男「いらっしゃいませー」 (11)
男「ああ、コンビニバイトだりぃなぁ……」
男「そう言えば商学部の奴が残業は分刻みで計算しないといけないって言ってたの本当なのかな。本当だったら俺、店長に二万円近く請求できるはずなんだが」ブツブツ
女「す、すいませんこれください!」
男「あ、すいません考えごとしてまして……、いらっしゃいませー」
【うなぎソーダ】【うなぎソーダ】
男(うわあ……よくこんなマズそうなジュース、二本も買う気になれたな。おめでとう、きっとキミはこのジュースを買った世界で最初の人間だよ)
男「こちら二点で二百六十円のお買い上げになります」
女「せ、千円からでお願いします」
男(小銭ねーのかよクソが)ピッピッ
「七百四十円のお返しです。ありがとうございましたー」
女「あ、あの、おつかれさまです。一本どうぞ///」スッ
男「え? あ、ああ。ありがとう」
女「///」タタタッ
男「…………」チラッ
【うなぎソーダ】
男「……なんだこれ」
男「疲れた疲れた。時給八百円にあれだけの密度を求めるんじゃねーよクソが」
男「でもさっきのあれは名案だったな。狡猾、豪傑、さすが俺」
男「うなぎジュース返品したおかげで、に百三十円もうかったぜ」
男「一瞬飲もうかと思ったけど、原材料名の一番上がうなぎだったもんな、あれはキチガイだわ」
女「……」ジー
男「あれ、あの女……さっきのうなぎ女じゃあ」
女「あ、ああバイトの人! 偶然ですね、ええ、偉く偶然です。これは間違いなく偶然ですよ」アセアセ
男「……そりゃまあ、コンビニと駅の間の通り道ですし合いますよ」
女「でも違いますよ! 私はここで張り込んでいたわけではないんですよ!」
男「お……おう」
男(え、なに? こいつストーカーじゃねひょっとして?)
女「あ、あの、最近よく会いますね」
男「え? そうかな」
女「一週間前は駅ですれ違いましたし、その次の日はスーパーで見ましたし、その次の日はコンビニで……」
男(あっ、これストーカーだわ)
女「その次の日はコンビニでその次の日はコンビニでその次の日は……」ブツブツ
男「それ、お前がコンビニに来てるだけだよね」
男「え、なに? ストーカー?」
女「違いますよっ! 泥棒がアイアムシーフって言いますか?」
男「やべえストーカーだ」
女「違いますっ、言葉のあやです。違うんです」ガシッ
男「わ、わかったから手を離せ」
女「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい……別に困らせようとかそういうのじゃあなくて……」ヒグッヒグッ
男「わ、わかったから泣くなって」
女「ひとつだけ答えてください……その」
「うなぎソーダ、おいしかったですか?」
男「…………あ、いや、その」
女「…………」ジー
男「……おいしかったです」
女「ほんとうに?」パッ
男「はい、そりゃもう本当に」
女「……ありがとうございます」ニコッ
「それでは、また、いずれ」
男「お、おう」
女父「占い師よ。お前のあの話、本当なのだろうな」
占い師「女父さん、わたくしの占いが外れたことが今までにありましたか?」
女父「しかし……」
占い師「間違いありませんよ。あのうなぎソーダについて訊かれて、おいしかった、と答えた人間が女お嬢様の運命のお相手です」
女父「……そうか」
占い師「それよりいいんですか? わたくしの占いでは、女お嬢様とその運命のお相手がめぐりあったとき……」
女父「……わかっているさ。娘の幸せを一番に考えられないでなにが父親だ」
占い師「ごりっぱな御返事です。だからこそ、わたくしはあなた様の下で働いているのですから」
トントン
女「あの……お父さま?」
女父「ああ女か、入れ」
女「私見つけたの、運命の相手……」
女父「本当かっ? いやしかし、全国のうなぎソーダを売っている店のデータはすべて流してもらっているが、お前以外にあれを買った人間などいないはず……」
女「私がプレゼントしたんです。そしたらあの人、おいしかったって……///」
女父「そうか……ついに運命の相手が見つかったか。うなぎソーダを全国販売して早数年、ようやくその相手が……」
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