SS9作目です。
物語の大枠は決まっていますが、途中で登場して物語に絡むキャラを安価とコンマで決めていこうと思います。
まずは物語のベースとなる序章を投下していきます。
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1589897225
ーーー数年前 王都闘技場ーーー
姫騎士「せいっ!!」
「ぐぉ…!」ガキン
シュッ(木剣を突き付ける)
姫騎士「……」キッ
「…降参だ」
シーン...
審判「し、勝者、姫騎士!」
「「「うぉおおおおお!」」」
「すげー!」
「あんな華奢な子が…」
姫騎士「……!」パアァ
姫騎士「やりました…やりましたお父様!」
姫騎士(これでまたお父様が喜んでくれる!)
ーーーーーーー
勇者「ぐがー…すぴー…」
「起きなさい。起きなさい、私の可愛い勇者」
勇者「ぐごー……」
「……」
ドスッ
勇者「ぐべっ!?」
勇者「!……!?」
「おはよう、勇者」
勇者「母さん…?おはよう…」
勇者母「もう朝ですよ。今日はあなたの16歳の誕生日。村長さんから大事な使命を授かる日だったでしょう。この日のためにあなたを勇敢な男の子として育ててきたつもりです」
勇者「へ、へぇ…。そういや今日だったか」
勇者母「さ、行きなさい。村長さんが待ってます」
勇者「うん…」
勇者「…母さんあのさ、さっき」
勇者母「ん?」ニコッ
勇者「なんでもないですはい」
ーーー村長の家ーーー
村長「よくぞ来た勇者よ!そなたがこうして現れる日を首を長くして待っておったぞ!」
勇者「しょっちゅう来てっけど」
村長「さて、そなたを今日ここに呼んだのは他でもない」
村長「…この村を救ってもらうためじゃ」
勇者「……」
村長「魔王が討ち倒されて数百年。世界は平和になり、人々を困らせる因子は取り除かれたものと思われた」
勇者(なんか始まった)
村長「しかぁし!それは違ったのじゃ!魔王が滅びようと所詮この世は弱肉強食!故に力の弱い我が村はどんどんその規模を縮小し、財政にも不安が募る一方じゃ…」
村長「すなわち」
村長「もう金が無くなりつつあるのじゃ!ついでにわしの髪もな!」
勇者(髪はもう諦めろって)
村長「そこで勇者よ、お主の出番じゃ!」
村長「毎年王都で開催される闘技大会。そこで優勝すれば莫大な賞金が手に入る。そして大会への参加可能年齢は16から……何が言いたいか分かるな?」
勇者「分かりたくないっす」
村長「そうじゃ!類稀なる戦闘センスを持つお主に優勝してきて欲しいのじゃよ!そうすればわしの髪――この村も大いに救われる!おまけに知名度も上がって良いこと尽くめじゃ」
村長「お主は村の希望なのじゃ!」
勇者「えー…めんどい」
村長「お主、闘技が好きじゃろう?闘技大会では数多の強者共と会い見えることが出来るのじゃぞ」
勇者「好きだけど、俺っちそういうの興味ないんだよね」
勇者「ってことで用件終わり?もう帰っていい?」
村長「まぁ待て待て。…これは聞いた話じゃが、今年の優勝特典にはなんと美女が含まれているとか」
村長(嘘じゃが)
勇者「!」
勇者「…体型は?」
村長「ベリーグラマラス」
勇者「なるほど村を救う使命ね。うん、ま、そこまでお願いされちゃ断るわけにもいかんよね」
村長(ちょろいの)
村長「分かってくれたようじゃな」
村長「勇者よ、必ずや優勝して参れ」
勇者「へいへーい」
ーーー勇者の家ーーー
勇者「しっかし闘技大会ねー。それが目的でずっと闘技の稽古つけられてたんかいな」
勇者「単に楽しくて続けてただけだったけど、美女の引き換え券になってくれるなんて、俺っちってばツイてる♪」
勇者母「勇者、村長さんからの使命は何だったのです?」
勇者「王都の闘技大会で優勝してくることだって」
勇者母「まぁ…!あの舞踊祭の!」
勇者「ぶようさい?」
勇者母「良かったですね。今のあなたなら難なく優勝出来ると母は信じてます」
勇者「母さんもそう思う?」
勇者母「えぇ。何と言っても私の息子ですからね」
勇者「だよねー。ぶっちゃけ俺っち強過ぎるからさ、闘技で俺っちに勝てる奴なんてこの世界にゃいないっしょ!」
勇者母「凱旋を楽しみにしていますよ」ニコニコ
勇者母「それでいつ出発するのですか?」
勇者「明日。大会の日まで余裕あるけど、さっさと行って敵情視察でもしておきたいからさ」
勇者(王都のかわい子ちゃんの視察も……むふふ)
ガチャ!
魔法使い「勇者居る!?」
勇者母「あら魔法使いちゃん、こんにちは」
魔法使い「あ、どうもこんにちは」
勇者「なんだよいきなり家に押し入ってくるとか。さすが乱暴女」
魔法使い「誰が乱暴ですって!?」
勇者母「勇者、女の子に向かってその言葉は失礼です」
勇者「事実だしなぁ」
魔法使い「それより聞いたわよ。あんた王都に行くそうじゃない」
勇者「おう。この村の希望となりて、哀れな仔羊たちに救済の手を差し伸べんとするわけよ」
魔法使い「闘技大会に出るだけでしょ」
魔法使い「…いいわ、私も付いてってあげる」
勇者「え、いいです」
魔法使い「は?」
勇者「凄まないでくれません?」
勇者(昔から何かと口うるさいんだよなこいつ。付いてこられなんかしたら女の子視察なんて絶対出来ない!)
勇者「そもそもなんで一緒に行きたいんだよ」
魔法使い「な、そ、そりゃ…あんた一人で行かせたらちゃんと辿り着けるか分かんないし?魔法のことからっきしなあんたにアドバイスしてやれる人も必要でしょ?」
勇者「なるほどなぁ!オーケー分かった」
魔法使い「まったく…」
勇者「俺一人で行くわ」
魔法使い「何ですってぇ!」
勇者「行き先王都だぜ?迷う要素ねーし、魔法のアドバイスなんか無くても負けないからへーきへーき」
魔法使い「魔法使えないくせにでかい口叩くじゃない」
魔法使い「私はこれでも村で一番魔法に長けてるのよ?」
勇者「こんな村でトップを誇られましても」プッ
魔法使い「」カチン
魔法使い「"小火球"」ボッ
勇者「バカッ、家ん中で火の魔法なんか使うなって!」サッ
ジュウゥ...
勇者「…ふぅ、だーから連れてきたくないんだよなー」チラッ
魔法使い「あ……ごめん……」
勇者(しめしめ、これで上手い具合にこいつを諦めさせられそうだ)
勇者母「大丈夫ですよ魔法使いちゃん」
魔法使い「え…?」
勇者母「勇者、私は魔法使いちゃんの意見に賛成です」
勇者「母さん!?」
勇者母「あなたはもっと多くの戦術を知るべきです」
魔法使い「おばさん…!」
勇者「いや、でもさぁ」
勇者母「あなたが本当に魔法使いちゃんの助けを必要としないと言うのならば、闘技でそれを示してみなさい」
魔法使い「……へ?」
勇者母「勇者と魔法使いちゃんで闘技を行い、勝った者の意見を優先させるのです」
勇者「闘技?こいつと?」
勇者母「はい」ニコニコ
魔法使い「……え」
魔法使い「えええええええええ!?」
ーーー翌日 村の模擬闘技場所ーーー
勇者「はーぁ、なんでこうなったのやら」
勇者「本当なら今頃ハーレム(予定)旅の始まりを噛み締めてるはずだったのに」
子供A「あ!勇者の兄ちゃんだ!」
子供B「にぃちゃん、おうとってとこ行くんだよね!いいなー!」
勇者「ようチビ共。俺っちが居なくなっても元気にしてるんだぞー?」
子供A「任せろ!」
子供B「みてみて!にぃちゃんが教えてくれたやつ!」
子供B「かぶとわり!」ヘニョ
勇者「なはは!俺っちに並ぶにゃあまだまだ遠いな!」
子供A「でもなんでこんなとこいるの?またおけいこ?」
勇者「んにゃ、今日は稽古じゃなくて」
ザッザッザッ
魔法使い「……」
勇者母「……」ニコニコ
子供A「魔法使いの姉ちゃん!」
勇者「よう。逃げずに来るとはねぇ。まさか本当に俺っちに勝つつもりでいらっしゃる?」
魔法使い「当然でしょ」
勇者「これだからしつこい奴は」
魔法使い「……」グッ
勇者「どうせ母さんに何か仕込まれたんだろうけど、1日でどうにかなるほど俺っち弱くないぜ?」
勇者母「ふふ、やってみなければ分かりませんよ。ね、魔法使いちゃん」
魔法使い「……」...ザッザッ
魔法使い「私、絶対あんたと一緒に行くから」
勇者「やれやれ…」
タッタッタッ
村長「ふぅ…ひぃ…間に合ったかの」ゼェゼェ
勇者「じいさんも言ってやってくれよ!俺の武者修行に同行者はいらねーって!」
村長「むむ?わしはただの観客として来ただけじゃよ」
村長(あわよくば魔法使いが共に行ってくれれば、勇者の監視役に出来るからの)
勇者「役に立たんハゲだ」
村長「お主言ってはならぬことを…!」
勇者「はぁ……ルールは分かってんだろーな?」
魔法使い「えぇ」
勇者「ふーん。じゃ、最初のテストな。闘技のルール一通り言ってみ」
魔法使い「…1対1の対人格闘戦。選手はそれぞれ剣術、体術、魔法の使用が許可されていて、持つことが許されるのは剣術に使うための指定の木剣だけ。闘技を行うのは15メートル四方の区画で、それより外に出るか、降参と言うか、気絶してしまったら負け。もちろん相手を殺すのは厳禁」
勇者「ま、基本はな」
勇者「それだけじゃないっしょ、母さん?」
勇者母「そうですね。今回、勇者と魔法使いちゃんの実力差を考慮して特別ルールを設けます」
勇者母「通常、1回勝負の闘技ですが、5回勝負とします。魔法使いちゃんが1度でも勝利を収めるか、5回すべて勇者が勝利したら終了。魔法使いちゃんの勝利条件に"勇者に僅かでも攻撃を当てること"を追加します」
村長(妥当じゃな。魔法しか扱えぬ魔法使いと縦横無尽に動き回ることの出来る勇者では、まともな勝負にならんからの)
勇者「ほーん」
勇者「いや、いいよ。木剣も使わないでやるよ。あと"勇者は魔法使いに怪我させた時点で負けとする"ってのも追加で」
魔法使い「な!馬鹿にしてるの!?」
勇者「こうでもしなきゃ危ないぜ?」
魔法使い「っ…」
村長(大した自信じゃのう。あやつの天狗っ鼻、いつか折れてしまわぬか心配じゃわい)
子供A「なになに!兄ちゃんたち闘技すんの!」
勇者「おーう!兄ちゃんが圧勝する姿目に焼き付けとけよー?」
子供B「けいこ以外の闘技、はじめて見る!」
勇者「で、審判は」
勇者母「私ですよ。公平に行いますからね」ニコニコ
勇者「…いやうん、いいけどさ」
勇者「じゃ、ぼちぼち始めっか」
勇者母「はい」ニコニコ
勇者母「えーと最初は……なんでしたでしょうか…?」
村長「……」
村長「」ゴニョゴニョ
勇者母「!」ポムッ
勇者母「コホン…両者前へ!」
ザッザッ...
勇者「なぁやるだけ無駄だぞ?」
魔法使い「うっさい」
ーーーーー
「魔法使いよーまた泣いてんのかー?」
「めそめそしてんな!おれっちがいてやっから!」
「おっきくなったらおれっちがお前のこと――」
ーーーーー
魔法使い「……なんで覚えてないのよ、馬鹿」ボソッ
勇者「ん?」
勇者母「始め!」
勇者「……」
魔法使い「……」ジリ..ジリ..
勇者「………」
魔法使い「……」ジリ...
勇者「どしたよ。魔法撃たないんか?」
魔法使い「…撃ったら当たってくれんの?」
勇者「ご冗談」
魔法使い「ふんっ」
勇者(魔法使いの得意魔法は火だったよな。よく目にすんのは火球系の魔法だけど、範囲魔法…火炎系だったか?上位の魔法も使えるんだろうな多分)
勇者(ま、関係ねーか。魔法にゃ必ず予備動作がある。かわすのなんてわけないわな)
魔法使い「……」
勇者(何企んでるのか知らんけど)
勇者「来ないならこっちから行くぜ?」
ダッ
魔法使い(来る…!)
魔法使い(避ける時のコツは)
勇者「」タタタッ
魔法使い(ギリギリまで引き付けて)
勇者「」タタタタッ
魔法使い(体を逸ら――)
シュンッ
魔法使い(消えた!?)
魔法使い「嘘、どこに…!」
――ヒョイ
魔法使い「……?」
勇者母「あらあら」
子供A「あ、オイラ知ってる!あれお姫さまだっこってやつだー!」
勇者「お前軽いんだなー。意外」
魔法使い「……な、なななな…!」
魔法使い「何してんのよあんた!どさくさに紛れて…この馬鹿!変態っ!」
勇者「はいはい少し静かにね~」タッタッタッ
魔法使い「ひゃん!ちょ、どこ触ってんの!?」
勇者「はいはい少し揺れるからね~」タッタッタッ
魔法使い「早く下ろして…!下ろしなさい!」ジタバタ
勇者「この辺でいっか」
ストッ
魔法使い「あ…」
魔法使い「…な、なによいきなりセクハラでもする気なの?」
勇者母「えっとね、魔法使いちゃん」
魔法使い「何ですか!」
勇者母「場外です」
魔法使い「……………」
魔法使い(しまったあああ!)
ーーー2戦目ーーー
勇者母「両者前へ!」
ザッ
魔法使い(こいつうぅ…とんだ恥をかかせてくれたわね…)
魔法使い(次は絶対にぎゃふんと言わせてやる!)
勇者母「始め!」
勇者「飛ばしてくぜぃ!」ビュン
魔法使い(速っ!?)
魔法使い「"火球"!」ボウッ
勇者「よっと」サッ
スタタタッ
ヒョイ
魔法使い(また――!)
勇者「次はどちらへ運びましょうか、お姫様?」ニヤニヤ
魔法使い「……~~!!」
子供B「おねぇちゃん顔まっかー!」
ーーー4戦目ーーー
勇者母「始め!」
魔法使い「ぶちのめす…絶対にぃ…!」
勇者「ちょこっとからかっただけじゃんなー」
村長(これで3戦連続、お姫様抱っこ場外とな)
村長(勇者のやつおちょくって遊びよってからに。後でどうなってもわしゃ知らんからの)
村長(じゃがここまででもう勝負の行方は決まったようなもんじゃな。元々肉弾戦が出来ぬ魔法使いは勇者の接近を防がなければ敗北は必死じゃ。あの子の魔法じゃと、あやつに当てるどころか牽制にすらなっとらん)
村長(あの子も分かっとるのじゃろう。現にまだ1回しか魔法を使っておらん)
村長(勝機があるとするならそれは――)
勇者(――不意打ち以外にない)
魔法使い「」ガルル
勇者「……」
勇者(俺が隙を見せた瞬間の一撃にでも賭けてんだろうな)
勇者(でもまぁ残念。たとえ背中を見せたところで、魔法の"詠唱"が終わるまでには絶対かわせる)
勇者(魔法使いにゃ悪いけど、俺っちの夢色冒険譚の邪魔はさせんぜ)グフフ
魔法使い「……」
ーーーーー
勇者母「いいですか魔法使いちゃん。勇者は勝負事に関してはまだまだ未熟」
勇者母「あの子は勝ちが目前に迫るほど、大きな隙を見せるようになるでしょう」
勇者母「その時にこそ、ぶちかましてあげなさいな」ニコッ
ーーーーー
魔法使い(確かに…相手を前にしてキモい笑みを浮かべるくらいには隙があるわね)
魔法使い(けど、まだ。今じゃない)
勇者「魔法使い」
魔法使い「!なに?」
勇者「やっぱ俺っちさっさと王都行きたいかんよ、そろそろ巻きでいかせてもらうなー」
魔法使い「え?」
勇者「」ダッ!
魔法使い(くっ…相変わらず速過ぎて動きが見えない…!)
魔法使い(こっちにかわせばいい!?)ササッ
ガシッ
ブンッ!
魔法使い(へ…私飛んで――)
ドサー
魔法使い「ぎにゃ!」
魔法使い(…なにが起きたのよ…)クラクラ
勇者母「魔法使いちゃん、場外です」
勇者「綺麗な着地だね~」
勇者「飛び過ぎないよう調整して投げたはずだから怪我はしてないだろ?」
子供A「お姉ちゃんが一瞬、鳥さんになってた…!」
子供B「すげー…おもしろそー」
魔法使い「ほぇ…何?私、投げられたの…?」
村長「あー、なんじゃ、魔法使いよ」
村長「女子が投げられるというのも喜ばしい体験ではあるまい。ここは一つ、勝負を降りるという手も――」
魔法使い「絶対いや!」
勇者「……」
勇者母「……」ニコニコ
魔法使い「嫌よそんなの。あいつには絶対ついて行くの!」
魔法使い(勝手に約束して、勝手に忘れて、ずっと待たせた挙句にこれだなんて許さないわ)
魔法使い(責任取ってもらうんだから)
村長「そ、そうかい。無茶はせんようにの…」
魔法使い「まだ1回残ってるでしょ」
魔法使い「最終戦、やるわよ」
勇者「……巻きだかんな」
ーーー5戦目ーーー
勇者母「両者前へ」
ザッ...
魔法使い「……」
勇者「いつになく頑固だな」
魔法使い「………」
勇者「そこまで粘るもんか?お前そんなに旅行好きだったっけ」
魔法使い「別に」
勇者「……」
勇者母「始め!」
勇者「お前が何考えてようが知らんけど」
勇者「これでしまいよ」ダッ
魔法使い(来た、あいつの特攻…!)
魔法使い(体術であいつを出し抜こうだなんて所詮素人の付け焼き刃じゃ無理だった)
魔法使い(どうせかわせないなら…!)
魔法使い「これにすべてを賭けるわ!」
魔法使い「"火炎"!」
ブワァ!
村長(たまげたの…ここまで広範囲の火炎が使えるのか。魔法使いも勇者同様、才能に恵まれておるのかもしれぬな)
村長(じゃがそれでも)
勇者「わお、あったかそうな火だこと」
ピョン ピョンッ
スタッ
勇者「暖を取るにゃ、ちと過剰よな」ヘッ
村長(あやつの化け物じみた体捌きを封じるには至らん)
タタタタッ!
ガシッ
魔法使い「っ!」
勇者「なかなかいい線いってるんじゃない?」
勇者「相手が俺っちだったのが不運だ、な!」ブォン!
魔法使い(くうっ…)
子供A「また飛んだー!」
村長「勝負あったの」
勇者母「……」ニコニコ
魔法使い(改めて投げられてみると超怖いわね…。浮遊魔法が使えたら、こんな感じなのかしら)
魔法使い(このまま地面に落ちれば終わり…)
魔法使い(――にしてたまるもんですか!)
勇者「…ふぁーあ…ねみ…」
魔法使い(そこ!)
勇者母「…ふふ」
魔法使い(小さい頃の私は泣き虫で、何かあるたびに泣いてた。何をするにもコバンザメのようにあんたの後ろについていってたわ)
魔法使い(でもいつしかそんな弱虫は捨て去った)
魔法使い「……」スッ
魔法使い(なんでか分かる?私がこんなに諦めの悪い女になったのは)
ーーーーー
「いいかげん泣きやめって。魔法の一つ失敗したくらいなんだってんだい」
「付き合うよ。できるまでやんだろ?」
「がむしゃらな魔法使い見てんの好きだかんよ」
ーーーーー
魔法使い(どこかの馬鹿の言葉を、馬鹿みたいに信じ続けてるからよ!!)
魔法使い("小火球"!)ボッ
村長「魔法じゃと!」
勇者「…?」
勇者「はっ――!?」
――ドサ...
魔法使い「うぅ…」
魔法使い(あれだけ飛ばされたのに痛くはないのね…)
村長「……」ゴクリ
子供A・B「「……」」マジマジ
魔法使い「…場外、かしら」
勇者母「いいえ」
勇者母「見てみなさい、勇者の腕」
魔法使い「…!」
勇者「…無詠唱魔法まで使えんのは、さすがに予想外だった」
勇者「お前の火、熱いわ。火傷しちまったじゃんか」
魔法使い「じゃあ…!」
勇者母「はい」ニコッ
勇者母「勝者、魔法使いちゃん」
魔法使い「……や……」
魔法使い「やったぁ!!」
ーーーーーーー
勇者「じゃー行ってくっから」
村長「うむ。道中気を付けての」
勇者母「強くなって帰ってくるのですよ」ニコニコ
魔法使い「真面目に鍛錬してるかしっかり見張っておくから安心してくださいね!」
勇者母「あら心強い♪」
勇者「はぁ…」
「おう勇者!死体になって帰ってくんじゃねぇぞー!」
「お前が居なくなったらこの村も静かになるなぁ」
「かわいいねーちゃん居たら紹介してくれ!」
子供A「兄ちゃんオイラおうとのおいしいおみやげ!」
子供B「ぼくにもぼくにも!」
ワーワー
村長(誰一人勇者の優勝を鼓舞する者がおらんのは、こやつの人徳が為せる技じゃのう)
勇者「あーうっさい。わーったから」
勇者「お前ら!!」
シーン
勇者「…伝説を作ってきてやるよ!」
「「「………」」」
ワアァ!
「いつものお前で安心だぜ!」
「やったれやったれ!」
.........
ーーー旅立ちの道ーーー
魔法使い「あーやっと静かになったわ…」テクテク
魔法使い「村のお祭りでもあそこまで騒がしくなんないわよ」
勇者「みんな俺っちが居なくなって寂しいんだな~。分かるぜその気持ち」テクテク
魔法使い「自惚れもここまで来ると清々しいわね」
勇者「案外お前に行って欲しくないやつもいたんでねーの?」
魔法使い「…知らないわ。どうせ旅が終われば帰ってくるんだからいいのよ」
勇者「そだな」
勇者(…にしても)
勇者「無詠唱魔法か」チラッ
魔法使い「なに?」
勇者「いつから使えるようになってたんよ」
魔法使い「昨日。徹夜で特訓してもらったの。あんたのお母さんにね」
勇者「マジ?あれって宮廷魔術師クラスのエリートが使うようなやつだろ?」
魔法使い「自在に使えるわけじゃないわよ。まだ小さい火球しか出せないし、連続使用も無理。相当神経使うのよアレ」
勇者「へー」
魔法使い「ねぇあんたのお母さん何者なの?」
勇者「母さんは母さんだろ」
魔法使い「あんたに訊いても無駄ね…」
勇者「魔法詳しくねーけどさ、それが本当ならお前相当な才能あるんじゃね」
魔法使い「そ、そうかしら」
魔法使い(……♪)
魔法使い「ねぇ勇者、私疲れた。少しおぶってよ」
勇者「はい?」
魔法使い「だってあんだけ激しく吹っ飛ばされたのよ?くたくたになるに決まってるじゃない」
勇者「えぇ…俺っちの方が激しく動いてたけども…」
魔法使い「つべこべ言わない」
勇者「へーへー。…ほれ」
魔法使い「ん」
(おぶさる)
勇者「しっかり捕まっててくれよー。落とすからなー」
魔法使い「焼くわよ」
テクテクテク
勇者「……」テクテク
魔法使い「……」
魔法使い(…背中、大きいな…)
勇者「……」テクテク
ーーーーー
魔法使い「……なんで覚えてないのよ、馬鹿」ボソッ
ーーーーー
勇者「…覚えてるよ」ボソッ
魔法使い「え?何て言ったの?」
勇者「なーんも」
序章は以上です。
登場キャラは安価で4つの候補を出してもらい、その候補からコンマによって決定させます。
安価は以下の形式でお願いします。
キャラ名:(役柄や容姿など)
性別:(男か女)
年齢:(5~100の間)
得意戦型:(剣術、体術、魔法のうちのいずれか。複数可)
備考・希望:(そのキャラの過去や、こうしてほしいなどがあれば)
あまりにも無茶あるいは意味が読み取れないもの、また、連投は再安価とします。
キャラ名: ルーナ
ヒーラー 白髪でオシャレなローブを纏ってる E:ダイアロッド
性別:男
年齢:16
得意戦型:魔法
備考・希望:威勢の良い啖呵をよく切る 前衛を盾として扱う後衛 ドクズの鑑
キャラ名:グローバ(役柄や容姿など:小柄だが筋肉質な体つきをしたスキンヘッドのじいさん。)
性別:男
年齢:65
得意戦型:体術
備考・希望:
幼女相手でもセクハラする絵に書いたようなエロジジイ。
各地を観光しながら旅をする楽隠居。
体術以外に回復と強化の魔法に優れるが使用目的もエロのため。(しかしR板じゃないし出番はないだろう)
実は家督を息子に譲り現役を退いた貴族で、本名はグロスハルト・バーランドというが気楽な隠居生活のために隠している。
キャラ名:リアンノン (精霊術師 白髪おかっぱな小柄な容姿)
性別:女
年齢:17
得意戦型:魔法
備考・希望:気弱で引っ込み思案な少女だが才能は高く火・水・風・土の精霊と共に戦う
候補が出そろったため、>>34のコンマで決定します。
00~24:ルーナ
25~49:グローバ
50~74:ハンニバル
75~99:リアンノン
はい
コンマ78で登場キャラ一人目は
キャラ名:リアンノン (精霊術師 白髪おかっぱな小柄な容姿)
性別:女
年齢:17
得意戦型:魔法
備考・希望:気弱で引っ込み思案な少女だが才能は高く火・水・風・土の精霊と共に戦う
に決定です。
次回の投下はまた後日となります。
余談となりますが、勇者と魔法使いのキャラシートはこんな感じです。
キャラ名:勇者(お調子者)
性別:男
年齢:16
得意戦型:剣術・体術
備考:自分が世界最強と信じて疑わない自信過剰家。小さい頃から闘技の稽古をつけてもらっていた。魔法が全く使えないが、ずば抜けた身体能力と剣捌きで相手を翻弄する。
キャラ名:魔法使い(火属性の魔法使い 勇者よりやや小さく、胸は無い)
性別:女
年齢:16
得意戦型:魔法
備考:勇者の幼馴染み。昔は泣き虫だったが、勇者の言葉のおかげで今の勝気な性格に変わることが出来た。闘技の経験は乏しく、まともにやったのは勇者戦が初めて。勇者には特別な感情を持っている。
2章投下していきます
ーーー道中ーーー
勇者「……」テクテク
魔法使い「……」テクテク
勇者「………だー!疲れた足痛ぇ」
魔法使い「辛抱なさい。もうすぐ町に着くから」
勇者「さっきもそんなん言ってなかったか?つーか魔法使いは平気そうだな…」
魔法使い「私は魔力で足の負担を和らげてるもの」
勇者「ずりーぞ!俺っちにもやれよ!」
魔法使い「あんたは体強いんだからいらないでしょ」
勇者「こいつ……初日におぶってやった恩を忘れやがって」
勇者「もういいかんよー、今日はこの辺で野宿にしようぜ」
魔法使い「嫌。今日こそふかふかのベッドで寝るんだから」
勇者「芝生も十分ふかふかだろ」
魔法使い「全っ然違いますぅ!私はあんたと違って繊細なのよ」
魔法使い「…体だってちゃんと洗いたいし…」
勇者「別に臭くねーから平気だって」
魔法使い「~~!!」
魔法使い「そういうことじゃないの!つか独り言に返事すんな!聞くな!」
勇者「理不尽過ぎる…」
魔法使い「あ、ほら見えてきたわよ」
勇者「んー?…マジじゃん!」
勇者「あれが今日の俺らの寝床になる町か」
魔法使い「えぇ。王都まではまだ遠いけど」
魔法使い「初めての土地に来ると旅って感じがしてくるわね」
勇者「…やっぱ旅行、好きだろ?」
ーーー宿屋 勇者の部屋ーーー
勇者「あ゙ー」ゴロン
勇者「たった2日ぶりのはずなのにもう懐かしいわ。この布団の感触とか」
勇者「悔しいけどあいつの言ってたこと分かっちまうぜ…」
勇者「部屋も2つとれてよかったし。1部屋とかぜってー了承しないだろうかんな」
勇者「このまま夕食まで少し寝るとすっか」
勇者「……」
勇者「」スー..スー..
勇者「」スー..スー..
勇者「……」
勇者(………)
ムクリ
勇者「……うーむ」
ーーー魔法使いの部屋ーーー
魔法使い「ふー気持ち良かった」ホカホカ
魔法使い「やっぱり湯浴みは毎日しなきゃ落ち着かないわね」
魔法使い「それにしても大きい姿見ね、これ」
魔法使い「……………」
魔法使い「」ブンブン
魔法使い「私はまだまだ成長期だし…!」
魔法使い(でもあいつの好みって)
魔法使い「……はぁ。世の中って不平等ねー…」
魔法使い「……」チラリ
(窓からのぞく町の景色)
魔法使い「………」
ーーー廊下ーーー
勇者・魔法使い「「あ」」バッタリ
魔法使い「…寝るんじゃなかったの?」
勇者「あー、眠気ね、さっきまではくどいくらいあったんだけどね。それでちょっとお前に用があって」
魔法使い「なに?…まさか覗き?」
勇者「ちげーよ」
勇者「その、なんだ、辺境にあるっつっても町だけあってそこそこ綺麗だよな」
魔法使い「…!」
魔法使い「…なるほど」
魔法使い「どうやら考えることは同じようね」
勇者「なに?じゃあお前も…」
魔法使い「そう」
魔法使い「やるしかないわ」
ーーー商店区ーーー
魔法使い「旅といえば観光!」
勇者「よ!」
魔法使い「さぁ心行くまで見て回るわよ!」
勇者「さっすが付き合い長いだけあって分かってらっしゃる!」
魔法使い「だって見てみなさいよあのお洒落なお店!あっちのカラフルな雑貨屋!そしてこの大きい通り!」
魔法使い「その全てが私達を呼んでるのよ……堪能し尽くせとね」
男「俺っちにも聞こえんぜ!」
周囲(うわぁ…あの二人絶対田舎者だ)
魔法使い「ねね、私向こうの雑貨店エリアを制覇しにいくわ!あんたは?」
勇者「え?付いてこいって言わんの?」
魔法使い「アクセサリーなんか興味ないでしょ?どうせ断るじゃない」
魔法使い(私がお洒落しようとしてるとこ見たら絶対おちょくってくるだろうし)
勇者「へへ、まーね」
勇者「美味そうな食いもん巡りでもしてくるわ」
魔法使い「決まりね。なら後で合流。私雑貨店エリアのどっかにいるから見つけて声かけて」
勇者「俺っちが探すんかい」
魔法使い「ご自慢の脚力があるじゃないの」
勇者「あいあい。火吹き芸とかやっててくれりゃ即行見っけるよ」
魔法使い「今すぐあんたの顔面にかましてもいいけど?」
ーーー雑貨店ーーー
魔法使い「わぁ…すごいわね」
魔法使い(緑に赤に水色にピンク)
魔法使い(髪留め、首飾り、腕輪……あれは耳に着けるものかしら)
魔法使い(色とりどりで見たことのないものがたくさんある…!町ではこういうのが流行ってるのね)
魔法使い「んー…これとか……こっちもなかなか……」
魔法使い(この首飾りとか、ちょっと大人っぽく見えないかな?)
魔法使い(これで少しはあいつも)
魔法使い「………」
魔法使い(無意識にあいつのこと考えるの、悪い癖だわ。今は純粋に、この新鮮な買い物を楽しむのよ!)
魔法使い(…後で服屋にも寄ろうっと)
魔法使い「…!」
魔法使い(あ、この髪飾りかわいい)ソッ...
チョン
魔法使い「…!」
少女「あ」
魔法使い(しまった。指、触っちゃったわね…この子も欲しかったのかしら)
少女「…その…ごめんなさい」
魔法使い「や、いいのよ。こちらこそ周りよく見てなくて」
魔法使い(それにしてもこの子)
魔法使い(切り揃えられた白い髪、整った輪郭にシンプルで大人しい服装……まるでお人形さんみたい)
魔法使い(でも一番気になるのはそこじゃないのよね)
魔法使い「……」ジー...
少女「……えっと…すみません、何かありますか…?」
魔法使い「!何でもないの。ごめんね不躾に見ちゃって」
少女「……」
魔法使い「これ欲しかったのよね?はい、どうぞ」
魔法使い「とっても似合うと思うわよ」ニコッ
少女「…いえ、それはお姉さんにお譲りします」
魔法使い「遠慮しなくていいのよ。私このお店の中全然見れてないから、買うものを決めるのはまだ先なの」
少女「お心遣いだけ、いただきます。ありがとうございます」ペコリ
タッタッタッ
魔法使い「ちょっと、待っ――」
魔法使い「…行っちゃった」
魔法使い「うぅ、悪いことしたわね…罪悪感…」
魔法使い「……あら?」
(地面に落ちた財布)
魔法使い「これ…あの子の…」
ーーーーーーー
魔法使い「うーん、いないわ。どこに行っちゃったのかしら」
魔法使い(あの子の髪、目立つからすぐ見つけられると思ったんだけどな)
魔法使い(この辺りは人通りも少ないし、もし親御さんと買い物に来てるんだとしたらさっきの大通り沿いを探した方がいいのかもしれないわね)
勇者「やーっと見つけたわ。お前雑貨店の方にいるんじゃなかったんか?」
魔法使い「勇者…ごめんなさい少し事情があって……って」
勇者「ん?」
(脇に抱える大量の食べ物)
魔法使い「あんた買い過ぎじゃないそれ?」
勇者「いやぁ全部美味かったからさ、お前の分も買っておいてやったんだぜ?へっへ」
魔法使い「そりゃどうも。食べ切れる自信皆無だけど」
勇者「俺っちも手伝ってやるって」
魔法使い「自分が食べたいだけじゃないの…」
魔法使い「それよりあんた、白い髪の女の子見なかった?これ。その子が落としていったのよ」
勇者「財布か?質素なデザインだな。柄もなんもない。お前の好みとは真逆だ」
魔法使い「う、うるさい」
勇者「白い髪なら向こうで見たぜ?」
魔法使い「本当!案内して!」
.........
ーーーーーーー
魔法使い「この辺?」
勇者「そ。一人で歩いてたんよ」
魔法使い「大人の人しかいないわよ」
勇者「俺っちに言われてもなぁ。移動したんだろ」
魔法使い「…まぁ、その子が歩いてった方に向かうしかないわね」
勇者「あれじゃね?」
魔法使い「?どれ?」
勇者「あそこ。なんか野朗共に囲まれてる」
大男「おうおうおう。俺にぶつかっておいてごめんで済むと思っとんのか?おぉん?」
子分A「そうだそうだ!この方をどなたと心得る!?」
少女「ごめんなさい……わざとじゃないんです」
子分B「わざとでなくともそれなりの誠意ってやつは必要だよなぁ?」
少女「誠意、ですか」
子分B「分からんなら教えてやろう!君がしでかしたことへの代償をねぇ!」
少女「でも私…」
大男「まぁおめぇら落ち着けや。嬢ちゃん、俺もそこまで鬼じゃあねぇ。だが嬢ちゃんの売った喧嘩だ、勝負のチャンスをくれてやる」
大男「見たところ魔術師だろ?闘技くれぇやったことあるよな?」
少女「あります……けど争いごとは苦手で……」
大男「んじゃあ不戦敗だ。慰謝料払ってもらおうか。言っとくが安くねぇぜ?」
少女「そんな…」
勇者「ひっでー因縁の付け方だな。大方金目当てだろうが。あの子良いとこのお嬢様っぽいし」
魔法使い「……」
勇者「助けに行かんの?」
魔法使い「え!」
勇者「お前こういうの絶対許さないやつじゃん」
魔法使い「そう、ね」
少女「……分かりました。それで納得いただけるなら」
大男「成立だな」ニヤ
大男「場所、移そうや」
勇者「行っちまうみたいだぜ」
魔法使い「追いかけましょう」
ーーー町の自由闘技場ーーー
勇者「ほー、町ともなるとこんな場所まであるんな。村のは手書きのヘッタクソなフィールドだったもんなー」
魔法使い「自分でそれっぽいの作ればいいじゃない」
勇者「作ろうと思ったことはあった」
魔法使い「実行に移しなさいよ」
魔法使い「あの子は…」
大男「うし、子分A!おめぇ審判やれ」
子分A「了解っす!」
少女「………」
魔法使い「あっちのフィールドみたいね」
勇者「闘技始めようとしてっけど」
魔法使い「…勇者、あの闘技ちょっと観戦してもいい?」
勇者「んえ?」
魔法使い「勿論あの子が理不尽な目に遭いそうになったら助けるわ」
勇者「お前がそれでいいなら俺っちも構わんよ」
魔法使い(どうしても気になるのよね)
子分B「親分、死なせたら反則負けっすからねー!」
大男「がはは!分かっとるわい」
子分A「そいじゃ始めまっせ」
子分A「両者前へ!」
少女「……」
大男「……」ニヤニヤ
子分A「始め!」
勇者「始まったな」チラリ
魔法使い「……」
大男「嬢ちゃんよぉ、そう緊張すんなや。なにも取って食おうってんじゃねぇんだ」
少女「……」
大男「俺に幼女をいたぶる趣味はねぇ」
少女「」ピクッ
大男「こんな成りでも紳士だからよ、勝負はフェアにしてやる。先に嬢ちゃんの魔法拝ませてくれや」
子分B「さすが親分!お優しい!」
大男「当然のことをしてるまでよ!」ガハハ
魔法使い「何がしたいのよあの男は」
勇者「大方、自分には何も通じませんよーって見せびらかしたいんだろ。そんで相手を萎縮させて悦に入るんさ」
勇者「はっ、雑魚ほど見栄を張りたがるわな」
魔法使い「…あんたが言うとムカつくわね」
大男「ほれほれ、いつでもいいぜ?」
大男(くく…数え切れねぇほど闘技で荒稼ぎしてきた俺だ。魔法の使い手にも幾度となく勝利してきた。言わば歴戦の猛者よ)
大男(対して、場数も踏んでなさそうな嬢ちゃんときた。女子供に仕掛けるなんて普段はしねぇが…あの容姿に、人慣れしてない雰囲気。どこかの貴族の箱入り娘に違えねぇ)
大男(悪いな嬢ちゃん。あんたに恨みはねぇが、一山当てさせてくれや)
少女「…そうですか」
大男「お、くるか?嬢ちゃんがどんなかわいい魔法見してくれんのか楽しみだなぁ」
少女「………」
少女「"召喚"」
魔法使い「!」
勇者「召喚?」
...ゴゴゴゴ
大男「あ…?」
大男(なんだ?急に周りが温かく――)
ブワァ!
大男「うぉあちぃ!」
子分A「ぎゃ!目が…!」
大男(くっそ、なんだってんだ!空間加熱魔法か!?聞いたことねぇぞ…!)
炎精「……」ゴゴゴ
大男「………ほ?」
勇者「なんだありゃ。火のおっさん生み出したぞ」
魔法使い「やっぱり…」
魔法使い「あれは精霊よ」
勇者「精霊?」
魔法使い「私も噂程度にしか聞いたことがなかったわ。精霊と交信する魔力を持っていて、彼らの力を借りることが出来る、この世に100人といない…」
魔法使い「彼女、精霊術師なのよ…!」
子分B「ひぇ…」
大男(お、俺は夢でもみてるのか…?こんなわけわかんねぇ魔法…)
炎精「……」ギロッ
大男「っ…」
大男(ちくしょうが…!威圧感だけで足がすくみやがる…)
大男(…ん?そ、そうか!)
大男「は、ははっ。驚いたよ嬢ちゃん!こいつぁ幻覚魔法の類だな?見た目だけじゃねぇ、温感まで錯覚させるなんざなかなか面白ぇ魔法だ」
子分B「な、なるほどっす!見掛け倒しってことか!こすい魔法使いやがるぜ」
少女「……、…、…」
炎精「……スゥー……」
ゴウゥ!
勇者「おぅ…!」
魔法使い「きゃっ!?」
ボオオォ...
魔法使い「……すご」
勇者「お前もあんくらい出来たら俺っちと張り合えるかもなー」
魔法使い「無理よ。私の火炎なんかあれと比べたら遊びだわ…」
大男「はひ……」チリチリ...
少女「…ごめんなさい、髪を焼くつもりはありませんでした」
少女「まだ……やりますか?」
大男「………ひ」
大男「ひぇえええええ!」タタタッ!
子分A「ま、待ってくださいよ親分!」
子分B「置いてかないでぇ!」
タッタッタッ...
少女「……ふぅ」
勇者「勝者、精霊使いの女の子ちゃーん」
少女「!」
魔法使い「こそこそ見物しててごめんね」
少女「あ、お姉さん…」
魔法使い「さっきぶり」ニコッ
魔法使い「これ落としてたわよ?」
少女「お財布…?あっ」
ガサゴソ ペタペタ
少女「…ほんとだ。無い」
(受け取る)
少女「ありがとうございます。わざわざ届けに来てくれたんですか…?」
魔法使い「それもあるんだけど…あなたから滲む魔力が気になっちゃって」
魔法使い「驚いたわ。精霊術師に会えるなんて夢にも思ってなかったもの!」
炎精「……」ゴゴゴ
勇者「おーすげー、これ抱き着いたら燃やされんのかね」
少女「…、……。」
炎精「……」
スッ...
勇者「あ、消えた」
魔法使い「今のは精霊に話しかけたのよね!?交信手段が人語じゃないのは知ってたけど、テレパシーみたいなもの?私達には聞こえないんだ」
少女「…お詳しいんですね」
魔法使い「あぁ…ごめんなさい私ったら」
魔法使い「私は魔法使い。こっちの能天気なのが勇者ね」
勇者「おっす」
少女「……リアンノン、といいます」(以下、リア)
魔法使い「リアンノン…神話に出てくる女神様と同じ名前だわ…!」
勇者「よくそんなん知ってんなー」
魔法使い「あんたと違って勉強してるのよ」
魔法使い「天は二物を与えることもあるのね!こんなに神秘的な容姿といい、精霊術といい……名は体を表すとはよく言ったものねぇ」
リア「…神様、ですか…」
リア(……)
リア「……あの、実は私家出をしてきたんです」
魔法使い「え」
リア「魔法使いさんの言う通り、精霊術もこの白い髪もとても珍しいもののようで……それで、精霊達と交流が出来ると分かったその時から、村は私を御神体として扱うようになったんです」
リア「今の暮らしはとても息苦しくて……」
リア「私は普通の生活がしたいのに、誰も聞き入れてくれないので」
勇者「飛び出してきたと」
リア「…はい」
魔法使い「そうだったの……悪いことしたわね、そうとは知らずに…」
勇者「ふーん。でもさ、この近くに村なんてあったっけか?俺らが来た時にゃ見かけなかったよな?」
リア「風の精霊さんに運んでもらったんです」
勇者「なにそれ羨ま」
魔法使い「なんでこの町に?」
リア「…一度、お買い物というのをしてみたくて…」
リア「よく言うじゃないですか…?女の子は時間をかけて楽しくお買い物するって…!」
魔法使い(だから雑貨店にいたのね)
...グー
リア「………//」
魔法使い「ふふっ、先にお食事する場所探した方がよかったかもしれないわね」
勇者「ほい、食うか?」スッ
リア「え…悪いです、そんな」
魔法使い「遠慮しなくていいわよ。それ私の分らしいけど、どうせ食べ切れないからリアンノンちゃんも一緒に食べましょ?」
リア「でも……」ゴク...
リア「……じ、じゃあいただきます」
.........
魔法使い「どう?美味しい?」
リア「はい…!ムグムグ…とっても!」
魔法使い「そんなに急がなくても食べ物は逃げてかないわよ」フフッ
勇者「こっちも食ってみ?俺っちの一推し!」
リア「」パクッ
リア「ん~~♪」
勇者「おーいい反応すんね~。リアの餌付け係立候補してみっかな」
リア「リ、リア…?」
魔法使い「馴れ馴れしいわよ、あんた」
勇者「いいじゃん。リアンノンって長くて呼びづれーのよ」
魔法使い「あのねぇ…。こいつの言うことは気にしないでね。大抵頭を通って出てきた言葉じゃないから」
勇者「きみさっきからちょいちょい失礼じゃない?」
リア「……いいですよリアで」
リア「いえ、リアがいいです」
勇者「ふっ」ドヤ
魔法使い「…なによ」
リア「魔法使いさんも…」
魔法使い「え?えーと……リア、ちゃん」
リア「はい…♪」
魔法使い(勇者のにやけ顔は癇に障るけど、リアちゃんが嬉しそうにしてるならいっか)
勇者「ところでよ、リアの家出ってどっか行き先決めてるんか?」
リア「……特には……」
魔法使い「突然飛び出してきたんだからそんなもんでしょ。ましてリアちゃんくらいの年齢の子ならね」
魔法使い「親御さんも心配してるでしょうけど…」
リア「家にはお手紙を置いてきたので大丈夫だと思います」
リア「それに……両親も私のことは"娘"として見てませんから……」
勇者「……」チラッ
魔法使い「……」メソラシ
リア「…あ、すみません。やな空気にさせちゃいましたね…。今のは気にしないでください」
魔法使い(…そういえばこの子、最初に会った時からずっとどことなく悲し気な顔をしてるのよね)
リア「ですが一つだけ言わせてください」
魔法使い「は、はい!なんでしょう…?」
リア「………私、17ですっ」
勇者・魔法使い「「……」」
勇者・魔法使い「「!?」」
ーーー商店区ーーー
魔法使い「ごめんねリアちゃん。まさかお姉さんだなんて思わなくて」テクテク
リア「…仕方ないです。自分でも分かってますから」テクテク
勇者(どっからどう見ても年上にゃ思えんわな。見た目、村のチビ共とおんなじくらいだし)
勇者「そんであの精霊魔法かぁ」
勇者「分かるぜ、"持ってる"やつの悩みってのが付き纏ってくるよなー」
リア「は、はい…?」
勇者「なぁ、試しに俺っちと闘技してくんない?あの火のおっさんと直でやり合うのちょー楽しそう」
リア「……すみません、争いごとは……」
魔法使い「やめなさい。さっきの連中とやってることが変わんないわよ」
勇者「ちぇーつまんねーの」
勇者「次これ食う?」
リア「あ、いただきます」
リア「……」モムモム
魔法使い(…ごめんリアちゃん、ちっちゃな子供にしか見えない)
勇者「で、魔法使いさんよ。お前らの買い物付き合うのは全然いいんだけどさ、その後どうするんよ?」
魔法使い「この後?」
勇者「リア家出中じゃん」
魔法使い「……あ」
魔法使い「さすがに泊まる場所くらいは確保してるわよね…?」
リア「……………」
魔法使い「えぇ…?」
リア「ち、違うんです。宿を訪ねはしたんですよ…!」
リア「ただ、お子様一人では泊められないって……」
魔法使い(容赦ないわね、世間)
魔法使い「だったら私達の宿に来なさいな」
リア「…!」
魔法使い「私と勇者が一緒にいればリアちゃんにも部屋使わせてくれるはずよ」
リア「そんな、悪いです…!」
魔法使い「どこが?正当にサービスを受けられるようになるだけよ」ニコッ
リア「それはとてもありがたいですが…」
勇者「おいおーい、もしや宿泊費まで面倒みるつもりかね?」
魔法使い「そうよ。…と言いたいとこだけど」
リア「お金を出していただくなんて、絶対ダメですからね…!」
魔法使い「そうくると思ってたわ」フフッ
魔法使い「場所を提供してもらうだけって考えたら、どう?」
リア「………」
勇者「行こうぜ行こうぜ。さっき食べた飯代っつーことで精霊魔法もっと見してくれよ!見せんのならいいっしょ?」
リア「……はい。それなら」
勇者「やりぃ!そうと決まればとっとと観光済ましちまおうぜぃ!」
タッタッタッ
魔法使い「先に行ったら置いてくわよー!」
魔法使い「ほんと、少しは落ち着いてられないのかしら」
リア(……いいな)
ーーー宿屋裏 空き地ーーー
リア「………」
勇者「」ワクワク
リア「……"召喚"」
...コポ、コポ
ザパァ!
水精「……」ポタポタ...
勇者「おぉ…!これが水の精霊か!」
リア「そうです」
勇者(全身水だからすっけすけだけど、いい体付きした姉ちゃんじゃん)ヌフ
勇者「なーなー!なんかやってみてくれよ!」
リア「……、…?」
水精「……」
水精「」スッ
...ザーー!
勇者「お、おぉ?」
勇者(俺っちの周りを取り囲むように大雨が降ってきた!)
ザー...
勇者「ほほぉ、局所的に雨を降らす技か。水不足にゃもってこいかもなー」
勇者「もっとすげー技ないんか?こう、一撃必殺みたいな!」
リア「いえ…そういうのは……」
勇者「えー、せっかく精霊なんて呼び出せんのにそれじゃあ観賞用にしかなんないぜー?」
ーーーーー
司祭「いいですかなリアンノン様。あなた様はそこにいるだけでよいのです。それだけでこの村の益となる」
司祭「何をする必要もありませぬ。それがあなた様の役割――」
ーーーーー
リア(……)
勇者「もっと自信持てって」
リア「え…?」
勇者「その歳でこんな芸当が出来んなんて将来有望だろ、多分。鍛えればそんじょそこらの奴くれー瞬殺になんじゃね?」
勇者「ま、俺っちがいる限り最強は無理だろーけどな!なはは!」
魔法使い「二人ともこんなとこにいたの?そろそろ食事の時間になるわよ!」
ーーー魔法使いの部屋ーーー
魔法使い「リアちゃんそっち狭くない?」
リア「平気ですよ」
魔法使い「ならいいけど……タイミング悪かったわね、帰ってきたら満室になってるなんて」
魔法使い「同室は許してくれたけどベッドは一つだし……いざとなったら私床で寝てもいいからね?」
リア「必要ありません、そんなの…!」
リア「それに、私は……一人よりも一緒の方が……」
魔法使い「……」
ナデナデ
リア「……ふぇ?」
魔法使い「リアちゃんはいい子ねー。そうやって人のことをちゃんと気遣うことが出来る」
リア「な、なんですか……こんな子供みたいに…!」
魔法使い「馬鹿になんてしてないわ。尊敬してるのよ」
リア「尊敬…?」
魔法使い「えぇ」
魔法使い(とっさに頭を撫でてしまったなんて言えない)
魔法使い「でもね、もっとわがままも言っていいのよ?」
魔法使い「今日初めて会ったばっかりだけど、私も勇者もリアちゃんと仲良くなりたいと思ってる」
リア「……」
リア「…魔法使いさんにはあるんですか?わがまま…」
魔法使い「私?そうね…」
魔法使い「あわよくば、もっとリアちゃんから精霊術のことが聞けたらなって。これでも魔術師の端くれですからね」
リア「それじゃあその、少しだけ、いいですか…?」
魔法使い「もちろん」
リア「…魔法使いさんと、勇者さんのお話が聞きたいです」
ーーーーーーー
勇者「いやーびっくりしたぜ。魔法使いがこっちの部屋に侵入してくるんだもんな。俺っちには絶対来んなって言っておいて」
魔法使い「呼びに行っただけしょ!?リアちゃんがあんたの話も聞きたいって言うから仕方なく!」
勇者「でかい声だすと他の客に迷惑だぞー」ニヤニヤ
魔法使い「こいつ…」
リア「あの…やっぱり困りますよね…私……」
魔法使い「いいのよ、リアちゃんはこれっぽっちも悪くないから!」
勇者「そそ。俺っちの武勇伝が聞きたいんならたんまり話してやんぜ。さっき昼寝しといたから全然眠くないしなー」
魔法使い「変な時間に寝たら昼夜逆転するわよ?」
勇者「だいじょーぶ、夜寝る時間昼まで伸ばせば解決よ」
魔法使い「どこが大丈夫なのよ…」
勇者「さってどこから話そうかねー。そだ!俺っちがちょうど闘技始めた頃のとこから!」
.........
勇者「そしたら奴らもムキになっちまってよ。みんなして引くに引けない空気の出来上がり」
リア「まあ…真剣な場面なのに、なんだかちょっと可笑しいですね…ふふ」
魔法使い(リアちゃん楽しそう)
魔法使い(なんだかんだ、勇者を呼んだのは正解だったわね。こいつ自分の自慢話をするのは大好きだし)
勇者「そんで全員で襲いかかってくるもんだからよ、思い知らせてやったのよ」
勇者「俺っちのこの」
ギュン!
魔法使い「あぶなっ」サッ
勇者「華麗な回し蹴りで!」
魔法使い「なんで目の前でやんのよ!ぶつける気!?」
勇者「当てねーって。ビビりだなー」
勇者「ま、そんなこんなで分かってくれたらしくってさ。今じゃ奴らみんな俺っちの舎弟ってわけ」
勇者「この経験から俺っちは、納得いかねーことがあっても簡単に屈しちゃいけねーっつー教訓を学んだわけな」ウンウン
リア「!」
魔法使い「力づくで言うこと聞かせただけじゃないの」
リア(簡単に、屈しちゃ…)
魔法使い「真に受けないでね、リアちゃん。こいつ小さい頃は俗に言う悪ガキそのものだったんだから」
勇者「よく言うぜ。その悪ガキにいつもぴったり付いてきてたくせに」
魔法使い「うっ」
リア「お二人は昔から知り合いだったんですね」
勇者「おう。聞いて驚け、魔法使いなんて昔は――」
魔法使い「勇者」ギロ
魔法使い(喋ったら殺す)
勇者(って目してやがる。おっかねー)
リア「勇者さん…?」
勇者「あー…と、何するにしても俺っちと一緒だったもんよ。その頃は今と違ってもっと可愛げあったんだがなぁ」
魔法使い「悪かったわね…今はかわいくなくて!」
勇者「別に今がかわいくないなんて言ってねーけど」
魔法使い「…!?あ…う…//」
リア(…そっか。魔法使いさん、勇者さんのことが……ふふ)
リア「あの、お二人はどうして旅をしてるのですか?」
勇者「優勝するため!」
リア「?」
魔法使い「王都に行くのよ。近々闘技大会があるの。それに出るのが目的よ」
リア「わぁ……お二人とも強いんですね…!」
魔法使い「出場するのは勇者だけよ。私はただの付き添い」
勇者「今年は他の選手がかわいそうだよなー。全員俺っちにボロ負けしちゃうもんね」
魔法使い「はいはいそうね」
魔法使い「そういえば訊いてなかったけど大会の日っていつなのよ?場合によってはあんまりのんびりしてられないわ」
勇者「日程?んー、確か……1ヶ月後だったかな」
魔法使い「全然余裕じゃないの!ここから王都ってせいぜい10日もかからないわよ?こんな早く村を出ることなかったじゃない」
勇者「まぁまぁ。そんときゃ王都の観光でもすりゃいいっしょ」
魔法使い「半月近くも見て回るものがあるのかしらね…」
リア「王都……きっととても広いのでしょうね」
魔法使い「そうね。ここ数年で大きく発展してきたとは聞いたわ」
リア「世界って、まるで生きてるみたいですね。こんなに大きくて、流動的で……知らないことだらけです……!」
魔法使い(……)
魔法使い「…リアちゃんはさ、もう村には戻らないの?」
リア「………」
魔法使い「あ!責めてるわけじゃないのよ!ただ、リアちゃんのこの先のことを考えるとね…その…」
リア「…分かってますよ」
リア「一人で生きていけるとは私も思ってませんから…」
リア「村は、好きではないですが、地獄でもないので、お金がなくなって限界がきたら帰ります」
魔法使い(…また、悲しい顔にさせちゃった。この話には触れない方がよかったかな)
魔法使い(でもこの子が本当の意味で笑うためには…)
リア「それより、続き聞かせてくれませんか…?次は魔法使いさんのお話が聞きたいです」
魔法使い「…うん、いいわよ。けど眠くなったらちゃんと寝ること」
リア「…魔法使いさんより年上ですよ、私…」ムー
勇者「俺っちの武勇伝もまだまだあんぜー?」
.........
ーーー翌朝ーーー
魔法使い「……ん……」
魔法使い(朝…?)
勇者「ぐー…むにゃ…」
魔法使い「………!?」
魔法使い(近い近い近い!)
魔法使い(なにっ!?なんで勇者が――!)
リア「スー…スー…」
魔法使い(…昨日あのまま寝ちゃったんだ)
魔法使い(ゆ、油断したわ。まさかこいつの隣で眠りこけるなんて…)
ドンドンドン!
リア「」ビクッ
勇者「んぁ…?」
魔法使い「なに?」
魔法使い(やけに荒っぽいノック)
宿の主人「ちょっと困りますよあなた!勝手にお客さんの部屋に…!」
「そこにいらっしゃるのですなリアンノン様!」
リア「あ…」
魔法使い「え、リアちゃん…?」
勇者「なんだぁ?朝っぱらから騒がしい奴だな…」
宿の主人「これ以上は営業妨害で突き出しますよ!」
「ええい、そんなつまらん規則で我々は縛れぬぞ!」
バタン!
「やはりこちらでしたか!ささ、愚かな真似はやめにして、村へ帰りますぞ。民もあなた様を待っています」
リア「……司祭様……」
ーーー宿屋 談話室ーーー
リア「………」
司祭「………」
村人たち「「「……」」」
魔法使い(空気が重過ぎる……この人たちがリアちゃんの言ってた村の…)
勇者「こんな大勢で押しかけてくれちゃってまぁ…」
司祭「リアンノン様」
リア「……」
司祭「我々と帰りましょう」
リア「……帰りたくありません」
司祭「何をおっしゃるのです。あなた様の身はあなた様お一人のものではないのですぞ。我が村の守り神として、いてもらわなければ…」
リア「…私は…普通の人間です…」
司祭「なっ」
リア「この髪も、精霊さんたちとお話が出来るのも、単なる偶然に過ぎません。私もみなさんと同じ、人なんです…!」
司祭「この期に及んで何たることを…!」
「リアンノン様どうか怒りをお鎮めください!」
「我らはいつもあなた様を信仰しております!」
「どうか…どうかお慈悲を…!」
魔法使い(何よこれ……こんな、大の大人が何人も女の子一人に赦しを乞うて、崇めてる…)
リア「……」
魔法使い(普通じゃないわ、こんなの)
魔法使い「あの、待ってください。リアちゃんの言ってることをちゃんと考えてあげて欲しいです」
司祭「何だね君は」
魔法使い「リアちゃんの友人です」
リア「…!」
魔法使い「彼女は確かに、数少ない精霊術の使い手で、髪色も珍しいものとは思います」
魔法使い「ですがそれだけです」
魔法使い「珍しい要素が複数重なるだけで無条件で神になるんですか?そしたらこの世は神様だらけですよ」
司祭「何を言うておるか。リアンノン様の存在は単なる珍しさとは次元が違う」
司祭「リアンノン様のご両親もその神性を認めておる。そうであろう?」
リア母「…はい。司祭様」
リア父「おっしゃる、通りです」
魔法使い「なんで……あなたたちリアちゃんの親なんでしょう!?自分の子供がこんな意味の分からない扱いを受けてるのにそれでいいの!?」
司祭「娘、静かにせよ。これは我々の問題だ。余所者が無遠慮に首を突っ込むのはやめてもらおうか」
司祭「さぁリアンノン様、行きますぞ。もうわがままの時間は終わりです」グイッ
リア「や…!」
魔法使い「ちょ、やめなさいよ!そんな無理矢理…!」
「やめるのはお前の方だ!」
「我らからリアンノン様を奪おうとする不届き者め!」
ワーワー!
魔法使い(何なのこの人たち…!自分たちの行為が女の子の自由を奪うことだって理解してないの!?)
魔法使い(こんなに大勢の人がいるのに誰一人異を唱えないなんて。このままじゃリアちゃんはまた…)
勇者「あーあー。さすがにうるさ過ぎんだけどー」
魔法使い(!…勇者?)
司祭「お主、この娘のお仲間だな?部外者には早々に立ち去って欲しいものだ」ジロ
勇者「いやー?部外者じゃねーっすよ?俺っち、リアの餌付け係やらせてもらってるんで」
司祭「何だと…!?貴様リアンノン様に何を――」
勇者「どうどう。頭に血上らせると血管切れるぜ、じいさん」
勇者「リアは村に帰りたくない。じいさんたちはリアを連れ帰りたい」
勇者「でも双方譲らないんだろ?んな平行線の話し合いいくらやったって無意味っしょ」
勇者「だったら!勝負ごとで決めれば文句は出まい!」
司祭「勝負?」
魔法使い「…勇者、あんた」
勇者「この世界の勝負っつったら一つ!闘技しかあるめぇ!」
魔法使い「はぁぁ?あんたどこまで脳筋なのよ!」
勇者「一番平等な決め方じゃん。魔法使いだって闘技で俺に付いてきたろ?」
魔法使い「そうだけど…あれとは事情が…」
魔法使い「大体リアちゃんがそういうの苦手なのあんたも知ってんでしょ!」
勇者「じゃあ、やめとくか、リア?」
リア「……私は……」
リア(争いごとは嫌、だけど)
リア(このまま何も変えられないのは、もっと嫌)
リア「…やります」
魔法使い「リアちゃん…」
勇者「…さ、どうするじいさん?リアはこう言ってっけど」
司祭「おのれ余所者の分際で…!」
魔法使い(そうよね、リアちゃんがその気でも、彼女を神様扱いしてるこの人たちが闘技なんて引き受けられるはず――)
司祭「…私が勝てば、大人しく戻っていただきますからな」
魔法使い「え…」
魔法使い(引き受けるの?)
ーーー町の自由闘技場ーーー
「リアンノン様と司祭様が闘うなど…」
「しかしリアンノン様の神聖な魔法を拝見出来る貴重な機会…!」
「司祭様が収めてくださるようお祈りせねば…」
ザワザワ
魔法使い「…なんでこんなことになったのかしら」
勇者「傍から見たらひでぇ集団いじめだよなーこれ」ハハ
魔法使い「あんたのせいでしょーが!」ビシッ
勇者「あいてっ」
魔法使い「…どうすんのよ。これに負けたらリアちゃんは…」
勇者「んー?大丈夫っしょ。リア、強いし」
魔法使い「そうとは限らないわよ。あの司祭…魔力の流れに乱れがない。相当の使い手よ。いくらリアちゃんが精霊術を使えても簡単に勝たせてくれるかは分からないわ」
勇者「魔力ねぇ」
司祭「…リアンノン様。これから行う数々の無礼をお許しください。これも村の、ひいてはあなた様自身のためなのです」
リア「……」グッ...
審判「両者前へ!」
リア父・母「「……」」
審判「始め!」
司祭「一息に終わりにしましょうぞ!」
司祭「"封魔"!」ブシュー
魔法使い「なんてこと…!封魔の魔法だなんて!」
勇者「まずいのか?」
魔法使い「魔術師の天敵よ。あの魔法にかかったら一切魔法が使えなくなる。高位魔術の一つなの」
勇者「でも時間経過で解けんだろ」
魔法使い「魔法しか使えない人はあれにかかった時点で致命的でしょ!」
シュゥゥ...
リア「……」
司祭「さすがですな、リアンノン様」
勇者「効いてないみたいだぜ?」
魔法使い「魔力の壁ね…あの子本当にすごいわ」
勇者「魔力って防御も出来んだな。そんな便利なら常にしときゃいいんじゃねーのって思うけど」
魔法使い「防御は攻撃以上に魔力の制御が難しいのよ。防御しながら全力の魔法は撃てないの」
司祭「"誘眠"」ポワァ
リア「……」サッ
スー...(霧散する魔法)
司祭「"加重"」
リア「っ…」ググッ...
リア「」バッ
司祭「私の魔法をこれほど防ぐとはなかなか」
司祭「ですが防戦一方では勝てませぬぞ」
リア「………」
リア「"召喚"!」
「おぉ…!リアンノン様の精霊術…!」
勇者「ついにきたな」
魔法使い「……」
...グラグラグラ
ドゴーン!
土精「……」ヌゥ
「じ、地面から…!?」
「土の精霊様じゃ…!」
勇者「あれ?火のおっさんじゃないのな。火炎ブレスでじいさん丸焼きに出来そうなのに」
魔法使い「死なせてるじゃないそれ」
司祭「ふむ。お次はどうするつもりですかな?」
リア「……、……、…。」
土精「」ヌン...
ガァン!
司祭「む…!」
ドドドドド!
司祭「」ササッ
勇者「ひぇー、地面を盛り上げてんぜ」
魔法使い(司祭を直接攻撃するわけじゃないのね。あれじゃあまるで避けてくださいと言わんばかりの…)
魔法使い「…!そういうこと」
ドドドド!
司祭「」ズザッ
司祭「私を場外に追いやる作戦ですか」
リア「……」
司祭「心優しいお方です」
司祭「…しかし、こと闘技においてその優しさは命取りになりますぞ」
司祭「"閃光"」カッ!
勇者「眩しっ」
魔法使い「っ…!」
リア「ぅ…」
司祭「"呪縛"」
リア「!」
土精「グォ…」
司祭「精霊に牙を向けるのは畏れ多いですが…"破砕"」
リア「"解呪"!」
ドシャン!
司祭「ほう…片腕しかもっていけませんでしたか」
リア「……、…」
...ゴロゴロ
ズシン ボコッ
勇者「おー、再生してるよあいつの腕」
魔法使い「今の解呪させてなかったら木っ端微塵だったわね…」
勇者「どうせ復活出来んだろ?問題ないっしょ」
魔法使い「復活も再生も出来るけど、それは術者の魔力があってこそよ」
魔法使い「あの司祭、やっぱり手練れね。精霊を縛るほどの魔法を放つなんて…」
勇者「長期戦は不利ってことか」
魔法使い「そうね。リアちゃんの魔力が尽きる前に決着をつけないと」
魔法使い(それはあの子もよく分かってるはず…)
司祭「手加減しませぬぞ」
リア「……」
.........
土精「」ズズズ
ガコン!
司祭「」ヒョイ
司祭「"超加重"」
土精「グ…」ズン...
リア「"解呪"」
土精「……」ムン
ドゴン!
司祭「ふぬっ」スサッ
勇者「身軽なじいさんだなー」
魔法使い「そうね。リアちゃんさっきから場外に押し出そうとしてるみたいだけど、あれだけ動かれたら難しいわ…」
勇者「そうかー?とっくに狙い切り替えてると思うぜ?」
魔法使い「え?」
リア「はぁ…はぁ…」
司祭「リアンノン様。お気付きになられましたかな?我ら先程から同じことの繰り返しばかりしております」
司祭「私にはまだ余力がありますが、あなた様はそろそろ限界と見受けられる」
司祭「降参していただけませぬか」
リア(…どうしよう…)
リア(怪我させないように場外へ…なんて考えはとっくに捨てた。もう全力で司祭様の動きを止めようとしてるのに…)
リア(無理、なのかな……私はずっとあの村で神様の役目をし続けるしか……)
ーーーーー
勇者「納得いかねーことがあっても簡単に屈しちゃいけねーっつー教訓を学んだわけな」ウンウン
ーーーーー
リア(……ううん)
リア「はぁ、はぁ…」フルフル
司祭「強情ですな…」
リア(私は私)
リア(村の神様で、言いなりな少女はもう…いないの!)
司祭「では再び行かせてもらいますぞ」
魔法使い「リアちゃん…!」
勇者「……」
リア「はぁ…は……」
リア「……」ギュ...
リア「"召喚"!」
...ゴゴゴゴ
司祭「!」
魔法使い(ここで召喚!?)
勇者「お、この熱気は」
ブワァ!
炎精「……」ゴゴゴ
土精「……」ヌゥ
司祭「…驚きましたな」
魔法使い(同時召喚なんて、あの子なんて無茶をするのよ…!)
魔法使い(ただでさえ魔力の消費が激しい精霊術なのに、それをこんなに…)
リア「……私だって、お買い物がしたいんです」
司祭「む?」
リア「…普通の、女の子だから…!」
リア「…、……、…!」
炎精「スゥー…」
土精「」ヌン
司祭「これはいささか…!」
ゴウゥ!ドバァン!
勇者「あっつ!あの時の比じゃねーなこりゃ…!」
魔法使い(こ、これが精霊たちの力…?なんて破壊力なの)
「し、司祭様!」
「まさか今のでお命が…!」
リア「はぁ…はぁ…殺してはいません…」
リア「審判さん……はぁ……土埃が晴れたら、判定を…」
審判「は、はい」
魔法使い「決まったわね。さすがにあの衝撃をいなすのは無理だわ」
勇者「…どうだろうねー」
魔法使い「またそうやって張り合う。あんたなら防げるって言うの?」
勇者「いや俺っちだったらあんな直撃コースに留まんないからさ」
勇者「でもあのじいさん魔法に長けてんだろ?ならもしかすると――」
司祭「"封魔"」
ブシュー
リア「きゃっ…!」
土精「……」グラ...
炎精「……」シュゥゥ...
魔法使い「そんな…」
勇者「消えちまったな、精霊ペア」
リア母「リアン…」
司祭「お見事ですな。今のはひやっとしましたが…全魔力を防御に回す。あなた様もなさっていたことです」
司祭「精霊を2体使役するのはさぞ魔力を使うのでしょう」
司祭「おかげで、私の魔法が届きましたからな」
リア「……」
司祭「……」
(リアに近付く)
司祭「さて、もうよろしいでしょう、リアンノン様」
リア「……」
魔法使い(待って…待ってよ…)
ーーーーー
リア「…一度、お買い物というのをしてみたくて…」
リア「はい…♪」
リア「世界って、まるで生きてるみたいですね。こんなに大きくて、流動的で……知らないことだらけです……!」
ーーーーー
魔法使い(これで終わりなの…?あの子の、リアちゃんの人生はこの先ずっとあの村の人たちの中で…)
魔法使い(所詮私たちは場をかき乱すだけの邪魔者にしかなれなかったの…?)
魔法使い(……そんなのダメよ!)
魔法使い「……」ザッ
ガシッ
魔法使い「!何するの勇者、離して!」
勇者「まぁ待てよ」
魔法使い「ダメなの!このままじゃリアちゃんは――!」
勇者「ちげーって。黙って最後まで見てな」
魔法使い「な、んで」
勇者「いいから」
リア「……」
司祭「降参、と。あなた様の口からお聞かせ願えますかな」
リア「……」
司祭「それだけで平和な日常が返ってくるのです。災いは起こらず、民は怯えず」
司祭「リアンノン様」
リア「………」
リア(………)
リア「……司祭様……」
司祭「はい」
リア「………」
リア「ごめんなさい」
司祭「ん?」
リア「」バッ
ゴスッ!
司祭「ぶべらっ!?」
全員「!?」
ドサッ
司祭「」ピク..ピク..
リア「…諦めたくないんです」
リア「勇者さんたちが、それを教えてくれましたから」
審判「…気絶している」
審判「勝者、リアンノン!」
「司祭様ー!」ドタドタ
「なんというご褒美!」
「脳震盪を起こしてるやもしれませぬ…!」
魔法使い「……」ポカン
勇者「なはは!軟弱なじいさんだなー!あんな蹴りで沈むんかい!」
勇者(ま、でも)
リア母「リアン!」ヒシッ
リア父「無事かい!?痛むところは!?」
リア「ママ、パパ…?」
勇者「綺麗な回し蹴りだったぜ」
ーーーーーーー
リア母「私たちの村は魔王が滅びるよりも以前から、こうして御神体を祭り上げ、人々の心を落ち着けてきたのです」
リア「……」
勇者「ふーん。魔王なんてとっくに死んでんじゃん」
リア父「はい。ですが民衆に根付いた慣習と、心の拠り所となる存在は大きく…」
司祭「…現在まで受け継がれてきた、というわけです」テクテク
リア「あ…」
リア父「司祭様!横になられていなくてよろしいのですか?」
司祭「えぇ、心配には及びません。彼女のおかげで私の目も覚めましたから」
司祭「リアンノン様。いえリアン嬢、これまでの我らの行い、謝罪させていただきたい」
司祭「どのような言葉をかけようと、あなたに失わせた時間が戻ってこないことは承知しています。我ら村の衆で話し合いを行いました。どのような意向でも叶えて差し上げる所存です」
リア「……」
魔法使い「ほら、リアちゃん」
リア「!」
リア「えっと……痣とか、できてないですか…?思い切り蹴ってしまったので…」
司祭「…本当に、お優しい方だ。お気になさらず、手前で治療しましたゆえ」
魔法使い(結局この人は、聖属性、闇属性の魔術師だったのね)
リア「でしたら……あの……」
リア「もう一度、村で暮らしたいな……今度はみんなと一緒に、普通の女の子として……」
司祭「なんと…」
リア母「リアン…!ごめんなさい!今度はあなたを一人にはしないわ…!」
リア父「こんな愚かな親を許してくれ…!」
リア「もう、やめてよ……苦しいわ……」フフッ
魔法使い「よかったわね」
リア「はいっ」
司祭「お二人もありがとうございました。あなた方がいなければ我らは一生、愚行を続けるところでした」
勇者「原始時代に逆行してたところから戻ってきたわけだ」
魔法使い「言い方」
司祭「いえ、まさしくその通りです。我らはこれより人としての第一歩を踏み出していくわけですな」
司祭「あなた方は王都に行かれるそうですね。旅の武運をお祈りしております」
リア母「私たちからもお礼を言わせてください」
リア父・母「「ありがとうございます」」ペコリ
リア「」ペコ
勇者「また変なことされそうになったらさ!さっきの蹴り、喰らわしてやれな!」
リア「あれは…!もうしない…と思います……」
魔法使い「格好よかったわよ」
魔法使い「そうそう、リアちゃん手出して」
リア「?これでいいですか…?」
魔法使い「はいどうぞ」スッ
(髪飾り)
リア「あ、これ…」
魔法使い「そ。昨日リアちゃんが見てたやつ。あの後買っちゃったのよね。リアちゃんにあげるわ」
リア「でも――」
魔法使い「でもは無し。私たちが出会った記念にさ」
魔法使い「大切にしてくれればそれでいいから」
魔法使い「ね?」
リア「………」
リア「はい!」ニコッ
ーーーーーーー
大男「ぐぬぬ…」
子分A「親分…なんだかあの村の連中、仲直りしちゃったみたいっすよ?」
大男「分かっとるわい!」
子分B「ひっ」
大男「くそぅ…あんなガキにやられっぱなしなんざ腹の虫が収まらねぇ…!」
大男「よしおめぇら、投石だ!」
子分A「と、投石っすか…?」
大男「そうだ!石ぶつけて怪我させんのよ!」
子分B「親分、やめときましょうよ!アレの怒りを買っちゃいますって…!」
大男「あぁ!?俺の言うことに従えねぇってのかぁ!?」
勇者「だってあんた威厳のかけらもねーし」
三人「!?」
勇者「しっかし石投げはないんじゃないかー?お笑いにもならんぜ」
大男「誰だてめぇ」
勇者「あんたらだったんだね、リアのこと村にチクったの」
大男「誰だか訊いてんだろうが!」
勇者「へへっ、誰だと思う?」
勇者「正義のみ、か、た♪」
大男「」カチン
大男「随分舐めた野郎だなおい…」
勇者「お、やっちゃうやっちゃう?」
勇者「いいぜほら、カモン」
大男「ぶっ潰す!!」ダッ
.........
(10秒後)
三人「」ボロ...
勇者「なーんだ暇つぶしにもなんねーのな」
勇者「ま、これに懲りたらリアにちょっかい出すのやめとけよー」
勇者「じゃ、俺っち夕飯だから!」
タッタッタッ...
子分A「うぅ……」
子分B「お、親分……」
大男「……職、変えるか……」
ーーー翌日 町の入り口前ーーー
勇者「なー、速いよ魔法使いー」ノロノロ
魔法使い「あんたがわざとらしく遅くしてるんでしょ…!」テクテク
勇者「だって眠くてさー…」
魔法使い「だから睡眠時間ずらすなって言ったじゃない」
勇者「うーん…」
勇者「あ、ちょうどいい芝生が見える」
魔法使い「ダメよ」ガシッ
魔法使い「ほ、ほら肩くらい貸してあげるからその間に目覚ましなさいな」
勇者「なんだ?いつになく優しいなー魔法使いちゃんさー」
魔法使い「っ…!!う、うるさい!変な呼び方すんな!道に捨ててくわよ!」
勇者「いつものお前だ」
リア「勇者さん!魔法使いさん!」テッテッテッ
魔法使い「リアちゃん!」
勇者「ん?眠過ぎて夢見てるんか?」
魔法使い「現実よ」
リア「よかった、間に合った…」
魔法使い「どうしたの?そんな急いで」
リア「あの……お二人の旅、私も連れて行ってもらえませんかっ?」
魔法使い「!」
リア「ママとパパにわがまま言って、出てきたんです」
リア「私ももっと色んなものを見てみたくて。…その、お二人と…」
リア「…だ、だめでしょうか…?」
魔法使い「…勇者」
勇者「おう?」
魔法使い「何か異論は?」
勇者「なーし」
リア「…!」パアァ
魔法使い「その代わり、無理は許さないからね?体調悪いと思ったらきちんと言うこと!」
リア「分かってますよ…♪」
魔法使い(表情豊かになったわね。ふふ)
勇者「そーだ!リアの風の精霊に運んでってもらおうぜ!」
勇者「いやーグッドタイミングだな、リア!俺っちのヒーローだ!」
魔法使い「調子いいんだから」
勇者「んなこと言って魔法使いもちょっと、運ばれてみたいっしょ?」
魔法使い「…ま、まぁ」
勇者「ってわけで、リアよろしく!」
リア「はい」
リア「"召喚"」
...サァァ
ビュオッ!
風精「……」フワフワ
魔法使い「…綺麗ね…」
魔法使い(美しい女性の姿……精霊ってみんな神秘的な造形をしてるのね)
勇者「魔法使いよりはあるな」
魔法使い「?」
魔法使い(……………!!!)
魔法使い「なにが??」ニコッ
魔法使い「ねぇ勇者なにが???」
勇者「よし!頼んだぜ!」
リア「……、……。」
風精「」サッ...
フワァ!
魔法使い「わっ…!」
勇者「お、おおおぉ!」
勇者「すっげー!飛んでるみてーだなー!」
リア「それでは、移動しますよ」
ヒュォォ!
魔法使い「ちょ、ちょっと速くない!?きゃー!」
勇者「やっほーー!おもしれーなこれ!」
勇者「次の目的地へ進軍だ!」
2章は以上となります。
二人目のキャラ決めを行います。
一人目同様、安価で4つの候補を出してもらい、その候補からコンマによって決定させます。
安価は以下の形式でお願いします。
キャラ名:(役柄や容姿など)
性別:(男か女)
年齢:(5~100の間)
得意戦型:(剣術、体術、魔法のうちのいずれか。複数可)
備考・希望:(そのキャラの過去や、こうしてほしいなどがあれば)
あまりにも無茶あるいは意味が読み取れないもの、また、連投は再安価とします。
候補 >>91~94
キャラ名:ノック(武闘家 黒髪ツンツンで背が高く筋肉質)
性別:男
年齢:17
得意戦型:体術
備考・希望:・明るい性格で時々熱血漢なところがある。
・身体能力が高く、戦闘時はボクシングのようなスタイルをとっている。パンチの威力が高く(一撃で岩を砕くくらいの威力)、スピードも速い(高速で何百発パンチが出せる)。さらに動体視力が高く素早い相手でも目でとらえることができる。
キャラ名:グローバ(役柄や容姿など:小柄だが筋肉質な体つきをしたスキンヘッドのじいさん。)
性別:男
年齢:65
得意戦型:体術
備考・希望:
幼女相手でもセクハラする絵に書いたようなエロジジイ。
各地を観光しながら旅をする楽隠居。
体術以外に回復と強化の魔法に優れるが使用目的もエロのため。(しかしR板じゃないし出番はないだろう)
実は家督を息子に譲り現役を退いた位の高い貴族で、本名はグロスハルト・バーランドというが気楽な隠居生活のために隠している。
もう一度チャレンジ
キャラ名:アッシュ (戦士 細身で黒髪。執事服を着て、両手両足に防具をつけている。)
性別:男
年齢:20
得意戦術:剣術と魔法
備え・希望:礼儀正しく誰にでも敬語で話す。昔、ある屋敷の執事をしていたことがあり手先が器用で料理が得意。大剣を武器にし、素早く相手を切ることができる。風、雷の魔法が使えてそれを大剣に纏わせて攻撃する戦法もとれる。実はかなりの怪力でもある。
※質問だけど勇者と魔法使いは名前決めたりしないの?
>>94 実は最初は固有名なしで進めようと思ったのですが、その注釈を忘れてしまったため安価キャラたちだけ固有名がある状態になってしまいまして…。
もし不自然に感じる人がいれば、勇者と魔法使いのキャラ名も決めようとは思います。
特になければこのままでいってしまおうかと考えてます。
二人目候補安価、残り1つ。
再安価指定します。
>>96
よろしくお願いします。
キャラ名:ベルガ(シーフ 金髪で口元が隠れている。背が高く、腰には大きめのポーチがある)
性別:男
年齢:17
得意戦術:剣術 体術
備考・希望:幼い頃に住んでいた村が賊に襲われ村が壊滅した過去がある。クールな性格。2つの短剣を逆手に持ち二刀流で戦う。さらにかなり素早く動くことができ、その速さを活かした体術も得意。ポーチの中には色んな罠が入っていて戦闘中に素早く罠を仕掛けることができる。(逆に設置している罠を解除する事も可能)
候補が出そろったため、>>98のコンマで決定します。
00~24:ノック
25~49:グローバ
50~74:アッシュ
75~99:ベルガ
はい
コンマ61で登場キャラ二人目は
キャラ名:アッシュ (戦士 細身で黒髪。執事服を着て、両手両足に防具をつけている。)
性別:男
年齢:20
得意戦術:剣術と魔法
備え・希望:礼儀正しく誰にでも敬語で話す。昔、ある屋敷の執事をしていたことがあり手先が器用で料理が得意。大剣を武器にし、素早く相手を切ることができる。風、雷の魔法が使えてそれを大剣に纏わせて攻撃する戦法もとれる。実はかなりの怪力でもある。
に決定です。
次回の投下はまた後日となります。
こんな時間ですが3章投下していきます。
ーーー勇者の家ーーー
勇者母「…あら?」
(勇者の使っていた木剣)
勇者母「まあ困りましたね。あの子、忘れ物をしていくなんて」
勇者母「……ふふっ」
勇者母「届けてあげましょう」
ーーー寂れた集落 宿屋ーーー
無愛想な店主「はいよ。料金丁度だな」
店主「梅の間はそっちの廊下真っ直ぐ行って、突き当たり右だよ」
勇者「へーい」
魔法使い「……」
リア「…い、行きましょう?魔法使いさん」
ーーー梅の間ーーー
勇者「おー結構広いなー」
勇者「これがタタミってやつだな!こっちはショウジか!こういう部屋初めて来たけど、なんだ、オモムキがあっていいなぁ」
魔法使い「……慣れない言葉で解説どうも」
魔法使い「ねぇ。この部屋の雰囲気は私も嫌いじゃないわよ。人数制限で1部屋しか借りられないのもこの際いい」
魔法使い「…なんでこんなボロっちいのよ!?」
リア「お店の人に聞こえちゃいますよ…!」
魔法使い「むしろ聞かせていいんじゃないかしらね。壁も天井も傷だらけ。所々穴まで空いてるしそっちの床だって!」
魔法使い「これでお金取るっての…?」
勇者「なら野宿にすっか?この辺森くらいしかねーけど」
魔法使い「………」
リア「…ここに泊まるの、今日だけなんですよね?だったら色んな経験が出来て嬉しい…と、考えられませんか…?」
魔法使い「リアちゃん……前向き過ぎる…」
魔法使い(少なくとも嬉しい経験にはならないけども…)
魔法使い「分かったわ。一晩だけなら我慢する。寝具があればそれでいいわよ」
ーーー夕食後ーーー
三人「……」
魔法使い「…前言、撤回しようかしら」
勇者「これは俺っちも擁護出来ないわ」
魔法使い「ここまで微妙な食事を出せるのって最早狙ってやってるんじゃないの」
リア「…きっと、あれがここの味付けなんですよ」
魔法使い「自分の心に正直になっていいのよ?」
リア「……うーん……おいしくはないです……」
魔法使い「よく言えました」ナデナデ
魔法使い「もういいわ。さっさと寝て、早く出ましょうこんなとこ」
勇者「異議なし」
リア「……」コクリ
勇者「ま、王都までのつなぎよ。ある意味修行と思えばいいんじゃねーか?」ニシッ
魔法使い「何の修行よ…」
魔法使い「というか村を出てからあんたが鍛錬してるの見たことがないわね」
勇者「ちゃんとやってんぜ?心ん中で。昨日はどういうポーズで優勝杯受け取ろうか考えてた」
魔法使い「真面目にやりなさいよ…弱くなるわよ?」
勇者「平気平気。どんな奴が相手でもちょちょっと片付けてやっから。問題なのはいかに格好良く勝つか!」
魔法使い「……リアちゃん、ちょっと風の精霊に頼んでこいつを吹き飛ばしてもらえない?」
リア「…!?」
勇者「魔法使いちゃんよーリア困らせてやんな?」ヘラヘラ
魔法使い「……」
魔法使い「はぁ、いつか痛い目みても知らないわよ」
リア「あの、勇者さんてどれくらいお強いんでしょうか…?」
勇者「そりゃもう世界で一番」
魔法使い「自称ね」
リア「…??」
魔法使い「…実際、こいつの動きが意味分かんないのは認めるけどさ」
勇者「ふふん」
リア「わぁ……ちょっと、見てみたいかもです」
勇者「おういいぜ!なんなら今――」
魔法使い「室内で暴れるのはやめなさい」
勇者「…明日な!」
ーーー翌朝ーーー
魔法使い「勇者起きて」
勇者「……なんだよ。あと少し……」
魔法使い「起きてったら!」ビシッ
勇者「おぅっ!?な、なんだ!」
勇者「……そうかリアに俺っちの神速をお披露目する時間か!」
魔法使い「それは後よ」
リア「大変なんです、勇者さん」
リア「私たちさっき起きたばっかりなんですけど……」
リア「…みんなの荷物がなくなっていて…」
勇者「へ?寝相悪い魔法使いが蹴飛ばしたんじゃないの?」
魔法使い「言うに事欠いてあんたね…」
魔法使い「部屋の中全部見たのよ。どこにもなかった」
勇者「荷物って何が入ってんだっけ」
魔法使い「地図に保存食に器具諸々……でも一番はお金よ」
勇者「ふむ」
勇者「………」
勇者「やばいじゃん」
魔法使い「だからそう言ってるのよ!」
ーーー宿屋 カウンターーーー
店主「荷物?知らないな。届いてもない」
ーーー集落 中央広場ーーー
住民「悪いけど、心当たりはないね。あんたらが来てたことすら初耳だよ」
ーーー長の家ーーー
長「そうですかそのようなことが…。ここの長としてお詫び申し上げます」
長「ですが、私もあなた方の持ち物については…」
.........
ーーー中央広場ーーー
魔法使い「…おかしい。誰に聞いても知らないなんて」
勇者「動物にでも持ってかれたんかね」
魔法使い「だとしたら頭の良い動物ね。誰にも気付かれず荷物だけをピンポイントで持ってくなんて」
リア「…魔法使いさん、もしかして…」
魔法使い「そうね」
魔法使い「ここの人たちの誰かが盗った、としか思えないわ」
勇者「部外者が盗みに入ったとか」
魔法使い「言っちゃ悪いけどこんな場所にわざわざ…?」
勇者「リア、時の精霊とか呼べないん?昨日の夜のこと教えてくれるような」
リア「いないですよ…時の精霊さんなんて…」
三人「うーん…」
執事服の男「もし、そこのお嬢さん」
三人「!」
男「貴女が伝説の勇者様でございますか?」
リア「……わ、私…?」
男「はい」
勇者「わはは!すげーな、神様の次は伝説の勇者かい!」
リア「違います…!普通の人間ですから…!」
魔法使い(こんな男この集落にいたかしら?給仕の者が着る服、だったっけ)
魔法使い(…いえ、この奇妙な出で立ち、一度見たら忘れないわ)
魔法使い「あなた、誰なんですか?」
男「これは失礼致しました。私、アッシュと申します」
アッシュ「突然声をかけてしまった無礼、お許しください」ペコリ
魔法使い「…ここの住人じゃないですよね。何をしてたんです?」
勇者「やたらお堅い服着てんね」
アッシュ「これは一種の職業病です。と言いましても、今は職なしですが」
勇者「それ、籠手か?つーことは騎士?」
魔法使い「執事でしょ」
アッシュ「その通りでございます」
アッシュ「以前はある名家に仕えておりました。しかし私では力不足であると言い渡され、任を解かれてしまったのです」
アッシュ「以来、こうして新たな主人を探し流浪の日々を送っているのです」
魔法使い「……怪しいわ」
魔法使い「こんな何もないような所に元執事って肩書きだけでも変よ。リアちゃんにおかしなこと訊いて近づいてきた…」
魔法使い「あなた、荷物泥棒じゃないでしょうね?」
アッシュ「そのようなことは一切しておりません」
アッシュ「私、新たな主人として伝説の勇者様を探し求めているのです」
勇者「魔王を倒して平和を取り戻したーってやつ?」
リア「…私も知ってます。小さい頃絵本で読み聞かせてもらいました…!」
魔法使い「……」ホッコリ
魔法使い「けどそんなのもう何百年も前の話よ」
アッシュ「私がまだ執事だった頃、噂を聞いたのです」
アッシュ「曰く、魔王を討ち滅ぼした伝説の勇者はその時より老いず、今も生きている。曰く、かの勇者は女性であると」
勇者「ほーん」
魔法使い「…初耳ね」
アッシュ「噂を知るほとんどの者が信じておりませんでしたが、どうせ次にお仕えするならば比類なき強者と謳われる英雄様にと思った次第です」
ーーーーー
「貴方では彼女を救えません」
ーーーーー
アッシュ(……)
魔法使い「それで片端から女の子に声をかけてるのね?」
アッシュ「滅相もありません。お嬢さんを呼び止めたのは彼女から特別な魔力を感じたからですよ」
アッシュ「精霊術をお使いになられますね?」
リア「!」
魔法使い「…よく分かったわね」
アッシュ「精霊術師と顔を合わせる機会もあったものですから」
アッシュ「かの勇者様はあらゆる魔法を使いこなすと言います。もしや、と思いこうしてお尋ねしたのです」
勇者「その伝説になったっつー奴がどんだけ強かったか知らねーけどさ、今じゃ俺っちが人類最強だぜ!」
アッシュ「!…はは。なかなか面白い発言をなさる方ですね」
魔法使い「……」ジー
アッシュ「まだ信じてもらえませんか」
アッシュ「それではこうしましょう。先程荷物泥棒とおっしゃっていましたね、盗まれたのは貴方方のものでしょう」
アッシュ「荷物がなくなった、その場所へ案内していただけませんか?」
魔法使い「どうする気?」
アッシュ「真相を突き止めてご覧に入れましょう」
ーーー宿屋 梅の間ーーー
アッシュ「こちらですか」
魔法使い「えぇ。私たちが寝る時、荷物はそこの隅に置いてあったわ」
アッシュ「……」
リア「…?あの、どうかしましたか…?」
アッシュ「いえ」
アッシュ(いけませんね。このような部屋を見ると反射的に整えたくなってしまいます)
アッシュ「どなたも触ってはいないのですよね?」
魔法使い「そうよ」
リア「はい…」
勇者「はっきり覚えてないんだよなー」
魔法使い「あんた真っ先に寝てたから関係ないわよ」
アッシュ「なるほど…」
アッシュ「………!」
スッ(何かを拾い上げる)
アッシュ(青い糸…)
魔法使い「なんか見つけたの?」
アッシュ「少し、ここの主人と話がしたいですね」
ーーー宿屋 カウンターーーー
店主「ん、兄ちゃん達用は済んだかい。なら早いとこ出てってくれないかね。商売の邪魔だよ」
魔法使い(なんなのこの人昨日から…!客商売してんでしょうに!)
アッシュ「申し訳ありません。しかしご主人の妨害をするつもりはないのです」
アッシュ「この者達の所有物が紛失したことはご存知ですか?」
店主「あぁ。今朝騒いでいたからね、気の毒に」
店主「ま、うちは寝床を提供してるだけだ。失せ物は自分らで探すんだな」
魔法使い「言わせてもらいますけどね――」
スッ
アッシュ「…任せてください」ボソッ
アッシュ「ご主人つかぬことを伺いますが、青いスカーフをした人物に心当たりはありませんか」
店主「……知らねぇな」
アッシュ「そうですか、残念ですね…」
アッシュ「嘘をつかれてしまうとは」
店主「!…お前さん、出鱈目はよくないな」
アッシュ「はてさて、出鱈目はどちらでしょう?」
勇者「なぁ、スカーフってなんだ?」
アッシュ「首に巻く装飾用の布のことですよ。最近王都で流行りだしたものです。特に女性に人気がありましてね、そちらのお二人も似合うかもしれませんね」
魔法使い「見たことがないからなんとも言えないわね…」
リア「スカーフ……どんなのなんだろう…」ウズウズ
アッシュ「…とまあ、王都の外ではまだほとんど馴染みがないものでして」
アッシュ「中でも青のスカーフはとある盗賊団が好んで着ける代物なのです」
店主「っ…」
アッシュ「さてご主人、改めてお訊きします」
アッシュ「何故このような地に居ながら、青いスカーフのことを知っていたのか…」
アッシュ「説明していただけますね?」ニコッ
ーーー外れの森ーーー
盗賊「はっ。寝てる旅人の荷物かっぱらうなんざつまんねぇ仕事だぜ」
盗賊「昔みたいになぁ、もっとハラハラする盗みを働きてぇよなぁ…。これじゃコソ泥だ」
盗賊「楽なのはいいけどよぉ…」
ガサ
盗賊「!」
アッシュ「ここに居ることは分かっていますよ。大人しく出てくることです、荷物泥棒さん」
盗賊「……」
盗賊(なんだ…?なんでここがバレた?こんな知らなきゃ来ねぇような森ん中…)
盗賊(…さては吐きやがったな村の連中…!)
勇者「出てこねーな」
魔法使い「本当にこんな所にいるのかしら…」
アッシュ「あのご主人の様子からして嘘は言っていないでしょう」
アッシュ「…出てきていただけないのならやむを得ませんね」
アッシュ「"突風"」
ビュオッ
魔法使い「!」
リア「きゃっ…!」
勇者「おっと」グイ
リア「あ、ありがとうございます…」
盗賊「くっそ、魔術師かよ…!」サッ
アッシュ「止まれ!」
盗賊「」ヒュッヒュッ
魔法使い(ナイフ!?)
魔法使い「危ない!」
魔法使い(間に合え、"小火――)
カァン!
アッシュ「……」
勇者「おぉ?」
魔法使い(大きな剣…)
盗賊「ちっ!」
リア「逃げていきます…!」
アッシュ「"通雷"」
バチッ!
盗賊「ぐぁ!?」
ドサッ...
アッシュ「これでよいでしょう」
魔法使い(風に、雷…)
勇者「……」
アッシュ「では参りましょうか」
魔法使い「どこへ…?」
アッシュ「この方を連れて長の元へ行くのですよ」
ーーー長の家ーーー
長「そ、そのような者、我々の知るところでは…」
盗賊「ざけんなよおめぇ、オレら売って自分だけ助かろうって腹か!?」
アッシュ「こうおっしゃってますが?」
長「ぬぅ…」
魔法使い「彼、驚くほど手際がいいわね」
勇者「あぁ…」
魔法使い「しっかし村と盗賊がグルだったなんてね。とんでもない話もあったものよ」
魔法使い「リアちゃんどう?私物でなくなってるものはない?」
リア「……はい」ガサゴソ
リア「平気です。私の大切なものは、いつも身につけてますから…」
(頭の髪飾り)
魔法使い「それ、私があげたやつ…?」
リア「…♪」
魔法使い「リアちゃん!」ギュー
勇者「あいつ、でかい木剣振り回してたな」
魔法使い「そうね。魔法にも心得があるみたいだし」
魔法使い「自分のこと執事だって言ってたけど、只者じゃないわよね…」
アッシュ「皆様お待たせ致しました。盗まれた物に不足はありませんか?」
魔法使い「問題ないわ」
アッシュ「こちらも話が付きましたよ。この盗人は私が王都まで送り届けます。村の処遇については、王都の治安維持所にお任せしましょう」
魔法使い「あら、じゃあ私たちと同じね」
アッシュ「と申しますと?」
魔法使い「私たちも王都に行く途中なのよ。こいつ、勇者が闘技大会に出るから」
アッシュ(…!)
魔法使い「名乗るのが遅れたわね。私は魔法使い、この子はリアちゃんよ」
リア「リアンノン…ですが、みなさんリアと呼んでくれます…」
アッシュ「そう、でしたか。闘技大会に」
アッシュ「では勇者様も優勝を目指しておいでで?」
勇者「あたぼうよ」
アッシュ(……)
勇者「どうかしたんか?」
アッシュ「いえ」
アッシュ「であれば道中、貴方方にお供させていただいてもよろしいですか?私一人ではこやつの面倒を見るのも一手間でして」
盗賊「……」ムスッ
魔法使い「私は構わないわよ。アッシュさんの出生にも興味があるし」
アッシュ「これは…口説かれてしまいましたかね」ハハ
リア「…魔法使いさんに同じです…」
勇者「……」
勇者「ま、いいんじゃねーの。けどそいつの世話係はあんただかんな?」
アッシュ「心得ていますよ」ニコッ
勇者「うし、こんな村さっさと出ちまおうぜ」
ーーーーーーー
五人「……」ザッザッ
魔法使い「大分大所帯になっちゃったわね」
勇者「そうだなー」
アッシュ「ご安心ください。貴方方の邪魔は決して致しませんので」
リア「わ、私も…」
魔法使い「いいのいいの。そういう堅苦しいのは無しにして。ムズムズしちゃうから」
盗賊(隙をついて絶対逃げ出してやる)
アッシュ「言っておきますが」
盗賊「」ビクッ
アッシュ「私から逃げようなどと思わぬように。変な気を起こせば半身麻痺の状態で王都の門をくぐることになりますよ」ニコッ
盗賊「……ケッ」
勇者「なー、んなことよりさ、リアの力使って移動しちゃダメなん?」
リア「…出来なくはないですが…でも…」チラッ
盗賊「あ?」
リア「」ササッ(魔法使いの影に隠れる)
魔法使い「あんた、焼かれたいの?」
盗賊「……」
アッシュ「彼が何をするか分からない以上、申し訳ないですが徒歩でお願いします」
魔法使い「…いいじゃないの。人間には足があるのよ?地に足つけて歩きましょ」
勇者「自分が怖いからって」
魔法使い「ん??」ニコッ
勇者「へーへー」
アッシュ「仲がよろしいのですね、お二人は」
魔法使い「ど、どこが!?」
リア「…ふふ」
魔法使い「リーアーちゃん?」
リア「!…」ワタワタ
勇者「せめて飯にしようぜー」
勇者「昨日からまともなもん食ってねーし。今何が残ってたっけ?」
魔法使い「保存食。…干し肉くらい?」
勇者「うげー…」
アッシュ「食にお困りですか」
魔法使い「え?」
アッシュ「……」ニコニコ
.........
魔法使い「」パクッ
魔法使い「…!美味しい!!」
リア「~~!」
勇者「」ガツガツ
アッシュ「お口に合ったようで何よりですね」
盗賊「……」
アッシュ「貴方も如何です?」
盗賊「おめぇの施しなんか受けねぇ」
アッシュ「それはそれは」ハム
盗賊「……」ゴクリ
魔法使い「すごいわね…普通あんな食材からここまでの料理が出てくる…?」
アッシュ「調理は執事の嗜みですよ」
ーーーーー
「アッシュの作る食事は美味だな。私は好きだぞ」
ーーーーー
魔法使い「…弟子入りしようかしら」
魔法使い「そうよ勇者、この人よ!」
勇者「?」
魔法使い「王都までの間、アッシュさんに稽古つけてもらえばいいじゃない!」
魔法使い「料理は上手い、頼りになるしあの身のこなしも、きっと相当の実力者よ」
アッシュ「とんでもない、私など…」
勇者「はんっ、不要だっての。どこの誰がきたとこで圧勝よ。これ以上強くなったら勝負にならなくてつまんねーぜ」
アッシュ「……」
魔法使い「どうしたらそこまで自信家になれんのかしらね」
勇者「事実だかんなー」
アッシュ「時に勇者様」
アッシュ「王都の闘技大会にて、ここ数年優勝を独占している方をご存知でしょうか?」
勇者「んーにゃ?俺っち王都行くのも初めてだし」
アッシュ「その方は姫騎士様と言います」
アッシュ「類稀なる剣の才を持ち、その斬撃は風より疾く、剣を用いた防御には網目ほどの隙もない」
アッシュ「多くの猛者が集う闘技大会で文字通り剣一本で勝ち上がってきた――」
アッシュ「――本物」
アッシュ「彼女の強さがどれほどのものか、その助言くらいはして差し上げられますよ」
魔法使い「ほら。あの村にずっといた私たちなんて井の中の蛙よ。あんたのお母さんも言ってたじゃない、色んな戦術を知るべきだって」
勇者「しつこいな!誰も助けてくれなんて頼んでねーじゃん」
アッシュ「……」
ーーーーー
「貴方では彼女を救えません」
「今日限りでお付きを辞めていただきます」
ーーーーー
勇者(俺っちが興味あんのは優勝賞品の…美女ちゃんだけだもんね)ニヤニヤ
魔法使い「いい加減にしなさいよ。油断して私から一撃もらったのはどこの誰だった?」
勇者「あんなん気ぃ付けりゃ済むことだろ」
魔法使い「負けて泣きを見てからじゃ遅いのよ」
勇者「気張ってりゃ不意なんか突かれんから心配ご無用」
魔法使い「あーもう!こういう時に意地になるんだから!」
リア「あ、あの、喧嘩は…」
アッシュ(強さ、ですか)
アッシュ(あるいは私があの方を凌ぐ強さを持っていれば…)
魔法使い「じゃあいいわ、こうしましょう。あんたお得意の闘技で決着をつけるのよ」
勇者「はぁ?お前じゃ負けんぜ。今度は特別ルールは無しだ」
魔法使い「私じゃないわ。勇者とアッシュさんにやってもらうの」
魔法使い「アッシュさんが勝ったら大人しく稽古をつけてもらいなさい!」
勇者「俺が勝ったら?」
魔法使い「……あんたに口うるさく言うのをやめる」
勇者「誰が得すんだよその勝負」ヘッ
勇者「勝手に赤の他人まで巻き込んでよー」
魔法使い「う……」
魔法使い「…ごめんなさい、アッシュさん。でもあいつの慢心癖を叩き直してやりたいんです」
魔法使い「このままだとあいつは、今に胡座をかき続けた挙句そのうち手酷い痛手を受ける…そんな気がして…」
魔法使い「お願い出来ないかしら…?」
アッシュ「………」
アッシュ「良いですよ」ニコッ
魔法使い「ありがとうっ!」
アッシュ「私もそれほど豪語する勇者様のお力、気になって参りましたので」
勇者「えー…断っておくれよ。疲れるだけだって」
アッシュ「それは分かりませんよ」
アッシュ「これでも名家の使用人として仕えていた身。退屈はさせないでしょう」
勇者「……まぁ丁度いいか。リア、俺っちの華麗な動き見せてやんぜ」
ーーーーーーー
勇者「お前が審判って、本当に大丈夫なんだろうな?」
魔法使い「失礼ね!判定くらい出来るわよ」
勇者「この石並べてんのが場外の線だかんな?間違えるなよー?」
魔法使い「分かってますー!」
魔法使い「…ったく」
リア「……」ニコニコ
魔法使い「なに?リアちゃん」
リア「いいえ」
リア(仲良いなぁ)
リア「魔法使いさん、アッシュさんて勇者さんより強いんですか?」
魔法使い「さぁ…。私としてはそうであって欲しいけどね。あいつの傲りも少しは治るでしょ」
アッシュ「……」トン、トン
バッ(木剣を薙ぐ)
魔法使い「…大きい剣ね」
リア「はい」
魔法使い「闘技に使える規格としては最大のサイズなんじゃないかしらね。勇者の持ってる標準型がおもちゃに見えてくるわ…」
魔法使い「それをあんなに軽く振れるってことは」
リア「…アッシュさん、かなり力持ち…?」
勇者「アッくんよー」
勇者「そんなデカブツ持ってたら簡単に懐入られて終了だぜ?」
アッシュ「ふふ、そうですね。肝に銘じておきます」
魔法使い(…読めないわね、あの人の感情)
魔法使い(勇者の方はこれでもかってくらい主張してくるのに、アッシュさんはさっきと全然変わらない)
魔法使い(闘技の前って多かれ少なかれ雰囲気が変わるものと思ってたけど、案外そうでもないのかしら)
魔法使い「始めるわよ」
勇者「いつでもどーぞ」
アッシュ「準備出来ています」
魔法使い「…両者前へ!」
ーーーーー
「また勝つことが出来たよ。アッシュのおかげだ」
「次は何を教えてくれる?」
ーーーーー
アッシュ(……)
魔法使い「始めっ!」
勇者「」スタタタッ!
勇者(執事だかなんだか知らんけど、速攻決めさせてもらうぜ!)
勇者「そらよ!」
ガィン!
勇者(止められた…!)
アッシュ「見事な肉薄ですね」
アッシュ「しかし」ググ...
勇者「う、ぉ…!」
パッ(距離を取る)
勇者(…すげー怪力だなこいつ)
リア「わ、速いですね勇者さん…!目で追うのがやっとです」
魔法使い「あいつの身体能力は異常よ。ジャンプ力なんか動物並みだもの」
魔法使い(けどその勇者の初撃をアッシュさんは軽く防いだ)
魔法使い「これはもしかしたら、もしかするわね」
盗賊(in 石の檻)「……」
勇者(数秒で片付く相手じゃねーな)
アッシュ「お次は私の番、でよろしいですかな?」
...タッタッタッ
勇者(おいおいジョギングかよこの遅さ。おまけに)
アッシュ「」ズオッ
勇者(動きは真っ直ぐ、太刀筋も大味。こんなんちょちょっとかわしてカウンターで――)
バシン!
勇者「!?」
勇者(弾かれた!?マジかよ!?)
アッシュ「まだまだ行きますよ!」ブン!
勇者「くっ…!」
ガン! ガン、バシッ!
サッ
ガィン!
勇者(なんて馬鹿力だ。いなしきれねー…!大して速くもないのにリズム狂わされてうまく立て直せん)
勇者(木剣が立てる音じゃねーぜこんなん…!)
アッシュ「どうしました?貴方のお力はこの程度なのですか?」
勇者「へっ、ゴリラ野郎め…!」
リア「なんだかすごい気迫ですね…」
魔法使い「あの勇者が防戦一方なんてね」
盗賊「な、なんだこいつら…」
魔法使い「あんた闘技見るのは初めて?」
盗賊「初めてじゃねぇがよ…この国はあんな化けもんじみた奴がゴロゴロいんのかよ…」
魔法使い「国がどうだかは知らないけど、あの二人を並と捉えない方がいいわよ」
ガン!
勇者(っ、腕が攣りそうだ。だが動き自体は見える)
アッシュ「」ブォン
勇者(右上段斬り)
ガキッ
アッシュ「ふ!」
勇者(左上段斬り)
勇者(に見せかけたフェイントだろ?だったら――)
サッ
アッシュ「!」
勇者「っらぁ!」
ゴスッ
アッシュ「っ」
勇者「おー、肩殴ったのは間違いだったかね。筋肉の感触しかしねー」
勇者「どうよ。俺っち、剣だけの男じゃねーんだなこれが」
アッシュ「…目が良いようですね」
勇者「こっからはこっちのペースでいかせてもらうかんな?」
ダッ
リア「……」ジー
魔法使い「あっという間に形勢が逆転したわね…」
魔法使い(アッシュさんの反応速度も凄まじいけど、勇者のそれは一回り上)
魔法使い(力押しをさせない立ち回りが有効だなんて、分かったとしてもそうそう簡単には出来ないわよ普通)
勇者「」シュン
アッシュ「…!」サッ
ビュオッ
アッシュ(避けられない!)
ガスッ
アッシュ「っ…」
アッシュ(これは想像以上ですね…!)
アッシュ(執事を辞めてからも自己研鑽を欠かしたことはなかったのですが)
アッシュ(凡人の努力ではどうにも出来ない壁…この方には間違いなく才能がある)
ーーーーー
「聞いてくれアッシュ!私には才能があるらしい!」
「今日から君が、娘の稽古を付けてやってくれ。儂ではもう限界だ」
「えへへ、よろしく頼む!」ニコッ
ーーーーー
アッシュ(…羨ましい限りですね)フッ
勇者「笑っていられるたぁ余裕だな!」
アッシュ「!」
勇者「そろそろ重たいのいくぜ」スサッ
アッシュ(――ですが)
アッシュ(努力が才能を超える瞬間も存在するのです…!)
アッシュ「"旋風"!」
ゴワァ!
勇者「っ!」
アッシュ「はっ!」ブォン!
勇者「やべ…!」
ガキン!
勇者「~~!いってぇ!」
魔法使い「大丈夫リアちゃん!?飛ばされなかった?」
リア「な、なんとか…。嵐みたいな風でした…」
魔法使い「森で見せてくれた突風の上位魔法、旋風ね」
魔法使い「あれだけ剣を扱える上に魔法のレベルも高い」
魔法使い「彼、どれだけの鍛錬をしてきたのかしら」
勇者「…くはは、おもしれーな。剣と魔法で戦うなんざ曲芸でもすんのかって思ってたけど、ものは使いようなんだな」
アッシュ「私の魔法なんて本職に比べてしまえばチープな代物ですよ」
アッシュ(そう。剣の伸び代に限界を感じた凡人が、無駄と知りつつ手を出した付け焼き刃)
勇者「まぁ相手が悪かったね。俺っちの周り、何故か魔法を使うやつには事欠かないかんよ。戦い方はバッチリよ」
アッシュ「ふふ、では試させていただきましょうか!」
アッシュ「"通雷"!」
バチッ
勇者「よっと」ヒョイ
アッシュ「"風刃"」
勇者「ほい」サッ
アッシュ「"電閃"」
勇者「!」ヒラッ
勇者「あぶねーあぶねー」
勇者「飛び道具だけじゃ俺っちは仕留められ――!」
アッシュ「」ブン
勇者「おぅ…!」サッ
勇者(間一髪…!魔法に気取られてる間に近づいてきやがった!)
アッシュ「よそ見は危険ですよ」
勇者「言われなくて、も!」スッ..
アッシュ(足払い…!)
勇者「」ズオッ!
アッシュ(蹴り上げ!?狙いは剣ですか!)
ガッ!
アッシュ「ぐっ…」
勇者「はたき落とすつもりだったんだけど、さすがに耐えるねー」
アッシュ「握力には自信がありますからね」
勇者「へん、マジ筋肉お化けだな」
盗賊「……」アングリ
リア「接近戦が強い人の闘技って、こんなに目が回るんですね…」
魔法使い「しかもアッシュさんが放つ魔法も速いものばっかり」
リア「はい…驚きです」
魔法使い「精霊術の方がよっぽど驚きよ?」
盗賊(この檻も精霊術とかいうやつだったな)
盗賊(……こいつらもしかしてやばい奴らなんじゃ…?)
リア「でも、見てて楽しいです。闘技を楽しく感じるなんてあり得ないと思ってました」
魔法使い「そうね…」
勇者「」ダッ
アッシュ「"旋風"!」タッタッ
魔法使い「あの二人が楽しそうだしね」
.........
アッシュ「は…は…」
勇者「ふー…」
勇者「大分息が上がってるようですなー旦那?」
アッシュ「そちらは、まだまだお元気そうですね」
勇者「明日筋肉痛になりそうだけどな」ヘヘッ
勇者「アッくんの癖も分かってきたし、そろそろ決着といこうかね」
勇者「俺っちみたいに動けるわけでもないのに、おっそろしい怪力と大した反射神経、それと魔法でよくここまで戦えるもんだ」
勇者「敬意を表して全力で決めてやんぜ」ジリ...
アッシュ(全力…きっとまともに構えてるだけでは呆気なくやられてしまうでしょう)
アッシュ(驚くべきことに、彼はこの闘技の中で絶えず強さを増している。そして全力の特攻となればこれはもう未知数)
アッシュ(……疲弊が激しいのであまり使いたくはありませんでしたが……)
アッシュ(やりますか)
勇者「行くぜ!」
ダァン!(地を蹴る)
アッシュ(相手がこの方でなければ、恐らく私はここで投了していた。自分自身の勝ち負けなど気にかけもしなかった)
アッシュ(しかし、才能の塊のような貴方と戦っていると…思い出すのですよ)
ーーーーー
「アッシュは教え方が上手いからすぐに飲み込めるんだ!」
ーーーーー
アッシュ(かつて私の主人であり弟子であった、あの方を)
アッシュ「……」スッ
...ヒュオオ
魔法使い「風の魔法?今の勇者にはもう当たらないんじゃ…」
アッシュ(剣の才能は無く、体術が得意ということもない。せめてもの足掻きとして身につけた魔法は、従来の戦い方を向上させるものではなかった)
アッシュ(なればこそ、自身の弱点を補えるよう私が無理矢理編み出したのです)
アッシュ(それが)
魔法使い「違う…魔力が剣に集まってる…?」
シュタッ
勇者(ここなら大剣の死角)
勇者(もらった!)
アッシュ「――はあ!!」ギュオッ
ゴパァアア!
勇者「!?」
グルグルグルッ
ドスン...
リア「勇者さんが吹き飛ばされちゃいました…!」
魔法使い「何よあれ…」
魔法使い(風の魔力を剣に纏わせてから薙ぎ払った。そういうことよね…?)
魔法使い(あの量の魔力なんて相当"重い"はずなのに)
魔法使い「…なんてめちゃくちゃな戦い方をするのよ」
勇者「いてて…ぺっ、ぺっ」
勇者「油断したわ、まだそんな技が使えたんか」
アッシュ「いやはや今のを受けてまだ立てるのですか。場外を狙うべきでしたね」
勇者「伊達に最強名乗ってないからな!」
アッシュ「…心底、頼もしい方です」
アッシュ「今のは魔法剣とでも呼びましょうか」
アッシュ「奥の手は最後まで取っておくものですよ」ニコッ
勇者「それがあんたの奥義ってわけだ」
リア「魔法を、体の力で飛ばしたんですか…?」
魔法使い「えぇ。そうすることで濃密な魔力を爆発的に放出させた……あんなの巨大な岩を投げるようなものだわ。普通なら腕を動かすことさえままならないはずよ」
勇者「あんた、なかなか強いね」
アッシュ「貴方こそ」
アッシュ(とはいえ、先の戦いで消耗した上に今の攻撃に残る力の半分程をつぎ込んでしまいました)
アッシュ「……うん」
アッシュ「勇者様、最後の勝負といきませんか?」
勇者「んー?」
アッシュ「今から私が魔法剣による一撃を繰り出します」
アッシュ「勇者様がこれに耐えきることが出来れば、私は降参致しましょう」
勇者「魔法剣?俺っち今さっきのやつ耐えちゃったぜ?」
アッシュ「より強力なものです」
アッシュ「今の私が出せる全力。いずれにしろこれが通用しなければ私は負けたも同然ですから」
勇者「……」
勇者「やってやろうじゃん」ニッ
魔法使い「次で決まるみたいね」
リア「……」ドキドキ
盗賊「……」ビクビク
アッシュ「いざ」スッ
...バチ、バチバチ
勇者(なるほどね、雷か)
アッシュ「……」グ...
アッシュ(才能を持つ者よ)
アッシュ(凡人の足掻きとは、どこまで通じるものか)
アッシュ(この私に教えてください!)
ビュオッ――
ズガァン!
バチバチバチバチ!
リア「やっ…!」
魔法使い(ち、直視できない…!)
勇者(来た来た来た…!)
サッ
勇者(速ぇくせに)
クルッ
勇者(なんて濃さだ)
ヒョイ
勇者(脳が焼けそうなくらい集中してんのが分かる)
スサッ!
勇者(だがまずいな)
シュン
勇者(このままじゃいずれ俺の方に来た雷撃に当たる)
タタタッ
勇者(その前になんとか)
――バチバチッ!
勇者(――!)
勇者「」バッ
ドゴォォン
...パラパラ
魔法使い「!……どうなったの…?」
リア「……あ」
アッシュ「……」
アッシュ「ふ」
勇者「……へへ」
アッシュ「お見事です、勇者様」
アッシュ「確かに捉えたと思ったのですがね」
(焼け焦げた勇者の木剣)
アッシュ「まさか剣を避雷針代わりに使うとは予想外でした」
アッシュ「私の負けです」
魔法使い「……」
リア「わー……」
盗賊「……」
魔法使い(…!)
魔法使い「勝者、勇者!」
ーーー道中ーーー
勇者「ふぃー。よかったよかった。無事勝利を収めたから稽古は無しだ」
勇者「これで鍛えろ鍛えろってしつこい声も無くなるな!」
魔法使い「ぐぬぬ…」
アッシュ「私が至らないばかりに、すみません魔法使い様」
魔法使い「アッシュさんはこれっぽっちも悪くないわよ!私と勇者が意地張ってただけだから」
リア「勇者さん勇者さん!私ずっとびっくりしっぱなしで…!ママに読み聞かせてもらった伝説の勇者様みたいでした…!」
勇者「そうだろー!多分そいつより俺っちの方が強ぇんじゃねーかな!わはは!」
魔法使い「はぁ、もう勝手に言ってなさい」
アッシュ「…その通り今でも十分にお強いです」
勇者「当然」
アッシュ「ですが勇者様。貴方はまだまだ強くなれますよ」
アッシュ「貴方がそれを望むなら…」
勇者「いーっていーって。言ったろ?これ以上強くなっても仕方ねーって」
アッシュ「そうですか」
盗賊(…せめてこいつらに連行されたくない。怖い)
勇者「それよりアッくん。きみの夕食、楽しみにしているからね?」
アッシュ「ふ。お任せあれ」
アッシュ(久方振りの王都への帰還。もしかしたらこれは私に与えられた必然なのかもしれません)
アッシュ(勇者様であれば、あの方を――)
ーーーーーーー
姫騎士「」ビュン!
ズバッ
「くっ!」
侍女「勝負あり。これにて10人続けての3秒試合、達成です」
王「やっておるな、姫騎士よ」
姫騎士「お父様、来ていたのですか」
王「愛娘の様子を見に来るのも大事な勤めだからな」
王「ふむ…この調子であれば訓練の内容を引き上げてもよいかもしれぬな」
侍女「かしこまりました」
王「次の闘技大会も期待しておる」
王「必ず優勝するのだぞ」
姫騎士「勿論です、お父様」
侍女「……」
3章は以上となります。
戦闘描写は難しいですね…。
三人目のキャラ決めを行います。
前回同様、安価で4つの候補を出してもらい、その候補からコンマによって決定させます。
安価は以下の形式でお願いします。
キャラ名:(役柄や容姿など)
性別:(男か女)
年齢:(5~100の間)
得意戦型:(剣術、体術、魔法のうちのいずれか。複数可)
備考・希望:(そのキャラの過去や、こうしてほしいなどがあれば)
※三人目は勇者たちに同行はしませんが、物語上重要な立ち位置となります。強キャラであると嬉しかったりします。
あまりにも無茶あるいは意味が読み取れないもの、また、連投は再安価とします。
候補 >>138~>>141
キャラ名:グローバ(役柄や容姿など:小柄だが筋肉質な体つきをしたスキンヘッドのじいさん。)
性別:男
年齢:65
得意戦型:体術
備考・希望:
幼女相手でもセクハラする絵に書いたようなエロジジイ。
各地を観光しながら旅をする楽隠居。
体術以外に回復と強化の魔法に優れるが使用目的もエロのため。(しかしR板じゃないし出番はないだろう)
実は家督を息子に譲り現役を退いた位の高い貴族で、本名はグロスハルト・バーランドというが気楽な隠居生活のために隠している。
キャラ名:タイタス(役柄や容姿など 白髭を蓄えた老人・片方の腕は無くなっている)
性別:男
年齢:自称80
得意戦型:剣術
備考・希望:数百年前に魔王を倒した際の勇者一行のメンバーの一人 最後の決戦の時に不死の呪いをかけられた(不老の呪いは掛けられなかったため老人の姿になっている)
候補が出そろったため、>>143のコンマで決定します。
00~24:グローバ
25~49:ディーター
50~74:マオ
75~99:タイタス
あ
コンマ00で登場キャラ三人目は
キャラ名:グローバ(役柄や容姿など:小柄だが筋肉質な体つきをしたスキンヘッドのじいさん。)
性別:男
年齢:65
得意戦型:体術
備考・希望:
幼女相手でもセクハラする絵に書いたようなエロジジイ。
各地を観光しながら旅をする楽隠居。
体術以外に回復と強化の魔法に優れるが使用目的もエロのため。(しかしR板じゃないし出番はないだろう)
実は家督を息子に譲り現役を退いた位の高い貴族で、本名はグロスハルト・バーランドというが気楽な隠居生活のために隠している。
に決定です。
次回の投下はまた後日となります。
キャラ募集を安価でやると面白いキャラのアイデアがいっぱい出てくるなーと感動してます。
4章投下していきます。
ーーー娯楽街ーーー
勇者「おー!すっげ、どこもかしこもキラキラしてんなー!」
魔法使い「ここは国内でも屈指の遊技場らしいわよ。夜中でも電気を点けてるから暗くならないとか。別名眠らない町」
リア「……!」キラキラ
アッシュ「以前よりも施設が増えてますね。悪事の温床になってなければいいのですが」チラッ
盗賊「な、なんでオレを見んだよ」
魔法使い「アッシュさんは来たことがあるんだ?」
アッシュ「えぇ。遊技に勤しんでいたのではないですけどね」
魔法使い(昔仕えてた人の付き添い?)
アッシュ「ともかく、ここまで来れば王都も近いですよ」
魔法使い「そうなの?まだ徒歩で2日はかかりそうな距離じゃなかったかしら」
アッシュ「この町からは王都への往来を盛んにするための輸送馬車が通ってるんですよ。それを使えば半日もかかりません」
魔法使い「ならさっさと向かっちゃいましょ。今行けば深夜になる前には着くでしょ」
勇者「何言ってんだ、遊ぶぜ。こんな楽しそうな場所見過ごす理由がねーよなぁ」
魔法使い「却下よ」
勇者「なんでだよ。こんなん絶対おもしれーじゃん。これも一つの観光だって」
魔法使い「アッシュさんも言ってたでしょ、どんな悪事が潜んでるか分かんないわ」
勇者「王都のお膝元だろ?そうそうねーっしょ」
魔法使い「それはまぁ…」
魔法使い(…苦手なのよ、こういうところ)
魔法使い「…り、リアちゃんだって嫌よね?こんな不健全な」
リア「」キラキラ
魔法使い(あ、ものすごい乗り気)
勇者「しゃーない。魔法使いは行きたくないみたいだし、リア、俺らだけで行くか」
リア「行きたいです!…けど」
魔法使い「分かった分かったわよ。私も付いてくわ」
魔法使い「言っとくけど私は遊ばないからね?勇者だけじゃ心配だから行くだけで…」
アッシュ「では私はこの者と今日の宿を探して参りますよ」
盗賊「は?宿探しだ?」
アッシュ「何か不服でも?」ニコッ
盗賊「ねぇっす…」
勇者「よーし!レッツゴーついてこいリア!」タッタッタッ
リア「はいっ」テテテッ
魔法使い「あ!待ちなさいよ!」タッタッタッ
ーーースロットエリアーーー
勇者「これが世に聞く金量産マシンか!」
リア「ぐるぐる回ってます…!」
魔法使い「どこの世よ。金食いマシンの間違いでしょ」
勇者「絵柄揃えてやるだけで金が出てくんだろ?負ける要素がねーぜ」
魔法使い「簡単に勝てるならみんなやってるわよ」
勇者「ま、見てろって」チャリン
グルグルグル
勇者「……」ジー
勇者「てい、よ、はっ」ビシ、ビシ、ビシッ
スロット『チェリー チェリー チェリー』
勇者「どんなもんよ」ドヤ
リア「すごいです勇者さん!」パチパチ
勇者「俺っちの動体視力舐めてもらっちゃあ困るぜぃ」
魔法使い「…ひどい有効活用を見たわ」
リア「あれ見てください。数字の7を揃えるのが一番いいらしいですよ…!」
勇者「7だな?任しとけ」チャリン
グルグルグル
勇者(7は一列に一つしかないから難易度たけーってことか)
勇者(俺っちにゃ関係ねーけどな!)
勇者「ふっ、はっ」ビシ、ビシ
勇者「とりゃ!」ビシッ
ヒョイッ
スロット『7 7 BAR』
勇者「あ!?今こいつ明らかに押した後にずれやがった!」
リア「私にも見えました…誰かの魔法でしょうか…?」
勇者「どこのどいつだ!俺っちの当たりを邪魔したんは!?」
魔法使い「あんたたちねぇ…」
ーーーテーブルゲームエリアーーー
客「それだ!そのカードだよ、表にしてくれ」
女ディーラー「…ふふ、勘がいいですねお客さん」
スッ...
客「なぁにぃ!?」
女ディーラー「また私の勝ちです」ニコッ
ガヤガヤ
勇者「あいつら何してるんだ?」
魔法使い「カードを使った賭けゲームね。テーブルごとにやってるゲームは違うみたいだけど」
勇者「店員を倒せばいいんか。機械よりは楽そうじゃん」
リア「スロットさんはずるばっかりでしたもんね…」
魔法使い(そういう仕組みなんでしょうに)
勇者「そっちの席空いてるみたいだぜ」
.........
ディーラー「ではルール説明に入ります」
ディーラー「今私の手元にあるのは1から13までの数字が4種類の絵柄ごとに書かれた計52枚のカードです。このゲームで使用するのはここからランダムに選ばれた26枚。それを私と対戦者で13枚ずつ手札とします」
ディーラー「ゲームが始まったら1枚ずつ交互に手札の中からカードを裏向きにして置いていきます。最初は1のカードを、その後は2、3と順番に置いていく必要があります。また、自分が何の数字を出したか声に出してください」
ディーラー「相手の出した数字が嘘だと思えばダウトと宣言してください。当たれば勝利となります。ダウト宣言をしてもはずれれば相手の勝利です。置くカードがない時、パスは3回まで可能です」
ディーラー「ご理解出来ましたか?」
勇者「つまり、相手の嘘を見破ればいいんだよな?」
魔法使い「出せるカードがない場合どうするかが大事なんじゃない?」
勇者「うーむ…いまいちピンとこない」
勇者「リア!先鋒は任せた!」
リア「はい」
リア「………え!?」
(vs リア)
ディーラー「先手は私ですね。では、1」スッ
リア「えっと…2、です」スッ
ディーラー「3」
リア「4です」
勇者「なんだ簡単じゃんか」
魔法使い「…そうかしら」
勇者「カード運がよけりゃ勝ちだろ?」
魔法使い「運だけじゃないわよ」
魔法使い「特にリアちゃんみたいな子にとっては…」
ディーラー「7」
リア(あ…どうしよう、8がない)
リア(パスしようかな…でも3回しか出来ないんだよね…)
リア「……8」スッ
ディーラー「ダウトです」
リア「!?」
勇者「あー」
魔法使い(素直過ぎるものね)
(vs 勇者)
勇者「安心しな、リアの仇はとってやんよ」
リア「うぅ…お願いします」
魔法使い「このゲーム心理戦よ?脳筋のあんたに出来るの?」
勇者「相手の攻撃を先読みすんのは俺っちの得意技よ!」
魔法使い「それは闘技の話でしょ…」
ディーラー「では再び先手はこちらから」
ディーラー「……パスです」
勇者(初っ端からパスとはツイてんぜ。これで俺っちの方が有利に――)
勇者「お…?」
勇者(と思ったらこっちにも1がねー!パスすっか?でもなー)
勇者(ん?待てよ、二人とも1を持ってないんだとしたら、ここでパスをし続ければ順番的に俺っちが…)
勇者(よっし!先手じゃなくてよかったぜ!)
勇者「パース」
ディーラー「む……1」スッ
勇者「ダウトォ!」
勇者「なはは!早まったねぇ!このままパス合戦したら負けが確定するからって――」ペラ
置かれたカード『1』
ディーラー「こちらの勝ちですね」ニコニコ
勇者「なんでだよ!?」
魔法使い「言わんこっちゃない」
ーーーーーーー
勇者「いやーおもしれーなここ!人が集まんのも分かるぜ!」
リア「はい!どれもみんな新鮮でした…!」
リア「…けど、お店の人たちが儲かる理由も、分かった気がします…」
魔法使い「そういう商売だからね」
魔法使い「勇者、そろそろ終わりにしないとお金が危ないんじゃないの?」
勇者「んー、あとこんだけ残ってる」
魔法使い「少なっ!使い過ぎよバカ!どうすんのよこれじゃあと半月以上なんてとても…」
勇者「そう慌てなさんな。眉間にシワが寄ってんよ?」
魔法使い「誰のせいだと思ってるのよ…!」
勇者「どうどう。俺っちが考え無しに浪費してるだけだと思ったか?」
勇者「ほれ」ユビサシ
案内板『闘技場エリア』
魔法使い「……あ」
勇者「へへっ、一儲けといきましょーか」
ーーー町中ーーー
アッシュ「んー」テクテク
盗賊「……」テクテク
アッシュ「こちらの宿など、いかがでしょうかね?」
盗賊「…いいんじゃねぇの」
アッシュ「困りますね、真面目に見ていただかないと。野盗に狙われやすい場所だったらどうするのです」
盗賊「オレなんぞに訊かずともお前だけで決められんだろーが」
アッシュ「餅は餅屋に。盗みのことなら盗み屋に、です」ニコッ
盗賊「……オレらの仲間は、こんなあからさまな場所に潜んではねぇよ。よそは知らねぇけどな」
アッシュ「嘘…ではないようですね」
盗賊「つけるかよ、嘘なんて」
盗賊(冗談抜きで半殺しにされそうだかんな…)
アッシュ「それではいい機会なのでお訊きしますが」
アッシュ「何故貴方はあの村の盗人をやっていたのですか?」
盗賊「んなの、金で雇われたからだよ」
アッシュ「失敬、言葉不足でしたね」
アッシュ「あそこの村は規模も小さく、かつて目立った事件は起きていませんでした。それが何故盗賊などを雇い旅人を狙っていたのでしょう?」
盗賊「はんっ、そんなのが分かんねぇってか。さすが名家に仕えてたボンボン様は違うな」
アッシュ「どういう意味です?」
盗賊「文句はおたくらの王様に言ってくれ」
盗賊「知ってんだろ?ここ数年王が闘技の大会に傾倒してんの。そこで自分の娘を優勝させて金をたんまり貰ってるらしいけどよ、オレたち下々の人間にゃほとんど恩恵がねぇときてやがる」
盗賊「おかげで国はどんどんでかくなってくが貧民も増えてくばかり。そりゃオレみたいな連中も出てくるってもんよ」
アッシュ「……」
盗賊「馬鹿みてぇに私腹を肥やしてるだけなら革命でもなんでも起こせるんだがな」
アッシュ「…そうですか」
アッシュ「今日はこの宿にしましょう」
盗賊「けっ、都合の悪いことは聞こえねぇフリかい」
アッシュ「聞こえていますよ、バッチリとね」
アッシュ「今の発言、捉えようによっては国家転覆の策謀とみなされ得るのですが…私が聞いたことにしてしまってよいのですか?」
盗賊「お前っ……」
アッシュ「都合が悪いのはどちらですかね」フフッ
アッシュ「それでは私は彼らを迎えに行って参りますので、貴方はリア様が作った石檻に入っていてくださいな」
ーーー闘技場エリアーーー
勇者「」ビュンッ!
「ひっ…!参りました!」
審判「勝者、勇者殿!」
勇者「いぇーい!」
勇者「じゃ、賭け金はありがたく頂戴していくぜー」
「くそぅ…」
勇者「よっと」ピョン
タッタッタッ
勇者「ほい、また増やしてきたぜ」ジャラ
魔法使い「あ、うん」
魔法使い(…明らかにこの町に着いた時より増えてる)
リア「勇者さんこれで10連勝です…!」
勇者「むっはっは!ちょろいもんだなーまったく」
勇者「どいつもこいつもへぼっちいくせにそこそこの額で挑戦者求むとか言ってんの。100年鍛えてから出直してこいってんだ」
勇者「まあそのおかげでこんなおいしい思いが出来んだから感謝しとかねーとな!」
勇者「魔法使いさんもこれだけあれば満足っすよね~?」
魔法使い「…これ、出禁とかにならないかしら…?」
勇者「なるわけねーって。正当に戦って正当に報酬貰ってるだけだぜ」
魔法使い「なんか手放しには喜べないけど…」
魔法使い「ご苦労様」フゥ
勇者「おう」ピース
「おい聞いたか?向こうに鬼のように強ぇおっさんがいるんだとよ」
「しかも女が負けるとエロいことされるんだってな…!」
勇者「」ピクッ
「俺らも見に行くか!」
「それしかねぇな!」
タッタッタッ...
勇者「……ゴホン」
勇者「うし、次は少し場所を変えるとしよう。ここいらの連中じゃ退屈だしな」
魔法使い「?いいけど、まだ戦ってない相手ならここにも残ってるわよ?」
勇者「強敵が俺っちを呼んでるんさ」
魔法使い「そう…?」
ーーー闘技場エリア 人集りーーー
ザワザワ
「賭け金の額おかしいだろ…」
ガヤガヤ
「次はあの女が挑むらしい」
魔法使い「すごい人混みね…有名人でもいるのかしら」
リア「ここだけで私の村よりも多い気がします…」
勇者(人の頭ばっかでよく見えん)
勇者「すんませーん、通してください、通してくださーい」グイグイ
「おい、割り込むなよ」
勇者「へへ、まぁそう目くじら立てずに」
スルスル
勇者(よし!一番前)
スキンヘッドの男「こいつはまた、えらい別嬪さんが出てきたなぁ」
妖艶な女「ここいらでふざけた真似してるおじいさんが居るって聞いてきたんだけど……へぇ、なかなかどうして」
スキンヘッド「俺のような美丈夫で驚いたかい?」
女「んふ…」
「あの爺さん、男の挑戦者に対してはとんでもない賭け金ふっかけんのに女に対しては金を賭けさせないんだ」
「通りで。なら女は挑み放題ってことか?」
「いや、負けるとスキンシップを要求される」
「ひゅー、とんだセクハラじじいだぜ」
「実力は本物ときてるからタチが悪い。まだ爺さんに勝った奴はいないんだとよ」
「そんで、俺たちの"タチ"は良くなるってわけだ」
「「ギャハハ!」」
魔法使い「な、なんなのこいつら…」
リア「魔法使いさん、あの人たちは何を言ってるんでしょう?」
魔法使い「気にしなくていいのよ。というかリアちゃんは聞いちゃダメ」
魔法使い「ちょっと勇者、こんなとこ早く離れるわよ!」
勇者「そう急くな。せめてあの試合だけでも」ニヘヘ
魔法使い(こいつ…火球でもぶつけてやろうか)
女「おじいさん、歳はいくつ?」
スキンヘッド「65。だが、まだまだ若いもんにも負けないぜ?」
女「そう。この辺じゃ見ない顔ね」
スキンヘッド「がははっ!観光が趣味でなぁ。俺もあんたみたいな美人に出会ったら絶対忘れねえよ!」
女「元気がいいのねぇ」
スキンヘッド「俺はグローバってんだ。姉ちゃん、あんたの名は?」(以降、グローバ)
女「あたしに勝てたら教えてあげる」ニィ
グローバ「んひひ、そうかいそうかい。んなら早速やろうじゃねえの」
グローバ「おう、掛け声!」
審判「はっ」
審判「両者前へ。……始め!」
グローバ「俺のモットーはレディーファーストだ。お先にどうぞ」
女「紳士なのね。そういうの嫌いじゃないわぁ」
女「"分身"」
スゥ...
分身「……」
「幻惑魔法だ」
「幻惑っつーことは片方は触れない偽物ってことか」
魔法使い(…普通ならそうね)
魔法使い(でも多分あれは)
女「この子を単なる幻覚と思わないでちょうだい?ちゃあんとあなたを懲らしめることが出来る良い子なんだから」
グローバ「ほほお、一人で二人分楽しめるんだな?最高じやねえか」
女「…んふふ」
ババッ
「動いた!」
「挟み撃ちにする気か!?」
「あれじゃ避けらんねぇぜ」
勇者「どうかねー」
勇者(上手い初動だけど、俺っちには丸分かりよ。あれは挟み撃ちなんかじゃない)
勇者(はてさて、爺さんにそれが見破れるんかな?)
分身「……」スタタッ!
グローバ「まずは分身ちゃんのお相手かい?」
分身「」シュッ
ガシィ!
「おぉ…あの正拳突きを受け止めたぜ」
「すげぇ音がしたな」
勇者(そんなのは想定済みだろうよ)
グローバ「ん~、めんこい手だなぁ!なら本物はさぞや――」
女「」ダッ
グローバ「お…!」
「あの娘正面にいるぞ!?」
勇者(ま、普通の奴にゃそう見えるわな。あれも幻惑魔法?とかの一種かね)
勇者(本当の狙いは挟撃なんじゃなく、分身を死角にした不意打ち。視線の動きをよく見てりゃ分かんぜ)
女「お覚悟を!」スッ――
グローバ「……」ニヤリ
ビュオッ
グローバ「」サッ
女(…!)
グローバ「そぉら!」ギュン
ピタッ
女「……」
グローバ「……」
(眼前で寸止めにした拳)
女「……んふ、お強いのね」
グローバ「弱い雄はモテねえだろ?」
女「降参するわ、審判」
審判「勝者、グローバ殿!」
ドヨドヨ...
「たまげたなぁ、なんだ今の動き」
「還暦迎えた爺さんとは思えねぇ」
リア「魔法ってあんな風に使うことも出来るんですね…」
魔法使い「あの人が使ったのは本来目眩しくらいしか役に立たないはずだけど、魔法は使い手次第ね」
勇者(…へぇー)
グローバ「さーてさて!熱い勝負の後はお待ちかねのお楽しみタイムといこうじゃないか」
女「せっかちねぇ…痛いのは禁止よ?」
グローバ「大丈夫!何も考えずに身を委ねてくれ」
グローバ「良くしてやっからよ」ニヤ
サワ...
女「」ピクッ
女「……んっ……」
グローバ「へへ」
女「はぁ……っ…」
「「「おおぉ…」」」
勇者「おほぉ…!」
魔法使い「……」(リアの目を覆い隠す)
リア「??何が起きてるんです?」
女「あっ…!」ビクン
グローバ「おっと…ここまでだな」
グローバ「どうだったよ、俺のワザは」ニカッ
女「はぁ…はぁ……んふふ、癖になりそう…」
グローバ「わっはっは、そうだろう?俺の相手をした女性は皆そう言うんだよ!」
グローバ「なぁどうだい、暇してんなら今夜…」
女「ごめんなさいねぇ。あたしこれでも一途な女だから」
グローバ「あちゃー振られちまったか!残念だなあ、こーんな美人と過ごせる夜なんざなかなかないってのに」
女「口もお上手」
女「それと、約束だったわねぇ。あたしの名前は…」
(そっと耳打ち)
グローバ「ほぉ、よく似合っとる名だ」
女「あんまりおイタをしちゃだめよ?グローバおじ様」
女「また何処かで会いましょう」
女「"花吹雪"」
ブワァァ...!
「花びら…!?」
「み、見えねぇ」
ヒラ...
「…あ、居ねぇぜ」
「にしてもよ、――」
「あぁ!色気が半端でなく――」
ザワザワ
勇者「俺っちも名前くらい聞きたかったなぁ…」
魔法使い(…なによ、鼻の下伸ばしちゃって)
魔法使い「もう終わったんだからさっさと移動するわよ。あとリアちゃんに謝って」
リア「謝る…んですか?一体なんで…?」
勇者「リアもいずれ知るんだからいい社会勉強になったろ」
勇者「それにあんな面白そうな爺さんを無視はできねーよなぁ?」
魔法使い「は?ちょっ、冗談でしょ!?」
グローバ「んん?」
グローバ(これはこれは。かなりの上玉が、しかも二人!今日はツイてるなあ)
グローバ「ぬへへ」ザッザッ
魔法使い「断固却下!こんな下品な空間から早くおさらばしたいのよ!」
勇者「あの大金が手に入んだぜ?もうひと月遊んで暮らせんじゃんか」
魔法使い「お金は十分あるんだからあんな人を相手する必要ないじゃないの」
グローバ「やあお嬢さん方」
魔法使い「!」
勇者「お」
グローバ「おじさんと闘技しないかね?」
魔法使い「…お断りします」
グローバ「そう言わんと、物は試しにさあ」
グローバ「金を倍にしてやろう!」
魔法使い「お金の問題じゃありませんから」
グローバ「ん?がはは!そうかさてはスキンシップがネックだな?」
グローバ「あい分かった!ならお嬢さん二人には試合後のスキンシップは無しだ。ただ闘技をするだけ!」
魔法使い「……どうせ闘技中にセクハラしてくる気ですよね?」
グローバ「ノンノン。そんな気は毛頭ないぜ。仮にぶつかっちまったとしてもそいつは事故だよ、事故」ニカッ
魔法使い「……」
グローバ「そっちの嬢ちゃんはどうかな?お手合わせしてくれるかなあ?」
リア「え…」
魔法使い「ぜっったい駄目です!」
グローバ「へへ、やっぱり先にお嬢さんを――」
勇者「はいはいはい!俺っちがやる!」
グローバ「あぁん?なんだ小僧に用はないぞ」
勇者「そう寂しいこと言うなよー。賭ける金ならここにある」ジャラ...
勇者「これで男でも相手してくれんだよな?」
魔法使い「また勝手にお金使って…!」
グローバ「粋がるだけあってそれなりのもんは持ってるってかい。さっきの姉ちゃんが化けてるんだってなら喜んでやってやんだがなあ」
勇者「いいんかなー?俺っちってば、今年の闘技大会優勝候補者なんだぜ?」
勇者「滅多にお目にかかれない本物の強さってのを味わえんのに」
グローバ「ほーぉ?」
グローバ(闘技大会ね。そういやあれが毎年優勝しとるっつーのがその大会だって話だったな)
グローバ(ふぅむ)
グローバ「お前さん、どっちの彼氏だい?」
勇者「へ?」
魔法使い「!?」
グローバ「恋人の勇姿を存分に見せてやんだろ?」
勇者「そんなんじゃねーの。この二人はただの連れよ」
リア「勇者さん…!」
魔法使い「……」
グローバ「なんだ勿体ねえなあ。若いうちは遊んでなんぼ、恋してなんぼだぞ?」
勇者「遊びならいつもやってんぜ?闘技ってぇ遊びな!」
グローバ「…フッ、位置に着こうじゃねえの」ザッザッザッ
勇者「そうこなくっちゃ」タッタッタッ
魔法使い「結局こうなる…」
リア「大丈夫ですよ、勇者さんですもん」
魔法使い「…セクハラ目的で闘技しようとするよりはいいけどさ…」
アッシュ「こちらにいっしゃいましたか」
魔法使い「あら。探しに来てくれたの?」
アッシュ「えぇ。本日の宿を見繕うことが出来たのでお迎えにと」
アッシュ「勇者様は、まだ闘技をなさるようですね」
魔法使い「ごめんねこれだけ待ってちょうだい」
勇者「楽しくやろーぜ爺さん」
グローバ「小僧、お前さんがいくつなのかなんてのはまるで興味はねえが、俺はその3、4倍は長く生きてる」
グローバ「年季の違いってやつを教えてやるよ」
勇者「張り切っちゃってんね~」
「今度は男が挑戦するみたいだな」
「おぅ!つまんねぇ試合見せんじゃねぇぞ!」
アッシュ「む?」
アッシュ(あの御仁、どこかで見た覚えがあるような)
審判「両者前へ!」
勇者「うっし」カタマワシ
グローバ「……」ザッザッ
審判「始め!」
勇者「レディーじゃねーけど先制はいただくぜ!」ダッ!
「速いっ…!」
魔法使い(見慣れた反応ね)
アッシュ「………」
スタタタッ
グローバ「……」フッ
グローバ「"硬化"」
勇者「」ブンッ
バキッ!
勇者「…!」
グローバ「どうした?随分と優しい蹴りだな」
勇者「っら!」
ドン
グローバ「痒いねえ」
「爺さん微動だにしてないな」
「あの筋肉だし、凄まじく頑丈な体なんだろ」
アッシュ(いえ、彼が施したのは肉体強化の魔法)
アッシュ(あの相貌に魔法の使い方……やはり……)
勇者「変な小細工しやがって」
勇者(だったら顔面にぶち当てるまでよ)
グローバ「焦んなや小僧。俺にも攻撃さしてくれよ」
...ドシ、ドシ
勇者「…ぷはっ!爺さんあんたイノシシかよ!」
勇者「いいぜー、待ってやる」クク
アッシュ「いけない!」
アッシュ「勇者様、気を緩めてはなりません!」
グローバ「…"敏捷"」ボソッ
バシュンッ
勇者「なっ!」
グローバ「ほれっ」
勇者「っ」スッ
グローバ「いい動体視力してるな!」シュッ
勇者「く…」サッ
グローバ「だがそれだけよ!」
ドゴッ
勇者「がっ…!?」
ヨロ..ヨロ..
勇者「」ドサッ
リア「……え……」
魔法使い「は…?」
魔法使い(嘘でしょ?どうせあいつのことだからやられたフリでもしてんのよ…ね?)
グローバ「おーいどうした?そのまま地面とキスしてたら終わっちゃうぞ?」
勇者「……ぐ……この……」
グローバ「だからといって立たれんのも面倒なんでな」
グローバ「ママのところへお帰り」ゲシッ!
ゴロン、ゴロゴロ...
勇者「ぅ……」
審判「場外」
審判「勝者、グローバ殿!」
魔法使い「勇者!」タッタッタッ
リア「勇者さんっ」テテテッ
「なーんだあっさり負けたな」
「喧嘩売る相手間違えたんだろうよ」
グローバ「お前さんの直球な戦い方、師は悪くないみたいだがなあ。そんなんで大会優勝だの宣ってたとは笑止千万」
グローバ「本番で恥かかなくてよかったな!がはは!」
勇者「……」
魔法使い「立てる?勇者」
グローバ「嬢ちゃんらも出んのかね、闘技の大会」
魔法使い「…私たちは出ません」
グローバ「なんでえ出てくれよお。俺も寄り道ついでにちょっかい出してやろうと思ってんだ」
グローバ「大舞台で気持ち良く戦おうじゃねえの」
魔法使い「………」
グローバ「賭け金はありがたく貰ってくぜ。俺はそろそろ腹が減ったからな!」
アッシュ「アディオス、お嬢さん方」
アッシュ「…グロスハルト卿」
グローバ「!」
アッシュ「やはりそうでしたか。その頭で判りにくかったですが、貴方はバーランド家の当主、グロスハルト・バーランド様ですね?」
グローバ「その面、姫んとこの執事か」
アッシュ「はい。覚えていていただいたようで何よりです」
グローバ「その名前はもう返上したのさ。バーランドは愚息に渡した。俺は何の変哲もないジジイだぜ」
アッシュ「…豪快な口調になられましたね」
グローバ「貴族なんてよお、あんな息苦しいもん死ぬまで続けられるかってんだい」
グローバ「おめえも執事の仕事はどうした?暇でも貰ったか?」
アッシュ「辞めましたよ」
グローバ「おぉ?わはは!なんだあれだけおめえにべったりだったのになあ!何があった?リビドーに耐え切れなくなったか?」
アッシュ「……何もありませんよ」
グローバ「へっ、そうかい」
グローバ「なぁまさかおめえよ、このポンコツをぶつけようってんじゃねえだろうな?」
勇者「……」
グローバ「やめとけ。焼け石に水だ」
アッシュ「どうでしょうね」ニコッ
グローバ「相変わらず食えない男だなあ」
グローバ「藁に縋るのは勝手だが、こうやって現実も見せてやらねえとかわいそうだぜ」
勇者「………」
アッシュ「………」
グローバ「まああんま悲観すんなや。お前さんはまだ若え」
グローバ「もっと男を磨くこった。がははは!」ザッザッザッ...
「終わりらしいぜ」
「別の試合見に行くかー」
魔法使い「……勇者」
勇者「……」
魔法使い「行こう?」
勇者「……」
ーーー翌日 輸送馬車内ーーー
アッシュ「あの方は本名グロスハルト・バーランドという、東国を代表する貴族の当主だったのです」
アッシュ「当時は髪も整えて、立派な髭を蓄えていたのです。ご隠居なされていたとは驚きました」
魔法使い「あんな節操の欠片もない人が貴族…」
アッシュ「私の知るバーランド卿はとても厳めしい方でしたが、あれが本来の彼の気質なのでしょう」
アッシュ「しかし、あの並外れた身体強化魔法だけは変わっていませんね。なればこそ、数多居る貴族の中で頂点に君臨していたのですから」
魔法使い「隠居おじいさんといい、あいつと戦ってた女といい、世の中広いわね。とんでもないのがわんさか居る」
魔法使い「闇雲に突っ込んでいくだけが闘技じゃないってことね。ちゃんと相手の戦術を見切らないと」
勇者「……」
魔法使い「…聞いてる?勇者」
勇者「んー…?」
魔法使い「あいつも大会に出るんだって。今度は対策していかないと同じ轍を踏むわよ?」
勇者「んー…」
魔法使い「もう、優勝しに行くんでしょ!」
勇者「うん…」
魔法使い「……」
魔法使い(なによ…いつもなら自信満々に言い返してくるくせに…)
リア「…勇者さん…」
盗賊(空気が重ぇ…)
アッシュ「………」
ーーーーーーー
勇者母「あら困りましたね」
勇者母「ここはどこなのでしょう?」
(どこかの森の中)
勇者母「真っ直ぐに進んでいたつもりだったのですけど…」
小鳥「」バサバサ
勇者母「まあ小鳥さん!いいところに来てくれました」
勇者母「勇者という少年がどちらに向かったかご存知でしょうか?」
小鳥「チュン、チュンチュン」
勇者母「えぇ、はい」
勇者母「そうなの。ありがとう、可愛い小鳥さん」ニコッ
小鳥「チュン♪」
勇者母「待っててくださいね勇者。あなたの忘れ物はしっかり届けてあげますからね」
勇者母「~♪」テクテク
4章は以上となります。
次回5章から舞台は王都に移ります。
この物語は6章で予定です。
四人目のキャラ決めを行います。
前回同様、安価で4つの候補を出してもらい、その候補からコンマによって決定させます。
安価は以下の形式でお願いします。
キャラ名:(役柄や容姿など)
性別:(男か女)
年齢:(5~100の間)
得意戦型:(剣術、体術、魔法のうちのいずれか。複数可)
備考・希望:(そのキャラの過去や、こうしてほしいなどがあれば)
あまりにも無茶あるいは意味が読み取れないもの、また、連投は再安価とします。
候補 >>177~>>180
キャラ名:リリ 踊り子(黒髪褐色肌のグラマラスな体型で露出が多めな衣装)
性別:女
年齢:30
得意戦型:剣術と体術
備考・希望:人を揶揄うのが好き 我流の舞のような剣術で対戦相手を惑わせる 妖精と人間のハーフ 衣装でなかなか見えない部分に人を魅了する黒子があるらしい
キャラ名 メリー 吟遊詩人 (青髪のロングストレートの華奢な美女で竪琴を持っている)
性別女
年齢 24
得意戦術 魔法と体術
尾行・希望 特製の竪琴を奏でながら歌うことで魔翌力を消費せずに、様々な魔法を使うことができる(歌の種類によって魔法の効果が違う)
性格はおっとりして物静かだが、性格と容姿に反して身体能力も高い
候補が出揃ったため、>>182のコンマで決定します。
00~24:リリ
25~49:ツバキ
50~74:テイシロ
75~99:メリー
>>175 誤字ってますね。正しくは
「この物語6章で完結する予定です。」
です。
ん
コンマ65で登場キャラ四人目は
キャラ名:テイシロ 神官 (白髪の短髪で白いローブを着た少年)
性別:男
年齢:12
得意戦型:魔法
備考・希望:天外孤独の身であり自分の出生について知るために旅をしている 扱う魔法は光や雷系
に決定です。
次回の投下はまた後日となります。
>>171の台詞
アッシュ「アディオス、お嬢さん方」
は、本当は
グローバ「アディオス、お嬢さん方」
です。こういうミスはなくしたいですね…
5章前半投下します。
ーーー王都城 中庭ーーー
侍女「……」トットットッ
侍女「……」トッ...
姫騎士「はっ」ビュン
姫騎士「せあっ!」ビュオッ
姫騎士「まだまだ甘いな…」
侍女「…姫騎士様」
姫騎士「!侍女か」
姫騎士「どうした、私に何か伝言か?」
侍女「いえ、偶々通りかかったので」
侍女「…自主訓練ですか?」
姫騎士「あぁ。こうして体を動かしていないと鈍ってしまいそうでな」
侍女(日々あれだけの時間を鍛錬に費やしているのだから、鈍るなんてことあるはずがないのに)
姫騎士「侍女。今ここには二人しかいないんだ、畏まらなくていいんだぞ?」
侍女「そういうわけにはいきません。私は貴女のお付きですので」
姫騎士「ははっ、真面目だな侍女は」
侍女(……)
姫騎士「そうだ、せっかく来たんだ付き合ってくれないか?」
侍女「はい。剣のお相手をすればよろしいですか?」
姫騎士「そうではない」
姫騎士「少し外へな」
侍女「…いつもの場所ですか」
姫騎士「うむ」
ーーー王都ーーー
リア「ここが王都……」
リア「驚きです、道が土じゃないですよ魔法使いさん…!」
魔法使い「そうねー。これ敷き詰めてあるのはレンガかしら」
アッシュ「似ていますが、少々異なります。これは石畳と呼ばれるもので、職人が一つ一つ切り出した石をこのように秩序立てて並べ、固めるのです。レンガが使用されるのは家屋の屋根などですね」
魔法使い「雨が降っても泥濘まなくていいわね」
盗賊(石畳も見たことねぇって、こいつらどんな田舎に住んでたんだ)
アッシュ「さすがに闘技場の地面は土ですがね。これはどこの国でも共通のはずです」
魔法使い「石の上でやれって言われても勝手が違うものね」
勇者「……」
魔法使い「ほら勇者、大会も村で稽古してた環境とそう変わらないみたいよ」
勇者「ん」
魔法使い(気のない返事…)
魔法使い「…もうっ、シャキッと歩く!さっきから見てて危なっかしいわ」
勇者「別に、どう歩こうが勝手だろ」
魔法使い「こっちが嫌なのよ。目の前でちんたら歩かれる方の身にもなって」
勇者「そんなん知らん」
魔法使い「あんたね…!」
リア「勇者さん、前っ」
ドン
勇者「」ドサッ
姫騎士「すまない。余所見をしていた」
姫騎士「立てるか?」スッ
「ん?ありゃ姫騎士様でねーか?」
「おぉ本当だ!我らが英雄姫騎士様じゃ!」
勇者「……」スクッ
「なんじゃあの男、姫騎士様の手を無視しおった」
「礼儀知らずなやつめ」
姫騎士「怪我をしていないなら、良かった」
姫騎士「ん?」
アッシュ「……」
姫騎士「アッシュ?アッシュじゃないか?」
アッシュ「はい。お久しぶりです」
姫騎士「どこへ行っていたんだ!急に辞めて出て行くものだから心配したんだぞ。王都を離れていたらしいではないか」
アッシュ「少し旅に出ておりました。そういう気分だったのです」
姫騎士「旅か。アッシュにはいつも苦労をかけていたからな。すまなかった」
アッシュ「謝らないでください。貴女様のせいではございませんから」
姫騎士「だが、元気そうで安心したよ」
姫騎士「しばらくここに留まるのか?」
アッシュ「そのつもりです」
姫騎士「なら丁度いい。今度の闘技大会是非見に来てくれ。アッシュから教わった技をいつも磨いてきたんだ」
姫騎士「優勝を勝ち取る私の姿を君に見せたい」
アッシュ「…楽しみにしております」ニコッ
侍女「……」
アッシュ(……)
侍女「行きましょう姫騎士様」
姫騎士「いいのか?侍女もアッシュと積もる話があるのでは――」
侍女「次の訓練まであまりお時間がありません」
姫騎士「そうか、急がないとな」
姫騎士「私はもう行く。機会があれば腰を落ち着けて話そう」
アッシュ「はい」
侍女「」ペコリ
スタスタスタ...
魔法使い「……ねぇアッシュさん、今の人って」
アッシュ「分かってしまいますよね、さすがに」
アッシュ「そうです。あのお方が、私が元仕えていたお人、姫騎士様です」
アッシュ「国王様が大切になされている一人娘であると同時に」
アッシュ「――この国最強の騎士でもある」
魔法使い「そうだったのね、あの人が…」
リア「だから王都の事情に詳しかったのですね」
魔法使い「けどあの人アッシュさんのこと探していたみたいよ?私たちが初めて会った時、執事を辞めさせられたって言ってなかった?」
アッシュ「えぇ」
アッシュ「私を辞めさせたのは彼女ではありませんから」
魔法使い(…感じる。この人の中で燻っているなにか)
魔法使い(きっとアッシュさんもアッシュさんなりに目的があってここに居るんだ)
アッシュ「ひとまず移動しましょう。ここでボーッとしていては目立ってしまいます」
魔法使い「そう、ね」
ーーー受付所ーーー
ガヤガヤ
受付嬢「はーい!皆さん押さないで下さい!順番に!順番にですよ!」
「おいてめぇ今割り込みしただろ?」
「おや、気付かなかったよ。気配が弱小過ぎて」
「んだと!?」
受付嬢「そこ!問題を起こしたら出場資格剥奪ですからね!」
ザワザワ
勇者母「あらあら」
勇者母「人がたくさん……これじゃ勇者がどこに居るのか見えませんね」
勇者母「でも!」
勇者母「大会の受付場所で待ってればいずれ会えますよね」ニコニコ
「なぁあんた、受付済ませるなら早くしておくれ」
「そうだよ後がつかえてんだ!」
勇者母「まあごめんなさいね」
「そんなのええから早よう」グイ
勇者母「あら?」
グイグイグイ
勇者母「あらあらあら…」
ーーー宿 勇者の部屋ーーー
勇者「……」ボー
勇者「………」
勇者「」ゴロ...
勇者「……」ボー
ーーーーー
グローバ「藁に縋るのは勝手だが、こうやって現実も見せてやらねえとかわいそうだぜ」
ーーーーー
勇者(はっ、これが現実ってか)
コンコン
魔法使い「入っていい?」
勇者「入りたきゃ入れば」
ガチャ
魔法使い「ごめん寝てたかしら」
勇者「眠くない」
勇者「で、みんなそろってどうしたよ?ここ部屋広いけど四人で寝るのはさすがにキツくねーんか?」
アッシュ「私とリア様は付き添いですよ」
リア「……」
勇者「?」
魔法使い「勇者、大会のエントリーに行くわよ」
勇者「おう、そのうちな」
魔法使い「そのうちっていつよ」
勇者「そのうちはそのうち」
魔法使い「それで結局出ない気なんだ」
勇者「んなこと言ってねーし」
魔法使い「だったら今から行くの!遅かれ早かれ受付はしてこないといけないんだから」
勇者「……明日な」
魔法使い(……)ギリ...
魔法使い「いい加減にしなさいよ」
魔法使い「いつまでそうやってうじうじしてるつもり?あのセクハラじいさんに負けてからずっとそうじゃない!私たちに見せびらかすみたいに落ち込んでさ!」
魔法使い「同情すればいいのかしら?よしよし、あんなの気にしなくていいですよーって?」
アッシュ「魔法使い様、少し抑えた方が…」
魔法使い「一回負けたからってなに!?あんたの言う最強はたかがそれっぽっちで終わるものなの!?」
勇者「っ」
勇者「…言ってくれんじゃん」
勇者「一回でも負けたらそれもう最強じゃないっしょ。それに俺っち気付いたんよ」
勇者「上には上がいる」
勇者「グローバ爺さんが教えてくれた。俺っち一つ賢くなったんだぜ。身の丈を知ったっての?」
魔法使い「…なに、それ」
勇者「出来もしねー優勝とかほざいてるよかよっぽど利口だろー」
魔法使い「じゃあ…あんた何のためにここまで来たの…?」
勇者「んー、記念?」
勇者「参加賞くらい持ち帰ってやんねーとなー。なはは」
魔法使い(……なんなの。なんなのよ)
魔法使い(私は、そんな言葉あんたの口から――)
魔法使い「もういい!」ダッ
タッタッタッ
リア「あ…」
勇者「……」
アッシュ「……」
アッシュ「今の言葉、本心でございますか?」
勇者「モチのロンよ。これが大人になるってこったろ?ちゃんと現実を見れてる」
勇者「最強だのなんだのが許されんのはケツの青いガキか、世界のてっぺん取ってるやつだけさ」
ーーー夜 魔法使いの部屋ーーー
魔法使い「……」
魔法使い(…眠れない。早く寝て忘れちゃいたいのに)
魔法使い「………」
ーーーーー
勇者「一回でも負けたらそれもう最強じゃないっしょ」
勇者「出来もしねー優勝とかほざいてるよかよっぽど利口だろー」
ーーーーー
魔法使い「………バカ」
魔法使い(違うでしょ…)
ーーーーー
幼勇者「いいかげん泣きやめって。魔法の一つ失敗したくらいなんだってんだい」
ーーーーー
魔法使い(私がずっと追いかけて来たのは、ずっと見てきたあんたは……)
魔法使い「…嫌いよ…」
「魔法使いさん、起きてますか?」
魔法使い「…リアちゃん?」
リア「はい。ちょっとお話したくて、来ちゃいました」
魔法使い「……ふふ、いいわよ入ってきて」
カチャリ
リア「お言葉に甘えますね」エヘヘ
ーーー宿 屋根ーーー
勇者「……」
勇者「空はでけーなー」
勇者「このまま俺っちのこと、吸い込んでくれねーかなー…」
ーーーーー
魔法使い「一回負けたからってなに!?あんたの言う最強はたかがそれっぽっちで終わるものなの!?」
ーーーーー
勇者「………」
勇者(みっともねぇ)
アッシュ「ここにおられましたか」
勇者「……」チラッ
アッシュ「危ないですよ、屋根の上など。落ちたら大怪我です」
勇者「それ鏡見て言ってみ」
アッシュ「隣、失礼致します」
スッ...
アッシュ「綺麗な空ですね」
勇者「………」
アッシュ「勇者様、闘技大会での優勝、本当に諦めてしまわれたのですか?」
勇者「諦めるも何も、最初から無理難題だって判明したしな」
勇者「俺っち、グローバのおっさんに手も足も出なかった。なのにそれより強ぇのがまだいるんよな?」
勇者「小さな村の間抜けが一匹、大口叩いてたってだけよ」
アッシュ「前にも言いましたが、貴方はまだ強くなれます」
勇者「大会まであと二週間ちょいしかないのに?」
勇者「たった二週間じゃ小手先のみみっちい技身につけるくらいしか出来ねーぜ」
アッシュ「では魔法使い様をあのままにしておくのですね」
勇者「……なんでそこで魔法使いなんだよ」
アッシュ「これでも長年女性の傍に付き添ってきたものですから、その手の機微には敏感なのです」ニコッ
勇者「…関係ねーよ、別に」
魔法使い「今日は何の話をしよっか?魔法のことはいっぱいお話してきたものね。思い切ってお互いのちょっと恥ずかしい失敗談とかいってみる?」
リア「えっとですね、今日はあの……恋の話……とか…」
魔法使い「え?なーに?」
リア「…魔法使いさんて、勇者さんのこと好きですよね?」
魔法使い「!?」
魔法使い「そ…えぇ!?ななな何言ってるのかしら!?そんなことあるわけ…!」
リア「見てたら分かりますよ。魔法使いさん真っ直ぐですもん」
魔法使い「うぐっ」
魔法使い「……うん、好きよ」
魔法使い「けどもう違うの。私が好きだったあいつはどっかに行っちゃった」
リア「好きな勇者さん…?」
魔法使い「そ」
リア「それって、いつも明るくて、楽しそうで、前向きな勇者さん?」
魔法使い「大分美化されてるわね」フフッ
魔法使い「…まぁそんな感じかな」
二人「……」
リア「お二人は確か…同じ村の幼馴染みさんなんでしたよね。魔法使いさんはいつから勇者さんのこと、好きだったんですか?」
魔法使い「ま、まだこの話続ける…?」
リア「……」ジッ
魔法使い「…いつからだろうね」
魔法使い「気が付いたら、いつもあいつのことを追いかけてた」
魔法使い「ちっちゃい頃の私ってね、すごく泣き虫だったの。魔法を一度失敗したくらいでえんえん泣いてたわ」
勇者「――で、その度に俺っちが慰めてやってたんよ。なーんかほっとけなくってさー」
アッシュ「意外ですね。今の魔法使い様の凛々しさからはとても…」
勇者「本当になー。口うるさくて暴力まで振るってくるし。リアくらいおしとやかでいりゃあまだかわいいんだがね」
アッシュ(私には、そう変わった理由も、なんとなく勇者様にあるような気がしますよ)
勇者「…でも、一つ言えんのは」
ーーーーー
幼勇者「めそめそしてんな!おれっちがいてやっから!」
幼勇者「おっきくなったらおれっちがお前のこと」
幼勇者「一生守ってやっからよ!」
ーーーーー
魔法使い「そんな子供の時の言葉、ずっと忘れられなくてさ」
魔法使い「馬鹿みたいよね、あいつはもうそんなのとっくに頭に残ってないのに」
リア「…待ってるんですね、勇者さんのこと」
魔法使い「……」
魔法使い「あいつね、闘技大会に出るからって一人で村を出て行こうとしたのよ。我慢ならなくてあいつを闘技で負かして無理矢理付いてきてやったわ」
リア「え、勝ったんですか…!?」
魔法使い「もちろんハンデ有りでね」
魔法使い「でも、あんな勇者見せられることになるなら、大会自体に反対した方が良かったわ…」
魔法使い「別に私は、あいつが世界で一番強くなくたって……私の中で一番でいてくれれば……」
アッシュ「迎えに行ってあげないのですか?覚えていらっしゃるのなら尚の事」
勇者「冗談っ。俺っちもっとグラマラスな女の人の方が好みだし、あんなべったり付いてきて文句ばっか言うようなやつなんざ」
アッシュ「そこまで想っていただけるとはなんとも素敵な方です」
勇者「へ、代わってやろうかい?」
アッシュ「私は勇者様にはなれませんよ」ニコッ
勇者「……」
勇者「…今更遅いんよ」
勇者「弱っちい勇者くんじゃああいつは見てくんねーさ。今頃失望してんだろ」
勇者「最強じゃなきゃ意味ねーんだ」
勇者(……え?なんで?)
勇者(最強……なんで最強じゃないとダメなんだっけ)
ーーーーー
「――だれにも――、――さいきょう――だい――!」
ーーーーー
勇者(なんだ、今の…?)
ーーー翌朝 食堂ーーー
魔法使い「……」パク、パク
勇者「」カチャカチャ
アッシュ「……」スッ
リア「……」モムモム
魔法使い「ごちそうさま」
魔法使い「私、外散歩してくる」
スタスタ...
リア「わ、私も行きます…!」テッテッテッ
勇者「……」カチャ...
勇者「俺っちも腹いっぱいだわ。残りはアッくんに任した」ガタッ
(部屋に戻っていく勇者)
アッシュ「朝食は重要ですが、この量は些か…」
アッシュ「貴方も要りますか?こちらの料理などはまだどなたも手を付けていませんよ」
盗賊「……欲しけりゃ仲間の居場所を吐けってんだろ?」
アッシュ「無論です」ニコッ
盗賊「無理な相談だぜ。同胞を裏切る行為は絶対しねぇ」
アッシュ「そうですか。ともすればこれが最後の晩餐になったかもしれませんのに」
盗賊「…あん?」
ーーー王都 大通りーーー
リア「ふわぁ…!改めて見てみると、どの建物も全部大きいんですね…!」テクテク
魔法使い「そうねぇ。前寄った町にもお店とかはいっぱいあったけど、ここまで立派に構えてはなかったものね」テクテク
魔法使い「…リアちゃん、無理して私と出てくることなかったのよ?」
リア「無理なんかしてませんよ。魔法使いさんと一緒にいるの好きですから」ニコリ
リア「どっちかと言えば、魔法使いさんの方が無理してるんじゃないですか…?」
魔法使い「……」
魔法使い「いいのいいの。もう気にしないことにしたからあんなやつ」
魔法使い「私たちは私たちでせっかくの王都を目一杯楽しんじゃいましょ」
リア「……はい」
リア(気にしてないなら、そんな寂しそうに笑ったりしないですよ…)
魔法使い「リアちゃん見て!」
リア「?」
魔法使い「あれ、王都の大聖堂よ!」
魔法使い「ここに来てからもやもやすることばっかりだったし、一度吐き出してすっきりさせとこっか」
ーーー大聖堂ーーー
魔法使い「王都一の教会って聞いてたけど、あんまり人はいないのね」
リア「そうですね……もしかしたら世の中が平和なおかげかもしれませんね」
「すぴー……zzZ」
「だめよダーリン、こんなところでキスなんて…」
「大丈夫少しくらい罰は当たらないさ」
魔法使い「…平和以前の問題な気が…」
リア「あはは…」
白髪の少年「……」(手を祈り合わせる)
魔法使い「あの子のお祈りが終わったら私たちね」
少年「主よ、どうかお願いいたします。この声が届いているのならば、どうか僕についてお教えください」
少年「僕は一体どこから来たのか、どこへ向かうべきなのか……」
少年「それだけで、いいのです…」
魔法使い(随分熱心なお願い事ね。お祈りって声に出すものだっけ…?)
少年「……行くか」スクッ
少年「…っ!!」
リア「…?」
少年「あ……あぁ…!」
タッタッタッ
ガシッ!
リア「えっ!?」
少年「きみは僕の兄妹か!?僕を探しに来てくれたのかっ!?」ユサユサ
リア「ひあぁ…」
魔法使い「ちょっと何してるの!?手離して!落ち着きなさい!」
.........
少年「僕はテイシロ…って、名乗ってる」(以降、テイシロ)
魔法使い「名乗ってる?」
テイシロ「……」
魔法使い「…そのテイシロくんが、なんでリアちゃんに掴みかかったりしたのかしら?リアちゃんの知り合い?」
リア「いえ…初めてお会いします…」
テイシロ「掴みかかったんじゃ…!さっきは衝動的に動いてしまっただけで!」
魔法使い「……あのね、いくら子供でも女の子にひどいことは絶対にやっちゃいけないの。分かるでしょ?」
テイシロ「そんなつもりはないんだって…!」
テイシロ「…家族かと思ったんだよ」
リア「家族…ですか?」
テイシロ「うん…」
テイシロ「僕、孤児院で育てられたんだ。西国の」
テイシロ「物心ついたときから周りには僕を育ててくれた神父様と、僕と同じような子供ばかり……両親の顔どころか自分の本当の名前さえ知らない」
テイシロ「だから、自分の生まれがどうしても知りたくて飛び出してきた」
魔法使い「飛び出してきたって…一人で?」
テイシロ「僕はもう12だ。それなりの分別はつくし、常識だってある。変な輩が来ても魔法で退治出来る!」
魔法使い「そう言っても、危険なことに変わりはないわよ。こんな幼い子を一人で……大丈夫なの?その孤児院…」
テイシロ「神父様を悪くいうな!」ダン
リア「」ビクッ
テイシロ「あ…ごめん」
テイシロ「身寄りのない子を何人も育ててくれて、僕らにとっては親も同然の人なんだ。何かあっても平気なようにって神官としての魔法も教えてくれた」
テイシロ「…でもお優しい神父様だからこそ、僕が旅に出るのには反対した。真実は時に、君たちを傷つけるからって」
テイシロ「神父様には手紙だけ置いて、黙って出てきたんだ」
リア(……)
テイシロ「それでこの国の王都まで来たのはよかったんだけど、広いしまともに取り合ってもらえないしで困っててさ」
テイシロ「唯一の手がかりと言えばこの白い髪だけ。情けないけど、神様に頼めば道を示してくれるかもなんて、ここでお祈りしてたら」
魔法使い「リアちゃんが来たってことね」
テイシロ「うん」
リア(…この子、ずっと孤独の中で生きてきたんだ)
リア(少し前までの私と同じ…)
テイシロ「けどごめんなさい。全然関係なかった」
テイシロ「僕のことなんかこれっぽっちも知らないみたいだ」
テイシロ「迷惑かけた。それじゃ」
魔法使い「待――」
リア「待って!」
テイシロ「!」
リア「私にも、協力させて」
リア「私もあなたのご両親を探すの、手伝います」
テイシロ「え…いやいいよ、同情してもらいたくて話をしたわけじゃ…」
リア「強がらないで」
テイシロ「つ、強がってなんか…!」
ギュ(手を握る)
リア「…それでも、だよ」
リア「さっき途方に暮れたって言ってたばかりでしょう?」
リア「それに、一人よりは絶対に良いよ」ニコッ
テイシロ「」ドキッ
魔法使い(強くなったわね、リアちゃん)
リア「魔法使いさん、お願いです。この子の――」
魔法使い「いいわよ。私も同じこと言おうとしてたから」
リア「ありがとうございますっ」
テイシロ「…そ、それじゃ、よろしく…えっと…」
リア「リアンノン。でも長いからみんなリアって呼んでくれるの」
魔法使い「魔法使いよ」
テイシロ「魔法使いさんに…リア」
リア「うん♪」
リア「私もシローって呼ぶね」エヘヘ
テイシロ「っ…お、おう…」
魔法使い(ふふっ)
リア「でも、闇雲に動き回るだけじゃ意味ないですよね……資料館みたいなものがあれば、情報収集が出来るんですけど…」
魔法使い「んー……ん!」
魔法使い「アッシュさんなら何か知ってるかもしれないわ。彼、色んなお国事情を見てきたでしょうから」
ーーー宿ーーー
魔法使い「戻ったわよ……あら?」
リア「アッシュさん、いませんね…」
テイシロ「……」キョロ、キョロ
魔法使い「……」
テクテク
魔法使い「」コンコン
勇者「あー?なんだよー?」ガチャ
魔法使い「アッシュさんは?」
勇者「なんか盗賊引き渡しに行くっつって出かけてった」
魔法使い「あぁ、治安維持所に行ったのね」
リア「どうしましょう…私たちも向かいましょうか…?」
魔法使い「すぐに帰ってくるはずよ。ここで待ってましょ」
魔法使い「シローくんもそれでいい?」
テイシロ「!うん、平気」
勇者「……」
バタン
テイシロ「…今の人」
魔法使い「あー、あれは勇者っていうんだけど、いないものと思っていいわよ」
テイシロ「……」
テイシロ(生気がまるで感じられない人だった。何があったんだろう…?)
.........
アッシュ「なるほど、テイシロ様のご両親を…」
魔法使い「そうなの。アッシュさん聞いたことないかしら?どんなに小さなことでもいいのよ」
アッシュ「……申し訳ありません。残念ながら私にはそのようなお噂を聞いた記憶はないですね…」
テイシロ「…そうだよな。そう都合よく見つけられるなんて…」
リア「……」
アッシュ「いいえ。諦めるのはまだ早いですよ」
リア「!あるんですね…!なにか糸口になるものが…!」
アッシュ「私にはありませんが、王都に住んでいらっしゃる賢者様なら、ご存知かもしれません」
テイシロ「賢者…」
アッシュ「はい。ご案内致しましょう」
5章前半はここまでです。
賢者のキャラ決め安価を行います。
前回同様、安価で4つの候補を出してもらい、その候補からコンマによって決定させます。
安価は以下の形式でお願いします。
キャラ名:(役柄や容姿など)
性別:(男か女)
年齢:(5~100の間)
得意戦型:(剣術、体術、魔法のうちのいずれか。複数可)
備考・希望:(そのキャラの過去や、こうしてほしいなどがあれば)
あまりにも無茶あるいは意味が読み取れないもの、また、連投は再安価とします。
候補 >>213~>>216
キャラ名:賢者 レラ 茶髪の髪をしたかなりのナイスバディの女性であるが普段は酒を飲んで常に酔っ払っている
性別:女
年齢:33
得意戦型:剣術 魔法
備考・希望:かつては貴族の血筋の天才少女として名をはせていたが、今はなんだかんだで勘当状態であり、王都で占い師としてひっそり生きている
キャラ名:シュナ・賢者・黒いブカブカのローブを着た幼児体型の女性。前髪で目が隠れている
性別:女
年齢:???歳(自称永遠の10代)
もし年齢をはっきり決めなければ駄目なら35歳で
得意戦型:魔法 体術
備考 希望 天然ボケで捉えどころのない部分もあるが基本的には物静かで大人しい性格
体術は柔術やコマンドサンボなどのような間接技中心
ん
コンマ14で賢者は
キャラ名:賢者 レラ 茶髪の髪をしたかなりのナイスバディの女性であるが普段は酒を飲んで常に酔っ払っている
性別:女
年齢:33
得意戦型:剣術 魔法
備考・希望:かつては貴族の血筋の天才少女として名をはせていたが、今はなんだかんだで勘当状態であり、王都で占い師としてひっそり生きている
に決定です。
次回の投下はまた後日となります。
5章後半投下していきます。
ーーー王都 裏路地ーーー
ザッザッザッ
リア「ほ、本当にこのような場所に賢者様がいらっしゃるのでしょうか…?」
アッシュ「最後に訪れたのは2年ほど前ですが、その間に居住を変えたという話は聞いておりません」
魔法使い「アッシュさん旅に出ていたんじゃなかったの?」
アッシュ「賢者様は様々な意味で有名人ですから、お噂くらいは耳に入ってきますよ」
勇者「……アッくん、本当なんだろーな?例の賢者、めっちゃ美人のナイスバディって」ボソッ
アッシュ「ここにきて嘘は吐きませんよ」ボソッ
勇者「っし」
魔法使い「なによ?」
勇者「なんでもー」
リア「…あっ…!」ツルッ
テイシロ「っ!」グイ
テイシロ「気を付けてな。ここ足元急だから」
リア「うん…ありがと」ニコリ
テイシロ「…し、心配だからこのまま手つないで――」
アッシュ「見えましたよ、あれです」
(占い処 八卦)
掛け札『臨時休業中』
魔法使い「占い…?」
アッシュ「今は占い師として暮らしているのですよ」
トントン
全員「………」
リア「…留守にされてるのでしょうか」
アッシュ「いいえ、この札を掛けている時は大抵」
トントントン
ガチャ キィ...
テイシロ「ドアが勝手に…」
「入っておいで」
アッシュ「失礼致します」
ゾロゾロ
妙齢の女性「これはまた、賑やかそうな子達じゃないの」
勇者(おぉ…で、でけー!)
アッシュ「突然の訪問をお許しください、レラ様」
妙齢の女性(以降、レラ)「アシュ坊は変わらないねぇ。以前と一言一句同じ挨拶だ。あの子のお付き辞めて、今度はその子らの執事になったってわけかい?」グビッ
アッシュ「また明るいうちから酒など…お体に悪いですよ」
レラ「くはは、余計なお世話よ」ヒック
魔法使い(この人が賢者。…イメージと全然違うけど…)
魔法使い(この小屋の中を見る限り、間違いないんでしょうね)
アッシュ「今の私は執事ではなく、ただの夢追人です」
レラ「ふ~ん…ご苦労なこったい」
レラ「んで、あたしに何の用だい。表の札は見たろ?占い稼業はお休みだよ」
リア「…あの!賢者様、お願いがあってここに来ました…!」
リア「シローの…テイシロさんのご両親について、教えていただけませんか…!」ペコッ
テイシロ(リア…)
テイシロ「お願いします!」ペコリ
レラ「そう来たか」チラッ
勇者(?今こっち見た?)
レラ「……」グビッ
レラ「偶にいるのよ。ここを何でも屋か何かと勘違いしてる輩がさ。あたしは神様じゃないんだ、この世の全てを把握なんてしちゃあいない」
リア「……」
アッシュ「レラ様でも分からないとなりますと、これはもうテイシロ様の孤児院から手がかりを見つけ出す他ないかもしれませんね」
レラ「はやるなよアシュ坊。誰も分からないとは言ってないよ?」
テイシロ「え…!」
レラ「見えるのさ、あたしには。その水晶玉にバッチリとねぇ」
(机上に鎮座する水晶玉)
魔法使い「…何が映ってるんです?」
レラ「知りたいかい?教えてやってもいいけど、ただじゃ面白くない」ククッ
レラ「そうだね、そのテイ坊とやらがあたしと闘技をして勝ったら、教えてやろう」
リア「…何故ですかっ。彼は生まれてからずっと、自分のことを何も知らずに生きてきたのです…!」
リア「せっかく届きかけたのに、その道を塞ぐようなこと…!」
レラ「欲しければ勝ち取るんだよ」
レラ「何もしないで答えが寄ってくるほど、世界は甘くないよ」
リア「そんな…」
テイシロ「…僕、やるよ」
テイシロ「賢者様はチャンスをくれた。断る理由はない」
テイシロ「それにもしかしたら、賢者様が精通してるのは知識だけで、闘技はからっきしかもしれないしさ」
レラ「くふ…よく言った。手加減はしてやるさね」
レラ「じゃ、場所整えるから脇に退いててくれ」
テイシロ「え?は、はい」
レラ「"拡張"」
グイン!
勇者たち「!?」
リア「一瞬で…」
テイシロ「部屋が…」
魔法使い(広くなった…)
魔法使い(元々この小屋、外から見た大きさと中の広さが違ってた。この人が使用している魔法、信じられないけど――)
レラ「"生成"」
ズズズ...
勇者「あ、これ闘技場か」
魔法使い(空間操作魔法)
魔法使い(すごいなんてもんじゃない。こんなの現代に扱える人が残ってるなんて…)
レラ「興味あるかい?使えると何かと便利よ」
レラ「あんたなら、修行を積めばあるいは」
魔法使い「私…ですか?」
レラ「」グビ、グビ
レラ「ヒック、火魔法が得意で胸の控えめな女の子1名、募集しておこうか」クスッ
魔法使い「っ!?」
勇者「ぷっ」
魔法使い「」ジロッ
レラ「アシュ坊、審判頼めるかい?」
アッシュ「畏まりました」
.........
テイシロ「……」
レラ「そう硬くなりなさんな。勝てるものも勝てなくなっちゃうよ?」
(宙に浮く木剣)
勇者「剣、浮かしながら戦う気かね」
アッシュ「完全に遊んでますね、あれは。レラ様は魔法の腕は言うまでもありませんが、元々剣術にも長けているのですよ」
アッシュ(私もかつてはレラ様のようにと)
魔法使い「いくら何でも無茶よ。あの人の魔法は文字通り次元が違う」
勇者「あぁ確かに、異次元だよな」
(レラのふくよかな胸)
魔法使い「…なんであんたまで来たの?」
勇者「駄目か?俺っちも賢者さんつーの見ときたかったのよ」
勇者(優勝賞品の美女が手に入んないんだ。尚更王都のお色気さんたちを見逃す手はない!)
魔法使い「余計な茶々いれんじゃないわよ」
勇者「うぃーす」
リア「……」
リア(シロー…)ギュ...
レラ「ぼちぼち始めようかねぇ」
テイシロ「…っ」
アッシュ「それでは、両者前へ」
テイシロ(気圧されるな…僕には神父様から教わった魔法がある…!)
テイシロ(子供だからって甘く見てると)
アッシュ「始め!」
テイシロ(足元をすくわれるんだ!)
テイシロ「"通雷"!」
レラ「"通雷"」
バチンッ!
テイシロ「は…?」
魔法使い「打ち消した…全く同じ威力の同じ魔法で…」
勇者「そんな驚くことなん?」
アッシュ「魔法の強さには個人差がありますからね。寸分の狂いもなく打ち合わせることは普通出来ません」
レラ「やるねぇテイ坊。綺麗な花火じゃないか」
テイシロ「くっ…」
テイシロ「"射光"!」
レラ「"集光"」
ピカッ!
シュルルル...
レラ「これだけあれば夜は電気要らずで過ごせそうね」ククッ
魔法使い「集光なんて魔法あったかしら?」
アッシュ「適当に名前を口にしてるだけです。あれくらいの芸当であれば詠唱などせずに為せるはず」
リア「……」
テイシロ(今のはほとんど全力だったのに)
テイシロ(駄目だ…単純な魔法じゃ絶対に勝てない)
テイシロ(けどまだ終わりじゃない)
テイシロ「…"光速"」
シュンッ
レラ「!」
テイシロ「喰らえっ!」
スカッ
レラ「」スー...
テイシロ(透過した…!?)
ポンポン(木剣に肩を叩かれる)
レラ「くふふっ。あたし実は幽霊だからさ、物理攻撃は効かないのよ」
勇者「え、マジで」
アッシュ「ジョークですよ。生身の人間です」
リア(光速は確か、魔力で作った道の上を瞬間的に移動する魔法…)
リア(じゃあ賢者様が行った瞬間移動は何…?)
魔法使い「厳しいわね…。大の大人が赤ちゃんの相手をしてるようなものよ」
レラ「さて、お次は何を見せてくれるのかな?」
テイシロ「ちきしょう…」
テイシロ(だったら、全部の魔力使い切るつもりでやってやる!)
.........
テイシロ「"落雷"!」
パキン
レラ「ふぅ、酔いも覚めてきそうね」
テイシロ「はぁ…はぁ…」
テイシロ(これも駄目)
レラ「どうしたの?あれからあたしを一歩も動かせてないよ」
テイシロ(こっちは常に全力で打ってるのに、詠唱も無しに全て無効化される)
テイシロ(光速を仕掛けようにもその度にあの木剣が進路上に先置きされてて突っ込めない)
テイシロ(僕が何をしようとしているか、全て読まれてる…)
レラ「まさかこれで終いなんて言わないよねぇ。こんなんじゃ君、いつまで経っても親のことなんか分かりゃしないよ」
レラ「それともその程度の覚悟だったってことかい?」
テイシロ「……」
レラ「まぁいいさね。知らない方が幸せなことだってある。今の生活が苦痛じゃないんなら元に戻ってあげた方が、いいんじゃないかな」
テイシロ「っ」
ーーーーー
神父「テイシロ、お前は私達の家族だ」
神父「何も遠慮することはない。これからも共に暮らし、共に泣き、共に笑おう」
ーーーーー
テイシロ(そう言って手を差し伸べてくれた神父様を置いて、僕はここに来たんだ)
テイシロ(真実を知ったその上で、神父様たちと一緒に生きたいと言うために!)
テイシロ「僕は…絶対に諦めない!」
レラ「じゃあ、どうする?」
テイシロ(効くか効かないかとか、疲れる疲れないだとかもういい)
テイシロ(全身全霊ありったけを込める!)
テイシロ「僕の本気の本気の本気だっ!」
レラ「……」ニッ
テイシロ・レラ「「"光子"!」」
ブワァア!
――ズシャンッ!
魔法使い「うっ…すごい余波ね…」
アッシュ「あれだけのエネルギーがぶつかっていますからね…!」
勇者(…あいつ)
テイシロ「うぉおおお!」ゴォォ!
勇者(なんであんなに必死になってんだ。どうせ負けるって分かってる試合だろうに)
勇者(ガキだからか?死ぬ気になれば何とでもなると思ってんのか…?)
勇者(んな無駄な労力使ってまで勝ち取る必要があるもんなのかよ)
ーーーーー
「――だれにも負けない、さいきょうの――」
ーーーーー
勇者(……?)
レラ「くははは!いいじゃない!子供にしては大した魔力だよ」
テイシロ「おおおおぉ…ゲホッ…!」
リア「あ…!」
リア(あんなに急速に魔力を放出して、とても苦しいはずなのに…)
リア(やめて、って言ってあげたい。私もあなたの旅に付き合うよって)
リア(でも――あなた自身が、あなたの目がまだ戦っているから)
リア「負けないで、シロー…!」
テイシロ(…!)
テイシロ「ぉ……らぁああああああ!!!」
ゴウッ!
レラ(んっ!?)
レラ「この子は…!」ジリ
アッシュ「!」
レラ「"封魔"」
ブシュー
テイシロ「わ…」フラ
トサッ...
レラ「ドクターストップ」
レラ「勝ち取れとは言ったさ。でもね、命を落としちゃ本末転倒だよ」
テイシロ「」グッタリ
テイシロ「」グッタリ
アッシュ「レラ様」
レラ「分かってる。今回は無効試合としておくよ。あたしはここで待ってるから、いつでも――」
アッシュ「そうではなく、足元が」
レラ「ん?」チラッ
アッシュ「場外、ですね」ニコッ
レラ「……」
レラ「なんだい、あたしの負けか」ククッ
リア「シロー!」テテテッ
リア「ねぇ…!聞こえるっ?私が誰だか分かる…!?」
テイシロ「……リア……」
リア「よかった…」ギュ
.........
レラ「」スッ
――ヒラ(宙空に現れる紙)
テイシロ「っと、と」パシッ
テイシロ「…地図?」
レラ「王都の一画さね」
レラ「印の付いた家がある。そこが、さっき水晶に映ってた場所だよ」グビッ
レラ「ぷはっ、運動後の酒は格別だねぇ!」
テイシロ「ここに行けば、僕の生まれが…」
レラ「今から行くもよし。一晩寝てから行くもよし。…行かないという選択肢もある」
レラ「後はテイ坊のしたいようにしな」
テイシロ「行きます」
レラ「ふっ」
ポスッ
レラ「まったく、無茶な坊やだよ。自分の身を省みずに魔力を酷使しようだなんて」
レラ「まさに捨て身ってやつかい!」ワシャワシャ
テイシロ「おぅ…おぉ…」ナデラレ
レラ「まぁ、心意気は伝わったよ」
レラ「あんた立派な男になれる」
テイシロ「…うん!」
リア「賢者様、ありがとうございます」
レラ「お礼を言われるようなことはしてないさ」
レラ「労いならテイ坊にかけておやり?その方が嬉しかろうよ」
リア「ふふ、そうですね」
リア「頑張ったね、シロー」ナデナデ
テイシロ「っ…ね、労いってこれかよ」
リア「嫌だった?」
テイシロ「嫌じゃないけど、同い年にいい子いい子って、なんかさ…」
リア「………シロー?」
リア「私ね、多分あなたより5つくらい歳上だと思うなぁ」ニコニコ
テイシロ「…え!?!?」
アッシュ「レラ様、私からもお礼を言わせてください」
レラ「よしてくれよ。お人好しばかりかいあんた達は」
レラ「用が済んだならお帰り。あたしは敗北の慰め酒をやらなくちゃならないんだからさ」グビッ
魔法使い「…いつか、その…」
魔法使い「魔法、教わりに来てもいいですか?」
レラ「…くふっ」
レラ「気が向いた時に来なよ」ニッ
勇者「……」
アッシュ「今度上質の酒を持って参ります。ではこれにて」
ゾロゾロゾロ
レラ「待った」
レラ「そこの、一番後ろのだけちょいと残りな」
勇者「…え」
勇者「俺っち!?」
レラ「んく、んく…」グビ、グビ...
勇者(こんなお姉さんに呼び止められるなんて、俺っちってもしかしてスーパーウルトラツイてる?)
勇者(何してくれるんかな。まさか、まさかまさかの…!?)
勇者「うへへ…」
レラ「酒、飲むかい?」
勇者「いえっ、お酒よりも既に貴女の美しさに酔ってますので」キリッ
レラ「くっは!あたしを口説く気かい!」
レラ「安くないよ?遊びならやめとくれ」
勇者「遊びなんてとんでもない!」
レラ「ま、それはいいさね」
勇者(流された…)
レラ「あんたを呼び止めたのは、簡単なことさ。悩みがあるんだろう?」
勇者「へ……大会のこと?」
勇者「それなら平気だぜ。もうとっくに解決したかんよ」
レラ「――どうしても思い出せないことがある」
勇者「!!」
レラ「差し詰めそんなところだろうね」
勇者「………」
ーーーーー
「――さいきょうの――」
ーーーーー
勇者(……)
レラ「特別サービスだよ。水晶玉をよーく見ておきな」
勇者「え…?」
勇者(水晶玉?綺麗だけどただそれだけ…)
勇者(!…なにか、映ってる…?)
ーーーーー
幼魔法使い「グスン…ヒック…」
幼勇者「魔法使いよーまた泣いてんのかー?」
幼魔法使い「だってぇ…かんたんな魔法もできなくて…」
幼勇者「めそめそしてんな!おれっちがいてやっから!」
幼魔法使い「…こんなだめなわたしでも、いてくれるの…?」
幼勇者「あたぼうよ!心配すな、おっきくなったらおれっちがお前のこと一生守ってやっからよ!」
幼魔法使い「…えへっ…うん…!」
幼魔法使い「勇者わたしね、いっつも楽しそうに闘技をしてる勇者がすき」
幼魔法使い「だれにも負けない、さいきょうの勇者がね、だいすき!」
幼勇者「へへっ、任しとけ!」
幼勇者「おれっちこそ、未来えーごーさいきょうの男だかんな!」
ーーーーー
勇者「………あ」
勇者(さいきょう………最、強………)
勇者「………そっか………」
レラ「……」グビッ
勇者(……………)
勇者「」ダッ!
ガチャッ バタン!
レラ「…ドアはもう少し静かに閉めて欲しかったかな」
レラ「若いって、いいねぇ」
レラ「……くふ」
レラ「頑張れ、英雄の息子よ」
グビッ...
ーーーーーーー
タッタッタッ!
リア「あ、戻ってきましたよ…!」
勇者「」タッタッ...
勇者「ふぅ…ふぅ…」
魔法使い「賢者様何ておっしゃってたの?というかなんであんたそんなに急いでんのよ」
勇者「アッシュ!いやアッシュ先生!」
アッシュ「…!」
勇者「お願いだ!大会までの残り時間目一杯、俺っちに稽古をつけてくれ!」
勇者「俺っち、勝ちたい!勝って勝ってそんで――」
勇者「最強になりてーんだ!」
魔法使い「勇者…?」
テイシロ(さっきまでとは、別人みたいな顔付きになってる)
アッシュ「小手先の技しか身につかないかもしれませんよ?」
勇者「それでもいい!強くなんならなんでもするさ!」
アッシュ「……分かりました」
アッシュ「生半可な修行では優勝など到底無理です。弱音吐いて逃げ出さないようにしてくださいね」ニコッ
ーーー翌日 宿近く 無人の野原ーーー
勇者「……」(ジッと黙祷)
勇者「……」
アッシュ「エントリー済ませて参りましたよ」ザッザッ
アッシュ「どうですか?少しずつ分かるようになってきましたか?」
勇者「…アッシュ先生、確か俺っちに稽古をつけてくれるんだよな」
アッシュ「えぇ」
勇者「これは、なんなんでしょうか」
アッシュ「礼儀を知る修行です。これも歴としたお稽古ですよ」
アッシュ「勇者様は少々お相手に対する敬意を忘れがちですからね」
勇者「んなこと言われたって、敬意なんてどう意識しろってんだ…」
アッシュ「だからこその修行です。これを機に他者を敬う気持ちを覚えましょう」ニコッ
アッシュ「礼儀を知ることで、より相手が鮮明に見えてくるのですよ」
勇者「…頑張ります」
魔法使い「ここにいたのね」
魔法使い「アッシュさん、私たち賢者様が教えてくれた場所に行ってくるわ」
アッシュ「テイシロ様の、ですね?」
魔法使い「そう」
アッシュ「どうぞお気を付けて。我々はここにおりますので何かあればいらしてください」
勇者「……」ジッ
魔法使い「……」
魔法使い「ん、分かった」
ーーー王都 郊外ーーー
魔法使い「地図だとこの辺のはずよね」テクテク
リア「似たお家が多いので注意しないといけませんね…」テクテク
テイシロ「……」
リア「シロー?」
テイシロ「あ、ごめん」タッタッ
魔法使い「……怖い?」
テイシロ「…怖くない」
テイシロ「って言ったら嘘だけど、それで怖気付いちゃうくらいならここまで来てないよ」
魔法使い「もっともね」
リア「魔法使いさん、ここじゃないですか?」
(一戸の民家)
魔法使い「間違いなさそうね。周りもこの地図通り」
テイシロ「……」
コンコン
魔法使い「ごめんください」
テイシロ「………」
リア「大丈夫」
テイシロ「うん…」
カチャ...
初老の女性「…どちら様?」
魔法使い「いきなりごめんなさい。どうしてもお聞きしたいことがあって来ました」
魔法使い「テイシロ、という男の子を知ってますか?」
初老の女性「テイシロ?いいえ、知らないわ」
魔法使い「この子が貰った名前です」
魔法使い「この子、小さい頃からずっと孤児院で育ってきたらしいんです。自分を産んでくれたお母さんの名前も知らずに。それでご両親のことを探して旅をしている最中なんです」
初老の女性「孤児院…?」
テイシロ「……っ」
初老の女性「!」
初老の女性「あなた、もう少しお顔を上げてくれるかしら…?」
テイシロ「ん」
初老の女性「……その孤児院には、恰幅のいい神父さんが居て、花の綺麗な丘があった?」
テイシロ「!…はい」
初老の女性「そう、やっぱり…」
初老の女性「ここじゃなんだから、上がっておゆきなさい」
ーーーーーーー
勇者「……」ジッ
アッシュ「……」
勇者「……」ジッ...
アッシュ「……」
勇者「………んあー!」
アッシュ「勇者様」
勇者「これ本当に意味あるんか!?座って考え事してるだけじゃ!?」
アッシュ「強くなりたいのでしょう?」
勇者「そうだけど…!」
アッシュ「とはいえ、無理強いはしません」
アッシュ「勇者様が無駄と感じられるのでしたら、体術か剣術の鍛錬に移ってもよろしいですよ」
勇者「……」
勇者「いや、やる」
勇者「俺っちが強くなるために必要なんだよな?だったらやる」
アッシュ「…ふふ、合格です。では体術の鍛錬から行いましょうか」
勇者「はい?」
アッシュ「試すような真似をしてしまい申し訳ありません」
アッシュ「今、貴方は私を信じ、託してくれましたね。自らだけでなく相手も思考に組み込む。それが礼儀の原点と言えるでしょう」
アッシュ「そのお気持ち、お忘れなきよう」ニコッ
勇者(こ、こんなんでよかったのか…?)
アッシュ「さぁ何してるのです?早く始めますよ。時間は極めて少ないのですから」
勇者「…おう!」
ーーーーーーー
初老の女性「粗茶くらいしか出せなくてごめんね」
魔法使い「いえ」
初老の女性「よっこいしょ。…どこから話したものかしらね」
テイシロ「……」
初老の女性「結論から言うと、あなたの父親は生きているし、母親はどこに居るかも分からないの」
リア「お父様は生きているんですね…!」
初老の女性「けど、あなたのことは知らない」
テイシロ「え…」
初老の女性「10年以上前のことよ」
初老の女性「あなたの母親はとある貴族の男性と恋をしたの。平民の女が貴族の殿方と許可無く交際することは禁じられてる上に、相手は婚約も決まっている身でね。それでも二人は強く惹かれ合って、何度も逢瀬を重ねたんだって」
初老の女性「でも、貴族様の行動を怪しんだ婚約者に見つかってしまい一転、彼女は追われる身となった。そうして逃げる折、私のところに転がり込んで来たのよ」
魔法使い「お知り合いだったんですよね?」
初老の女性「そうね。昔からの付き合いだった。けど私が事情を知ったのはその時が初めてで……あれだけ泣きじゃくって謝る姿を見るのも初めてだったわ」
リア「ご友人も危険に晒してしまうから…」
初老の女性「それもあったかもしれないねぇ」
初老の女性「彼女は、自分が抱えた赤ちゃんに謝っていたのよ」
テイシロ「――っ」
魔法使い「それが…」
初老の女性「……」コクリ
初老の女性「聞けば一人でお産をしたっていうじゃないの。誰にも知られるわけにいかないからって」
初老の女性「そして彼女はこう言った」
ーーーーー
「お願い…!この子を西国の孤児院へ預けて欲しいの…!私といるとこの先絶対に幸せにはなれないから…」
「ごめん、ごめんね…!身勝手な母でごめんねっ…!」
ーーーーー
初老の女性「その際、誰の子かを一切伏せて…とね」
初老の女性「だからあなたのことを知っているのは、あなたの母親と私だけ。父である貴族様も知らない」
テイシロ「……」
初老の女性「その綺麗な白い髪は、母方譲りなのよ」
初老の女性「彼女が今どこに居るのか、逃げ続けているのかそれとも……あれから連絡はないわ」
リア「…貴族様にお会いするのは…」
初老の女性「やめた方がいい。ただじゃ済まないよ」
魔法使い「ですよね…」
初老の女性「あなたはあなたで、幸せになる道を見つけてあげなさいな」
テイシロ「……はい」
初老の女性「それにしても、今はそうすると…12歳!」
初老の女性「とっても大きくなったわねぇ」ニコ...
ーーー帰り道ーーー
テイシロ「……」
リア「……」ソワ...
魔法使い「……」
リア(シロー…)
リア(ちゃんと事実を知ることが出来たのに、分かったのはシローがひとりぼっちになっちゃうってことだけ…)
リア「……」グッ..,
テイシロ「よし、決めたっ」
魔法使い・リア「「!」」
テイシロ「僕、大きくなって、誰かを守れるくらい強くなったら母さんを探しに行く」
テイシロ「大切な人を守れるんだぞって、母さんを安心させに行くんだ!」
魔法使い「きっと喜んでくれるわよ」
テイシロ「僕になんて名付けようとしたのかも聞きたいしな」ヘヘッ
テイシロ「魔法使いさん、リア、ここまでしてくれて本当にありがとう。自分の生まれを知れたこと、僕後悔してないから」
リア「…うん!どういたしまして」
テイシロ「神父様が心配してるだろうから、明日には帰ろうと思う」
テイシロ「だからさ、その……」
テイシロ「…リア!」
リア「ん?」
(着ていたローブを脱ぐ)
テイシロ「これ!預かっててくれ!」
テイシロ「僕が強くなって……守れるようになったら、取りに来るから」
リア「え、え…?でも、これ神父さんからもらったものじゃないの…?」
テイシロ「い、いいんだ!僕なりの決意だから!」
魔法使い(まあ…大胆ね。これ、ほとんど告白じゃないの)フフ
リア「……分かった」
リア「待ってるね」ニコリ
ーーー宿ーーー
魔法使い「もう真っ暗…思ったより遠かったのね」
...グゥ
テイシロ「……//」
リア「お腹、空いちゃったね」
テイシロ「うぅ…」
魔法使い「ふふっ、夕食にしましょうか」
魔法使い(アッシュさんと勇者がまだいないけど)
魔法使い(……)
魔法使い(稽古、なのよね)
ーーー特訓2日目 大会まであと13日ーーー
勇者「」ヒュッ、ビュオ
アッシュ「まだまだ遅いです!余計な場所に目を向けない!」
アッシュ「速く速く!」
勇者「せあっ!!」ギュン!
アッシュ「そうです!」
...ザッザッ
テイシロ「…す、すごい」
勇者「」ダダンッ
テイシロ(僕もあれくらい強くなれるかな)
テイシロ「あのさ、取り込み中に悪い。僕これから西国に帰るよ」
アッシュ「お一人で平気ですか?」
テイシロ「うん。賢者様のこと、感謝してる」
アッシュ「はいお元気で。またどこかでお会いしましょう」ニコッ
アッシュ「ほらまた!目線が泳いでますよ!」
ーーー特訓4日目 大会まであと11日ーーー
アッシュ「――よし、いいでしょう。5分間の休憩にします」
勇者「ゼェ……ゼェ……」
勇者「5分…ゼェ…せめて、10で……!」
アッシュ「なりません」
アッシュ「休憩後はまた剣術です。勇者様の強みである体術と剣。どちらも満遍なく伸ばしていきましょう」
勇者「ひーっ…りょーかい…」
勇者「こりゃ…ハァ、ぜってー優勝して…美女ちゃんに癒してもらわんと…!」
アッシュ「おや、当てがあるのですか?」
勇者「賞品だよ賞品、大会のさ」
アッシュ「そのようなものはありませんが」
勇者「………なぬぃっ!?」
.........
ーーー特訓9日目 大会まであと6日ーーー
レラ「や。来ちゃった」
アッシュ「レラ様。貴女様が外へ出られるとは些か珍しいですね」
レラ「人を引き籠もり扱いしないで頂戴な」
レラ「んー?」
勇者「」ヒュッヒュッ!
ズアッ!
レラ「ほぉ。意外と様になってるじゃないか」
アッシュ「やはり驚異的なのです、彼の伸びは。たった数日でここまでものにしてしまうのですから」
レラ「……」ニィ
ザッザッザッ
レラ「元気そうね、坊や」
勇者「あっ、賢者のお姉さん!」
レラ「えらい量の汗だ。ちゃんと風呂は入りなよ?」
勇者「水浴びときゃ平気さ。ちっと汗くさい方が男っぽかったりしねーか?」ハハッ
レラ「くふ、嫌いじゃないさね」
レラ「なぁあたしと手合わせしてみないかい?」
勇者「お姉さんと?」
アッシュ「いいかもしれませんね。レラ様は私よりも剣の腕は上。姫騎士様と戦うことを考えれば願ってもない申し出です」
勇者「だけどよ、俺っちあんな魔法使われたら対処できっかどうか…」
レラ「魔法は使わない。正々堂々剣だけの交わし合いさ」
レラ「アシュ坊、それ借りるよ」
アッシュ「どうぞ」(木剣を渡す)
勇者「ま、マジすか」
レラ「どれどれ」ザッ
タユン
勇者(やべ、集中できっかな…)チラ
レラ「よそ見してたら伸しちまうよ?」スッ
勇者「!」
ガン!
勇者(重っ!今の動きからこの衝撃っ!?)
勇者(俺っちだって…!)
勇者「」ヒュッ
レラ「ほれ」ガンッ
勇者「ふっ!」ヒュンッ
レラ「ここ」ガンッ
勇者(もらった!)
ギュン――
レラ「」クルン
勇者(!?)
バシィ!
勇者「ぎゃっ!」
レラ「はい一本」
アッシュ「剣も変わらず、衰えていませんね」
勇者「っつー…なんだよ今の」
レラ「なかなか華麗だったろう」
勇者「どんな腕の使い方してんだ…」
勇者(…けど、見えない動きじゃなかった)
勇者「お姉さんもっかい頼む!」
レラ「くふっ、次は受け止めてくれよ?」
.........
ザンッ!
勇者「ぐはっ」
ドサッ
勇者「うぅ…ちくしょー…」
レラ「そろそろ一息入れようかね」
勇者「問題ねー!俺っちまだまだやれんさ!」
レラ「あたしが休みたいのよ」
レラ「ねぇ、水持ってきて頂戴」
アッシュ「はい、ただいま」
タッタッタッ...
勇者「水ぅ…助かる…!」
勇者「でもさ、お姉さんなら魔法で水くらい出せんじゃないの?」
レラ「!」
レラ「くくっ、鋭いね」
レラ「坊やお伽噺は好きかい?」
勇者「おとぎ話?」
レラ「そうさ」
レラ「昔々、とある国に一人のお姫様がいました」
レラ「小さな国のお姫様は王様にとても愛されて育ち、お姫様もまた、そんな王様のことが大好きでした」
レラ「ある日王様はお姫様の"力"に気付きました。その"力"は人々の胸を打ち、国に幸福をもたらす特別なもの」
レラ「そうしてお姫様の"力"で、国はみるみるうちに大きくなっていきました」
レラ「今日も王様はお姫様を頼りに、お姫様は大好きな王様の求めに応えるため"力"を使い続けます」
レラ「めでたしめでたし」
勇者「え、終わり?」
レラ「終わり」
勇者「なんてーか…雑っ」
勇者「まさかお姉さんのことだったり」
レラ「それこそまさかだよ」
勇者「ふーん…」
勇者「なんか楽しくなさそうだな、そのお姫様」
レラ「……」
勇者「あー、まぁ、本人たちが幸せならそれでいいんかなー」
レラ「フッ、そうさね」
勇者「お姉さんは大会出ないん?」
レラ「あたしは出ないよ」
勇者(軽く優勝しちゃいそうなのになぁ)
勇者(ぶっちゃけ勝てる気がしない。…今はまだ)
レラ「出たくても出れないしね」
勇者「?」
アッシュ「お待たせ致しました」
勇者「おっ!サンキュ先生!」
勇者「んく、んくっ」
アッシュ「飲み過ぎてお腹を重くしないように」
レラ「じゃ、それ飲んだら再開だ」
ーーー夕方ーーー
魔法使い「アッシュさんお疲れ様。これ、差し入れ持ってきたの」
アッシュ「これはこれは。わざわざありがとうございます」
勇者「ぐー……すー……」
魔法使い「寝てる…」
アッシュ「仮眠中なのです。今日は特に激しいメニューでしたから」
勇者「ぐがー……」
魔法使い「何も土の上で寝ることないのにね」
魔法使い「どうなんですか、勇者は。強くなってます?」
アッシュ「驚くべき速度で成長しています。1教えれば3か4程を出来るようになるのです」
アッシュ「大会の優勝もいよいよ現実味を帯びて参りましたよ」
魔法使い「…そうなんだ」
勇者「むにゃむにゃ……」
魔法使い「………」
ーーー特訓14日目 大会前日ーーー
勇者「」スササッ
クルッ ブォン!
アッシュ「お見事です」
勇者「ふ~。お姉さんの技、使ってみると結構おもしれーなー」
アッシュ「技に頼り過ぎないようにするのですよ」
勇者「オーケーオーケー。心得てるぜ先生」
アッシュ「よいでしょう」
アッシュ「さて、これにてお稽古は終了に致します。もう前日ですからね、怪我や疲れを残さないよう過ごすのが最後の鍛錬です」
勇者「…いいんか?俺っち、これで勝てる?」
アッシュ「勝てます」
アッシュ「と言いたいところですが、それは貴方次第ですね」
アッシュ「勝つと思えば勝てるかもしれません。負けると思えば負けてしまうでしょう」
勇者「………」
勇者「負けるわけないっしょ!俺っち、最強なんだかんさ!」
アッシュ「では、勝つしかありませんね」
勇者「だからもうちっとだけ自主練してく」
アッシュ「無理は禁物ですよ」
勇者「うぃっす」
アッシュ(…久々に、あそこへ行ってみましょうか)
ーーー小さな池のほとりーーー
アッシュ「……」
アッシュ(変わってしまいましたね、ここは)
アッシュ(あの頃はもっと広く見えたものです)
アッシュ「…いえ、変わったのは私の方ですか」フッ
...ザッザッ
侍女「……」
アッシュ「…!」
アッシュ「懐かしいですね。貴女とここに居ると、昔を思い出しますよ」
侍女「…何故戻ってきたのです?」
侍女「言ったはずです。貴方では姫騎士様を救えないと」
アッシュ「旅先で捕らえた盗人を届けにきただけですよ」
侍女「受付所で貴方の姿を見たという者がいます」
アッシュ「そのついでに、英雄を育てていました」
侍女「英雄…?」
アッシュ「えぇ。最強の、ね」
侍女「……っ」
侍女「それが姫騎士様を救うと?」
アッシュ「さて。彼はただ、勝ちたいだけのようですから」
アッシュ「結果として救われる者なら、いるかもしれませんがね」ニコッ
侍女「貴方は……そこまで愚かだったのですか」
侍女「生半可な手出しでは傷を負うだけです。その者も、姫騎士様も」
侍女「手を引きなさい」
アッシュ「引きませんよ」
侍女「……」
アッシュ「……」
侍女「…姫騎士様は、この国の英雄です」
侍女「かつて小さく発言権もなかったこの国を、闘技の実力だけでここまで押し上げたお方」
侍女「民衆と、何より国王様の多大なご期待を背負って日々必勝の闘技に明け暮れる…」
侍女「…何故、こうなってしまったのですか…」
アッシュ「……」
侍女「彼女に剣の才能があったから…?彼女が国王様のことを誰より好いているから…?」
侍女「今の姫騎士様は国によって作り上げられた偶像であるというのに、当のご自身が、それを受け入れ続けている…」
侍女「私はもうあのお姿を見ているのが辛い……この手で助け出すことが出来ないのが、悔しい…!」グッ...
アッシュ「………」
アッシュ「子供の頃、この池の周りで三人、よく遊んでいました」
ーーーーー
「姫ちゃん!向こうにきれいなお花があったよ!」
「ほんとか!アッシュー!見に行くぞー!」
「今行くー」
ーーーーー
アッシュ「姫騎士様は誰より、花が好きでしたね」
アッシュ「そしてそれを知る国民は一人もいないのでしょう」
侍女「……」
アッシュ「催事で娯楽街へ繰り出した時は、密かに遊技場を見学に行く計画も立てましたね。結局頓挫してしまいましたが」フフ
侍女「………」
アッシュ「私は彼を信じています。彼の強さを知っています」
アッシュ「明日の優勝者はきっと、前大会と違う方になる」
ーーー夜 宿 アッシュの部屋ーーー
アッシュ(正直なところを言えば、確率はまだ五分よりも低い)
アッシュ(ですが私に出来ることはやりました)
アッシュ(後は任せましたよ)
アッシュ(勇者様)
ーーー魔法使いの部屋ーーー
魔法使い「そっか、明日なんだ」
魔法使い(勇者のあのやる気。多分賢者様と二人で居た時に何かがあった)
魔法使い(気になるけど、結局今日まで訊けなかったわ…)
魔法使い「…明日教えてくれるかしら」
ーーーーー
勇者「最強になりてーんだ!」
ーーーーー
魔法使い「……ふふ」
ーーー勇者の部屋ーーー
勇者「もう寝なきゃなんねー時間か」
勇者(剣と体術…あとちょっとでなんか掴めそうなんだよなー)
勇者(先生に体調管理も強さのうちって言われちったかんな…)
勇者「…ま、何とかなんさ!」
ーーーーー
幼魔法使い「さいきょうの勇者がね、だいすき!」
ーーーーー
勇者(ぜってー勝って、ぜってー見せつけてやる)
勇者「へへっ、待ってろよ最強」
ーーー城 侍女の寝室ーーー
侍女「………」
侍女「………」
侍女「………」
侍女(……また戻ってきてよ……)
侍女(姫ちゃん……)
ーーー姫騎士の寝室ーーー
姫騎士「む?」
(萎れかけの生け花)
姫騎士「しまった、水を替えていなかったか」
スッ...ザー
キュ、キュ
チャプン
姫騎士「これでいい」
姫騎士「明日になる前に気付けてよかった。優勝者褒賞まで帰れないからな」
姫騎士(………)
姫騎士「そう、いつもと同じだ」
姫騎士「勝てばいい」
姫騎士(お父様の望むように)
姫騎士「ただ、勝てばいい」
5章はここまでとなります。
言及されなかったレラの過去はどこかで触れたい…と思ってはいます(出来なかったらごめんなさい)。
6章では闘技大会が行われます。
そこで、大会に登場する一部のキャラを四人ほど、安価とコンマで決めたいと思います。
安価で6つの候補を出してもらい、その候補からコンマによって四人決定させます。
安価は以下の形式でお願いします。
キャラ名:(役柄や容姿など)
性別:(男か女)
年齢:(5~100の間)
得意戦型:(剣術、体術、魔法のうちのいずれか。複数可)
備考・希望:(そのキャラの過去や、こうしてほしいなどがあれば)
※それぞれのキャラに大きく尺を割けないため、サクッと扱われる可能性もありますがご了承ください。
あまりにも無茶あるいは意味が読み取れないもの、また、連投は再安価とします。
候補 >>265~>>270
キャラ名アニキンドリス(美術家) スキンヘッドで筋肉ムキムキの男 褌一丁で戦う
性別男
年齢30
得意戦型体術
備考・希望:実はそれなりに名の通った戦う芸術家 作品のインスピレーションを求めるために戦う
キャラ名:ジンガ(鋭い目付きをした悪人面、長身の細マッチョ。ボサボサの黒髪、褐色の肌など。ごろつき風の男。)
性別:男
年齢:35
得意戦型:剣術と魔法
備考・希望:
幻術を得意とする身のこなしが軽い魔法戦士。装備は数打ちの長剣や投げナイフ、急所を守る程度の防具、ボロボロのマントなど。
みすぼらしい姿をしたごろつきのように装っているが、その正体は他国からの間者であり強者達の情報を集め場合によっては引き抜く任務を帯びている者の一人である。
闘技大会では使わないが、本来は猛毒や暗器などを用い手段を選ばず戦う。
候補6人が出そろったので、まず二人を>>272と>>273のコンマで決めます。
被った場合はその一人をまずは採用します。
00~15:アニキンドリス
16~31:ミント
32~47:ナタリー
48~63:ダグ・ミグ
64~79:ラッキー
80~96:ジンガ
97~99:再安価
あ
はい
コンマ46と63で、
名前 ナタリー(魔法剣士
緑色のショートの髪をしている)
性別 女性
年齢 20
得意戦型 魔法と剣術
備考・希望 炎の魔翌力を宿した剣と氷の魔翌力を宿した剣の二刀流で戦う
性格はおっとりのんびりやだが、戦いのときは若干ハイテンション
キャラ名:ダグ・ミグ 細身なノッポ。モブっぽい
性別:男
年齢:39
得意:拳法(普段はナイフ投擲で遠距離型と相手に誤認させ、近距離なら弱いと思い込んだ相手に強力な打撃を与える)
備考:普段は武器屋のオヤジだが正体は盗賊団首領。武器屋に訪れた相手の強さや交遊関係を探り、勝ち目が薄いと感じると相手の身内や恋人を手下に拐わせ人質にする卑劣漢。拐った相手が女なら最初に自分が強姦し、後は手下に与え徹底的に輪姦させる外道。
※自分が負けたらお前の女はこうなるぞ
と脅す感じで
の2名は決定です。
はい
の
コンマ28と90で、
キャラ名:ミント (格闘家 ピンク髪にポニーテール、モデル体型でへそが出ている服を着ていて革手袋をはめている) ?性別:女 ?年齢:19 ?得意戦術:体型と魔法 ?備考・希望:明るい性格。貴族の娘で貴族の生活が嫌になり家を出て旅をしている。。火、水、土、光、闇の魔法が使えて身体能力も高い。手や足に魔法を纏って戦うことができる。実はアッシュの隠れファンでもある。
キャラ名:ジンガ(鋭い目付きをした悪人面、長身の細マッチョ。ボサボサの黒髪、褐色の肌など。ごろつき風の男。) ?性別:男 ?年齢:35 ?得意戦型:剣術と魔法 ?備考・希望: ?幻術を得意とする身のこなしが軽い魔法戦士。装備は数打ちの長剣や投げナイフ、急所を守る程度の防具、ボロボロのマントなど。 ?みすぼらしい姿をしたごろつきのように装っているが、その正体は他国からの間者であり強者達の情報を集め場合によっては引き抜く任務を帯びている者の一人である。 ?闘技大会では使わないが、本来は猛毒や暗器などを用い手段を選ばず戦う。
が決定です。
6章は3回に分けて投下します。
次回の投下はまた後日となります。
6章1/3、投下します。
ーーー翌朝 闘技大会会場ーーー
アッシュ「ここ王都で開催される闘技大会には予選と本選がございます」
アッシュ「午前はまず予選です。予選は32あるブロックの中でそれぞれ総当たり戦を行い、最も戦績の良い者のみが本選へ進むことが出来ます」
アッシュ「午後に入れば本選です。予選で選び抜かれた32名が勝ち抜き形式で戦うことになります。つまり本選で5回勝利すれば優勝というわけですね」
アッシュ「あちらに大きな闘技場が二つ見えますが、第1から16ブロックの方々は左、17から32ブロックの方々は右の会場で本選を進めていくのです。決勝はどちらかで行われるので、観客が集中し、いつもパンクしてしまうのですがね」
アッシュ「ちなみに予選の方はあちらこちらに用意された屋内の闘技場で行いますよ」
勇者「へぇー。で、俺っちはどこなん?」
アッシュ「勇者様は第9ブロックですので、そちらから行くと近いですね」
魔法使い「こんなにたくさん出場者がいるのね…」ミマワシ
魔法使い「これで総当たり戦なんかやってたら終わらないんじゃないの?」
アッシュ「いえ、ブロック内で1位の方が確定した時点でそのブロックの予選は終わりですからね。最初の数試合で勝利数の多い者を優先的に戦わせていくので、全勝してしまえば手早く簡単に本選へ行けますよ」
リア「でも…それって休みなく戦うってことですよね…?すごく疲れそうです…」
アッシュ「えぇ。今大会は一つのブロックに少なくとも20人は居ますから、それだけの連戦となれば普通は疲労困憊となってもおかしくありません」
勇者「へーきだよ。体調は万全だし、即行決めればいいだけっしょ!」
アッシュ「…おっしゃる通りです」フフッ
アッシュ「今の勇者様ならそう難しいことでもないでしょう」
魔法使い(………)
魔法使い「…あのさ、勇者――」
アナウンス『間もなく予選を開始します。出場者は各自自分のブロックの会場で待機していてください』
勇者「おー。お呼び出しってか?」
勇者「うし、じゃあ俺っち行ってくるわ」
アッシュ「出場者以外は闘技が始まってからでないと入れないので、私達は後ほど向かいますね」
勇者「そん頃にゃ終わってっかもなー!なはは!」
タッタッタッ...
リア「勇者さん、元気になってよかったです」
アッシュ「彼の中で何か思うことがあったのでしょう」
魔法使い「……」
リア「勇者さんがああなったの…賢者様に呼ばれてた後でしたよね?アッシュさん、何があったか聞いてます?」
魔法使い「!」
アッシュ「いいえ。恐らく質問したとしても我々には教えてくれないでしょう」
アッシュ(一人を除いては)
リア「そうなんですか…?」
魔法使い「………」
桃色ポニテ「あー!アッシュ様!?」
アッシュ「?」
桃色ポニテ「やっぱりアッシュ様だ!こんなとこで会えるなんて感激ですー!」ズイッ
アッシュ「あ、貴女は…?」
桃色ポニテ「私ミントって言います!今年で19になるピチピチの女の子です!今はしがない旅の格闘家をやらせてもらってまーす♪」(以降、ミント)
魔法使い(なにこのあざとさ全開オーラは)
アッシュ「そうでしたか」ニコッ
魔法使い(そしてさすがの社交辞令ね…)
ミント「アッシュ様が執事を辞めてこの国を出られたと聞いて、私すごく落ち込んでたんです…3日も寝込んじゃいましたよぉ…」ウルウル
ミント「でもでも、こうしてここで会えたのって私たちきっと運命みたいなものがあるんですね!」
アッシュ「そ、そうかもしれませんね…」
ミント「アッシュ様も大会に出られるんですか?」
アッシュ「私は観戦だけですよ」
ミント「なんだ残念です…せっかくアッシュ様の凛々しいお姿が見れると思ったのに」
ミント「じゃあじゃあ、私が頑張るところ見ててくださいね!15ブロックでやってますので!」
ミント「あ、いけない!もう行かなきゃ!」
ミント「アッシュ様また後でー!」
ピューン
魔法使い「……嵐のような人だったわね」
リア「踊り子さんみたいな格好してました…」
アッシュ「えぇ」
魔法使い「初対面なのよね?」
アッシュ「記憶の限りでは。彼女は私をご存知のようでしたが」
アッシュ「旅の格闘家ですか…聞いたことないですね」
リア「アッシュさん、魔法使いさん、そろそろ予選が始まるみたいですよ…!」
アッシュ「行きましょうか」
ーーー予選会場ーーー
勇者「」ヒュン
「ぐ…」
勇者「よっ」
ガキン!
「うあ…!」
勇者「」ビシッ
勇者「まだ続ける?」
「…降参します」
審判「勝者、勇者!」
勇者「ありがとーございました!ってな」ヘヘッ
アッシュ「言うことなしですね。教えたこともしっかりと実践出来ているようです」
魔法使い「えーと、これであいつは9勝目?」
アッシュ「10戦10勝、今のところ無敗です」
アッシュ「ここで負けてしまうようでは困りますけどね」
審判「次の闘技も続けてもらって構いませんか?」
勇者「いいっすよ!ウェルカムウェルカム」
審判「それでは38試合目、――」
魔法使い「……」ジー
リア「…勇者さん、かっこいいですね」
魔法使い「そうね」
侍女「………」
.........
ーーーーーーー
姫騎士「はっ!」ビュンッ
バキッ
「ひっ!?ま、参りましたぁ!」
審判「勝者、姫騎士!」
オオオォ…!
「相手の木剣折っちまったぜ」
「はぇーなー、これで第1ブロックの予選終わりだろ?他はまだまだやってんのに」
「ばっか当然でしょ。なんたって姫騎士様がいらっしゃるんだから」
「剣を振る姿、いつ見ても神々しいですな…!」
姫騎士「対戦感謝する。いい闘技だった」
第1ブロック本選進出者 姫騎士
ーーーーーーー
「ぐぁ…!」ズサ...
審判「場外!」
審判「勝者、ジンガ!」
ジンガ「……」
「なんだあの男…」
「おっかねぇ顔してんな。あの格好も…どっかの賊かなんかか?」
「賞金目当てに律儀に予選から参加してるって?賊の野郎が?そりゃ傑作だ!ははは!」
ジンガ「……」ジロッ
「馬鹿っ、聞こえるって…!」
「むぐぐ…」
ジンガ「……ふん」
ジンガ(強者共が集まると聞いて来てみたが、見かけるのは雑魚ばかり。めぼしい奴は居ないな。所詮は元弱小国家か)
ジンガ(やはり、国の英雄と謳われる彼女しか…)
第2ブロック本選進出者 ジンガ
ーーーーーーー
審判「勝者、勇者!」
勇者「しゃあ!これで全勝!」
リア「やった!」
アッシュ「全ての試合を最短で終わらせる…まさに最善手と言えますね。本選では特に体力勝者になることが多いですから」
魔法使い「…あいつ、あんなに真面目に闘技出来たのね」
アッシュ「礼儀を知りましたからね」
魔法使い「礼儀?」
「ねーあの人すっごく強くなかった?」
「うん、私も見てた!格好良かったわねぇ…どこの人なのかしら」
魔法使い(……)
魔法使い「もう勇者のブロックでは試合ないのよね?だったらさっさとあいつ連れ戻しに行きましょ」スタスタ
リア「は、速いです魔法使いさん…!」テテテッ
第9ブロック本選進出者 勇者
ーーーーーーー
ピキピキ
ボオォ!
緑色ショート「ねぇ逃げ回ってたら終わらないよぉ?氷漬けか丸焼きどっちがお好みかな?あはは!」
「や、やべぇよこの女…!」タタタッ
「審判、降参!降参だ!早くあの女を止めてくれ!」
審判「勝者、ナタリー!」
審判「さぁ勝負はつきました。もう攻撃してはなりませんよ」
緑色ショート(以降、ナタリー)「えー、おしまい?」
ナタリー「そうですかぁ」
ナタリー「…もう帰る時間ー?」ポケー
審判「いえいえ、あなたには午後の本選がありますから」
第10ブロック本選進出者 ナタリー
ーーーーーーーー
グローバ「ふぬっ!」
「ぐぼぉ!?」
「あ……ぁ……」
ドサッ
審判「…気絶」
審判「勝者、グローバ!」
「おい見たか?あのおっさんの闘技。女相手にしてる時、異様に体触りまくってたぜ」
「見てた見てた。羨ま…じゃなくて反則になったりしないのかね?」
「はー、俺もあれだけ強かったら合法的にお触りできんのかなー」
グローバ「悪いな若造。落とすつもりはなかったんだが勢い余っちまったぜ」
グローバ「男に興味ねえもんだからよ!がはは!」
第14ブロック本選進出者 グローバ
ーーーーーーー
ミント「"火球"」ボッ
「っ」サッ
ミント「"引潮"」ザー!
「わっ!」ヨロ...
ミント「"魔手"!」グォー
ガシッ
「しまった!」
ミント「さ、捕まえたよー!これでとどめといっちゃいましょー!」
「…ここで終わるわけには!」
ブチッ!
ミント「すっごい馬鹿力!?」
ミント「でも逃さないから!"閃光"」カッ
「くぅ…!」
ミント「」スタタッ
ミント「最後は、土の力で吹っ飛んじゃえ!」
ドスン!
「ぐふ…」
審判「場外」
審判「勝者、ミント!」
ミント「名付けて大地のパンチ!えっへへー」
「派手な戦い方だなぁ」
「あの服を見るに、元々曲芸士なのではないか?」
「でも実力はあるみたいだ」
ミント(アッシュ様見ててくれたかな~♪)
第15ブロック本選進出者 ミント
ーーーーーーー
「く…そぉ……」ガクッ
審判「…うむ、気絶だな」
審判「勝者、ダグ!」
ダグ「へへぇ、どうもどうも」
「ほぉ、あれ武器屋の主人だよねぇ?あの人あんなに強かったんだ」
「びっくりです……木剣をあんな風に使うの初めて見ましたよ」
「いいぞー武器屋!そのまま優勝したら俺の年収分買い物してってやらー!」
ダグ「どうぞご贔屓に!うちの武器を使えばこのような芸当は朝飯前になりますぞ!」
「よく言った!」
「今度あんたんとこに発注かけようかねぇ」
ダグ「……」ニヤ
第25ブロック本選進出者 ダグ
ーーー正午 本選会場前ーーー
ガヤガヤ
勇者「人しかいねー。どいつもこいつも考えることは同じかよ」
魔法使い「勇者、まだ本選始まるまで時間あるんだからお昼の後でもいいんじゃない…?」
勇者「いーや、今見ておきてーの。どんな奴とあたるか分かればもしかしたら対策できっかもしんないじゃん。魔法使いも前に言ってたことだぜ」
魔法使い「そうだけど」
アッシュ「しかしこの人集りでは少々手間ですね」
ドン
リア「あっ…!」グラ
魔法使い「危ないっ」ガシッ
リア「ご、ごめんなさい…」
魔法使い「大丈夫?」
リア「はい…」
魔法使い「もう、ぶつかったなら謝っていきなさいよね」
ミント「アッシュ様発見!」
ミント「ねね、私の戦うところ見てくれましたっ?みんな綺麗に倒しちゃうとこ!」ズズイ
アッシュ「い、いえ…私はこの者の付き添いで来ただけですので…」
ミント「ん!?」
勇者「へ?」
ミント「んーー…」ジー...
ミント「あんた名前は?」
勇者「勇者」
ミント「勇者くん!絶対あんたに勝ってアッシュ様の視線独り占めにしてやるから!」
勇者「おう…?」
ミント「それでそれでアッシュ様はここで何をしていたんですか?」
アッシュ「本選の対戦表を見に来たのですが、ご覧の通り立ち往生を余儀なくされていましてね」
ミント「そういうことでしたら私に任せてください♪」
魔法使い「ちょっと、まさか力尽くでどかす気じゃ…」
ミント「そんな野蛮なことしませんー」
ミント「…ね、そこのお兄さん?」
「あん?」
ミント「私、どうしてもそこ通りたくって…」
ミント「すこーしだけ、道開けてくれませんかぁ?」ギュ
「し、しょうがねぇな…ほれ」
ミント「ありがと♪」
ミント「行きましょ、アッシュ様」
アッシュ「…はい」
(人をかき分け前へ)
アッシュ「ありました。勇者様見えますか?」
勇者「どれどれ…」
魔法使い(第1ブロック、姫騎士。この国の人に言わせれば当然なんでしょうね)
魔法使い(で、勇者は……)
魔法使い「……え」
アッシュ「順当に行けば準決勝で姫騎士様とあたりますね。ですがその前に」
魔法使い「…14ブロック、グローバ…」
アッシュ「準々でバーランド卿ですか」
勇者「………」
魔法使い「勇者…」
勇者「任せろって!」
勇者「あんだけ先生に稽古つけてもらったんだ。この間の俺っちとは一味も二味も違うってこと、思い知らせてやんぜ」
勇者「他にやば強い奴はいないんか?」
アッシュ「はい。後は知らない名前ばかりですね」
勇者「ならその二人蹴散らせば優勝ってことか!目標がクリアになってよかったわ」
勇者「腹減ったし昼にしようぜぃ。俺っちトイレ寄ってくっから先行っててくれ」
テクテクテク...
リア「…この前のことがあったので心配でしたけど、立ち直ってくれたんですね、勇者さん」
アッシュ「バーランド卿も大会に出場するとおっしゃってましたからね。覚悟を決めたのでしょう」
魔法使い「………」
ミント「ねーそのグローバって人強いんですか?私と2回戦でぶつかるんですけど!」
アッシュ「えぇ、強いですよ。準優勝候補と言っても差し支えありません」
ミント「えっ、そんなに!?」
ミント「…アッシュ様!絶対応援しててくださいね!」
勇者「……」テクテク
勇者「……」テク...
勇者「………」
勇者「はぁぁぁ……」
勇者「くっそ……マジかぁ…」
勇者「あー……」
勇者「勘弁してほしいぜー……へへ…」
ーーーーーーー
侍女「姫騎士様、バーランド卿がいらしているようです」
姫騎士「なに?彼は退役したと聞いたが」
侍女「グローバという名で出場されています」
姫騎士「ふむ……14ブロック。この者だな」
姫騎士「私との闘技は4戦目か」
侍女「如何いたします?現役を退いたとはいえ他国の公爵様がこの大会に参加されるのは…」
姫騎士「構わないさ。それしきのことお父様も気にはしないだろう」
姫騎士「相手が誰であろうと勝つだけだ」
アナウンス『間もなく本選を開始します。本選出場者第1から16ブロックの方、及び17から32ブロックの方はそれぞれの会場へ向かってください」
ーーー本選左会場ーーー
「まだ始まんねーの?」
「あとちょいだよ」
ガヤガヤ
「席空いててラッキー!こっち姫騎士様が出場するからな、何人立ち見が出ることか」
「わしも30歳若ければ健闘したんじゃがのぅ」
「ちょっとそこの頭邪魔!しゃがんでくれない?」
ワイワイ
リア「ひろーい…」
魔法使い「大きいとは思ってたけどここまでなんてね…私たちの村が収まっちゃうくらいあるじゃない」
アッシュ「他国からの人々も多く呼べるようにと、国王様が増築に増築を重ねたのです」
アッシュ「今や国のどの建物より大きいですよ」
アッシュ(何とも皮肉なものです)
勇者「……」
アナウンス『皆様、大変お待たせ致しました。ただいまより闘技大会本選を開始致します』
アナウンス『第1戦第一試合。姫騎士、ジンガ』
姫騎士「……」トットットッ
ジンガ「……」ザッザッザッ
ウオオオオ!
「待ってました!」
「姫騎士様ー!」
「このためだけに生きとるわい…!」
魔法使い「すごいわね…」
リア「お相手さん、ちょっと気の毒です…」
アッシュ「しかと見ててください、勇者様。あの方を超えなければこの国における最強は名乗れません」
勇者「あぁ」
ジンガ「お初にお目にかかる、ジンガと申す者だ。この辺境国で最も強いと言われる貴女と戦えること、誇りに思う」
姫騎士「ふっ。光栄なことだな。では辺境の代表として恥じない闘技を見せねばなるまい」
審判「両者前へ!」
姫騎士・ジンガ「「……」」ザッ...
審判「始めっ!」
ジンガ「」ダッ
ジンガ(その強さの所以たる剣の腕、見せてもらおうか)
バッ、バッ
ジンガ「……」グワッ
ガッ!
姫騎士「……」
ジンガ(ほう)
「さすが姫騎士様じゃ。初手も難なく防ぎおる」
「つーかあいつフライングしてなかったか?」
「あんな粗悪な成りしてんだ、中身も相応なんだろうよ」
姫騎士「……」スッ
ジンガ(来るか)
姫騎士「」シッ――
ジンガ「…!」
ガンッ、ガッ
ズバッ!
ジンガ「ぐっ!?」
ジンガ(この動きは…!)
ダンッ
ビュオッ
ジンガ(視界に捉えきれぬっ)
姫騎士「」ヒュッ
ジンガ(刺突か!)
ガィン!
ジンガ「」バッ(距離を取る)
姫騎士「……」
姫騎士「醜態を晒してすまない」
姫騎士「今ので終わらせるつもりだった」
ジンガ「……なるほど」
アッシュ「あれが姫騎士様の剣技です」
アッシュ「彼女にとって剣とは、文字通り身体の一部なのです」
アッシュ「剣戟が及ぶ範囲は広く、正面に居ながらにして視界の外から斬ることが出来る。それでいて正確無比な一撃」
勇者「……」
ジンガ(噂は本物のようだな)
ジンガ(…使う予定はなかったが、仕方ない)
ジンガ「"幻視"」
「な、なんだ!?会場が…!?」
魔法使い(幻術…しかもこれほど大規模の)
ジンガ「」スサッ
ジンガ(視覚を脅かすこの術とて、素人ならいざ知らずこやつのような猛者には1秒で状況を把握されるだろう)
ジンガ(――だが、その1秒でいい)
ジンガ(それが戦闘では命取りとなる)
サッ、サッ!
ジンガ(これにて、終演)
――スタッ
姫騎士「」ス...
ジンガ(な、に…!?)
ギュオッ!
ジンガ「!!」ガンッ
ガン!ガンッ、ギィン!
姫騎士「もう休憩は無しだ」
ジンガ「く…!」
魔法使い「なんで…真っ直ぐ走ってったわよ、あの幻惑魔法の中で」
魔法使い「魔法を無効化してる?」
アッシュ「いえ、そうではありませんが」
アッシュ「姫騎士様に甘い小細工は通じないのです」
勇者「あれが小細工なんかい…」
アッシュ「ジンガという御仁、彼も相当な手練れとみえます」
アッシュ「しかし保ってあと1分というところでしょう」
.........
姫騎士「はっ!」
ガキン!
ジンガ「―っ」
...カランカラン
姫騎士「まだ続けた方がよいか?」
ジンガ「……ふっ」
ジンガ「彼我の実力差が見えぬ程、愚者ではないつもりだ」
ジンガ「降参する」
審判「勝者、姫騎士!」
ワアアァ!
リア「剣、弾いちゃいましたね」
魔法使い「これが王都の闘技……」
アッシュ「えぇ」
アッシュ(本国における闘技とはそれ即ち姫騎士様と同義)
アッシュ(才能に愛された者が、努力によってその才を惜しみなく引き出した果て。凡人には決して手の届くはずもない領域…)
アッシュ「勇者様、如何でしたか?彼女に数段劣る私では助言など出来ませんが、貴方なら何かしら活路を見出せたのではありませんか?」
勇者「…アッシュ先生」
勇者「俺っちがそんなに頭の良いこと出来ると思う?」
魔法使い「あんたねぇ…」
勇者「へーきよへーよ。敵が強いほど、勝負は燃えんじゃん」スクッ
魔法使い「どこ行くの?」
勇者「準備運動。俺っちも試合あるし」
タッタッタッ...
姫騎士「いい闘技だった」
ジンガ「同意しよう」
ジンガ「貴女が何故この国の英雄と呼ばれるか、しかと理解することが出来た」
ジンガ(このような辺境には勿体ない、素晴らしい逸材だ。是非我が国へ欲しい)
ジンガ(であればどう手を打っていくべきか。一度本国へ戻るとしよう)
姫騎士「……」トットットッ(背を向け去って行く)
ジンガ「…いずれ、ルール無用の場での手合わせも願いたいものだ」
ーーーーーーー
侍女「お疲れ様です」
姫騎士「あぁ」
侍女「次の闘技までお休みなされますか?」
姫騎士「いや、バーランド卿の試合が見たい」
姫騎士「彼の闘技を目にしたことはあるが、万に一つも油断を残したくないんだ」
姫騎士「慢心は敗北を呼ぶ」
侍女「…はい」
ーーーーーーー
アナウンス『第1戦第五試合。勇者、ナタリー』
勇者「いぇい。どーもどーも!」
ナタリー「ふあ…」ノビー
「見ろよあのねーちゃん、剣二本持ちだぜ」
「二刀流ってやつ?初めて見るな」
魔法使い「剣を二本使うって、単純に考えれば一本で戦うよりも手数を多く出来そうよね」
アッシュ「それがそうでもないのですよ。二つの剣を同時に扱うということは、本来不要なはずのもう片方の腕の振り方を考える必要がありますし、重心を集中させることも難しくなってしまいます」
アッシュ「余程身体の制御に卓越していない限り一刀を振る方が効率的なのです」
リア「じゃああの人、とっても強いのでしょうか…?」
アッシュ「問題はないかと。二刀で名を馳せた方を私は知りません」
「あの娘っ子かわいいなぁ。どうにか仲良くなれんもんかいなぁ」
「やめとけやめとけ。おめぇ予選見てないんか?あいつ闘技してる時別人のようになんだ。嬉々として相手をいたぶるのよ」
リア「……」
魔法使い「……」
アッシュ「…大丈夫です。きっと」
審判「両者前へ!」
勇者「よろしくな、いい試合にしようぜ~」
ナタリー「よろしくー」
審判「始め!」
勇者「」タタッ
ナタリー「…あは!」
ボッ
アッシュ「あれは…」
ナタリー「」ブン!
ボオォ...!
勇者「うぉっと?」サッ
ナタリー「えい♪」
ピシィッ
勇者「!」ヒョイ
勇者(火と氷?剣を振って飛ばしてくるって、こいつは…)
リア「アッシュさんがやっていたことと、そっくりです」
アッシュ「そうですね。魔法剣…私のものは不完全ですが、彼女は上手く魔力を流動化しています」
魔法使い「あれなら無理に力を込める必要もないわね」
魔法使い「綺麗に収束されてる分、アッシュさんのような威力はないけれど」
アッシュ「しかし私以外に魔法剣を使う方がいるのですね」
ミント「知らないんですか?最近流行ってるんです!」
アッシュ「!…ミント様」
ミント「来ちゃいました♪」
ミント「流行の発端はアッシュ様なんですよー?」
ミント「アッシュ様の戦うお姿を見て、魔力を宿して攻撃するっていうスタイルが広まってきてるんです」
アッシュ「私が?人前で披露した覚えはないのですが…」
ミント「私が広めちゃいました」エヘ
アッシュ「……」
ミント「私も使えるんですよ!こう、拳に込めて」
ミント「ドカンと!」
アッシュ「…ふぅ、闘技の世界も日進月歩ですか」
勇者「」サッ、サッ
ナタリー「おにーさんすばしっこいねぇ」
勇者「だろー?俺っちもそう思う!」
ナタリー「面白いなぁー」ブォン
ピシピシピシ
勇者(つっても避けてばっかじゃ終わんねーから)
勇者「」ビュン
タタタッ
ナタリー「っ!」ブォッ
勇者「よっ!」バッ
ナタリー「わ…」
勇者(よし、この距離ならもう――)
ナタリー「…にひ」
勇者「!!」
勇者(上かっ!?)
ナタリー「"氷柱"」
バキィン!
パラパラパラ...
ナタリー「わぁ…」
ナタリー「すごいねー、壊せちゃうんだぁ」
勇者「へっへ。魔法は見慣れてっかんよ」
勇者「今の会場を涼しくしようとしてくれたんよな?粋なサービスだぜ」
ナタリー「……」
ナタリー「あはは♪」
ナタリー「ねーもっともっと遊ぼう?疲れて疲れて疲れ果てちゃうまでいっぱい!」
勇者「おーう!」
勇者「…って言いたいとこなんだが、わりぃ、俺っちちょーっと急いでんだ」
ナタリー「えー?楽しくないー?」
勇者「もち楽しいぜ」
勇者「けど、これ以上待たせんのも酷だかんさ」
ナタリー「?」
勇者「つーわけで」
勇者「勇者くん、突撃します」シュンッ
ナタリー「!速いんだぁ…!」
ボオオォ!
勇者「」サッ
スタタタッ!
ナタリー「"包炎"!」
勇者「遅い遅い!」ダンッ
ナタリー「いいよぉ!あっつあつの火炎で受け止めたげるから!」
ナタリー「その剣、炭にしちゃう!」ブワァ
勇者「」バッ
――クルン
ナタリー(あ…)
バシッ ガスッ!
勇者「……」...スタ
カラン、カラカラ...(転がる二本の木剣)
ナタリー「あれまぁ」
勇者「どうよ」
勇者「俺っちにも剣はたき落とすくらい出来んだぜ」
ナタリー「……♪」
ナタリー「審判さーん。私の負けー」
勇者「え?」
審判「勝者、勇者!」
「やるなあの男」
「最後の剣の動き、見えたか?」
「1回転?いや、なんだろうな」
アッシュ「まずは1勝ですね」
魔法使い「今の初めて見たわ。あれも特訓の成果?」
アッシュ「レラ様直伝の技です。この短期間で習得出来るのはさすがという他ないですね」
ミント「むむ……勇者くんめ、なかなか……」
勇者「よかったんか?俺っちてっきり」
ナタリー「うん、いいの」
ナタリー「その代わりぃ、今度たくさん遊んでねー」
勇者「お安い御用よ」b
ナタリー「…えへー」
姫騎士「侍女、あの勇者という男」
侍女「はい。先日通りで行き会った者です」
姫騎士「アッシュと共に居た奴だな」
侍女「……」
ーーーーー
アッシュ「そのついでに、英雄を育てていました」
ーーーーー
侍女(……)
ーーー本選2回戦ーーー
審判「勝者、姫騎士!」
姫騎士「ありがとう、いい闘技だった」
姫騎士 本選3回戦進出
ーーーーーーー
審判「勝者、勇者!」
勇者「ふー。体、あったまってきたかな」
「今度は剣使わずに勝っちまった」
「全身武器みてぇな戦い方だ。こいつはもしかしたらもしかするかもな」
「まぁ姫騎士様には敵わんさ」
勇者 本選3回戦進出
ーーーーーーー
勇者「よっ」
リア「勇者さん!おかえりなさい」
アッシュ「体術も好調のようですね」
勇者「先生のおかげだよ。剣も体も、今までで最高に気持ちよく動かせる」
魔法使い「…勇者」
勇者「うん?」
魔法使い「あ、いえなんでもない…」
勇者「で、俺っちの次のお相手さんは」
アッシュ「今まさに、ですよ」
ミント「"光弓"!」ヒュヒュッ
グローバ「うりゃ、ほっ」パシ、パシッ
ミント「~!」
ミント「"加重"!」
グローバ「ん?」グ...
ミント(よしっ)
ミント「"落石"」
...ゴゴゴ
ミント「潰れちゃえ!」
ゴォォ!
グローバ「"剛腕"」
ズンッ!
「い、岩が…」
「おっさん生きてんのか…?」
勇者「へっ」
グローバ「むぅん!」ブンッ
ガァン!
ミント「うっそ…」
ミント「おじいちゃん元気良すぎっ」
グローバ「がはは!元気だけが取り柄なもんでなあ!」
グローバ「"敏捷"!」
ビュンッ!
ミント(来る…!)
グローバ「」ダダダッ
ミント(速いけど、むしろ好機!)
ミント(私の"魔法拳"お見舞いしてやる!)タッ
スタタッ
ミント「いっけぇ!」グワッ!
――ガシッ
ミント「…!?」
グローバ「…へへぇ」
サワサワ
ミント「ひっ」
グローバ「やわっこいねえ。やっぱこれよこれ!ゴツい岩なんざ触ったことでなーんも面白くねえ!」
ミント「は、離してっ!」ブンッ
グローバ「おっと」
パッ
ミント「このぉ…さっきからベタベタしてくると思ったら…!」
ミント「変態っ!」
グローバ「人聞きが悪いなあ。戦いの最中に偶然触れ合っちまっただけだぜ?偶然」
ミント「何が偶然よ!うぅ…アッシュ様が見てるのに…」
グローバ「嬢ちゃん、貴族だろ?」
ミント「」ギクッ
ミント「…しし知りませんが?」
グローバ「隠さんでいいがな。嬢ちゃんの気持ちも分かる」
グローバ「貴族なんていつんなってもつまらんしな。どこで何するにしたって義務だの家柄がついて回る」
ミント「そう!そうなの!」
ミント「おじいちゃん、あなたももしかして…」
グローバ「と、言っとった知り合いが居たなあ。そいつが女なんだが、いいケツしてたもんで全然話入ってこんかったわい!」
ミント「……」
ミント「ない。これが貴族はさすがに」
グローバ「嬢ちゃんも肌のハリは負けとらんだろう!わはは!」
ミント「っっ」ゾワゾワ
ミント「絶対はっ倒してやるんだから!」
.........
ツン
ミント「や…!」ブンッ
グローバ「」ヒョイ
グローバ「ん~、お次はどこがいいかねえ」
ミント「う…もうやだぁ…」ナミダメ
「……」ゴクリ
「なんつーか、美少女の泣き顔って……悪くないな」
グローバ「よおし」ニヤリ
ミント「…!!?」
ミント「こ、降参しますー!審判さん、もう終わり!」
審判「勝者、グローバ!」
グローバ「おん?なんでえ、これからがいいトコだってのによお」
魔法使い「……アッシュさん、あとであの人元気づけてあげて」
アッシュ「そうですね…一言くらいかけましょうか」
勇者(ま、こうなっちまうよな)
侍女「品の無い戦いです」
姫騎士「しかし勝ちは勝ちだ」
姫騎士「案ずるな、私には指一本触れさせはしない」
ーーー本選右会場ーーー
ダグ「」ヒュ、ヒュヒュッ
...ピタ、ピタピタ
ダグ「…どうなってやがる」
勇者母「……」ニコニコ
「こりゃまた、マジックショーでも見せられてる気分だ」
「場所が場所ならそうなってるやろ。武器屋のやつ、小せぇ木剣大量に持って何すんのかと思ったら投擲たぁな」
「武器の使い方を俺達に見せてくれてんだろうぜ」
「だが一本も届かないんじゃあなぁ」
ダグ(投げナイフの効かねぇ相手なら山程見てきたが、宙で止める奴は初めてだ)
ダグ(ここらじゃ見ない顔の女と思っていたが、ただ者じゃねぇ)
勇者母「あなた、勇者という男の子を見ませんでしたか?この舞踊祭に出ているはずなんですけど…」
ダグ「大会にかね?はは、それなら反対側の会場でやってんだろうさ。さっき名前を見かけたからね」
勇者母「あら、見落としていたのでしょうか」
勇者母「早く渡してあげたいのですが…きっとあの子も――」
ダグ(金持ち貴族か、あわよくば賞金か。戯れで出場してみたが、こいつはとんだ掘り出しもんかもな)
ダグ(飛び道具が通用しねぇなら)
ダグ「」バッ!
ダグ(直接叩くまで!)
.........
審判「勝者、勇者母!」
オオオォ...!
「やべぇな、あの女」
「武器屋の近接戦もすごかったが…」
「あれは本当に女…いや人間か…?」
ダグ「いやぁ参った参った。とてもお強い!」
ダグ「どちらの出身の方ですかな?」
勇者母「しがない小さな村ですよ」
ダグ「ほぉ」
ダグ「うちは王都で武器屋やってるもんでね、よかったら寄ってっておくれ。武器はあなたをもっと強くしますぞ!」
勇者母「覚えておきます」ニコッ
勇者母「もうすぐで勇者に会えるのですね♪」
ダグ(この女、いつか必ず…)
ーーーーーーー
姫騎士「気になるな」
侍女「先程の相手ですか?お望みとあらば素行調査を致しますが」
姫騎士「いや、勇者だ」
侍女「…!」
姫騎士「奴の戦い方は剣術と体術。剣の腕など私から言わせれば青二才だが…」
姫騎士「まだ何かある」
侍女「何か、ですか」
姫騎士「うむ」
姫騎士「奴の出番は次だったな」
侍女「はい。バーランド卿との闘技です」
姫騎士「席を移そう。ここでは少し見えづらい」
ーーーーーーー
「よしいけー!」
「ぶちのめせー!」
「俺はセクハラ爺さんに賭けてんだ!負けんなよー!」
ワーワー!
リア「声が…耳に響きます…」
アッシュ「本選も準々決勝ですからね。先の姫騎士様の試合もあります、こちらの会場を観に来る人の方が多いのでしょう」
ミント「……」ギュ
アッシュ「…ミント様、そろそろ離していただいても…」
ミント「もうちょっと」
リア「でも、勇者さんのお相手……」
魔法使い(……勇者……)
グローバ「なんだここまで来れたのか小僧!」
勇者「白々しいおっさんだぜ。見てた癖に」
グローバ「すまんなあ、俺は美人しか目に映らんのよ」
審判「両者前へ!」
グローバ「しかしいいのかい?またこの前みてえに一発で沈むさまを連れの嬢ちゃんに見られちゃうぞ?」
勇者「…へ、いい試合にしよーぜ」
グローバ「フッ。腹、括ったってことかい」
審判「始め!」
グローバ「手加減は無しだ」
グローバ「"硬化"、"敏捷"、"剛腕"」
グローバ「」ドゴッ
勇者「」ダッ
グローバ(向かってくるか。悪くねえ判断だが)
グローバ「歯食いしばっとけよ!」ズドドド!
勇者「……」タタタッ
グローバ(お粗末!)
グローバ「」ズオッ
勇者「」スッ
ドゴォン!
グローバ「…ほお」
「地面が抉れた…」
「とんでもねぇなあのジジイ」
アッシュ「バーランド卿の身体強化魔法は硬化、敏捷、剛腕の3つ。これだけですが、大砲よりも速く瞬発し、鋼の如き四肢から繰り出される重たい一撃はまさに必殺」
アッシュ「魔法の使えない勇者様にとっては元々相性の悪い相手なのです」
ミント「…魔法、使っても倒せなかった」
アッシュ「あくまでも打つ手が増えるというだけですので…」
グローバ「ふんぬっ」ブォッ
勇者「」サッ
勇者(よしっ、見える)
グローバ「おお!」グンッ!
勇者「」ヒラッ
勇者(焦るな、奴の次の動きは――)
グローバ「」グ...
勇者(右!)
グローバ「どう!」
勇者「」スサッ
グローバ「やるじゃねえの小僧!ならこれでどうよ!」
ドドドドッ!(猛烈な連続攻撃)
勇者「っ」サササッ、ササッ
リア「腕が増えたみたいです…?」
アッシュ「二本ですよ。霞むほどの動きでそう見えますが」
アッシュ「当たれば勝敗が決してしまうでしょうね」
魔法使い「……っ」
勇者(……)
ドドドドッ
勇者(………)
グローバ「」ズ――(腕を思いきり引く)
勇者(ここだっ!)
――バシィン!
魔法使い「あ…!」
グローバ「おっ!?」
勇者「ちっ」
サッ、サッ(距離を取る)
グローバ(剣を、当てられたか?)
グローバ(この小僧に?)
勇者「…おっそろしく硬ぇ脇だな」
グローバ「男は硬くてなんぼだろお」
勇者「硬過ぎても嫌われるんじゃねーの?」ケッ
グローバ(こいつは本当にあの時の小僧か?)
勇者「やーっぱ中途半端な攻撃じゃ、でけーイノシシを退治すんのは無理か」
グローバ「!」
グローバ「ぬはは、少しは出来るようになったみたいだなあ?」
勇者「おっさんのおかげさ」
勇者「感謝してんだぜ、あんたのおかげで俺っちはもっと強くなれた」
勇者「"現実"ってのを思い出せたんだ」ニッ
グローバ「……」
グローバ「面白くなってきたな!えぇ?小僧?」
勇者「そう…だな!」ダッ!
.........
グローバ「むん!」
勇者「っ」サッ
勇者「おらっ!」
ガンッ
「いいぞ!いけいけ!」
「爺さんさっさと決めちまえ!」
グローバ(こっちの隙間を縫って的確に剣を叩き込んできやがる)
グローバ(一回でも俺の拳を当てられれば終わりなんだが…)
勇者「」ヒョイ
グローバ(すんでのところで回避。さっきからこればっかだ)
グローバ(だがそれは小僧とて同じ)
バシッ
勇者「っ!」
グローバ(俺の体にいくら木剣をぶつけたところで無意味。こいつが有効打を喰らわすとしたら、顔面しかねえ)
グローバ(それを狙ってきたところを…叩く!)
魔法使い「…見てるのが怖いわ」
魔法使い「このまま長引いたら、またあの時みたいに…」
アッシュ「疲労で少しでも動きが鈍くなってしまったら、危険ですね」
アッシュ「ですが今は、彼を信じましょう」
ミント「うー、勇者くんは恨めしいけど…あのおじいちゃんが勝つのはもっと嫌…」
勇者「」グワッ
グローバ(大振り…!)
グローバ(いよいよか!)
ガキンッ
勇者「くぅ…!」
グローバ(体狙い?効かねえことなんぞとっくに分かっとるだろうに)
グローバ(何を企んどる?)
勇者「ほんとにどこもかしこもカチカチだな!」
グローバ「俺をおちょくってんのか!」ブォン!
勇者「滅相もない!」
勇者「確かめてたんだ、よ!」
シュッ!
「投げ付けた!?」
「あの距離でか!」
グローバ(これが狙いか!)
グローバ(顔面への投剣。なるほど腕を振りきった後じゃ防御も避けることも出来ねえ)
グローバ(――けどなあ)
ゴツンッ
グローバ「がはは!俺は石頭なんだ!」
グローバ(額に向かって投げたのはナンセンス!)
グローバ(これでこいつはその体だけで戦うしかなくなったわけだ)
グローバ「早まったな小僧!体術は俺の土俵――」
スッ
グローバ「!!」
グローバ(いつの間に…!)
グローバ(顔はやらせん!)
勇者「」グ――
グローバ(いや…また体か!?)
ズドンッ!
...ドス、ドシン
リア「…!」
アッシュ「ふふ」
グローバ「ぐ…小僧…」
審判「…場外!勝者、勇者!」
ワーー!
リア「やりました…!」
アッシュ「フェイントからの見事な掌底。バーランド卿をあそこまで吹き飛ばしたのは勇者様が初めてではないでしょうか」
ミント「すっご…」
グローバ「いやあ驚いた」
グローバ「小僧、お前さん強くなったな」
勇者「言ったろ?俺っち優勝候補者だって」
グローバ「ただのイキったガキじゃなかったっつーことか!わはは!」
グローバ「しかし残念だ。せっかく姫の豊満なボディを堪能しようと思ってたんだがなあ」
勇者「豊満…確かに」
グローバ「お?お前さんも分かるかい。いい目してるぜ」
グローバ「ま、俺の代わりに楽しんできてくれや。姫との手合わせをよ」ニカッ
勇者「言われなくても」ヘッ
勇者(……)
勇者「」クルッ
勇者「スゥー…」
勇者「よく聞けお前ら!」
勇者「最強は、この俺っちだ!!!」
ウォオオオオ!
「愉快なやつよのう」
「はっはっは!いいぜ、あんたに賭けたろうじゃねぇの!」
魔法使い「――」
魔法使い「」タッタッタッ
リア「あ、魔法使いさん」
アッシュ「行かせてあげましょう」
リア「…はい」フフッ
姫騎士「………」
姫騎士(……)
侍女「……」
王「ここにおったか」
姫騎士「お父様。何故こちらへ?」
王「それは儂の言葉だ。お前が客席の前まで来るとはな」
王「あの男、それ程の使い手か?」
姫騎士「……」
姫騎士「心配には及びません。見かけない者が勝ち進んでいたもので、観察していただけです」
姫騎士「私の敵ではありません」
王「そうか。お前がそう言うのなら安心だ」
王「分かっておるな姫騎士よ。お前はこの国の光、希望なのだ。負けることは許されぬ」
王「国の為、儂の為に、勝て」
姫騎士「お任せ下さい」
姫騎士「私の愛するお父様」
ーーー選手入場路内ーーー
勇者「……はー」
勇者「やったんだな、俺」
ーーーーー
グローバ「なぁまさかおめえよ、このポンコツをぶつけようってんじゃねえだろうな?」
ーーーーー
勇者「……へへ、そのポンコツはここまで強くなりましたとさ」
...タッタッタッ
勇者「…!」
魔法使い「はぁ…はぁ…」
勇者「魔法使い?どうしたんだよ」
魔法使い「あんたを、探しにきたのよ」ハァ..ハァ..
勇者「あー戻ってこなかったからか?俺っち次の試合に備えてちょっち休憩してたんだ」
魔法使い「………」
勇者「なんか、怒ってらっしゃる?」
魔法使い「……おめでと」
勇者「んぇ?」
魔法使い「あのおじいさんに、勝ってくれたから」
勇者「…おう、サンキュ」
魔法使い「またみっともなく負けでもしたらどうしてくれようかと思ったわ」
勇者「蒸し返すなって。ありゃ生まれて初めて負けたもんだかんよ、ちっとびっくりしただけさ」
魔法使い「この前までめそめそいじけてたものね」
勇者「負けっぱなしは気に喰わねーし、一念発起してやったのよ、俺」
勇者「前よりずっと強くなってんだろ?」
魔法使い「……やっぱり……あんたは……」
勇者「今度はなんだよ?」
ツー...
勇者「…!?」
魔法使い「ぅ……グス…」ポロ、ポロ
勇者「え、お前…」
魔法使い「バカ……バカ…!」
魔法使い「もう、戻ってこないかと思ったんだから…」ポロポロ
勇者「…泣き虫魔法使いちゃんは戻ってきちまったみたいだな?」
魔法使い「うるさい…!」
勇者「ほら、泣くなって。俺っちはここにいんだから」
魔法使い「だってぇ……」ポロポロ
魔法使い「本当に、消えちゃったと思ったんだもん…!」
魔法使い「いつもいつも私を引っ張って……どんな時も楽しそうで……」
魔法使い「私の大好きなあんたが…!」
勇者「……」
魔法使い「……………!!??」
魔法使い「わ、私何言って…!」
魔法使い「忘れて!今のはその…とにかく忘れてっ!」
勇者(……)
勇者「俺、行くわ」
トットットッ
魔法使い「っ…」
魔法使い(そう、だよね)
魔法使い(こいつにとっての私なんか……)
トッ...
勇者「……」
勇者「待ってるやつがいるんよ」
魔法使い「…え?」
勇者「子供ん頃からずーっと、最強の俺っちを待ってるやつがさ」
勇者「早く行ってやんねーとまた泣き出しちまう」
魔法使い(――!)
魔法使い「…覚えて、たの…?」
勇者「勝ってくる」
勇者「勝って戻ってくるからさ」
勇者「もう少しだけ、待っててくれ」
魔法使い「………うん」
魔法使い「絶対、勝ってよ」
勇者「へへっ」
アナウンス『ただいまより第4戦を行います。選手は入場してください』
アナウンス『準決勝。姫騎士、勇者』
今回はここまでです。
次回、姫騎士戦です。
6章2/3、投下します。
ーーーーーーー
「姫騎士様ー!我らがついておりますぞー!」
「勇者ー!男を見せろよこの!」
タッタッタッ
魔法使い「間に合った?」ハァ..ハァ..
リア「魔法使いさん!よかったです、今始まるところですよ」
ミント「……」ジー
魔法使い「あれ、アッシュさんは?」
ミント「昔の友人に会ってくるとかでどっか行っちゃった」
ミント「そして私はアッシュ様からこの子のお守りという大事な使命を任されたのです!」フンス
魔法使い「…そう」
姫騎士「……」
勇者(うひゃーおっかねー)
勇者(美人でグラマラスときてんのに、すげー威圧感だぜ…)
姫騎士「緊張しているのか?」
勇者「ん?いやー間近で見るとこーんな綺麗な人なんだなって」
姫騎士「面白い男だ。賛辞と受け取っておこう」
侍女「………」
...コツコツ
アッシュ「元気がありませんね」
侍女「何をしにきたのですか?」
アッシュ「観戦ですよ。お一人でいるよりは寂しくないでしょう?」
侍女「…不要な気遣いです」
アッシュ「そう仰らずに」ニコッ
姫騎士「君の闘技見せてもらったよ。大層な演出家だな、最強殿」
勇者「なはは、どーも」
姫騎士「さぞ、強いのだろうな」
勇者「期待してくれていいぜ。勝っても負けても退屈はさせないかんよ」
姫騎士「楽しみだ」
審判「両者前へ!」
ザッ...
姫騎士(……)
審判「始め!」
ダッ
勇者(相手の力量が測りきれてねーうちは様子見に回んのも大事だって、先生も言ってた気がすっけど…そんなん俺っちの性に合わねー)
勇者(先手必勝っ!)
勇者「」ブォン!
姫騎士「……」
カン、カンカンッ
カァン!
勇者(びくともしねー…)
勇者(なら!)
ガンッ、ガンッ、ガィン!
勇者「とりゃ!」ビュン
姫騎士「」スッ
ガツン!
勇者「なっ」
「剣の横腹を殴った…」
「よく見えますね、さすが姫騎士様」
アッシュ「……」
勇者(俺っちの剣なんか素手で十分ってかい)
勇者(そんならこっちだって…!)
勇者「」グンッ
姫騎士「」バシッ
勇者(左!裏拳!回し蹴り!)
ガッ、ガッ
ビシッ!
勇者(剣先を蹴っても止められるんか!?)
勇者(…転ばしてやる!)
勇者「」バッ
――ヒラッ
勇者「!」
姫騎士「」バッ
勇者「おわっ!」
ドタン!
リア「勇者さんの技が効かない…」
魔法使い「それどころか足払いを返してきたわね…」
アッシュ(自分の得物である剣を防御だけに使う)
侍女「…煽りつけていますね」
アッシュ「えぇ」
姫騎士「……」
勇者(こいつ…偉そうに見下してきやがって…)
勇者「よっこらせっと」
勇者「あーあ、こんなに土汚れ付いちまって」パンパン
姫騎士「………」
勇者「あんた、剣が得意なんだろ?別に俺っちに合わせてくれなくてもいいんだぜ」
姫騎士「あぁ」
姫騎士「言われずともそのつもりだ」
シュンッ
姫騎士「」シッ――
勇者「っ!」
ガァン!
バシッ、ガッ
ズバッ!
勇者(くっ…!)
勇者(どんなリーチしてんだよ目が追いつかねー…!)
姫騎士「」ダン
勇者(左か!?)
ガキッ!
勇者(正面!)
ガン!
姫騎士「」ビュオッ
勇者(右上――違ぇ!)
ビシィッ!
勇者「つっ…!」
サッ、サッ(距離を取る)
勇者「いってー…」
姫騎士「……」
勇者(追撃してこない、か)
勇者(舐められてんなー)
侍女「あれが、貴方の言う英雄ですか?聞いて呆れますね。姫騎士様に打ち勝つどころか一撃入れることすらままならないではないですか」
アッシュ「確かに、このままでは難しいでしょうね」
侍女「まさか手加減していると?」
アッシュ「いえ、彼に手心を加える余裕はないでしょう」
侍女「……」
勇者(…やっべぇ)
勇者(思ってた何倍も強ぇ。本当に勝てんのかよ、こんな怪物に)
ーーーーー
魔法使い「絶対、勝ってよ」
ーーーーー
勇者(………)
勇者「……へへ」
勇者(いけねーいけねー。怯むなよ俺)
勇者(負けると思ったら負けんだ)
姫騎士「楽しいのか?」
勇者「まぁね。あんたは?」
姫騎士「…愚問だな」
姫騎士「闘技とは、勝敗を明確にするためのものに過ぎない」
勇者「勝ったら嬉しくない?負けたら悔しいけどさ」
姫騎士「勝利の中にあるのは次の勝利だけだ」
勇者「ひゅー、王者の言うことは違うねぇ」
勇者「でも、勝つのは俺っちだかんなっ!」ダッ
姫騎士「」ダッ
.........
ーーーーー
王「これは驚いた…」
王「姫騎士よ、お前には剣の才能がある」
ーーーーー
ーーーーー
王「よくぞ優勝してくれた!これで諸国達も我が国を無視することは出来なくなるだろう」
王「お前は最高の娘だ。愛しておるぞ」
ーーーーー
姫騎士「」ビュンッ
バシンッ
勇者「ぐっ…」
ーーーーー
王「よいか、最早お前の勝利はお前だけのものではない。儂と、この国をも背負っておるのだ」
王「愛しい我が娘よ、お前の強さは誰にも破られてはならん。お前が負けることは国の落ち目に繋がる」
王「敗北に未来はない」
王「勝つのだ、姫騎士」
王「勝って勝って勝ち続けるのだ!」
ーーーーー
姫騎士「」スッ
ビシッ
勇者「っ」
姫騎士(そうだ)
ガン!
姫騎士(私は勝たなければならない)
ガキッ
勇者「ぬぉ!」
姫騎士(例え公爵の当主が相手であろうと)
ガンッ!
姫騎士(昔馴染みの執事が離れていこうと)
バンッ
勇者「ぐぅ…!」
姫騎士(無心に)
ヒュッ
勇者「」サッ
姫騎士(ただひたすらに…)
勇者「そらっ!」バッ
クルッ――
姫騎士(勝利を望めっ!)
バキィン!
勇者「――っ」
勇者(マジ、かよ…!?)
ミント「あれま」
リア「剣が……」
ミント「お姫ちゃん、色んな人の剣折ってるよねー」
ミント「同じ木剣使ってるはずなのになんでそんなこと出来んだろう?」
「ありゃ心も折れるわな」
「勇者っちゅーのも頑張っとったが、姫騎士様相手じゃ歯も立たん」
「よく保った方だ」
魔法使い「………」
勇者(ちくしょー…お姉さんの剣技も通じないときたか)
勇者(体術でどう攻めていく…?)
姫騎士「審判殿、この者に新しい剣を用意してくれないか」
勇者「…は?」
審判「それは…」
姫騎士「どうした?ルールに抵触してはいまい?」
審判「ですが」
姫騎士「早く」
審判「は、はい」
ザワザワ...
「どういうこと?」
「相手に情けをかけてらっしゃるとか…?」
「今まで見たことないわ…」
侍女「姫騎士様自身が、試合の継続を望んだ」
アッシュ「それ以外に考えられませんね」
アッシュ「…彼女はこの闘技の中で何かを見つけようとしている」
侍女「何を」
アッシュ「分かりませんが……今の強引な申入れは、さながら子供のわがままのようです」
審判「こちらです」
勇者「……」
(剣を受け取る)
姫騎士「再開しようか」
勇者「…は、優しいお姫様だこと」
勇者「そうやっていつまでも余裕ぶってると、足元すくっちゃうからな?」
.........
ガンッ!
カン、カァン
ズバン!
「辛ぇだろうな、あんだけやられてよ」
「降参すりゃええのに」
アッシュ(無論、勇者様にとって辛い戦いであることに間違いはないでしょう)
アッシュ(相手を軽んじることなく全力で立ち向かっての、この力量差ですから)
侍女「……」グ...
アッシュ(しかしそれ以上に)
アッシュ(この会場で今、誰よりも辛いのは…)
勇者(くっそ…!)ブンッ
ガン
勇者(どこから攻めても剣だけで防がれる)
ガツッ
勇者(蹴りも殴りも平気で止める)
姫騎士「」ズオッ
勇者「っ!」ギィン!
勇者(癖とか弱点ねーのかよ…!)
勇者(こんなん続けたとこで全身痣だらけにされるだけだ)
姫騎士「」スサッ
ズバッ
勇者(体力も…)
勇者「…っ」
勇者「このっ!」ビュンッ
姫騎士「」ヒラッ
勇者「!?」
勇者(やばい、カウンターが…)
ブォンッ
ガァン!
勇者(っぶねー、何とか合わせた)
勇者(返す刀だ!)ダン
――ヨロ
勇者「あっ」
勇者(しまっ――)
姫騎士「」シッ
ドゴッ!
勇者「がっ…!?」
ドサッ...
魔法使い「!…」
リア「あぁ…!」
ミント「うわ、痛そう…」
勇者「げほっ…げほっ!」
姫騎士「……」
勇者「っはぁ……はぁ……」
姫騎士「……」
姫騎士「どうした、最強」
勇者「ゔぅ、え゙ほっ…」
姫騎士「何を暢気に寝ている」
勇者「は……は……」
姫騎士「…っ」
姫騎士「最強なんだろう!?誰にも負けないのだろうっ!?」
姫騎士「絶対に勝つことこそ"最強"の至上命題!」
姫騎士「その程度の力で最強を騙るな!不愉快極まりない!!」
「どうしたんじゃ姫騎士様…?」
「すごい剣幕…」
アッシュ「自らの勝利が何を意味するのか、あの方は誰よりも知っているのです」
アッシュ「彼女にかけられた期待とプレッシャー。それが彼女を必勝へ追い込む…」
アッシュ「恐らく姫騎士様にとっての勝利は、甘美な快でも栄誉な誇りでもない」
アッシュ「ただただそこにある空気に同じ。呼吸して肺を満たすもの」
侍女「だから、許せないのでしょうね」
侍女「自由にこの場所で舞い、戦うあの男が」
アッシュ(…最強とはその実、横に並ぶ者のいない孤独な存在なのです)
アッシュ(そう……私では駄目だった…)
姫騎士「……」
勇者「」
審判「……」
姫騎士(……)
審判「…きぜ――」
ノソ...
姫騎士「…!」
勇者「だーれが、その程度の力だって?」
勇者「俺っちまだ負けてねーし」ヘヘ...
「立つのかよ」
「すげぇ根性だな」
勇者「こいよ最強」
姫騎士「……」
勇者「そんなに言うならさ、手本を見せてくれよ」
勇者「あんたの言う"最強"ってやつを」
姫騎士「…いいだろう」
姫騎士「身を以って教えてやる」
.........
バシッ、バシィン!
ズバッ
勇者「」ヒュン
ガッ
勇者「……」ブンッ
パシッ
姫騎士「」シッ
ダァン!
勇者「ぐぁ…」
ミント「ひ、酷いわね。あそこまで一方的に…」
ミント「下手したらこれ、勇者くん死んじゃうんじゃ…?」
リア「そんなこと…。だって闘技ですよっ…!」
ミント「でもさっきから動きもおかしいじゃない。剣持ち替えようとしたり手と足同時に出したり」
魔法使い「大丈夫よ。あいつは死なないから」
魔法使い「負けもしない」
ミント「えぇ…?」
勇者(袈裟斬り)
姫騎士「……」サッ
勇者(膝蹴り)
ガツン
姫騎士「」ヒュッ
ザンッ
勇者「っ」
勇者(もう一丁斬り上げ)
ーーーーー
アッシュ「――さて、今日はこの辺りで体術鍛錬へ切り替えます」
勇者「また?せっかくいい感じに剣の体になってきたのに」
アッシュ「勇者様、あまり長く剣の鍛錬を続けてると、稀に体術の動きをしますよね」
勇者「そうなん?全然意識してないんだけど…」
アッシュ「我慢は身体に毒です。無意識下でも体術を鍛えたいと思っているならそうしてあげるのが最も伸びが良いですから」
アッシュ「貴方の場合、逆も然りなので体術と剣術をバランスよく切り替えていくのがベストでしょう」
勇者「なんじゃそりゃ」
ーーーーー
勇者(肘打ち――)
ガシッ
勇者「…!」
姫騎士「いつまでこの茶番を続ける気だ?」
姫騎士「お前の望む最強とは何か、存分に分かっただろう」
勇者「…ケチケチしてんなって。もうちょい見してよ」
姫騎士「断る。遊びに付き合うのはここまでだ」
パッ...
姫騎士「」ビュオッ!
ゴスッ
「頭ときたぜ…」
「なんで奴は倒れない?」
「ゾンビなんじゃねぇか?ははっ」
リア「勇者さん…」
ミント「もう見てらんない…」
魔法使い「……」
勇者「」フラ...
姫騎士「しぶとさだけは認めてやろう」
姫騎士「…終わりだ」スッ
姫騎士(こやつもこれまで下してきた有象無象と同じ)
姫騎士(私はただ)
ブワァッ!
姫騎士(勝ち上がるのみっ!)
――バスッ
侍女「……!」
アッシュ「……」
リア「っ…」(目を瞑る)
ミント「え…」
魔法使い「……」
姫騎士(……む)
勇者「…いひっ」
魔法使い「もう」
魔法使い「遅いじゃない、まったく」フフ
ミント(足裏で受け止めたの…?いつの間に)
勇者「ようやく分かったぜ」
勇者「剣と体は別々のもんじゃねーのさ」
勇者「そういうこったろ?お姫様」
姫騎士「…何がだ?」
勇者「つまり」
勇者「――反撃開始ってこと」ザッ!
姫騎士「……」ガンッ
――ヌッ
姫騎士「っ!」ガッ
勇者「」グルン
ガツッ、ガィン!
姫騎士「く…!?」
「んん?剣で姫騎士様を押しとる」
「バッカ見えないか?手、足、胴全部使ってる!」
「人間の動きかよあれ!?」
勇者「まだまだ!」
姫騎士「…っ」
侍女「あの男は何をしたの…?」
アッシュ「…そういうことでしたか」
アッシュ「勇者様は闇雲に戦っていたのではありません。剣術と体術の連携…言うなれば融和点を探っていたのです」
アッシュ「合点がいきました。きっとあれが――」
アッシュ「彼の才能」
勇者(上段、足掛け、胴斬り!)
カンッ、スサッ――ガキッ!
勇者(回し蹴りからの)ゴッ
勇者「」ピョン
姫騎士「っ」
ガン、ガンッガン!
勇者「前転宙返りー!」スタッ
勇者「からの切り返しっ!」ダッ
姫騎士「ちょこざいなっ」
ガァン! ドスッ
ダダッ、バシッグルッ
勇者「へへっ!ちゃんとついてきてくれよ!」
勇者「もっともっとあげてくぜーっ!」
姫騎士「この…!」
リア「すごい……速過ぎてくらくらしてきました……」
ミント「おっどろいた。剣と体、お互いの攻撃の隙間を補い合ってる…」
ミント「そりゃあ攻撃速度は格段に上がるけども、あんな芸当出来ないって普通!」
勇者「よっ」サッ
姫騎士「っ!」ガッ
勇者「ははっ!」シュッ
姫騎士「」バスッ
姫騎士(なぜ…)
勇者「こっち!」
姫騎士(なぜ笑える)
勇者「ほら遅え!」
姫騎士(楽しいのか?闘技(これ)が?)
勇者「ボーッとしてっとおいてくぞ!」
姫騎士(…そんなわけはない)
勇者「それっ!」
姫騎士(そんなわけがないんだ!)
姫騎士「はあっ!!」シッ――
ガキィッ――
カラン、カラ...
姫騎士(……剣が……)
勇者「……」
勇者「拾っていいぜ。さっきのお礼だよ」
勇者「剣持ってないあんた倒したところで最強は名乗れないっしょ?」
オオオオォ!
「おうおう格好付けやがってよー!」
「てめぇってやつは男の中の男だ!」
姫騎士「……ふっ、調子に乗るなよ」
ーーーーーーー
カンッ、ガガッ、ズバッ!
「いいぞ勇者!そこだ!」
「守るのは危険ですぞ姫騎士様!」
ワーワー!
勇者「うらっ!」
ヒュッビュオッ
姫騎士「ふっ!」
スッ、ガンッ
姫騎士(速い)
ガッ――
姫騎士(一瞬でも気を抜けばやられる)
スサッ――
姫騎士(全力で迎え撃つ)
ダン――
姫騎士(全力で捌ききる)
シュッ――
姫騎士(この感覚はなんだ…?)
ーーーーー
王「どうだ?初めて剣を握ってみた感想は」
王「おぉ、上手だな。まだ小さいのに父さんより強いやもしれんな、はは」
王「ん?そうかそうか楽しいか!」
王「父さんもとても楽しいぞ――」
ーーーーー
勇者「せいっ!」
姫騎士「」シュバッ
ガァン!
勇者「うおぅ!?」
姫騎士「ここは君だけの闘技場ではないのだよ!」
勇者「分かってらぁ!」バッ
ガンガン、ガンッ
勇者「今はあんたも居るもんな!」
姫騎士「そういうことだ!」ダッ!
姫騎士(…ふふっ)
侍女「!…ねぇ、今…」
アッシュ「貴女にも見えましたか」
侍女「姫騎士様、笑って……」
ーーーーー
幼姫騎士「えい!」
幼侍女「きゃっ…あーあ、また負けちゃったー」
幼姫騎士「ふふん、わたしにはアッシュがついてるからな!」
幼侍女「姫ちゃん強いー」
幼侍女「あ、そういえばね、王様が新しいお花買ってきたんだって!」
幼姫騎士「お父様が!?今すぐ見に行くぞ!」
幼侍女「見境なーい」アハハ
幼侍女「お花、いちばん好きだよね~」
幼姫騎士「何を言う。花も好きだがお前たちと遊ぶのも、楽しくて大好きだぞ」ニッ
ーーーーー
侍女「…姫ちゃん…!」
勇者「」シュンッ!
姫騎士「うぐ…!」
姫騎士(読み切れない…!)
姫騎士(かつて経験したことのない速度の中に身を置いている)
姫騎士(奴は当然のように加速していく)
ビシュ、ビシュッ
バババッ!
姫騎士(徐々に端へ追い詰められていることなどとうに分かっている)
姫騎士(しかし避けるという選択は無い。あり得ない)
姫騎士(何故ならこやつを負かせば私は)
姫騎士(私は――!)
姫騎士「はあああぁっ!!」
勇者「うおおおぉっ!!」
ガンガンカンッドスッ
ゴツッ、ザザッガィン!
サッ!ガキッガガガッ
勇者「」グルンッ!
姫騎士「っ――」
ゴッ!
姫騎士(回し蹴り…!)
――ドサッ...
審判「………」
審判「場外。勝者、勇者!」
「「「おおおおおおおおぉぉ!!」」」
リア「やりました!やりましたよ魔法使いさん!勇者さんが…!」
魔法使い「うん、そうね。やってくれたわね…!」
ミント「この試合、夢に出てきそう」
侍女「あれが英雄……」
アッシュ「上出来です、勇者様」
アッシュ「…ありがとうございます」
姫騎士「……………」
姫騎士(……私は負けたのか)
姫騎士「………」
姫騎士(そう、か)
勇者「地べたで寝てると肩こるぜ」
姫騎士「……」
勇者「聞こえないんか?あの大合唱」
「姫騎士様!最高の試合でしたぞ!」
「今日ここにいられたこと、神に感謝致します!」
「あなたは紛うことなき国の英雄だっ!」
「「「姫騎士!姫騎士!姫騎士!」」」
姫騎士「…何故…」
勇者「勝ったのは俺っちなのによー。このアウェー感だもんな」ヘッ
勇者「さすがお姫様は人気者だ」
姫騎士「……」
姫騎士(敗北は死。…そう言い聞かせてきた)
姫騎士(国の為に、お父様の為に)
姫騎士(でも……)
姫騎士(私は、間違っていたのかもしれない)
勇者「な?楽しかったろ?」
姫騎士「………」
姫騎士「そうだな」フッ
(顔のそばに咲く一輪の花)
姫騎士(あぁ…綺麗だ……)
姫騎士戦、ここまでです。
こういう戦闘描写を上手に表現するには地の文の方がいいんでしょうね…
次回の投稿で完結となります。
今更ながら、姫騎士と辞書のキャラカードを置いておきます。
キャラ名:姫騎士(小国の英雄 綺麗なスタイルに茶髪のロング)
性別:女
年齢:18
得意戦型:剣術
備考:小さい頃父である国王に剣の才能を見出され、開催した闘技大会で優勝を果たして以来、常に勝つことを望まれるようになった。圧倒的な剣の腕前で何者をも寄せ付けない。アッシュ、侍女とは幼馴染み。
キャラ名:侍女(姫騎士のお付き 落ち着いた物腰の女性)
性別:女
年齢:18
得意戦型:剣術
備考:姫騎士の傍で様々な身の回りの世話をしている。中でも剣の鍛錬には熱心に付き合うが、これは姫騎士を今の状況から救い出してあげたいという気持ちの裏返し。生半可な力のアッシュでは姫騎士の現状を変えることが出来ないと考え、アッシュに執事を辞めさせた。姫騎士ほどではないが、剣術に長ける。
>>373 辞書ではなく侍女ですね…。
それでは6章3/3投下していきます。
ーーーーーーー
勇者「よ、無敵の男参上」
リア「勇者さん!」テッテッテッ
リア「とっっても素敵な闘技でした!楽しくてわくわくして…!私、勇者さんたちの旅についてきて本当によかったです!」
勇者「俺っちの勇姿ちゃんと目に焼き付けたかー?」
アッシュ「勇者様、貴方には感謝してもしきれません」
勇者「なーに言ってんだ先生。礼言うのはこっちだよ。先生のおかげで俺っちはここまで来れたんだ」
アッシュ「私はもう先生ではないですよ」ニコッ
勇者「サンキューな、アッくん」
ミント「……」ジー
ミント(自由に楽しそうに試合してた。あんな風に戦えたらもっと面白いのかな)
魔法使い「ん」(手を上げる)
勇者「?、あぁ」
パン(ハイタッチ)
勇者「言った通りだろ?」
勇者「約束は守る」ピース
魔法使い「…いっぱい待ったんだから」
「お、最強野郎じゃねぇか。いかす試合だったぞ!」
「決勝も面白いもん期待してるからなー!」
勇者「へへっ」
グローバ「よう」
勇者「グローバのおっさん!」
グローバ「ケチくせえじゃねえか、あんな隠し玉持ってたなんてよ」
勇者「奥の手は最後まで温存って、先生の教えさ」
グローバ「その割には随分めっためたにされてたがな、がはは!」
グローバ「んでよ、姫の体はどうだった?」
勇者「ん?んー…」
勇者「…剣の感触しか残ってねー」
グローバ「かー!何のために戦ってたんだい小僧」
グローバ「まあいい。直接確かめる楽しみが増したぜ」
グローバ「小僧、体貸しな」
勇者「えっ。おっさんまさかそっちのケが…!?」
グローバ「なわけねえだろ?ほれ」
ポワァ...
魔法使い「治癒魔法…?」
ミント「に、似合わな過ぎる」
勇者「おぉ、楽んなってく…」
グローバ「俺からの餞別だ。決勝の相手もそれなりに強えらしいが、またまた女だとよ」
グローバ「精力復活させとかんとなあ!わはは!」
ーーーーーーー
姫騎士「……」トットッ
姫騎士「……!」トッ...
侍女「……」
姫騎士「こんなところで待っていたのか?」
侍女「はい」
タッタッタッ
――ヒシ
侍女「…おかえり……姫ちゃん…」ギュー
姫騎士「……ただいま」
姫騎士(懐かしい呼び名だ)
姫騎士「私は、負けてしまったよ」
侍女「だから何だと言うんですっ…。それで何を失いましたか?」
侍女「あの敗北は、失ったものより戻ってきたものの方が大きいのですから…!」
姫騎士「…辛い思いをさせてしまったな。すまない」
侍女「」ギュ...
..カツ..カツ
姫騎士(…!)
王「……」
姫騎士「…お父様…」
姫騎士「優勝に届かず申し訳ありません。言い訳のしようもなく私の力不足が招いた失態です」
姫騎士「どのような処罰もお受け致します」
王「………」
王「よい」
姫騎士「…?」
王「よいのだ、姫騎士」
姫騎士「え…」
王「思えば、我が国は十分に豊かとなった」
スッ(背を向ける)
姫騎士(……)
王「…お前の部屋の花、枯れかけていたのでな。新しい株を増やしておいた」
王「好みに合うか、分からぬが」
姫騎士「!」
姫騎士「……うん、ありがとう」
ーーーーーーー
ザワザワ
ドヨドヨ
「押すなって、見えねぇだろ」
「押してねーよ」
ゾロゾロ...
ミント「人が多過ぎるぅ…暑苦しいよー」
アッシュ「例年の風物詩ですね。別会場の方々が決勝を見に集まってくるのです」
ミント「ね、アッシュ様。勇者くんのあの戦い方、私にも出来るかな」
アッシュ「どうでしょう。二週間の特訓を経たとはいえ、彼の才能と地力があってこそのものでしょうから」
ミント「特訓!?アッシュ様直々に!?」
ミント「それってお願いすれば私にもやっていただけるのでしょうか…!」キラキラ
アッシュ「そ、そうですね……今は少々時期が…」
アッシュ「!、そうです!魔法使い様にどうしてもお聞きしておきたいことがあったのです」
魔法使い「ん?」
アッシュ「元々勇者様の戦術は高い水準にありました。バーランド卿も仰っていましたが、とても優秀な師に教わっていたのだと思います。彼に稽古をつけていたのはどのような方なのですか?」
アナウンス『ただいまより、第5戦を行います。選手は入場してください』
魔法使い「そうね、あいつに闘技を教えてたのは――」
アナウンス『決勝戦。勇者、――』
魔法使い「あいつの母親なの」
アナウンス『勇者母』
魔法使い「優しいんだけど少し底知れないところがあってね……って」
魔法使い「えっ!?!?」
アッシュ「どうされました?」
勇者「なんで、母さんが…!?」
勇者母「あら、やっと会えましたね勇者♪」
勇者母「これ忘れていってましたよ」
(勇者の木剣)
勇者「え、あ、うん」
魔法使い「えー……」
リア「魔法使いさん?…もしかしてあの女の人…」
魔法使い「うん…あの人が勇者のお母さん」
アッシュ「それはそれは」
審判「両者前へ!」
審判「始め!」
勇者母「優勝に手をかけていたのですね。あなたのことですから少しだけ心配していたのですけど、やっぱりあなたは自慢の息子です」
勇者「…だろ?」
勇者「そうだろそうだろう!ちゃんと修行してたかんな!俺っち前よりずっと強くなったんだぜ!」
勇者母「そうですか!ではでは勇者の成長を母に見せてくださいな」ニコニコ
勇者母「審判さん、危ないので離れていてください」
審判「はい…?」
勇者母「まずは他の皆さんを巻き込まないように…」
勇者母「"結界"」
フォン
「うわぁ!?」
「なんだなんだ?こりゃガラスか?」
魔法使い「な、なっ…」
リア「見たことない魔法です……けど」
アッシュ「えぇ、私にも分かります。この魔力の強さは、ともすればレラ様より…」
ミント「鳥肌立ってきた…」
勇者母「さぁ、初めは準備運動ですよ。これから唱える魔法、しっかりと避けきってください」
...ゴゴゴ
勇者「え…母さんちょっと待って」
ビキ..バチッ..
勇者「魔法よく分かんねーけどさ、やばいやつじゃないのこれ…?」
勇者母「いきますよ勇者!」
勇者「ちょちょちょ、話聞いて――」
勇者母「"天雷"」
ピシャッ――
ズガァン!
バキバキバキ!バチンッ!
ゴロゴロ――ドゴォンッ!
「きゃあっ!?」
「ひぃぃぃ!」
魔法使い「何よこのでたらめな魔法…!?」
リア「ひぅ」(魔法使いに抱きつく)
アッシュ「こちらには来ないようになっているのでしょうが…」
アッシュ(本能的に防御反応をとってしまいますね…!)
バチ...
ピリ、ピリピリ...
勇者母「もうよいですね」
フォン(結界を解く)
勇者母「さて勇者、次はあなたの得意な剣を」
勇者「」チーン
勇者母「……あら?」
審判「し、勝者、勇者母…」
勇者母「やだ、つい…」
勇者母「少々張り切ってしまいました。お恥ずかしい…」
観客「「「………」」」
「あの女、鬼強え剣士じゃなかったんか…」
「俺が見た時はバリバリの格闘技で相手ぶちのめしてたぜ…?」
「あやつ何者じゃ…」
魔法使い「本当、何なのかしらね…」アハ..アハハ..
アッシュ「………」
ミント「か、神様の天罰…?」
勇者母(そういえばこの魔法、魔王ちゃんに使って以来でした。出力間違えないようにしないといけませんね)
ーーー夕方 宿ーーー
「「「いただきます」」」
魔法使い「ん~!おいしいわ!やっぱりアッシュさんの料理は最高ね!」
勇者母「感動です!世界広しと言いますがこれほど素敵な食事は初めてです」
勇者「……たく、意味分からん……どうして母さんが…あの反則魔法…」ブツブツ
リア「あ、あの勇者さん、こっちのもおいしいので…」
アッシュ「姫騎士様に勝利しただけでも誉れ高い戦果ですよ」
勇者「くぅぅ…!」
勇者母「そうですよ勇者。舞踊祭なら美しく舞えるように練習すればいいのです」
魔法使い「…わ、私はあんたがちゃんと迎えに来てくれただけで、その…」
勇者「前も言ってたけどさ、そのぶようさいって何?」
勇者母「舞踊祭は舞踊祭ですよ?皆さんの芸術点を競うお祭りでしょう」
アッシュ「闘技大会のことですか?」
勇者母「そうとも呼ばれてるみたいですね」ニコニコ
アッシュ「闘技大会は芸術を極めるお祭りではありませんよ。己の力、戦術を駆使して戦い、強い者を決定する催しです」
勇者母「まあそうなの?皆さん飛んだり跳ねたりしていましたからてっきり技の美しさを披露する場とばかり…」
魔法使い(いやいや見てればどういうものかくらい理解出来るでしょうよ)
アッシュ「…つかぬことを伺いますが、レラ様をご存知ですか?」
勇者母「レラ…あら、もしかしてレラちゃんのことでしょうか?懐かしいですね」
アッシュ(……ふむ)
魔法使い「そういえばアッシュさん、ミント…だったっけ?アッシュさんに張り付いてた人はどうしたの?」
アッシュ「彼女なら帰っていきましたよ」
魔法使い「意外ね。あの様子だとどこまでもついてきそうな感じだったのに」
アッシュ「えぇ、まぁ…」
ーーーーー
アッシュ「ミント様、貴族のご令嬢ともあろう方が、あまりご両親を困らせてはいけませんよ」
ミント「え゙!ど、どうしてそれを…」
アッシュ「昔、催事で貴女を見かけたことを思い出しました」
アッシュ(バーランド卿が教えてくれたのですが)
ミント「嬉しいのに素直に喜べないっ…!」
アッシュ「貴女の行動次第で、御家の風格は変わってしまうのですから。然るべき生活を送られている方の方が、私は好きですよ」
ミント「本当ですか!」
ミント「…私、帰りますっ!」
ーーーーー
アッシュ「少しお話ししたら、分かってくれました」
魔法使い「へぇ」
魔法使い「あ、リアちゃんほっぺにソース付いてる」フキフキ
リア「あうあう…」
魔法使い「お行儀よく食べなくちゃダメよ?」
リア「……魔法使いさん、以前から言おうと思ってましたけど……私のこと子供扱いしてますよね?」
魔法使い「え?…いやぁそんなことは…」
リア「むーっ。私の方がお姉さんなのに…!」
ガチャッ!
村長「聞いたぞ勇者!強者を退け優勝をもぎ取ったそうじゃの!」
魔法使い「村長さん!わざわざここまで来たの?」
村長「わざわざここまで来たんじゃ。賞金をもら――祝いの言葉をかけるためにの」キリッ
勇者「…俺っちは優勝してねー」
村長「なんじゃと?」
勇者「優勝したのは母さんな」
勇者母「……」ニコッ
村長「なんとそうであったか…!」
村長「あっぱれじゃ!親子共々村の復興に力を貸してくれていたとは!」
勇者「つーかじじいてめー騙してたろ!?優勝しても美女なんかついてこねーじゃんか!」
村長「優勝すれば女子の一人くらいお主に惚れる者が現れるじゃろうて。まるっきり嘘ではないぞ」
勇者「このハゲ…」
魔法使い「…勇者、あんたそんなことのために戦ってたの?」
勇者「い、いや大会始まる前にはそんなもんないって知ってたから」
アッシュ「あの特訓中の発言、そういうことでしたか」
リア「勇者さん…」ジト...
村長「こちらの方々は?」
魔法使い「旅の途中で知り合ったの。リアちゃんにアッシュさん、どちらも大切な人よ」
リア「えへへ」
アッシュ「そう言って頂けると嬉しいですね」
村長「旅は道連れ世は情け。うむ、良きかな良きかな」
勇者「ま、そいつは同意だぜ」
魔法使い「けど、二人はこれからどうするの?」
魔法使い「私たちは明日、自分の村に帰るつもりだけど」
リア「私も村に帰ります。ママとパパが待ってますので。勇者さんたちとお知り合いになれて、旅をすることができて幸せでした!」
魔法使い「私もよ」フフッ
アッシュ「私は…もう一度、あのお城の執事を願い出てみようかと考えています」
魔法使い「!…アッシュさんなら、出来ると思う」
アッシュ「ありがとうございます」ニコ
勇者「もーらい」ヒョイ、パク
魔法使い「あ!何すんのよそれ私の!」
勇者「ずっとお喋りしてたかんさ、もう腹いっぱいなのかと」
魔法使い「最後の一個だったのに……あんたの寄越しなさい!」
勇者「うわあぶなっ!身乗り出すやつがあるかって!」
勇者母「二人ともお食事の席では静かにしないといけませんよ」
ワーワー
.........
ーーー夜ーーー
ジャー
勇者「ちと飲み過ぎたな、トイレが近ぇ…」
勇者(…過ぎちまえばあっという間だったな、闘技大会)
勇者(明日から帰り旅か)
勇者(なんか…物足りねーんよなぁ)
ガチャリ(トイレから出る)
勇者「ん?」
魔法使い「あ」
勇者「わりぃ、待たせちまったか。ほら用足していいぜ」
魔法使い「違うわよ。というかデリカシーがないっ」
勇者「トイレじゃねーの?」
魔法使い「……」
魔法使い「勇者もさ、私たちが小さい頃、私に言ってくれたこと覚えてるのよね…?」
勇者「まぁ…忘れちゃいないさ」
魔法使い「そ、そう」
魔法使い(……)ドキドキ
魔法使い「…ねぇ!村に帰ったら……えと……私と……」
魔法使い「け、けけ、けっこ――」
村長「おや、お主たちも小便かの?わしはあまり飲み食いせんかったのじゃが、いかんせん歳じゃからのう」ホッホ
村長「すまんが先に入らせてもらうぞ」
ガチャ パタリ
勇者「じいさんさっきも入ってたよな。頻尿か」
魔法使い「………」
勇者「で、なんよ?」
魔法使い「…なんでもない。おやすみ」
勇者「?おう」
テクテク...
魔法使い(明日…明日言う)
魔法使い(絶対!)
ーーー翌早朝ーーー
...モゾ
勇者「……」
勇者「…うし」
ガサゴソ
.........
勇者「これで必要なもんはあらかた揃ったろ」
(大荷物)
勇者「…一人で運ぶの結構キツそう」
勇者「馬車とか買えねーかなー。はぁ…賞金が俺っちの手にあれば…」
勇者「いや違う。優勝出来なかったんだからこうして旅立つんさ」
勇者「何かが物足りねーと思ってた。優勝出来なかったのもそうだけど、そもそもナイスバディなかわい子ちゃんと甘い時間過ごすって目標完全に失念してたんよな」
勇者「…魔法使いに関しては…うん、母さんに勝てなかったわけだしまだ最強とは言えないから……1年くらい修行してからまた迎えに行けばいい」ウンウン
勇者「ということで、俺っちは新たなる旅へ繰り出すぜぃ」
勇者「みなさんお元気で~」ボソッ
...カチャ
勇者(さーて、最初は東の大国にでも行ってみようかね。噂じゃ美人の里があるとかないとか…!)
勇者(うへへ)
ナタリー「あれー?おにーさんどっか行くのー?」
勇者「いっ!?」
ナタリー「……」ポワー
勇者「な、なんだおどかすなよ」
ナタリー「ねーねー、たくさん遊んでくれるって約束したよねぇー。今から遊ぼ♪」
勇者「えーっと…今度な今度」
ナタリー「いつー?」
勇者「明日とか!」
ナタリー「くんくん……嘘ついてるにおいがするなぁー」
勇者(犬かよ!いやエスパーか?)
勇者「嘘じゃないって。男に二言はない!」
ナタリー「んー、ほんとかなぁー」
勇者(くそぅ…出鼻を挫かれるとはこのことか)
勇者(あんまもたもたしてるとあいつらより早起きした意味が…)
勇者母「あら勇者!言われなくても早く起きられるようになっていたのですね。感激です」
勇者「か、母さん…!」
村長「なんじゃい朝から騒々しいのぅ」
リア「どうかしたんですか…?」
アッシュ「皆様お早いですね」
勇者(やべぇやべぇ、この流れはどう考えても…)
勇者「あ…」
魔法使い「……」ニコニコ
勇者(…ですよね)
魔法使い「どこ行くの、勇者?」ニコニコ
勇者「ちょいと散歩に…」
魔法使い「そーんな大荷物で~?」
勇者「これは重量トレーニングも兼ねて…」
魔法使い「勇者、今正直に言えば許すわよ?」ニコニコ
勇者「……………」
勇者「…散歩ですー!」ダッ
魔法使い「待ちなさい!!」ダッ
ナタリー「あはー、追いかけっこだー」ピョン
村長「散歩とな。どれ、わしも始めてみるかの。あわよくば髪にも効果があるかもしれぬ」テクテク
勇者母「朝食までには戻るのですよー!」
アッシュ「彼らといると退屈しませんね」
リア「ふふっ、本当に仲良しさんですよね」
魔法使い「このぉ!また一人でどっか行こうとしてたでしょ!」タッタッ
勇者「ただの武者修行だって!」タッタッ
魔法使い「嘘!どれだけあんたのこと見てきたと思ってんの!?」
魔法使い「止まんないと焼くわよ!」
勇者「止まったら?」
魔法使い「燃やす!」
勇者「変わってねー!」
勇者(ほんの出来心だってのに!魔法使いのやつ――)
勇者(最凶過ぎんだろ!?)
ー続く?ー
これにて完結となります。
この物語の大枠は松本大洋の「ピンポン」に強く影響を受けています。
気が向いたら続くかもしれません。
ここまで読んでくださった方、安価に参加してくれた方、ありがとうございました。
>>396
続きを書くとしたら、出し切れなかった設定や残していった伏線を回収しつつ書いていこうと思ってます。
最後の最後で安価指定ミスしてますね…恥ずかしい
このSSまとめへのコメント
このSSまとめにはまだコメントがありません