春香「千早ちゃんが誕生日お祝いされるの物凄く楽しみにしてる……」 (55)

一か月前、事務所

春香「おはようございまーす!」

P「! おはよう、春香。待ってたぞ」

春香「えっ? 待ってたって、私をですか?」

P「ああ。実はすごく大事な話があってな」

春香「すごく大事な話……。な、なんでしょう? お仕事の話ですか?」

P「いいや、違う。それはな……千早の誕生日の話だ!」

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春香「千早ちゃんの、誕生日? でもそれって、まだ一か月先じゃ……」

P「そうだな。でもこれは早めに伝えておく必要があるんだ。
 というのも今年の千早の誕生日は、サプライズで祝おうと思ってる!」

春香「サプライズ! ということはつまり……」

P「日付が変わった瞬間のおめでとうメールや電話は無し!
 プレゼントやパーティがあることはもちろん、誕生日の話題すらも一切出さずに、
 その日最後の仕事ということにしてある撮影スタジオで盛大に祝う! という計画だ!」

春香「なるほど……! そういうことなら安心してください!
  私もまだ、誕生日の話はしてませんから!」

春香「あ、でも大丈夫でしょうか? ほらこういうのって漫画とかだと、
   『みんな私の誕生日を忘れちゃってるんだ』って落ち込んだりしますよね?
   私、千早ちゃんの悲しそうな顔はあんまり見たくないんですけど……」

P「あはは、その心配はいらないだろう。
 相手はあの千早だぞ。寧ろ自分が忘れてる可能性の方が高い」

春香「だったらいいんですけど……」

P「それに、もし春香の言うようになったとしても、それはそれで良いんじゃないか?
 落ち込んだ分、サプライズで得られる喜びも大きいだろうしな!」

春香「うーん……そうですね! よーし、私張り切っちゃいますよ!」

P「そうと決まれば他のみんなにも連絡しよう!
 これは楽しみになってきたぞ!」




当日、朝

P「ついにこの時が来た……。情報は隠せているな、春香!」

春香「もちろんです! おめでとうメールも電話もしてません!」

P「パーティ会場には既に何人か向かわせているし、準備は問題なく完了するはずだ。
 あとは、今日一日上手く隠せるかどうかにかかっている!」

春香「そうですね! な、なんだかドキドキしてきました」

P「心の準備をしておいてくれよ。千早も多分もうすぐ……」

 ガチャッ

千早「おはようございます」

P「! ああ、おはようちは、や……?」

千早「おはようございます、プロデューサー。春香も、おはよう」

春香「あ……う、うん! お、おはよう、千早ちゃん!」

P「……」

春香「……」

春香(……プロデューサーさん。なんですかアレ。
  千早ちゃんの鞄からはみ出てるの……)

P(何って、多分……アレだろ。
 パーティとかでかぶる三角帽子的なやつだろ)

春香(なんでですか?
   なんで千早ちゃん、パーティとかでかぶる三角帽子カバンに入れてるんですか?)

P(いや、俺が知りたいよ。でも直接千早に聞くわけには……)

千早「……」ソワソワ

春香(千早ちゃん、ソファに座ったのはいいですけどなんだか落ち着かなさそうですね)

P(ああ……妙にそわそわしている。
 それにさっきから、カバンからはみ出た帽子をチラチラ見て……)

千早「……」チラッ

P(!? 見てきた! 今こっち見てきたぞ千早!)

P(な、なんだ? 俺たちに何か用事があるのか?)

春香(あの、プロデューサーさん。まさかとは思いますけど……。
   千早ちゃん、誕生日をお祝いされるのを待ってるんじゃ)

P(ば……馬鹿な! あんな待ち方があるか! 大体、あの千早だぞ!)

春香(で、でもそれじゃああのパーティ用帽子は……)

P(取り敢えず一旦落ち着こう、春香。一旦落ち着いて……)

千早「……」ゴソゴソ

P&春香「!」

春香(な、何? 千早ちゃん、カバンを探って何を……え!?
   そ、そんな、まさか! あれは……!)

P(ほ……『本日の主役』タスキだと!?)

P(それだけじゃない! パーティ用クラッカーまで入っている!
 ち、千早あいつ、カバンの中になんてものを……!)

千早「……」チラッ

P(うわっまた見てきた! なんなんだ一体!)

春香(もう間違いありませんよ! 絶対待ってます!
   誕生日おめでとうって言われるの待ってます!)

P(待つにしたって限度があるだろ! し、しかしどうする!
 ここでおめでとうと言ってしまっては、サプライズが台無しに……!)

千早「フンフフンフンフンフーン……」

P(まずい! ハッピーバースデーの歌まで歌いだした! なんて露骨なアピールを!)

春香(こ、これ以上のスルーは無理ですよプロデューサーさん!
  それに今はまだ鼻歌ですけど、普通の歌になっちゃうかもしれません!)

P(くそっ! ここまでなのか!? もう諦めるしか……)

 ガチャッ

律子「おはようございまーす」

P「律子!」

春香「律子さん!」

律子「二人とも、おはようございます」

千早「あ……おはよう、律子」

律子「ええ、千早もおはよ、う……」

律子「……」

千早「……律子?」

律子「あ、いえ、ごめんなさい、なんでもないわ。
  えっと……プロデューサー、春香?
  仕事のことでちょっと話があるんですが、ちょっと来てもらえますか?」

P「あ、ああ」

春香「わ、わかりました!」

律子「というわけで、ごめんなさいね千早。
  すぐ戻ってくるから、待っててくれる?」

千早「……ええ、わかったわ」

律子「それじゃ、行きましょう」

 ガチャッバタン

事務所の外

律子「一つ、聞いていいですか? 私の見間違いでなければなんですけど……。
  千早のカバンの中、何か色々入ってませんでした?」

春香「はい、入ってました……」

律子「……もしかして、千早が自分で持ってきたんですか?」

P「ああ、その通りだ……。しかも妙にそわそわして、
 さっきはとうとうハッピーバースデーの鼻歌まで歌いだす始末だよ」

律子「じゃあ、二人が先走って祝ったというわけじゃ……」

春香「違いますよぉ! 私たち、どうしたらいいか分からなくて……!」

律子「そ、そう……」

律子「と、取り敢えず、一度整理させてください。
  千早は、あのパーティでかぶるみたいな帽子も本日の主役タスキもクラッカーも自分で用意して、
  しかも一人で誕生日の歌を歌いだしたのよね。それってつまり……」

P「ああ……。多分、祝って欲しいんだ。自分の誕生日をな」

律子「ま、まさかあの千早が……」

P「どうする律子。あんなアピールまでしてくるんだ。
 もういっそ、全部言ってしまうか? パーティのこととかも全部……」

律子「……いえ、逆にこれは、絶対に隠し通すべきでしょう」

春香「えっ!? そ、そうなんですか?」

律子「誕生日のお祝いを楽しみにしているということは、
  それだけ焦らしの効果も抜群のはず……。
  最後のサプライズで得られる喜びもその分大きいはずです!」

P「確かに俺もそう思うが……」

春香「わ、私、今日は一日千早ちゃんと一緒なんですよね?
   二人きりであのそわそわした空気に耐えられるかどうか……」

律子「大丈夫。あなたならできるわ、春香」

春香「うぅ、頑張りますけど……」

律子「よし、そうと決まれば早くあの子を仕事場に連れて行きましょう。
  早めに気持ちを誕生日から離させないと取り返しのつかないことになります」

P「と、取り返しのつかないこと? どういうことだ……?」

律子「耳を澄ませてください……聞こえませんか、あの歌が!」

 <ランラランランランラー♪

春香「! これは……! は、ハッピーバースデーの歌!」

P「す、既に鼻歌ではない! しっかり声を出して歌っている!」

律子「歌詞付きで歌いだすのも時間の問題です。
   『ハッピーバースデーdear千早』なんて歌われでもすれば、流石にこちらもスルーはできません!」

P「そ、そうだな! よし、じゃあ早いとこ千早を出発させよう!」

 ガチャッ!

P「千早、待たせたな!」

千早「! プロデューサー」

P「もうそろそろ仕事の時間だろう。すぐ出発しないと遅刻するぞ!」

千早「えっ? でも、まだ少し余裕は……」

律子「行けるなら早めに行っておくものなのよ、ほら急いで急いで!」

千早「きゃっ! わ、わかったわ、急ぐから押さないで」

P(よし……。多少強引だが、なんとか空気を変えられた。あとは頼んだぞ、春香!)

律子(千早がカバンに視線をやったりそわそわしたりし出したら要注意よ!
   我慢しきれずに自分から誕生日のことを言い出すかも知れないわ。
   その時はすぐに話題を変えて!)

P(何かあったら連絡してくれ。それじゃ、またあとでな!)

春香(は、はい! 頑張ります!)

春香「それじゃ行こっか、千早ちゃん!」

千早「ええ。じゃあ……行ってきます」

 ガチャッバタン




移動中

千早「春香と一緒に仕事をするのは久しぶりね。今日はよろしくね、春香」

春香「うんっ、こちらこそ!」

千早「それにしても、律子もプロデューサーも忙しそうだったわね。
   なんだか妙に急いでて。他のみんなも朝から別の仕事みたいだし……」

春香「そ、そうだね」

千早「……でも、こうして誰かと話しながら仕事に行くのも、久しぶり。
  最近は一人での仕事が多かったから」

春香「! 千早ちゃん……」

春香「えへへっ、私もなんだか懐かしい気持ちかも。
   今日千早ちゃんと一緒の仕事だって聞いて、実は結構楽しみだったんだ♪」

千早「そうなの? ふふっ……そう言ってもらえると、私も嬉しいわ」

春香(……うん、いい感じ! いつも通りに話せてるし、このまま誕生日のこと忘れてく)

千早「……」チラッ

春香(あっカバン見た。ダメだこれ)

千早「……ねぇ、春香。実は私、今日……」

春香「ああッ!! そう言えば千早ちゃんッ!!」

千早「きゃっ! ど、どうしたの春香。突然大声で……」

春香「ご、ごめんね! えっと……!」

春香(あ、危ない! まさかいきなり、しかも直接話題に出してくるなんて!
   とにかくなんでもいいから話題を変えなきゃ!)

春香「き、今日のグラビア撮影楽しみだね!
   なんか、色んな可愛い服を着られるみたいだよ!」

千早「えっ? ええ、そうね。そう聞いてるわ」

春香「アイドルの仕事ってすごいよね!
   今まで色んなことやってるけど、まだやったことないこともたくさんあるし!」

千早「ええ……。仕事を体験するたびに、新しい自分が見えてくるような……。
   毎日新鮮な気持ちで仕事に挑めるのはとても素晴らしいことよね」

春香(よ、よし、なんとか仕事の話に持っていけた! この調子で……)

千早「そう、新しい体験が、新しい自分を生んでくれて……あっ」

春香「えっ?」

千早「新しい自分が生まれる……誕生する……」

春香「!?」

千早「……ねぇ、春香。誕生と言えば……」

春香「あああーーーッと千早ちゃん! 選挙についてどう思う!?」

千早「えっ? 選挙?」

春香(はっ! ど、動揺してなんかよく分からないこと言っちゃった!
  でも、このままなんとか話題を変えるしかない!
  それにこういう真面目な話なら誕生日からは程遠いはず!)

春香「そ、そう! 選挙! ほら、私たち今、高校二年生でしょ!
   もうあと一年で選挙に行けるんだし! そろそろそういうことも考えなきゃ!」

千早「……? でも、何も今考えなくても……」

春香「は、早めに考えておいた方がいいんだよ!
   日本を支える大事なことなんだって、学校の先生も言ってたし!」

千早「それは、まぁ……」

春香「ね! 不況だとか、不景気だとか、そういうのをなんとかしないといけないんだよ!」

千早「そう……ね。確かに、私たちの一票で少しでも景気をよくできるのなら……あっ」

春香「えっ」

千早「景気をよく……景気……ケーキ……」

春香「!?」

千早「……ねぇ、春香。ケーキと言えば……」

春香「千早ちゃああああああんッ!! 最近ご飯とかどうしてる!?」

千早「えっ? ご飯?」

春香(ま、まさか選挙の話題から誕生日に繋げてくるなんて!
   やっぱりこういう日常の話をしよう! これなら私も無理なく会話を続けられるし!)

春香「そ、そう、ご飯! ほら、ちょっと前から自炊を始めたって言ってたでしょ?
   どんな料理作ってるのかなって!」

千早「いえ、料理というほど立派なものじゃ……。
   ご飯を炊いて、それに簡単に一品を加えたり、あとはパスタを茹でたり……」

千早「あっ、でも最近、朝に野菜ジュースを作るようにしてるの。
   栄養バランスや味が、材料の配分で色々と変わって……とても奥が深いわ」

春香「わあ、すごいね千早ちゃん! 結構大変じゃない?」

千早「そうね、大変だけど、自炊をするうちに色々と知れたこともあるわ」

春香(よ、よし、いい感じ! この調子で……)

千早「料理のこともそうだけど、それ以外の家事についても。
   例えば、素手で洗い物をするのは手が荒れる原因に……あっ」

春香「えっ」

千早「例えば、素手……たとえ、ばすで……ばーすでー……」

春香「!?」

春香(嘘でしょ!? そんな無理のあるダジャレみたいなので!?)

千早「ふ、ふふっ……例えばーすでー……ふふっ、ふふふっ……!」

春香(しかも自分で笑ってる! これじゃ危ない人だよ千早ちゃん!)

千早「ふふっ……ご、ごめんなさい、急に笑い出して。実は、その……」

春香「しりとりしようかッッ!!! 千早ちゃんッッ!!!!」

千早「えっ……? し、しりとり?」

春香(ああっ私ってば錯乱してまたおかしなことを!
   で、でもとにかくこの話題は変えないと!)

千早「……」

春香(うっ、さ、流石に怪しまれたかな。何か考え込んでる……)

千早「……しりとり……そうね、それなら……。
   こちらから切り出すより、できれば春香に気付いてもらった方が……」

春香「えっ……? な、何? 千早ちゃん、今なんて?」

千早「いえ、なんでもないわ。しりとり、始めましょうか」

春香「! う、うん! じゃあ私から行くね! しりとりの『り』!」

千早「……『両蓋(りょうぶた)』」

春香「『太鼓(たいこ)』!」

千早「『子守唄(こもりうた)』」

春香「えっと……『田んぼ(たんぼ)』!」

千早「……『房ケ畑(ぼうがはた)』」

春香「た……『タスマニア(たすまにあ)』!」

千早「『明日(あした)』」

春香「た……『宝物(たからもの)』!」

千早「……『軒下(のきした)』

春香「……」

春香(ま、まさか……)

春香「た、『松明(たいまつ)』!」

千早「……『津幡(つばた)』」

春香「た、た……『対決(たいけつ)』!」

千早「……『角叉(つのまた)』」

春香「っ……た、『多数決(たすうけつ)』!!」

千早「……『津布田(つぶた)』」

春香「……!!」

春香(ま、間違いない、千早ちゃん……!
   私に『誕生日(たんじょうび)』を言わせようとしてる!!)

春香(な、なんて回りくどいことを……。
   器用なのか不器用なのか分からないよ千早ちゃん!)

千早「春香? 『た』よ。思い付かないの?」

春香「えっ!? え、えっと、えっと……! た、『辰(たつ)』!」

千早「『蔦(つた)』」

春香「はうっ! た、『竹(たけ)』!」

千早「『桁(けた)』

春香「うぐっ!? た、た、『滝(たき)』!」

千早「『北(きた)』

春香「あ゛あ゛ッ!!」

春香(うぐぐぐぐ……! だ、ダメだ、勝てる気がしない!
   このままじゃ千早ちゃんより先に私の語彙が尽きちゃう……!
   いやそれより先に私の心が折れちゃう!)

千早「は、春香? どうしたの、大丈夫……?」

春香「! だ、大丈夫大丈夫! なんでもないよ!」

千早「なんでもないようには見えないけれど……」

春香「平気だよ! ちょっと単語が出てこなくって悩んでただけだから!」

千早「そうなの? あっ……だったらヒントをあげましょうか。
   『た』で始まる言葉なら、例えば、最後は『び』で終わる……」

春香「タンバリンッッ!!!!」

千早「えっ……?」

春香「あっ、しまった!! 『ん』が付いちゃった!! 私の負けだね千早ちゃん!!」

千早「え、ええ……」

春香「千早ちゃんは強いなぁ! しりとり終わっちゃったなぁ!
   いやあ残念残念! こりゃ参った!」

春香(し、しりとりはもうやめよう! こうなったら最終手段……これしかない!)

春香「あっ、そう言えばね千早ちゃん! 昨日の夜すごく面白いことがあったの!」

千早「? 面白いこと?」

春香「そう! それがね、部屋にカナブンが入ってきて――」

春香(私がとにかく喋って、千早ちゃんに付け入る隙を与えない! これで行こう!
   今こそ私の特技『長電話』で培ったトークスキルを見せる時!
   たとえ喉が潰れたって喋り続けてやるわ! 頑張るのよ春香!)




仕事現場

スタッフ「765プロさん入りましたー」

千早「おはようございます」

春香「お゛はよ゛う゛ござい゛ま゛す」

千早「だ、大丈夫なの、春香。声が酷く枯れているけれど」

春香「大゛丈゛夫゛」

千早「そ、そう……」

春香(まさか本当に喉がこんなことになるなんて……。
   ライブでもこんなになったことないのに、
   緊張しながら一人で喋り続けるのがここまで大変だったとは……)

千早「本当に大丈夫? 薬か何か貰ってきた方がいいんじゃ……」

春香「すぐ治゛る゛から゛心゛配゛しな゛い゛で、千゛早゛ちゃ゛ん゛!
   それ゛に゛今゛日゛は歌゛も゛トー゛クも゛な゛い゛し平゛気゛平゛気゛!」

千早「え、ええ。でも無理しないで。喋るのも大変でしょう?
   治るまで静かにしてた方がいいわ」

春香「や゛さ゛し゛い゛な゛あ゛千゛早゛ち゛ゃ゛ん゛」

春香(うう、千早ちゃんに心配かけちゃってる。
   私の声が枯れてから誕生日の話もしなくなったし、
   それは良いんだけどやっぱり申し訳ないなぁ……。
   千早ちゃんの言う通り静かにして早く治そう……)




千早「春香、お疲れ様。次のCM撮影で今日はおわりね」

春香「うんっ! 今日の最後の仕事頑張ろうね! 喉も治ったし!」

春香(そう、次が最後の仕事……と見せかけて、いよいよ誕生日パーティ!
   準備が整ってることはプロデューサーさんからのメールで確認済み……!
   やっとこの緊張感から解放される!)

春香「というわけで早く行こう千早ちゃん! さ、早く早く!」

千早「? どうしたの、春香。なんだか、今日で一番張り切ってるみたい」

春香「へっ? そ、そんなことないよ! 朝からずっと張り切ってるよ!」

春香(いけないいけない、色々と嬉しくてつい……。
   もうあとちょっとなんだから、最後までしっかりしなきゃ!)

春香「――それでね、あまりにも見てられなかったから、言ってあげたの!
   『それじゃあリボンそのものだよ!』って!」

千早「ふふっ、春香らしいわね」

春香「っと、そんなこんなで……じゃじゃんっ!
   撮影スタジオに着きました! この扉の向こうです!」

千早「……? ええ、もちろん知ってるけれど……」

春香「えへへっ……さあどうぞ千早ちゃん! 千早ちゃんから入って!」

千早「? それじゃあ、お先に……」

 ガチャッ

   「誕生日、おめでとーーーーーーっ!!」

千早「きゃあっ!? え……!?」

真「へへっ、待ってたよ千早!」

あずさ「お仕事、お疲れ様~♪」

亜美「どう、千早お姉ちゃん! びっくりした? びっくりしたっしょ?」

真美「んっふっふ~。サプライズパーチー大成功だね!」

美希「千早さん、おめでとうなのー!」

やよい「うっうー! おめでとうございまーす!」

千早「み、みんな……!」

春香「えへへっ、ごめんね千早ちゃん! ずーっと隠しちゃってて」

千早「春香……。じゃあもしかして、今日一日、様子がおかしかったのは……」

P「あはは、やっぱり春香も平常心とはいかなかったか。
 まあこればっかりは仕方ないかもしれないけどな」

律子「そうですね。春香じゃなくても、
   今日の千早が相手じゃ上手にごまかすのは難しいですよ」

響「いやー、それにしても意外だったぞ!
  まさか千早が、自分の誕生日を祝ってもらうのを楽しみにしてたなんて!」

千早「えっ?」

雪歩「プロデューサーや春香ちゃんからの連絡で聞いたときはびっくりしたけど……。
   でも、そんな千早ちゃんも見てみたかったかも……えへへ」

春香「もー、他人事だと思って!
   誕生日の話題にならないようにするのすごく大変だったんだから!」

貴音「ふふっ……春香もお疲れ様です。
   でも春香が頑張ってくれたおかげで、真、よきさぷらいずとなりましたよ」

伊織「それで千早? 待ちに待った誕生日のお祝いをされた感想は何かないの?」

真「そうだね、まずは主役から一言もらわなきゃ!」

亜美「ささ、千早お姉ちゃん!」

真美「今の心境をどうぞ!」

千早「いえ、その……ごめんなさい。
   実は私、今日が自分の誕生日だって、すっかり忘れていて……」

一同「え?」

千早「だから、とてもびっくりしたわ。ありがとう、みんな……」

春香「あれっ……? えっと、千早ちゃん? ごめんね、ちょっと聞いていい?」

千早「? どうしたの?」

春香「いや、あの……。千早ちゃん、今日カバンの中に、色々入れてきてたよね?
   パーティでかぶるような帽子とか、タスキとか、クラッカーとか……」

千早「えっ!? は、春香、気付いていたの?」

春香「う、うん。私だけじゃなくて、プロデューサーや律子さんも……」

響「あははっ、千早ってば恥ずかしがって隠さなくてもいいんだぞ!
 誕生日を楽しみにするのなんて当たり前のことだし!」

千早「い、いえ、違うの我那覇さん。確かに昨日の夜までは、私も覚えていたわ。
   去年みんなに祝ってもらったことがとても嬉しくて、
   忘れられない思い出になっていたから。でも……」

美希「? 今日になったら忘れちゃったの?
  でも、パーティの帽子とか持ってきてたんだよね?」

真「それに今日、何回も誕生日の話題を出そうとしてきたって春香が」

春香「う、うん。今朝だってハッピーバースデーの鼻歌を……」

千早「それは……確かに、誕生日のことは考えていたわ。
   話題に出そうともしていたけれど、でも……私の誕生日じゃなくて……」チラッ

やよい&春香「?」

千早「今朝カレンダーを見たら……。
   高槻さんと春香の誕生日が近いな、って……そう思ったの」

やよい「えっ? 私ですか? 私の誕生日、まだ一か月先ですけど……」

春香「私はその一週間後……」

千早「そ、そうよね。でも、あと一か月と少しなんだって思ったら、
   早く準備しなきゃって思って……今朝パーティグッズを売ってるお店に寄ってみたの。
   でもよく分からなかったから店員さんに聞いて、それで勧められるままにこれを……」

響「! 本当だ、よく見たら帽子もタスキも、二つずつある……。
 じゃあこれ、本当に春香とやよいの分なのか」

千早「ええ……ただ買ったはいいけれど、
   やっぱりどんな風に扱えばいいのかもよく分からなくて。
   だから、直接春香に聞いてみようと……」

春香「そ、そうだったんだ」

千早「だから私、本当に自分の誕生日のことは忘れてしまっていたの。
   高槻さんと春香の誕生日をどんな風に祝えばいいのか、だとか、
   相談したいけれど私がそんなことを言い出すのは不似合いじゃないか、だとか……。
   そんなことばかりを考えていて……」

春香「千早ちゃん……不似合いだなんて、そんなことないよ! すっごく嬉しい!」

やよい「春香さんの言うとおりです!
    一か月も前から私の誕生日のことを考えてくれて、とっても、とーっても嬉しいです!」

千早「! 春香、高槻さん……」

やよい「でも、その……。千早さん、その帽子とタスキ、貸してもらってもいいですか?」

千早「えっ? もちろん、いいけれど……。はい、どうぞ」

やよい「ありがとうございます!
    それじゃあ……はい、春香さん! 帽子は春香さんに渡しますね!」

春香「? 帽子は私にって……あっ! そっか、そういうことね、やよい!」

やよい「はい! おねがいします!」

千早「……? 高槻さん、一体何を……」

やよい「えへへっ、それはですねー……えいっ!」パサッ

千早「きゃあっ! た、高槻さん?」

やよい「『本日の主役』は、千早さんですから!
    そのタスキは、千早さんが掛けてください!」

千早「高槻さん……」

春香「それじゃ、えっと……。帽子は、私が被らせてあげるね!」

千早「えっ? でも、私……」

春香「いいからいいから! さあ千早ちゃん、じっとして!」

千早「え、ええ。それじゃあ……」

春香「……はい、これでよしっ! えへへっ、とっても似合ってるよ、千早ちゃん!」

千早「高槻さん、春香……ありがとう。みんなも……本当に、ありがとう」

律子「ふふっ、どういたしまして。
   でも千早、やよいと春香の誕生日の準備をしてたなんて言ったら、あとが怖いわよ~?」

千早「えっ?」

伊織「にひひっ! もちろん、春香の次は私の誕生日をお祝いしてくれるのよね?」

真美「その次は真美たちだよーん!」

亜美「ねぇねぇ千早お姉ちゃん! 亜美たち、めっちゃたくさんクラッカー鳴らして欲しい!」

千早「え、え? ま、待って、急にそんなことを言われても……」

律子「亜美と真美の次は私ね。とっても楽しみにしてるわね、千早♪」

千早「も……もう、律子! あまり困らせないで!」

響「あはははっ! なんか千早のこういうところ、珍しい気がするぞ!」

真「言われてみれば大体こういうのはいつも響の役回りのような……」

響「ちょっと真! それどういう意味だよー!」

雪歩「でも困ってる千早ちゃん、なんだか可愛いかも……」

千早「ええっ!? 萩原さんまで何を言って……!」

貴音「ふふっ……よいではありませんか千早。
   困っている千早、私もとても愛らしいと思いますよ」

あずさ「ええ。千早ちゃん、とっても可愛いわ~。うふふっ♪」

美希「ミキもそう思うな!
   いつもはかっこよくて綺麗だけど、今の千早さん、すっごく可愛いの!」

千早「み、みんなして……もうっ!
   プロデューサー、笑ってないでなんとか言ってください!」

P「ん? あはは、いいじゃないか。今日は誕生日なんだ。
 褒め言葉もみんなのプレゼントだと思って、素直に受け取っておこう!」

千早「そんなことを言われても……」

P「と言うわけで……さ、改めてパーティを始めようじゃないか。
 春香、掛け声をお願いしてもいいか?」

春香「はい、もちろんです! それじゃあみんなで……せーのっ!」

   「お誕生日、おめでとう!」

千早「……ふふっ。ええ、私も……改めてありがとう、みんな!」




事務所

小鳥「今頃みんな、パーティ中ですかね?」

高木「だろうねぇ」

小鳥「プロデューサーさん、ビデオちゃんと撮ってくれてるかなぁ」

高木「どうだろうねぇ」

小鳥「楽しいんだろうなぁ」

高木「だろうねぇ」

小鳥「……くすん」



  おしまい

付き合ってくれた人ありがとう、お疲れ様でした

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