【オリジナル】ある日魔法が使えるようになりまして (28)

人生において2番目に大きな驚きだった

別にある日突然魔法使いに目覚めた訳でもなく、研究に研究を重ね、なんやかんやで魔法が使えるようになったのだ

それこそ途方もない時間がかかったのだが

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1520574025

正確にはこれを魔法と呼べるかは分からないのだが、他に名付けようがないので魔法と呼んでいる

だが、そんな事はどうでもいい

大事なのはこの魔法と呼ばれるものが、ある種の打開策になる可能性があるということだ

なんの?という話ではあるが、冒頭でも言った通り魔法が使えるようになったのは2番目に大きな驚きだったのだ

つまりは1番大きな驚きが他にある

というより絶賛継続中

何を隠そう自分は今およそ22万年ほど同じ1週間を延々と繰り返しているのだ

文字通りの意味で

そしてこれが1番目の驚き

そう、本来来るべき次の週の月曜日が来ないのだ

朝目が目醒めてコンビニに行っても置いてあるのが先週読んだジャンプが山積みにされている生活が22万年ほど絶賛続いている

暗唱も余裕だ

何故こうなったかは分からない

ただ、気付けば同じ1週間を繰り替えてしいた

様々な可能性を考慮したのだが、それすらも現状では不明

そんな中で生まれたのが魔法であった

これはどう考えてもこの1週間ループを抜け出す鍵になるでしょ

というかそうとしか考えられない

と、いうのが4万年ほど前の話だ

まるでついさっき魔法が使えるようになった風に語っていたが、実際の所は結構前の話である

そしてお分かりの通りさっきのは見事にフラクでなんの解決もないままここまできてしまっている

まあ、決して何もなかった訳ではない

3万年ほど前にはその魔法を書き記したノート数冊が唐突に金庫から消えたり、ここ1万年は何故か天候が固定ではなくなったりと変化はあった

ぶっちゃけそれだけだが

ただまあ、変化がなければ物語が始まることもなければ語る必要もない

つまりはそういうことである

何事も基本的には唐突だ

一気に布団から体を起こしぐるりと見飽きた部屋を見渡す

特に変化はなし

真横の1点を除き

いきなり起き上がったせいか、それは一旦ピタリと動きを止めるも、すぐさまペシペシと叩きながら聞きなれない言葉で何かを訴えかけてくる

『翻訳率:30%』

作って10年もしないうちにその役目を失った翻訳魔法が珍しく枕元でフル作動している

それは赤いローブを身にまとい、目を隠れほど大きな鍔の無駄にでかい三角の帽子を被っていた

ぶっちゃけそれ、そのぱっと見15、6歳程にみえる少女は端的にいえばいかにもファンタジーであった

見た目まんまの魔法少女感

しかし、そんな少女が手に持っているのはその雰囲気をぶち壊すアイテム

汚い文字でタイトルの書かれた久しぶりに見るB5サイズのヨレヨレのノート

それが、ファンタジーからかけ離れたアイテムが自分とファンタジーを繋ぐ

『翻訳率:50%』

徐々に発せられる音が聞きなれた言葉に変化されていく

まあ、あれです、ようやく動きそうです

まだ正確に伝わるかは分からないが、とりあえず自分の今の気持ちを伝えておこう

『ようこそ、オレはキミを待っていた』

ピタリと手を止めポカンとこちらを少女が見つめる

そんな始まりの1幕、相変わらずループしてるがようやく時間が進み始めた瞬間の出来事

そしてこのセリフは後々永きに渡り何故かネタにされまくる

言わなきゃよかった

第1話「生活便利書」

『さっきの何言ってるか分かった?』

『ええ、キメ?で?さい?詞を言っていた?に聞こ?ました』

『翻訳率:70%』

『ハッキリとはまだ聞き取れないけど随分と辛辣なこと言ってるね…』

『それはそう?しとして、ここ?何処でしょ?か。私の知る国と?違いますし、何かい?いろと変なの?すが』

「えっと、ここは…。あぶね忘れるとこだったわ」

『?』

そう言うが早いが腕を伸ばし机から1冊のノートを手に取る

こういうイベントの可能性を考慮していたのに忘れる所だった

まあ、早めに気付けただけセーフだよね

『メディカルキット』とタイトルに書かれたノートをめくり、目的のページを探す

…付箋つけとけばよかった

手間取りながらも目的のページをすぐに見つけ、文字を指でなぞりながら発していく

「読み込み、解析、保存」

『!?ちょっ?、それって…』

「ああ、別に気にしないでしとかないと下手すりゃ死ぬからしてるだけ」

「殺菌」

ボンッ、という音が部屋に響く

やっぱりか…、やっぱりそうだよね!

どうやら案の定目の前の少女と一緒に、未知の細菌やらウイルスも来ていたらしい

格好からして少なくともこの世界の住人ではない可能性があったが、どうやら当たってそうだ

そりゃ、世界が違うならそこにある細菌やらも違うでしょという話

まあ、要は魔法を用いての殺菌というところ

一方何かが起こったのかは分かっているのだが、それが何かが分からない少女は目の前でワタワタしている

格好からしてそこまで近代チックな服装でもなければ、全体的に漂う雰囲気からも科学的な要素は見られない

殺菌という言葉が存在しない世界から来たのであればその反応も納得だ

『ねぇ、今のってこれと同じ力…?』

「まあ、そうだね。それは初めに作ったものだから今のとは若干仕様が違うけど」

『…もしかして、黒の禁書(グリモワール)を作ったのはあなた…?』

「黒の禁書?」

『これよ、この魔導書。あなたが持ってるのと似てるし』

「ブッ!」

『何で吹き出してるのよ』

いや、そりゃ誰だってマジックでデカデカと汚い字で「生活便利書」と書かれたノートを「黒の禁書(グリモワール)」とか言って見せつけられたら吹くでしょ

内容はともかくとして、数万年の間に知らぬ所で生活便利書からえらくグレードアップしたものだ

名前からしてもそれがその世界では、それなりのポジションにいたのは間違いない

ちなみに「生活便利書」の内容はその名の通りで、例えば火を起こしたければチャッカマンと書かれた文字を指でなぞりながらチャッカマンと唱えれば、横からポンとチャッカマンが現れて火をつけてくれるといったようなものだ

水が欲しければコップを出して蛇口を出せば注いでくれる

言わばニート育成アイテム

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