇者「あ、あはは……僕は命懸けで封印はしたくないからかな」
剣士「そりゃ俺も実際やるのは嫌だけどよ」
勇者「……まぁ考えてもわかるものじゃないしね」
剣士「そうだけどよ……ふああぁぁ」
勇者「……眠そうだね。そろそろ寝ようか」
剣士「ん、そうだな。明日もあるしな」
勇者「明日も大分歩くだろうしね」
剣士「だな……ふあぁぁ。じゃあ俺は寝るぞ」
勇者「うん。おやすみ、剣士」
剣士「……お前はまだ寝ないのか?」
勇者「もう少ししたら寝るよ」
剣士「了解。んじゃ、おやすみ、勇者」
勇者「うん、また明日」
勇者「……」
勇者「……軽く体を拭いたりしたら寝よう」
-翌朝-
勇者「……うぅん」ムクリ
勇者「……あれ、ここは」
勇者「……」
勇者「……あぁ、そっか。魔王討伐の旅に出たんだっけ」
勇者「……」
勇者(……剣士はまだ起きてこなさそうだね)
勇者「……とりあえず剣士が起きる前に身支度をしよう」
勇者(そういえば朝弱そうだったもんね)
勇者(これならゆっくり準備してても大丈夫そうだね)
勇者「……起こすのも悪いし、剣士が起きたら出発しよう」
------
----
--
勇者(準備が終わって大分経ったけど……)
勇者「……」
勇者(びっくりするくらい起きてこない)
勇者「……もうお昼になりそうなのに」
勇者「……」
勇者「……流石に起こそうかな 」
勇者「……このままじゃまた野宿することになるもんね」
勇者(剣士の寝てるテントに入ったは良いけど)
剣士「……ぐおおぉ」
勇者(物凄く気持ちよさそうに寝ている)
勇者(なんか起こすのが忍びない気持ちになるけど……)
勇者(このままじゃ永遠に起きて来なさそうだもんね)
勇者「……剣士、もう昼だよ。そろそろ起きて」ユサユサ
剣士「……うーん。あと5時間……」
勇者「そんなに待ってたら日が暮れるよ」ユサユサ
剣士「……ぐぅ」
勇者「剣士ー、起きてー」ユサユサ
剣士「……うぅん? ……どうした、勇者?」
勇者「どうしたじゃないよ。もう昼だよ。起きて」ユサユサ
剣士「……なんか彼女に起こされてるような感覚でいいな、これ」
勇者「……馬鹿言ってないで早く起きろっ」ポカッ
剣士「痛てっ! ……急に兵士さんに起こされてる感じになったわ」
勇者「全く……。やっと起きた」
剣士「……ふああぁぁ。おはよう、勇者」
勇者「おそよう、剣士」
剣士「……今何時だ?」
勇者「もう昼だよ」
剣士「あー、マジか」
勇者「大マジだよ。剣士、朝弱すぎだよ」
剣士「それな。昔からダメなんだよな」
勇者「……よくそれで兵士出来たね」
剣士「いつも兵士さんに叩き起されてたよ」
勇者「さっきのがデフォルトなんだね……」
剣士「むしろいつもより大分優しいな」
勇者「……今度からは本気で叩くことにするよ。とりあえず準備して。もう行かないとまた野宿だよ」
剣士「そうだな。すぐ準備するよ」
勇者「……2度寝しないでよ」
剣士「お待たせ」
勇者「いや、全然待ってないよ。身支度は随分早いね」
剣士「そうか?」
勇者「だってまだ10分くらいしか経ってないし」
剣士「皆こんなもんじゃね?」
勇者「……まぁ兵士やってたらそうなのかもね。じゃあ早速行こうか」
剣士「そうだな。……って、待て」
勇者「……ん?」
剣士「何ナチュラルに先歩こうとしてるんだよ」
勇者「……いや、明るいし迷いようないかなって」
剣士「お前に任せたらお先真っ暗だよ。大人しく後ろ着いてこい」
勇者「……はーい」
剣士「拗ねるな。子供か」
------
----
--
-街-
剣士「……はぁ、やっと着いた」
勇者「結局夜になっちゃったね」
剣士「……誰のせいだと思ってる、誰の」
勇者「……起きるのが遅かった剣士?」
剣士「ちげえよ! ちょっと目を離したら全然違う方向行きやがって!」
勇者「だって綺麗な花が……」
剣士「話を聞け! お前を探すのに時間がかかったんだよ!」
勇者「……まぁまぁ。生きてて良かったじゃない」
剣士「隣の街に行くだけで死んでたまるか!」
勇者「……申し訳ないです」
剣士「全く……。とりあえず腹も減ったし、飯でも食って今日はさっさと寝ようぜ」
勇者「……そうだね。どっか酒場でも見つけてご飯にしようか」
-酒場-
カランカラーン
マスター「へい、いらっしゃっい!」
ガヤガヤ
剣士「おー、結構混んでるな」
勇者「本当だね。ボックス席は全部埋まってるね」
剣士「どっか空いてるとこは……お、あそこなら2席空いてるな。カウンターでもいいだろ?」
勇者「うん、大丈夫だよ。そっちの方が街の話とかも聞けそうだしね」
剣士「それもそうだな。じゃあ、あそこ座ろうぜ」
勇者「うん。わかったよ」
スタスタ ギシッ
剣士「……ふぅ。座ったらどっと疲れが来たな」
勇者「あー、わかる。歩いてる時はそうでもないけど座ると急に来るよね」
剣士「それな。とりあえず喉も乾いたしなんか飲もうぜ」
勇者「そうだね。何にしようかな…… 」
剣士「俺はとりあえずビール。てか勇者って酒飲めんのか?」
勇者「失礼な。飲めるよ、大人だもん」
剣士「いや、法律的なことじゃなくて。なんか飲めなさそうなイメージでさ。意外と子供っぽいし」
勇者「なっ! どこがさ!」
剣士「そういうとこだよ。最初は頭の良い落ち着いてるやつかと思ったけど」
勇者「……何。まるで今はそう思ってないような言い方」
剣士「だってすぐ迷子になるし、変なとこで意地張るし、童顔だし、声高いし」
勇者「し、身体的特徴は関係ないじゃん!」
剣士「そういうとこだって。良いから早く飲むもん決めろよ」
勇者「剣士のせいじゃん……。えーっと……あ、じゃあいちごミルクで」
剣士「……やっぱ子供じゃん」
勇者「ちゃんとアルコール入ってるし! いいじゃん、好きなの飲ませてよ!」
剣士「別に悪いとは言ってないだろ」
マスター「はいよ、ビールといちごミルクお待ち!」
剣士「あざっす!」
勇者「ありがとうございます」
剣士「そんじゃ、乾杯!」チンッ
勇者「カンパーイ」チンッ
剣士「ごくごくっ……、ぷはー! 疲れた体に染みるねー!」
勇者「甘くて美味しいー。良くそんな苦いの飲めるね」
剣士「逆によくそんな甘いの飲めるな。これから飯も頼むのにそれで食えんのか?」
勇者「全然大丈夫だよ」
剣士「うへー。まぁいいや。とりあえず飯頼もうぜ」
勇者「そうだね。すみませーん」
マスター「あいよー!」
----
--
マスター「はいよー! お待ち!」
勇者「ありがとうございます」
剣士「おぉ! こりゃ美味そうだな!」
マスター「はっは! そりゃありがとうよ! ところで見ない顔だね? どっから来たんだい?」
勇者「隣の街からですね」
マスター「おお、そうかい! とすると王の所か! しっかし王も長いね。もう20年くらいになるか」
剣士「王のこと知ってるのか?」
マスター「知ってるも何も、昔は凄く強い兵士で有名だったんだぜ」
剣士「へぇ、そうなのか。それは知らなかったぜ」
マスター「何でも転移魔法を駆使して戦うとかで有名だったよ」
勇者「でも、昔は魔物も居なかったのにどうしてそんな有名に?」
マスター「昔は人間同士の戦争があったからな。今は魔王が現れてそれどころじゃないけどよ」
剣士「なるほどな。しっかしそんなに強えなら今の王が魔王退治に行きゃいいのにな」
マスター「魔王が現れたのが王に就任して何年かしてからだからな。行きたくても行けなかったんだろうさ」
剣士「なるほどな。しかし、やけに俺らの国に詳しいな」
マスター「あぁ、昔、君らの国から来た勇者の人が教えてくれたんだよ」
勇者「……っ!」
剣士「へぇ、そうなのか!」
マスター「もう大分前になるけどな。あれ? そういえば…… 」
ガシャーン!
「てめぇ!! ふざけんじゃねえ!!」
剣士「……あ? なんだ?」
マスター「……はぁ。またか」
勇者「……また?」
勇者(後ろのボックス席を見ると如何にもお金持ちそうな太った男が女の子を怒鳴りつけている)
マスター「あぁ、いつも酒飲んでは暴れるんだよ、あの親父」
剣士「……」
勇者「……そんな人なら出禁にしちゃえば良いのでは?」
「てめぇは俺を誰だと思ってやがる!! 」
マスター「……そうもいかないんだよ。あれでもここでは地位のあるやつでな。追い出したらそれこそ何されるかわかったもんじゃない」
勇者「……そんな」
客1「ま、マスター。じゃあこれ会計な」
客2「お、俺も……。ごっそさん」
ゾロゾロ
マスター「……あぁ。毎度」
ガラーン
勇者「……皆帰っちゃいましたね」
マスター「そうだな。……俺はただ、皆が楽しく過ごせる場所を作りたかっただけなんだがな」
剣士「……」スクッ
勇者「……剣士?」
スタスタ
金持ち「だいたいてめぇは誰のおかげで生きていけてると……!! 」
少女「……すみません」
金持ち「 てめぇはいっつもいっつも……!! 」
剣士「……おい。うるせえぞ、おっさん」
金持ち「……あぁ!?」
勇者「剣士!! 」
剣士「お前のせいで楽しく飯も食えねえ。とっとと出ていきな」
金持ち「てめぇ……!! 誰に向かって口を効いてる……!!」
剣士「てめぇだよ、てめぇ。ちゃんと話聞いてんのか?」
金持ち「てめぇ……!!」ギリギリ
少女「……」
勇者(……あれ、この娘)
金持ち「大体てめぇらなんなんだよ!! 俺を誰だと思ってやがる!!」
剣士「ガタガタうるせえデブ親父かな」
金持ち「何だと……てめぇ……!!」
剣士「やんのか? あん?」
勇者「はいはい、必要以上に煽らないの……。ところで、金持ちさん」
金持ち「あ? 」
勇者「……この娘のこと、虐待してますよね? 」
少女「……」
剣士「何だと……。このクズが……!! 」
金持ち「……何を根拠に言ってやがる?」
勇者「明らかにやせ細った体、全身の痣。どう見たってそうじゃないですか。立派な児童虐待ですよ」
勇者「加えて器物損壊。出る所に出れば勝負は目に見えてますが?」
金持ち「……証拠はどこにある?」
勇者「何?」
金持ち「食器やグラスを割ったのは手が滑ったからだよ。悪かったな、マスター」
マスター「……」
勇者「……そんなのさっきまで居たお客さんに聞けば故意かどうかわかることですよ」
金持ち「聞いてみればいいさ。ただ、やつらは何て答えるだろうな? 俺のこと売ったのがバレたらどうなると思ってるんだろうな?」
勇者「……」
剣士「……クズが」
金持ち「それに虐待だって俺がやったっていう証拠は無いだろ?」
剣士「んなもん、どう見たって」
金持ち「……そうだな、本人に聞くのが早いな。おい、少女」
少女「……はい」
金持ち「俺はお前のことを虐待なんかしてないよな? あん?」
少女「……はい 」
勇者(……ダウトだ)
勇者(……だけど、言える訳ないよね)
勇者(過激化を防止するための、自分の身を守るための嘘だもんね)
金持ち「……と、いうわけだ。残念だったな」
勇者「……くっ」
金持ち「むしろ名誉毀損だが良いのか? あ?」
剣士「……おい、少女。お前はそれでいいのかよ?」
少女「……」
剣士「俺は嘘が大嫌いだ」
勇者「……」
剣士「もし報復が怖くて嘘ついてるっていうならそんなくだらない事やめろ」
少女「……っ」
勇者「剣士! そんな言い方!」
剣士「……そん時は俺が守ってやる」
少女「……っ!」
剣士「もし、また虐待されるっていうんならそん時は俺が全力で守ってやるよ。だからくだらねえ嘘なんかつくんじゃねえ!」
少女「……っ」
勇者「……剣士」
金持ち「何くっせえこと言ってやがる。もう結論は出たじゃねえか」
剣士「……少女、俺を信じろ。お前の口から真実を聞かせてくれ」
勇者「……そうだ。ダウトだよ、少女ちゃん。本当の事を教えてよ」
少女「……っ」
金持ち「お、おいっ!! てめぇ!!」
少女「……私は」
勇者「少女ちゃん!」
少女「……私はっ」
剣士「少女!」
少女「……虐待されてます! 助けて下さい!」
金持ち「なっ!?」
勇者「……よく言ってくれたね、少女ちゃん」
少女「私……ずっと……怖くて……」グスッ
剣士「……よく勇気だしたな」ポンッ
マスター「……」
金持ち「てめぇら……!! 」
勇者「……さぁ、形勢逆転だね」
金持ち「……ふんっ!! 誰がてめぇらのような余所者の言うことを信じるかな」
剣士「本人も居るんだ。これ以上ない証拠人じゃねえか」
金持ち「お前らにボコられて、脅されて、無理矢理言わされてるって言ったらどうだろうな」
剣士「……てめぇ!! どこまでも……!! 」
少女「……」
金持ち「……ふんっ、残念だったな。おい、マスター!! 酒持ってこい!! 」
マスター「……やらねえよ」
金持ち「……あ? 」
マスター「お前みたいなやつに出す酒はねえって言ってんだよ」
金持ち「何だとてめぇ……!!」ギリギリッ
マスター「さっさと出ていきな!!」
勇者「マスター……」
金持ち「マスター……てめぇ、俺がここに幾ら使ってると思ってやがる!!」
マスター「関係ないね。ここでは俺が神様だ。お前みたいな客はいらないね」
金持ち「てめぇ……!! 覚えておけよ!! ここで商売できないようにしてやるからな!!」
バタンッ
マスター「……はぁ」
勇者「……ありがとうございます、マスター」
剣士「やるじゃねえか、マスター!」
マスター「……あんたらみたいな若いやつらが頑張ってるのに、俺が黙ってみてる訳には行かねえだろ」
勇者「……」
勇者(剣士の行動が少女ちゃんを救った)
勇者(剣士の行動がマスターを動かした)
剣士「へへっ! ざまーみやがれ、悪党がよ!」
勇者(……口は悪いけど)
勇者(やっぱり……剣士は真の勇者だね)
勇者「……でも大丈夫なんですか? あの人、商売できないようにしてやるって言ってましたけど」
マスター「……そこなんだよな。どうしたもんかね、全く」
剣士「でも、少女の証拠もあるし捕まるだろ? だったら問題ないじゃねえか?」
少女「……」
マスター「いや、あいつは相当な権力者だし何より金を持ってる。金を払ってさっさと戻ってくるだろうよ」
勇者「……そうですね」
剣士「はぁ!? 何だそりゃ!?」
マスター「決まりでそうなってるからな……」
剣士「なんだよそれ……。金さえあればなんでもありなのかよ……」
マスター「……まぁ、戻ってきた時のことは追々考えるよ。それよりお前ら、腹減ってねえか?」
勇者「え? まぁ……結局、全然食べれてないので空いてますけど……」
マスター「だったら俺の奢りだ。好きなだけ飲み食いしな」
剣士「おお! マジかよ!」
勇者「えっ、でもいいんですか?」
マスター「ああ、構わねえよ。迷惑かけたお侘びだ 」
勇者「ですが……」
マスター「……それにもうこの店だって出来ねえかもしれねえしな。最後くらい大盤振る舞いさせてくれ」
剣士「……すまねえな、ありがとうよ 」
マスター「良いってことよ。それと少女ちゃん」
少女「……?」
マスター「お前さんも、たんと食いな。腹減ってんだろ」
少女「……ありがとう、ございます」
マスター「それに泊まるとこねえならここにでも泊まってけ」
少女「……すみません。ありがとうございます」
剣士「……あんた本当にいい人だな」
マスター「……そんなことねえよ。それに、今まで見て見ぬふりしてたしな」
勇者「……」
マスター「まっ、辛気臭い話は終わりだ! 好きにじゃんじゃん頼んでくれ!」
剣士「……ありがとな! じゃあ、あれとこれと…… 」
勇者「……本当に遠慮ないね、剣士は」
剣士「うめえ……うめえよ…… 」バクバク
少女「……!!」パクパク
勇者「……2人とも良く食べるね」
マスター「はっはっは! そこまで美味そうに食ってくれると作った甲斐があるよ!」
剣士「おかわり! あと酒も!」
マスター「あいよっ!」
勇者「……全く。少女ちゃんも美味しい?」
少女「……!!」コクコクッ
勇者「それは良かった。……ってあれ?」
勇者(右手には……魔封じの腕輪……呪いの装備か)
勇者「少女ちゃんって魔法使えるの?」
少女「……」コクッ
勇者「へえ! 凄いね!何が使えるの?」
少女「……色々」
剣士「色々って。具体的には何使えんだよ?」
少女「……火術、雷術、水術、移動魔法」
勇者「……」
剣士「へえ、小さいのに凄いな」
少女「……小さくない」
剣士「は? いや、10歳くらいだろ?」
少女「16」
勇者「……」
剣士「……嘘だろ、全然見えねえ」
少女「立派な大人」フンスッ
剣士「いや、大人ではないだろ」
少女「……」プクッ
剣士「頬を膨らませるな、リスか」
少女「人間」
剣士「知ってるわ。そうじゃねえ」
マスター「ふっ。剣士と仲良さそうで安心だな」
勇者「……そうですね」
マスター「……しかし16歳であんなにやせ細って。よっぽど昔から虐待されてたんだな」
勇者「……酷い親ですね。本当に」
マスター「あぁ。しかもわざわざ養子で貰ってる癖にな」
勇者「え? あの人、本当の親じゃないんですか?」
マスター「もともと孤児だったんだよ、あの娘」
勇者「……そうだったんですね。実の親も義理の親も酷すぎる」
マスター「本当にな。責任も取れねえなら簡単に産んだり育てようとするなって話だ。親も親で大変なんだろうけどよ」
勇者「……」
勇者(やっぱり1人で育てるのって大変だったのかな……)
マスター「お? グラス空いてるけどもう1杯いるか?」
勇者「……ありがとうございます。お願いします」
マスター「おう。何にする?」
勇者「……そうですね。じゃあビールで」
------
----
--
剣士「ふぅ~、食った~、飲んだ~」
勇者「……ベロベロじゃないか、剣士」
少女「……満腹」
マスター「はっはっは! 満足してくれた様で良かったよ!」
勇者「すみません……、こんなに沢山頂いて……」
マスター「良いってことよ。それよりもそいつは大丈夫なのか?」
剣士「あ~、へ~き、へ~き」
勇者「……なんとか運んで行きます」
マスター「あぁ、そうしてくれ。ここで吐かれちゃ敵わん」
剣士「うっ……おろろろろろろろ」ダバー
勇者「……叶いませんでしたね」
マスター「……はぁ、悲しいな、こりゃ」
勇者「……本当にすみません、ご馳走までして貰ったのに。片付けくらいはやります」
マスター「あぁいいよいいよ。悲しいけど慣れてるからよ。それに割れた食器とかの片付けもあるしよ」
少女「……手伝う?」
マスター「大丈夫だよ。手切ったりしたら危ないだろ」
少女「……でも 」
マスター「……任せておけ。2人とも疲れてるだろ。ゆっくり休みな」
勇者「……すみません、ありがとうございます」
少女「……ありがとう、ございます」
マスター「おう。少女も奥でもう寝てな。布団とかもあるから好きに使ってくれ」
少女「……」コクッ
テクテクテク
マスター「悪いがあんたはあいつだけは連れてってくれ。……流石にあれだけはどうもできん」
勇者「……そうですね。出禁にされないだけありがたいです」
マスター「ははっ! もしまだ店がやってればこの街寄った時にでも来てくれよ!」
勇者「……また是非来ます。ありがとうございました。ほらっ! 行くよ! 剣士!」
剣士「……うぅ」
カランカラーン
マスター「……さて、掃除するか」
ゴシゴシ
マスター「……ったく、派手に汚しやがって」
ゴシゴシ
マスター「……ふぅ、こっちはこんなもんか」
カチャカチャ
マスター「……しかしどうするかな、この先」
カチャカチャ
マスター「……きっとあいつがいる限りもう店開けねえんだろうな」
カチャカチャ
マスター「……はぁ、参ったな」
少女「………………」
-街・広場-
勇者「おっもーーーい!!」
ズルズル
勇者「ちょっと剣士! ちょっとは自分で歩けないの?」
剣士「……うーん……もう食べられない」
勇者「……えー、この状況で寝る?」
ズルズル
勇者「……もう運べない! ちょっと休憩!」
勇者「……丁度噴水あるしそこで休もう」
ズルズル ドサッ
勇者(……はぁ、疲れた)
勇者(……何で酔っ払い引きずって歩いてるんだろ)
勇者(……それにしてもマスター大丈夫なのかな)
勇者(少女ちゃんが証言して捕らえられたとしてもすぐ出てくるだろう)
勇者(……そしたらあの金持ちはマスターの店を潰そうとするよね)
勇者(きっとこの街では店を持てないくらい邪魔をするはずだ)
勇者(それに少女ちゃんの虐待もまた……)
勇者(……)
勇者(……どうするのが正しかったのかな)
勇者(……さっきのも、いくら少女ちゃんを助けるためとはいえ、本当に正しい行動だったのかな)
勇者(……嘘を暴かなければマスターは変わらず店を出せていたのかな)
勇者(……)
勇者「……ねぇ、何が正しい選択だったのかな」
剣士「……うっ! おろろろろろ」ビチャビチャ
勇者「……あーあ、噴水の水が茶色くなってく」
勇者(……今は何聞いても無駄か。それに)
勇者「……剣士の服も洗濯しなきゃね」
------
----
--
ズルズル
勇者「……さて」
勇者「……ここどこだろう」
ズルズル
勇者(……おかしいな、街に着いた時はこの辺に宿屋があると思ったんだけどな)
ズルズル
勇者(気づいたら1時間くらい歩いてるし……)
ズルズル
勇者(……はぁ、何時になったら着くんだろ)
ズルズル
勇者(……って、ん? あれは……)
金持ち「…………」スタスタ
勇者(金持ち? こんな時間にどこに……?)
勇者(……怪しい。追いかけた方がいいのかな)
勇者(……でも)
剣士「…………ぐぅ」
勇者(……これを放置していくのは無理だよね)
勇者「……諦めて宿屋探そうか」
------
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--
勇者「や、やっと着いた……」ハァハァ
勇者(……もう日付変わりそうだよ)
勇者(しかし……)
剣士「…………ぐぅ」
勇者(……よくずっと寝てられるね)
勇者(引き摺ってきたから服もボロボロなのに)
勇者(……洗濯は諦めて新しい服買おう)
-宿屋-
宿屋「いらっしゃいませ……って」
勇者「……すみません、こんな酔っ払い連れて来て」
宿屋「い、いえ、大丈夫ですよ。何かお召し物をご用意しましょうか?」
勇者「……はい。買い取るのでお願いします」
宿屋「かしこまりました。2人部屋でよろしいですか?」
剣士「……うっぷ」
勇者「……いえ、別々でお願いします 」
宿屋「かしこまりました。ではご案内します 」
勇者「……お願いします」
ズルズル
宿屋「ではこちらがお連れ様の部屋で、あちらがお客様のお部屋になります」
勇者「ありがとうございます」
宿屋「お召し物の方、すぐお持ちしますね」
勇者「……すみません、お願いします」
宿屋「それではごゆっくり」
ガチャ
ズルズル
勇者「……」
剣士「……ぐぅ……ぐぅ……」
勇者「……はぁ。人の気も知らないで呑気に寝て」
勇者「……とりあえず服脱がさなきゃね」
ガサガサ
勇者(……)
勇者(……凄くいい筋肉してるな)
コンコンッ
勇者「はい!」ビクッ
ガチャ
宿屋「失礼致します。お召し物でございます」
勇者「……ありがとうございます。お幾らですか?」
宿屋「10Gでございます」
勇者「わかりました。じゃあ、これで」ジャラ
宿屋「ありがとうございます。それではごゆっくり」
バタンッ
勇者「……さっさと着せて寝よう」
ガサガサ
勇者「……ぐちゃぐちゃだけど、まぁ、良いでしょう」
勇者「……おやすみ、剣士」
パタンッ
剣士「……ぐぅ……ぐぅ……」
今日はここまでで!
また書き溜め出来たら更新します!
乙
時間単位あるのと法治国家かしら
ドラクエイメージだったけど近代的な
>>91
そうですね、ただ法事国家といっても貴族とかの偉い人の意見はまかり通ってしまう状態。
といったイメージです。
街並みはドラクエっぽい雰囲気のイメージです。
――――――
――――
――
-翌朝-
勇者「……んー」ノビー
勇者「……全身が痛い」
勇者「……まあ、剣士引き摺ってあれだけあるいたらそうなるよね」
勇者「…どうせ剣士もまだ起きてこないだろうし、ゆっくり準備してから剣士を起こしに行こう」
ザワザワ
勇者「…ん? 外が騒がしいな」
勇者「一体どうしたんだろう?」
勇者「…準備が終わったらちょっと見に行ってみようかな」
――――――
――――
――
勇者「…あの、宿屋さん、外が何だか騒がしいようですけど…何かあったんですか?」
宿屋「そ、それが……」
バンッ!
???「ここに勇者と剣士はいるか!」
勇者「警察の方? 一体何の用ですか?」
警察「聞きたいことがある。ついてきてもらおう」
勇者「…よくわかりませんがわかりました」
警察「…ところで剣士はどこだ?」
勇者「あー」
ガチャ
剣士「……ぐぅ」
勇者「…寝てますね」
警察「……さっさと起こせ」
――――――
――――
――
剣士「ふああ…なんだよこんな朝早くによ」
勇者「さぁ…。ぼ、僕もよくわかってないんだよね」
剣士「そうなのか」
勇者「うん。あと決して朝早くはないけどね」
剣士「しかも服も変わってるしよ」
勇者「それは自業自得だけどね…」
剣士「ところでどこに向かってるんだ」
警察「街の広場だ。心当たりはあるか?」
剣士「は? 全くねえよ。なぁ?」
勇者「…………」
剣士「…勇者?」
警察「勇者の方は心当たりがあるようだな」
勇者「……掃除、ですかね」
警察「…あれを掃除というならそうなんだろうな」
勇者「そんなに汚してました?」
警察「相当な。あれを汚してないといえるなら美的感覚がやばいな」
勇者「…まぁ、でしょうね」
剣士「なんだ? 何の話だ?」
勇者「全部剣士が悪いんだからね!」
剣士「俺が?」
警察「…あれは全部剣士の仕業なのか?」
勇者「そうです! 止める暇すらありませんでした!」
警察「…そうなのか。剣士、間違いないのか」
剣士「飲みすぎて何一つ覚えていないが…勇者がそういうならそうなんだろうな」
警察「…そうか」
ザワザワザワ
警察「……さて、着いたぞ」
勇者「…………え?」
剣士「……なん……だと」
警察「さて、再度問おう。剣士。これは本当に貴様がやったのか?」
勇者(そこには昨日の夜見た時と全く違う光景が映っていた)
勇者(茶色く濁っているいたはずの噴水は、既に違う色に塗り替えられている)
剣士「……勇者。これ」
勇者(赤黒く濁った水)
勇者(そこにだらりと力なく頭をつっぷしている人物がいる)
勇者「……あぁ、間違いない」
剣士「…じゃあやっぱり」
勇者(値段の張りそうな服、その服が張り裂けそうな体躯)
勇者(金持ちだ)
勇者(…しかし、一体誰がこんなことを?)
剣士「…そうか、俺がやっちまったのか」
勇者「………は?」
警察「それじゃ行くぞ。剣士」
剣士「……はい」
勇者「…………」
勇者「いやいやいやいや! ちょっと待って! なんで剣士が連れていかれるのさ!」
剣士「いやだって全部俺がやったって…。間違いないって…」
勇者「…ごめん、ちょっと勘違いがあって」
警察「ではこれは剣士の仕業ではないと?」
勇者「…はい、そうです。誤解を招き申し訳ありませんでした」
剣士「良かった…。記憶がないから不安だったぜ…」
警察「そうか。しかし、完全に容疑が晴れたわけではないぞ」
勇者「…まあそうですよね。ち、ちなみに容疑者候補は僕らだけなんですか?」
警察「いや、他にも…」
マスター「…おう、お前ら」
少女「………」
勇者「マスター。それに少女ちゃん」
剣士「あんたらもこいつに呼ばれたのか?」
マスター「…ああ。所謂容疑者候補なんだとよ」
少女「……」コクッ
警察「そういうことだ。聞き込みの結果怪しいのは貴様ら4人と判断した」
勇者「…昨日の状況を見るとそう思われますよね」
マスター「まぁそうだろうな」
勇者「でも、昨日は少女ちゃんもマスターの酒場に泊まっているわけですし、アリバイを聞けば疑いが晴れるのでは?」
警察「共犯の可能性もあるから断定はできない。それに剣士は飲みすぎて何も覚えていないのだろう?」
剣士「おう」
勇者「…そうですね」
警察「一応、参考に全員の話は聞かせてもらおう」
――――――
――――
――
警察「全員、協力感謝する。要約すると」
警察「少女は昨日、勇者と剣士が帰った後、すぐ寝たと」
少女「……そう」コクッ
警察「マスターは店の片付けをした後、鍵をかけて寝た。間違いないな」
マスター「ああ」
警察「勇者と剣士は、店を出た後、日付が変わる直前に宿屋に着いたのだな」
勇者「うん。宿屋さんに確認してもらって構わないよ」
警察「そして、その道中、どこかに向かう金持ちを見かけた」
勇者「…怪しいとは思ったけど、剣士を引き摺りながらだから諦めたけどね」
警察「なるほど。では、被害者は23時から今日の朝、掃除屋が発見するまでの間に殺害されたということだな」
勇者「…全員の話を信じるならそうなりますね」
マスター「でもおかしくねえか? 勇者の話?」
警察「そうだな。私もおかしいとは感じた」
勇者(…まあ言われるとは思っていたよ)
マスター「だってよ、俺も店から宿屋までなんて20分もあれば着くだろ。いくら剣士を引き摺っていたとしてもよ」
剣士「確かに宿屋出てからここに着くまでそんなもんだったな」
警察「どうなんだ、勇者」
勇者「…まあ絶対に信じてもらえないだろうけど、迷ったんだよ。宿屋への道で」
マスター「はあ? んなわけないだろ。ほぼ一本道だぞ」
警察「そうだな」
剣士「……いや、こいつならやりかねない。相当方向音痴だからな」
勇者「ほ、方向音痴ではないし!」
剣士「俺的にはそっちの方が信じられねえよ」
勇者「…兎に角、アリバイだけじゃ埒が明かないから証拠を探そうよ」
警察「そうだな。まずこの広場から調べることとしよう」
ザバッ
剣士「うっ…」
少女「………」
マスター「…これは酷いな」
勇者「………」
警察「死体の状況は、首に刃物のような切り傷のみだな」
勇者(右側の首筋に切り傷、周りに血が飛び散った後は無し…か)
勇者(とすると殺害現場はここじゃないのかな?)
警察「凶器は…この周辺には見つからなかったな。貴様らの剣をちょっと見せてもらっていいか」
勇者「ええ、構いませんよ」スッ
剣士「おう」スッ
警察「…うむ、問題ないな。他に凶器になりそうなものは…マスターの店に刃物はあるか」
マスター「そりゃ料理もするし包丁くらいはあるな」
警察「そうか。ではマスターの店に行くぞ」
――――――
――――
――
カランカラーン
勇者(…ここにも特に血痕とかはなさそうだね)
警察「では包丁を調べさせてもらうぞ」
マスター「ああ」スッ
警察「…ふむ。特に問題ないな」
剣士「なあ、やっぱり俺らの中に犯人なんていないんじゃないか?」
勇者「え?」
剣士「いや、俺はさ、この中の誰かが人を殺すような奴じゃないって思うんだよ」
マスター「確かにな。会って一日だが、俺もそう思う。それこそ魔物の仕業とかなんじゃねえか?」
少女「…………」
警察「…ふむ」
勇者(………本当にそうなのだろうか)
勇者(あの感じだと金持ちは他の人にも恨まれていそうだが…)
剣士「だってそうだろう? 剣も包丁も問題なねえんだ。他に切れそうなものなんてないしよ」
勇者(………もしかして)
勇者「マスター。ごみってもう捨てちゃいました?」
マスター「ん? あぁ、そうだな」
勇者「…そうですか」
剣士「どうしたんだ、勇者?」
勇者「…いや、もしかしたら」
少女「……勇者?」
勇者「警察さん」
警察「どうした」
勇者「もう一度広場を調べませんか?」
警察「…何があるっていうんだ?」
勇者「ちょっと気になることがあって……」
警察「まぁ…ここにも特に気になるものもなかったし構わないが…」
――――――
――――
――
-広場-
警察「しかし、一体何を調べるというんだ」
勇者「…噴水の水の中、調べられますか?」
警察「水の中か…、しかし濁っていて何も見えないが…」
勇者「多分ある筈です、凶器となったものが」
マスター「一体何があるってんだよ」
警察「全然見えないが本当になんかあるのか……って痛っ。何だこれは」
剣士「これは…」
少女「…………」
警察「皿の破片か?」
勇者「……やっぱりね」
警察「……確かにこれなら切れそうだな」
勇者「うん。刃物がなくてもこれなら十分な殺傷力だと思うよ」
警察「となるとこの破片が凶器ということか」
勇者「…そうだと思いますよ」
警察「なるほど。しかし、凶器はわかったが犯人の手掛かりには…」
勇者「……いや、それは違うよ」
警察「何?」
勇者「…多分、マスターの店の食器のですよ。その破片」
警察「…なんだと?」
勇者「昨日、金持ちさんが割った食器ですよ、それ」
少女「…………」
マスター「そ、そんなのわかんねえだろ! 同じような食器使ってるところなんて山ほどあるだろ!」
警察「…なるほど。今すぐ、今日回収されたごみ袋を検査するよう依頼してくる」
勇者「それが良いと思います。もし、マスターの店のであれば欠けた部分と一致するはずです」
剣士「………」
勇者「…昨日、割れた食器の掃除は僕らが帰った後マスターがやったんだ。それに夜は鍵を閉めていたんだよね?」
マスター「…そうだな」
勇者「そ、そうなると僕と剣士には難しいよ。金持ちさんと話している間も、食器を拾う様子もなかったでしょ?」
マスター「…そう…だな」
少女「……」コクッ
警察「…なるほど。では、勇者、剣士には不可能。そういう訳だな」
勇者「ええ。他のお客さんもすぐに帰りましたしね。つまり犯人は少女かマスターのどっちかしかありえないんだよ」
マスター「………」
少女「………」
剣士「……ちょっと待てよ」
勇者「剣士?」
警察「なんだ、一体」
剣士「何かの間違いなんじゃねえか? 俺にはこの2人がそんなことするやつには見えねえ!」
警察「何を言っている。証拠と状況がすべてを物語っている」
勇者「…うん。警察さんのいう通りだよ。信じたくないのはわかるけど、この2人以外無理なんだよ」
剣士「けどよ!」
勇者「剣士…、気持ちはわかるけど……」
少女「剣士……もういい」
剣士「…え?」
少女「………私がやった」
勇者「……」
剣士「……少女? 何言ってんだお前?」
少女「……私が…金持ちを…殺した」
マスター「少女……お前……」
警察「…それは自首と判断して良いんだな」
少女「……構わない」コクッ
剣士「おい!! 嘘だよな、少女!!」
少女「……嘘じゃ…ない」
マスター「少女……。お前、何で……」
少女「……昨日の夜…店に…金持ちが連れ戻しに来た」
少女「……もし、金持ちが捕まっても…すぐ…戻ってくる」
少女「……そしたら……私は……また…いじめられる」
少女「………そう思ったら……怖くなった」
少女「……だから…………殺した」
勇者「…………」
マスター「少女……」
警察「…そうか。詳しくは檻の中で聞くとしよう」
少女「………わかった」コクッ
剣士「……何でだよ…少女…」
少女「……剣士?」
剣士「何でこんなことしちまったんだよ!!」
少女「………さっき言った通り」
剣士「俺が全力で守ってやるって言っただろうが!!」
少女「………っ」
剣士「それなのに…お前は……」
少女「………」
警察「少女。お前を殺害の容疑で連行する」
少女「………」コクッ
剣士「おい!! 少女!! どうして!!」
少女「……剣士には……無理…だったから」
剣士「っ!!」
マスター「………」
警察「さあ、早く馬車に乗り込め」
少女「………剣士」
剣士「……何だ?」
少女「………ありがとう」
剣士「………少女?」
勇者「…………」
勇者「……ねえ、剣士」
剣士「……なんだよ」
勇者「君は少女ちゃんを助けたい?」
剣士「……どういう意味だ?」
勇者「質問は後。どうなの?」
剣士「……ああ。当たり前だろうが」
勇者「…それが少女ちゃんの意思に背くものだとしても?」
剣士「……ああ。俺は全力で守るって言ったんだ。そこに嘘偽りはねえ」
勇者「…その選択が誰かを不幸にするものだったとしても?」
剣士「……俺にはその選択が正しいのか間違ってるかなんてわかんねえ」
剣士「けど、俺には少女があんなことするなんて思えねえ!」
剣士「…だから、俺は俺の選択を信じる! 俺は少女を助けたい!」
勇者「……わかったよ。それが君の選択なんだね」
勇者「……警察さん」
警察「なんだ、勇者? 話はもう終わっただろ?」
勇者「ダウトだ」
警察「……何?」
マスター「勇者? 一体、どうしたんだ?」
勇者「警察さん。少女ちゃんは犯人なんかじゃないんですよ」
警察「…何だと?」
剣士「勇者! 本当か?」
勇者「…あぁ。少女ちゃんは嘘をついている」
マスター「何だって?」
少女「…っ! 嘘なんて…言ってない…」
勇者「ダウトだよ、少女ちゃん。少女ちゃんに金持ちさんを殺せるわけがないんだよ」
警察「……どういうことだ?」
勇者「ねえ、警察さん。金持ちさんはどうやって殺されたと思います?」
警察「どうって。皿の破片で首筋を切られてだろ?」
勇者「そうですね。では、金持ちさんはどこで殺されたと思いますか?」
警察「それはこの広場でだろ?」
勇者「…半分正解です」
警察「半分?」
勇者「はい。確かに殺害現場ここでしょう。しかし、普通にここで殺されたらどうなりますか?」
警察「どうなるってそれは……! なるほど、そういうことか」
勇者「そうです。返り血で一面真っ赤になりますよね」
剣士「確かに…」
少女「……っ!」
マスター「じゃ、じゃあ一体どうやって殺したっていうんだ?」
勇者「簡単ですよ。噴水の水に沈めながら切ったんですよ」
警察「…なるほど。確かにそれなら返り血が飛散することはないな」
勇者「ええ。でもそうなると少女ちゃんじゃ殺すことができないんですよ」
剣士「なんでだ?」
勇者「単純な話だよ。体格差がありすぎるんだよ」
警察「…そうだな。被害者を片手で押さえながら首筋を切れる力があるとは思えない」
勇者「ええ。ですから少女ちゃんが金持ちさんを殺すことなんて物理的に不可能なんです」
少女「…………」
剣士「なるほど! だったら少女は犯人じゃねえな!」
マスター「でもちょっと待て。そいつは魔法を使えるんだろ」
警察「何? そうなのか?」
少女「………そう」コクッ
マスター「ああ。水術も使えるって言ってたし、それで窒息させることだって出来たはずだ。切り傷をカモフラージュとしてな」
警察「確かにそれなら辻褄が合う」
剣士「…くっ」
勇者「残念ながらそれも不可能ですよ」
警察「何故だ、勇者?」
勇者「彼女の右腕をよく見てください」
剣士「右腕?」
警察「これは……魔封じの腕輪か…?」
マスター「何っ!」
勇者「その通りです。今の彼女に魔法なんて使えないんですよ」
少女「…………」
勇者「魔封じの腕輪は呪いの装備。教会に行って呪いを解除して貰わなければ外すこともできませんからね」
勇者「それに右腕に腕輪を着けているということは彼女は左利き。金持ちさんが切られていたのは右の首筋でしたよね?」
勇者「頭を押さえつけ、水に溺れさせながら首筋を切るのに、わざわざ利き腕と逆の方で犯行に及びますかね?」
警察「…なるほど。考えにくいな」
剣士「それじゃあ!」
勇者「……ええ。以上のことを踏まえると彼女に犯行なんて不可能なんですよ」
警察「…そうだな。少女に犯行は不可能だ」
少女「…………」
剣士「おい。じゃあ真犯人は…」
勇者「…うん。皿の破片を持ち出せて、金持ちさんを押さえつけられる力がある人物」
勇者「それは……あなたしかいないんですよ」
勇者「マスター」
マスター「…………」
剣士「……マスター。本当なのかよ?」
マスター「…………」
警察「無言は肯定と捉えるがよろしいか?」
マスター「……あぁ。俺がやったよ」
少女「……マスター」
マスター「…悪いな、少女。庇って貰っちまってよ」
少女「…………」
剣士「マスター…。何で…」
マスター「……昨日の夜に金持ちの野郎がうちの店に来てよ。少女を返せってうるせえんだよ」
少女「…………」
マスター「…でも俺はあんな奴に少女を返す気にはならなかった」
マスター「少女も寝てるし、少し落ち着いて話をしようって広場で話すことにしたんだよ」
マスター「……そしたらあいつ急に襲い掛かってきてな。ついカッとなっちまって…」
マスター「……気づいたらあんな状況になっちまってたよ」
勇者「…………」
警察「…そうか。しかし、どんな理由があろうと貴様のやった行為は許されることではない」
マスター「…ああ。わかってるよ」
警察「では署まで同行して貰おうか。早く馬車に乗るんだな」
マスター「……ああ」
少女「……マスター」
マスター「……少女、もう金持ちはいない。好きに生きてくれ」
少女「………マスター」グスッ
マスター「……剣士。迷惑かけて…信じてくれたのに悪かったな」
剣士「……マスター」
マスター「迷惑ついでに…少女のこと…頼むぞ」
剣士「………ああ、わかったよ」
マスター「……勇者。世界を頼んだぞ」
勇者「……マスター」
勇者(ダウトだ)
勇者(マスターはついカッとなってやったと言っていた)
勇者(だが、それはあり得ない)
勇者(だったら何故、店から移動して広場まで来たのに皿の破片を持って行ったのか)
勇者(答えは明白だ…)
勇者(最初から殺す気でいたんだ)
勇者(だから少女の為だなんて真っ赤な嘘だ)
勇者(マスターは自分の店が開けなくなることを恐れて金持ちを殺すつもりだったんだ)
勇者(…そして少女ちゃんに罪を着せようとしていた)
勇者(少女ちゃんが魔法を使えるのを知っていたから、少女ちゃんが出来そうな手口を選んだんだ)
勇者(少女ちゃんの為を思うなら、少女ちゃんが捕まりそうになった時に黙っている筈がないんだ)
勇者(…だからさっきの言葉なんて)
勇者(全部嘘だ)
勇者(……なんて)
マスター「……じゃあな、お前ら。達者でな」
剣士「…マスター」
少女「………マスター」グスッ
勇者(…いい雰囲気を壊すから言わないけどね)
警察「ほら、行くぞ。国まで頼む」
勇者「……国まで?」
警察「ああ。この街には牢獄がないからな。犯罪者は国に送ってるんだよ」
勇者「そうなんですか…」
警察「しかし、助かった、勇者。貴様のおかげで本当の犯罪者を捕まえることができた」
勇者「……いえ、そんなことないですよ。自分の為ですよ」
警察「そうだとしても感謝している。魔王討伐も期待しているよ。ではな」
ヒヒーン パカラッパカラッ
勇者「……期待…ね」
勇者「…容疑者扱いだったくせによく言うよ」
剣士「………」
勇者「…どうしたの、剣士?」
剣士「…いや、俺がしたことって本当に正しかったのかなって思ってよ」
勇者「……」
剣士「酒場でよ、俺が金持ちに話しかけなければマスターは殺しなんかしなかったんじゃないかって」
勇者「……そうかもね」
剣士「でもよ、そうすると少女はずっとあのままだったろ」
勇者「……そうかもね」
剣士「…だったら、俺はどうするのが正しかったのかな…って思ってさ」
勇者「…そんなの誰にだってわかんないよ」
剣士「…そうだよな」
少女「………でも…私は」
剣士「……少女?」
少女「………私は…剣士に…感謝してる」
剣士「……そっか。ありがとうよ、少女」
剣士「…そうだな。これが俺の選んだ結果だもんな」
勇者「…そうだね。もう変えようがないからね」
剣士「…ああ。ところで少女はこれからどうするんだ?」
勇者「そういえばそうだね。どうするつもりなの?」
少女「………着いてく」
勇者「え?」
剣士「…おいおい、遊びに行くんじゃねえんだぞ。魔王を倒しに行かなきゃいけないんだぞ?」」
勇者「そうだよ、少女ちゃん。すごく危険な旅になるんだよ?」
少女「……わかってる。……でも、これが私の…選択」
剣士「……そうかい。だったら止めやしねえよ」
少女「……ありがとう。……責任…取ってね?」
剣士「……ん? あぁ、守るって言ったことのだよな?」
少女「…………」
剣士「おい! なんか言えよ!」
勇者(…あー、これはこれは)
勇者「…とりあえずよろしくね、少女ちゃん」
剣士「よろしくな、少女」
少女「………」コクッ
勇者「それじゃあ行こうか」
剣士「…といってもどこに行くよ?」
勇者「そうだね…、まずは少女ちゃんの腕輪を外せるよう教会を目指そうか」
少女「……同意」コクッ
剣士「そうだな。じゃあ教会を目指すか」
勇者「うん。じゃあ行こうか」
勇者(人生は選択の連続だ)
勇者(選んだ結果は覆すことができない)
勇者(選んでみなければ正しかったのか間違っていたのかわからない)
勇者(嘘を暴くのが正しかったのだろうか)
勇者(嘘だとわかっていても黙っているべきだったのだろうか)
勇者(わからない)
勇者(それでも選ばなければいけない)
勇者(どちらかが不幸になるとわかっていても)
勇者(…知らない方が良かった事なんてこの世には山程ある)
勇者(知らなければこんなに悩む必要なんてないのだから)
勇者(だから今日も自分を騙して先に進む)
勇者(正しいことをしたんだと自分を騙し先へ進む)
勇者(…人間の敵は魔物だけなんだと騙し先へ進む)
今日はここまでです!
全然勇者SSっぽくなくてすみません!
また書き溜め出来たら投下します!
流石に警察は草
面白い
期待
導入はすきでした。
乙
面白い
警察は憲兵とかに勝手に脳内補完した
>>127
>>130
憲兵の方が良かったですね…ありがとうございます。
>>128
ありがとうございます! 頑張ります!
>>129
ありがとうございます! 導入以外も面白くできるよう頑張ります…。
――――――
――――
――
勇者(街を出て暫く経ち)
剣士「はあああああ!!」ズバッ
魔獣「ギャァアアアア!!」
勇者「たあっ!」スパッ
魔獣「ギャオオオオオ!!」
少女「………頑張れー」
勇者(国から大分離れた辺りから魔物が現れ始めた)
剣士「オラよっ!!」ズバッ
魔獣「ギャアアアオオオ!!」
剣士「ふぅ。やっと片付いたな」
勇者「…そうだね」
少女「………お疲れ」
勇者(最初、魔物を見た時は戸惑ったがようやく慣れ始めてきた)
――――――
――――
――
勇者(街を出て暫く経ち)
剣士「はあああああ!!」ズバッ
魔獣「ギャァアアアア!!」
勇者「たあっ!」スパッ
魔獣「ギャオオオオオ!!」
少女「………頑張れー」
勇者(国から大分離れた辺りから魔物が現れ始めた)
剣士「オラよっ!!」ズバッ
魔獣「ギャアアアオオオ!!」
剣士「ふぅ。やっと片付いたな」
勇者「…そうだね」
少女「………お疲れ」
勇者(最初、魔物を見た時は戸惑ったがようやく慣れ始めてきた)
――――――
――――
――
勇者(街を出て暫く経ち)
剣士「はあああああ!!」ズバッ
魔獣「ギャァアアアア!!」
勇者「たあっ!」スパッ
魔獣「ギャオオオオオ!!」
少女「………頑張れー」
勇者(国から大分離れた辺りから魔物が現れ始めた)
剣士「オラよっ!!」ズバッ
魔獣「ギャアアアオオオ!!」
剣士「ふぅ。やっと片付いたな」
勇者「…そうだね」
少女「………お疲れ」
勇者(最初、魔物を見た時は戸惑ったがようやく慣れ始めてきた)
剣士「はぁ…。なんだかんだ大分傷ついたな」
少女「……大丈夫?」
剣士「ん? ああ、こんくらいなんともねえよ」
勇者「本当だ、結構傷ついてるね」
剣士「こんなの唾でもつけときゃ治るよ」
勇者「そんなわけないでしょ。今治してあげるよ、回復魔法」キュィン
剣士「おお、みるみる治っていくぜ。ありがとうな、勇者」
勇者「どういたしまして」
剣士「しかし、魔法って不思議だよな」
勇者「え、何が?」
少女「……?」
剣士「いや、俺は魔法使えないからよ。仕組みがよくわかんなくてよ」
少女「……がってやって、ぎゅってやって、ばんって感じ」
剣士「いや、一切わかんねえよ」
勇者「少女ちゃんは感覚派だねえ」
剣士「少女じゃ当てになんねえな」
少女「………むぅ」プクー
剣士「勇者の回復魔法はどんな感じなんだ?」
勇者「うーん、回復魔法は時間操作してる感じなんだよね」
剣士「時間操作?」
勇者「うん。自然治癒で治りそうな傷はその部分だけ時間を進めて治す感じかな」
剣士「へえ。でも傷が深い場合、自然治癒じゃ無理なんじゃねえのか?」
勇者「その場合は、傷を受ける前の状態に時間を戻す感じかな」
剣士「そうなのか。でもよ、だったら両方時間戻せばいいじゃねえのか?」
少女「……魔力」
剣士「あん? 魔力がどうしたんだ?」
勇者「少女ちゃんの言う通りだよ。時間を戻す方が魔力消費が多いんだよね」
剣士「なるほどな。だったら回復魔法を少女にかけてやればすぐ大人になれんのか?」
少女「………!!」キラキラ
勇者「…流石に対象が全身になるし、そんな年単位進めるのは魔力的に無理だよ。一部分だけならまだしも」
少女「………」ズーン
剣士「そんなに凹まなくても」
勇者「…どうせ歳なんてすぐとるんだから必要ないよ」
剣士「お前何歳だよ。というかお前、もしかして自分に時間を戻す方を…」
勇者「使ってないよ!」
少女「……早く大人になりたい」
勇者「……そのうち子供の頃は良かったなって思う時が来るよ」
剣士「悟ってんな。だから何歳だよ、お前」
少女「……子供ではない」ムスッ
剣士「拗ねるな、お前も何歳だよ」
剣士「とりあえず回復魔法はそんな感じなんだな」
勇者「そうだね、ちなみに火術は空気中の熱を凝縮、水術は空気中の水分を凝縮して、雷術は静電気を凝縮してって感じかな」
剣士「へー、そうなのか。知識はあるのに使えはしねえんだな」
勇者「適正があるからね。何種類も魔法を使えるのはすごい才能だよ」
少女「……えっへん」フンスッ
剣士「そうなんだな。何だかんだ少女ってすげえんだな」
少女「……もっと褒めて」
剣士「全然そうは見えないけどな」
少女「………」プクー
剣士「ふくれるな、膨らむな」
勇者「…さて、そろそろ先に行こうか。その凄い魔法を早く見せてほしいしね」
剣士「だな。教会に行って呪いの装備外してもらわないとな」
少女「……うん、行こう」ギュッ
剣士「…何でお前は毎回俺の手を握るんだよ」
少女「……はぐれたら危ない」
剣士「…はぁ。まだまだ子供だな、やっぱり」
少女「……早く大人になりたい」ギュッ
勇者(……少女ちゃん随分剣士に懐いてるな)
勇者(…………)
勇者(べ、別に羨ましいなんて思ってないからね)
勇者(………)ブルルッ
勇者(…なんかトイレ行きたくなってきたな。ちょっと行って来よう)スタスタ
剣士「大体、お前ははぐれたりしないだろうが。迷子になるなら…」
少女「………勇者?」
剣士「そうそう、なぁ勇者? ……って、なんであいつは既にいねえんだよ!!」
剣士「……おい」
勇者「……はい」
剣士「何でちょっと目を離しただけでいなくなるんだよ」
勇者「……ちょっとお花を摘みに」
剣士「ひと言言ってから行けよ!」
勇者「いやぁ、恥ずかしかったんじゃないですかね…」
剣士「他人事みたいに言うな!」
少女「……勇者も手、繋ぐ?」
勇者「……ありがとう、気持ちだけ受け取っておくよ」
剣士「……お前、もしかして手を洗ってないからか?」
勇者「ちゃんと洗ったよ!!」
剣士「それならいいけどよ。少女のお陰で見つかったんだからな、感謝しろよ」
勇者「お手数おかけしました……」
少女「……お陰様で」
――――――
――――
――
剣士「大分暗くなってきたな」
勇者「そうだね、今日はこの辺で寝ようか」
剣士「そうだな。この辺りは魔物もいるから暗い中進むのは危険だしな」
勇者「だね。本当に魔物増えてきたね」
剣士「俺らの国の近くは全然魔物いなかったからな。最初の勇者の驚き方ったらなかったもんな」
勇者「だって普段見ることないから…」
剣士「まあな。少女はあんまり驚いてる感じじゃなかったけど見慣れてんのか?」
少女「……孤児院に居た頃よく見た」コクッ
剣士「………」
勇者「……そうなんだ。孤児院はこの近くだったんだ」
少女「……今、目指してる街」
勇者「え、そうなの?」
少女「……そう。……丁度教会がそう」
勇者「そっか、教会と孤児院が併設されてる場所なんだね」
少女「……懐かしい」
勇者「覚えてくれてる人いるといいね」
少女「……大分昔だから居ないかも」
勇者「……そうなんだね」
少女「……うん、10年前」コクッ
剣士「…そんな昔からか。いつから孤児院にいるんだよ」
少女「……生まれた時から」
勇者「…………」
剣士「……最初から捨てたっていうのかよ。酷い親だな」
少女「……剣士の親は?」
剣士「……俺の親もろくでもないやつだったけどな」
少女「……そうなの?」
剣士「あぁ。親父は嘘つきだし酒を飲んでは暴れるやつでな。お袋はそれに我慢できなくなって出て行っちまったよ」
少女「…………」
勇者「…そっか。剣士も大変だったんだね」
剣士「いや、俺は大したことねえよ」
少女「……剣士のお父さんはどうしたの」
剣士「捕まったよ」
勇者「え?」
少女「…………」
剣士「親父は詐欺をして金を稼いでてな。それがバレて捕まったよ。最近だけどな」
勇者(…そっか。そういうことがあったから嘘が嫌いなのかな)
勇者「そうなんだ…。それで兵士になったの?」
剣士「ああ、そうだな」
少女「……大変だったね」
剣士「お前ほどじゃねえよ」
勇者「…………」
剣士「勇者も…聞いて大丈夫なのか?」
勇者「…うん、大丈夫だよ。二人のを聞いてるだけなのは悪いしね」
剣士「勇者の親父は前勇者なんだよな?」
勇者「…そうだね。15年前に勇者に選ばれて冒険に行ったっきり…だね」
剣士「…そうか。その後はずっとお袋が育ててくれたのか?」
勇者「………」
勇者(……母さんは旅立つその日まで育ててくれた)
勇者(母さん、一人で15年も大分頑張ってくれたんだな)
勇者(…それは自分も幸せになりたくなるよね)
少女「……勇者?」
勇者「…ううん、何でもないよ。そうだね、ずっと母さんが育ててくれたよ」
剣士「そうなんだな。いいお袋さんなんだな」
少女「………だね」
勇者「……うん。そうだね」
剣士「…さて、もう遅いし寝るか」
勇者「そうだね。…暗くなっちゃったしね」
剣士「…だな。じゃあ俺はこっちのテントで寝るな。おやすみ」
勇者「…うん。おやすみ」
少女「……おやすみ」
剣士「……おい、少女。なんでこっちに入ろうとしている」
少女「……魔物出てきたらこわーい」
剣士「真顔で何言ってやがる」
少女「……全力で守ってくれるって言った」
剣士「俺の魔物が暴れるかもしれないぞ?」
少女「……剣士なら」
勇者「……ケダモノ」
剣士「やめろ。そんな目で見るな勇者。俺は子供に興味はねえ」
少女「……私は立派なれでぃ」
剣士「立派な大人なら一人で寝れるだろ」
少女「……子供を一人にするのは危険」
剣士「大人と子供を都合よく使い分けるんじゃねえ」
勇者「まぁ、でも確かに魔法の使えない少女ちゃんを一人にするのは危ないよ」
剣士「俺の貞操の方が危ねえよ。だったらお前が一緒に寝てやれよ」
勇者「……それは」
少女「……剣士は私を男と寝させるの?」
剣士「俺も男だろうが」
勇者「ま、まぁ、少女ちゃんも僕より剣士の方が安心みたいだし一緒に寝てあげなよ」
剣士「……はぁ、わかったよ」
少女「……優しくして」
剣士「大人しくしてて」
少女「…………」
剣士「今じゃねえ!」
勇者「……と、とりあえず僕は寝るからね」
剣士「……何かあったら助けてくれよ」
勇者「…魔物が出たらね」
――
――――
――――――
「うわああああん!! うわあああああん!!」
「……なんだ、兵長のとこの子供か。また迷子になったのか?」
「ち、ちがうもん!! パ、パパがまいごになったんだもん!!」
「嘘こけ。んなわけねえだろ」
「うわあああああああん!! うわああああああああん!!」
「ワンワンなくなよ。犬か」
「ここにいたのか! 心配したぞ!」
「パパ!!」
「あー、良かったな。じゃあ俺は行くぞ」
「すまんな、ありがとう、副兵長」
「良いってことよ。王との話は終わったのか?」
「……ああ。頼むぞ、次期兵長」
「……ああ。達者でな、勇者様」
…じゃあ家に帰るか」
「うんっ! パパ!」
「………なあ」
「どうしたの、パパ?」
「……パパ、これから暫く遠いところに行かなきゃいけなくなったんだ」
「え! なんで!」
「…世界を平和にするために旅に出なくちゃいけなくなったんだ」
「そんなのいやだよ! パパといっしょにいたいよ!」
「…ごめんな」
「うわあああああん!! いやだよおおおおお!!」
「……絶対帰ってくるから」
「……ホント?」グスッ
「………」
「パパ?」
「……あぁ、信じてくれ」
「ホントにホント?」
「……あぁ。約束だ」
「うそついたらはりせんぼんのますよ?」
「……あぁ。だからパパが帰ってくるまでママを守ってくれるか?」
「……うん、わかった。絶対だよ」
「……そして、パパが困ったことになったら助けに来てくれるか?」
「うん! まかせてよ!」
「…いい子だ。流石、パパとママのむす
――――――
――――
――
ガバッ
勇者「…………」
勇者(…懐かしい夢を見た)
勇者(昨日あんな話をしたからかな……)
勇者(………)
勇者(絶対に帰ってくるから…か)
勇者(……この世は嘘まみれだ)
勇者(騙される方が馬鹿だと言うがそれは違うと思う)
勇者(騙されている方が幸せなのだ)
勇者(知らない方が良かった事なんてこの世には山程ある)
勇者(気づいたとしても黙っていた方が良い事なんて山程ある)
勇者(……だから自分を騙し、気づいていない振りを続ける)
勇者(騙している者も、騙されている者も幸せになれるから)
勇者(だから……)
勇者(ダウト……なんて言わないよ、父さん)
>>132-134
連投ミスしてすみません…。
短いですが今日はここまでにします!
また書き溜め出来たら投下します!
乙
>>152-153
おつありです!
――――――
――――
――
勇者「やっと着いたね…」
剣士「遅くなったのはお前のせいだけどな」
少女「……勇者迷いすぎ」
勇者「ま、魔物に混乱魔法かけられてたみたいだねー」
剣士「そんなの覚えてなかったぞ」
少女「……ぞ」
勇者「……そんなことより早く少女ちゃんの呪いを解きに行こうよ!」
少女「……誤魔化した」
勇者「さぁ! 時は金なりだよ!」ダッ
剣士「はぁ…、形振り構わず手繋いで来るべきだったか」
少女「……良いの、剣士?」
剣士「は? 何がだよ?」
少女「……勇者、かなり先に行ってるけど」
剣士「…そういうのは早く言え!!」ダッ
-教会-
勇者「ここが少女ちゃんが昔住んでた教会?」
少女「……そう」コクッ
剣士「そうなのか。昔と変わんねえのか?」
少女「……小さい頃だったからあんまり覚えてない」
剣士「今でも小さいだろ」
少女「……」ゲシッ
剣士「痛っ! 何すんだよ!」
少女「……剣士はもっと私を大切にするべき」
剣士「ちいせえこと気にすんなよ。ストレスでさらに縮むぞ」
少女「……っ」ゲシッゲシッ
剣士「痛い痛い! 寿命が縮むわ!」
勇者「…仲が良さそうで何よりだよ」
剣士「これが仲良く見えるなら目が悪いだろ」
少女「……剣士は口が悪い」
剣士「お前は足癖が悪いぞ」
勇者「…少女ちゃん、大丈夫?」
少女「……何が?」
勇者「いや、久々に実家に帰るような感覚でしょ? 緊張とか不安とかないのかなって」
少女「……もう10年も前。……私も相手も多分覚えてない」
剣士「…そういうもんか」
少女「……嘘。……やっぱり不安」
剣士「…そうか」
少女「……だから、剣士」
剣士「ん? なんだ?」
少女「……手を繋いで欲しい」
剣士「…お前がそれで勇気を持てるならお安い御用だ」ギュッ
少女「……ありがとう、剣士」ギュッ
勇者「………」
剣士「よし、それじゃあ中に入るか」
少女「……うん。……今度から、この手を使おう」
剣士「おい、聞こえたぞ。やっぱり手離せ」
バーン
剣士「たのもー!」
勇者「いや、そういうところじゃないから」
神父「…ようこそ、迷える子羊よ。本日はどのようなご用件で」
剣士「迷うのは勇者だけだぞ?」
勇者「そういう意味じゃないから」
少女「……神父さん?」
勇者「え?」
神父「はて? ……申し訳ございませんが、どこかでお会いしたことがございますか?」
少女「……少女…です」
神父「少女……、おお! お久しぶりです、少女」
少女「……お久し…ぶりです」
神父「大きくなりましたね。元気にしていましたか?」
少女「……はい」
神父「それは良かった。安心しましたよ」
勇者「…………」
神父「ところでどうしたのですか? 何かご用件ですか?」
勇者「…はい、実は呪いを解いて頂きたくて」
神父「呪い…ですか?」
少女「……はい。……これを」
神父「……ふむ。なるほどなるほど」
剣士「どうなんだ? 呪い、解けそうなのか?」
神父「出来ないことはなさそうですが……少々お時間がかかりそうですね」
勇者「そうなんですか?」
神父「ええ。相当強い呪いがかけられています」
剣士「へー。こんなちっせえ腕輪にそんな大きな呪いがあんのか」
神父「はい。ですので、少女と二人で解呪の儀を行うつもりですがよろしいでしょうか?」
勇者「ええ。それで呪いが解けるんでしたら。少女ちゃんもそれでいいかな?」
少女「……」コクッ
神父「かしこまりました。それでは、儀式の準備をして参ります」
勇者「はい、お願いします」
神父「ところでお二方はどうします? 大分時間がかかると思いますが」
勇者「うーん、そうですね……」
剣士「この街の探索でもするか?」
勇者「それもいいかもね。ただ少女ちゃんを1人にするのも…」
剣士「まあ確かにな」
勇者(ん? この教会、聖書の他にも結構本が置いてあるんだね)
勇者(随分大きな本棚だし色んな種類の本が置いてありそう)
勇者(旅に出てから本も読めてないし…)
勇者「ぼ、僕は本でも読んで待っていようかな」
剣士「そうか。じゃあ俺も待ってるわ」
勇者「え、街を探索しなくていいの?」
剣士「勇者と離れると永遠に合流できる気がしないからな」
勇者「……人をなんだと思ってるのさ」
剣士「大分わかってきただろ?」
勇者「……どうだろうね」
神父「では、ここで待つということでよろしいのですね?」
勇者「はい、それでお願いします」
神父「かしこまりました。それでは、少女。行きますよ」
少女「……はい」コクッ
剣士「じゃあ俺は寝て待ってるかな…ふあああぁぁ」
勇者「随分大きな欠伸だね。そんなに眠いの?」
剣士「……誰かさんのせいで全然寝れなかったからな」
少女「……神父さん、早く行こう」
神父「え? はい、もちろんです」
剣士「……逃げやがった」
勇者「あはは…でも、あそこまで好かれて、悪い気しないんじゃないの?」
剣士「まあ、それはな」
勇者「……そのうち結婚したりするの?」
剣士「はあ? そんなんじゃねえだろ。まだまだ子供だろ?」
勇者「どうだろうね。思った以上に大人だよ、16歳って」
剣士「俺は自分で思った以上にガキだったけどな、大人って」
剣士「まあいいや、俺は寝るからな」
勇者「わかったよ。おやすみ、剣士」
剣士「……ちょっとでも離れる時は起こせよ」
勇者「……ぼ、僕は剣士が思ってる以上に大人だよ」
剣士「……どうだか。おやすみ」
勇者「……もうっ」
勇者(さて……)
勇者(何を読もうかな)
勇者(……しかし、本当に色々揃ってるな)
勇者(ジャンルも何もかもバラバラだし)
勇者(とりあえず本棚に詰め込みましたみたいな)
勇者(聖書、童話、小説、料理のレシピまであるよ…)
勇者(…ん? これは…『勇者・魔王の歴史』か)
勇者(これにしようかな)
勇者(敵を知り己を知れば百戦危うからずっていうしね)
――――――
――――
――
勇者(……ふぅ、読み終わった)
勇者(結構ボリュームあったな)
勇者(要約すると…)
勇者(魔王と勇者の歴史を綴った手記は約1,000年前からある)
勇者(人間側は様々な魔法を、魔物側は闇魔法を駆使し長年戦ってきた)
勇者(勇者が負ける、消息不明になる、もしくは新たな魔王が誕生する度、勇者が新たに選任される)
勇者(…そして毎回、勇者の紋章に付与される『女神のご加護』の恩恵が受けられる男性が選ばれてきた)
勇者(勇者の血筋の人もいれば、全く関係ない人も勇者に選ばれる可能性がある)
勇者(そして200年前に全ての魔物、そして魔王を倒し人間に平和が訪れた…はずだった)
勇者(しかし、今から15年前、突如魔物が現れた)
勇者(それから約1年後に魔王も現れ今に至る…か)
勇者(う~ん、長かった割に大体知っている内容だったな…)
勇者(もっと魔物の弱点とか書いててくれれば良かったのに…)
勇者(しかし…)
勇者(…トイレ行きたくなってきたな)
勇者(ちょっとでも離れる時は起こせって言ってたけど…)
剣士「…………」スピー
勇者(…流石にトイレだけで起こすの悪いしね)
勇者(それに建物内だし迷うわけないよね)
――――――
――――
――
勇者(さて……)
勇者「……うん、どこだろう、ここ」
勇者(おかしいな…そんなに広い建物じゃない筈なんだけどな…)
勇者(トイレくらいすぐ着くと思ったんだけど……)
勇者(……今からでも戻って剣士にお願いする?)
勇者(……うん、それだけは絶対に無理)
勇者(……そもそも戻る道もよくわかんないし)
勇者(まずい、でもそろそろ我慢の限界かも…)
勇者(この歳でやらかすのは本当にまずい…)
勇者(どうにか辿り着かないと……)
勇者(ってあれは?)
???「………」
勇者(…綺麗な人だな)
勇者(……スタイルもすごくいいし)
勇者(ローブも着てるしこの教会の人かな?)
勇者「あの……」
???「はい?」
勇者「すみません、この教会の僧侶さんですか?」
僧侶「……はい、そうですよ。どうかなさいました?」
勇者「良かった。実はトイレに行きたかったんですが場所がわからなくて…」
僧侶「そうだったのですか。でしたらご案内しますよ」
勇者「ありがとうございます!」
勇者(……なんとか粗相をしなくて済みそうだ)
僧侶「では、こちらです」
勇者「本当に困っていたので助かります。こうやって出会えたのも神様のお導きってやつなんですかね」
僧侶「…………」
勇者「僧侶さん?」
勇者(……あれ、もしかしてなんか変なこと言った?)
僧侶「…どうですかね。神様は不平等ですからね」
勇者「え?」
僧侶「……何でもありません。僧侶がこんなこと言っちゃいけませんよね」
勇者「……」
勇者「……でも、気持ちはわかりますよ」
僧侶「…はい?」
勇者「神様は不平等だった話です」
僧侶「……」
勇者「…いくら祈ったところで叶わない、救われない、加護を受けることができない人もいますからね」
僧侶「……」
勇者「…な、なんて、僕が言うことじゃないですよね」
僧侶「…いえ、その通りだと思いますよ」
勇者「え?」
僧侶「…私は神に見放された。神は気に入った人だけ、選ばれた人だけを助ける気まぐれものですからね」
勇者「……」
僧侶「その点、死神は…」
勇者「…死神?」
僧侶「死神だけは平等なんですよ。皆に平等に死を与える。早い遅いはありますけどね」
勇者「そう…かもしれないですね」
僧侶「…死は救済だと私は思ってます。辛くても死が待ってるから耐えられる、どうせ死ぬならって生きてる間も頑張れるんだと思います」
勇者「……」
僧侶「特に、勇者様は死に物狂いで魔王に立ち向かわなければいけませんしね」
勇者「…たとえ死んでも英雄扱いだしね」
僧侶「……さて、目的地に到着しましたよ」
勇者「…ありがとうございます」
僧侶「とんでもございません。ところで今の話は…」
勇者「ええ。もちろん神父さんには内緒にしておきますよ」
僧侶「……ありがとうございます」
勇者「いえ、こちらこそ。…とても救われる話でしたよ、個人的には」
僧侶「……そうですか。それなら良かったです」
勇者「ええ。それでは」
僧侶「はい。それでは」
スタスタスタ
僧侶「……勇者様…ですか」
僧侶「……私は神に見放された身なので神に願うことはできません」
僧侶「ですので、勇者様の今後のご活躍をこう祈らせていただきますね」
僧侶「死神のご加護がありますように」
――――
――
バタンッ
勇者(ふぅ……、なんとか間に合った)
勇者(僧侶さんには本当に感謝だね)
勇者(………)
勇者(……神は気に入った人、選ばれた人だけ…か)
勇者(………)
勇者(さて……)
勇者「どうやったら戻れるかな……」
――――――
――――
――
剣士「……おい」
勇者「……はい」
少女「………」
剣士「ちょっとでも離れる時声をかけろって言ったよな」
勇者「……はい」
剣士「見つけれたから良かったものの…。言ったことも守れないのか」
勇者「………」
剣士「大人なんじゃなかったのか。子供でも言いつけくらい守れるぞ」
勇者「……はい」
少女「……つまり私は大人」
剣士「それは違う」
少女「……むぅ」
勇者「……ところで少女ちゃん! 呪いは解けたの?」
剣士「誤魔化しやがった」
少女「……まだ」
勇者「そうなの?」
少女「……難しい、らしい」
勇者「そうなんだ……、って何それ?」
少女「……聖水。…呪いを解くのに寝る前に飲めって」
勇者「え?」
剣士「なんか他のとこの聖水と違うんだってよ」
勇者「………」
少女「……勇者?」
勇者「……いや、なんでもないよ。他には神父さんなんか言ってた?」
剣士「とりあえず明日も来いってよ。今日分の代金は払っといたぞ」
勇者「…そっか。ありがとう、剣士」
僧侶「……おや、あなたは」
勇者「……あ、僧侶さん」
剣士「なんだ、知り合いか?」
勇者「うん。さっきちょっと…ね」
剣士「…うちの勇者が迷惑をかけたみたいで」
僧侶「いえいえ、とんでもないですよ」
勇者「…ちょっと剣士。何も言ってないのになんで迷惑かけたこと前提なのさ」
剣士「どうせ迷子になっているところを助けてもらったんだろうが」
勇者「……そうだけどさ」
少女「……僧侶?」
僧侶「……え?」
勇者「少女ちゃん知り合いなの?」
少女「……」コクッ
僧侶「少女……って、少女?」
少女「……おひさ」フリフリ
僧侶「わあ、お久しぶりです、少女」
剣士「なんだ、結構知り合いいるじゃねえか。お前の姉さんみたいなもんか?」
少女「……同い年」
勇者「………え?」
剣士「は?」
僧侶「はい。少女とは同い年です」バーン!
剣士「…おいおい、嘘だろ」
少女「……剣士、どういう意味?」ストーン
剣士「いや、主に体の発育的な意味で…」
少女「……っ!!!」ゲシゲシッ
剣士「いってえ!! 何しやがる!!」
勇者「……今のは剣士が悪い。謝れ」
剣士「本当のことを言っただけだろうが!!」
少女「……ふんっ!」ゲシッ
剣士「いってえええ!!」
僧侶「……??」
剣士「しっかし神は不平等だな。こんなに格差をつけやがって」
少女「……もう一発いっとく?」
剣士「遠慮しておきます」
僧侶「………」
勇者「……すみません、教会の中で騒いじゃって」
僧侶「いえいえ、とんでもありませんよ。…って、少女? 一体何を持っているんですか?」
少女「……これ? ……聖水」
僧侶「……何で少女が持ってるんですか?」
少女「……呪いを解くのに」
僧侶「…呪い?」
少女「……これ」チャリ
僧侶「魔封じの腕輪……そう…ですか」
少女「……僧侶?」
勇者「………」
剣士「再会を懐かしんでる所悪いがそろそろ行かねえか? 買い物とか飯とかそろそろ行かないとまずいんじゃねえか?」
勇者「…そうだね。それにまた明日も会えるしね」
少女「……わかった」コクッ
僧侶「……あ」
少女「……僧侶、また明日」
勇者「じゃあね、僧侶ちゃん」
剣士「じゃあな」
僧侶「………」
僧侶「…ま、待ってください!!」
少女「……僧侶?」
勇者「…どうしたんだい、僧侶ちゃん?」
僧侶「……その呪い…私、解けるかもしれません」
剣士「何? 本当か!」
少女「……本当?」キラキラ
僧侶「も、もしかしたら、ですけど…ね」
勇者「………」
剣士「なら折角だし試してもらおうぜ」
少女「……」コクコクッ
勇者「…そうだね。もしそれで解けるなら御の字だもんね。僧侶さん、お願いしてもいいですか?」
僧侶「……はい。わかりました」
少女「……お願い」
僧侶「…はい、わかりましたよ、少女。ではこちらへ」
少女「……」コクッ
僧侶「…………」
勇者(そういうと僧侶ちゃんは魔力を溜め始めた)
少女「……っ!?」
勇者「……これはっ!?」
剣士「? どうしたんだ、二人して不思議な顔して?」
勇者(…なんだ、この禍々しい魔力は?)
勇者(これは……)
僧侶「……闇魔法」
パリンッ
少女「……壊れ…た」
剣士「おお!! よかったじゃねえか…ってどうしたんだよ二人とも。さっきから変な顔して?」
勇者「……僧侶ちゃん。君は一体…」
僧侶「…だから先ほど言ったじゃないですか」
勇者「え?」
僧侶「…私は神に見放された。そういうことです」
勇者「………」
少女「……僧侶」
僧侶「…驚かせて申し訳ありません、少女」
少女「……そんな…ことは」
僧侶「……大丈夫ですよ、慣れています」
少女「………」
僧侶「…もう呪いが解けたので聖水は必要ないですよね。これは回収しますね」パッ
少女「……あ」
僧侶「…それと明日ここを訪ねる必要はありません。お元気で」バッ
少女「……僧侶!」
勇者「僧侶ちゃん!」
剣士「……なんだ? 一体なんだってんだ?」
勇者「……闇魔法」
剣士「闇魔法がどうしたんだよ? そんな珍しいのか?」
少女「……ありえない」
剣士「は? 何があり得ないんだ?」
勇者「…人間が闇魔法を使えるはずがないんだよ」
剣士「…何?」
勇者「闇魔法を使えるのは魔物だけのはずなんだよ」
剣士「なんだって? でもさっき僧侶は使ってたぞ?」
勇者「……うん、そうなんだよね」
剣士「だったら例外だってあるんじゃねえのか?」
勇者「……そうなのかな」
少女「……おかしい」
剣士「あん?」
少女「……僧侶は昔、光魔法を使えた」
勇者「え?」
剣士「だったら両方使えるんじゃねえのか? お前みたいに何種類も」
少女「……だったら普通、呪い解除に光魔法を使う。……わざわざ闇魔法を使う必要はない」
剣士「そうなのか?」
勇者「……うん。もし仮に、何かしら特例で闇魔法が使えたとしても隠すのが普通じゃないかな」
少女「……私もそう思う」コクッ
剣士「…そういうもんなのか」
剣士「でもまぁ、なんだっていいじゃねえか」
勇者「え?」
剣士「だってそうだろ? そういう反応されるのわかってて少女の呪いを解いてくれたんだろ?」
少女「……っ!」
剣士「だったらあいつは、僧侶は良い奴じゃねえか。昔の友達を助けるためにその闇魔法を使ってくれたんだろ?」
勇者「…そうだね。間違いないね」
少女「……うん」コクッ
剣士「ならそれでいいじゃねえか。あいつが何もんだろうと大事な友達なんだろ?」
少女「……うん。……そう」コクッ
剣士「うっし、じゃあ何も問題ねえな。さあ、買い物とか行こうぜ」
少女「……うんっ」コクッ
勇者(……流石、剣士だね)
勇者(少女ちゃんの不安をうまく払拭した。流れを上手く変えた)
勇者(……流石、真の勇者だね)
勇者(……だけど)
勇者(僧侶ちゃん。君は一体何者なんだ?)
今回はここまでです!
また書き溜め出来たら更新します!
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