・みずさよ百合もの
・melty fantasiaだけど、アンドロイド要素なし
注意事項は以上です。本編は次から
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瑞希「……」
紗代子「……」
瑞希「高山さん……」
紗代子「?」
瑞希「……」
紗代子「何?」
瑞希「私といて、楽しいでしょうか?」
紗代子「……えっと、どういう意味?」
瑞希「すみません、わしゅれて――」
瑞希「噛みました。忘れてください」
紗代子「……」
紗代子「瑞希ちゃんは、私といて楽しくない?」
瑞希「……楽しくない訳がありません」
紗代子「それって、結局どっち?」
瑞希「楽しい……です」
紗代子「ふふっ、嬉しいっ」
紗代子「私も、瑞希ちゃんと一緒にいると楽しいよ」
瑞希「!」
瑞希「そう、ですか」
瑞希「ですが、私は会話のキャッチボールというものが苦手で」
紗代子「うん、そうだね」
瑞希「……同意されると、ショックだぞ。しょんぼり」
紗代子「よく考えると、私たちって似てるところが沢山あるよね」
紗代子「私も、人と話をするのって、あんまり得意じゃないんだ」
紗代子「その人を励まそうと思って、頑張れって声を掛けてるのに、暑苦しいとか、余計なお世話とか言われちゃうから……」
瑞希「……」
紗代子「だから、瑞希ちゃんといる時の静かな感じ、すごく好きだよ」
紗代子「自分のダメな所、嫌いな所を考えなくてすむから」
瑞希「高山さんは、全然ダメではないです」
紗代子「!」
紗代子「ありがとう……」
紗代子「瑞希ちゃんの隣にいると、私、嬉しいんだ。何も話さなくても、わくわくどきどきさせてくれて、こんな私でも、隣にいて大丈夫なんだって思えるから」
瑞希「……///」
紗代子「み、瑞希ちゃん?」
紗代子「(あれ? 瑞希ちゃんの耳、赤く……)」
瑞希「たか、高山さん」
紗代子「な、何?///」
瑞希「一つ、ご相談があるのですが」
紗代子「う、うん」
瑞希「次の公演で、PVを撮影することになりまして、演技のご指導、ご鞭撻を……」
紗代子「私でいいの?」
瑞希「はい、高山さんに教えていただきたいのです」
紗代子「本当に?」
瑞希「……はい」
紗代子「どうなっても知らないよ?」
瑞希「承知の上です」
紗代子「……それじゃあ、何から始める?」
瑞希「では、キスシーンなど……どうでしょう?」
――――――――――――
紗代子「(プロデューサーから公演の告知があって、それ以来、瑞希ちゃんは紬ちゃんと志保ちゃんと一緒にいることが多くなった)」
紗代子「(今回、瑞希ちゃんたちが演じるのは、心を手に入れてしまったアンドロイド。感情の芽生えたアンドロイドは、廃棄される運命だったところを、荒野へと逃亡し、そして破滅する)」
紗代子「(たったそれだけの設定を聞いただけで、私の心は震えた)」
紗代子「(破滅的な恋……)」
紗代子「(恋は身を焦がすもの、恋は身をやつすもの)」
紗代子「(手に入れてしまったばっかりに、苦しめられるんだ)」
紗代子「(私は、PVの話をする瑞希ちゃんの瞳の中に、私自身を見た)」
紗代子「(湖面のように澄んだ、瑞希ちゃんの瞳の中で、私は醜く歪み、嘲笑う)」
紗代子「(でも、そんな私を映して、微笑んでくれるのが嬉しくて、私は瑞希ちゃんから離れられない)」
――――――――――――
瑞希「プロデューサーに、演技の心配はないと言われました」
紗代子「そっか、良かったね」
瑞希「はい、ですが、まだまだ不安が消えません」
瑞希「確かに、ポーカーフェイスは得意ですが、果たして、それで本当に感情のないアンドロイドを演じていると言えるのでしょうか?」
瑞希「白石さんや北沢さんとも相談したのですが……」
紗代子「それで?」
瑞希「やはりポーカーフェイスと、感情がないということは違う、と結論が出ました」
紗代子「真面目な二人なら、きっとそう言うだろうね」
瑞希「はい、なので、高山さん」
紗代子「?」
瑞希「私を、何も考えられないようにしてほしいのです」
紗代子「どうして?」
瑞希「……演技のために」
紗代子「でも、どうやって?」
瑞希「どうやってでも」
紗代子「……」
瑞希「お願いします」
紗代子「瑞希ちゃんて、ずるい」
瑞希「!」
瑞希「その、あまり近付かれると、今日のお昼はカレーだったので」
紗代子「そんなこと気にしない」
瑞希「私が気になります」
紗代子「私、今日のお昼は何も食べてないから――」
紗代子「腹ペコなんだよ?」
瑞希「ごくり」
紗代子「ねえ、聞いておきたいんだけど……」
瑞希「はい」
紗代子「何も考えられなくなるって、例えば、頭がショートしちゃうくらい沢山のことが一度に押し寄せてくる感じ?」
紗代子「それとも、たった一つのことに集中しちゃって、他のものが一切なくなっちゃうてこと?」
瑞希「……」
紗代子「瑞希ちゃん?」
瑞希「……」
紗代子「答えてくれないんだ……」
瑞希「高山さんにおまかせします」
紗代子「……」
瑞希「んふ」
紗代子「瑞希ちゃんの耳、かわいい」
瑞希「……」
紗代子「音立てたら、嫌?」
瑞希「……いえ」
紗代子「じゃあ、食べちゃうね?」
瑞希「っ」
紗代子「……」
紗代子「熱くなってきた。どうして?」
瑞希「言えません……ぅ」
紗代子「耳、赤いよ? どうかしたの?」
瑞希「な、何も……っ」
紗代子「言わないなら、止めない」
瑞希「……」
紗代子「ふふっ、意地っ張りなんだからっ」
瑞希「ん、ぅ……」
紗代子「それとも、期待しちゃってる欲張りさんなのかな?」
瑞希「違い、ます」
紗代子「どうして?」
瑞希「これは、演技のための――っ!」
紗代子「演技のための?」
瑞希「はぁ……はぁ」
瑞希「高山さんっ、そこはダメです」
紗代子「そこって?」
瑞希「……」
紗代子「ねえ、瑞希ちゃん。これのどこが演技のためなの?」
瑞希「演技の練習です。PV撮影があって、そのために……」
紗代子「こんなに溢れさせているのも、演技?」
瑞希「……」
紗代子「大丈夫。私が連れて行ってあげる」
紗代子「何も考えられないところまで」
――――――――――――
――――――――――――
紗代子「(無言は、肯定の合図だった)」
紗代子「(無抵抗なのは、承諾の証だった)」
紗代子「(嫌がらないのは、好きだから)」
紗代子「(そんな瑞希ちゃんがいじらしくて、かわいらしくて、つい意地悪をしてしまうのは、私の悪い癖だ)」
紗代子「(度を過ぎてから、やってしまったと嘆くのだって、いつものことだった)」
紗代子「(だから、この日も瑞希ちゃんと別れた次の瞬間には、胸が苦しくて、どうしてあんなことしたんだろうって、後悔した)」
紗代子「(でも、もう一度同じチャンスが来たのなら、私は同じことを繰り返すだろう)」
紗代子「(瑞希ちゃんが呼び水になって、私の醜いところを引き出してしまうから)」
紗代子「(私は瑞希ちゃんに逆らう術を持たない)」
――――――――――――
――――――――――――
瑞希「高山さんのおかげで、PV撮影も大成功です、ぶい」
紗代子「ふふ、良かったね、瑞希ちゃん」
瑞希「高山さんの指導のおかげです」
瑞希「本当にありがとうございました」
瑞希「感謝していましゅ」
紗代子「……」
瑞希「噛みました」
紗代子「うふふ、どういたしまして」
紗代子「それで、レッスンの方は順調?」
瑞希「はい、滞りなく進んでいます。怖いくらいに」
紗代子「順風満帆の時ほど、見落としがないかって不安になるんだよね」
瑞希「そうですね、油断大敵。こういう時ほど、慎重に」
紗代子「うんうん」
瑞希「そういえば、高山さんにもう一つ嬉しいニュースを」
紗代子「?」
瑞希「以前、北沢さんと上手く打ち解けられない、と相談したのを覚えていますか?」
紗代子「うん、覚えてるよ」
瑞希「実は、北沢さん、年齢のことを気にしていたのです」
瑞希「プロデューサーが教えてくれたので、ようやく分かったのですが、そのおかげで沢山お話が出来たのです、ぶいぶい」
紗代子「……」
瑞希「北沢さんの学校生活や、白石さんの地元のお話が聞けて、嬉しかったぞ」
紗代子「……瑞希ちゃん」
瑞希「高山さん……?」
紗代子「(どうして、そんな話を私にするの?)」
紗代子「(なんて言える訳ない。これは私の醜い部分、だから瑞希ちゃんには知られたくない)」
紗代子「!」
瑞希「……」
紗代子「(笑ってる……?)」
瑞希「高山さん、もしかして嫉妬、していますか?」
紗代子「!」
瑞希「それは、例えば『ここ』が苦しくなって」
紗代子「(瑞希ちゃんは私の胸に手を当てた)」
瑞希「白石さんや北沢さんが憎いと思いますか?」
紗代子「ち、違う!」
瑞希「でも、鼓動が随分、早いですね」
瑞希「高山さんを嫉妬させるような、そんな酷いことをいうのは、果たして、どの口でしょうか?」
紗代子「……」
瑞希「もし、そんな悪い口があるなら、塞いでしまわなければいけません、違いますか?」
紗代子「……」
瑞希「そこで、高山さん、またしても相談なのですが、探していただけませんか?」
瑞希「悪い唇を」
――――――――――――
――――――――――――
志保「あ、瑞希さん、探しましたよ」
瑞希「北沢さん、何か御用でしょうか?」
志保「公演のことで、少し共有しておきたいことが……」
紗代子「///」
志保「紗代子さん、大丈夫ですか?」
紗代子「えっ?」
志保「顔が赤いですよ?」
瑞希「レッスンをしていたので、汗をかいているのです」
瑞希「そうですね?」
紗代子「あ、うん。平気、何でもないよ///」
志保「そう、ですか」
瑞希「それで、共有しておきたいこととは――」
志保「――実は」
紗代子「(身体が、火照る)」
紗代子「(何も考えられない)」
紗代子「(お腹の奥が熱くて、切ないよ)」
紗代子「(瑞希ちゃん)」
瑞希「なるほど、白石さんにも伝えましょう」
紗代子「(綺麗な指)」
紗代子「(あれがさっきまで、私の中に?)」
志保「紗代子さん?」
紗代子「……」
志保「紗代子さんっ!」
紗代子「ふぇ?」
志保「!」ドキッ
志保「あ、あの体調が優れないなら、プロデューサーさんを呼びましょうか?」
紗代子「う、ううん。大丈夫、少し身体を休ませたら、すぐ治るから」
志保「でも……」
瑞希「では、私が付き添います」
紗代子「!」
瑞希「北沢さん、冷えピタが冷蔵庫にあったはずなので、それを持ってきたもらえますか?」
志保「は、はい」
紗代子「……瑞希ちゃん」
瑞希「高山さん、すみません。気が付くのが遅れて」
紗代子「んっ……」
紗代子「(ひんやりしたものが、私の口の中に入って来て、歯の間から舌の裏まで這いまわって、纏わりついた何かをこそぎ落としていく)」
瑞希「高山さん、綺麗です」
紗代子「っ!」
瑞希「高山さん、好きです」
紗代子「瑞希ちゃん……///」
志保「瑞希さん、持ってきました」
瑞希「ありがとうございます、北沢さん」
紗代子「ありがと、志保ちゃん」
志保「いえ、このくらい……」
志保「あの、私はこれで失礼しますね」
瑞希「はい、お気をつけて」
紗代子「……」
瑞希「……」
紗代子「志保ちゃんに見られてたかも」
瑞希「……私は」
瑞希「私は、見られていても構いません」
――――――――――――
――――――――――――
瑞希「(私は、高山さんを苦しめている)」
瑞希「(そして、それを楽しんでいる)」
瑞希「(高山さんが困ったように、瞳を潤ませて、私を見上げていると、胸が締め付けられる思いがする)」
瑞希「(私はずるい)」
瑞希「(私は高山さんを利用している)」
瑞希「(私は、高山さんを支配して、操って、自らの欲望を満たしている)」
瑞希「(高山さんが私に何を望んでいるのか)」
瑞希「(高山さんは、包まれたいと願っている)」
瑞希「(なので、私はそれを餌にして、高山さんが私から離れないように、繋ぎとめる)」
瑞希「(真壁瑞希は卑怯で、独りよがりな最低のアイドルです)」
――――――――――――
――――――――――――
紬「あの、高山さん、真壁さんを見ませんでしたか?」
紗代子「瑞希ちゃん? 見てないよ」
紬「そうですか……」
紗代子「次の公演のこと?」
紬「はい、真壁さんに確かめておきたいことがあって」
紗代子「そっか。新曲はどう? 上手くいってる?」
紬「ええ、真壁さんや北沢さんのおかげで大きな問題もなく、進んでいます」
紗代子「ライブもPVも楽しみにしてるからね」」
紬「期待に応えられるよう、努力します」
紬「……ところで、高山さんは真壁さんと話せていますか?」
紗代子「?」
紬「あの、お二人が以前から仲良くしているのは、存じていましたが、近頃はユニットの活動で忙しいので、どうなのだろうか、と」
紬「あっ、余計なお世話とは分かっていますが、最近の真壁さんはどこか元気がないように見えて……」
紗代子「(瑞希ちゃんが?)」
紬「高山さんなら、何かご存知かと」
紗代子「ううん、私もこの頃は瑞希ちゃんと会えてなくて……」
紬「そうですか、北沢さんも心配しているのです」
紗代子「今度会ったら、それとなく聞いてみるね」
紬「はい、お願いします。同じユニットとはいえ、真壁さんはリーダー。私たちを不安にさせないためにも、何か心配事を抱えているかもしれませんから」
紗代子「そう、だね」
紗代子「(瑞希ちゃん……!)」
――――――――――――
――――――――――――
紗代子「瑞希ちゃん!」
瑞希「!」
瑞希「高山さん、どうかしたのですか?」
紗代子「(いつもの瑞希ちゃん?)」
瑞希「あの、そんなに見つめられると、照れてしまいます」
紗代子「瑞希ちゃん」
瑞希「あぅ」
瑞希「高山さん、そんな風に抱き付かれると、苦しいぞ」
紗代子「……」
瑞希「高山さん?」
紗代子「動いちゃダメ」
瑞希「……」
紗代子「……」
瑞希「あの、もういいでしょうか?」
紗代子「!」
瑞希「高山さん、これからプロデューサーと打ち合わせがあるので、離してください」
紗代子「……う、うん」
瑞希「(これでいい。高山さんが、これで苦しまずに済むなら)」
――――――――――――
――――――――――――
紗代子「(あれは、いつが始まりだったんだっけ?)」
瑞希「(私たちがそういった関係になったのは、確か……)」
紗代子「(雨の降る日)」
瑞希「(シアターの隅っこで)」
紗代子・瑞希「(二人だけの世界を作る遊び)」
紗代子「(本当は気付いていた)」
瑞希「(似た者同士だということに)」
紗代子「(だからこそ正反対で)」
瑞希「(それ故に、惹かれ合った)」
紗代子「(傷を舐め合う獣みたいに、身体を寄せ合って、冷たい雨に凍えていた)」
瑞希「(目の前にいるのは、自分によく似た誰かで、慰めるのに理由はいらなかった)」
紗代子「(それが、閉じた世界に堕ちていくことだとは分かっていたけど)」
瑞希「(ただ、寒さに震える身体を温めたかった)」
紗代子「(それまでは、仲の良いアイドル同士で)」
瑞希「(それからは、欠けてはならない半身になった)」
紗代子「(私も瑞希ちゃんも、自分に足りないものを探していて、足りないことに傷付いていたから)」
瑞希「(私と高山さんは、補い合えると信じて、一つになろうと決めた)」
紗代子「(私たちの関係を一言で言い表すなら)」
瑞希「(共依存、が相応しいと、あの時も口にした)」
紗代子「(それでもいいと、私は答えて)」
瑞希「(私は頷いた)」
紗代子「(瑞希ちゃんと一緒にいると安心できた)」
瑞希「(高山さんの隣にいられて、嬉しかった)」
紗代子「(瑞希ちゃんは自信の足りない私を勇気づけてくれた)」
瑞希「(高山さんは私のことを一生懸命に見つめてくれた)」
紗代子・瑞希「(それだけで、充分だったはずなのに)」
――――――――――――
――――――――――――
志保「瑞希さん、いますか?」
瑞希「どうぞ、北沢さん」
志保「……」
瑞希「どうかしましたか?」
志保「あの、思っていることがあるなら、遠慮せずに言ってください」
瑞希「?」
志保「そんなに、私たちは信用がありませんか?」
瑞希「いえ、北沢さんも白石さんも信頼しています」
志保「……」
志保「なら、どうして話してくれないんですか?」
瑞希「……あの、言っている意味が――」
志保「――紗代子さんのことですか?」
瑞希「!」
志保「ユニットの練習でも、身が入ってないですよ」
瑞希「それは、関係のない事です」
瑞希「練習のことは謝りますが、高山さんはこの件とは何の関係もありません」
志保「……」
瑞希「それに例え、高山さんと私の間に何か問題があったとしても、それはプライベートなことで、アイドル業とはまったく別の問題です」
志保「……そこまで話して、まだ分からないんですか?」
志保「紬さんならきっと『あなたはバカなのですか?』と言うと思います」
瑞希「?」
志保「気にしていないなら、言い訳する必要ないですよね」
瑞希「……いえ、それは」
志保「瑞希さんと紗代子さんの間に何があったか、なんて分かりませんし、知りたいと思いません。ただ、それで仕事に悪影響が出るなら、私は見過ごせません」
瑞希「……」
志保「それでも、一言、言わせてもらえるなら」
志保「お二人は、何が不満だったんですか?」
瑞希「不満?」
志保「はい。お互いに必要としあって、支え合って、時に、その///」
志保「あ、愛し合っていたなら、それのどこがいけないんですか?」
瑞希「……北沢さんは何も知らないので」
志保「ええ、何も知りません。だから、もしこの問題を解決できるとしたら、それは瑞希さんなんです」
瑞希「……」
瑞希「私は、高山さんを利用していました」
瑞希「私は……」
志保「……」
瑞希「……」
志保「雨、降ってきましたね」
瑞希「(雨……?)」
――――――――――――
――――――――――――
紗代子「(気持ちいい)」
紗代子「(悩み続けて、熱を持った頭に大粒の雨が当たって、冷えていく)」
紗代子「(空っぽなシアターの屋上で、私を止める人は誰も居なくて、雨が連れてきた風が、強く私のスカートを攫う)」
紗代子「(次第に、自暴自棄な気持ちになっていく)」
紗代子「(雨の中に飛び出す前、色々なことを考えて、立ち竦んでいたのが嘘みたいだ)」
紗代子「(服の汚れ、濡れた髪、翌日のレッスン、瑞希ちゃん)」
紗代子「(全てがどうでもよくなって、雨に洗い流されていく)」
紗代子「(あんなに悩んでいたのが、バカみたい)」
紗代子「(忘れちゃえばいいんだ)」
紗代子「(セピア色の夢の中へ、置いていこう)」
紗代子「(そうすれば、色鮮やかな夢なんて見ないようになるから)」
瑞希「高山さん!」
紗代子「瑞希ちゃん……?」
瑞希「風邪を引いてしまいます、早く屋根の中へ」
紗代子「いいよ、放っておいて」
瑞希「っ!」
瑞希「そういう訳にはいきません」
紗代子「いいの、瑞希ちゃんこそ、濡れちゃうよ?」
瑞希「構いません。高山さん、早くこちらへ」
紗代子「っ」
紗代子「離して!」
瑞希「!」
紗代子「私のことなんか、放っておいてよ!」
紗代子「私のことなんか構わないでっ……!」
瑞希「高山さん……」
瑞希「いえ、放っておきません!」
瑞希「高山さんは私にとって、とても大切な人です」
瑞希「放ってなんておきません!」
瑞希「だから、早く行きましょう?」
紗代子「……」
紗代子「(嬉しくなってしまう自分を、嫌いになってしまう)」
紗代子「(瑞希ちゃんが握ってくれる手が、温かいっていうだけで、こんなに嬉しくなる自分が、瑞希ちゃんに依存してしまう自分が嫌だ)」
紗代子「出来ない」
瑞希「え?」
紗代子「出来ないよ、瑞希ちゃん」
瑞希「……」
瑞希「高山さん、いえ、紗代子さん」
瑞希「ごめんなさい」
紗代子「?」
瑞希「紗代子さんをそんな風に弱気にしてしまったのは、私です」
瑞希「紗代子さんが弱気であればあるほど、頼ってもらえると思ってしまった、私の責任です」
瑞希「私は、紗代子さんが大好きです」
瑞希「どこまでも全力で、ひたむきな紗代子さんが大好きです。自分を信じてあげられなくって、くじけてしまう紗代子さんが大好きです」
瑞希「一人で出来ないことを、一人で抱え込む必要はありません」
瑞希「二人で乗り越えていきましょう?」
瑞希「いつか一人で出来るようになるまで、いつか強くなれるその日まで、弱い私たちは、弱いまま寄り添っていたい、と私はそう思います」
瑞希「ダメ、でしょうか?」
紗代子「……」
紗代子「いいの?」
瑞希「はい」
紗代子「私で、本当に良いの?」
瑞希「紗代子さんがいいのです」
瑞希「いえ、紗代子さんでなければダメです」
瑞希「どうぞ、これからよろしくお願いします、紗代子さん」
――――――――――――
――――――――――――
紗代子「(その後の後日談というか、毒にも薬にもならない話)」
紗代子「(公演を終えた瑞希ちゃんは、その直後のオフで熱を出した)」
紗代子「(あの雨の日、瑞希ちゃんの手が温かったのは、きっとその前兆だったんだ、と今なら分かる)」
紗代子「(という訳で、私はその責任を取って、瑞希ちゃんのお見舞いに行った)」
瑞希「高山さん、すみません、ごほごほ」
紗代子「ううん、半分くらいは私のせいだし」
瑞希「いえ、雨の中に飛び出したのは私の判断なので」
紗代子「違うよ、瑞希ちゃんは悪くないよ」
瑞希「……」
紗代子「……」
紗代子・瑞希「ふふふ」
瑞希「では、お言葉に甘えて、そのようにしておきます」
紗代子「ところで、もう紗代子さんって呼んでくれないの?」
瑞希「ご、ごほんごほん///」
紗代子「ふふっ、ありがとう。瑞希ちゃん……」
瑞希「……いえ、私は何も」
紗代子「……」
瑞希「……」
紗代子「早く風邪を治して、もっといっぱい頑張ろうねっ!」
瑞希「はい……頑張りましょう」
瑞希「そこで、一つ相談なのですが」
紗代子「?」
瑞希「風邪をうつすと早く治るというのは、本当なのでしょうか?」
瑞希「それにこの資料にある、キスという治療を試してみたいのです」
紗代子「瑞希ちゃん……! それ、エッチな雑誌……///」
瑞希「高山さん、お願いします」
以上で、終わりです。
HTML化、依頼してきます。
表現がエロくていいね、乙です
>>2
真壁瑞希(17) Da/Fa
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高山紗代子(17) Vo/Pr
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>>16
北沢志保(14) Vi/Fa
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>>21
白石紬(17) Fa
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