博士「ただいま」
助手「あれ博士、どこ行ってたんですか?」
博士「ちょっと発明をね」
助手「発明って……どうせまたイタズラでしょう」
博士「ハッハッハ、まぁな!」
助手「で、今度はどんなイタズラを仕掛けてきたんです?」
博士「超高性能ウルトラハイパーグレート落とし穴を作ったぞ!」
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助手「超高性能落とし穴?」
博士「超高性能ウルトラハイパーグレート落とし穴だ!」
助手「このさい名前はどうでもいいでしょう」
助手「……で、どんな落とし穴なんです?」
博士「うむ、聞いて驚け」
博士「まず深さ……10000m!」
助手「10000m!?」
助手「いくらなんでも深すぎじゃないですか?」
博士「10000mぐらいなければ、超高性能ウルトラハイパーグレートとはいえんだろう」
助手「そうかもしれませんが……どうやって掘ったんです?」
博士「ワシ特製の簡易穴掘り機でちょちょいとな」
助手「落とし穴なんかより、そっちの方がすごい発明のような気がしますよ……」
助手「その落とし穴に落ちると……どうなるんです?」
助手「まさか、そのままペシャンコってことはないでしょう?」
博士「うむ、さっそく説明していこう」
博士「まず、落ちた瞬間、『ようこそ、落とし穴へ!』というアナウンスが流れ」
博士「開発者であるワシの生い立ちが紹介される」
助手「はぁ……」
博士「さらに、落下者の安全を考え、シャボン玉のような形状の絶対防御シールドが張られる」
助手「安全なんて考えてたんですか」
博士「そりゃそうだ。怪我させたり死なせてしまっては、イタズラとはいえんだろう」
博士「落とし穴内では、反重力装置が働いており、ゆっくりと落下するわけだが……」
助手「ふわふわ~って感じですか」
博士「そう、ふわふわ~って感じだ」
博士「のんびりとしたフリーフォールを楽しめるというわけだ」
博士「むろん、ずっと同じスピードじゃつまらんから、速度は変化させるがな」
博士「とりあえず、1000m地点までは特に仕掛けはない」
助手「1000m落下するってだけで、十分すぎる仕掛けですよ……」
博士「1000m地点を通過すると、音楽(ミュージック)ゾーンに突入する」
助手「ミュージックゾーン?」
博士「クラシック、ジャズ、ロック、ポップスなどあらゆるジャンルの音楽が楽しめる」
助手「へえ~」
博士「落ちながら曲を楽しめるなんて最高だろう?」
助手「落ちずに曲を楽しむ方が最高だと思いますがね」
博士「2000m地点を通過すると、一気に体が加速する。加速ゾーンだ」
助手「ほう」
博士「猛スピードで落下し、まるでジェットコースターのようなスリルが楽しめる」
助手「大丈夫なんですか? Gとか」
博士「ゴキブリ?」
助手「違いますよ! 重力ですよ!」
博士「心配いらん。先程説明したシールドが、体を守ってくれる」
博士「3000mから下は海底ゾーンだ」
助手「海底ゾーン?」
博士「3000mから4000m地点では、落とし穴内部に深海の映像が映し出される」
博士「深海魚たちに囲まれながら落下を楽しめるぞ」
助手「落下を楽しむって表現、なんていうかどこか妙ですね」
博士「4000m地点からは、宇宙(スペース)ゾーンに入る」
博士「落下者の周囲に、宇宙の映像が映し出され、まるで宇宙にいるような感覚になれる」
助手「さっきの海底ゾーンもそうですけど、落とし穴の一部にしておくのがもったいないですね」
博士「分かっとらんな……」
博士「落とし穴の一部に過ぎないからこそ、いいのではないか!」
助手「さっぱり分かりません……」
博士「落下距離が5000mともなると、お腹も減るだろう」
博士「というわけで、5000mからは食事ゾーンだ」
博士「ゆっくりと落下しながら、和洋中あらゆる料理を堪能することができる」
助手「料理はどうやって出てくるんです?」
博士「ワシが作った万能シェフが、注文すれば一秒で作ってくれる」
助手「万能シェフすげえ!」
博士「そこはワシも褒めてくれよ」
助手「あなたを褒める気にはなれません」
博士「6000m地点から7000m地点までは、リラックスゾーン」
博士「穏やかな映像と音楽で、満腹になった体を落ち着かせるのだ」
博士「7000mからはエクササイズゾーン」
博士「落下しながら、さまざまな運動を行える」
助手「至れり尽くせりですねえ」
博士「至れり尽くせりなイタズラ、がこのワシのモットーよ!」
助手「いよいよ、8000mですね」
助手「エベレスト級の距離を落ちたことになります」
博士「8000m地点からはちょっとエッチなゾーンが待っておる!」
博士「あっは~んやうっふ~んな映像や仕掛けが、落下者を盛り上げてくれるぞ」
博士「ただし!」
博士「もし、落ちているのが子供だった場合は、子供向けの仕掛けが発動する!」
博士「子供にエッチなのは教育上いかんからな!」
助手「芸が細かいですね……無駄に」
博士「ラスト1000m……9000mからは走馬灯ゾーン!」
助手「なんですか、それ」
博士「落とし穴内に仕掛けられた装置が、落下者の脳内の記憶を読み取り」
博士「まるで走馬灯のような映像を映し出してくれるのだ!」
助手「これまた縁起でもない仕掛けを……」
博士「そして、いよいよ10000m地点! ――ゴール!」
助手「いったいどんな仕掛けが待ってるんです?」
博士「それは落ちてからのお、楽、し、み」
助手(うぜえ)
博士「どうしても知りたいなら、落ちてみることだ」
助手「絶対嫌です」
博士「なお、10000mまで落ちた落下者は、高性能エレベーターで即座に地上に戻ってこれる」
博士「あ、いや超高性能ウルトラハイパーグレートエレベーターで戻ってこれる!」
助手「言い直さなくていいです」
博士「どうだ、すごいだろう!?」
助手「すごいです」
助手「テクノロジーも……そして、無駄なことにこれほどの労力と科学力を費やすその情熱もね」
博士「ハッハッハ、照れるな」
助手「褒めてないですって」
博士「それではさっそく、落とし穴に誰が引っかかるか見に行くとするか!」
ザッザッザッ… ワイワイ… ガヤガヤ…
助手「ここですか……結構人通りが多い道に仕掛けましたね」
博士「ほら、あそこのわずかに色の違う箇所が落とし穴だ」
助手「なるほど、いわれなければ分かりませんね」
博士「ふふ……誰が引っかかるか楽しみだ」
一時間経過……
助手「……誰も引っかかりませんね」
博士「うーむ、おかしいな」
三時間経過……
博士「なぜだ、なぜ誰もあの上を通らない!?」
助手「みんな絶妙に、あの上だけ通りませんね……」
一日経過……
博士「…………」
助手「…………」
博士「結局、誰も引っかからなかった……」
助手「まぁ、こういうこともありますよ」
博士「あれだけ苦労して作ったのに、お楽しみを用意したのに……誰も引っかからないのかよ!」
博士「誰も落ちないのかよ!」
博士「オチないのかよ!!!」
― 完 ―
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