綾瀬穂乃香「はい、綾瀬穂乃香、18歳です」 (10)


●インタビュー1/某芸能事務所

P「え、インタビュー。私に? ……ああ、綾瀬穂乃香の事ですか」

P「活躍してるみたいですね。 フリルドスクエアの三人も、嬉しそうに話してくれますよ」

P「はい。 綾瀬をスカウトしたのは私です。 この子だ!って思ったんです」

P「綾瀬の引退に、私の意志は関わっていません。 あくまで綾瀬たちが決めたことでね」

P「え? 惜しく無かったのかって?」

P「そりゃあ惜しかった。 綾瀬はすごいアイドルになれたと今でも思ってるし、フリルドスクエアは私が手がけた中でも最高のユニットだと思う。 なんとか四人で続けさせたかった」

P「なら何故止めなかったのか、って? ……貴方、嫌なこと聞きますねえ」


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P「止めようと思えば、止められたと思います。 色々説得してね。あの子は私に恩義を感じていたし、フリスクの仲間をとても大事にしていた」

P「―――ただね」

P「随分前だけど、綾瀬が言ったことがあるんです」

P「バレリーナになる夢を叶えるために頑張るうちに、がんじがらめになって、いつかバレエが義務になって、楽しめなくなっていた、って」

P「―――もし綾瀬を引き止めたら、アイドルは綾瀬にとって義務になったでしょう」

P「そしたら、アイドル綾瀬穂乃香はもう以前のようには輝かない。 フリルドスクエアも、同じです」

P「だから、行かせました。 残念だったけどね。惜しかったけどね。 でも、やっぱり行かせてよかったと思うんです―――」



●インタビュー2/某バレエ専門学校

綾瀬「インタビュー、ですか……はい。綾瀬穂乃香、18歳です」

綾瀬「皆さんにはまだ、『元フリルドスクエア』の綾瀬穂乃香、と言うほうが馴染みがあるでしょうね」

綾瀬「きっかけ、ですか。 そもそもの発端は、尊敬していた先生に、バレエに戻らないか―――と薦められたことでした」

綾瀬「その時は正直、断るつもりだったんです」

綾瀬「アイドルは楽しかった。 いい仲間が、友達がいて―――表現が楽しいことなんだと思い出させてくれたのは、アイドルでした」

綾瀬「アイドルに、恩があると思ったんです。続けるべきだと―――だけど、考えてしまったんです」


綾瀬「私はどうして、バレエ時代の習慣をどうしても捨てることができないのか」

綾瀬「私はどうして時間があればストレッチをして。 レッスンを続けて。 食べることも節制を続けて……バレエの癖が抜けてきた、なんて笑いながら、そんなことを続けているのかって」

綾瀬「―――理由には、すぐ気付きました」

綾瀬「苦痛に感じたりもしたけれど、これまで生きてきた時間の半分以上を―――そして、情熱の全てを。 私はバレエに捧げて来ました」

綾瀬「私という人間の中には、バレエがある」

綾瀬「私とバレエは切り離せなくて、今でもバレエへの情熱は、私の中で燃えているんだ―――って」

綾瀬「……試したい、と思いました」

綾瀬「アイドルが教えてくれた、表現を楽しむということを。 バレエに思い切りぶつけてみたい、って」

綾瀬「その思いはどんどん大きくなって―――え?」

綾瀬「アイドルの仲間に、悪いとは思わなかったのか―――って?」


綾瀬「ふふふ。貴方は、知らないんですね」

綾瀬「私に決心させてくれたのは、忍ちゃんたちなんですよ」

綾瀬「私はそれでも、アイドルに留まろうと思っていました」

綾瀬「だから、忍ちゃんたちには、伝えたんです。 こういう誘いがあったけど、アイドルを続ける、って」

綾瀬「そしたら、忍ちゃんが今まで見たことがないぐらい怒って……言ってくれたんです。 『行くべきだ』って」

綾瀬「知っていますか。 忍ちゃんは、アイドルになるために、家出同然に青森から出てきた子なんです」

綾瀬「誰よりも、誰よりも、夢に対して真摯な子なんです」

綾瀬「だから―――解ったんでしょうね。 私が、もう一度バレエにぶつかってみたいって思っていることが」

綾瀬「もし、あそこで誤魔化して一緒に居ようとしたら―――きっと、忍ちゃんは私を許さなかったでしょう」


綾瀬「私は、バレエに戻ることを決めました」

綾瀬「バレエから離れて、時間がたっていました。 毎日レッスンを続けていたとはいえ、力を取り戻すのは大変でした」

綾瀬「だけど、その間、メールで、色々な方法で―――柚ちゃんも、あずきちゃんも。 私を力づけてくれました」

綾瀬「そして今、私はバレエの舞台に立っています。 表現を楽しみながら、踊っています―――表現力がとても豊かになった、と評価してくださる方がいらっしゃるのは、嬉しいことです」

綾瀬「―――え?」

綾瀬「違います。 私は、回り道をしたのではありません」



綾瀬「バレエをしていた私がいなければ、アイドル綾瀬穂乃香は居なかった」

綾瀬「アイドルにならなければ、忍ちゃんたちに出会わなければ―――今の私も絶対に居なかった。 表現を楽しむこと。 それを共有することに、私は気付かないままだった」

綾瀬「はっきりと言えるんです。 アイドルになって、本当に良かった。 皆に出会えて、本当に良かったって。 アイドルのおかげで、今私はここに居られるんだって」

綾瀬「―――もちろん、フリルドスクエアの皆と別れるのは、寂しかったです」

綾瀬「だけど、今もお友達としてのつながりは続いています。お互い、公演には駆けつけて。楽屋で色々話したりして―――ふふ」

綾瀬「アイドルと、バレエ。道は別れてしまったけれど―――ううん、違いますね」


綾瀬「あのね、『スクエア』って、自乗という意味があるんだそうです。同じ数字のかけ算」

綾瀬「私達は友達だけど、それだけじゃなくて―――離れても、舞台で演じる時。 私は、忍ちゃんたちは、お互いを意識しています」

綾瀬「お互いに恥じない自分で居たいと思っています。より成長した姿を見せたいと思っています」

綾瀬「離れても、どこで何をしていても、お互いを高めあっていく限り―――」

綾瀬「私達はきっと、同じ道を歩く『フリルドスクエア』の仲間なんです」


(おわり)

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