ありす「マジで魔法少女、頑張ります」 (50)




『第1話 マジでクールなタチバナです』




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――早朝、東京都内某所


「はー着いたついた……いやー、ここが私が派遣された次の世界ですか」フワフワ

「それなりの文明レベル……みたいですし、成果を上げられればいいんですけど……」

「まあお仕事ですし、色々言っても仕方がありませんね。ビビッと来るまで頑張りましょう!」


<プップー!!


「おや……?」



……
…………

――東京都内、橘宅(玄関)

ガチャッ!

ありす「いってきます」


――私は橘ありす。どこにでもいるごく普通の女子小学生です。あえて、違うところがあるとすれば……。


ヴヴヴヴヴヴッ!

ありす「はい、もしもし?」ピッ!

P『おはようありす。起きてたか?』

ありす「当たり前です。もう登校時間なんですから」

P『そりゃそうか。それじゃあ今日のレッスンは学校が終わってからになるから、遅れないで来てくれな』

ありす「わかっています。放課後に用事も入れていませんし、スケジュールは空けているので心配しないでください」

P『次の仕事の内容も、昨日の打合せで大体上がってきたから事務所に来たら少し話しておくよ』

ありす「そうですか、楽しみにしています。それじゃあ学校に行く途中なので、また連絡します」

ピッ!

ありす(朝からPさんと電話しちゃった……)

タッタッタッタッ……


――私はCGプロダクションという事務所で、アイドルとして活動しています。



ありす「あっ……おはようございます。文香さん」



文香「……ありすちゃん、おはようございます。今日も……お元気ですね」

ありす「はいっ。文香さんも、朝から大変ですね」

文香「いえ、これくらいは……お店の前を掃いてから、私も学校に行きますので……」


――この人は、鷺沢文香さんです。近所で書店を営んでいる叔父さんのお手伝いをしている高校生です。


ありす「来月は卒業式ですよね。文香さん、春からは大学生ですね」

文香「はい……無事に、受験も終わったので……少し、落ち着きました」


――文香さんは今年の3月に高校を卒業して、大学生になります。今でも落ち着いた雰囲気のある素敵な女性で……文香さんは私の憧れです。


ありす「それじゃあ文香さん、いってきます」

文香「はい、いってらっしゃい……」


――私もいつか、文香さんみたいな大人の女性になれたらなって、思っています。


……
…………

――通学路(横断歩道前)

ありす「家を出るの、ちょっと早かったかな……」


<プップー!!


ありす「え? あっ――」

ありす(そんな……横断歩道で信号待ちをしている私の目の前に、トラックが突っ込んで来るなんて……)

ありす(しかもトラックの運転手の様子を見ると、どうやら眠っているようです。長距離運送による疲労でしょうか、あいにくこの道は平坦な一般道です。段差舗装でもされていれば車体が揺れて運転手も目が覚めたかもしれませんが)

ありす(ああ、だけど今の私は目の前に迫るトラックを見て何も反応出来ず立ち尽くすだけです。逃げることもできませんし、次の瞬間には私はトラックに跳ねられ、新聞の片隅に『女子小学生、通学中にトラックに跳ねられ死亡。居眠り運転が原因か』と記事が作成されることでしょう)

ありす(ごめんなさい、お母さん、お父さん。私は先に死んでしまいます。親不孝者です。Pさん、私はもっとあなたの傍でアイドルをしていたかったです。文香さん、大きくなったらあなたみたいな女性になりたかったです)

ありす(やっぱりトラックに跳ねられたら痛いのでしょうか。それとも痛みを感じる前にショック死してしまうのでしょうか。目の前のトラックが激しいエンジン音を上げて――)



ありす「……ってあれ、何だかんだと1分くらい色々頭の中で考えていましたけど、中々跳ねられませんね?」チラッ


<プップー!!


ありす「え……トラックの車体が、浮いてる……?」


???「ふー……」


ありす「ん?」ピクッ


???「ギリギリ間に合いましたね。あと少し遅かったら女の子がトラックの餌食になってましたねぇ」

???「いやー、それにしてもナイスタイミングです! さすが、普段からサイキックパワーで周囲の状況を察知しているユッコです!」

???「まあ本来の仕事とは違いますけど、人知れず困っている人間を助けるのもカッコいいですからね、これくらいは朝飯前です!」

???「あーっはっはっは!」


ありす「……」ジーッ……


???「はっはっは……」


ありす「……」ジーッ……


???「は……」


ありす「……」ジーッ……


???「……あの、もしかして、ユッコのこと、見えてます」

ありす「はい」

???「でえええええええええ!?」

ありす「うわっ!?」ビクッ!

???「ま、まさかまさか、ホントにユッコの姿が見えるんですか!?」ビュンッ!

ありす「え、ええ……というか、それだけ大声を上げていれば嫌でも分かるというか……」

???「いえ、普通の人間にはユッコの姿は見えません。ということは、あなたは……!!」

ありす「?」

???「アタリじゃないですか! さすがサイキックパワーに導かれしユッコです! 早くもお仕事のノルマを1つ達成してしまうとは!」

ありす「あのー……」

???「はっ!? おっと……自己紹介がまだでしたね。コホンッ!」

ゆっこ「私はさすらいの妖精、ユッコです! サイキックパワーを身に纏い、魔法世界のマジカルランドからやってきました!」フワフワ

ガシッ!!

ゆっこ「うごふっ!?」

ありす「よく動くオモチャですね……どうやって飛んでるんでしょうか? ドローンとは違いますし……」グイッ! グイッ!

ゆっこ「いひゃいひゃいもほぉひゃみぇてぇくしゃあしゃあい」

ありす「おっと……す、すみません……いえ、オモチャに何を言っているんでしょうか私は……」パチーンッ!

ゆっこ「だーかーらー! オモチャじゃないです! ユッコはれっきとした妖精です! よ、う、せ、い!」

ありす「はあ、妖精……確かに2等身のそのお姿は、ゲームや漫画でよく見る妖精ですね」

ゆっこ「そうです! 魔法の国、マジカルランドから来た妖精です!」

ありす「いやあの、今時ファンタジーの世界設定でマジカルランドなんて直球な名前の国なんて……」

ゆっこ「まあそこはですね、国の歴史とか、分かりやすいほうがいいとか、親しみやすいほうがいいとかあるじゃないですか」

ありす「なんでもいいですけど……」

ゆっこ「がくっ……ま、まあそれは置いといて、あなたがそこのトラックに轢かれそうになっていたのを偶然見かけたので、ユッコのサイキックパワーで助けてあげたんですよ!」

ありす「そ、そうだったんですか……ありがとうございます。おかげで辞世の句を詠まずにすみました……ところで」

ゆっこ「はい?」

ありす「さっきから魔法だったりサイキックパワーだったり、実際はどちらなんですか?」

ゆっこ「あ、そっち……まあユッコはサイキックパワーです。さすらいの妖精たる者、こういう力の1つや2つは身に着けておきませんとね」

ありす「はあ……それで、その……マジカルランド、の妖精さんが、どうしてこんなところにいるんですか?」

ゆっこ「そうです! 本題はそこです! 単刀直入に言います。あなた、魔法少女になりませんか!?」



ありす「すみません、この後学校があるので……」スタスタスタ

ゆっこ「待ってくださあああああい!」ビューンッ!



ありす「いえあの、勧誘とかはお断りしているので」

ゆっこ「どうしてわざわざ人間の世界まで足を運んで宗教勧誘みたいなことをしなければならないんですかユッコは! 少しくらいお話しを聞いてくださいよぉ!」

ありす「うーん……わかりました。先ほども助けてくださったみたいですし」

ゆっこ「ありがとうございます! それじゃあ場所を移動して……あ、あそこに浮かせっぱなしのトラックは安全運転義務違反をしたので、おしおきしましょう」ビビビビビッ!!

ガギギギギギ……ベコベコベコンッ!!

ありす(トラックがサッカーボールくらいの大きさになるまで潰されていった……)サーッ……

ゆっこ「よし、サイキックパワーのおしおき完了! さて、いきましょうか」

ありす「は、はい……」


……
…………

――公園

ありす「ここなら落ち着いてお話しできますね。学校もありますので、手短にお願いします」

ゆっこ「はい! わかりやすく纏めますね!」

ゆっこ「1、マジカルランドが魔物に襲われて大ピンチ!」

ゆっこ「2、現状を打破するにはマジカルランドの伝説になっている魔法少女の力が必要!」

ゆっこ「3、なので国の妖精みんなで魔法少女を探しにいこう!」

ゆっこ「というわけです」


ありす「そうですか。頑張ってください」スタスタスタスタ

ゆっこ「だから待ってくださいいいい!!!!」ギュウウウウウッ!


ありす「は、離してくださいっ! つまりユッコさんは、私に魔法少女になってその魔物と戦えって言いたいんですよね!? 嫌ですよそんなの!」

ゆっこ「あ、いえ、そこはまたちょっとお話が変わるんですけど……」

ありす「違うんですか?」

ゆっこ「ちょっと難しいお話なんですけどね、まず魔物についてはマジカルランドだけではなくて、色んな世界を侵略しようとしているんです。もちろん、この世界も狙われているはずです」

ありす「そういうのは自衛隊とか、国に任せたほうが早いと思います」

ゆっこ「そして魔物の勢力はとても強大なんです。あなたのように、妖精が見える人間は魔法少女の素質があるので戦えるんですけど……」

ありす(無視された……)

ゆっこ「やっぱり危ないお話ですし、王国側としてもより高い素質のある人間に魔法少女になってもらうよう、お願いするってお話になっているんです」

ありす「なるほど……確かに、能力の低い人間を無駄に雇用するのは非効率ですからね。つまり、私にはそこまでの素質は無いということですか?」

ゆっこ「そんな現実的な目線でお話されると……えっとですね、ここに国で定めた魔法少女の能力についてのガイドラインがあります」ゴソゴソッ

ゆっこ「このガイドラインに記載されてる基準を全部満たしている人間は、マジカルランドで一緒に戦ってもらおう!」

ゆっこ「そして基準に満たないけど魔法少女になれる人間には、自分たちの世界は自分たちで守ってもらおう! ということです」

ありす「なるほど……ガイドラインも、しっかりと書かれているみたいですね。書いてある内容はよくわかりませんが」フムフム

ゆっこ「というわけで、とりあえずお試しということで、このスタージュエルを握ってくれませんか?」

ありす「これですか? キラキラしててキレイですね……星型の宝石ですか?」

ゆっこ「はい! マジカルランドの通貨であり、力の源です!」

ありす「力の源を通貨にするんですか……」

ゆっこ「とりあえずそれを握って、何でもいいので強く念じてみてください。それであなたが魔法少女になれるかが分かります!」

ありす「そ、そうなんですか……」ドキドキドキ

ゆっこ「おやおや? そのお顔、もしかしてちょっとドキドキしてきましたか?」ニヤニヤ

ありす「そっ、そんなことありません! 魔法少女なんて、アニメもとっくに卒業しましたし……に、握って念じればいいんですよね? 痛っ……」ギュッ!

ありす「……」

ゆっこ「……」

ありす「……どうですか?」

ゆっこ「うーん」

ありす「ダメなんですか……」

ゆっこ「いえ、ダメじゃないですよ。魔法少女の素質アリです! ただ、基準をすべて満たせてないみたいですね……」ウーン……

ありす「全部の基準を満たすとどうなるんですか?」

ゆっこ「凄まじい素質を持った魔法少女であれば、スタージュエルを握って念じただけで、光に包まれて魔法少女になれるみたいなんです」

ゆっこ「あなたが握ったスタージュエル、何となく光ってますけど、この状態だと変身はできないみたいですね……」

ありす「そうですか……残念です」

ゆっこ「あ、でもマニュアルに書いてありますけど、スタージュエルを光らせることが出来るなら、補助アイテムを使えば魔法少女への変身が出来るみたいですね」

ゆっこ「ふんふん、なるほど、スタージュエルを鍵にして使うマジカルクローゼットがあればいいと……」



<キーンコーンカーンコーン


ありす「あっ!? が、学校の時間……すみません、もう行かないと遅刻してしまいます」

ゆっこ「あらら……すみません、お時間を取らせてしまって……学校が終わったらまたお話してもいいですか?」

ありす「お仕事がありますけど……まあ、少しだけなら」

ゆっこ「ありがとうございます! それじゃあユッコはここら辺で人間の世界を堪能して時間を潰してますね」

ありす「随分と俗っぽい妖精ですね……」

ゆっこ「いえいえ、事前に仕入れた情報によりますと、なんでもこの世界では銀色の玉を穴に落として数字を揃える遊びが流行っているとか! それを見つけて暇を潰してますね!」

ありす「そうですか。捕まらないように気を付けてくださいね」

ゆっこ「では学校が終わった後で……あ、そうです、お名前を聞いてもいいですか?」

ありす「ご挨拶を忘れていましたね……すみません。私の名前は、橘ありすです」

ゆっこ「ありすちゃんですね! それではまた後でお会いしましょう!」

ありす「本音を言うとこれで最後にしたかったんですけどね」

……
…………



――放課後、ありすの通う学校(正門)

ありす「ふぅ……宿題が出てしまいました」

ありす「今日はレッスンがあるから、寝る前にはちゃんとやらないと……あ、そうです」

ありす(確か朝に会った変なの……ユッコさん、だったかな。学校が終わったらお話するって約束をしましたけど、待ち合わせの場所を決めてなかったですね……)

ありす「ま、いいでしょう。決めていなかったのなら仕方がありません。お仕事を優先して事務所に行くべきですね」スタスタスタ

ありす「もうちょっとでレコーディングも始まりますし、こちらもしっかりやりませんと……」


……
…………

――街中、横断歩道

ありす(信号、長いな……)

ありす「あっ」



文香「……」



ありす「向こうの歩道に文香さんが……ふみ――」


「あーいたいた文香チャン、ねえこれからドコ行くの?」

文香「……っ、こ、これから、ですか……その、家に帰るだけ、ですが」

「へぇー、そうなんだ。それじゃ一緒に遊べないじゃん」


ありす(……文香さんの、お友達……でしょうか。ですが、あんな時代錯誤のガングロギャルが文香さんのお友達なんて……)


「それじゃあさ、アタシたちこれから渋谷行くからお小遣いちょうだい?」

文香「……!」


ありす「なっ……!」

ありす(あ、あれは……文香さん、あの人たちにカツアゲをされて……)


「面白いもん見つけたら文香ちゃんにお土産買ってきてあげるからさー、いつもみたいにいいでしょー?」

文香「あの……それは……」

「えー、でもアタシこの前バイト代使っちゃったし、文香ちゃんからお小遣い貰わないと遊びにいけないんだけどー?」

文香「あ……その……ぅ……」

「ねーいいでしょー? 減るもんじゃないしさー」

文香「……は……い」



ありす(ああ……文香さん、いつもあんな人たちに……温厚な文香さんでは、荒事なんてとてもじゃないけど無理に決まっています……)

ありす(どうして……周りの人たちは文香さんを助けないんでしょうか……文香さんが、あんなに困っているのに……)

ありす(わ、私……私が、文香さんを助けないと……この信号が青になったら、真っ先に文香さんのところにいって、それで……)


ありす(……し、信号が、青に……なんで、足が、動かない……文香さんが、そこにいるのに……どうして……!)



<プップー!!


ありす(あ……また、信号が、赤に……)


「ありがとー文香ちゃん♪ それじゃまた明日学校でねー」

文香「……」


ありす(文香さんが……あの人たちにお金を渡して……そのまま、一人で帰って……)

ありす「私、私は……」



ゆっこ「いやー、こんな往来の場であんなカツアゲがあるなんて、この世界も物騒ですねー」フワフワ

ありす「って、でええええええ!?」ビクゥッ!

ゆっこ「どうかしましたか?」

ありす「え、あ……い、いつからいたんですか……」

ゆっこ「ついさっきですけど……ありすちゃんが信号待ちしているのを見つけたので」

ありす「だ、だ……だったら! どうして助けなかったんですか!」

ゆっこ「さっきのカツアゲですか? まあ朝のありすちゃんみたいに、命の危険があるわけでもないですし……そう簡単に妖精がこの世界の人間に干渉するのもよくないですし」

ありす「……もういいです!」

タタタタタッ!

ゆっこ「あっ、待ってください、ありすちゃーん!」ヒューン!


……
…………

――河川敷

ありす「……!」タッタッタッタッ!

ゆっこ「ありすちゃーん! ありすちゃーん!」ヒューン!

ありす「……」タッタッタッタ……


ありす「……」ハァ、ハァ……

ゆっこ「ふぅー……どうしたんですか突然。いきなり駆け出して」フワフワ

ありす「……自分が、嫌になりました」

ゆっこ「はい?」

ありす「ここまで走ってる間に、頭の中で色々考えていました」

ありす「文香さんを助けようって思ったのに、動けなかった自分。動きたくても、怖くなって動けなくて」

ありす「それなのに、ユッコさんに当たり散らして、イライラして……私、最低ですね」

ゆっこ「さっきの人、ありすちゃんのお知り合いだったんですね。でも、仕方がないですよ。さっきのカツアゲ、3人組でしたし」

ありす「でもユッコさんが、私を助けてくれたときに使ってくれたサイキックパワーがあればって……他人任せなことを考えてしまって」

ありす「自分じゃ何もできないのに、誰かに頼ろうとして……」ハッ!

ありす「そうです……ユッコさん!」

ゆっこ「なんですか?」


ありす「魔法少女の力……それは、私なら使えるんですよね? 魔物退治は、ちょっと怖いけど……でも、文香さんを――」

ゆっこ「ストップです、ありすちゃん」

ありす「え……?」

ゆっこ「……はぁー、ずっと飛んでると疲れますからね、ちょっと座りましょうか。よいしょっ」



ゆっこ「ありすちゃん、1つ聞いてもいいですか?」

ありす「……はい」

ゆっこ「もしありすちゃんが魔法少女になったとして、お友達……文香さんを助けてあげたとします」

ゆっこ「きっと、文香さんは感謝するかもしれません。ありすちゃんも、嬉しくなるかもしれません。だけど、次はどうしますか?」

ありす「次……」

ゆっこ「今度は、ありすちゃんの見えないところで、文香さんは同じ目に遭うと思います。ありすちゃんは、それでいいと思いますか?」

ありす「そんなの、よくないに決まっています」

ゆっこ「はい。だから、たぶんありすちゃんが考えていること……魔法の力で相手をコテンパンにするのは、なんの解決にもならないんですよ。サイキックパワーでも一緒です」

ありす「そんな……でも、魔法の力があれば、悪い人をやっつけることが出来るじゃないですか! それなら……」

ゆっこ「うーん、なんと言えばいいのか……分かりました! それじゃあ、ユッコから1つ宿題を出します!」

ゆっこ「明日また、ユッコはありすちゃんに会いに来ます。それまでに、文香さんを助ける為の魔法を、ありすちゃんが考えてみてください!」

ありす「……意味が分かりません」

ゆっこ「つまり、力技以外の方法で文香さんを助けるにはどうすればいいかってことですよ。明日またこの時間に会いに来ますね!」ビューンッ!

ありす「あっ……行っちゃった……」


ありす「……私が、文香さんを助ける為に、どうすればいいか」


……
…………

――夜、事務所

ガチャッ!

ありす「ただいま戻りました」

P「おっ、帰って来たか。お疲れさん、今日レッスンはどうだった?」

ありす「……ちょっと、上手く行かないところがありました」

P「そうか……どんなところが上手く行かなかったんだ? トレーナーさんにも、しっかり見てもらったか?」

ありす「いえ、ただ今日は上手く調子が出なかっただけというか……一度自分で振り返ってみて、必要であれば相談させてもらいます」

ありす(本当は、文香さんのことを考えていて集中できなかっただけですけど……)

P「まあ、まだ期間もあるし、自分で見直してみるのもいいが……困ったら早めに相談に来てくれよ」

ありす「はい」

P「それじゃ後はありすを家まで送らないとな……このメール送ったら事務所閉めるから、休んで待っててくれ」

ありす「わかりました……」

ありす(……文香さんを助ける方法。文香さんの学校に連絡して、カツアゲの話をする……いえ、でも学校側がまともに取り合ってくれるかどうか)

ありす(それなら、いっそのこと警察に……いえ、警察沙汰になったら逆に恨みを買われる可能性もありますね)

ありす(どうすれば……)

P「どうしたありす、悩みごとか?」

ありす「……いえ、そういうわけでは」

P「そうか? 悩んでいるって顔してたけど」

ありす(もう、この人はこういうところは鋭いんですから……でも……)

ありす「……例えば」

P「ん?」

ありす「例えば、困っている人が目の前にいたとして」

ありす「その人を助けた後、また別の場所でその人が困って……また助けて、また困って……そんな繰り返しが続いたら、Pさんはどうしますか?」

P「難しいこと聞くな……そうだな、俺なら……助けない、かな。いや違うな、助けるけど、助け方を変える……っていうか」

ありす「……どういうことですか?」

P「今の話ってさ、その困っている人は、何度助けたとしてもずっと同じことで困るってことだろ?」

ありす「はい」

P「てことは、何度助けても変わらないんだよ。そんなの、助けるほうも大変だろ?」

P「それなら後は、その人自身が困らないように変わってもらうしかないんだよ」

ありす「……どんなふうに、変わってもらえばいいんですか?」

P「……」

ありす「……」

P「……うん。例えば、いじめられてる子なら、いじめてくる相手よりも強くなってもらう、とか」

P「勉強が出来ない子なら、まずは勉強することを好きになってもらう、とか」

P「時間は掛かるかもしれないけど、そうやって変わってもらえば、最後には違う結果になるかもしれないだろ? その為の手助けならいいかなって思う」

ありす「……」

P「さて、メールも送ったし、事務所閉める前に車だけ出してくるよ。帰る準備しておいてくれよ」ガタッ!

ガチャッ……バタンッ!


ありす「変わってもらう……文香さんに……」


……
…………

――事務所(廊下)


P「……困っている友達でもいるのかな」

P「まあ、ありすは賢いし、優しい子だし……上手くやってくれる、と思うけど」

P「さてと……後はありすを送って……明日は営業に出なきゃならんから忙しいなぁ……」


……
…………


――翌日、橘宅(玄関)

ガチャッ!

ありす「いってきます」

ありす(結局、昨日は寝るまで考えたけど、何も浮かばなかった……)

ありす「文香さんに、変わってもらうには……どうしたらいいのかな」

ありす(どんなことがあれば……どう、変わってもらえば、いいのか……)


……
…………

――昼休み、ありすの通う学校(教室)

「ありすちゃん、今日の体育のマラソン、女子の中で一番にゴール出来て凄いよねー」

ありす「そうですか? お仕事のレッスンで基礎体力も上がったので、その成果かもしれません」

「いいなー。あたしもアイドルになれば、テレビに出たりマラソン走れるようになるのかなー」

ありす「いえ、アイドルとマラソンはあまり関係ないかと……」

「そうだありすちゃん、いまってどんなお仕事やってるの? またテレビに出る?」

ありす「この前はコンサートホールでミニライブをやりましたが……すみません、お仕事の話を外でするのはダメって決まりがあるんです」

「えー、いいじゃんちょっとくらい」

ありす「すみません、これもお金が絡んでいる契約ですし……」

「ぶーぶー! ありすちゃん大人みたいなこと言ってるー」

ありす「そうですね。私もお仕事をするようになって、色々なものを見る視点も変わってきましたし、そういった意味ですと――」



ありす「そうですっ!!」



……
…………

――放課後、ありすの学校(正門)

ありす「これです、これしかありません!」タタタタタッ!

ありす「文香さんにアイドルになってもらうんです!」

ありす「アイドルになって、自分に自信を持ってもらって……私だって、頭のおかしいバラエティ番組に駆り出されてからは度胸も付きました!」

ありす「文香さんは綺麗な方ですし、アイドルになって、今よりもっと美しく凄い人になったら怖い人にだって負けなくなるはず……!」タタタタタッ!

ありす(……とは言ったものの、私が『文香さん、アイドルやりませんか?』なんて言って、文香さんが私の話を真剣に聞いてくれるでしょうか?)

ありす(多分、無理ですね。私がアイドルをやっているからといって、文香さんもアイドルになれる、とは限りませんし……)

ありす(ですが文香さんは聡明で美しい方ですし、何かきっかけがあれば……)

ありす(たとえば、私が文香さんを誘うのではなくて、文香さんがその気になるような状況……そう、文香さんの好きな本、物語のような出来事があれば……)

ありす「出来事、出来事……アイドルになるための、出来事……といえば!!」


……
…………

――公園

ありす「本当ですかPさん、私の学校の近くを通るんですね!?」

P『まあ……営業の帰り道で通るし、通るっちゃ通るけど……』

ありす「私いま、公園で自主トレをしているんです! 昨日レッスンで悩んでいたところ、改善できたと思うのでPさんに見てほしいので絶対に来てください!」

P『ふーむ……よし分かった。それじゃもうすぐ近くを通るから待っててくれ』

ありす「はい!」

ピッ!

ありす「よし、Pさんはこれで大丈夫ですね。今日は金曜日、文香さんは毎週金曜日は学校が終わった後に図書館に行くので、近道をするのに公園の中を通り抜けるはず」

ありす「あとはここら辺に隠れて……ユッコさん、いますか! ユッコさん!」



ゆっこ「はーい、呼びましたか?」ヒューン……

ありす「……呼んだ手前でこんなこと言うのも変ですけど、本当に来るとは……ちなみに、今までどこにいたんですか?」

ゆっこ「駅前にいましたけど、ユッコのサイキックミラクルテレパシーがありすちゃんの声をキャッチしたので飛んできましたね」

ありす「サイキックパワーも便利ですね……じゃなくて、昨日のお話です! 文香さんのこと、私なりに考えました!」

ゆっこ「ほう!」


ありす「魔法少女でも魔法使いでも魔女でも何でも構いません、一度だけでいいので、私に何か魔法を使わせてください!」

ゆっこ「うーむ、自信に満ちた目……ちなみに、何をするつもりですか?」

ありす「文香さんをアイドルにするんです!」

ゆっこ「……はああああぁぁぁぁぁ?」

ありす「なんですか、そのいかにも『何言ってんだこいつ』みたいな顔と声は」

ゆっこ「あ、いえ、失礼……まあ、分かりました。本来なら王国の規約に触れてしまいますが、こっそり使わせてあげましょう!」

ゆっこ「それじゃあ……えっとですね、とりあえずこのスタージュエルを握ってください」ポイッ

ありす「はいっ……痛っ」ギュッ!

ゆっこ「えっと、マニュアルマニュアル……そして、スタージュエルを持っていないほうの手の指先を目標に向けて」

ゆっこ「強くイメージすることによって、そのイメージに沿った魔法を使うことができる、って書いてますね。マニュアルには」

ありす「……なんか、ざっくりした説明ですね」

ゆっこ「すみません……ゆっこたち妖精は魔法を使えるわけではないので、実際に試したことは無いんですよね。魔法少女の素質があれば出来るはずですけど」

ありす「わかりました。後は、文香さんとPさんがくれば……って、来た……隠れませんと!」サササッ!



文香「……」


P「えーっと、ありすは……」キョロキョロ



ゆっこ「おや、昨日カツアゲされていた文香さんじゃないですか。噴水広場の階段を降りてますけど……」

ありす「ここを通ると、図書館までの近道になるんです。ちょっと静かにしてください」

ゆっこ「あ、はい」

ありす(ちょうど文香さんが来た位置の反対側をPさんが歩いています。これならちょうどいいです……)

ありす「スタージュエルを握って、指先を向けて、強くイメージ……!」

ありす(風、風……噴水の水を吹き飛ばすくらいの、強い風……!)

パアアアアアッ!!

ゆっこ「おおっ、これはまさしく魔法!」


ビュオオオオオオオオオオッ!!!!

文香「きゃっ! 風が……!!」

ズルッ!!

文香「あっ――」グラッ……

P「危ない!」

ガシッ!


文香「え……」

P「ふぃー……危なかった。階段で足を滑らせて、頭でも打ったら大変ですからね。にしても今の、滅茶苦茶強い風だったな……」

文香「あ、あの……」

P「ん? ああ、すみません、たまたまここを通って……」チラッ


文香「……」

P「……」ティィィィィンッ!!


ありす(来ました! あのPさんの何やら閃いたような様子、どうやら文香さんを見てティンと来たみたいですね……!)



文香「……」

P「……あの、すみません」

文香「は、はい……」



ゆっこ「なるほどー……こういう作戦でしたか。ロマン溢れてますね」

ありす「はい。魔法の力で直接助けることはしませんけど、ほんの少しだけ文香さんの背中を押すことが出来たから、後は文香さん自身に任せようと思います」

ありす(階段で足を滑らせたところで、颯爽と助けてくれたPさんからのスカウト……これなら文香さんも……)

キィィィィンッ!!

ありす「……っ!? なんだか、変な音が……」ピクッ!

ゆっこ「でえええええっ!?」

ありす「えっ、ど、どうしたんですかユッコさん?」

ゆっこ「まさか、この世界にも来るんですか!? ちょっとありすちゃん、ここにいるのは危険です!」

ありす「どうしてですか?」

ゆっこ「マジカルランドを襲っている悪い奴らがこの世界に来るんですよ! いま、ここに!」

キィィィィンッ!!

ゆっこ「ペンデュラムが魔力の発生地点を割り出して……上!?」

ありす「はい?」

パアアアアアアッ!!

ゆっこ「空に魔法陣が……来ます!!」

ズドォォォォォォンッ!!!!



P「うおおおおおっ!?」

文香「きゃあああっ!?」

「な、なんだなんだっ!」

「み、見て! あそこに……」



魔物「ぴにゃ……」ズシンッ、ズシンッ

ありす「なんですかあの巨大なブサイクは」



ゆっこ「魔物ですよ! マジカルランドを襲う悪い奴らです!」

ありす「え、いや……え、でも、ただ大きいだけのブサイクに見えますけど……」

魔物「ぴにゃああああああああっ!!!!」ゴゴゴゴゴゴッ!!

バチバチバチバチッ!!

ありす「は?」

ゆっこ「いけません! ありすちゃん伏せてください!」


ズガガガガガガガァンッ!!!!

シュウウウウウウウ……


ありす「う、うえええええ……!?」

ゆっこ「あ、危なかった……ギリギリのところでサイキックフィールドが間に合いました。いまのは魔物の地獄の雷ですね……」

ありす「は……? いや、あの……公園中の至る所にクレーターが出来てるんですけど……」

ありす「ってそれよりも、文香さんとPさんは……!」ハッ!



文香「な、何が……あ、貴方……!」

P「う、うう……」ハァ、ハァ……

文香「そ、そん、な……私を、庇って……」

P「い、いや……さっき、助けた、ついで……ですから……怪我、は……?」

文香「わ、私、より……貴方が……」

P「大丈夫なら、良かった……うっ……」

P「……」

文香「そんな……お、起きて……起きてください……!」


ありす「Pさんがあんなに傷だらけに……ふ、文香さんを庇ったから……」

魔物「ぴにゃっ! ぴにゃっ!」ズシンッ! ズシンッ!


「おじいさん、おじいさん!!」

「おがああざああああん! おがああざああああああああん!!」



ありす「そ、そんな……公園にいた人たちが、あの、魔物に……」

ゆっこ「魔物が現れたら結界が張られるはずなのに、どうしてこんな……くっ! 非常事態です!」ビューンッ!

ありす「ゆ、ユッコさん!」

ゆっこ「ありすちゃんはここから逃げてください! ちょっと予定が変わりました、さすらいの妖精ユッコが少し頑張る必要がありそうです!」

ゆっこ「ムムムーン、サイキックパワー!!」ビビビビビッ!

魔物「ぴにゃあああああっ!!」バシィンッ!

ゆっこ「くっ、この魔物、たまに戦うヤツとはパワーが違いすぎます……どうして!?」

ありす「そ、そんな……に、逃げるって……」


「う、うう……」

「痛い、痛いよぉ……」

「ママァァァァァ!!」

文香「起きてください……起きて……!」

P「……」


ありす(そんな……文香さんが、Pさんが、魔物の近くにいるのに……また、私は……見ているだけしか、出来ない……)ハァ、ハァ、ハァ……

ありす(お二人だけじゃなく、ここにいるみんな、あの魔物に……あそこのおじいさんも、小さい子のお母さんも……)

ありす(今も、ただ……見ているだけ……)

ありす(昨日のように……昨日の……)ハァ……ハァ……



ありす「そんな……そんなの!!」グッ!

タタタタタッ!!


ゆっこ「ありすちゃん!? ダメです、こっちに来ないでください!」ギュンッ!

魔物「ぴにゃああああっ!」ズガガガガガガァンッ!!

文香「きゃああっ!」

ゆっこ「げっほげっほ、砂埃が……!」

ありす「私は……昨日のように、何も出来ないのは嫌なんです!」

ゆっこ「ありすちゃん……」

ありす「見ているだけで、何も出来ないままなんて……そんなの嫌です! 魔法が使えなくても、私は諦めたくないんです! 私自身も、変わらなきゃダメだって思うから!!」

ゆっこ「……よくぞ言いました、ありすちゃん!」ヒューンッ!!

ありす「ユッコさん……」ハァ、ハァ……

ゆっこ「ユッコはその言葉が聞きたかったんです! 挫けず、諦めず、自分を奮い立たせる心、勇気! 勇気は時として魔法を上回る力になるんです!」

ありす「だって、私は……自分もそうしなきゃダメだって、気付いたんです!」

ゆっこ「たとえ魔法がなくても、魔法に頼らなくても、出来ることがある……そうです、ありすちゃんのその心が、魔法少女の証なんです! これを受け取ってください!」ビュッ!

ありす「これは……!」パシッ!

ゆっこ「手のひらサイズのマジカルクローゼットです! ありすちゃん、その手に持ったスタージュエルが鍵です! マジカルクローゼットにはめて、ユッコと一緒に叫んでください!」

ありす「……はい!」

ゆっこ「いきますよ!」



ありす「マジカルチェーンジ!!」



パアアアアアアッ!!!!

ありす「は? なんですかこの光は? 特撮ですか?」

ゆっこ「もしもし? あ、すみません王国ですか? いま念話で送っている子ですけど、魔法少女の素質アリです!」

ゆっこ「はい! なので魔法少女のセット……えっ、ユッコ経由だと一時契約のフリーランスだからライトプランしかダメ!?」

ゆっこ「なんでそう融通が利かないんですか! とりあえずそれでいいです、必要な契約内容はあとで本人にも説明しますから、緊急事態なのでプランの適用をお願いします!」



シュパアアアア……

ありす「わ、私の服が消えて……ど、どうなってるんですかこれ!?」

ゆっこ「あーそれ、魔法少女だから消えるんですよ。だけどライトプランなので下着は残るみたいですよ」

ありす「何もよくありませんからそれ!!」

パアアアアア……


ゆっこ「おおおっ、変身完了ですね! これが……これが、魔法少女なんですか!」

ありす「これが……魔法少女……変身、しちゃった」

ゆっこ「ピンクと青の魔法少女……すごいです、ありすちゃん!」

シュウウウウウウ……

ゆっこ「あ、都合よく砂埃が少しずつ晴れてきましたね」

文香「けほっ、けほっ……な、何が……」

文香「え……?」


ありす「……」フワッ……


文香「……女の、子……?」

P「う、うううっ……」ピクッ

文香「あ……き、気が付いて……だ、大丈夫、ですか……?」

P「お、俺は……ぐっ……き、キミは、大丈夫か……?」

文香「は、はい、私は……大丈夫です……」

ありす「……お二人は、ここから逃げてください。あとは、私が何とかしますから」

P「砂埃で目が……だ、誰だ……?」

ありす「あの魔物を倒す、魔法少女……そう、たちば……いえ、えっと……どうしよ……マジデ・クール・マジカ・タチバナです」

ゆっこ「え、なんですかそのセンスの欠片もない名前は」

文香「あなたは――」

ガシッ!

文香「きゃっ!?」

P「すみません、どなたかはわかりませんが、今はこの人を……」ハァ、ハァ……

ありす「お願いします。その人を落とさないように、しっかり抱きかかえてあげてください。あなたも、早いうちにどこかで傷の手当てを」

P「……はい!」

タタタタタッ!!


魔物「ぴにゃああああああ……!!」ゴゴゴゴゴゴゴッ!!

ありす「……ユッコさん、あのブサイクを倒すにはどうすればいいですか」

ゆっこ「簡単なことです。魔法少女の力でぶっ飛ばしてやりましょう!」

ありす「なるほど、分かりました。ですが、それではいけません」パアアアアアッ!!

ゆっこ「はい?」

ありす「魔法少女の力は暴力ではありません。魔物でも、ブサイクでも、力で解決するだけでは……!」パアアアアアアッ!!

ゆっこ「え、じゃあどうするんですか?」

ありす「こうするんです! 魔法の力で、魔物を浄化します!」ザッ!

ゆっこ「は? マジですか?」

ありす「マジです。本気と書いてマジと読みます! 魔法の杖よ!」パアアアアッ!

ジャキンッ!

魔物「ぴにゃ?」

ありす「いきます、私の魔法……ストロベリーフレグランス!」ギュオオオオオオオッ!!

ゆっこ「うぇっぷっ! 甘いやら酸っぱいやらの香りが鼻に……むせる……ま、魔物は!?」

魔物「ぴにゃああああああ……」ホワアアアアア……

ゆっこ「あ、なんか目がイッてますね……」

魔物「ぴにゃああああああ……」シュウウウウウ……

ありす「……いちごの甘さで、浄化完了です」

ゆっこ「お……おおおおおお……!!」

パアアアアアッ!

ジャラッ……

ゆっこ「あっ! スタージュエルが……回収しておきませんと!」ヒューン

ゆっこ「ひぃ、ふぅ、みぃ……うーん、少ないですね。まあでも、回収回収」

ありす「これが……魔法少女の、力……」

ゆっこ「はい! 魔法少女の力、ありすちゃんは見事に使いこなしましたね! さすが、ユッコが見つけただけのことはあります!」

ありす「いま拾っていたのは、スタージュエルですか?」

ゆっこ「はい。魔法の力で魔物を浄化すると、魔物の強さに比例して魔法の力がスタージュエルを生み出してくれるんです」

ゆっこ「だけど思ってたより少ないですね……マジカルランドに伝わる魔法少女たちは、魔法の一撃で数千個のスタージュエルを生み出していたみたいですけど……」

ありす「そんな伝説と比較されても……」

ゆっこ「まっ、そうですね。スタージュエルが出てきただけでも凄いと思いますよ!」

ありす「……こんな魔物が、私たちの世界にやってくるんですね」

ゆっこ「そうです。マジカルランドは、今も戦っています。他の世界も……だからありすちゃん、お願いします! ユッコたちに、協力してくれないでしょうか!」

ありす「……はい。私に出来るなら、お手伝いします」

ゆっこ「やった! これで臨時ボーナス確定です!」

ありす「は?」

ゆっこ「いやー、ユッコって実はフリーランスなので、お仕事のノルマを達成しないとお給料が安いんですよね。それなのに今回の仕事は大変でもう……」

ありす「……だからさすらいの妖精、なんですね」

ゆっこ「まあ、そういうことです。とはいえ、しばらくはよろしくお願いしますね、ありすちゃん」

ありす「はぁ……なんというか、まあ……よろしくお願いします」

……
…………

――1週間後、事務所

ゆっこ「いやー、昨日王国から緊急の連絡があったんですけどね、なんとマジカルランドの王国の正規職員が、別の世界で魔法少女を見つけたみたいなんですよ!」

ありす「すごいですね。私以外にも魔法少女が……」

ゆっこ「素質のある人間は、いろんな世界にいるみたいですからね! ユッコはフリーランスなので、ありすちゃんに適用してあげられる魔法少女のプランがライト版しかないんですけど」

ありす「この前から気になっていたんですけど、そのプランって何なんですか?」

ゆっこ「良いプランを付けてあげられると、より魔法少女の力を引き出してあげることができるんです。それでもありすちゃんは、ライトプランでも凄い魔法少女だと思いますよ!」

ありす「比較対象がないのでいまいちピンときませんね……」

ゆっこ「きっとそうですよ! でも、王国の正規職員が見つけたのなら、きっと凄い魔法少女なんでしょうかねー」

ゆっこ「ありすちゃんみたいなバリッとした魔法少女で、ラブリーというか、これぞ魔法少女! 魔法少女に憧れる小さな女の子のお手本! みたいな魔法少女とか」

ありす「そうかもしれませんね」

ゆっこ「どんな魔法少女なんでしょうか……それにしてもさすが王国の正規職員ですね。フリーランスのユッコと違って、きっと優秀な妖精なんでしょうね」


ガチャッ!


ありす「あ、Pさんが帰ってきたのかな……」

ゆっこ「おっと、それではユッコはサイキックテレポートでしばし身を隠して……」シュンッ!

P「戻ったぞー……って、ありすしかいないよな。留守番させてゴメンな」

ありす「いえ、大丈夫です。ところで……ちゃんと契約は終わりましたか、文香さん」

文香「はい……書類については、必要な物はすべてお渡ししたので……」

P「ありすの知り合いだっていうから、話もすんなり進んで早く終わったよ。スケジュールのほうはこれから組まなきゃダメだけど……来週あたりから、ありすのレッスンの見学から来てもらおうかなって思ってる」

ありす「そうですか。それじゃあ私も、文香さんに情けない姿を見せないようにしっかりやらないといけませんね」

文香「これから、よろしく……お願いします。右も左も分からない、若輩者ですが……」

P「いえいえ、頑張っていきましょう。それにしても、鷺沢さんも承諾してくれてありがとうございます」

文香「いえ……これも、ご縁ということで……それに、あのとき……貴方には、助けて頂きましたので……」

P「何がなんだかって感じで逃げたけど、あのときは助かってよかったですよ。さてと……ちょっと備品庫に行ってきますから、2人でここで休んでてください」

文香「わかりました……」

ありす「余ってるグッズの棚卸ですか?」

P「月末近いからなー。あとちょっとで終わりだから、すぐ戻ってくるよ」

ガチャッ……パタンッ!


ありす「ふぅ、それにしても文香さんがアイドルをやることになって、私も嬉しいです」

文香「偶然が重なった結果……とでも言えばよいのでしょうか。これから……よろしく、お願いします。ありすちゃんには、色々教えて頂くことに、なると思いますが……」

ありす「はい、任せてください。あ、いまお茶淹れてきますね。ちょうどお湯を沸かしていたところなので、待っていてください」タタタタッ!


文香「……」



ゆっこ『よかったですね、ありすちゃん』

ありす『ユッコさんですか。この念話、まだ慣れませんね……』

ゆっこ『何度かやっていれば、そのうち簡単に出来るようになりますよ。便利ですしね』

ありす『それならいいですけど……そうですね。文香さんと一緒にお仕事が出来るなら、私も嬉しいです』

ゆっこ『アイドルも大変そうですね。あ、それはそうと、昨日のお話、気を付けてくださいね』

ありす『私が魔法少女であることは秘密、ですよね。大丈夫です』

ゆっこ『それならオッケーです! あ、あと魔法少女に変身したときの名前、決めましたか?』

ありす『私としては最初の名前でいいと思っているんですけど……それ以外となると――』


文香「あの……魔法少女、さん」

ありす「はい?」クルッ



文香「……」

ありす「……」

ゆっこ『……』

ありす「……え?」

文香「……」

ありす「あの……文香、さん……?」


――魔法少女としての生活が始まりましたが、どうやら最初から慌ただしくなるみたいです。どうなるんでしょうかね。


つづく


……
…………

『次回予告!』


文香「やっぱり、あのとき私たちを助けてくれたのは……ありすちゃんだったのですね……」

ゆっこ「まさか第1話終了時点で正体がバレることになるとは」

ありす「あ、あのですね、えっと……」


――魔法少女として活動するありす。


文香「大丈夫です。私は……魔法少女のありすちゃんを、全力でサポートします……!」

ありす「お話は嬉しいですけど、私のサポートの前にまずはレッスンを頑張ってください」

文香「あう……」


――仕事先で出会った女性の過去とは。


??「そう、私ももう31歳……夢も希望も、何も残ってない……」

??「このパーティーの光も、いつかは消えていく儚い光……」

ありす「いえ、このご時世、世間一般的に31歳はまだ十分若い年齢だと思います。おばさんだとは思いますが」


――再び襲い掛かってくる魔物。


ゆっこ「このままじゃピンチですよ、ありすちゃん!」

ありす「まだ、諦めません……魔法少女ですから!」


――失いかけていた輝きを再び掴む時、新しい魔法少女が誕生する!


『第2話 新たな魔法少女、目覚めます!』


ありす「魔法少女の契約内容は確認したんですけど、労災っておりるんですよね?」

ゆっこ「確かこっちの資料に詳しい内容が……」


『次回もお楽しみに!』


――
――――

おしまい

ありすにちゃんと魔法少女をやらせてみたくなったので>>1なりに頑張ってみました。

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