【モバマス】絆の在処 (28)

・地の文
・非一人称
・モチーフあり

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「アイドルに興味はありませんか?」

彼女がその言葉の意味を理解するまで、少なくない時間を要した。
金の髪に白い肌を持つ女性は、けれど、日本語が分からないわけではない。
むしろ、母国語と言っていいほど日本語に精通していた。

だから、かけられた言葉の意味が分からないわけではない。
何故自分にその言葉がかけられたのか。
それが分からなかった。

「私が……アイドルに、ですか……?」

聞き返す声に疑わしげな色が混ざるのも当然だろう。
男が投げかけた問いは、それほど場違いなものだったのだ。

少なくとも、修道服に身を包んだ相手にかけるものとしては。


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その教会は、住宅街に溶け込むようにして存在している。
それほど大きいわけでもなく、特別目を引くようなものもない。
ただ静かにそこにあって、人々を受け入れていた。

訪れる人は祈りを捧げ、神との対話に時を過ごす……訳ではなかった。
そうする人がいないわけではなかったが、その数は決して多くない。
おおよその人は、憩いの場として教会を訪ね、世間話をし、時にお茶を飲んで帰っていった。

クラリスが所属するのは、そんな教会だった。

本来あるべき姿とは少しばかり遠いところにあったが、クラリスはそんな教会が好きだった。
地域の人々と共に在り、のんびりと時を過ごす。
相談を持ちかけられたなら、神の教えを通じて肩の荷を軽くする手伝いをする。

機会があって聖歌を披露してからは、子ども達に歌を教えるようにもなった。
憧れの眼差しに面映い思いをしながら、それでも誠心誠意務めてきた。
子ども達の素直さ、無邪気さに触れるうち、クラリス自身の背筋が伸びていくようだった。


穏やかで、何気ない日々。
けれど、かけがえのない時間はいつまでも続かない。
財政難という、過酷で無機質な問題が目の前に横たわっていたから。

「アイドル……ですか」

先日渡された名刺を見ながら、一人呟く。
そういったものには人一倍疎いクラリスだった。

けれど、アイドルとして成功できたなら、教会の財政難を救う一助になるのでは。
そんな考えが頭をよぎる。

一方で、そのような打算的な振る舞いが許されるのかと。
心の内から非難の声が聞こえてくる。

「ふう……」

溜め息とともに視線を上げ、名刺をしまう。
そんなことをここ数日繰り返していた。

まだ、答えは出ない。


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「おねーちゃん、ただいまー」

「ふふ、お帰りなさい」

子ども達はよく学校帰りに教会へ立ち寄っていた。
別に教会に用があるわけではない。

三々五々に集まった子供たちはカバンを放り投げ、近くの公園へと駆け出していく。
クラリスは荷物を集会所の一角に集め、子供たちの背中を追う。

それが習慣になっていた。

「…………あら」

いつもと同じように荷物をまとめ、教会の扉を開いた時だった。
ふと見上げた空は、いつの間にか雲に覆われていた。

先ほどまで晴れていたのに。
口の中で自分にだけ言う内に、さあっと音を立てて雨が落ちてきた。

「……これは、タオルが必要ですね」

この程度の雨で引き返してくるような子ども達ではない。
それが分かっているからこそ、風邪をひかないようにしなければ。
クラリスは普段より少し急ぎ足で準備を整え、小走りで公園へと向かった。


傘の向こうに広がっているのは、クラリスの想像通りの景色だった。

急な雨に対して、子ども達はむしろ声を上げてはしゃいでいる。
薄く煙る雨の幕の向こうにあってなお、輝く笑顔が眩しい。
慌てて準備をした自分とはまるで反対の、開けっ広げで無垢な光景だった。

「どうしたの、クラリスねーちゃん?」

どれくらいそうしていたのか。
いつの間にやら雨は止んで、心配そうな瞳が彼女を見上げていた。

「いえ、なんでもありませんよ」

揺れる瞳に柔らかな微笑が映ると、一転してイタズラっぽく輝きだした。
それは、とっておきの何かを隠している表情で。
早く気付いて欲しくて仕方がない表情だった。

「まぁ……」

二の句が継げないクラリスに満足したのか、少年は駆け足で輪の中に戻っていく。

雨とともに雲が流れ、久しぶりに現れた太陽を歓迎するかのように。
青空を背景に、鮮やかな七色のアーチが空を彩っていた。

――――――
――――
――

「ねーねー、シスター?」

「はい、なんですか?」

公園からの帰り道、キュッと手を握られる感触に視線を動かす。
傍らの少女はあどけない顔つきで口を開いた。

「虹の根元には宝物があるって、ほんとう?」

それは、彼女自身も幼い頃に聞かせてもらった話だった。
どんな宝物なのだろうと胸を弾ませ、目の前の少女のように瞳を輝かせていた。

「あ、僕も聞いたことある!」

その声が呼び水になって、期待に満ちた視線がクラリスに集まる。

子ども達の顔は、過ぎし日の自分を映したようで。
きっと自分はあの時の母と同じ顔をしているのだろう。
そんな確信が、いつも以上のあたたかさで口元をほころばせる。


「虹の根元って、どうやっていけばいいのかな?」

「うーん、走る?」

「それじゃ着く前に虹が消えるよ」

クラリスの微笑みを肯定と受け取ったのか。
子ども達は話を次の段階に進めていた。

「そうだ、虹を渡ればいいんだ!」

「そんなのできっこないよー」

「でも、昔の偉い人は海を真っ二つにしたってシスター言ってたよ?」

「すっげー」

「なら、虹も渡れる?」

飛び交う声は一様に弾んでいた。
ポケット一杯に夢を詰め込んで、まだ見ぬ世界へ想いを馳せている。
空想に満足できなくなったときこそ、彼らは飛び出していくのだろう。

そんな子ども達が、クラリスには眩しく見える。
時に支え、あるいは導き、その成長を見守る。
例えわずかであっても、自分の存在が彼らの糧となれるのなら。
クラリスにとって、それに勝るものはなかった。

その想いこそ、彼女の原点だった。


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その夜もまた、クラリスは件の名刺を手に取っていた。

財政難という問題は、もはや目前まで迫っている。
教会を存続させるために何が出来るのか。
その答えの一つが、手の中の紙片に書いてあった。

「私が守りたいものは……」

声にならない呟きを聞く者はいない。
閉じた瞼に、今日の出来事が映る。
深く静かに息を整え、内なる声に耳を傾ける。

未知の世界への純粋な興味を訴える声が聞こえる。
財政難を救うことが出来るかもしれないという、期待の声が響く。
一方で、その動機の不純さを責める声が湧き上がる。
一歩を踏み出すことへの不安が広がる。

それら一つひとつの声をありのままに受け止めて。
それでもなお、一際高くこだまする声があった。

それは、子ども達との帰り道であらためて見つけた、心からの希望。
教会を守りたいという、ただそれだけの願いだった。

ならば。


決意と共に顔を上げる。
迷いも疑念も消えたわけではない。
けれど、それよりも大切なものがあるから。

「……私にそれが出来るのならば」

全てを飲み込んで、踏み出そう。
心の底でうごめくものが枷となり、足取りを重いものにすることがあっても。
歩みを止めず進んでいけると、そう信じることが出来たから。

教会のシスターがアイドルになる。
どんな聖人でもそのような道はたどっていないだろう。
それは外道なのかもしれない。

それでも。

守りたいものの為に。
胸に誇りを秘め、揺らがぬ想いを掲げて。

窓の外には青白い月が浮かんでいた。
物言わぬ月が、クラリスの誓いをそっと見守っていた。


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立ち並ぶビルの一つから、男が一人吐き出される。
手入れが行き届いたスーツにネクタイをしっかりと締めた姿が、誠実さをよく表している。
けれど、男の丸まった背中がその印象を少なからず損なっていた。

「そう簡単に上手くはいかない、かぁ」

溜め息とともに吐き出された言葉は、赤く染まった空に溶けて消えた。
その時になって初めて、日も暮れようとしていることに気付いたらしい。
男の目がわずかに見開かれる。

目の前に広がっているのは、濡れた街並みだった。
水を滴らせた並木は赤く輝き、雨を吸い込んだアスファルトからは独特のにおいがする。
雨に洗われた、澄んだ空気が風に乗ってやってくる。

その光景は、ある日の記憶を連れてきた。


――
――――

研修名目で駆り出された現場からの帰りだった。
突然の雨を避けるべく駆け込んだ軒先には先客がいた。
こちらに視線が向く気配に軽く会釈を返す。
だが、彼に相手のことを気にしている余裕はなかった。

それよりも何よりも、濡れた体と鞄の中身が気になって仕方なかったのだ。
幸いにして荷物は無事だった。
けれど、濡れた体をどうにかするには、どう考えてもハンカチ一枚では足りない。

「あの……」

諦めの溜め息に割って入るように、涼やかな声が響く。
振り返ってまず視界に入ったのは真っ白なタオルだった。

「どうぞ、お使いください」

声につられて視線を上げると、そのまま縫いつけられたように動かなくなってしまった。

身に着けた修道服のせいだろうか。
その女性は決して華やかな印象ではなかった。
けれど、目にした途端に背筋が伸びるような、言い難い清楚さがあった。

「どうかなされましたか?」

「あ、いいえ」

男が固まっている間も、女性は律儀にタオルを差し出し続けていた。
それが当然とでも言うかのように。

「ありがとうございます。助かります」

「どういたしまして」

拒否することも出来ず、タオルに手を伸ばす。
その柔らかさ、あたたかさが現場仕事での疲労を溶かしていくようだった。

人心地着くころには、嘘のように雨が止んでいた。
吹き抜ける風が雨上がりの匂いを運んできて、二人の間を通り抜ける。

呆れたように空を見上げていた二人の視線が絡む。

それはやはり直感というべきものなのだろう。
論理的な思考も、理知的な判断もそこにはなかった。
ただ、気付いた時には言葉がこぼれていたのだ。

「アイドルに興味はありませんか?」

――――
――


思い返すたびに気恥ずかしさに体を貫かれる。
けれど同時に、それこそが彼にとっての出発点でもあった。

この人とトップを目指したい。
この人ならきっとトップに立てる。

いっそ無邪気とも言えるその想いが、彼のプロデューサーとしての始まりだった。
あらためて初心を胸に灯し、さっきより少しだけ背筋を伸ばして歩き出す。

信号待ちで足元を見ると、水溜まりに自身の姿が映り込んでいる。
お世辞にも晴れやかとは言えない姿だった。

それはそうだろうと、そう思う。
連日足を棒にして営業に回り、返ってくるのは疲労だけだった。

「俺、なにしてるんだろうな……」

自分はプロデューサーとして何が出来ているのか。
問いかけるたび、ジリジリとした焦りが湧き上がってくる。
目に付くところに答えはなくて、それでも彼は歩みを止めることが出来なかった。

自分は、クラリスをこの世界に引き込んだ張本人なのだから。
その責任感が自らを縛っていることに、彼は気付いていなかった。

だから彼は歩いていく。
疲労と焦りと、ままならない現実を背負いながら、もがくように。
例え不格好でも、そうすることしか知らなかったから。

水溜まりに映った青空に、ついに気付くことはなかった。


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事務所に向かうクラリスを迎えたのは、高く広い青空だった。
明け方の冷気をわずかに含んだ風が白い頬を撫でる。

特別なものは何一つない。
いつもと変わらない朝の風景がクラリスの心を満たしていく。

雨の日も、風の日も。
今日のような晴れの日も。
あの日以来、クラリスは何度も同じ朝を歩んできた。

アイドルという未知の世界は、今のところ地味で厳しいものだった。

「私は、本当に何もできなくて……」

足早に過ぎて行った時間を思い返すと、知らず呟きがこぼれた。

ダンスレッスンでは、体が思うように動かなかった。
それこそ、誰の体か分からなくなるほどに。

ビジュアルレッスンでは、戸惑いばかりが先に立った。
自分の見せ方など、考えたこともなかったから。

ひそかに自信を持っていたボーカルレッスンも、一筋縄では行かなかった。
聖歌とアイドルソングでは、求められるものが違ったから。


「……それが楽しいだなんて、私は変なのでしょうか」

口元に微笑が浮かぶ。
いっそ清々しいほどに何もできなかったクラリスは、けれど諦めなかった。

一つひとつ丁寧に、しっかりと向き合って前に進んだ。
昨日できなかったことは今日できるように。
明日には上手にできるように。
共に歩んでくれるプロデューサーが、そんな自分を肯定してくれたから。

その歩みは決して速いものではなかったけれど。
プロデューサーの笑顔が教えてくれていた。
自分はちゃんと前に進んでいるんだと。
その実感が、クラリスの心を満たしていた。

アイドルとして舞台に立てるのはいつのことか。
それはまだわからない。

けれど、いつか来る『その時』の為に。
朝の空気を胸いっぱいに吸い込んで事務所に向かう。


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その日のレッスンも、気付いた時にはプロデューサーがいた。
邪魔にならないようにひっそりと。

当のクラリスは無心にステップを踏んでいる。
柔らかな身のこなしが如何にも彼女らしい。
以前はそこここに見えていたぎこちなさも、ほとんど消えていた。

彼の目から見ても、クラリスは着実に成長している。
もはや舞台に立っても問題ないと思えるほどに。

「……それなのに、俺は」

その判断は事務所側も同じだったのだろう。
だからこそ、クラリスにイベント出演の話が来たのだ。

それは、彼らが所属する事務所が定期的に開いているライブイベントだった。
そこでは新人の顔見せや、新ユニットのお披露目が行われている。

担当アイドルのデビューが決まった。
それは祝福すべきことであるはずだった。

けれどそれを、心から喜べないでいる。
自分が見出した相手に、自らの手で舞台を用意できなかったから。
力不足を痛感して、思わず奥歯をかみしめる。
そして、そんな自分の体面を気にしている事実がまた、心を苛んでいく。

「……プロデューサー様?」

その声が彼を現実に引き戻した。
うっすらと汗をにじませたクラリスの顔に、気遣う色が漂っている。


――――――
――――
――

二人は近くの公園を訪れていた。
クラリスが半ば強引に連れ出した形ではあったが。
元気に走り回る子供たちを横目に、ベンチへと並んで腰掛ける。

甲高く響く声をよそに、二人の間を静寂が支配している。
湿り気を帯びた風が吹き抜けた。

「……ご安心ください」

いつ終わるともしれない沈黙を破ったのは、クラリスだった。

「私は、貴方を信じると決めました」

「……え?」

「この信頼は、何があろうとも決して揺らぐものではありません」

気負いも何もない、いつも通りの穏やかな表情だった。
だからこそ、その言葉の重みが伝わる。


「クラリスさん……」

プロデューサーの表情に亀裂が走る。
彼自身は上手く隠していたつもりだったのだ。
内に秘めた苦悩を。
肩にのしかかる重圧を。

けれどクラリスは気付いていた。
シスターとして、悩みを抱えた人を数多く見てきたから。
何より、信じてついて行くと誓った相手だったから。
だからこそ彼を公園に連れ出したのだ。

「お、俺は……っ!」

小さな亀裂から漏れ出た感情は、やがて止めようのない奔流となった。

自分の未熟さと、ままならない現実と。
勝手なこだわりと、その為に生まれた心のしこりと。

あるいは自分が物語の主人公であれば、こんな無様を晒さずに済んだだろうに。
そんな夢想がプロデューサーの脳裏をかすめる。

けれど現実は違う。
今ここにいる自分でどうにかしなければならないのだ。
例えそれが、理想とかけ離れていても。


「……私は、幸せ者ですね」

小刻みに震える拳を凝視していた目が、声の主に向けられる。

なじる声か失望の吐息か。
そんなものを予想していたプロデューサーの表情が揺れる。

「私はプロデューサー様に、そこまで大切に思われていたのですね」

固く握られたままの拳に白い手が重なる。
ただ、それだけだった。


思い出したように静けさが返ってきて二人を包む。
風が、子ども達の声を運んできた。

人の手には、不思議な力がある。
握りこまれた拳に伝わる熱が、やがて心の奥底にまで届く。
その熱が焦りや後悔に囚われた心をほぐしていくようだった。

続く言葉は何もない。
それでも、信頼が伝わってくる。
この人ならばと声をかけた、その相手から。

「どうして……」

何ものにも代えがたい喜びが胸を打つ。
同時に、疑問が湧きあがってきた。
自分はこの信頼に値する何かをしてきたのか、と。

「プロデューサー様は、いつも私のことを第一に考えてくださいます」

事務所で出会えば、必ず手を止めて言葉を交わす。
余程のことがなければ、レッスンに顔を出してその様子をうかがう。

プロデューサーであれば、そんなことは普通のことだった。
けれどクラリスは、そんな当たり前のことが嬉しかった。

そこには確かに、プロデューサーの真心が感じられたから。
仕事だからというのではない、彼の真情があったから。

「私には、それが何よりも嬉しいのです」

彼の存在がどれだけ自分の支えになっているか。
彼の言葉でどれだけ自分が助けられているか。

おそらく、プロデューサーにはその自覚はないのだろう。


「それはただ、俺がそうしたかったから……」

信頼を得る為でも、礼を言われるためでもない。
ただ、プロデューサー自身がそうしたかったから。

「…………あ」

口に出してようやく気付いた。

自分がどうしたいのか。
それが原動力だったはずなのに。

いつしか、どうしなければならないのかという義務感に捕らわれていた。
挙句、焦りに追い立てられて大事なものを見失って。

「……ありがとう、クラリスさん」

この人に出会えてよかったと、あらためて感じていた。


不意に、プロデューサーが空を見上げる。
憑き物が落ちたような、晴れやかな表情だった。
その目には光るものがあったが、そこに後ろ向きなものは感じられない。

彼女をトップアイドルにするという、自分の夢の為に。
そして何よりも、彼女からの信頼に報いる為に。
どんなことでも乗り越えてみせると、そんな決意が浮かんでいた。

「ふふ、どういたしまして」

プロデューサーの瞳を見て、クラリスが微笑む。
そこには、突然スカウトされたあの日に見た輝きが戻っていた。
打算も何もない、まっすぐな光。
この人なら信じてもいいと、そう思わせてくれた瞳だった。

今まで見えていなかった絆が、確かに見える。
目の前に道が拓けていくような感覚だった。

それは二人に共通する想いに違いないと。
言葉にせずとも、そう信じられた。


***************************


「あーーーっ!」

一際甲高い声が二人の耳に届く。
転がってくるボールと、それを追う少年が二人の視界に入った。

軽い動作で立ち上がったクラリスがボールを拾い上げる。
追ってきた少年と目線をわせ、微笑んだ。

「はい、どうぞ」

「ありがと、お姉ちゃん!」

少年のはじけるような笑顔がプロデューサーの目に焼き付く。
どこにでもあるような、日常の一コマ。
それが気付けば、まったく別の光景に変わっていた。

そこにいるクラリスはスポットライトに照らされていて。
その前に無数の笑顔が広がっている。

それはまだ夢でしかない。
その夢を現実にしたいと、強く願った。
その為ならば。

新たな決意が、プロデューサーの胸に灯る。

「どうかしましたか?」

「いえ、なんでも」

傾き始めた太陽が二人を優しく照らしていた。


<了>

という話でした
独自解釈やら捏造やらがふんだんに盛り込まれておりますが、違和感がなければよいのですが

なお、話のモチーフとさせていただいたのはRAMARのWild Flowersという楽曲です
跡形もない感じになってしまいましたが、少しでもお楽しみいただけましたなら幸いです


参考までに
http://www.nicovideo.jp/watch/sm479300

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