パパデュラハン『病院だよゥッッ!』
ママデュラハン『もう産まれて一年近く経つのに一向に首が取れる気配がないんです!!』
医者『お母さん、よく聞いてください。この子は先天性頸椎癒合症です』
ママデュラハン『ああ、なんてことなの…』
医者『とはいえ、首が繋がっているだけで命に別状はありません』
パパデュラハン『デュラハンなのに首が取れないなんて…』パコッ(首を取る音)
医者『息子さんは、人間界で人間に近い暮らしをさせた方がいいかもしれませんね』
ママデュラハン『人間界で…』
……
寺山「そうして産まれたのが僕」
俺「いくらハロウィン近いからって嘘が雑すぎない?」
第一話 寺山君と俺
寺山「本当だよ!!」
俺「それが本当ならここは異世界でしょ」
寺山「信じてないね?」
俺「そりゃウイイレやりながらデュラハン宣言されてもジョークにしか聞こえないよ」
寺山ママ「うふふ、俺くんいらっしゃい」
俺「あ、どうもお邪魔して…」
寺山「お母さん、首取って!!」
寺山ママ「あら? 別にいいけどどうして?」パコッ(首の取れる音)
俺「まままままままままままま…!!!」ガクガク
寺山「ほら、ね?」
俺「病院だよゥッッ!!」
寺山ママ「あらあら、俺くんデュラハンは初めて?」
俺「キエエエ喋ったァァアァァ!!」
寺山「そりゃ喋るでしょ」
俺「喋らないでしょ! 首無いのに喋らないでしょ!!」
寺山ママ「お菓子とジュース、ここに置いていくわね」
俺「ありがとうございます!!」(条件反射)
寺山「ありがとー」
俺「……? は…? えっ何これ? ひょっとしてウイイレのバグお母さんに感染った?」
寺山「どうもこうも、今見た通りだけど?」
俺「今見た通りだったらお母さん故人でしょ!?」
寺山「別に珍しいことじゃ無いと思うけどなあ…」
俺「えっ、何これ俺はいつ異世界転生してきたの? お前のお母さん敏腕マジシャン? 引田天功?
寺山「誰それ?」※分からない人はオッサンに聞いてみよう
俺「いくらなんでもこんな身近に妖怪の類がいてたまるか。絶対ドッキリに決まっ」
寺山「お母さん首ー」
寺山ママの首「もう、お友達に見せたってしょうがないでしょ?」
俺「マァアァァアァァァァアァァ!!!」ガクガク
寺山ママの胴「ほら、ビックリしちゃってるじゃない」
俺「キエエエ喋ったァァアァァ!!」
寺山「だから喋るって」
……
俺「…どうしよう。ビックリしすぎてちょっと漏れちゃったかもしれない」
寺山「人の部屋でやめてよ…」
俺「まさかこんな身近に、人外の友人がいただなんて…」
寺山「うちの学校結構人間じゃない子いるけど?」
俺「そんなB級ホラーみたいな学級ある?」
俺がこの街に越してきて、初めて友達になったのが寺山君だった。
彼は新しい学校に戸惑っていた俺に声をかけてくれ、同じサッカーが趣味ということで仲良くなったのだった。
彼と出会ってから、もう1年が経とうとしていた。
寺山「そんなに怖がらなくても…」
俺「いや怖いよ…デュラハンがサッカー趣味とか、それもう意味合いがちょっと違ってきちゃうじゃん…絶対ボールの代わりに人の生首使うやつじゃん…」
寺山「偏見~」
俺「凡そ常識の範疇でないことに遭遇して俺は今混乱のあまりこのチョコパイの味も分からんよ…!」ガサガサ
寺山「それは包装ごと食べてるから」
俺「俺は今までこんな恐るべきモンスターと交友関係を築いていたのか…」
寺山「なんか傷つく言い方だなぁ…」
俺「…とりあえずちょっと落ち着いてきた」
寺山「まさかそんなにビックリされるとは思わなかったよ」
俺「何ならさっきよりパンツ濡れてるもん」
寺山「やめてよ…トイレ行ってよ…」
俺「もう怖くて一人でトイレ行けない!!」(半ギレ)
寺山「大丈夫だよ~」
その夜…
俺(まさかアイツがデュラハンだったなんて…今考えても信じられん…)
俺(でもお母さんの首取れてたもんな…もうトリックなんて言い訳ができないくらいのレベルで取れてたもんな…)
俺(デュラハン…そもそもデュラハンってどんな存在なんだ…?Wikipediaで調べてみよ…)
Wikipedia「デュラハン(Dullahan, Durahan, Gan Ceann)は、アイルランドに伝わる首のない男の姿をした妖精 [1]。 」
俺「妖精なんだ…」(シンプルな驚き)
Wikipedia「コシュタ・バワー(C?iste-bodhar)という首無し馬が引く馬車に乗っており、片手で手綱を持ち、もう一方の手には自分の首を持ち、ぶら下げている[2]。 バンシー(banshee)と同様に「死を予言する存在」であり、近いうちに死人の出る家の付近に現れる。 そして戸口の前にとまり、家の人が戸を開けるとタライにいっぱいの血を顔に浴びせかける。」
俺「」
Wikipedia「『首なし騎士』とも呼ばれ、文字通り首の無い騎士の姿をして、首無し馬に跨ったアンデッドとして描かれる[3]。 デュラハンは家の戸口の前で家族ひとりを指さしてその死を予言する。 そして、一年後に再び現れて予言した相手を殺害する[3]。」
俺「やだあああああああ!!! どっちかっていうと悪霊寄りの存在じゃん!!!!」
俺「俺そんな奴とウイイレしてたの!? 怖っわ!! もう夜中にトイレ行けない!!」(全ギレ)
<ピンポーン…
俺「ヒイッ!!」ジョロッ
寺山<俺くんいるー?
俺「あわわわわわ…」ガクガク
寺山<スマホのケーブル忘れてったよー
Wikipedia「自分の姿を見られる事を嫌っており、姿を見た者はデュラハンの持つ鞭で目を潰される。 だが、コシュタ・バワーは水の上を渡る事が出来ないので、川を渡ればデュラハンの姿を見ても逃げられる」
俺「目がああああああああ!!!!」ブルブル
妹「お兄ちゃんお友達来てるよ」
俺「いないって言って!!」
妹「今開けます」ガチャ
寺山「あ、どうもー」
俺「やだあああああああああああああ!!!!!」
寺山「はいこれー…女の子の声がすると思ったら妹さんか~」
妹「はい。兄がいつもお世話になってます」
寺山「いえいえこちらこそ」
俺「あわわあわわ…」ガクガク
妹「わざわざ家までありがとうございました」
寺山「ううん、いいよいいよ。散歩のついでだし気にしないでー。じゃ、おやすみなさい」
妹「はい。おやすみなさい」
俺「ヒィ!!!」ヘタリ
妹「お兄ちゃん何やってんの?」
俺「あいつ人間じゃないの!!」
妹「はぁ」
俺「デュラハンなの!!」
妹「私先お風呂入るね」
俺「お願い今夜は一緒に入って!!」
妹「変態」
俺「一緒じゃなくてもいいからせめて風呂の近くにいて!!」
妹「変態」
つづく
第二話 吸血鬼、夜を駆ける
寺山「おはよー」
俺「アバダケダブラ!!」
寺山「いま何か詠唱したでしょ」
俺「それがお前のコシュタ・バワーか…」
寺山「この自転車のこと?」チリリン
俺「もうダメだぁ…おしまいだぁ…一年後に俺はお前に殺されるんだぁ…」
寺山「だからそんなことしないって。急がないと遅刻するよ」
俺「アバダゲダブラ!アブラカタブラ!!アブラゲダバダ!!!」
寺山「だから効かないって…あと徐々に呪文間違えてきてるよ」
…
寺山「昨日も言ったけど、この学校には人間じゃない子いっぱいいるんだって」
俺「何も知らずに俺はそんな妖怪学級に転校してきてしまったのか…」
寺山「例えばほら、2組の月舘さんは半分ヴァンパイアだよ」
俺「えっ」
寺山「確かお母さんの血筋がそっち系で…」
俺「ヴァンパイア…? マジかよかっこいい…」
寺山「僕の時とリアクション違わない?」
俺「ヴァンパイアっていったら…アーカード枠じゃん!!」
寺山「漫画の話?」
俺「月舘さんか…イメージ通りのクールビューティだ!!」
寺山「確かに可愛いよねえ」
俺「首が取れるうえに死の宣告をしてくる化け物とは大違いだ!!」
寺山「ねえ君の中でデュラハンとヴァンパイアに対する価値観の温度差凄いことになってない?」
俺「夜を統べる者だよ!!」
寺山「なんか納得いかない反応だなぁ…」
…
俺「ただいまー」
妹「おかえり」
俺「何見てんの?」
妹「プリキュア」
俺「そんなお前高1にもなって」
妹「高3にもなって妹にお風呂付き添ってもらった人に言われたくない」
俺「返す言葉もねえや」ホロリ
妹「あーあ私だって、プリキュアになれるもんならなりたいぜ」
俺「何それ。ブスの悲しみ川柳?」
妹「ほんとだ五・七・五になってるじゃん。下の句つけとこ」ブベベベベベベ ブボボボボ
俺「お前年頃の女子がそんな連屁かましてどの口がプリキュアになりたいとかいうの」
妹「最近出てなくて。運動しないと」ポンポン
俺「妹のお通じ事情とか知りたくないから。とりあえず窓開けて地味に臭い」
妹「あら、秋の風が涼やかですわね」ガラガラ
俺「今更淑女ぶっても取り返しつかねえって」
妹「あっやば」
俺「どしたの?」
妹「今日バイトのシフト入ってた」
俺「プリキュア見てる場合じゃないじゃん」
妹「晩ごはんカレーあっためて。冷蔵庫のプリン勝手に食べたら暴動が起きるよ」
俺「じゃあ今のうちに武器と防具揃えとくわ」
妹「食べる前提で話を進めるな」
俺「気をつけて行ってこいよ」
妹「はーい」
…
妹「お疲れ様でーす」←バイト上がり
妹「はー疲れた…もう外真っ暗じゃない」
妹「寒…あっ、月が綺麗」
妹(そういえば今年のハロウィンは満月とか言ってたっけ…)
妹「ハロウィン、か…」
?「キャーーーーーーー!!!」
妹「えっ?」
プリウス「ヴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」(急発進HV特有のモーター重低音)
妹(えっ、ちょっ…嘘でしょ…)
妹「お母さ…」
?「危ない!!」
妹「うわあっ!?」
ミサイルと化したプリウス「アアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」ギャギャギャドカーン!!
<車がコンビニに突っ込んだぞ!!
<怪我人はいないか!!?
ガヤガヤザワザワ…
妹「ひ…ひいぃ…」ガクガク
?「危なかったわね…怪我はない?」
妹「は、はい…」
妹(やだ…この人、おっぱいがついてるけどイケメン…)トゥンク
?「良かった…最近はこういう事故が増えてるから気をつけないとね…」
妹「ど、どうもありがとうございます!」
?「それじゃあ」
妹「あ、あのっ…!行っちゃった…」
妹(あの制服…お兄ちゃんの学校のだ…)
妹「…とりあえず帰ったらパンツ替えよ」←ちょっと漏らした
妹「…というようなことがありまして」
俺「なっ…おまえあの事故の現場にいたのかよ!?」
妹「危なかった」
俺「本当だよ!その話聞いただけで俺もうプリン吐きそうだよ!!」
妹「食ったな」
俺「しかしまぁ、よかったよ…そんな状況でよく助かったな…」
妹「実質プリキュアに助けてもらったようなもの
だった」
俺「助けてくれた人の名前聞かなかったのか?」
妹「うん…すぐに居なくなっちゃったから。でもお兄ちゃんの学校の制服着てたよ」
俺「マジで!? えっ、どんな格好だった?」
妹「えーと、髪が長くて…お団子がついたツインテールの…」
俺「ふむふむ」
妹「おっぱいが大きい…」
俺「…ポケモンBW2のメイ?」
妹「ポケモンやったことないから知らない」
俺(あれ、それってひょっとして…?)
翌日
俺「あのー…月舘さん」
月舘「はい?」
俺「ひょっとして、昨日車に轢かれそうになった女の子を助けたりしませんでした…?」
月舘「ええ…どうしてそれを?」
俺「やっぱり! 実はあれ俺の妹で!」
月舘「あら、そうだったの!」
俺「やっぱり月舘さんだった!! 妹を助けてくれてありがとう!!」
月舘「いえいえ、たまたま通りかかっただけよ」
俺「いやもうホントなんとお礼を申し上げれば良いのやら…」
月舘「妹さん、大丈夫だった?」
俺「はい! まあちょっと、流石にビビってちょっと漏らしてたみたいだけど…」
月舘「そういうのは言わなくていいの。それなら良かった」
俺「なんでも、月舘さんが目にも止まらぬ速さで妹を庇ってくれたとか…」
月舘「あはは、とにかく必死だったからね」
俺「それで、その、いきなりこんなこと聞くのもなんですが…頭おかしいと思わないでくださいね?」
俺「ーー月舘さんって、ヴァンパイアなんですか?」
月舘「うん」
俺「即答ゥー!!」
寺山「ねーだから言ったでしょ?」
俺「デュラ山!!」
寺山「混ざってるよ」
月舘「なるほど。寺山くんから聞いたのね」
俺「うん…最初は俺も信じられなかったんだけど…」
月舘「ふふ、無理もないわね。普段は私たちも人間として暮らしているから」
俺「かっけぇ…人の身となって世を忍ぶヴァンパイアかっけぇ…」キラキラ
寺山「なんでそんなにヴァンパイア推しなの?」
俺「とにかく、何かお礼でも!」
月舘「そんな、別にいいよー」
俺「飯でも奢るんで!! 駅前の二郎系ラーメンとかどうです!?」
寺山「ヴァンパイアにニンニクマシマシを勧めるのはおかしいでしょ。そもそも女の子にお礼するのに二郎系ラーメンなのもおかしいでしょ」
月舘「…あ、じゃあちょうど良いから一つお願いしたいことが」
俺「何なりと!!」
その夜
俺「ここは昨日の事故現場…?なんでこんなところに?」
月舘「最近この辺りで事故が頻発してるの、知ってる?」
俺「うーん、知らない。お前は?」
寺山「確か2週間くらい前にもここでバイクの事故があったような…」
月舘「どうやらこの辺に良くないモノが憑いちゃってるみたいなの」
俺「すげぇ!! そんなことも分かるの!? やっぱヴァンパイアってすげえ!!」
寺山「ひょっとして、それで最近ここに通ってたとか?」
月舘「そう。そしたらたまたま俺くんの妹さんが事故に遭って…咄嗟に助けたはいいけど、それで犯人を逃しちゃってね」
俺「ひょっとして、悪霊退治ってやつ!?」
月舘「そんなとこだね」
俺「かっけぇ…マジでプリキュア活動じゃん…」
寺山「俺くんプリキュア見てんの?」
俺「いや妹が」
寺山「なるほど」
俺「それで、俺達は何をすればいいの!?」
月舘「2人には周りで事故が起きそうな気配がないか見張っててほしいの」
寺山「でも、そんなに頻繁に何か起きるものなのかなぁ」
月舘「ええ。昨日はたまたま大きな事故だったけど、小さい事件はここ最近ほぼ毎日のようにここで起きてるわ」
寺山「例えば?」
月舘「誰かが財布を落としたり、極小隕石が降ってきたり…」
俺「事象のブレ幅でかくない?」
月舘「とにかく私一人だと見張りに割くリソースが大きすぎて、犯人を見つけても対応が遅れるっていうのが正直なところだったわけ」
寺山「つまり僕たちが捜索して、見つけ次第月舘さんが即対処するってことだね」
月舘「うん、そういうこと」
俺「協力プレイlか…なんだか俄然盛り上がってきたな」
月舘「とはいえ、昨日みたいな事もあるから無理はしないでね」
俺「とりあえず俺たちはあの歩道橋の上からあたりを監視するのはどう?」
寺山「そうだね。あそこなら見渡しもいいし」
月舘「じゃあ、お願いね」
…
俺「しかし、月舘さんもヴァンパイアとはいえ毎日こんなことしてたのか…」
寺山「こっち側の問題で人間界に悪い影響を与えると、僕らとしてもあまり良くないことだからね」
俺「そんなもんなのか…というか今考えると、当たり引いて隕石降ってきた日にゃなす術ないなこれ」
寺山「月舘さんはああ見えて悪霊退治のプロフェッショナルでもあるからね。噂じゃ使い魔なんかも使役できるとか…」
俺「じゃ使い魔に見張らせれば…ってこんな街中じゃそうもいかないか。ところでそういうデュラ山は何か特技あるの?」
寺山「…」
俺「あっゴメン…お前はほら、えーと…アレよ、ウイイレが…やや上手い…あと家で出てくる菓子盆が豪華…」
寺山「なんか悲しくなってきた…」
…
俺「寒ー…もうかれこれ2時間近くいるけど何も起きる気配がないな」
寺山「月舘さんのお手伝いとはいえ疲れてきたねぇ」
俺「暗くもなってきたし…もうスマホの充電切れそう」
寺山「ちゃんと見張ってなきゃ」
俺「ちょっと、あそこの自販機で暖かい飲み物でも…」
<ギュオオオオオオオオオ!!
俺「ん?」
寺山「うわわ!トラックのタイヤがこっちに飛んでくる!!」
俺「ちょ、避け…」
タイヤ<ドガシャアァ!!
寺山の首「」ゴロン
俺「う、うわあああああああああああ!!!!」
寺山の胴「た、助かった…」
俺「助かってない! 助かってないよ!! 首いっちゃってるって!!」
月舘「いた!!」シュッ!!
悪霊「グギャアアアアアアアアアア!!」シュウウウ…
俺「あ…月舘さんがナイフを投げた先に何かいる!?」
寺山の胴「これどうやって首つけるんだろう…」
俺「知らないよ! デュラハンの専売特許だろ!!」
寺山の胴「お母さんにちゃんと聞いておけばよかった…」
月舘「終わったよー。2人とも大丈夫?」
俺「え、ええまあ…若干1名首なしもげちゃいましたが…」
月舘「巻き込まれたのが寺山くんだけでよかった…」
俺「冷静に振り返ると俺も生命の危機迎えてたんだよな…やべえ今になって怖くなってきた」
寺山の胴「わあ首がなくても周りの様子分かるんだ! 今ならファン・マタみたいな目隠しFKできそう!!」
俺「首なしFKはプレミアが震撼するからやめろ」
月舘「確認したけど、やっぱり低級霊の仕業ね」
俺「分かるの?」
月舘「まあね~、この程度の悪霊ならこの法儀式済みナイフさえあれば楽勝ね」
俺「ヴァンパイアの退魔師とか少年誌の主人公みたいなことになってるね!」
月舘「こういうことは、『対処』できる人がやらないとね」
俺「月舘さんカッコイイー! 本物のプリキュアみたい!!」
寺山の胴「それじゃあ、夜になった事だし帰ろうか」
俺「お前は早く首つけろって」
つづく
第三話 盆と正月
妹「お菓子をくれないとイタズラするぞー」
俺「じゃあこないだ準備した武器と防具準備しておくか…」ガチャガチャ
妹「本当に用意してたの? そこまでするなら自分でプリン買った方が早くない?」
俺「一応ほら、ハロウィンの仮装用も兼ねてね?」
妹「えっ、もしかして仮装パーティーとかに呼ばれてるの!?」
俺「パーティーとかじゃないよ。ただただ友達と仮装して街を練り歩くことで高校生のうちにハロウィンっぽい想い出を残しておこうっていうギリギリの判断だよ」
妹「いいじゃんいいじゃん楽しそうー! 私も行くー!!」
俺「じゃあ準備しな」
寺山君の家
<ピンポーン
俺「寺山~来たよ~」
鎧「い、今行くよ~」ガッシャンガッシャン
俺「なんだその甲冑。魔界村のコスプレ?」
寺山「うちに伝わる由緒正しい正装だって…お父さんがデュラハンならこれを着ろって」
俺「1人だけ飛び抜けたクオリティの格好すんのやめてよ。俺なんかビレバンで買ったジャックオーランタン型のLEDとなんか槍しか持ってきてないぞ」
妹「私は魔女のカッコしてきた~」
寺山「妹ちゃん可愛いね。はい、お菓子あげるねー」
妹「わーいありがとうございます!!」
俺「じゃあ駅の方向かおうか」
寺山「うん」ガッションガッション
俺「…こんなガチの甲冑着て街中練り歩いてたら職質されるんじゃないか?」
寺山「駅前の商店街で仮装大会やってるから大丈夫だと思う…多分…」
妹「何かあったら私たちから説明すれば大丈夫でしょ! ねー早く行こうよー」
俺「ま、なるようになるか…ほら寺山行くぞー」
寺山「待ってよ、これ結構重いんだよぉ…」ガッシャガッシャ
駅前商店街
妹「わー結構いろんな格好してる人いるねー!」
俺「みんな思ったより気合入ってるな」
寺山「この街は昔からこうなんだよ~。…何せほら、住人が住人だからね」
俺「そういうことね…なんなら俺の仮装がしょぼすぎて、ハロウィンの前の日に衣装準備してる途中の人のコスプレみたいに見えてきたな…」
妹「あっ、お兄ちゃん! あれ月舘さんじゃない?」
俺「あ、ホントだ」
妹「カッコいいー! ヴァンパイアの衣装かな!?」
俺(あれも正装かな?)ヒソヒソ
寺山(多分ね…お母さんのお下がりとかじゃない?)コソコソ
俺(そっか…まるで成人式とかの着物みたいな扱いだな…)
妹「月舘さ~ん!!」
俺「こんばんは~」
月舘「あら、こんばんは。今日は妹さんも一緒なのねー」
妹「この間は危ないところを助けてくれてありがとうございます!! 月舘さんの衣装すっごくカッコいいです!!」
月舘「ありがとう。アナタのエナン(魔女帽子)も素敵よ。似合ってるわ」
妹「あ…ありがとうございます…」トゥンク…
寺山「やっぱり仮装した女の子同士だと華があるねぇ」
俺「かたやこっちは鎧とハロウィン前日の人だもんな。予算の使い方間違えた実写版鋼の錬金術師みたいになっちゃってる」
寺山「月舘さんも一緒に歩かない?」
月舘「いいわよ。でもちょっと待っててね。今人を待ってるの…もうすぐ来ると思うんだけど…」
狼男「いたいた」
月舘「エルー!!」
俺「なんか犬耳のイケメンきた」
寺山「彼氏さんかなぁ」
妹「」
月舘「あ、皆紹介するわね。彼の名前はエル。まあ、私の親戚のお兄さんみたいなものね」
エル「初めまして。この子がいつもお世話になってます」
俺「あっ、いえこちらこそ…」
月舘「今日は友達と一緒なの!一緒に歩こうよ!」
エル「うん、いいよ。ふふ、皆仮装が似合ってるね」
俺「俺は槍とランタンだけですが…」
妹「エルさんはそれ狼男のコスプレですか?」
エル「まあ、そんなとこかな?」
妹「すごーい! 本物の犬耳みたーい!!」
<トリックオアトリート!!
俺「おー商店街中結構盛り上がってるんだね。去年は引っ越してきたばかりでハロウィンどころじゃなかったからなあ」
寺山「毎年こんな感じだよー。人数は渋谷ほどじゃないけどね」
俺「あそこは半分魔境になっちゃったからな…へー。お店の飾り付けも気合はいってる」
寺山「お店によってはその家に伝わる飾り物があるからねえ。この商店街のお店半分くらいは魔族系のお店なんじゃないのかな?」
俺「むしろこの街が本物の魔境だった」
月舘「ところでエル、カッツェは元気なの?」
エル「うん。最近は寒くなってきたから引きこもってるけどね~」
月舘「そっか…最近合ってないな」
妹「親戚さんのお話ですか~?」
月舘「うん。カッツェはねエルと一緒に私が子供のころからずっと遊んでくれてたの」
エル「カッツェにテレビ通話できるか聞いてみようか」
月舘「うん、したいしたい!」
エル「…いま準備してるみたい」
月舘「わー久しぶり~!」
妹「その…カッツェさん? は一緒に来なかったんですね」
エル「彼女は寒いのもそうだけど人混みが苦手だからねぇ…先月にはもうコタツ出してくるまってたし」
妹(早くね?)
俺(早くね?)
エル「繋がったよー」
カッツェ『こんばんは』
月舘「カッツェ~久しぶり!!」
妹「猫さんのコスプレしてる!!」
寺山「ケットシーかな?」
俺「家に引き篭もっててもコスプレはするのか…それにしてもすっごい美人」
妹「月舘さんちの血筋はイケメンばっかですね! 羨ましい! お菓子もイタズラ要求もしちゃうぞ!!」
カッツェ『新しいお友達かしら? フフ、そっちも元気そうね…』
月舘「カッツェこそ一年に一回なんだからたまには会いに来てよ~」
カッツェ『嫌よ寒いもの…エルと違って私は家にいるのが好きなの』
妹「え~、せっかく可愛い仮装してるのにもったいなーい!」
寺山「…ん?」
俺「どうかしたのかデュラ山田氏」
寺山「エルさんとカッツェさんのアレ…ひょっとしたらあれ、コスプレじゃないかも」
俺「マジで? まあ吸血鬼の親戚っつったら驚きはないけど」
…
妹「あー今日は色んなコスプレも見れたしお菓子も貰えたし楽しかった~!!」
俺「まるでお盆祭りみたいな雰囲気だったな」
月舘「意外と合ってる表現よそれ。ハロウィンって言うのは、もともとはケルト民族に伝わる死者の霊が現世に帰ってくる日のことだから」
俺「なるほど、西洋のお盆ってわけね」
月舘「そんなとこかな?」
寺山「そういえば、もう亡くなってる人もちらほらいたね~」
俺「急に怖いこと言うな」
妹「寺山さんそういうの視える人なんですか!?」
寺山「はは、冗談だよ冗談~。ハロウィンジョーク!」
妹「寺山さんトリック上手!」
俺「お前が言うとガチにしか聞こえないわ…」
月舘「じゃあエル、向こうの皆にもよろしくね」
エル「うん、分かった。そっちも身体には気をつけるんだよ。あまり無茶はしないようにね」
妹「エルさんお菓子ありがとうございます!!お手!!」
エル「ワン!」ポフ
俺「こらやめなさい」
月舘「フフ、エルも妹さんと遊ぶのが楽しかったみたい」
俺「ならいいけど…」
月舘「…実はエルとカッツェはね、むかし私のおばあちゃんの家で飼っていた犬と猫なの」
俺「あっそういう…」
寺山「やっぱりね~」
月舘「私が子供の頃に2人とも死んじゃったんだけど…さっきも言ったように、ハロウィンの日はこっち(現世)に戻ってこれるのよ」
俺「なるほど…」
月舘「一年に一回しか会えないからね。色々話たかったんだけど、今年は妹さんにエルを取られちゃったわね」
俺「なんかすみません…」
月舘「フフ、いいのよ。エルも楽しそうにしてたし」
寺山「他の人も皆帰り始めたね」
俺「まるで盆と正月がいっぺんに来たような騒ぎだったな…」
月舘「それじゃあ、私たちもそろそろ家に帰りましょうか」
寺山「そうだね~」
俺「ほら、帰るぞー」
妹「今日はめちゃくちゃ楽しかったー!! また来年も来ようねお兄ちゃん!」
俺「ああ、そうだな」
つづく
第四話 よぶこえ
『お母さん! お母さん!! 起きてよぉ!! 目を開けてよ!!!』
『…』
『お母さあ゛ぁ゛あ゛ん!』
俺「!!っ…またこの夢か」
俺「母さん…」
…
寺山「おはよーう」
俺「ああ、おはよ…」
寺山「なんか顔色悪いよ。寝不足?」
俺「ま、そんなとこ…」
寺山「無理せず保健室で休んでたら?」
俺「大丈夫、そこまでじゃない…授業中の居眠りでリカバリーする」
寺山「それはそれで失うものが多いでしょ」
授業中
先生「というわけで、この公式を使って…」
俺「…」
俺「…母さん!!」ガタッ
クラス一同「!?」
俺「あっ」
先生「お前寝てたな? 授業中居眠りはダメだしあと先生はお前のお母さんじゃないぞ?」
クラス一同「プークスクス」
俺「す、すみません!!」
…
寺山「悪夢?」
俺「あー…ここんとこずっとね…」
寺山「ひょっとして、それで寝不足が続いてるの?」
俺「かもな…ていうかさっきの寝言でクラス中にマザコン疑惑たったの悲しい」
寺山「そういえば俺くんのお母さんって会ったことないなー」
俺「もういないよ。俺が中学の頃事故で死んだから」
寺山「あっ…ゴメン…」
俺「別にいいさ。…で、今は親父とあの馬鹿(妹)の3人暮らし。といっても親父も出張続きでなかなか家に帰ってこないけど。かえって気が楽だよ」
寺山「ひょっとして悪夢って…お母さんが事故で亡くなった時のこと?」
俺「ああ…」
寺山「そっか…そういうことなら月舘さんに相談してみたらどうだろう」
俺「月舘さんに?」
寺山「まあ原因はともかくとして、もしかすると彼女ならなんとか出来るかもしれないよ」
俺「確かに悪霊退治する不思議な力はあったもんな…でも、いきなりこんな話して引かれないかな?」
寺山「大丈夫だよ~」
月舘「…なるほど。ここのところずっとその夢が続いているとなると、それは夢魔か何かの仕業かもしれないわね」
俺「夢魔?」
月舘「サキュバスとかナイトメアって聞いたことない?」
俺「あるけど…」
月舘「そういう悪魔はよく人に悪夢を見せてくることがあるから」
俺「やっぱりそういうやつらも実在するんだ…」
月舘「残念ながらね」
寺山「月舘さん、なんとかならないかな?」
月舘「まかせて!こうみえてその道のプロフェッショナルだから」
俺「頼りになるなあ」
月舘「その為には寝てる人の近くにいるとやりやすいんだけど…俺くんの家って、泊まりに行けたりする?」
俺「ええっ!?」
寺山「逆お泊まりデートのお誘いだね~」
月舘「茶化さないの。真面目な話なんだから」
俺「まあ、家には普段俺と妹の2人だけだし…アイツが良いって言うんなら」
寺山「妹さんの部屋で月舘さんが寝る分にはいいんじゃない?」
月舘「ちなみに、妹さんも同じような夢を見てたりするのかしら?」
俺「さあ、どうだろう…アイツそういうの隠すから」
月舘「良かったら私からそれとなく聞いてみるけど」
俺「うん…とりあえず今日帰ったら妹に聞いてみるよ」
月舘「お願いね」
…
妹「えっ、パジャマパーティ!?」
俺「おう。月舘さんがハロウィンの時の流れでお前と色々話したいんだってさ」
妹「マジで!?うわーどうしよう、新しくパジャマ買わなきゃ!!」
俺「別にいつものスエットでいいじゃん」
妹「女の子同士なんだから可愛い服着たいの!!」
俺「お前の寝相みたら可愛いもクソもないって」
妹「うるさい!とにかく準備しなくちゃ!!」
…
俺「というわけで、割とアイツも乗り気なようです」
月舘「良かった!じゃあ今夜お伺いするわね」
寺山「僕はお菓子持っていくね~」
俺「なんか普通にお泊まり会みたいになってきたなあ」
月舘「いいじゃない。それで俺くんの悪夢の原因も分かるかもしれないし」
俺「まあ、そうだね」
…
<ピンポーン
妹「あっ!月舘さん達きたよお兄ちゃん!!」
俺「いらっしゃーい。上がって上がって」
寺山「お邪魔しまーす」
妹「月舘さんいらっしゃい!!」ギューッ
月舘「ふふ、こんばんわ」
俺「こらこら、急に抱きつくんじゃない。人との距離感バグってるぞ」
妹「ええー、いいじゃーん。私にとってはお姉ちゃんが出来たみたいで嬉しいの!!」
月舘「あらあら。こんな可愛い妹なら持ち帰っちゃおうかしら」ナデナデ
妹「あぁ^~」タマラネェゼ
寺山「微笑ましいねえ」
俺「…まあ実際普段は俺と2人きりだから寂しい思いしてたのかもな」
…
寺山「ふぁ~あ…ボチボチ眠くなってきたよ…」
俺「お楽しみはこれからだぞ…」
寺山「ていうかさっきから僕らでウイイレばっかやりすぎだよ。月舘さんと妹さん、部屋行っちゃったじゃないか」
俺「今夜は朝まで寝かせねえぞ~!」
寺山「当初の目的忘れてない?寝なきゃダメでしょ」
…
月舘「ところで妹ちゃん、最近怖い夢とかみてない?」
妹「えっ!? どうしてです?」
月舘「ううん、聞いてみただけ」
妹「そうだなあ、夢じゃないんですけど…最近寝付く直前に頭の中で大きな音とか光…?がなって目が覚めることがありますねえ」
月舘「なるほど、それは典型的なEHSの症状ね」
妹「いーえいちえす?」
月舘「頭内爆発音症候群っていって、ストレスが溜まってる時とかによく起こりがちな現象のひとつね」
妹「月舘さん物知り!!」
月舘「ずっとそれが続いてて寝付けないなんてことは?」
妹「うーん、寝付けないということはないけど、それが起きた瞬間はすごく不安になります…」
月舘「ストレスが原因で誰にでも起きうる症状だからね…普段は寝る前にリラックスして、抱き枕とか安心できるような寝具を置いておくと良いわね」
妹「抱き枕かぁ…」
月舘「私も使ってるけど、結構良いわよ。冬は暖かいし」
妹「月舘さんが使ってるのってなんか女の子っぽくてかわいい! オススメとかあったら教えてください!!」
月舘「ふふ、いいわよ」
<キャッキャッ
寺山「向こうはガールズトークに花を咲かせてるねえ」
妹「アイツ、月舘さんに迷惑かけてなきゃいいけど…」
寺山「妹さんなら大丈夫だよ~。ほら、僕たちも歯を磨いてボチボチ寝ようよ」
俺「まって、あと3試合…」
寺山「夜更かししすぎるとまた寝不足になっちゃうよ?」
…
月舘「…良かったの?私がベッド使っちゃって」
妹「もちろん!!」
月舘「かわいいベッドね。妹ってこんな感じなのかしら」
妹「私もお姉ちゃんがいたらこんな感じなのかなーって思ってました!!」
月舘「妹ちゃんには俺くんっていういいお兄さんがいるじゃない」
妹「でもお兄ちゃんもやっぱり男だし…言えないこととかもあるから」
月舘「…ほら、妹ちゃんおいで。良かったら一緒に寝ようよ」
妹「…うん」
…
妹「Zzz…」スピー
月舘(ふふ、妹ちゃんはちゃんと眠れてるみたい…)ナデナデ
月舘(今のところ問題はなさそうね…後は俺くんのことだけど…)
<コンコンコン
寺山「月舘さん!俺くんの様子が…」
月舘「…今いくわ」
俺「うぅ…うーん…」
寺山「寝ついたと思ったら急にうなされ始めて…」
月舘「おかしいわね…部屋には悪霊の雰囲気は感じないけど」
寺山「じゃあ悪霊の仕業じゃないってこと?」
月舘「ひょっとしたら、俺くんの『中』に何かあるのかも…」
寺山「そ、それじゃあ手出しはできないんじゃ…」
月舘「安心して。とっておきの方法があるから」
『○○くん、電話が入っておりますので職員室へ来てください』
『お母さんが…車に巻き込まれて…』
『お母さん!お母さん!!』
俺(母さん…どうして…)
『おいで…こっちにおいで…』
俺(母さん…)
俺が母さんの呼ぶ声誘われ歩を進めたその時、かすかに歌の様なものが聴こえてきた。
俺(この歌は…?)
『まだ来ちゃダメ』
俺(母さん…でも…俺は…)
『おいで…おいで…』
『お兄ちゃん!』
『俺くん!行っちゃダメだよ!!』
俺「…みんな!!」
汗にまみれて起き上がった俺の目には涙が溜まっていた。ぼやけた視界の先には心配そうに見つめる寺山君と、険しい表情の月舘さんがいた。
俺「寺山…月舘さん…」
寺山「大丈夫? かなりうなされてたよ?」
俺「俺、またあの夢を…なんだ? 今度は身体の震えが止まらない…」ガクガク
特段寒いわけではないのに身体の震えが止まらない。
俺「う、ぐううう…」ブルブル
月舘「ーー終わりよ。さあ、彼の身体から出てきなさい」
月舘さんがそう呟いた途端、俺の身体から黒い霧の様なものが吐き出された。
『…おのれぇええ!!』
寺山「つ、月舘さんこれって!?」
月舘「これが俺くんの悪夢の正体、ナイトメアよ」
『代わりに貴様らの身体に取り憑いてやる!!』
寺山「う、うわああっ!!!」
俺「寺山!!」
月舘「彼なら大丈夫よ。安心して」
寺山「あわわわわ…いま僕の身体になにか憑いたよ!!」
月舘「寺山くん、ちょっとゴメン」パカッ
寺山の首「首が!!」
俺「夜やると怖ぇ!!」
寺山の胴『く、クソッ…!人間ではなかったのか!!』
月舘「やれやれ。そんなことすら見抜けないようじゃ話にならないわね」
そう言って月舘さんは呪符のようなものを手にかざした。
寺山の胴『グワアアアァァァ…』
月舘「悪しき霊よ、去りなさい…今回は相手が悪かったわね」
俺「月舘さんかっけぇ…!」
寺山の首「本当、ヴァンパイアってすごいね!!」
月舘「俺くんを出て取り憑いた先が寺山君だったのでやり易かったわ。胴体さえ抑えればこちらのものだったもの。これで俺くんが悪夢を見ることも無くなると思うわ…」
俺「…ありがとう月舘さん」
月舘「いいのよ。…ただ悪夢っていうのは、必ずしも夢魔のせいだけで起きるわけではないから。日常のストレスや、過去のトラウマなんかで起きることだっていっぱいある」
俺「…」
月舘「妹さんから色々聞いたわ。俺くんも余り溜め込みすぎないで。何かあったら私たちに相談してね」
俺「うん…」
寺山の首「そうだよ。友達じゃないか」
俺「2人とも…ありがとう」
寺山の胴「…」グルグルモゾモゾ
俺「…なんかデュラ山の胴体が初心者の操作するGTAみたいになってる」
寺山の首「早く胴体つけてよぉ…」
数日後。
寺山「おはよー」
俺「おう、おはよ」
寺山「その後どう?もう悪夢は見なくなった?」
俺「ああ! すこぶる快調な日々を送ってるぜ!!」
寺山「よかった~!!」
俺「昨日なんか18時間寝た!!」
寺山「それは寝過ぎだよ」
俺「…実はナイトメアがみせてきた悪夢の中で、俺はずっと母さんに呼ばれてたんだ」
寺山「それ、誘われるがまま行っちゃってたら危なかったんじゃ…」
俺「かもな…お前らが来てくれたあの夜、不思議な歌が聴こえてきて、その声が止んだんだ…その時母さんは、俺に『来るな』って言ってた気がする」
寺山「きっとそれが本当のお母さんの声だったんだよ」
俺「どうだろう…ただその時、同時にお前や妹が俺のことを引き止めてくれていたような…」
寺山「そうだったんだ…そういえばあの時ちょっと泣いてたね?」
俺「泣いてないって。ただのあくびだよあくび」
寺山「ふふ…まあとにかく、無事でよかったよ!!」
俺「うん。お前も色々と相談に乗ってくれてありがとうな」
寺山「トモダチナラアタリマエ~」
俺「何だっけそれ。なんか昔のCM?」 ※わからない人はオッサンに聞いてみよう
月舘「2人ともおはよう」
寺山「あ、月舘さんおはよう!」
月舘「俺くんどう? その後の調子は」
俺「うん、大分落ち着いてるよ」
月舘「良かった~!」
俺「ただ何か…妹が俺のポイント勝手に使って抱き枕買ってたけど…」
月舘「あ、それ私のせいかも…」
俺「せめて自分の金で買えよ!PS5買う時に使おうと思ってたのに!」
寺山「あはは。まあ予約殺到で全然買えないからね~」
俺「…ところで月舘さん、あの晩妹に色々聞いたって言ってたけど、どんな話してたの?」
月舘「ふふ、秘密よ」
俺「アイツ余計なこと喋ってないだろうなあ…」
月舘「大丈夫よ。むしろ妹さんは俺くんのこと心配してたわよ」
俺「アイツが? 俺のことを?」
月舘「ちゃんといいお兄さんしてるみたいじゃない。話を聞いてて、ちょっと羨ましかったな…」
俺「マジかよ…なんか恥ずかしいな。アイツがそんなこと思ってたなんて…雨でも降らなきゃいいが」
月舘「兄妹だもの。私も弟がいるからよく分かるわ。面と向かって言えないこと、いっぱいあるもの」
俺「…」
寺山「なんかいいなあ。僕は一人っ子だからそういうのちょっと憧れるよ」
月舘「お母さんも安心してたみたいよ」
俺「母さんが!?」
月舘「ええ。ナイトメアに魘される俺くんを見てかなり心配してたみたい」
俺「そっか…月舘さんはひょっとして、そういう死んだ人とも話ができるの? ハロウィンの時みたいに」
月舘「まあ降霊術専門って訳じゃないけどね。思念自体は、伝わってくるかな?」
俺「そっか…」
寺山「…やっぱりお母さんに会いたい?」
俺「…うん、話したかったことはたくさんあるけど…でもまだ死に急ぐつもりはない」
寺山「なんなら月舘さんにお願いしてみたら?」
俺「いいよ…それじゃ俺が同級生にバブみを感じてる変態みたいじゃん」
月舘「心配しなくても、お母さんはずっと貴方達兄妹のことを見守ってくれてるわ」
俺「…それはそれでプライバシーなさげな感じでちょっと嫌だなぁ」
つづく
第5話 豊穣の神
<ピンポーン
俺「はーい」
女「あのぉ…」
俺(あれ、確かこの人、お隣に住んでる留学生のお姉さんだな…)
女「じゃがいも作りすぎちゃったんですけど…良かったら食べますぅ?」
俺「あ、わざわざどうもー…ってじゃがいも!?肉じゃがとかじゃなくて素材そのものですか!?」
女「大学の実習で作りすぎちゃってぇ…」
俺「な、なるほど…」
女「あ、初めまして私アナと言います」
俺「アナさんですか。留学生…ですよね?」
アナ「ハイ。近くの農業大学に通ってますぅ」
俺「どうも…隣に住んでるのに挨拶が遅れてすみません」ペコ
アナ「あっ、いえいえこちらこそぉ」ペコリ
俺(おっとりしてるけど礼儀正しそうな人だな…)
アナ「じゃあちょっと台車持ってきますねぇ」
俺「へ?そんなにあるんですか?」
積み上げられたジャガイモの箱<ゴゴゴゴゴゴゴゴ…
俺「多すぎィ!!これもう農協とかに出荷する量じゃないですか!!!」
アナ「良かったら皆で食べてくださいねぇ」
俺「お裾分けのノリで一般家庭が一年で消費する量を上回るレベルのジャガイモをもらってしまった…」
…
俺「ということで、寺山家にもお裾分けー」
寺山「わぁありがとう!立派なじゃがいもだねぇ」
俺「量がね…」
寺山「うちはお父さんがジャガイモ好きだから喜ぶよ」
俺「まだ3箱くらいあるんだよ…俺と妹じゃカレーとポテトサラダ作ってもまだ余りそう…」
寺山「じゃあ月舘さんちにもお裾分けしにいく?」
俺「そうだね」
<ピンポーン
月舘「…ぁい」
俺「あ、月舘さんこんにちは…って、体調悪い?」
月舘「ちょっと貧血気味で…」
寺山「あらら…」
俺「ヴァンパイアにとってそれって死活問題なのでは?」
月舘「大丈夫よ…ところで今日はどうしたの?」
俺「いやーそれがお隣さんから大量のジャガイモ貰っちゃって…良かったら月舘さんにもお裾分けしようかと」
月舘「あら、ありがとう…じゃあそこに置いておいてくれるかしら…」
寺山「よっこいしょ…置いといたよー」
俺「本当に具合悪そうだね…大丈夫?」
月舘「うん…レバー食べるか、最悪ちょっと血を入れれば治るから…」
俺「怖」
寺山「じゃあ月舘さん、お大事にね」
月舘「ええ…ありがとう2人とも…」
俺「じゃあねー」
寺山「…ところでお隣さん、留学生なんだって?」
俺「うん。金髪碧眼の美人なお姉さんで、農大に通ってるらしい」
寺山「いいなぁ~。ひょっとして新たな出会いが始まっちゃうんじゃない?」
俺「大学生なら彼氏くらいいるだろー」
寺山「分かんないよ~?異国の地でひとり寂しく夜を過ごしてるかも!」
俺「そんな青年誌みたいな展開だったとしても、外人のお姉さまは俺にはハードルが高すぎる…そもそも家の前とかエントランスとかでも会ったことなかったし、あんまり家にはいないんじゃないのかな?」
寺山「そうなんだ…大学生は大変だね~」
俺「俺らもじきに大学生だけどな~」
俺「ただいまー」
妹「おかえりー」モグモグ
俺「何食ってんの?」
妹「粉吹き芋」
俺「え、もう夕飯?」
妹「おやつ」
俺「おやつにしては重いな!」
妹「だってお隣さんかもらったジャガイモ減らないんだもん!お兄ちゃんも食べてよ!!」モグモグ
俺「来る日も来る日も芋ばかりだぁ…」モグモグ
妹「ちなみに夕飯はポテトサラダと肉じゃがです」モグモグ
俺「芋に次ぐ芋の猛攻で心折れそう…」モグモグ
妹「やべ」ブッ
俺「妹氏サイテ~」バブッ
妹「お兄さんも漏れてまんがな」
俺「流石に芋ばっかでだんだん腹が張ってきたな…」ゲップ
翌日
寺山「おはよー」
俺「おはよう。芋減った?」
寺山「減ってるよー」
俺「マジかー。うち俺と妹だけだから全然減らなくて…毎日屁ばっかこいてるよ」
寺山「うちはお父さんがいま醸してるよ!」
俺「は?醸すってどういうこと?」
寺山「芋焼酎にするんだって」
俺「…それって酒税法違反なのでは?」
寺山「大丈夫だよ~体内で醸すから!絶対バレないよ!」
俺「なんともデュラハンの特性を生かした密造酒だなあ…というかそこまでする?大丈夫なのかそれで…」
寺山「あ、そうそう…話は変わるけど、今朝駅前でほうれん草の種配ってたよ~」
俺「中国の種配りおじさん?」
寺山「近くの農大で学園祭があるんだって~」
俺「へえ」
寺山「行ってみようよ!」
俺「いいよ」
寺山「キャンパス内で取れた野菜とかも格安で売ってるらしいよ!」
俺「芋消費しきるまではいいかな…」
数日後
俺「へえー、大学の学園祭って初めてきたけど生徒が露店とか開いてるんだあ」
寺山「さすが農大、自家製の野菜とかチーズも売ってるよ~」
俺「もつ煮も売ってる…解体したのかな…」
アナ「らっしゃいらっしゃい!」
俺「あっ」
寺山「どうしたの?」
俺「あの人だよ、芋くれたお隣さん」
数日後
俺「へえー、大学の学園祭って初めてきたけど生徒が露店とか開いてるんだあ」
寺山「さすが農大、自家製の野菜とかチーズも売ってるよ~」
俺「もつ煮も売ってる…解体したのかな…」
アナ「ラッシャイラッシャイ!」
俺「あっ」
寺山「どうしたの?」
俺「あの人だよ、芋くれたお隣さん」
寺山「へぇ~、綺麗な人だね!」
俺「やっぱこの大学通ってたのかぁ」
アナ「あっ、お隣くん!らっしゃいらっしゃいみてってみてって!」
俺「こんにちは~」
寺山「何売ってるんですか~?」
アナ「じゃがバターダヨ~!」
俺(また芋か…)
寺山(また芋か…)
アナ「ただのじゃがバターじゃないからね!食べてみて食べてみて~!」ドウゾ
俺「あっ、どうも…って何だこれめちゃくちゃ甘い」モグモグ
寺山「さつま芋みたい!」フカフカ
俺「栗ですらある」ホクホク
アナ「私が作った品種ダヨ~!」
寺山「へぇ~作った…えっ品種から!?!?」
俺「お芋ブレンダーじゃん…」
アナ「良かったら向こうで箱売りしてるから買ってネ!」
俺「あ、いや美味しかったけど芋はもうしばらく大丈夫です…」
…
寺山「本当だ…大学のパンフレット見たらあのお姉さんが既存のジャガイモ掛け合わせる研究で出来た品種って書いてある」
俺「やっぱガチの農大生はすごいな…」
寺山「しかも彼女の他の研究で収穫量が数倍に上がる農法も研究が進んでるみたいだよ」
俺「すっげ」
寺山「やっぱ留学してきてるだけあって天才なんだねえ」
俺「ここまで来るともはや豊穣の神だなあ」
寺山「あはは、確かに」
アナ「へっくしょーい!!」
つづく
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