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都内の小さな雑居ビルの、小さな芸能プロダクション。
2名のプロデューサーにより何名かのアイドルがデビューしたが、まだまだ弱小である。
そんな事務所には、圧倒的なビジュアルの才能を持ちながらも、底辺でくすぶっているアイドルがいた。
アイドルの特徴。練習嫌い。睡眠過多。金髪。巨乳。
社長室という名の会議室で、そのアイドルは苛立たしげな表情で男と向かい合っていた。
「美希!お前またレッスンサボっただろ!」
「サボってないよ、お休みしただけなの」
「んなもん一緒だろうが」
「一緒じゃないよ~」
「本当に困った奴だな。先方には謝ってたみたいだからそこは安心したけどさ、一体どうしたらまともにレッスンしてくれるんだよ」
あふう。星井美希は、狭い事務所の応接スペースであくびをした。
目の前の男に冷たい目線を送る。美希にとにかくレッスンをさせたがるこの男はプロデューサーというらしい。
美希はこの男が好きになれなかった。男が話す仕事の話は、つまらない。
そのうえ、なんとかして美希に思い通りに動いてもらおうという下心を感じるのだ。
ミキはあの人の道具じゃない、ミキはミキなの、と事あるごとに同僚に話すのであった。
そのため、彼女は男のことを「そこの人」と呼ぶ。できるだけ他人でいるために。
「ねえ、そこの人」
「プロデューサー、な」
「そこの人」
「......なんだよ」
「ミキ、今日は眠いから帰るね」
「だめだ」
プロデューサーが険しい声で答えた。
ほら、また思い通りにいかなくてイライラするんだ、と美希は思った。
でも、イライラしているのはミキもなの。そう気づいて、美希はやり場のない怒りで毛が逆立つのを感じた。
「そこの人って、女の子の話が聞けない男の人なんだね。一生モテないと思うな」
「何だと!?モテないなんて、そんなことが......くっ、わかった。帰りたい理由を教えてくれ」
「やなの」
「頼む。話し合おう」
「そこの人はミキの話、聞けないでしょ」
「俺が悪かった。どうして練習せずに帰ろうと思ったのか、聞かせてほしい」
相手に謝罪の言葉を吐かせたことに少しだけ満足し、美希は答えた。
「疲れるから」
「疲れるから?」
「うん」
「あとは?」
「つまんないから」
みるみるうちにプロデューサーの顔が引きつっていくのを美希は見逃さなかった。
しかし、男はすぐに表情を取り繕った。
「まあ、そうかもしれないな。美希にやってもらっているのは筋トレだったり、ダンスとは言えないような基本的なことばかりだと思うから」
「ミキ、もっと難しいレッスンできるよ」
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