未来を夢見て(13)
博士は未来を夢見て研究を続けていた。その成果が今成就しようとしていた。
「ようやく完成したぞ! これで長年の夢が叶う」
「おめでとうございます博士。本当に長い道程でしたね」
「だがこれで私は、いや人類は未来に希望を持てるようになるぞ」
小躍りせんばかりに博士ははしゃぎ、装置を愛おしそうに撫でた。
その装置は長方形で一見すると棺のように見える。実際棺のように人間が入る装置なのだ。
かつて不可能と言われていたコールドスリープ装置、それこそが博士の完成させた発明である。
助手は興奮を抑えきれないとばかりに博士に迫った。
「博士! 早速装置を使いましょう」
逸る助手を苦笑しつつ博士は宥めた。
「まあ待ちたまえ。その前にやらなければならない事がある」
「一体何でしょうか? 実証実験も危険性がない事も確認済みで問題ないはずです」
「うむ。実はこの装置を誰にでも使えるようにしたいのだ」
「まさかこの発明を世界中に無償で広めるつもりですか?」
「そうだ。世界中の人々が何の引け目もなく使えるようにしたい」
「うーむ、正直勿体無い気はしますが博士がそうおっしゃるのだ。そのようにしましょう」
善は急げと言わんばかりに博士と助手は全世界に装置の完成を発表し、同時に無料開放を
打ち上げた。
世界中から発明と研究の成果を讃え、また博士達の人徳に感銘を受けた声が上がった。
初めこそ後遺症の有無や効果に疑問を持つ者達はいたが、博士の丁寧な説明と実証でそれもなくなった。
やがて世界中から装置を利用したいと願う者が現れた。
真っ先に名乗りを上げたのは難病を患っている者だ。
現代では治療困難と告げられ絶望していた彼らは、未来に希望を託すため自ら眠りに就きたいと名乗り出たのだ。
また単純に未来の世界を夢見る者や現代のしがらみから逃れたい者なども次々と殺到し始めた。
各国の政治家達はあまりの希望者の多さに審査を設けたが、やがて博士が公開した設計図から
次々と装置が量産され民間で設置されている事を知るとさじを投げてしまった。
世界各地にゴールドスリープが設置されていく。初めは地上に設置されていたが場所が足らなくなると
やがて地下に設置するための空間を掘り進め装置を放り込んでいく。
人々が眠りに就く中博士と助手も自ら装置に入る事にした。
「ひとまず100年後に目覚める事としよう。未来がどうなっているか、実に楽しみだ」
「ええ。それでは博士、100年後にまたお会いしましょう」
こうして未来を夢見て博士は装置に入り眠った。
耳障りな音が響き博士は手探りで音源を探した。
音はやがて鳴り止んだが、すっかり目が冴えてしまった博士はゆっくりと目蓋を開ける。
見慣れない物が目の前にあり、一体何事かと驚いたがすぐに意識が覚醒し自分が何をしていたか思い出した。
「うーむ、もう100年経過したのか。何だか身体のあちこちが痛いだけで良い気分ではないな」
内側から開けて装置をもう少し寝心地良く改良したいと考えつつ、周囲を見渡して博士はぎょっと目を見開いた。
自分が眠りに就いた場所は研究所の一室であった。
あらかじめロボット達に定期的な掃除を頼んでいたはずだが、部屋は荒れ果てていた。
清掃用のロボットも微動だにせず埃を被っている。
慌てて博士は隣の部屋で眠っている助手を起こした。
「おはようございます博士。何を慌てているんですか?」
「まだ寝ぼけているのかね? ここは100年後の世界だよ」
「あぁ……ああ、そういえば。どうです博士、未来はどうなっていますか?」
「うーむ、どうも怪しい感じだ。外を見て回ろう」
寝ぼけ眼の助手を連れて外を出ると、辺りは木々に覆われ雑多な動物達が我が物顔で歩いている。
研究所は町から少しばかり離れていたが、ここまで自然豊かな場所ではなかった。
助手もようやく異変に気付いて顔が真っ青になった。
「博士、これは一体?」
「ロボットも動いていなかった。装置には電気が届いていたから発電所は動いているはずだが」
町に向かっていくとそこには信じ難い光景が広がっていた。
かつて存在した住宅は全て消えており、代わりに簡素な四角い建物だけが存在していた。
中を覗いてみるとびっしりと隙間なく装置が設置されている。
階段が地下へ続いていてその先にも装置が埋め尽くしている。
装置の形から思わず霊廟に迷い込んだように錯覚してしまう。
覚束ない足取りで外に出て博士は呻いた。よく見ればあちこちに似たような施設がある。
「これはとんでもない事になってしまったかもしれん」
「何が起きたというのですか?」
「私達と同じだよ。みんな同じ事を考えてしまったのだ」
「同じ事って、そんな馬鹿な」
「そうだ、みんな未来に夢見て――」
博士はそれ以上言葉が出なかった。助手もただただ立ち尽くすばかりだ。
太陽が照りつける中、聞こえてくるのは風と動物の声だけだった。
昔のSF物には欠かせない装置の1つ、ゴールドスリープは人が眠りに就くためゆえなのか
形状がピラミッドとかの棺と似ていると思い、さらに未来(来世)に夢見るのも似ていると思った
実際ゴールドスリープが可能になったら何年後まで眠りたいか、なかなか悩みそうではある
下手に長い時間眠ると返って技術や知識に追いつけず途方に暮れそうだ
というお話
読んでくれたなら乙
おつおつ、さくっと読めて面白かった
最初は正しく書いてるからたぶん誤字だと思うんだけど、コールドスリープ→ゴールドスリープになってるよ
たった7レスだし、このスレ内で修正して再放送しとけばまとめサイトは修正した方を拾ってくれるかも
>>8
ご指摘ありがとう
こんな事がないように一晩おいて推敲したのに意味がない
戒めのためにそのままにしておきます
あ、連投ごめん。文体が好きなんだけど過去作ある?
>>11
人類が滅びるとしたら、何が原因だと思う?
勇者「ここで決着をつけてやる、覚悟しろ魔王!」
神「私が世界を生み出したのだ。どう扱おうと私の勝手だろう?」
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狐娘「お主とは寿命が違うのだぞ。本当に良いのか?」
料理人「異世界か……面白い、腕がなるぜ!」
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