夜
野宿
セルピコ「…………」
ガッツ「どうした?」
セルピコ「……それはこちらのセリフです」
セルピコ「急になんです?褒められてもお代わりは有りませんよ」
ガッツ「そういう訳じゃないんだが……」
ガッツ「この肉料理を食ったら、ふとある事を思い出した」
セルピコ「この程度、料理と言うほどでもありませんが……」
セルピコ「ある事?」
ガッツ「……今でも夢だったんじゃないのか?と思ってしまうんだが」
ガッツ「あれは俺がまだ一人で、当ての無い旅をしていた頃の話だ」
セルピコ「…………」
ガッツ「この刻印のせいで何度目かもわからねぇ魔獣どもとやり合って」
ガッツ「精も魂も使い果たしたか、と思うほど疲れ果てた時だった……」
―――――――――――
ガッツ「はあっ……はあっ……」
ガッツ「くそっ……さすがに……キツかったぜ……」
ガッツ「くっ……うっ……」
ガッツ(……折れてはいねーが、もう体力的に限界だ)
ガッツ(どこか……休める場所を探さねーと……)
ガッツ「はあっ……はあっ……」
ガッツ「ん……?」
ガッツ「…………」
ガッツ「なんだ……これは?」
ガッツ「…………」
ガッツ(こんな……開けた場所に)
ガッツ(なんでドアだけがポツンと立っている?)
ガッツ(あからさまに怪しい……また魔獣が何か仕掛けてきやがったのか?)
ガッツ(…………)
ガッツ(だが、仮にそうだとしても)
ガッツ(延々とこのドアが現れ続けるって事になりかねないな……)
ガッツ「……チッ」
ガッツ「行くしかねーみてーだな……」
ガチャ… キィ… カララン♪
マスター「いらっしゃい」
ガッツ「…………」
マスター「どうしました?お客さん」
ガッツ「……なんだ? ここは……」
マスター「お客さん、ここは初めてだね」
マスター「ここは、ねこ屋っていう洋食……飯屋だよ」
ガッツ「飯屋……だと?」
マスター「ああ」
マスター「お客さん、ごついの背負ってるね」
マスター「とりあえずそれ置いて、どこかの席に着いて、メシ食って行きなよ」
ガッツ「…………」
ドサッ(着席)
マスター「何になさいます?」
ガッツ「…………」
ガッツ「肉だ」
ガッツ「とにかく精をつけてぇ。肉を食わせてくれ」
マスター「あいよ」
スタ スタ スタ…
ガッツ「…………」
ガッツ「……はあ」
俺は……余りにも異質だが
とりあえず敵意は無さそうな、この場所で一息ついた
ガッツ(だが……油断はできねぇ……)
ガッツ(……ここは魔獣どもが見せている幻影かも知れねぇからな)
幾度と無く、だまされた
ある時は眠りを誘い、永眠へと導くため
ある時は恐怖に陥れ、動けなくさせるため
ある時は快楽へ誘い、丸裸にさせるため……
とにかく、執拗で、節操の無い幻影だ
ガッツ(…………)
スタ スタ スタ…
マスター「へい、お待ち」
ジュウジュウ…
マスター「ねこ屋特製、Tボーンステーキだ」
ガッツ「…………」
ガッツ「……ゴクリ」
マスター「ささ、冷めない内にどうぞ」
ガッツ「…………」
これは何の肉だ?
と、たずね様と思ったのだが……
それを言葉にする前に
ナイフとフォークを手にとってしまっていた
ガッツ「…………」
ガッツ「…………」 ムシャ…
ガッツ「!!」
何だこれは
味がする。それも塩だけの単純な味じゃねぇ
ガッツ「はぐっ!ムシャムシャ!」
ピリリと辛味を含む、刺激的だが鼻の奥を駆け抜け
強烈な旨みを感じさせる黒い粉がかけられている……!
ガッツ「ガツガツガツ……」
詳しくはわからねぇ……わからねぇが
葉っぱを細かく刻んで粉状にしてあるコレが
とにかくいい匂いで食欲をそそりやがるッ……!
ガッツ「ムシャムシャ……ゴクンッ、ガツガツガツ……」
しかも骨を中心に左右で微妙に肉質が違うだと……!?
反対側の肉には、そっちなりの味がして
ほとんど別物?と言っていいほどの差を感じるッ!
ガッツ「ガツガツガツ……ふう」
俺は肉、と言ったはずなのに
何で野菜の炒め物を一緒に出しやがるんだ?
と疑問に思ったが
これは肉を食った後に食うと旨い上に
肉から出た油を吸い取りやがって
さらに肉が食え、旨くなりやがる……!
なんなんだ、これは!?
ガッツ「…………」
ガッツ「げぇっぷ」
マスター「お客さん、いい食いっぷりだね」
マスター「疲れた顔をしてたからちょっと手を加えたんだが」
マスター「要らぬ心配だったな」
ガッツ「…………」
ガッツ「……手を加えた?」
マスター「ああ」
マスター「体に良く、疲れも取れるハーブや野菜を少々多めにね」
マスター「でも、それだけだよ」
ガッツ「…………」
ガッツ「……あ」
マスター「ん?」
俺は慌てて懐をまさぐる
ガッツ「…………」
ガッツ「……すまねぇ」
ガッツ「今、持ち合わせがこれしかない」
マスター「ははは、確かに足りないね」
マスター「いいよ、ツケにしとくから」
ガッツ「ツケ?」
ガッツ「いいのか?俺は初めてここへ来たんだぞ?」
マスター「ああ。また来た時に払ってくれたらいい」
マスター「あるとき払いの催促なしだ」
ガッツ「……変わってるな、あんた」
マスター「よく言われる」 クスッ
マスター「あと、扉は7日に一度、同じ場所に現れるんで」
マスター「それをお忘れなく」
ガッツ「7日に一度か……わかった」
マスター「またのお越しを」
ガチャ… カララン♪ キィ… パタン
―――――――――――
ガッツ「……という話だ」
セルピコ「……色々な事を経験していない頃の私だったら」
セルピコ「くだらない与太話と思ったでしょうね」
セルピコ「ですが……」
セルピコ「私の料理とも言えないこの料理が」
セルピコ「その食堂の主人の作るものに似ている、とでも?」
ガッツ「もちろん比べ物にならねーよ」
セルピコ「……けなすのなら、はっきりそうしてください」
ガッツ「ただな」
ガッツ「この料理……あの時感じた草の匂いがしたんだ」
セルピコ「…………」
ガッツ「あの店のマスターは」
ガッツ「疲れている俺を考えて体に良い物を、と手を加えていた」
ガッツ「だから……」
セルピコ「よして下さい。そんなつもりはありませんよ」
セルピコ「ファルネーゼ様の為ならいざ知らず」
セルピコ「あなたのためなんて、これっぽっちも有りません」
セルピコ「たまたま使えるハーブを見つけて入れただけですよ」
ガッツ「……そうか」
栗パック「で?ガッツは、またその店に行ったのか?」
ガッツ「起きたのか」
栗パック「旨そうな話が聞こえたからな!」
栗パック「で、どうなんだ?」
ガッツ「……ほんの少しの間だけ」
ガッツ「とでも言っておく」
石ドロ「やい!そんな旨い店、自分だけ通ってたなんてずるいぞ!」
石ドロ「俺も連れてけ!」
ガッツ「お前も起きたのかよ……」
シールケ「お師匠さまから聞いた事があります」
シールケ「遠き炎国の地に住まうドラゴンの力と」
シールケ「太古のエルフ達が編み出した秘法が合わさり」
シールケ「聖なる隔絶空間を彷徨う食堂の話を」
ファルネーゼ「そうなのですか」
ファルネーゼ「ならば私もぜひ行きたいです」
キャスカ「んあー?」
セルピコ「おやおや」
セルピコ「これはもう収集がつきませんね」
セルピコ「ともあれ、私も興味あります」
ガッツ「話すんじゃなかった……」 ハア…
イバレラ「でかい図体して落ち込むんじゃないわよ」
イバレラ「いいから、どこにあるのか教えなさい!」
ガッツ「わかったわかった……」
ガッツ「…………」
ガッツ(ちょいと遠回りになっちまうが)
ガッツ(たまにはいいか) クスッ
おしまい
ガッツにも7日に一度くらい安らぎがあってもいいよね。
異世界食堂面白いっす!
このSSまとめへのコメント
面白すぎる。
特にステーキの食事の場面が良かった。