八幡「君に」 (35)




神様に愛された人間が、もしこの世にいるとしたら。

そんな人間が存在するのだとしたら。

きっとこんな風に笑うんだろうな

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俺には眩しすぎる――――――

「あら、私に見惚れているのかしら?」

俺の正面でない胸を精一杯に張りながら、彼女は得意満面、といった調子だ。

「んなわけねえだろ」

どうでもいい風を俺は装う。怪しまれないように、ゆっくりと彼女から目を逸らす。

「本当かしら?」

「本当だ」

彼女は俺の目をのぞき込んでくる。身長差のためか、それがやや上目遣い気味になる。透明な瞳の中に、俺がかすかに映り込んでいるのが見える。

「私には、見とれていたように見えたけれど」

「他人が自分に見惚れていたのか、なんてよく他人に聞けるなお前。傲慢にもほどがあるぞ」

「あら、別におかしいことではないでしょう?だって私、かわいいもの」

彼女は自分の髪をそっとなで付ける。ふわり、とシャンプーなのか何なのか、わからない香りがする。もしかしたら、女の子特有の香りなのかもしれない。あまり嗅いだことのない匂いだ。甘酸っぱくて、吸い寄せられそうな、蠱惑的な香り。夕焼けが差し込んでいてよかったと思う。

「ほら、また見惚れてた」

そっと頬に手を添えられる。白い指が優しく包んでくる。かすかに感じるぬくもりが痛い。顔が近い。甘ったるい香りが強くなり、睫毛の一本一本が見えるようになり、桜色の唇が迫ってきて、そして――――――







そっと、唇が触れ合った








終わり。
眠い。

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