【ガルパン】私達のおなら【最終章】 (12)
inお台場
ワイワイ、ガヤガヤ
押田(今日はマリー様と二人で東京観光、おぉ、なんと光栄な一日だろう! 鬱陶しい安藤もいないし!!)
マリー「ねぇ、向こうに大きなロボットが見えるのだけれど」
押田「あっ! あれ、ガンダムですよ、ガンダム! マリー様知ってますか、ガンダム」
マリー「さぁ」
押田「私も良くは知りませんが、でも大きくてすごいみたいですよ」
マリー「ふぅん」
押田「とりあえず、行ってみましょう」
マリー「よしなに——」
——がくんっ
マリー「キャッ!?」
押田「あ!」
押田(危ない! マリー様が躓いて……!)
押田「——!!」
がしっ!
押田「だ、大丈夫ですか?」
マリー「あぁ、段差に……。ありがとう、咄嗟に肩を支えてくれて」
押田「いえ」
押田(むぅ……マリー様の体、軽いのだな。先輩なのに……)
マリー「危ないわね。膝をすりむくなんて絶対に嫌。……んー……ねぇ、しばらく私の手を引いてくれる?」
押田「もちろん! お望みとあらば!」
ぎゅ
マリー「ふふ、よろしく」
押田「は、はいっ」
押田(うぁー、やらかい手だなぁ、ほっそりしてて、でも暖かくて。あぁ……粗野で無骨なあいつの手とは、大違いだ……)
マリー「……。こりゃ」
ぽこん
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押田「あいたっ、?? な、なぜ?」
マリー「今、他のむすめの事を考えてたでしょう」
押田「っ!?、いえ、まさか、いきなり何を言うのですか」
マリー「だって貴方、あの子の事を考えてる時いつもジト目になるのだから、分かりやすいのよ。ほらこのジト目、あの子の真似をしてるの?」
押田「へ!? わ、私、そんな眼をしてます……?」
押田(あいつの真似など、嫌すぎる……)
マリー「ほらやっぱり、考えてた」
押田「あ! うぎ……」
マリー「ま、別にどうだっていいのだけれど。ただ、この私の手を握っておきながら、違う相手を頭に浮かべるのねぇ」
押田「あ、あ、ごめんなさい……って! いやだから! 違くて! 安藤の事など考えていません!」
マリー「へぇ、『誰の事』を、とまで、私はまだ言っていないのだけれど?」
押田「!! ぐ、が……!」
マリー「ふぁぁ~、もういいから、はやくつれてってよ、がんだむ」
押田「うぅ、は、はいぃ……」
マリー「……ふふ」
押田(うぅ、やはりマリー様には敵わないのだ……)
押田「……。」
押田(……相手があいつだったなら、軽く適当にあしらってやれるのにな。あいつバカだし)
押田(……。)
押田(……。)
押田(……。)
押田(私、今、ジト目になっているのだろうか……うそぉ……やだぁ……)
押田(うぅ、あーもー……まぁ、いい、あまり深くは考えまい、せっかくマリー様とこうして——)
ぶりっ
押田(——へ?)
押田(??——何だ、いまの音——醜いブタの卑しいゲップのような————)
『——ぶりっ——』(心象反響)
押田(おな、ら……か……?)
押田(い、いいや、そんな馬鹿なことがあるものか——)
——私のすぐ後ろで——至近距離で、聞こえたが——
————私じゃないぞ、それは間違いない————
——だいたい私は、こんな人の多いところで絶対におならなんかしたりしない——————
————ましてすぐそばにマリー様がいるのに——————
——そう、すぐ後ろに————至近距離に、いるんだのは——
——マリー、様————が————
『——ぶりっ——』
押田(……!?)
押田(え!? ……え!?……)
『——ぶりっ——』
押田(……マリー、様……!!?? そ、そんな、まさか、高貴なマリー様がこんな場所で恥じらいもなく——)
押田(そんな事——あるはずが、ない……!!)
押田「……っ」チラッ
マリー「……。」
押田(……。)
マリー「……。」
押田(ほ、ほれみたことか、いつもの凛とされた麗し乙女のマリー様じゃないか)
押田(……は、はは、そうだな、私ったら、バカなだ。マリー様があんな豚の生肉を生肉同士で小刻にぶったような下品な音を立てるはずがない。きっと私の聞き間違えだ。それとも、すれ違ったオッサンか誰かの——)
マリー「……。」
マリー「……。」
マリー「……。」
押田(ん?)
マリー「……。」
マリー「…………。」
マリー「…………~~~ッッッ」
押田「!!!???」
押田(わ、わああ!? マリー様の顔が! ベルサイユのバラのごとくに紅く! それにすっごい涙目!)
マリー「……ギ……」
押田「え、ギ……?」
マリー「ギロチンを持て! 貴方を、ギロチンの刑に処すわ!!」
押田「は!? そんな! いや私は何も耳にはしていません! 聞いてませんから!」
マリー「しっかり聞いてるじゃないのよぉーっ、断頭台へ送ってやる! ……あぁもう、何てこと……」
押田「し、仕方ないですよ……生理現象ですから……」
押田(……生理、現象……マリー様……)
メリー「う、うぅ……」
押田(こんなにも、恥じらっていらっしゃる……あの、マリー様が……)
押田「……っ、さ、さ、誰も気づいていませんから、行きましょ。ガンダムですよ、ガンダム」
マリー「うぅ、がんだむ……」
押田「さぁ歌いましょうか! ほら、ぱっきゃまらーどー!」
マリー「ぱおぱお……」
押田「おーぱっきゃまら~ど~!」
押田(……。)
押田(——はぁ……すごいモノを聞いてしまったな……)
『ぶりっ』(心象反響)
押田(……)
押田(しばらく、忘れられそうにない)
押田(マリー様も、おならをするんだ)
押田(マリー様も、あんな音で)
押田(マリー様も……——)
押田(私の中にあるマリー様と、あの、肉の震える怠惰な音——いまの私には、どうしてもそれを継ぎ合わせることができなかった……)
————————————————。
夕刻:お台場TFT内、噴水広場
マリー「ふぅ、疲れたけれど、楽しかったわね」
押田「はい、とっても!」
押田(一時はどうなることかと思ったが——がんだむで期限を直してくれた、よかった。今は笑ってくれている……)
マリー「……」
マリー「……ふふ」
押田「?」
マリー「貴方といると、気分が良いわ」
押田「え?」
マリー「まるで、本当に自分がマリーアントワネットになったみたい」
押田「……。私、ベルサイユの薔薇、好きなんです、世界史のフランスとかも」
マリー「私も世界史の中世が大好きよ。……ベルばらも、うん。大好き」
押田「あ、……えへへ」
押田(マリー様……)
マリー「ねぇ、貴方は何巻が好き? 私はね——」
押田「——あ、私もそのシーンが大好きで——」
押田(——あぁ、楽しい……こんな時間がいつまでも——)
『ぶりっ』(心象)
押田(——……っ、……)
押田(あぁ安藤よ、もしもあれが君の屁なら、私はいつものように、笑いとばしてやれたろうに。実際君は、いつも臆面もなく私の隣でぶりぶりと豚の抗議のようなおならをする——)
マリー「——あっ、こらっ、また貴方ってば——」
押田「あ、え、!」
押田(あぁ、しまった、また顔に——?)
——ザァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!
押田「!?」
マリー「きゃ!?」
押田(な、なんだ、突然、目の前に滝が現れた!?)
ザァァァアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!
ワー、スゴーイ
天井カラ水ガ……
押田「わぁ……! すごい、この吹き抜け広場の天井、高さが50メートルくらいあるのに、水が落ちてくる」
マリー「巨大なスプリンクラーみたいね。下から吹き上げる噴水ではなくて、上から水が落ちてくる噴水だなんて」
押田「建物の中にこんな設備が。……はぁー、東京って、すごいなぁー……」
マリー「ねー、ほんと。すごい。綺麗……」
押田(……、あ……)
マリー「ほぁー……」
押田(……)
押田(こんなマリー様、初めて見る)
押田(この一時——マリー様は『マリー様』ではなく——)
押田(私と同じ、一人の女子高生で……)
押田(学園では常に高貴なその横顔も——いまは、ぽかぁんと分別なく口を開けて、なんだか安藤の間抜け面をみているようで——)
『ぶりっ』
押田(——……)
押田(あぁ)
押田(……。つながった。)
押田(そうだな。この人だって……するんだ)
押田(安藤のように、そして——私のように——)
押田(——————ッッ)
ぼべべっ……!
マリー「え——?」
押田「……っ」
押田(マリー様はが少し驚いた表情をして、その視線を私へと向ける。その瞳を受け止めるには、少し、勇気がいったけれど——)
ザァァァァァァァァアアアアアアアアアアア!!
押田(フロアには大勢の人がいる。私たちの周りにも——けれど、私のお尻の音が聞こえたのは、私のすぐ隣にいた、マリー様だけだ)
マリー「……。貴方……」
押田(マリー様のくりっとした大きな瞳の奥で。いましがた彼女が耳にしたであろう私の恥ずかしい音が、複雑に反響をしている。手にとるように、それがわかる。だって私も、そうだったから——)
押田「……どうか、誰にも、言わないでくださいますよう」
押田(つぶやく私の、顔が熱い。声も熱い。マリー様が、きっとそうだったように)
マリー「……。あの子にも、秘密?」
押田(……。)
押田「いや、あいつとは、お互いに耳と鼻が腐るほど、やりあってますので」
マリー「……。」
押田(マリー様は再びキョトンとした表情を浮かべた後、タルトの生地がほころぶように、ふふっと、ちょっぴり意地悪そうでコケチッシュナ笑みを浮かべ)
マリー「……くすくす」
押田(そうして、ひとしきり小刻みに方を揺らしてから、マリー様は再び遥か天井の噴出口を見上げ……私にしか聞こえない声で——)
マリー「少しだけ、嫉妬をしてしまうかもね」
押田「……。」
押田(その可笑し気なつぶやきを聴いた時——私は、己の肛門にまだ残るほんのりとした温かさが——それがふわりと広がって、私たち二人包み込んでいくような錯覚を覚えて——)
マリー「ん……やだ、貴方の匂いね」
押田「あ……えへへ……」
マリー「もぅ……」
押田「————。」
押田(今晩、船に戻ったら、私はあいつに自慢をするだろう)
押田(おならの事はもちろん言えないけれど——私は貴様よりもずっと深く、マリー様を知ったぞと——)
押田「あぁ」
押田(本当にまったく……今日は、なんて良い一日なのだろう——)
~完~
ありがとうございました。
本当は安藤にもオナラをさせたかったのですが、なんかきれいにまとまった感じなのでここで結。
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