聖來「あ、海ちゃーん! 先週プロデューサーさんとほたるちゃんと一緒にドッグラン行ったときの写真、持ってきたよー!」
海「あぁ、この前言ってたやつ? 見せて見せて。 ……おー、いい表情だね、二人もわんこも!」
聖來「ありがと! 広くって思いっきり走り回れるし、アスレチックとかもあって楽しかったよ!今度海ちゃんも一緒に行こうよ!」
海「いいね、楽しみにしてるよ。それにしても、改めて言うのもなんだけどさ、聖來さんとほたるってタイプも違うし歳も離れてるだろ? あんまりイメージ結び付かないから仲が良いのって最初は少し意外だったよ」
聖來「そう? ユニット組む前からほたるちゃんとはよく一緒にレッスンしたりわんこの散歩したりしてたよ」
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聖來「それにほたるちゃんはアタシのライバルでもあるからね」
海「へぇ? それは初耳だね。なになに、もしかしたら面白い馴れ初めとかある?」
聖來「馴れ初めって海ちゃん……」
海「ごめんごめん、でも聞いてみたいな」
聖來「うーん……、ほたるちゃんはね、アタシに覚悟を決めさせてくれたんだ」
海「覚悟?」
聖來「そう。夢を諦めないって覚悟。詳しく話すとアタシがアイドルになる頃からの話になるからちょっと長くなっちゃうけど……?」
海「聖來さんさえ良ければぜひ」
聖來「んん、改まって話すとなるとちょっと恥ずかしい気もするけど、まいっか。……アタシ、昔から踊るのが好きでね、アイドルになる前は友達とストリートダンスやってたんだ」
海「うん、それは知ってるよ。そこでプロデューサーさんにスカウトされたんだよね」
聖來「結果だけ言えばね。でもね、そんなにかっこいいものじゃないんだ。運が良かっただけかもしれない。ストリートダンスって言ってもあの頃やれてたのは真似事みたいなもので、思いっきり踊れてたのは数えられるくらいしかなかったの。一緒にダンスやってた友達は社会人になってからどんどん熱が冷めてきたみたいで、どうせ誰かに見せるわけでもないしそんなに本気でやんなくてもいいじゃんって、ちょっとステップの練習して体動かして終わりとかその程度になってきて。アタシも、23歳にもなってずっとこんなことしてられないのかなって思ったりもして。そんなだから本気で踊れる場所がだんだん無くなってて」
海「そうだったんだ」
聖來「プロデューサーさんが声を掛けてくれたときは嬉しかったな。アタシのダンスを見たいって言ってくれて、もっとたくさんの人の前で踊ってみないかって言ってくれて。まだ本気で踊れる場所がある、好きなダンスを続けられる、それもステージの上でだなんて夢のようだと思ったよ。最初で最後のチャンスだと思って思いきってアイドルの世界に飛び込んだ。燻ってたアタシを見つけて引っ張り上げてくれたプロデューサーさんに応えるためにも全力でやろうって思った」
聖來「でもね、最初の頃はやっぱりこの歳からアイドルだなんてとか、中学生や高校生の子と混ざってレッスンやトレーニングなんてって、恥ずかしがる気持ちもあったかな。笑っちゃうよね、最初で最後のチャンスだとか本気の挑戦なんて言っておいてそんなこと考えてたんだから」
海「……」
聖來「そんなときにね、ほたるちゃんに会ったんだ。オーバーワーク気味に自主レッスンしてて、そのままだと本当に倒れるまで続けるんじゃないかって心配になって声をかけたの。聞けば自分より10歳も下だっていう子が、なんて顔をしてるんだろうって最初は思ったかな」
海「あぁ、最初の頃はそうだったよね。ぱっと見はすごく儚げな印象なのに、時々何に追われてるんだってくらい立ち止まることを怖がってたみたいな。ウチもほっとけなくてつい世話焼きたくなることが多かったよ」
聖來「ね。アタシもそれで気になってちょっと話を聞いて、ほたるちゃんの経歴を知ってびっくりしたと同時に自分との覚悟の違いにショックを受けたよ。ほたるちゃんはさ、信じられないくらい理不尽な逆境の中で、アイドルになりたい、諦めたくない、諦められないって必死に食らいついてて……ん? 食らいついてだとなんか違う気がするな……。あの頃のほたるちゃんは……なんて言えばいいんだろ……」
海「なんとなく分かるけど細かい表現はいいって、それで続きは?」
聖來「ん、とにかくすごい必死さだったでしょ? ほたるちゃん、その時ね、頑張れる場所がなくなることの方が辛いからって言ってたんだ。ガツンと殴られた気分だったよ。アタシもね、頑張れる場所がなくなる辛さは知ってたと思ってた。でも覚悟が全然違った。アタシはダンスが好きで、ずっと好きなまま続けたいと思ってたけど、手を差し伸べられるまではただそう思ってただけだったんだ。友達が冷めてきたから本気で踊れなくなったとか、いい歳だからいつまでも好きなことばっかりやってられないのかもとか、自分だけでも、働きながらでもダンスを続けるって選択肢考えもしなかった。たまたまスカウトされたから夢に続く道を与えられて、運よくチャンスを与えてもらって本気でやると言っておきながら恥も捨てきれない。情けないったらなかったね」
聖來「やりたいことをやり続けるための覚悟の足りなさを思い知らされたよ。アタシも本気で夢を掴みたいからこれ以上甘ったれたことは言ってられないって思った。それに何より、たまたまスカウトされて道が開けたようなアタシがこの子の前で弱音なんか吐いてられないってね。そこからね、ほたるちゃんはアタシのライバルなの」
海「へぇ…、思ってた以上に深い話が聞けたよ。そんな経緯があったなんてね。でも、今の話だと二人ともこう、ぐわーって、すごく思い詰めた感じになりそうだけどそうはなってないよね?」
聖來「そこら辺はプロデューサーさんのおかげでもあるかな。ステージに立つために頑張るのはもちろん大切だけど、なんのためにステージに立つのか、どうしてダンスを続けたいと思ってたのか、その気持ちだって大切だって言ってくれてね。楽しむことだって忘れちゃいけないんだって教えてくれたんだ」
海「いかにもプロデューサーさんが言いそうな台詞だね」
聖來「あぁでも、やっぱりそれを抜きにしてもあの頃のほたるちゃん見てたら流石に、って気持ちもあったかなぁ。いくらなんでもあれじゃいつか壊れちゃうって思ったよ。頑張るって決意を固めはしたけど、肩の力を抜くことも、楽しむことも大切だよって、お姉さんとしては言いたくもなったのよ」
海「わかるわ」
聖來「ま、ほたるちゃんは全然そんなこと知らないだろうけどね」
海「あれ、ほたるとはこういう話はしたことないの?」
聖來「あえて話すようなことでもないしね、アタシの勝手な決意表明になっちゃうだけだし。でもその頃からちょっとずつお話しするようになってね、ほたるちゃんも体動かすのは好きだっていうからダンスレッスンに付き合ってあげたりして、代わりにアタシもアイドルのこと教えてもらったりもして」
海「次第に仲良くなっていきました、と」
聖來「うん。まぁ、アタシがライバルだって意識してからもっとほたるちゃんのこと知りたいって思って一方的にぐいぐい行ってたんだけどね」
海「以前のほたるは遠慮しすぎるところがあったから、それが良かったかもね。ウチもよく世話焼きたくなったりしてたけど、最初は結構固くなに距離置こうとしたりしなかった?」
聖來「あったあった。意外と頑固だったりするよね。嫌がられてないかなって思ったりもしたけど、話してるうちに笑顔も段々見せてくれるようになってね、それがまたそれまでの印象とは違う可愛さで思わずキュンと来ちゃったりなんかして!」
海「普段はわりと大人っぽい雰囲気あるけど、笑うと年相応な感じになるよね」
聖來「そうそう!」
海「この写真なんかまさにそうだよね。そういえば、ほたるとわんこの初対面はどんなだった? 前にトーク番組かなんかで、すれ違う犬によく吠えられてびっくりするとかって言ってたと思ったけど、わんことは普通に仲良いいよね?」
聖來「あー、それねー。最初はやっぱりちょっと怖がってたかなぁ、わんこ結構大きいから。それに勘違いだけど吠えちゃったこともあったし……」
海「勘違いで吠えるってなに」
聖來「吠えたんだけどほたるちゃんに吠えたわけじゃないというか、ちょうどビニール袋が飛んできてそれにびっくりしちゃったみたいで……」
海「あぁ……」
聖來「そういうのってその場でちゃんと叱ってあげないとダメだからわんこには怒ったんだけど、ほたるちゃんが自分のせいだから怒らないであげてっていうからやりにくかったっけ」
海「ふふ、簡単に想像できるよ」
聖來「打ち解けるまではちょっと時間かかったけど、今じゃすっごい仲良しだよ!」
海「よく見てるから知ってるよ」
ガチャ
ほたる「おはようございます」
海「お、噂をすれば。おはよう、ほたる」
聖來「おはようほたるちゃん!この前の写真持ってきたよ!」
ワァ ワタシモミテイイデスカ…!
モチロン! イッショニミヨ!
アハハ コノホタルズブヌレジャナイカ
アー ソレハワンコガシャワーチュウニ…
……
おわり
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