ペンギン「知らなかったのか? ……ペンギンは剣より強いんだぜ」 (44)

ヒュゥゥゥゥ…


ペタッ… ペタッ… ペタッ…

ペンギン「やれやれ、やっと町に着いたか……」

ペンギン「どれ、冷たい氷水でも飲むとしよう……」



ペタッ… ペタッ… ペタッ… ペタッ… ペタッ…

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―酒場―

ペンギン「……」

店主「ペンギンの客が来るなんてのははじめてだ……ご注文は?」

ペンギン「氷水を」

店主「……」ビキッ

店主「お客さん、冷やかしですかい?」

ペンギン「冷やかしじゃない。お冷やをくれ」

店主「ふざけんなッ! うちは酒場なんだ! 酒飲まねえなら出てけッ!」

ペンギン「……」

女記者「だったら、こういうのはどう?」

店主「!」

女記者「この店で一番高いお酒をちょうだい。あとついでに氷水も」

店主「そんならかまいませんが……」

店主「どうぞ」スッ

女記者「どうも~」グビグビ

女記者「ぷはっ、おいしい!」

女記者「はい、ペンギンさん。氷水(これ)は私からのおごりよ」スッ

ペンギン「……ありがとう」ゴクゴク

ペンギン「うまい」

ペンギン「おかげで、人心地がついたよ」

女記者「ふふっ、それはよかった!」

女記者「じゃあ、今度は私の頼みを聞いてくれる?」

ペンギン「もちろんだ」

女記者「それじゃ……」

女記者「私、旅をしながらスクープを探してるフリーのジャーナリストなんだけど」ペチャクチャ

女記者「しゃべるペンギンなんて見るの初めてなの! もうワクワクが止まらないわ!」ペチャクチャ

女記者「このチャンスにみっちりきっちり取材させてもらうから、覚悟してちょうだいね!」ペチャクチャ

ペンギン「!」ギョッ

女記者「ご出身は?」

ペンギン「な、南極だ」

女記者「どうしてこの町に?」

ペンギン「あてのない旅の途中、たどり着いた」

女記者「なぜ旅を?」

ペンギン「ペンギンは飛べない……」

女記者「?」

ペンギン「南極の外に出られるようなペンギンはごくわずかだ」

ペンギン「俺の仲間のうち、ほとんどは南極で一生を終える」

ペンギン「だから俺は、南極から出られない仲間の分まで、外の世界を見聞しようと思ったんだ」

女記者「なるほどなるほどぉ~」

女記者「それで……」

ペンギン「ま、まだあるのか」

女記者「当然! こんなチャンスめったにないもの!」

バタンッ!

「おっ、すいてるぜ!」 「ついてるゥ!」 「とっとと酒と肉持ってこいやぁ!」

ゾロゾロゾロ…



店主「ゲ、きやがった……」

ペンギン「……」

女記者「なんなのあいつら?」

店主「この町の鼻つまみ集団ですよ」

店主「普段は町外れにたむろしてて、時折こうやって町に出てきて、タダで飲み食いするんでさ」

女記者「悪い上にどうしようもない奴らね」

店主「特に……」

ワイワイ… ガヤガヤ…

大男「ガッハッハ、今日は飲むぞぉ!」

剣士「お前はいつも飲んでるだろうが」



店主「あの二人がヤバイ」

店主「ウワサじゃ元傭兵かなんからしくて、恐ろしく腕が立つんでさ」

店主「間違っても取材するようなことしないで下さいよ」

女記者「分かってるわよ! 今の私はペンギンさんに夢中だし!」

ペンギン「夢中になられても困るんだが……」

手下「――お?」

手下「よそ者の匂いがすると思ったら、こんなとこにいやがった! しかも二匹も!」

店主「お客さん、勘弁して下さいよぉ~」

手下「うるせえ!」

店主「ひっ!」

手下「女と……ペンギン? どういう組み合わせだ、こりゃ?」

女記者「……」

ペンギン「……」

手下「おい姉ちゃん、なかなか美人じゃねえか。俺と――」

女記者「……!」

ペンギン「よせ」

手下「!」

手下「なんだぁ!? このペンギン喋りやがるのかよ! おっもしれえや!」

ペンギン「……」

手下「おい、ペンギンってのは『ペンペン』って鳴くんだろ!? 鳴いてみせろよ!」

ペンギン「……」

ペンギン「ペンペ~ン、ペンペ~ン」パタパタ

女記者「!」

手下「……ぷっ」

手下「ギャハハハハッ! ホントにペンペンって鳴くのかよ!」



大男「おい、そんな奴らほっとけ! とっととこっち来て飲もうぜ!」

剣士「……」



手下「へい! あ~、面白かった!」

女記者「ありがとう、ペンギンさん……」

女記者「あんな鳴き声出すなんて、プライドにさわったでしょうに」

ペンギン「別に気にしちゃいないぜ」

ペンギン「降りかかる火の粉を安全に振り払えるなら、それに越したことはないさ」

ペンギン「俺は暑がりだからな……」

女記者「ペンギンさん……」

ザワザワ… ガヤガヤ…

「そろそろ出るか!」 「おう、小便したくなっちまった!」 「飲んだ飲んだ~!」

バタンッ!



店主「ふぅ、やっと出ていきやがった! 町の厄病神どもめ……」

女記者「じゃ、私たちも静かに飲み直しましょっか! ペンギンさん!」

ペンギン「ああ」

……

女記者「ふむふむ、なるほど……」カリカリ

ペンギン(取材はまだ終わらないのか……)

ペンギン(ま、付き合っちまってる俺も俺だが……)



キャーッ!!!



店主「なんだぁ!?」

女記者「悲鳴!? 外からだわ!」

ペンギン「……」

―町―

ヒューヒュー! ピーピー!

「いいぞーっ!」 「やっちまえーっ!」 「脱がせ脱がせ!」

手下「そうあわてんなって!」

町娘「お、お願い……やめて……」

中年「お願いします! 娘には手を……!」

手下「うるせえ!」

ドゴッ!

中年「ぐぎゃ!」ドサッ


大男「ガッハッハ! とっとと済ませちまえよ!」

剣士「……」



町民A「またあいつらか……」

町民B「どうしようもねえよ。逆らったらこっちが殺されちまう……」

女記者「なんてひどいことを……!」

ペンギン「……」

女記者(白昼堂々、若い女の子が大勢の男に……!)

女記者(目の前でこんな非道が行われてるというのに、私は見てるだけしかできないの!?)

女記者(いえ、私はジャーナリスト! 出来ることはあるはず! ペンは剣より強いんだから!)

女記者「待ちなさい!」ダッ

ペンギン「! ……おい!」

手下「なんだ、さっきのよそ者じゃねえか」

女記者「その女性から手をはなしなさい!」

手下「あぁ?」

女記者「でないと……私はあなたたちを記事にして告発するわ!」

手下「は? 記事ィ?」

女記者「そしたら、たちまち兵士たちがやってきて、あなたたちを討伐するわよ!」

手下「なんだと!?」

女記者「おっと、私に手を出さない方がいいわよ!」

女記者「私がある場所に戻らなきゃ、知り合いの兵隊がこの町にやってくる手はずになってるから!」

手下「なに!?」

ザワザワ… ドヨドヨ…

「あいつ、新聞記者か!」 「やべえ……!」 「ど、どうするよ!?」

女記者(よし、ハッタリがきいてる! ジャーナリストだって暴力に勝てるんだから!)

剣士「大したものだ。武器も使わず、こいつらを怯ませるとは」ザッ…

女記者「!」

剣士「ペンは剣よりも強し、というわけか」

女記者「そ、そういうことよ!」

剣士「だが――」ヒュッ



ズバァッ!

剣士「俺はそうは思わん」

女記者「……ひっ!」ハラ…

女記者(私の服一枚だけ斬った……!)

剣士「たとえペンの力で俺たちが記事にされて、大勢の兵士たちが押し寄せてきたところで」

剣士「そいつら全員皆殺しにしてしまえば済む話だからな」

女記者「……!」ゾクッ

剣士「覚えておけ」

剣士「剣はペンよりも強いんだ」チャキッ

女記者(ダメだわ……斬られる!)

ペンギン「……」バッ

剣士「!」

バチィンッ!

剣士「……!」ビリビリ…

ペンギン「やめとけ」

剣士「なんだ、お前は?」

ペンギン「見ての通り、ペンギンだ」

女記者(ペンギンさん、どうして……?)

剣士(今の一撃は羽によるものか……恐ろしく重かった……)

剣士「なぜ、この女を助けた? 昔からの知り合いというわけではなさそうだが」

ペンギン「彼女には氷水をご馳走になった……」

剣士「なるほど……恩返しというわけか」

手下「クソペンギンが! ……どけっ!」ブオッ

町娘「きゃっ!」ドサッ

手下「剣士さん、そんな鳥はあなたが相手するまでもありませんよ! 俺で十分だ!」

手下「おいペンギン、さっきみたいにペンペン鳴いてみせ――」

ドゴォッ!!!

手下「あ、う……」ピクピク…



ザワザワ…

剣士「ほう……」

大男「あの野郎、ナメたマネしやがって! ――やっちまえ!」

「よくも仲間を!」 「許さねえ!」 「串刺しにして焼き鳥にしてやる!」



ペンギン「俺は暑がりで火の粉は苦手なんだが……そうもいってられないようだ」

ペンギン「ぬんっ!」

バチィンッ!

「ぶげっ!」

ペンギン「はっ! だああっ!」

ドカッ! バキッ! ドゴォッ!

「ぐぎゃっ!」 「うげえっ!」 「ぎゃはぁっ!」



女記者(す、すごい……! 荒くれ者たちを次々と……!)

ヒュゥゥゥゥゥ…


ペンギン「あとはお前たちだけだな」

剣士「……」

大男「ずいぶんと腕が立つペンギンじゃねえか! おもしれえ……!」ニヤッ

大男「見ろ、この筋肉!」ムキムキッ

大男「いっとくが、俺は素手で人間の頭を潰したこともあるんだ!」

大男「てめえもブッ潰してやらぁ!」ガシッ

ペンギン「!」



女記者「ああっ、捕まっちゃった!」

大男「ガッハッハ、このままペシャンコに――」グググ…

大男「……」グググ…

大男「!?」ググ…

ペンギン「こんなもんか?」グググ…

大男「な、なんだこの硬さは……!?」

ペンギン「こんな力じゃ、南極で鍛え、凍てついた氷のようになった俺の体には通用しないぜ」

大男「ぐうう……!?」

ペンギン「それにこんな力じゃ、南極から他の大陸まで泳ぎ切るなど到底不可能だ」

ペンギン「南極に生まれなくてよかったな」

大男(パワーで俺が……負ける!?)グググ…

ペンギン「ぬあっ!」ブオンッ

大男「うおおおおっ!?」グルグルグルッ

ドゴォンッ!!!

大男「……」ピクピク…



剣士「大男を力比べで投げ飛ばすとは……やはり、只者ではなかったか」

剣士「ぜひお前を斬ってみたい……こんな気分は傭兵をしていた頃以来だよ」

ペンギン「……」

剣士「俺はこれまで99人斬ってきたが……100人目はお前で決まりだ」チャキッ

ペンギン「残念だが、それは絶対に不可能だな」

剣士「なぜだ?」

ペンギン「なぜなら……」

ペンギン「ペンギンは一羽二羽で数えるからだ」

剣士「……!」ピクッ



クスクス… ハハハ…

女記者「ぷぷっ……」

剣士「ペンギン風情がぁぁぁっ!!!」シュバッ

ザシュッ!

ペンギン「!」ブシュッ…



女記者「ああっ!」

女記者(あの剣、なんて切れ味なの!)

ペンギン「……」ダラ…

剣士「ククク、見たか! 剣はどんなに鍛えられた肉でも切り裂く!」

剣士「ペンより強いだけじゃない……剣はあらゆる武器の中で最強なんだ!」

ペンギン「……」

剣士「トドメだっ!」ダンッ

シュバッ!

剣士「! ……消えた!?」

ペンギン「こっちだ」フワッ

ドゴォッ!

剣士「ぶべっ!」



オオッ…

女記者「すごい! 一撃をかわしつつ、飛び蹴りを決めたわ!」

剣士(なんて……重い蹴りだ……!)ヨロヨロ…

剣士「う、ぐ……ま、マグレだ……マグレに決まってる!」

ペンギン「マグロは食ったことがないな」

剣士「黙れぇ! ――ちぇいっ!」ブンッ

ペンギン「……」バッ

剣士「また――」

ドガァッ!

剣士「ぐ、ぐほっ……」

剣士「おのれえええええええええええ!!!!!」

シュバッ! ブンッ! シュビッ!

ペンギン「……」バババッ



女記者「剣士の鋭い攻撃を全てアクロバティックにかわしてる……!」

剣士「ゼェ、ゼェ、ゼェ……あ、悪夢だ……」

剣士「この俺が! 剣士がッ! ペンギンに翻弄されるなんてあってはならない!」

ペンギン「知らなかったのか? ……ペンギンは剣より強いんだぜ」

剣士「ぐうっ……! うおおおおおおおおおおっ!!!」ダッ

ペンギン「はぁっ!」バッ



女記者「ペンギンさんが……飛んだ……!」

ペンギン「どんなに鋭い剣を持っても、心がナマクラじゃ意味がないぜ」フワッ…

バキィッ!!!

剣士「が、は……っ!」ドサッ…





ワァァァッ!!!

「すげえ!」 「あの無法者どもを一人で倒しちまった!」 「ステキ~ッ!」


女記者「ペンギンさん……」

女記者「今のあなたは……どんな鳥よりも華麗に“飛んでた”わよ」ニコッ

ワアァァァ……!

中年「娘を助けて下さって、ありがとうございます!」

町娘「ありがとうございました……!」

店主「まさか、あんたがこんなに強かったとは……」

ペンギン「礼などいらん。俺は降りかかってきた火の粉を振り払っただけだ」

ペンギン「それより、近隣に駐屯してる兵士に連絡して、奴らを捕らえさせることだ」


ワイワイ… ガヤガヤ…


女記者「ふふっ、旅のペンギンが一躍町のヒーローね!」

ペンギン「よせ、褒めても何も出ないぜ」

……

……

ペンギン「……」ペタペタ…

女記者「待って、ペンギンさん!」

ペンギン「なんだ、まだなにか用か?」

女記者「あなたがいなきゃ……私はあの剣士に斬られてたわね」

ペンギン「俺は俺がやりたいようにやっただけだ。礼なんかいらないぜ」

女記者「ええ、お礼はしないわ」

女記者「その代わり、あなたに密着取材させて!」

ペンギン「へ!?」

ペンギン「なんでそうなる!?」

女記者「だってあなたについていけば、もっともっと刺激的なニュースに出会えそうなんだもの!」

女記者「それに、氷水の件もそうだけど、私みたいなのがついてた方がなにかと便利よ!」

ペンギン「断る……俺は一人旅がしたいんだ」ペタペタ

女記者「ご心配なく! 私は勝手についていくだけだから!」スタスタ

ペンギン「~~~~!」

ペンギン「屁理屈だ!」

女記者「屁理屈で結構!」

女記者「じゃ、取材の続きね! 初デートの場所は?」

ペンギン「南極点だ。吹雪の中、幼馴染のメスペンギンと熱い口づけを……」

女記者「ふむふむ」カリカリ

ペンギン「……! 俺としたことが、つい答えてしまった!」

女記者「うふふ、私は喋らせるのがうまいのよ」

ペンギン(やれやれ……ペンはペンギンより強いのかもしれないな)







~ END ~

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