千歌 「狛犬ようりこ」 (116)
千歌 「はぁっ…はぁっ…!」タッタッ
千歌 「よしっ、もうすぐ…。この階段、毎日登っても慣れないや」
――すぅ
千歌 「おーい! 曜ちゃん、梨子ちゃん、遊びに来たよー!」
千歌 「…あっ、そっか。お札出さないと!」
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千歌 (サブバッグの外ポケットから、2枚の御札を取り出して掲げる。…こうしないと、曜ちゃん達に会えないんだ)
千歌 「出てこいっ! 曜ちゃん、梨子ちゃん!」
ドロンッ!! ドロンッ!!
千歌 (本殿の横にいる2匹の狛犬が、私が呼ぶなり煙に包まれる。私の体全体を覆うほどの煙で、視界は完全に遮られる)
千歌 「……あれっ? 誰も、いない?」
千歌 (煙が晴れると、狛犬はその姿を消していた。おかしいな、本当ならいつもここに…)
ようりこ 「「わっ!!!!」」
千歌 「うわぁぁぁっ!!??」バタンッ!
梨子 「あっ! 千歌ちゃん、大丈夫!?」
千歌 「大丈夫じゃないよ! びっくりするじゃん、いきなり後ろから出てきたら!」
曜 「えへへ、毎回正面に出るのも飽きてきたなぁと思って」
梨子 「だからやめよう、って言ったのに」
曜 「梨子ちゃんだってノリノリだったじゃん」
梨子 「それは……」
千歌 「もうっ! 次驚かせたら、二度と起こしてあげないからね!」
曜 「えぇっ!? そ、それだけはぁ…」
千歌 「ふふっ、冗談だよ。よしよーし」ナデナデ
曜 「えへへー」ブンブン
梨子 「あぁっ! 曜ちゃんばっかりずるいっ!」
千歌 「順番だよ、順番」
梨子 「むぅー…約束だからね?」ブンブン
千歌 (頭を撫でると、2匹…いや、2人とも嬉しそうに“尻尾”を振る)
千歌 「……可愛い」
――私の友達は、ここ淡島神社の狛犬です
ーーーーーー
ーーーー
ーー
第1話 『奇跡の原点』
~浦の星女学院~
ザワザワ…ガヤガヤ…
千歌 「…? なんだろ、騒がしいなぁ」
千歌 「みんな、どうしたのー?」
むつ 「あっ、千歌。おはよー」
よしみ 「今朝の新聞だよ。見てないの?」
千歌 「私、新聞とか読まないし…」
いつき 「あぁ、ぽいぽい」
千歌 「なにさ、ぽいって!」
むつ 「まぁまぁ…。ほら、これだよ。一番おっきく載ってるやつ」
千歌 「んー…? どれどれ?」
『ホテルAWASHIMA 建設決定』
『冬にも着工か』
千歌 「ホテル…あわしま?」
むつ 「そうそう。淡島にホテルが出来るんだって!」
いつき 「観光客、最近多いもんね。ホテルが出来たら、もっとこの街が活性化するんじゃないかって、みんなで話してたんだよ」
千歌 「ホテルかぁ…。でも千歌の家は旅館だし、あまり作られると商売あがったりだよ」
よしみ 「あっ、そっか…。千歌は反対だよね」
千歌 「ううん、この街が賑わうなら、私も嬉しいよ。ホテルにはみかんも置いてもらわなくっちゃ」
いつき 「千歌らしいね。…要望があるんだったら、3年生の教室に行きなよ」
千歌 「へ? なんで?」
むつ 「ほら、このホテルを建設しようとしてるグループ。聞いたことない?」
千歌 「なになに…? リゾートホテルチェーン “オハラ”?」
いつき 「ほら、この間留学から帰ってくるなり、理事長に就任した生徒いたでしょ?」
千歌 「あぁ、確か名前が…」
「小原 鞠莉デースっ!!!」
千歌 「うわぁっ!?」バタンッ!
よしみ 「あっ! 千歌、大丈夫!?」
千歌 「いてて…。だ、だいじょぶだいじょぶ」
鞠莉 「ごめんね? 驚かせちゃった?」
千歌 「あなた確か、理事長さん…」
鞠莉 「ノンノン、理事長さんじゃなくて、マリーだよっ」
千歌 「えっ…で、でも…」
鞠莉 「いいからほらっ! Say!」
千歌 「えっと…鞠莉、さん…?」
鞠莉 「うんうん! Very goodだよ! えっと…」
千歌 「あっ、千歌です。高海 千歌」
鞠莉 「千歌っちね。OK、覚えとくよ!」
千歌 (テンション高い人だなぁ…。そういえば理事長挨拶もこんな感じだったかも)
いつき 「あのっ! 鞠莉さん、このホテルのことなんですけど…」
鞠莉 「んー…? Oh、うちが建てるホテルだね」
千歌 「“うち”…?」
鞠莉 「あれっ、もしかして千歌っち知らないの? そう…何を隠そう!」
鞠莉 「私こそホテルチェーン オハラの経営者の一人娘! 小原鞠莉よ」
千歌 「えぇっ!? す、すごい…社長令嬢だ…」
鞠莉 「それで、そのホテルがどうかしたの? もしかして、何かrequestがあるとか?」
千歌 「あ、いや…リクエストってほどじゃ」
むつ 「せっかくここにホテルを建てるなら、ホテルの中でもっとこの街のことをアピールして欲しいんです」
よしみ 「そうそう、みかんを置くとか!」
鞠莉 「みかん…? うーん、見た目のいいみかんを用意して、それを維持するのって難しいんだよね」
いつき 「あぁー確かに」
千歌 「それもみかんのいいところなんだよっ!」
むつ 「みかん愛がすごい…」
鞠莉 「ま、みかんの話はさておき」
千歌 「さておかれた」
鞠莉 「なにか要望があったら言ってね。このホテルは地域活性化の目的もあるから、できる限り地域の人達の意見は採用したいから」
鞠莉 「Ciao~」
千歌 「地域活性化か…。あっ、そういえば」
千歌 「このホテル、淡島のどのへんに出来るの?」
いつき 「地図載ってるよー。ここだって」
千歌 「…へぇ、山の上に出来るんだね」
むつ 「眺めもいいしね。楽しみだなぁ」
千歌 「……あれっ、ここって…」
よしみ 「この場所が、どうかしたの?」
千歌 「ここって、淡島神社がある場所だよね? ホテルなんか建てられるの?」
むつ 「あぁ…流石に取り壊すんじゃない?」
千歌 「えっ!?」ガタッ!!
いつき 「人も全然いないみたいだしね。いっそホテルにした方が…」
むつ 「私たちが小学生の時とかは、初詣とかで賑わってたんだけどね」
よしみ 「そうそう。この間ランニングついでに寄ってみたら、すっごい廃れててびっくりしちゃった」
千歌 「そんなこと…」
いつき 「千歌、まだあの神社行ってるの?」
千歌 「う、うん。たまに…」
むつ 「やめときなって。管理してた人もいなくなったらしいし、危ないよ」
よしみ 「やっぱり。どうりで掃除されてないなと思ったんだよね」
いつき 「まぁ誰にも使われてないなら、ホテル建てた方がよっぽど有意義だよね」
千歌 「ダメだよッ!!」
むつ 「ち、千歌…? どうしたの急に。そんな大声出して」
千歌 「ダメだよ…だってあそこは大事な…私の…!」
千歌 「……ッ!!」ダッ!!
よしみ 「あっ、千歌!? どこ行くのー!?」
ーーーーーー
ーーーー
ーー
~淡島神社 本殿~
ようりこ 「「神社が潰れる!?」」
千歌 「…ここにホテルが建つんだって。もう着工も決定してるって」
曜 「もう、どうすることも出来ないってこと?」
千歌 「諦めちゃダメだよ! まだ中止にさせる方法はあるはずだよ!」
梨子 「……でも、現状を見るとね」
曜 「…人はこないし、賽銭も、絵馬も全然」
梨子 「ここに来る人なんて、それこそ千歌ちゃんくらいだもん」
千歌 「そんな…」
曜 「そもそも、神社の取り壊しに反対する声が千歌ちゃんくらいしかなかったんでしょ?」
梨子 「…その程度のものなのかな。この神社って」
千歌 「そんなことないよ…」
曜 「…数年前まで適度に掃除してくれてた人、どこに行ったんだろうね」
千歌 「…!」
梨子 「……あのね、そもそも私たちが千歌ちゃんに呼ばれないとこの姿になれないのだって、神力が足りないからなんだよ」
曜 「神力の源は人々の信仰心。もう、この神社を好きでいてくれる人なんて…」
千歌 「…ここの神様はもう、戻ってこないの?」
梨子 「前も話したでしょ。神様は残された僅かな神力を私たちに恵んで、もう…」
曜 「形だけ残ったこの神社を、どうか護って欲しい…って」
千歌 「なら護らなきゃ!! 神様から託されたんでしょ!?」
曜 「…………てよ」
千歌 「えっ…?」
曜 「じゃあ教えてよ…。どうすればいいのさ、人もいない、人望もないこの神社を、どう護ればいいのっ…?」
梨子 「曜ちゃん…」
曜 「私たちだってこの場所がなくなるのは嫌だよ。…だって、千歌ちゃんとも会えなくなるんだよ!?」
千歌 「…っ!」
曜 「でも力が出ないんだよ。…この場所から出るどころか、千歌ちゃんに呼び出されて、やっと1時間動けるくらいなのに」
曜 「こんな体で、どうしろっていうのさ…」
千歌 (自分の耳を力強く押さえつける曜ちゃんの姿は、とても印象的だった。『せめて私が人間だったら』、そう言っている気がして…)
梨子 「……曜ちゃん、そろそろ時間。今日は寝よ?」
曜 「……うん」
千歌 「ごめん…二人とも」
梨子 「ううん。いいの」
千歌 「でも…っ」
梨子 「今年の冬…だったよね。着工」
千歌 「えっ、うん…」
梨子 「じゃあそれまで、いっぱい遊ぼうね」
千歌 「そんな…!」
梨子 「私、嬉しいよ。たった一人…でもとても大切な人。千歌ちゃん、あなたがここまで必死になってくれたんだもん」
曜 「……ありがとね、千歌ちゃん」
千歌 「曜ちゃん…」
曜 「……っ…おやすみ」
千歌 (台座に乗った二人は、徐々に狛犬の姿に戻る。目を赤く腫らしていた曜ちゃんも、その顔を勇ましい表情に変えていく)
千歌 「…分かってる。私だってわかってるよ。どうしようにもないってこと」
千歌 「でも諦められるわけないじゃんか。…だって痛いほど伝わったもんっ! 曜ちゃんも梨子ちゃんも、この場所を失いたくないって気持ちが!」
千歌 「私にしか出来ないんだ…。足掻いてやる、精一杯足掻いてやる…ッ!」
千歌 「この神社は、私達のものだ…っ!!」
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ーー
~高海家~
千歌 「……とは言ったものの、どうすれば…」
志満 「千歌ちゃーん、お料理、お客さんのとこに運んでくれるー?」
千歌 「うん、今行くー!」
千歌 (だめだめ…! 今は仕事に集中しなくちゃ)
ガヤガヤ…
千歌 「失礼します…」
「そういや聞いたかい、例のホテル」
「あぁ、淡島に建つんだろ? 人が増えりゃ、こっちも繁盛するから大助かりよ」
千歌 (ホテル…。そうだよね、みんな嬉しいんだよね)
「でもあの…淡島神社、だったか」
「あぁ、潰しちまうらしいな」
「懐かしいなぁ。俺が若いころ、受験前とかによく行ってたよ」
「今では人っ子一人いないらしいからな」
千歌 (……。)
「せめて何かご利益がある神社がだったらなぁ」
千歌 (…っ! ご利益…!?)
「そうだなぁ。特にいい話聞かねぇもんな、あの神社」
「神様も愛想つかしてどっか行っちまったんじゃねぇか?」
曜 『神力の源は人々の信仰心。もう、この神社を好きでいてくれる人なんて…』
千歌 (そっか…信仰心さえ取り戻せば…!)
千歌 (あの神社にはすごい力があって、信じる人にはすごいご利益がある…そんな話が広まれば、きっと…!!)
千歌 「それだぁっ!!!」
「「「!!?」」」
千歌 「あっ…失礼しましたぁ…」
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ーー
~淡島神社 本殿~
梨子 「なるほど…ご利益ね」
曜 「ご利益があれば、神社の名声も上がる。…すごい、すごいよ千歌ちゃん!」
千歌 「えへへぇ、それほどでも…」
梨子 「神社の名声が上がれば、きっとホテルを建てる側だって簡単に潰せなくなるはず。…ほんと、よく考えたわね、千歌ちゃん」
曜 「…でも、どうやってご利益があるって噂を広めるの?」
梨子 「そうね…。そもそもここに神様はもういらっしゃらないし、ご利益はないもん」
千歌 「それも考えてあるよ!」
曜 「えっ、なになに!?」
千歌 「私たちが、神様になればいいんだよ!」
梨子 「…………えっ?」
千歌 「つまり、ここにお願いごとをしに来た人の願いを、私たちがこっそり叶えてあげるんだよ」
曜 「それでお願いした人は、ご利益だって思い込むってこと?」
千歌 「そゆことっ!」
梨子 「なるほど…。大変だけど、いい考えかも」
千歌 「二人のためだもん。どんなに大変でも、私頑張れるよ」
曜 「千歌ちゃん…っ!」フリフリ
梨子 「あれっ…でもちょっとまって?」
梨子 「そもそもこの神社、お願いごとをする“人”が来ないんだけど…」
ようちか 「「あっ」」
ーーーーーー
ーーーー
ーー
チンドンドン ♪ チンドン ドンチン♪
千歌 「淡島神社~淡島神社~」
千歌 「願えば必ずご利益がある淡島神社~!」
果南 (……手前に取り付けた太鼓と鐘。背中には淡島神社って書かれた旗)
果南 「…一応聞くけど、何やってるの千歌」
千歌 「チンドン屋!」
果南 「チンドン屋…。上野とかでよくやってる、広告屋さんだよね?」
千歌 「そうだよー! 中学の校外学習の時に見たの思い出して!」
果南 「そりゃ私も見たけど…。なんでチンドン屋? それになんで淡島神社?」
千歌 「果南ちゃん、もしかして知らないの? 淡島神社が潰れちゃうこと」
果南 「学校に行ってなくたって、流石に知ってるよ。…どうせ千歌は友達に言われるまで知らなかったんでしょ」
千歌 「ど、どうしてそれを…っ!」
果南 「はぁ…。旅館やってて、ホテル建設に反対なのは分かるけどさ。こんな回りくどいやり方しなくても」
千歌 「ううん、ホテルが建つこと自体はいいことだと思うよ」
果南 「えっ…? じゃあなんで?」
千歌 「…護りたいんだ。淡島神社を」
果南 「千歌、あの場所に思い入れなんてあったっけ?」
千歌 「……あるよ、沢山」
果南 「へぇ、どんな?」
千歌 「それは私たちだけの秘密」
果南 「えー…。いいじゃんか、別に」
千歌 「この思い出だけは、独り占めしていたいの。ダメ?」
果南 「…ううん。その気持ち、私にもよくわかるよ。私も独り占めしたい思い出、あるから」
果南 「…それに、奇遇だね」
千歌 「奇遇って、何が?」
果南 「私の独り占めしたい思い出っていうのも、その淡島神社での思い出なんだよ」
千歌 「本当!? もしかして狛犬の…」
果南 「狛犬…?」
千歌 「あっ、いやぁ…なんでもない」
果南 「淡島神社を護ろうっていうなら、私も協力するよ。あの場所を失いたくないのは、私も同じだから」
千歌 「本当!? じゃあチンドン屋手伝って!」
果南 「…それは嫌かな」
千歌 「えぇーっ!? なんでなんで!?」
果南 「そもそもその太鼓とか、どっから手に入れたのさ」
千歌 「学校から盗……借りてきた!!」
果南 「怒られるよ…?」
千歌 「大丈夫大丈夫! …とにかく、果南ちゃんも淡島神社の告知しておいて! 利用者が増えれば、きっとなんとかなるから!」
果南 「うん、分かった。じゃあまたね」
千歌 「うんっ! ばいばーい!!」
果南 「……淡島神社か」
果南 「懐かしいな。昔よく、3人で遊んだっけ」
果南 「…鞠莉はもう、覚えてないのかな。あそこで遊んだこととか」
果南 「…覚えてるわけ、ないか。じゃなきゃ、ここにホテルを建てることを許すわけないもんね」
果南 「…はぁ、カッコ悪いなぁ、私」
ーーーーーー
ーーーー
ーー
~次の日 淡島神社 本殿~
千歌 「先生にめちゃくちゃ怒られた…」
梨子 「当然でしょ。学校の備品を勝手に持ち出したりなんてしたら」
千歌 「でも、効果はあったじゃん! ほら!」
千歌 (2人の目の前に絵馬を差し出す。…今朝、淡島神社の絵馬所に一つだけ飾られていたものだ)
梨子 「絵馬…。この神社でまた見ることが出来るなんて、思ってもみなかった」
千歌 「この願いを叶えてあげれば、きっとこの神社もまた、人がたくさん…!」
曜 「……。」
梨子 「…? 曜ちゃん?」
千歌 「曜ちゃん、どうしたの? 絵馬だよ、ほらっ!」
曜 「うん、分かってる。…分かってるんだけど」
梨子 「…いったいどうしたのよ?」
曜 「…なんか、いざとなると怖くなっちゃって」
千歌 「怖い?」
曜 「なんか、もしダメだったら…って考えちゃって。計画が失敗してそのままお別れ…そんな風になるくらいなら、今まで通り楽しく過ごしていた方が、幸せなんじゃないかって…」
梨子 「何言ってるの? この場所がなくなってもいいの!? 千歌ちゃんとも会えなくなるのよ!?」
曜 「……そう、だよね。ごめん」
千歌 「…曜ちゃん」
曜 「ごめんね千歌ちゃん。せっかくこんなに一生懸命になってくれてるのに、水差しちゃって」
千歌 「ううん、いいよ。それに、私もその気持ち、すごく分かるから」
千歌 「…でも私、もしダメだったとしても、それでいいと思う」
梨子 「千歌ちゃん…?」
千歌 「もしダメだったら、きっとそれが運命なんだよ。そしたら、素直に受け入れる」
曜 「千歌ちゃん…」
千歌 「…私は、何もしないのが嫌なの。せめてなにか、出来ることはやりたい」
千歌 「結果がどうとか関係ない。だって、何もしないより絶対にいいもん。私たちが必死に足掻いたって事実は、絶対に残るから」
梨子 「…必死に足掻く。ふふっ、確かにそうかも」
千歌 「今そこに少しでも輝きが見えてるなら、私はそれを掴むために必死に足掻く。無駄かもしれないけど、最後まで頑張りたい…!」
千歌 「成功する根拠なんてない。でも、絶対に後悔はしない、させないっ!!」
千歌 「……ついてきて、くれる?」
曜 「…っ!! 千歌ちゃん…」
曜 「うん…そうだね! やろう、千歌ちゃん!!」
梨子 「千歌ちゃん、私たちならできる! 起こそう…奇跡を!」
千歌 「“奇跡”…。うんっ、やろう! 私たちで奇跡を起こすんだっ!!」
ようちかりこ 「「「おーーっ!!!」」」
ーーーーーー
ーーーーー
ーーーー
ーーー
ーー
ー
――私の配信が、もっと多くの人に
見てもらえますように。
yohane_tube
第1話 『奇跡の原点』 ―完―
今回の更新はここまでとさせていただきます
第2話の更新は、来週中を予定しております
閲覧:9013 コメント:3746
善子 「――やっぱり、1万の壁は厚いわね」カタカタ
善子 「でも大丈夫、堕天使であるこの私が神社にお参りまでしたんだもの。きっと閲覧者だって今に…」
善子母 『善子ー? ご飯、置いておくからね』
善子 「…っ。ありがと、ママ」
善子 「…何やってるのよ私。こんなんじゃダメだってば…!」
善子 「わからない…っ。分からない…っ!!」
善子 「私はどうすればいいの? …誰か教えてよ」
――誰か、助けてよ…
ーーーーーー
ーーーー
ーー
第2話 『私を見て欲しくて』
~淡島神社 朝~
梨子 「えっ、この娘を知ってるの?」
千歌 「うん。確か、1年生の娘じゃなかったかな?」
曜 「“ヨハネチューブ”…だっけ? 私たち、こういうのはよく分からないんだけど」
千歌 「配信者、って言うんだよ。こうやって動画を撮って、みんなに見てもらう人のことだよ」
梨子 「へぇ、じゃあ有名人なのね」
千歌 「どうなんだろ…。1万人くらいに見られてるし、有名…なのかな」
曜 「それだけ見てくれている人がいるのに、まだ増やしたいなんて貪欲な願いだね」
千歌 「まぁ、動画を撮ってる人は、より多くの人に見られたいって思うものだし」
梨子 「で、どうするの? この娘の動画の視聴者を増やすなんて、一体どうやって?」
千歌 「そりゃあ、応援しかないよ!」
曜 「応援?」
千歌 「動画いつも見てます! 応援してます! って声があれば、きっと嬉しいし、やる気ももっと出るんじゃないかな」
曜 「そっか。この娘がやる気をもっと出したら、きっと視聴者も増えるよね」
千歌 「じゃあ私、今日学校で声掛けてみる!」
梨子 「そうね。それがいいかも」
千歌 「うんっ! じゃあ行ってくるね」
曜 「行ってらっしゃい、千歌ちゃん」
タッタッタッ…
曜 「……なんか、任せっきりみたいで嫌だな」
梨子 「外の世界のことは、千歌ちゃんに任せるしかないわよ。私達は、この神社から出られないんだから」
曜 「でも神力が満ちてた時は、夜にこっそり抜け出したりしたじゃん」
梨子 「…そうね。今はもう、この神社の外に出れるだけの神力なんてないから」
曜 「……もし、さ」
梨子 「ん?」
曜 「もし神力が少しでも、ほんの少しだけでも元に戻ったら」
梨子 「…ふふっ、そうね。千歌ちゃんと外で過ごすのも夢じゃないかも」
曜 「…! 梨子ちゃん、私達も頑張ろうね!」
梨子 「急に元気になっちゃって。わかりやすいんだから」
曜 「えっ…/// いや、そんなこと…!!」
梨子 「ふふっ。ほら、そろそろ戻らないと」
曜 「もう…」
梨子 「…でも、私も千歌ちゃんと過ごす時間を増やしたいのは同じよ」
梨子 「そのためにも…頑張ろうね、曜ちゃん」
曜 「……うんっ」
ーーーーーー
ーーーー
ーー
~浦の星女学院 1年生教室前~
千歌 「いないーーっ!!?」
花丸 「休み…というか、不登校なんです」
千歌 「そ、そんなぁ…」
ルビィ 「自己紹介をした途端に出ていっちゃって。それっきりなんです」
千歌 「じゃあ学校を休みながら、いつも配信をしてるってことなのか…」
ルビィ 「配信?」
千歌 「あっ、いや! こっちの話……」
「おーい、国木田、黒澤。今日も頼まれてくれないか?」
花丸 「はぁ…そろそろいい加減にして欲しいずら」
千歌 「それってプリント? もしかして、善子ちゃんの分?」
ルビィ 「はい。毎日こうやって、私たちが届けてるんです」
千歌 「なるほど…。……! そうだっ!!」
千歌 「そのプリント、今日は私が届けるよ!」
ーーーーーー
ーーーー
ーー
~放課後 淡島神社~
曜 「不登校ときたかぁ」
千歌 「うん。でもプリントを貰ってきたから、このあとお話してみる」
梨子 「お話して…どうするの?」
千歌 「えっ、そりゃあ学校に来るように説得を」
梨子 「はぁ…完全に本来の目的を見失っちゃってるじゃない」
曜 「そうだよ。私たちは、その娘の配信の視聴者を増やさなくちゃいけないんだよ?」
千歌 「あっ…」
梨子 「もし学校に通い出して、配信を辞めちゃったら、せっかくのお願いごとも台無しよ」
千歌 「でも、放っておけないし…。もしこのままだったら、善子ちゃんの将来とか…」
曜 「このお願いごとを叶えないと、それこそ、この神社の未来がなくなるんだよ?」
千歌 「そう……だけど…」
千歌 「でもやっぱり、このままじゃダメだよ」
千歌 「ちゃんと学校に行かなきゃ。この絵馬が無駄になっちゃったとしても、善子ちゃんを放っておくなんて出来ない…!」
曜 「……。」チラッ 梨子 「……。」チラッ
ようりこ 「ぷっ…。あはははは!!」
千歌 「ちょっ…! 二人とも!?」
曜 「あはは…ごめんごめん」
梨子 「千歌ちゃんならそう言うと思ってた。行ってきなよ、千歌ちゃん」
千歌 「梨子ちゃん…。でも、この神社は…」
曜 「大丈夫、絵馬なんていくらでも貰えるよ。だって千歌ちゃんが、あんなに必死になって宣伝してくれたんだもん!」
千歌 「曜ちゃんまで…」
千歌 「……ありがとう、二人とも。じゃあ、行ってくるね」
ーーーーーー
ーーーー
ーー
『善子ちゃんは人見知りだから、お話するのはなかなか難しいと思います』
『ルビィなんか全然で…。でも、先輩相手なら流石の善子ちゃんも…』
千歌 「意気込んで来たものの、本当に大丈夫かな…」
ピンポーン
善子母 「はいはーい…。あら? 今日はいつもの娘達じゃないのね」
千歌 「は、はい! その、善子ちゃんとお話がしたくて…」
善子母 「あら。ふふっ、善子ったら、友達が出来ないって言ってた癖に」
善子母 「でもごめんね。お話させてあげたいのは山々なんだけど、ちょっと厳しいかも」
千歌 「そんな…」
善子母 「私ですら、扉越しでしか最近はお話してないから…」
千歌 「…! それでもいいんです、お話させてください!」
善子母 「そ、そう…? それなら…」
ーーーーーー
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善子 「よし、よし…。ふふふ、ジワジワと伸びてるわ、ジワジワと…」
「よーしこちゃーーーんっ!!!!」
善子 「だぁぁぁぁぁっ!!!?」
善子 「だ、だだだ誰よこの声っ!?」
千歌 「あー…初めまして、私、高海 千歌って言います。浦女の2年生で…」
善子 「に、2年生? 先輩がなんで…」
千歌 「えっと…先生に、先輩から直々に学校に来るように説得しなさいって言われて…」
千歌 (うそだけど…)
善子 「説得…ね」
千歌 「ねぇ善子ちゃん、学校行こ? 不安なら、私が一緒に行ってあげるから…」
善子 「……はぁ、全く」
善子 「先生なんて、どこに行っても同じね」
善子 「私は学校には行かないわ。…私の願いが叶うまではね」
千歌 「願い…って、配信の視聴者を増やすってお願い?」
善子 「…! あ、あんたなんでっ!? まさか、実は私のリトルデーモンだったり!?」
千歌 「り、りとるでーもん…?」
善子 「なんだ、違うのね…。じゃあなんで配信のこと知ってるのよ」
千歌 「あっ、いやぁ…。友達に見てる人がいてさ」
善子 「……へぇ、案外世間は狭いものね」
千歌 「…あっ、てことはさ!」
善子 「なによ、まだ何かあるの?」
千歌 「もし善子ちゃんの願いが叶ったら、学校に行ってくれる?」
善子 「…そうね、まぁ、考えておくわ」
千歌 「分かった!! じゃあ私行くね!」
善子 「えっ、ちょっ!!?」
タッタッタッ……
善子 「ほ、本当に行っちゃった…」
善子母 「…よしこー? ちゃんとお話したの?」
善子 「お母さん…。うん、少しだけ」
善子母 「ふふっ、可愛い子だったわね」
善子 「…顔、見てないし」
善子母 「あぁー…そっか。そうね。じゃあ、晩御飯作ってくるわね」
善子 「……うん」
善子 (……やっぱり、先生なんてどこも同じね)
ーーーーーー
ーーーー
ーー
~淡島神社 夕方~
梨子 「てことは、結局振り出し?」
千歌 「うん。学校に行ってもらうためにも、視聴者を増やさなきゃ」
曜 「…で、具体的にはどうするの?」
千歌 「そりゃあ、宣伝しかないよ!」
梨子 「またチンドン屋やるの?」
曜 「それはどうだろ…」
千歌 「やっぱり、ネットのことなんだから、ネットで宣伝するのが一番だと思う」
曜 「それってどうやって?」
千歌 「私知ってるんだ、たくさんの人が見てる掲示板ってところ!」
梨子 「掲示板?」
千歌 「そうそう。そこで宣伝すれば、きっといろんな人が見てくれるよ!」
千歌 「よーし、そうと決まれば早速…」
『この放送面白すぎ!!』
1:名無し@みかんかんかん
yohane_tubeってチャンネルがすごい面白い!
ほぼ毎日配信してるから、みんなも見てみなよ!
URL→○○××△△
2018/04/20(土) 18:24:04.58
千歌 「…………これでいいの、かな?」
梨子 「さぁ…? 私たち、“ねっと”っていうのはチンプンカンプンで…」
曜 「こういう新しいのはね…」
千歌 「でもきっと大丈夫だよ! あとは待つだけだよ」
梨子 「千歌ちゃんがそう言うなら、きっと大丈夫よ。信じましょ、曜ちゃん」
曜 「うん。……そうだね」
ーーーーーー
ーーーー
ーー
2:名無し@水
くっさ
3:名無し@星
見え見えの自演すんな
6:名無し@草
でも配信者可愛くね? 顔出ししてんじゃん
8:名無し@キツネ
高校生か? コイツ
29:名無し@貝殻
誰か特定してこいよwwww
32:名無し@ブーメラン
>>29
言い出しっぺの法則って知ってる?
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ーーーー
ーー
善子 「今宵も集いしリトルデーモン…。感じませんか? 精霊結界の崩壊による……」
『やっほーよしこちゃん!!』
『よしこちゃん、可愛いね!!』
善子 「ちょっ…本名っ! たまにいるのよね、こんな荒らし…」
善子 「……にしても、今日は随分と多いわね…」
善子 「……? 視聴者さんからDMきてる…」
善子 「どれどれ…? …………嘘っ」
善子 「な、何よこのスレ…。私のチャンネルの広告?」
ーーーーーー
ーーーー
ーー
104:名無し@貝殻
>>32
特定完了
本名:津島 善子 浦の星女学院 1年生
住所:――――――――
千歌 「は………はわわ……」
千歌 (どうしよう、私、とんでもないことしちゃったんじゃ…!!)
千歌 「この住所、ホンモノだ…。どうしよう…」
ーーーーーー
ーーーー
ーー
善子 「住所の特定…なるほどね」
閲覧:10621 コメント:5217
善子 「むしろ好都合よ。これで私の願いが…」
善子 「ようやく“叶うかもしれない”んだから…」
ーーーーーー
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ーー
続く
第2話の続きは再来週までに更新予定です
毎回たいへんおまたせしてしまい、本当に申し訳ありません。
今後も是非よろしくお願いします
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