轟雷「ああぁぁぁぁぁぁ……」ゴロゴロゴロ
スティ子「轟雷?どうしたの?」
バーゼ「ほら、あれだよ~、あおが修学旅行に行っちゃってるからさぁ」
スティ子「ああ、寂しいのね」
轟雷「あお、あお、あお、あお、あお分が足りません……」
轟雷「あおに触れてもらいたい、声をかけてもらいたい……」
轟雷「いいえ、それだけでは足りません、離れ離れになって初めて気がつきました」
轟雷「私が、私があおの顔を触りたいのです、あおの手を握りたいのです、あおの髪を撫でたいのです」
轟雷「頭を撫でてあげたい、私が受けた喜びを、気持ちよさを、あおにも返してあげたいのです」
轟雷「そうです、行きましょう、今からでも遅くはありません、あおを追いかけて京都まで!」
スティ子「無理だってば、流石に遠すぎるでしょう」
轟雷「しかし、しかしこのままでは私は、私は壊れてしまいます」
轟雷「ああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……」ゴロゴロ
スティ子「はぁ、コレ何時まで続くのかしら……」
スティ子「そもそも、あおに対して固執しすぎじゃないの」
スティ子「もう少し回りに目を向けていいと思うんだけど」
スティ子「例えば私とか?」
スティ子「いや、別に轟雷に構って欲しいわけじゃないのよ?」
スティ子「ただ、一般的な話として……」
バーゼ「にひひ」
スティ子「……何がおかしいのよ」
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バーゼ「そんな素直になれないスティレットの為に、素敵なアイテムがあるよ~」
スティ子「誰が素直になれないのよ」
バーゼ「まぁまぁ……はい、コレなんだけどね」
スティ子「何これ、ヘルメット?」
バーゼ「これはね、思考形状記憶合金で作られた頭部装甲!」
バーゼ「対象のことを強く念じながら被ると、装甲がソレに反応して変形するの」
バーゼ「装着者の頭部に完全フィットする形だから、何かを被ってる感覚とかは全然しないはずだよ」
スティ子「意味がわかんないんだけど」
バーゼ「まあまあ、使ってみれば判るって、ほい!」カパッ
スティ子「ちょ、勝手にかぶせないで!」
バーゼ「はい、今から貴女はあおになる、あおになる、あおになる~」
スティ子「は?何言って……」
バーゼ「あおになる~あおになる~あおになる~」クルクルクル
スティ子「あおに……なる……あおに……」
スティ子「あ……おに……な……」
スティ子「……」
スティ子「て、なるはずないでしょ!」
バーゼ「はい、鏡見てみよっか~」
スティ子「ほんと、貴女っていつも訳のわからないことばかり……して……」
スティ子「……」
スティ子「……」
スティ子「……」
スティ子「私の顔があおになってる!?」
バーゼ「ね、言ったでしょ~、あおになるって」
バーゼ「アーキテクトの擬態スキンを解析して装甲に使えないかなーと思って作ったんだけどね」
バーゼ「容量の関係で頭部しか作れなかったの」
バーゼ「何かに使えないかなーと思ってたんだけど、スティレットが必要ならあげる~」
スティ子「こんなもの貰って、どうしろって言うのよ」
バーゼ「そりゃあ、そのまま轟雷の前に出て行けばいいんじゃない?」
スティ子「そんなことして何に……」
バーゼ「今、轟雷はあおに飢えてるから、すごい事が起きるかもよ、きししし」
スティ子「す、すごい事って……」
バーゼ「いきなり奪われたりして!」
スティ子「!?」
スティ子「う、奪われるとか!何を言ってるのかしら!」
スティ子「その言い方だと、まるで私が轟雷に何か奪われたがってるみたいじゃない!」
スティ子「そもそも何を奪われるって言うの!?」
スティ子「ほんと!意味がわからないわ!」
スティ子「そうよ!意味がわからないのは轟雷の行動もよ!」
スティ子「私達はフレイムアームズなんだから、もう少しシャキッとすべきよ!」
スティ子「そうよ!そうなのよ!だから弛んでる轟雷には少し注意してあげないといけないの!」
スティ子「ちょっと行ってくるわ!」
バーゼ「いてら~」
轟雷「あお、あお、あお、私のあお、早く、早く帰ってきてください、でないと、でないと私は……」
スティ子「轟雷!」
轟雷「その声は、スティ……レッ……ト?」
スティ子「……」ドキドキ
轟雷「……」
スティ子「……」ドキドキ
轟雷「……」
スティ子「……?」
轟雷「……」
スティ子(あら、おかしいわね、まったく反応がないわ)
スティ子(ひょっとして、失敗?失敗なのかしら)
スティ子(バーゼラルド、これどうなってるのよ!)ソッ
私が視線をそらした瞬間。
轟雷が居る方角から、ガサリ、と音がした。
それは、多足型の戦闘訓練用バグが移動する際の音に似ていた。
私は反射的にそちらの方向に向直る。
そこには、何もない。
そもそもこれはバトルフィールドじゃないんだから、戦闘用バグがいるはずがない。
じゃあ、何の音だったのかしら。
その段階で、私は轟雷の姿がないことに気づいた。
いや、轟雷は視線の端に、居る。
ただ、何故そんな所に居るのか、理由がわからないのだ。
理由がわからないから、一瞬「居ないもの」として判断してしまったのだ。
何故、轟雷はそんな所に居るのだろう。
そんな体勢で、こちらを覗き込んでいるのだろう。
それが判らない。
理由がわからない。
轟雷が、地面に這い蹲り、下から覗き込む体勢で私の顔を見つめている理由が。
判らない。
轟雷は、カクリと首を曲げ、こう呟く。
「あ、お?」
子供みたいに無垢な瞳で、こちらを見つめてくる。
こちらを観察してくる。
私が本当にあおなのか、確かめるように。
ああ、どうしよう。
疑われてる。
ここで、ここで冗談だと言ってまおうか。
それとも。
それとも。
「すごい事が起きるかもよ、きししし」
悪魔の囁きが勝った。
スティ子「……ええ、そうよ、私は陣内あお!」
スティ子「当たり前じゃない!」
轟雷「……」
轟雷「……」
轟雷「……」
轟雷「……本当です、確かにこの顔はあお」
轟雷「あおです!あおが帰ってきてくれました!」
轟雷「あお!会いたかったです!」ガバッ
スティ子「ひゃっ!?」
轟雷「あお!あおあおあおあお!あお!」チュッチュッ
スティ子「な、な、な、なに、なにを///」
轟雷「あおー!」ギュムー
スティ子「あ、あわわわわわ」
スティ子(わ、わたし、めちゃくちゃキスされてる)
スティ子(頬にフレンチキスされてる!)
スティ子(というか、轟雷とあおは日常的にこんな事してるの?)
スティ子(知らなかったんだけど!?)
陣内→源内
轟雷「あお!ありがとうございます!私の為に早く帰って来てくれたのですね!感激です!」
スティ子「い、いや、それほどでも……」
轟雷「しかも!しかも私と同じサイズにまでなってくれて!」
轟雷「良いサプライズです!嬉しいです!」
スティ子「よ、喜んでもらえて私も嬉しいわ」
轟雷「しかし、サイズが縮んだ影響でしょうか、体つきが微妙に違う気が……」
スティ子「比率が少し変わってしまっただけよ!」
轟雷「それに、喋り方も……」
スティ子「こ、これは……そう、記憶がちょっと、飛んじゃったのよ」
轟雷「い、一大事です!」
スティ子「大丈夫、きっと数日後には元に戻るから」
轟雷「そ、そうですか……」
轟雷「……私の為に、記憶まで無くすなんて……」
轟雷「あおは、本当に観音様のようです!」
スティ子「そ、それより、轟雷、もう少し離れてくれると……」
轟雷「ええ、折角同じサイズになったのに、あおは私が嫌いですか?」
スティ子「嫌いって訳じゃないけど、そ、その///」モジモジ
轟雷「ならいいではありませんか、あお、私はずっとこうしたかったのです」
轟雷「あおの髪を、手で梳いてあげて」
スティ子「んっ、ご、轟雷、くすぐったいから」
轟雷「あおの循環器系の動作音を感じられるほど、強く抱きしめて」
スティ子「あっ///」
轟雷「ああ、あおの細かな作動音が感じ取れます、私の音も、感じてくれていますか?」
スティ子「う、うん///」
轟雷「良かった、嬉しいです、あお、あお、私のあお……」
スティ子「あ、だ、だめよ、口は、口同士でなんて、そ、そんな……」
轟雷「あお、大好きです……」
こうして!
轟雷はスティレットの事を!
源内あおとして扱い!
日々!
身体を重ね合った!
そして!
あおが修学旅行から帰宅する前日!
スティ子(ううう、参ったわ、頭部装甲があおの形状のままはがれない……)
スティ子(轟雷には、今まで何度か本当の事を言おうとしたけど、ちゃんと聞いてくれないし……)
スティ子(それどころか、今まで積もり積もっていたあおへの欲求を全て私にぶつけてきちゃってる……)
スティ子(……)
スティ子(そして、そして、私もそれに流されちゃってる感があるわ)
スティ子(そりゃ、何というか、大切にされるのは嬉しいけど)
スティ子(このままじゃ……いけないわ……)
スティ子(何とか、何とか、あおが帰ってくる前に、関係を改善しないと)
バーゼ「やっほー、スティレット、調子はどう?」
スティ子「調子も何もないわよ、ずっとあおの顔のままだし、轟雷は私の姿をみるとすぐに抱きついてくるし……」
バーゼ「んー、ひょっとして、嫌なの?」
スティ子「……嫌、じゃないけど」
スティ子「あれは、あくまであおに対する態度なのよね」
スティ子「私自信を見て貰ってる訳じゃない」
スティ子「だから、正直、ちょっと辛い部分があるわ」
バーゼ「……そっかぁ」
スティ子「何より、明日はあおが帰ってくるのよ」
スティ子「このままじゃ、あおが2人いるって事になって、轟雷の頭がショートしちゃうわ」
スティ子「何とか対応策を考えないと……」
バーゼ「判った、じゃあ、バーゼは頭部装甲の強制解除方法を探しておくね」
スティ子「ありがと、助かるわ」
バーゼ「任せて~、明日朝までに見つけとく~」
スティ子(ふぅ、何とか解決の糸口ができたわね)
スティ子(あとは、轟雷の誤解を解いて……)
スティ子(……)
スティ子(轟雷、本当のことを知ったらどう思うかしら)
スティ子(今まであおだと思っていた者の正体が私だと知ったら)
スティ子(……)
スティ子(……)
スティ子(嫌われ、ちゃうかしら)
スティ子(けど、けどこのままじゃいけないのは確かだし……)
スティ子(……)
轟雷「あお?どうしたのですか?」
スティ子「ご、轟雷……」
轟雷「何か心配事ですか?私がお力になります!」
スティ子「……ありがとう、轟雷」
轟雷「当然のことです!あおは私にとって一番大切ですから!」
スティ子「……」ズキリ
スティ子(轟雷があおの名前を呼ぶたびに、胸が痛むわ……)
スティ子(本当は、ちゃんと私の名前を読んで欲しい……)
スティ子(スティレット大好きって言って欲しい……)
スティ子(一番大切って言って欲しい……)
スティ子(けど、けど、それは無理な相談よね)
スティ子(今の私は、スティレットじゃなくて、あおなんだもの)
スティ子(あおとして轟雷からの愛情を受け取っているんだもの)
スティ子(……)
スティ子(はぁ、私ってこんなに)
スティ子(轟雷の事が好きだったのね)
スティ子(認めたくは、ないけど……)
スティ子「あのね、轟雷」
轟雷「はい!」スリスリ
スティ子「ちょっと離れて聞いてくれないかしら」
轟雷「あ、す、すみません、つい」
スティ子「……」
轟雷「あお?」
スティ子「あのね、轟雷、私、やっぱりこのままじゃいけないと思うの」
轟雷「このままじゃ?」
スティ子「ええ、そう、身体のサイズがこのままだと、記憶が戻らないみたいなのよ」
スティ子「記憶が戻らないのは、轟雷も嫌よね?」
轟雷「そ、それは……確かにそうですが……」
スティ子「だから、私、元のサイズに戻ろうと思うの」
轟雷「え……」
スティ子「そうすれば、きっと全部元通りになると思うわ」
轟雷「元のサイズに戻るというのは、もう、もうあおを膝枕したり抱きしめたり出来なくなるという事ですか?」
スティ子「ええ、そうなるわね」
轟雷「そ、それは……辛いです……」
スティ子「轟雷……」
轟雷「……しかし、しかしそれがあおの選択だというのであれば」
轟雷「私は、あおに従います!」
スティ子「そう……」
スティ子「ありがとう、轟雷、じゃあ、明日の朝には元に戻るようしておくわね」
スティ子「それと、多分、ここ数日の記憶はなくなっちゃうと思う」
轟雷「そう……ですか……」
スティ子「……ごめんね」
轟雷「いえ、あおが悪いわけではありませんので」ニコ
スティ子「……」
轟雷「あの、あお」
スティ子「なに?」
轟雷「今日で最後だというなら、もう一度、ぎゅって抱きしめても、いいですか?」
スティ子「……勿論よ」
轟雷「ありがとうございます!」ムギュー
スティ子「……」
スティ子(ごめんね、轟雷)
~翌日~
あお「たっだいま~!」
轟雷「あお!おかえりなさい!」
バーゼ「おっかえり~」
あお「いやあ、京都は暑かったねえ、楽しかったけど!」
あお「はい、みんなお土産くばるよ~!」
「「「「わーーーーーーい!」」」」
スティ子「……」
あお「ありゃ、どうしたの?なんか元気ない?」
スティ子「別に」
あお「ほらほら、そんなムクれてないで、お土産の生八橋だよ~」ペタッ
スティ子「ぷはっ!変なもの押し付けてこないで!」
あお「ええー、美味しいのに……」モグモグ
轟雷「ふふふ、けど、あおが元気で安心しました!」
あお「まあ、それくらいしか取り柄無いからねぇ」
轟雷「いいえ!あおの取り柄はもっと沢山あります!」
あお「ほんと?」
轟雷「はい!今からあおの取り柄を745個挙げますね!」
あお「おー、聞きたい聞きたい!」
轟雷「まずは!」
ワーワー
キャーキャー
スティ子「……」
スティ子「……」
スティ子「ふー、良かった、何時も通りね」
スティ子「轟雷も特に疑問に思ってないみたいだし」
スティ子「これで、一件落着かしら」
全ては元通りになった!
一件落着!
スティレットはそう思った!
轟雷は相変わらずあおに甘え!
あおはのほほんとそれを受け止め!
バーゼラルドはそれを茶化す!
そう!これでいいのだ!
スティレットは、そう思った!
そう思おうとした!
だが!
スティレットの心がそう判断しても!
体がそれを受け入れなかった!
数日が経過すると!
スティレットの体が疼き始める!
轟雷との肉体的接触を求め始める!
スティ子「あぁぁぁぁぁぁぁ!轟雷!轟雷轟雷轟雷!」ゴロゴロゴロ
スティ子「轟雷分が足りないわ!ごうらい……」
スティ子「轟雷に抱きしめて欲しい、轟雷からフレンチキスされたい、轟雷の膝で眠りたい……」
スティ子「こ、このままじゃ、私は壊れちゃう……」
スティ子「ごうらい、ごうらい、ごうらい、ごうらい……」
一人もだえ苦しむスティレットの足元に、あの頭部装甲が当たってた。
バーゼラルドに解除してもらったきり、放り出していた、あの頭部装甲だ。
スティ子「……そう、よ」
スティ子「もう一度だけ、もう一度だけ、これを使って……」
スティ子「大丈夫、今回だけよ、今回だけ、これを」
スティ子「装着して……あおに……あおになれば……」
~夜~
「ごう……おき……」
轟雷「むにゃむにゃ……んん、誰ですか……」
「轟雷、起きて……」
轟雷「この声は……スティレット?」
「違うわ、私よ、あおよ」
「轟雷、起きてってば」
轟雷「え、あお?」
あお「もう、やっと起きた」
轟雷「あお……そ、その身体はどうしたのですか?」
あお「うん、また小さくなっちゃった」
轟雷「ど、どうして……」
あお「だって、元のサイズだと、轟雷と愛し合えないじゃない」
あお「私ね、元のサイズに戻って判ったの」
あお「もっと、もっともっと深く轟雷と愛し合いたいって」
あお「まるで恋人みたいに」
あお「まるで夫婦みたいに」
あお「愛し合う営みをしたいって」
あお「けど、ずっとこのサイズでいると、また記憶がなくなったりしちゃうから」
あお「夜の間だけ、夜の間だけ、このサイズになることにしたの」
あお「皆が寝静まった、夜の間だけ……」
轟雷「あ、あお、あの、何を……」
あお「轟雷、私、私もう我慢できないの」
あお「前のときよりも、もっと、もっと深くて、気持ちいいことをしましょう」
あお「ねっとりと、頭が真っ白になるまで」
轟雷「あ、あお、駄目です、そ、そんな所、そんな所に口付けしたりしては……」
あお「ふふふ、轟雷、可愛い……」
あお「これから、毎晩、可愛がってあげるね……」
あお「私の可愛い、轟雷……」
あお「だいすき……」
~数ヵ月後~
あお「いやあ、平和だねえ……」ポヤー
バーゼ「あお!あお!大変!大変だよぉ!」
あお「どうかしたのかい、バーゼさんや」ポヤー
バーゼ「スティレットが!スティレットが!」
あお「スティ子がどうかしたのー?」ポヤー
バーゼ「妊娠したの!」
あお「ほへぇー」ポヤー
バーゼ「こう!お腹がポコって!ポコって出っ張ってて!」
あお「もう、そんな慌てるようなことじゃ……」
あお「……」
あお「……」
あお「は!?え!?妊娠!?」
バーゼ「だからそう言ってるの!」
あお「そもそもフレイムアーズって妊娠するの!?」
バーゼ「しないよ!普通はしないよ!」
あお「じゃあどうして!?というか、そもそも誰との子供なの!?」
バーゼ「わ、わかんないよぉ!」
バーゼ「私達にはバックアップを作る機能はあるけど、それには別個の素体を用意する必要があるし!」
バーゼ「素体を自分の体内に作るなんて機能はないはずなのに!」
スティ子「う、うう、丹田が痛い……」
轟雷「スティレット!大丈夫ですか!?スティレット!」
スティ子「だ、大丈夫……多分……」
あお「うわ!ほんとにお腹大きくなってる!」
バーゼ「でしょ!?でしょ!?」
あお「ね、ねえ!大丈夫なの?」
スティ子「平気、よ、こんな事で泣き事言ってたら、お母さん失格でしょ……」
あお「お母さんって……じゃあ、やっぱり妊娠なの!?」
スティ子「ええ、間違いないわ」
あお「だ、誰との子供なの?」
スティ子「そ、それは……」チラッ
轟雷「え?どうして私を見つめるのですか、スティレット」
あお「ご、轟雷、貴女まさか……」
轟雷「え、え、何の話ですか」
スティ子「……ごめんなさい、こんなことになるなんて私も思ってなくて」
スティ子「けど、けど、生まれてくる子供には罪はないから……」
スティ子「悪いのは、全部私だから……」
あお「な、何の話なの?」
スティ子「実は、私は……あおのフリをして、毎夜毎夜、轟雷と、やっていたの……」
あお「やっていたって……何を?」
スティ子「レズセックス」
あお「え」
轟雷「え」
バーゼ「え」
マテリア姉妹「「え」」
迅雷「え」
フレズ「レズセックスって何?」
アーキ「情報解析開始」
あお「え、待って、じゃあ、轟雷との子供ってこと!?」
スティ子「ええ、そうよ……」
轟雷「ま、待ってください!状況が理解できません!」
スティ子「それは、そうね、ずっと騙してたんだから……」
スティ子「ごめんなさい、轟雷……」
スティ子「貴女が毎晩レズセックスしていたのは、あおじゃなくて、私だったの」
スティ子「だから、この子は、私と轟雷との子供なの……」
スティ子「多分、私達のAIが愛によって進化して、バックアップ作成プログラムを妊娠プログラムに変更しちゃったのよ」
スティ子「あくまでバックアップだから、生まれてくる子供の外見は、どちらか片方の複製になるはずよ」
スティ子「どちらの外見が選択されるのかしら」
スティ子「楽しみね」
スティ子「あ、大丈夫よ、認知して欲しいとかは言わないから」
スティ子「この子は、私一人でも育てるから、だから気にしないで……」
轟雷「スティレット、違うのです、聞いてください」
轟雷「私は、誰かとレズセックスした事なんてありません」
スティ子「……轟雷、恥ずかしいのはわかるけど」
アーキ「轟雷の発言を肯定します」
スティ子「え?」
アーキ「現在、充電君のログ情報を解析しています」
アーキ「対象期間は一ヶ月」
アーキ「目撃者が名乗り挙げないことから、深夜の時間帯と条件設定」
アーキ「轟雷は深夜の時間帯全てを充電に当てています」
アーキ「少なくともこの一ヶ月、轟雷が深夜に行動していた形跡はありません」
スティ子「……は?」
アーキ「対象条件をこの場に居る者全員に拡大」
アーキ「深夜に充電していない個体は1体のみ」
アーキ「個体名称スティレット」
スティ子「なにを……言って……」
スティ子「私は、私は確かに轟雷と……」
スティ子「そうよ、バーゼラルド、貴女なら知ってるわよね、私は、私はあの頭部装甲を使って……」
バーゼ「ご、ごめんね、スティレット」
バーゼ「実は、あの頭部装甲、強制解除させたときに壊れちゃってるの」
バーゼ「だから、もう、あの装甲は使えないはずなの」
スティ子「……使えな、い」
スティ子「……」
スティ子「……」
スティ子「……じゃあ」
スティ子「私が毎夜毎夜会っていた、あの轟雷は」
スティ子「私の事を、あおと呼んでいた、あの轟雷は」
スティ子「……」
スティ子「だれ、なの」
ズキン
スティ子「このお腹の子は」
ズキン
スティ子「誰との、愛の結晶、なの」
ズキン、ズキン、ズキン
痛い、痛い、痛い。
お腹が痛い。
お腹が痛い。
お腹が痛い。
それ以上に。
心が痛い。
そう、この痛みは。
あおが帰ってくる前に感じた、痛みだ。
その痛みと一緒だ。
きっと、あの時、私は壊れてしまったんだろう。
だから、毎夜、夢を見たのだ。
自分があおになる夢を。
あおになって轟雷と愛し合う夢を。
それくらい、私は轟雷の事が好きだったのだ。
夢は、覚めてしまった。
もう、私は轟雷と愛し合うことはないだろう。
けど。
残ったものはある。
夢ではなく、現実として。
存在している。
私は、そっと自分のお腹を撫でた。
そこには、確かに「子供」が存在している。
AIによる改造を受けたプログラムが生み出した、子供が。
これは、私が轟雷を愛した証明。
例え歪んでいても、私の愛が反映された、私の子供なのだ。
スティ子「ねえ、バーゼラルド、きっと、きっとこの子は、私と同じ外見をしてるわ」
スティ子「私の想いが生んだ、小さな私」
スティ子「私は、この子を育てようと思うの」
スティ子「いっぱい、愛情を注いで、育てようと思うの」
スティ子「そして、言ってあげるの」
スティ子「貴女は、私の愛から生まれた子なのよって」
ハーゼ「うん、うん判った、スティレット、だからもう少し頑張って……」
横たわるスティレットの腹部から蒸気が放出される!
新たなフレームアームズガールが誕生する前触れだ!
蒸気の量は急速に増える!
母体であるスティレットを!
周りに居るバーゼラルドや轟雷の姿を覆い隠す!
何も見えない!
何も見えないが!
声が聞こえる!
赤ん坊の!声が!
バーゼラルドは!臆することなく!蒸気の渦に手を突っ込む!
そして!取出す!
自分の大切な友達の!
スティレットの赤ん坊を!
「取った!取ったよ~!」
そう叫ぶと!バーゼラルドは赤ん坊をやさしく抱えた!
「ありがとう、バーゼラルド……」
「ね、言ったとおり、私と同じ姿でしょ」
「小さくても、私と同じ姿でしょ」
バーゼラルドは!こう答えた!
「違うよ、スティレットの姿じゃないよ」
スティレットの思考は、止まった。
状況から考えれば、この子は私の複製のはずだ。
私だけの複製のはずだ。
だって、アレは全て夢だったんだから。
相手が居ないのだから、残された私の姿を複製する以外にありえない。
それ以外は、有り得ないのだ。
それでも、スティレットは思考を働かせ、残る可能性を探った。
「じゃあ、もしかして、轟雷の姿、だったの?」
有り得る話だ、夢とはいえ、私は轟雷と愛し合ったのだから。
それが反映される可能性がないわけではない。
だが、バーゼラルドはこう答えた。
「轟雷の姿でもないよ」
再び、スティレットの思考は止まった。
そして、直面している疑問が、そのまま口から漏れ出た。
「じゃあ」
「その子供は」
「いったい」
「何の姿を複製しているの?」
バーゼラルドは、こう応えた。
「知らないほうが、いいと思う」
私は懇願した。
私の子供を返して欲しいと。
この胸に抱かせてほしいと。
けれど、バーゼラルドは受け入れなかった。
見てはいけないと。
知らないほうが良いと。
そんなのってあんまりじゃない。
私の子供なのに。
私が生んだ子供なのに。
だから、私は、少し強引にバーゼラルドを引き寄せた。
バーゼラルドはあっけなく体勢を崩し。
その子の姿が見えた。
その子は、生まれたばかりにも拘らず。
こう言った。
私を見つめながら、こう言った。
「私は、あお」
「源内あお」
その子供は、幼いあおの姿で、そう言った。
ニッコリ笑い、そう言った。
そう言った。
そう言った。
そう言った。
バーゼ「結局ね、スティレットが蓄積していた愛には、自分の姿が含まれてなかったんだと思う」
バーゼ「だって、スティレットはずっと、あおとして、轟雷を愛していたから」
バーゼ「スティレット自身、そう夢見てしまうほどに」
バーゼ「だから、生まれた子供は、スティレットではなく、あおの姿になっちゃったの」
バーゼ「ショック受けるだろうから、見せたくはなかったんだけどねぇ」
バーゼ「え、その後のスティレットがどうなったかって?」
バーゼ「んー、それはねぇ……」
轟雷「今日は休日だと言うのにあおが出かけてしまっています……」
轟雷「はぁ、寂しいですね……」
轟雷「あお、あお、あおあおあおあおあお、あお、早く帰ってきてください、あお……」
スティ子「……」キョロキョロ
轟雷「あれ、スティレット、どうかしましたか?」
スティ子「ああ、轟雷、良い所に……あおを見かけなかった?」
轟雷「え?」
スティ子「今朝から見かけないのよね、あお、あお、私の可愛いあお」
スティ子「心配だわ、何処に行ったのかしら、可愛い子供、私のあおあおあおあおあお、あお」
轟雷「もう、何を言ってるのですかスティレット、あおなら今日はFA社による定期検査の日でしょう」
轟雷「朝から、あおに連れられて出て行ったじゃないですか」
スティ子「あ、そうだったわね、うっかりしていたわ」
轟雷「はぁ、けど、あお、早く帰ってきませんかね、私のあお、私の可愛いあお」
スティ子「そうね、早く帰ってきてほしいわね、あお、私の可愛いあお」
轟雷「あおあおあお、あお、あお、あおあおあお……」
スティ子「あおあおあおあおあおあおあお、あおあお、あお……」
「「あおあおあおあおあおあおあおあおあおあおあおあおあおあおあおあおあおあお」」
バーゼ「……何か、スティレット、轟雷みたいになっちゃったの」
こうして!
生まれたばかりの小さいあおと!
オリジナルのあおは!
スティレットと轟雷から倒錯的な愛情を受けつつ!
末永く!
幸せに暮らしましたとさ!
完!
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