未央「蒼いしぶりんが私を責める」 (15)
※タイトルは関係ありません。
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「ねえ、未央。ちょっといい? 率直に聞くけど私と藍子、どっちが好き?」
「げっほげっほげっほ!!」
しぶりんこと渋谷凛が唐突にそんなことを言い出したので、思わず未央は咳き込んだ。この子は一体突然何を言い出すんだとか、そもそもその好きという言葉には一体どういう意味があるのとか、とにかく聞きたいことがたくさんありすぎて頭の中がごちゃごちゃになってしまったので、とりあえず緊急思考停止をした。
落ち着け本田未央、こういうときは心に李衣菜を宿せばいいってしぶりんが前に言ってた。ありがとうしぶりん。そもそも現状パニクってるのがその渋谷凛のせいなのだが、残念なことに未央は正常な判断ができなくなっているため気が付いていない。
心に李衣菜、心に李衣菜。
『うっひょー!!』
『ロックだぜ!!』
よし落ち着いた。それにしても李衣菜はバカだなあ、と未央は朗らかな李衣菜の姿を想像して気持ちを落ち着けたが、その李衣菜はあくまでも想像上の生き物であり実在する多田李衣菜とは別人なので失礼極まりないのだが、ズッ友の距離感なのでこれくらいは特に問題はない。
さてそれでは早速ですが脳内未央ちゃん会議を始めます。はい静粛に静粛に。静粛にも何も騒いでいるのは未央ひとりであるのだが。
とりあえず言葉の真意を探るべきだ。どちらが好きかなんて選ぶことはできないにしても、事と次第で茶化すか真面目に返すか逃げ出すかは選ぶことができるのだから。
というか逃げたい。超逃げたい。
いやもうこれは実質逃げ一択しかないよねと未央はヘタれているが、凛は魔王なので戦闘から逃げ出すことはできないのだ。
「ちなみに私は未央のこと好きだよ」
ほらこの通り。逃げ場を防ぐことに定評があるのが魔王こと渋谷凛である。
「も、もちろん未央ちゃんだってしぶりんのこと好きだよ、友達だもんね。友達だから」
「あはは、どうしたの。そんなに強調しなくても友達なのはわかっているよ。まだ、ね」
「あ、あはははは、そうだよねぇ」
……………………。
まだってどういうことなの!?
思わず叫ばなかっただけ自分で自分を褒めたくなった。下手に突っ込んでいたらやぶ蛇どころではない。底無し沼にどっぷり飛び込みを決めるようなものだ。要するに自殺行為である。
いつものように静かにクールに微笑む凛の表情から感情を読み取ることはできない。
「ねえ、未央。それで、質問の答えは?」
私と藍子、どっちが好き?
と。
改めて凛は言った。涼しげに、さも当然のことのように。どうしてこうも恥ずかしいことを普通の顔で聞けるものだと感心はするが、感心をしている場合でもないし、半分は皮肉だ。
くそぅと未央は顔を歪めた。困って思わず頭を掻きむしりたくなったが、いくらなんでも女の子らしくなくて頭へと持っていった右手を降ろした。話を明後日の方向に導く前にあっという間の軌道修正。隙が無さすぎる。
どっちが好きって。答える意味があるのかそんなものに。未央にとって凛も藍子も大切な友達であり、そこに優劣をつけるなんてことはない。友達に順番なんてありはしない。
そうだ、そうじゃないか。自分のスタンスは常に変わらない──友達に順番なんてつけられないのだったら、そう答えたらいいだけだ。
あまりにも突拍子のない質問だったので、ついつい慌ててしまったが、冷静に思考を運ばせてみればなんてことはない。答えなんて決まりきっているのだった。
……………いや、うん。しぶりんの言葉の意味次第では変わってくるんだけどね?
そっちの方向はとりあえず全力で目を逸らします。
未央はいよいよもって凛の質問に返答をすることにした。
「私はどっちも同じくらい大好きだよ。だって二人とも大切な友達だから!」
「…………ふ、ふふふっ、あはははっ」
凛が笑った。プッと吹き出した。割と真面目に考えて答えたのに、あまりにもおかしそうにするものだから、未央も戸惑った。
「え、もしかして何か変なこと言った……?」
しかし凛はそんな未央の言葉に対して首を横に振ることで返事をし、横に振ったまましばらくにやける表情を隠すように顔を背けていた。
一体何がそれほどツボにはまったのかはわからないが、とにかくおかしくて仕方がないらしく、いつもはクールな凛がそれほどまでに笑っているというのは、なんだか珍しいものを見れた気がして、怒る気にはなれなかった。
「ふふふ、うん、そっか。未央らしい答えだね。どっち付かずというか、玉虫色というか」
「うぐっ……い、いや、でも本当のことだし!」
「わかってるよ。それにね、ふ、ふふふ……」
凛は再びプッと吹き出した。今度こそ堪えきれないと身体をくの字に折り曲げて、このまま呼吸困難にでもなってしまうのではないかと言うほどの笑い方で、やはり未央は今日のしぶりんはレアだなあ、と悟りの境地だった。
しばらく、時間にして五分から十分ほど喘ぐように悶え笑い苦しんでいた凛だったが、さすがに疲れたのかお腹を抑えながら荒い呼吸をして、徐々にいつもの冷静な表情を取り戻していく。崩れた表情を整えてから、キリっとした顔をした。
圧倒的に顔が良くて、しまむーならこれだけで堕ちてましたなぁ、と未央は思った。それから、くしゃくしゃに崩れた笑顔を見せられてからキリっとしたいつもの格好良いしぶりんを魅せられて、未央ちゃんじゃなきゃ一発だったよと強がって見せた。
自分が乙女の顔をしていることも、そんなふうに思うほどに堕ちているのが自分自身であるということも、本人は全部気が付いていない。
渋谷凛という少女は一部キュートアイドル界隈では王子様のようと言われていたり、一部パッションアイドルにはむふふ白馬の王子様と言われていたり、それはそうと王子様の小振り過ぎずほどよいお山を登りたいよねというキュートアイドルがいたりするように、無自覚に王子様オーラを出しているから仕方がない。
「ふぅ……まさかここまで思っていた通りの答えが返ってくるなんて、未央、面白すぎるよ」
「ええ……答えわかってて聞いたの?」
「たまには未央を困らせてみようかなって」
その答えを聞いて未央はがくりと肩を落としてから小さく笑みを浮かべた。まったく、しぶりんはお茶目さんだなあ、と笑った。
いつもはこういったおふざけなんてそんなにしないのに、たまに思い付いたように今回のようなことをしてくるから面白いし、楽しい。
「でも、私は未央のそういう優柔不断でどっち付かずで優しいところも好きだよ」
「んなっ──も、もうしぶりんってばー未央ちゃんのこと大好き過ぎない?」
「うん、そうだね。だから言ってるよね、私は未央のことが好きだよ、ってね」
「…………………も、もうっ」
恥ずかしげもなく恥ずかしいことを言うなぁ、しぶりんは!
おわり。HTML化依頼してきます
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